どうやら私、山名結海(ゆみ)は佐藤結海(ゆうな)と共に異世界召喚されたようだ。結海はいじめっ子。名前のせいで、そうなった。
召喚された理由は聖女が不足したうえに、働くのに危険があるからと聖女が働かなくなったから。……そっちの勝手だよね? 私、関係ないよね?
佐藤さんは持ち前のコミュ力で王室に気に入られ、私は神殿で働く。
あちらは仕事をしない。私はしている。
明暗はくっきり分かれている。
結局働いちゃっっているのだが、そのついでにこの世界の問題の解決方法を探ることにした。
これは、聖女となった少女ミアが、異世界で奮闘して、みんなを幸せにする物語だ。
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目次
1.ここが……どこ?
「やーまーなさん!」
「……何? 佐藤さん」
「何って酷いなぁ。おしゃべりしに来ただけだよ?」
「分かったから後ろに乗っからないで」
「何で? あたしを乗せられるとか名誉だよ?」
「やめてよ」
それは、いつも通り佐藤さんに絡まれているときのことだった。
突然、白い光が生まれて……
気が付いたら、目の前に豪華な服を着た人後いかつい感じの衛兵のような人がいた。
「「「「「「聖女様、ようこそいらっしゃいました!!」」」」」」
そして、それが土下座のような体制をとっている。
ん? 聖女様?
よくある異世界召喚みたいなやつなのかな?
まさか私がこんなものに巻き込まれるなんて……
「みんな、顔をあげて。あたしはみんなの顔をみたいな」
「「「「ははー!」」」」
佐藤さんの物言いに、みんな顔をあげた。
そして、その瞬間どよめきが走った……気がした。
「二人……ですか?」
「片方が負ぶられているように感じるが……上の方が聖女様なのか?」
その発言が聞こえて、現状を認識する。
そうだった、佐藤さんに乗っかられた状態のまま召喚? されて、今もその状態が続いているんだ。
「佐藤さん、降りて」
「うん!」
さすがにこの人たちの前で我が儘を見せる必要はないとでも思ったのか、すんなり降りてくれた。
「おい、結果は?」
「どちらにも聖属性の反応があります!!」
「なんと……!?」
「お二方とも聖女だというのか?」
「サムエル、よくやってくれた!!」
「嬉しい限りです」
「状況を説明してよ!?」
あーあ、佐藤さんが怒った。
「申し訳ありません、ですが我々も戸惑っていまして……」
「今わかっていることだけでもいいから!」
「……はっ!」
そして、彼らは説明を始めた。
「今、この世界では聖女が不足しておりまして、この度召喚することにしたのです。そしてあらわれたのがあなた方二人です。
そして、先ほど、どちらも聖女様であることが判明しました」
「こいつも?」
「……です」
「あのー……」
「で、聖女が不足しているからあたしに活躍してほしいの?」
「ええ、お二方に、ですが。
今この世界の聖女様は大変危険な目に遭っておりまして……」
「細かいところはどうでもいいから。あたしが聖女としてちょー活躍すればいいんでしょ?」
「そうです」
「あ、さっきからあたしに話しかけているけど、あんた誰?」
どうやら佐藤さんはこの偉い立場にいそうな人たちを下の立場に見たようだ。
私たちが聖女として召喚されたのなら、確かに、あの人たちは下手に出るかもしれない。
だけど、それじゃあこれから先はやっていけないと思う。
そんなことを言っても佐藤さんは受け入れないんだろうな。
そんなことは分かり切っている。
「名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません! 私はこのデカンダ王国の国王でございます」
「わたくしは王妃ですわ」
やっぱり。
あるあるとしては始めに私たちと話しているのが偉い人だよね。
「あたしは佐藤|優海《ゆうな》」
「ユウナ様でございますね」
そして、国王は私の方に顔を向ける。
「私は山名|優海《ゆみ》です」
「ユミ様……名前が似ていらっしゃる。二人同時の召喚ができたのは名前のおかげかもしれませぬな」
間違ってはいない。
私は、名前の漢字が、佐藤さんと同じだから、目を付けられた。
だからこそ絡まれ、だからこそ同時に召喚されてしまったのだろう……引っ付かれたがゆえに。
「あたしの名前のほうがかっこいいっしょ?」
佐藤さんは自慢げに言う。
彼女はそんなことは思っていない。
だからこそ私は絡まれていたんだから。
今は、ただ、私から優位になるためだけに言っている。
なんか……哀れだな。私は絡まれている側だけど。
「いえ、どちらの名前も素晴らしいと存じます」
「……そう」
急に不機嫌になった。
面倒くさい。
本当に彼女は聖女なのだろうか?
