読み切り短編集
編集者:蒼暮 葉音
シリーズの小説以外の短編はここにまとめておきます。
シリーズに入れるリクエスト、シリーズにするリクエスト以外のリクエストや、自主企画に参加させて頂いた小説もここに入れておきます。
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目次
永遠の成れの果て
「私たちの友情は、永遠だよ!」
その言葉が、私が覚えている一番古い|歌夏《かな》の言葉だった。
いつでも一緒。どこでも一緒。私たちの関係は、そんなものだった。幼稚園ぐらいだったから、特に何もなかった。
小学校に入ると、歌夏はクラスの人気者になった。可愛くて、元気なクラスのお姫様として。
私は、歌夏と仲が良いからっていじめられた。歌夏は、取り巻きの誘いを断ってまで私と遊ぼうとする。私に着いてくる。そして、いつもの言葉を言う。「|凛《りん》、私たちの友情は、永遠だよ!」って。
気がついたときには、もう私の友達なんて、歌夏くらいしかいなかった。歌夏と別々のクラスになったって、わざわざ私のクラスに迎えに来てまで私と一緒に帰ろうとする。裏で、私はいじめられ続ける。
もう嫌だ。なんで、友達がたくさん出来ても私に構うの?
だから、私は中学校を受験した。そして、第二志望だった学校に行くことになった。
やっと、歌夏から解放される。
でも、卒業式があった日、歌夏は私と連絡先を交換すると言った。つかの間の幸せ、そんな感じだった。
中学は、満足いく日々だった。同じ小学校の人も少なく、私にとっては幸せな日々だった。歌夏からメールが届くことがあったけど、中学校が別れてまで私に構う意味が分からなかった。
高校は、中高一貫校だったからそのままエスカレーター式に上がったけど、歌夏が高校受験で私が通う学校に受かった。入学式の日、「高校は一緒だよ!」と言って笑う歌夏を見て、嫌な感情が渦巻いた。
私は、極力歌夏と関わらないようにした。でも、歌夏は私に構い続けた。かつてのようにいじめられ、友達も離れていった。
もう、疲れた。歌夏が嫌だ。嫌いだ。
家の机に突っ伏せる。顔を上げると、ペン立てにペンに混じってカッターを見つけた。
衝動的にカッターを手に取る。カッターの銀色の刃に、机の照明の光がギラリと反射した。
---
凛は、幼稚園で同じクラスになってから興味を持った。
それまで、私はお姫様みたいに扱われることが当たり前だった。可愛くて、元気な女の子として。でも、凛は、私を普通に扱った。周りの皆は特に何も言ってこなかったから、私は凛とずっと一緒にいた。
小学校に上がってから、凛はいじめられた。「お姫様」の私と馴れ馴れしくて、仲が良いからって。
なんで?凛は、私の友達だよ。凛をいじめないであげてよ。
そう言っても、影でいじめが続いていることに気がついた。なんで?私の友達なのに。
凛は私を遠ざけるような気がしてきていた。だから、ことあるごとに言った。「私たちの友情は、永遠だよ!」って。
凛が中学校を受験すると知ったとき、怖くなった。私は、ただ凛と仲良くしたかったのに。凛はそのまま、私とは別の中学に上がることになった。凛との繋がりを無くしたくなかった私は、凛と連絡先を交換した。
高校受験は頑張って、凛と同じ高校に上がった。凛と、ずっと一緒。それが良かった。
高校でも、凛はいじめられていた。そして、私はお姫様。おかしい、こんなの。私は、ただ凛と仲良くしたかっただけ。
ある朝携帯を見ると、「悩み事が無くなる薬、いりませんか?」というメールが届いていた。電話番号を確認して、携帯のボタンを押す。
「……もしもし」
「あの……悩み事が無くなる薬がもらえる、と見たんですけど……」
---
「おはよう、凛!」
「おはよう、歌夏」
「あれ?凛、その手首の包帯、どうしたの?怪我?」
「あ~……ちょっと、ね。歌夏こそ、テンション高いけどどうしたの?」
「ん~……なんとなく、ね。あ、ねぇねぇ凛、
私たちの友情は、永遠だからね?」
解説(?)です。
凛は、歌夏や他の人々との関係にストレスが溜まり、リスカを。歌夏は、人間関係がうまく行かないことによるストレスで、薬物乱用を。
うまく行かない人間関係を書きました。バッドエンド、なのでしょうか?
彗星の光るとき、
『え~、続いてのニュースです。7月12日、日本全体で大規模な流星群が見られるそうです。この日は一日中晴れているようなので、とても綺麗に見られそうです』
『わぁ、流星群ですか。是非見てみたいものですね』
『そうですね。さらに、この日の21時頃には、何と彗星を見ることが出来るようです』
『それも、大層見映えが良いのですかね』
『楽しみですね。では、続いてのニュースです──』
---
7月9日。
担任の声を聞きながら、私は窓の外を見ていた。
「そういえば、今日の3日後、流星群や彗星が見られるそうです。その日は終業式の日ですので、皆さんも是非見てみてくださいね」
今朝のニュースで聞いた話だ。3日後、私が見ているこの窓の外の景色も、流星群で染まるという。信じられない話だ。
|朝比奈光《あさひなひかり》、高校2年生。
生まれてこの方、田舎なこの町を出たことがない。星は綺麗だけど、星の光より街の明かりを見たかった。
流星群。ニュースでは、日本全体で見れると言っていた。日本中で綺麗な星が見られて、しかも都会の方が便利。不平等な話だ。
そうして、授業が始まる。
授業なんて退屈だ。ただ教師の話通りにノートを取るだけ。テストもそれでなんとかなる。
というより、学校自体が退屈だ。誰も私には目もくれないし、誰ひとり私に話かけようとしない。おかげで、退屈で退屈で仕方が無い。教師だって、私を特別褒めようとはしない。だから、学校なんて行かなくても良いんじゃないかと思ってる。
……はぁ、今日も明日も、その先もずっと、私は退屈を感じるのだろうか。でも、少なくとも、今日の私は、退屈でしょうがない。昨日も一昨日もそうだったけど。
---
学校からの帰り道。
学校なんて行かなくても良いと思うけど、唯一行く理由はある。
中学の頃、私に告白してきた男子がいた。別に彼氏なんてものがいるわけではないから付き合うことになったけど、彼──|卯月琉斗《うづきりゅうと》は、別の学校に上がった。琉斗はやたらと私を心配する。私が学校に行かなかった高校1年の最後の頃なんて、毎日のように家に来ては親と何か話していた。
琉斗とは、毎日下校した後に会うようになっている。私が学校に行っているか、制服を着ているかで確かめるとか。そんなに心配されないと生きていけない人間じゃないよ、私。
「……お、光!よっ!」
噂をすれば影が差す。琉斗がやって来た。
「聞いたか?12日に流星群が見れるって、めちゃくちゃ話題なんだ。よかったら、一緒に見てみないか?」
「良いよ。でも、どこで見んの?」
「ん~……俺の家で見ないか?マンションだから高いし、眺めも良い方だと思うし」
「……まぁ、良いんじゃない?」
「オッケー!12日に俺の家集合な!」
琉斗とは、そんなことだけ話して解散する。向こうだって、この後に色々あるらしいから。
無理してるんなら、この集まり自体辞めれば良いのにって思う。でも、前に琉斗にそう言ったら、『光のことを心配してるからやってるんだよ』って言われた。
だから、私は、学校に嫌でも行かないといけない。
……言い訳かもしれないけど。
---
琉斗と分かれた帰り道、緩やかな下り坂を歩く。
今日は、帰ったら何をしよう。ゲームはやり込めて楽しい。読書は本の世界観に引き込まれて夢中になれる。何をしよう。
「……おい、朝比奈光」
まぁ、まずは課題からかな。その後は──。
「……聞いているのか?おい、朝比奈光」
……何?さっきから聞こえるこの声。
「何ですか?私に何の用が──」
振り向いたとたんに目が合ったのは、すごく顔の整った、けれどものすごく不機嫌そうな表情の、私と同い年くらいの男子だった。
「……何だよ」
「……そっちこそ、何の用が──」
「まぁ良い」
そう言って、男子は私の手を掴んだ。
「俺の手を離すなよ」
「え──」
そしたら、急に目の前の田舎の下り坂が消えて、真っ白な空間に変わった。
---
「おし、無事に着いたな」
男子はそう言うと、私の手を離した。
「な、何ですか?警察に言いますよ!?」
「……警察?ここは《現実》じゃないから、警察なんて来ないぞ」
現実じゃない……?どういうことなんだろう。
「……おい、出て来ていいぞ」
男子がそう言ったら、何もなかったところに突然女の子が現れた。
「……出て来ていいって言われてもさぁ、せっかく連れて来た子に失礼だよ?」
「……良いだろ、別にさ」
「……もう」
女の子は男子とそう言い合った後、私に向き直った。
「まず自己紹介するね!私はチェリナ。よろしくね、朝比奈光ちゃん!で、あれはヴィオン。私の相棒。ほら、ヴィオン。あいさつして」
「……ヴィオンだ。よろしくな」
「あ、よろしくお願いします……?」
チェリナさんとヴィオンさん……。ヴィオンさんはともかく、チェリナさんは悪人に見えない。私をどうするつもりなんだろう……?
