名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
サナ 〜私、才能がないなんて言っていません!〜
「魔法を私も使えるの!」
「ではここで使ってみなさい。」
「ここじゃ何故か使えないの!」
「だったら貴方に用はないわ。」
私は宮廷魔術師の両親から産まれた。宮廷魔術師はエリート中のエリートで、その二人の子供である私たちも期待されているのだという。
ー そして、実際私は両親より遥かに強い魔術を使える。
もともと両親は、自分たちよりも強い子供を産むために結婚したそうだ。その期待のもとで産まれたのが兄、デアメンだ。しかし、彼が使えたのは両親と同じくらいの魔術。だけどもちろん両親は満足しなかった。
そして次に産まれたのが私、カエミナだ。
私は期待通り両親以上の魔術を使えた。だけど、それは両親の前では使えなかった。だから、私がいくら魔術を使えるのだと訴えても、その場で試してみると出ないために、信じてもらえなかった。
自分の実力が出ないことに対して泣いてしまったこともあった。始めの頃は毎回泣いていた。
それをみた両親は、「私たちのために…」などとはじめは感動してくれていたようだが次第にため息をつかれるようになった。
それでも訴えた。
今日みたいに。だけど信じてもらえない。
そして、いつしか私は嘘つきと呼ばれるようになった。
それからは今まで何回も考えた疑問をまた再び考えるた。
ー 何で使えないの?
何度問いかけただろう?
しかし未だに理由は分からないのであった。
どうして…どうして…想いは募るばかりだ。
次の日、私は両親のもとへ向かっていた。
ー 今日こそ使ってみよう。
「ウォータードロップ」
小さく呟く。
目の前には小さな一滴の水が表れていた。
かなり小さいやつだ。
これくらいを出すのには、かなりの技術が必要だ。
ー だからこれを見たらきっと両親は私の才能に気付いてくれる。
そう考え、そして今はまだ魔術を使えることに安心する。
このまま魔術を使えるままでいたい。
どうか両親の前でも使えるままにして欲しい。
……そうだ!
これを維持してそのまま両親のもとへ向かおう。
いい考えのような気がした。だけど、その水滴は両親の姿を見た途端消えてしまった。
私は絶望し、そのまま、部屋に戻った。
そして4年がたった。
私には新しい妹が出来た。
私は、とても可愛がった。
名前はマリー。
とても可愛い女の子だった。
兄は、もう魔術師として独立に向かっているため、あまり関わってこない。
両親も、私に少しは希望を抱いているみたいだった。
もしかしたら私…カエミナが私たちの目当ての魔力を持った子供かもしれない、と。
だけど、昨日妹が優秀な魔術を使った。
ー 親は、一気に妹に流れていった。
この家は、宮廷魔術師同士が結婚したということである程度の注目は集めているが、所詮は貴族ではなく平民だ。私は引き取りたいという人物が現れた、というのを名目に、捨てられた。
幾ばくかのお金をもらって。
体のいい厄介払い、という言葉を聞くことがあるが、これはまさにそれだった。
両親の最後の言葉は、
「もうお前に用はない、2度とこの家の敷居をまたぐな。」
だった。
その瞬間、私が今まで両親に感じていたものがなくなった。
それは承認欲求だったのか、それとも子供らしく親の愛情を求めていたのか。
もう分からなかった。
そして、当たり前だがこの感情がなくなった今、この家に再び戻るつもりも全くなかった。
一つ心残りはマリーだけど…
きっと彼女なら親の愛情を受け、素晴らしい人生を歩むだろう。
だからきっと私が何かを思う必要はない。
だったら…もう、私の存在は消してしまおう。
ー そうだ!名前を変えてみようか。
そして、名前を変えた。カエミナからサナに。
だけどそこで気付いてしまった。
両親から名前を全然呼ばれたことがなかったことに。
そう考え、また悲しくなった。
10年も私はあの人たちにとらわれていたんだ…。そう思うと、悔しくもあった。
そして…仕事に就くなら何がいいだろうか?
魔術師…宮廷魔術師かな?
