「クリスマスの砂糖菓子」のシリーズです。
まとめて読みたくなったら使ってください。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
クリスマスの砂糖菓子 前編
「……雪だ」
高校の校舎を出たところで、ちょうど雪が降り始めた。私──|姫清穂乃花《ひめきよほのか》が雪に手を伸ばせば、雪は手袋の上で踊るように舞ってから溶けた。
「なぁ、穂乃花」
その声に振り返ると、そこには私の幼馴染・|大塚祐介《おおつかゆうすけ》(私は祐って呼んでる)がいた。
「その、今日この後、駅前のデパートに行かないか?勉強会しようぜ」
「勉強会?」
全く自慢じゃないけれど、頭がそこまで良くない私から祐を勉強会に誘ったことはある。でも、定期テストで毎回のように上位の祐から勉強会のお誘いが来るとは。明日は雪が積もるかもしれない。
「オッケー。今日のいつくらい?」
「そうだな……五時くらいに入り口の広場集合でどうだ?」
………五時……。今日は冬休み前日だから、五時には日が暮れかけていると思うけど。でも、冬休みの課題の範囲に頭を抱えた私は、このお誘いは断れない。
「分かった。今日の五時に広場集合ね」
祐に手を振って、腕時計を見る。今は、三時二十七分。
「穂乃花~?見~た~よ~?」
後ろから声を掛けられて振り向くと、親友の|森村花音《もりむらかのん》がいた。
「見た、って……さっきの?」
「そうだよ!だってさぁ~、穂乃花がデートに誘われたんだよ!?しかもあの大塚君に!しかもしかも、クリスマスに!!絶対に大塚君、穂乃花に告白するつもりでしょ!!」
正直信じられないことに、祐は頭脳明晰、運動神経抜群、そしてイケメン(これはちょっとよく分からない)なので、それはもうモッテモテ。
だからまぁ、花音や他の女子達からしたら、そう見られるのかもしれない。私が祐にデートに誘われてるって。
でも、他にもびっくりなことがあった。
「……今日ってクリスマスだったんだ」
以上、初投稿でした。
なんか短いですが、キリはいいのでここまでにします。
誤字・脱字、変なところがあったら教えて下さい。
次回以降、投稿頑張ります!
クリスマスの砂糖菓子 中編
学校を出て花音と一緒にデパートの方に向かう。
なんでも、花音もデパートに用があるらしい。「デートに誘われたの?」ってからかい半分で聞いたら、「そうだけど?」と返された。高校生って、恋人がいるのが普通なのだろうか?
ショッピングモールゾーンに用があるらしい花音と別れて、手持ち無沙汰に腕時計を見る。三時五十二分。祐との約束の時間まではまだまだ余裕だ。
ふと、さっきの花音の言葉を思い出す。
「……まさか、ね」
祐は、チャンスを見つけたら特に何も考えずに突っ込むタイプだ。告白の相手が私の場合、いくらでもチャンスはあったはずだ。そう考えて、ただの「勉強会」だと思うことにした。
本屋さんに入ったとき、どこかレトロな何かを感じる気がする。何の本を読もうかな。どんな本があるのかな。現代には少し古いそんな思いが、本屋さんには漂っているような気がする。
「うーん、冬休みの補習は行かないから……長編小説でも買ってみようかな」
気分で小説・漫画を買う。それがマイジャスティス。というわけで、今少し話題らしい長編小説を買った。
本屋さんを出たところで腕時計を見た。
四時十四分。うん、まだ時間がある。
百円ショップと定食屋さんの間に挟まれた喫茶店に入った。
ホットココアを注文して、湯気の立つココアを飲みつつ、小説を読む。どんなものでも読み始めたら夢中になるのは、いつも思うけど何でなんだろう?
二章目を読み終わったところで腕時計を見た。四時五十一分……あれ、少しまずい?