「……でね、急だけど、光ちゃんに頼みたいことがあるの」
「は、はい、何ですか?」
「……えっと、まず、そっちの……貴女の生きてる現実の世界の日本で、えっと……3日後に彗星や流星群が見れるって話、聞いた?」
「え……はい、聞きましたけど……?」
何でその話なんだろう。少し拍子抜けだ。
「えっとね、まず、驚かないで聞いて欲しいんだけど……
私たちはね、未来から来たの」
「……え?」
---
「え、それは、どういう……」
「そのまんま。俺らは、お前の生きてる時代より未来の時代から来た」
動揺してしまう。信じられない。
「……でね、私たちの未来では、貴女の生きてる日本は、今から3日後に落ちた彗星で滅んだって話なの」
「嘘……?それじゃあ、私は……」
「……残念な話だけど、私たちの未来では、貴女は死んでいることになるわ」
死んで……?嘘……、……本当に?
「……私たちの時代では、『日本』があった土地は周りの国で分けられていて、日本人は帰る故郷が無くなった。私は、その日本人の子孫になるわ」
「……俺は日本人の血は何分の一か流れている。もう、日本人の血純血の『日本人』はチェリナぐらいだ」
信じられない話だけど、反論出来ない。どこかリアルさのある話だ。
でも、私にそんなことを話して、何を頼みたいんだろう。
「……私たちが光ちゃんに頼みたいのは、日本を救うことなの」
……は?何で?何で私に?
「まぁまぁ、まず、話を聞いて?」
「……私たちの時代では、人間は血統によって色々な超能力を持つことが出来るようになっているの。でも、人間の血の中で最も超能力に適合しているのが、日本人の血だった。
それでね、私たちみたいに時間を移動して、日本人を捕まえる人もいるくらいなの。……でね、私たちは、この時代の日本人の誰かに超能力を宿してもらって、その人に協力してもらって彗星の軌道を変えるなり、彗星を破壊するなりしようって思って、協力してくれそうな人の中で血統に問題のない人を探したら、光ちゃんが一番良いかなぁ、ってことになったの!」
「……だからお願いっ!日本の未来のために、私たちに協力してっ!」
「え、えっと……もし私が協力しなかったら、日本は滅亡するんですか?」
「滅亡すると思うぞ。お前もろとも、な」
……責任が重すぎる。しかも、超能力だなんて……。
……でも………。
「…………私、協力します。ですが、失敗しても、責任は押し付けないでください」
「……りょーかい。協力だから、責任なんて押し付けないよ」
---
「……それで、私はどんな超能力を貰えるんですか?」
超能力は、普通に気になってしまう。ヴィオンさんが現実の世界からこの空間に一瞬で移動したことや、チェリナさんが一瞬で現れたから、使ってみるのが楽しみだ。
「ん~……まず、|浮遊《サイコキネシス》は確定でしょ?あとは……」
「|魔法《エスパー》もあった方が良いんじゃないか?他には……|弾幕《ボム》とかか?」
「|空間移動《テレポーテーション》は?あ、後、|予知《プリディア》もいるかな?」
「空間移動はともかく、予知は良いだろ」
「……そうだね!じゃあ、浮遊、魔法、空間移動で良いかな?」
「あの……、超能力って、いくつも使うんですか?」
さっきから、色んな名前が出て来る。名前でなんとなく分かるものもあるけど、いくつも使うんなら、私、ばれたときが面倒な気がする。
「そうだよー。私たちだっていくつか持っているからねー」
「はぁ……例えば?」
「んと、私は浮遊、空間移動、|時間移動《タイムスリップ》、|透過《パーメリア》かな。ヴィオンは?」
「……浮遊、弾幕、空間移動、時間移動、|読心《テレパシー》」
「あ~、そうだったんだ。でね、貴女は、貴女自身にかかる負荷を最小限にするために、3つくらいまでなら超能力を持てるわ」
「は、はぁ……」
いよいよ本格的になった話に、少しわくわくしてしまう。
「じゃあ、超能力を持たせるから、目を閉じて?」
言われた通りに目を閉じる。
すぐに、意識を失った。
---
──目が覚めると、身体に違和感を感じた。
何だろう?浮いているような…………
…………浮いて、る?
「おっ、気がついた?」
そう言うチェリナさんの声ではっきり気がついた。私、『浮遊』で浮いているんだ。
「あぁ、使いこなすまでは浮いておけ。その間に他の能力を使ってみろ」
「……ヴィオン、流石に駄目だって……。死にはしないけどさ、怪我はするかもしれないんだよ?」
「お前だって分かってるだろ?時間が無いんだよ。時間移動の応用でこの空間は時間の進み方を操れるけど、そしたらお前自身にかなり強い負荷がかかる。だから、時間を無駄には出来ないんだよ」
「でも……!」
「チェリナさん、良いです。私、頑張ってみます」
「……光ちゃん……」
「私、死にたくはないです。誰にも気づかれなくても、日本を救えるのが私しかいないのなら、私は精一杯、頑張ります」
学校では誰も私に話しかけないけど。特別、生に対する執着なんてこれっぽっちもないけど。
琉斗みたいに、両親みたいに、そして、チェリナさんみたいに。気遣って貰える人が一人でもいるなら、私はその人たちに恩を返したい。
「…………おい、全部聞こえてるぞ?」
「あ~……光ちゃん……」
「あっ……すみません……」
---
かなり時間がかかったけど、なんとか使えるようにはなった。
気をつけないとすぐに『浮遊』しちゃうし、『空間移動』は使いすぎると酔っちゃうし、『魔法』はこの『亜空間』に穴を開けちゃってヴィオンさんにもの凄く怒られたし…………。
「あ~……光ちゃん、大丈夫?」
「うぅ……大丈夫、です……」
……チェリナさんは優しいなぁ。なんて言うか、骨身に染みるよ。
「……だから聞こえてるっての」
「あ~……すいません……」
それに対して、ヴィオンは……こっちを凄い睨んでくるね。やめておこう。
「で、えっと……いつ、《現実》の世界に戻れるんですか?」
私がいたのは、彗星が見られる3日前。……そこに戻るのかな。
「……どうするの?ヴィオン」
「……3日……おし、彗星が落ちる日に移動するぞ」
「え……?何で、ですか?」
「お前に与えた超能力は、本来超能力を持つことが出来ないのに持っているから俺らよりも失われやすいし、能力も劣っている。そして、3日使っていなかったら、能力が殆ど消える可能性がある。だから、能力が消える前に彗星を壊すなり何なりしたほうが良い」
……未来の日本人を連れて来て、協力してもらった方が良かったんじゃない?