私も聖女なのだろうか?
理解できない、分からないことが多すぎだ。
大体、佐藤さんの所為で私たちが呼ばれた理由もまともに聞くことができなかった。
……彼女は、私にとっては疫病神だ。
「どこで仕事をするの?」
山名さんは国王にも気軽に質問している。
「神殿ですか? 余裕があるときは王宮も雇っていたのですが……」
余裕があるとき?
あ、そっか、今聖女は足りないんだったっけ。
なんでだろう?
よくあるのは魔物が多くやってきて、今いる聖女じゃあ対処しきれない、ってところかな?
どうなんだろう?
「え、けど今回山名さんが来たんだよ。彼女は仕事はちゃんとすると思うよ、愛想はないけど。彼女だけで十分じゃないかな?」
「そうでしょうか? 今、聖女の人手不足は深刻で……」
山名さんはどうやら王宮に雇われる方になりたいらしい、
その思考回路はきっと、王宮の方がぜいたくな暮らしが出来そうだとかそんな感じなんだろうな。
「ユミ様、ユミ様は神殿で働いてもいいと考えているのですか?」
「私は構いません」
「あ、そうそう。ユミはね、あたしのことなぜか嫌っているんだよね。だから、あたしとは別のところがいいんじゃないかな?」
「そうですか?」
嫌っているって……それ、あなたの方だよね?
「王様は今子供とかいないの?」
「いますが……? 彼が私の息子ですよ」
そして王子をユウナに紹介する?
「あのさ、あたしが王宮で働いちゃダメ?」
「……構わないよ」
今度は王子を落としいったか。
しかし上手くいきそうな気がする。
「では、ユウナ様は王室専用聖女、ユミ様は神殿で、いろんな方々の役に立つ聖女様で構いませんか?」
「はい」
……どうしてか、こうなった
なんやかんやあり、佐藤さんは国王、王妃、そして王子に気に入られることに成功したようだ。
彼女のように自信満々なほうが聖女らしいから、だから気に入られたのかもしれない。
彼女は王室専属、私は神殿。
明暗ははっきり分かれた。
まあこうなってしまったものは仕方がない、と諦めることにする。
ただ、佐藤さんと離れられたことは、純粋にうれしかったから。
多少面倒ごとを押し付けられようと、佐藤さんに会わなくていいなら、許容範囲内だ。
ゆうな、という名前を私が変に思っているわけではなく、ユウナの性格上、ストレートに読む方が、変にひねった読み方をするよりかっこいい、と思いそうだったので……
気を悪くされたらすみません
2.召喚の理由と魔法
「私が、此度ユミ様の護衛になりました第八隊の隊長、ベノンです」
「私は副団長のカンゲと申します」
「これからよろしくお願いします」
「「はっ!」」
「あなたたちはこの国の事情をちゃんと把握していますか?」
「ある程度は」
「だったら、私たちが召喚された理由も知っている?」
「はい」
「それでは、私たちの召喚の理由を説明してくれますか?」
「分かりました」
彼らが護衛だと公表された時の周りの反応を見るに、彼らは不遇にされている騎士のようだ。
私と同じ。
だから、国王とかは佐藤さんと上手くいくのだろうな。
似ているもん。
まあ、その後の国は滅びるかもしれないけど。これはよくあるストーリーだし。
私はやるべきことをするだけだ。
「実は、聖女様は光魔法を使えるのですが、自身には使えないのです」
「だったら他の人にかけてもらえば問題ないのでは?」
「それも効かないそうです。聖女様はなかなか生まれてきませんので、その存在が分かるとすぐに神殿に引き取られるのです。
そして聖女様の機嫌を損ねないようにと守られて育てられ……」
「傲慢になった、のですか?」
