季節からから

編集者:るるる
『ナツが来た』の外伝。 トウヤたちの日常を少しのぞいてみましょう。
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目次

    晴れ時々涙

    「はくしゅ!ぶえー…。」 ずびっと鼻をすする音。その音は、ぼくの方からした。 「トウヤなみだ目だー。」 「うるさい。」 四月。春がとうとう訪れてしまった。 「そういや、オレら今年から二年生だよ!」 「…うん。」 ずびっ。 「ははは、ハナタレだー。」 アキは余裕そうに高らかに笑っている。 ぼくは両穴から鼻水をたらし、呼吸もままならないまま。 「ゔー…花粉なんてなけりゃいいのに…。」 「まぁまぁそう言わずに。」 アキはクスクス笑っている。 「そういや、トウヤの親戚のお兄さん、今年来るんだっけ?」 「うん。」 「オレにも会わせてよ!」 「いいけど…あ、そういや、明日いっしょに花見しようって話になっててさ、アキも来いよ。」 ずびっ。 「え、いいの?やったー!」 アキはりょううでをあげてよろこぶしぐさをした。 桜にも負けない満面の笑みを浮かべて…。 ずびっ。 「…いったん、鼻かんだらどうだ。オレ袋持ってるけど。」 「…いや、まだ早い。このまま帰る。」 「そっか。」 ずびっ。 …早く、春が終わりますように…。
    「はー!うんめぇ!」 場所選びが決まって、ぼくらは花見を楽しんだ。 おにぎりをほおばりながら、ハルにぃがうなる。 「早起きした甲斐があったわぁ。」 母さんはやわらかい笑顔で言う。 「もー、妊婦さんなのに姉さんは頑張りすぎよ。」 おばさんがややあきれたように言っても、母さんはふふっと笑っている。 一面に咲いた桜が、ぶぁっと散り、辺りを漂い、おおい尽くす。 光が当たって反射して、ガラスの様にかがやいていた。 「来年は赤ちゃんと一緒に来れるといいわねぇ。」 母さんがそういうと、みんなそうだねとこうていした。 ふと地面を見ると、辺りの草は枯れることを知らないかのごとく、 うつくしい黄緑色で風になびかれている。 かつてこの街はどんな人がいたんだろう。 生き物はどんな生き物がいるかな。 ずびっ。 「お花見、楽しいねー!」 アキはうれしそうに笑っている。

    さむがりのクリスマス

    とく…とく…とく…。  とく…とく…とく…。 時計の針の音は絶えず鳴り、頑張ってずっと働き続けてるんだぞと言わんばかりに主張してくる。 次第に音がだんだん大きくなってきてる気がするけど、気のせいだろうか。 いつも通りの灰色の壁と薄暗い黄色の灯りは、冬休みに入ってもおんなじだ。 明日は、クリスマスイブである。…少し、何か期待してしまう僕がいる。 今更寂しがり屋になっても、父さんと母さんはうちに帰ってこない。 そして、サンタクロースも___。 いつも思い出すのは、父さんと母さんがいた最後のクリスマスの日。 あの頃はまだ8歳だった。父さんからはぬいぐるみを、母さんからはマフラーをもらった。 あれから2年、今もそれらはある。変わったところは、埃をかぶってすすけてきたことぐらい。 もう少しだけ素直になれたら… 僕はもう少し変われたのだろうか…?
    朝。クリスマスだ。 昨日ベッドの横にはほったらかしていたぬいぐるみを埃を取り払って置いておいた。 ついでにマフラーも埃を払って畳んで置いた。 部屋の中はいつもどうりで、トクベツなことはなーんにもなかった。 ただの平日なんだよ。 きっと、これからも、ずぅーっと。 …ずぅーっと…?

    ちいさなハナミズキ

    「ただいーまー!」 ふんわりとしたほっぺが柔らかく揺れ、赤く染められている。 まだ1メートルにも達しない小さな体の持ち主が、お菓子の入った袋をブンブン振り回している。 「ハル、買って来たぞ。父さんと一緒につくろうな。」 平たい顔の人が、俺にそう話しかける。 「うん!」と元気よく言ったものの、どこかぼーっとする。 暖かくて、だけど冷たくて、ここにいたら全部飲み込まれそうで____。 まばゆい光がちょうど顔に当たっている。 じんわり目を覚ますと、ぐちゃぐちゃに絡まった布団の上で、俺はだらしなく落ちていた。 「……ゆめ…」 いつもよりぐぅっと重たい体はびくともしてくれず、またまぶたもつられて重くなってゆく。 「ハルー!あんたぁ寝坊するよ!さっさと起き!」 「…へーい。」 気だるい体をよっこいしょと動かして、俺は起き上がる。 かちゃっとドアを開けて、真っ先に洗面所へ。 ぴゃっと顔を濡らし、濡れた服をまとめて脱ぎ捨て、学ランへと着替えた。 そろそろ2年生にもなるのに、未だ制服に着られている感じがしてこそばゆい。 ちゃっと飯を済まそうとした時、皿の上の小さなハンバーグに目が付く。 「ハル?どうした?」 かぁさんが不安そうに聞く。 「ちょっと寝ぼけてるだけ。」 俺はハンバーグをそっと箸で突いて、でも躊躇って、葉野菜に手をつけた。 しゃもしゃもと口の中でシワクチャになる葉野菜を咀嚼しながら、ハンバーグをじっと見つめた。 俺はハンバーグが大好きで、大嫌いだ。 もし俺がハンバーグが好きじゃなかったら、きっとだなんて都合のいいことを考える。 でもやっぱり、あの時俺が大人だったら____。
    夏休みも中盤に差し掛かった頃、兄弟のような2人が、並んでゲームをしていた。 チュドーンとなるテレビの音と共に、トウヤが倒れ込んだ。 「よわいねートウヤー。」 ハルが少しおちょくったようにトウヤに言う。 「次は勝つ…」 負けじとトウヤは立ち上がりコントローラを手にした。 「ところでさハルにぃ。宿題は?」 「ぎくっ」 トウヤはすかさず聞き、ハルはひどく動揺する。 「どこまで終わってるのぉ?もう中盤だよ?ハルにぃちゃーん?」 「…」 ハルはそのまま黙り込み、スッとゲームを始めあっという間にトウヤを倒してしまった。 「あっ!」 「…俺のハートを痛みつけた罰だぜ。」 だが反抗虚しく、ハルはトドメを刺された。 「罰って、やってない自分が悪いでしょ。」 「うっ」 ハルは夏バテみたいに倒れた。 トウヤはそんなハルを心配することはなかった。