ユミ聖女伝〜身勝手な理由で召喚された聖女ですが、何故か世界を救えそうです?!〜
編集者:ことり
どうやら私、山名結海(ゆみ)は佐藤結海(ゆうな)と共に異世界召喚されたようだ。結海はいじめっ子。名前のせいで、そうなった。
召喚された理由は聖女が不足したうえに、働くのに危険があるからと聖女が働かなくなったから。……そっちの勝手だよね? 私、関係ないよね?
佐藤さんは持ち前のコミュ力で王室に気に入られ、私は神殿で働く。
あちらは仕事をしない。私はしている。
明暗はくっきり分かれている。
結局働いちゃっっているのだが、そのついでにこの世界の問題の解決方法を探ることにした。
これは、聖女となった少女ミアが、異世界で奮闘して、みんなを幸せにする物語だ。
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目次
1.ここが……どこ?
「やーまーなさん!」
「……何? 佐藤さん」
「何って酷いなぁ。おしゃべりしに来ただけだよ?」
「分かったから後ろに乗っからないで」
「何で? あたしを乗せられるとか名誉だよ?」
「やめてよ」
それは、いつも通り佐藤さんに絡まれているときのことだった。
突然、白い光が生まれて……
気が付いたら、目の前に豪華な服を着た人後いかつい感じの衛兵のような人がいた。
「「「「「「聖女様、ようこそいらっしゃいました!!」」」」」」
そして、それが土下座のような体制をとっている。
ん? 聖女様?
よくある異世界召喚みたいなやつなのかな?
まさか私がこんなものに巻き込まれるなんて……
「みんな、顔をあげて。あたしはみんなの顔をみたいな」
「「「「ははー!」」」」
佐藤さんの物言いに、みんな顔をあげた。
そして、その瞬間どよめきが走った……気がした。
「二人……ですか?」
「片方が負ぶられているように感じるが……上の方が聖女様なのか?」
その発言が聞こえて、現状を認識する。
そうだった、佐藤さんに乗っかられた状態のまま召喚? されて、今もその状態が続いているんだ。
「佐藤さん、降りて」
「うん!」
さすがにこの人たちの前で我が儘を見せる必要はないとでも思ったのか、すんなり降りてくれた。
「おい、結果は?」
「どちらにも聖属性の反応があります!!」
「なんと……!?」
「お二方とも聖女だというのか?」
「サムエル、よくやってくれた!!」
「嬉しい限りです」
「状況を説明してよ!?」
あーあ、佐藤さんが怒った。
「申し訳ありません、ですが我々も戸惑っていまして……」
「今わかっていることだけでもいいから!」
「……はっ!」
そして、彼らは説明を始めた。
「今、この世界では聖女が不足しておりまして、この度召喚することにしたのです。そしてあらわれたのがあなた方二人です。
そして、先ほど、どちらも聖女様であることが判明しました」
「こいつも?」
「……です」
「あのー……」
「で、聖女が不足しているからあたしに活躍してほしいの?」
「ええ、お二方に、ですが。
今この世界の聖女様は大変危険な目に遭っておりまして……」
「細かいところはどうでもいいから。あたしが聖女としてちょー活躍すればいいんでしょ?」
「そうです」
「あ、さっきからあたしに話しかけているけど、あんた誰?」
どうやら佐藤さんはこの偉い立場にいそうな人たちを下の立場に見たようだ。
私たちが聖女として召喚されたのなら、確かに、あの人たちは下手に出るかもしれない。
だけど、それじゃあこれから先はやっていけないと思う。
そんなことを言っても佐藤さんは受け入れないんだろうな。
そんなことは分かり切っている。
「名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません! 私はこのデカンダ王国の国王でございます」
「わたくしは王妃ですわ」
やっぱり。
あるあるとしては始めに私たちと話しているのが偉い人だよね。
「あたしは佐藤|優海《ゆうな》」
「ユウナ様でございますね」
そして、国王は私の方に顔を向ける。
「私は山名|優海《ゆみ》です」
「ユミ様……名前が似ていらっしゃる。二人同時の召喚ができたのは名前のおかげかもしれませぬな」
間違ってはいない。
私は、名前の漢字が、佐藤さんと同じだから、目を付けられた。
だからこそ絡まれ、だからこそ同時に召喚されてしまったのだろう……引っ付かれたがゆえに。
「あたしの名前のほうがかっこいいっしょ?」
佐藤さんは自慢げに言う。
彼女はそんなことは思っていない。
だからこそ私は絡まれていたんだから。
今は、ただ、私から優位になるためだけに言っている。
なんか……哀れだな。私は絡まれている側だけど。
「いえ、どちらの名前も素晴らしいと存じます」
「……そう」
急に不機嫌になった。
面倒くさい。
本当に彼女は聖女なのだろうか?
私も聖女なのだろうか?
理解できない、分からないことが多すぎだ。
大体、佐藤さんの所為で私たちが呼ばれた理由もまともに聞くことができなかった。
……彼女は、私にとっては疫病神だ。
「どこで仕事をするの?」
山名さんは国王にも気軽に質問している。
「神殿ですか? 余裕があるときは王宮も雇っていたのですが……」
余裕があるとき?
あ、そっか、今聖女は足りないんだったっけ。
なんでだろう?
よくあるのは魔物が多くやってきて、今いる聖女じゃあ対処しきれない、ってところかな?
どうなんだろう?
「え、けど今回山名さんが来たんだよ。彼女は仕事はちゃんとすると思うよ、愛想はないけど。彼女だけで十分じゃないかな?」
「そうでしょうか? 今、聖女の人手不足は深刻で……」
山名さんはどうやら王宮に雇われる方になりたいらしい、
その思考回路はきっと、王宮の方がぜいたくな暮らしが出来そうだとかそんな感じなんだろうな。
「ユミ様、ユミ様は神殿で働いてもいいと考えているのですか?」
「私は構いません」
「あ、そうそう。ユミはね、あたしのことなぜか嫌っているんだよね。だから、あたしとは別のところがいいんじゃないかな?」
「そうですか?」
嫌っているって……それ、あなたの方だよね?
「王様は今子供とかいないの?」
「いますが……? 彼が私の息子ですよ」
そして王子をユウナに紹介する?
「あのさ、あたしが王宮で働いちゃダメ?」
「……構わないよ」
今度は王子を落としいったか。
しかし上手くいきそうな気がする。
「では、ユウナ様は王室専用聖女、ユミ様は神殿で、いろんな方々の役に立つ聖女様で構いませんか?」
「はい」
……どうしてか、こうなった
なんやかんやあり、佐藤さんは国王、王妃、そして王子に気に入られることに成功したようだ。
彼女のように自信満々なほうが聖女らしいから、だから気に入られたのかもしれない。
彼女は王室専属、私は神殿。
明暗ははっきり分かれた。
まあこうなってしまったものは仕方がない、と諦めることにする。
ただ、佐藤さんと離れられたことは、純粋にうれしかったから。
多少面倒ごとを押し付けられようと、佐藤さんに会わなくていいなら、許容範囲内だ。
ゆうな、という名前を私が変に思っているわけではなく、ユウナの性格上、ストレートに読む方が、変にひねった読み方をするよりかっこいい、と思いそうだったので……
気を悪くされたらすみません
2.召喚の理由と魔法
「私が、此度ユミ様の護衛になりました第八隊の隊長、ベノンです」
「私は副団長のカンゲと申します」
「これからよろしくお願いします」
「「はっ!」」
「あなたたちはこの国の事情をちゃんと把握していますか?」
「ある程度は」
「だったら、私たちが召喚された理由も知っている?」
「はい」
「それでは、私たちの召喚の理由を説明してくれますか?」
「分かりました」
彼らが護衛だと公表された時の周りの反応を見るに、彼らは不遇にされている騎士のようだ。
私と同じ。
だから、国王とかは佐藤さんと上手くいくのだろうな。
似ているもん。
まあ、その後の国は滅びるかもしれないけど。これはよくあるストーリーだし。
私はやるべきことをするだけだ。
「実は、聖女様は光魔法を使えるのですが、自身には使えないのです」
「だったら他の人にかけてもらえば問題ないのでは?」
「それも効かないそうです。聖女様はなかなか生まれてきませんので、その存在が分かるとすぐに神殿に引き取られるのです。
そして聖女様の機嫌を損ねないようにと守られて育てられ……」
「傲慢になった、のですか?」
「そこは正直どうでもいいんです。問題は聖女様に治癒が聞かないことを利用した輩が出てくることでございまして……」
「どのように利用するのですか?」
「脅すのです」
「脅す……そしたら甘やかされた聖女は死にたくなくて、相手の言いなりになるかもしれませんね」
「我々の仕える聖女様が聡明な方で嬉しい限りです。その通りでして、今では多数の聖女様があまりいいとは言えない組織にとらわれております」
「だから、私たちに活躍してほしいのですね」
「そうです。……ただ、陛下はあちらの方に期待していそうですけどね」
「それは、私にあなたたちがあてがわれたからですか?」
「そうです。我々はあまり上層部にいい顔はされていないので、嫌われて、難しい課題を押し付けられているのです。
おかげで任務達成率は低く、それを見て、陛下は我々を付けたのでしょう」
そっか、少し希望が見えてきた。
「では、あなたたちには期待しておきます」
「分かってもらえたなら嬉しいです」
私に随分と優秀なものをあてがってくれた陛下には感謝しないとね。
くっくっく
笑いが込み上げてきた。
……ああ、この笑い方の時点でもう異世界に毒されているなぁ。
そんなことを思った。
どうやら、異世界転移というものをとおして、私は少なからず興奮しているようだ。
「ベノン、まず何の仕事をすればいいですか?」
「そうですね……あ、確かやることのリストが作られていると伝えられていました。持ってきます」
「ありがとう」
忘れていたなんて、ベノンは少し抜けているところでもあるのかな?
それを言ったら私を見る目が厳しくなっちゃうから言わないけど。
「持って参りました」
「ありがとう。それでどんなことが書いてありますか?」
「ええっと……孤児院の訪問、病院の訪問、畑の訪問、などが書いてありますね」
「そうですか……けど、その前に聖魔法の使い方が分からないといけませんね」
「あ、そうですね。考えていませんでした」
……。
私も途中まで気づいていなかったから何も言えないや。
「魔法はどのように習得するのですか?」
「まず感知できるようになって、その後に使い方を学び、後は詠唱するだけで使えるようになります」
「ベノンはどれくらいで使えるようになりましたか?」
「あ……私はあまり魔力量が多くなく、質もそこまで高くないので、魔法は使いません」
「そうなんですか? そういう人は多いのでしょうか?」
「多いと思います」
「そうですか」
それは、なんだか残念だな。
ただ、魔法を使えない人で作った隊があるのなら、魔法が使えない人も別に差別されているわけではないのだろうし、問題ないんだろうな。
「誰か私に教えられる人はいるのでしょうか?」
「私の隊にはいません」
「ベノン、あなたが信用できる、魔法の使える人を呼んできてくれませんか? カンゲの信用できる人でも構いません」
「分かりました」
こんなことを話したのが召喚された日の夜のこと。
そしてその次の日である今日。
「ユミ様、彼女が教師をしてくれることになりました」
「エンナと申します」
「彼女は私の幼馴染で、そこまで権力とかは気にしない人物なので信用にたるかと思います。どうでしょうか?」
「構いません。聖魔法も教えることができるのでしょう?」
「もちろんです! 文献で聖魔法の記述をたくさん見てきて、いずれ聖女様に会ってみたいと常々思っていたのです。神殿のガードが固く、今まで会うことは出来ませんでしたが。
私の念願を叶えてくださったのです。いろんなことを教えて差し上げましょう」
なんていうか……研究馬鹿?
信用には足ると思うし、構わないかな。
「これからよろしくお願いします、エンナ……先生?」
先生、が適切だよね?
「誠心誠意頑張ります!」
「聖女様は魔力の感知は出来ますか?」
「できます。あの、聖女様じゃなくてミユでいいですよ?」
魔力感知については昨日ベノンに聞いた後に、少し頑張ってみたんだよね。
体に日本にいるときにはなかった違和感があったからそれを動かしたりしていた。
これが魔力かは確定できないけど、これ以外に特に変わったものは感じられなかったから、これだと思う。
「ではミユ様ですね」
……。
様付けなのは変わらないんだ。
「一度魔力を手に集めてもらっても構いませんか?」
「はい」
「確かに集まっていますね。普通の人はここで戸惑うのですが。
では次の方に行きたいと思いますが、その前に、これに魔力を流してもらって構いませんか?」
「分かりました」
水晶みたいなものに魔力を通す。
「なんと……!?」
水晶が白色に光った。
……と思えば、白、赤、青、緑、水色、この5色が出てきた。
「非常に安定したバランスですね。さすがとしか申せません」
「どういうことですか?」
「白は聖属性、赤は火属性、青は水属性、緑は土属性、水色は風属性、黒は闇属性を示しているのです。黒はありませんが」
「白は聖属性なのに黒は闇属性なんですね」
「闇属性も国は丁重に扱っておりますが、やはり重要になってくるのは聖属性の方なので、闇属性と同列なのは失礼だろう、と聖に変えたそうです。そして、聖属性を使える女だから聖女、と。」
「聖属性を使える男性はいないのですか?」
「おりません。逆に女性で闇属性を使える方もいらっしゃらないのでユミ様にも闇属性はありません。闇属性をもつ男性はいい言い方が思い浮かばなかったので、悪魔、となりました。男は皆悪魔を夢見るんですよ? 面白いでしょう?」
「はい、そうですね」
悪魔をみんなが夢見ている……くっくっく
また笑いが込み上げてしまった。
3.聖魔法の練習
「すみません、笑ってしまって」
「構いませんよ。ユミ様は出来るだけ早く仕事は始めたいのでしょうか? 遅いならどの属性についても魔法を教えたりできますが……均等ですしね、教えがいがありそうです」
へぇ~。私の魔法の属性って結構均等なんだ。
どこで知ったんだろう?
「どちらでもいいですが、仕事は多いので、まずは聖魔法を習得したいです」
「分かりました。まず、怪我を治癒する魔法の呪文を教えましょう。呪文は『光——汝の糧になれ』らしいです。
魔力を怪我した部位に持っていくことによって、補われるようですが……私は使う事が出来ないので分かりません」
ですからはやく試してみてくださいよ!
そんな声が聞こえてきそうだ。
「けが人は今いませんけど……」
「あ、そうですね。ではしばしお待ちを。小刀を持って参ります」
「え? 小刀? 何をやるつもりですか?」
「もちろんユミ様の実験台になるためですよ! こんな機会は滅多にありません!!」
「待ってくださいよ! それなら、一度孤児院か病院にでも行きましょう!?」
思わず声を荒げてしまった。
孤児だったら小さな怪我は放っている可能性が高いから、いい練習になりそう。
「いえいえお構いなく」
「構いますから! ……ベノン、孤児院に連絡を。他の者は先生が何かしないように見張っておいてください」
「「「「はっ!」」」」
「ちょっと!?」
カンゲたちに囲まれて叫んでいる先生がいる。
ふぅ……。これで一安心、かな?
「連絡が取れました。準備が出来てなくてもよければ、来ても構わないそうです」
「ありがとう。先生、孤児院に行きますよ」
「はぁい。仕方ないわね。だけど、私が怪我をした場合は、治癒して頂戴ね? 授業料の代わりよ?」
「授業料はいいんですか?」
「もちろんよ」
研究馬鹿ならそういうものなのかな?
「そうと決まったなら、早速孤児院に行きましょう!!」
となって孤児院に今いる。
「こんにちは~。お邪魔します」
「ええっと?」
「聖女のミアです。今日は急だったのにありがとうございます」
「ミア様!? それは失礼しましたっ!」
「こちらこそ急に失礼しました。事情は聞いていますか?」
「はい。たしか魔法の練習をしたいとは聞きましたが、詳細は……」
「では詳細を説明しますね。実は今聖魔法を習得しようとしているんですけど、怪我を治そうにも怪我をしている人が今いなかったので、孤児たちなら、小さな怪我はそのままにしているんじゃないかなーって思いまして」
「確かに、それならご希望に添えそうです。すみません、準備ができないっといったから来るとは思っておらず、子どもたちにも伝えていないんですけど」
「構いませんよ。そのつもりでしたし」
「では子どもたちのところに行きましょうか」
「「お願いします」」
「みなさん、お客さんですよ」
「おきゃくさん!?」
「だれだれ?」
「偉い人?」
「どうぞ、ミア様」
「はい。みなさんこんにちは。この前この世界に召喚された聖女のミアです。今日は、魔法の練習をここでしたいと考えているんだけど、いいかな? 小さな怪我とかを治す練習をしたいんだけど」
「けがを治してくれるの?」
「わたし、今日こけちゃったんだよね」
「じゃあ最初はジャスミンだな!」
「いいの?」
「いいよな?」
「「「「「「うん!!」」」」」」
てくてく。
一人の女の子がやってきた。紫の髪の毛の女の子だ。
「こんにちは、聖女さま」
「こんにちは、何か怪我したの?」
「うん、ここ」
「膝かぁ。痛かったね」
えーと、確か、「光——汝の糧になれ」だよね?
「光——汝の糧になれ」
そう言って、魔力を怪我に込める。
暖かな印象をもたらす白い光が、手からあふれてきて、傷口を囲み、けがを癒した。
「うわあ! すごいすごい! あっという間にきれいになった!」
「見せて!」
「本当だなぁ」
「俺のこの古い傷もなおるかな?」
「おい、カンダも行ってみたらどうだ?」
「うん! 行ってくるぞ!」
「聖女様、この傷は治りますか?」
火傷……かな?
本人が言っていたように古傷のようだ
「光——汝の糧になれ」
また、白い光が生まれた。
そして、その傷は治った。
「すげぇ……! 聖女様、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
なんだか私も嬉しくなった。
「私も行こう!」
「俺も俺も!」
「わたしもいいですか? せいじょさま」
「いいよ。 光―—汝の糧になれ」
そんな風にどんどん治していった。
途中からは先生の助言も活用して、全体的な治癒もやってみた。
これだと魔力の消費量は多くなるけど、子どもたちについているいろんな傷を治すことができる。
「どうですか、先生?」
「素晴らしいわ!! いいなぁ、私も治癒されてみたい……!!」
魔力もかなり減ってきたので、今日はこれで終わることにした。
「ではミア様、呪文を今からたくさん覚えてくださいね」
笑顔の先生がいた。
そして、私はたくさん呪文を覚えさせられた。
そう、聖魔法だけでなく他のものも……
「ベノン、明日はどうするのがいいと思いますか?」
「そうですね……ミア様はもう病院に行っても問題ないと思いますか?」
「まだ試していない呪文があるのでそれは遠慮したいかもしれません」
「でしたら明日も孤児院でいいのではないでしょうか?」
「明日も?」
でも、今日であらかたの傷を治しちゃったよ?
「今回は民の間にも広めましょう」
「え?」
まさかそんな大ごとになるなんて。
だけど、確かに昨日の調子だと上手くいくかもしれないな。一発目から上手くいくことが出来たし、もしかしたら魔法の才能があるのかもしれない。
この油断が、危ない事態を引き起こさないことを、神様にでも祈っておこうかな。
「一応、治らない可能性があることも伝えてくださいね。あと、病院でも問題ない怪我は、するつもりはない、ということも出来れば伝えていただけるとありがたいです」
「……! 畏まりました」
なぜだろう、ベノンが一瞬驚いた顔をしたような気がした。気のせいだよね?
それにしても、今は夜なのに、その時から明日聖女が神殿に現れるなんてこと、そんなに広まるのかな?
あまりにも少ないと、さすがに悲しいんだけど。
それに、病院に行っても治らなそうなものを持っている人って、そこまで多くないと思うけど……
一体どれぐらい来るのか、明日が楽しみだ。
ちなみに先生が均等なのを知っているのは、水晶の魔力が均等に光っていたからです。
4.聖女様は人気
「ミア様―! 今日も来ましたよ~!1」
せっかく敬語が外れていたのに、今日は先生は敬語のようだ。
このまえは興奮するようなことがあったからなのかな?
出来れば今日も普通に話してほしかった。
まだ、どんな話し方をすればいいのか分からなくて、敬語でずっと喋っちゃっている私が言うのも何だけど。
「先生、今日も孤児院に行く予定なので、準備をよろしくお願いします」
「ん? そのことなら聞いていますよ、ベノンが教えてくれましたから」
なんと!
どうやらベノンは魔法の才はなかったとはいえ、他のことは優秀なようだ。
「そうですか、それでは行きましょう」
「はい! ……ああ、今日は傷だけでなく病気の治癒も見られるかもしれない! なんと幸せなんだろう!!」
先生は何やらぶつぶつ呟いているが、楽しそうなので良しとしよう。
孤児院は、昨日よりも騒がしい様に感じた。
みんな楽しんで遊んでいるのかな?
そんなことを思っていたら裏口から通された。
なんでだろう?
「こんにちは~、連絡しておいた聖女のサナです」
「サナ様ですね、お待ちしておりました。裏口から来てくださったのは助かりました。ありがとうございます」
どういうことだろう?
「あなたは?」
それよりも、今日は孤児院の院長ではないようだ。
「失礼いたしました。私はこの孤児院の一番年上で、エリーゼと申します。といっても、もうすぐ成人するので、ここから離れることになるんですけどね。普段は院長の代わりをしたりしています。以後、お見知りおきを」
「……」
同い年ぐらいにしか見えない。
なのに、もうこんなしっかりとした仕事を任されているの?
すごいなぁ。
……あっ
「エリーゼは孤児院を出た後働く場所は見つかっていますか?」
「いえ。それがどうかしましたか?」
「私の手伝いをする気はありませんか? ベノンにいろんなことを任せきりにしちゃっているので、誰か欲しいなと思っていたんです。もちろんタイミングは成人してからで構いませんから、考えてみてください」
「私に……ですか?」
「そうですよ」
「願ってもいない提案です。院長と話し合ってからになりますが……出来るだけ早くそのご期待に応えられるように頑張ります」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼが仕事を手伝ってくれるなら、本当に助かる。
「あの……」
「ベノン? 何かありますか?」
「ミア様にただいま侍女がおられないので、この者に侍女を任せることは出来ないのでしょうか?」
「侍女? 別にいりませんよ?」
「いえ、これはミア様の問題ではありません! 聖女様に一人の侍女もいないとなれば責められるのはこちらです! どうかお考え下さい」
「エリーゼは? どう思っているのですか?」
「その方が都合がよいのでしたら構いません」
「だったら……不本意ですけど、エリーゼは侍女として雇うことにしましょう。エリーゼ、引き受けてくれてありがとう」
「勿体ないお言葉です」
ほんとにこの子孤児出身?
孤児院だったらなめられることも多いからそれを任されるということは実力は結構あるのかな? とは思っていたけど、ここまですごいなんて……
誰が教育をしたんだろう?
気になるなぁ。
「ミア様、もうすぐ行きませんと」
「あ、そうですね。エリーゼ、案内をお願いしていいですか?」
「はい」
「それにしてもどれくらいの人が来てくれたのでしょうね? そんなに病院で治せない傷なんて少ないと思うんですけど……」
「きっとミア様が想定している10倍以上の人数がいますよ」
「10倍? まさかベノンは200人以上もくると思っているのですか!?」
「はい」
うぅぅ……
なんかぞわぞわする。
この喧噪って、さっきは子どもたちが遊んでいるからだと思ったけど……まさかね。
急いでその考えを振り払う。
が、その想像の通りだった。
「あの水色の髪の子かな? ミア様というのは」
「なんか神々しいなぁ」
「美しい……!」
「まあ、可愛らしい子ね」
「あのおねえちゃんがせいじょさま?」
「多分ね」
うん。どうやらいろいろ言われているようだ。
「ミア様、ここにどうぞ」
そうエリーゼから椅子を貸されたんだけど。
その椅子は、孤児院で一番かそれぐらいに高いものじゃないかな? そんな気がする。
これ、壊したら怒られるよね。
別の椅子が欲しいなぁ、とエリーゼを見るも、早く座ってください、とばかりに待っている。
表情がそこまであるわけでもないのになんでそんなに伝わってくるのかが分からない。
エリーゼは不思議な人物だ。
椅子に関しては諦めて座ることにする。
「このけがをなおしてください」
始めにいたのは女の子だった。
顔には火傷のような怪我がある。
痛そう……
「光——汝の糧になれ」
そうするといつも通り、白い光が現れて傷がきえていく。
「うわぁ! ありがとう、せいじょさま! おかあさん! なおったよ!」
「よかったわね」
「俺は持病があるんだが、治してもらえるか、いや、治してもらえますか?」
「試してみないと分かりませんが。ちなみにどこら辺が悪いかは想像がつきますか?」
「そうだなぁ、ときどき呼吸が苦しくなるんだよな」
呼吸? ということは肺かな?
肺だったらこれも怪我の範疇でいいよね?
「光——汝の糧になれ」
どうだ!
無事、白い光が生まれてくれた。
「ありがとうございます! 治った気がします!」
「それはよかったです」
いいことなんだけどね。
列を見ると、先ほどよりも増えている気がする。
「この傷は病院で治療してもらってくださいね」
「そんなぁ……」
ときどきは、こんな人も現れる。
だけど、概ね上手くいっていると思う。
「はぁ……疲れました……」
魔力の限界が来たので、今日はこれにて終わることにする。
一体何人に聖魔法を使ったのかは、数えたくない。
「私は満足いくまで見れました!! ……病気はなかなか見れなかったけど」
「聖女の力とはすばらしいものなのですね」
どうやらエリーゼも先生の仲間入りを果たしたようだ。
誰か私の見方になってくれないかなぁ。
「では今日の反省会でも、神殿に戻ってすることにしましょうか?」
「え?」
「もっとうまくできるようにならなくちゃいけませんからね!」
「はい……」
そして、昨日と内容は違えど、同じような悪夢が待っていた。
指摘がちゃんと当たっているから、怒りはぶつけようがない。
「明日は休んでもいいですか?」
「んーまあいいんじゃないですか? 慣れないことをして疲れているでしょうしね」
先生の承諾は無事に得られたことだし、明日は一日中ごろごろして過ごそう。
そう思っていたんだけど、その目論見ははずれ、本を読まされることになってしまった。
本なら別に嫌いじゃないからいいんだけど、これも聖女とか魔法に関係する本だった。
そして、地理に関係する本や、神話に関係する本もおかれた。
一体どれから読めばいいわけ?
このときは本当に困った。
まずは、神話を読んで、魔法の本も手に取ったけど、先生の方が分かりやすかったからあきらめた。
そして、一日は過ぎる。
ちなみに神話は今のところ、物語の進行に関わらない予定です。
(変更する予定もあり)
5.病院へ訪問、そしてとある訪問
「今日は病院に行く予定です」
エリーゼが教えてくれた。
驚くことに、エリーゼが昨日やってきてくれたのだ。
「成人するまでいなくていいの?」と聞いたものの、「孤児院では稼げませんので」と返された。
さらに、「私には敬語を使わなくていいですよ」とのことだ。
エリーゼの立場からすると会おうかもしれないんだけど……
そう意識すると、これが意外と難しかった。
「分かってる」
「それにしても他の聖女様は何をしているのでしょうか? ユミ様がほとんどの仕事を賄っていそうですが」
「仕方ないでしょ」
「仕方なくなんてありません!」
そうなのかな? 私としてはいつものことなんだけど。
あ、けどそれはユウナに関してで、他の聖女には当てはまらないか。……どっちでもいいや。
そんなふうに二人で話していたら、
「今日の昼頃、ユウナ様がこちらに来られるそうです!」
ベノンが報告してきた。
ちなみに、ベノンにエリーゼとの会話を見られたせいで、「私にも敬語は使わないでください」と言われた。
もう慣れちゃったから、こちらも修正するのが大変だ。最近は、どっちも混ざった状態で接しちゃっている。
気を付けなくちゃな。
「昼って……」
「出かけていますね」
「だったら気にしないでください……あ……」
また敬語使っちゃった。
「……」
じいっと見られてしまっているが暫くの間見つめ返していると、諦めてくれたようだ。
もとの話題に戻った。
「本当に、ですか?」
「あまり会いたくないの」
「……分かりました」
そんなわけで、佐藤さんはほっといて出かけることにした。
ちなみに、今日も先生はこない。
これからも、結構少なく、ある程度の頻度と、困ったときに、呼ぶくらいになると思う。
◇◆◇
「ちょっと! なんで誰もいないの!? あたし、訪問を事前に伝えていたよね!?」
昼下がり、神殿の前に一人の少女と筋肉質な護衛のような人物が複数名、いた。
「そのつもりでしたが……。うまく伝達していなかったのかもしれませんね」
「誰に任せたの!?」
「カミラです」
「カミラ、あなたは解雇よ!」
「え? 理由をお聞きしても?」
「分からないの? 自分の胸にでも聞いてみなさい!」
「はぁ……」
カミラは、解雇された。
「まったく、余計な手間を掛けさせて……そうね、あいつらが帰ってくるまで待ちましょう」
「分かりました」
ここで、良識を咎めるものは、いなかった。
◇◆◇
「これはどんな病気ですか?」
「あー、そうねぇ。何だったかしら? 確かお腹の下の方の……なんて名前だったかしら? まあそこらへんにあるところが機能しにくくなっているらしいわ」
お腹の下の方……小腸とか?
機能を復活させるには……
「光——汝の助けとなれ」
白い光がちゃんと生まれてくれた。
2日前、3日前にして分かったけど、どうやら白い光がでると成功らしい。
今のところそこまでひどい症例の人が来ていないからだろうけど、失敗知らずだ。
……こんなんあったら医者の仕事がなくなるわ。
もっと遠慮したほうがいいのかな?
こんな事まで思ってしまった。
実際はちゃんと治癒してもらう人と治癒してもらわない人を症状によって分けられているはずだ。
それと、孤児院の場合は寄付を代金としているけど、こっちだったらちゃんともらう。
そのうちの少しは医者にも行くらしいから、悪い話ではないのだと思う。多分。
「綺麗ねぇ。これは私は助かったのかしら?」
「そうですよ」
「ありがとうねえ、これで息子の顔をまだまだ見れるわ」
「それは良かったですね」
聞いただけの私も嬉しくなってしまった。
◇◆◇
夕方。
神殿に帰るとき、門の前に、佐藤さんがいた。
「やっと来た! 山名さん、来るのが遅いよ!」
……は?
「なんでいるの?」
「約束したじゃん! 今日の昼、遊びに行くって」
「約束はしていないよね、エリーゼ?」
「はい。一方的に訪問するという旨だけ伝えられました」
「だから約束したでしょ!?」
「あのー」
「何、エリーゼ?」
「あの方は、もしかして一方的なものも約束に入れているのでしょうか?」
「その通り」
「…………。行きましょうか?」
「そうですね、あなた達も神殿に入りましょう?」
「「「了解です」」」
「ちょっと!? あたしはあんたをわざわざ待ってやったのに、なんで無視するわけ? 身の程わきまえたら?」
「身の程をわきまえるなら、私とあなたは同じ立場ですね」
「なわけないじゃん! 王室と神殿よ!? あたしの方が高い!」
この世界くらい、名前の呪縛から解放されたら?
