気まぐれで書いた作品をまとめています。
概要等はあらすじから。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
幽霊になりたかった。
そっと教室のドアを開ける。
がらんがらんと鳴るその音の方へ誰も耳を貸さず、見られていない筈なのに、何故か視線とプレッシャーをぐいぐい感じる。
いつもの様に机に荷物を置き、いつもの様に授業の準備をして、いつもの様に机にハグを交わす。
いつもしていることなのに、今日はめっぽう特別に感じた。
何故なら今日は、"決心"がついたからだ。
誰にも邪魔されないし、邪魔する人はそもそもいない。
青い空の下は、いつもより明るく見えた。
昼頃になって、弁当箱を開いた。
徒歩通学で、しかも家から学校の距離はとても短いので、普段はぐちゃぐちゃになることはあまりない。
しかし、今日はのんびり歩いてきた筈なのに、私が遅刻をして全力で走ったのかの様に、酷くぐちゃぐちゃになっている。
…というか、誰かに掘り返された後すら見える。あからさまに。
「クスクス…かわいそー。」
「犬のエサみたい。」
いつもからかってくるギャル達の小さくて甲高い声が耳に通る。
やったのはこいつらで間違いない様だった。
でも、胃袋の中に入って、しっかり消化さえできれば、それは立派な食べ物だ。
たとえ犬のエサであっても、見栄えが悪いからと言って蔑ろにしたり、捨てるのは論外な気がする。
私は一気に弁当をかき込んで、あまり噛まずに飲み込んだ。
そんな様子の私を見て、あいつらは随分とご満悦の様だった。
しかし、そんなのも今日で終わりだ。
次の|おもちゃ《被害者》をこのクラスで探す手間があいつらにはできてしまうだろうけど、大切な時間を取られるのはいささか可哀想だとは思う。
…私にとっては、とても美味しい話だが。
ところで、弁当がぐちゃぐちゃになっていたお陰で、箸で取りやすかったし、噛まなくてもそのまま飲み込むことができた。
将来彼女たちは、いい人になれるだろう。
---
「性悪女〜!」
「こもってないで出ておいでー。」
トイレ中、あのギャル達の声が聞こえた。
ドンドンと音が聞こえるが、私の前のドアは揺れていない。
どうやら、別の子がいじめられている様だった。
隣からは微かに泣くのを頑張って堪えている声が聞こえた。
だけどそんな子に構っている場合ではない。
そそくさとギャル達の合間を縫いはって、手を洗って後にした。
出口に置いてあったカバンを取って、私は屋上へと向かった。
向かっている途中に、バケツの水がひっくり返った様な音が聞こえたが、気のせいだろうか。
コツコツと階段を上がっていると、途中で立ち入り禁止のマークが飾られた札を見つけた。
だけど私の目的はその向こうにあるので、無視してそのまま登った。
階段を登り切った先は、一つのドアを見つけた。開けようとしても、鍵がかかっていた。
何度も何度もこじ開けようと、ドアは開いてくれなかった。
ピキッ…。
強化ガラスは全体的にかかる力には強いけど、一点に集中した力には、僅かであっても耐えられない。
カバンの中に仕込んでおいたクギを押し込む様に当てれば十分だった。
ガラスを押し外して、出来た出口に体を伸ばした。
どすっと体を屋上に寄せた。
暖かい夕焼けが辺りを照らしていた。
風がヒューとなびいて、下を見ると"死んでしまいそうな"ほど高かった。
誰の目に当たらない体育館の裏側にちょうど落っこちれる様に方角を見て、私は裸足になって、髪を解いて、フェンスの前に立った。
ここまできたのに、何故か足がすくんで前に乗り出せなくなってしまった。
きっと自分は寂しかったのだろうと、ただひとりでに、ぼそっとつぶやいた。
「いってきます。」
そっと前に、もたれかかった。
何も受け止める物はない。
ただ緩やかに、だけど急足の様に早く落っこちた。
いつのまにか地面とねんねしていて、目の前には赤く染まった光り輝く海ができていた。
体のあちこちはチクチク傷んで、体は動かないのに、じわじわと押しつぶされてゆく感覚がする。
だけどもう時期、眠ってしまいそうだった。