「そこは正直どうでもいいんです。問題は聖女様に治癒が聞かないことを利用した輩が出てくることでございまして……」
「どのように利用するのですか?」
「脅すのです」
「脅す……そしたら甘やかされた聖女は死にたくなくて、相手の言いなりになるかもしれませんね」
「我々の仕える聖女様が聡明な方で嬉しい限りです。その通りでして、今では多数の聖女様があまりいいとは言えない組織にとらわれております」
「だから、私たちに活躍してほしいのですね」
「そうです。……ただ、陛下はあちらの方に期待していそうですけどね」
「それは、私にあなたたちがあてがわれたからですか?」
「そうです。我々はあまり上層部にいい顔はされていないので、嫌われて、難しい課題を押し付けられているのです。
おかげで任務達成率は低く、それを見て、陛下は我々を付けたのでしょう」
そっか、少し希望が見えてきた。
「では、あなたたちには期待しておきます」
「分かってもらえたなら嬉しいです」
私に随分と優秀なものをあてがってくれた陛下には感謝しないとね。
くっくっく
笑いが込み上げてきた。
……ああ、この笑い方の時点でもう異世界に毒されているなぁ。
そんなことを思った。
どうやら、異世界転移というものをとおして、私は少なからず興奮しているようだ。
「ベノン、まず何の仕事をすればいいですか?」
「そうですね……あ、確かやることのリストが作られていると伝えられていました。持ってきます」
「ありがとう」
忘れていたなんて、ベノンは少し抜けているところでもあるのかな?
それを言ったら私を見る目が厳しくなっちゃうから言わないけど。
「持って参りました」
「ありがとう。それでどんなことが書いてありますか?」
「ええっと……孤児院の訪問、病院の訪問、畑の訪問、などが書いてありますね」
「そうですか……けど、その前に聖魔法の使い方が分からないといけませんね」
「あ、そうですね。考えていませんでした」
……。
私も途中まで気づいていなかったから何も言えないや。
「魔法はどのように習得するのですか?」
「まず感知できるようになって、その後に使い方を学び、後は詠唱するだけで使えるようになります」
「ベノンはどれくらいで使えるようになりましたか?」
「あ……私はあまり魔力量が多くなく、質もそこまで高くないので、魔法は使いません」
「そうなんですか? そういう人は多いのでしょうか?」
「多いと思います」
「そうですか」
それは、なんだか残念だな。
ただ、魔法を使えない人で作った隊があるのなら、魔法が使えない人も別に差別されているわけではないのだろうし、問題ないんだろうな。
「誰か私に教えられる人はいるのでしょうか?」
「私の隊にはいません」
「ベノン、あなたが信用できる、魔法の使える人を呼んできてくれませんか? カンゲの信用できる人でも構いません」
「分かりました」
こんなことを話したのが召喚された日の夜のこと。
そしてその次の日である今日。
「ユミ様、彼女が教師をしてくれることになりました」
「エンナと申します」
「彼女は私の幼馴染で、そこまで権力とかは気にしない人物なので信用にたるかと思います。どうでしょうか?」
「構いません。聖魔法も教えることができるのでしょう?」
「もちろんです! 文献で聖魔法の記述をたくさん見てきて、いずれ聖女様に会ってみたいと常々思っていたのです。神殿のガードが固く、今まで会うことは出来ませんでしたが。
私の念願を叶えてくださったのです。いろんなことを教えて差し上げましょう」
なんていうか……研究馬鹿?