「……ま、という訳だから3日後に移動するぞ」
そう言うと、ヴィオンさんは一瞬で消えた。──3日後に移動した。
「……いや~、私の相棒が申し訳ない……。ごめんね……光ちゃん」
「あはは……全然大丈夫ですって。ほら、私たちも行きましょう」
「う~ん……なら良いんだけど……困ったらすぐ言ってね?」
「あはは……ありがとうございます」
---
7月12日。
あの緩やかな坂道は、あの静けさのままだった。
「おし……、先に言っておくが、お前は、3日間学校に行って、あの男の家で流星群と彗星を見ている。二人が遭遇した場合、どちらかが『消える』からな。気をつけろよ」
「は、はい……」
「………よし、じゃあ、行くぞ!」
「りょーかい!」
三人で『浮遊』を使って浮いて、チェリナさんの『透過』の範囲拡大で三人を包み込む。
「私から離れたら、姿が見られるからね!ヴィオンはともかく、光ちゃんは絶対離れないでよ!」
「りょ、了解!」
ヴィオンさんの『弾幕』が、大量に出て……遠く、少しずつ近づいて来る彗星を目掛けて発射された。
「……さぁ、始まりだ!」
---
『弾幕』が彗星に当たっても、私の『|攻撃ノ魔法《アタック・エスパー》』を使っても、彗星が壊れる気配は無い。
「クソッ……何で壊れないんだよ!」
ヴィオンさんがそう言って、さらに『弾幕』の量を増やす。
「ヴィオン!そんなに出したら、ヴィオンにも負荷が掛かるって!」
チェリナさんの制止を聞かずに、ヴィオンさんは空一面の『弾幕』を彗星にぶつける。
彗星は、私が住む田舎町を離れて、都会の方に向かっている。
「くっ……!」
私は『空間移動』で彗星と距離を取ってから、遠距離攻撃の『|閃光魔法《ライト・エスパー》』で彗星に攻撃する。
『閃光魔法』は、ヴィオンさんの亜空間に穴を開けた、コントロール性に目を瞑ればかなり強い魔法だ。
「あっ……!ナイス、光ちゃん!彗星が少し削れたよ!」
「よ、よし……この調子、で……」
ヴィオンさんが、一気に『弾幕』の数を減らして、彗星に当てた。
『弾幕』が当たった彗星は、ボコボコとし始めた。
「……やっぱり。数を減らして威力を上げれば、効果が出てくるな」
それから、ヴィオンさんは『弾幕』で彗星をボコボコ削っていく。私も、『閃光魔法』でじりじり削っていく。
彗星がだんだん小さくなっていって、『攻撃ノ魔法』でもかなりダメージが入るようになった。
「……おらっ!とどめだぁぁーー!!」
ヴィオンさんの特大の『弾幕』が彗星に当たって……彗星が、粉々になった。
---
気がついたら、あの『亜空間』に戻っていた。
「……あ、起きた?」
寝ていた私を、チェリナさんがのぞき込む。
「ほんっと~に、ありがとう!私たちの未来も、日本は滅びていないことになっているみたいだし。本当に、感謝してもしきれないよ……!」
「あ、ありがとうございます……?」
ヴィオンさんは、まだ寝ている。でも、こんなに騒いじゃって大丈夫なのかな……?
「……おい、五月蝿いぞ」
……あ、起きた。
「というより、そろそろ《現実》に戻してやらないか?」
「……あ、そうだね!でも……いつに戻す?」
「……あの日に戻すか?課題とか諸々はやったことにしておいて」
「いいね!じゃあ、能力は……?」
能力……どうするんだろう。
「………一応、残しておくか?だんだん使えなくなるだろうけど、悪用はしないだろうし」
「そうだね。残してあげようか」
チェリナさんは、私に近づいて……抱きしめた。
「本当にありがとう。日本の未来を救ってくれて。………もう、お別れだね」
「え……、もっと、話したかったです」
「ごめんね。でも、記憶は残るから。私たちは、いつでも思い出せるよ。……いつか、また遊びにくるね!」
「………さようなら、チェリナさん、ヴィオンさん!」
「……ばいばい。さようなら!」
「……じゃあな……バイバイ」
「……………さようなら……」
私の意識は、また途切れた。
---
………五月蝿い。いつものアラーム音だ。
「………う~ん……」
………えっと……今日は、終業式だ。
「……あ、早く学校行かないと」
不思議な夢を見た気がした。未来から来たっていう二人の超能力者が、私に超能力を与えて、日本を救った夢。
彗星を壊していたけど、正夢になったりしないよなぁ。今日、彗星が見られるらしいし。
彗星……、綺麗なのかな。琉斗と見る約束をしているけど。楽しみだな。
琉斗の家のベランダからは、ぽつぽつと見える街灯や電柱に、時々人が見えるだけだった。
──……けど。
最初の流れ星に続いて、幾つもの流れ星が降ってくる。
流れ星が、流星群が、あの大空を覆う。
「うわぁ……!」
「おおっ……!」
そして……、その中で、一際大きな光が伸びる。
地平線の向こうまで伸びそうな、青色に、紫色に、金色に輝く彗星。
彗星の周りに小さく見える……星?……も、凄く綺麗。
ふと、都会では、こんなに綺麗に星が見えないんだなって思った。
……田舎、だから……。
初めて、田舎で良かったって思えたかもしれない。
ゆっくりと、輝きを増しながら、彗星たちが空を横切った。
制作期間二カ月掛かった読み切り作品です。
けっこう長くなりました。
4月1日、ひとつの嘘
今日は4月1日、エイプリルフールらしい。
学校は春休み、嘘をつく相手もいない。
そんな日に、元クラスメイトに呼び出された。
メールで『今日遊べる?』と来て、『遊べる』と返して。
久々に外に出て、少し桜を楽しんだりして。
そうして着いた、待ち合わせ場所の公園。
「よっ、待ったか?」
「別に、今来たところ」
その後、しばらく続く沈黙。
「……あのさ」
「……何?」
「その……好き、付き合って」
少し目を逸らしながらそう言われた。
「え、え、っと……」
驚いて、自分も少し目を逸らしてしまう。
嬉しい。けど、返事は少し迷う。
「……なんてね」
……え?
「ごめん、嘘。エイプリルフールだから、ちょっと嘘ついてみたくなっちゃって」
「……酷くない?それ」
「ごめんって。ほら、それよりさ、桜綺麗だからお花見しよっか!」
「え?だから……」
結局、その後は二人でお花見して帰った。
でも、自分に恋人なんて早いと思うし、これで良かったなって思う。
……告白の嘘をついても良い相手って思われていたことの方がショックだけど。
---
「じゃあ、また進級式!」
そう言って解散した。
相手が見えなくなるまで見送って、見えなくなったら、少し溜め息をついた。
「……あ~あ」
今日呼び出したのは、告白するため。でも、いざ言った後に怖くなった。だから、エイプリルフールだってことを思い出して、それを使った。
本当、臆病で申し訳ない。
……でも、来年は、もう1回、告白するんだ。
嘘じゃない告白を。もう一度、来年の今日、ここで。
二人で桜を見ながら、色んなことを話した今日のことを、思い出しながら。
もう1回言うんだ。「付き合って」って。
吹いた風に舞う桜に、寄り添い合う一組の恋人たちの姿を思い描きながら、公園を出た。
夢色何色?
主の誕生日記念の短編です。
今を生きる人たちの、夢の世界のお話。
透明で透き通った、僕の『夢の世界』。
まだ、何の色も纏わない。
これから、何色を塗っていこうかな?
青色にしようかな。凄く綺麗な色をしているし。
でも、赤色も良いなぁ。情熱!って感じが憧れるもん。
う~ん、でも、黒もかっこいいな。闇とか、ダークヒーローって感じがめちゃくちゃかっこよさそうだしなぁ。
あ、でも、白も良いかもなぁ。黒の対で、正義のヒーロー!っていうのには憧れるしなぁ……。
あと、恋するピンク色も可愛くて良いかも。僕も、あま~い恋愛とかしてみたいし、パステルピンクの世界は凄く……青色の世界と同じくらい綺麗らしいし。
あ~、結局何色にしようかなぁ。
どの色も良くて、決められないなぁ。
---
夜景みたいな、私の青色の『夢の世界』。
私からみても、凄く綺麗。……でも、私はこの色はそんなに好きじゃない。
私のこの青色は、自分の内側を必死で隠すために上塗りをした、偽物の色。
皆綺麗だって言う。羨ましいって言う。
でも、内側は乾ききった、醜く見える色。
………いっそ、青色を上塗りせずに、黒に染まっていた方が楽だったのかもしれない。
あ~あ、私の反対の赤色や、潔白な白が羨ましい。
恋して、可愛い色で、綺麗な世界なピンク色が羨ましい。
……もう一度、透明に戻れたらなぁ。
---
辺り一面真っ赤な、あたしの『夢の世界』。
赤色は、何の色だと思う?これを見てる人間さんたち。
情熱?熱血?明るい?