皆漢字は知らないんだから。
そう思うも、言えない。
そして、地位に関してだけど……
どうやら、私の地位は結構高くなるらしい。
まだ決まっていないけど、私がちゃんと仕事をしているから、予定より高くなる、とエリーゼに教えてもらった。
エリーゼは今勤務して二日目なのだけど……
なんでそんなことを知っているのか、本当にわからない。
まあ、もしかしたら私の地位は佐藤さんより高くなるかもしれない、ということだ。
「裏口を使いましょう」
「そうですね」
道を戻ることにした。
「やっぱり逃げた。ね、予想通りだったでしょ?」
「そうですね、さすがユウナ様です」
「このままここにいたらあいつは神殿に帰れないのかなぁ?」
「試してみるのも面白そうですが、危険では?」
「何? あたしに口答えするの?」
「いえ、滅相もない。私どもが精一杯守り抜きますのでご安心を」
「ありがとう、みんな大好き!」
どうやら佐藤さんはもう護衛を自分の取り巻きに変えてしまったようだ。
救いようがない。
まだ、ちゃんとした待遇をするならましだと思っていたけど。
佐藤さんは変わらないようだ。
「ただいま……」
やっと神殿に戻れた。
「今日もお疲れ様です。明日は仕事はありませんので」
「スケジュール管理、ありがとう。助かってる」
「こちらこそこんないい職場に引き取っていただきありがとうございます」
「この場所を気に入ってくれてうれしいよ」
「ユミ様のおかげです」
明日もまた自由時間。有効に使わないと。
部屋には、本が置いてあった。
この前休んだときと同じ。今日が休みでないところは違うけど。
何か一冊は読むことにした。
今日は、歴史の本を読むことにした。
流石に長いのは疲れるから短いやつで。
6.休日と襲撃
「ねえねえ、聖女様がいるよ」
「本当ね、だけど、聖女様が狙われてしまうかもしれないから言ってはダメよ」
「どうして?」
「いろんな聖女様が狙われているのは知っている?」
「うん!」
「だから……」
この町の人はみんな親切だ。
多分、治癒してあげた人たち、もしくは話を聞いた人たちは、私を見つけたら手を振ってくれる。
そしてそれを危険だからとやめてくれる母親のなんと多いことか。
この国は、好きになることができそうだ。
「みんな親切ね」
「そりゃあ聖女様ですから。しかもちゃんと働いてくれているというおまけつき」
「他の聖女は働かないの?」
「働いたら狙われる確率が高まるので働いてくれないのですよ」
「そうなのね」
そう説明された気もする。悲しい現実だ。
「だったら私が活躍しないと」
「その通りです。期待しています」
「おすすめの店はある?」
エリーゼに聞いてみる。
「もともと孤児院にいましたからね、あまり詳しくはありません」
「ベノン、あなたのおすすめの店を教えて?」
「そうですね……ラーギッシュ商会の店なんてどうでしょうか」
「ではそこにしましょう」
私たちはベノンに先導されて歩く。
「到着しました」
「……」
とても混んでいた。
列がずっと続いているのだ。
「少々お待ちください」
そう言ってベノンは店の方に向かった。
「あっ……」
帰ってきた。
意外と早かったけど、何をしていたのだろう?
「何をしていたの?」
「一つのテーブルを開けてもらえることになりました」
「……どうやって?」
ベノン、もしかして護衛以外の仕事も有能なのか?
「もちろん交渉して、ですよ。娘さんが現在病気らしいので、それを治す代わりと言いますか……ユミ様には休みの日にまで仕事を思い出させてしまって申し訳ないのですが……。嫌ならお断りしますが、どういたしますか?」
「そうね……」
困っている人がいるのなら、助けてあげたい、
それは人間として当たり前だろう。
だけど、そのためとはいえ自分のために聖女の力を使うのは、気が引ける……
いや、せっかくのチャンスだ。この世界でぐらい少しは自分の持っているものを使ってもいいかもしれない。
「便乗したい」
「本当ですか!?」
「はい」
「ありがとございます!」
食事は、美味しかった。
昔のおいしいやつと同じくらい。
この世界は、文明は低そうだから、これくらいだったらかなりおいしい部類に入るのだろう。
「娘さんの治癒をすればいいの?」
「そうです」
ベノンが店長……商会長さんを呼んできた。
「この度は承っていただき誠にありがとうございます。娘はただいま病気にかかっているのですが、悪化したらと思うとどうも仕事に集中できなくて。いやー、今回はベノンに助けられましたなぁ」
悪い人ではなさそうな印象を受けた。
「娘さんのところまで案内していただけますか?」
「もちろんです」
娘さんの病気は、大したことが無さそうな風邪だった。
愛されているんだろうなぁ。
そんなことを思う。
「光ーー汝の敵を排せ」
この魔法にも、ちゃんと白い光がうまれてくれた。
「はい、これで治りました」
「ありがとうござます……! 本当になんとお礼を言っていいのか……」
「気にしないでください、おかげで私は並ばずに店に入ることができたのですから」
「もう、お父さん、これくらいで心配しすぎだよぅ」
「そうか?」
「うん!」
「じゃあお父さんは仕事を頑張ってくるな」
「うん、頑張ってね」
「では出ましょうか」
「はい」
「……」
エリーゼからは返事が来たが、ベノンからは返事が来ない。
「どうしたの、ベノン?」
「さっきから見られています」
「商会長さんと会っていたからではないの?」
「いえ、害そうという感じのものでして……」
「分かりました。場所はどこだったらいいですか?」
自然と声が小さくなる
「人通りが多い所で」
「では広場に移動しましょう」
「ありがとうございいます」
それはもう少しで広場だという時だった。
私たちが人通りの多い所に向かおうとしているのを感じ取ったのか、襲われた。
全身黒ずくめの男が8名。
対して護衛は6名。
少し、不利な戦いになりそうだ。
そう思ったのもつかの間だった。
形勢は逆転していた。
こちらが勝ちに向かっていた。
私には、何がどうなっているのかが分からない。
いや、分かってはいる。ある程度は予想していた。
だけど、そうとは言えども、数秒のうちに全員1人ずつ倒すとは思ってもなかった。
彼らが私の護衛として配属されたのが私にとって救いだった。
強いのに、組織では理不尽な目にあわされ、失敗するような課題を与えさせられ、みんなからも顧みられない、だけど、力は確かにある。
そんな人たちが、私にあてがわれたのだ。
結果は、彼らの圧勝。こちらには一人のけが人もいない。
「助かったわ。ありがとう」
「こちらこそお守りできて良かったです」
そして、この会話をしながら思った。
この世界の聖女がいいとは言えない組織……面倒くさいし、悪の組織とでもするとして、……悪の組織がいくら聖女を脅そうとしても、護衛の力が強かったらそれで終わりじゃない?
なんで、連れ去られるなんてことになるのだろうか?
「ねえ、昔の聖女のことを知ってそうな人に心当たりはない?」
「そうですね、ベアンクリス伯爵が知っているのではないでしょうか」
「分かった、今度会いたい」
「明後日なら時間があります」
「では明後日、向かいましょう」
7.新たな出会いと質問
「よく来てくださった。私がこの家の主人、リガンド・ベアンクリスだ。初めてお目にかかりますが、活躍は私のもとにも届いています。ユミ様、これからもよしなに頼みます」
よしなに頼む?
今までこの人と関わったことはないのにこれを言われるの?
この世界ならではの表現なのかもしれない。
「今日は過去の聖女様についてのお話を聞きたいという用件で間違いないでしょうか?」
「はい」
「どのようなことが気になっているのでしょうか? 私ももう高齢である由、聖女様と関わっておきたいのですよ」
そういうことか。
だったら私のためになることをしようとしていることにも納得がいく。
「なぜ、聖女が今のように狙われる状況になったのですか?」
「……ほう、興味深いことをおっしゃる。初めの事件は1500年……いまから200年も昔のことでして、聖女様が一人、盗まれていきました。犯行動機は分かっておりませんが、彼らの手段は実に卑劣でして聖女様の脅しにすぐさま取り掛かったのですよ」
「護衛が強ければ聖女まで危害に遭うことはないのでは?」
「それがあのころから聖女様はごうまんでして、護衛がどうなろうとどうでもいい。護衛が怪我しても治癒さえしなかったそうです」
それは、ひどいなあ。
「それで、護衛が戦うのをただ見ていたと」
「そうです。そればかりではなく、襲撃者と面白い人物だと考えたのでしょうか、近づいていくんですよね」
「それは……捕まりますね」
「そうでしょう?」
そんなに愚かだったのか。
「そして聖女様は脅され、自分が怪我したくないがためにあっけなく投降。そして味を占めた他の組織も同じようなことをやるようになったというわけです」
「聖女に危機意識は生まれなかったのですか?」
「それが……このことは神殿にとっては汚点ですからね。発表されませんでした」
つまり、それが広がったのは悪の組織同士でのこと、ということか。
「そして、かなりが連れ去られ、やっと本格的に動き出したんですね」
「愚かですね」
そのために私がこの世界に連れ去られたの?
迷惑だ。
「その後の被害はどうなったのですか?」
「相変わらずですよ。聖女たちが甘やかされて育っているうちは消えることはないでしょうね」
「では、聖女はなぜ自分に治癒を使えないのか知っていますか?」
「はい」
「……え?」
知っているの?
私から聞いたとはいえ、驚かざるを得ない。
「私の家に文献がありましてね」
「え?」
なんであるの?
国家機密案件くらいじゃない?
「先祖様がちゃんと記録しておいてくれたんでしょうね。王家にも同じようなものはあると思いますよ」
「そうなんですね。それで、理由は?」
あんまり機密ではないのかな?
……ん? 記録?
つまり、何かきっかけがあって使えなくなったってこと?
「あれはそう、被害が出始めたころのことです」
彼は語る。
「あの頃は聖女様も自分自身に治癒が使え、安全に過ごしていたのですが、自分にも治癒が使えるがために、彼女らはひどい扱いをされていました。
いまでこそ聖女の扱いはけがをさせられないものになっていますが、あのころは聖女にけがをさせられることなんてよくあったそうです。そして、それをなおされ、またひどい扱いを受ける。その繰り返しでした」
酷い……
「それに心を痛めた偉大な聖女様がおりまして、名前をミア様ともうします。
彼女は過去の文献を調べ、せめてもの解決策として、聖女には治癒を使えないようにさせようということになりました。
彼女の決断のおかげで、聖女様のとらわれ先での扱いはいいものにはなりましたが、被害は消えませんでした」
「あのー」
「何ですか?」
「私は聖女が連れ去られているのは自身に治癒が効かないからだと聞いたのですが……」
「一般にはそうなっています」
「どうしてですか?」
「こちらに非があると知られたくないからですよ、特に神殿関係者は」
権力争いかな?
「ちなみにその後、ミア様はどうなったのですか?」
「死にました」
やっぱり……
すごい人だなぁ
「一般的には死因はどうなっているのですか?」
「病気ということにしました。そしてそれは自身に治癒が効かないから、と」
都合よく作られている。
ただ、かなり効果的な方法だ。
「どうやったらなくなると思いますか?」
「分かっていたらもう実践しています」
それはそうだ。
「今日はお忙しい所ありがとうございました」
面白い話も聞けたし、ベアンクリス伯には感謝しないと。
◇◆◇
前々から頼んでいた、この前襲撃してきた8人への面会が許可された。
「こんにちは」
「聖女サマともあろう人が一体何の用だ?」
彼らは、牢の中にいた。
「私を襲おうとした理由を教えてください」
「そんなんきまってるだろ。あんたを捕えて自分たちのいい様に使うためだよ」
「私を使おうとしたわけを教えてください」
「その方が有利になるからなぁ」
ここまでは事前に聞いていた通り。
「あなたたちはどんな組織にいるのですか?」
「……」
そして、ここも聞いていた通り。
彼らは、自分の組織のことになると口をつぐむ。
それは、拷問しても同じだったらしい。
「では、あなたの望むものを教えてください」
「ここからの脱出」
「そうですか……」
救いようがない。
「では、最後に一つだけ。
あなたたちの目的は知りませんが、私は召喚された身です。この世界にそこまで愛着はありません。
その点では、お役に立てるかもしれませんよ?
何かありましたらミアを呼べ、とでも仰ってくださいね。もちろん今でも構いません」
彼らは何も言わなかった。
残念だ。
神殿に帰って、私はそう思った。
最近は私の活躍もあってか、多少は仕事が減っている。
そのおかげであのような時間もとることは出来たわけだが……
今はまだ日本での2時くらい。
今日の残りは、自由時間だ。
「山名さ~ん!」
……気のせいだろう。
「山名さ~ん!」
気のせいの……はずだ……
窓を除くと、佐藤さんがいた。
「どういたしますか? ユウナ様がいらしているようですが……」
「気にしないでいいわ」
「ですが、彼女は自分の気に食わない行動をするものに……って今もそうですね」
その通り。私はもう佐藤さんからして気に食わない行動を取っているから関係ないんだよね。
だけど。
最近は余裕が出てきたお陰で別にいいんじゃないか、と思う自分もいる。
聖女の活動が私に自信でも与えたのだろうか?
「いいわ。呼んで」
結局、どうなるのか気になったので、呼んでもらうことにした。
「かしこまりました」
「いらっしゃい」
「山名さん? その口調、一体どうしたの?」
「どうしたも何も……言いやすい時に言いやすい口調を使っているだけだよ?」
「それでいらっしゃい、なの? ウケる〜」
笑われた。どこがおかしいのか全くわからない。
「用事はそれだけ?」
何処からか、佐藤さんとの会話を変に引き伸ばさない勇気が出てきた。
「うん、お話したくて来ただけだから」
「じゃあ帰って」
「なんで?」
「私はあなたと違って仕事で忙しいの」
今日は暇だけど。
「あたしだってちゃんとしているよ!」
「例えば?」
「国王とか王妃様とお話したり……」
「もしかしてあなたそれを仕事だと思っているの?」
「もっちろん!」
あぁぁ…残念な人だ。
「じゃあ私の仕事を教えようか?」
「え…別に?」
なんだそりゃ。それぐらいの好意受け取れよ。好意ではなくて悪意だけど。
「そう、じゃあ帰って。私はあなたほど暇じゃないから」
「あたしも暇じゃないよ。これも他の聖女との交流という重大な任務の一環で……」
「そう、じゃあ他の聖女の方に会いに行ってらっしゃい。そしてこっちには来ないでね。仕事の邪魔だから」
「邪魔? あんた今あたしのことなんつった?」
「聞こえているじゃん。邪魔って言ったんだよ」
「はぁ?」
殴りかかられた。
「障壁」
ちゃんと勉強していれば聖属性以外の魔法も習得できるのに勿体ない。
さっきの攻撃も魔法とかを使っていれば、もっと効く攻撃になったんじゃないのかな?
「なっ!?」
「喋る暇があったら魔法の習得に努めたら? じゃないと誘拐されるよ?」
「誘拐? そんなのされるわけないじゃん、あたしは聖女だもん。それに、あんたと違って心強い騎士がいるもん!」
「ユウナ様……」
周りで騎士たちが感動している。
けどもしかして、佐藤さんはこの世界の状況を知らなかったりするのかな?
まさかそんなことはないと思うけど。
それに、心強い騎士? 取り巻きじゃないの?
ベノンたちのほうが絶対に強いと思う。
「じゃあね」
「聖女様、この者のところにはあまり寄らないようにしましょう。聖女様が不快に思わされるのを見るこちらの身にもなってください」
お、その護衛、結構いいこと言うね。
そっか、始めから護衛の方を不快にさせておけば何もなかったかもしれないな。
今度からはそうしよう……と言っても護衛の人にできるいたずらなんて思いつかないけど。
「大丈夫、あの人はいい役職に就いた私を妬んでいるだけだから」
馬鹿なことが聞こえた。
佐藤さんは分かっているのかな?
こっちの方が絶対仕事は楽しいのに。
ただ、意外なことに今回は私の完全勝利で終わった。
今までだったら黙って聞き流していた言葉。それにちゃんと反論して攻撃を加えるだけでいなんて……
あっちのときもすれば良かったと思わなくはないが、多分、日本だったら今まで通りだった。
あの気に食わない王様も少しは良いことしているじゃん。
何だか、鼻歌でも歌いたい気分だ。
8.枢機卿サムエル
「聖女様、面会者がおりますがどういたしますか?」
「誰?」
「神官のサムエルです」
「えーっと……何をした人?」
「聖女様の召喚を行った人物です」
つまり私をこの世界に連れてきた人か。
まあそこまであっちの世界に未練はないけど。
「会ってみたい」
「了解です」
「本日は面会を認めてくださり誠にありがとうございます」
サムエルがやってきた。
あの後、サムエルについていろいろ聞いてみたんだけど……
やはり私たちの召喚を任されただけあって、枢機卿というまあまあ……かなり? の立場にいた。
まず、神殿には司祭という一番高い立場の人がいる。
そしてその下に十人、枢機卿がいるのだ。
だから枢機卿は神殿のトップイレブンだ。
そして、次期司祭だと噂されるほどの人物らしい。実質トップツーでもいいと思う。考えるのが面倒くさくなってきた。
私たちの召喚の際は、わざわざ王国まで来てくれ、今も王国の様子を見るため、ここに留まっている。
それにしても神殿はなんでこんな国で聖女召喚を行うことを認めたんだろう?
分からない。
だが、不自然な気がする。
「いえ、こちらこそわざわざ枢機卿様にご足労させてしまってすみません」
敬語の使い方が分からない。
ご足労させてしまう……っておかしいよね? おかしkないといいな。
「そんな硬くならなくて構いません」
「ですがあなたは枢機卿なのでしょう? 10人しかいない」
「ですが聖女様の魔力ははるかに多く、いづれは我々をも超える権力の持ち主となるでしょう」
「まさか」
いくら召喚されたからと言って、そんなに実力があるわけがない。
「たしかに魔力の質は高いかもしれませんが、魔力量は少ないのでそんなにお役には立てないかと……」
「魔力量がネックなのですか? でしたら増やす方法をお教えできますよ」
「え?」
それは……知りたい……かも。
「あ、その前に軽く自己紹介を。ある程度は知っておられるようですが、枢機卿のサムエルと申します。しばらく召喚の所為で体調不良に陥ってしまい、ご挨拶が遅れました。申し訳ありません」
優雅に敬語を使っている。
羨ましい。
「二人も召喚させていただいたことでいろんな方に注目させてもらいましてね。こちらとしては少し気恥ずかしいのですが……」
まさかの無自覚な天才ときた。
いや、ただの謙遜なのか?
「では、私からも自己紹介を。聖女であるユミです。闇以外の魔法の行使ができます。」
他に何を言えばいいのかな?
「聞き及んでおります。それで、魔力を増やす方法でしたよね?」
「はい」
「神官の間では結構広がっているのですが……一度魔石に自分の魔力を注ぎ込むと、魔力が回復する分と、魔石から少しずつ戻ってくる分が混ざって、倍近くになるらしいですよ。
最も、不良品の魔石からじゃないと漏れ出さなので不良品を使わないといけないのですが……」
ん? 神官の間では広まっているの?
私、やっぱ聖女としていろいろ活躍しているけど、まだまだ認められずにいるのかな。
「それは、魔石に魔力を入れた後、吸い出すのではできないのですか?」
「あまり効率は良くないようです。じわじわ出てくるのがいいんでしょうな、きっと。
あ、そう。その方法で魔力を増やしていってもさすがに数十回目くらいになるとあまりうまくいかなくなるそうですよ。体に合わない多くの魔力を手に入れるからでしょうな」
「ちなみに魔石から魔力が戻るまでの時間は……?」
「量によって変わりますからね。大きい量を一気に入れると戻ってくるまでに数十年かかったりしますし、小さいの魔石をたくさん用意しても一気に帰ってきたらあまり量は増えません。
こればかりは人それぞれなので自分でいろいろ試してみるといいかもしれませんよ」
すごいな。私の魔力は何倍くらいまで膨れるんだろう?
ただ、話を聞くに、これは長期戦になりそうな気配がする。
「ありがとうございます。話をそらしてしまいましたが、もともとの要件は何だったのでしょうか?」
「いえ、僕が召喚した聖女様がどれくらいの方なのかを見ようと思ったまでですよ」
「もしかしてユウナにも会ったのですか?」
「はい」
その顔は、笑っていた。何かを企んでいるような笑顔。
背中に怖気が走った。
サムエルには、少し気をつけてみよう。
ただ、魔力量を増やす方法は使わずにはいられない。
神官の間で広まっているという話だし、そこまで眉唾物ではないだろう。
次の日。
エリーゼの的確な指示のお陰で、色々なサイズの不良品の魔石が揃った。
私一人のためにこんなに集めさせてしまったことが申し訳ない。
それを無駄にしないためにも、ちゃんと魔力を増やそう。
まず、一番小さい不良品の魔石に魔力を流し込んでみる。
が、あまり魔力が減った気がしない。
十分が経った。
これは感覚だけど、もうその分の魔力は回復した気がする。
何だか物足りなく感じる。
もっと大きい魔石を使ったほうがいいかもしれない。
次の大きさの魔石に流してみる。
これもあっという間満タンになったが、あまり減った気がしない。
思い切ってもっと大きいものを使ってみることにした。
こぶし大のサイズだ。
これにも入れた。だけど、あんまり分からなかった。
次はこぶし大から二回り大きいサイズに入れてみた。
程よい喪失感があった。
これくらいがちょうどいいのかもしれない。
そして、エリーゼにそのサイズの不良品の魔石を探してもらった。
一個、魔力を注いだ魔石が空になるたびに次の魔石に魔力を注ぐ。
こうして、順調に魔力は増えていった……かはまだ実感が持てない。
◇◆◇
「サムエル様がお見えになりましたがどうなさいますか?」
「通して」
「了解しました」
エリーゼは本当によく働いてくれている。
「それで、本日はどういった用件で?」
「一人、聖女様の居場所が分かったかもしれません」
「本当ですか!?」
それはおめでたいことだ。
だけどそれと同時にこの世界のことが心配になる。
「その聖女様はいつ頃さらわれた聖女様なのでしょうか?」
「分かりません。ただいま調査中です」
この世界は腐っているのだろうか?
国をも超える権力を持つ神殿が何年もかかってやっと聖女様を見つけるだと?
こんな世界で、聖女として……
あれ? 今私何を考えたっけ?
この世界で……
あとで思い出そう。
何かが引っ掛かった気がする。
「それで、何の用でしょうか?」
「聖女様奪還のお手伝いをしてもらいたくお願いに参りました」
「断ることは?」
「あまり好ましく思われないでしょうね」
別に好ましく思われる思われないはどうでもいいんだけど……
「どの道断らせてくれないんでしょう? 行きますから安心してください」
ただ、サムエルのお願いでいく、というのはいささか嫌な予感がしなくもないな。
気を付けるに越したことはないだろう。
「ありがとうございます。この奪還が上手くいけばそれ相応の報酬もありますので。結果を楽しみにしています。
明日の会議への参加はできますか?」
「エリーゼ、明日は?」
「孤児院に行く予定でした」
「会議はいつでしょうか?」
「昼からです」
「だったら構いません。エリーゼもいい?」
「はい」
エリーゼとしても少しは滞在時間は短くなるものの、それは早く行けばいいだけだ。
ちょっと不便を強いることになるけど、基本的には大丈夫だと思う。
「では、そういうことで。僕は帰ります」
「どうぞ」
9.聖女様の救出
次の日。
「もうすぐ行く?」
「まだです」
数分後。
「もうすぐ?」
「もう少し」
数分後。
「もうすぐ行く?」
「そうですね。その方がいいでしょう」
エリーゼは、孤児たちとたくさん遊べて満足したようで、ようやく認めてくれた。
私の都合で時間を減らしてしまったから仕方ないよね。
「では、聖女奪還の会議を行う。まずは発見者のサムエル殿から説明してもらう」
「はい、今回聖女が見つかった場所は黒林の真ん中近くにある池のほとりです。目立たないくらいの大きさの家があり、今までは魔法で隠していたようです。
しかし、偶然商人が通った時に家が見えたそうで、それにより発見に至りました。
調査の結果、聖女様が1名以上おられることが判明しました。それはこの国の騎士団にも確認済みです」
「というわけだ。何か質問はあるか?」
私はそっと手を挙げた。
「聖女ユミ、何だ?」
「どうやって聖女様がいることが分かったのですか?」
「聖属性の感知したのだ。あの家は一日に一回ほど、隠ぺいの魔法が消えることがある。そのときに感知した結果、聖属性の反応が二つあった」
「理解しました。ありがとうございます」
「他に質問はあるか?」
みんな首を振った。
「では、作戦会議に移る。
今回は聖女様がいらっしゃる故、それを使った盗賊どもが使っている作戦がいいと思うがどう思う?」
基本的にみんな頷いている。
「あのー、それでは盗賊どもと同じなので勝つには至らないのでは?」
勇敢な人が声を発した。
「確かにそうだな。だが、今まで我々は聖女様なしで対等に渡り合ってきたのだ。聖女様がいるのなら負けるわけがないと思わないか?」
「それは……そうかも」
ガクリ。
なんでそこで納得するのかなぁ。
「やめたほうがいいと思いますけどね」
呟いてみたが、気付かれなかった。
私は私ができることでもやっておこう。
◇◆◇
聖女奪還の日がやってきた。
「行くぞー!」
「「おう!」」
「突撃だぁ!」
司令官のミトメンさんが声を上げた。
それにつられ、みんなも突撃し始める。
今回は、魔法兵は連れてこられていない。魔法が使われると聖女様も巻きこむ恐れがあるかららしい。
聖女様がいるところを避けて打てばいいのに。
作戦の上では、怪我をしたらすぐ私の下へ連れて来る、というような事だったと思うんだけど。
……まだ、誰もここに来ない。
まさかこちらが優勢なわけは無いから、多分負けているんだろうな。それも重傷者を連れてこれないくらいに。
それとも他に何かあったのか。
一応私のそばにはいつもの護衛のみんながいる。
だから、ここまで来られても問題は無いんだけど。
「ベノン、放ってもいい?」
あれから、私は自軍が壊滅した時に備え、大規模魔法を練習していた。
「いいですよ。多分負けていますから」
「じゃあ……土ーー崩壊せよ」
土属性。だから、生物には効かない。だけど、それ以外のものを壊すことが出来る。
聖女がいるところは避けて壊したんだけど……
一箇所、入り口近くにポッカリとした空間が広がっていた。
「あれは……?」
「もしかしたら転移魔法が使用されているかもしれません。お気を付け下さい」
転移魔法か……
あり得るなぁ。
「とりあえず聖女を救出しましょう」
「そうですね」
「念のため護衛もお願いします」
「もちろんです」
「風ーー生と聖を感知せよ」
魔法を使って聖女がいる方向へと歩き出す。
私の魔法は万能型だけど、他の聖女は基本的に、聖属性以外は使いにくかったりする。
だから、ベノンたち護衛に、珍しいとよく言われる。
聖女のところについた。
後ろには、20人ほどの屍ができた。
……少なくてよかった。
生存反応は他に見られなかったから、他の人達は大方瓦礫に埋もれたり、瓦礫が刺さったりでもして死んでいるのだろう。
「ベノン!」
「は!」
まだ全員死んだわけではない。
聖女がいるあたりは壊していないから、そこにいる人はまだ生きている。
「聖ーー汝に神の祝福を」
これも聖魔法。効果は身体強化。そしてこれをみんなにかけた。
まだみんなに死なれるわけには行かないから。
ただ、もともとの強さもあってか、勝った。
「聖女様、 大丈夫ですか?」
駈け寄ろうとしたベノンが……消えた。
試しにそこらにある瓦礫を投げてみた。
そしたらそれも消えた。
……ここにも転移魔法がかかっている。
そのことは、明らかだった。
「とりあえず、救出しましょうか」
「そうですね。隊長ならきっと大丈夫でしょう」
副隊長のカンゲが同意してくれた。
「急いで終わらせて、はやく助けに行きましょう……土ーー崩壊せよ」
壁の一部を壊した。
まずはカンゲがいく……が、消えなかった。
どうやらここは転移魔法がかかっていないようだ。
「聖女様、お迎えに上がりました。城に帰りましょう」
「遅い!」
「……」
騒がしい聖女に返事をしない聖女。
なんとも対極にいそうな二人が同じ場所にいる。
「二人?」
そう、聖女様は二人いた。
よくよく思い出してみると、聖女様は1人以上いると言われていたかもしれない。
「ベノンのことは心配だけど……ひとまず聖女様を連れて帰りましょう」
「そうですね」
「スピードはできるだけ早く」
「了解しました 」
そうして、私たちは二人の聖女様を連れて、慌ただしく帰還した。
10.護衛の行方
「ただ今戻りました」
「聖女ユミ、よく無事に帰ってきましたね」
神殿に戻ると、サムエルに出迎えられた。
サムエルは、私と一緒にいる二人の聖女を見つけたようだ。
「……そちらの二人がこの度救出された聖女様ですか?」
サムエルは一瞬驚いた顔をした。
彼にとっても聖女が二人なのは驚きらしい。
「はい。他の者はほとんどが転移魔法に巻き込まれ、残るは私のところに残っていた護衛たちだけになってしまったのですが、とりあえずは聖女の救出を優先しようと思い、救出し、急いでこのように戻ってきたというわけです」
「それはありがとうございました。この二人の聖女様は僕が責任もって預かります」
……大丈夫かな?
「時々、様子を見に行ってもよろしいですか?」
「ええ、構いません」
これで大丈夫かな?