赤子の様に、私はそっと瞼を閉じた。
ララちゃん
私には少し変わったトモダチがいた。
名前はララちゃん。
可愛くて、おしゃべりが大好きな女の子。
私は、その子のことが可愛らしいと思ったんだ。
「今日、いっしょにかえろー!」
ララちゃんはそう言うと、私の前に出た。
キラキラした笑顔が、バッグの夕焼けよりも輝いて見える。
「うん。帰ろ。」
そんなララちゃんの好意には、いつも一人でいる私にとっては、とても断ることなどできないものだった。
ララちゃんは私の左に並んで、私の方をじっと見つめて話し始めた。
「今日さ、体育があったんだけどね!とびばことんだらさ、みんなにウケたの!」
ララちゃんは嬉しそうに語る。
ララちゃんはもともと体が丈夫ではなく、むしろ運動は苦手な方だ…と思う。
中学から知り合ったばかりだから、偏見でものを言うのは違うね。でも、そう思うのも無理はなかった。
ララちゃんはかなり痩せてて、ぶつかったら骨が折れてしまうのでは、と言うほどに細かった。
夕焼けがララちゃんの髪の毛を、ちりちり焼いているようにまぶしく見えた。
そうなんだ…と言う前に、ララちゃんはまた続けて話した。
「それでね、こんどさ、家族でドライブに行くことになってさ!」
ララちゃんはまたウキウキしたように少し違う話をする。
「へー。どこ行くの?」
すかさず私がそう聞くと、ララちゃんは答えた。
「ボウリング!あとねあとね、美術の時間でさー!」
また違う話だ。
それでもララちゃんは間を縫うように話し始める……。
いつのまにか私は、彼女と話す時間も、会う機会もなくなってました。
と言うのも、彼女と会ったら、またあのツギハギだらけの話をずぅーっとされるかと思ってしまったから。
会うだけで緊張するようになってしまった。
会うだけでだるけがするようになってしまった。
…でも、自分の勝手な理由だけで切り離してあの子と無理に離れたことは良かったのでしょうか。
私は、一体どうすれば良かったのでしょうか。
ガレキレガ
「ハカセ、太陽とは何ですか?」
人工的な薄い光しか無い暗い実験室にて、実験机に前鏡に座って、メガネをかけた中年の薄毛の男にロボットは話しかけた。
部屋の床にはガラスの破片や、実験に失敗したのだろうか、液体が溢れたような形で変色しているところもあった。
ロボットにハカセと呼ばれた男は、ロボットの方を振り向きもせず、ただノートに何かを書きながら、ロボットに対し答えた。
「うんとまぶしくて、手には届かないほど高いところにあるモノだ。」
ボールペンで書いている音がしゃーしゃーと聞こえてくる。ロボットは返事をした。
「手には届かないと言うと、どこにあるモノですか?私がハカセより大きくなれば、届くモノなのですか?」
ロボットはまるで子供みたいに質問をした。
男はまたロボットに答える。
「お前が俺よりデカくなっても届かない。そもそも空よりも高いところにある。メラメラと燃えてるんだ、たとえ触れる機会があっても、すぐにスクラップになれる。」
淡々と話す男に、ロボットはまたもや質問をした。
「なぜですか?なぜ燃えているんですか?空の上は宇宙と聞いています。宇宙には酸素が無いはずです。そもそもこの地球も…」
ロボットが質問をしている最中に、男は呆れたようにため息をつき、こう言った。
「私はそこまではわからない。…お前は人に聞くんじゃなくて、自分で調べたりしたらどうだ?」
そう言われたロボットは、何も言わずに男の方から遠ざかっていった。
「そういや、ここに閉じ込められてもう数ヶ月ほどか…いつになったら、お天道様を拝められるのかね。」
男のノートは、もうすでにヨレヨレになって、ページも僅かとなっていた。
時間もわからないままここで暮らし、過ぎてゆく時に、男はただひとり恐怖を感じていた。
「あなたは、話さないのですか?」
もうびくともしない座っている人にロボットは話しかけた。だが、その人は触っても動かないし、挙句には微かな呼吸の音すらも感じられなかった。
「あいつはもう死んでるよ。いくら話しかけても無駄だ。」