信用には足ると思うし、構わないかな。
「これからよろしくお願いします、エンナ……先生?」
先生、が適切だよね?
「誠心誠意頑張ります!」
「聖女様は魔力の感知は出来ますか?」
「できます。あの、聖女様じゃなくてミユでいいですよ?」
魔力感知については昨日ベノンに聞いた後に、少し頑張ってみたんだよね。
体に日本にいるときにはなかった違和感があったからそれを動かしたりしていた。
これが魔力かは確定できないけど、これ以外に特に変わったものは感じられなかったから、これだと思う。
「ではミユ様ですね」
……。
様付けなのは変わらないんだ。
「一度魔力を手に集めてもらっても構いませんか?」
「はい」
「確かに集まっていますね。普通の人はここで戸惑うのですが。
では次の方に行きたいと思いますが、その前に、これに魔力を流してもらって構いませんか?」
「分かりました」
水晶みたいなものに魔力を通す。
「なんと……!?」
水晶が白色に光った。
……と思えば、白、赤、青、緑、水色、この5色が出てきた。
「非常に安定したバランスですね。さすがとしか申せません」
「どういうことですか?」
「白は聖属性、赤は火属性、青は水属性、緑は土属性、水色は風属性、黒は闇属性を示しているのです。黒はありませんが」
「白は聖属性なのに黒は闇属性なんですね」
「闇属性も国は丁重に扱っておりますが、やはり重要になってくるのは聖属性の方なので、闇属性と同列なのは失礼だろう、と聖に変えたそうです。そして、聖属性を使える女だから聖女、と。」
「聖属性を使える男性はいないのですか?」
「おりません。逆に女性で闇属性を使える方もいらっしゃらないのでユミ様にも闇属性はありません。闇属性をもつ男性はいい言い方が思い浮かばなかったので、悪魔、となりました。男は皆悪魔を夢見るんですよ? 面白いでしょう?」
「はい、そうですね」
悪魔をみんなが夢見ている……くっくっく
また笑いが込み上げてしまった。
3.聖魔法の練習
「すみません、笑ってしまって」
「構いませんよ。ユミ様は出来るだけ早く仕事は始めたいのでしょうか? 遅いならどの属性についても魔法を教えたりできますが……均等ですしね、教えがいがありそうです」
へぇ~。私の魔法の属性って結構均等なんだ。
どこで知ったんだろう?
「どちらでもいいですが、仕事は多いので、まずは聖魔法を習得したいです」
「分かりました。まず、怪我を治癒する魔法の呪文を教えましょう。呪文は『光——汝の糧になれ』らしいです。
魔力を怪我した部位に持っていくことによって、補われるようですが……私は使う事が出来ないので分かりません」
ですからはやく試してみてくださいよ!
そんな声が聞こえてきそうだ。
「けが人は今いませんけど……」
「あ、そうですね。ではしばしお待ちを。小刀を持って参ります」
「え? 小刀? 何をやるつもりですか?」
「もちろんユミ様の実験台になるためですよ! こんな機会は滅多にありません!!」
「待ってくださいよ! それなら、一度孤児院か病院にでも行きましょう!?」
思わず声を荒げてしまった。
孤児だったら小さな怪我は放っている可能性が高いから、いい練習になりそう。
「いえいえお構いなく」
「構いますから! ……ベノン、孤児院に連絡を。他の者は先生が何かしないように見張っておいてください」
「「「「はっ!」」」」
「ちょっと!?」
カンゲたちに囲まれて叫んでいる先生がいる。
ふぅ……。これで一安心、かな?
「連絡が取れました。準備が出来てなくてもよければ、来ても構わないそうです」
「ありがとう。先生、孤児院に行きますよ」
「はぁい。仕方ないわね。だけど、私が怪我をした場合は、治癒して頂戴ね? 授業料の代わりよ?」
「授業料はいいんですか?」
「もちろんよ」
研究馬鹿ならそういうものなのかな?
