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目次
手鏡と白石
第七師団の斥候を撒き、一行は二手に分かれて合流地点を目指していた。
杉元とアシㇼパは獲物を追い、楓は白石と共に薪拾いを担当する。
(もうすぐ合流……。杉元さんに会う前に、ちゃんと整えなきゃ!)
楓は周囲の安全を確認すると、朱色の袴の隙間、ポケットに手を入れた。
そこには彼女の魂とも言える「くし」と「手鏡」があるはずだった。
「…………ない」
指先が虚空を掴む。血の気が引いた。
激しい逃走劇の最中、どこかで落としたのか。
「おい楓ちゃん、どうした? 腹でも下したか?」
鼻をほじる白石を、楓は殺気すら籠もった冷徹な眼差しで射抜いた。
「白石さん。……私、落としました」
「へ? 弾丸か? 毒か?」
「『くし』と『手鏡』です。杉元さんに、ボサボサの髪を見られるわけにはいきません……!」
「……はぁ!? そんなもん、その辺の川の水面で自分を見りゃいいだろ。合流を急ごうぜ」
白石が肩をすくめた瞬間、楓の太ももの箱から二丁の改造拳銃が吸い込まれるように抜かれた。
「戻ります。……邪魔するなら、白石さんの頭を鏡代わりに磨き上げますよ(物理的に)」
「わ、わかったよ! 付き合えばいいんだろ! 怖ぇよ!」
影の掃討作戦
二人は来た道を引き返した。
だが運悪く、落とした鏡の近くには、先ほど撒いたはずの第七師団の兵士が三人、不気味に佇んでいた。一人が地面に落ちた手鏡を拾い上げ、下品に笑う。
「へぇ、こんな山奥に女の持ち物か? 杉元の連れか——」
その言葉が終わる前に、銃声が二発重なった。
楓の放った弾丸は、鏡を持っていた男の「手首」のすぐ横を掠め、驚いて手放させた鏡を空中でキャッチさせる隙を作らせないほどの速射だった。
「ひっ、伏せろ!」
兵士たちが銃を構えるより速く、楓は朱色の袴を翻して雪原を舞った。
二丁拳銃が火を噴く。だが、急所は外している。死体が増えれば、後で杉元に怪しまれるからだ。
「消えてください。……私の大事な時間を、邪魔しないで」
冷酷な一撃が兵士の足元を撃ち抜き、戦意を喪失した彼らが逃げ出すまで、わずか数十秒。
楓は雪の上に落ちた「くし」と「手鏡」を素早く拾い上げ、丁寧に懐紙で汚れを拭った。
完璧な再会
数分後。合流地点の焚き火の前。
杉元とアシㇼパが待つ場所へ、楓がしずしずと現れた。
「あ、杉元さん……! お待たせしてすみません。薪拾いに手間取ってしまって……」
そこには、一糸乱れぬ黒髪を整え、上気した頬で微笑む「守られるべき乙女」がいた。
少し前まで銃火器をぶっ放していたとは微塵も感じさせない、可憐な佇まい。
「おう、楓ちゃん。怪我はないか? 随分と顔色が良くなったな」
「えへへ……杉元さんの顔を見たら、元気が出ちゃいました」
恥ずかしそうに俯く楓。その背後で、泥だらけでガタガタ震えている白石に、杉元が眉をひそめる。
「おい白石、お前なんでそんなにボロボロなんだよ」
「……聞くな、杉元。この女は……この女は、鏡一枚のために第七師団を一人で半殺しに——」
「白・石・さ・ん?」
楓が手鏡をポケットにしまいながら、首だけで振り返り、天使のような笑顔(眼球は笑っていない)を見せる。
「し、師団を撒くために、俺が……俺が一人で囮になって頑張ったんだよ! 褒めてくれよ杉元ぉ!」
白石の絶叫が雪山に虚しく響く中、楓はこっそりと杉元の隣に座り、整えたばかりの髪をさらりと揺らした。
(よかった……。世界で一番、綺麗な私で会えたわ)
次のステップはどうしますか?
白石のライフポイントがゴリゴリ削られていますが、次はどんなお話にしましょう?
「杉元の好みのタイプ」を探る!(アシㇼパに相談するが、返ってくる答えが「オソマを美味しそうに食べる女」とかで楓が混乱する)
改造拳銃のメンテナンス中に……(杉元に道具を見られそうになり、咄嗟に「裁縫道具です!」と言い張る無理のある展開)
温泉回!(脱衣所で白石に「太ももの箱」を見られそうになり、楓が隠密スキルを駆使して阻止する)
ご希望があれば教えてくださいね!
