「――あれは…?」
高校2年生の高城湊斗(たかしろみなと)は、家に帰っている最中だった。
午後8時半。夕暮れで、真っ赤に染まった街の風景がガラリと変わり、街灯が太陽の代わりにこの街を照らしてくれている。
そんな夜遅いこの時間帯に、ふと公園を見ると、その街灯よりも強い光を放っている存在があった。
でもその光は、儚げな、そして少し寂しく、どこか悲しいような、弱い光を放っていた。
湊斗はそのような存在に目を惹かれ、自然と足が公園に向かっていた。
――そこには、ベンチに座っている一人の少女がいた。
なろう、カクヨムでも連載中!
R15は一応です。
温かい目で見てくれると幸いです。
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目次
第1話 少女を拾った
|高城湊斗《たかしろみなと》。高校2年生。
部活は軽音楽部に入っていたが、バンドメンバーが見つかった瞬間、すぐに辞めた。
冷たいわけじゃない。ただ、夢に対して本気だっただけだ。
「音楽で食べていく」――それが、湊斗の揺るがない目標だった。
だからこそ、部活という“枠”の中で終わらせるつもりはなかった。
時間に縛られて、限られたステージで満足してしまうことが、怖かったのだ。
勿論、最初から部活を馬鹿にしていたわけではない。
真剣に向き合って、最後に一緒に走った仲間に「これからも、続けないか?」と声をかける未来も想像していた。
けれど、思ったより早く、思い描いていた未来よりもずっと先に、仲間が集まってしまった。
でも後悔はしていない。
「大人になってもバンドを続けたい」ということをバンドメンバーに伝えたら、ラフな感じでOKをくれた。
こうやってゆったりバンドを続けて、でもたまには本気でやって、楽しんで、そういうバンドを湊斗は目指している。
そんなこんなで、湊斗のバンドは学校祭に向けて日々努力している。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
湊斗はバンド練習が終わり、家に帰っていた。
さっきまで明るかったのとは全然違い、住宅一つ一つが光を放っていた。
帰る途中に、少し大きい公園がある。
湊斗はいつもここで、好きな缶コーラを購入し、飲みながら帰っていたのだが、今日は違う。
今日はその公園のベンチに、少女が座っていたのだ。
普通だったらスルーしている。だけど、遠くからよく見てみると、湊斗と同じ高校の制服だった。
(俺と同じ制服…)
湊斗はそれを察し、そのベンチへと足を運んだ。
「なに…やってるんだ?」
沈黙。
前髪で目が隠れているからどこを見ているかわからない。
そして夜ということもあり、顔もあまり見えない。
だけど、その少女は悲しい思いをしていることだけはわかった。
腰まで長い、黒に近い藍色の髪。
手入れしていないのだろうか?あまりにもボサボサだ。
(流石にここで置いていくわけにもいかないしなぁ…)
湊斗は自動販売機まで足を運び、缶コーラを2本購入した。
その1本を少女の横に置き、ベンチに倒れこむように座った。
「俺も一緒にいていいか?」
本当はいたいわけじゃない。ただ単に少女をこんな時間に外に置いていけないと思っただけ。
でもその行動を否定されたらすぐ帰るつもりだった。
湊斗自身もバンド練習で疲れきっていて、早くも休みたかったからだ。
でもその少女は、湊斗の言った言葉をバレーのスパイクみたいに無言で弾き返した。
(俺も疲れてるし、こいつも無言だから、帰るか…)
そう湊斗は思い、ベンチを立とうとしたら少女が口を開いた。
「――私、家を追い出されたの。」
湊斗は「結局話すんかい」と脳内で突っ込みを入れ、ベンチに座りなおした。
歩きながら飲もうとした缶コーラを湊斗は開け、その少女の話を聞きながら飲んだ。
「なんで追い出されたんだ?」
「…わからない。」
少女も、湊斗がくれた缶コーラを開けて、その小さい口で飲み始めた。
湊斗は「ふーん」と相槌を打ち、缶コーラを飲み続けた。
それで、ふと疑問に思ったことをその少女に聞いてみた。
「今日はどうするんだ?」
少女は缶コーラを飲むのを一回止め、ベンチの背もたれにぐったりと身を預けた。
