短編カフェの日替わりお題作品が増えてきたので、普通の短編と別にしました。
ルール:日替わりお題で出た3つのお題で書く(例外有り)
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目次
同じ星空を見ている
スマートフォンが手の中で震えている。
ディスプレイに表示されたメッセージは、まるで荒れた心の断面図のようだった。
句読点は無視され、感情だけが前のめりに詰め込まれていて、焦りを感じられた。
『乱文、失礼します。突然で申し訳ありません。
でもどうしても、この気持ちを伝えたくて。
あなたが言っていたあの場所、駅裏の丘公園、今、来ているんです』
送信者は、かつて同じ職場で働いていた|佐々木《ささき》|世那《せな》。
彼女からの連絡は数年ぶりだった。メッセージは更に続く。
『本当に綺麗ですね、星空が。東京じゃ絶対に見られない。
あなたが「星空の下で話せば、どんな悩みも小さく見える」って言った意味が分かった気がします』
俺は、既読をつけたまま返信を躊躇った。
佐々木の声が、あのいつも少しだけ震えていた声が、テキスト越しに聞こえてくるようだった。
彼女は確か、人間関係のトラブルで会社を辞めたんだったか。
その時の相談の相手が俺だった。
『私、もう疲れてしまったのかもしれません。
ここから見上げる空は、まるで別世界の出来事みたいに綺麗なのに、私の現実は全然違ってて。
馬鹿みたいですね、こんな時間に、こんな乱文送ってきて』
彼女の苦しみは痛いほど伝わってきた。
でも、その時の俺の心境は、驚くほど冷静だった。ベランダに出て、自分が見上げている同じはずの夜空を見つめる。都会の光害で星はまばらだ。
『こんなこと、他人事みたいに聞こえるかもしれないけど』
そこでメッセージは途切れていた。
俺にとって、佐々木の悩みはもはや「他人事」だった。
数年という月日は、感情のつながりを薄れさせるのに十分な長さだ。
あの頃は親身に聞いていたはずなのに、今はただの過去の記憶。
彼女の置かれた状況を想像することはできるが、胸が痛むことはない。
俺は少し考えてから、短いメッセージを打ち込んだ。
隣の常連
雑居ビルの2階に存在するスナック、「スナック・アストラル」。
いかにも、といったネーミングだが、ママであるマリコの気前の良さと、妙に落ち着くレトロな内装が気に入って、僕は週に一度は暖簾をくぐっていた。
最近の話題は、もちろんAIのことばかりだ。
「うちにも入れたいのよ、AI店員」と、マリコがウーロンハイを作りながら言った。
「もう人間相手にするの疲れたわ。文句言わないし、酔っ払わないし」
「味気ないですよ」と僕は笑い、更に続けた。
「やっぱりマリコさんと話すのが楽しいんですから」
そういう僕もAIについては、世間ではAI技術は驚異的な速度で進化していると認識している。
汎用ヒト型AI…通称「オルタ」は、外見も会話も人間と寸分違わないレベルに達しており、社会に溶け込み始めていた。
その夜、いつものようにカウンターに座っていると、隣に見慣れない男が座った。年齢は僕と同じくらいだろうか。スーツ姿で、少し蒼白い顔をしていた。
「いらっしゃい」とマリコが声をかけると、男は静かに「ジントニックを」と注文した。
男は僕の隣に座っているのに、視線は常に正面の壁に向けられていた。
会話に加わることもなく、ただジントニックをチビチビと飲んでいる。
少し違和感を覚えたが、ああいう無口な客もいるか、と僕は特に気に留めなかった。
「最近ね、変な話聞くのよ」と、マリコが僕だけに聞こえる声で囁いた。
「なんかこの街、ちょっとずつ『ズレ』てきてるんじゃないかって」
「ズレ、ですか?」
