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目次
【タイトル未定】第一話
今日はくもがひとつもない、カラッと晴れたいい天気。
春ながらの暖かい風に当たりながら、今日は何をするか考えた。
「今日は少し、城下町まで散歩してみようかしら。」
そう呟いた私は、たまたま近くを通りかかった召使いに、
「少し散歩をしたいから着物を用意してちょうだい。」
と、声をかけた。
---
数分後、召使いが着物を持って帰ってきた。
私はそれを受け取り、早速着替えた。
召使いは、目立たない、庶民のような着物を持ってきてくれた。
確かに、普段の華やかな裳裾では目立ってしまうかも。
あくまで散歩なので、目立たないように準備をした。
床につくくらい長い髪も、後ろで緩く結ぶだけにした。
---
城門をくぐると、いつもの城下町の景色が広がる。
赤い提灯が軒先で揺れ、行き交う人々の笑い声や掛け声が柔らかく響いていた。
(うん、今日もみんな幸せそうね。)
街並みを眺めながらゆっくり歩いていると、ふと、声が聞こえた気がした。
よくよく耳を澄ませてもはっきりとは分からない。
だが、確かにうっすらと人の声が聞こえる。
(辿ってみよう)
立ち止まり、声のする方向へ歩みを進める。
曲がり角をひとつ、またひとつと越えていくと、次第にその声ははっきりとした形になった。
声がする場所には、古びた家があった。
もはや誰も住んでいないように見えるが、扉の奥から確かに声が漏れてくる。
私は息を呑んだ。
「何が行われているのかしら、、?」
思わず小さく呟く。
少し迷ったが、声の正体を確かめたくて、ゆっくりとその家の前に立った。
---
古い木の扉に手をかけると、軽く軋む音が響く。
呼吸を整え、扉を押し開くと、中からざわざわとした人々の声が広がった。
(ここ……一体、何が行われているの……?)
私は心の中でつぶやき、立ち止まる。
「すみません、ここって、どういった場所なのですか?」
近くにいた人に聞いてみた。すると、
「あれ、初めての方ですか?ここは闇オークション会場ですよ。」
(え………?)
「あ、、、ありがとうございます。」
「いえ!楽しんでいってくださいね!」
、、、どうやら、この場所が闇オークションの会場らしい。
人々のざわめきが、微かに、でも確かに私の胸を締め付ける。
服装が偶然庶民風だったおかげで、誰も私が傑物、、しかも当主だとは気づかないようだ。
警戒しながらも、私は会場の奥へ進んだ。
まだ、このとき私は知らなかった。
ここで目にする光景が、これからの私の運命を大きく変えることになるなんて――。
えー、、、名前募集中です☆
※一応傑物は一番上の階級です。
第2話
会場の奥へ進むと、薄暗い大広間が広がっていた。
人々のざわめき、かすかな笑い声、札を掲げる音。
まるで別世界に迷い込んだようだった。
心の奥がぎゅっと締め付けられる。
「……どうして、こんなことが行われているのかしら……」
私は小さく呟き、視線を巡らせた。
奥には、次々と鎖に繋がれた子どもたちが商品として並ばされていた。
小さな体を震わせ、怯えた目で周囲を見回す子。大声で泣き叫ぶ子。
そんな子達を巡って必死に札を競り合う人々。
ーーーあぁ、全てに胸が痛むなぁ
---
会場の中央で司会者が声を張り上げる。
「次の商品はこちら、12歳の男の子です!」
子どもが連れ出され、台の上に立たされる。
もはや立つ気力もなく、目は恐怖で泳いでいる。
会場は歓声と拍手でざわめき、札を上げる手が次々に挙がった。
私は息を詰め、手元の扇子を握りしめる。
この中の誰かを助けたい。
胸の奥が熱くなる。
私にできることは――そう、落札して幸せにしてあげることだけだ。