それにしても、意識しているわけでもないのに私はサムエルを警戒しているようだ。
たしかに佐藤さんと会ったと言っていた時に笑っていたけど、それだけでここまで恐れることになるのだろうか? 自分が分からない。
「カンゲ、いつ行く?」
「できれば今すぐにでも」
「それは無理ね。あなたまだ疲れているでしょう? せめて明日の朝ですね」
あ、また敬語使っちゃった……
「お心遣い、感謝します。では、どうやって救出するか考えましょう」
「そうね」
「まず、隊長たちの居場所が分からないといけないのですが……」
「それが分からないんだよね」
「また転移魔法に巻き込まれるというのは?」
「巻き込まれた後でどうにかなるのだったらもうベノン達が何とかしていると思う」
「魔法兵を巻き込めば?」
「巻き込まれた人に魔法兵はいないわけですから可能性はありそう……行ってくれる人がいるのなら、だけど」
「一応頼んでみます」
「ありがとう、カンゲ。助かるわ」
◇◆◇
「サムエル様から報告がありまして、神殿に行ってもいいという魔法兵はいないそうです。
ですが、王宮からは一人行ってもいいという人がいたという連絡がありました。連れてきましたが……」
「会わせて」
一人の男が通されてきた。
「聖女ユミ様、カミラと申します」
礼儀正しそうな人だった。
「初めまして。カミラ、あなたがこの任務についていいと考えた理由を教えて頂戴」
「はい。実は自分、少し前までユウナ様の護衛についていたんですが、ある日突然解雇されてしまい……ユウナ様に解雇されたものだから信用ならん、と他の仕事にも余りつけさせてもらえず……。
そんなときこの仕事を見つけてこれなら自分でも役に立てるのではないかとおもいました」
佐藤さん……こんな優秀そうな人を解雇しているんだ。
「帰ってこれないかもしれないけどいいの?」
「はい」
「あと、あなたはユウナの護衛にいたのよね? 魔法兵だったの?」
「自分だけ魔法兵でした。国王陛下がユウナ様を心配なさって自分を引き抜いたようです」
私のところに魔法兵はいないのだけど……
「ねえ、もしこの任務から無事戻ってきたら、私の護衛に入る気はない?」
「いいのですか!?」
「ええ、もちろん。この任務からあなたが帰ってくるのを楽しみにしているわ」
「ありがとうございます。無事、この仕事を成し遂げてみます!」
「頼りにしているわ」
誰もいなかったら私が行こうと考えていたけど、今はカミラを信じることにしよう。
◇◆◇
「ここに転移魔法がかかっているのですか?」
カミラがカンゲに尋ねる。
「そうです」
ちなみに、カンゲは転移魔法がかかっている場所を教えていない。
分かりやすい目印(ぽっかりとした空間)があるとはいえ、カミラが自分で当てた。
「この中に入ればいいのですね」
「はい。脱走路を開くのをよろしく頼みます」
「かしこまりました」
「ひとまず安全になれば、我々に位置を教えるのもお忘れなきよう」
「もちろんです。では、行ってまいります」
カミラは、転移魔法がかかっているところに足を踏み出した……とたんに何かギザギザした硬いものにふれた。
「おわっ!」
声が聞こえた。
よく見ると、たくさんの騎士がいる。
「自分はカミラです。皆さんの中には魔法兵がいないそうなので何かお役に立てないかと思ってきました。現状を説明してくれますか?」
「分かった。聞いていることもあるだろうが……」
「構いません」
「では説明しよう」
ここに彼らが来た過程については目新しいことはなかった。
「ここに落ちた時さ、前に落ちた人がいたから俺はその上にのっかったんだよね。だから痛くなくてラッキーと思ってたらさ、上からがれきが降ってくるんだよ。あれは痛かった」
「それは大変でしたね」
ただ、ここについての情報は知らなかった。
「ちゃんとご飯は少しとはいえくれますし、このあと奴隷として売られるとかそんな感じでしょうね」
「見張りは?」
「ずっとはいません」
「ドアは?」
「かなりの数の鍵を持っていましたし……」
「少し待って下さい」
カミラは魔力を広げた。
鍵は……3つほどのようだ。
転移魔法が使えるかもと思ったが、阻止されていた。阻害の魔法がかかっていた。
だけど、解除出来るかもしれない。
そこまで新しいものではない。多分、行ける。
……。
結局、やらないことにした。
今は、どのみち転移魔法は現在地がわからないがために使えない。
もし、解除したら、無駄に敵の警戒心を上げるだけだ。やる意味はないだろう。
「なんだ? 新入りか?」
「そうです」
おっさんが話しかけに来た。
わざわざこれだけのためにあの三つの鍵を開けるとは……
存外ここの仕事も大変だったりするかもしれない。
おっさんは再び外に戻っていった。
魔力を部屋の外に広げる。
ちょうど、鍵を閉めているところだった。
多分、解錠の方法は分かったと思う。
だからと言ってそれが今すぐ役立つわけではないけど。
「次はいつ見張りが来る?」
「一時間後ぐらいです」
「倒したことは?」
「まだないです」
「やってみるか」
「そうですね……痛っ」
上から石が降ってきた。
『はじめからこの石を使っておけばよかった。カミラ、余計な苦労をさせてしまってごめんなさい。ユミより』
そして、それに付いていた紙にはそんなことが書いてあった。
別に迷惑はしていない。おかげで次の就職先が見つかったんだから。
石を見ると、魔石だった。
きっとここにはユミ様の魔力が込められているんだろうな。
「いったん保留にしましょう。きっとユミ様が来ますから」
「本当か!?」
一人、大げさに驚く男がいた。
この男がもしかしたらユミ様の護衛の隊長のベノンかもしれない。
格子窓の隙間から魔石を念のため、部屋の外に置いておくことにした。
退屈な時間を過ごした。
◇◆◇
今はカミラを信じることにした。
だけど、別の案を思いついてしまった。
……カミラが出て行って1時間ほどたったころに。
思いついてしまったものだから、居ても立っても居られない。
「ねえ、カンゲ。魔石を転移魔法にかけたらどうなると思う?」
「その先に飛んでいきますね」
「そして?」
「すみません。魔法はあまり勉強してきませんでした」
「そう、それなら仕方ないか。私の魔力を込めた魔石だったらね、そこから少しずつ魔力が出てくるから場所が分かるかもしれないの!」
結構いいアイディアだと思うんだけど。
「それは……試してみる価値はあるかもしれませんね」
「でしょう? だから、この魔石を持って、行ってきてくれない?」
「かしこまりました」
「あ、念のためこれも持って行っておいて。持っておくだけでいいから」
「はぁ……? 了解です」
うん、理解していない顔だ。仕方ないけど。
12.聖女ミアの帰還
あぁ~づがれだぁ~。
王都に帰るのに5日かかった。
本当は私はさっさと帰ってもよかったんだけど。
なんか見捨てられなくて、つい同行しちゃった。
こういう性格だから損していることは十分に分かっている。
だって、実際損しちゃったから。
なんかさ、周りは全部護衛の皆さんとかで、男の人なのに、私だけ女の子。
私の護衛とカミラはいるんだけど、それでもよくカミラは喋りに行っている。
こうなって初めて、護衛が彼らで良かったと思った。実力以外のことで。
ベノン達はベノンたちだけで何かを話している。
それを見ていてしばらくして気づいたのだ。そう言えば、彼らは嫌われ者だった、と。
道中は特に問題はなく。私は乗馬の練習を兼ねてできるだけ一人で乗りながら移動している。今までは一緒に乗せてもらうことになっていたし、それも申し訳なかったから。
こんなふうに少しでも動いていくことで、申し訳なさが減っていっているのが嬉しい。
けれど、疲れた。
神殿に帰ったらしばらくはゆっくりしたいなぁ。
あ、けどこの奪還騒ぎで飛ばしていたけど、私の地位の話もあるなぁ。……忙しそう。
「「「聖女様! 聖女様!」」」
なんだろう? と思えば私達が門に入るのを国民が出迎えていてくれていた。
現実逃避していいかな?
のびのびしようと考えていたところにこの騒ぎだよ? 呪われているのかも。
「一体何事?」
自分の勘違いかもしれないという可能性を信じたくて、念の為にベノンに聞いてみる。
「さあ……? 我々にも完全には分かりかねます……が、みなさんがユミ様を楽しみにしていたことだけは確実かと」
「だからどうしてそうなるの?」
「聖女を救い、騎士を救いましたからね」
なんだそりゃ。はた迷惑な。
「みんな嬉しいんですよ。聖女は希望ですからね」
「……そっかぁ」
完全に納得したわけではないが、そういうことにしておこう。
そして、この歓待は、神殿に着くまで続いた。
◇◆◇
「よくぞ帰られました。他の騎士の方もいらっしゃるようで……本当にありがとうございます」
いつものことながら、サムエルに迎えられた。サムエルって枢機卿だよね? ……もういいや。
「ところで、早速なのですが、明日には国王陛下に報告をすることは出来ませんか?」
「構いませんが……」
「では早速明日、お願いします」
都合が悪いとかそういうわけではないけど、そんな簡単に陛下に会うことってできるものなの?
それに、全然ゆっくりできなさそう。
「忙しくなりますね」
「そうですね」
自室でエリーゼと二人語り合う。
「報告……なにをすればいいのかな?
……あ、ごめんなさい。聞かれても分からないわよね。とりあえずあるがままを報告するのがいいと思うんだけど……」
「私もそんな感じでいいと思います。ですが、事前に内容を整理していた方がいいかもしれません」
「確かにそうね」
◇◆◇
次の日になった。
あれからは護衛のみんなにも聞いたりして、報告を一通りまとめた。
みんなにも協力をお願いしたおかげか、すぐに終わった。
それは、ちょっと簡易的とは言え、報告書的なものだった。
いっそ、これを提出したらどうなるんだろう?
案外悪くないアイデアな気がする。
「陛下のもとへお連れします」
今回もまたサムエルがやってきた。
「サムエル様」
「何ですか?」
「あなたは枢機卿なのでしょう? もっと仕事とか無いの?」
「今は聖女様に関わることも仕事ですよ?」
「そう」
なかなか心を開いてくれない。
その後、陛下に謁見した。
報告はスムーズにできた……と思う。
特に文句は言われなかった。
「いやー、陛下は完全にユウナ様に騙されていますね」
昨日、無事に私の護衛になってくれたカミラが言った。
「あなたは私を信じてくれるんですね」
「もちろんですよ。だからこそ、あの偏見に満ちた陛下の顔を見ると悲しくなりますね。ユウナ様よりユミ様の方が聖女らしいのに」
「ありがとう」
やっぱなぁ。あまり陛下から好感のある風に見られていないよね。
「お疲れさまでした」
サムエルがやってきた。
「疲れましたよ」
「いやーそれにしても紙でまとめたものを提出した上に説明までしたんですね。その行動力は真似できませんなぁ」
「エリーゼのおかげです」
「ちゃんと政治の方まで造詣が深いのは非常に喜ばしいことですよ。このような聖女様がきてくださって嬉しいです」
「はぁ……」
なんか嘘くさいんだよなぁ。
だけど、昔感じた不気味さは今はない。あれはいったい何だったのか……
「ところで、ミア様に地位に関してですが……」
「あ、はい。どうなりましたか?」
急に話が重要なものに切り替わる。
「この度の活躍も踏まえまして、大教区長レベルの聖女の職についてもらうということになりました。構いませんか?」
「大教区長……ですか?」
何それ?
「枢機卿の1個下の地位ですね。ちなみに今いる聖女としては最高の地位です」
うん、何ていうんだろう。目眩がするね。
「はぁ……ありがとうございます?」
「役職名は大聖女となっています。力に関しては、王族の外戚、くらいの地位となります」
佐藤察よりは高そう……だな。
これで妬みとかそういう言葉を佐藤さんが言うとあっちが妬んでることになる。それは、少しせいせいするかも。
「わかりました。わざわざありがとうございました。」
「どういたしまして。特に授与式とかはありません。ただ、このバッジはつけてもらいます。これが地位を表す証明書となるので、なくさないようにしてください」
「ところでどうですか? こんど、教皇様にお会いしません?」
「いえ、遠慮します」
「そうですか……それでは、他の聖女様を一度連れてきてもいいでしょうか?」
それくらいだったら。
「構いません」
「ではそのようにします」
「それにしても……ちゃんと聖女様は今もいるんですね」
「もちろんですよ。でなければこの世界は人口がかなり減っていたでしょう。感染症をすぐさま抑えられたりできるのも、優秀な妻女様のおかげなんですよ」
「そうなんですね」
楽しみだ。
聖女様がくるまでには20日ほどかかるそう。
準備に移動も丁寧にしないといけない。
私のこの前の移動の方が例外だそうだ。
例外……例外ね。やっぱ私差別されているんじゃないのかなぁ。
そう考えるのも仕方ないと思う。
13.二人の聖女
「こんにちは~」
「こんにちは!」
「……こんにちは」
聖女の二人に会いに行ってみた。
結構久しぶりの訪問だ。
「ヒマリさん、ミレアさん、ひさしぶりね」
「馴れ馴れしくあたしの名を呼ばないでくれる? そう思わない、ミレア?」
「……」
「私は異世界から召喚された聖女ですし、立場もあなたより上ですよ? 呼び捨てでもお咎めはないんでしょうけど一応『さん』つけているんですが……。
なぜ文句を言われなければならないのでしょうか?」
「あたしだって力の強い聖女だよ」
「……」
ミレアは黙っている。
「ですが、誘拐されたのですよね?」
「あれは……事故さ!」
「そうですか。ですが事故でも誘拐されてしまった聖女とそれを助けた聖女、みんなはどちらの方が上だと考えるでしょうね?」
「……」
ヒマリはこんな風に突っかかってくるけど、ちゃんと常識はある。
今はまだ私のことを表面上は認められないっていう感じ。
ツンデレなんじゃないかな、って思っている。
ただ、それを言ったら怒られそうだからやめている。
「どちらが先に|拐《かどわ》かされたんでしたっけ?」
「あたしだよ」
「事故って何があったんですか?」
「護衛が買収されていたんだよ」
へえ、それを事故、と言ってしまえるんだ。ちょっとかっこいい。
けど……やはりこの問題は結構大きいんだな。
そのことが改めて強く感じられる。
「そうですか。それでのこのこと捕まったんですね。その後は?」
「あの屋敷に連れていかれたのさ」
こんな風に細かい話を聞くのは初めてだ。
今まではベノンたちの救出に忙しかったから。サムエルからなにもされていないということだけを確認していた、
「何をさせられたんですか?」
「ずっと聖魔法ばっかり使わされたいたなぁ」
「彼らが何をしていたのかはしっているんですか?」
「いや、知らねえな」
「そうですか……。ミレアさんは?」
「……政治」
「政治に関しての行動をしていたと?」
「……」こくり
頷かれた。
それにしてもミレアは可愛い。聖女らしいふわふわした感じがある。
今のこくり、もめっちゃ可愛かった。
写真があればいいのに。
「え、嘘!? そんなの教えてくれた?」
「……」パタパタ
手を振られた。違うらしい。
「じゃあどうしてあんたは気づいたの!?」
「聞こえた」
「ミレアさんは耳がいいの?」
「……」こくり
「そっか、どんな話をしていたか教えてくれる? 別に今じゃなくても今度来るときに内容を書いた紙をくれる、とかでもいいけれど」
「そうする」
「ありがとう」
あんまり喋りたくなさそうなミレアに合せた方法にしたけど、受け入れてくれたようでよかった。
「そういえば今度、聖女の方がこっちに来るらしいよ」
「そうなの!?」
「……」
「本当よ。私と……ユウナに会いに来るらしい」
「ユウナ……様……ってあなたと一緒に召喚されて、今王宮で働いている人よね?」
「そうよ」
「一度会ってみたいなぁ」
「サムエル様に言ってみたら? サムエル様ならきっと合わせてくれるわ」
「うん、聞いてみる!」
ヒマリが元気そうで何より。
その元気がどうなるのか、ちょっと楽しみだ。
……いかんいかん、性格がどんどん悪くなっている気がする。
なんやかんやあったが、今回の訪問よりは、次回の訪問の方がいい情報を得られそうなのは、分かった。
一応忠告しておいたほうが良かったかな?
そう考えたのは後の祭りだった。
◇◆◇
「ねえ……」
あのヒマリが陰鬱な表情をしている。
「どうしました?」
「あの女、ムカつくね……」
いや、陰鬱な表情ではなく、ただ、怒っているだけのようだ。
「アハハ……」
やっぱそうなるんだ。
ヒマリはどうやら佐藤さんに会って来たみたいだ。
そして……
「なんであんなマウントとってくるの?
私は聖女としての力はあいつには劣るかもしれないし、事故とはいえ拐かされた身だけれど! あんな王宮で魔法も使わずのんきに過ごしているやつには言われたくない!」
この通り、マウントを取られまくったっぽい。
「大変だったでしょう?」
「うん、あんたも大変だったのね。なんかあんたの悪口もたくさん聞いたわよ」
「え?」
ヒマリだけでなく私の悪口も言っていたんだ。
「例えば、あのインキャ、なんで聖属性が使えるのよ! とか、あいつが成果を出しているのはお金を使っている、だとかいろいろ。
いろいろありすぎて、覚えられなかったわ。」
「そう……」
残念だ。
「だけど! あたしは別にあいつが言ったことを信じているわけではないから!
あんたは私たちを助けてくれたし、ここにたまに来てくれるのもあたしのことを心配して、なんでしょう? そこはちゃんと分ってるから!」
「ヒマリさん……」
ちゃんと思いが伝わるってなんて素晴らしいんだろう。
「だからね……その……ありがとう」
あ、ヒマリは完全にツンデレだな。
「どういたしまして。ヒマリさんも私のことを信じてくれて、ありがとう」
なんか気恥ずかしい。
不意に、背中をつんつんつつかれた。
「ん」
紙がミレアにより渡された。
「あ、ありがとう」
そっか、みれらていたのか……
うん、恥ずかしいね。
だけど、悪くはない気分だ。
部屋に戻って紙を除く。
中身を読んで、驚いた。
彼らは、聖女を使って改革を有利に起こそうと考えていたようだ。
そして、他の組織も味方しているらしい。
これが本当だったら……
彼女たちを救ったことを後悔してしまうかもな。
そして、平和なまま時は経つ。
まるで、何かの前触れかのように。
14.目的と聖女リオン
ミレアに情報をもらって、しばらくが経った。
私はまた、|彼《・》|ら《・》に会いに行くことにした。
最近忙しかったおかげでまあまあ昔のことに思えるけど、転移当初に私たちを襲ってきた彼らだ。
ミレアが書いたことが本当なら、彼らの目的も同じ可能性が高い。
「こんにちは」
「誰だ? ……聖女サマか」
「そうですよ、久しぶりですね」
「そうだな」
「今日はあなたたちの目的を聞きに来ました」
「何だ? 俺たちは答えないぞ」
「文章なら答えてくれないでしょうね。ですが、はい、か、いいえ、は答えてくれるのでしょう?」
「……そうだな」
「おい、オレたちの目的が分かったの?」
「あなたたちは知りませんが、他の組織の目的なら分かりました」
「「……」」
急に無言になられた。
「ま、その通りなんだろうな」
「だよな」
「聖女サマもあんまりその内容を言わないほうがいいぜ、あんたまで疑われる」
「別に構いませんけどね」
「……」
「また面白いことがあったら来ますね」
「……」
そう言って立ち去る。
彼らは、牢の中から、私が去るのをじっと見ていた。
「なあ……あんな聖女様で大丈夫なのか?」
「俺らにとっては悪いことではないが……これからが心配だな」
「もうちょっと嘘つこうとした方がよかったのか?」
「いた、それでは聖女様が困るだろう」
「だよな……どうすりゃいいんだよ」
「俺もそれが知りたい」
後ろで、|彼《・》|ら《・》がごにょごにょ喋っていたのに、ミアは気づかなかった。
「ありがとうございました」
牢を出る際、牢番に挨拶をする。
「何かわかりましたか?」
「いいえ。あちらの方は重要なことはしゃべってくれませんでした」
「そうですか……。ミア様には期待しておりますので、是非また訪れて、何か聞いてやってください」
「もちろんです。」
◇◆◇
そして、聖女がやってきた。
「こんにちは、わたくしはリオンと申しますわ。聖女ユミ、どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそよろしくお願いいたします、聖女リオン」
これはまた個性の強い聖女だなぁ。
まあ聖魔法が使えたら幼いうちから教育が始まるからね。仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
……リオンはもともと貴族だったのかな?
こんなことを考えることになるくらいだったら、調べておけばよかった。
「私はヒマリよ。リオン、これからよろしくお願いするわ」
ヒマリも今日はいる。
ミレアの方も誘ったんだけど、来なかった。残念だ。
そしてヒマリはもう聖女リオンを呼び捨てにしている。
リオンは大丈夫なのかな?
「聖女リオン、リオンと呼んでも構いませんか?」
「いいわよ。その代わり、わたくしもあなたをユミと呼ぶわ」
「ええ、それで構いません」
「聖女ヒマリ、あなたもヒマリと呼んでもいいかしら?」
「あなたが呼びたいんでしたら構いませんわ」
「ではそう呼ぶわ」
ヒマリのツンデレが出ちゃっているなあ。
「何生暖かい目線をよこしているのよ」
「いえ、なんでもないですよ」
あなたのことをツンデレだと考えていたなんて思っていても言うわけが無いじゃないか。
「あら、ヒマリはそういう感じなのね」
リオンが笑い出した。
賢いな、この子。甘えられて育てられたわがまま女かと思っていたけれど……
そんな人物を教会がこちらによこすわけが無いと言われればそういう気もする。
じゃあリオンは我が儘っぽいけどそうじゃない、ということで考えておいていいかな?
そして、多分リオンはヒマリがツンデレなのに気づいているな。
「そうですよ」
「二人して何かしら!? 私の悪口でも言っていたの!?」
「違いますよ」
「違いますわ」
だよね、ツンデレは悪口なんかじゃないもん。
「二人して本当に何!?」
「ただの内緒話ですよ」
「……そう」
「そうよ、あなたが可愛いわね、と話していたのよ」
あれ、リオン、そのこと言っちゃうんだ。
「可愛い!?」
あ、ヒマリの顔が赤くなった。
「今のお顔も可愛いですよ」
「可愛らしいわよ?」
「二人して……私のことおちょくっていますね!?」
あ、バレた。
「嘘は言っていませんよ。可愛らしいと思ったのは本当のことなんですから」
「本当に可愛らしいと思っているわよ」
「……」
あ、詰まった。
多分、言い返してもいい方向に進まないことを理解してくれたのかな?
だったら行幸だ。
「あなたたち二人は今日が初対面よね?」
「そうですよ」
「そうよ」
「なんでそんなに仲がいいの?」
何故って……
「思考回路が似ているのではないの?」
あ、私もそれを考えた。
だってリオンがヒマリをツンデレだととらえなければこうも仲良くはならなかったと思う。
「けど、ヒマリがいなければこんなに仲良くはなれませんでしたよ。ヒマリのおかげです」
「ユミ……あなた私のこと子供っぽく見ていない?」
「……どうでしょうね?」
「まあ、私が役に立ったならそれでいいわ。だけど……私を置いて話をするのはやめて頂戴!」
ツンデレいただきました。
顔がまた赤くなっているしそっぽ向いてくれている。
典型的なツンデレ……だよね?
「分かりました」
「分かったわ」
そして顔を見合わせて笑った。
「もう、言ったそばから二人してまた私を置いて行って!」
「ごめんなさい」
「申し訳ないわ」
そして、また顔を見合わせて笑うのだった。
聖女リオンとの初対面は、こんな風ににぎやかなまま時間まで続いた。
うん、本当にヒマリのおかげだ。
15.混乱とミレアの助け
聖女リオンと会った次の日。
王都は混乱に包まれた。
「号外だ! 号外だよー! なんと、我が国の第一王子が、国王陛下を殺して、国王になると宣言したよー!!」
情報屋は、仕事で忙しそうだ。
そして、その周りにいる人たちはこぞって号外をもらいに行っている。
「明日、新国王からお言葉が下るらしいぞー!! 広場の前だ! 明日は予定を開けて広場に行こう!!」
私は、窓からそれを覗いていた
どんどん情報が広まっていく。
明日か……
まああまり期待しないほうがいいな。
「エリーゼ、号外もらってきてくれる?」
「かしこまりました」
さてさて、どんなことが書いてあるのか。
「聖女ミア」
呼ばれて振り返ると、ミレアがいた。
「どうしたの?」
「話が、あります」
ミレアは、いつもと違い、はっきりと喋った。
「ここでいい?」
「はい」
「どんなこと?」
「とらえられていた時のことです」
はきはきと喋るミレアは、昨日までのミレアを知っているために、ミレアに見えなかった。
「聞きましょう」
ここで茶化してはいけない。
私は聖女ミレアに向き合った。
「始めのころは、脅されて強制的に魔法を使わされていました。そして、それが嫌でした。
だけど、ひどい怪我をされることはなくて……その前に私が諦めて魔法を使ったからですけど……そのときはこの体質に感謝しました」
大聖女ミアがやったことは間違いではなかったんだ。
そのことに安心した。
「ある日、あの人たちの声が聞こえてきて、この組織の目的が今の王家を壊すことだと知りました。少なくともこの国で動いている組織はその目的で動いていそうです。
そして、その目的に同意してしまって、最後のころは、少しの痛みで聖魔法を使うようになりました。
両親のことを考えると、組織に同意はしていてもやはり少しは抵抗しておくことが必要だと思ったので。
だから、最後のころの私の待遇は、多分、思われているほど悪くありません。
ただ、このことは助けてくれたミア様を裏切ることになるかもしれないので……今まで言えませんでした」
「そう、話してくれてありがとう」
そっか、私に遠慮していたんだ。
「それで……」
あ、まだ話は続いているみたい。
「国王陛下が殺された今、彼らが仕掛けてくる可能性があります」
……こっちの方が本題っぽいな。
「それは、王子暗殺を?」
「多分そうです」
「あまり関わりたくないな……」
「私も同じ気持ちです。ただ、ミア様が私を助けてくれたので、恩返し的なもので警戒するように伝えに来ました。それだけです」
そう言って、ミレアは目を伏せた。
「ミレア」
手を彼女の顔に当て、目を合わせる。
「話してくれてありがとう。注意しておきますね」
ミレアは、数秒目をおろおろさせたが、
「はい」
最後には目を合わせ、そう返事してくれた。
近づけたみたいで嬉しい。
◇◆◇
その日のうちに、また彼らに会いに行くことにした。
「こんにちは」
「……こんにちは。忙しい聖女サマが一体何の用だ?」
「この前言っていた面白いことが起こったので伝えに来たまでです」
「面白いこと?」
「はい。もうほとんどの王都に住んでいる人に知られていることですが」
「おれたちは知らないがな」
あはは……
「あなたたちは自業自得です」
「そうか、それで何なんだ?」
「第一王子が、国王陛下を殺したそうですよ」
「……ほう?」
「面白そうなことが起こっているじゃねえか」
「そうでしょう?」
ホント、王宮の方に行かないですんで良かった。
佐藤さんは……どんな立場になるのだろうな。
「そして、これを機にあなたたちのような組織が動き出すかもしれません。ちなみに、第一王子のその行動の理由はまだ明らかにされていません。
ですが、明日、広場にてお言葉を下すそうですよ」
「何か起こりそうだな」
「ですよね。まあこれを伝えに来ただけです。つまらない獄中ですが、これからの展開を予想したりして楽しく過ごしてくださいね」
そう言って出口に歩みだす。
「なあ」
後ろから声が聞こえた。足を止める。
「何ですか?」
「なんであんたはこちらにいい情報を教えてくれるんだ?」
「いい情報? 私が面白いな、と思ったことを伝えただけですよ。後は、その瞬間を見れないあなたたちの悲しみでも見ようと思ったんですけど……無駄足でしたね」
「嘘言うな」
うん、嘘だ。私の性格はそんなにひねくれていないと思う。
「初めの時に言った通りですよ。それに、あの佐藤さん……ユウナに絆されるような国は終わりだと思っていますから」
そう、この国のために魔法を使いたく……な……い……。
!?
「ではまた。いい発想をありがとうございます」
「発想? どういうことだ?」
後ろで彼らが何かを言っているが、それにこたえる暇はなかった。
そう、これだ!
これがあれば、いろんな問題が解決する!
聖女が、自分の意思でなくては魔法を使えないようにすればいいんだ!
そしたら、国は聖女に魔法を使ってもらえるような国になる。
組織も、聖女に魔法を使ってもらえるような待遇を取るだろう。
これしかない!
いつの間にか、そこまで強く思うようになっていた。
……まあ、意思、というのが分かりづらいとこなんだけど。
16.第一王子のお言葉(笑)
そして、次の日になった。
今日は、大間抜けの第一王子のお言葉がある日だ。
心なしか、王都全体がざわめいているような気がする。
ちなみに、昨日もらった号外には、大した情報は無かった。
だからこそ見に行きたい。
「サムエル、広場に行っていいよね?」
「もちろんです。……私もついて行ってもよろしいでしょうか?」
「? 構いませんよ」
「ありがとうございます」
何故かいつのまにか部屋の近くにいたサムエルを呼んで、許可をもらった……が、なぜか一緒に行くことになった。
聖女の管轄がだれだかは知らないが、サムエルの立場がこの神殿では一番高いんだから、問題ないだろう。
それにしてもサムエルはいつまでこの神殿にいるんだろう? そして彼は何者なのだろうか?
「ベノン、行くよ」
「かしこまりました」
広場には、もうたくさんの人がいた。
できるだけ目立たない格好で来たつもりだったけど、やっぱ護衛がいるからか、チラチラ見られる。
そして、あれからも聖女としての仕事をしていたせいで……
「聖女様かしら?」
「なぜここに?」
「神殿所属なら関係ないでしょうに。わざわざここにいらっしゃらなくても構いませんのに」
「おかあさん、どうしたの?」
こうなる。
変装とかやったほうがいいかなぁ。
エリーゼ……変装出来るかな? 今度試してもらおうかな。
ちなみに、サムエルは私の後ろでひっそりと立っていた。
これが枢機卿?
知らない人が見たら驚くだろうな、と思う。
そして、第一王子が現れた。
「やあ! 皆の者、初めましてかな?
会ったことがある人もいるだろうが、私がこの国の第一王子、ムニダスだ。
そして! これからのこの国の王だ!」
えーっと、それって確認は済まされているのかな? ちゃんと認証されているのかな?
確か、この国には第三王子までいたと思うんだけど……
「父ちゃん、あの人が新国王なの?」
「さぁ……」
みんなも戸惑っているようだ。
「皆が戸惑うのも分かる。皆は私の治世が来るのがもっと後だと思っていたのだろう?
だが安心してくれ! 今すぐに、私の治世がやってくる!」
「馬鹿ですかね、この王子は」
みんなが戸惑っているのが分かるようだから、と安心したけど、勘違いしているし、あまり期待できないなぁ。
サムエルのあの発言は…聞かなかったことにしよう。
「では、まずなぜ私が父上……国王を殺したのか、を語ろう。
先日、私のもと……父上のもとに報告が来たのだ。
皆も知っているだろう? 聖女奪還の件で、だ。そこで、組織がどんな目的で聖女を誘拐しているかが明らかにされた。
なんと! 彼らは今の政治に問題があると思っているようだ!」
「親殺しの大罪を犯したくせに。あぁ、女神よ、彼に制裁を」
間違ったことは言っていない。
なぜか、ここでの民衆の説得にこの王子が成功してしまうような気がした。
サムエルは……。うん、そのまんまだ。ちゃんと信仰心あったんだ。
「父上は、その報告を無視した。
だから、私が立ち上がったのだ!
彼らはきっと、父上の政治に疑問を抱いているのだろう。だったら私に代われば、彼らは何も文句を言わないのではないか? そう思ったのだ」
「ふん、馬鹿め」
民は、ふうん、と聞き流している。多分、知らない情報だからだろう。
「彼らが不満に思う政策については心当たりがある。私が即位し、1年以内に、その政策を取りやめることを誓おう!」
「嘘つき野郎、お前に出来るものか。というか何だと考えているのか。絶対不要なことをしでかす」
そこからも王子の長い語りは続いた。
サムエルの異常さに気づいたのか、少し、サムエルの周りが、ぽっかり、空いていた。
「そして!」
ああ、もうすぐ終わりかな?
「ここで皆に朗報がある!」
民は、結構この王子に乗せられている。
今の発言にも、皆が興味を引いているのが分かる。
「私は、聖女ユウナと婚約している!」
「聖女ユウナ?」
「誰かしら?」
「ユミ様じゃないの?」
サムエルの突っ込みが聞こえないな、と思ったらいなかった。
何処に行った?
「ゴホン、ユウナは聖女ユミと一緒に召喚された聖女だ。彼女は王宮で働いてくれている」
「へぇ~。けれど、ユミ様じゃあないのか……」
「ユウナ様って何かしてくれたかしら?」
「まあ聖女だから……」
あらら、私の評判で佐藤さんが消えちゃっている。
可哀そう。
さらに、そのせいでさっきまであった期待が少し減っちゃっているような……気の所為だよね。私は何も知らないし気づいていない。
そう言い聞かせることにした。
「ともかく! そういうことだから、これから私の治世をよろしく頼む! 戴冠式は20日後に行う! 私に見合った素晴らしい式典にすると約束しよう!」
一度私のせいで期待を薄めた国民は、今の発言で戻っていった。
こんな簡単に流されちゃう国民というのは問題だな。
ま、私にはあまり関係ないか。
佐藤さんが何処からともなく現れて、王子の下へ向かった。
「ちょうど彼女が来てくれた。彼女が次期王妃、ユウナだ!」
「あら、可愛い」
「そう? 性格悪そうよ?」
「うわぁ」
うん、三種三様の反応だね。
そして、そんなセリフで王子は帰っていった。
今の発言で、これからのみんなの反応が分かれそうだな。どうなるんだろう?
「第一王子様かぁ。今まであまり聞いたことが無いよな?」
「それに聖女ユウナだっけ? 聞いたことないなぁ」
「だよな、最近聖女として活躍してくれた聖女様ってユミ様だけじゃないの?」
「他国もあんまり聞いたことないなぁ」
「ねえねえ、だいいちおうじさまはどんなことをいっていたの?」
「ちょっと待ってな」
私が褒められてしまっている。
気恥ずかしい。
その時。
バァン!
そんな音が聞こえた。
何か起こっちゃったかな?
「何だ?」
「こわいよう」
王子が行ったほうから人がやってきた。
「第一王子が、殺されました!!」
え? 王子の護衛ってそんな弱いの?