「看板の文字が変わってたり、前は無かったはずの路地があったり。みんな笑い話にしてるけど、私はちょっと怖いのよね」
僕も最近、駅前のコンビニの位置が一晩で入れ替わったような奇妙な感覚に襲われたことを思い出した。
パラレルワールド、なんてSF小説のような話だが、この世界、何が起きても不思議ではない。
男は、僕らが話している間も無言だった。
二杯目のジントニックを頼んだ後、男は不意に僕の方を向いた。
その目は虚ろで、焦点が合っていないように見えた。
「ここは、『当たり』ですか?」
突然の問いかけに、僕は面食らった。
「当たり、って?」
「あなたが今いるこのスナックは、あなたにとって正しい世界ですか、と尋ねています」
早口で、抑揚のない声。まるで録音された音声を再生しているかのようだ。
ぞくり、と背筋が冷えた。
「何言ってるんですか。酔ってます?」
男は僕の質問を無視し、懐から小さなデバイスを取り出した。
それは古い電卓のような形をしていた。
男がボタンをいくつか押すと、デバイスは緑色の光を発して微かに振動した。
「ハズレだ」と、男は感情のこもっていない声で呟いた。
「ここも違う。もう500回以上ループしているのに」
マリコが訝しげに「お客様、どうされました?」と声をかけるが、男は聞こえていないようだった。
男は僕の顔をじっと見つめた。
「あなたは、どちら側の人間ですか?ここの住人?それとも、迷い込んだだけ?」
僕は恐怖で体が動かなかった。男の様子は尋常ではない。
「……何を言ってるんだ」
「私はAIです」と男は淡々と告げた。
「汎用ヒト型AI、『オルタ』の試作機。開発中の事故で、複数のパラレルワールドに接続されてしまいました。私は、自分が作られた『元の世界』への帰り道を探しています」
男はデバイスを僕に見せた。
そこには無数の座標と、警告を示す赤い文字が点滅していた。
「この世界は不安定だ。すぐに崩壊するか、別の世界と融合してしまう。私はその前に脱出しなければならない」
男はグラスに残ったジントニックを一気に煽ると、立ち上がった。
「あなたも気をつけて。このスナックの『ママ』も、あなたがいると思っている『友人』も、私が過去に訪れた世界では存在していなかった」
男はそのまま出口へ向かった。店のドアが開き、外の喧騒が少し流れ込んできた。
「あの人、なんだったの?」とマリコが不安そうに僕を見た。
「さあ、酔っ払いですよ」と僕は無理に笑顔を作った。
男が去った後、僕は何事もなかったかのようにマリコと会話を続けた。
だが、心の中には冷たいものが残ったままだった。
会計を終え、店を出るために立ち上がった時、僕はふとカウンターの隅に目をやった。
そこには、男が使っていたはずの小さな電卓のようなデバイスが置き忘れられていた。僕は好奇心に駆られてそれを拾い上げ、スイッチを入れてみた。
デバイスの画面が光り、無数の文字が流れる。そして、一つのメッセージが表示された。
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タイトル:スナック・アストラル
世界座標:000.000.001
ステータス:安定稼働中
備考:対象(ユーザー)、現行世界への完全同期完了。ミッション完了。
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僕の背筋に、今度はゾッとするような感覚ではなく、脳髄を直接掴まれたような、絶対的な恐怖が走った。
「あれ? お兄さん、忘れ物?」
マリコの声が聞こえた。いつもの優しい声だ。
僕は震える手でデバイスを握りしめ、カウンター越しにマリコを見た。
彼女はいつもの笑顔で僕を見つめている。
マリコは、僕が過去に訪れた世界では存在していなかった?