ココアを飲み干して、注文したココアの金額を支払って、喫茶店を出る。
祐との約束の時間は五時。「五時くらい」って言っていた気もするけど、要は「五時を目安に来い」ってことなんだと思う。多分。
エスカレーターを下りて、入り口の所の広場まで小走りで向かいながら腕時計を見た。
四時五十七分。
約束の五時まで、もうすぐだ。
クリスマスの砂糖菓子 後編
後編です。
こういう表現苦手なので……すいません。
入り口の広場に着いた。
腕時計を見る。四時、五十九分。
祐は、まだ来ていない。
ゴーンゴーンと、五時の鐘が鳴る。辺りに、小さな光が溢れる。
イルミネーション、だ。
「……お待たせ」
祐が来た。手に、荷物を持っている。
「……あのさ」
「……何」
「俺……中学くらいの頃から、穂乃花が……うーん、魅力的?に……見えるように……なって……
だからさ、穂乃花。
──俺と、付き合って……くれない…か?」
イルミネーションの輝くクリスマスツリーが、私と祐を照らす。
「……わかった。いいよ。祐、……つ、付き合お」
ケーキ屋さんは混雑していると思っていたけど、まだ早めの時間だからか空いていた。
幼馴染で……ついさっき恋人になった祐と二人がけの席に座る。
「そういえば。穂乃花、これ、クリスマスプレゼント」
そう言った祐にラッピングされたプレゼントを渡される。開けてみると……さっき買った長編小説だった。
「……ごめん、祐。これ、私さっき買ってた」
「……マジか」
「あ!やっほ~、穂乃花、大塚君」
そう言って私と祐に近づいて来たのは……花音!?
「花音!?どうして……」
「あぁ、紹介が遅れたね。これ、私の彼氏」
「やっほ~、|工藤麗斗《くどうかずと》です」
工藤君は、私も知っている。確か、隣のクラスのアイドル的な男子だったはずだ。
「まさか、工藤が森村の彼氏だったとはな」
「こっちも驚いたよ。大塚は未だに姫清に告白してなかったなんてね」
「「うっ……」」
工藤君の言葉で、私も祐も赤面してしまう。うぅ。
さっき祐が注文したケーキが届いた。
「おっ、来た来た。穂乃花、この砂糖菓子いるか?」
「あっ、じゃあ貰おうかな」
小さなサンタの砂糖菓子を手で掴む。
ポリッと噛み砕いて口に含んだそれは、凄く甘くて、幸せな味がした。
一応、これで「クリスマスの砂糖菓子」本編は完結です!
この後、(公開予定の)別視点と後日譚で「クリスマスの砂糖菓子」のシリーズは完結するつもりです。
*別視点 祐介・花音
「クリスマスの砂糖菓子」の祐介視点と花音視点です。
祐介視点は穂乃花に告白したところからの祐介目線のお話。
花音視点は、麗斗と行ったケーキ屋の店内で穂乃花と祐介を見たときのお話です。
side 祐介
正直、少し夢みたいな話だと思う。
穂乃花に告白して、オッケーを貰って。
ケーキ屋でケーキを注文しながら、穂乃花にばれないように小さく溜息をつく。
溜息は、告白したことを後悔するものじゃない。むしろ、付き合えても振られても、告白したことは後悔しなかったと思う。
この溜息は、二つのことに関係している。
ひとつは、穂乃花は俺が好きというより、恋人という関係を知らないから俺と付き合おうとしてくれたんじゃないかと思うことだ。まぁ、俺も恋人という関係はよく知らないけどさ。
そしてもう一つ。穂乃花に格好つけようとしてクリスマスケーキを奢ることになったけど、穂乃花に渡したプレゼントとラッピングの代金を思うと、手持ちの金で足りない気がする。足りなかったら、色々と恥ずかしいことになると思う。
しかも、プレゼントも穂乃花がもう買ってたらしいし……。まぁ、この心配が杞憂に終わることが殆どだけど。
---
side 花音
麗斗と一緒と入ったケーキ屋で、穂乃花と大塚君を見つけた。
「あ、麗斗。あそこに私の友達と……その彼氏がいる~。あっち行こうよ」
「ん?あれ、って……大塚と、姫清だっけ。あの二人、クリスマスデートするようなカップルだったんだな」
「……麗斗。あの二人、大塚君の方が今日告ったらしいよ?」
「……マジか。大塚、姫清に惚れ込んでいたけどな」
……わ、あの大塚君がプレゼント送ってる。……おわ、穂乃花はもうそれを買ってたって?……仲良いなぁ、お幸せに。
「……声掛ける?」
「……あれを見続けるよりは、声掛けた方が良い」
ラブラブなところ申し訳ないけど、穂乃花。怒んないでね?
