悠久の時を生きる天界の神々。彼らの世界は、天帝を頂点に、「柱神」「精霊」といった厳格な階級と、「理(ことわり)」と呼ばれる世界の法則によって秩序が保たれていた。
物語は、世界の根源的な力を司る四柱の神を中心に展開する。
ゲネシス(創造之神)は、理想主義者ゆえに「全ての命を救いたい」と願い、下界の生命の寿命に密かに干渉し続けていた。この禁忌は、長年秘密の恋人関係にあるグライア(冥府之神)への愛情表現?としての猛アピールと同様、彼の純粋な信念からくるものだった。
しかし、その小さな禁忌の積み重ねが、やがて世界の「理」のバランスを大きく崩壊させ始める。
下界では死が機能しなくなり、天界全体に未曾有の危機が訪れる。
事態の深刻さにいち早く気づいた、ゼフィール(天空ノ神)の分析により、原因がゲネシスの禁忌にあることが発覚する。
天帝から下された勅命は、「秩序を乱す者への罰」。
秩序を絶対とするグライアは、愛するゲネシスを討つか、世界の崩壊を見過ごすかという、究極の選択を迫られる。彼女は私情を押し殺し、「冥府之神」としてゲネシスの排除を決意する。
二柱の神が衝突し、天界が揺らぐクライマックス。
シルフィア(小精霊)とゼフィールは、天帝から得た僅かな許可を手に、二人の間に割って入る。
彼らが提示したのは、「排除」ではない、「新たな理の構築」という第三の道だった。
葛藤の末、四人の神々は手を取り合い、それぞれの神力を融合させて世界のシステムを再構築する。
世界は救われ、危機を乗り越えたことで、彼らの絆はより一層深まる。
秘密だったゲネシスとグライアの関係は公然のものとなり、ゼフィールとシルフィアもまた恋人同士となる。
四人は「新たな理の守護者」として、穏やかで希望に満ちた永遠の日常を歩み始めるのだった。
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目次
第0話:『天界柱神録』を彩る神々
グライア(Graia)
名前: 冥府之神
年齢: 数十億年
性別: 女子
階級: 柱神 / 正神
役割: 死を司る者。死をもたらす神。
容姿: 黒いロングコートに白髪ロングでジト目。
性格: シャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ)。表向きは冷徹でクールだが、心を許した相手には情を見せるツンデレ。プロ意識が高く、仕事とプライベートの区別は厳格(すぎる)。
特徴:
神殿は北の方角。黒色を基調とした閉鎖的な建物で、常に冷たい霧が立ち込めている。他の神々に対しては「無言の圧力」で拒絶する。
恋人のゲネシスからのアプローチにはドン引きし、容赦ない物理攻撃(蹴り)を浴びせるが、内心では満更でもない。
シルフィアの恋事情だけは特別に好きで、妹のように可愛がっている。
ゲネシスとは次神時代からの長年の恋人だが、公には秘密。
ゲネシス(Genesis)
名前: 創造之神
年齢: 数十億年
性別: 男子
階級: 柱神 / 正神
役割: 命を司る者。生命を創造した神。
容姿: 白いロングコートに白髪の短髪で吊り目。
性格: 優しく明るい青年風で、誰にでも寿命などを分けられる。理想主義者。恋愛に関しては非常に情熱的かつ行動的(そして無自覚なドM気質)。
特徴:
神殿は東の方角。「創造の庭園」に隣接する、白と朱色、緑を基調とした開放的な建物。
グライアに猛アピールし続け、ドン引きされながらも交際まで漕ぎつけた立役者。グライアに蹴られても「愛の鞭!」と喜ぶ。
その優しさゆえに禁忌を犯し、物語の主要な引き金となる。
シルフィアとゼフィールの恋を、先輩として温かく見守っている。
ゼフィール(Zephyr)
名前: 天空ノ神
年齢: 数十億年
性別: 男子
階級: 次神 / 司神
役割: 気候を変える者。気候神。
容姿: 青色ロングコートに水色髪色のウルフカットのぱっちり目。
性格: 大人しめであまり自分のことを話さない。思慮深く冷静。非常に論理的で、感情の機微には疎い。
特徴:
神殿は北西の方角。青色の屋根を持つ壮大な建物。天候観測設備がある。
寡黙だが、仕事に関しては真摯に対応する。
世界の「理」の欠陥にいち早く気づく知的な側面を持つ。
シルフィアの好意には気づいていない(鈍感)。グライアとゲネシスの関係性は「理解不能な現象」として捉えている。
シルフィア(Sylphia)
名前: 小精霊(精霊長)