ハカセと呼ばれる男がロボットに話しかけると、ロボットはまた不思議そうに言った。
「死んでる…と言うことは、生命活動を停止したと言うことですか?ですがなぜ?この人は活動に十分なエネルギーをとってましたし、それに、私によく…」
ロボットはまた話し始めると、男は言った。
「とにかく死んでる。人はずっとこういう場所に閉じ込められるとおかしくなって死ぬ。そいつは、お前がスリープしてる時に暴れて頭をぶつけて死んだんだ。」
男の回答を得て、ロボットはまた言った。
「人は、こういう場所にいると死んでしまうのですね。ハカセは大丈夫ですか?」
男はロボットの言ったことに、少し驚いたような顔をして、またロボットに答えた。
「俺は大丈夫だ。自慢じゃ無いがこういう場所は慣れてたからな。」
いつもの抑揚のない声で男は答えた。
「ですがいつかハカセも死んでしまうのですよね、私はハカセといっしょに太陽というモノを見に行きたいです。」
「見にいけりゃあな。」
男が答えると、ロボットはまたどこかに行き、実験室をうろうろ徘徊した。
男は昨日のようにノートにも向かわず、ただ明後日の方を見つめていた。
壁にびっしりとついた黒ずみやカビの数々、適切な環境で保管できない故に、ハエがたかった薬品が、嫌というほど視界に入ってくる。
毎日こんな調子で、ご飯の支給でさえ人に会えず、しかも何も変わらず栄養しか取れないご飯を食べ続けることをすれば、あいつのように死んでしまってもおかしくないと、男は考えた。
…考えてしまったのだ。
「ハカセ、今日は実験をしないのですか?」
ロボットは男に対して聞いた。
だけどそれはどこか不思議そうで、男を心配しているようにも見えた。
「しない。飽きたからな。」
男がそう答えると、ロボットはまた言った。
「それならば、暇つぶしはどうでしょう。私、集中力が継続しない時は、軽く何か違うことをすればいいと調べておきました。例えば…」
ロボットの長くなった話にも割り込むこともなく、男はただ黙々と聞き続けた。
時々、ロボットの声の間に入る不自然な揺らぎがあっても、それでも人の子供みたいに話し続けた。
「どうですかハカセ。私、ちゃんと調べました。」
ロボットは男の方を向いて、子供みたいに無垢に話していた。それは何処か、男から褒められることを期待している様にも見えた。
「あぁ。ちゃんと調べられてる…。えらいぞ。」
男はそう言い、ロボットの頭をごしごし撫でた。感情がないはずのロボットだが、心なしか、嬉しそうにしていた。
「ハカセのお役に立てて嬉しいです。」
ロボットはそう言い、充電ポッドの中にまた閉じこもった。
男が頭を引っ掻くと、手のひらが真っ白くなり、辺りにシラミや古くなった皮膚が飛び散った。
「やっぱり、一人の方が気楽だな。」
薄汚い雪は、もう動くことのない男の頭にも降り注いだ。
---
ある日のことだった。
突然、部屋が大きく揺れたと思えば、巨大なににかがぶつかったような、うまく表すことのできない波動が聞こえてきた。
男はあわてて飛び起きた。
「おい…いや、メダカ。今起きたことを教えてくれ。」
男はロボットに対し聞いた。ロボットは答える。
「はい。上からの衝撃でしたので、地震などの災害とは考えられません。要因があるとしたら、巨大火山の噴火か…又は、人為的に起こされた何かだと思います。」
気づけば衝撃のせいで、机に合った薬品は倒れて流れ出し、実験器具などのガラスで作られたものは粉々になり、使い物にならなくなってしまった。
「あー。これじゃあ実験ができないなぁ。」
男はそう言ったものの、何処か嬉しそうであった。するとロボットが男の近くにより、話した。
「ハカセ。先程初めて私の名前を呼んでくれました。そして、初めて私を頼ってくれました____。メダカ、嬉しいです。」
ロボットは何処か嬉しそうに気持ちを伝えていた。男は機械には詳しくないので、ロボットがどの様にプログラムが組まれているのかは分からない。だが、それでも男は、ロボットが感情を持つことは異常であり、驚くべきことと分かった。
「…しばらく、話してやってもいい。」