「あ!やっほ~、穂乃花、大塚君」
私はいつもの『脳天気ちゃん』なトーンで、ついさっき見つけた風に声を掛けた。
後日譚:バレンタイン
穂乃花達のバレンタインのお話。
バレンタインを先取りしていますが、温かい目で見てあげてください。
「……おし、こんなものかな」
「うん、まぁまぁ良い感じじゃない?」
私は今、花音と一緒にチョコレートを作っていた。もちろん、祐に渡す用のものだ。
市販のチョコを溶かして、小さなカップに入れて、上からクリームをかけたり、トッピングをすれば……完成!
「ふふ、楽しみだなぁ」
「穂乃花は大塚君とラブラブだもんねぇ?」
花音がからかうような視線を向けて来る。思わず赤面してしまう。
「か……花音だって、工藤君とラ、ラブラブじゃんか!」
「ふふっ、穂乃花と大塚君程初心じゃないも~ん」
「う、うぅ……」
言い返したい。でも、正論だから言い返せない。
「……これ、受け取ってくれるかな?」
「受け取ってくれるでしょ?だって、大塚君だもんねぇ~?」
「……うぅぅ……」
---
二月十四日、バレンタイン。
祐の下駄箱をそおっと開けると、中にはいくつか、チョコが入っていた。
「…………」
私が作ったチョコを見る。袋型にラッピングして、『祐へ』と書いたカードを添えた、祐へのバレンタインチョコ。
そおっと祐の下駄箱に入れて、そおっと閉じた。
──祐が、私のチョコに気づいてくれますように。
---
二月十四日、バレンタイン。
俺の下駄箱を開けると、いくつものバレンタインチョコがぎゅうぎゅうという言葉が似合うように詰まっていた。
「やっぱか……」
中学に上がったくらいから、二月十四日になるたびに男友達にチョコを分けることになった。別に俺は、穂乃花からのチョコが一番嬉しいけど、今まで穂乃花からチョコをもらったことはほとんどないし、もらえても義理チョコと公言されたもので、二月十四日になるたびにショックを受けた。
男友達からはよく不思議がられる。バレンタインチョコをもらって嬉しくないのかと。
たしかに、嬉しくなくもない。けど、穂乃花……思い人からのチョコが一番嬉しい。
一応、それぞれのチョコを確認する。『大塚君へ♡』『大好き♡』など……俺、一応彼女はいるんだけどな。
いくつものチョコに埋もれるようにして、ひとつのチョコを見つけた。袋型のラッピング。小さなカードに書かれた、『祐へ』の文字。
──穂乃花からのチョコだ。
俺のことを『祐』なんて馴れ馴れしく呼ぶのは穂乃花だけだ。
胸が温かくなる。───嬉しい。
いくつものチョコをリュックに入れて……穂乃花からのものだけリュックの別のところに入れて、「工藤もこんな風なのか?」と考えながら昇降口に向かった。
ほのぼのカップルのバレンタインのお話です。
自分のイメージでは、穂乃花は真面目だけどどこか抜けていて、祐介は文武両道だけど(穂乃花に)一途過ぎることが玉に瑕。花音は天然ちゃんのふりをする大人系、麗斗はそんな花音の内面のことも知って、それでいて花音を受け止めてくれる存在だと思っています。
後日譚:いつか、未来のはなし
穂乃花達のその後の話。
だいたい五年くらい後の物語。
ものすごく長くなりました……。
久々に地元の街に帰って来た。
職場で冬休みがなかなか取れなくて、その分一月の六日ぐらいまで休みが取れた。両親にそのことを伝えないといけない。
あぁ、それに、昔の友達にも会いたいな。花音とは今でも連絡は取っている。その花音は、今年のどこかに恋人だった工藤君と結婚して、近くの大きな街で暮らしているらしい。久々に会おうかな?