温泉と白石。
一行がたどり着いたのは、深い山奥にひっそりと佇む古びた温泉宿だった。
「たまには羽を伸ばそうぜ」という杉元の提案に、楓の胸は高鳴る。
(杉元さんと同じ屋根の下で、お風呂……! 女湯は別だけど、お風呂上がり、きっと少しだけ艶っぽくなった私を見て、杉元さんがドキッとしちゃうかも……!)
だが、楓には致命的な問題があった。
「太ももに括り付けた武装箱(便利道具入り)」をどう隠すか、である。
脱衣所の刺客
女湯の脱衣所。
楓は素早く服を脱ぎ、タオルを巻くが、太ももの箱だけは外せない。予備の弾丸、毒、そして先ほどまで使っていた改造拳銃……。これらは彼女の命、そして「杉元の影の守護者」としての誇りだ。
(……よし、大きなバスタオルで隠せばバレないわ)
意を決して浴室へ向かおうとしたその時。
「おーい、アシㇼパちゃーん! 忘れ物だぞー!」
ガラッと戸が開いた。入ってきたのは、あろうことか白石である。(※もちろん、男湯と間違えたか、いつものデリカシーのなさである)
「あ、楓ちゃん。なんだ、まだ入ってなかったのか」
「…………白石さん。……死にたいんですか?」
「ひっ!? いや、アシㇼパちゃんに石鹸を届けようと思って……って、え、何その足? なんでそんなゴツい箱巻いてんの?」
湯気の中の「曲芸」
白石の目が、楓の白い太ももに鎮座する「魔改造された黒い箱」に釘付けになる。
「……これは、最新の……サポーターです。里で流行っているんです」
「嘘つけ! 鉄の匂いがプンプンすんぞ! それに、さっきチラッと見えたけど、それ銃のグリップじゃないか……!?」
白石がデリカシー皆無で指を指した瞬間、楓の逆鱗に触れた。
外は杉元がいる。大きな音は出せない。
楓はバスタオルを片手で押さえながら、もう片方の足で白石の顎を無言で蹴り上げた。
「あぐっ!?」
「静かに。……もし杉元さんに『楓ちゃんって脚にえげつない武器仕込んでるよね』なんて一言でも漏らしたら……。白石さん、あなたのその頭、温泉の温度で茹でタコにしますよ?」
「……っ、わ、わかった、わかったから! その、脚を下ろしてくれ! 目のやり場に困るだろ!」
白石は涙目で脱衣所を這い出した。
湯上がりの奇跡
その後。
なんとか箱を防水の布で包み、湯船の端っこで「絶対に見られない角度」をキープして入浴を終えた楓。
湯上がりに、くしで丁寧に髪を整え、朱色の袴を履き直す。
宿の廊下で、杉元と鉢合わせた。
「あ……杉元さん」
「おっ、楓ちゃん。……なんだか、いつもより綺麗だな。湯あたりしてないか? 頬が赤いぞ」
杉元が心配そうに、楓の額に手を当てる。
その優しさに、楓の心臓はバックバクだ。
「は、はい……! 杉元さんと……あ、いえ、温泉、とっても気持ちよくて……」
(太ももの箱が重くて、実はお湯の中でも片足立ちで筋トレ状態だったなんて……絶対に言えない!)