だったら両親にバレないように変装しよう。魔術で普段から目と髪の色を変えるんだ。
調べると、まず宮廷魔術師になるためにはその前身として、宮廷に所属する魔術師にならなければならないそうだ。
これをただ単に魔術師と略そう。面倒くさいし。
そして、その魔術師になるためには、年一回の試験を受けなければならない。
今年はもう終わった。だったら来年だ。
しかもお金が必要らしい。だったら仕事を見つけて働こう。
そこからは、とても上手くいった。仕事がすぐ見つかった。
私の魔術の才能は類稀なるものだ。
教える場合も全てを見せる訳では無いが…すぐに教師を頼まれた。
もちろん実力だけでなく、同年代だということも影響しているのはわかっている。
それでも、そういうような仕事は、私が暮らしていくのに、そして魔術師になるための試験を受けるために必要なお金を貯めるのに十分だった。
1年が経った。
試験は、ただ魔術を使い、その実力を見て判断されるらしい。
そして、私は大きな力ととても小さいものを見せて、制御力も示しておいた。他の受験者を見れなかったのは残念だが、多分一番じゃないか、そう思った。
そして、試験管の中にはあの両親もいたのだが、魔術を使うことが出来た。
ー それが、何より嬉しかった。
そして、今日、通知が届いた。
受かっていた。
今までお世話になった人に、挨拶とお礼をしに回る。みんな喜んでくれた。
改めて、このような人たちと関われたことに感謝したい。
待ちに待った入団式だ。
「サナ。」
「はい!」
私が一番最初に呼ばれた。
これはまさか年齢順ではあるまいし、一番かビリだったかのどちらかだろうが…多分1位だったのだろうな。
そんなことを思い。立つ。
他の人もどんどん名前を呼ばれていき、立っていった。
今年の合格者は10人だったそう。
例年とくらべるとかなり少ない方だが、それでも話題を呼んでいたらしい。
ー 11歳の少女が、歴代稀なる実力で合格した。
これは史上最年少の偉業であり、皆が注目するのも無理もない。
そして…そうこないとつまらない。当然だ。と考える自分もいた。
「今、名前を呼ばれた10人を魔術師に任命し、魔術団への入団を許可する。」
そう言ったのは、後で聞いたところによると国王陛下らしい。
この日から、私は魔術師を名乗れるようになる。
そして、1ヶ月間、演習期間がある。そこでの様子や実力を見て、どこの魔術団所属かを決めるのだ。
まず、体力の訓練。
魔術師なのに…と思うこともないが遠くに呼ばれるときには、体力がある人が行くべきだろうから、少しは関係あるかもしれない。
長距離を走らされたり、筋トレをされたり……魔術を使うことが許可されていなければ、もっと厳しかったと思う。
他には対魔物戦の練習だ。
他の正式な魔術師が近くについている中で、用意された魔物を倒す。
もし倒せなくても、魔術師が代わりに倒すだけだから問題ない、そういうことであった。
1日目はとりあえず攻撃を当てたら倒れてくれた。
しかし、いまいちしっくり来なかった。
そこで、魔物の本を読んでみた。
すると、魔物には弱点の場所と弱点の属性があるそうだ。
いままで、魔物にあったことがなかったから、全く知らなかった。
とりあえず、覚えることにした。
2日目、まだ覚えていない魔物が出たため、力で殺した。
そして3日目。覚えたばかりの魔物が出た。
弱点とその属性を使って、一瞬で倒した。
確かな手応えがあった。
そこからは調子に乗って、さらに覚えていった。
魔物は少しずつ難しくなっているようで…、それでも、演習期間の最後の方は、すべての魔物を一撃で倒すことが出来た。
主な演習内容はこの2つだった。
だけど、それ以外にも、演習はあった。
それは教養だったり、怪我の手当であったり、様々だった。
日々、頑張った。
休みを取るのは自由だったけれど、私は1回も休まなかった。
治癒魔術も使った。そんな感じで一ヶ月は終わった。
「第1魔術師団所属、ベル」
「はい!」
「第二魔術師団所属、スフィア、マイン」
「「はい!」」
「第三魔術師団所属、カナエ」
「はい!」
「第四魔術師団所属、エクト、ザイル」
「「はい!」」
「第六魔術師団所属、ゲート」
「はい!」
「第八魔術師団所属、マーラ、バント」
「「はい!」」
一体どういうこと?
周りもざわついている。
魔術師団は第八までしか無い。つまり、私はどこにも呼ばれなかったのだ。
「王宮魔術師団所属、サナ」
「はい?」
どういうこと?
王宮魔術師団ってなるのはもっと難しいんじゃあ…それなのに11歳の小娘が王宮魔術師?嘘でしょ?
そう思いつつ、足は紋章をもらうために、前方に進んでいく。
紋章を私に与えてくれる人は、両親ではない、王宮魔術師だった。
「頑張りなさい。」
「はい…」
戸惑う。かくして、私は王宮魔術師になった。
「紹介しよう、私が王宮魔術師団長、カインだ。」
「私はナエミ。」
知っている。だって私の母親だから。
「私はゼスタだ。」
知っている。だって私の父親だから。
「私は…」「私は…」「私は…」
全員を覚えられるわけがない。結局、覚えられたのは団長だけだった。
「質問はあるか?」
「はい。なんで私は王宮魔術師団所属になったのですか?」
「そうだな。そう思うのは当たり前だ。上層部でもはじめは意見が分かれていた。1つ目は、魔術の才能。」
それは分かる。それに関しては理由にない方がおかしい。だけど、それでは足りないだろう。
「2つ目は、その勤勉さだ。常に全力だったらしいではなかったのか?そして対魔物戦において、はじめは弱く、力付くでやっていたものが、回数を増すごとに、どんどん効率的に倒せるようになったらしいな。それは、勉強なしには無理だろう。さらに訓練を一度も休まなかった。以上の2つが主な理由だ。このような貴重な人材は、その能力をより発揮できるところで活躍すべきだ。それで、同意を貰えた。」
「理解しました。」
「他に質問はあるか?」
「ありません。」
一つ、気になるとしたら…兄が王宮魔術師にまだなっていなかったことだ。実力的にはなっていてもおかしくないのに…
今日は、任務で遠出している。なんと、ドラゴンが出たそうだ。
正直この人数でも厳しい。
第1魔術師団も今日は連れてきて、もしもの場合は殿(しんがり)を…囮を務めてもらう。
そして、驚いたことに、兄がその中にいた。
「ドラゴンが現れました!」
「行くぞ。王宮魔術師団出撃!」
「「はい!」」
「額にある魔石を狙うんだ!」
「「はい!」」
「アクアランス!」
槍がそこまで飛んでいく…も、避けられた。
拘束にかえようか?
