星のおくりびと

編集者:るるる
地面に落っこちた星は、やがて殻が溶け、核が昼で燃え出し、あたりを燃やしてしまう。 もちろん、人間の街でも関わらず。 それを防ぐために、星を空へとおくり返す者が必要になる。そのものがおくりびとである。 おしながき 1-南サジタリウス町三丁目2-1 2-水の星の端くれで 3-黄金に近いもの
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目次

    南サジタリウス町三丁目2-1 【1】

    今は夜。 サジタリウス町は星灯の青い光に包まれ、その光を受けて反射した小川は、まるで夜空の様に輝いていた。 しかし、こんなに綺麗な街中でも、人はひとりもおらず、皆家に篭って深い眠りについている。 何故なら、夜はとても危険だからだ。 よだかやカラス、そしてオオカミ。ありとあらゆる凶暴な動物が、活発に活動し始める時間であるから。 そしてなにより、夜には星が出てくる時間でもある。空から星々が落っこちて人々を傷つけてしまうから、夜はとにかく危険なのだ。
    12時ごろ。ラヴィカは店を開いた。 店の裏でレンは暇そうに片付けをしていた。 すると、レンのつま先にこつんと金色の何かが当たった。 「ラヴィカさん。いつも思ってるんですけど、これなんですか?」 金色の何かは機械の様だった。地球儀の様な形をして、少しさわればくるくる回る。 「あぁ。昔使ってたやつだよ。もう捨ててもいいかな。」 ラヴィカはカウンターから振り向きそう言う。 「何に使ってたんですか?」 レンはラヴィカにそう問いかける。 「星診断機だよ。死者の星が何色か見るの。」 ラヴィカはカウンターから何かを取り出す。 取り出したものは透明な石板の様なものだった。 「今はこれがある。こっちの方が早いしね。」 レンは少し複雑そうに顔を歪ませた。 「…でも、立派ですし、ただ捨てるのは勿体ないですよ。」 ラヴィカは少し悩んだ様に、こう答えた。 「店の裏に使ってない倉庫がある。そこにしまっとこう。」 レンは診断機をよっと持ち上げる。 「ついでに、散らかしてる物もしまっちゃいましょ。」 「おう。」 今度は忙しなく、レンは動き始めた。

    水の星の端くれで 【2】

    1日でひとり来ればいい方だよ。 過去にそう語るのはひとりのおくりびとの男である。 おくりびとはその仕事柄ゆえ、仕事が舞い降りることは少ない。 それでもおくりびとは落ちた星々を空におくり返し、その時、星から感謝の証として星の光の素であるスターリングを授かることがある。 それは実に美しい輝きを放つので、宝石商に非常に高値で売れる。 それゆえにおくりびとはおくりつづけることをやめないのだ。
    サジタリウス町の1番北に位置する場所には、アエクラー教会がある。 教会には街全体に音を響かせるほどの大きな鐘が備わっており、いつも12時には信者たちが礼拝をしている。 ゴミ拾いなどのボランティア活動を行い、街全体の治安維持に努めているらしい… 星もいななく深い夜のこと。 「点呼を始める。」 リーダーが点呼を始める。 ランティア。「はい。」 セダム。「はぁい。」 ルリト。「…あっはいぃっ!」 ハナニラ。「はーいっ!」 「よし、全員いるな。」 リーダーらしき男は全員の声を確認すると、うんといったようにうなづいた。 「りぃだぁ。あとどのくらいで核は満タンになるんですかぁ?」 ハナニラが甘い声でリーダーの男に尋ねる。 「…これで、ちょうど半分だ。」 そうなんだぁ、とハナニラは相槌を打つ。 「…し、死者の人たちも、きっと嬉しいですよ…ね!神の一部になれるのですから…!」 ルリトは嬉しそうに話した。 「キミさぁ。全然集められないくせにさぁ、よく言えるよね。」 セダムはルリトを指さして言った。 「全然ダメですね。まさか私より集めている人がひとりもいないなんて…」 ランティアはやれやれと言ったように言った。 リーダーらしき男はそんな全員の声も気にしないようで、話を続けた。 「今夜も落ちた星を集めよ。ノルマは最低でもひとり10個。達成できなかった者は明日の朝まで教会の警備だ。」 リーダーのその言葉を聞いて、ルリトは焦りを感じたようだった。 「うぅ…もう警備は嫌だなぁ。」 「ふっ、お前がグズなだけだろ。」 ランティアがそういうと、さっと教会から出ていってしまった。 「…神よ、貴方がこの地に再び蘇る時が今、近づいております…貴方様の為に、私たちは最善を尽くして参ります…」 教会の中には大きな黒星のようなものがゆらりと浮いて佇んでいる。 「りぃだぁ。はやくいこー?ハナニラとってもさびしぃよぉ。」 「今行く。…ちょっと待ってくれよ。」 リーダーの男は痛む腰を抑えながら、這いずるようにゆっくりとハナニラの方へと寄っていった。 「痛みに耐えるリーダー…男前でステキ!」 ハナニラがそういうと、リーダーの男はははっと乾いた笑いを浮かべた。 サジタリウス町の夜空は、また星々が降り注ぎ始めた。

