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目次
『魔法少年は今日もまた』
見た目というか履歴書というか‥(?)
https://firealpaca.com/get/6c0xVrxv
名前:平野 凪
フリガナ:ヒラノ ナギ
年齢:17
性格:優しい、責任感がある、少し人見知り
所属部隊:戦闘
使用武器:銃・ナイフ
容姿:上に貼りました
その他髪飾り等:なし
身長:168
体重:55
口癖:「僕は‥〜」
癖:腕を後ろで組む
一人称:僕
二人称:君、貴方、○○
三人称:あの人、あの子、○○
サンプルセリフ
「僕は‥平野、凪です。‥あの、貴方は‥?」
「はッ、はぁッ、はぁーッ、僕、殺したの‥?人を‥?‥人型の化け物って、そんなの‥うプッ、」
「な‥何、この耳‥え、動物との融合‥?いやちょっと理解に時間かかるんですケド‥」
「えっと‥よ、よろしく‥お願いシマス。えっと、これからは同じ魔法少年らしいから、仲良くしてください‥、」
「いや‥この耳にも、この服にも、この怪物にも、慣れてきた自分がいるのが怖くってさ。」
好きな○○:兎、甘いもの、林檎、冬
嫌いな○○:熱いもの、夏、白米、電車
主人公の呼び方:×
主人公への好感度:×
家族構成:父、母、兄、兄、自分
その他:産まれながらのオッドアイ。
希望:ネタバレなので伏せます
私が私でいれる場所
本音を言えば、初めは誰でもよかった。
だけど、心の奥底で無意識に彼を選んでいたんだろう。でなければこのタイミングで態々言わなかった。
カーテンを閉めていない窓から夕日が差し込む。
この教室には私と彼の二人だけがいた。
けれど、目の前に座る彼の視線は手元にある本に向けられている。紙を捲る小さな音しかないこの空間が、私には心地よかった。
「‥どこか遠くに行きたいな。」
薄く開いた口から溢れてしまった独り言。
静かな教室に紙を捲る音より少し大きな私の声で、彼の視線がゆっくりと本から私に向く。
その琥珀色の瞳が私は大好きだ。
「‥何処かって、何処?」
私が行きたいところは何処だろう。
でもなんか、何処にも行きたくないな。
「‥わかんない。何処でもいいよ。」
「‥そう、じゃあ明日にでも行こうか。」
彼は制服のポケットからスマホを取り出して慣れた手つきで操作する。フリック入力をしているのだろうか。電子音が聞こえ始めた。
彼は聞かない。
遠くに行きたい理由も、いつもよりボサボサの私の髪の理由も、目の下の隈の事も。
聞いて欲しくない事だと察して聞かないところも彼のいいところだと私は思う。
夕陽に照らされ教室には二つの影が浮かぶ。
紐で纏めず、はじに寄せただけのカーテンが冬の冷たい風で靡いた。窓のすぐ横にいた私の髪も、彼の髪も風で靡く。
「明日のお昼は何食べよっか。君の好きなものを食べよう。」
普段は前髪に隠れて見えないもう一つの琥珀が輝いて見えた。
「おはよ、|光希《みつき》。」
「‥|零士《れいじ》。」
私が駅に着いた時にはもう彼が切符を買った後だった。大きさからしてきっと電車じゃなくて新幹線。本当に遠くまで連れて行ってくれるんだ。
「あ‥お金、いくらだったかな。」
「いや、いらないよ。君が楽しむ為の旅だから、お金とか気にしないで欲しい。」
「‥ありがとう。」
控えめに差し出された彼の手を私は握った。
普段見る制服姿と違う私服姿がなんだか珍しくて見つめてしまう。
今まで二人きりで何処かへ出かけた事が出かけたいからだろうか。なんだか全部が楽しみだ。
「行き先は到着まで秘密がいい?今言う?」
「‥秘密がいいな。」
「じゃあ秘密にしておく。」
何処へだっていい。
彼が私の為に選んでくれた行き先に胸を踊らせながら、新幹線へ乗り込んだ。
「お姫様、窓側どうぞ。」
「‥」
わざとらしく繋いだ手とは逆の手を窓側の座席を指してお辞儀した。二人がけの席を倒して長居を仄めかした。近場でしたドッキリの可能性はないみたいだ。
「‥ありがとう。」
思っていたより硬めの椅子に腰掛ける。
彼は二人分の荷物を軽々持って頭上の荷物置きに押し込んだ。お財布とスマホだけは取り出したみたい。
それから少しして、前から来たワゴンを押す人を彼が呼び止めた。車両販売だ。
緑茶、水、サンドイッチ、カップアイスなど駅内のコンビニでも買えるような物を、態々値段が高くなったココで渋る様子を一切見せずに購入した。
「こういう所のって何処でも買えそうなのだけど、なんかココで買う方が気分アガるよね。」
そういいサンドイッチの包装を慣れた手つきで開けていく。
「光希は腹減ってる?」
その問いに私は首を横に振る。彼はそれを大して気にしていないようで卵サンドを自分の口元へ運んだ。
食べながらさっき買った温かい緑茶を私の前に差し出した。普段より血色の悪くなった指先を見ての行動だと思う。
差し出されたそれを両手で包むように受け取ると、外で冷えた体が温まるようだった。
もう一枚上着を持ってくればよかったな。
このお茶も握っていればぬるくなってきてしまった。折角戻ってきた体温がまた冷たくなる。
そんな事を考えていたら、肩にジャケットがかかった。見覚えのあるジャケット、これは彼のだ。
「寒いならあげる。俺、寒くないからさ。」
サンドイッチのゴミを捨てながら彼は言う。
肩にかかったジャケットを握り、窓の外を見る。
まだ何も見えない。何処に行くのかまだわからなかった。
ずっと気が張ってたからだろうか。知り合いが彼以外誰もいない、誰も私を見ていないと安心してしまったら急に睡魔が襲って来た。
「‥」
彼がそっと私の頭に手を添えて、肩に寄り掛からせた。まるで「寝てもいいよ」と言うように。
「‥ごめんね」
「ごめんねじゃない、ありがとうがいい。」
「‥あり、がとう」
「‥うん、おやすみ。」
私の頭を彼が優しく撫でてくれる。
同い年のはずなのに私の手よりずっと大きくて暖かい。安心感があるって言うのかな。
小さい頃両親にしてもらいたかったなんて記憶を思い出してしまうほど、嬉しかった。
そんな事を考えていたら、意識が落ちていた。
最近ずっと見ていた恐ろしい夢を、今日は見なかった。隣にあるはずの温もりのお陰だろうか。飛び起きる事もなく眠れたのは久々だ。
ゆらりゆらりと揺れる夢から徐々に目が覚めていく。
窓の外は雲に覆われた空。その雲は白ではなく灰色。少しすれば雨が降りそうな雰囲気だ。
「あれ、目ぇ覚めた?」
彼が手を止めて私を見る。
「‥うん、肩ありがとう。」
「まだ一時間も経ってないのに‥いいのか?」
「大丈夫だよ。落ち着いたから。‥それより、何してるの?」
彼の手元には乗車してすぐ買ったアイスがあった。そのアイスをもう一本の緑茶で温めていた。
「あー‥スプーンで食べようとしたんだけど、アイス硬すぎてスプーン壊れちゃったから温めて飲もうと思って。」
「‥それ、なんか美味しくなくなりそう。」
温められたところが少し溶けかけ始めている。
全部溶けるには相当な時間がかかりそうだが着くまでに食べれるのか心配だ。
「‥アイスのスプーン、売ってるんじゃないの。」
「え?‥あ、売ってるっぽいな。でもワゴン車来るかな‥」
「‥私、普通のスプーンだったら持ってる。」
「本当?良ければ欲しいな。」
「ちょっと待ってて‥ポーチから出すから。」
手元のポーチのチャックを開け、中からスプーンを探し出す。旅先にスプーンがなかった時の為に家から持って来ててよかった。
「‥ん、」
「本当に持ってるんだ‥いや、ありがとう。」
渡したスプーンをアイスに差し込む。
溶けたアイスがスプーンに乗って私の口元は運ばれた。
「美味しいから、どうぞ。」
眠ってしまう前に腹は減っていないと答えたはずだが、少し腹が減って来ているのもまた事実。
差し出された物をいらないと言える訳もなく、そのまま口を小さく開き、スプーンの上にあるアイスを口に入れた。
思っていたよりずっと滑らかで美味しい。
「‥美味しい?」
「‥うん。」
私が返事をすると、こっちを向いていた彼の目が細まり、口元が緩んだ。
その後も彼はスプーンでアイスを掬い、自分の口元へ運んでいった。前髪のせいで私の方からは顔がほとんど見えないが、僅かに見えた口元は緩く微笑んでいた。そういえば彼はチョコ好きだったなと思い出した。
ぬるくなった緑茶の蓋を開けて一口飲む。少し苦味のある味が若干寝ぼけていた意識をはっきりとさせていく。
蓋を閉めながら窓の外を見ると雲はさっきより暗くなっていた。到着する頃には雨が降ってそうだ。傘を持って来ていないから困るな。
「‥もう少しだ。でも、雨降りそうだね。」
「‥そうだね、傘持って来てないや。」
「俺もだ。二人でずぶ濡れかな?」
「最悪だ‥」
「ははっ(笑)雨降らないといいね、あと少しだけでも。」
「‥うん。」
目覚めてもまだ肩にかけてくれてるままのジャケットをそっと握りしめた。何故握ったのか分からない。けど、今から着く場所が、私をどうするのか不安になったからかもしれない。
私の旅の終着点は何処なのか。
新幹線から降り、外へ出れば雲は暗いまま。雨は降っていなかった。
「‥雨降ってないから、早めに宿行こうか。」
「‥」
雨が降ったら着替えがない。早く行かなきゃなのは分かっていた。だけど、私の足は前へ動こうとしない。
「‥光希?」
「‥ない。」
言っちゃいけないと分かっていた。けれど、心の底からドロドロと溜め込んで来たものが喉元まで迫って来てしまえば、もう止められない。
「帰りたくない。」
「‥」
「家に帰りたくない、学校行きたくない、人に会いたくない、好きに生きたい、ッ、あの街に帰りたくないッ、もう逃げたいッ‥」
彼は黙って私の文にもならない言葉を聞いている。頬に雨粒が落ちる、地面に雨粒が落ちると雨が本降りになり始めた。私達を遠慮なく濡らしていく雨。それでも私の足は動かなかった。
「もう、」
一度ストッパーが外れれば、止められない。
「死にたいなぁ‥ッ」
私が私でいれない場所が嫌い。男だから一人称が私はおかしい、男なのにツインテールはおかしい、男らしくいればいいのに。そんな“普通”を押し付けられるのがずっと苦手だった。
雨なのか涙なのか分からない水が顔を濡らしていく。もう服はびしょびしょだ。肌に冷たさが伝わって来て、冬の外と言う事もあり少し寒い。
「‥ごめん、私、何言ってるんだろう。」
気付いた時にはもう手遅れな状態だが、謝らないよりは謝った方がいいと思った。折角友達が、大事な人が出来たのに今の発言で全部失うのを恐れたから。
本当、自分勝手な私は私が嫌い。
「‥へ、」
彼が私をそっと抱きしめた。「宿に早く行きたい」「なんでいきなりそんな事」「濡れて最悪」覚悟してた嫌味を一つも言わずに私を抱きしめる。
「‥じゃあ、帰るのやめようか。」
「え‥」
彼の突然の言葉に驚き、私は目を見開く。目に雨が入って来て少し辛いが、今はそんな事気にならなかった。
「俺も帰りたくないんだよなぁ‥習い事ダルいし。親うるさいし。なんか人生面倒だし。」
彼のその言葉が本音なのか私に合わせているのかわからない。けど、そんなのどっちでも良かった。私は心の底からその言葉が嬉しい。
私に合わせてくれてるそれが、私は嬉しかった。
震える手を彼の背中に回す。雨で濡れて重くなった服を動かす度に服から雨が流れ出てくる。彼の服もびしょびしょで体温なんか伝わってこない。
伝わってこないはずなのに、私の心は温まっていく。心の穴が塞がっていくような、そんな感覚を感じるんだ。
旅の終着点はマグ・メル。
死者の国。喜びの島。
この旅の最期はマグ・メルに行きたかったが、マグ・メルに行くのはやっぱりまだまだ先になりそうだ。この腕の中にある宝物と、まだ一緒にいたいと思ってしまったからかな。
あと少しでも、私が私でいれますように。
4444文字です‼︎
この文字に合わせる為文を削ったり増やしたり‥
光希くんと零士くんは本編でも絡みがあるので「書くならこの二人しかない‼︎」と思いこの二人で書きました。どちらも自キャラです。
マグ・メルは前から知っていた言葉なのでここで使えてなんか嬉しかったです。死者の国、喜びの島です。
書いてて楽しかったです‼︎これが一番‼︎
#0 篠原真
名前:篠原 真
フリガナ:シノハラ マコト
年齢:16
学年:1
誕生日:9/6
容姿:黒髪ショート、左目が青・右目が黄色のオッドアイ、いつも不機嫌そうな顔、白のTシャツ、制服
身長:170
体重:68
好きな食べ物:パン系、パフェ、卵料理
苦手な食べ物:肉饅、餡饅、パサパサクッキー
好きな○○:夕暮れ、コンビニ、卵料理、パン、甘いもの
「コンビニって安いし美味いし最高だよな」
苦手な○○:朝、苦いもの、抹茶、距離の詰め方が変な奴
「いきなり顔近づけてくるとか無理すぎる」
カフェの好きなメニュー:卵サンド
「パンが柔らかくて卵も美味いとより最高」
好きなテレビ番組:「まずテレビがない」
LINEのアイコン:道端のたんぽぱ
「写真の撮り方知ったから撮ったやつ」
一人称:俺
二人称:お前、(名前)
三人称:アイツ、(名前)
サンプル台詞:
「篠原真。覚えても覚えなくても構わねぇが、俺に負けた奴はこの名前を絶対に覚えとけ。」
「卵料理は好きだ。昔からよく、親がいない時は家で卵かけご飯を食ってた。」
「外見で対応変える奴はこっちから願い下げだ。嫌なら関わるな、それだけだろ。」
「俺は弟子とかとらねぇ主義なんだよ。‥ダー!!何言っても弟子にはしねぇから!!帰れ!」
「琴葉、あー‥なんつーか‥‥これ、すげぇ美味い。まぁ‥上出来、なんじゃねぇの?」
過去:オッドアイのせいで両親や同級生、周りの人から嫌われて過ごして来た。自分の存在を肯定する為に喧嘩を始めたが、その事で余計に人が寄り付かなくなった。
「喧嘩が強くて有名な学校がある」と言う噂を聞き、家を出てこの街へ。
その他:オッドアイの事を嫌ってはいない。
褒める事・褒められる事に慣れてなくて照れやすい。顔が赤くなるからわかりやすいよ^^