みんなはまだ魔石を狙っている。
「ファイヤーロープ!」
「え?助かった!」
はじめは驚いていた団長も、火の縄がドラゴンにまとわりついてくうちに、理解したようだ。
その日の討伐は、無事に終了した。
私は、功労者として、みんなから褒めまくられた。
私の評価は、魔術がすごいだけの者から、機転も利く者へと変わった。
数日後。
「今日から王宮魔術師団所属になりました。デアメンです。よろしくお願いします」
「ようこそ!デアメン!」
「とうとう王宮魔術師か!」
ナエミもゼスタもとても喜んでいる。
それも当たり前だ。
今回入ってきたデアメンは私の兄だから。
「君が最年少で入ったというサナ、か。よろしく。」
「はぁ…よろしくお願いします。」
「よろしくな、妹よ。」
「なっ!」
「大丈夫、両親には言わない。嬉しいよ、再び一緒にいられて。」
「本当に?」
「誓ってもいい。」
「分かりました。信用します。改めてよろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。」
かくして波乱の日常が始まった…なんてことはなかった。
また討伐で遠出することになった。
今回もドラゴンの討伐。今度は3匹だ。
2匹の夫婦と、一匹の子供。
心苦しいが、生活に悪影響を与えるようになったため、そのままにしておくことは出来ない。
だが、前よりも厳しい戦いになるだろう。
今回は、第一魔術師団と第二魔術師団に来てもらっている。
国家事業だ。それも緊急度の高い。
これに失敗すれば、この国は多くの優秀な魔術師を失うことになる、だが、民に被害をそのまま与えるのも駄目だ。
そう考えた国王の苦肉の策だった。
「ドラゴンが現れた! 行くぞ、王宮魔術師団!」
「「おう!」」
「ウォーターロープ!」
拘束することは出来たが、次のドラゴンがやってきた。
「頼む!」
「ファイヤーロープ!」
2つ使っているから、2つ目の方の魔術が少し弱くなって、完全に拘束することが出来なかった。
ー どうしよう?
私以外に十分な技術と魔力を持った者はいない。
だったら…
髪の毛の色と目の色を変えている魔術を解除しよう。
それだったら完全に拘束できる。
なら…やるしかない。
「ファイヤーロープ!」
出来た!
ではあとはそのままを維持するだけ。
1匹目のドラゴンが倒れてくれた。
また魔力に余裕が戻ってきた。
そして、それを子供のドラゴンに使うことにした。
「助かった!」
そう言ってくれた魔術師が私をみて驚いた。
だけどそれを気にする余裕はない。
「「「「終わった〜…!」」」」
戦いが終わる頃にはもうみんなへとへとだった。
「おい!サナ!」
「何ですか?」
「お前、返送していたのか?」
「「カエミナ…?」」
「はい。」
「おい!ナエミ、ゼスタ。一体どういうことだ?」
「サナは…私たちの娘のカエミナです。」
「私はもうあなたの子供ではない。」
「いや、最後に言った言葉は忘れてくれ!お前は私たちの娘だ。」
「だった、ですよね?」
「「違う!」」
「受け取れません。今の私はただのサナという平民です。」
「だが…」
「なるほど、あなた達は約束をどうでもいいと思うような人たちだったんですね。では、私はあなた達と絶交させてもらいます。」
救世主が現れた…と思ったら兄のデアメンだった。
「デアメン…いいの?」
「いいさ、他ならぬ妹のためだからな。」
「ありがとう!」
「私たちは認めんからな!」
「そうよ!」
ナエミ、ゼスタが後ろで吠えている。
「ナエミ、ゼスタは問題を起こしたとして、1週間の謹慎となった。」
「そうですか…」
まあそうよね。
「分かりました。」
私と兄は、いろいろ聞かれた結果、そうなった。
「良かったね。」
「良かったな。」
二人で安心しあう。
「そういえばデアメン、マリーはどうなったの?」
「あの子は…そのまま私みたいに元気に暮らしている…と言いたいところだが、少し傲慢になってしまった。」
「残念…。どうしよう?」
「そのままでいいんじゃないか?」
「そう?だったらそのままにしておこうね。」
「あぁ。」
そう考えた。
それからナエミ、ゼスタは宮廷魔術師の恥になるとして、第三魔術師団に落ちた。
マリーは、見捨てられたそう。
毎日周りに当たり散らかしているそう。
そのままにしていて良かった。
安心した。
そんなマリーの今の居場所は分かっていないとなっている。
私と兄…デアメンは今は団長、副団長になって、この魔術師団をより良くしようと努力している。
そうして、魔術師団のトップの兄弟姉妹として君臨している。
その両親については…だれも触れないそうだ。
エイナ 〜馬鹿な親には格の違いを見せましょう〜
私はマリー。
優しい姉と、あまり関わらない兄と、かわいがってくれる両親のもとで育った。
私が2歳のとき、姉がいなくなった。
その前の日に私が魔術を使ったのがいけなかったのかな?
だけど、それからは両親が二人とも私にかかりきりでいてくれるようになったから、そんなことはあまり気にならなかった。
そんなように育っていき、ついこの間、私は10歳になった。
私の周りの人達は、みんな私の言うことを聞いてくれる。
なのに…その日、私は捨てられた。少しのお金を持たせられて。
ー なんで!
理解が出来なかった。
あの両親め。なぜ私の言うことを聞いてくれない!