そんな二人の様子を、遠くから頭にコブを作った白石が、恨めしそうに眺めていた。
「(……あの女、あんな凶器を隠し持ってて、よくあんな可愛い顔ができるな……。杉元、お前、いつか寝首をかかれるぞ……。いや、愛が重すぎて撃ち抜かれるのか……?)」
白石の独り言は、温泉の心地よい水音にかき消されていった。
プレゼントありがとう
温泉宿の縁側。湯上がりの夜風が、楓の濡れた黒髪を優しく撫でる。
彼女はいつものようにポケットから「手鏡」を取り出し、月の光を頼りに身だしなみを整えていた。
(よし、お風呂上がりも完璧……。あとは杉元さんと少しお話しできたら……)
その時、背後から聞き慣れた、少し低い心地よい声が響いた。
「楓ちゃん。湯冷めするぞ」
「ひゃいっ!? す、杉元さん!」
驚きのあまり、手鏡を落としそうになる。慌ててキャスケットを深く被り直すが、杉元は苦笑しながら彼女の隣に腰を下ろした。
「悪い、驚かせたな。……あー、その、なんだ。これ、さっきの街で見かけてさ。楓ちゃんに似合うかなって」
予期せぬ贈り物
杉元が差し出したのは、小さく畳まれた紙包みだった。
震える手でそれを受け取り、開けてみる。中から出てきたのは、楓の袴と同じ、鮮やかな朱色のリボンだった。
「いつもキャスケット被ってるけど、たまには髪を結ぶのもいいかと思ってさ。その……里の流行りなんだろ? 赤い色」
「…………っ!!」
楓の心臓が、二丁拳銃の連射音よりも激しく打ち鳴らされる。
杉元が自分の好みを(勘違いとはいえ)覚えていてくれた。そして、自分のためにこれを選んでくれた。
「あ……ありがとうございます……! 私、一生、一生大事にします……! お墓まで持って行きます……!」
「はは、大袈裟だな。……あ、でも、俺が結ぶのは流石に下手くそか。アシㇼパさんに頼むか?」
「いえっ! 私、自分で結びます! 今すぐ!」
楓は夢中で髪をまとめ、不器用ながらもサイドでリボンを結んだ。
「どう……でしょうか」と、上目遣いで杉元を見つめる。
「……あぁ、やっぱり似合うな。可愛いよ、楓ちゃん」
杉元のその一言で、楓の脳内は幸せの花火で埋め尽くされた。
混浴。
山あいの隠れ湯。杉元たちの目的は、刺青の囚人の情報を追ってこの温泉宿に立ち寄ることだった。
「楓ちゃん、里では『温泉は一人ずつ入るもの』って教わったんだって? 小樽の銭湯とは勝手が違うもんなぁ」
脱衣所で杉元がのんびりと声をかける。楓は「はい……」と小さく頷き、母の形見のキャスケットを大切に棚へ置いた。
彼女の故郷では、湯浴みは神聖でプライベートな儀式。まさか男と女が同じ湯船に浸かる「混浴」という文化があるなんて、夢にも思っていなかったのだ。
(杉元さんに、少しでも綺麗だと思われたい……)
ポケットから出した手鏡で前髪を整え、くしをひと回し。
楓は朱色の袴を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿で、湯煙に包まれた内湯の扉をそっと開けた。
「……ふわぁ、あったかい……」
視界が真っ白で何も見えない。それが幸いした。
楓はタオルも巻かず、そのままトコトコと洗い場を通り過ぎ、大きな岩風呂へと足を踏み入れた。
が。
「おっ、楓ちゃん来たか! 遅かったじゃねえ……ブフォォォッ!!?」
湯船の隅で、酒を片手にくつろいでいた白石が、盛大に酒を吹き出した。
隣にいた杉元も、手桶を落としてガランと高い音を響かせる。
「し、白石!? 汚ねぇな、おまっ……って、か、楓ッ!!?」
霧がふっと晴れた瞬間。
そこには、何も身に着けず、白く柔らかな肌を惜しげもなくさらけ出した楓が、呆然と立ち尽くしていた。
「あ……杉元……さん? 白石……さん?」
楓の思考が止まる。
杉元は腰にバスタオルを巻いている。白石も、一応申し訳程度に布を当てている。
……そして自分は。
「な、ななな、なんで……お二人が、ここに……!?」
「なんでってお前、ここは混浴だぞ!? 楓ちゃん、タオルは!? 里の流行りは全裸入浴なのか!?」
白石が鼻の下を伸ばしながら叫ぶ。
「ばっ、馬鹿野郎、白石! 見るんじゃねぇ!!」
杉元は瞬時に楓に背を向け、自分の肩にかけていた手ぬぐいを、見ないように後ろ手で楓の方へ差し出した。その耳たぶは、これまでに見たことがないほど真っ赤に染まっている。
「ひゃ、ひゃああああっ!!」
ようやく事態を把握した楓は、顔から火が出るほどの羞恥心に襲われた。
「強い女はモテない」どころの話ではない。これでは「ただの破廉恥な女」だと思われてしまう!