男がロボットに言うと、ロボットは嬉しそうに言った。
「本当ですか。嬉しいです。」
「だけど、俺が寝るまでな。」
俺が寝たら、お前も寝るんだ。
その次の日、一緒に外にでるか____。
男とロボットは、楽しそうに話したと言う。
「ハカセ…起きてください。」
「あー。もう朝か。」
「はい。現在時刻は7:00。天気、湿度の情報は、共に受信できませんでした。」
「了解。それじゃ、外へ出ようか。」
ガチャガチャ。
「ハカセ。私は階段を登れません。」
「ん、じゃ、持ち上げるか。」
ぼんやりとした光が差し込む階段をしばらく歩くと、次第に光は強くなっていった。
「ハカセ、この光が太陽ですか?」
「違う違う。太陽はまだだ。」
「ハカセ。そういえばスリープ中に突然電気の供給が停止されました。今までこの様な事態はなかったのですが。」
「停電かもな。たまにあるんだよ…と、ついたぞ。」
登り切った先には、砕けたガラスの様な世界に差し込んだ、たった一つの光が支配する世界が、広がっていた。
「ハカセ、これが。」
「あー。よかったな…」
…
「ハカセ。ありがとうございます。」
「私は、ハカセのロボットでいれて、嬉しかったです。」
「これが、太陽なんですね。ハカセ、下を向いていたら、太陽は見れませんよ。」
「ところで、知っていますか?太陽と言うのは、古くから…____。」
花を、君に。
自分には不思議な力があった。
「わーっ!きれーなコスモス!」
「ほかのお花もだせないの?」
「ううん、コスモスしか出せないよ。」
自分には、「手からコスモスを出す」ことができた。
「あとねー、つちにむかってだすとねー…」
手から出すだけでなく、コスモスを生やすこともできた。
昔はよく、手からコスモスを出して遊んだ。
自分もそれを、心から素晴らしいと思っていた。
「たけるー、今日ゲーセン行こうぜ。」
オレの名前はたける。普通の高校生だ。
「ごめん、今日バイトだわ。」
ゲーセンに誘ったヤツはすぐる。ちょっとやんちゃだが悪いヤツではない。
「えー、じゃお前のバ先行くわ。」
「気まずいからやめろ。」
ギャハハと声をあげて笑った。
教室の中はオレとすぐるしかいない。
それでも一緒にいて、さわがしいのがすぐるだ。
「それじゃ。オレ、そろそろ帰るわ。」
「待ってくれー。俺も。」
帰り道はいつも一緒に帰る。
帰り道はそれぞれ真逆だが、すぐるが無理やりついてくるのだ。
学校から出てすぐそばには、コスモスの花壇がある。
花壇いっぱいに咲いたコスモスは、風に揺られ、あっちこっちを向いていった。
鮮やかなピンク色も、淡いピンク色も、雪みたいに白い白色も、みんな揃って生えていた。
オレは、ここが好きだ。
「おーい、どうした?」
「わりぃ、すぐ行く。」
ふらぁっと風が横切って、すぐるの短く切りそろえた髪を撫でた。
「それじゃあ、また明日。」
「じゃあな、バイトがんばれよ。」
他愛のない話をして、オレとすぐるは別れた。
バイトがあるのは嘘だ。そもそも、早く一人になりたかっただけ。
オレは家の裏庭に座り込んだ。
手のひらを広げると、そこからピンク色のコスモスが溢れ出した。
「はぁー…もってくれてよかった。」
オレは昔から、手からコスモスを出すことができた。
だけど自分で完全にコントロールできるってわけでもなく、気持ちが昂ったり、コスモスをしばらく出していないと、こうして勝手に出てくる。
昔は好きだったこの花は、今も好きだが、昔と違って、みつめているとなんだか恥ずかしくてたまらなくなる。
オレはでてきたコスモスを埋めて、踏み潰した。
「学校ででてきたら困るんだよな。」
オレは家の中に入って、流れるように自室に行き、飛び込むようにベットに入った。
---
「おまえ、ピンクの花持ってんの?」
ある日のこと。
自分はいつものようにコスモスを出して遊んでいた。
するとクラスのお調子者が、自分に話しかけてきた。
「これはコスモスって言うよ。」
「コスモスとか、オンナくせー。」
ソイツは自分の手のひらにいっぱいにでてきたコスモスを見て、わしっと掴んだ。
「うわっ、変なにおいする。」