「お前!」
「え?え?一体…」
近くにいた奴に声を掛けた。
「このお金で働かない?」
ちょっとだけ、1枚だけで聞いた。
どの硬貨がどんな価値があるのかなんてわからない。だけど、どれも同じ硬貨だったから、それを1枚だけあげた。
「え!?どんな仕事ですか?」
「私の役に立つ仕事。」
「時間は?」
「そうね…とりあえず3日くらい?」
「働きます!」
何だかわからないけれど、良かった。これで、この子には何をしても許される。
「汚いね。早く洗ってきてくれない?水はあげるから。」
「え?どこに?」
「ウォーターシャワー! ほらね。」
「凄いです!」
「ほら早く!」
しばらくしてその少年がやってきた。
「遅い!」
「すみません、丁寧に汚れをとっていたらこんな時間に…」
「これを着なさい」
「ありがとうございます!」
わざわざ大げさな子供だ。これくらい普通なのに。
「仕事内容はあなたの役に立つ…でしたよね?内容は?」
「そうね…今、住む場所に困っているの。探してきてくれる?」
「はい!いい場所を知っています!ついてきてください!」
役に立つ少年ね。
「ここです。」
「狭いし汚い!もっと綺麗な部屋はないの!?」
「すみません。じゃあこっちに!」
そして次に連れてきてもらった家は…さっきよりも大きかった。
「ここでいい。入っていいの?」
「少し待っていてください。」
「はやくしてよね。」
「あの…」
「何?」
「お金を…この家は借りるのにお金がかかるんですよ。」
「はぁ…これくらいでいい?」
硬貨を10枚ほどあげる。
「ではとりあえず3日分借りてきます!」
そして、少年が帰ってきた。
「借りれました!」
「遅い!」
「すみません!」
「まあいいや。入っていいの?」
「はい!あと、これが余りのお金です。」
「余ったの?じゃあもらっておくわ。」
変なの。そんなに安かったの?
まあいいか。
「あの…」
「何?」
「お金は…稼がなくていいんですか?」
「お金?稼いだほうがいいの?」
「もちろん!」
「ではやるわ。あなたに任せていいの?」
「ええと…水を魔術でくれませんか?」
「水?それだけでいいの?」
「はい!十分です!」
次の日、その少年は、私に水を請求し、そして、出かけていった。
「水ください!」
「水ください!」
「水ください!」
何回も戻ってきた。そして、その合間に、昼食を作って、おいていってくれた。
質素な食事だった。だけれど、その気持ちが嬉しかった。
まぁ…
「まずい!」
と、声を荒げてしまったけど。
そして、夕方、帰ってきた。
大量の何かを持って帰ってきて。
「これは何なの!?」
「銅貨…ですけど。」
「これが銅?銅はこんなにみすぼらしくないわ!」
「いえ、これが銅です。」
この少年は、本気で私が何を言っているのか分からない、というような表情をしていた。
おかしいな?
そう思った。
「本当にこれが銅貨?」
「はい、そしてこっちが銀貨、さっきあなたが持っていたのは金貨です。」
あれが金貨?
へぇ〜。驚いた。
「そう、じゃあいいわ。」
「では、夕食を作るので少し待っていてください。」
平民の子にしてはしっかりしている。
そして私のために行動していること、それが信頼できた。
「できるだけ美味しくしてよ。」
「気をつけます!」
そしてしばらく後…
「ええと…出来ましたが…」
「いただくわ。」
そして…
「まずい!」
やはりそんな言葉が出てきた。
「すみませんっ!」
「だけど、さっきよりは美味しくなっているわ。もっとこれから頑張りなさい。」
「はい!」
そして、1年弱がたった。
「エイナ、今度魔術師になれる試験があるそうだよ。」
あの少年…ユタは今も働いてくれている。
しかも給料としてあげているのを毎回少なくしてくる。
そんなので大丈夫なのかしら?
「そうなの? それで?」
「出てみたらどう?」
「なんで?」
「だってエイナの親は宮廷魔術師なんでしょ?そしてその親が目をかけるほどの才能があるんだから、受かるんじゃない?」
「うん、良さそうね。試してみましょう。」
「分かった。お金がいるんだけど持っていっていい?」
「いいわよ。」
そして、受けてみることにした。
ユタの助言で髪の色と目の色と名前を変えた。
「エイナ、合格だってよ!」
「本当?」
「あぁ。」
「では、私は魔術師となるのね。」
「そうだよ!名誉なことだよ!1週間後に入団式があるらしい。」
「そう、それに参加すればいいのね。」
「そうだよ。国王陛下も現れるんだって。」
それなら結構凄いことなんだ。
「分かった。準備物は?」
「特に無い」
「楽しみね。」
「うん。見に行けないのが残念だ。」
「ふふ、ありがとう。」
それからはいつものように過ごした。
ユタは今日も物を売りに行ってくれている。
ー なんで私のもとで働いているの?
時々聞きたくなる。
だってどんどん減る給料。そして結局働いているだけ。それにプラスして食事とかも。
休暇はない。時々、昼食を置いて、どこかに出かけていることもあるけど、それでもまったく仕事をしていない日はない。
こんな肉体労働ばっかりの仕事、普通は嫌だと思う。
「エイナ。」
待ちに待った入団式。最初に呼ばれ、立ち上がる。
他のものもどんどん立ち上がっていっていった。
今年の合格者は、12人。
サナという人物がいた代に次ぐ少なさであった。
そして、それより小さいとは言え話題を呼んだ。
ー サナ様と同じ11歳で、それより弱いとは言え十分な実力をもった少女が合格した。期待できそうだ。
そんな感じの話題だったそうだ。
「以上の12名を魔術師に任命し、魔術団への入団を許可する。」
へぇ〜この人が国王陛下かぁ。
そして、演習機関に入った。
最近は、王宮魔術師団団長が見に来るようになったそうだ。
そして、一人だけ違う雰囲気をまとった人がいた。きっとあの人が今の団長だろう。
ユタからの助言を受けて、私は一生懸命頑張った。
私の周りにいる人みんなが私の言うことを聞かないことは分かっている。だから、努力をすることに対しても、演習に対しても文句は言わない。
その方がいいとユタに言われた。
そして1ヶ月が過ぎた。
「第一魔術師団、エイナ、ヒスイ」
「「はい!」」
ヒスイは中のいい友達だ。新しく出来た。
今回、一緒に第1魔術師団になれて嬉しい。
そして、紋章を取りに向かう。
「頑張ってください。」
「「はい!」」
二人で顔を見合わせて笑う。それほどまでに楽しかったし、嬉しかった。
「やったね!」
「嬉しい!」
二人で発表が終わった後、喜び合う。
第1魔術師団は宮廷魔術師団の次に仕事がよく来る団だ。
「頑張ろうね。」
「うん。」
そして、怒涛の日々に突入した。
今日は、王宮魔術師団のサルナーンという魔物を討伐について行っている。
王宮魔術師団のサナという人の噂はよく聞き、天性の天才だとか、その兄も凄いとか聞いたのだが…
その兄が私の記憶の中の兄と同じなのだ。
もしかして、サナは私の姉だったの?