「ご、ごめんなさい! 混浴なんて知らなくて……っ! 私、私っ!!」
パニックになった楓は、杉元の手ぬぐいをひったくるように受け取ると、あまりの恥ずかしさに、そのままお湯を蹴立てて逃走……しようとして、岩に躓いた。
「危ねぇ!」
杉元が反射的に振り返り、倒れそうになった楓の腕を掴む。
至近距離。湯気に濡れた楓の肩と、杉元の逞しい胸板が触れ合う。
「あ……」
「……楓。……ごめん、すぐ出るから。……その、……綺麗、だった」
最後の一言は、消え入りそうなほど小さな声だった。
杉元は慌てて楓を放すと、白石の首根っこを掴んで、逃げるように脱衣所へと消えていった。
一人、湯船に残された楓は、借りた手ぬぐいで顔を覆い、そのままお湯の中に深く沈んでいった。
太ももの「隠し箱」も武器もない、一番無防備な姿を見られてしまった。けれど。
(……『綺麗だった』って、言った……?)
のぼせたのはお湯のせいか、それとも。
翌朝、杉元と目を合わせる勇気が出るまで、楓が湯船から出てくることはなかった。
媚薬。
コタンの夜は更け、小さなチセの中には楓と杉元の二人だけが残されていた。
いろりの火がパチパチとはぜる音だけが響く中、杉元の様子がおかしいことに楓が気づくのに、そう時間はかからなかった。
「……杉元、さん? 顔、真っ赤だよ。熱でもあるんじゃ……」
楓が心配して手を伸ばした瞬間、その手首を強い力で掴まれた。
杉元の荒い呼吸が、静かな室内でやけに大きく聞こえる。
「楓……離れろ。……今すぐ、外に行け」
絞り出すような声。いつもなら優しく細められる彼の瞳は、今は獲物を狙う獣のような鋭さと、得体の知れない熱を帯びていた。
先ほど、聞き慣れない商人から「滋養強壮に効く」と渡された怪しげな薬を、杉元は毒見のつもりで口にしていたのだ。それが、理性を焼き切るほどの**「媚薬」**だとは知らずに。
「でも、そんなに苦しそうなのに放っておけないよ!」
「……っ、言うこと聞けってんだ……!」
杉元の指が楓の手首に食い込む。
彼は必死に耐えていた。楓を傷つけたくない、大切にしたいという理性が、脳内を暴れ回る衝動と激しくぶつかり合っている。
「俺は……不死身の杉元なんだ。こんな、安っぽい薬なんかに……」
そう言いながらも、杉元は楓の首筋に顔を埋めた。
熱い吐息が肌をかすめ、楓は小さく肩を震わせる。杉元の身体は、まるで焚き火のように熱い。
「……楓、お前、いい匂いがしすぎる……。ダメだ、もう……制御が、効かねえ……」
「杉元、さん……」
名前を呼ばれた瞬間、杉元の何かがプツリと切れた。
彼は楓を床に押し倒すと、覆いかぶさるようにしてその視線を支配する。軍帽が落ち、乱れた髪の間から覗く瞳は、もう「兵士」ではなく「一人の男」のものだった。
「……逃げろって言ったよな? 楓」
低い、鼓膜を震わせるような声。
杉元の大きな手が楓の頬を包み込み、親指で唇をなぞる。
「……もう、止めてやんねえからな」
理性の堤防が決壊し、杉元は飢えた獣のように楓の唇を塞いだ。
外の寒気とは対照的に、チセの中の温度は、二人の熱によってどこまでも上がっていくのだった。
女の子。
杉元が楓を愛おしそうに抱き締め、その額に自分の額をそっと押し当てて「……代わってやりてぇよ、楓」と、消え入りそうな声で呟いていた、その時。
「おーーーいッ!!杉元ォ!シライシ様のお帰りだぜぇッ!!」
ドカーン!と景気よく番屋の戸が蹴り開けられた。
吹き込む雪風と共に転がり込んできたのは、酒の瓶を抱え、鼻を赤くした白石由竹である。
「見てくれよ、村の連中から酒をくす……ゲフッ、譲り受けてきたんだぜ!これで景気よくパァーッと……」
白石の言葉が止まった。
焚き火の薄明かりの中、親の仇を見るような、あるいは人食い熊をも凌駕する殺気を放つ杉元の顔がそこにあったからだ。
「……あ? なんだよ杉元、その顔。……えっ、何。楓ちゃん抱っこしてんの? お熱いねぇ〜、このこのッ!」