弱肉強食の考えだから弱い奴は死んでもしょうがないと思っている。
戦いがいのある相手に今まで会った事がなく、星蘭高校の入学を凄く楽しみにしている(内緒の話)。
希望:ネタバレの為書きません‼︎😶🌫️
ネリネの花束を貴方に。
※これは「廃工場のビスクドール」と言うSui様の自主企画に参加したメアリーとルークの小説です。
※設定には書いていない事が山盛りです。
※名もなき人形が少し(?登場します。
造られた物は命など持たない。
ただ雑に扱われ、奪いあわれ、傷だらけになるのを待つだけの物は意思などない。
それでもボクは意思を持った。命を持ってしまった。汚れた思想で埋め尽くされる心には、君の純粋な願いが少し辛かった。
君の隣にいると「お前は汚れている」と言われているような気持ちになる。それが苦しくて苦しくてたまらないんだ。
それでも君の隣から離れる気は無かった。
そんな君の隣が、何よりも心地よかったから。
♢
人形として産まれた時から、隣には当たり前のようにボクと似た人形がいた。
背丈も服もほぼ同じなのに、彼女だけが輝いて見えた。ボクと同じ人形なのに、人間のように美しく見えたんだ。
Xだったかなんだったか忘れてしまったけど、そいつがボクたちに命を授けたとき、なんとしてでもボクが外へ出てやると思ってたんだ。
誰が死んでもいい。外へ出る為にこの手を汚すことになっても構わない。ボクが一番だ。
人間なんかくだらない。金で争い、権力を悪の為に使い、自分の事しか考えず、どれだけ大事にしていた物でも飽きれば簡単に捨てる。
ボクだって同じだ。人間に何度も何度も買っては捨てられ買っては捨てられ、人間の手になんか渡りたくないと思う程に疲れてしまった。
それでも外へ出たいと願うのは、人間に復讐したいからだ。この命を持ったまま外へ出れば何かしらの形で復讐が出来る。その命の灯火を消す事は出来なくても、社会的に抹消する事が出来なくても、何かしらの形で必ず消し去ってやる。
仲間ごっこなんか大嫌いだ。
全員敵だ。ここに味方なんていない。
♢
何度目か忘れるほど捨てられたあの日。廃工場の何処で寝ようかグルグル彷徨っていた時に、初めて君の声を聞いた。
「ルーク、何処へ行くの?」
背中に届いたその声が、初めは誰のものかわからなかった。でもボクの名を知るのはただ一人だけ。いつも隣に並べられていた人形。
「‥」
「ねぇ、何処へ行くの?」
泣きそうな顔でボクを見るから、自分が悪いことをしている気分になった。
「何処だっていいだろう。君には関係ない。」
その顔に気を悪くしてしまった。苛立ちを隠さぬままメアリーを冷たく突き放した。
「‥ごめんなさい。」
メアリーは俯き、それだけを呟いた。
その行動にまた、ボクが悪いような気がして腹が立ち、メアリーの方を振り返らずに先程見つけた良さげな場所へ向かった。
♢
誰とも会話しない、誰とも仲良しごっこをしない生活は案外楽だった。
一人でいる事が多かった為狙われる事は多かったが、そんなの記憶をいじってチョチョイのチョイだ。腕慣らしにもならない。
あの日から何日‥何ヶ月経ったか分からないけれど、メアリーとはあれ以来一言も話していない。すれ違わないし見もしない。何処にいるのか想像もつかなかった。
「‥」
「おい、そこの黒髪!」
「‥ボクか。」
安っぽい人形がボクに銃を向けていた。こんなところで銃が手に入るとは思わない。故に彼の能力により生成された物だろう。
「俺は外へ出たい!一番は俺だ!!」
銃弾が頬を掠ったが大した傷にはならない。こんなのほっとけばいい。もう誰もボクの事を買ってはくれないのなら、商品の価値を下げても問題はないだろう。
「‥銃の扱いは苦手か?」
「‥ニヤ、初めからこの俺がお前を仕留める気はさらさらねぇよ!!」
「‥は?」
ボクの後ろで銃弾を入れ替える音が聞こえた。
振り返ればそこには、先程まで前にいた男がいた。「この俺が」と言うことはあれはきっと幻影か何かだろう。そこまでしてボクを仕留めたかったのか。
「構えるだけで撃たないのなら、敵に逃げる時間を自ら与えているようなものだぞ。」
それでもあいつは動かなかった。何が企んでいるのだろう。さっさとこの場を離れるのが良案だ。
「‥は?」
足が動かない。何かで固く固定されているように重く、捻ることすら出来なかった。
「俺らは三人組だ!残念だったな!」
「‥何故そこまでしてボクを殺したい。」
「お前が俺らの仲間を一人殺したからだ!!」
「‥」
正直な話、どの人形のことを言っているのか分からなかった。数えきれないほど壊してきたからだ。どれも顔なんか覚えてない。謝って許されるなら簡単だ。能力を使うには体が自由な状況出なきゃいけない故に今能力を使った記憶の改ざんは出来ない。逃げ出す事は不可能に近いだろう。
ポーカーフェイスは得意な方だ。焦っているのが相手に伝わっているとは思えないが、このままでは不味い。あの銃で撃ち抜かれて体が崩れてお陀仏だ。そうなれば一番になって外に出る事が叶わない。
「何余裕ぶってんだよ、本当にウゼェ!!」
罵詈雑言を浴びせられるのには慣れてる。そんなんで心が傷つくほどやわじゃない。
「もういい、死ね!!」
アイツが銃の引き金を引き、ボク目掛けて銃弾が飛んできた時は死を覚悟した。
けれど、その銃弾がボクの体を突き抜ける事はなく、代わりに突然割り込んで入って来た人形の左腕が吹っ飛んでいった。
「‥お前、どうして‥」
割り込んできた人形はメアリーだった。破損した左肩を抑えながらボクの前に立っている。
「ルーク、早くこっち!!、」
「ちょ‥!!」
メアリーに引っ張られるままに動くこの足に、さっきまでの足の拘束はどうなったと言いたくなった。左腕が欠けたままボクの手を引っ張って必死に走るメアリーが何をしたいのか、ボクに分からなかった。
♢
「‥離せ、離せって!!」
片手にしか力が入らない、元からボクより力の弱いメアリーの手など簡単に振り払えた。
「何故助けた、あのまま放っておけばお前を突き放した最低な奴が死んだんだぞ?嬉しい事じゃないのか、望んでた事じゃないか!」
「望んでた事って‥そんな事、私一度も望んでいないわ!」
「じゃあどうして助けたんだ!」
「貴方、死ぬところだったのよ!?目の前で困ってる人がいたら助けるって、当たり前のことでしょう!?」
当たり前。
ボクにはそれが当たり前じゃない。それはきっと、ボクが世界の醜さを知って、自分すらも醜く汚れているからだろう。
人を助けるのが当たり前だと言うメアリーは、ボクにとって眩しく、妬ましい存在だった。
「助けてくれてどうもありがとう。けれど、これからは助けなくて構わない。」
「‥嫌よ。」
「‥何故?」
「私はルークとペア人形だから。ペアなら、お互い助け合うものでしょう。」
「そんなの一般的なペアの話だ。ボクらがそうである必要はない。」
「それでも嫌。私はまた、ルークを助ける。」
その目は、確かな決意を持った色をしていた。
恐ろしいほどまっすぐで、何があっても揺らがない瞳にボクが映る。
「だって私、貴方の事が好きだから。」
「‥ボクの何処を好きだと言うんだ。」
「あら、そんな事を聞きたがる人だったのね。いや、人じゃなくて人形かしら‥」
「‥引き伸ばすなら話さなくていい。」
「まずは‥意外と人の話を聞いてくれる所。今だってさっさと去ればいいのに立ち止まって私の話を聞いてくれているでしょう?それから‥」
ペラペラと台本でもあるのかと言うほど言葉が出てくる。メアリーはボクの事をよく見ている。ボクはメアリーの名前しか知らない。
「もういい。」
「もういいの?まだ話せるのだけれど‥」
「いいったらいいんだ。‥君は、どうしてそこまでボクを知っている。ペアだからか?好きだからか?」
「‥さぁ。どうして知ってるかと言われても、よくわからないの。どうしてでしょうね。」
「‥君は不思議な奴だ。何もかも知らないふりして何もかもを知っている。何にも傷つかないが自分で自分を傷つける。」
何もかもを見透かすその目がボクは嫌いだ。
ボクはそう吐き捨てた。メアリーはあの日とは違い、傷ついた顔をせずに微笑んでいた。「そんな言葉で傷つきはしない」と言うような目でボクを見つめていた。
その日からだろうか。
ボクがメアリーを意識するようになったのは。
♢
あの日から何か変わった事と言えば、行く先々にメアリーが現れるようになった。
埃っぽい階段の下、屋根裏部屋、何処へ行ってもメアリーがいる。「向き合え」と言われているような気がした。
「‥前から聞きたかった事聞いてもいい?」
メアリーから逃げるのを諦め、横に腰掛けた。勿論少し距離を空けて座っている。くっつくほど信じてはない。
「なんでもいいわよ、答えれる事ならね。」
「‥その左腕。」
「?これ?」
「何故治っている。この前、目の前で壊れたはずなのに。」
あの時壊れた左腕は前と変わらぬ形でそこにある。まるで最初から壊れたりしていないように、違和感なく左腕がある。
「あぁ‥これね、とある人形さんに少し治してもらったの。」
「‥そう、それはよかったな。」
「えぇ。」
会話が続くわけでもない。それでも、一言も話さなかった前よりはいいんじゃないかと思う。
ボクは今でも、一番になりたいと思っている。何を犠牲にしたとしても必ず外へ出てやると。
‥いや、一つだけ犠牲にしたくないものがある。
「?どうしたのルーク?」
彼女だけは、犠牲にしたくない。
誰とも話さず、敵しか作らなかったボクがそう思うのは、きっとおかしい。
そう分かっているのに、おかしくてもいいと思ってしまうのはどうしてだろうか。
♢
ボクはきっと無意識のうちに、ボクの行く場所にメアリーがいるのだと、何処かへフラっと行けばメアリーに会えるのだと安心し切ってたんだ。
だから今こんなにも焦っている。
メアリーが何処にもいない事に。メアリーが目の前に現れない事に。メアリーの声が聞こえない事に。
いつの間にかメアリーがボクの全てになっていて、ボクはそれに気づいていなかっただけだ。
あれだけ拒絶した人形を愛すなんてどうかしてるが、愛してしまったものは仕方がない。
「全身が白くて儚い人形を知らないか。」
同じ言葉を同じ声色で毎日繰り返すだけ。
それでもそんな人形は知らない皆口を揃えてという。意味が分からない。だって確かに存在していたんだ。少し前まで、目の前で目を細めて笑っていた。白い髪を揺らして踊っていた。
「縺ゥ縺?@縺ヲ縺ゥ縺薙↓繧ゅ>縺ェ縺?s縺?」
日に日に擦り減っていく心。そのせいで、いつの間にかこの弱肉強食の世界でメアリーが心の支えになっていた事を突きつけられる。
その事を認めて仕舞えば一番になって人間は復讐するという目標を諦めることになる。
諦めたくない。何ヶ月もそれだけを生き甲斐にして何人もの人形を壊し続けたのに、今更幸せを望むなんて出来ない。
「諦めるか‥諦めないか‥」
最近よく入り浸っていた部屋は前と同じ空間か疑いたくなるほど広く感じた。ボクは前までここで暮らしていたはずなのに、メアリーが来て、メアリーと過ごしていただけでこんなにも変化を感じてしまう。
思考を投げ出すかのように埃まみれのベットに背中から倒れ込む。窓から差し込む月明かりだけがボクを照らす。
前と何も変わらない日常のはずなのに、
隣で笑う君が居ない。
♢
「‥」
「?どうかしたのルーク?」
目の前に白くて儚い人形がいる。ずっと探していた、ずっと求めていた人形がそこに居た。
「メアリー‥」
「ルーク、どうしたの?なんだか凄く元気がな‥」
メアリーが話終わる前にメアリーの手を引き、ボクの腕の中へ閉じ込める。力の限り抱きしめる。そこに存在しているのだと確認するように、愛しい物を失わないように。
「少し痛いわ、少し力緩められるかしら?」
「いやだ」
いつでも気を抜かず、言葉遣いに気を使っていたボクが「いやだ」なんて子供のような言葉を使うだなんて信じられるだろうか。
「何処にも行かないで‥」
メアリーの細い腕を折ってしまいそうなくらい強く、首を折ってしまいそうなくらい強く、体を壊してしまいそうなくらい力を込めてメアリーを抱きしめる。
「‥私は何処にもいかないよ、ルーク。」
何があっても貴方の側から離れないから。
メアリーからその言葉を聞いた瞬間、今までの力は何処へ行ったんだと聞きたくなってしまうほど抱きしめる力が弱くなってしまった。視界が歪み、指先が震え、喉の奥から引き攣った音が聞こえる。震える手で再びメアリーを抱きしめれば、今度はメアリーもボクの背中に手を伸ばし、同じように抱きしめた。
目から溢れる涙を流し、ただメアリーを抱きしめていた。何処にも行かないで欲しいと、そう気持ちを込めながら。
「大丈夫よ、ルーク。」
泣き疲れたのか、そのままボクの意識は途切れた。
♢
そこは暗闇だった。
「縺輔>縺ヲ縺」
「縺雁燕繧よュサ繧薙〒縺励∪縺」
聞き取れないノイズ音がボクの鼓膜を、心臓を突き刺していく。「死んでしまえ」と言われているように、ジクジクと確実に。
前から首のない人形が歩いてくる。それから逃げようとした。だけど、あの時のように足が動かなかった。足元を見れば大量の人形達。どれもどこかしら破損している。頭が割れてる奴、腕がない奴、目が飛び出してる奴、背中が割れてる奴‥そいつらがボクの足にしがみ付いている。
「縺ェ繧薙〒縺薙m縺励◆」
足にしがみつき、体へと登ってくる。周りにも数え切れないほどの壊れた人形達がいる。それらはきっと、ボクが壊してきた人形達だ。
「__たすけて‥__」
掠れた声で助けを求める。助けてもらう価値もないのに何故助けて貰おうとしているのか。全部自分のせいで起こった事なのに何に対して怯えているのか。それすら分からない。
「どうして助けを求めるの?」
その言葉だけがハッキリと聞こえた。ついさっきまで求め、探し続けていた人形の声だ。
「メアリー‥?」
「どうして助けを求めたの?」
声にいつものような包み込む暖かさがない。ただ淡々と、責め立てるように冷たい声だ。
「‥わからない、どうしてだろう。」