あはは、馬鹿みたい。そんな綺麗な話な訳ないでしょ?
赤色はね、血の色。あたしの現実世界の行動が、『夢の世界』にまで影響したんだって。
………え?何してるんだ、って?
さぁね?誰かは分かるんじゃない?
………まぁ、『夢の世界』くらいは、リアルと反対の世界がよかったな。
青色。羨ましいな。綺麗。
黒。赤よりも黒の方が好きだよ、あたし。いいなぁ。
白。潔白の色。あんな人になりたい。
ピンク。恋かぁ。……まぁ、いっか。
でも、なれるなら透明だった頃に戻りたいな。
あの頃のあたしを、変えられれば……。
---
光一つ見えない、真っ黒な俺の『夢の世界』。
たまに、黒がかっこいいとか、あんな夢の色が良いとか言ってる奴らがいるけど、これだけは言っておく。黒が何の色か分かってんのか?
救い一つ貰えなくて、諦めた奴の夢が黒くなるんだよ。真っ暗な夢にさ。
過去も真っ暗。お先も真っ暗。人生真っ暗。って訳さ。
赤色の奴が『黒が羨ましい』なんて言うけどさ、俺もお前が羨ましいよ。自傷する程度で済む環境に生まれて。
あ~あ。白の奴、羨ましい限りだよ。ひと目見ただけで潔白を見せつけられるような色でさ。
あ~でも、青色も憧れるな。綺麗な夢の世界でさ。俺なんて綺麗かどうかも分からないのに。
……あと、ピンクの奴みたいに、綺麗な青春をやってみたかったな。ま、こうなっちまったからしょうがないけどさ。
………はぁ、透明に戻れたら、どんなに良いことか。
---
透明に見間違えそうになる、僕の真っ白な『夢の世界』。
黒の対だから白は正義のヒーローの色、なんて訳の分からない解釈をする人が、けっこう多くいる。
でも、黒が悪の色、なんて定義あるの?
解釈のしようによっては、黒は悪じゃないと思うんだ。
まあ、話を戻せば、白は正義のヒーローの色じゃないってこと。
でも、流石に僕の話を聞いていたらそれくらいは分かると思うよ?
白は、無関心の色。潔白でも正義でも何でもない。彩りの無い、虚無で埋まった、僕の『夢の世界』。
………黒は、他の色も、色があるだけいいじゃないか。僕は、お前らが羨ましいよ。
綺麗な世界が良かった。青色やピンク色の世界が羨ましい。妬ましい。
色がある世界が良かった。妬ましい。妬ましい。羨ましい。憧れる。
どれにでもなれる、透明が羨ましい。
………あの頃、もっと……何をしていたら、僕はこうならなかったのかな。
---
夜明けの空みたいな色の、私のピンク色の『夢の世界』。
私が恋をしているから、こんな色。
でも、一見綺麗に見えるのは、単なる上塗りだから。
私の、黒やら赤やらがごちゃごちゃになっていた世界が、『恋』一つでこんなピンク色になったの。面白かったなぁ。
でも、恋なら、どんな恋でも、こんな色になるって。
どんな醜い色でも、『恋』一つで綺麗になるんだから、不思議だよね。
……でも、もう届かないんだ。
いっそ、知らずに過ごしたかった。元の醜い色は嫌だけど、変えられるなら、何色が良いかな。
青色……良いなぁ。私青色好きだし。
赤色も良いなぁ。情熱的になってみたい。
黒……は、嫌だな。またあの醜い色になっちゃう。
白が良いかも。純真潔白って感じだし。
あー……でも、透明に戻って、また一からやり直したいなぁ。
そうしたら、もっと変われたのかな?
---
……出来た!
僕の『夢の世界』。青に、ピンクに、緑に、黄色、紫に、水色に、オレンジ色に……。
僕の世界の『虹』。明るいところ、暗いところ、色んなところを持つのが、『僕』の『夢の世界』。
………うん、けっこう綺麗に仕上がってきているかな。
最後に、少しだけ透明なところを残して、僕の『夢の世界』は完全だ。
残った透明のところは、僕の未完成の部分。完璧じゃないところも『僕』だから。
これが、僕の『夢の色』だ。
あなたの夢は、何色ですか?
永遠にラブソング
書きたくなって書いただけの短編です。
ちなみに、登場するラブソングの歌詞は、完全に架空のものです。
……ねぇ、聞こえてる?……聞こえてるみたいだね。
いきなりだけど、恋愛って、難しいものだって思わない?
だって、さ。ラブソングとかにあるような恋愛に憧れる人って、ごまんといるじゃん。そうでしょ?
でも、あんな感じの、まぁ『ロマンチック』みたいなものって、現実だとそうそうないよね?
例えば、『あなたの隣に寄り添うのが私ではなくても、私はあなたが好きで良かった』とか。歌詞にないだけで、隣に寄り添うあの人のことが羨ましいって思いも、絶対あると思うんだ。
他には……『あれから何日も経ったのに、君との思い出ひとつひとつ、どれだって鮮明に思い出せる』とか?鮮明とか言い切っちゃっても、段々おぼろげになってくでしょ、普通。
うーん、後は……『こんなに見て欲しいのに、こんなに好きでいるのに、なんでこんなに興味がないんだろう?』とかかな?相手も興味がないって訳じゃなくて、それを知られたくないから興味がないふりをしているだけじゃないかなって思う。照れ隠しって奴だよ。うん。
……まぁ結局何が言いたいかって言うと、ラブソングは、空想の話の中に、歌詞で描かれていない部分もあると思うんだって話だよ。
……でもさー、ラブソングってさ、失恋ものの話が多いじゃん?
『あなたの隣に寄り添うのは私じゃない』状況って、本人からしたら、悲しいとか、もしかしたら妬みとか、そういう感情の話でしょ?
でも、ラブソングは、そういう曲でもヒットするものはヒットする。そして、空想の話だから、実在する誰かさんの独白という訳でもない。でもまぁ、実話の時もあるんだろうけどね?
ところが、だよ。実際のお話だったら?自分の身の回りで、……自分自身に起こった話だったら?
……自分がその『本人』サイドだからね。その失恋話がヒットしたら、まぁ、怒りとか、自分はこんなに悲しいのに、とか、感じるんじゃない?
まあ、空想は空想だから美しいってことだよ、つまり。
あ、もうこんな時間なんだ。ほら、寝そうにならないで、もう帰ろう?ね?
……あ~あ、結局、気付かれなかったかぁ。空想は空想だから美しいって、咄嗟に出たことだけど、結構良いこと言ったなぁ、私。
……あ、待って、一緒に帰ろうよ!