そう思うことも何度かあり、今日は始めて王宮魔術師団との共同討伐だから、聞けるタイミングを狙っているのだ。
「あなた、変装しているのね。」
そんなとき、突然後ろから声をかけられた。サナと呼ばれる少女がいた。
「え?」
「ごめんなさい、知られたくないことだった?」
「それはそうですけど…なんで?」
「魔力を使っている人は分かるのよ。私も変装しているしね。ほら。」
サナさんは変装を解いた。
そこから見えた姿は、記憶の中の姉にそっくりだった。
「お姉ちゃん…?」
私も変装を解く。
「え?マリー?」
マリーという名を知っている…
「やっぱり!お姉ちゃんだ!」
「あなた‥傲慢になったって噂で聞いていたのだけど…」
「あのときはね。親に捨てられて改めた。親切な人にも出会ったしね。」
「え、何それ!今度見せて」
「いいよ。」
「え?いいの?デアメンもじゃあ行こうよ。」
「ああ、興味がある。」
「決定だぁ!」
あれ?何かヤバいことになっちゃった?まあいいか。
「じゃあマリー…じゃなくてエイナだっけ?私たちのタッグをよく見るといいよ!新人中の新人だけど、私たちは強いんだから!」
「うん!」
今まで感じていたことが解消されて、気持ちよく過ごせた。
お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごい活躍だった。
2人だけで全体の魔物の半数を倒していた。
すごいなぁ。私も頑張らないと。
終わったころ…
「あなた…マリーなの?」
誰だ?って母親か。
「誰のこと?私はエイナよ。」
急いで変装し直す。
「あんたも…私を裏切ったのね。」
裏切った?私を裏切ったのはあんただろう。
「あんなに目をかけて育ててやったというのに。」
「あら?落ちた者は何をほざいているのかな?」
「デアメン…あんたなんか私たちよりも弱いくせに。」
「だったら私は?ぜったいあんたらより強い。だいたい今の私は宮廷魔術師。あんたらはただの魔術師。違いは明白だよ。」
「くっ…」
うわっ、その表情気持ちいい。
「ともかく、2度と私達3人の親を名乗らないで。私たちはあなたたちに捨てられ、私たちもあんたたちを捨てた、それだけだから。」
サナ…お姉ちゃんが言ってくれた。流石だ。
兄と姉をみて奮起され、親の憎しみでさらなるやる気が出た。
そこからはさらに頑張った。
2年後、私は宮廷魔術師団に配属された。
姉であるサナに次ぐ快挙である。
「やったよ!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「思ったより早く来たな。」
「こんなに早く来るとは思ってなかったよ、正直。」
姉はかなり正直だった。
「それにしても…俺が何年も魔術団で地道に頑張ったやつを簡単に潰してくれるな。」
「あはは…仕方ないでしょ。」
認めるしかない。
「そう言えば面白いよね、王宮魔術師団に3連続に入ったんだよ、この兄弟。」
姉がそういった。
「確かに。順番はおかしいし、俺が一番地味だが。」
「まあ一般的にはすごいことだよ。」
「そうそう。」
姉に同意した。
「無理に慰めなくてもいいよ。」
そしたら、苦い顔をされた。
「「あはは…」」
正直、ちょっと無理があるかなとは思っていた。
「お前らって兄弟?」
「そうですよ、カイン団長。デアメン、私、エイナで3兄弟です。」
「そうなのか。ってことはエイナもあの二人の子か?」
「はい、そうです。このように変装しています。」
「お前もか…」
なぜか呆れられた。
「あ、そうだ。エイナもとうとう王宮魔術師になったことだし、今度会いに行くね。」
何のこと?と思ったが、ユタのことだと思い出す。
「3日後に休暇があるしそこで来ていいよ。」
「やったー!」
そして、その日はやってきた。
「いよいよ初対面だ。」
「楽しみだね。」
「ただいまーユタ。」
「あ、おかえり、エイナ。この人たちが兄と姉?」
「そう。」
「はじめまして。ユタです。」
「こちらこそはじめまして、姉のサナです。」
「はじめまして、兄のデアメンだ。」
「本物?」
「そうだよ。」
なぜか嘘のように思えたらしい。もしかして私、信じられていなかったの?