そう私が考えているうちに、あの少年は売れたみたいだ。
次に連れ出されたのは二人の少年。
小柄で、怯えた表情。
台に立たされると、体を小さく丸めて座り、俯いたまま動かない。
会場の光に照らされ、髪や肌の色が際立つ。
どちらもまだ名前もない、ただの“商品”だった。
司会者が声を張る。
「さあ、本日の目玉の少年二人セットです!入札開始!」
私はすっと息を吸い、心を決めた。
周囲の人々の札も声も、金額も気にしない。
ただ、この二人を、今この場から連れ出す。
それだけを考えた。
札が上がるたび、胸の奥が痛む。
子どもたちはただ、抵抗もできず、ただ台の上で震えている。
誰も助けてくれないこの場で、必死にもがくしかないのだ。
(絶対に落札してやる)
私は声を落ち着け、札を上げる。
それをみた周りの人々が、負けじと高値で交渉する。
、、、そんな額で私が諦めるわけないのに。
大きく息を吸って、凛とした声で私は言った。
「5000億。」
と___
---
私の出した高値より上に行く人はおらず、私は無事、二人を落札した。
台の上で俯いている少年たちはまだ警戒した目を向けていた。
少し動けば鎖同士が当たる音が響く。
今はまだ、ただの“商品”として扱われている少年たち。
(この子達を救うことはできるのかしら、、)
私は心の中で静かに呟いた。
(大丈夫よ。もう怖がらなくていい。)
その場のざわめきが少しずつ遠くなっていくように感じた。
二人の体の小さな震えを見ながら、私は決意を新たにした。
これから先、どうなるかはわからない。
でも、これからは、私の手で彼らを守るのだ___
第3話
会場のざわめきの中、私はそっと台に近づいた。
二人の少年はまだ硬い表情のまま、少し俯いている。
少し、ふわんそうな表情だった。
「大丈夫……もう怖くないよ。」
小さな声でそう呟きながら、私は手を差し伸べる。
二人の目がわずかにこちらを向く。
少し、驚いたような目をしていた。
無言のままだが、体が少しだけ緊張を緩めたように見えた。
司会者が周囲の札を確認しながら、「落札者は商品を持っていってください!」と声を張り上げる。
瞬間、会場のざわめきが少し収まった。
私は深く息を吸い、少年たちの手をそっと取り、静かに台から降ろした。
「……こ、ここから……出してくれるの、、?」
少年から発されたかすれた声に、私は驚きながらも小さく頷く。
「そうよ。もう、ここで怖い思いをする必要はないわ。」
---
会場を後にする道すがら、視界の片隅で他の子どもたちがまだ台の上で怯えているのが見えた。
何度も胸が締め付けられる。
だが、今は目の前の二人を守ることだけに集中するしかない。
通りを抜けると、城へ戻るための馬車が待っていた。
目立たないよう、幌の低い簡素な馬車だ。
、、、馬車な時点で目立つと思うのだけど、、、
私の隣にいた少年2人は驚いていた。
そりゃそうよね。馬車なんて、傑物の一族しか持っていないもの。
馬車のドアを開け、二人をそっと席に座らせ、私も席に着いた。
---
馬車が発進した。
外の景色がゆっくりと流れる。
城下町の喧騒も、遠ざかるにつれて静かになっていく。
そんなことを思いながら、2人に話しかけてみた。
「あなた達、名前は?」
「「、、、」」
「………ないのね、、」
私はそっと呟く。
二人の目を見ながら、まだ名前をつける段階ではないことを確認する。
ここで決める必要はない。
ただ、この馬車の中では、二人が少しでも安心できる空間にすることだけを考えた。
「あとで私が考えてあげるわね」
言葉を選びながら話すと、二人は少し肩の力を抜いたように見えた。
まだ警戒はしているが、少なくとも逃げ出したいという感情は和らいだようだ。
---
馬車が城に近づくにつれ、心臓の鼓動が速くなる。