…………君、彼女が、出来たんだっけ?そういえば。
…………なんでもないよ。まぁ、その子と、……幸せに、なれたら良いね。
……あはは、さっきはあんなこと言ったのにね。
……失恋、しちゃったなぁ。
一応言っておきますが、私が失恋したわけでも、私のまわりで失恋話があったわけでもありません。ただ思いついて書いただけです。
GOD&HUMAN
読み切り、作っちゃいました。
世界を支配する神様のお話です。
※多少人間を蔑む描写があります。
──この世界では、人類、エルフ、獣人、鬼人、……そして我々、神々が共存している。
数々の大陸にはそれぞれの種族別々に暮らしており、その中でも一際大きな大陸が、我々神の大陸──『神ノ島』だ。
この|世界《ほし》は、この『神ノ島』を中心にしている。神々を中心にしている。
我々が、特別な『神』なのだ。寿命がなく、世界を創り、世界を破壊し、闇を創り、光を創り、時間を生み出し、世界を動かす……それが、我々の力なのだ。
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神の誕生の歴史は、遙か昔まで遡ることになる。
昔々、光も闇も、ありとあらゆる概念も存在しなかった世界に、創造神が現れた。
無から有を生み出した訳では無い。その世界の空間を創った力に、自我が芽生えたのだ。
そこから、闇の神と光の神を創り、『この世界』という概念を創った。他の生命を創り、その生命たちのための住処となる星も創った。世界に物が溢れることを防ぐため、物体を破壊する破壊神も創った。
これが、生命たちのために時間の神を創り、時間という概念が生まれるまでの流れである。
この間の時間が、途方もない時間だったのか、それとも瞬きする間のことだったのか……それは、もう知り得ないことだ。
生命たちに目を向けた時に、生命の数が増えていることに気が付き、生命同士で争い出したことに気が付いた創造神は、生命を管理し、進化へと導く神をお創りになった。
それが、私である。
私は、生命たちの星に、争うことの愚かさに醜さ、助け合って共存することの素晴らしさ、美しさを教えた。
生命たちはあっさりと信じ込み、共存して暮らし始めた。
私は、創造神がお伝えになったとおり、生命たちに、元から存在していたものを別の物へと創り替え、進化させて行く方法を教えた。教え続けた。
その内、私は、あることに気が付いた。
この生命たちは、私が口にすることが正しいと信じて疑わない。私が言ったことに、一切の疑いを持たない。
特に、他よりも遅れて生まれた種族……人間には、もはや笑いが止まらない。私を含む神々の話を、あっさりと信じ込んでしまった。他の種族は、最初は半信半疑であったのに、だ。
しかも、私が伝えることには、『神様が仰ることだから』と、丸々鵜呑みにして信じ込んでいる。他の種族は私が伝えた技術を独自に工夫していることがあったが、人間にはそれさえも無い。私に従っているだけである。
──気分が良い。自然と口角が上がる。
段々、私は、自分の価値を自ら下げているような気がして来た。価値の低い生命たちと過ごしているからだ。では、私の価値を上げるには……?
……決まっている。価値の低い生命と離れるまで。私と同等の価値の者たちと過ごすまで。
私は、生命たちにはこれからは種族ごとに暮らすべきだと告げ、既に発見済みの中で最も大きな大陸へと移った。生命たちの中では反対の意見も複数あったが、人間たちは反対もせずに私を見送った。
──……神々は崇高な存在だ。他の生命たちは愚かでしかない存在だ。
私は、創造神に申し出て、私の他に神々をお創りになるよう伝えた。
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あれから、他の生命たちも種族ごとに別々の島々へと移り住んだ。
私の他にも神々はこの星に住んでおり、私の考えを話し、今では全ての神々がこの島……『神ノ島』に住んでいる。時々他の島へと出掛けることはあるが、全ての神々は他の生命たちを愚かでしかない存在だと認識している。私が伝えたことを鵜呑みにしているのだ。
……そして、私にとっては、そんな神々も愚かに見える。
この星の外は、時間の概念があるようでない空間が広がっている。
その空間では、私には到底敵わないような、五大神……創造神、破壊神、闇の神、光の神、時間の神……が暮らしている。
そこから見たこの星は、とても鈍く見ることが出来れば、音速のように素早く見ることが出来るだろう。太陽と月だったか……それらがこの星の周囲を回っているのを、そして、この星が神々を中心に回っているのを、どのような顔をして見ているのだろうか。
この星の管理は、私が任されている。しかし、私にも出来ないものはある。
私は知恵の神だ。物と用途さえ決まっていれば、すぐに目的の物のイメージが浮かぶ。後は、そのイメージに近づけて行くだけ。しかし、思うままに対象を操ることは出来ない。
種族ごとに別れてからしばらく経った頃、種族別の争いが起こった。経緯も愚かなものだったが、放っている訳にもいかない。
仕方なく私が直接戦場に向かい、争いをやめるように伝えた。しかし、なんと生命たちは、そのまま争い続けたのだ。
自分のエゴを優先しただと?神の言葉ではなく、エゴを?
信じられなかったが、このまま争いが激化していくと、私も巻き込まれてしまう。慌てて創造神にこの旨を伝え、新たにこの争いを収められるような力の神をお創りになるよう頼んだ。
すると、私の目の前に、一人の女が現れたのだ。
女は瞬きする間に生命たちを鎮めさせ、争いの意思を無くした。
誰もいなくなった戦場で、女は私を見た。そして、こう言った。
「初めまして、知恵の神……ルードグロッド様。私は、節制の女神です」
それが、節制の女神の誕生だった。
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「──……はぁああ……」
私は、問題という問題に直面していた。
節制の女神……ロラネフィカが、ある日突然、行方不明になったのだ。
ロラネフィカは、物事に制限を付けたり、ある程度物事を操ることが出来るようだった。それを知った私は、ロラネフィカを私の右腕とすることにした。いや、違う。肉体のある生命でいうと、私が『脳』で、ロラネフィカが『身体』なのだろう。
とにかく、ロラネフィカには、本当に助けてもらっていた。ロラネフィカが来てから新たに増えた制度も、助けられるものばかりだった。
生命たちの中でも能力・実力のある者に、この星の神と同等の力を授けよう。そう提案された時は、驚いた。そして、反対もした。
私が反対すると、彼女はじっと私を見て言った。
「私が誕生した経緯のように、緊急の事態になるたびに創造神にお頼みすることは、申し訳ないと思うのです。人材を蓄えておけば、緊急の事態でもすぐに対処出来るのではないでしょうか?」
その後、全ての種族の能力・実力のある者は、『神ノ島』に移り、『神格』という位を得て、神々と同等の立場になる制度に、何度助けられただろうか。
私が『脳』だとしても、『身体』を動かすのではなく、『身体』にむしろ助けられる『脳』だろう。
突然行方不明になった。それは、何者かに力を封印されたのか。それとも、存在自体を抹消されたのか。
──……私は、『身体』を動かす『脳』に、ならなければいけない。『生命』を管理出来る『神』に。
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──……一体誰が、こんなことを予想出来ただろうか。
私の身体に、これでもかという程強風が当たる。これが『肉体』だったら、抵抗する間も無く吹き飛ばされかねない。
目の前の少女は、薄紺色の瞳で、私をじっと見つめていた。
道を歩いていた時、突如として異空間に飛ばされた。奇妙なことに、私の力……『神力』を使っても、脱出不可能なのだ。
そんな時に私の目の前に現れたのが、この少女だ。
一目見て、私にはある一つの確信出来るものがあった。
この世界の神は、命の危機を感じた時に己の魂を生命の肉体に宿すことが出来る。
ただ、既に生命の魂が入っていた場合……生命の魂の方が消えるか、生命の魂と一体化するか、どちらかになるらしい。
少女の魂は、ロラネフィカの魂と一体化しているのだ。
「っ……!」
攻撃しないようにしていたが、さっきから私にひたすら攻撃してきている。神を殺すことは不可能に近いが、流石に我慢の限界だ。少女には悪いが、肉体を戦闘不能にしてやろう。
私は、少女に向かって、神力を使った──《神術》|暗黒魔刃《ダーク・ナイフ》を最大限の数放った。
少女は、風と水の神力で打ち返そうとしていた。が、闇は殆どの属性の力を打ち消す。
──……これで、私の勝ちだ。
そう思った瞬間、少女は光の神力を自らを守るように展開し、全て無効化してしまった。
予想はしていたが、やはり全属性か。神は全属性であって当然だからな……。さて、どうするか。
……仕方ない。こうするしかないだろう。
私は、火と風の神力で作った爆弾を、少女に複数投下する。肉体に直接の被害は無いが、爆風で魂を肉体から引き出してやろう。
少女は私の攻撃に驚いたようだったが、すぐに冷静を取り戻す。しかし、次の手が思いつかないようで、手が止まっていた。
──……次の瞬間。
周囲が、暗黒に包まれた。
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暗黒の中でも、爆弾の爆発音がそこら中に響いている。