話している間もノイズ音のように喋る壊れた人形達はボクの体によじ登ってくる。
「全部自分が始めた事でしょう。」
「‥そうだね。」
「周りの皆の助けの声は聞かなかったのに、自分だけ助けてもらおうとしてるんだね。」
「‥あぁ、そうだ。」
「最っ低。」
暗闇からメアリーの姿が見えるようになった。
だけどその目はボクを冷たく突き放していた。
さっきの言葉通り、「敵意」を持った目をしていた。それに気づいた瞬間、息が止まった。
♢
「ッ、は‥」
飛び起きた時の不快感には慣れない。悪夢の時だけ何故か夢の内容を鮮明に覚えている。幸せな事ほどすぐ忘れていくと言うのに。
「ルーク、どうかした?」
「‥なんでもない、気にしないでくれ。」
「‥悪い夢でも見たの?」
「‥」
「‥そう、大丈夫よルーク。私はここにいる。苦しい事は半分こにしましょ。‥お願いだから、一人で抱え込まないで。」
肩を抱き寄せてメアリーはボソボソと呟く。声量は小さくとも、芯がある強い声で。
なんだその声に救われただろう。1人でなんでも出来るだなんて調子のいい事ばかり考えていた昔の自分が恥ずかしい。メアリーは初めから一人で全て背負うのは無理だと気づいてただろうに。
「ごめん、メアリー。」
「何に誤っているのかは分からないけれど、大丈夫よルーク。貴方は何も悪くないもの。」
自分とそっくりなメアリーを愛した。
歪んだ愛は自分の身を滅ぼすと知っていながら、今更裏切る事は考えなかった。
いずれボクが死ぬとなったら、その時は喜んでその死を受け入れよう。けれど、メアリーは連れてかないでくれ。メアリーはボクの人生の全てだ。死んでも君を守るよ。
君が幸せに生きてくれれば他の奴らはどうでもいい。ボクだって他の奴らの中にいる。君は女神のような存在だ。死んでも守り切ってやる。
これが新たなボクの願いだ。
♢
「ルーク、嫌‥、いなくならないで‥!!」
物の輪郭すら認識できなくなった視界に白が映る。色しか分からないのに、それはメアリーだとすぐにわかった。
大丈夫。
それすら素直に伝えられなくて。安心させたかった、安心して欲しかった。ここからいなくなっても成仏なんかしてやるか。メアリーの守護神にでもなんでもなってやるつもりなんだ。‥いや、人形だから神になるのは無理だろうけれど、夢を持ったっていいじゃないか。
大丈夫。
君がボクを忘れないでいてくれればまたいつか会えるから。君が生き残ってくれてよかった。治せる傷だけでよかった。腕が痛いだろう、すぐに治療してもらって。まだ治るから。
大丈夫。
だいじょうぶ。
最期、ボクはちゃんと微笑めていただろうか。
君をどれだけ愛しているか、伝わっただろうか。
君がボクを思って泣いてくれたらそれでいい。
チクタクチクタクと、歯車の動く音が聞こえる。自分の体が動かなくなる。全てが終わる。
一つ残りなのは、昔の約束を果たせなかった事。花束を渡す事が出来なかった事。
君にネリネの花束を渡したかったんだ。花言葉を見た時、ボクらに合っていると思ったからね。
ボクは最期の最期まで、君の幸せを願っていた。
♢
「ねぇルーク、見てよこれ!」
「何それ‥花言葉図鑑?」
「さっきあそこに落ちてたの!きっと工場を見に来た人とか工場の人が置いていってしまったんだわ!」
「埃まみれでしょそれ‥元の場所戻してきな。」
「嫌!一緒に読みましょ!」
「埃だらけの本読むとか嫌だよ。」
「言うほど埃だらけじゃないのよ!?埃払ったし!割と綺麗なのに‥」
「‥なら、読んであげてもいいよ。」
「やった!えっとね‥私とルークに合う花を探したいの!」
「ボクと君に?」
「そう!外へ出たらルークに花束をあげたい!」
「なるほどね‥じゃあ、何がいいかな。」
「私は‥‥これ、ハーデンベルギアがいいと思うの!花言葉は“運命的な出会い”!」
「素敵だね。ボクは君の運命の相手なの?」
「出会った時になんかこう‥しっくりきたのよ!だからきっと運命の相手!」
「そう、それはよかった。」
「真面目に受け取ってないわね!?」
「受け取ってるよ‥あ」
「どうかしたの?いい花でも見つかった?」
「‥うん。」
「どれどれ?どの花が気に入ったの?」
「‥内緒。」
「え!?どうして!?」
「いつか渡す時が来たら渡してあげる。その時まで内緒。」
「何よそれ!私も教えなければよかった!」
「いいじゃん、ハーデンベルギアの花束楽しみに待てるし。メアリーは何が来るかワクワクしながら待っててよ。」
「‥それもそうね。絶対渡してよ!?」
「渡すよ渡す、絶対忘れないから。」
「じゃあ約束ね!」
「‥うん、約束だ。」
♢
ボロボロの頭を抱えながら、涙を流しながら思い出した記憶。まだリーヴァ達に会う前の記憶。
「何を渡そうとしたのか、わからないよ‥ッ」
ルークが何を渡そうとしてくれていたのか、それを私が知ることは二度となかった。
ハーデンベルギアの花言葉
「運命的な出会い」
「壮麗」
「思いやり」
ネリネの花言葉
「幸せな思い出」
「また会う日を楽しみに」
「華やか」
「輝き」
「忍耐」
「箱入り娘」
縺ゥ縺?@縺ヲ縺ゥ縺薙↓繧ゅ>縺ェ縺?s縺?
「どうしていなくなったんだ」
縺輔>縺ヲ縺
「さいてい」
縺雁燕繧よュサ繧薙〒縺励∪縺
「お前も死んでしまえ」
縺ェ繧薙〒縺薙m縺励◆
「なんでころした」
オリキャラ (追加あり
|平野 凪《ひらの なぎ》(アリス) 17歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
|霧島 凛《きりしま りん》(ウィラ) 17歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
|宮野 千冬《みやの ちふゆ》(ヒロ) 15歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
「魔法少年の幸福記録」
|楓山 司《あきやま つかさ》(リウ) 16歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
「魔法少年の幸福記録」
|本条 光希《ほんじょう みつき》(マリー) 16歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
「魔法少年の幸福記録」
|月岡 零士《つきおか れいじ》(リラ) 16歳 ♂
「魔法少年は今日もまた」
「魔法少年の幸福記録」
|天塚 若葉《あまつか わかば》(???) 15歳 ♂
「魔法少年の幸福記録」
|深井 隼人《ふかい はやと》 16歳 ♂
「魔法少年の幸福記録」
|篠原 真《しのはら まこと》 16歳 ♂
「絶対零度」
|鳴海 琴葉《なるみ ことは》 16歳 ♀
「絶対零度」
|鳴海 ???《なるみ 名前未定》 18歳 ♂
「絶対零度」
|天津 遊《あまつ ゆう》 24歳 ♂
「Bastard」
|柳瀬 瑞稀《やなせ みずき》 23歳 ♂
「Bastard」
|古谷 宏輝《ふるや こうき》 24歳 ♂
「Bastard」
|藤野 胡桃《ふじの くるみ》 22歳 ♂
「Bastard」
|戸羽 高嶺《とば たかね》 23歳 ♂
「Bastard」
|柊木 海散《ひいらぎ みちる》 22歳 ♂
「Bastard」
|如月 新《きさらぎ あらた》 21歳 ♂
「Bastard」
アレル・ミスリア 18歳 ♀
「死人は笑う。」
シェリア・ヴィクトリア 25歳 ♂
「死人は笑う。」
ケリック・アンダーソン 36歳 ♂
「死人は笑う。」
マリア・シェシェリーヌ 22歳 ♀
「死人は笑う。」
レルヴィ・トワイライト 20歳 ♀
「死人は笑う。」
増えたらまた追加していきます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
キャラ設定 (追加あり
名前:アレル・ミスリア
年齢:18
性別:♀
身長:165
髪型:セミロングのハーフアップ
髪色:洋紅色
目の色:水縹色
容姿:上に記入済み
髪飾り等:茶色のベレー帽
所属組織:リュネット
能力名:𝒷𝓁ℴℴ𝒹 𝓇ℴ𝓈ℯ
内容:自分の血で攻撃手段にも防御手段にも使える能力。頭でイメージすれば弓やバリアにも出来る。
好きな○○:レモンケーキ、お菓子作り、仲間
嫌いな○○:戦争、家族、ヴィス、高い場所
一人称:私
二人称:貴方、○○さん・ちゃん・くん
三人称:あの人、○○さん・ちゃん・くん
サンプルセリフ
「私はアレル・ミスリア。リュネット所属の新人です。」
「ん〜!メレンゲたっぷりのレモンケーキ美味し〜!○○さん流石です!」
「少し大人っぽいでしょう?能力を使ったんです!どうですか!?素敵ですよね!?」
「ちょっとシェリアさん!?紅茶くらい自分で入れてくださいよ!!」
「ヴィスに寄生されてる人間の見分け方が傷付けるか死ぬのを待つしかないのって嫌ですね‥」
「私は他国に行く気はないです。何があっても、例え私が死ぬ事になってもいきません。」
過去:不明。ただ分かるのは家族をヴィスによって失っている事だけ。
その他:方向音痴。
希望:記入なし
---
名前:シェリア・ヴィクトリア
年齢:25
性別:♂
身長:176
髪型:肩までショート
髪色:白色
目の色:紺碧色
容姿:上に記入済み
髪飾り等:銀色の揺れるピアス
所属組織:リュネット
能力名:ℐ𝓇ℴ𝓃 𝓉𝓎𝓅ℯ○○
内容:鉄のタイプを変えて攻撃手段にも防御手段にも使える
好きな○○:紅茶、リュネット、モンブラン、チョコケーキ
嫌いな○○:ヴィス、戦争、自分、犬、金銭を使うやり取り
一人称:僕
二人称:君、○○くん・さん
三人称:あの人、○○くん・さん
サンプルセリフ
「分かりました、必ずその依頼を解決してみせます。ね、アレルくん。」
「鏡の事も自分の事も何も知らない。僕は誰で、何処で生まれたのかさえも知らないんだ。」
「アレルく〜ん!紅茶が欲しいな〜‥?あ、今日はいつものじゃなくて二番目の棚にある紅茶がいい!」
「ヴィスを消すには僕が居なければいけない。‥安心して、そう簡単に僕は死なないよ。」
「この世界に戦争があるのがいけないんだ。戦争が国民の全てを奪う。‥だから、僕らで戦争を止めなきゃね。」
「鉄さえあれば僕は平気さ。○○くんは安全な場所へ行って。さぁ、早く。」
過去:不明
その他:記憶喪失で24より昔の記憶がない。
希望:記入なし
---
名前:ケリック・アンダーソン
年齢:36
性別:♂
身長:182
髪型:センター分けのショート
髪色:錆利休色
目の色:楊梅色
容姿:上に記入済み
髪飾り等:なし
所属組織:パリス
能力名:𝑔𝓇ℴ𝓊𝓃𝒹
内容:地面を操る事ができる。自分の足がついている場所であれば何処でも地面判定の為、何処でも変形させられる。
好きな○○:煙草、珈琲、車の運転
嫌いな○○:ヴィス、甘いもの、ゲーム
一人称:俺
二人称:お前さん、○○
三人称:アイツ、○○
サンプルセリフ
「危なかったなリュネットの嬢ちゃん。俺の到着がもう少し遅れてたら死んでたぞ。」
「煙草は俺の命も同然だ。無くなっちゃ困る。‥金はやる、追加で買ってきてくれ。」
「俺はお前さんより長く生きてるからな‥ヴィスの第一発見者にもなってるんだよ。」
「シェリア、お前は少し自分で動け。‥依頼で活躍するからって‥確かにそうだけどな、それとこれとは別だっつーの。」
「パリスは消えた方がいい組織だ。お前らにとっても、世界にとってもな。」
「ゲームってのは苦手なんだ‥操作方法を覚えるのが苦手だな。悪いが別の奴とやってくれ。」
過去:戦争前は普通の職業につき、普通の家庭で幸せに暮らしていた。けれどヴィスが持ち込まれてからその生活は変わった。
ヴィスに初めて寄生されたのが彼の娘。娘が死んで新たな寄生先として寄生されたのが妻だった。彼は家族をヴィスによって奪われている。
その他:よく昔撮った家族写真を眺めながら煙草を吸っている。
シェリアの父親的存在。シェリアを育てた訳ではないが、出会えば面倒を見るので周りからよく「父親のようだ」と言われている。
希望:記入なし
---
名前:マリア・シェシェリーヌ
年齢:22
性別:♀
身長:162(+5)
髪型:ふわふわツインテール
髪色:麹色
目の色:一重梅色
容姿:
上に記入済み
髪飾り等:兎の耳、両目の下にハートのシール(外から大、中、小の大きさ)、丸メガネ
所属組織:ルーヴ
能力名:𝒹𝒾𝒸ℯ
内容:サイコロの目で能力内容が変わる。1は人形化、2はバラバラ化、3は奴隷化、4は死体化、5はサイコロ化、6は生きたまま返す。
好きな○○:甘いもの、サイコロ、綺麗なもの
嫌いな○○:苦いもの、雨
一人称:ワタシ
二人称:貴方、○○ちゃん
三人称:あの人、○○ちゃん
サンプルセリフ
「あっれれ〜?リュネットの皆様じゃないですか〜!そこの貴方とは初めまして!ルーヴのマリアです!よろしくお願いしますね〜!」
「ワタシの能力ご存知ですか〜?流石!シェリアさんは素晴らしいですね〜!」
「アレルさん、貴方の能力はこの国で収まるべき能力じゃありません!さぁ、我が国へ移動のご検討を!」
「綺麗なものにはワタシ目がないんです!貴方は目も容姿も全てが綺麗!と言うことで、ワタシの能力のお披露目です!」
「何故ヴィスを渡してくれないのですか?我々の国にヴィスを頂ければ増やしに増やして世界中に広めてあげるのに!」
「どの世界の時間も進んでいるのですよ?ふふっ、戦争まであと何日でしょう?いや、何時間かもしれませんね?」
過去:両親から虐待を受けていたが、ヴィスが両親に寄生してくれて二人揃って死んでしまった。彼女は苦しみからの解放が嬉しくてヴィスを消したくないと思い始める。
その他:アレルの事が何故か大好き。
自分の国に来ないかと出会う度に言っている。
希望:記入なし
---
名前:レルヴィ・トワイライト
年齢:20
性別:♀
身長:160
髪型:肩までショート
髪色:白
目の色:黒
容姿:後で記入
髪飾り等:なし
所属組織:リュネット
能力名:?
内容:?