無事に帰れたとしても、ここから先の生活はどうなるのか、まだわからない。
だけど、今はただ、二人を守るためにできることをするしかない。
「もう少しで、城に着くわよ。」
私は優しく声をかける。
二人の小さな手を握り、そっと背中をさすった。
二人の小さな体が少しずつ私に寄り添う。
身長の割に体が細い。
あまりご飯を食べさせてもらえなかったせいだろう。
この瞬間、私は決意した。
ここからが、本当の戦いの始まり――。
城が見えてくる。
馬車の窓越しに、かすかに高い城壁が見えた。
二人を守るための新しい日々が、もうすぐ始まる――。
第4話
城の門をくぐると、馬車の揺れが止まった。
私は深く息を吐き、二人の肩にそっと手を置く。
まだ硬く俯いたままの小さな背中。
少しでも安心させるため、優しい声で話しかける。
「ここが、これから君たちの住む場所よ。」
二人は顔を上げることなく、ただじっと私の手を見つめる。
私の心もぎゅっと締めつけられた。
きっと、過去で受けた恐怖が、まだ彼らの体に残っているのだろう。
私は小さく微笑みながら、そっと言った。
「名前、つけてもいいかしら?」
一瞬の間。
二人は互いに視線を交わし、言葉を発しなかったが、どこか安心したような空気が流れた。
「じゃあ、あなたには……末日(まひろ)っていう名前をつけるわ。」
柔らかい声で呼びかけると、少し驚いたように目を見開く末日。
「そして、あなたには加楓(かえで)。」
こちらも同じく、まだ戸惑いの色が残る。
名前を呼ばれたことで、少しだけ彼らの表情がほころぶ。
私は二人の小さな手をそっと握り、ゆっくり城内に歩みを進める。
廊下の先には温かな光が差し込み、城下町よりは少し安心できる空気が流れていた。
「今までたくさん怖い思いをしてきたでしょう。でも、もう大丈夫よ。」
末日が小さく肩を震わせ、加楓もわずかに息を吐く。
まだ完全に心を開いてはいないけれど、
この城が少しだけ安心できる場所であることを、二人は理解し始めたようだった。
私の心も、少しずつ落ち着いてくる。
(守らなくちゃ……二人とも、絶対に守る。)
この城での生活が、彼らにとって安全で居心地のいいものになるよう、私は全力を尽くそうと決めている。
だけど、まだこれから待ち受ける試練や、彼らの心の傷が簡単に癒えるわけではないことも、分かっていた。
窓から差し込む光が、二人の小さな手に当たり、微かに温かく照らす。
私はその光景に、少しだけ未来への希望を感じた。
「さあ、新しい日々の始まりよ」
まだぎこちない足取りの二人を見守りながら、私はそっと囁いた。
第5話
城に戻ると、まず私は召使いに声をかけた。
「お風呂の準備をお願いできるかしら」
召使いはすぐに動き、湯を張り、清潔なタオルや湯浴みを用意してくれた。
---
一方、末日と加楓はまだ緊張した面持ちで城の廊下に立っていた。
聞くと、お風呂に入ったことがほぼないらしい。
「今日は、私も一緒に入るから、安心してね」
私は微笑みながら声をかける。
二人は少し戸惑った表情を浮かべたが、どこか安堵の色も見えた。
「さ、浴室はこっちよ。着いてらっしゃい。」
---
服を脱ぎ、浴室に足を踏み入れると、湯気がふんわりと立ち込め、柔らかい光が水面に反射する。
普段見慣れない豪華な桶や洗い場に、末日も加楓も目を丸くしていた。
「えっと…あの、熱すぎませんか…?」
加楓が小さく声を上げる。
私は手で湯の温度を確かめ、ちょうどよい温かさに調整した。
「ほら、まずは足だけ浸けてみて」
末日も恐る恐る足を湯に入れると、思わず「ひゃっ…!」と声をあげる。
そういえば「お風呂は冷たいもの」と言っていた。
冷たい水しか知らなかった体には、この柔らかい温かさが刺激的なのかな、?