11.護衛の奪還
魔石をもっていかせてから2日がたった。
さて、もうそろそろかな。
カンゲが私の魔力入りの魔石を持っていってから、ずっと脳内で後を追っている。
この魔力の使い方は……なんとなく、としかいえない。
なんとなく、あっちの方向に私の魔力がある気がするのだ。
そして、それと今回通る道とを示し合わせて、今ここら辺にいるんだろうな、というのを感じている。
そして、推測が正しければもうすぐ着くころだ。
……と、反応が消えた。これは転移されたということだろうか。
けど、どこに? 転移された先が分からない。
しばらく辛抱強く探した。そしたら、反応があった。
90度ちょっとずれた方角だ。
どうやら、転移されたようで間違いはないらしい。
地図を覗くと、その方向には街があって、山脈と森があって、|隣国《ファステリア》の王都がある。
さすがに隣の国の王都はないだろうから、それまでにはあるだろう、きっと。
「準備はできている? ファステリアの王都の方向に向かうよ」
「かしこまりました」
さあて、今のうちに進むだけ進んでおかないと。
「ちゃんと休憩したから飛ばしていいわ」
「かしこまりました」
護衛の5人くらいと身軽に進む。
もう昼過ぎ。だけど、今行動しておいた方があとからがはるかに楽になる。
カンゲが神殿に戻る前に進んでおかないと。
一晩、徹夜した。
そして、次の日は、早めに宿についた。
カンゲは、まだ神殿に着いていなさそうだ。
朝。目が覚めた。
カンゲが動いているような感じはなかった。もしかしたら神殿についているかもしれない、と方向を確認するとドンピシャだった。
「カンゲを迎えに行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
◇◆◇
おつかいから帰ったカンゲは驚いた。
ユミ様がもう出かけたらしいと聞いたからだ。
俺、おいて行かれたのかなぁ。
分からないが、とりあえず一晩神殿で過ごすことにした。
朝、早起きをして運動をしていた。
ユミ様からは相変わらず何もない。本当に見捨てられたかもしれない。
あぁ……ユミ様……
「カンゲ、おつかいご苦労様」
だから幻聴が聞こえたのだろうか。
ユミ様の声が聞こえた。
「え?」
そして、振り返ってみると身体もあった。
「私は本物ですよ?」
自分の考えも見透かされていた。ちょっと恥ずかしい。
「今から私たちは進んだところまで連れていきますね」
「進んだ? どういうことですか?」
「私は転移魔法が使えるんですよ?」
「だから何なんですか?」
「カンゲを待たず先に進んでそこから転移魔法を使ってカンゲを連れて行くほうがはるかに効率がいいじゃないですか」
「確かに……」
「なにも言わず話を進めてしまってごめんなさい。だけど、これも早くべノンを救出するためだから」
「ありがとうございます」
「わかってくれたならよかったです……風ーー聖転移」
ユミ様は、俺のためだけに聖転移を使ってくださった。
聖転移は、聖属性を使えるものしか使えない魔法。転移時に、その違いは現れる。
そして、一瞬で目の前には仲間がいた。
「進みましょうか」
「はい!」
やはり、このお方は素晴らしい。
◇◆◇
「なあ、ユミ様はまだか?」
「もう4日もたつぜ。食事は与えられているからいいにしてもよぉ」
「ここが王都から離れているとことだったらいくらユミ様とはいえども時間はかかりますよ」
「お前さんはなぜそんなユミ様を信じられるんだ?」
カミラは考える。
「そうですね……強いて言うなら、ユウナ様から解雇された自分をなんの偏見もなしに見てくれたから、ですかね。なぜか信用できると思ってしまったんですよ」
「そうか……なら、俺たちも信じて待つしかねえな」
「だな」
「俺らももう少し頑張ろうぜ」
そして、時を過ごすこと一時間。
「なんだ?」
「さわがしいな」
「待ってくださいね。今、確認します」
魔力を広げる。すると多くの人たちが入って来ていた。
壊すなら今がチャンスだ。
ここにかけられていた阻害を解除する。
だが、外に出られるわけではない。正直手詰まりだ。
「カミラさ~ん」
ユミ様のお声が聞こえた。
助かった。
ひと安心だ。
◇◆◇
「カミラさ~ん」
反応がはっきりしてきた。10,20,30……いったいどれくらいの人がいるんだろう?
こんな人数を生かしておくよりさっさと殺したほうがいいと思うけどな。
何か目的があるのかもしれない。
「この鍵、どうやって開けれますか?」
カミラなら理解していると信じて、聞くことにした。
あの奴らは今頃めっためたにされているだろうから聞くに聞けないんだよね。
「一つ目の鍵は……」
説明してくれた。やっぱり把握していたようだ。
カミラは優秀な人物だと関わりが少ない私でも分かるのに。
佐藤さんは何で無駄なことをするのだろうか?
「ありがとう。少し待ってね」
この鍵はこうして。
あ、だけど3番目は普通に鍵が必要なんだっけ?
どうにかならないかなぁ。
ピッキング……やってみようかな。
鍵の仕組みならわかるし、意外とできるかもしれない。
結果、出来ちゃった。
多分、ただ手さぐりにやるだけでなく、魔力も使って鍵の内部を感じることができたからできたんだと思う。
ここでも魔法……というかもはや魔力だけでも十分な気もするけど……の威力を知る羽目になった。
「助けにしましたよ」
「聖女様……」
「ユミ様だ……」
「尊い……」
なんだろうね、前世でも聞かなかったことを言われているよ。
この人たちの目、大丈夫かな?
「怪我をしている人はいませんか?」
「はい。大きい怪我は誰にもないです」
「それは良かったです。では帰りましょうか。4日5日ほどかかりますけど構いませんよね? あと今日は休養してもらいますからね!」
転移を使うことも考えたけど……
あんまり大人数を転移に巻き込むのは申し訳ないし、報告に行かせる者一人に転移は使うことにした。
【閑話】舞台裏で。第一王子編
ネットが通じなかったので投稿遅くなりました。ごめんなさい
父上はそこまで才能を持っていないと思う。父上の治世が続いているのは、一重に先代が良かった。これに尽きる。
祖父は、賢王などと呼ばれていた。
それほどに優秀な人だったらしい。常に何年も先を考えていた。
そして、私は祖父のような政治を行いたい。
常々そう思ってきた。
結婚はもちろん私情を挟まず政略で行う。
そして、その相手とは、しっかり愛を育む努力をするのだ。
そう考えてきた。
ユウナに会うまでは。
出会った日の挨拶。
「こんにちは〜。あたしが今回ここに配属された聖女のユウナです。第一王子様……むにだす……ムニダス様? え〜っと、これからよろしく」
くったくなく表情が変化して、面白い少女だ、というのが第一印象だ。
貴族社会には全然染まっていない。
いろいろこれから問題が生まれるだろうな、と思った。
父上から話を聞くに、彼女は王室専用の聖女だそうだ。
王室専用、か。
もしこれでこの少女が問題を起こしたら、王室にそれが飛び火する。
なんとしてでもそれは防がなければ。
そんなふうな覚悟だった気がする。
以外にも、彼女の吸収能力は高かった。
素人には難しいだろうな、という作法も、ちょっと演技がかったものになるものの、直ぐ身につける。
優秀な人間だと思った。
もちろん、私以外にも彼女には先生がいる。
私は日々の息抜き程度に会いに行くくらいだ。
だけど、接していくうちに、彼女の人柄に惹かれてしまっている自分がいるのに気づいた。
危ない。間を取ろう。
そう思うも、初めて抱いた感情だからか、制御ができない。
そして、またユウナに会いに行って、また人柄に惹かれて……
そんな泥沼に入っていった。
ただ、そんな泥沼に浸かっているような状態でも噂は聞こえている。
ユウナが他の貴族男子を虜にしていること。
そしてその反面、女子には厳しいことがあること。
これはしばらく経ってから広まったような気がするが、実際は彼女によく出会う、下の方の人からじわじわこちらまで噂が来ているようだ。
客観的に見て、自分の好意は側近たちにはバレていると思う。
だからだろう。時折、側近を辞めるものも現れた。
私には婚約者がいる。
ユウナに会えなくなる理由付けとして、彼女を頻繁におとずれるようになった。
そして、仕事が少しずつ滞り始めた。
婚約者には話を通して、婚約を解消させてもらった。もちろん慰謝料は払った。次のも探すことにした。
自分の勝手でこうなってしまったことが申し訳ない。そう思うも、やめれない。
ユウナにも話を通した。
「どうやら……私は君に懸想してしまっているようだ。幸いにも君は聖女だ。婚約しても構わない身分にある。どうか、私の婚約者になってくれないか?」
「はい!」
ユウナは教えた通りの優雅なお辞儀をした。
きっと、大丈夫。
なぜだかそう思えた。
そして、そんなある日、とある報告が聞こえてきた。
王族にしか伝わっていない道を通っている時だ。
「この前の聖女奪還の時に捕まえたものに話を聞くことができました。ご報告してもよろしいでしょうか?」
「構わん」
父上か?
「まず、彼らの犯罪歴です。重要な犯罪は2つ。聖女を2人誘拐したこと。そして、その聖女様を使って。他の組織を潰したり、いくつかの砦を襲ったりしていたようです」
「次に?」
「目的についてです。彼らは、今の政治体制について疑問があるようで、それをつぶすために働いている、というようなものらしいです」
「政治体制か。いつの世もそういうことを言うやつはいるからのぅ。気にすることは無いんじゃないか?」
「ええ、私も同意見です。ただ、他の組織も似たような目的で……」
まだなにか話しているようだが、その内容が入ってこない。
今の政治体制に不満?
それは、つまり父上の政治に、ってことか?
なあんだ。あの組織もそんなしょぼい理由で動いていたのか。
それくらい、私がすぐ終わらせられるのに。
幸い、私と考え方は一緒のようだ。
私が手を出しても文句は言われないだろう。
そして、私は父上を殺した。
ユウナもそれがいいよ、と言ってくれた。
それなら怖いものなしだ。
寝室に、息子だという立場を使って入り込み、護衛が反応するより前に喉を切った。
人を殺す、という感覚は、非常に怖かった。
だけど、私は歴史に残ることを成したのだ!
それが、私の心の支えとなっている。
「父上を殺した。次の王は私がなる。明日、広場で待て。事情を伝えよう」
護衛に伝えた。
これできっと、この情報は広まってくれる。
そして、迎えた次の日。
私を待っていたのは数多くに民達だった。
そうか、私の即位をこんなにも喜んでくれる人がいるのか。
そう思って、思いのままを言った。
伝わってくれたのだろうか、時が立つごとに皆の反応が大きくなる。あおれが心地よかった。
ちょうどユウナの話をした後に、ユウナがやってきた。
ちょうどいいと思って発表した。
そして戻った先、そこにいたのは、一人の神官だった。
護衛はおらず、倒されていた。
何の音もしなかったのが不思議だ。
いや、音はしていたかもしれないが、それにも勝る歓声を私が作っていたからな。
仕方ないだろう。
だが、事態はそう簡単ではない。
護衛が倒されている、それだけで大事件だ。
「第一王子、ムニダス様。あなたはもう邪魔なものでしかなくなりました。さようなら」
ボンっ!
その言葉と共に、黒い煙が立って、前が見えなくなった。
そして、息が苦しくなって……
もがいて、もがいて、もがいて。
だけどこの煙からは逃れなくて。
ユウナと何度もぶつかった。
ユウナも同じ状況にいる。それが心強かった。
「ユウ……ナ……ま……ほ……う‥‥‥……を……………」
声は途切れ途切れになる。
届かない。
そして、呼吸ができなくなって。
痛くて、痛くて。
…。
先日ファンレターを下さった方へ(名前は一応隠します)
お友達の誘い、是非受けたいです。
ユザペとか何かはありますか? あるならURLを是非送ってほしいです
【閑話】舞台裏で。ユウナ編
あたしは自分の名前が嫌いだ。
結ぶ海、結海と書いて、ゆうな、と呼ぶ。
「ゆう」はともか「な」は、何処からやってきたんだ? 分からない。
よく分からなくて、あまりこの名前が好きになれなかった。
そんなときに。同じ漢字の持ち主に出会った。
結海と書いて、ゆみ、と読む。
これだ。
そう思ったのだ。
だけど、ついた名前はどうしようもなかった。
「佐藤ゆみ……じゃないゆうな」
「はい」
「山名ゆみ」
苛立つのはこの朝の健康観察。
ゆみ、は普通に読まれるのに、ゆうな、は一発で覚えてもらえない。
そのせいで、どんどん劣等感が溜まっていった。
そして、クラスではそれなりの地位にいるあたしは、それを使って、彼女に絡むようになった。
そして、それがエスカレートする前に、あたしは彼女と一緒に異世界に召喚された。
よくある召喚ものにあるようなやつで、この世界の聖女を救ってください! と頼まれた。
聖女はよくあるものではないか。
ま、そんな事情があったようだ。
あたしは第一王子様を攻略してみたり、意外とチョロかったw、きにくわないやつにちょっとだけ残念なことをしたり、と聖女の権限を使いまくった。
噂が広まりかけていたから、せめて物として、王子の側近たちにはお金をあげて、隠してもらうように頼んだ。
たまに山名さんのところに遊びに行っては、時間を潰せば暇じゃないかな、と思って。合計2回、山名さんのところへ行った。
一回目は酷かった。
ちゃんと今日行くって伝えたのに、神殿に山名さんはいなかった。
夕方まで待ってみたらようやくやってきた。
「やっと来た!」
私は待ってたんだからもっと早く来てくれればいいのに。
そう思う。
しかもその後もうまく行かなかった。
山名さんと一緒に神殿に入れてもらおうと思っていたのに……。
神殿かぁ、いい男いそうだよね。
なのに。山名さん達は来た道を戻っていった。
ま、彼女のことだ。臆病にでもなったんだろうな。
そして2回目。
今度はちゃんと神殿に通された。
だけど、すぐさま山名さんの部屋に連れていかれ、周りの男を物色する暇がなかった。
そして、そこで会った山名さんは……
「いらっしゃい」
口調がおかしくなっていた。
いや、あとから思えば口調だけじゃなく、全体的におかしかった。
山名さんはあたしに向かって、こんな事まで言ってきたのだ。
「そしてこっちには来ないでね。仕事の邪魔だから」
こんなやつがあたしを邪魔だっていうの?
「邪魔? あんた今あたしのことなんつった?」
「聞こえているじゃん。邪魔って言ったんだよ」
「はぁ?」
つい、殴ってしまった。
いや、殴れてないか。殴る前に、
「光ーー邪魔者を排除せよ」
と、現れたベールに阻まれてしまった。
「なっ!?」
そんなに早く魔法を習得しているの!?
私なんて、魔法を教えてもらったのは数種類。それも習得は難しかったし、今も習得できているとは限らない。
「喋る暇があったら魔法の習得に努めたら? じゃないと誘拐されるよ?」
魔法の習得だって頑張っているよ!?
それに……
「誘拐? そんなのされるわけないじゃん、あたしは聖女だもん。それに、あんたと違って心強い騎士がいるもん!」
今日の山名さんはあたしの苛立つことも言ってくる。
これはあれだ。あたしの攻撃を防げたから自分が上になったと思っているやつ。
だから、あたしの慕われ具合を見せつけてやる。そのつもりで言った。ま、事実だけど。
かわいそ、山名さん。
「ユウナ様……」
「じゃあね」
「聖女様、この者のところにはあまり寄らないようにしましょう。聖女様が不快に思わされるのを見るこちらの身にもなってください」
だね、めっちゃ不快。
昔のままの山名さんだったらなぁ……
あたしは護衛の人たちをごまかすために、
「大丈夫、あの人はいい役職に就いた私を妬んでいるだけだから」
と、言うことにした。
◇◆◇
その次の日くらいかな。サムエル様がやってきたのは。
「こんにちは、聖女ユウナ様。私は枢機卿のサムエルと申します。あなた達を召喚させていただいた人です」
見覚えがあると思ったら、そういう事情があったわけね。
「覚えてるよ。こっちに呼んでくれてありがとね」
「……。そうなんですか。こっちの世界は楽しいんですね?」
「うん、もっちろん!」
何を聞きたいんだろう?
「それではまた」
「え? もう帰るの?」
「そうですが? 今回知りたかったのは新たな聖女様の性格ですからね」
「そうなの? また来てね」
一体何だったのかはよく分からなかったけれど、暇つぶしにはなったし、よかった。
◇◆◇
山名さんのところによらない日が続き、あたしの男漁り放題な毎日が来た。
けど、だんだん飽きてくる。
そんな時だった。ムニダスから婚約者になってくれないか、と頼まれたのは。
もちろんオッケーした。
王妃様になれる可能性が一番高いんだよ?
あたしにぴったりじゃん!
今まで、礼儀作法とかちゃんと頑張ってきてよかった。
たぶん、そういう努力も関係したんじゃないかな?
素直に……ではないな、考えてやってきたから。だけど、うまくいったのは嬉しかった。
そんなある日、ムニダスが不思議な行動に走った。
なんと、お義父さん……現国王を殺したのだ。
「どうしたの?」
「聖女をさらっているやつがいるって、話は知っているだろう? その彼らは今の政治に納得がいっていないみたいなんだ。だけど、それくぉ聞いた父上は何もしなかった。
だったら私がやるしかないだろう?」
「そうなの……かな。分かんない」
こんなタメ口は二人の時だけ。
「あぁ、愛しい……」
顔がかぁーっと赤くなるのが自分でもわかる。
「もう、サムエル様。今言われても何もないですよ」
「いいんだよ。君がいてくれれば」
「そう……」
溺愛系の漫画の主人公みたいだ。
ふふん、さっすがムニダス。あたしがうれしいことをしてくれる。
「明日、事情を民に説明しに行きたいと思ってる。その時に、近くまでついてきてくれないか?」
「あたしが?」
「そうだよ。ユウナだからいいんだ」
「嬉しい!」
◇◆◇
そして、一緒に来たはいいけれど。
広場の近くに私は数人の護衛とともに待ちぼうけになった。
周りに人がいないのはいいんだけどな。
仕方なく護衛の面々と話すことにした、
「ねえ」
そう、一声かけただけなのに、みんな嬉しそうにこっちを見てくれる。
こういうのがとても嬉しい。
かなりの時間がたった。
「ユウナ様、お久しぶりです」
|彼《・》がいた。
「久しぶり、どうしたの?」
「今、殿下がユウナ様のことについて行っているので行ったらどうか、というお誘いですよ、ただの」
「ムニダスがあたしのことを話してくれているの? 行ってくる!」
あ、いけない。ムニダスがいないとやっぱり気が抜けちゃうなぁ。気をつけないと。
本当だった。
「ちょうど彼女が来てくれた。彼女が次期王妃、ユウナだ!」
あたしがついた途端のムニダスの発言。|彼《・》には感謝しよっ。
お陰であたしの顔が知れ渡った。
そして、また戻った。
今度はムニダスと一緒に
そして、戻った先では……
護衛たちが死んでいた。
「第一王子、ムニダス様。あなたはもう邪魔なものでしかなくなりました。さようなら」
|彼《・》は言う。
ボンっ!
そして、あたしの耳元で、
「ユウナ様も、役に立ってくださりありがとうございました」
と、言った。
いつ、あたしがあんたの役に立つことをしたのだろう?
|彼《・》の顔を見ようと思ったけど、もうその頃には黒い煙が充満していた。
「ちょっと!? 何よこれ!? あたしがなんでこんな目に会わないといけないの!? ムニダス、助けてよ!」
そんなときに思い浮かんだのは同じ聖女の力を持つ山名さん。
「あんの山名! あたしが困っているというのに! 助けろよ!」
そして、今までたぶらかした男の顔も思い浮かぶ。
「せっかくあたしが時間を割いてやったんだから、こんな時くらい役に立てよ!」
暴れ回っても、黒い霧は消えなくて。
そして……
17.状況説明
「行きましょう!」
「「はい!」」
ベノンたちを連れて護衛が来た方に向かう。
そこには、さっき叫んだ、その護衛がいた。
その奥には……
佐藤さんと、第一王子と思われる人が死んでいる様子、周りで大量の護衛が、出血している様子があった。
「うっ……あ、すみません。私は聖女ユミです。事情を伺ってもよろしいですか?」
「ユミ様……はい、構いません」
「何がありました?」
「分かりません。僕はもともと殿下……第一王子の護衛なんですが、後片付けをして戻っていたら、黒い霧が出ていて。しばらくして霧が晴れたんですけど、そこに殿下と聖女ユウナ様が息絶えておられました」
「護衛はどうなっていたの?」
「護衛は倒されていました。あと、言うのを忘れていましたが、護衛にも霧がかかったようで……」
「死んだの?」
「はい」
よく見ると、切られている護衛と、佐藤さんや第一王子のように傷はない護衛がいるっぽい。
「あなただけ? 残っているのは」
「いえ、あと2人います。現在は王宮にこのことを伝えに行っているようです」
「そう……」
悲しい話だ。
「犯人に心当たりは?」
「ありません」
うーん……困ったなぁ。
「おや。もういらしていましたか」
そんな声が聞こえ、振り向くとサムエルがいた。
「どこに行っていたのですか?」
「周りから人がいなくなってしまったようで寂しかったので、他の場所から見ていました」
……さみしい、ねぇ。
ちょっと嘘っぽいな。申し訳ないけど。
「それで、黒い靄、でしたっけ? それがヒントになりそうですけど……」
私は黒い靄を出し、人を殺す魔法なんて知らない。
「エンナ先生なら知っているかな?」
「iいえ、それには及びません。何かは分かっています」
「そうなのですか!?」
「はい。それは闇魔法の一つ。闇霧、と呼ばれるものです。霧のなかにいる者は逃れられず、だんだんと息が苦しくなって死んでしまう、というものですよ。」
そっか。それなら護衛も倒されていてもおかしくないな。それどころか、あの二人をまもれなかったことにも納得だ。
……ん? 闇?
「闇魔法ですか?」
「そうですね」
「何!?」
護衛の人が強く反応した。
そんなに危険視すること?
「サムエル様、どうか、どうか、神殿の上層部まで、この出来事を伝えてくれませんでしょうか!」
「一応しますけど……悪魔が動いたということは、これが神殿の意向という可能性もありますので……表沙汰にならない可能性のほうが高そうですよ?」
「構いません」
「……分かりました」
「ありがとうございます!!」
「ユミ様」
「何でしょうか? サムエル様」
「ここを浄化してやってください」
「……いいのですか?」
そりゃあ現場保存は必要だから、と今まで我慢してきたけど。
ただ、いいよ、と言われると不安になる。
「光ーー汝の視界を不純なきものに」
そして。
血は浄化された。
だけど、まだ。
彼らの顔が、苦しそうで嫌だ。
「光ーー汝の糧になれ」
それは、ただの偶然だった。
彼らのメインの死因は窒息。そして、ユミが力を集めたのは、顔。
そこは、かぶっていた。
そしてーー
「ん……」
「ううん……」
二人だろうか、目を覚ますものが現れた。
「「え?」」
私とサムエルの声が被った。
◇◆◇
これは、ちょっと前のこと。
突如、黒い闇が現れ、そこから人が現れた。
彼は、もといた人に話しかけられる。
「良くやってくれた。その後は彼らがやってくれるから気にせずともよい」
「はい、理解しております」
神官と神官のようだ。
いや、ただの神官ではなさそうだ。身なりがいい。
そして、不穏な話は続く。
「これで我らも多少は大きくなれるな」
「そりゃあ第一王子を屠ったんですからそれぐらいでないと納得がいきませんよ」
「はは、そりゃそうだ。……今回は本当に済まないことを任せてしまったな。礼を言う」
「もったいないお言葉です」
「これからも頼みにしているぞ。闇霧なんて。悪魔の仕業だとバレてしまうからあまり使ってほしくはないんだがな」
「その点については、誠に申し訳ありませんでした。何分、人が多かったもので」
そう、彼は、悪魔だった。
「まあいい。どのみち隠し通せるだろう。最悪彼らのせいにすればよいだけだ」
「そうですね。そちらの方では動いたほうがよろしいですか?」
「好きにしろ」
「かしこまりました」
そう言って、悪魔の方の男は、消えた。
その後には、闇が、しばらく残っていた。
闇魔法の一つ、転移だ。
「これでもう少しであの国は終わりだ」
そう言って、残った男はクククッと笑った。
◇◆◇
場所は広場の近く。
そこでは、先ほどサムエルとミアが声を上げたところだった。
「「生きてる?」」
またしても、私とサムエルの声が被った。
「確か……聞いたことがあります。闇霧は、動くものに苦しみを与えるが、動かないものには特に何も与えない……と」
そうなのか。知らないことばかりだ。
「彼らを起こしてきますね」
「はい……」
「なあ、何があった?」
護衛のものが話しかけてくるが、私のほうが真実を知りたい。
サムエルは、彼らのもとについたようだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫……だ………ってあんた!」
「すみません、静かにしていただけますか?」
「なぜ静かにしなければならねえんだ? 教会の偉大な枢機卿の一人のサムエル殿が悪魔で、実は第一王子を殺した、というのは本当だろう!」
「ああもう……わからない人ですね。こちらにも事情があるんですよ」
サムエルはそんなことを言っているが、聞こえちゃった。
「サムエル様‥…犯人なんですか」
【閑話】舞台裏で。サムエル編
私の過去の話でもしましょうか。
ただの、私の仲間にはありふれた話です。
5歳ごろ、自分が悪魔だと発覚しました。
そして、そのまま何もわからないまま大神殿に連れられ、悪魔への教育を施されることになりました。
幸い、私には才能があったようで、すぐに闇魔法を使えるようになりましたし、知識も身につけるのが早かったようです。
やがて、それは上層部が見過ごせないくらいになり……。
私は、悪魔、として影で過ごすのではなく、神官、として表で過ごすことになりました。
頭の良さを活かし、33歳、私は異例の速さで枢機卿なりました。
他の方には、次期教皇と言われておりますが、実際は悪魔であるために教皇になることはできません。
教皇様も私には、悪魔としての仕事と緊急時に役に立ってくれればいい、とのお考えで私を枢機卿に任命したそうです。
こちらとしては迷惑なのですけどね。
そして、緊急事態がやってきました。
今まで、聖女様は一人、活動されている方がいました。しかし、その方がお亡くなりになってしまい……。安らかな最後だったのは素晴らしいと思うのですが、他の聖女様には働く意志がありません。
今の状況なので仕方ないとも思うのですが……
教皇様は、昔から伝わる、異世界から聖女様をお呼びする方法を一カ国で一個、執り行うことになりました。
なぜか、伝わっているのには数種類があったのです。
話し合った結果、日付、時間は一緒にすることになりました。
それを執り行うのは、枢機卿または私のように表で過ごしている悪魔。
私はその両方に当てはまるものですかもちろん巻き込まれ……
二人を召喚してしまいました。
しかも、どちらも聖女様です。
それも、片方が片方に乗っかって。
お二人は仲がよろしいのでしょうか。
はじめのうちはそう考えましたが、その後話を聞いているうちに仲は良くないな、と思うようになりました。
それだったら、私たちの神殿には、可哀想な方の方をお呼びしたい。
そう考え、あちらの聖女様が王宮に夢を抱いてくれていたおかげもあり、可哀想な方の聖女様……ユミ様を神殿は手に入れることに成功したのです。
ちなみに、他の国では、1人ずつを、二カ国で成功したようです。
彼女たちが働いてくれれば聖女不足は大々的に解消されるでしょうね。
そう期待したのに……
彼女たち(ユミ様を除く)は何かしたでしょうか?
未だ活躍してくださっているのはユミ様お一人。
きっと、他の聖女様はユウナ様のようにくつろいでいるのでしょう。
今度、どこかで殴りにでも行きましょうかねぇ。
さて、ユウナ様に会いに行くことにしました。
出会って、少ししたら、私の意思は彼女を見限る、と決めていました。
もちろん、私の役には立たせますけどね。
そして、ユミ様にも。
彼女はこの世界の状況を憂いてくれているのが、良く伝わってきました。
ユミ様はさらに、聖女奪還の際も活躍してくださりました。
これは、彼女にはそれ相応の地位を挙げなくてはなりません。
そこで、ユミ様を、過去にはミア様お一人であった、大聖女の任につけることにいたしました。
そして、今も、その舐めに恥じないご活躍をしてくださっています。
そんなふうに充実した毎日を送っている私に、突如、任務がやってきました。
悪魔関係の仕事です。
第一王子ムニダス様が、現国王陛下を殺したときのことです。
いやはや、大神殿の情報網はやはり侮れません。
そして、私は第一王子を殺す、という任務を承りました。
悪魔の仕事なんてこんなものですよ。
聖女のように清らかな仕事とはいい難い。
だけど、いたほうがいいこともある。
……今回はどちらに当てはまるのかは人によるでしょうね。
私としては、いたほうがいいことの方であると信じたいのですが。
枢機卿である私が広場に行く名目としては、聖女ユミ様についていく、ということにいたしました。
不審には思われなかったようです。
そして、あのバカ王子、失礼、第一王子様の話を聞いたわけですが……
気がつくと、私の周りには誰も人がいませんでした。
おや? これは私のしたい行動を読み取ってくれた小人さんが頑張って誘導してくれたのかな?
それだったら私の目的がバレている可能性も考えなければなりませんが……
ユミ様を見る限り大丈夫そうです。
一体何があったのでしょうか?
ま、そんなわけでバカ王子があとからやってくるところに向かいました。
しかし、大量の護衛がいます。
しかも、ユウナ様までいらっしゃる。
正直邪魔です。
そういえば……と、バカ王子がユウナ様の話をしていたのを思い出しました。
ちょうどいいかもしれません。
ユウナ様に話しかけることにしました。
「ユウナ様、お久しぶりです」
「久しぶり、どうしたの?」
「今、殿下がユウナ様のことについて行っているので行ったらどうか、というお誘いですよ、ただの」
「ムニダスがあたしのことを話してくれているの? 行ってくる!」
なんと扱いやすい子供なのでしょうか。
幸せそうでいいですね。
お陰で仕事をちゃんと遂行できそうです。
「それでサムエル殿、何の用事でしょうか?」
聞かれましたが無視することにしました。
どうせ今からの魔法でバレるのです。言う必要はないでしょうし、時間の無駄ですからね。
(闇ーー汝に制裁あれ)
心のなかでそう唱えると、闇で作られた刃が彼らを襲います。
いつ見ても恐ろしい光景です。
自分が悪魔で良かった、と唯一思うのはこういう時です。
そろそろでしょうか?
そう思ったときに、彼らが帰ってきました。
「第一王子、ムニダス様。あなたはもう邪魔なものでしかなくなりました。さようなら」
間違えましたね。
もう少し、挨拶をしてから目的を言えばよかったかもしれません。
ただ、もう目的は言ってしまったので……
(闇ーー汝に闇の惑いを)
そうすると、闇の霧が現れて、彼らとその護衛を包みます。
これで大丈夫でしょう。
私は立ち去ることにしました。
そうでした、教皇様に報告をしておきませんと。
(闇ーー汝の下へ向かえ)
無詠唱というのは便利ですね。
◇◆◇
私は現場に戻ることにしました。
すると、ユミ様とその護衛、さらにはもう一方、知らない方がいました。
話を聞くに、バカ王子を殺した魔法についても話していたようです。
それなら、と口を挟むことにしました。
その後の会話はうまくいっていました。
私が犯人だとバレるようなことは言っていなかったはずです。
しかし、想定外のことがおきました。
聖女ユミ様に、浄化を頼んだのですが、なぜかは分かりませんが、治癒魔法が使われたのです。
すると、二人、意識を取り戻す方がいらっしゃいました。
あの魔法の急所をつくことができたようです。
まったく、あの魔法は悪魔しか知らないように秘匿されていましたのに。
それを簡単にくぐり抜けるのですか……
もともとあの魔法は牢屋に使われていたものです。
動き回るほど苦しくなる。つまり、拘束された状態だったらなんともないわけです。
脱獄でも試みない限りは。
だから、偶然生き延びることは可能なんですが……
彼らは、私に反応しました。
これは、私があの犯人だとちゃんと分かっているようです。
治癒魔法がなければ……
気絶して、緩やかに死を迎えるだけだったでしょうに。
そして、私の正体はバレました。
これはきっと怒られる案件ですね。
面倒なんですが……
「はい、私が犯人ですよ」
取り敢えず、意識が戻った二人とこの護衛は私の護衛にでも引き取りましょうかね。
面倒ですので。
聖女ユミ様は……
どういたしましょうか?