年齢: 数億年(数億歳前半)
性級: 精霊
役割: 風を呼び起こす物。風神。
容姿: 薄緑のロングコートに緑色の髪色でボブの垂れ目。
性格: 明るいが内向的な性格。仲の良い4人(特にグライア)といる時は普通の女の子。純粋で行動的。
特徴:
4人の中では最年少で、階級も一番下。周りからは妹のように思われている。
ゼフィールのことを気になっており、恋心を抱いている。
グライアの神殿に唯一出入りできる外部の存在であり、物語の鍵を握る仲介役となる。
ゲネシスがグライアに蹴られる様子を見て、「すごいポジティブ」と感心している。
第一話:北の神殿と、小さな平穏
広大な天界には、数多の神々が存在する。彼らはその誕生の古さや司る概念の大きさによって階級が定められていた。頂点に座すは|数澗歳《すうかんさい》を超える|天帝《てんてい》。その下に、世界を形作る根源的な力を司る
「|柱神《はしらかみ》」、そして「|次神《じしん》」が続く。彼らの年齢は数億、数十億歳にも及ぶ。
死を司る柱神、グライアは、今日も北の方角にある自らの神殿の玉座に座していた。黒色を基調とした閉鎖的な建物は、常に冷たい霧が立ち込め、他の神々は「無言の圧力」を感じて容易に近づけない。
「……退屈だな」
グライアがポツリと呟く。彼女の役割は、下界の命の終わりを見守ること。
本来であれば常に忙しいはずだが、最近の下界は比較的平穏だった。
その気だるげな「じと目」は、この平穏すら皮肉にも面白くないと感じているようだった。
その時、神殿の重々しい扉が、からりと音を立てて開いた。無言の圧力をものともせず入ってきたのは、薄緑色のコートを着た、緑髪ボブの精霊――シルフィアだった。
「グライア様!遊びに来ました!」
シルフィアは、この神殿に唯一自由に出入りできる外部の存在だ。グライアの表情は、シルフィアの姿を見た瞬間、少しだけ和らいだ。
「うるさい精霊だな。勝手に入ってきて」
「えへへ、だってグライア様、いつもここにいるんだもん」
シルフィアはグライアの玉座の階段に腰掛け、ゼフィールへの淡い恋心を語り始める。グライアは
「他人の不幸(恋バナ)」を喜ぶシャーデンフロイデな性格を発揮し、
「ふん、あの天空神は鈍感そうだし、上手くいくかしらね」
と、妹のように可愛がりながら話を聞く。
---
一方、東の方角。「創造の庭園」に隣接する、白と朱色、緑を基調とした開放的な神殿では、真逆の光景が広がっていた。
「もっと命を輝かせていいんだよ!」
創造之神ゲネシスは、今日も下界の生命の寿命に干渉していた。悪意はない。
ただ純粋な理想主義者として、全ての命を救いたいという優しさからくる行動だった。彼は白いロングコートを翻し、誰に対しても優しく接する。彼の神殿への出入りは自由で、助けを求める者を拒まない。
しかし、その優しさが世界の「理」を少しずつ歪めていることに、彼自身は気づいていない。
---
そして、北西の神殿。ゼフィールは青色の屋根を持つ壮大な建物の中で、天候観測設備を睨んでいた。寡黙で思慮深い彼は、世界のバランスを示す数値の微細な変動に、いち早く気づき始めていた。
「……世界の『理』に、歪みが生じている」
ゼフィールの呟きは、誰にも届くことはなかった。
それぞれの「日常」が流れる中、神々の世界を揺るがす大きな異変の兆候は、すでに忍び寄っていた。
🔚
第二話:冬の朝4時と、変わらぬ風景
下界が冬の深い眠りにつく頃、天界には少し奇妙な「冬の恒例行事」があった。
早朝4時。まだ夜の帳が下りたままの時間帯に、東の方角にあるゲネシスの神殿前。
「しーっ、行くぞシルフィア」
北の神殿から移動してきたグライアが、人差し指を唇に当てて注意を促す。隣には、少し興奮気味のシルフィアがいる。ゼフィールはすでに到着しており、神殿の入り口で静かに待機していた。
「毎回思うが、許可は得ているのか?」
「許可を取ったら、この行事の意味がないだろう」
ゼフィールの冷静な問いかけを、グライアは一蹴する。ゲネシスは「創造の庭園」に隣接する自室で、心地よさそうに寝息を立てているはずだった。
三人は忍び足で神殿の中へと入っていく。ゲネシスの神殿は開放的な造りのため、早朝のひんやりとした空気が心地よい。
「おはよう、ゲネシス様!」
「うるさい、シルフィア。起こすなよ」
シルフィアが元気よく駆け寄る一方で、グライアは早速彼のベッドサイドに陣取り、寝顔をじと目で眺めている。ゼフィールは慣れた様子で、神殿内の観測機器の電源を入れる。彼らにとって、ここは冬の間の「無断休憩所」兼「打ち合わせ場所」だった。