そして少し沈黙し、少女が言った。
「…わからない。」
(いや少し黙ったからなんか手でもあるのかと思ったじゃん。)
湊斗は、少女が缶コーラを飲むのを一回止めるのとは裏腹に、缶コーラを飲み干した。
そしてベンチから立ち上がり、自動販売機の横にあるごみ箱に缶を入れた。
「――なら…」
ごみ箱に入れて、ふっと振り返り、その少女に手をやった。
その瞬間、少し強い風が湊斗に降り注ぐ。
「…俺の家に来るか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
湊斗はバンド練習が続いた影響で疲れていたこともあり、この状況を早く抜けて、休みたかったのだろう。
でも本当は助けたかっただけなのかもしれない。
明日も学校がある。公園の硬いベンチで寝泊りして、お風呂にも入らず、ご飯も食べず、ただ一人寂しく朝を待つなら、親に「あーだこーだ」言われるよりも家で寝泊りしたほうがまだマシだ。と湊斗は思ったのだろう。
そんな訳で、湊斗は自分の家に少女を連れ込んだ。
湊斗は靴を脱ぎ、「ただいまー」と大きな声で叫んだ。
その瞬間、エプロンをした母、|萌花《もえか》がキッチンから顔をひょこんと出した。
「あっ…あらまぁ……」
萌花は少女を見て、口元を押さえ、にやりと笑みを浮かべる。
「…湊斗?その子はだーれ?」
なぜか語尾にハートが付くような喋り方で湊斗に話しかける。
「あぁこいつ?こいつは…」
湊斗がそう説明すると、萌花は「お父さんー!!!湊斗が彼女を連れてきたわよ!」と大きな声でリビングに叫びながら走っていった。
湊斗は「はぁ」とため息をつき、リビングへ向かった。
第2話 名前は詩羽
「結城、詩羽…です……」
湊斗は事情をすべて話した。
帰る途中の公園のベンチで少女、詩羽が一人寂しく座っていたこと。そんな詩羽を放って置けなくて、自分も付き合ったこと。缶コーラを奢ったこと等々。
テーブルを湊斗、詩羽、父の広見、母の萌花で囲み、いつもの穏やかな高城家の空気は、すでになくなっていた。
「詩羽さんね。これからどうするんだい?親に連絡は?」
広見は詩羽に圧をかけるように問いかけた。
「親には……」
圧をかけられていることで少し怖がっているのか、詩羽は顔を下へ向ける。
湊斗は詩羽の状況を察し、「言いたくないのだろう」と解釈した。
「なぁ父さん、流石に今日くらいなら良くないか?もう時間も遅いし、疲れてるみたいだから休ませてあげようぜ。」
湊斗は広見に「察してくれ」と顔で訴えた。
広見は湊斗の頼みを断れず、でも泊まらせるわけにはいかなかった。
思春期の男子と女子が一つ屋根の下で眠ることは、広見にとってはありえないことだった。
広見にとっては不愉快でしかない。
仕事も今現在、忙しくなってきたころだって言うのに、トラブルに巻き込まれたりされたらたまったもんじゃない。
ボサボサの髪、湊斗と同じ高校の制服で、結構きっぱりしているのに、緩んでいるリボン…
明らかにこの少女はある問題に突っかかっている。
そして、我が息子にそんなことはないと思うが、性的な関係なのかも知れない。
あらゆる思考が広見の頭を駆け巡る。
その瞬間、リビングのドアがガチャリと開いた。
「んー、なにやってるん?」
そこには、目を擦り眠そうにしている姉、深雪が立っていた。
「深雪ちゃん?また寝てたの?」
深雪は萌花が質問しているのを、軽く返す感じでキッチンに向かった。
「うん。だって眠くなっちゃったから、明日1限からあるし。」
深雪はこう見えて大学生だ。
湊斗の2歳年上で、電車で数分の大学に通っている。
母譲りの美貌を受け継いで、小学、中学、高校、そして大学と、すべての学校でモテた。
そのせいで湊斗は、深雪に寄ってたかっている男子たちの駆除をしなくてはならなかったのだが、湊斗も湊斗で案外モテていたので、深雪の近くに居れば、男子避けの効果は抜群だった。
だが、外と家の中とでは全然違う。
服装からしてまず違う。
外出するときはモデルさんが着るような服を着用し、お嬢様のような振舞い方で周りを魅了する。
だが家では、ダボっと着る少しでかめのTシャツ、そしてボクサーパンツを着用。それだけ。