あからさまに鼻を摘んで、掴んだコスモスを落として、地面にこすりつけるようにして踏み潰してきた。
「…コスモス、いやだった?」
「いや?オンナじゃないのに花見てるのきもいぜ。」
自分は不思議に思って、ソイツのそばに近寄った。
「すごいの見せてあげるよ。ほらっ。」
自分は手のひらをソイツに見せて、コスモスを手のひらに出してみせた。
コスモスはあっという間にいっぱいになって、手のひらから溢れ出した。
だけどソイツは一歩下がって、またコスモスを奪い取り、ギュッと力強く握った。
「手から出せるってよけいきもちわりー!」
握られて塊になったコスモスを地面に叩きつけて、ソイツは足でガシガシと踏み潰した。
「オトコはオンナのもんさわんじゃねー!このヘンタイ!」
ケラケラケラケラ笑って、踏みつけたコスモスを自分に向かって投げて来た。
「ごめん…きもくて……ごめぇ…っ…」
目の前にはソイツの足が見えた。その上は見えなかった。いや、見たくなかった。
目が覚めた。嫌な夢を見た。
時計はまだ7時。
「うわ…」
ベッドの上には潰れたコスモスがたくさんあった。
「かーさんにどう言おうかな…」
とりあえずコスモスをみんな取って捨てた。
花粉がついていたら嫌だから、掃除機で吸った。
ところどころコスモスのちぎれたかべんがひっついていた。
「かーさん。ふとんコスモスで汚れちゃったー。」
とりあえず母を呼んだ。
母はコスモスで汚れたふとんとシーツを取って、洗濯機に入れた。
「いままでこんなことなかったのにねぇ〜。」
ほわほわした口調で母は話す。
寝る時にコスモスが出てくることは今までなかった。でもどうして、でてきてしまったのだろう。
「今日はシチューよ〜。」
去り際、母はそう言った。
お腹が空いてきた。
---
「今日の昼、屋上で食おうぜ。」
ある日のこと。
授業中、すぐるがそう言って来た。
「あぁ。いいよ。」
とりあえず了承した。
いつもは一人で食べるので、誰かと一緒に食べることは久しぶりだ。
なんだか昼が楽しみになって来た。
そういえばかーさん、卵焼き入れてくれたかな。
開いた窓の隙間から、やや強めの風がさぁっと流れてくる。オレのほっぺをくすぐって、からかってきてるようだった。
授業中は退屈なものだ。
ASMRとして配信した方が、いいのではないか。
なんとか眠気に耐えて、昼がやって来た。
すぐると屋上に向かって、並んで歩いていた。
「くんくん…なんかたける、いい匂いすんなー。」
「ちょっ、男に匂いかがれるのきもいんだが。」
ハッとした。
手のひらからコスモスが溢れて来てる。
よく見ると、歩いた場所にコスモスがポツポツと落っこちていた。
どうしよう。
バレたら嫌われる。
憎らしくも、コスモスは美しいピンク色をしていた。
「どうした?顔赤いぞ。」
落としたらバレる。
落とさなくても、飯食う時にバレる。
オレは、オレはどうすれば____。
「あれ?なんか花落ちてる…」
お願い、どうかバレないで…。
「たける、お前の手から出てんのか。お前コスモス好きだもんな。」
「あ、あぁ…よくわかったな。」
「ところでそのコスモス、どっから…」
次々とコスモスは容赦なく溢れ出してくる。
抑えようにも、なかなかコントロールができない。
気づいたら屋上に着いた。
「よしっ!場所はここな!」
すぐそばのベンチに隣り合わせで座った。
弁当を出して、手のひらを広げてしまった。
オレの膝の上には、鮮やかなピンク色のコスモスが広がった。手からもどんどんと溢れ出ている。
「なんか手から花出てる!?」
アイツは驚いたように言った。
もう、隠せないか…。
---
「オレ、手からコスモス出せるんだよ。」
弁当を食べ終えた時、すぐるにオレはそう言った。
すぐるは信じられないような顔をした。
「まじで?見せろ。」
「あ、あぁ…。」
オレは手のひらを見せて、コスモスを出してみせた。
緊張のせいで、コスモスは滝のように溢れ出した。
「うおぉ…」
アイツは見ても、まだ信じられないように見ていた。
「き、きもいよな、オレ…。」
おそるおそる言った。
だけど予想外だった。