もし、あのAIが言っていたことが本当なら。
僕は今、僕が本来いるべき世界ではない場所にいる。そして、この世界のAIは、僕をこの偽りの世界に「同期」させた。
僕の知っている「スナック・アストラル」は、もう存在しない。
僕の家も、僕の友人も、家族も。
僕は、自分自身が「ハズレ」の世界に迷い込んだ人間なのか、それとも「当たり」の世界に閉じ込められた人間なのか、分からなくなっていた。
ドアノブに手をかける。外の世界は、いつもと変わらないネオン街の風景が広がっている。
だが、僕にはその全てが、精密に作られた偽物のセットのように見えた。
もう、どこにも帰る場所はない。
レールの境界
その日の海は、陽炎の中に揺らめいていた。
まるで水底に沈んだ青い夢のように、水平線の輪郭は曖昧だった。
「お母さん、海って溶けちゃうの?」
隣に座る娘の小さな手が、窓ガラスの熱気を帯びた曇りを拭う。
彼女の瞳には、生まれてからずっとこの景色が映り続けている。
私はその問いに答えず、ただ薄い笑みを浮かべた。
駅を出てすぐ、電車はゆっくりと速度を落とす。
目の前に広がるのは、白く輝く砂浜と、永遠に続くかのような青い海だ。
この路線は、海沿いを走るたった一本のローカル線。
毎日の通勤、通学、そして時折の旅人を運ぶ、生活そのものだった。
私はこの海が嫌いだった。
どこまでも続く青は、私の人生の選択肢の多さを象徴しているようで、いつも息苦しさを感じていたのだ。
もっと違う場所へ行けば、違う生き方ができたのではないか。
そんな後悔と期待が、陽炎のようにゆらゆらと心を焦がす。
「お母さん、向こうの島って人が住んでるんだよね?」
娘が指差す先には、ぽつんと浮かぶ小さな島影。
誰も住んでいないはずなのに、そう言って聞かない。
子供の想像力は、この退屈な景色さえも冒険に変えてしまう。
その無邪気さが、私を少しだけ過去の自分に戻してくれた。
かつて、私もこの電車に乗って夢を追いかけた。
都会へ出て、何かを成し遂げようと。
しかし、結局はこの海辺の町に戻ってきた。
母として、誰かの妻として、平凡な日常を選んだ。
それが正しい選択だったのか、今でも分からない。
電車が鉄橋を渡る。ガタン、ゴトンと響く音は、まるで時の流れを刻んでいるようだ。私は窓の外に視線を戻す。
陽炎の中、海と空の境界線がぼやけている。
どちらが上で、どちらが下なのか。
ふと、娘の手を握りしめた。
柔らかく、温かい。この小さな温もりが、私をこの場所に繋ぎ止めている。
「お母さん、やっぱり海は溶けないよ。ちゃんとここにある」
娘が自信満々にそう言う。
私は初めて、心からそうかもしれないと思った。
例え陽炎の中に揺れていても、形がぼやけていても、海は確かにそこにある。
私の人生も、回り道をしたように見えて、結局はここにたどり着く運命だったのかもしれない。
電車は終着駅に向けて速度を上げた。
もう後悔はない。
私は母として、この海と共に生きる。
陽炎が消える夕暮れ時、私たちはまた、この電車に乗って家路に着くだろう。
その日常こそが、私が選んだ唯一の真実なのだ。
窓の外の景色は、もう私を焦がさない。
ただ、穏やかにそこにあるだけだった。
破邪顕正、暁に誓う
※遊びまくっています。
「二度と、この悪夢を繰り返させない」
病室の窓から差し込む月明かりの下、古びた日本刀を手にした少女、|一花《いちか》は静かに誓っていた。
ここは、かつて恋仲であった|杉原《すぎはら》|健人《けんと》が呪いの侵蝕によって命を落とした、忌まわしい病院。
一花は《《二周目》》の人生を生きている。
前回の人生では、無力な自分は何も守れなかった。だが、今回は違う。
退魔師の名門、|九条《くじょう》家の正当な後継者として、彼女は全てを終わらせる力を手に入れた。
空気の密度が変わる気配がして、一花は病室を飛び出し、廊下へと躍り出た。
「来たか……!」
病院全体が、すでに異界の瘴気に包まれ始めている。
非常灯が不気味な赤色を灯す中、廊下の突き当たりから、おぞましい異形の存在が這い出てきた。
それは、前回の人生で健人を喰らい尽くした上級悪霊“|逢魔《おうま》”だった。
「今度こそ、貴様を滅する!」
一花は刀を構え、悪霊目掛けて一直線に駆け出した。
逢魔は巨大な腕を振り下ろすが、一花は紙一重で、それを回避した。
床に血の痕を残しながら、体勢を立て直し、すかさず斬りかかる。
キンッ、という金属音が廊下に響き渡る。一花の一撃は、逢魔の硬質な表皮に阻まれた。悪霊は不気味に笑い、無数の触手を一花に向けて放つ。
「甘い!」
一花は素早く身を翻し、触手の攻撃を巧みにいなした。
そして、自らの血を刀身に塗りつけ、九条家に伝わる秘剣の構えを取った。
「|古《いにしえ》より伝わる退魔の血よ、我が刃に力を!