私もそっと湯に手をつけ、二人の肩を軽くさすった。
「大丈夫?冷たくでしょう?」
末日は少し安心したように息を吐き、加楓も小さく頷いた。
湯に体を浸けると、二人は最初こそぎこちなく座っていたが、次第に肩まで浸かり、
緊張が少しずつほぐれていくのがわかる。
私は後ろで髪を団子にまとめ、二人の背中に泡をのせて洗い始める。
冷たい水しか知らなかった二人の肌は、とても荒れていて、至る所に傷ができている。
「…あ、あの…彩音さん…」
末日が少し恥ずかしそうに声をかける。
「大丈夫。ここではみんな平等よ」
私は優しく答え、加楓にも微笑みかける。
しばらくすると、二人の肩や背中に泡を滑らせながら、次第に心を許すような穏やかな時間が流れる。
冷たく孤独だった彼らの体も心も、少しずつ溶けていくようだ。
湯気の中で、二人は互いに顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。
私はその笑顔を静かに見守りながら、心の中で密かに思う。
(この子たちを、守らなきゃ)
長い時間をかけて丁寧に体を洗い、最後にしっかりと湯をかけてすすぐと、
二人は少し赤くなった頬を手で押さえながら、満足そうに湯から上がった。
浴室の扉を閉める前に、私は柔らかく声をかけた。
「これで、温まれたわね。ゆっくり休んでちょうだい」
その言葉に、二人は小さく頷き、少し安心した表情を浮かべた。
私はその背中を見送りながら、次に続く日常の準備を心の中で思い描く。
まだまだ、この子たちにしてあげたいことはたくさんあるのだから____
第6話
浴室から出た末日と加楓は、まだ少しぽかぽかとした体を揺らしながら、着物(寝巻き)に着替えた。
湯気と蒸し暑さで髪は少し湿っていたが、清潔な浴衣に包まれ、いつもより少しだけ落ち着いた表情になっている。
私は廊下を歩きながら、近くにいた召使いたちに声をかけた。
「今日は、この子達のために体が温まるご飯をお願いできるかしら?」
召使いたちはすぐに動き出し、台所に野菜や魚を切る音、鍋の中で汁が煮える音がリズミカルに響く。
末日と加楓は少し緊張しながらも、香ばしい匂いに顔をほころばせる。
「…いい匂いだね」
加楓が小さく呟くと、末日も少し安心したように頷いた。
私はそっと微笑みかける。
---
やがて、食卓には彩りの美しい料理が並んだ。
蒸した魚、温かい野菜の煮物、柔らかいご飯、湯気の立つ味噌汁。
普段の冷たく硬い食事しか知らなかった二人にとって、この光景はまるで夢のようだった。
「さあ、食べてみて」
彩音*は小さな声で促す。末日も加楓も、少し緊張しながら箸を手に取る。
「「いただきます…」」
二人が声をそろえる。
最初の一口を口に入れると、驚きと喜びが交錯した表情が浮かぶ。
柔らかく、温かく、そしてほんのりと優しい味。
末日は思わず目を見開き、加楓も小さく「おいしい…」と呟いた。
「うん、よかった」
彩音は心の中で安堵する。
二人がこうして、少しずつ普通の温かい食事を楽しめるようになったこと。
それだけで、胸がいっぱいになった。
---
「もっと食べて大丈夫だよ」
私の声に、二人は少しずつ箸を進める。
笑顔が増え、口数も少しずつ増えていく。
さっきはあまり言葉を発さなかった2人も、今は食べながら小さな会話をしている。
召使いたちが忙しく動き回る中、二人の食事の様子を静かに見守る。
ふと目をやると、末日が煮物を加楓にそっと差し出す仕草を見せた。
加楓は照れくさそうに微笑んだ。
(こうして少しずつ、心も体も温まっていくのね)
私はそう思いながら、二人の背中をそっと見守った。
今日のこの時間が、彼らにとってほんの少しでも安心できる瞬間になればいいな。
まだまだ長い道のりだけれど、今日の小さな一歩は確かに前に進むためのものだから。
*、、、彩音は主人公の名前です。「いろね」って読みます。
7話
ご飯を終えた末日と加楓は、まだ少し緊張しながらも、柔らかな布団の香りや温かい城内の空気に安心し始めていた。
私は二人を連れて、自分の部屋とは別に用意された寝室へ向かう。
