《登場人物紹介》
◯チカゼ
風使いの少女。レンのことよりも、ギードが気になっている。
◯レン
氷使いの少年。チカゼの許婚。チカゼのことは好きだがギードのことは嫌い。
◯ギード
旅する炎使いの少年。チカゼとレンの思考回路を心配することになる。
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目次
【氷解の魔法使い】PROLOGUE・A
炎の閃光が放たれた。
雷が落ちるような轟音がした。
発生地点は、千年続く由緒正しい魔法学園の中庭。
その北側、地面から十数メートルの空中。
炎の光は樹齢何百年という大木達を神速で切り株に変える。
草花を焼き、庭の中央にある禁庫の扉へと、まっすぐ進んでいく。
黒いローブを身につけ、風の精霊を従えた炎の魔法使いが空中から扉を見下ろしている。
炎が扉を壊すまで瞬きする暇もないだろう。
冷めた表情でその時を待つ。
(…………なんだ、あれ)
炎使いは目を見開いた。
驚きを隠せない紅い瞳に、人影が映っている。
人影は人ではなかった。
若い女の銅像だ。
数秒前は庭の別の場所にあったはずの物だ。
しかし、今は禁庫の扉の前に立ち、常人には不可能な速さで防御魔法を展開している。
(これは、無理だな)
失敗を悟り、炎使いは顔をしかめた。
そしてまた目を見開いた。
銅像が、だんだん人間の姿になっていく。
その白銀の髪が、三重に重ねられた衣が、荘厳なオーラが、風になびいた。
彼女の防御魔法はとてつもない炎の閃光から禁庫を守った。
明らかに老練の魔法使いだ。
Ⅰ「紅」
二週間前、緑豊かな《西南の街》に位置する魔法学園で事件が起こった。
あの時……比較的平和な現代の我が国で、あってはならない破壊的な音がした。
侵入者が学園の中庭を、特大の攻撃魔法で焼いたのだった。
高等部の生徒全員に避難指示が出されたけれど、私はそれに背いた。
学園の防御魔法が破られたということは、侵入者は相当強い魔法使い。見なければ損だと思ったから。
言われた通りに避難場所へと移動する一年A組の列からそっと外れて、廊下を逆走。
それから誰もいない教室に入り、窓際で侵入者の姿を探した。
遠くに見えた黒い人物の横顔は、想像よりずっと若かった。
でもそれがどうでも良くなるくらい、もっと驚くべきことがあった。
青年の瞳は、太陽をそのまま閉じ込めたような紅玉色をしている。
汗が頬を伝って落ちる感触。
やけに体が熱い。
確信した。
私とあまり変わらない歳に見えるけれど、この人が、あの強烈な攻撃魔法を撃ったのだ……。
[キャラ紹介その1]
◯チカゼ(15)
・高等部一年A組、風の魔法使い
・茶髪ロングの清楚系美人
・行動力のあるマイペース
【氷解の魔法使い】PROLOGUE・B
「ロア様、これは何事でしょうか!?」
学園の教員の一人が熱さと焦げ臭さに耐えながら駆けつけ、老練の魔法使いロアにたずねた。
ロアは応えず、自分の左腕を庇う仕草をした。
左腕に、岩のひび割れのような傷ができている。
「そんな、ロア様、腕が」
うろたえる教員に、ロアは微笑んで言う。
「ええ、彼にやられました。あと三百年くらいは銅像として学園を守っていくつもりが、これでは百年持つかどうか……それより見てください」
示されて、教員は炎使いを見上げた。
驚愕の色が浮かんだ。
教員の反応にロアはますます笑みを深める。
「久々の侵入者、とんでもない攻撃、誰かと思ったら少年ですよ」
炎使いの少年は恐ろしいほど静かだ。
身じろぎもせず、二人を見つめている。
紅い瞳だけが無限の熱をたたえ、風の精霊が少年の右肩あたりに浮かんでいる。
ロアが大声で言う。
「高等部一年A組の生徒にしましょう! もし貴方が十六歳の浮浪児で……この禁庫の中にある、死者蘇生の魔道具が欲しいのならね」
「「は?」」
Ⅱ「蒼」
「チカゼ、お待たせ。行こうか」
思考が二週間前から現在、茜色の放課後に切り替わった。
花壇に咲く花の香りが、春物のローブの隙間を心地良く通り抜けていく。
いつの間にか校門に高級車が停まっている。
「君がそんな風に物思いに耽るのは珍しいね。事件のこと、まだ考えているのかい」
見慣れた顔が、困ったように微笑んでいた。
背がすらりと高く、長い黒髪を上品に束ね、蒼い瞳が爽やかな印象を与える。
許婚でクラスメイトのレンだ。
彼は自然な所作で私の手を取り、歩きだす。
ひんやりとした大きい掌に触れられると、妙な熱さも消えていく。
手を引かれるがまま、ふかふかの後部座席に腰を下ろした。
「僕も、異常だと思ったよ。伝統ある学園の庭が攻撃魔法で焼かれたのに、テレビや新聞……どのメディアにも、ほとんど取り上げられていない」
私はうなずいた。
世間に知られると都合の悪いことでもあるのか、庭園事件は不明な点が多すぎる。
紅い瞳の彼は何者だったのか……。
「先生は『侵入者は逮捕されました』としか教えてくれないし、彼の顔を見た生徒は私だけみたい」
[キャラ紹介その2]
◯レン(16)
・高等部一年A組、氷の魔法使い
・黒髪青目の正統派美男子
・誠実、チカゼのことが好き