本人が言うには「大きめなTシャツでパンツは隠れるだろう」という理由でズボンは履かないらしい。実際、結構見えている。
深雪はコップに水を注ぎ、うがいを始めた。
「――んで、なんで知らない女子がうちの家にいるのー?」
深雪はキッチンのシンクに口に含んでいた水を吐き出し、そうテーブルを囲んでいたみんなに問いかけた。
「湊斗の彼女さん!詩羽ちゃんって言うんだ~」
萌花はさっきまで重かった空気を破壊するような、柔らかい声で深雪にそう伝えた。
だが、湊斗は萌花のことを必死に否定する。
「さっきちゃんと話したよね母さん…?彼女じゃないって!」
「あらあらまたそう言って~」
萌花と湊斗が仲良く話している隙に、深雪は詩羽に近づき、耳打ちをした。
「詩羽ちゃん、だっけ?ごめんね。うちの弟の彼女設定になっちゃって。」
詩羽は深雪の言葉を必死に否定するようにぶんぶんと顔を左右に振る。
「…いや……少しだけ…嬉しい…」
詩羽は湊斗と萌花のやり取りを見ながら、少し儚げな笑顔を見せた。
その瞬間、深雪はなにかを察した。
「ごめん湊斗。彼女ちゃん借りるね。」
「ちょっ深雪!まだ話は終わって…」
深雪は両手を合わせながら湊斗に謝った。
広見もそれに対して止めようとしたが、深雪は詩羽の手を取り、すぐにお風呂場に連れて行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「詩羽ちゃん、なんで湊斗と一緒にうちに来たの?」
深雪も大体は察していた。
ボサボサな髪、制服はきっちりとされていない、おまけに公園に一人寂しくいる。
ここまでそろえば流石に誰でもわかる。
「親に捨てられたんでしょ?」
でも深雪は「家族喧嘩」とかそのような小さなことではなく、「親に捨てられた」と解釈した。
普通なら、家族喧嘩をして、親に「家を出てけ!」的なことを言われ、本当に出て行った。そう思うだろう。だけど深雪にはそれとは違うなにかを感じた。
その理由は二つ。
まず言葉数が少ないこと。
言葉数が少なければ家族と喧嘩することもできないだろう。まぁ家族の前だけ言葉数が増えるのであれば話は別だが。
だけど、ここまでボロボロだったら、家族の前でも言葉数が少ないのも頷ける。
親に暴力を振るわれて何も言えなくなったと結び付けれるからだ。
そして、
深雪は詩羽の制服の胸元にあるリボンを、強引に緩めた。
そこには、500円玉くらいの大きさもある痣があった。
「…ほらね。」
湊斗達以外には見えなかった、というより、詩羽は隠していた。
深雪は突然リビングに来たから、その時にちらりと見えてしまっていたのだ。
その時点で、大体のことは察した。
「湊斗には黙っておくけど、自分がつらいと感じたら自ら言うことだね。」
深雪が言ったところで何も変わらない。そのことに関しては深雪自身もわかっていた。
大学生だし、そしてモテてしまう。影響力はあるだろうけど、周りにはそんな現状をそらすような存在がいっぱいいる。
深雪が頑張って何か言ったところでこの問題が解決するわけではない。
時間が何もかもを流し、何事もなかったかのように普段の生活に戻る。
深雪自身が言うより、詩羽自身が行動を取らないと、この状況は打開できない。そう判断した。
「私…親に捨てられてない…です……」
深雪は「そう来るか」と頭を悩ませる。
「どうしてそんなこと思うの?」と聞こうとしたが、流石にこれ以上は首を突っ込む訳にはいかないと、深雪は悟った。
「んー、自分がそう思うならいいんじゃない?私がどうこう言う権利はないし…」
深雪は詩羽に背を向けながら手をあげ、お風呂場を出ようとした。
「流石に今の状態じゃあれだし、お風呂入りな。シャンプーとかは私の使っていいから。」
詩羽は深雪の行動に憧れを持ちながらも、少し戸惑い、お風呂にゆっくり入った。
「…さて、私も寝よっかな。」
深雪は階段をのぼりながら、ぽつりとつぶやく。
「私もブラコンなんだなぁ。」
どうも作者です。
短編ではなく長編になるのですが、お付き合いしてくれると嬉しいです。
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