好きな○○:お菓子、仲間、夕方
嫌いな○○:戦争、日中、殺人
一人称:私
二人称:貴方、○○
三人称:あの人、○○
サンプルセリフ
「‥私、レルヴィ・トワイライト。‥宜しく。」
「‥シェリア、夜更かし駄目。夜の出勤、危ない。‥明日の朝、いけばいい話。」
「‥アレル、私、お菓子食べたい。出来、る?‥嬉しい。何か、手伝う?」
「‥私、日中は、外へ出られない。だって‥ヴィスが、ルーヴがいるから。」
「‥シェリアは、記憶戻らない方がいい。思い出さない方がいいことも、あるから。」
「‥この前、クッキー貰った。(名前)、一緒に食べよう。きっと、美味しい。」
過去:不明。
(今度出す小説でガッツリ過去書きます)
その他:喋る時には「‥」と、必ず止まってしまう。何故かはネタバレなので伏せます。
希望:記入なし
アレル服
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https://firealpaca.com/get/l2QqdWsd
https://firealpaca.com/get/JPWYlKrW
シェリア服
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https://firealpaca.com/get/LuQZwuKk
(↑上着だけ↑)
https://firealpaca.com/get/neVqlGPK
https://firealpaca.com/get/3Zb239KB
ケリック服
https://firealpaca.com/get/6ab9HU9b
https://firealpaca.com/get/BKkhajXn
マリア服
https://firealpaca.com/get/4enKRoXP
https://firealpaca.com/get/pCFgb9xN
(↑上着だけ↑)
https://firealpaca.com/get/cd4HybCv
https://firealpaca.com/get/K4fOwnD8
燃えゆく命の灯火を。
夕暮れとしては異常なほど真っ赤な空。
そんな空に一台の戦闘機が飛んでいた。
--- メーデー メーデー ---
揺れる地面と崩れる世界。
戦争開始から暫く経った筈だけれど、もしかしたらまだ全然経ってないのかもしれない。
呼吸がしづらく、視界がぼやけていた。
私は今、何処にいるのだろう。
目の前の《《赤黒い何か》》に問いかけた。
♢
「‥」
--- メーデー メーデー ---
まだ成人していないのに戦争は送り出された。
女だろうが男だろうが関係なかった。
その国に生まれた時点で戦わなきゃいけない。
夕暮れというには異常すぎるほど真っ赤な空。
トワイライトの一族が動き始めたんだ。
トワイライトの一族は、夕方だけ力が二倍になる。戦争が起きれば、無理やり夕方に時間をずらすのは自分達が有利になる為。私利私欲に塗れた大人が大量にいるどうしようもない国。
壊れた戦闘機に潰されて意識が朦朧としている。
何も出来ず、ただ空を眺めるしか出来なかった。
もう助からない事なんて分かりきってた。
掠れた呼吸の合間合間で目の前の何かに問いかける。何かはわからない、謎のバケモノに。
「私‥死ぬ‥の‥?」
その声が届いたのかはわからない。けれど、届いてなくても何も変わらない。答えは「死ぬ」だけだから。
「‥」
目の前の人の形をした何かはただ私を見つめてた。
「生_タ_カ?」
「‥」
何を言ってるのかあまり聞き取れなかった。
もう駄目なのか、それともそう言う声なのか。
「‥死にたく‥ない‥ねぇ‥」
生きていたかった。
こんな地獄みたいな世界でも、ボロボロの手で命を掴んでいたかった。こんなロクデモナイ世界でも生きていたかった。
この世界の駄目な所に気付いてしまった時からずっと、死にたかった。なのに、いざ死ぬとなると生に焦がれるだなんて。私って何がしたいんだろう。もう、何もわからない。
私は強烈な眠気に身を任せ、目を閉じた。
そして呼吸が止まり、心臓も止まっていき___‥
「‥イチはゼロにならナい。」
--- 「“ ℛℯ𝓁𝒾ℯ𝒻 ”」 ---
♢
「‥」
「ふふふ〜んふふ〜ん♪」
目を開けることは出来ないけれど、段々と聴力が戻って来る。聴こえたのは時計の針が動く音と何かを捲る音、そして誰かの鼻歌。
私はそこで気付いた。何故か生きている事に。
あの時にはもう救いようがないほど死にかけていたはず。天国などではないだろう。このベットと柔らかく甘い匂いはこの世界のもののはず。
そんな事を考えている内に鼻歌が消え、木の葉が揺れる音が聞こえ始める。戦争の音が嘘のように消えている。
「‥あれ、目が覚めた?」
その声に答えるように瞼を開ける。急に真っ暗なところから明るい場所に来たからかとても眩しかった。
「‥ぁ」
「声無理して出さなくていいよ。喉がちょっとおかしくなってるみたいだから。」
その人は全身が白く、儚い印象を持った。そして優しく微笑みながら、カーテンを閉めて部屋から出ていった。
「少しだけ待ってて、兄さんを呼んでくる。」
その言葉の後に扉を閉められた。
起き上がって部屋を見渡すと、この部屋は病室のよう。綺麗な白のベットに寝させられ、サイドテーブルと先程の人が座っていた丸い椅子以外に何もない部屋だ。
天井には汚れひとつなく、カーテンは完全に閉められて光一つ入ってこない。
ここが何処なのかわからない。
けれど、それより分からないことがある。
どうして私は生きているのか。
♢
扉の開く音で目を覚ました。どうやらまた眠ってしまったようだ。
「起こして悪かったね、私の事が見えますか?」
「‥」
「声を出すのが難しかったら‥手を挙げてください。」
私は手を挙げた。ピンと大きく挙げれなかったので下の方で小さくだけれど。
「有難う御座います。何処か体に異常はありませんか?」
私はまた手を挙げた。きっとこれが「はい」の返事代わりになるんだろう。
「異常無しですか、有難う御座います。では、何かあったらまた呼んでください。《《シェリア》》、面倒見てあげてね。」
「わかってるよ兄さん。」
シェリアと呼ばれた先程の人は、お兄さんが出て行った後扉を閉めて、丸い椅子に座った。
引き出しの中から小さなノートを取り出し、ペンで何かを書こうとしていた。
「んー‥自分の名前わかる?」
その問いに戻ってきた感覚を使って返事をする。
「‥《《レルヴィ》》。」
少し声が掠れたが、その声はちゃんと相手に届いたようだ。彼はペンでノートにささっと何かを書く。きっと私の情報だ。
「成程‥レルヴィね。じゃあ年齢は?」
「‥18、とか。」
「次‥性別は?」
「‥女、のはず。」
「んー‥あとなんかあるかな‥」
彼はペンをカチカチ鳴らしながら次に聞くべきことに悩んでいるようだった。基本情報はまだある筈だけど、彼は一体いくつなのか。
「‥戦闘機に、押しつぶされて死んだ‥筈。」
「‥」
「‥私を、拾ったのは‥貴方達?生き変え、らせたの?」
「‥?」
彼は私が何を言っているのかわからないと言うような顔をした。でも、死んだ筈の人間が目の前で生きていたら普通困惑するか。
「死んだ筈って‥だって、君は自力でここへ来たんだよ?」
「‥ぇ」
今度は私が困惑する番。彼が何を言っているのかわからない。だって確かに私はあの時、死んだ筈。
「僕らがこの建物の中に逃げようとしてたら君が来て、『助けて』とだけ言って倒れたんだけど‥もしかして、その時の記憶ない?」
「‥ない。」
そんな事なかったはず。だって、私は死んだ。
絶対に死んだはずなのに、歩いてここまで来たなんて。そんなの可笑しい。
「‥記憶なかったら、無理に思い出せだなんて言わないよ?無理しないでね。」
そう言い、彼はニコニコと笑う。
「‥戦争は、どうなったの?」
「‥知りたいの?」
彼の顔から笑顔が消えた。いや、口元は微笑んでるが目が笑っていなかった。
「‥親友を、置いてきたから。」
私の生まれ育ったあの国に、親友がまだいるから。生死だけでも‥戦争の現状が知りたい。
「‥今は、外を見ない方がいい。」
「‥どう、して?」
「‥トワイライトの一族が暴れ回っている。空は開戦後からずっと夕暮れだ。異常な程真っ赤なね。」
私が死ぬ前まで見ていた景色が、今もなお続いている。私もその一族の血を引き継いでいる。
私もいつか、あの人達のように戦争を繰り返し、権力を悪用する人間になるのか。
「‥メルマイユは崩壊間際だ。トワイライトに何度も壊されかけている。あちらの国の王子様がとてつもない能力者だから、なんとか持ち堪えてるって感じ。」
メルマイユの王子。
それはどの国のどんな人間でも知っている人間だ。幼いながらに強力な能力を持ち、「救世主」とまで呼ばれている存在。
「東の国‥《《ヘルーマ》》はメルマイユとほぼ同じ状況。でも、メルマイユよりはマシかな。リーヴァと同盟関係にあるから狙われてる。」
ヘルーマは昔からメルマイユと同盟関係にある。
トワイライトが狙うのは当たり前か。自分達と同じくらいの能力者がいるリーヴァを壊したいなら、復興を手伝いそうなヘルーマも壊したい。
「西の国‥《《ミレイヤ》》は狙われていない。壊す理由がないからね。なんならリーヴァと敵対関係にあるから狙わない方がいいでしょ。でも、中心に近い場所は被害を受けている。」
ミレイヤはメルマイユと敵対関係にある。
戦争ではメルマイユとヘルーマが協力して、ミレイヤは孤立しているように感じる。何処とも協力しあわない国として有名だ。
「そしてこの国‥《《セラメデス》》は被害を受けていない。だって、他の国が手出しできないほど恐ろしい国だから。それに、戦争の火種は僕らだし。」
皆、トワイライトの一族が恐ろしいんだ。
この世界を滅ぼす力を持った一族。今わかっている能力者以外にも大量の能力者がいる。力だって何処まで強いものか分かっていない。
何もわからぬ故に恐ろしい。
「‥私は、帰らなきゃ。」
「どうして?」
「‥どうせ、一度死んでる、から。親友を、置いてけない。」
「‥ここには、沢山の死傷者がいる。その中に君の親友がいるか確認してから行ってもいいんじゃないのかな。」
失うものを多くする必要はないよ。
彼はそう言った。その言葉の通り、ここに友人がいるかもしれない。確認してから行ってもいいんじゃないかと思った。
「‥連れ、てって。」
「‥兄さんには内緒だよ?」
彼は私の手を取った。
♢
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
外へ出てからずっとこの通り。悲鳴しか聞こえない。先程までいた部屋が防音だった事に感謝した。
「五月蝿かったら耳塞いでてね。痛がってる人に『叫ばないで』なんて言えないから。」
彼は私の手を引きながらそう言った。彼のお兄さんがいる病室を通ってから詳しく話したいとの事。
「‥で、そのお友達の名前は?」
「‥ミチル。女で、紅色の髪をしてる。」
「ミチルさんか‥んー‥ちょっと待って、名簿を見よう。それで名前を探してみる。」
「‥出来る、の?」
「大丈夫‥なはず。君は見つからない事だけ考えてて。」
彼が着ていた上着を頭に被せられた。顔を見せるなってことだろうか。
「名簿何処にあったかな〜‥」
彼が廊下を歩きながら呟く。私は病室が気になって周りを見渡した。その時、私は初めてこの異変に気がついた。前の私と違うところを。
「‥どうして、髪が白く‥」
私の髪は水色だったはず。目もこんなに真っ黒じゃなかった。青色のはず。どうして、こんな姿になってるのか。私は何故か、白黒な見た目になっていた。
「‥ねぇ、貴方。」
「ん?貴方って僕かな、どうかした?」
「‥私は、初めから、この見た目、だった?」
出会った時からこの姿だった?
そう彼に問いかけた。
「うん、助けてって言った時からずっとその見た目だけど‥やっぱりどうかしたの?」
「‥」
声も前のようにスラスラ出ない、見た目も前とは違う、表情が動かない、今考えれば異常だらけだ。
やはり私は、一度死んでいたらしい。
♢
「えーっと、ミチルミチル‥」
名簿をペラペラとめくりながらその名を探す。
生存確認が出来ていない人や、ここにいる人の名前が書かれている名簿。そこに名前がなければまだ生きていると言うことらしい。
私は、先程の異常をすぐに受け入れることができた。見た目と喋り方が変わっただけで特に生活に支障はないから気にする事ない。
「うーん‥ここにはミチルさんがいないみたい。次はこっち、あまり見たくない死亡者名簿。」
そう言いながらページを捲り出す。ページを捲る音だけが聞こえる部屋で、私は友人がどうなったかを考え続けていた。
そんな彼の手は、とあるページで止まった。まるで見たくはない文字を見つけたかのように。
「‥ミチルの名が、あったの?」
「‥ごめん、あった。」
彼が謝る事ではないのに、顔を伏せて謝っていた。私はそのページを覗き込む。
--- 死亡者名簿 【3】 ---
--- “ ℳ𝒾𝒸𝒽𝒾𝓇𝓊 ” ---
「‥ミチル。」
思い出すのは明るい笑顔で私の手を引く姿。
昨日のことのような思い出せる記憶が沢山だ。
もう、その記憶達が更新されることはない。
「‥苦しかった、よね。お疲れ様、おやすみなさい。」
ミチルの名前をなぞりながら、ミチルのことを思いながらそう言った。心を落ち着かせる為に、深呼吸を繰り返す。
「‥ありが、とう。」
「‥もう帰る?」
「‥えぇ、帰る。」
「‥無理しないでね。」
彼は私の頭に手をのせ、優しく撫でる。
昔、母に頭を撫でられていた事を思い出した。
♢
メルマイユの王子の働きにより終戦したのが、少し前の話。平和な日常が戻って来るかと思えば、この病院には別の問題が発生していた。
「娘は、助かるんですよね、ね?」
「‥全力を尽くします。」
ヴィスと呼ばれるバケモノがとある少女に寄生した。その少女が、ここにいる。普通に寝ているように見えるが、その体の中ではヴィスが今か今かと外へ出て来るタイミングを見計らっている。いつ体を突き破って出て来るか分からない。だからこそ恐ろしい問題なのだ。
「お父様、少し落ち着いてください。」
「娘が死ぬかもしれないのに落ち着けると?」
その娘さんのお父様が先程からシェリアと軽く揉めている人。奥さんは娘さんの横で手を握っている。その顔は初めてお会いした時より少しやつれているように見える。
「ですから、出来る限り努力致しますので___」
シェリアが旦那さんを説得していた時、
グチャ
変な音が聞こえた。何かを突き破るような音。
その音で娘さんの方を見ると、首と頭が離れていた。そこからバケモノが現れ、近くにいた奥さんの体を裂いて寄生した。裂かれた傷は見る見るうちに回復し、何もなかったかのような肌になった。服も治り、そこにいたのは先程と何も変わらぬ奥さんだ。
「どうかしたのアナタ?」
奥さんの声そのもので喋る。
ヴィスが寄生する瞬間を見られたと言うのに、まだ芝居を続けるのか。
「お前は、お前はソニアじゃない、バケモノだろ‥」
「何を言ってるの?私はソニアよ?」
「違う!今確かに、お前の体は裂かれて‥」
「?」
奥さんは何もわからない顔をしていた。本当に何も知らない、と言う顔を。今目の前で起きたことを誰もが見ていた。娘さんの死体も、すぐそこにある。なのに何故何も知らない顔をしているのか。