……あぁ、そうだ。祐は元気かな。
高校生のとき恋人だった、幼馴染の祐。高二の冬ぐらいに恋人になったあと、祐はアメリカに留学した。最初の頃は連絡を取り合っていたけど、祐はしばらくアメリカでのんびり過ごしていて、私が成人して大都会に引っ越してからはいつからか連絡を絶って、今はどこにいるのか分からない。
……でも、祐に会っても、何を話せば良いのかな。
私は、祐に振られたと、連絡が無くなったことを解釈した。そして、割とすんなりと受け入れられた。だから、私はこの帰省から帰ったら、本格的に結婚相手を探そうと思っていた。
「……懐かしいなぁ、このデパートも」
高二の冬、祐に告白されたデパートに、私は来ていた。
両親に諸々のことを話したら、独身最後の帰省かもしれないからと、実家でのんびりするよりは遊んで来た方が良いと言われた。
祐に告白された、大きなクリスマスツリーの前に立つ。あれ以降、何回デートしたんだろう?
「……よぉ、そこの嬢ちゃん」
嫌な感じの声。振り向くと、うーん、チャラそうなおじさんがいた。
「今から暇?暇なら、俺と一緒に遊ばない?」
……ナンパ?
「すいません、これから予定が入っているので……」
「少しくらいは大丈夫でしょ?」
「え、いや、あの……」
「おい、そこのおっさん」
ドスの効いたようなその声に振り返ると、私と同じくらいの男性がいた。
「その人、俺の連れだぜ?」
「あ、あぁ、すいません!いやぁ、少し悪戯心が働いたというか……」
おじさんはそう言って一目散に逃げていった。
「あ……ありがとうございます!本当に!」
この街に久しぶりに来た私には、本当に感謝することだった。
男性の顔を、そこではっきりと見た。
「え……祐?」
「は?穂乃花?」
祐とあのケーキ屋に入った。
あの時と同じ、二人がけの席に座る。
「いや~、まさか祐が日本で暮らしていたとはね」
「俺も驚いたわ。まさか、たまたま助けた人が穂乃花だったとはな。それにしても、穂乃花はどうして俺が日本で暮らしていないと思ってたんだ?」
「だって、私が成人して引っ越してから、日本に帰ったって連絡も無かったんだもん。それに、連絡が取れなくなったから、私、てっきり振られたのかと……」
あれ以降、全く音信不通になったのだ。本当に振られたと思わない?
「あ~……、実はアメリカでさ、俺のスマホが壊れて、もともと入ってたデータも全部無くなったんだよ。日本に帰ってきて連絡しようとしたけど繋がらないしさ。それに、俺が穂乃花を振る訳ないだろ?正直、二十五になるまでに穂乃花に会えなかったら取り敢えず結婚するつもりだったぜ?」
「そうだったの?私も、冬休みが終わって今の家に帰ったら、本格的に結婚相手を探そうと思ってたんだよ」
「そうなのか?ならさ──」
---
「ふふ、あの二人、変わんないわね」
「そうだな。にしても、あいつってあんなやつだったか?」
「穂乃花と離れて変わったのかもね。一度離れ離れになったカップルが奇跡の再会を果たすなんて、素敵じゃないの」
「けどなぁ……、なんか釈然としないんだよなぁ……」
「……嫉妬?」
「はぁ?なわけないだろ?……お、ケーキ来たぞ」
「もう来たの?……あら、いかにもクリスマスケーキって感じじゃない」
「美味そうだよな。……お、この砂糖菓子いるか?」
「いらないわ。甘いものは苦手だもの。……そうだ、穂乃花達にあげればいいんじゃないかしら?」
「名案だな。で、いつ渡す?」
「テーブルも近いんだし、今渡しちゃえば?」
「お熱いところに悪くないか?」
「学生時代は散々見たんだもの。少しくらい良いじゃない?」
「そうだな。じゃ、渡しに行くか」
これで、「クリスマスの砂糖菓子」は完結です!
長くなりすぎて肝心なところをぼかしてますが、大筋は分かると思います。
ラストの会話は、花音と麗斗の会話です。