「そうと決まったなら、早速孤児院に行きましょう!!」
となって孤児院に今いる。
「こんにちは~。お邪魔します」
「ええっと?」
「聖女のミアです。今日は急だったのにありがとうございます」
「ミア様!? それは失礼しましたっ!」
「こちらこそ急に失礼しました。事情は聞いていますか?」
「はい。たしか魔法の練習をしたいとは聞きましたが、詳細は……」
「では詳細を説明しますね。実は今聖魔法を習得しようとしているんですけど、怪我を治そうにも怪我をしている人が今いなかったので、孤児たちなら、小さな怪我はそのままにしているんじゃないかなーって思いまして」
「確かに、それならご希望に添えそうです。すみません、準備ができないっといったから来るとは思っておらず、子どもたちにも伝えていないんですけど」
「構いませんよ。そのつもりでしたし」
「では子どもたちのところに行きましょうか」
「「お願いします」」
「みなさん、お客さんですよ」
「おきゃくさん!?」
「だれだれ?」
「偉い人?」
「どうぞ、ミア様」
「はい。みなさんこんにちは。この前この世界に召喚された聖女のミアです。今日は、魔法の練習をここでしたいと考えているんだけど、いいかな? 小さな怪我とかを治す練習をしたいんだけど」
「けがを治してくれるの?」
「わたし、今日こけちゃったんだよね」
「じゃあ最初はジャスミンだな!」
「いいの?」
「いいよな?」
「「「「「「うん!!」」」」」」
てくてく。
一人の女の子がやってきた。紫の髪の毛の女の子だ。
「こんにちは、聖女さま」
「こんにちは、何か怪我したの?」
「うん、ここ」
「膝かぁ。痛かったね」
えーと、確か、「光——汝の糧になれ」だよね?
「光——汝の糧になれ」
そう言って、魔力を怪我に込める。
暖かな印象をもたらす白い光が、手からあふれてきて、傷口を囲み、けがを癒した。
「うわあ! すごいすごい! あっという間にきれいになった!」
「見せて!」
「本当だなぁ」
「俺のこの古い傷もなおるかな?」
「おい、カンダも行ってみたらどうだ?」
「うん! 行ってくるぞ!」
「聖女様、この傷は治りますか?」
火傷……かな?
本人が言っていたように古傷のようだ
「光——汝の糧になれ」
また、白い光が生まれた。
そして、その傷は治った。
「すげぇ……! 聖女様、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
なんだか私も嬉しくなった。
「私も行こう!」
「俺も俺も!」
「わたしもいいですか? せいじょさま」
「いいよ。 光―—汝の糧になれ」
そんな風にどんどん治していった。
途中からは先生の助言も活用して、全体的な治癒もやってみた。
これだと魔力の消費量は多くなるけど、子どもたちについているいろんな傷を治すことができる。
「どうですか、先生?」
「素晴らしいわ!! いいなぁ、私も治癒されてみたい……!!」
魔力もかなり減ってきたので、今日はこれで終わることにした。
「ではミア様、呪文を今からたくさん覚えてくださいね」
笑顔の先生がいた。
そして、私はたくさん呪文を覚えさせられた。
そう、聖魔法だけでなく他のものも……
「ベノン、明日はどうするのがいいと思いますか?」
「そうですね……ミア様はもう病院に行っても問題ないと思いますか?」
「まだ試していない呪文があるのでそれは遠慮したいかもしれません」
「でしたら明日も孤児院でいいのではないでしょうか?」
「明日も?」
でも、今日であらかたの傷を治しちゃったよ?