「ここが、今日からあなたたちの部屋よ」
そう告げると、末日も加楓も小さな目を見開き、部屋の隅々まで見回した。
木製の床はぴかぴかに磨かれ、布団もふかふかで、暖炉の火がゆらゆらと揺れている。
「…こんなに広いの…」
末日が呟き、加楓も息を飲んだ。
二人とも、これまで狭くて冷たい場所でしか暮らしてこなかったため、目の前の景色がまるで夢のように映るのだ。
「今日はゆっくり休んでいいの。明日から少しずつ、生活に慣れていきましょうね」
私は柔らかく微笑み、布団の位置を指さす。
末日と加楓は、少し戸惑いながらも布団に腰を下ろすと、ふかふかの感触に思わず小さな声を漏らした。
「ここ…温かいね」
加楓の言葉に、末日も頷く。
二人とも、城の温かい空気と柔らかな布団に触れ、少しだけリラックスした様子。
その後、私は城内の召使いに声をかけ、明日からの生活のために必要な物を用意させた。
衣服や日用品、少しの文房具など、二人が安心して暮らせるように最低限の準備だ。
「彩音様…ありがとうございます」
末日が小さな声で言う。加楓も同じように微笑む。
私はその言葉に、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
「まだまだ慣れないことばかりだけど、少しずつでいいのよ」
私は二人の手をそっと握ると、二人は安心したように肩を寄せた。
今日のこの夜が、二人にとって少しでも安らげる時間になれば__
そう願いながら、私はそっと部屋を後にした。
夜の城は静かだ。
外の灯りが窓から差し込み、床に淡い影を落としている。
二人が布団で体を丸め、少しずつ呼吸を整える様子を見届け、私は深く息を吐いた。
(ここから、少しずつ私たちの日常が始まるのね)
まだまだ先は長いけれど、
今日の小さな一歩が、二人にとっての安心と希望につながれば___
そう思いながら、私は今日も夜の城を歩いた。
8話
朝の光が城の窓から差し込み、柔らかく寝室を照らしていた。
目を覚ますと、末日と加楓の寝息がかすかに聞こえる。二人とも昨夜は緊張していたのか、まだ布団の中で小さく丸まっていた。
私はそっと布団を抜け出し、二人の顔を覗き込む。末日は眉を少ししかめながらも、すぐにまぶたを閉じ直した。加楓は、目をこすりながらも小さな声で「おはよう」とつぶやいた。
「おはよう、二人とも」
私は微笑みながら、そっと肩に手を置く。二人は驚いたように目を見開いたが、すぐに安心した様子で私を見つめ返す。
「今日はね、少しずつ城の中を案内するわ」
私が言うと、末日と加楓はおそるおそる頷いた。まだ城の広さや人々の生活に慣れていない二人に、焦らず少しずつ慣れてもらうことが大事だ。
寝室を出ると、城内の廊下は昨夜よりも明るく、暖かな朝日が差し込んでいる。二人の足音はまだぎこちないが、私の後をついて歩く姿が少しずつ自然になっていくのを感じる。
「ここの城、すごく大きいね…」
加楓がつぶやき、末日も小さく息を漏らした。私は微笑みながら、廊下の奥にある小さな中庭を見せた。小さな花壇に咲く花や、朝の空気に揺れる葉の香りが、二人の表情を少し和らげる。
「今日はね、ここで少しだけ遊んでもいいのよ」
私は中庭に案内すると、二人は最初こそおそるおそるだったが、徐々に花を触ったり、小さな石を拾ったりして遊び始めた。末日は運動神経の良さを活かし、石を軽く投げて的を狙う。加楓は花の匂いをかぎながら、ふんわりと微笑む。
(まだ名前もないけれど…少しずつ、この子たちのことを知っていけそう)
私は心の中でつぶやき、二人の姿を静かに見守った。
これから始まる城での生活が、彼らにとって少しでも安全で、安心できる時間になるように――そう思いながら、朝の光の中で深く息を吸った。
9話
今日は城の一室にある広めの客間で、少しのんびりした時間を過ごしていた。窓から差し込む陽光が、床に柔らかな模様を描く。
私は二人にお茶を勧め、落ち着いた声で話しかける。
「お茶、どうぞ。温かいうちに飲んでね。」
二人はまだ少しぎこちない様子で、しかし確かに座る。