白石がニヤニヤしながら指を差した瞬間、杉元の血管がピキリと浮き出た。
1. 杉元の「静かなる怒り」
「……白石。今すぐその口を縫い合わせて、雪の中に埋めてやろうか」
地獄の底から響くような声。杉元は楓を冷やさないよう、そっと毛布で包み直してから、立ち上がることなく白石を睨みつけた。
「楓は今、体調が悪いんだよ。静かにしろって言わなかったか?」
2. 白石の「余計な一言」
「えぇ〜? 体調悪いって、なんだよ。……あぁ、もしかしてアレか? 女の子の『アレ』の日か? だったらこの酒を飲めば血の巡りが良くなって……」
「ぶっ殺すぞ白石ッ!!!」
杉元が枕元にあった薪(まき)を全力で投げつける。白石は間一髪で避けたが、薪は背後の壁に突き刺さった。
「ヒッ……!? 冗談だよ! 冗談だってば! ほら、これ! 薬湯の材料も買ってきたんだよ、マジで!」
3. 結局、世話焼きな男たち
白石が慌てて懐から取り出したのは、村の老婆から「腹痛によく効く」と教わったハーブの束だった。
「……ったく、デリカシーのねぇ野郎だ。……おい、白石。さっさとそのお湯沸かせ。楓が寒がってるだろ」
「へいへい、仰せのままにッ! ったく、杉元は楓ちゃんのことになると余裕がねぇんだから……」
ブツブツ文句を言いながらも、白石は手際よくお湯を沸かし始める。
杉元は再び楓を腕の中に収めると、彼女の耳元で「……うるさくしてごめんな、楓」と、さっきの修羅が嘘のような優しい声で囁いた。
女の子。2
「なんだよぉ、そんなにピリピリすんなって!楓ちゃんだって、そんなに甘やかされてたらダメになっちゃうぜ?」
白石は焚き火のそばで、酒の匂いをさせながらヘラヘラと笑い飛ばした。
「腹が痛いぐらい、アイヌの娘さんは山を駆け回って治すもんだろ。大げさなんだよ、杉元も楓ちゃんも……」
その、何気ない、けれど今の楓にとっては鋭い刃のような言葉。
体調が悪くて、みんなの足を引っ張っているという自責の念。
杉元に甘えすぎてしまっているという申し訳なさ。
それらが一気に溢れ出し、楓の目からポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……っ、ごめん……なさい。私が、弱いから……」
楓が顔を伏せて声を殺して泣き始めた瞬間、番屋の中の空気が**「凍りついた」**。
1. 杉元の「本気の殺気」
杉元がゆっくりと立ち上がる。その顔には、先ほどまでの優しさの欠片もない。
白石は、杉元の背中から立ち上る「本物の戦場」の気配に、酔いが一気に吹き飛んだ。
「……白石」
「ヒッ、あ、いや、冗談で……」
「二度と、その汚ねぇ口を開くな。」
杉元は腰の銃剣に手をかけんばかりの勢いで白石を睨みつけた。
「楓がどれだけ我慢強いか、お前に何がわかる。……お前みたいな薄情な野郎に、楓の痛みを笑う資格なんてねぇんだよ」
2. 泣きじゃくる楓への、震える手
杉元は白石を物理的に(足蹴りで)部屋の隅まで追い払うと、すぐに楓のもとへ膝をついた。
泣いている彼女を見て、杉元の大きな手が、壊れ物を扱うように震えながら彼女の頬に触れる。
「……楓、違う。違うんだよ。お前は弱くなんてない」
杉元は楓を力いっぱい抱き寄せた。白石への怒りで荒くなっていた呼吸を、彼女を安心させるために必死に整えながら。
「あんな馬鹿の言うことなんて聞かなくていい。……お前が痛がってるなら、俺にとってはそれが世界の終わりみたいに重大なことなんだ。泣くな、楓。俺のせいで泣かせたみたいで、胸が張り裂けそうだよ……」
3. 白石の「猛省」と杉元の独占
隅っこでガタガタ震えていた白石も、ようやく事の重大さに気づき、シュンと項垂れる。
「……悪かったよ、楓ちゃん。……杉元も、そんな怖い顔すんなよ……」
「白石。お前は一晩中、外で見張りしてろ。……楓の泣き顔を見られたくないんだ、お前なんかに」
杉元は楓の耳を塞ぐように抱きしめ、彼女の髪にそっと唇を寄せた。
「大丈夫だ、楓。俺がついてる。……全部、俺が守ってやるから」