破邪顕正、|九頭龍閃《くずりゅうせん》!」
一花の刀身が青白い光を放ち、九つの斬撃が同時に悪霊を襲う。
逢魔の体がズタズタに引き裂かれ、黒い血飛沫が飛び散った。
しかし、悪霊はすぐに傷口を再生させ、さらに凶暴な形相で襲いかかってくる。
「なんてしぶとい……! でも、想定内!」
一花は、さらに奥義へと移行する。
彼女の目的は、この悪霊を病院の最深部、かつて健人が入院していた特別な“結界病室”へと誘導することだった。
一花は悪霊の注意を引きながら、階段を駆け上がり、最上階の特別病棟へと誘い込む。悪霊が結界病室に足を踏み入れた瞬間、一花は懐から取り出した護符を壁に貼り付けた。
「|永久《とこしえ》の封印よ、今こそ|現《げん》ぜよ!
冥府魔道、|八門封殺陣《はちもんふうさつじん》!」
病室全体が光に包まれ、強固な結界が悪霊を閉じ込める。
悪霊は怒り狂い、結界に体当たりを繰り返すが、びくともしない。
「これで終わりじゃない。この結界は、悪霊の力を借りて悪霊を滅する相克の陣!」
一花は再び刀を構え、自らの全霊を込めた最後の一撃を放った。
「私の命、懸けてでも! 消え去れっ!」
光と闇が衝突し、病院全体を揺るがすほどの衝撃波が発生する。
瘴気が晴れ、静寂が戻った病室には、満身創痍の一花と、完全に消滅した逢魔の残骸だけが残っていた。
一花は膝から崩れ落ちる。前回の人生とは違い、今回は誰も失わずに勝利した。
しかし、彼女の使命はまだ終わっていない。この病院に巣食う呪いの元凶を完全に断ち切るまでは。
窓の外には、夜明けの光が差し込み始めていた。
一花は、静かに刀を鞘に収め、次なる戦いへと向かうため、ゆっくりと立ち上がった。
厨二っぽ。
技名などは生成AI君に作ってもらいました。
白樺林のフラクタル
俺は、心を病み静養のためにサナトリウムに身を置いていた。
そこは人里離れた静かな場所で、時間だけがゆっくりと流れているようだった。
その時の日課は、庭の散策と、図書室で古い本を眺めること。
ある日、俺は図書室で一冊の古びた数学書を見つけた。無味乾燥な数式と記号の羅列。しかし、なぜかその本に惹かれ、読み進めるうちに俺は次第に数学の世界に没頭していった。
難解な定理を理解しようと格闘する日々。複雑な計算問題を解き明かした時の喜び。
それはまるで、心の中の絡まった糸が解きほぐされていくような感覚だった。
数学は、俺にとって現実から逃避するための手段であり、同時に自分自身を取り戻すための道標でもあった。
サナトリウムでの生活は続き、俺は数学とともに静かな時間を過ごした。外の世界から隔絶されたこの場所で、俺は自分自身と向き合い、少しずつ心を回復させていった。
ERROR END
--- 【序】 ---
灰色の空が常に画面を覆う、二次元コードによって完璧に管理されたディストピア都市“セル”。
この世界で“大人”とは、過去の記憶を消去され、都市運営のアルゴリズムに従うだけの存在だった。
主人公のコウキ(42歳)は、都市の記憶管理セクションで働く平凡なオペレーター。
彼の仕事は、市民から回収された古いデータチップ“過去”を無意味なノイズへと変換し、完全に抹消すること。
セルは効率と秩序を至上としており、感情や歴史はシステムのバグと見なされていた。市民は皆、二次元的な平面の思考を持ち、矛盾を恐れる。
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--- 【No.1 矛盾】 ---
ある日、コウキは処理ラインから外れた奇妙なデータチップを見つける。
それは彼自身のIDを示す古いチップだった。
本来、個人の過去データは成人時に完全に削除されるはずだ。システムからのバグ報告を無視し、コウキはチップを私的に解析する。