「すごい!感激しました!」
なんだ、感慨にふけっていただけか。
「良さそうな子ね。」
「あぁ、信頼はできそうだ。」
「あのさ、始めのころエイナがあたり散らかしていたという噂があったのだけど、あれって本当なの?」
少し考えた様子の姉が発言した。
私はというと、そんな噂はまったく聞いたことがなくて驚いた。
「違います。まぁあれは…エイナの前では話せませんね。また今度お会いしましょう。」
「そう。では今回は諦めましょう、また今度ね。」
「仕方ないか…」
今回は二人とも出ていってくれた。
あの両親は、無理に王宮魔術師団に戻ろうとして、今度は魔術師をやめられたそう。
いい気味だ。
あの両親に偶然とはいえ少しはいい気味に合わせられて、本当に良かった。
そう思った。
後から聞いた話によると、サナの方がいい気味に合わせていて、残念だという気持ちと同時に、嬉しい気持ちもあった。
ただ、サナがいい気味に合わせたから私は捨てられ、今の状態になっている。
だとしたら、あの両親から離れられて本当に良かったと思う。
姉と兄…サナとデアメンは今は団長、副団長になって、この魔術師団をより良くしようと努力している。
マリーという人物はいないことにされている。それはカエミナも同じだ。
私はエイナとしてふたりの妹で、王宮魔術師団を支えている。
そうして、魔術師団のトップの兄弟姉妹として君臨している。
その両親については…だれも触れないそうだ。
ユタ 〜継母にも格の違いを見せましょう〜
僕はユタ。今は孤児だ。両親は商会を経営していた。
毎日物乞いをしたりしてなんとか過ごしている。
ある日、僕は路地を歩いていた。そしたら、小綺麗な服を着た人が歩いていた。いいなぁ、って思って見ていたら、突然声をかけられたんだ。
「お前!」
「え?え?一体…」
まさかの僕に声をかけてくるなんて思っていなかったから驚いた。
「このお金で働かない?」
そのお嬢様風の少女は、僕に金貨を1枚渡してきた。
金貨を1枚なんて…
今まで孤児として過ごしていた僕にとっては、いや、誰にとっても大きいだろう。
「え!?どんな仕事ですか?」
「私の役に立つ仕事。」
なんだよそれ、って思った。
お嬢様だしメイドみたいなものが欲しいんだろう、そう思った。
僕は別に構わなかった。
「時間は?」
「そうね…とりあえず3日くらい?」
3日働くだけで金貨1枚!
これは基準をはるかに超える相場だ。
そして、
ー これを成功すれば、次からも雇ってもらえるかもしれない。
そういう思いがあった。
「働きます!」
「汚いね。早く洗ってきてくれない?水はあげるから。」
「え?どこに?」
水なんて貴重すぎて雨の日以外身体を洗えない。
「ウォーターシャワー! ほらね。」
「凄いです!」
凄いと思った。
まず、魔術を使える人が限られているからだ。
しかも、量も多い。
これで感動しないわけがなかった。
「ほら早く!」
せっかく水があるからと、丁寧に体を洗い流し、髪も軽く濡らす。石鹸はないけど仕方がない。
「遅い!」
「すみません、丁寧に汚れをとっていたらこんな時間に…」
「これを着なさい」
少女は、いつの間にか服を持っていた。きっと…誰かに頼んだのだろうと今ならば思える。
「ありがとうございます!」
「仕事内容はあなたの役に立つ…でしたよね?内容は?」
「そうね…今、住む場所に困っているの。探してきてくれる?」
「はい!いい場所を知っています!ついてきてください!」
やった!これなら役に立てる!
「ここです。」
「狭いし汚い!もっと綺麗な部屋はないの!?」
ひぃぃ…怒られた。
「すみません。じゃあこっちに!」
「ここでいい。入っていいの?」
「少し待っていてください。」
「はやくしてよね。」
「あの…」
「何?」
「お金を…この家は借りるのにお金がかかるんですよ。」
「はぁ…これくらいでいい?」
金貨を10枚くれた。
金銭感覚がないお嬢様なのかな、と思った。
「ではとりあえず3日分借りてきます!」
簡単に借りることが出来た。
「借りれました!」
「遅い!」
「すみません!」
「まあいいや。入っていいの?」
「はい!あと、これが余りのお金です。」
「余ったの?じゃあもらっておくわ。」
「あの…」
このお嬢様は、お金はたくさんあるようだ。だが、それだけではいずれ尽きてしまう。
「何?」
「お金は…稼がなくていいんですか?」
「お金?稼いだほうがいいの?」
「もちろん!」
何を言っているのだろう?働かなくてどうすると言うんだ?
「ではやるわ。あなたに任せていいの?」
つまりこのお嬢様に雇われて僕が働くということか。十分だろう。
何にしようか…
僕だったら…安価な水が欲しい。
「ええと…水を魔術でくれませんか?」
「水?それだけでいいの?」
「はい!十分です!」
次の日から、早速働くことにした。
「水はいりませんかぁ!」
「水はいりませんかぁ!」
そう声を出しながら、通りを歩く。
「とてもきれいな水です。安いですよー!」
親の商売を少しは見てきた。だからある程度は分かる。
昼食の時間には、いったん戻って食事を作った。
少しはうまくなったのではないか。だけど…
「まずい!」
と、声を荒げてられてしまった。
そして、夕方、帰った。大量の銅貨をもって。
「これは何なの!?」
「銅貨…ですけど。」
「これが銅?銅はこんなにみすぼらしくないわ!」
何を言っているんだ?こんなに光を反射している。そしてこんなに茶色っぽいのは銅以外にありえない。
「いえ、これが銅です。」
「本当にこれが銅貨?」
「はい、そしてこっちが銀貨、さっきあなたが持っていたのは金貨です。」
分かっていることのつもりでいたが、驚いた顔をされた。
知らなかったのか?