    黄金に近そうなもの 【3】

    星の核は、星の中心に必ずある、人間でいう心臓なようなものだ。 だが心臓とは違い鼓動はせず、星自体も呼吸をしたりはしない。 白い星も黒い星も、色づいた星々も、等しく生物的な活動は見られない。 星の核そのものは手のひらにおさまるほどの大きさであるが、その中には考えられないほどの量のエネルギーが詰まっている。その量は核爆弾一発分ほど、小さな街であれば、それひとつで20年分のエネルギーがまかなえると言われている。 エネルギーを取り出す方法はまだない。ただ、核にあるエネルギー量が大きすぎるため、無理に取り出そうとすればその場の環境を破壊しかねないため、調査は慎重に行われている。 そして星自体を信仰とする宗教も数多くあるため、それらの研究に対し反対の声も上がっている。
    0時。辺りはすっかり闇に包まれている。 カラカラとランタンを揺らして、ひとりのおくりびとが星を探していた。 「…星が移動している?」 もしかすると、誰かが先に拾ったのかもしれない。ただ、もしかすると''クサリ''の可能性もある。 急いで星の方に向かって走った。気がつけば、そこには小さな男の子がうずくまっている。 「…ぼく?大丈夫かい?」 心配になって声をかけてみれば、男の子の方にランタンの炎が傾いているのがわかった。 男の子の方をまたしっかり見てみれば、ほのかに輝く星のかけらがあった。 …星を砕いている。信じたくなかったが、はっきりと気づいてしまった。 「…その星さま、おじさんにわけてくれないかい?」 「…い、いやです…」 男の子はぎゅっと体を縮こませ、星の明かりを閉じ込めてしまった。 「たのむよぉ、おじさん、お仕事で必要なんだ。…もしかして、核が欲しいのかい?よければおじさんの核と交換してくれないかい?」 男の子はこちらをゆっくりと振り向くと、どっと悪寒がこちらを襲ってきた。 「…たりない…た、たりないです…」 「じ、じゃあ2個でどうだ!」 「…まだ、もっと…ください…」 「じゃあ全部あげよう!それでいいだろう!」 男がそういうと、男の子はにやりとわらった。 「…いいです、よ。…うふふ。これで警備は…回避だぁ。」 黒星の核を受け取ると、男の子はサッと立ち去ってしまった。 「…''クサリ''かぁ…こんな少年まで…」 男は拳をぐっと握ると、後ろから誰かがぽんと肩をたたく。 「私たちは、''クサリ''なんかじゃないですよ…」 後ろを振り向けば今度は女性がいる。 男は驚いてひぃと声を出した。 「私たちにとって大事な使命なのです…今後、そう申すのであれば、覚悟をなさってください…」 気がつけば女性はいなくなっていた。 「…くそう、もう今日はやめだやめ…」 おくりびとはさっさと帰って行った。