「‥ヴィスに寄生された本人は自覚がないのか‥参ったな。」
シェリアが困ったような表情をして旦那さんに小声で話しかける。
「奥様はもう、助かりません。今ここで静かにあの世へ見送るか、いつ死ぬかわからない状態でこれからを過ごすか。」
旦那さんは絶望の表情をしていた。目の前で娘を亡くし、妻も失うしかない状況だ。絶望しない方が可笑しい。
「‥私が、何か致しましたか?何か、いけなかったんですか?」
奥さんがシェリアさんに問いかける。その顔は不安でいっぱいだ。
「‥ソニア。」
旦那さんが奥さんをそっと抱きしめる。壊れものを扱うように、優しく抱きしめた。心の準備が必要だろう。私とシェリアは二人を静かに見ていた。
数分後に、奥さんが死ぬまで。
♢
「‥」
髪が風に靡く。
今私は、昔病院があった場所に立っていた。
救われたあの日から二年。沢山の死を、沢山の絶望を見た。何人も謎の死を遂げた人がいた。死ぬかもしれない恐怖から逃げ出したい日々が続いた。
それでもここで生きていたのは、シェリアがいたから。救ってもらった恩を返すために、この国を離れなかった。
けれど、シェリアはもういない。
この国ではない何処かへ消えてしまった。
寝て起きたらもう、ここにはいなかったから。
何処に行ったは想像がつく。彼が前から行きたいと言っていた国、“メルマイユ”だ。
メルマイユに彼はいるはず。私はもう一度、会いに行かなくてはいけない。戦争を繰り返さない為に‥トワイライトの一族を全員殺す為に。
この国を離れ、敵国のメルマイユへと向かう。
彼に会って話をするために。この体の謎を解き明かす為に。
♢
「‥」
メルマイユについてから何日かした時、やっとシェリアに会った。少し雰囲気が変わっていたけれど、それは確かにシェリアだった。髪型や髪色、目の色や背丈、体型や歩き方がシェリアにそっくり。
やっと会えた事に対する喜びと、突然いなくなった怒りが混ざってよくわからない感情になっていたが、取り敢えず話してみなきゃわからないだろう。
そう思い、すれ違った時に私はシェリアの腕を掴んだ。するとシェリアは足を止め、此方を振り返る。
「‥」
「‥えーっと、どうかしました?」
困った顔で私を見る。思っていた返答じゃなかった。レルヴィと呼ばれなかった。久しぶりとも、ごめんとも言われなかった。
「‥シェリア、久しぶり。」
「‥」
彼は目を見開き、驚いた顔をする。その後申し訳なさそうな顔になり、こう言った。
「‥ごめんなさい、どちら様ですか?」
「‥ぇ」
いつか見たあの人のように、何もわからないと言う顔を‥本当に知らないと言う顔をしていた。まるで、
まるで記憶を失ったかのように。
♢
「‥えっと、僕達は昔知り合いだったのかな?」
彼の家とやらに行き、目の前に出された紅茶を見ながら彼の問いに頷く。すると彼は話し始めた。
「‥ごめんだけど、覚えてない。記憶喪失とやらみたいでね、昔の事を覚えてないんだ。覚えているのは、そこの裏路地で倒れていた時から。‥ごめん。」
彼は頭を下げた。彼が謝ることなんて何一つない。記憶を失った理由はわからないけど、きっと何か事情があってのことだから。責めようとも思わないし、責められる理由もない。
「‥謝らなくて、いい。」
紅茶を一口飲む。昔彼がよく飲んでいた味だった。記憶を失っても好物は変わらないようだ。
「‥その、昔の僕の事を教えてくれないかな?」
「‥どうして?」
「だって、僕は昔を覚えてないんだ。君が教えてくれれば、記憶が戻ったも同然じゃないのかな。」
「‥」
思い出すことは戦争の事、お兄さんの事、ソニアさんの事、ヴィスの事。どれも死に関係していることだ。嫌な記憶を思い出すくらいなら失ったままの方が幸せなんじゃないのかと、そう思った。
「‥思い出さない方がいいことも、ある。」
彼には全てを知らないままでいて欲しかった。
「‥いい事がなかったんだね、昔は。」
私が伏せた事で、彼は察してしまったらしい。
昔から勘が鋭いから気付くのではと思ってはいた。けれど、少し気付かないでいてくれるかもと思っていたんだ。
「‥まぁ、ね。」
私も昔の記憶を消してしまいたい。
記憶を消して、幸せに暮らしてみたかった。
けれど、トワイライトの一族である事と、《《ヴィスに寄生されたこの体》》がその願いを叶える事を許さなかった。
♢
私がヴィスに寄生されている事に気付いたのは、シェリアがいなくなった後。
ヴィスに寄生された人の血は黒かった。
私の血も前とは全然違く、黒だった。
ヴィスに寄生された人の目は黒かった。
私の目も前とは全然違く、黒だった。
それでも死なずに生きていられるのは、私に寄生したヴィスが優しかったから。
あの時、戦場で出会った赤黒いヴィスに私は寄生されていた。あの時から私は普通の人間ではなくなっていたのだ。
人を殺すようなヴィスは、自分が自由に動きたいから・生きる為の仕方ない行為だから・普通に生きたいからなどの理由があるらしい。この体のヴィスが教えてくれた。
それに対してこのヴィスは、外に出たい訳でも、人を殺したい訳でも、生きたい訳でもなかったらしい。あの場で私を生かす手段がそれしかなかっただけで、あのまま消えてもよかったそう。
ヴィスと一緒に生きていることは世間から見れば“異常”だ。差別されること間違いない。
だから隠している。シェリア以外にこの体の秘密を知る者はいない。
ヴィスが嫌いなんじゃない、殺人が嫌いなんだ。
♢
ヴィスに寄生された生き物を救う為にシェリアが立ち上げた組織・リュネット。そこに何人も人が入っていき、賑やかな日常になっていた。
それから少しした時、とある新人少女が来た。
「初めまして、アレル・ミスリアと言います!」
アレル・ミスリアと名乗った少女を見て私は驚いた。だって、あまりにもミチルに似ていたから。そこにミチルがいるように思えてしまう。ミチルはもういないのに、ミチルにしか見えないかったんだ。
「アレルくんの指導は基本僕がやるつもり。でも、ど〜してもそれが難しい時は‥レルヴィに任せてもいい?」
「‥勿論。」
「よろしくお願いします!」
ミチルより身長は高いし、服装もミチルが着てるようなものじゃない。ミチルは死んだのに、ミチルが生きてるみたいだった。
「‥産まれは、何処?」
「え?」
「‥貴方の、出身国は?」
「え‥メ、メルマイユですけど‥」
「‥ごめん、人違いだった。」
「いえ、大丈夫です!」
そう言い、照れ笑いする彼女。
その後は他のメンバーともすぐに打ち解けて、仲良くしていた。シェリアに頭を撫でられたり、偶々来ていたケリックにお菓子をもらっていたり‥彼女は「可愛い妹」感があるのだろう。
私は、彼女をどう見ればいいのだろうか。
♢
明日は当たり前に来るものじゃない。
明日、ヴィスの気が変わって死ぬかもしれない。
明日、事故にあって死ぬかもしれない。
明日、戦争が始まって死ぬかもしれない。
明日、あの一族に殺されるかもしれない。
明日、ここから追い出されて死ぬかもしれない。
明日の可能性は数えきれないほどある。
幸せの可能性も不幸の可能性も同じくらい。
そんな世界で幸せを掴むのは、大変なこと。
何かを手に入れた時から失う事が決まっている。
一生手にしたまま過ごせるものなどない。
“幸せ”はこの手から簡単にすり抜けていく。
“不幸”はこの手から消えることがない。
不平等な命の世界で今日もまた生きている。
毎日何処かで誰かが消えてしまっている。
そんな全員を救うなんて無理かもしれない。
そう思い、歩みを止めてしまうことがある。
けれど、思い出して。
確かに私は誰かを救えている。
存在しているだけで喜んでくれる人がいる。
救いたいのなら悲しませてはいけない。
ゆっくりでいい。一歩一歩確実に歩き出すの。
そしたらきっと、
「おいで、レルヴィ。」
|貴方《私》を救ってくれる人に出会えるから。
--- メーデー ---
今までで一番長い9030文字‼︎
ピッタリ嬉しい!!なんか気分上がりますよね‼︎
まぁ投稿したら文字数減るんですけど(
シェリアさんの過去についてちょびっと触れたり、レルヴィちゃんの過去はガッツリと公開できたんじゃないかと思います‼︎
ヴィスに寄生されたレルヴィちゃん、記憶を失ったシェリアさん、正体がよく分からないアレルちゃん達が本編でこれからどうなっていくか、楽しみに読んでくれると嬉しいです‼︎
それでは‼︎
カクシゴト。
「‥」
慣れた視界。
片目分しか視野がないのに困る事はあるが、朝起きる時に困る事はない。たまに困るのは眼鏡がサイドテーブルから落ちて何処かへ行っていた時。探すのに時間がかかる。
そして今日は、リビングに行くのにいつもより時間がかかりそうだ。何故なら眼鏡がサイドテーブルの上にないから。床を探してもない。こういう時は大体ベットの下に‥
「‥ない。」
なかった。
何処にもない、と言う事は昨日僕自身が別の場所に置いて寝たか、または誰かが盗んだかしか考えられない。
誰かが盗んだ可能性は案を出したがあり得ないことだ。僕は確かにこの部屋の入り口に鍵をかけて寝た。今もその鍵は外れていない。シェリア・ヴィクトリア特製の鍵の為、複製やピッキングは出来ない。
何処に置いたかだが、昨日は確かにサイドテーブルの上に置いたはず。だがテーブルにはない。記憶がないだけで、僕は別の場所に置いたかもしれない。
思い出せない時は昨日の行動をやり直してみるといい。能力は使う程でもないので使わない。
確か昨日は夜中の1時を過ぎたあたりで寝ようと自室に戻り、それから部屋着に着替えてベットの上に来たはず。その後はサイドテーブルに眼鏡を置こうと‥
「‥」
したが、また落とすと困る為に引き出しの中に閉まった。記憶の通りに引き出しの中を開けてみると、やはり眼鏡があった。
少し‥いや、かなり眠気が限界だったのだろう。全然思い出せなかった。
眼鏡も見つかったことだ。服を着替えてリビングへ行くとしよう。今日は珍しく依頼お断り日のはずだからな。
♢
「おはようございます。」
「あれ、もう起きたの?おはよ〜。」
シェリア・ヴィクトリアが依頼時用のソファに座りながら紙の束を読んでいた。恐らく依頼の情報整理資料だろう。
「休みの日まで仕事ですか。」
「なんかさ、仕事してないと落ち着かないんだよね。記憶がないからかな。」
彼は記憶がない。故に過去の楽しい思い出を振り返って時間を潰すという事が出来ないのだ。
皆、シェリアの前では過去の話題を避けているように感じる。一応気を使わせない為だろう。
かく言う僕も過去の話をしないようにしている。話したくない事が多いという理由もあるが、シェリア・ヴィクトリアの前で過去の話題を出すのはなんだか申し訳ないという感情が沸くからだ。
「‥話題を逸らすようで申し訳ありませんが、今は何時でしょうか?」
「あれ、ルイシェくんの部屋に時計なかった?」
「数日前に壊れました。」
「いや、そういう事は早く言ってよ!!買いに行かなきゃなんだからさ!」
立ち上がって僕に詰め寄るシェリア・ヴィクトリア。「依頼が立て続けに押し付けて壊れた事を言えなくしたのは貴方じゃないですか」とは流石に言わなかった。
「すみません。」
「まぁ、後で買いに行けばいっか‥で、今何時かだっけ?」
「はい。」
「んー‥今は五時半だね。随分と早起きじゃないか。」
「シェリア・ヴィクトリアも早起きだと思うのですが。」
「僕は寝てないから早起きって事でもないかな〜。」
「寝ていないのですか?」
「うん、なんだか寝付けなかった。」
彼はへにゃりと子供のように笑う。僕から離れ、棚から腕時計を取り出してそれを僕の手首に巻きつける。
「‥壊れた時計の代わりですか?」
「うん、その通り〜!今日買いに行くからそれまで我慢しててね〜!」
「時間などあまり確認する事もないので、後回しで構いません。」
「あれそう?‥でもどうせどっかのタイミングで買いに行くし、早めに買った方が良くない?」
「‥あってもなくてもどちらでも構いません。」
「答えになってない答えだな〜‥」
彼は電話の横に置かれた小さなメモにペンで何かを書き始める。その途中で電話のベルがなったが、彼がすぐに切った。メモを書き終えるとそのメモを千切り、僕の手に握らせる。
「これは時計屋の住所が書いてある紙。後で行ってきてね、壊れた時計も一緒に!」
「はぁ‥わかりました。」
「そりゃどーも!ところで朝ご飯食べる?」
「急ですね。ですが、あるのなら頂きましょう。」
「昨日丁度買い出しに行ったからね〜、パンとかご飯とかコーンフレークとか色々あるよ〜!」
「では‥そのパンを。」
僕はチーズが少し入った大きめのパンを指した。食べやすいサイズに各自切れるようなパンだ。
「これね〜、ちょっと焼くから待ってて〜!」
そう言い彼はキッチンへと姿を消した。レンジを開ける音が聞こえるので、レンジで温めようとしているのだろう。
彼がキッチンに行って少しした後、リビングの扉が開いてアレルくんが中へと入ってきた。部屋着から着替え、今すぐに依頼が来ても出れるような服になっていた。‥今日は依頼が無い為、恐らく出掛ける用事でもあるのだろう。
「あ、おはようございますルイシェさん!」
彼女は寝癖を治しながら僕を見つけて、慌てて挨拶をした。別に挨拶しなくても構わないのだが‥
「おはよう‥ところで、今何時だ?」
「え?あ、今は‥6時ピッタリです。」
リビングに設置されている壁掛け時計を見て質問に答える彼女。だが、僕はそれより彼女の髪にまだ寝癖がついている事が気になって仕方がない。
「‥私の頭に何かついてます?」
気まずそうな顔をして僕の顔を見るアレルくん。彼女に寝癖がある事を伝えようとした時に丁度シェリア・ヴィクトリアが戻ってきた。
「あ、アレルくんじゃん。おはよ〜‥って、寝癖ついてるよ?(笑」
「え?ど、何処ですか!?」
「え〜言わな〜い!」
「最っ低なんですけど!ね、ルイシェさん!何処に寝癖ついてるからわかりますか!?」
「‥洗面所の鏡で見てきた方が、水で治せていいと思いますよ。」
「確かにそうですね、失礼します!、」
アレルくんは慌ただしく扉を開けて外へ出ていった。その様子をケラケラと笑いながら僕の前に温めてきたであろうパンを置き、席に座ったシェリア・ヴィクトリア。
「アレルくんって見てて飽きないよね〜、いつでも笑えちゃうや。」
コーヒーカップに角砂糖をいくつか入れてスプーンでかき混ぜる。スプーンを側におき、珈琲を一口彼は飲んだ。
「ゴフッ」
むせている。変なところに珈琲が入ったか、それか苦すぎたかだろう。もしかしたら熱かったのかもしれない。
「‥角砂糖、もっといりますか?」
「気が利くね〜!ありがゴホッ‥」
「‥」
そっと角砂糖を彼の前に持っていき、蓋を開けておく。彼は咳き込みながらも角砂糖を取り出し、珈琲に入れた。そして一口飲む。
「‥うん、やっと美味しくなったや。」
そういいフっと笑った。残念ながら、失態を晒しすぎて今更カッコつけるのは無理だと思う。
「ところでルイシェくん。」
「どうかしましたか?」
「メモ書き、珈琲でビショビショ。」
「あ」
♢
午前十一時。先程の馬鹿みたいな会話から何時間か過ぎた頃。
ちなみにあの後は、メモ書きを取ろうとしたシェリア・ヴィクトリアが珈琲を倒してしまい、僕の服にかかった。それをどうにかして落とせないかと僕に近づいてハンカチで汚れた部分をはたいていた所にリュオル・フォルテーオが来て、恋人同士のアレだと勘違いされた‥勿論、すぐに弁解した。口外禁止とも言っておいた‥言ったはずなのだが、何故か全員が外へ出て行った。可笑しいな、全員「明日は絶対外に出ない」と昨日言っていたはずなのに。