彼女なら黙ってくれそうですが‥…
18.旅に向けて
「サムエル様……犯人なんですか」
「はい、そうですよ」
やはりというか、犯人はサムエルだったようだ。
サムエルに何があって、どうなっているのか。それがわからないからこの事件の背景もわからない。
「サムエル様は悪魔と」
いうことであっていますか?
そう聞こうと思ったが、遮られた。
「場所を移しても構いませんか? 今からの話は国家機密よりも大きい話です」
「構いません。あなた達も大丈夫?」
「「「「はいっ」」」」
ベノン達+実は生きていた護衛2人+普通に生きていた護衛一人が返事をした。
というか、もう一人のほうももう意識は戻っていたようだ。
無事で何より。
「どこへ向かいますか?」
「神殿でお願いします」
というわけで|神殿《住居》にやってきた。
「まず初めにお願いを。今から話すことは、他言無用のこととなります。
聖女ユミ様と、その護衛においては黙ってもらうことは当然のこととして、他の3人には、私の傘下に入って貰う必要があります。腕が良ければ護衛になるチャンスも与えましょう。
ただ、その場合は国と国の間の移動が増えるほか、心配事をなくすためにも、家族にはほとんど会えないことになります。
その覚悟はありますか?」
枢機卿の護衛になるチャンスなど滅多にない。
それに、そもそもそれしか選択肢はなかった。
これを断れば、きっと殺される。
そう思わされた3人は……
「「「はい」」」
そう答えるしか無かった。
そこから話されたことには、驚きを禁じ得なかった。
ある程度は分かっていたとはいえ、サムエルが悪魔で、教会としてはこの国を掌握するために、今回のものに手を出すことに決めた、そんな、組織の暗い話をされた。
「わかりました。そんな事情があったのですね。私は、この件に関しては何も行動しないことにします」
「ありがとうございます」
「あのー」
「何でしょうか?」
「実は、大聖女ミア様が行った儀式の概要を知りたいのですが……」
「……!? 知っていたのですね」
「はい、ベアントリクス様に伺いまして」
「「「?」」」
当たり前の事だが、私とサムエル以外にはわからない話だ。
「あなた達は一旦この部屋から出てください」
「「「「はっ」」」」
「それで、神とお話する儀式についてでしたね?」
「多分そうです」
私とサムエルを除いた全員が出たのを見計らって、サムエルが聞いてきた。
だけど、この時点で、良くわからないものが出てきた。
神とお話する?
あれは、この世界の|理《ことわり》を変えるようなものだと思っていたんだけど、違うの?
「その辺の事情は知らないようですね。大聖女ミア様は、女神でおられるアマティデ様と対話することができるようになるという儀式なんです。もちろん、それ相応の対価があり。話すものは生き返れません」
なるほど?
つまり、女神様を説得できればいいんだ。
「儀式の方法については、手間というのはそこまでかからないそうです。
膨大な聖魔法を含む魔力、それ専用の神器、祈りの気持ち。これがあれば成功します、と伝えられています」
「それぞれ詳しく聞いてもいいですか?」
「教えたいのはやまやまですが……。私はこれ以上知りません」
「そうですか……大神殿に行けば分かりますか?」
「分かるかもしれませんね。ただ、かなり上の役職の人まで行く必要があります。少し待っていてもいいですか?」
「? 構いません」
そう言うが早いが、サムエルは消えた。闇を残して。
そして、しばらくして、また出てきた。
「教皇様にお聞きしたところ、」
「教皇様!?」
ねえ、突っ込んでいい?
教皇様ってそんな簡単に出会える人じゃないと思うんだけど!?
「ええ。これでも枢機卿ですので」
「いや、教皇様にも仕事があるでしょう?」
「それが……当代の教皇様は面倒くさがり屋で、基本的には身代わりを立てているのですよ」
知りたくなかった……
「お陰で大きい用事がない時は、基本的に自室で仕事を処理していらっしゃいます」
「はぁ……それで……?」
「教会は今忙しい、だそうです」
「へ?」
「まあまとめると、そんな面倒なことを今するな! といったところでしょうか」
「いや、そう言われましても……」
「教皇様の手を借りなければ、取り敢えず行動は黙認してくださるそうですよ」
あ、なんだぁ
「それならできそうです。サムエル様、しばらくの間出かける許可をください」
「出かける許可を……と言われましても、行くのは大神殿ではないのですか? あちらでも働いてくだされば文句は言いませんよ?」
「あ、そうでしたね。では準備をしませんと。サムエル様、確認しますが、あちらにはヒントがあると考えてよろしいですね?」
「確証はできませんよ?」
ま、そんなもんか。
「では、準備をしてきます。しばらくの間、この神殿を留守にすることをお許しください」
なんかこんなときにこういう言葉って使うよね。合ってるのかなぁ。
「さあて、まずは大神殿がどこにあるか知らないと……」
「ユミ様……」
「何? エリーゼ」
「大神殿の場所を知らないのですか?」
「……うん」
隠しても何にもならないと考え、諦めて正直に言うことにした。
「逆にエリーゼは知っているの?」
「はい。この国から南東の方角にあり、サーベスト教国にあるというのは知っていますよ」
サーベスト教国?
「何それ?」
首をかしげる。
前には、不穏な顔をしたエリーゼがいた。
「聖女様、今夜はこの本を読んでくださいね?」
「……はい……」
なんというか、聖女様呼びだと普段は感じない迫力があるなぁ。
私は思わず現実逃避してしまった。
19.情勢の変化?
デカンダ王国の情勢は確実に、着実に、変わっていった。
まず。国王陛下と第一王子が殺されたので、一つ。
そして、その後の動きが一つ、あった。
「なあなあ。貴族がいない政治体制、というのがあるらしいぞ?」
「あ、私も聞いたわ! 選挙、というもので選ばれた人を国王みたいな感じにするのよね?」
「らしいな。貴族なんて身分がなくなり、俺達の声がそのまま届くかもしれないんだぜ? 楽しみだな!」
「そうね! これで重税から逃れられるかもしれないし」
「……確かにそうだな!」
と、革命を起こさせるべく、組織が噂をばらまいているのだ。
この調子じゃああと3日くらいで爆発してくれそうだ。
ちなみに、次期国王は、まだ決まっていない。
それも、革命の一手になりそうだ。
その一方で、私は着実に出立の準備を進めていた。
聖女という立場が今はもどかしい。
聖女じゃなかったらもっと早く、出立できたかもしれないのに。
私が出立する日は、4日後、となっている。
改革を見れるのはうれしい……けど、ね。
やっぱり心配事のほうが多い。
そして。3日後。
いやー、正直、昨日革命が起きてもおかしくなかった。
噂が広まりすぎてて……
夕方らへんだったからやめといてくれたのかな。
そんな自重をしてたかしてないかは関係なく……
「おらぁ!」
「じゃまあだぁ! どけえ!」
今日は多くの人が王宮に押しかけていた。
神殿と王宮は敷地が隣に続いているので、よく見える。
「王族を出せ!」
「「「「「「「「「「王族を出せ!」」」」」」」」」」
「王族を出せ!」
「「「「「「「「「「王族を出せ!」」」」」」」」」」
奇妙な光景だね……
「どうされましたか?」
そんな場面で、まるで救世主かのように登場した一人の貴婦人。
「皇后様!?」
それは、皇后様だった。
皇后様は凛とした声で言う。
「なんの騒ぎかしら? ただでさえ夫が殺され、そして我が息子も殺された。なのに犯人がわからない。そのせいで忙しいのですよ、我らは」
もったいぶっているようだが、絶対これの目的を知っているよね。
「その今がチャンスだ!」
誰かが声を上げた。
「今のは誰かしら?」
圧のこもった声。
人々は悟った。この人とは敵対しないほうがいい。
ま、例外はもちろんいる。
「俺だよ」
彼が、自分から名乗り上げた。
「王族に対する不敬、と考えてもいいかしら?」
「はっ、勝手にしろ。どうせもうじき王族はいなくなるんだ」
「どうしてそう思うのかしら? 息子は……最後の最後にマヌケなことをしましたが、他の子供はまともに育っているわ。それに、歴史も詳しくは知らない、他国との繋がりもない、行儀作法もなっていない、の3つを持つあなた達に政治ができるのかしら?
そんなことをしたら国が終わってしまうわ」
だよねー
この改革、王国の現体制に不満を抱くだけならともかく、自分たちで政治をしようとしているからね。
だから、この国はもう、どうともなれない。
「じゃあ王族がそういう仕組を作ればいいだろ!」
妥当なところか。
「民は知っているかしら? 法を作るのは王族だけではできないのよ。わたくしたちが作っても他の貴族たちが認めてくれないのですよね〜、皆様?」
横にいた重鎮と思われるような貴族は青い顔をする。
「いえ……しかし、皇后様」
「何でしょうか?」
皇后様はとびっきり(かは分からないけど)の笑顔で聞いた。
「我らにも生活というものが……いえ、何でもありません」
「そう? ま、そう言うでしょうね?」
パンパン!
「皆様、お聞きになりました? 原因はこちらの貴族にあるようですよ?」
「待ってくだされ皇后様! そんなことは言っておらんじゃろ!」
ねえ、私たちは何を見せつけられているの?
「それなら、一ヶ月以内に平民が学べる学校を作ってくださいね? もちろん、粗末なものを作ったら許しませんよ?」
「……はっ!」
「あ、そうそう。予算は脱税している人たちから今までの分、たっぷりともらってきていわよ。それを使えば十分でしょう?」
「はっ」
この皇后様、上手いなぁ。
それに都合が良すぎない?
「じゃない! そもそも、貴族が何ではこびってるんだよ!」
「貴族は、それ相応の責任を負わされていますが?」
もうそこからはただの押し問答が続いた。
彼以外にも、野次を放つものが現れた。
「皆様、そこら辺にいたしませんか? 我が夫と息子の一人がいなくなってしまったのは想定外ですが……まあユウナを除けたから許しましょう……この場をセッティングしたのはわたくしですよ?」
「「「「は?」」」」
ん?
なにか変なことが聞こえた気がするなぁ。
「事情を説明するのは面倒ですし、情報屋に頑張ってもらいましょうか」
取り敢えず、こんなふうに皆さまを煽ったのもわたくしですので。あなた達の望むものはもとから出来ないわ。ごめんなさいね。騒ぎを大きくして」
全くその通り。
面白いものが見れたからいいんだけど、この国を見捨てて損しちゃった。
あんな皇后様がいるんだからこの国は大丈夫だな。
そう安心するのだった。
翌日。
情報屋が仕事を頑張った結果。
「皇后様の真意とは!?」
「昨日、ここしばらくの、一連の出来事が皇后様発端の出来事であると発覚した。
その真意は、法の改正を貴族の反対を減らして進めるため。
そのためにかねてより皇后様は、聖女を誘拐する組織を捕まえ、脅して、今のような目的にすり替えさせたのだそう。
もともと、死人は出ない予定であったが、聖女ユウナによる行動の結果、第一王子が馬鹿に変わり、殺すことを決めたんだそう。これについて、どこの組織に頼んだかは、書かれていなかった。」
要約するとこんな感じ。
実際はもっと細かく書いてった。
そして、それを読んで、出立しようとしているのが今。
「いってらっしませ」
こんなふうに見送られるのは、もう想定内。想定内になってしまった。
そして、馬車を使うのも想定内。
そして、想定外が、一個ある。
「何故、ここにいらっしゃるのですか!?」
「あら、いいじゃない。一回お話してみたかったのよ」
目の前には……
「そんな簡単に皇后様が動いたら迷惑をかけますよ」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないです」
皇后様、御本人がいた。
20.旅立ちと王族
「行ってらっしゃいませ」
そう言われ、馬車は動き出す。
……見送る側は、まさかここに皇后様がいるとは思わずに。
ちなみに、転移魔法を使えばいい、と思われるかもしれないが、転移魔法は聖女と悪魔しか使えない。
それに、同行者の数は限られているし、魔力を多く使う。
さらには、1回行っているところじゃないと、行けない。
前回、転移を使ったのは。その後に魔力を使う予定がなかったからだ。
しかも、自分だけだったらより消費を抑えられるし。
手を振って、隣国……シュバルツ帝国へ向かう。
この王国……デカンダ王国……と、サーベスト教国は、隣同士だ。
だが、その間には、険しい山脈がある。
だから、通る時はシュバルツ帝国を通ってサーベスト教国に行く必要があるのだ。
旅は、1ヶ月半を予定している。余裕のある行程だ。
宿は、その時の神殿。
そして、併設された孤児院でついでに慈善事業も行う。
そんな感じだ。
「静かになっちゃって、どうしたの?」
「いえ、何故ここに皇后様がいらっしゃるのかが理解できず、現実逃避中ですよ」
隣ではエリーゼが震えちゃっているし。
「あらら、悲しいことを言うのね。さっきも言ったけど、わたくしは以前から貴女にあってみたいと思っていたのよ?」
「理由をお伺いしても?」
「だって助けられたもの」
「……どこで?」
まったく心当たりがない。
「ユウナだけが召喚されなかったこととかよ?」
「そんなにユウナはやばかったんですか?」
「噂は聞いてないの?」
「ユウナに関する噂だったら……嫌がらせをしているとか、誑かしているとか、ですか?」
「それよ! ……あんまり大事に捉えてないようね?」
「ありそうなことですしね」
「それが当たり前の世界だったの?」
「いえ、そういうわけでは。ユウナの性格が、という意味です」
「ああ、そんな感じだったのね」
「そうですよ。あの……皇后様はいつ頃から計画を進めていたのですか?」
「わたくし? そうね……3年前くらいからかしら?」
「そんなに前から……大変なこととかはなかったんですか?」
「いろいろあったわよ? もともとは聖女が来る予定はなかったもの。聖女が来たあとにそれに変えるのが大変だったし、」
「まあ聖女が召喚される前にこの情報は広まっていたから、お陰でサムエル枢機卿も巻き込めたんだけど。結構助かっちゃったわ」
「そうですか……」
サムエル……もともとこっちに来る予定なかったってことだし、暗殺も請け負う予定ではなかったんだ。
いや、主にこれに関わったのは教皇様の方なんだろうけど。
「教皇様にはどうやって会ったんですか?」
「ああ、それはね、水晶を使って電話してたのよ」
電話……会ったんだ……
意外と魔法のおかげか、日本にもあるものがあるんだよな……
「そうなんですね……」
「あとは……聖女奪還のときに騎士が簡単な罠にもかかちゃったり、あれはめんどくさかったわよ?」
そうですか……
「けど一番の想定外はユウナね。あのせいでちょっと馬鹿かな、くらいで見過ごせるうちだったムニダスの馬鹿さ加減がひどくなったもの。|セシル《第二王子》とか|マナウィル《第三王子》が引っ掛けられなくて良かったわ」
さいですか……
「お疲れ様です……」
「そう、本当に大変だったのよ」
ん?
皇后様、やけに話を引きずっていない?
「なにか他にも用事があるのですか?」
「あ、気づいたの? サムエル枢機卿に、少し問いただしてみたのよね……」
ん?
枢機卿、の立場にいる人物を脅すの?
「そしたら、あなたの目的はミア様と似たような儀式を行うため、なんだっていうじゃない」
「まあそうですね。それがどうしました?」
「昔、面白い文献を読んだのよ」
「?」
「それは、ミア様について書かれていた文献だったのね。それで、儀式のところに、神器を手作りしたって書いてあったのよね〜」
「手作り……ですか?」
なにそれ?
私。不器用なんだけど?
作れる?
「ま、それを伝えに来た、ていうのが目的よ。気付かれなかったら隠し通すつもりだったんだけどね」
「ありがとうございます」
「もうすぐこの街を出そうだし、わたくしは帰ることにするわ。頑張りなさい」
最後は……やはり、皇后様、という感じの貫禄があった。
こりゃあ頑張らないと。
「……やっとくつろげます……」
どこの神殿、孤児院でも、
「いらっしゃいませ、聖女様!」
大きな歓待をしてくれる。
それに、少しは豪華にしてくれる。……地球の味に慣れちゃったから、物足りないな、とは思ってしまうけど。
けれど、孤児達が珍しい、ちょっと豪華なものを食べる機会になるんだから、まあいいんじゃないか? と思ってる。
経営は大変かもしれないけど。
そして、旅立ってから2週間ほど。
「ここが帝都?」
「そのようですね。活気があふれています……」
そう、デカンダ王国よりはるかに活気があった。
ここには1週間ほど、休養をかねて滞在する予定だ。
私たちは、神殿につき、快く迎えてもらえ、部屋に向かって、休憩もままならないうちに呼び出された。
「王太子殿下が聖女ミア殿に会いたいと訪問しておられます。ぜひ会ってもらえませんか?」
第一王子のせいで王族には嫌な思い出が多い。
それに、こんな簡単に王族が顔を出していいわけがない。
嫌な予感がしたままいくと、
「父上の病気を治してはくれまいか?」
え?そんな簡単なの?
「病気の内容にもよりますが……」
「父上は、癌? という病気だそうだ。かなり深刻な状態らしいが……」
「あ、癌なんですね。だったら何とかなるかもしれません」
「助かる。……あと、」
「何でしょうか?」
あまり聞きたくない気がする。
「貴殿は優秀な聖女であると聞く。行儀もいいらしいな。そこでだ。俺の婚約者の教育を手伝ってくれないだろうか?」
は?
「遠慮します」
こういうのは、バッサリ切るのが後腐れがなくていいよね♪
21.シュバルツ帝国観光
「なぜだ?」
「個人的にしたくない、というのもありますし、もとよりこちらに滞在する予定は1週間となっており、予定もありますので、そんなに時間がかかりそうなものを入れることは出来ません」
「そこをどうにかできないか?」
「無理ですね。というより、どうして礼儀作法がなっていない方が婚約者となっているのですか?」
「実は、恋愛婚なのだ」
「あ、そうですか」
今のだけでかなりのことが分かってしまった。
「いや、お前、勘違いしているだろう?」
「私が、ですか?」
どうせ身分もろくにない女に騙されて断罪騒動でもやったんじゃないの?
ま、ここを言ってしまえば不敬罪になるので言わない。
「私の婚約者……ミランダは公爵家の一人娘だ。私は彼女に一目ぼれしてしまったんだが……彼女は自由に動くことができんのだ」
はぁ……
この国、病気が多くない?
「どうやら呪いにかかったようで、動けんのだ。だから、それの解除と、体力回復の手伝いをしてもらいたい」
あ、呪いだったか。
ちょっと想定外。
「解除は……」
正直に言うと、やってみたい。今までそういうことなかったから。
だけど……
「その後のがなけれ問題ありません。できるかは分かりませんが」
「そうか……まあ仕方ないな。そうするか」
「それで、私には何かあるのでしょうか?」
まさか、王太子とも言うものが見返りなしにこんな要求なんてする訳がないよね。
「何がお望みで?」
「何を望んでいると思いますか?」
こちらが答えを教えるなんて甘い目には合わせてやらん。
ちゃんと考えてもらう。
「大神殿でのコネなんてどうだ?」
どうやら私の目的はちゃんと理解しているようだ。
「それも悪くはないけど……サムエル、それってOKなの?」
「その者の立場によりますね」
「ならまあいいでしょう。けれど足りないと思いますよ?」
「そうだな……古い文献なんてどうだ? 聖女に関するやつだ」
「なるほど……それだったらいいでしょう。量はその時に決める、でいいですか?」
「構わん」
「なら交渉成立ですね。エリーゼ明日からの予定であいているのは?」
「基本的には午前中が空いています」
「分かりました。では2日後の午前中に、まず国王陛下のもとに向かいたいと思うのですが。構いませんか?」
「それでいい」
そして、厄介だった王太子は帰っていった。
「はぁ……」
「おつかれさまです、ミア様」
「大変ね」
「そうですね。しかし、時間もありましたし……仕方ないと言えば仕方ありません」
エリーゼが辛辣だ。
「はぁ……対価、あれで良かったのかな……?」
「私には分かりませんが、これからを考えると悪くはないと思いますよ? 最悪の場合、国家機密が書かれているようなものを貰えばいいんですから」
「そうだよね……」
エリーゼはあまり敵に回したくないや。
「そういえば、明日の午後は何がある?」
「取り合えず孤児院に行く予定です」
「分かった。明日の朝、時間あったら観光行ってもいい?」
「ベノン様たちを連れて行くなら問題ありません」
「ありがとう」
そして、私は、夜もまだ遅くない頃に、眠りについた。
明日には、疲れを落とし、ゆっくり観光するために。
◇◆◇
「行こう!」
「分かりました」
ベノン苦笑しながらもちゃんと来てくれる。
「取り敢えず市場に行ってくれる?」
多分、優秀なベノンだったらちゃんと把握してくれている。
「かしこまりました」
そうして、ベノンたちに着いていったんだけど……
「この道は一体どうなっているの!?」
「異国のものが入りこまないようにするためと、追ってから逃げるためです」
「追手から逃げる? それが本当に目的にあるの?」
「はい」
じゃあ……
王族とかはここらへんで護衛やストーカーを撒いたり……はしないか。そういうことをする人だったら把握しているだろうしね。
それが何かのフラグにでもなったのか……
◇◆◇
「はあ、はあ」
帝都を一人、走る者たちがいた。
「待てー!」
そして、後ろには数十人の人。どうやら、その|少《・》|女《・》追いかけているようだ。
「お嬢様、ここは我々が止めますので!」
「無理よ! 一人じゃあ逃げ切れないわ! それに優秀なあなたがここで死んじゃったらどうするのよ!
せっかく剣聖学園への入学が決まったというのに!」
「しかし……お嬢様が狙われるよりは……」
「ともかく、行くわよ!」
「はぁ……分かりました」
そして、また二人は走り出す。
「右へ!」
「真ん中へ!」
「右を2回!」
護衛の的確な指示は続く。どんどん差は広がっているようでも、やはりこの道には限界があるようで。
「きゃあ!」
「うわぁ!」
「お嬢様!?」
「ミア様?」
◇◆◇
誰かがぶつかってきた。
紫色の髪の色の、10歳くらいの少女。
そして、隣には、12歳くらいの緑に髪の少年がいた。
「あ、すいません」
「お嬢様、行きますよ!」
「え……分かったわ! ……!?」
ベノンの手には、いつの間にかその少女がいた。
……修道服に包まれて。
しかし、今の私達は私服。
これ、意味あるのかなぁ? 逆に目立ちそう。
「あっ……。手口は強引だけど……助かったわ、ありがとう」
そんなことを気にせず、少年は走る。
「わたくしも頑張らなくては」
少女が、そう呟いたのが。印象的だった。
そして、人がぶつかってきた。
「おい、何だよこいつら」
「一人、修道女の女がいるし、こいつが最近来たという聖女だったり? ギャハハハ!」
男どもは、勝手に都合のいい想像をしてくれた。
なるほど、だから彼らの真ん中に彼女をおいて、私もそこに行かされたのか。
彼らの思考を誘導するために。
「おーい、聖女だったら儲けもんだが、今は追うことに集中しろ!」
「「「「「うっす!!」」」」」
結局観光していませんが……
22.追われた少女
そして、彼らはまた走り出した……なんてことはなく。
その前に、
「逃がすわけないだろう? 今の話でもお前らが悪だくみしていることがバレバレだぞ」
ま、そりゃそうだ。
戦闘に入った。
あちらは逃げることを優先したが……カミラが事前に反対の方向にいたため、彼らは逃げられず、戦うしかなかったのだ。
そして、彼らはベノン達に完敗した。
地面に重なって伏せている。
さすがベノン達だ。
あちらはそこまで強い相手と戦う予定ではなかったのか、殺さないつもり……つまり目的が誘拐……などであったのかは知らないが、あまりいい武器を持っていなかった。その点こちらはいつ何時でも襲撃されるかわからない。そのため、相手を殺せるような武器を用意している。それで、勝てる確率が上がったのかもしれない。
「さて、」
「はい」
「事情を聞いてもいいですか?」
お嬢様に問うてみた。
「構いませんわ。あまり面白味のないありふれた話なのだけど……いいかしら?」
「構いませんよ」
彼女は侯爵令嬢マリアーネ・ミゼラビア。
今回は、ただ単に身代金欲しさに狙われたのだそう。
下町に降りて、息抜きをしていたら屋敷の時からもしかしたら見られていたのかもしれない追手が追いかけてきた、と。
「そうですか……大変なんですね」
「そうなのよ。後でお父様に報告してもいいかしら?」
うーん……
ユミの名前が広がると……神官の人に受け入れてもらえるかも。
「大丈夫ですよ。ユミの名を使っても構いません」
「ありがとうございます。お父様のことですから何か褒賞を上げようとするでしょうが……受け取ってあげてください。感謝の気持ちなので」
「分かりました。相応のものでしたら受け取らせていただきます」
「ありがとうございます」
「お嬢様!」
ん? この声は……
「セスタ!?」
あの護衛の子かな?
「はい、そうですよ。お嬢様も元気なようで何よりです」
「なんでそんな呑気なの!?」
「そこは流しましょうよ」
「やらないわよ! ……それで?」
「いえ、追手が来ないので何かあったのかなと思い戻ってきたら奴らが倒れて縛られていて、お嬢様が呑気におしゃべりしていたというだけですが?」
あ、呑気にされてムカついたから返してあげた、とか?
この護衛……セスタって子、面白いなぁ。
「そう。この方たちに感謝しなさいよ」
「はい、ところでこの方達の素性をお聞きしても?」
「真ん中にいる女の子が聖女でおられるユミ様よ」
「ユミ様といいますと……最近帝都入りしたという?」
「そうよ」
「俺達と同じくらいかちょっと上くらいの歳なんですね」
「多分」
「お嬢様を助けていただいてありがとうございました」
「どういたしまして。それでは私たちは帰りますね」
もう観光をする気分ではないや。
「本当にありがとうございました!」
「ベノン、行こう」
「はっ。神殿でよろしいですね?」
「うん」
そして、神殿に帰って、|休憩《ダラダラ》して、昼食を食べた。
面倒事に巻き込まれたし、名前を売れたんだから、報告したあとのエリーゼも細かいところは見過ごしてくれた。
悪くはない戦果だ。
「それじゃあ孤児院に行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」
そうして孤児院に来たのは良かった。何の問題もなかった。
だけど……
「なんでマリアーネ様がこちらにいるのですか!?」
マリアーネ……今朝、助けた少女が、その父親と思しき人物といた。
「お父様を止められなくて……夕方くらいまでは待てるから気にしなくていいわ」
いや、気にしなくていいってね……難しくない?
確かに地位で言えばそこまで大きくは変わらないかもしれないけど……もしかしたらこっちのほうが高いかもしれないけど。
だけど、こっちはもともとはただの一般人なの!
ちょっとこの身には重いなぁ……
「それで、こんなに早く来たわけからお聞きましょうか?」
私の実力に疑問があるのか、聖女が孤児院にいるという話が広まっていないのか、ただ単に病人が少ないのか、何が理由かは分からないが、今回来た人はそこまで多くなかった。
「わたくしは帰ってすぐ、お父様に報告したの。そしたらいきなり聖女様の予定を調べてきて、『今日の午後は孤児院にいるそうだ! 行くぞ!』と言われて連れてこられたわ」
「では侯爵様のほうの事情をお聞きしましょう」
「いやー愛娘が助けられたと聞いてお礼をすぐしない親は間違っていると思いませんか?」
……ただの親バカだった。
「体裁というものがありますよ?」
「それは立場が低い者に対してですよ。立場が高い者だった場合はすぐ行かないほうが不敬ですからね」
「……分かりました。話を聞きましょう」
やっぱり私のほうが立場が上で良かったんだ。
あれ? じゃあ私が助けたのって上の立場にいる者のお遊び?
いや、そう思われはしないよね?
「今回お話したいのは褒賞についてです」
「はい」
一体何を与えられるのか……いや、もらえるのか………
親バカなようだからやけに心配だなぁ。
「まずは、1000万リラを」
2リラは大体3円。つまり、1500万円分と言うことか。
「ありがとうございます……って1000万リラ!?」
「はい。それくらいは当然です」
普通じゃないよね?
マリアーネを見たら、まあこんなものよね、という感じだった。
え? 私が普通だよね?
「そして、他にも献上しようと思うのですが……」
「はぁ」
なんか嫌な予感がするよ……
「|大《・》聖女様ですから必要ないかもしれませんが、これぐらいしかなく……」
早く言って欲しいかも。身が持たない。
「大聖女ユミ様、あなたには我が家の家宝である聖水を差し上げようと思います」
聖水?
23.褒賞交渉
「大聖女ユミ様、あなたには我が家の家宝である聖水を差し上げようと思います」
聖水?
「聖水とは? 初めて聞いたのですが?」
「そうなのですか? ……いえ、そうかもしれませんね。私も家宝が聖水ではなかったら知らなかったかもしれません」
「そんなに珍しいものなのですか……。でしたらもらえません」
「気にしないでください。ここだけの話、」
ここだけの話?
そういうのをぶっこまないでよ!?
「家宝とは聖杯なのです」
「聖杯……」
「はい。300年で、約聖杯1杯分が溜まります」
ああ、そういうやつか。
けど……
「300年に一度のものを簡単にもらえませんよ。今後それを使う必要があったらどうするんですか?」
「そういうものだと思うことにしますので」
はぁ。
だけど……
「やはり聖水はいりません。お金だけで十分です」
「いや、これぐらいないと……」
「いえ、十分です」
「……あぁ、そうでした。こちらの事情をお話していませんでしたね」
え?
「何かあるのですか?」
「はい。ちょっと前のことになるのですが、彼らを尋問していたんですよ」
◇◆◇
その尋問中何が起こっていたか。
「さて、此度は娘に何をしようとした?」
暗い部屋。そこに、男が2人、いた。
片方は椅子に縛られていて、身動きが取れなさそうだ。そして、もう片方は手にナニかを持っているようだ。
「何もしようとしていません!」
「嘘つけ。……もう少ししめるか。で?」
「何もして……うわああああああああ!?!?!?」
男は、悲鳴をあげた。
彼は、腰が、腕が、足が、きつく縛られたから。
「何かやろうとしただろう?」
「はい!! 捕まえて身代金を求めようとしました!!!!」
「本当にそれだけか?」
「はい!!!!」
手に何かを持っている者は、空いている方の手でポケットの中身を見た。それは、黄色く光っていた。
「嘘つけ。他にも企んでいただろう?」
そして、手に持っていた電気装置を、押す。
男に、電気が走った。
「企んでません!!!!」
「そうか。では彼を使おう」
どこからか、男が現れた。それは、囚われた男の、部下だった。
男が、ボタンを押す。
「うぎゃああああああああああ!!!!!!!」
あとから現れた男が、叫ぶ。
「さあ、答えなさい、他には何の目的があった?」
「……ない」
ポケットの中の石は、まだ黄色い。
「では、これをあなたに持ってもらいましょうか。いいですか、あなたは今から5秒おきに5秒間を100回、このボタンを押してください。いいですね?