「そう、じゃあいいわ。」
「では、夕食を作るので少し待っていてください。」
「できるだけ美味しくしてよ。」
「気をつけます!」
頑張って作った。だけど、今までずっと美味しくは作れなかった。
大丈夫かな…?
心配しながら出す。
「ええと…出来ましたが…」
「いただくわ。」
「まずい!」
やっぱり言われてしまった。
「すみませんっ!」
「だけど、さっきよりは美味しくなっているわ。もっとこれから頑張りなさい。」
「はい!」
嬉しかった。
このお嬢様。意外と悪い人ではなさそうだ。そんな気がした。
「少年!」
呼ばれた。
「何ですか?あと僕はユタです。」
「これからどうするのがいいか、教えてくれない?」
「そのためには…あなたのことを知る必要がありますね。」
僕達はまだお互いの名前も知らない。そんな関係だ。
今回僕は少し踏み込んでみることにした。
「分かったわ。」
あっさりと教えてくれた。
彼女…マリーは親に捨てられたそう。魔術は得意で、宮廷魔術師である両親からも目をかけられていた、などなど。
だったら…
「名前を変えてみたらどうでしょう?」
「え?」
「だって、マリーでいる限りあなたはその両親に囚われていることになる。だったら名前を変えて、新しい自分になってみるといいんじゃないですか?」
「面白そうね、やってみましょう!では…私の名前はエイナ。平民。そして姉と兄はいるけど両親は知らない。そんな感じでどう?」
「いいんじゃないでしょうか?」
「まって、ユタ。私は平民よ。かしこまられる必要は…」
「けれど雇い主です。」
「では命令します。あなたは私に敬語を使わないで。」
「はい…いや、うん。」
無茶苦茶なお嬢様だ。
あれからも働いた。水を売る他にもものを売ったりもするし、エイナもついてきてくれたときには、火を付ける…という商売もやったりしている。
手頃な価格で売っているため、受け入れてもらえたし、時々はボランティア孤児たちに水をあげたりしている。
僕は、情報を集めて、できるだけエイナの役に立とうとしている。
あと、最近は給料を少し減らしてもらっている。
だって住み込みで食事はエイナ持ち。僕は働くだけ。
それだけの仕事で3日で金貨を1枚もらうのは申し訳ない。
やっと、1ヶ月1金貨に最近はなってきた。それでもまだ十分多い方だと思う。
しかも、昼食さえ作っていれば休暇を取ることもできる。
その時はよく孤児を見に行っている。
ただ、喋る相手をしているだけしか出来ないけど。
それから1年が経った。
僕は、ある情報を手に入れた。
ー 魔術師団入団試験がある。
そんな情報だった。
早速エイナに伝えた。エイナならきっと受かると思うから。
エイナに手続きは任されたため、お金を持って出ていく。無事、手続きは終わった。
「ねえエイナ、魔術師団には両親がいるんでしょ?だったら髪と目も変えたほうがいいんじゃない?」
「そうね。良さそう。」
エイナは素直だ。
僕の助言もちゃんと聞いてくれる。
こんなに素直な子を捨てた両親が信じられない。
通知が着た。
「エイナ、合格だってよ!」
「本当?」
「あぁ。」
「では、私は魔術師となるのね。」
「そうだよ!名誉なことだよ!1週間後に入団式があるらしい。」
「そう、それに参加すればいいのね。」
なんでかすごいことのように思っていないんだよなぁ…。
まあエイナらしい。
「そうだよ。国王陛下も現れるんだって。」
「分かった。準備物は?」
「特に無い」
「楽しみね。」
「うん。見に行けないのが残念だ。」
あぁ…エイナの晴れ姿、ぜひ見てみたかった。
「ふふ、ありがとう。」
噂話で、今年は話題になっているという情報をつかんだ。
昔…8年前、サナという少女が11歳で合格したそうだ。
そして今回が、エイナの11歳での合格。
期待できると思うのは無理もない。
だって、そのサナという少女は1ヶ月の演習期間後、宮廷魔術師団に入るという大出世を果たしたからだ。
「たくさん噂されているね。」
「そうね。」
「最近は売り上げがさらに増えているよ。エイナのお陰だ。」
「そのことだけど、私が魔術師団に入った後どうするの?」
「続けなさい。この1年で、みんなの生活にも溶け込んでいるのに、なくすのは駄目よ。」
「分かった。」
さすがエイナだ。みんなのことも考えている。
「入団式お疲れ様。」
「ありがとう。」
「明日から演習期間か。頑張るんだよ。」
「一生懸命しろ、って言うんでしょ。」
「分かってるならいいや。」
そして、しばらくがたった。エイナは第1魔術師団として日々を過ごしている。
「ねえユタ。」
「何?」
「私、今日お姉ちゃんとお兄ちゃんに会えたの。」
「え?誰だったの?」
「サナさんとデアメンさん。デアメンさんが兄なのは知っていたから、サナさんがもしかしたらサナさんも姉なのかな、とは思っていたんだけど、本当にそうだった。」
「喋ったのか?」
どういうことだ?
今のエイナは変装していて名前も変えている。なのに妹だと認められたということか?