「‥なんかごめんねぇ、僕が珈琲溢しちゃったせいで迷惑かけちゃって‥」
「構いません。読書出来る静かな空間が出来上がったので寧ろ感謝しています。」
「そう?なら‥よかったのかな?」
そんな会話をしながら食器を洗う彼と僕で、今から読書の時間もなしに出掛けるようだ。彼が食器を洗い終わるまでしか読書の時間がないとは可笑しな話だ。今日くらいはゆっくり出来ると思ったんだが‥
そんな事を考えていたら水が止まる音が聞こえた。洗い物が終わったと言うことだろう。僕は本を片し、ソファの上に置いていた袋を手に取った。それとほぼ同時に彼がキッチンからリビングに戻ってきて上着を手に取った。
「洗い物終わったよ〜、今から出れる?」
「えぇ、出る準備をしていましたから。」
「そっか〜、ありがとね!」
ヘラヘラと笑う彼の後ろについていく。身長が高い分、扉を少し屈んで通らなくては行けないのはいつまでたっても面倒だ。たまに寝ぼけていると頭をぶつけて痛い。
日中はヴィスの動きが鈍くなる時間帯故にヴィスを殺しやすい。だがヴィスも殺されると分かっていながら外には出てこないので、日中はヴィスに殺される恐怖に怯えなくてもいいのだ。だが、この事務所が潰されてはいけない為、戸締りも気を抜かずにしておく。
「準備できた?」
「はい。」
「んじゃ、時計屋さんにレッツゴー!」
扉の向こうの太陽が酷く眩しく、暑すぎて頭がおかしくなりそうだった為にすぐ引き返したのは少し後の話。
♢
午後一時。僕達は時計屋の前にいた。
アンティークな時計が多く、古い雰囲気のある時計屋だ。店と店の間に挟まれていて、道路沿いの道だから通れば見覚えのある店になると思っていたが、全く持って記憶がない。普段周りをじっくりと見ないからだろうか。
そんな事を考えながら僕は隣の人をチラ見した。
「はぁっ、はぁっ、はぁ〜っ!、」
「そんな疲れてるの貴方だけですよ。」
彼‥シェリア・ヴィクトリアは壁に手をついて座り込んでしまっている。僕は水を持ってきたが、彼は持ってくるのを忘れたらしい。申し訳なくもないが、可哀想とは全く思わなかった。
「あ〜飲み物持ってくればよかった‥でも大丈夫。この店はタダで水くれるから!!」
「タダ水飲む為にそんな死にかけになってるんですか?」
「まぁね!!無駄な出費は抑えたい!!」
この前本を大量に買ったのはやはり言わない方がいいのかもしれない。
「さぁさ!早速入r(ヘブッ」
「いつまでグチグチ喋ってるんですか、さっさと入るなら入ってください。」
シェリア・ヴィクトリアが扉に手をかけようと近づいた瞬間、内側から扉が勢いよく開けられてシェリア・ヴィクトリアの顔面にヒット。店主はその事に気づいていながら無視しているのか、はたまた気付いていないのか。それは彼のみぞ知る。
「いったぁ〜‥あざになりそうだな〜‥」
彼は珍しく前髪を上げておでこをさする。確かにおでこが‥と言うか、顔面全体が赤くなっている。あんな音を立ててぶつかったんだから当たり前か。
「しつれ〜しま〜す!」
「そちらの方、態々ご足労いただきありがとうございます。僕は“サンガ・フェリーラン”です。ここの店主の代理で来てます。」
「代理?」
「ここの店主さん、かなりお年寄りだから体の節々が痛んだり普段通りの生活が難しくなっちゃってるんじゃないっけ。」
「その通りです、すみませんね。」
茶色の髪が控えめな照明に照らされて輝いている。オレンジ色の瞳も夕焼けのようで綺麗だ。
「‥時計を直して欲しいのですが。」
「修理ですね、お代は後払いですのでご安心ください。金を忘れたのなら修理中に取りに帰ってください。」
「前に金忘れてきた奴がいたんだよね〜!」
「|貴方《シェリア》ですよ。」
少年は愚痴を言いながらも工具を出して時計の状態を見ている。シェリア・ヴィクトリアと少年‥サンガ・フェリーランは随分と仲がいいよう。この町での付き合いが長いのか、シェリア・ヴィクトリアが記憶を失う前から仲が良かったのか、それはわからないが。
「‥先にお伝えします。この時計の修理代は6500円です。所持金が足りない場合は取りに行ってくださいね。」
チラッと財布を覗いたが、ちゃんと7500円が払える分は残っていた。
「一時間程時間を貰います。水が欲しけりゃそこのミニ冷蔵庫からどうぞ。何か他に用事があれば、終了し次第連絡致します。」
外見的に年齢は16〜18の少年だが、まるで20を超えた大人のような態度だ。25なのに10代に見える隣の男とはまるで違う。
だがやる事がない。外に用事があるわけでも、水を飲みたいわけでもない。出来る事なら読書でもしたいが、目の前で本を読むのは失礼か?
「‥読書でもなんでも、お好きにどうぞ。」
少年はまるで、心を読んだかのようにタイミングで話しかけてきた。
「有難うございます。」
袋の中から一冊の本を取り出し、椅子の背もたれに寄りかかって読書に集中する。
チクタクチクタクと時計の腹が動く音と、少年の工具の音だけがあるこの空間は、心地よい。
♢
午後四時。
この店についてからもうそろそろ一時間が経過しようとしていた。持ってきた二冊の本も読み終わってしまい、どう時間を潰そうかと考えていた時の事。
「‥時計、どうぞ。」
やっと時計の修理が終わったようだ。
「ありがとうございます。」
「言ったより時間かかってすみませんね、思ったより壊れていたので。」
「いえ、お気になさらず。」
「それで‥お代を頂戴しても?」
「あぁ、6500円ピッタリでお願いします。」
お札と小銭を少年の掌の上にそっと置く。少年はそれを落とさないようにゆっくりと箱へ入れ、時計を渡してきた。
「また壊れたら来てください。あと‥横の大荷物、ちゃんと持ち帰ってくださいね。」
大荷物なんか持ち帰ってきていたかと思い横を見ると、そこには椅子に座りながら眠っているシェリア・ヴィクトリアがいた。
「‥」
僕は朝聞いた彼の言葉を思い出した。
『僕は寝てないから早起きって事でもないかな〜。』
そう言えば彼は寝ていなかったなと思い出し、起こすか運ぶか、どう持ち帰ろうか考えていた。
「彼、まだ寝てなかったんでしょ。」
「また、とは?」
「ここに来るとよくそうなってる。寝れない時はこの店に来るみたいだよ。爺ちゃんの頃からそうだった。」
工具の整理をしながら少年は話し始めた。気付けば敬語は抜け、子供らしい話し方になっていた。きっと営業終了したと言うことだろう。
「水を飲みにくるんだ。」
「水、ですか?」
「そう、今日もそうだったでしょ。ここの店の水はタダの水じゃないから、多分それ目当て。勿論壊れた時計も持ってくるけどね。」
「‥その詳細をお聞きしても?」
ヴィスに‥犯罪に関与している事ならば今すぐ罰を与えなくては行けない。例えそれが、僕の職場の上司だとしても。
「別に、犯罪系のやつじゃないよ。爺ちゃんの能力が“現実から逃げられる”って能力なだけ。夢の中へ逃げるでも、永遠の眠りについて逃げるでも、捉え方は人それぞれ。その能力をそこの水にかけてるんだ。だから飲むだけで能力にかかる。」
現実から逃げられる‥扱い方を間違えれば犯罪者にでもなっていたであろう能力だ。
「ただ、初めてその能力にかかった人は次に能力の効果を受け取っても初めと同じ逃げ方になる。初めに夢の中へ逃げたなら、次からも夢の中にしか逃げられない。そこのシェリアさんは、“夢の中へ逃げる”って捉えたみたいだね。」
「‥ちなみに、その能力の効果時間は?」
「最長でも二時間。その前に本人がもう満足って思えばもっと早く効果が切れる。今は水飲んでから一時間半くらいだから、後三十分くらいで効果切れる筈。」
「‥では、三十分だけいさせてもらi」
「ちなみにもう閉店時間だから。閉店時間を五分伸ばしてあげただけ感謝して帰ってね。」
「それ、本気ですか?」
「脅しなら聞かないよ。これから爺ちゃんの世話をしなきゃいけないんだ。何を言われようと時間は引き延ばせない。」
そう言い、少年は時計屋の元線や電気を消しに行った。僕は横にいる彼に軽くため息をついた後、所謂おんぶの形で背負った。
「居座ってすみません、帰ります。」
「あ、お気を付けて。ついでに店前の看板をopenからcloseにしてきてくれるとありがたいです。」
「‥了解です。」
「ありがとうございました〜」
店の扉を閉めて、言われた通りに看板を裏返しにした。彼を背負いなおし、事務所への道をゆっくりと歩いて行く。
♢
日が沈みかけの眩しい時間。店が多く並んだ場所を通り抜け、人通りの少ない道を歩く。背中にある重みを背負い直し、長い道のりが終わろうとしていた。
「‥ん」
その時、シェリア・ヴィクトリアが目覚めた。
「遅いお目覚めのようで。」
「あぁ‥もう帰る時間だった?ごめんねぇ背負わして。」
「‥いえ、構いません。」
「そっかぁ‥重くない?大丈夫?」
「なんて事ありません。寧ろ軽いです。」
「そりゃ嬉しいや、ありがとね。」
背中に乗る人が目覚めたのに起きあがろうとしないのは、あの少年の話で聞いた「目覚めてから少しの間は体が重くて動かない」の通りだろう。
「‥時計が随分と綺麗になって帰ってきました。あの少年は器用なのですね。」
「そうだねぇ‥彼自身はまだまだだって言ってるけど、僕は十分凄いと思うんだ。だから、少しくらい自信を持って欲しいなと思う‥」
「‥またいきましょう。」
「え?」
「仕方がないので、本二冊と引き換えにいつでもついていきます。気が向いたら自発的についていってあげましょう。」
「‥ふふっ」
「何か可笑しな事を言いましたか?」
「ううん、君がそんな風に言ってくれるなんて思わなかったや。もしかしなくても、サンガくんに何か聞いたのかな。」
「‥」
「無言は肯定ってことだよね、そっかそっか。‥いつか、君も僕達に心を開いてくれるのかな。」
「‥何故?」
「だって、君はなんだかんだ僕達に隠し事が多いじゃないか。」
「‥」
「君の本名は?君の過去は?君はどうして片目がないの?君は何をしにきたの?」
「‥」
「なんて聞いても、何一つ教えてはくれないでしょ?‥だから、今じゃなくてもいつか教えてね。教えてくれるまで、死んでも逃さないから!」
彼が背中で暴れ始める。能力の効果がなくなってきたのだろう。もう少しで事務所の距離なので背負ったまま歩く。
「‥貴方もそうですよ。」
「貴方って、僕かな?」
「えぇ‥僕と同じ、貴方も隠し事だらけ。」
「そうかなぁ?」
「では聞きましょう。何故夢の中へ逃げるのですか?何故眠れないのですか?何故ヴィスを嫌いのですか?何故、何故僕達を信じないのですか?」
「‥」
「‥貴方も、答えられないじゃないですか。」
「‥まぁ、聞かれた方の気持ちがよくわかったや。ごめんね、何度も。」
「いえ、お気になさらず。‥ですが、貴方もいつか教えてくださいね。」
「うん。」
「貴方がそれを話すまで、僕も貴方を逃しません。僕だけじゃない、他の皆も逃しません。」
「そりゃ怖いや。逃げる為にも早く話さなきゃなぁ〜!」
「何故逃げるのですか。」
「だって怖いじゃん!!死んでも一緒とかなんか嫌だよ!?」
「それは僕もです。」
「いや無理無理!!ルイシェくんの事死んでも離さないから!!」
「次は束縛強い彼女ですか。」
色々騒いでいる間に事務所に到着。彼に背中から降りてもらい、事務所の扉を開ける。
彼にも皆にも話していない事は沢山だ。これからも話すつもりはない。彼もきっと、最初から話すつもりなんかないのかもしれない。それでも少し、自分は話すつもりはないのに思ってしまう事がある。彼の過去を知りたい、と。そんな我儘を口に出すことは無いが、思う分には自由だろう。
『この命尽きるまで、ヴィスを殺し続ける。』
この気持ちは彼と僕の共通点だろう。例え死んでも、成仏出来ないくらいには強い願いだ。
彼を大切だと、そう思っているのは自分でもよくわかっている。けれど僕は最低だ。
「‥君を信じているよ。」
彼のその言葉に、聞こえないフリをした。
カクシゴトだらけの僕達は、やはり本当の意味で仲間じゃないのかもしれない。
事務所に入った途端付き合ってると勘違いされ、謎に祝われるのはまた別の話。
めっちゃ長くなりました‥(
書くのに何日かかったんでしょう、でも結構時間がかかりました。時間かかったのにこんな変な文章だらけの小説になっちゃうなんて‥(泣
ルイシェさん目線で話を進めてみましたが、ド下手で申し訳ありません‼︎
君と過ごす一週間。
ドロドロしてない小説初めて書きました(
内容おかしいかもだけど許してください(
20××年、3月7日。
私達三年生の卒業式まで残り一週間。
卒業式の練習を朝から一日中やる事になった。
そんな私はまだ教室に行けていません。
何故なら‥
「好きです先輩。俺と付き合ってください。」
名前も知らない後輩に告白されているからです。
♢
「‥ごめんなさい。時間間に合わなくなるので‥」
「分かりました。ではまた明日来ます。」
それだけ言って後輩くんは校舎の中へと戻っていったが、私はとある言葉に引っかかっていた。
「また明日??」
そう、彼は「また明日来ます」と言ったのだ。
引き上げが早かった理由は明日も来れるからという理由だろうか‥だとしても迷惑だ。明日から早めに学校に来よう。
♢
二日目。
「おはようございます先輩。俺と付き合ってください。」
「ごめんなんでいるの??」
門が空く前に来たはずなのに、既にそこにいるのは何故だろうか。学校に着いた瞬間目があったんですけど。
「先輩がいつ来てもいいように昨日も朝早くからスタンバイしてました。」
「なんかこわ」
「不快にさせてしまったなら謝ります。俺と付き合ってください。」
「ごめんなさい、私君の名前すら知らないので。」
「自己紹介してませんでしたっけ?」
「出会ってすぐ告白でしたよ。」
「では自己紹介を。」
そう言い彼はポケットから何かを取り出した。
「名前は|佐々木 海斗《ささき かいと》。|夢望《むもう》高校二年一組生徒で帰宅部所属。身長171cmで先輩の好みの身長にあっているかと。好きな食べ物はカレーヌードル、嫌いな食べ物は白滝。得意教科は社会で、苦手教科は理科。理科は先輩の得意教科なので是非教えて下さい。先輩に去年一目惚れして、その時からずっと追いかけていました。」
「ごめんストップ」
「はい」
「去年一目惚れしたの?」
「はい」
「なんで今頃告白するの?」
「する気になったので」
「遅いね」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ」
「あ、門が開く時間ですね。先生が来る時に先輩に抱きついててもいいですか。」
「駄目です」
後輩くん‥改、佐々木くんから逃げていたら門が開き、先生に変な物を見るような目で見られた事になんとも言えない感情を抱き、後輩くんを見たらもう校舎に入ろうとしていた。
「ではまた明日。」
それだけ言ってまた解散だった。
学校来てまだちょっとだけど既に帰りたい。
♢
三日目。
「先輩、俺と付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
「そうですか。」
彼の告白を断った理由は決して嫌だからではない‥いや、確かに毎日毎日嫌ではあるけれど。