「今回は民の間にも広めましょう」
「え?」
まさかそんな大ごとになるなんて。
だけど、確かに昨日の調子だと上手くいくかもしれないな。一発目から上手くいくことが出来たし、もしかしたら魔法の才能があるのかもしれない。
この油断が、危ない事態を引き起こさないことを、神様にでも祈っておこうかな。
「一応、治らない可能性があることも伝えてくださいね。あと、病院でも問題ない怪我は、するつもりはない、ということも出来れば伝えていただけるとありがたいです」
「……! 畏まりました」
なぜだろう、ベノンが一瞬驚いた顔をしたような気がした。気のせいだよね?
それにしても、今は夜なのに、その時から明日聖女が神殿に現れるなんてこと、そんなに広まるのかな?
あまりにも少ないと、さすがに悲しいんだけど。
それに、病院に行っても治らなそうなものを持っている人って、そこまで多くないと思うけど……
一体どれぐらい来るのか、明日が楽しみだ。
ちなみに先生が均等なのを知っているのは、水晶の魔力が均等に光っていたからです。
4.聖女様は人気
「ミア様―! 今日も来ましたよ~!1」
せっかく敬語が外れていたのに、今日は先生は敬語のようだ。
このまえは興奮するようなことがあったからなのかな?
出来れば今日も普通に話してほしかった。
まだ、どんな話し方をすればいいのか分からなくて、敬語でずっと喋っちゃっている私が言うのも何だけど。
「先生、今日も孤児院に行く予定なので、準備をよろしくお願いします」
「ん? そのことなら聞いていますよ、ベノンが教えてくれましたから」
なんと!
どうやらベノンは魔法の才はなかったとはいえ、他のことは優秀なようだ。
「そうですか、それでは行きましょう」
「はい! ……ああ、今日は傷だけでなく病気の治癒も見られるかもしれない! なんと幸せなんだろう!!」
先生は何やらぶつぶつ呟いているが、楽しそうなので良しとしよう。
孤児院は、昨日よりも騒がしい様に感じた。
みんな楽しんで遊んでいるのかな?
そんなことを思っていたら裏口から通された。
なんでだろう?
「こんにちは~、連絡しておいた聖女のサナです」
「サナ様ですね、お待ちしておりました。裏口から来てくださったのは助かりました。ありがとうございます」
どういうことだろう?
「あなたは?」
それよりも、今日は孤児院の院長ではないようだ。
「失礼いたしました。私はこの孤児院の一番年上で、エリーゼと申します。といっても、もうすぐ成人するので、ここから離れることになるんですけどね。普段は院長の代わりをしたりしています。以後、お見知りおきを」
「……」
同い年ぐらいにしか見えない。
なのに、もうこんなしっかりとした仕事を任されているの?
すごいなぁ。
……あっ
「エリーゼは孤児院を出た後働く場所は見つかっていますか?」
「いえ。それがどうかしましたか?」
「私の手伝いをする気はありませんか? ベノンにいろんなことを任せきりにしちゃっているので、誰か欲しいなと思っていたんです。もちろんタイミングは成人してからで構いませんから、考えてみてください」
「私に……ですか?」
「そうですよ」
「願ってもいない提案です。院長と話し合ってからになりますが……出来るだけ早くそのご期待に応えられるように頑張ります」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼが仕事を手伝ってくれるなら、本当に助かる。
「あの……」
「ベノン? 何かありますか?」
「ミア様にただいま侍女がおられないので、この者に侍女を任せることは出来ないのでしょうか?」
「侍女? 別にいりませんよ?」
「いえ、これはミア様の問題ではありません! 聖女様に一人の侍女もいないとなれば責められるのはこちらです! どうかお考え下さい」
「エリーゼは? どう思っているのですか?」
「その方が都合がよいのでしたら構いません」
「だったら……不本意ですけど、エリーゼは侍女として雇うことにしましょう。エリーゼ、引き受けてくれてありがとう」
「勿体ないお言葉です」
ほんとにこの子孤児出身?
孤児院だったらなめられることも多いからそれを任されるということは実力は結構あるのかな? とは思っていたけど、ここまですごいなんて……
誰が教育をしたんだろう?