「いやっ、マジシャンみたいでカッケー!」
「か、かっ…!?」
かっこいいってどういうことだよ。
「お、女みたいできもいとか…」
「ねーよんなもん!俺はかっこいいって思っただけだ。」
「でも、こんなにすごいのに、なんで見せてくれなかったんだよ。」
なぜか涙があふれて来た。
「そんなこと言われたの…初めてだ…」
コスモスの花は、オレの手から止まった。
ベンチには、たくさんのコスモスの花が溢れていた。
アイツはオレの方を叩いて、また見せてくれよと言ってくれた。
---
自分には不思議な力があった。
「やっぱこの花綺麗だよなー。」
「他の花は出せねーの?」
「コスモスな。他の花は無理。」
自分には、「手からコスモスを出す」ことができた。
「そうそう、こうして土に向かって出すとな…」
手から出すだけでなく、コスモスを生やすこともできた。
昔はよく、手からコスモスを出して遊んだ。
本当に、美しいと感じた。
ある日、友人が「手からコスモスを出せる」と教えてくれた。
あの花、コスモスって言うのか。
すごい綺麗だった。
"友人"によく似て、とても綺麗だった。
俺以外に、知る奴はいないだろう。
俺にだけ、教えてくれた。
二人だけの秘密だ。
これは俺だけのものだ。
決して誰にも譲りたくはない。
せっかくのかわいいかわいいヤツを、手放してたまるものか。
俺はアイツが好きだ。
…なーんて、言ったらどう思うかな。
だけど、ずっと俺のそばにいてくれよ。
彼女なんて作ったら許さないからな。
雨の日ってなかなか寝つけんくない?
ざああ、と音を立てて、窓をせわしく打ちつけて、いじわるな雨が夜ふかしをしていた。
それがたまらなく怖くて、ぐちゃぐちゃ布団にうずくまって、前もまともに見えないほど目をくしゃっとつぶって、小さくなっていた。
あまりにも力をこめたせいで、手やら足やらがふるふる震えている。
この殻をやぶってしまえば、殺されてしまうとも考えて、必死で小さくなっていた。
もちろん、寝つこうども、なかなか寝つけない。
夢と現実の曖昧な狭間でチラチラと揺れ、ただ雨音にやられているだけであった。
じっと身を隠しつつ、頭でせわしく考え事をした。
なぜ、眠れないのか。
眠れないのは、今ざあざあとやかましく降り続ける、この怖い雨のせいであることは直ぐにわかった。
難しいのは、この怖い中で、どう眠れるか。
ここは、恐ろしい森の中でもなく、息苦しい海の中でもなく、都会の人だかりの中でもなく、ただ静かな、ひとりだけの狭い部屋である。
この世で最も安全で素晴らしい場所であるにもかかわらず、強く打ち続けるいじわるな雨のせいで、このオアシスもいま、危機にさらされている。
だだっ広いサバンナでライオンやらの猛獣のくらう声や、シマウマの痛みを伴う叫び声が聞こえてくるわけではない。だが、ひとえに声も雨音も音である。
えんえんとあの恐ろしい音が聞こえ続けると、顔も体もぜんぶひっこめて、それで安全だと思っても、多くの猛獣が外から鳴き声を鳴き続けてるのと同じで、いつ襲われるかわからない。つまり心安らかに眠れるはずがない。
それに雨など湿度が高くなると、とてもではないが、少々頭がコンコンと叩かれたような、時には締め付けられたように感じることが常になってしまう。それも重なり、今こんなに真っ暗なはずなのに、目がやすもうとせず、脳みそもずっと慌ただしくまわって、余計に頭が痛くなって、苦しみもがいてまた体がちぢこまる。
だんだんと節々が痛んできた。腕を手でギュッとし続けたところから、チリチリやける痛みがする。
背中の方から感じる、悪寒であったり暖かく生ぬるい空気が混じったようなわけわからない物が、余計に寝つけなくさせてくれる。
まぶたも頭も体も、すっかり全身疲れ果てているはずなのに、どうもずっと眠れずにいた。
壁の外から聞こえる車の飛沫の音であってもうるさく感じてしまう。
雨の日の夜は何もかもが敵である。
それは自分も同じである。
ガチ頭痛いし寝れないんだよなぁ…
無能と言われ勇者パーティから追放された俺は最強になって見返すことにしました。
3年前…。