私が困る理由は今彼に告白されている場所にあるのだ。なにせここは三年生の教室前廊下。同級生が大量にいる中で恥じることなく告白してきている。これは断らない訳にはいかなかった。
「ではこの薔薇一本だけでも受け取ってください。」
「まぁ‥それだけなら。」
流石に申し訳なかったので薔薇だけ受け取った。てかよく学校に持って来れたな。普通にバレそうだけど‥
「ありがとうございます。先生の没収から守り抜いてよかったです。」
やっぱり没収されかけてるんだ。
「では今日はこれで。また明日。」
彼は自分の教室に戻る階段へ向かっていった。
話す事だけ話したらすぐ帰るのは、私の迷惑を考えているのか、それともそれ以外に話すことがないのか。なぜだかわからないけど、迷惑なのに変わりはなかった。
♢
四日目。
「おはようございます、付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
彼は今日も飽きずに私に告白。
何故こんなに振っているのに告白し続けるのか逆に気になったので聞いてみることにした。
「今まで好きですしか聞いてないんだけど、私のどこが好きなの?あとどこで惚れたの?」
「お伝えしてませんでしたっけ」
「何にも聞いてないね」
「そうでしたか、ではお話ししましょう。」
そう言い彼は手帳を取り出した。
「先輩と初めて出会ったのは去年の4月19日8時18分、入学式前に体育館の扉前でお話ししました。」
「ストップストップ」
「はい」
「なんでそんな細かく覚えてるの?」
「手帳に記録しました。今までこんなに心臓が痛くなることはなかったので‥」
「そ、そっか‥」
「まぁ恋じゃなくて病気だったんですけど」
「は!?」
話を聞けば、彼はもう直ぐ死ぬらしい。
残り一週間と、そう医者から言われたらしい。
「あでも一週間前って言われたの、先輩に告白される前日のことだったので丁度卒業式の日に死ぬ予定です。」
「嫌だなそれ」
「死体になっても応援してます」
「なんか嫌だよ」
そんな会話をしていたら予鈴がなり、また明日で解散となった。
もうすぐ死ぬ人間と一緒にいるの嫌だな。
♢
五日目。
「おはようございます。付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
「一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「俺のどこがそんなに駄目なんでしょうか。」
「もうすぐ死ぬところとか」
「どうしようもないですね」
「だから諦めてください」
「それは無理です」
「なんで?」
「最期だから付き合いたいと思ってるんです。俺このままじゃ未練たらたらで先輩に取り憑いちゃいますよ。」
「やめてほしいな」
「じゃあ付き合ってください」
「ごめんなさい」
彼は先生に呼ばれてどこかへ行ってしまった。
明日は土曜日。卒業式は日曜日。
彼が死ぬのも日曜日。‥まぁ、
「私には関係ないことだけど。」
♢
六日目。
「こんにちわ先輩。俺と付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
「寂しいですね」
「でもごめんなさい」
「振られて寂しいです。でもそれが先輩ですよね。」
「どういうこと?」
「俺が惚れた先輩も、誰とも付き合おうとしない先輩でしたから。最期まで振り向いてくれないのは初めから分かっていました。」
そう彼は表情を動かさないで喋る。
初めて会った時から思っていたけど、佐々木くんは無表情すぎてロボットのようだ。ロボットはこんなしつこく告白しにこないと思うけど。
「その通り。私誰とも付き合う気ないから。」
「ですよね。じゃあ、今日は薔薇を三本プレゼントします。」
「前もくれたよね薔薇。」
「前渡したのとは別で扱ってくれると嬉しいです。花瓶も別々で。」
「なんでよ」
「先輩が自力で答えに辿り着いてください」
「えぇ‥なんか調べたら出てくるわけ?」
「はい。でも明日まで調べないでください。また明日告白しに来ますので。」
「‥まぁ、わかったよ。」
「では、また明日。」
佐々木くんから手渡された二本の薔薇を見つめる。本数に意味があるんだろうけど、生憎私はそういうのに疎い。調べなきゃその意味に気づけないが、明日まで調べないと言ってしまった以上調べるわけにはいかない。きっと調べてもバレないんだろうけど、自分でなんか許せなくなりそうだから調べないのだ。
綺麗な薔薇だし、部屋の雰囲気良くなるから少しありがたいかも。佐々木くんには感謝かな。
「ちょっと|羽咲《はざき》さん!その手に持ってる薔薇はなんですか!」
やっぱり佐々木くんに感謝することなんてない。
♢
七日目。卒業式本番の日。
「ちょっと|美都《みと》〜、一緒に卒業写真撮ろ〜!」
「うん、今行く。」
結局、卒業式前も卒業式中も卒業式後も佐々木くんは来なかった。私のスマホに着信が来ることもなかった。私の目の前に、その姿はなかった。
「美都顔硬すぎ〜!(笑リラックスしてよ〜!」
「ごめんごめん、はいチーズ」
「‥よっし!ありがとね美都〜!」
「うん。‥私、もう卒業しちゃったのか。」
なんだかよくわからない。
今までずっと卒業したかったけど、何だか急に卒業したくなくなってきた。もうこの学校に登校することはないと、そう思ってしまったから?
‥それから少し待ってたけど、佐々木くんは現れなかった。いなくなってくれてありがたい。もう二度と会う事もないし、二度と話すこともない。毎日告白されるあの地獄からやっと解放される。
なのに、
「先輩。」
どうして会っちゃったのかなぁ。
「死体で祝ってくれるんじゃなかったの?」
「やっぱその姿を目に納めてから死にたいと思ったので、最後の力を振り絞って会いに来ました。」
「てか、本当に死ぬの?元気に見えるんだけど。」
「まぁその内死ぬんじゃないんですかね。」
「いつも他人事みたいに話すけど、死ぬのが怖くないの?」
「えぇまぁ。人間いつしか死にますし。俺の場合、ちょっとそれが早かっただけなので。」
「ちょっとじゃないと思うけど。後悔とかはないの?この世界に留まりたいって思うようなやつ。」
「二つだけあります。」
「一つは想像つくけど、もう一つは何?」
「昨日の続き、薔薇を渡したいです。」
「また薔薇?」
「はい」
「‥今回は何本?」
「四本です。昨日と同じように、今までのと別々で管理してください。本数に意味があるので。」
「やっぱそうだよね。」
「はい。ではどうぞ。」
「‥ありがとう。で、もう一つは?」
「先輩と付き合いたいです。」
「やっぱそうだよね」
「でも、『コイツもうすぐ死ぬから付き合ってやるか』とか考えないでください。」
「なんでよ」
「俺は先輩を振り向かせて付き合いたかったんです。先輩は俺の事好きじゃないのに、それで付き合ったら死んでも取り憑いちゃいます。」
「やだね」
「ですよね。でも俺死んでも取り憑いちゃうくらいには先輩が好きなので、どっちみち取り憑きます。」
「それも嫌だな」
「だから今まで通り振ってください。」
「‥」
「好きです先輩、俺と付き合ってください。」
元々YESなんて言う気なかったし、言われなくても振るつもりだったんだけど。佐々木くんがそれを望むなら始めと同じように振ってあげる。
「ごめんなさい。もう帰らなきゃなので。」
「そうですか、では‥」
佐々木くんは今までと変わらない無表情で、今までと同じ言葉を言う。
「また明日。」
私は貰った薔薇を握り締め、今まで何気に言った事がなかった言葉を言う。
「‥また明日。」
また明日、会えたら会いましょう。
♢
3月15日9時25分。
卒業生は今までの振り返りで高校に来ていた。
一年生と二年生は自分の階でいつもと変わらず授業中。私達は元三年生の教室で、元自分の席に座りながら元担任の話を聞いていた。
なんにでも「元」がつくのは少し寂しいかもしれない。小学校や保育園のことも「元」がつくのに、この学校での事に「元」がつくのはなんだか嫌だった。
今までと同じように二時間目の後、少しの休み時間があった。私達が来たのは二時間目の初めからだから一時間目みたいなところもある。一二年生に合わせると、三時間目まで話を聞いて帰宅。
一二年生も休み時間になったはずなのに、休み時間の度に感じていた騒がしさが隣になかった。
「美都?外ばっか見てどうしたの?」
「‥ううん、なんでもない。」
どうせ死ぬなら会いたくなかった。
これは恋じゃない、恋してた訳じゃない。
悲しくなる恋なんてしたくないから。
また会えるんじゃないかって思ってた。何か奇跡でも起こって、また学校で会えるんじゃないかって。結局、会えなかったけど。
君は出会った時からずっと、私に取り憑いちゃうくらい、私の事好きなんでしょ。
なら、この言葉も聞こえてるはず。
「君の事が、ちょっとだけ好きだったよ。」
疑いたくなるほど真っ直ぐな君が、
少しだけ好きだったよ。
ハーデンベルギアが散った。
※これは「廃工場のビスクドール」と言うSui様の自主企画に参加したメアリーとルークの小説です。
※設定には書いていない事が山盛りです。
「‥」
ただ一人、太陽の照り輝く庭で考え事をしていた。白い髪が揺れているのが視界に入ってきて少し邪魔だ。揺れる椅子‥ロッキングチェアと言うものに座っているのだから揺れるのは当たり前だけど、それでも何とかして邪魔にならないようには出来ないのだろうか。まだ伸ばしていたいし‥
「‥伸ばしていたい理由って?」
私にはそれがよくわからなかった。
メアリーと言う人形として生まれた時からずっと長いままだった髪。前から邪魔だと思っていたし、いつでも切ろうと思えば切れたのに何故かずっと切らずにいた。
伸ばしていたのは、あの人の言葉を聞いたから。
♢
「この髪邪魔ね‥__いっそ切ろうかしら‥__」
「‥メアリー。」
「わっ、ルークじゃない!どうかしたの?」
「その髪、切るの?」
「え?‥うーん、それで今悩んでるのよね。邪魔だからルークみたいに短く切ってもいいんだけど、でも折角作ってくれたんだからそう簡単に切るのも申し訳ないなぁって。」
「‥ボクは切らない方がいいと思うよ。」
「どうして?」
「さぁ、どうしてだろう。」
「なによそれ!また秘密にするの!?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ‥メアリーは髪が長い方が似合ってると思った。本当それだけなんだけど、理由としては不十分かなと思ったから伏せただけ。」
「いや、その理由は不十分なんかじゃない!凄い嬉しい!私ってやっぱり髪長い方が似合う!?」
嬉しすぎてルークの手を握ってしまった。ルークが驚いた顔をしている。そりゃそっか。
「え、あぁ、似合うんじゃないかな。少なくてもボクはそう思うよ。」
「なら伸ばしたままにしとく!」
「ボクの意見で決めてよかったの?自分自身の意見が大事だと思うけど。」
「自分じゃ決められなかったの!だからルークの意見にすっごく助かった!」
「‥ならいいけど。それより手離して。」
「あ、ごめんなさい!」
ルークが私の為にと少し埃を掃いてくれた部屋で、二人しか知らない会話をした。私達以外来ない部屋で、二人きり。態々誰かに話す事ような特別な思い出ではないけれど、確かに私の心に残る大切な思い出。これが、この髪を切らずに過ごし続けた理由だから。
♢
「‥」
ロッキングチェアから立ち、少し離れた位置にいる人形に声をかける。確か名前をルオナと言ったはず。
「こんにちはルオナ。少しいいかしら?」
「どうかしたのメアリー?」
彼女は動物と戯れながら会話に応じてくれた。
「少し探している物があるの。それを工場内で見た事があるかを聞きたくってね。」
「いいよ!探してる物ってなに?」
「あのね‥」
ルオナに聞いてみたら、見た事があるらしい。なら壊れてるかもだけどまだ瓦礫の下にあるだろうと思い、私はルオナに感謝をしてから工場があった場所へと向かった。
♢
「‥この瓦礫全部の下を探すのは大変ね‥」
あの工場自体少し広めだったから、瓦礫が広がればもっと広くなるわけで。その下全部探して《《あれ》》を見つけるのは大変だ。探すのは諦めよう。そう思って引き返した。
「‥いや、これは私のケジメをつける為に大事な事よ。例え何ヶ月かかっても探し出してやるわ!」
私は瓦礫に手をかけて一つ一つどかし始める。
何千時間とかかる作業だけど、途中でやっぱり諦めようと思うまで続けてみようと思った。ルークの為‥いや、私の為にやるべき事だから。
♢
「‥もう駄目、やる気が起きない。」
何時間かして朝日が真上に登った頃。私は一人瓦礫の上で手をついて倒れていた。瓦礫の山の中から探し物を見つけるなんて無謀すぎたのよ。もはや誰かに持ってるか聞いた方が早い気がしてきたの。
「‥そうよ、誰かに聞いてみればいいじゃない!」
瓦礫から離れて花が咲いている庭へと走ろうとした時、太陽に照らされて何かが光ったのが見えた。私は走ろうとした足を止めて、光った場所へと歩いて行った。
「‥鏡?」
そこにはキラリと輝く鏡があった。少し壊れていたけど、まだ全然使えそうな鏡。折角なら貰っていこうと手に持って、また走り出した。
結論から言おう。
とある人形が私の探していた物を持っていた。
私はそれと鏡を持って集まりの離れに座り込んだ。瓦礫の上に鏡を置き、自分が写っている事を確認してからそれを持ち、髪に手を通した。
「‥ありがとう、ルーク。」
ジャキン。
風の音を切り裂くような音が私の耳に届いた。
地面に白い髪の毛が散らばった。頭のてっぺんから髪に指を通し、下ろしていく。それは、いつもよりずっと短い位置で髪が終わった。それから鏡の中に映る自分を見つめる。
私の髪は、ルークのように肩までになった。
♢
「メアリー、髪どうしたの!?」
皆にそう驚かれた。まぁ、一人にだけ微妙な反応をされたけれど。私はそんなの気にしない。私はただ、この気持ちにケジメを付けたかっただけだから。初めから全員から似合うと言われるなんて思っていない。
「少し邪魔になったの、この髪が。」
皆にそう話した。邪魔だったのは本当。前から動くときに少し邪魔だと思っていたから。短い髪の方が何かと気楽そうだったのよね。
「‥貴方は、この髪を似合うと言ってくれる?」
空を見上げながら、そう呟く。本当の彼は空ではなく、瓦礫の下にいるのだけれど。魂くらいは天国という場所にでも行けたのかな、と思う事は決して悪い事ではないだろう。きっと貴方は、私がどんな髪型でも似合うと言ってくれるのでしょう。それでもいいの。私、貴方ともう一度話がしたい。
「貴方と、一度思い出話でもしたいわ。」
本で読んでから密かに憧れていた事、思い出話。何もかも落ち着いてから、昔あんな事があったな〜、あれは面白かったな〜って話す予定だった。貴方も絶対生き残ると思っていたから。
少しだけ、私一人生き残るのなら貴方と死んだ方が良かったかもとか、少し思ってるの。
「でも駄目よね。折角貴方が残してくれた命だもの。‥人形も命でいいのかな?」
自分の関節にある、人間にはない繋ぎ目を見つめた。私は人形、私を作った人は人間。私が人間になる事はできない。たまに少しだけ、人間になりたいと思う。人間にしか出来ない事があるのは羨ましいし。貴方を作る事が出来るのも人間だけ。作れたのなら、どれだけ嬉しい事だろう。
叶わない夢を見るのは駄目な事?希望を持つのは駄目な事?過去を振り返るのは駄目な事?