少女は、爆弾に引っ掛かっているのだろうか。爆発音が響かなくなると、暗黒の中を静けさが包む。
次の瞬間、全てが動いた。
後ろから槍のようなもので突かれたと思ったら、全身が燃えるように熱くなり、身体が水の中に入ったと思ったら、全身に痺れるような痛みが走る。
周囲に光が戻ったことに気が付いた時には、私は死を感じていた。
神を殺す方法。
はっきりとは不明だが、同時に五つの方法で殺さない限り、神を殺すことは不可能とされているらしい。
この目の前の少女が本当にその五つの方法で私を殺そうとしていたのなら……。
恐らく、刺殺に焼き殺し、溺死、雷を落とす……五つ目は、恐らく毒殺だろう。
目的は分からないが、目の前の少女は、私を殺したいのだろう。
──……もう、この身体は駄目だろう。
しかし、…………素直に死ぬことは、癪に障る。
生きあがいてしまおう。
この時、ルードグロッドという神の命は尽きた。
しかし、魂は、まだ、尽きていない。
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「……よくやりましたね、ロラネフィカ。彼は、神を……自らを、とてつもなく崇高なものだと信じすぎていたのでしょう」
「……いいえ。私は、私の魂の一部の……ロラネフィカの声を聞きながら、戦っていましたから。私のことをロラネフィカと言うのは、やめて下さい」
「あら、ごめんなさい。……それで、貴女はこの星の管理神を打ち破り、位としては、今は貴女がこの星の管理神なのですけど……。どうなさるのですか?この星の神々、そして生命たちを」
「……私は、こことは全く別の世界で過ごした記憶があって、多分ですが、その記憶のお陰で、彼に勝つことが出来たと思っています」
「……まぁ!どんな世界なのですか?」
「……神々は、あくまで伝説のような存在でしかなくて、この星のように神々と人が……いえ、その他にも、エルフや獣人、鬼人が存在しない世界なんです。その世界は、神々が人を見下して、人は神々を狂信しているような……そんなことがないんです」
「あら……!いい世界ね。もしかして……?」
「……はい。私は、この世界を、神々と生命たちの差がない、新しい世界にしたいんです」
「……いいわね。私も出来る限り協力するわ!」
「……!ありがとうございます、創造神様!」
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その後、この星の島々は、近くの島同士が繋がった。
人々が驚いている中、新たな管理神が人々の目の前に現れ、これからの……新しい世界の方針を語った。
人々は新たな管理神を称え、全ての生命たち……神々も、協力態勢で生活するようになった。
すると、どうだろう。戦が起こっても管理神が牽制するようになり、いつしか管理神がなにもしなくても、争いは起こらなくなった。
管理神自身は、『あの頃から考えると、奇跡のようです』と語っている。
管理神は、世界に名前を付けようと考えた時に、昔管理神がいた世界の言葉を借りて──……。
──……『God×World』と名付けた。
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全ての生命たちが管理神を信仰していた……と、思われた。
……ただ一人を除いて。
「……私が管理していた時には、争いが起きていたというのに……あの娘が管理すると、争いが起きぬのか!?ふざけるな!私より、あの娘の方が優秀だというのか!?」
「……そうだ。あの娘の地位を、乗っ取ってやろう。あの娘がやったのと同じように」
「今に見るが良い。私こそが、本当の管理神だ」
はい!どーも、蒼葉です!
この読み切り……そのうち、シリーズ化して連載しようと思ってます!
ではでは!
追伸:自主企画に参加させて頂いています!
あの日、あの人と見た花火
「──……あそこからなら、花火、綺麗に見えるかな」
花火大会の会場であり、近所で一番大きな学校で苺シロップのかかったかき氷を食べていた少女は、ふとそう呟いた。
会場では、花火師のおじさん達が花火玉や火薬を運んでいる。それを見て慌ててかき氷を平らげた少女は、二匹の金魚が泳ぐ袋を少し慎重に手からぶら下げて、目的の場所へ走った。
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急な石の階段を駆け上っている間にも、打ち上げ花火の音は幾つも響いている。さっき休憩したのに、また休まないといけないかも……と少女が思った時、石の階段の終わりが見えてきた。
それを見据えた少女は、身体を奮い立たせて一気に階段を上った。
歴史はあるらしいけれど、殆ど使われていない神社の境内。少し小さめの山の頂上に建つこの神社からは、山から離れた所の花火大会の会場も、よく見える。そこから打ち上がる花火も、びっくりする程綺麗に、目に映る。
息を整えながら、辺りを見回す。セミロングの髪が風に吹かれる。
この神社には、基本人がいない。少女は、この静けさが大好きだった。物音のしない、けれどどこか安心する静けさ。いつもなら、この静けさを独占出来るのだけれども。
……今日に関しては、そうはいかないようだった。
つい先程まで一人だけだった神社の境内で、花火を見ている少年がいた。夜空に次々と咲き乱れる花火を、穴が空きそうな程見つめている。目を輝かせて、少女の存在にも気づかずに。
少年に気付かれないようにそっと彼の後ろを通り、段差に腰掛ける。
ふぅっと息を吐きながら、狂い咲く花火を見上げた。一輪、二輪、三輪。次々と花火が咲き上がる。
「──……綺麗」
溜息と共に吐き出した声は、よく通る声だったのか。少女の少し大きかったその声に、立ち尽くして花火を見つめていた少年はオーバーリアクションに飛び上がった。
「っ……い、いつからいたんだよ!」
先程まで閑静だった神社に、少年の大声が響く。
「ついさっき来たところ。一緒に見る?」
「……ああ」
少女は、横に置いていた金魚たちを膝上に乗せる。少年は、金魚がいた所に座った。
二人で、食い入るように花火を見つめる。もうラストスパートなのか、幾つも連続で花火が上がる。
最後に、一際大きな花火が上がる。その花火が散ると、神社に影が差した。
「……花火って良いよね」
「……花火って良いよな」
同時に呟いた二人は、顔を見合わせて笑い合った。
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ピピピピ、ピピピピ……。目覚まし時計の音が、部屋に響く。少女は、手探りでアラームを止める。
「うぅ……今日から学校か……」
口で呟いていても、考えていることは、さっきまで見ていた夢のことだ。
あの後、少年と、色んなことを話し合った。名前。何歳か。どこの学校なのか。
『来年も、ここで花火見ようぜ!』
そう言っていたのも彼だった。けれど、二人で見ることは叶わなかった。
彼が、引っ越したのだ。
住所を伝え合っていて、彼から手紙が来た時は、紙を握る手に力が入らないようだったのを覚えている。
あれから十年近く。夏になると、必ずあの日のことを夢に見る。
あの彼は、今はどこで暮らしているのだろうか。そう考えると気分が沈むけれど、もう過ぎてしまったことなのだ。いつまでも引きずっていたって仕方が無い。
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学校に着いて、前の席の親友と挨拶を交わして。
担任の連絡の声を、ぼんやりと聞く。どうやら、クラスに転校生が来るらしい。
教室に入って来た少年を見て、微かに感じていた眠気が吹き飛んだ。
あの日、一緒に花火を見た彼。声も身長も変わっているけれど、どことなく彼の面影が浮かぶ。
自己紹介で話している名前も、記憶の中の名前と同じ。その彼は、窓際の一番端の席に向かった。
──……あの日、あの人と花火を見ていたんだ。
そう思いながら、少年に目が釘付けになっていた。
席に座った彼が、こちらに向かってほんの少し笑いかけたような気がした。
天才は死んだ。
天才は死んだ。
彼の死は世間を悲しませた。
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天才は死んだ。
彼はあらゆる分野において周囲に才能を見せつけた。
『彼は天才だ。』
彼は対人面でも、人々を虜にした。
彼に人々は虜になった。
彼は悪を許さず、苦しむ人々を救った。
『彼に助けられた。』
彼はいじめられた少女を庇い、いじめた奴らに処罰を与えた。
彼は世間でも有名人だった。
『彼奴より私の方が良いじゃない!』『何で、彼奴ばっかり……』
『彼のせいで面白くない。』
妬む人々は、彼を悪いように言い出した。
彼は追い込まれた。
孤立。悪口。それまでの一切を殺して、次々に人は離れて行く。
『彼を助けよう。』
少女は彼に寄り添った。
彼は誰も信じられなかった。
彼は彼女を拒絶した。
彼女は泣いた。
彼は、もう何もかもを棄てたくなった。
彼は屋上にいた。
校則違反だったが、もう彼を引き留める仲間も何も無い。
彼は風に身を任せた。
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『天才は死んだ。』
世間は悲しんだ。
『天才は死んだ。』
もういない彼の周りの人々は、悲しむふりの裏で喜んだ。
『天才は死んだ。』
彼に一位を邪魔された人々は、悲しみの何処かで喜んだ。
『天才は死んだ。』
少女は、彼の墓の前で涙を拭った。
『天才は死んだ。』
本当に、世間は悲しんだ?