ちゃんと白状してくれれば。それをやめさせます。あぁ、そうですね。電気の量を増やしておきましょう。
では、さんはい。1,2,3,4,5。いいですよ。……では次、1,2,3,4,5……次、1,2,3,4,5」
彼が押さなかったら、侯爵がその上から押す。
彼も、始めはちゃんとしていたが……
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!」
「ぐげえええええええええ!!!!!」
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃ……ボス、いい加減やめてくだせえ!!」
毎回毎回、叫び声を上げる彼に諦めたようだ。
「話す、話すから!!」
「ほう、ではどうぞ」
「あんたのお嬢様を捕まえて、身代金もらって、奴隷に出そうとしていた。身代金は800万リラの予定だったよ」
侯爵が石を確認すると、緑色になっていた。
「分かりました。信じましょう」
こんな事情があったのだ。
もちろん、侯爵は拷問の内容などはユミに伝えていない。
彼らがやろうとしていたことだけを、伝えた。
◇◆◇
「つまり、彼らは、2000万リラほどを儲けようとしていたのです。ですから、これくらいのことは当然なんですよ」
うーん、そう言われれば納得してしまうなぁ。
「分かりました。聖水も別に聖杯1杯分ではないんですよね?」
「はい。3分の2ほどです。ついこの間満杯になったのでそれでも余裕はあります」
「なら受け入れましょう」
どうせ300年で一杯になるんだから、けっこう大きい聖杯だろうし。
「ありがとうございます……!! では、後日、また伺わせてください」
「いえいえ、こちらが伺いますから」
「そんな恐れ多い。神殿に伺いますので!」
「はぁ……分かりました……」
「あの……このあと、まだ時間はあるかしら?」
そこで、今までずっと黙っていたマリアーネが口を開いた。
「ある程度なら。どうしましたか?」
「聖水について事前に話しておきたいと思うの。構わない?」
「はい」
「じゃあお父様、あとは二人で話すから出ていって‥…帰って頂戴」
「はぁ……」
侯爵様はこちらを訝しみながらも出ていってくれた。
「それでは、聖水について話すわね」
「はい」
「まず、聖水は聖属性ができることを基本、することができるわ。だから飲めば病気も傷も治るし、かければ呪いも浄化できるわ」
魔力はいらない、ってことだよね?
それは便利だなぁ。
「わたくしは聖魔法で何をできるかをあまり知らないから、間違えていたら申し訳ないのだけど……」
「構いませんよ」
「剣などの武器を、聖水に浸ければ、聖剣になるそうよ。聖魔法でこれはできるのかしら?」
「聞いたことがありませんね……」
「それに、予想なのだけど、聖水を使うか何かをして、聖魔法を使えば、きっと強化されると思いますの。どうでしょう、面白いと思わないかしら?」
「そうですね」
さすがに驚きだ。
「さすがに他の細かいことについては知らないわ。まあ、そんなところよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。これで借りが返せたとは思わないから、何かあったらまた頼ってくれると嬉しいわ」
「分かりました」
そして、マリアーネも帰った。
私は、ようやく神殿に帰ることができたのであった。
24.大きいお仕事
翌朝。
寝不足な者が、1名、いた。
……私だ。
あのあと、ちゃんと考えたら……考えてみる間もなく、あれはやっぱり断るものだったと脳が危険信号を出してきた。
だってさ、いくらあいつらが800万リラで売るつもりだったから、ていう理由で納得してしまったとはいえ、大金だよ?
1人だけだったら10年以上暮らせるかもしれないくらいなんだよ?
……家とかを考えるとそこまでじゃないような気がするけど。
さらに聖水までもらうことにしちゃって……
3分の2、つまり200年分の家宝だよ!? 私が持ってていいものじゃないでしょ!
まあそんなわけで……
さらに、もし陛下の治癒や、婚約者の治癒ができたら……
面倒事に巻き込まれるなら……って思い切って十分に要求しちゃったからな……
古い文献とか絶対価値高いじゃん。
やめたい……
だからと言って、一度約束したことを取りやめにできるはずもなく。
「ユミ様、今日の午前中は陛下への訪問、午後は、神殿にて、お仕事です」
「仕事……」
「まあ大聖女でおられますからね」
そうなんだよな~。
大聖女という役職についてから、書類仕事まで回ってくるようになっていた。
そこまで大したものじゃないんだけど、もうちょっと、動きたい。
「仕方ないかぁ」
「そうですよ。頑張ってくださいね」
「はぁい」
さて、仕事の前に面倒なものをさっさと終わらせようか。
「じゃあエリーゼ、馬車に行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
王家から用意された馬車に乗る。
これがあれば、簡単に王宮の中に入れるのだ。
「ベノンも、行くよ」
「はい」
はい、と答えたはいいもの、ベノンはちょっと入りずらそうだ。
うんうん。めっちゃ気持ちは分かる。
「まあ豪華だけど、気にしたら負けだよ」
「そうですね……」
私も気にしないように頑張っているから。ベノンたちも頑張れ!
「到着いたしました。どうぞお降りください」
ようやく降りれた。
目の前には、煌びやかな宮殿が!!
「ここが|皇城《おうじょう》……すごいなぁ」
「では、私、ヘンゼルが案内いたします」
「はい……」
ベノン以外は置いて行かれた。うーん、こういうところにエリーゼも連れてきた方がいいのかな?
分からん。
「こちらでお待ちください」
連れていかれた先は、かなり豪華で……広い、部屋。
「もうすぐ、リヒト様……王太子殿下がいらっしゃられます」
しばらくたったら、こんな宣告を受けた。
私が呼ばれてきたんだけど……こんなに待たされるんだね。やっぱユウナのときももっと待たすとかすればよかったかなぁ。
ま、いいか。過ぎたことだし。
「よく来てくれた、大聖女ユミ殿。歓迎するぞ。それでは早速場所を移動しよう。テナーレ、頼む」
「はっ! 闇ーー汝の求むところへ」
ふわっとした感覚がきて、私は別の場所に移っていた。
ああそうか、私、転移されたんだ。
「あれ? ベノンは?」
「ああ、彼はおいてきた。これからのことはそこまで知られたくないのでな」
「そうですか……」
ベノン、落ち着いているかな……
「では、父上のもとへ向かう」
「はい」
昨日のことの所為でいろいろ思うこともあるけど、とにかくこれは皇帝陛下の治癒だ。失敗はできない。気を引き締めよう。
「ここだ」
「!?」
部屋に入った瞬間、すごい匂いがした。
「この匂いは……?」
「ん? ああ、薬草だ。効くらしい」
「そうなのですか……?」
聞いたことないけどね。
「あそこにいるのが父上だ。どうか頼む!!」
「出来る限りはします。聖——汝の助けとなれ」
魔力を、込める。
まずは全体。それだけでいろんなところに引っ掛かりがあるのが分かる。
さらに肺に集中すると……
「うっ!」
とてつもない違和感がやってきた。
「大丈夫か!?」
「大丈夫です。失礼をお許し下さい」
「気にするな」
とうとう、真ん中の方から白い光が溢れだした。
よし、じゃあ他のところも一気に行こう!
そしてそのままそれは広がり……
「……ふう。とりあえず、癌は治せたと思います」
「ありがとう……!」
王太子の頬を、涙が一筋、伝った。
そして、それを見て心が温かくなる自分がいる。
そして、できれば彼の婚約者を助けてやりたい、そうとも思うのだった。
「では、戻ろうと思う。ユミ殿、申し訳ないが転移を使ってはくれないか?」
「構いませんが……場所が難しいかもしれません」
「そこは気にしなくていい。魔法陣があるから連れて行ってくれる」
へぇ、そうなんだ。
「だったら出来るかもしれません。聖——汝の求むところへ」
そして、戻ってきた。
「さすがだな、ユミ殿。貴殿は召喚されて間もないというのに」
うーん、体感では結構経っているんだけど。
「まあそんなもんですよ」
みんなもこれぐらいでしょ?
「ベノン、ただいま」
「おかえりなさいませ。無事で安心いたしました。それに……上手くいったようですね」
「うん、上手くいちゃった」
「ではまず、大神殿でのコネは確実に獲得できますね」
「婚約者の方は……こちらは明日でも構いませんが?」
「明日でいいのか? 願ってもない話しだ。同じ時間帯でいいだろうか?」
「分かりました」
次の日。
同じ方法で入り、同じ方法で連れ出され、部屋に入った。
「彼女が私の婚約者、ミランダ、だ。今日もよろしく頼む」
「出来る限り頑張ります」
「ああ、よろしく」
「では、聖——汝の縛りを解け」
そして、魔力を注ぐ、注ぐ、注ぐ。
完成!!
ミランダという名前の少女の体は、仄かに光っていた。
「本当は今すぐ褒章を渡したいところだが……明日でいいか?」
「どうしてでしょうか?」
「まだ準備ができていない」
はいはいそうですか。
「だったら最終日でも構いませんか? ご挨拶に伺おうと考えていたので」
「分かった」
よっし! 先延ばし完了!
25.厄介事
その日の夜。
「疲れた……」
私はベッドに倒れこんだ。二日続けての面倒ごと。いや、三日続けて、か。まあそのせいであまりにもつかれていた。
「エリーゼ、明日の予定は?」
「特にありませんが……侯爵様がやってくるかもしれません」
「そっかぁ……」
いつ来るか分からないのも面倒だしな。
「いっそこっちから打診してみようかなl……」
「いつがお望みですか?」
「うーん、やるとしたら午前中がいいけど」
「ではそのように手配しますね」
「え?」
「どうされましたか?」
「手配するの?」
「はい」
「仮定上の話ではなかったの?」
「違いますよ?」
「そう……だけど迷惑じゃない?」
「ユミ様の方が立場は上ですから」
「それはそうなんだけど……」
こっちのこういう風習にはなかなか慣れないな。
上の人に決定の意思権があって、下の者はそれに従う、みたいな。偶然そういう人ばっか出会ったのかもしれないけど。
「……分かりました。お願い。だけど、無理はさせないでね」
「はい」
そして、本を読んで、寝た。
今日の本は、この国……シュバルツ帝国に関する本だった。
次の日。
「おはよう」
「おはようございます。午前中にあちら方が来てくれるそうです」
「そう……」
結局そうなったか……
「無理はさせてない?」
「はい。嬉々として要望を飲んでくださいました。あちらからすると午後の方が残念な顔をされたかもしれませんね」
「何で? 午後に用事でもあったの?」
「いえ、そういうわけではなく。……大聖女様に早く会いたいというのは分かりますけどね、一般市民として」
「何が? なんて言った?」
「何でもありません。ただの独り言です」
「そう……」
さて。
「ようこそいらっしゃいました」
「こちらこそお誘いいただきありがとうございます! こんなにはやくこの聖水を持ってこれたのは誠に僥倖! これははやく聖女様に使ってもらいませんと」
「お父様、お父様が言うと変なことを言いそうなので辞めてください」
「何でだい?」
「取り敢えず黙ってくださいね」
ん? なにか聖水に不都合な事実でもあるのかな?
「ともかく、こちらが今回の報酬になります、1000万リラと、聖水3分の2杯分になります」
そう言って渡されたのは、硬貨が入った袋。
そして、シャンプーとかが入っていそうな大きさの容器だった。
え……
聖水、思ったより小さい……
これ、かなり貴重なんじゃない……?
何か、やばいことをしてしまった気がする。
「これが、3分の2、ですか?」
「はい。少なかったら申し訳ありません」
「それに関しては大丈夫です」
つまり、これの半分しかないの? あちらの手元には。
……
「………」
「どうされました?」
「あの、光っているように見えるのですが」
「あ、はい。そうですよ。だから結構厳重にしていたんですよね。下手に扱えませんし」
ん?
「あのー、聖水ってあったら便利ですよね?」
「聖女様にとってはそうなるでしょう、きっと」
え?
つまり、ただの厄介払い?
「私たちはどのようにこれを保存すればよいのですか?」
「……頑張ってください!」
笑顔で言われた。
おい!
「では、また」
「あ、はい。またお会いできるのを楽しみにしています」
「またね、ユミ様」
「はい、またいつか」
さて。
体良く厄介なものを持ち込まれたわけだけど。
「エリーゼ、これどうする?」
「まあ捨てるわけにもいきませんし取っておくしかないでしょうね」
「だよね……けど、光がでてくるのはな……」
「大変ですが、ユミ様の魔力が切れたときに有効でしょうし……」
「ま、それはそうだね」
やっぱ丁寧に保存するしかないよね。
こんのー。厄介物だけど値段は高いだろうし、都合の良い贈り物だなぁ!
ま、今回は負けたよ。
「よし! じゃあこのことは放っておいて、今度こそ観光しよう!」
「ユミ様らしいですね。お供いたします」
お、今日はエリーゼも来てくれるんだ。
「分かった。じゃあ護衛は少人数でいいかな」
「それで問題ないでしょう。お手間おかけします」
「いいよいいよ。エリーゼもちゃんと楽しまないと」
というわけで、リベンジだ。
「そして、ここを曲がると……」
前を見て驚いた。いきなり目の前が開けたから。
「市場です」
今回はベノンはお休みだ。別にベノンじゃなくてもみんな実力はあるし、たまには他の護衛とも仲良くしたいな、と思って、カミラとムンクを借りた。
「うわぁ……!」
とても活気があるところだった。
「らっしゃいらっしゃい!」
「朝市に取れたもんだよー!」
「おーい、そこの嬢ちゃん。一本負けてやるから買ってってくれ!」
そう。日本と変わらない。
この世界ではこの世界の暮らしがちゃんとある。そのことを改めて実感させられた。
今までこの世界で行ってきたところは。神殿、孤児院、病院、王宮、皇城。とっきどき市場。
……あまり色々行っていないな。私、我慢しすぎじゃない?
市場は王国でも言ったけど、こっちのほうが活気があった。
こんな生活を守る力があるんだから。もっと頑張ろう。そう思えた。
「早く、あちらにも行きたいね。儀式を急ぎたいな」
「ユミ様はもう少し気を抜いてもいいと思いますけど」
「儀式の全容がわかってから考えるね」
「いえ、儀式をしたら……ユミ様もミア様のように……」
「かもしれないね」
だけど、あちらの世界では死ななかったとはいえ、これは2度目の人生だと言えるもの。
あちらではできなかったことも、2度目のものとして頑張りたい。
……結局、義務で動いているのかもな。
「じゃあ、買い物に行こう! エリーゼは何を買いたい?」
私たちは、思いのまま、楽しんだ。
その頃。
「これからはみんなの前でも働こうと思っているので!」
「本当ですか?」
「ちゃんと、生きていたら実行しますから!」
「……はぁ。分かりました。いいでしょう」
「ありがとうございます!」
帝国にいるのも、あと1日とちょっと。
そんなときのことであった。
26.お遊びからの発見
次の日。
今日が帝都に一日中いられる、最後の日だ。
だから、昨日のように遊びに行きたいな〜、なんて思うんだけど……
「ユミ様、今日は部屋でお過ごしください」
「……!? 何で?」
「明日からまた旅に戻ります。そのためにも今日は休んでほしいのです」
「そっか……」
「はい。何か用がありましたら読んでくださいね。できる限り叶えますので。あと、一応暇つぶしの本です。何もすることがなかったらお読みください」
「うん……」
うーん、本かぁ。
だけど今日は気分じゃないなぁ。だからといって何かしたいわけでもないし……
私の足は、金庫へと向かっていた。
番号は……、51800518
私の誕生日は、5月18日だったから。
きっと、家族くらいしか覚えていてくれていないだろうけど。だけど、パスワードは518を使って作る癖は、相変わらず残っている。
……そして、私の魔力を通せば、金庫が開く。
そこにあったのは、聖水だった。
相変わらず、光っている。
何でここに足が向かったんだろう?
ただ、なんとなく、これで暇をつぶしてみるのもいいかもしれない、なんて思ってしまった。
思ってしまったから……
考えた。
薄めてみたら?
私の魔力を通したら?
魔石を漬けたら?
食べ物を漬けたら?
色々思い浮かんでくる。
よし、せっかくだし、薄めて色々やってみよう!!
さっそく薄めてみた。
水でいいのかな? とは思ったけど、それ以外にいい液体が思い浮かばなかった。
じゃあ、まずは魔力を通してみよう!!
初めてのことだから、目をつぶってより具体的に思い浮かべる。
魔力を、薄めた聖水に流す様子を。
……?
魔力が押し返してこないな?
不思議に思い、私は目を開けた。
すると、聖水が、光っていた。キラキラしたエフェクトまで放っている。
どういうこと?
もうわけが分からない。
一旦手を話して、もう一回つけてみることにした。
水に手をつけてからイメージしようとしたら……
……!?
魔力が帰ってきた。
……これって、もしかしなくてもさっきのやつ?
それにしても聖水に魔力を貯めることができるのかぁ。
じゃあ水だったら出来るのかな?
やってみたことないし、試してみよう!
水を魔法で出す。
そして、魔力を込める!!
……うん、跳ね返ってきたな。
じゃあ聖水だけの特殊なもの、ということか。
それにしても、魔力を貯めるものなら魔石があるけど、あれはあまり入らないからな。
さっきは結構な魔力を注いだし、その点ではこっちの聖水のほうが便利かもしれない。
……あ、じゃあ、魔石みたいに魔導具に入れたら働くかな?
試した。
暇だったし。
そしたら、発動しなかった。
あれえ?
絶対に発動する、って思ったんだけどなぁ。
納得がいかないから他のものでも試してみた。
全然発動しない。
……無理なのかな。
諦めた。
……せっかくだし、魔石を漬けてみよう。
こちらも試してみると……魔石が空っぽに。
どうやら聖水は魔石よりは吸い取る力が強いのかもしれない。
魔石は魔力を込めたら使わない限り、または吸い出さない限り出てこない、というのが常識だったが(壊れている魔石は魔力が漏れ出るために減るが)、なんと無機物がこの常識を変えてしまうなんて!
驚いてばっかりな気がする。
ーーコンコン
「ユミ様、エリーゼです」
ん?
「どうしたの? 入っていいよ?」
「失礼します……何ですかこの惨状は。私は文句を言える立場ではありませんが、聖水は貴重なんですよ? 分かっていますよね?」
「うん。だから薄めて使ってた。面白いんだよ?」
「そうですか。まあそうやってくださっているおかげでユミ様が外に出ずに済んでいるのだと思うとそこまでひどい話ではない気もしますが……
明日から旅ですからね? 研究を楽しむのはいいですが、準備とも軽く進めていてくださいよ?」
「もっちろん!」
「あ、あとこちらが昼食です。どうぞ。部屋の外に出して置いていただければ取りますので」
「分かった」
んー、何ていうか……
ここまでして徹底的に神殿をうろつかせない、となると……
「軟禁されているみたい」
「何か言いましたか?」
「ううん、独り言」
「そうですか。ではまた。夕食は呼びに来ます」
「分かった」
いつの間にか12時だったらしい。
8時くらいからずっと遊んでいたから……4時間も経っていたのかぁ。
昼寝でもしよっかな、食べ終わったら。
「……ふわぁ」
唐突に目が覚めた。
外を見ると、5時くらいだ。どうやら私は4時間も寝ていたもよう。
どうしよっかな、また遊ぼっか。
「……ん?」
聖水は、相変わらずエフェクトを出しながら光っている。
そこになにか見えたような……?
もうちょっと魔力を注いでみようかな。
光のエフェクトが一層強くなった。
目を凝らす。
やっぱり何かあるよね?
けれどまだ見えにくい。
さらに、魔力を注いだ。
また、注いだ。
注いで、見て、注いで、見て、を、私は魔力がなくなるまで続けていた。
……やばい、エリーゼに怒られるかも。
まあそんなふうに思うことになったが、それでも成果はあった。
エフェクトの中に何かが始めよりはっきり見えるようになったのだ。
なんだろう? 人……かなぁ?
二人くらいいて、楽しそうに喋っている。
白黒だからか、それくらいしかわからない。
じっと見つめてたら、片方の女の人……うん、ふたりとも髪が長いからきっと両方女性だ……と、目があった気がした。そしたらもう一人の人もこっちを見て、そし、首を傾げた。
何故か、目が離せなかった。
やがて、二人はまたおしゃべりに戻った。
……今の、一体何だったの?
心臓がドクドク、と普段より大きくなっている気がする。
気づけば、エリーゼが来ていた。
「夕食の時間ですよ」
「あ、うん。行くよ」
食べていたら、不意に、思いついた。
エリーゼに怒られない方法。
そうだ、魔力を戻させてもらえばいいんだ。
とても、気が楽になった。
……エリーゼ、怒ると怖いからね。
27.出立の日
「ユミ様ー! おはようございます」
朝、エリーゼに起こされた。
昨日は昼寝もしたのに。それなのに眠い。
そう、これは寝すぎたから逆に眠くなるやつ、きっと。
「おはよう、エリーゼ」
「早く朝食を食べてくださいね。あ、荷物はこちらのでよろしいですか?」
「うん。聖水も、よろしくね」
聖水を今更なくされてしまったら本当に困る。
あれが、何だったのか。それがわかるまで、手元に残っていてほしい。
「かしこまりました。では、朝食に行きましょう」
「うん」
パンはよくあることだけど、硬い。
それをなんとかスープにつけて食べている。始めの頃は怒られたけど、もう何も言われない。
だけど、他の人でこれをする人を見たことがない。
つまり、受け入れられたんじゃなく、諦められた、ということだ。
悲しい……
「ごちそうさまでした」
これも癖で言ってしまうけど、もう何も言われない。
なんとなく言いたくなってしまうから、本当に助かる。
「では行きましょうか」
「うん!」
皇城に向かう。
今日は……大神殿に行ったときに行動しやすくするための許可証、そして本がもらえるはずだ。
一定誰くらいになったのか……
その価値を考えて、身震いがした。
……考えないようにしよう。
「よう来てくれた。儂が皇帝ベルダングじゃ。此度のことは礼を言う」
「そんな……滅相もない」
「私からも礼を言う。ミランダを救ってくれてありがとう」
「あなたが聖女ユミ? 今回はありがとう。助けられてしまったわね」
ミランダ……
何ていうか……気高い。
こんな人が皇妃なら、盤石だな、て気がするよ。
あーあ、王国じゃなくて帝国で召喚されたかったなぁ。
「あの……こんな立場が高い人に頭を下げられても……」
「何を言っているの? あなたは大聖女よ? 立場はそんなに変わらないわ」
昔は佐藤さんに勝つために大聖女の立場をいいかも、なんて思ったりしたけど、今じゃ黒歴史だよ。
こんなことを言われるためになったんじゃないのに。
「そうですけど……」
「まあそんなもんにしておけ。では、約束しておいた褒賞を渡すとするか。おい、愚息」
「父上、ここは客人の前なんですが」
「細かいことなぞ気にすんな。で、準備したものを」
「……はっ。ユミ殿、これを」
紙が2枚差し出されてきた。
思わず受け取る。
1枚目が許可証。そして2枚目が……
「これは何でしょうか?」
「ん? ちょっとした遊び心じゃ。そなたに自分で選んでもらおうと思うてな」
「本をですか?」
「ああ。取り敢えず100冊ほどに減らしたんじゃが……」
うわお。
そんなにたくさんある中から選ばなくてはならないのか。大変だな。
時間は……ちょっと怪しいかもしれないけど、余裕を持った工程だし、ま、大丈夫でしょ。
そう考え気楽に探すことにした。
「すごい……」
連れてこられた先はその100冊が置いてある部屋。
「何冊選んでいいんでしたっけ?」
「4冊くらいかのぅ」
4冊も!?
「ありがとうございます!」
「喜んでもらえたようで何よりじゃ」
うーん、どうしよっかなぁ〜
ミア様の儀式関係は……
「伝記〜大聖女ミア〜」
伝記かぁ。
パラパラめくる。
儀式は……最後の方だよね?
……あった!
まあまあ分厚そうだし。ひとまずこれにしておこう。
もう一冊くらいミア様を探そう。
そして見つけた本は
「大聖女の秘密」
これにしようかな。
で、あと2冊ももらえるんだよね?
だったら……
あった!
「魔法大全」
こういうの探していたんだよねー
うーん、あと一冊行けるんだよね? どうしよっかなぁ
背表紙を見ながら考える。
ふと、一つの背表紙に目が向いた。
「神器図鑑〜伝説から日常まで〜」
神器?
疑問に思う。
いままで、新規なんて見たことがない。
試しにパラパラめくってみる。
はじめの方には見覚えのあるようなものがあって、後ろに行くほど何かがわからなくなっていった。
面白そう……!!
じゃ、この四冊でいいかな。
「陛下」
「なんじゃ? もう終わったのか?」
「はい、この四冊にします」
「そうか。……ほう、神器か、お目が高いのう」
神器の話題に言ったし、ちょうどいいから聞いてみよう
「あのー、失礼かもしれませんが、質問いいですか?」
「なんじゃ?」
「神器をあまり見た記憶が今までないんですが……実際は少しはあったようですけど……神器ってどれくらい存在しているんですか?」
「そうじゃな…‥一般にはそこまでないが……城には2,30個ほどあるぞ?」
「そんなたくさん!? 使っているのですか?」
「あまり使っておらぬな。読めばわかると思うが神器はもともと特殊なときにしか使えんのだ。だから国宝として、緊急時に使えるよう取っておる」
「なるほど……ありがとうございました」
そうなんだ。
面白いな。この本でいろんな使い方を覗いてみよう!
「では失礼します。1週間ほど滞在させていただきましたが、活気があって楽しかったです。またお会いできるのを楽しみにしています」
「おう、そなたも元気でな」
そして、私たちは帝都を後にした。
「楽しかったね……」
「そうですね」
「大神殿でも、頑張らないとね……」
「期待してます……と言いたいところですが、無理はしないようにしてくださいね」
「うん、分かってる」
28.読書を通して 上
「伝記〜大聖女ミア〜」
「大聖女の秘密」
「魔法大全」
「神器図鑑〜伝説から日常まで〜」
今回もらったこちらの四冊。
馬車の中で、私はどれから読もうかを考えた。……いや、どちらを読もうかを考えた。
そもそもの本にした目的、それはミアが何をやったか、というのを知るためだった。
だから実際は大聖女関係の2冊で迷っていたのだ。
う〜ん………
「よしっ! 選んだ順でいいや!」
だって、これから選んだってことはこれの私の中での重要度だったり目の付きやすさだったりが高かったってことだもんね、多分!
読む。
はじめの方は特に重要な情報は無さそうだった。
ただ読んで、へぇーってなるだけ。
そして、夕方……思ったより文字が小さい……、やっと儀式のところにたどり着いた。
さて、まあまあのページがあったようだが、一体何が書かれているのか……
『聖女ミアは儀式のために神器を用意した。彼女の手作りだ。彼女の信者は、よってたかってそれの失敗作を欲しがった、という逸話が残っていることから、作ることが難しい神器なのだと考えられる。』
作ることが難しい……
不器用な私に出来るかなぁ?
ただ……どんな神器かは書いてくれないようだ。これは神殿で聞くことにしよう。
しばらく読み進めると、儀式当日になった。
『儀式本番、彼女は膨大な魔力を神器に捧げた。そして、聖女ミアは、その場から消えたらしい。
残った人々は、戸惑い、慌て、それは酷いことになったらしい。
やがて、女神から信託が降りた。聖女自身に聖魔法の治癒を使えないようにする、と。
そこで人々は知った。ミアが成功した、と。
人々は喜んだ。……しかし、ミアは帰らぬ人になっていた。』
もうちょい途中も書いてあったけど、だいたいこんなもんだ。
それにしても膨大な魔力、ね。絶対私じゃ足りないや。どうしよう……
あ……聖水があった……。
何、あの聖水をもらったのはなにかのフラグだったの?
タイミングが良すぎるんだけど。……だけど、たしかに助かった。
これで、残った問題は神器だけになった。
そして、その日は3つ目の街に夜に到着し、眠りについた。
次の日。
朝、いつも通り慈善事業をやったがこの街はあまり人が来なかった。
さっそく旅に戻る。
よーし、「大聖女の秘密」を読もう!
そう意気込み、馬車に乗り込んでから読み始めることにした。
『これは、大聖女ミアの親友と言われていた聖女リンに聞いた話である』
始めに、そう書いてあった。
うん、そうだな、たしかに。
ミアもこの世界で生きていたんだから、親友くらいいたよね。
……じゃあ、私は?
そう考えて、悲しくなった。
今まで関わったことがある聖女はユウナを除けば3人。
そう、たったの3人……
次のページは……
現実逃避することにした。
『大聖女ミアはもともとは孤児だった。暮らしはよくなく、生きるために盗みを犯すこともしていた。それがバレ、追いかけられ、怪我することもあった。
だが、不思議なことに怪我は次の瞬間には消えている。それを不思議に思った店の人がもしかしたら聖女じゃないか、と考え、発見に至った』
つまり、魔法を使わなくても勝手に治癒されるって……どんなけ魔力量多いの?
それに‥…彼女は自分に治癒が使えることで助かっていたんだ……それを出来ないようにする……。
葛藤があったんだろうな。
『小柄な少女だった。
だけど、その身には多すぎる魔力量により、始めの頃は度々暴走させた。
今までは身体の怪我を治す、不足している栄養を補うなどのことで、暴走を防いでいたようだ』
暴走……考えたくない
『暴走を止める助けをしたのが聖女リンである』
あぁ……羨ましい……
そしてそこから二人の友情が育まれるようになったらしい。
ミアはリンのお陰でほかの聖女とも仲良くなった。
そして、ある日、彼女の友人の一人がさらわれた。そこで、ミアはこの問題を解決しようと考え出す。
……ここらへんはさっきのにも書いてあった。
さあ、早く儀式のところを……
「ユミ様ー、昼食の時間ですよー」
「うん、分かった。今行く」
食べ終わって、また読み始める。
何時間経ったかは分からないけど、ようやく儀式のところについた。
『聖女ミアは儀式の準備を頑張った。
一番の難関は、神器作りだ。ルミナスアセンションという名の神器が必要らしい。しかし、どこの国もこれを持っていない。だから、聖女ミアは作ることにしたのだ』
そして、色々書いてあったけど……
何、これ?
全く聞いたこともない名前の物が連なっている……
諦めるしかなかった。
『儀式直前、彼女は部屋に籠もった。
友人がさらわれて対処を試み始めたものの、葛藤はあった。
ーー私がしようとしていることは本当に正しいのか
ーーこれが聖女のためになるのか
そして、結果が分からないこと。
それらをいろんな聖女が慰めた。
リンも、「私が代わろうか?」と聞いた。だけど、ミアはこれは自分の仕事だ、と譲らなかった。
時間になり。ミアは儀式を行った。
聖女ミアは消えた。成功したのか、失敗したのかもわからなかった』
あとはさっき読んだとおりだ。
しばらくして信託が降り、成功したことを知ったそう。
『街は……都は悲しみに包まれた。
他の聖女たちも例外ではない。だけど、ミアの意思を引き継ぎ、聖女は辞めなかった。
教会は聖女ミアの尊き行動に対し、大聖女の称号を贈った』
いい話だ。
もう、夕方だった。
また明日。魔法大全は読もう。
29.読書を通して 下
今回は短いです
「ユミ様、おはようございます」
「おはよう」
「今日は何を読むのですか?」
「んー今日はねー、『魔法大全』を読む予定だよ」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「うん、あ、エリーゼ」
「何でしょうか?」
「エリーゼもこの2冊読んで見る?」
読み終わった2冊を指差す。
「遠慮しておきます。私は安全の確認などすることが多いですから」
「そう……」
「しかし、夕方とかなら読んでもいいかもしれませんね。そのときになったら貸してもらえますか?」
「うん、分かった!」
落ち込んだ私に気を使ってか、エリーゼはそう言ってくれた。
慈善事業をして、さっそく私は『魔法大全』を読み始めた。
やっぱり知っているものが多い。
先生は流石だ。あんなにたくさん知っていたなんて。
ただ、それでもいくつかは知らない魔法があった。それに、闇魔法は興味深いものだった。
それに、魔法自体は目新しくなくても、使い方には目新しいものがあった。これは大きな収穫だと思う。
「魔法大全」
一番時間がかかりそう、と思っていたけれど、他の本とはそこまで変わらず、1日で読み終わってしまった。
夜は、神殿で過ごし、次の日、慈善事業を行った。
今回の街はまあまあの人が来た。
けれど、結構軽いけがが多かったからあまり魔力は使っていない。彼らを治療すると、本職が……ね。
昼頃出発した。
さっそく「神器図鑑〜伝説から日常まで〜」を読む。
……へぇ〜。
そう、何度も思わされる本で、今日で、半分くらいしかいっていない。
神殿につき、寝て、朝、また慈善事業を行い、出発する。
それを、また繰り返す。
夕方頃になって、ようやくルミナスアセンションの項目にたどり着いた。もうすぐで神殿についてしまう。
ゆっくり読むためにも、ついてから読むことにした。
『ルミナスアセンション』
過去に一度だけ使われたことがある神器。
大聖女ミアが、女神アマティデ様とお話する際に用いた。
材料は………(書物でも色々と書いてあったもの)。
使用者によって形は異なるため、使用する者はなにか手を加えないといけない。
これを使ったものは、女神とお話できる代わりに、生きて戻ってこれない。
そして、この基本情報にプラスしたことも書いてあった。
うん、嫌な情報しか載っていないね。
私がなにか手を加えないといけない?