気になるなぁ。
「ミア様、もうすぐ行きませんと」
「あ、そうですね。エリーゼ、案内をお願いしていいですか?」
「はい」
「それにしてもどれくらいの人が来てくれたのでしょうね? そんなに病院で治せない傷なんて少ないと思うんですけど……」
「きっとミア様が想定している10倍以上の人数がいますよ」
「10倍? まさかベノンは200人以上もくると思っているのですか!?」
「はい」
うぅぅ……
なんかぞわぞわする。
この喧噪って、さっきは子どもたちが遊んでいるからだと思ったけど……まさかね。
急いでその考えを振り払う。
が、その想像の通りだった。
「あの水色の髪の子かな? ミア様というのは」
「なんか神々しいなぁ」
「美しい……!」
「まあ、可愛らしい子ね」
「あのおねえちゃんがせいじょさま?」
「多分ね」
うん。どうやらいろいろ言われているようだ。
「ミア様、ここにどうぞ」
そうエリーゼから椅子を貸されたんだけど。
その椅子は、孤児院で一番かそれぐらいに高いものじゃないかな? そんな気がする。
これ、壊したら怒られるよね。
別の椅子が欲しいなぁ、とエリーゼを見るも、早く座ってください、とばかりに待っている。
表情がそこまであるわけでもないのになんでそんなに伝わってくるのかが分からない。
エリーゼは不思議な人物だ。
椅子に関しては諦めて座ることにする。
「このけがをなおしてください」
始めにいたのは女の子だった。
顔には火傷のような怪我がある。
痛そう……
「光——汝の糧になれ」
そうするといつも通り、白い光が現れて傷がきえていく。
「うわぁ! ありがとう、せいじょさま! おかあさん! なおったよ!」
「よかったわね」
「俺は持病があるんだが、治してもらえるか、いや、治してもらえますか?」
「試してみないと分かりませんが。ちなみにどこら辺が悪いかは想像がつきますか?」
「そうだなぁ、ときどき呼吸が苦しくなるんだよな」
呼吸? ということは肺かな?
肺だったらこれも怪我の範疇でいいよね?
「光——汝の糧になれ」
どうだ!
無事、白い光が生まれてくれた。
「ありがとうございます! 治った気がします!」
「それはよかったです」
いいことなんだけどね。
列を見ると、先ほどよりも増えている気がする。
「この傷は病院で治療してもらってくださいね」
「そんなぁ……」
ときどきは、こんな人も現れる。
だけど、概ね上手くいっていると思う。
「はぁ……疲れました……」
魔力の限界が来たので、今日はこれにて終わることにする。
一体何人に聖魔法を使ったのかは、数えたくない。
「私は満足いくまで見れました!! ……病気はなかなか見れなかったけど」
「聖女の力とはすばらしいものなのですね」
どうやらエリーゼも先生の仲間入りを果たしたようだ。
誰か私の見方になってくれないかなぁ。
「では今日の反省会でも、神殿に戻ってすることにしましょうか?」
「え?」
「もっとうまくできるようにならなくちゃいけませんからね!」
「はい……」
そして、昨日と内容は違えど、同じような悪夢が待っていた。
指摘がちゃんと当たっているから、怒りはぶつけようがない。
「明日は休んでもいいですか?」
「んーまあいいんじゃないですか? 慣れないことをして疲れているでしょうしね」
先生の承諾は無事に得られたことだし、明日は一日中ごろごろして過ごそう。
そう思っていたんだけど、その目論見ははずれ、本を読まされることになってしまった。
本なら別に嫌いじゃないからいいんだけど、これも聖女とか魔法に関係する本だった。
そして、地理に関係する本や、神話に関係する本もおかれた。
一体どれから読めばいいわけ?
このときは本当に困った。
まずは、神話を読んで、魔法の本も手に取ったけど、先生の方が分かりやすかったからあきらめた。
そして、一日は過ぎる。
ちなみに神話は今のところ、物語の進行に関わらない予定です。
(変更する予定もあり)