夜空色世界
「っ……はぁ、はぁっ……!」
満月の浮かぶ夜空の下。
私は、逃げるように町のビル群をくぐり抜け続けていた。
|神時《かんどき》 |雪姫《ゆき》、15歳、高1。
現在地は、住んでいた家の隣町辺り。格好は、動きやすいキュロットに、防寒対策のパーカー。そして、大きめのリュック。中には、私の全財産と服、ペットボトルの水にお菓子が入っている。そして、親との繋がりを切ってあるスマホ。
……私は、家出したのである。
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学校。家。塾。人間関係全てが嫌になって、両親が出張していた昨日の夜、家を飛び出したのだ。
……とはいえ、そう上手くいくことはなく。たまたま起きていたお隣さんに見られたらしく、しかもそのまま警察に連絡したみたいなのだ。今朝、家から大分離れた公園のベンチで目を覚ますと、丁度警察に見つかったのだ。
それから、追いかけてくる警察達を、ビルの隙間を通って、家と家の間の垣根に隠れて、どうにか撒いた……と思ったら出くわしたりすることの連続だった。
「っ……はぁ、はぁっ……!」
……右も左も分からないくらいにひたすらに走って、気が付いたら日が暮れていて、今に至る。
警察は全員撒けたものの、この後はどうしよう?いっそのこと遠くに逃げられれば良いけれど、今の私の持ち金ではとても生活出来るとは思えない。家に戻るとしても、細かい現在地は分からない。
「……っ!」
遠くで足音が聞こえて、咄嗟に駆けだした。
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街灯の少ない道を選んで駆け進んでいたけれど、もう『町』という場所じゃなくなってしまっていた。
「…………」
今はぽつぽつと街灯が灯る、緩やかな坂道を登っている。
ふと、目の前に広がる光景に気が付いた。
満月と、月光に照らされて輝く青色の薔薇の花畑。
そして、坂道が終わり、ずっと向こうに、ぼんやりとだけれど鳥居が見える。
ゆったりと、花畑を眺めながら鳥居へ進む。
思えば、家出してから、こうしてゆっくりと出来たのはこれが初めてかもしれない。
なんだか、すごく居心地が良い。家出中なのに、まだ警察に追われているのに、解放感と安心感を感じる。
鳥居をくぐると、その先には階段があった。よく見ると、階段の先にも、鳥居が見える。
何故だか無性に、その鳥居へ向かいたくなって、階段を駆け上った。
りぃち様の自主企画用です。
第一話(プロローグ)なのでね。こんなところです。
秋風
十月某日、その深夜。
僕は、マンションのベランダで風に吹かれて、ヘッドホンで音楽を聞いていた。
秋。僕が大好きな季節。
十月。僕が大好きな月。
僕。僕が大嫌いな人間。
僕に好かれているというだけで、秋も十月も、穢れているように思えてしまう気がする。僕が言えることじゃないけど。
ベランダに少し、身を乗り出す。秋の風が、僕の前髪を撫でるように通り過ぎて行く。
僕は、秋のこの風が大好き。強いけど優しい、冷たい風を浴びていると、嫌いな自分が風に流されていく気がするから。
……このまま、ここから飛び降りたら?
きっと、僕は秋の風に包まれて、急降下で重力に従っていくんだろう。一番下、地面の道路に、この身を叩き付けて死ぬのだろう。そして、翌朝にでも冷たくなって発見されるのだろう。
それは、理想的な死に方だった。大嫌いな僕を捨てられる。大好きな秋に、大好きな秋の風を浴びて。
その時、僕の思考を遮るように、強い風が吹いた。耳からヘッドホンが外れて音楽が聞こえなくなって、思わずぶるっと身震いする。
でも、それが少し嬉しくもあった。
僕が僕をどんなに嫌いでも、秋は、僕の大好きな秋は、僕を必要としてくれている。死ぬことを考えた時、『死なないで』って、言ってくれる気がする。
だから、僕は生きる勇気を貰える。
秋風は、背中を押さない。今、僕の背中を押したら、僕は、重力に従って真っ逆様になるから。
秋風は、僕を振り向かせて、僕に生きて欲しいって言ってくれる。
だから、僕は秋が好き。秋の風が大好き。
ヘッドホンを付け直して、僕はもう一度、音楽に耳を任せた。
「ありがとう」
僕は、後ろに振り返って、ベランダから室内に戻った。
冬桜
大雪が降った町外れ、私は行く当てもなく歩いていた。
家族と喧嘩して、家出して大分経った。幸いお金には困ってないけれど、泊まる先が見つからない。バスやタクシーで移動しても良いけど、無駄な痕跡は残したくない。
吐いた溜息が白く、上空へ消えていく。つられて上空を見上げると、信じられないものを見た。
蝶。モンシロチョウ。
消えていった息と灰色の空に隠れるように、モンシロチョウが飛んでいた。
モンシロチョウは、私の進行方向に進んでいる。
私は、モンシロチョウを追いかけた。追いかけないといけない気がするから。
モンシロチョウは、どんどん前へと進んでいく。気がつくと、私は走っていた。
人にぶつかったり、躓いたら、蝶は私を待つようにゆっくりとスピードを落とす。そして、私に追いつかれそうになったら、スピードを上げる。
私が疲れて立ち止まると、蝶は先に進もうとする。白い息が、モンシロチョウを霞ませた。
周りに全く意識がなくて、気がつくと雪景色の中にいた。一面真っ白の中、モンシロチョウは、そびえ立つ大木に止まった。
足元をよく見ると、雪に埋もれて草が広がっている。
……懐かしいな。
昔、家族と、よくこんな場所に出掛けていた。春、一本だけそびえ立つ満開の桜を、草に紛れる四つ葉のクローバーを、菜の花畑を、チューリップの蕾を、見つけてははしゃいでいた。
それを愛しそうに見るお母さん、ひとつひとつ写真を撮るお父さん、呆れながらも四つ葉のクローバーを探すお姉ちゃん、桜の枝を折ろうとして怒られる弟……。記憶の底から、全てが蘇る。
……あ。
…………蝶が。
モンシロチョウは、木の枝をそっと離れる。
モンシロチョウが離れたところから、木に蕾が付いていく。それは広がっていって、辺り一面の雪は溶けていった。
やがて、蕾が開いた。
ゆっくりと花弁を広げるのは、桜の花。
一輪、二輪。どんどん咲いていって、満開の桜が木を鮮やかに染める。
私は、感嘆の息を吐いた。白くない息が、景色をよく見せてくれる。
……あの頃に……。もう一度、あの頃みたいな雰囲気で、家族と会いたい。
怒られても、また喧嘩してもいい。それでも、また家族と、こんな景色を共有したい。
私は、元来た道へと駆け出した。
モンシロチョウは、晴れた空へと羽ばたいていった。
とある歩道橋にて。
『ロンドン橋落ちた』
橋の真ん中に来た時、その歌詞が頭に浮かんだ。いつか聴いた歌詞だ。
ロンドンに行ったことも無ければロンドン橋なんて見たこともなく、冷静に考えてそういえばロンドン橋って落ちるんだということに気がついた。
落ちないで欲しいなと思いながら、橋を渡りきった。
140字小説。
トモダチ
|佐々木《ささき》 |萌奈《もえな》は虐待されているらしい。
彼女は夏でも長袖で、偶に見える手首はいつも包帯が巻かれている。そこからされた噂だ。
元々萌奈と仲が良かった私は、本人に聞いてみることにした。
学校の帰り道、萌奈と並んで歩く。話をどちらかがする訳でもなく、快晴の空を見て一息つく。
「……ねぇ、萌奈」
「ん?なぁに?」
萌奈は私を見て、ニコッと笑う。その笑顔の裏に傷が隠されていると考えると、いたたまれない気持ちになった。