そんなことして神器が壊れたらどうすんの?
まあそんなわけだ。
次の日。
とうとう読み終わってしまった。
旅はまだ一週間以上ある……
もう一度読もう……
そして、もう一周も終わり、私は魔法で遊ぶことにした。
「聖ーー光の糧になれ」
そして眼の前に現れる電気。
火だと窓を開けておく必要があるんだけど、光にはそれがないからとっても便利だ。
また、ある時は。
「火ーー爆炎を呼べ」
魔物倒しに加わったり。
その後は傭兵の人に恐れられて、1日経って次の傭兵になるまで全然関わってくれなかった。
たまには。
「いらっしゃい、カンナ」
「失礼します、ユミ様」
「固くならないで」
「ですが仕事が……」
「気にしなくてもいいわ。そのときになったら私も入るから」
「いえ、大聖女様にそんなことはさせられません」
女の子の傭兵と喋ったり。
そんな日々を過ごして。
途中に魔物の襲撃もあったり、盗賊に狙われたりもしたけど、傭兵のお陰で退治することができた。
そして、ほぼ予定通りのタイミングで、サーベスト教国に到着した。
30.聖女ヘイトの嫌がらせ
サーベスト教国。
その首都、アバンゲルク。
その中心にある、大神殿。
そこに、今私はいる。
取り敢えず、大神殿で過ごすことの許可はサムエルが取ってくれたらしく、そのことに安心した。
……ひろーい大神殿の、端っこだったけど。
それでも食事付き、寝台付き、護衛とエリーゼの部屋付き、何だから感謝はしている、一応。
しかし、どうやら大神殿での聖女への態度は良くないらしい。
私は、いったんサムエルに会うことにした。
大神殿についたら報告してきてくれ、と頼まれていたからだ。
サムエルは……大神殿にいるのか? それとも王国の神殿に今もいるのか?
分からないけれど、とりあえず聞いてみることにした。
受付の方まで行く。
……初めて神殿の受付なんて使った……。
「すみません、今日はサムエル枢機卿はいらっしゃいますか?」
「サムエル枢機卿? はい、今日は大神殿にいるそうですが……あなたはどちら様です?」
「ユミと申します。一応大聖女です」
「大聖女のユミ様、ですね。失礼ですが魔力を確認してもよろしいでしょうか?」
おい!
私は見たぞ。大聖女、と言われ、一瞬不審な顔をしたのを。
やっぱり聖女の扱いはよくなさそうだ。
せめて理由がわかればいいけど……
ま、サムエルに聞くとでもするか。
「分かりました」
あの時の魔力って、こんなふうにも使うんだ。
確か大聖女になったときに私の魔力がこもっていた魔石を持っていかれたんだよね。
「……はい、確認が取れました、たしかにあなたは大聖女のユミ様でおられるようですね。それで、サムエル枢機卿がどうしましたか?」
いやー感服感服。
私たち聖女に対していい思いがないらしいのに、業務中はちゃんと仕事している。こういう人は、他のやつよりは|ま《・》|だ《・》マシだよね。
「大神殿についたら尋ねるように、と言われていまして」
「分かりました。確認してきます。しばらくここでお待ち下さい」
そして、彼女は他の人に内容を伝え、戻ってまた受付にたった。
……どれぐらいかかるかな?
私は馬車で暇すぎて作ったあやとりで遊ぶことにした。
「相変わらず不思議ですね、それ」
「でしょ? 面白いんだよね。エリーゼもやってみる?」
「いえ、遠慮します。見ているだけでも楽しめるので」
「そう? 二人あやとり、やりたかったんだけどな……」
「二人あやとり?」
エリーゼは初めて聞く単語に戸惑ったようだ。
「名前の通り、二人でするあやとりのことだよ」
「それは、二人じゃないと出来ないのですか?」
「一人でもできるけど、二人でやったほうが楽しくなるんだよね」
エリーゼは混乱しているようだ。
「一人でも二人でも出来るのに一人だとあまり楽しくなくて二人だと楽しくなる? 新たななぞなぞでしょうか?」
などと呟いている。
「それなら一回やってみる?」
「え、しかし……」
「大丈夫、ベノンたちもいるし、まだまだかかるみたいだから」
「なしたら……ちょっとだけ……」
「よっし!」
そう言ったら周りの視線がやってきた。
「すみません……」
謝って、あやとりに入る。
「まず、最初は川。この間にあるものを流れに見立てて、川ということにしているんだ。で、これの真ん中のやつを小指でそれぞれ取って……くるりんぱってするの」
「どういうことでしょうか?」
「えーと……じゃあ、交代しよっか。親指と人差し指を出して?」
「こう、ですか?」
「そうそう」
そしてあやとりを渡す。
「じゃあ私が今からするね。
まずはこんなふうに小指に引っ掛けて……くるりんぱ!
ほら、出来上がり!」
「……すごいですね。一体どういう仕組みが……」
「からくりはなにもないよ、だけどそうなるらしい。もう一回川を作るからやってみて」
そうして、昼過ぎに受付についてから、夕暮れまで……受付が閉まる30分前まで、私たちは遊んでいた。
「ねえ、さすがに遅くない?」
「そうですね、どうしたんでしょうか? 聞いてきますのでお待は受付の人と暫くの間話していたが、やがて戻ってきて、
「駄目でした。聞きに行った人が戻ってきていないそうです」
と、いった。
「なにそれ? そんなに時間かかるものなの?」
「違うと思いますけど……」
うーん。これも嫌がらせの一貫?
けなの?」
「違うと思いますけど……」
うーん。これも嫌がらせの一貫?
けどいろんなことをサムエルに聞こうと考えていたからなぁ。サムエルに聞けないとなると……
どうしようかな。このままいても多分何も無いだろうし……
「一旦帰ろう。また明日こればいいよ」
「はい‥…そうですね。お役に立てず、申し訳ありません……」
んーしかしこうなるとなぁ。
変装して大神殿で働いてみたらどうだろう?
地位を上げていけば情報を自力で集めていくことが出来るかもだけど……時間がかかるよなぁ。
となると……他のスジで情報を手に入れる、かぁ。
この許可証を使えばなんとかなりそうな気もするんだけど。
えーっと確か……なんて書いてあったっけ?
ふむふむ。目を通す。
「7.こちらの持ち主にはできるだけ便宜を図りなさい。そうじゃないと、シュバルツ帝国の神殿に左遷とし、宿は自腹で取ってもらうこととする」
え?
こんなものが書いてあったんだ。
じゃあ、行けるかも!
希望が見えた気がする。
そうと決まったら明日は……
受付に行って、聞いてくる、という人について行かせてもらって、どんな行動を取っているかを確認させてもらおうかな。
よっし! 気が楽になった!
今夜もゆっくり寝られそうだ。
31.嫌がらせの実態
「こんにちは」
今日もまた、受付に行く。
「何でしょうか?」
「昨日と同じ要件です」
「昨日? ああ、確かお帰りになられていましたね。あのあと、彼女が帰ってきたのですが……」
「そうなんですか? それで、どうだったかは聞きました?」
「あいにく、あなた達がいないとわかると残念そうに去ってしまい、話は聞けておりません。さらに。彼女はお生憎ですが休暇を取っておりまして……」
面の皮分厚いな、この受付嬢。
絶対彼女、私たちがいなくて喜んだだろ……じゃなくて、まず本当に行ったのか、というところから怪しい。
「そうですか……ではまたサムエル枢機卿の方へ聞きに行ってくれませんか?」
「いえ、枢機卿に当たる方に同じことを連日聞くのは失礼に当たりますので……」
うーん、頑固だな。
じゃあもうこれを見せちゃえ。
「私、こちらを持っているんですが、それでもですか?」
「読みますので少々お待ちください。……!?」
どうやら項目の7が目に入ったようだ。
「失礼しました。もう一度聞きに行かせますのでどうかご容赦を」
そんなにも大神殿から離れたくないのか……いや、宿泊を自腹でするのが嫌なのか……。都合がいいからどっちでもいいんだけど、なんかこれだけでうまく行っちゃうってのもな……
「そのことなんですが私もついて行っていいですか? できれば早くお話したいので」
「……はい……そのようにいたします」
よっしゃ、これでちょっとはましになるかも!
「こちらです」
新たな係の人に優遇されるがまま歩く。
ちなみに、この人にはまだ許可証のことは伝えていない。
これでまたやらかしたら、これを見せて……ってあれ? 私、なんか悪役みたいになっていない? 気のせいだよね?
まあ途中まで来たところで見せるようにしよう。
そう考えている間も、案内人はどんどん中央から離れたところに向かって歩いているように見える。
「あのー」
「何ですか?」
うわー見事に冷たい声だ、一体どんなふうになったらこうなるの?
私、大神殿では……いyぴゃ、今までにそんなに嫌われるようなことをしたことないと思うんだけど……
「こちらですか?」
「はい、こっちです」
「方向を指してもらえませんか?」
すると、そのまま真っすぐ行った先を指差された。
……つまり、中央から離れたところ。
「あ、そう言えばこれを見せるのを忘れていましたね」
今思い出した、というふうに許可証を見せる。
「……何ですか?」
訝しみながらも見てくれる。
訝しんでくれたんだし、そこまで演技は下手じゃなかったということだろう。
「……!?」
お、気付いたかな?
「これは……失礼しました!」
「何をどう失礼したんですか?」
あまり脅しっぽいことはしたくないからね。
この子がこのことを広めてくれたら楽なんだよ。
だから、ちょっと、辛いけど、今は面倒くさいやつになろう。
「それは……その……いろいろ、です」
「いろいろ、ですか? 具体的には?」
「ひぃ……申し訳ありませんでした! サムエル枢機卿がいらっしゃる場所はあちらです!」
そう言って、さっきとはぜんぜん違うところを指差す。
「ふーん、そう、分かりました。では、|次《・》|こ《・》|そ《・》|は《・》ちゃんと案内してくださいね? ついでに帝国に行ったら……ね」
まあ行くことなんてなかなかなさそうなんだけど。
「どうか……どうかご容赦を……」
「あれ? 別に皇帝陛下に言わなくても、サムエル様に告げ口するだけでもいいかもしれないなぁ」
「そんなぁ……」
「まあ、その後のあなたの態度次第ですよ。そうじゃなくても、他のものといっしょに左遷に回すか……」
実際はそんな権限無いんだけど。
手間掛かりそうだし。
「分かりました。ちゃんと連れていきます!」
「それは良かったです」
私は思わず笑顔になった。
この調子だと、もうしばらく我慢すれば快適に過ごせそう。
「ここを通りたいのですが……」
「証明書を見せろ」
「これなんですが……」
「ん? 受付嬢? そんなやつをここに通せるわけねえだろ。出直してこい」
「それが……大聖女様がサムエル枢機卿に用がある、と」
「大聖女? あんの運だけで……おっと、あなたが大聖女様ですか? しかし大聖女様でもお通しするわけには……」
今なんて言おうとした?
運だけで……?
サムエルにちゃんと聞かないとな。
「こちらを」
そういって許可証を見せる。
「うん? これは何だ? ……!? これはこれは、すぐにお通ししますのでしばしお待ちを」
ねえ……何ていうか……流石にこれ、権力持ち過ぎなんじゃない?
心配になってくるんだけど。
しかし、こんなことを広め何回も繰り返せば、いずれはサムエルのもとにつく。
「おや、ユミ様、ちゃんと来れたのですね」
「はい。シュバルツ帝国のお陰様でね」
何で教えてくれなかったんでしょう? という含みを込める。
「それはそれは。しかし、これも教皇様がお望みでね」
おい。
教皇様、あんたお遊び好きだねぇ?
「まあゆっくりしていってください。大神殿で何があったのかの話も是非聞いてみたいですし」
そうかいそうかい。
私は半ばヤケになりながら説明した。
そして、話を聞いたサムエルは大声で笑った。
「あっはっは! 皇帝も中々やりますね。見直しましたっはっは!」
あれ? サムエルってこんな陽キャだった?
初めて見るサムエルの1面に面食らう。
「いやー、立場が高いものには取り次ぐな、ってことから脅す感じで許可証を出してくるとは……
失礼、そろそろ落ち着きますね」
「あ、はい。お願いします」
「それで、教皇様がこう望んだわけでこんなふうに手間取らせてしまったわけですが。教皇様にもちゃんとお考えがありましてね。このあなたに対する悪感情をどうするか、ということでテストをしたんですよ。
こんなふうに帝国を味方につけて堂々と乗り込んでくるとは、さすがの教皇様でも予想外でしょうね」
そうなんだ……
「あの、ところで何で聖女は嫌われているんですか?」
「嫌われているのは聖女ではありませんよ? まあ聖女も少しは嫌われていますが……。
大神殿の中で主に嫌われているのは大聖女、つまりあなたですよ」
え?
なんで?
32.嫌がらせの正体とこれから
「嫌われているのは聖女ではありませんよ? まあ聖女も少しは嫌われていますが……。
大神殿の中で主に嫌われているのは大聖女、つまりあなたですよ」
え?
なんで?
「理由が分からないようですね。まあ致し方ありませんが……
この大神殿で、あなたは『実力も大してあるわけでもないのに、偶然聖女発見の近くにいて、偶然それを倒すことに協力して、その運だけで大聖女の称号までもらった名ばかり女』と、考えられています」
「は?」
「面白いですよね。自分たちが努力しても全然上にまで登り詰められないからだ、なんて言って、上のものを妬むんですから。
あなたに実力があるのならとっくに私のように上にまでいっているでしょうに。きっとバカなんですね」
「あぁ……」
ただの嫉妬か。
「そして、聖女に関しても似たようなもんで多少の嫉妬がありまして……『せっかく神に認められたくせに我が身可愛さに仕事をしないクソ女』なんて思われていますよ? まあその点ではあなたは関係ありませんがね」
「はぁ……」
そうなんだ……
それにしても名ばかり? に、クソ女?
この大神殿ってもっとこう……聖職者っぽい人がいるんじゃないの? 俗物的すぎない?
「まあそんなとことですかね。……ほかに何か聞きたいことはありますか?」
「そうですね……、あの許可証は、どこまで使ってもいいんですか?」
「許可証ですか? あの許可証が効きそうなのは……国王よりも権力が低い役職のものくらいですね。ですからそこら辺の立場の者に使うのは構いません。
そして……これは言っていいか怪しいところなんですけど、ちょうど大聖女と同じくらいの立場の者が、ギリギリ情報を知っているかどうか、ということだと思うんですが……まあその立場の種類にもよりますけど。実際私も知りませんでしたし……彼らは基本的に人前に出ないので、探すのが大変だと思います。
見つけてもあってもらえるかどうか。そこら辺を教皇様は見るつもりでいるはずなので、頭の片隅にでもそう置いてくれれば」
「ありがとうございます。あの……そのことなんですけど……」
「どうしましたか?」
「私、大神殿の役職に詳しくなくて……どんな役職があってどんなことをしているのかを教えてもらえませんか?」
「それもそうですね。しかし、それを教えることはできますが、流石に量が多いので……。
紙でお渡ししますね」
「ありがとうございます……」
「他になにか?」
「いえ、大丈夫です。本当にいろいろありがとうございました」
「どういたしまして」
部屋を出る直前、
「……頑張ります」
そう、思わず独り言を言ってしまった。
部屋に戻って、夕食を食べた。
そして、聖水を薄めたものに魔力を込める。
どうやらかなりの量の魔力が必要らしいからね。
さっそくこれからどう行動するか、エリーゼと話し合う。
「狙うなら、大教区長だよね」
「そうですねーユミ様は具体的にどの情報が欲しいのですか?」
「あれ? 言っていなかったっけ?
えっと……確か、儀式に必要なのは、膨大な魔力と、それ専用の神器、ルミナスアセンション。そして気持ちが必要で……魔力と気持ちは問題ないんだけど、そのルミナスアセンションが無いんだよね。
ミア様が過去に使ったからそれが残っていれば、それを使うことにして、なかったら作るしかないんだけど、その場合は材料が分からない、てところかな」
「……結構発覚しておられるのですね」
「そうだね。本のおかげかな」
「まあその情報でしたら……管理系の役職の大教区長や、神器関係。
神器関係は無さそうですので、まずは宝庫に何があるかを確認するのがよろしいでしょうね」
「そうだね。じゃあ……」
「「守護大教区長だ(ですね)!」」
そして、次の日からの行動が決まった。
「エリーゼも一緒に来てくれる、ってことでいい?」
「構いません。サムエル様がいつの間にか清掃員を用意してくださったようですしね」
「あ、やっぱりサムエル様が原因なの?」
「分かりませんが、大神殿で私たちの味方となりそうなのはサムエル様ぐらいではないでしょうか?」
「それもそうか」
そう納得した。
そして、気付いた。
「大神殿の地図をもらってくるの忘れた……!?」
「そうですね、ないと不便なこともあるでしょうし……明日はまず受付に行って、地図を貰うことから始めましょうか」
「だね。そして許可証を見せて、なんとか大教区長に繋いでもらうよう頼んでみる」
「はい、あの許可証も見せてもらいましたが、あれは結構使えそうですもんね」
「でしょ? あの条件を加えてくれた皇帝陛下には感謝しないとね」
「ですね。そして、大教区長に会ったあとは、宝庫にルミナスアセンションが入っていないか確認して、なかったら材料がどういうものかを教えてもらう」
「それならあの時間も持っていったほうがいいね。
それに、ルミナスアセンションがあったとしても、私がなにか手を加えないといけないみたいだからね。どちらにせよ聞く必要はあるや」
「そうだったんですね」
「あ、伝えるの忘れてた? ごめんね。……まあそんな必要があるからなぁ」
「でしたら少し先になるかもしれませんが、もしルミナスアセンションがあったときにどこに変更を加えるかを考えますか?」
「そうだね。ちょっと待って、図鑑を出してくる……あった、ここ!」
「色々ありますね……」
「ほんとこれらの材料から神器を作ったミア様は尊敬する……」
「まあ大聖女様ですからね。ユミ様も同じですけど」
「それは言わないでよ!」
そして、また二人で会議に戻った。
33.作戦実行開始
「すみません」
朝。私とエリーゼは予定通り受付に行った。
「ひぃっ昨日の……」
「あ、はい。大聖女のユミです」
この受付嬢、私は知らないけど……
なのに何故か恐れられているんだけど?
嫌われた次は恐れられる……嫌われの原因もこっちの大神殿な気がするし、今回も私のせいではない気がする。うまくいったらまたサムエルにでも聞いてみよう。
「……何でしょうか?」
やっぱなぁ。
なんでだろう? 会ったこともない人に恐れられるっていい気がしないんだけど。
うーん。昨日は確かに私が動きやすいようになる噂を流すように暗に伝えたけど恐れさせろなんて伝えていないしなぁ。
分からん。
「大神殿の地図が欲しいのですが……」
「地図……ですか? えーと、どのような地図をご所望で……?」
「普段誰が……どの役職の人がどこにいるのか……とかが分かりやすく書かれたものとかはありますか?」
「誰がどこにいる……? 申し訳ありません! 現在はまだそのようなものはなく……!!」
「あ、じゃあ普通に部屋の名前があれば……」
「昼までには作ってまいりますので、申し訳ありませんがそれまでお待ち下さい!!」
え?
無視された?
いや、それよりも……作る?
え? ええ?? えええ???
「ねえ、なんか面倒事になっていない? 変なこと行っちゃったかなぁ?」
「大丈夫ですよ。あちら方が大変になって、こちら側が待つ時間が増えるだけですし」
「それがいいことか、って話だよ……」
「まあいいことなんじゃないでしょうか?」
「なんか言葉に気持ちがこもっていないような……」
「気のせいですよ」
そして、昼まで待った。
「大聖女様ー」
受付から呼ばれた。
「遅くなって本当に申し訳ございません! ですが、大聖女様のお望みのものはできたと思います!
……こちらです。ぜひ見てみてください」
「はい」
さて、どんな地図なんだろう?
手に持って開く。
何故か、真新しいインクの匂いがした。
……本当に作ってきたんだ……
中を見ると、管理職にいる人のよくある行動が書かれていた。
「素晴らしいです……!」
これ、私たちの仕事減り過ぎじゃないかな?
逆に心配になってくる。
教皇様のお目にかかれなかったらいろいろ大変そうな……
「本当ですか!? 実はこれ、受付嬢の全員の知識を持って作らせていただいたのです! 中には情報通もいますし、逆に変な行動を取る人が重要人物と出くわす、とか情報を聞いていたらいろいろ面白かったのですよ!」
「そうですか……」
まあ、楽しかったのなら何よりだ。
「あ、いけない。じゃあこれで」
「あの、お金とかは……?」
「大丈夫ですよ! ……左遷されないことが何よりの褒美ですから……」
なにか言ったかな?
まあいいや。
「えーっと、守護大教区長だよね? 普段いるところは……」
地図から探す。
確か名前はラスベート。
あ、いた。
「裏庭に名前がある」
「私の方は守護大教区長の部屋と祈祷室で見つけました」
「時間帯は……この時間帯だと祈祷室にいそうだね。とりあえず行ってみようか」
「ですね」
そして、二人で祈祷室目指して歩く。
本来の祈祷室は入口からすぐ目の前にあるんだけど、このラスベートという人がいると思われる祈祷室とは別なようだ。
こっちのほうが狭い。
まあその分何かあるのかもしれない。
「次は……右、で2回真っすぐ行って左次は右」
「ややこしいですね」
「だねぇ」
大神殿に所属している人はこの道を覚えているのかな?
私には絶対に無理だ。
「ここ、だよね?」
「そうだと思いますが……」
「祈祷室」と書かれた表紙みたいなものの下にはベッドのようなマークが……
「お祈りってわけでは無さそうだね」
「はい」
「覗こうか?」
「ですね」
「くかぁ〜」
「ぐがぁ〜」
「「……」」
思いっきり寝ている人物が約2名。
ここ、大神殿だよね?
ここって祈るための場所じゃないの?
祈らずに寝ていいの?
「エリーゼ……この状況説明してくれない?」
「そうですね……しいて言えば祈祷室で二人の男性が寝ている、というくらいでしょうか?」
「やっぱりそうだよね?」
あまり信じたくなかったよ……
「ひぃっ」
ん? なにか後ろから悲鳴が。
みたら、気の弱そうな修道女がいた。
「何でしょうか?」
「質問があるんだけどいい?」
「……! はい……構いません」
「なんで祈祷室で寝ているの?」
「えーっと……その……ただの休憩、です……きっと」
「そう、どっちが守護大教区長かわかる?」
「手前の方……です」
「起したらどうなる?」
「はじめは怒りますけど……多分大丈夫です、大聖女様なら」
「え?」
「何でしょうか?」
「私、大聖女であること言った?」
「言ってません、ただ、噂になっているだけで……失礼しますっ!」
そういって、その修道女は帰ってしまった。
「起こす?」
「ユミ様がお決めになってください」
「じゃあ起こそっか……風ーー弾を出せ」
魔法成功!
「ぐわぁ!……え?」
手前の男が起きた。
「こんにちは」
入口の方から声を掛ける。
「誰だ? ……大聖女!? 何故!?」
まただ。
「どうして私もことを知っているのか、大変気になるところですけど……」
「ひぃぃ……」
「とりあえず守護大教区長も見つけたことですし、お話に入らせて貰いましょうか?」
「ひぃぃぃぃぃ……」
「あのー、あなたが守護大教区長ですよね?」
コクリコクリ。
なんか必死に頷いている感じがあって面白い。
「実は、あなたが管理している宝庫について、聞きたいことがあるんですが……」
「何か……うちの者が何かしたのか!?」
何でそうなるの?
34.守護大教区長
「何か……うちの者が何かしたのか!?」
何でそうなるの?
「誰だ? サカキか? あいつなら……大聖女様に不敬を働きそうだな。おいおい。左遷なんてなりたくねえぞ?」
何か早口でまくし立てている守護大教区長。
「いえ、そういうことではありませんよ? 安心してください。」
「じゃあ何なんだ!?」
怒りっぽいなぁ。
「いえ、ルミナスアセンションが今もまだ大神殿にあるかを教えていただければ……」
「ルミナスアセンション!? あの!?」
「守護大教区長……ラスベート様があのということは理解できませんが……多分そうです、大聖女ミアが過去に使ったとされているルミナスアセンションです」
「何でそれを知っている!?」
「いえ、帝国でとある文献を読みましてね。普通に神器のことが書かれておりましたよ?」
「何なんだよ!? ‥…それで? 何に使うんだ?」
「ミアと同じ儀式をしたいと思いまして……」
「嘘だろ!? あの馬鹿げたものをしようと考えているのか!?」
「おい、ラスベート、うるさい」
守護大教区長の隣で寝ていた人物が起きた。……で、寝た。
「失礼ですが、場所をかえてもいいですか?」
「構いませんよ」
守護大教区長についていく。
「ここで話そう」
「ここは?」
「見ての通り会議室だ。守護大教区長以上のものにあてがわれている」
「え? だったら私にもあるのでしょうか?」
「……ここに住んでねえとねえよ」
「そうですか……」
あっても使わなさそうだしいっか。
「それで、ルミナスアセンションが欲しい、と?」
「いえ、借りたいな、という話です」
「借りたい、ねぇ。あれは大聖女ミア様がお作りになったものだって知ってっか?」
「もちろんです。材料も拝見させていただきましたが、全く知らないものばかりで……本当に尊敬します」
「それは分かってんのか……。じゃあ何か手を加えねえと使えねえことは?」
「把握済みです。とりあえず、実物を見て、どの部分が簡単そうか知恵を借りて決めようと考えていました」
「そうか。しかしだな、もうあの神器、ルミナスアセンションはない」
「え?」
だったらなんでそんなたくさん情報を持っているの?
「正確にはもう使えねえ」
「え? ……どういうことですか?」
「かの神器から、神気は完全に消え失せた。今となってはもう神器でも何でもないただの宝庫を占領しているだけのもんさ」
「神気……ですか?」
「ん? 知らんかったか?」
「はい……」
「神器はなぁ、神気をまとっているから神器と呼ばれるんだ。神気を持つためにはいろいろ条件があってな。その一つが材料だ。材料を組み合わせていくことでその材料に眠っている神気が呼び起こされる」
「はぁ……」
「そして、神から貰う場合だ。これは、もともと強い神気を発していて滅多に神気が消えることはない。
主に使われているのは前者の方の神器だ。まあその分長持ちしないが……」
「そうなんですね……」
「しかし! ルミナスアセンションは大聖女様お手製の神器だ。女神から賜ったものではない。だから、いずれ神気が消えるのも仕方のないことなのだ。分かったか?」
「はい」
ラスベートが悪人じゃないということがよく分かった。
けどなぁ……
神気、神気、ね……
『剣などの武器を、聖水に浸ければ、聖剣になるそうよ』
そういやこんなことも言われていたなぁ。
「あのですね」
「何だ? ひぃっ……」
また何か言われちゃったよ……
「他言無用でお願いしたいんですけど、」
「他言無用? 厄介事か?」
「そこまででも……」
内容自体は厄介事じゃないし、嘘はついていない!
「じゃあ何だ? 悲しくなる予感がするんだが?」
「実は、私の手持ちの中に、剣をつけると聖剣になる、という水がありまして……」
「は? 何だそれ? 騙されたんじゃ……いや、なんでもない」
「そう疑る気持ちは分かりますが、騙されてはいません」
「ほう、それで?」
「その水なら神気を取り戻せたりしないのですか?」
「……分からねえ」
「じゃあ試してみましょうよ!」
「ちょい待て、お前は何で試そうとしている?」
「もちろんルミナスアセンションです!」
「あのなぁ、本番一発勝負をするやつがいるか?」
「いると思いますよ? 聖女奪還の際はいろいろ一発勝負でしたし」
「そうか……あんときか……っておい! あれが一発勝負なのは仕方ねえだろ!?」
「でしたら今回もOKですよね?」
「場合が違うってんの。いいか、俺の話を聞け」
「はい……」
「分からなそうな顔をするんじゃねえよ!
とにかく、まずは他のもので試して、成功してみてからだ。成功したら、ルミナスアセンションで試す許可を与えてやる」
「ありがとうございます!」
よーし、順調順調♪
あとはなんとかなるかなぁ?
「じゃあそのための神器をください」
「わかったわかった。……これでどうだ?」
「分かりました! ……目印とかはいいのですか?」
「目印……そうだな、たしかに必要だ。
おい、さっきは簡単なことも理解していなかったようだが、どうやらなかなかやるようじゃねえか。少しは見直したぞ」
「そうですか、それは良かったです」
「反応薄いなぁ!?」
「では、失礼しました」
結構長居しちゃったね。
俗物的な大教区長だったけど。喋っているのは楽しかった。
あとは……
この神器を聖水につけて、成功させれば一件落着。どうなるかな?
楽しみにしながら、今日も魔力を空にして、寝た。
35.実験の結果
あの神器を聖水につけた次の朝。
私は神器を見て驚いた。
「これが……あの神器?」
神器の色は、灰色だったものが金色に変わっていた。
「成功……ってこと?」
成功しそうだな、とはなんとなく思ってはいたけどまさか本当に成功してしまうとは……
今日もまた守護大教区長のところにいかないとね。
エリーゼにも話しておこう。
「エリーゼ」
「なんですか?」
「今日もまたラスベートのもとに行こうか」
「? 何かありましたか?」
「うん、じつは、もう神器が元通りになっちゃってて……」
「それは……早いですね」
「でしょ? 私も驚いたんだけど。まあそんなわけでラスベートのもとに向かおうかと……」
「分かりました。行きましょう」
「ありがとう!」
そして、今、午前10時くらい。
私たちは裏庭にいた。
「こんにちは」
「ん? っておい! 大聖女様じゃねえか!?」
「そうですよ?」
「昨日に会ったばかりだろう? 一体何の用だ?」
「神器が息を吹き返したのでご報告に」
「神器が息を吹き返す……!? ぐあっはっはっはっはー! 何だよその表現は!?」
「ふと思いついたので。……こちらです」
「は? ……おい、本当だな? 一体どうなってんだよ」
「見ての通りです」
「そうか……いや、分からねえよ!?」
「そうですか? 言葉の通り、見ての通りですよ」
「お前はややこしいことを言うな! ちゃんと説明しろ!」
「説明方法が私にも分からないので……」
「はぁ!? うぅ…良う分からんが、まあ印も同じものだし、信じてみよう」
「本当ですか!?」
「ああ、男に二言はない」
あ、この世界にもそれあるんだ。
「じゃあルミナスアセンションを貸してください!」
「ぐっ……そういう話だったな。しかしまだ無理だ」
「え? さっきまでと言っていることが違うではないですか?」
「いいや、変わっておらん」
「どういうことですか?」
「いいか、ルミナスアセンションは宝だ。それもかなり貴重な」
「はい、分かってますよ」
「そしてお前はルミナスアセンションの息を吹き返させ、それを使いたいと考えている、そうだな?」
「はい」
「だが、俺はその瞬間を見たわけではない」
「まあそりゃそうですね」
「だから、完全に信用するに値せん」
「つまり?」
「ルミナスアセンションの神気を取り戻すのは、宝庫の中でやれ」
「ああ、そんなことですか。それなら始めからそう言ってくださればそうしましたのに」
「俺は精一杯順序立てて説明したんだぞ!? なのにお礼一つないのか!?」
「そうですね……ありません!」
きっぱり。
私はそう言い切った。
「俺の時間を返せぇぇ……」
「別にいいじゃないですか」
「良くねえよ!」
「じゃあしばらくここで待っててもらえますか? その『水』を持ってくるので」
話が進まないから無視することにした。
「あ? 俺はそんな暇じゃねえよ」
「どうせここで休憩しているんでしょう? 他の人が教えてくれましたよ?」
「ちゃんと仕事はしてるぞ!?」
「たしかに、午後3時から6時くらいまではしているそうですね」
「な!? どこ情報だ!?」
「だからさっきもいいましたよね? 他の人から、です」
なんか細かい言い方を気にするのが億劫になってきた……
「その他の人が誰だ、って聞いているんだよ!?」
「……うーん、嫌な予感がするので言わないでおきます」
「何だそりゃ?」
「まあともかく、しばらくお待ち下さい」
「そうだな……太陽が真上に行くまでだったら待ってやろう」
「ありがとうございます!」
急ぐ、急ぐ。
……走ったら怒られそうだから流石に走りはしなかった。
部屋に、聖水が。
容器は……あった! じゃあこれに入れて……どれくらいの量がいいんだろう?