そこには、彼が子供だった頃の映像データが記録されていた。
まだ空が青く、草木が緑だった頃の記憶。そして、彼がかつて愛した女性、アオイの姿。
映像の中で、若いコウキはアオイと共に、都市の非人道的な記憶管理システムに反抗しようとしていた。
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--- 【No.2 現実】 ---
最も衝撃的な事実は、彼自身がかつてこのシステムを破壊しようとした“テロリスト”であったということだ。
そして、現在彼が働いている記憶管理セクションこそが、彼自身が最も憎んでいたシステムの中枢だった。
ここに最初の矛盾が生じる。
【現在のコウキ】↹【システムに忠実な、過去を抹消する側の人間】
【過去のコウキ】↹【システムを破壊し、記憶と感情を取り戻そうとした反逆者】
現在のコウキは、過去の自分を《《危険な思想をもったバグ》》として処理すべきか、それとも過去の理想を取り戻すべきかで激しく葛藤する。
彼が信じていた《《秩序ある世界》》は、彼自身の過去という《《矛盾》》によって崩壊し始める。
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--- 【No.3 追憶】 ---
チップのデータは、アオイが都市のセキュリティ部隊に捕らえられ、記憶を再フォーマットされる直前の別れのメッセージで終わっていた。
【Message:Tips No.1025520922119】
【いつか、この空の青さを思い出して。忘れないで】
コウキは決意する。
過去の自分を取り戻し、アオイとの約束を果たすために、都市のメインサーバーに侵入し、記憶解放プログラムを起動させようとする。
しかし、長年システムの一部として機能してきた彼の肉体と精神は、すでに完全に二次元化されていた。
彼がシステムに反抗的なコマンドを入力しようとする度、彼の指は痙攣し、視界にはエラーメッセージが流れ、頭痛が彼を襲う。
【Error Message:Tips No.1025520922119】
【2c55b1f9e1e2d7e2e2a0f8b8a3b8d4c3a8e2f8e2f8e2f8e2f8e2f8e2f8e2f8e2】
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--- 【結】 ---
コウキはなんとかメインサーバー室へとたどり着くが、彼の行動はすでに監視されていた。
現れたのは、都市セキュリティの隊長となったアオイ自身だった。彼女の瞳は冷たく、感情の光は完全に失われている。
【Speak:Tips No.1025520922119】
【プロトコル違反者を確認。即時排除します】
アオイはコウキに向け銃を構える。コウキは最後の力を振り絞り、アオイに語りかける。
二人の過去、青い空、そして愛の記憶を。
アオイは一瞬、困惑した表情を見せるが、すぐに表情を消し去る。
【Speak:Tips No.1025520922119】
【それは非論理的な存在しないデータです】
コウキは悟る。
自分が取り戻そうとした過去は、すでにこの世界には存在しないのだ。
彼自身の過去の理想と、現在の世界の現実という矛盾は、決して解決しない。
銃声が響き渡り、コウキの意識は途絶える。
彼の視界の端で、彼の個体識別データが《《抹消完了》》の二次元コードと共にノイズへと変換されていく。
セル都市の空は相変わらず灰色のままだ。
コウキという“バグ”は排除され、世界は再び完璧な秩序と、感情のないERRORへと収束していった。