一体何が…
「そう、あっちから話しかけてもらったんだ。変装しているね、って言われちゃった。」
「え?」
変装がバレたのか…
「それで?」
「私も変装しているんだよ、ってお姉ちゃんが」
「サナさんも変装していたんだ。」
「うん。それで、お姉ちゃんが変装を解いてくれたんだけど、記憶の中のお姉ちゃんと一緒だった。」
「良かったじゃん。」
「ユタのお陰だよ。」
「え?」
「ユタが私に魔術師を勧めてくれたから会えたんだ。」
あぁ…エイナは優しい。
こんな孤児を気にする必要なんてないのに。気にしてくれる。
まあそんなことをいってもエイナははぐらかすんだろうな。
いつの間にかエイナのことに詳しくなっていた。
もう、エイナは大切な存在だ。それは間違いない。
「あ、そうだ。話の流れでユタの話に行ったから今度この家に来るかもしれない。」
「え!?」
「今度から、もっと頑張る。二人に追いつけるように。」
「うん、それがいいよ。」
エイナらしい。
「あ、そうだ。両親にあった。」
「それは…大丈夫だった?」
「なんか絡んできたんだけど、なんか後悔しているみたいだった。」
「自業自得だね。」
「その通り。お姉ちゃんが気持ちよく言い返してくれた。スッキリしたなぁ。」
やはりエイナの親は許せないなぁ。
あんなに優しいエイナがこんなにも怒っている。
「それでいいよ。」
2年後、エイナは宮廷魔術師団所属になった。
兄弟姉妹で三連続で宮廷魔術師になった例は始めてだ。
誇らしい。
「ユタ!」
「おめでとう!」
「ありがとう。お姉ちゃんにもお兄ちゃんにも会えたんだよ!」
「良かったな。」
「で、3日後ここに連れてくることになったから。」
「え?」
「いいでしょ?」
「いや…いいけど。」
そして、その日はやってきた。
「ただいまー、ユタ」
「あ、おかえり、エイナ。この人たちが兄と姉?」
「そう。」
「はじめまして。ユタです。」
「こちらこそはじめまして、姉のサナです。」
「はじめまして、兄のデアメンだ。」
「本物?」
信じられない。次の時期王宮魔術師団団長と副団長になると思われている2人が目の前にいるなんて。
「そうだよ。」
「すごい!感激しました!」
「良さそうな子ね。」
「あぁ、信頼はできそうだ。」
信頼されてもらって何より。
「あのさ、始めのころエイナがあたり散らかしていたという噂があったのだけど、あれって本当なの?」
そんな噂もあったなぁ。
「違います。まぁあれは…エイナの前では話せませんね。また今度お会いしましょう。」
「そう。では今回は諦めましょう、また今度ね。」
「仕方ないか…」
「遊びに来たよー!」
「久しぶりだな、ユタくん。」
「お久しぶりです。本当に来たんですね。」
「敬語じゃなくていいんだよ?」
「だけどこんな大物を前にして…」
「エイナも十分大物よ。」
「それもそうだ。じゃあ普通に。」
「それでいいわ。さっそくあの噂の真偽の程を教えてくれない?」
「分かりました。」
そして、あの噂は違うことを教えた。
実際はエイナは当たり散らかしていないこと、ただ文句を言っていたり、少し命令口調だっただけであること。
そして、エイナはそのことを傲慢になったと思っていること。
「そう、そんな事実があったのね。感謝するわ、ユタ。あなたがエイナにはじめに雇われて良かった。」
「俺からも礼を言う。ありがとう。ところで…君はエイナを好きなのか?」
「かもしれない…という感じです…。」
「そっか、気づかないようにしていただろうに悪かったな。」
優しいな。そう、気づかないようにしていた。だけど家族の前では嘘を言うことは出来ないから、伝えた。
道を歩いていると、声を掛けられた。
「あなた…ユタ?」
昔の記憶が蘇ってきた。僕は…この人に、捨てられたんだ。
「だれ?」
「僕の…母だ。」
「そうなのね。」
「どこに行っていたの!?探していたのよ!」
嘘だ。今までお前らを見かけたことはなかった。しかもあんなに堂々と物を売っていた僕を今まで1回も見つけられなかったのはおかしい。
「エイナ、僕は家出したんだ。」
「そうなのね。では私はあなたの味方に付くわ。」
「いいの?」
何も聞かずに味方してくれるとは思っていなかった。
「あなたは誰?」
「ユタの今の雇い主…いや、友達です。」
「ユタを私に返しなさい。」
「嫌です。ユタは今はもうあなたたちの家族ではない。」
「いいえ、家族よ。」
なぜ!?
あなたたちにとって家族というものはこき使って使い捨てるだけのものだろう!?
僕はあなた達の家族ではない!
「ユタは嫌がっていますので。」
「だから何?家族のほうがつながりは強いわ。」
「だったら、ユタ、私たちも家族になりましょう?私、ユタだったら別にいいわ。」
「エイナ、そんな簡単に決めては…」
「ユタは嫌なの?」
「嫌じゃない! 嫌じゃないけど…」
「では決定ね。というわけで、私たちは家族なのでユタはこちらがいいと言っていいるので、そのままで。ちなみに私は宮廷魔術師のエイナです。先日なった。聞いたことがありませんか?」
「なっ…」
ざまあみろ。
「エイナ…ありがとう。気持ちよかったよ。あの女のあんな顔が見られるなんて。」
「それは良かったわ。私も両親のあんな顔、見たかったなぁ。」
そっか、エイナは自分の親に当てはめてくれたんだ。
「それで、エイナ、さっきのことだけど…」
「あぁ…あれね。私はまだ13歳。まだ早いわ。その時まで待ちましょう。」
「嬉しい!」
「それは良かったわ。私も喜んでもらえて嬉しい。」
両親には復讐でき、想い人と結ばれそうで、今僕は最高に幸せだ。