分からないけど、容器によっては問題ないだろうし、これでいっか。
「こちらです」
「その光ってるもんか?」
あ、そっか。鞄の上からも光って見えるんだな。
「そうです」
「全くどこで手に入れたんだか……じゃあ付いてこい」
「今から仕事をすることになると思うんですがいいんですか?」
「……うっせえよ。気にしないことにしていたんだから言うな」
「はいはい」
「ぞんざいさな、おい」
「それが性格ですから」
「お前の性格はよくわかんねえよ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてねえからな!?」
そして、しばらく歩き……
宝庫と思われるところについた。鍵は4重にもかかっていて、頑丈そうだ。
「ユエ、確認頼む」
「はい」
確認? っと思っていたら、身体検査だった。
「……大丈夫です」
「わかった。じゃあ入ろう」
「え? エリーゼは?」
「無理だ」
「え? どうしてですか?」
「いいか、宝庫というのは国家機密のようなもんだ。そんな秘密を知っているやつをわざわざ増やすか? 違うだろ?」
「そうですね……」
落ち込むなぁ。
「仕方ねえことだ」
「何だ?」
「お、コイツだ」
ラスベートが茶色い物体の前で足を止めた。
「この茶色いものですか?」
「ああ、それが、今のルミナスアセンションだ」
「そうですか……では、さっそくこの『水』を使ってもいいですか?」
「あ、待て」
「何でしょうか?」
何かあったっけ?
「実は、他にも一つ、神気を戻してほしい神器があるんだ。それに使ってもいいか?」
「それの使い道にもよりますけど……」
「だったら多分、大丈夫だろう。それじゃあその『水』とやらを使ってみてくれ」
「分かりました……え?」
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません……」
まさか、薄めて、私の魔力を通した聖水を持ってきてしまうなんて……
これだと、神気が戻るまでにまあまあかかるかもしれないな。
ごめんなさい。
心のなかで謝っておく。
「じゃあ、漬けてみますね……!?」
「おい!?」
私たちが驚いたのには理由がある。
聖水に、ルミナスアセンションの残骸を漬けた瞬間、一部の色が、茶色から金色になったからだ。
速すぎない!?
何があった!?
これが、ルミナスアセンションに秘められた力の一つ、とかだったら都合がいいんだけど……
私たちが見守ること日本時間の30分ほどが経過。
「形が変わったな……」
「そうですね。これは私が手を加えたと捉えられた、ってことでいいんでしょうかね?」
「多分いいんだろうな……」
眼の前で見せられた光景に驚き、声を荒げようとは全く思えない。
「奇跡だ……」
聖職者らしくない、ラスベートが感慨深く感じている。
こんな性格だけど、ちゃんと聖職者なんだな。
少し見直した。
「じゃあ、コイツを頼んでもいいか!?」
我を取り戻したラスベートが慌てて言う。
「説明をお願いしますね」
「ああ、分かった」
そして、ラスベートがその神器にまつわるスローリーを語りだす。
「コイツはな、魔法を置いておける魔法具なんだ」
……直球だね……
36.宝庫からの帰還
「コイツはな、魔法を置いておける魔法具なんだ」
……直球だね……
それにしても魔法を置いておける? つまり、発動前の状態を保管できる、ってことかな?
「それは便利ですね。
戦いの際に自分の発動とそれの発動を合わせれば2倍の威力に……いや、自分の属性でない魔法も使うことができますし……
これは、危ないものにも使われたりしませんか?」
「流石だな。一発でそこまでいくとはな。そのとおりだ。だがな、」
何かあるのかな?
「この神器がは、とある名も無い神官が作った」
「作った……?」
「ああ、ゼロからこれを構築した」
「材料から形まで……?」
「ああ、そうだ。ルミナスアセンションはもともと把握されていたが、これはもともと存在していなかった」
「なるほど……凄いですね」
「そうだろう? これは、アイツの最初で最後の作品なんだ。だから、それが埃を被ったまでいるのは心苦しくてな」
ふーん、知り合いなんだ。
「じゃあ、実践では使わない、と?」
「ああ、なんなら契約書を作ってもいいぜ?」
「だったら……いいでしょう」
「本当か!?」
「はい、じゃあ準備しますね」
聖水からルミナスアセンションを取り出す。
すっと、初めて触ったのに。手に馴染むような感じがした。
これが、人によって形が変わるってやつ? 面白いなぁ。
そして、聖水。どうやら、光の加減が小さくなっているようだ。
魔力でちょっと補っておこうかな。
……できた!
「じゃあ漬けますか」
「だな、頼む」
今度は、さっきよりも時間がかかった。
おかしいな、魔力はちょっと多くしたと思うんだけど……
もしかしたら、神器による誤差はあるのかもしれない。
「これでいいですね?」
「ああ、助かった」
「それは良かったです。ところで、ルミナスアセンションはどれくらい借りれるのですか?」
「そうだな……1日じゃねえか、やっぱり」
「そうですか……あと、儀式のことなんですけど」
「何だ?」
「こっそりやっちゃってもいいですよね?」
「どうだろうな。かの大聖女は表の方の礼拝室で、民衆に囲まれてやったそうだ。だが、そうだからと言ってお前がやる必要はねえと思う! 夜中の間にこっそりやってしまえばいいんじゃないか?
あ、そうだな……式部大教区長にでも伝えといてやろうか? スケジュール管理から何から何までやってくれると思うぞ?」
「そこは……エリーゼに聞いて決めてもいいですか?」
「ん? わかった。じゃあ今すぐ借りるわけではなさそうだし、一旦外に出るか」
「そうですね」
正直、軽はずみな行動ができないから怖いもん。
「ただいま」
外にいたエリーゼに思わず言ってしまう。
「お帰りなさいませ。どうでしたか? 思っていたよりも時間がかかっていたようですが……」
「あ、ごめんね」
たしかに、1時間半ぐらい待たせたかも。
「いえ、私は従者ですから」
「うん……」
仕方ないことはもういやというほど分かっている。
「実はね、神器が息を吹き返し終わっちゃったんだよ」
「え?」
おー、エリーゼの驚き顔。レアだ。
「何故か簡単に神気がもとに戻ってね。ルミナスアセンションも、元々のと違う形になったから、新たに手を加える必要はない、かな」
「本当ですか……それではやることが殆どなくなってしまいましたね」
「だね。だけど、これで早く行動ができるようになるんだから。十分、いや、期待以上だよ」
「そうですね」
「あ、そうだ」
「どうしました?」
「実は、儀式をどう行うか、ということを決めろって聞かれたんだけど……」
「難しいですね」
「だよね、明日に……」
「おい」
その時、ちょうどラスベートに呼ばれた。
「何ですか?」
「俺のせいで遅くなったし、昼食でも食べてくか?」
「良いのですか?」
「ああ」
昨日までは乾パンを食べてそれだけだったからねー……
今日も一応乾パンは用意されているんだけど……それよりは、普通のご飯のほうが、絶対いい!
ご相伴に預かることにした。
「いただきます」
いつも通り、口に出して、食べ始める。
「いただきます? 何だそれは?」
「食事に対する感謝の気持ちですよ。ちなみに、食べ終わったらご馳走様、とこれに携わってくれた皆さんへの感謝を言います」
「へえ、どこの習慣だ?」
「私が元々いた世界の、ですね」
「ん? ああそうか、召喚されたんだったな」
「そうですよ」
パンが……柔らかい……
感動するよ。さすが大教区長……。あれ? 一応私も同じ地位にいるんだけどねぇ。
「ご馳走様でした。じゃあ、明日、またこれからのことをいいにこちらを訪ねることにしますね」
「ん、わかった。またな」
「はい、今日はありがとうございました。これで儀式に目処がついたので本当に良かったです」
流石にラスベートの好意に甘えすぎた気がする。
残りはちゃんと自分たちでやらないと。
37.プラニング
「さて、」
そう言ってから、「さて」ってなんか名探偵みたい、と思って気分が良くなる。
「はい」
「儀式をいつするか決めようか」
「そうですね。まずはユミ様が、こちらで行いたいことを申し上げてください」
「わかった。まずは……リオンに会いたいな。あとは、教国の観光もしたい」
「まあ儀式が上手く行けばさようならになりますしね……」
そう、今ではこの世界に未練を感じちゃっている。
本番、私にちゃんと覚悟が出来るのか……
「私としては辞めてもらえるとうれしいんですけどね」
「それは無理だね。もともとこっちに私がいることのほうが可笑しいんだから」
「そんな事はありません! ユミ様はこちらでも十分に馴染んでおります! ……そんなに、あちらの世界は良かったのですか?」
「うーん……どうだろう? あっちはあっちで嫌なことも多かったからなぁ。それはこっちとあまり変わらないか。だけど、どっちが好きかって聞かれたら……あっちに家族はいるけど放任主義だったしあっちもあまり私に興味は無かっただろうしな……こっちのほうが魔法があって楽しいし、心配してくれる人も多いからね、こっちの世界のほうが好きかもしれない」
「本当ですか!?」
「うん」
これは、紛れもない私の本心だ。
そう思った途端、心がスッキリした気がした。
そうだね、私はこっちの世界が好きなんだ。だったらその好きな世界を守るためだったら……覚悟は……出来る!
思いが、強固になった。
「ありがとう、エリーゼ」
「……私は何もしておりませんが……。何かしら、ユミ様のお役に立てたのなら、良かったです」
こころなしか、エリーゼの声も軽く聞こえる。
もしかして、嬉しく思ってくれた?
それだったら嬉しいなぁ、と思い、思わず笑いが漏れた。
「どうされましたか?」
「ううん、なんでもない」
「そうですか……。それで、聖女リオン様に会いたい、観光をしたいというくらいですか?」
「うーん、そうだね。この教国でできるのはそれぐらいかな」
こちらでは全然交流とかは深めていないからね。
けれど……あまりにも未練が無さすぎるよね……
今となっては意味のない話だけど、向こうの世界で死を迎えるまでに何をやりたいか……って聞かれたら、決められないよう気がする。
ゲームとかもたくさんやってみたかった。本ももっといろいろ読んでみたかった。
そうとなると、あまりこの世界にいない、というのも原因だったりするのかな?
「それだったら一度あちらにもどっては? その場合は、誰か護衛を連れていくことになりますが」
「あちらに戻る? どうやって……あ、そうか、転移を使えばいいんだ!」
「そうです。そしたら満足できるのではないですか?」
「かもね。だけど……なんていうかな、まだやったことのないこともやってみたい」
「やったことがない……ですか?」
「そう。うーん、普通の人ってこの世界でどんな風な暮らしをしているの?」
「普通の人……貴族でしたらパーティーを開いて、書類仕事や外交に時間を費やしますね。そして平民の場合は……商会、職人、魔法師、剣士などが主にありますかね、それで、商人は……」
魔法師?
「ごめん、魔法師を聞かせてもらってもいい?」
「構いませんよ。
そうですね、魔法師でしたら、王や貴族に護衛としてつかえたり、」
そうだね、カミラとかもそうだ。
「あとは、剣士と一緒に行動し、魔物を倒してその部位を売ってお金を稼いだりしていますね」
「魔物?」
「ええ、魔物です」
「うわぁ」
私、多分興奮していた。
ここはファンタジー世界だ。だから、よくある設定としては、魔物、は大概いる。
だけど……
「今まで、魔物に出会ったことってあったっけ?」
「ありますよ」
「え? いつ?」
「あ、いえ、ユミ様が目の前で見たことはないかもしれなせんね。
主に聖女様を取り返しに行った時に出会ったらしいのですが……前の方にいたものがユミ様がそこに追いつく前にたおしてしまったらしいです」
「そうなんだ……だけど、匂いとかは? 違和感はなかったよ?」
ほら、血、とかいろいろ匂いはあるでしょ?
「匂いに関しては……私にも分かりません」
「そう……。ねえ!」
「何でしょうか?」
「魔物も狩ってみたい!」
「そうですか、では一日、聖女リオンに会う、一日、観光をする、二日、魔物を狩る、一日、王国の神殿に帰る、一日、準備に当てる、そして、本番、というくらいですかね」
「なんで魔物を狩るのが2日も?」
「予備ですよ。不測の事態も予想しておかなければなりませんので。もしあまったら観光を増やせばいいでしょう」
「それもそうか、じゃあそれで行こう」
「順番もこれでよろしいですか?」
「うん、問題ないよ」
「ではこの通りに。ベノン達と、行き先のいくつかに伝えに言っておきますね」
「うん、お願い」
そして、夜も更けていく。
さて、ユミが儀式をするまで、この世界は平穏なのか、そうじゃないのか……
38.リオンとの再会
「では向かいましょうか」
「そうだね。リオンに会えるなんて楽しみ! よくリオンの予定が空いていたねぇ」
「不思議ですよね」
そんな会話をしながら、大神殿の中の、聖女が住んでいるところへ向かう。
道が……ややこしい……
まあまあの時間回りくどい道を歩いて、ようやく着いた。
「聖女リオンに会いたいのですが……」
受付で尋ねると、
「ユミ!」
ちょうどリオンがいた。
「リオン!」
「お久しぶりね。昨日、あなたがここに来てくれると聞いて、とても楽しみにしていたわ」
「私も楽しみにしていましたよ。いろいろ話したいことがありますし」
「そうなの!? それは奇遇ね。わたくしもよ」
「ではどちらから言いますか? リオンからいきます?」
「じゃあそうさせてもらうわ!」
そしてリオンは語り始めた。
「わたくし、実は先日、とあるものを見つけたの! ユミは何だとお思うかしら?」
「とあるもの、ですか?」
「そう! 聖女に関係するものよ!」
「聖女に関係する……何でしょうか……分かりません」
「そう! だったらわたくしの勝ちね! 実は、古い文献を読んでいて、聖魔法を見つけたの!」
「聖魔法の!? どんなものですか!?」
思わず興奮してしまって気付く。
ん……? 今更新しい聖魔法を教えてもらったってあまり意味はないんじゃ……? と。
だけど、やはり興味はある。
もしかしたら、狩りで使えるやつかもしれないし、ね?
「それはね……なんと、魔力譲渡よ!」
「魔力譲渡!?」
そう言えば、まだ見たことなかったなぁ。
あるんだ。
「それだけではないのよ! なんと、完全障壁もあったのよ!」
完全障壁?
それって……佐藤さんに使った……
「『聖ーー邪魔者を排除せよ』ってやつ?」
「え? なぜ知っているのかしら!?」
「先生が教えてくれました」
「先生が!? これ、かなりいい文献を探して見つけたのだけど……」
「そうなんですね。しかし先生は専門家でしたからね。おかしくはないかもしれませんよ?」
「いえ、おかしいと思うわ!」
うーん、残念だ。先生のすごさを伝えようと思っただけなのに……
「それで、魔力譲渡はどんな呪文ですか?」
「あ、そうね。そちらは『聖ーー汝へこの力を与える』よ。だけど難しくて……」
「そうなのですか?」
難しいってどういうことだろう?
とりあえず試してみるか。
「聖ーー汝へこの力を与える」
これくらいかな?リオンに私の魔力の四分の一を与えてみた。
「え?」
「どうしましたか?」
「何で一発で成功しているのかしら!?」
「分かりません。しかし、難しいと言うほどでもないかと」
「はぁ? ……失礼しました。
けれどわたくしはもう10回以上もチャレンジしているのに未だ出来ないのですよ?」
「そうなんですか?」
つまり……
「これを言ったら怒られるかもしれませんが、実は私、一回も魔法を失敗したことがないんですよ。他の人は違うのですか?」
「違うに決まっているじゃない!」
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます、リオン」
「いえ、お礼には及びないわ。それにしても……あなたって天才だったのね」
天才、ねぇ。
天才っていうのはもっとすごい人だと思う。
例えば……サムエル、とか?
「言いたいことはありますけど……気にしないことにしましょうか。他にありますか?」
「ないわ! 次はあなたが話す番よ、ユミ!」
「分かっていますよ。やっぱり儀式のことでしょうかね」
「儀式? なにかする予定でもあるのかしら」
「ええ、1週間後に」
「どんな儀式を?」
「大聖女ミアの……」
「嘘よね!? まさか女神様に会いに行くというの!?」
「はい」
「そんなことしたら、あなた……」
「大丈夫ですよ。覚悟はあります」
「そういう話ではないわ! ……わたくしの方が年上よ! ここは寿命が短いと思われるわたくしの方が適任ではないの?」
「儀式に使う神器ですが……もう私にあった形に変わっています」
「それがどうしたの!? ならわたくしに合うようにすればいいわ!」
「もう、修正できる箇所はありません」
「だけど……!?」
「いいですか、リオン。私はこに世界に感謝しているんですよ。召喚してくれて……不思議を見せてくれて……心配してくれている人もいて……だから、この世界に恩返しをしたいんです。これは譲れません」
「そう……分かったわ」
「心配してくれてありがとう、リオン」
「気にしなくていいことよ。……ユミ」
「何?」
「あなた、儀式までに何をするつもりなの?」
「確か……街を観光したり、狩りに言ったり、王国の神殿によったりするつもりですね」
「狩り!?」
「そうですよ、魔法使いは剣士と組んで狩りをすることもあるって聞いたから興味を持ってしまいました」
「それは仕方のないことね、わたくしも興味を持ってしまったわ」
「同意者が現れてくれて嬉しいです」
「それは良かったわ。あとは、王国の神殿に行くのだったわよね?」
「はい」
「転移で?」
「そうなりましね」
「わたくしもついて行っていいかしら? あ、もちろん、自分の転移は自分でするわ!」
「それはいいですね、ツンデレさんを可愛がりましょうか?」
「さすがユミね! 良く分かっているじゃない!」
うんうん、さすがリオン、良く分かっている。
「楽しみね」
「そうですね」
それからも、私たちはひとしきり語り合っていたのだ。
……特に、リオンは私の帝国の話がお気に入りのようだ。聖水についていろいろバレてしまった……
まあちょうどいいから、儀式がうまくいったら聖水はリオンにあげると約束した。
リオンならちゃんと正しく使ってくれるだろう。
こちらでいただいた昼食も夕食も、非常においしかった。
39.首都観光
「それじゃあベノン、カミラ、セスタ、エリーゼ、行こうか」
今回は儀式前ということもあって少し多めの人数で来てもらった。ちなみにカンゲはお留守番だ。明日からの狩りのために休憩してもらっている。
ベノンは……忙しくなるけど、実力も確かだし仕方がない。
そう思い込むことにした。
「ですね」
「まずはどこに行こうかな……?」
「確か首都には今評判のいい占い師や、手品師とかもいるそうですよ」
さり気なくベノンから補助が入った。
「そうだね……面白そうだし行ってみようか」
「まずはどちらからで?」
「占い師の方がやってもらうまでに時間がかかりそうだからね、そっちから行こうかな」
「分かりました。では頑張って探しましょうか」
「探す?」
店の場所が分からないってこと? ベノンらしくないミスだ。
そんな事を考えたが、
「はい一グループ占うごとに場所を移動するそうです」
実際はこうだったようだ。
これはよくファンタジーでありそうな展開!
……実際こういうのがあるのは、偶然エンカウントしてしまう、って感じだけど。
それでも楽しみ!
「どんなところにいるのかな?」
「そうですね……普段は路地などの|小路《こみち》にいるようですが……」
「小路かぁ」
探すの大変そう。
「探しますか?」
「うーん……」
迷うところだなぁ。
こういうやつって探そうと思って見つけられるのかなぁ?
しかし、周りを見てみると、キョロキョロしている人が多いような気もする。
……全員が全員占い師を探しているとは限らないけど
「ちょっと待って」
もしかして……っと思って、私は魔力を広げてみる。
昔よりは5%ほど増えた気がする魔力。
多分、その占い師が使っているのは転移、ってことなのかな?
いや、転移だったら聖女と悪魔にしか使えないし……
……じゃあどういうこと?
「あのさ、占い師ってどうやって移動しているの?」
「そうですね……話によると消えるそうですから……透明になったり転移したりというのが可能性の一つですね」
透明になる、かぁ。
たしかに転移よりは現実的だ。
多分、透明になるためには魔力か魔法具を使うよね? そんな魔法具があるのかは知らないけど。
それだったら魔力が詰まったもので、動いているものを探ることにしよう。
方針は決まった。
「ちょっと探ってみる。時間はかかるかもしれないけど……いいよね?」
「構いませんよ」
「はい」
許可も貰ったことだし、集中する。
10分くらい経っただろうか。
急に、大きい魔力の反応が現れた。
これかな?
「動いていい?」
「はい」
それに近づきながら歩く。
その反応は、なおも大きい魔力をまとったまま動き続けている。
不意に、その反応が止まって、消えた。
あと10mくらい先、そこの小路だ。
急いで走って、そこまで行く。
「やあ、いらっしゃい」
そう、声を掛けられた。
この人が占い師化はともかく、何かをやっている人のようだ。
「あなたがあの占い師ですか?」
「あの……分からない……けど……私、占い師」
「教えてくれてありがとう。実は、占いをしてもらいたいのだけど」
「何人……?」
「そうだなぁ、私、エリーゼ、と護衛全体についてで三回かな」
単位は人じゃなくて回になったけど……
「分かった……最初……?」
「エリーゼ、行く?」
「そんな。ユミ様から行くべきです!」
「んー。私は他の人でどんな占いなのか知ってからやりたい」
こう言えばどうなるだろう?
「分かりました。ではお願いします」
「うん……何について……?」
「未来についてでお願いします」
「うん……あなた……未来……」
いつの間にか机に置かれていた水晶が光っていて綺麗だ。
「少しあと、悲しくなる」
「成功するということでしょうかね……」
「けど……笑顔、生まれる、いいこと、きっとある」
「そうなんですか?」
「悲しみ、忘れない、きっと、つながる」
「なるほど……ありがとうございます」
「うん……次……」
「ベンノ、カミラ、セスタ、行ってらっしゃい」
「はい」
「何、占う?」
「俺たちの隊の未来を占ってほしい」
「うん……隊……未来……」
また、水晶が光りだす。
「さっきと、いっしょ。悪いこと、起こる、けど、2回、そこ、違う」
「2回……」
「けど、いいこと、ある。新たな主、現れる」
「……」
「女の人、忘れない、そして、自分の国、戻る。いいこと、ある」
「なるほどな……ありがとう」
そして、それを見ていた私は……
とても、とても、驚いていた。
すぐ後に悲しいこと……これは……本物かもしれない。
「次……」
「あ、私です」
「何、占う?」
「未来でお願いします」
まあ一週間しかないけど。
「あなた……未来……」
また、水晶が光りだす。
「みんな、悲しい、あなた、晴れやか」
儀式のことかな?
「ごめん、その先、白い」
多分死んでいるからね……
「だけど、その後、嬉しいこと、おこる、気がする」
「え?」
「出会い、3度、ある、そのまま、いい」
「そう……どういうことかは分からないけれど……そうなったら分かるよね。教えてくれてありがとう。いくら?」
「ん」
看板を指差された。
「分かった……はい」
「ありがとう……あなたたち、面白かった」
「それは良かった」
小路から離れる。
「面白かったね」
「そうですね。儀式のことが分かっているような……」
「そうですね、信じてもいいかもしれません」
私たちは、みな満足だった。
その後、昼食を食べた。
手品を見た。
そして、ぶらぶら歩いた。
美味しそうなものを見つけたら買って……の繰り返し。
満足した1日を遅れたと思う。
「明日は狩りだし……早く寝よう……」
おやすみなさい。
40.狩り初日
「ユミ様、準備は出来ましたか?」
「うん、オッケー」
そして、馬車に向かう。今日はエリーゼはお留守番だ。
つまり、馬車に乗るのは私一人……
「ごめんね、一人だけ」
申し訳なく思うのも致し方ないことだろう。
まあみんなは優しいから、
「気にしないでください」
なんて言ってくれるんだけど。
30分くらい馬車に揺られたかな。ようやく森についた。
「この森は初心者がよく行く森でして、強くない魔物が多いです。慣れるまではここでやるのがいいと思います」
ベノンが説明する。
納得の出来る内容だった。けど、
「私、何回か魔物を討伐したことがあると思うんだけど……」
「それは理解していますが……守る立場からすると心配なんですよ」
「そう……分かった。慣れたらまた上に連れて行ってくれるんだね?」
「はい、もちろんです」
ベノンは護衛のうちの3人を馬車の方に置いていって、私と一緒に歩いていく。
魔物は時々出るんだけど……
「はっ!」
と、ベノンが一閃で倒してしまう。
始めの頃ははお手本を見せてくれているのかな、と思っていたが、6回目ぐらいになると、そうじゃないように思えてきた。
「ベノン」
「はい、何でしょうか?」
「なんで手を出すの?」
「ユミ様に傷をつけられる訳にはいきませんからね」
「私は狩りをしたいの! 邪魔するなら馬車の方に行ってもらうよ?」
たまには強く言わないとね。
「それは……はい、分かりました、気をつけます……」
その後は落ち着いた。少しだけ。
だけど魔物を見るたびに剣を掴んではプルプル震えている。
「ベノン、戻っていいよ……」
申し訳ないけど、あまり集中できない。
「そんな‥…」
ベノンは大人しく帰った。
そして、他の人もこれを見たからか手を出してくることはなかった。
……申し訳ないことした、とはちゃんと思ってる。
「風ーー刃となれ」
「火ーー弾になれ」
「水ーー刃となれ」
思ったよりも魔物は弱かった。いや、魔法が強かった。
まだ昼にもなっていないけど、慣れてきたように感じる。
「カンゲ、次のところに行っても問題ないと思う?」
「はい」
「じゃあ次のところに行きたい」
そういうわけで私たちは移動した。
今度は大きい森だ。
手前の方にはそこまで強い魔物はおらず、奥に行くごとに強い魔物に会いやすくなる、そんな森らしい。
「ベノン、一度でも許可なしに剣を抜きかけたら返すけど……それでも来る気はある?」
「はい……チャンスを下さりありがとうございます」
「それじゃあ行こう」
森に入る。
はじめの方から前回の森では見たことのない魔物が出てきた。
「風ーー刃となれ」
「水ーー刃となれ」
この2つがとても便利だ。
そして、どちらも効かなければ、
「火ーー弾になれ」
を使用する。
このパターンで全部戦闘が終わる。
「あと10体倒したらちょっと奥に行ってもいい?」
「いいですよ」
「ありがとう」
「風ーー刃となれ」
そして、十体を倒し終えた私は、次……奥へと進む。
「そこら辺です」
ベノンから声がかかった。
多分。ここらへんまでこれば強い魔物が出るようになるのだろうな。
しかし……
「ホーンラビット……」
「ゴブリン3匹……」
「オーク3体……」
出てくるものの中には当たり前だが強いものも弱い物もいるが、もうちょっと難易度の高いやつが欲しいなぁ。
そう考えながら続けること30分。
先程よりは奥に進んだ私たちの前にそれは現れた。
「こんにちは」
声をかけてくれたのはあっちの方だった。
リーダーらしき人に話し返す。
「こんにちは、狩人の方ですか?」
「そうだ。これから洞窟に住み着いているスーザンという魔物を倒しに行くんだ。そっちは何だ? 初めて見る顔だし、教育も受けているようだが……もしかしてお偉いさんか? もしこの口調が駄目だったのならすまねえな」
「いえ、大丈夫です。それにしてもスーザンとはどんな魔物なのですか? よかったら参加してみたいのですが……」
「スーザン? スーザンは足が速い魔物さ。猫が大きくなったような感じだ。魔法を操ってくるし、木を移ることができるから厄介な魔物だ。……で、あんた、同行したいって?」
「はい」
「しかしそいつは無理だと思うぞ? 俺らは泊まりがけだからな」
他は……何故か護衛と盛り上がっている。何を話しているんだろうな?
あとで聞いたみたい……
「それでも構いません、いいでしょ、ベノン?」
「いえ、立場としてお認めするわけにはいきませんが……?」
「いいーでーしょー? 多分最後のお願いだから」
「はい……」
「ん? 最後? 病気にでもかかっているのか?」
あ、誤魔化さなきゃ。
「いえ、彼らが新天地に向かうのですよ」
「そうなのか、それはめでたい」
「ありがとうございます」
良かった。誤魔化されてくれた。
「じゃあ一緒に行かせてもらうということでいいですね?」
「ああ、分かった。いいぜ。俺はゲン、剣士だ。よろしくな」
「私はユミです。よろしくお願いします。魔法師です」
「その年でですか? 凄いですね……失礼しました、私は弓士のサクトと言います、よろしくお願いします」
礼儀が正しい人だ。
冒険者……じゃない、狩人にもそんな人がいるんだ。
「私は槍士のハミエだ、よろしくな、ユミ」
男勝りな女の人が出てきた。強そう……
「私はレン、魔法師です」
「レン、よろしく。私と被っちゃったけど……何属性?」
「風と土です」
「分かった、その他の属性は私が使うね」
「……使えるんですか?」
「うん」
「凄いですね!」
今までのレンの印象は物静か、だったけどイメージが変わった。
「ベノン」
「分かりました。私がベノンです。剣士です。彼はカンゲ、カミラ、……」
説明は続いた。
「全員は覚える必要がありませんよ、護衛さん。と呼べば誰かが返事してくれるでしょう」
「そうか……助かった」
まあ私も覚えるの時間かかったし。
「じゃあもう少し歩こうぜ、そしたら目標にしていた野営地点だ」
「あのー、ゲンさん」
「何だ?」
「そこは私たちも入りますか?」
「多分入るぞ」
「それは良かったです」
一安心だ。
私たちは……いや、ゲンたちがほとんどの魔物を倒しながら、私たちは当初の目的地点(ゲンたちの)だった野営地についた。
「ここで野営をしようと思う」
「分かりました、色々ありがとうございます、ゲン」
「こちらも助けてもらえるってんなら助かるぜ」
私とゲンが話していたところに、ベノンがやってきた。
「ユミ様……」
「何?」
「お願いがありまして……ユミ様は神殿で寝ていただけないでしょうか?」
「転移で? 嫌だよ。野宿って面白そうじゃん。それに。使ったら私が誰か分かられちゃうし、そのせいで参加させてもらえなかった嫌だし、転移で魔力を使って戦闘のときに使えなかったら意味ないじゃん」
少し考えただけでいろいろ理由が出てきた。
きっともっと考えたらもっと出てくるだろうな。
それなら断って正解だ。
「ですが……」
うーん、なんて言えば効くかな?
「あのね、私はあなた達自身も、あなた達の腕も信用している、明日は、もともと4人で行く予定に私が入ったんだから大丈夫。
心配してくれるなら、夜間の警備をしっかりしてね?」
私は、多分ベノン達には「信頼」ということが効くと考えた。
嘘は言っていない。ちょっと誇張したかもしれないけど。
「……分かりました。では、報告に行ってまいります」
うん、上手く行った。
だけど……こんな私は、はたから見れば嘘つきと似たような部類……なんて言えばいいんだろう?
「ありがとう」
そうお礼を言って、はたと思いついた。
そうか、ライトノベルに出てくるざまあ系でざまあされる側みたいなのかもしれない。