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目次
プロローグ-過ちを犯してしまったあの日
真っ白に降りしきった大地の上で、白い息を漏らしながら、必死に逃げようとザクザク音を鳴らして走った。
思い足取りでは思う様に進めず、次第に涙が溢れてくる。
お願い、歩くたびに音を立てないで。
息に色をつけないで。
そう必死に願えど、残酷なほどに道の先は白く濁ったまま、何も叶えやしてくれなかった。
教室の窓からしゃんしゃんと降る雪を横目に見て、はーっと息をふき、冷たい指先を、気持ちだけでも温める。
「そろそろ冬休みだねぇ。」
そう呟くと、隣の席にいる友達の雪が
「でも、長いよねぇ。」
と答えてくれた。
時計は8時を過ぎ、みんな急いで席につく。
すると何やら教室が騒がしい。
「今日転校生が来るんだって!」
「えーっどんな子だろ」
「女の子だといいなー。」
「転校生かぁ…でも、期待し過ぎちゃダメだよね。」
雪も何やら楽しそうに呟いている。
「はーい、みなさん、静かに。」
教卓の前でどんと偉そうに、先生は高い声で言う。
「今日は、このクラスに新しい友達が増えます!」
みんなの予想通り、転校生がやってくる。
またクラス中がガヤガヤと騒がしくなってゆく。
それでも気にせず、先生は転校生を教室の中へと入れた。
---
「狭山泫之(さやまげんし)です。よろしくお願いします。」
入ってきたのは、前髪ボーボーの、いかにも地味ってカンジの男子だった。
さっきまで騒がしかったクラスメイトは、彼の姿を見てか、しいんとなって、コソコソと話しだした。
「泫之くんは…あそこの、前田さんの席の隣に座ってね。」
転校生は私の隣に座るようだった。
スタスタと早い歩き方で、音も立てず、スッと座ってきた。
「よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
ぽそぽそと小さい声を拾って、私は愛想良く返した。
---
「明日から冬休みだね、ツバキちゃん。」
ピンク色のランドセルと、いっぱいの荷物をもって、雪は話しかけてきた。
「そだねー。ゆきちゃんは予定とかある?」
図書バックひとつをプラプラ揺らして、私は雪に聞いた。
「うん…でも、大したことはないかな。…ライブに行くぐらいで。」
「そうなんだ。」と返すと、何故か雪はしばらく黙り込んで、不機嫌そうに、ほんの一瞬だけシワを作った。
「ツバキちゃんは?」
「私は…明日ケーキ作るよ。ママと約束したの…」
「そうなんだっ。いいね。私も一緒に作っていい?」
雪は元気そうに話す。
「…うーん、ごめん。その日、おばあちゃんちで作るから、ゆきちゃんは…むり、かな。」
私がそう言うと、雪はふーんとした様に顔を背ける。
「そっかぁ。楽しんできてね。」
他愛のない会話を続けるうちに、いつのまにか、転校生の話になった。
「なんか地味でつまんなかったよねー。終業式来なかったし。」
雪はそうため息をつく。
転校生が来て初めは、とてもワクワクした。
みんながその子によってたかって、キョーミシンシンで色々聞いていた。
だけどその子は何を聞かれても淡々とするだけで、2、3日ほど経てば、あっという間に、みんなその子から興味を逸らした。隣の席の私からしたら、とっても助かることだったけど。
「あの子、親が海外にいて1人なんだって。なんであの子も行かなかったのかな。つまんないし。」
雪はそう文句を垂らした。
「…そうなんだ。へぇ。」
でも、みかんを食べる時、すごい嬉しそうな顔してたよ。とは、到底言えなかった。
その子に興味があるのかと、キモがられてしまいそうだったから。
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たしか、終業式の前日だった。
「男子のくせにウジウジしててきもちわるい!ツバキの横に座るな!!」
雪の大きな声がして、まだ学校に残っていた私はゆっくり忍び寄って教室をそろーっと見た。
見たくもない状況だった。
そこには、雪が泫之くんのいっぱいに伸びた前髪を掴んで、引っ張っていた。
「…やめ、ろ、まじで、さ」
かなり強く引っ張られているはずなのに、泫之くんは突き飛ばしもせず、ただそのままの姿勢を保とうと雪に抗っていた。
だけど耐えきれなかったのか、泫之くんはぽんと雪を離して、叫んだ。
「あーーもーーーー!!!やめろって!!!!っしつこいしつこいしつこいしつこい!!!!!!いたい!!!!!」
聞いたことのない程、大きな声だった。
「どいつもこいつも!!!…いいよ!!!お望み通り消えてやるよ!!…っ」
泣きそうな声が聞こえると、だっと大きな足音がして、泫之くんが勢いよく飛び出して、そのまま走って行った。私は見つからない様、屈んで息を止めることしかできなかった。
「…なんなの。…きもちわるい…」
雪のそう呟く声がして、私はそそくさと家路を急いだ。
「あれ、あの子休み?」
「そうみたい。地味だからいてもいなくてもおなじじゃない?」
「ちょ、雪…そうなんだ。」
「てか冬休み楽しみ!早くおわんないかなぁ。」
「うん…そうだね。」