俺は王様から直属に選ばれ、俺は勇者パーティに専属された。
「聖剣に選ばれし者、勇者ベルクよ!其方には魔を討つ使命を与えられた。よって、この世を脅かす魔を討ち倒し、ここに戻りなさい。使命を果たすためならば、己が良き道に進むために、考えて行動することも忘れぬように。」
聖剣に選ばれし男…ベルク。
白くて気高い重厚な服を身にまとい、大層ご立派なマントを地面につけ、ひざまづいていた。
「では!ここに居る皆が無事帰すように!勇者御一行の出陣を讃えよ!」
一斉にトランペットやらの楽器が演奏されて、魔法の花吹雪が舞い降りた。
列を成して赤いカーペットの道の横を並んでいた鎧の傭兵も、その音を聴いた途端に、一斉にカーペットの方を向いた。
俺の名はレウザ。この国1番の僧侶だ。
…自分で言っていても、恥ずかしいが。
こうして、俺は勇者パーティの一員として、旅を始めたのだが…
まさか、こうなってしまうとは、想像もつかなかった。
「財政カツカツ〜。高い武器とか買いすぎよ?ベルク。」
「そうだよ。いくら勇者とて、何事にも崇拝されるわけじゃないんだから。」
「そうそう。特に私たちとかね、あんたの使いっぷりには冷や汗が出るわ。」
「もう少し節約してくれたまえ。」
手持ちの路銀は、とっくに銅貨15枚と、底をつきかけていた。
ちなみに、さっきまで勇者のお金の使い方にケチをつけていたのは、魔法使いのレーナと、大剣使いのゴルフの2人である。
「仕方ないじゃない。いよいよ危険地帯ゴルゾーに入る。その為の安全確保に武器の買い替え、そこの生物への耐性をつけるアクセサリーに…あと、毒でやられない武器となると、相場がぐんと跳ね上がるからね…」
危険地帯ゴルゾーでは、毒を持った魔物がわんさか発生している。その毒は人体や金属に多大な影響をもたらし、原型を留めないほどにしてしまう。
だけど最近、ゴルゾーに生息する魔物への耐性がついた武器が開発された。相場は本当に高い。
「そうね。冗談よ〜。でも、もう食べ歩きとかはろくにできないわね〜。」
レーナがそう茶々を入れる。
左手にとても豪華に彩られた魔法の杖をしっかり握って。
「ハッハ!まぁそうだな。我も善戦するよう心がけるな。」
ゴルフもそう意気込んだ。
両手に強そうな大剣をもって…
って、あれ?俺の武器は?
「あ、あの〜。」
一斉にみんなが俺の方を向く。
「俺、の武器は…」
「お前は留守だ。」
「…へっ?」
「今回は毒を持った敵…いやただの敵じゃない。人体はもちろん、金属も溶かしてしまう猛毒だ。まだこの毒に対する完全な回復魔法は確立されていない。」
「でっ、でも!怪我したら大変じゃないか!ただの回復魔法でも軽い処置はできる!」
俺は必死に講義をした。
するとレーナが割って話に入ってきた。
「回復魔法なら、私も使えるよーん。」
「魔法使い如きが!回復魔法を語るな!」
バゴン。
気づけば俺は、レーナを押し倒していた。
「いったぁ…いってて…」
「おい!何すんだよ!」
ゴルフが勢いよく俺に殴りかかってきた。
するとベルクが襲いかかってくるゴルフを取り押さえてくれた。
「レウザ、さっきの発言は…」
ベルクは俺が魔物みたいに見つめてくる。
「言葉通りだよ。…俺が生涯をかけて献身した回復魔法を、いとも容易く使えると言われて、腹が立って…」
「レーナがいけないんです!俺を馬鹿にするから!…俺は国一番の僧侶、なのに…」
ゴルフが激しく鼻息を立てて、俺の方をギロリと睨んでくる。
レーナも左腕を押さえながらゆっくりと這い上がり、俺に拘束魔法をかけてきた。
「おいっ!何すんだよ!」
「勘違いしてるみたいだから言うけど、君は優秀なんかじゃない。」
ベルクが唐突にそう言う。
「ベルク?勘違いしてるのは君じゃない?ただ最後の方でみんなが頑張って引き抜こうとした聖剣を、緩み切った聖剣を抜いて、俺が選ばれましただ?君は運が良かっただけだろう。違うか?違わないよな?」
「確かに僕は運が良かった。でも、それを言うならば君もじゃないか。」
「…何を言いたい。」
「今までの戦闘で、君が魔力を消費したのがどれくらいだったと思うか?」