末日がそっと湯気の立つ湯のみを手に取り、見つめる。「……あ、ありがとう……」と、声は小さいけれど、その瞳にはわずかな安心の色があった。
加楓も同じく湯のみを持つが、少し勇気を出して口を開く。「僕……彩音さんと一緒にいると、少し落ち着くかも……」
私は微笑みながら頷いた。
「無理に話さなくてもいいのよ。あなたたちはまだ、ここに慣れたばかりだから。」
二人は静かに頷き、少しずつ体の力を抜く。末日は肩の力を抜き、加楓は少し身を乗り出して、私の手元を覗き込む。
その小さな距離感が、初めての信頼のようで、私は胸が温かくなるのを感じた。
「……彩音さん……もっと一緒にいていい……?」末日の声が、少し震えていた。
私は手を差し伸べ、そっとその小さな手を包む。「もちろんよ。無理せず、ゆっくりね。」
加楓もまた小さく息を吐き、肩の力を抜く。「僕も……だって、ここなら怖くないから……」
その言葉に、私は深く頷き、二人の小さな背中に視線を落とした。
まだまだ知らないことはたくさんあるだろう。
でも、今こうして、二人が少しだけ心を開いてくれた。
その小さな信頼の積み重ねが、やがて彼らを守る力になるのだと、私は静かに思った。
時間がゆっくりと流れる中、二人は少しずつ私のそばに近づき、温かさを感じながら座る。
初めての安心。初めての甘え。
小さな声と小さな手のぬくもりが、この部屋を柔らかく包んでいた。
10話
城での生活にも少しずつ慣れてきた頃、朝の光が窓から差し込むと、二人はもう自然に私のそばにいた。
末日は小さな布切れを手に取り、机の上で手先を動かしている。加楓は床に座り、足元に広げた絵本を静かに眺めていた。
「……彩音さん、見て。こうすると模様が変わるんだよ。」末日が笑顔で差し出すその布には、微妙に色の違う糸で編まれた小さな模様があった。
私は微笑みながら覗き込む。「わぁ、本当に上手ね。すごいわ、末日。」
加楓も顔を上げて、「僕も見てよ!」と言わんばかりに絵本をこちらに差し出す。ページの中の色鮮やかな絵に、私は一緒になって目を細める。
「うん、素敵ね。二人とも、こんなに自由に楽しめるようになったんだね。」
二人は私の言葉に少し照れたように微笑む。その表情は、城での生活の中で初めて見せる自然な顔だった。
末日は私の膝に軽く頭をもたれかけ、加楓は足元で小さく体を丸める。
「ねぇ、彩音さん……一緒にやろうよ。」末日がにこにこして手を伸ばしてくる。
私はその手を取って、二人と一緒に布や絵本を囲む。
その時間は静かで、でも確かな温かさに満ちていた。
「もう、ここが家みたい……」加楓がぽつりと言った。その声は小さいけれど、確かに私の胸に響いた。
「そうね。ここは二人の居場所よ。」私は優しく微笑み返す。
窓の外では城下町の音が柔らかく届く。赤い提灯が揺れる音、通りすがる人々の笑い声、遠くで鳴く鳥の声。
その全てが、今この瞬間の穏やかさを強調しているようだった。
数日前にはまだ緊張していた二人が、今ではありのままの姿で笑い、甘え、遊んでいる。
私は静かにその光景を眺め、心の中で小さくつぶやいた。
(これが、本当の安心なんだな……)
二人の小さな手の温もり、柔らかな声、穏やかな笑顔。
城の一室に広がるその時間が、これからの毎日を少しずつ変えていくのだと、私は確信した。
11話
朝の光が柔らかく城の一室を満たす頃、二人はもう自然に起きていた。
末日は窓辺で小さな草花を手に取り、加楓は床に敷いた布の上で手先を動かしている。
「今日は庭に行ってみる?」私が声をかけると、二人はぱっと顔を輝かせた。
「行く行く!」末日が小さく跳ね、加楓もにこにこしながらついてくる。
庭に出ると、春の暖かい風が三人を包み込む。赤い花が咲き誇る小道を歩きながら、二人は無邪気に小さな声で笑い合う。
末日は花びらを手に取り、「彩音さん、見て、これすごくきれい!」
加楓は枝についた小鳥に目を向け、「あそこに小鳥がいるよ」と教えてくれる。
私は二人の笑顔を眺め、心の奥から静かな喜びが湧いてくるのを感じた。
(こんな風に過ごせる日が来るなんて……)
庭の隅で小さな石を拾い集める末日。加楓は木の下に座り込み、静かに空を見上げる。