貴方との思い出を思い出すのは、駄目な事?
♢
「‥また図鑑を持ってきたのかい?」
「えぇ!今度は『花言葉図鑑2』!」
「この前と内容が変わっただけじゃないか。」
「だから一緒に読むんでしょう?さ、またお互いに似合う花を探しましょう!」
「全く、面倒だなぁ‥」
「いいじゃないちょっとくらい!」
「‥フリージアのページしか残ってないようだけど?」
「え?あ、本当じゃない!嘘、このページ以外全部千切られてるとかあり得るの‥!?」
「あり得ちゃったね。」
「えぇ‥じゃあもう読むの諦めようかしら‥」
「フリージアだけでも読めばいいんじゃないの?いい花言葉があるし。」
「そう?‥んー、これしかないんだったら私と貴方の選んだ花が一緒になっちゃうかもしれないわね‥それはつまらないわ!」
「いいじゃん、被ったら被ったで笑い話になるよ。」
「‥ならいいの!ルークがいいなら私もいい!」
「なにその考え‥」
「いいじゃない気にしないで!んー、私は紫色のフリージアをルークにあげる!」
「花言葉は《《憧れ》》、ね。僕に憧れ?」
「私が貴方に憧れているという意味よ!いつも冷静なところとか、優しいところとか!」
「へぇ‥なんか嬉しいね。」
「でしょう!」
「ならボクは‥ピンクのフリージアをメアリーにあげる。」
「花言葉は‥《《親愛の情、友情、感謝》》‥?私に、ルークが?」
「ボクらはペアで作られた人形だ。親愛の情とか友情ってのはそこから。感謝は‥内緒。」
「え!?ど、どうして!?」
「なんでも。どうしてかなんて、そんなの渡す時に言えばいい。」
「それはそうだけれど‥なんか気になるじゃない!楽しみな事が増えるけど、それまで待つのが大変だわ!」
「それでも待っててよ。とびきりのサプライズを君にしてあげるから。」
「まぁ!この前読んだ恋愛小説みたいな事言うのね!」
「なにそれ、口説いてるって事?」
「クドイテルって言うのは分からないけれど、多分そう!」
「‥__恥ずかし。__」
「何、どうしたのルーク!去ろうとしないで!」
「無理。」
「どうしたのよルーク‥」
結局、その日ルークと会う事はなかった。
次の日会った時は何も無かったかのように接してきたから私も何も無かったように接した。
今では貴方がどうしていなくなろうとしたのかよくわかるわ。私はそう思わないけど、貴方はそう思ってしまう性格だから、ただ恥ずかしかっただけなのよね。多分、そうなんでしょう。
♢
「‥沢山の思い出があるわね、貴方と私。」
風で靡く髪を抑えながら瓦礫の山を見る。いつの間にか空は日が落ち始めていた。
リーヴァと出会って、他の皆と楽しい事だけじゃない思い出を作って、工場は壊れて‥貴方もいなくなってしまって。
貴方との新しい思い出がこれから増える事はないし、思い出の物も無くなってしまった。私の心に残っている思い出以外、貴方との関係を示すものがなくなってしまった。私がこれを忘れてしまったなら、貴方を覚えてる人はいなくなってしまうかもしれない。貴方から離れられないの、私。昔の思い出がギュッと心を締め付けて、悲しみでいっぱいになる。
私は、ルークがいなくなった事にいつまでも悲しんで、そこでずっと立ち止まってしまっている。リーヴァ達はずっと先にいるのに、私一人だけ壊れた工場から離れられていない。でも、そんなのは駄目だと、きっとルークは言うだろう。ルークはなによりも私の事を大事に思ってくれていたから、自分のせいで私が動けなくなっていたら無理にでも忘れさせようとするはず。私は貴方を忘れたくないのに、進む時が貴方を忘れさせようとしてくる。
髪を切ったのは、貴方を忘れない為。
どうして髪を切ったのか、貴方を忘れそうになった時に思い出せば貴方を忘れずにいられると思ったの。今の私と同じように髪が短くて、何よりも私を大事に思ってて、私とそっくりなお人形がいた事を、ずっと忘れずにいられると。
貴方のいない世界で、今日もまた生きている。
貴方が皆の記憶から消えてしまっても、私は記憶から消さない。何があっても、壊れるまで一緒。
いつか私達を拾ってくれる人に出会えたら、その時は貴方の話をするの。私にはペアの人形がいた事、その人形はとても、優しかった事を。
貴方は私を好きだった。私も貴方が好きだった。
瓦礫の山に向かって声をかける。
「また何処かで会えたら、その時は声をかけてね。」
私は瓦礫の山から離れて、皆のいる庭へと歩く。
きっともう、ここには戻らない。
今の私は、貴方がいない世界で生きれるから。
私の大切な人。
お疲れ様、また会う日までゆっくり休んでね。
輝く夕日の下で、ハナニラが散っていた。
ハナニラの花言葉
「悲しい別れ」
「卑劣」
「愛しい人」
「耐える愛」
「星に願いを」
「恨み」
この話の中で意味があるのは「悲しい別れ」「耐える愛」です‼︎それ以外はあんま気にしないでください(
この人生はつまらない。
このテキストライブで書いていた小説です‼︎
少し追加したり消したりしています‼︎
昔からサッカーが好きだった。
ゴールを決めた時の皆の笑顔も好きだった。
自分の努力が認められるのが嬉しかった。
お前はここにいるべきなんだって言われてるような気分になれて凄く幸せだった。
俺が輝けるのはここだけなんだって、そう思ってた。
相棒とやるサッカーが一番楽しかった。
俺の駄目な所を補うようにプレイしてくれて、二人揃ってなきゃプレイが上手く出来ないと感じる程、アイツに助けられていた。
俺は、アイツと一緒にいるのがサッカーと同じくらい好きだったんだ。
だから、俺の人生全部捧げてでもサッカーを続けたかった。
アイツとまだサッカーを続けていたかった。
目から勝手に涙が出る。俺の手は太腿を撫でて、その先にあったはずの足を撫でる。
「俺の足、返してくれよ‥ッ!」
両足がなくなってしまった今、俺は何を生き甲斐にすればいいのだろうか。
♢
二日間の合宿の後、俺は家に帰ろうとしていた。
横断歩道で信号が青になるのを待ちながら、LINEで親に「もうそろ帰る」と連絡してポケットにスマホを仕舞った。
合宿で使っていたキャリーケースを左手に持ち、マフラーで口元を隠した。少しずつ雪が降ってきていて綺麗だが、寒いので勘弁して欲しい。
歩行者信号が青く光り、キャリーケースを持ち直して横断歩道を渡る。
渡っている途中でポケットからスマホが落ちてしまい、それを拾ってまた歩き出そうとした。
街灯に照らされているから影なんて自分の以外出来るはずがない。なのに俺の影に被さるように大きな影がかかった。
振り返ればそこには、俺目掛けて突っ込んでくるトラックがいた。俺はそのトラックから逃げられずにぶつかり、吹っ飛ばされた。
頭がボーとしていく感覚の中、遠くに飛ばされたキャリーケースがグシャリと歪んでいる事がこの事故の酷さを物語っていた。
運転手が慌てて降りてきてこっちに駆け寄ってくる。まわりにいた人達も警察に通報するなり救急車を呼ぶなりしていた。
轢かれた俺はというと、もうほとんど死にかけだった。考えなんてまとまらないし、耳も聞こえないし、視界も段々暗くなってきたし。
多分、これが死ぬって事なんだろうな〜と呑気に考えていた。
死ぬのが怖い、とかじゃない。サッカーが出来なくなる事が怖いんだ。死んでもサッカーが出来ればよかったんだけど。
この時の俺はきっとまた、生きてればまたサッカーが出来ると思っていた。
足の感覚がもうない事に気付かないふりをして。
♢
病室のベットの上で、ただ天井を眺める。
テレビをつける気にもなれなかった。何かをする気力が湧かないんだ。足がなくなったから、何処かへ散歩をしにいくとかも出来ない。なんて言ったらいいのか分からないけど、暇じゃないけど暇って事。
俺は今、何をしたらいいんだろう。
義足をつけてもう一度サッカーをする?
そんなの、俺の好きなサッカーじゃない。
芝生をかけるあの音が、あの感覚が好きなんだ。
「‥どうしたらいいんだろうな。」
相棒と撮った試合後の写真を眺める。俺も相棒も、どちらも笑っていて幸せそうだ。‥今の俺とは正反対だけど。あんなに大切だった友人が、今では何だか憎らしい。
俺はもうサッカーを出来ないのに、アイツはサッカーを続けていられる。俺の事なんか気にしないで、周りに合わせたプレイができる。
「‥俺と同じ目に会えばいいのに。」
いっそアイツも両足を無くしてしまえ。
サッカーを出来ない体になってしまえ。
そんな事を思ってしまう俺は、誰よりも最低だ。
目から涙が出てくる。止められない、何で泣いてるのかもわからない。俺は何がしたいんだろう。
扉を叩く音が聞こえて、音の少し後に扉が開く。
入ってきたのはいつもの看護師。また「調子はどうですか」とか聞くだけだろう。
「羽澄さん、調子はどうですか?」
やっぱり。
「‥いつもと変わりません。」
「そうですか。では、何かあったら呼んでくださいね。」
そう言って戻って行く看護師。すぐ帰るくらいなら来なくていいんだけど。どうせ俺の気持ちなんか、誰にもわかりゃしない。
“羽澄由士”。
両親が「自由な人生を歩めるように」と名付けてくれた名前だ。今の俺は自由でも何でもないけれど。
相棒の名前は“百田元輝”。
「周りの人を明るく照らして元気にする」という意味があるらしい。きっと少し前の俺は、元輝に影響されて幸せだったんだろうな。
今は、元輝が眩しすぎて憎くなってしまった。
ずっと友達だったのに。相棒だったのに。
なのに今では殺ししまいたい程憎らしい。
俺は最低な奴だ。足がなくなったのはアイツのせいじゃない。横断歩道に突っ込んできたトラックが悪いんだ。
なのに俺は、俺はこんな自分が大嫌いだ。
自分で自分が大嫌いだって思ってる。
アイツは、元輝はなんにも悪くない。
そう分かってるのに、元輝を羨ましく思ってしまう。サッカーを続けられていて、幸せに生きていられて羨ましい。
俺が出来なくなった事を続けられていて羨ましい。
この絶望感は誰にもわからない。
今まで当たり前だった事が突然出来なくなって、その当たり前を続けていられる人を見るしか出来なくなった時の絶望は、きっと誰にも伝わらない。
見ているのが辛くて死にたくなる。
この足が戻らないのなら、死んでしまいたい。
誰かいっそ、俺を殺してくれ。
♢
入院してから暫くたった時、やっとテレビをつける気になった。なんでかはわからない。でもきっと、アイツが見舞いに来た日に全部壊れたんだろう。
あの日、サッカーチームの状況やこれからの試合の話をしにきたアイツに腹が立った。
「俺な、次の試合も出れることになったんだ!お前と二人で試合に出られないのは少し悲しいけど、新しいペアの奴もめっちゃ上手くてさ〜!」
何それ、俺の代わりが見つかったから俺はもうどうでもいいわけ?普通、サッカー出来なくなった奴に向かってサッカーの話する?頭おかしいんじゃないの。
「だから俺、ソイツと試合に出て優勝するから見といて___」
俺はソイツが話してる途中でソイツに向かって枕を投げた。ソイツの言葉が止まり、病室から音が消える。
「お前、いきなりどうした?俺なんか言ったか?」
ソイツは俺の投げた枕を拾い上げて、俺のベットの上に置き直した。こんな時までウザいと思ってしまう俺はもう末期だろう。
「でてけよ。」
「は?」
「いいから出てけよ!!」
戻された枕をまたソイツに向かって思い切り投げる。サイドテーブルに置かれた、見舞い用に持ってきていたレジ袋を床にはたき落とし、中身が出ていた。リモコンも投げて、手の届く場所にある投げられる物を全部ソイツに投げた。
「黙れよ!!サッカー出来なくなった奴にサッカーの話するかよ普通!!馬鹿じゃねぇのお前!」
「由士?一旦落ち着けってお前、」
「黙れ黙れ黙れ!!さっさと出ていけよ!!」
物を投げた音と俺の怒鳴り声、それが病室の外まで聞こえていたんだろう。看護師が中へ入ってきて、元輝に外へ出るよう話をしていた。
「由士‥、」
ソイツは眉を下げて、悲しいような意味がわからないような顔をしながら俺を見た。その“普通とは違う人間”を見る目に腹が立った。
「二度と俺の前にその姿見せんな、裏切り者が‥ッ!!」
ソイツは酷く傷ついた目をしていた。
お前よりもずっと、俺が一番傷ついてるよ。
何故だか涙が止まらない。
♢
テレビをつけたら、丁度スポーツ番組だった。
今はサッカーの試合が終わったところのようだ。少し前の俺がこれを見たら、腹が立ってテレビを壊していたかもしれない。そこまでするかはわからないけど。だけど今の俺はなんにも思わずにそれを見ていた。凄いな〜ともこうなりたかったな〜とも思わなかった。
試合で活躍した選手へのインタビューシーンになった。リアルタイムで放送されているやつらしく、このテレビに映っている映像は遠く離れた場所で撮っている映像と同じ瞬間らしい。
インタビュアーの人が選手の元へ近づき、マイクを近づけた。他のテレビ局もマイクやカメラを近づけていて画面が騒がしい。
「‥では、一つ質問いいでしょうか?」
「はい、なんでもどうぞ。」
「試合で素敵な活躍をされていた“百田”選手ですが、今回こんなに頑張っていた理由というものはあるのでしょうか?」
「そうですね‥俺、少し前まで一緒にペアで試合に出ていた奴がいるんですけど、ソイツ事故って入院してしまいまして。その後に喧嘩もしてしまったし。だからこの試合を頑張って勝てたら、またその病院に行って謝ろうと___」
俺はリモコンを操作し、テレビの電源を消した。
テレビに映る人物に腹が立ったのではない。
インタビューの何かに腹が立ったわけでもない。
ただなんとなく、なんとなくだ。
なんとなく消したくなったんだ。
サッカーの事マジでなんにも知らないので知識間違ってたらすみません‼︎