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目次
一
事件はどんよりとした金曜日の休み時間に起こった。
「ねえ、これ君の?」
隣の席の園田さんが見覚えのあるノートを片手に訪ねてくる。
こんなおどおどしてていつも本を読んでるような陰キャに声をかけてくるなんて。
しかもその相手はあのクラス一美女の園田さん。
真逆の僕に何の用だ。
「ねえ聞いてる?」
「あ、え、え?」
園田さんが声をかけてきたことで頭がいっぱいになり、彼女がなんて口にしたのかわからなかった。
「だーかーらー、これ君の?」
「あ、えっと、」
「これ、濱村くんがかいたんだよね?めっちゃ上手じゃん!」
「あ、えっと、いや、」
「濱村くんもハートツインズ好きなの?!えー意外!誰が好きー?私ミラクル!」
彼女には僕の言葉が聞こえていないようだ。
「いやそれ僕のじゃ…」
「え?濱村っちのでしょ?嘘はダメだよー嘘つくときの顔してる」
驚いて目を見開く。
「え、なんでわかったの。てか濱村っちって」
「いやー私って目がいいから?人のちょっとの変化も気づいちゃうんだー濱村っちは濱村っちでしょ?私ずっと前から心の中で濱村っちのこと濱村っちって呼んでるよ」
「へ、へーってえ、そ、そうなんだ」
彼女はご満悦な様子で笑みを浮かべ、長い髪をクルクルと回す。
どうしてそんなに元気なんだろう。もうテスト一週間前なのに。
「てかまた聞いちゃうけど濱村っちってハートツインズ好きなの?ラッキーの絵描いてるぐらいだからミラクルじゃなくてラッキーが好きなの?」
「う、うん」
「ちょっとみーせて!」
「うわ!」
彼女は僕の手からノートを奪い取り、ページをパラパラとめくった。
「やっぱ上手だねー!今度ミラクルもかいてよ」
「…まあいいけど」
「やったー!」
彼女は宝くじが当たったのかというぐらいにキャキャキャと笑い、整った顔が少し幼くなる。
「じゃあどの構図がいい?」
「じゃあ指ハートで!それか手をハートにした感じとか!ハートは濱村っちが描きやすいやつでいいよ!私への愛を込めて描いてくれてもいいんだよ?キャキャキャ」
彼女はまた独特な笑い方で肩を揺らした。
「ねえ濱村っちいきなりだけど明日どっか行かない?」
「え?」
「こうして仲も深まったわけだしさ、仲良し記念みたいな?」
「今数分話しただけだけど?」
「私からしたらもう友達なの!それともなに?私のこと嫌い?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ決まりね」
テスト一週間前だけど僕は普段から勉強しているので仕方なく遊んでやることにした。
数分の話し合いの末近くのショッピングモールに行くことになった。
園田さんは僕の知らない鼻歌を歌いながら楽しそうに何かを想像している。
それを見た僕も明日のことを考えた。
明日はどの服を着て行こうかとか、何を持っていこうかとか。
考えた末、普通のTシャツにズボンで行くという結論に至った。
二
当日はいつもより早く起きてゆっくりと準備をした。
財布とスマホをカバンに入れ、服は昨日決めておいた普通のTシャツにズボン。
つまらないと思われそうだけど僕は学校でも目立っている方じゃないし、この服装もきっと想像通りだろう。
園田さんは僕が待ち合わせ場所についてから5分ぐらいしたところで来た。
園田さんはTシャツにミニスカという、性格から容易に想像できる格好をしていた。
「待った?」
「全然」
「よかった」
待ち合わせ場所はショッピングモールから少し離れていたので歩いて向かった。
信号を待っているとき、僕はカバンからノートを取り出し彼女に渡した。
「これ」
「え!もしかしてもう描いてくれたの?!ありがとう!別にそんな急がなくてもよかったんだよ?!」
「別に急いでなんかないよ。暇だったから描いただけ」
別に描かなくてもいいかなと思ったけど結局描くことにした。
ほら、僕って自分で言うのもなんだけど律儀だから。
「ありがとー!やっぱり君うまいねー私に教えてくれてもいいんだよ?今度うち来る?」
「遠慮しとく」
「えー年頃の男子なら食いつくと思ったんだけどなー」
「信号青になったよ」
彼女はニヤニヤした顔を一瞬で残念そうな顔にし、不機嫌そうに歩き出した。
僕はそんな簡単に女子の家には上がらないよ。
ほら、僕ってその辺の男と違って冷静だから。
少し歩くとショッピングモールに着き、僕らはクーラーがキンキンに冷えた建物で体を冷やすことができた。
「涼しー!やっぱクーラーは偉大だね!」
「そうだね」
「あ!アイス売ってるよ!食べようよ!」
僕らは温まりきった口を冷やすためにアイスを食べることにした。
三
「おいしいね!口の中がキンキンする!」
「そうだね」
園田さんは数分悩んだ末結局王道のバニラアイスを買った。
僕は抹茶アイス。僕は君たちと違ってそんなに子どもっぽいものは食べないんだよ。大人っぽい抹茶。
しかしこの抹茶アイスは抹茶の濃度が高いのか意外と苦く、しかめっ面をしそうになる。
「あれ?濱村っち?もしかして苦い?あれ?苦いのかな?んー?キャキャキャ」
「…。」
「図星なんだねそうでしょ!やっぱり濱村っちおもしろーい」
彼女は体を大きく揺らし歯を見せる。
「意外と苦かった」
「でしょー私言ったよ?ここの抹茶アイスは結構苦いって」
アイスを食べたあと、僕たちはぶらぶらとショッピングモール内を歩き、服を買った。
「これ似合ってるでしょ」
「似合いそう」
「今度遊ぶときに着てあげるよ。濱村っちこういうの好きでしょ?キャキャキャ」
園田さんはそう言って肩を出して着るタイプの服を見せる。
「男子はこういうの着とけば喜ぶんだよ。濱村っちもそうでしょ?」
「いや」
正直言ってこういう少し露出しているような服はあまり好きじゃないと思っている。
僕みたいな真面目で誠実な人間はイメージが大事だからね。ほんとは好きなのかもしれないけど好きじゃないと思い込ませるんだ。
「えーつまんなー」
僕たちはそんな会話をしながら数分歩き、小腹がすいたところでカフェに入った。