私はそっとその隣に座り、二人の行動を見守った。
日常の穏やかさが、少しずつ二人の心を柔らかくしているのが分かる。
笑い声も小さな声も、すべてが宝物のように思えた。
---
城に戻ると、召使いたちが温かい朝食を用意して待っていた。
「彩音様、こちらがご用意した朝食でございます。」
二人は目を輝かせ、初めてのきちんとした食事に興味津々だ。
末日は箸を手に取りながら、「わぁ、これ全部食べていいの?」
加楓も小さく頷き、「こんなにいっぱい……すごいね」と目を丸くする。
私は微笑みながら、「もちろんよ。今日はゆっくり楽しんでね」と声をかけた。
二人は遠慮なく一口、また一口と口に運び、時折笑顔で顔を見合わせる。
食卓の上には、温かいご飯、煮物、焼き魚、彩り豊かな野菜が並んでいる。
その光景を見ながら、私は静かに心の中でつぶやく。
(こうして普通に食事を楽しめる日々が、少しずつでも増えていけば……)
末日が私の方に顔を向け、「彩音さん、美味しいね!」
加楓も小さく笑って、「うん、本当に美味しい」と頷く。
二人がありのままの姿で、安心して笑い、食事を楽しむ姿。
それが何よりも嬉しくて、心の奥から温かさが広がった。
その日、城はただの城ではなく、二人にとっての安らぎの場所となった。
そして私は静かに、これからも二人と共に過ごせる時間を大切にしようと誓った。
12話
朝の光が窓から差し込み、城内に柔らかく広がった。
二人は昨晩の寝心地を確かめるように、のんびりと起き上がった。末日は布団の中で伸びをし、加楓はそっと髪を整えている。
「おはよう、よく眠れた?」と声をかけると、二人は小さく頷いた。
「うん……彩音さんのおかげで、よく眠れたよ」末日が少し照れたように笑う。
加楓もにこりと微笑み、自然に私に手を差し伸べた。その手はまだ小さくて、冷たくて、でも確かに温もりが伝わる。
今日も城の庭は穏やかで、春の風が花々を揺らしていた。
私は二人を連れて、ゆっくりと歩く。末日は花びらを手に取り、加楓は木漏れ日の中で小鳥を眺める。
「彩音さん、ここは本当に綺麗だね」末日の声には、初めて城に来た子供らしい驚きと喜びが混ざっていた。
「うん、ゆっくり楽しんでね」と微笑み返す。
昼が近づくと、召使いたちが用意した昼食が運ばれてきた。
二人は食卓に並ぶ料理を目にして、目を輝かせる。
「わぁ……彩音さん、これも全部食べていいの?」加楓が興奮気味に尋ねる。
「もちろんよ。遠慮しなくて大丈夫」私は笑いながら答える。
食事の間、二人は少しずつ自分たちのことを話し始めた。
「前の家は……ちょっと寒くて、小さな湯しかなくて」末日が言うと、加楓も「うん……それに、食べ物も少なかった」と続けた。
聞きながら、私は静かに頷く。
(でも、もう大丈夫。ここでは安心していいんだよ……)
食後、二人は満足そうに背伸びをし、庭に戻る。
私はそっと二人の後ろ姿を見守り、心が温かくなるのを感じた。
二人はまだ小さな手で花を摘み、風に吹かれる。
けれど、その笑顔はもう恐れを知らず、安心の中で自由に輝いていた。
その日、城はただの建物ではなく、二人にとっての安らぎの場所となった。
そして私もまた、二人と共に過ごす日々の大切さを改めて感じた。
---
これからの日常が、少しずつ穏やかで、暖かく、そして楽しいものになっていく____
そんな未来が、この物語の先に待っています。
『私の日常に咲いた二輪の小さい花』完
---
あとがき
「おかえり、お疲れ様。」
「いってらっしゃい、気をつけて。」
そんなことを言ってくれる人が、当たり前に存在しているとは限りません。
そんなことを言ってくれる人、あなたの周りにはいらっしゃいますか?
いらっしゃるならば、その方を大切に。
いらっしゃらないのならば、ご自身が、「言ってくれる人」になられてはいかがでしょう?
これからも、「当たり前」は「当たり前じゃない」、と言うことを忘れずに。
最後まで見てくださりありがとうございましたあー!
どうでしょう?
久しぶりの長編でした!
感想、ぜひ教えてくださると嬉しいです!
目標は、、5人の人に感想をもらうこと、、、