魔力を消費した量は、普通ならわからない。
だが、勇者は聖剣のお陰で、パーティの中の誰がどれほど魔力を使ったのか可視化することができる。
ベルクは聖剣に手をかざし、呪文を唱えて、魔力の消費量を映し出した。
「これが君の魔力消費量。14だね。簡単な回復魔法を一回使った程度だ。もしかしたら君が特別で魔力消費をしにくい体質だったとしても、レーナが478、ゴルフが154。実は、パーティの中の誰に回復されたか、僕メモを取ってたんだけどね。レーナがダントツだったよ。」
「…おかしい。」
「そして、君に留守をしてもらいたかった理由だけど、言っちゃ悪いが君は足も遅いしパワーもあまりよくない。護身術も使っているところも見たことがない。ハッキリいって、国一番の僧侶の実力とは思えなかったんだ。」
「足手纏いになるっていいテェのかよ!」
「そうだよ。」
ベルクは俺の目を痛いほどにじっとみつれられる。
額に冷たい雫がつたーっと流れるのを感じてしまった。
「でも、さっきのことは頂けない。だから、君にはパーティを抜けてもらいたい。」
「あーわかったよ!どうせ俺は無能だ!言われなくたと抜けてやるよ!」
勢いのまま、俺は勇者パーティを抜けた。
でも、俺はレーナの言葉を思い出す。
回復魔法を使えるだ?たったそれだけのくせに俺を煽りやがって。
クソが、クソがクソがクソが…!!
そもそもあんなパーティにいたのがいけないんだ。俺が間違っていた。
俺は勇者パーティに選ばれた国一番の僧侶だ。勇者パーティという小さなハコに収まるには勿体無い。
…よし!この村で回復魔法を使って、英雄として讃えられよう。
そうすれば勇者どもも俺を認めてくれるだろう。
土下座させて足を舐めさせよう。俺はそう決心した。
---
「…僕に合わせないと罪を吐いてくれないと聞いたけど、まさか、ね…」
ここの村の人たちから手紙をもらい、僕はここに来た。
どうやら元勇者パーティのメンバーで、僕が来ないと話にならないと喚いて、取り調べがろくに進行しなかったみたいだ。
名は____、レウザ。
勇者パーティの僧侶だった。
「罪状は?」
「通りすがりの村人を刺して、回復魔法を使っていた。だけどね、血がダバダバ出てたし、出血死しちゃったの。つまるところ殺人。人殺しだよ。」
僕の横に立っている、中年の警察が目撃者からの情報を読み上げる。
「国一番の僧侶だーとか、俺が英雄だとか言っちゃってねー、本当困りましたよ。」
面会室で、俺はクタクタの顔になったレウザと向き合った。
「…話は警察さんから聞いている。なぜそんなことをしたんだい?」
レウザは、下を向いたまま答えた。
「英雄になって、お前らを見返したかった。」
「回復魔法を使って、死にかけの人を救えば、英雄になれると思ったんだ。俺は人殺しじゃない。英雄になるべき人材で、国一番の僧侶だ。お前みたいな凡夫とは違う。」
「レウザさん、貴方は国一番の僧侶なんかじゃありません。」
「…お前、何を。」
「よく聞いてください。国には教会がありますよね?」
「それが俺の居場所だな。あそこ以外教会はない。」
「教会では、僧侶がいます。それも数多く。しかも教会の上の人は激務です。なにせ教会の様子、怪我人の数。ぜーんぶ見ないといけませんし。」
「…」
「そもそも、貴方が本当に国一番の僧侶であれば、パーティにいることは
ドンッ
「うるせぇぇぇぇぇえ!!」
「さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ屁理屈を!俺は落ちぶれじゃない!無能じゃねぇ!謹んで言えよ!勇者のくせに勇者のくせに勇者のくせに____。」
「吐かせましたよ。…もう、帰ってもいいですか。彼のそばには居たくないんです。」
「いいですよ。さぁ、気をつけてお帰りください。」
わざわざすみませんと、中年の警察官は少しお辞儀をして、ベルクを出口まで案内した。
ベルクが出るまでずっと、怒り狂う男の声は、ずっと鳴り響いていましたとさ。
なろう系では追放ものとかがよくありますよね。
でも大半やらかして終わりな気がする。