「その……萌奈がぎゃ、虐待されている、って、……本当?」
萌奈は一瞬、目を伏せた。それが図星を表しているみたいで、私は戸惑った。
「……ねぇ、もえ──」
「明日って、空いてる?」
遮って振られた話題に面食らった。萌奈を見ても、正面を向いたまま、投げ掛けるように話を続けた。
「……気になるんだったら、明日、ウチに来ない?」
一瞬躊躇った。これは、萌奈からの間接的なSOSなんじゃないかって。
「……友達だもん。当たり前だよ」
翌日。
萌奈の家には、萌奈のお母さんだけがいた。
「あら~、いらっしゃい」
「こ……こんにちは」
暖かく迎え入れてくれても、この人が萌奈に……って考えると、つい身構えてしまう。
萌奈のお母さんは、キッチンへお菓子を用意しに行ってくれた。途端に、萌奈は私に囁いた。
「……どうなっても一緒にいてくれる?」
「もちろん、友達だもん!」
元気づけるためにそう言うと、萌奈は嬉しそうに笑った。
「……あら、お菓子の材料が無いわ。昨日はあったはずなのに……」
キッチンから、声が聞こえて来た。萌奈のお母さんがキッチンから顔を出す。
「ごめんね、お菓子の材料を買ってきても良いかしら?その分、とびっきりの物を作ってあげるから!」
そう言って、萌奈のお母さんは急いで支度をして外に出た。ガチャッと鍵を掛ける音が聞こえた。
萌奈は、お母さんが外に出ると、ホッと一息をついたように見えた。優しそうだったけれど、ずっと怯えていたのかもしれない。
「……ねぇ、ひとつ聞いていい?」
萌奈は、私を見ずに聞いてきた。
「……うん」
「さっきのは、『どうなっても一緒にいてあげる』ってことだよね?」
「……そ、そうだよ?」
それを聞いた萌奈は、無言で立ち上がってキッチンへ向かう。
「も、萌奈……?」
やがてキッチンから戻って来た萌奈は、ゴム手袋をはめた右腕に包丁を握っていた。
「ひっ……!」
慌てて逃げようとしても、萌奈の視線に身が竦む。
「……だから、死ぬときも一緒だよね?」
---
包丁で刺した死体を見下ろして、萌奈は微笑んだ。
包丁をその場に、ゴム手袋をもてなしの材料を隠したゴミ箱に放った。
窓もカーテンも締まっている。コレが自分の仕業とされようが母の仕業とされようがどっちでもいい。
「こうやって、嫌な世界から、『トモダチ』と消えられるなんてさ──」
手首の包帯を解く。そして、傷痕だらけの腕があらわになる。
包帯を首に巻いて、きつく結んで、息を吐き出すように言った。
「──……とびっきりの幸せだと思わない?」
ノンフィクションホラー
朝、電車に乗っていた。
私はよくギリギリ間に合う時間の電車に乗る。今日もそのつもりだった。でも、一本前の電車が遅れていたお陰で、予定より早く目的の駅に着いた。
電車から降りる。同じように降りてくる人は数知れず。そのまま、エスカレーターに乗った。
ここまでは、普段と何一つ変わらない。けれど、妙なことに気が付いた。
すぐ後ろでエスカレーターに乗ったのは、恐らく若いと思われる、恐らく男性であろう人だった。けれど、黒とグレーの間くらいの色のダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、フードを深く被っていた。もちろん雨なんて降っていない。そして、下を向いているのか、フードの隙間からはマスクだけが見える。
その見た目から私が連想した物には、良いものなんて何一つ無かった。
──……犯罪者。殺人犯。通り魔。
急に、緊張感のような、恐怖心のようなものが湧き上がってくる。そうこうしている間も、エスカレーターは私達を上へと連れて行く。
エスカレーターの終着点に着いた途端、私は足早に改札へと向かった。ただ、心臓がバクバクしていた。
改札に並ぶ列から後ろを見れば、さっきの人物がエスカレーターを降りたところだった。
もう振り返るのも怖くなって、前を向き直して改札に定期をかざす。そのまま、学校の方向のエスカレーターに並ぶ列の最後尾についた。
勇気を出して、改札の方を振り返った。
ダウンジャケットのフードは見えなかった。
戸惑った。もしかしたら、柱に隠れて見えなかったのだろうか。
そして、エスカレーターに乗りながら、もう一度見た。
いない。
見つからない。
心臓がバクバクと動いている。あれは誰だったのか、そもそも『人』なのか……?
とんでもないものを見たのかもしれないという思いを抱えて、足早に学校の方向へと向かった。
ほんとうにあったこわいはなし。
私の救世主
12月25日がイエス・キリストの誕生日であることは、キリスト教信者、もしかするとそれ以外でも知っていることだ。
雪の降る夜、私は家から駆け出した。背後で父の怒号と母の悲鳴が響く。
DVをする父、ヒステリックな母。我が家の「当たり前」の光景に、何故だか今日は耐えられなかった。
12月25日は、クリスマス、イエス・キリストの誕生日、そして、私自身の誕生日でもある。そんな日であっても、腕に新しく痣が増え、耳をつんざくような悲鳴を聞くこの家庭に、自分の惨めさに耐えられなかった。
行く当ては無い。けれど、足は自然と、キリスト教の教会へ向かっていた。
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キリスト教の学校に進学を決めた時は、両親は興味も持たなかった。受験、合格通知、入学が決まったくらいに、学費が高いと殴られた痣と、包丁による切り傷が出来た。
この教会に来るのは、学校での行事以外では初めてだ。夜でも明るい教会の扉を開けると、神父とシスター達が十字架へと祈りを捧げていた。
真正面で聖典を読み上げていた老人の神父は、私を見つけると朗読を中断して近づいて来た。
「……おや、もしかして、あの学校の……?」
「……はい」
「どうしたのかね、祈りを捧げに来たのかい?」
シスター達が、私を見てざわざわと騒ぎ出す。ボサボサの髪に頬の痣。こんな姿でキリスト教信者なんてなんだか申し訳なくなって、気が付くと泣いていた。頬の切り傷に涙が染みる。
「っ……、ここで、匿ってもらえませんか?」
シスター達が顔を見合わせる。神父様は、私の目をじっと見つめて、髭だらけの顔でにっこりと笑った。
「もちろんだよ。シスター、この子を着替えさせて頂けませんか?身なりを整えたら、私達と一緒に祈りましょう」
「はい、畏まりました。傷の手当てもしておきますね」
シスターに手を引かれながら、私はぼうっと十字架と、十字架にかけられるイエス・キリストの木像を見上げていた。
正直、キリスト教なんて信じていなかったけど、今、はっきりと『救われた』と感じる。
今日はなんて素敵な、クリスマスで、イエス様の誕生日で、私の誕生日なんだろう。
虐待は子供を恐怖で閉じ込めることで、信仰はその信仰している対象に閉じ込められることだと思うんですよね。
信仰は、自分が形だけでも信仰している対象を信仰している大勢の人に、畏怖とか、統一したいとかの思いで自分を似せるんですよね。そして、それが当たり前になって、俗世が分からなくなっていくことも、ある意味では『閉鎖』なんじゃないかなって。
それと、キリスト教の学校って、日本にもあるんですよね。私が知る限り、宗派(カトリック、プロテスタント等)の違いはあっても、二、三校ぐらいのキリスト教の学校はあります。
まぁ、そこの人達がキリスト教を本気で信じているかは知りませんが、日本人のシスターもいるらしいですよ。