数分後、ゲネシスがようやく目を覚ます。
「んん…あれ?みんな、どうしたんだい?こんな朝早くから」
目をこすりながら首を傾げるゲネシスに、グライアは冷たく告げる。
「冬の集合場所に使わせてもらってる。許可は取っていない」
「無断でごめんね、ゲネシス様!」
シルフィアが頭を下げる。ゼフィールは淡々と「ココアの生成を頼む」と注文する。
ゲネシスは一瞬呆気にとられた後、満面の笑みを浮かべた。
「なんだ、みんな僕に会いたかったのかい?嬉しいなぁ!もちろん、好きなだけ使ってくれていいよ!」
その純粋な笑顔が、グライアには心底気に食わなかった。
「ふん」
グライアの容赦ない拳が、ゲネシスの鳩尾(みぞおち)に命中する。
「ぐはぁっ!」
「痛っ!」と声を上げるゲネシスだが、すぐに「愛の鞭だ!嬉しいなぁ!」
と満面の笑みを浮かべる。
「いいか、シルフィア」
グライアはため息をつきながら、鼻血を出しつつも嬉しそうなゲネシスを指差す。
「こういう男は気をつけたほうがいいぞ。大半は変態だ」
ゲネシスは笑いながらいう
「ひどいなぁ、俺は君だけの理想主義者だよ」
シルフィアは目を丸くして二人を見比べ、「は、はい!グライア様!」と元気よく返事をした。ゼフィールだけは少し離れた場所で、この光景を「理解不能な現象」として冷静に観測データに記録した。
天界の冬の朝は、いつもと変わらない騒がしさで幕を開けた。
🔚
第三話:理想主義者の信念と、世界の歪み
「ありがとう、ゲネシス。ココアとても美味しいよ」
ゲネシスの神殿の一角で、ココアを受け取ったゼフィールが嬉しそうに微笑む。ゲネシスは静かに頷いた、ゼフィールは観測機器の画面に目を落とした。
は、すでに神殿を出て、隣接する広大な「創造の庭園」へと向かっていた。白と朱色、緑を基調とした開放的な庭園には、本来天界には存在しないはずの下界の植物や生命が溢れていた。
グライアは、ココアを飲みながらその背中をじと目で見つめていた。
「あの馬鹿、今日もやる気満々ね」
「やる気、ですか?」とシルフィアが首を傾げる。
「彼はね、世界の『理』なんて無視して、自分の『理想』に従うたちなのよ。全ての命を救いたい、なんて馬鹿げた理想をね」
グライアの言う通り、ゲネシスは庭園の最も古い樹木の前に立ち、自らの神力をその根元へと注ぎ込んでいた。
「もう少し、もう少しだけ……」
それは、下界で本来の寿命を終えつつある命に、自らの神力の一部、すなわち「寿命」を分け与えるという、柱神としての禁忌だった。神々は世界の「|理《ことわり》」を司る存在であり、その流れに逆らうことは許されない。しかし、ゲネシスはその禁忌を、何億年も前から日常的に犯していた。
「彼の信念は純粋だが、その行動は世界に対する明確な反逆だ」
ゼフィールが、観測画面から目を離さずに呟いた。画面には、生命力のバランスを示すグラフが、警告を示すかのように不安定な波形を描いていた。
「でも、ゲネシス様はみんなを助けたいだけなんです……」
シルフィアは純粋な優しさゆえの行動だと分かっていたからこそ、複雑な表情を浮かべる。
「その『助け』が、世界全体の『死』を招いていることに気づいていない。あるいは、気づかないふりをしている」
グライアはココアのカップを静かに置き、冷たい視線をゲネシスへと向けた。彼の理想主義は、彼女との長年の関係性と同じくらい、決して揺るがないものだった。そして、その揺るがない信念こそが、今、天界を、そして下界を破滅へと導きつつあった。
庭園では、神力を受け取った下界の命が、本来死ぬはずの運命から解放され、再び輝き始めていた。
「これでまた一つ、命が救われた」
ゲネシスは満足げに微笑む。しかし、その笑顔が世界の秩序を乱しているという事実は、誰の目にも明らかになりつつあった。
第四話:知的な懸念と、異変の報告
ゲネシスの神殿での朝の集いが終わり、各自がそれぞれの神殿へと戻っていった。
ゼフィールは北西の方角にある自らの神殿に戻り、広大な天候観測設備の中央制御室に腰を下ろした。彼にとって、感情という「変数」は世界の安定を乱すものだったが、「理」の崩壊という「バグ」は、何よりも許容できない異常事態だった。
彼は天帝から与えられた特別な権限で、世界のあらゆる生命の循環データをリアルタイムで収集・分析していた。画面に映し出される無数のグラフと数値は、日を追うごとに悪化の一途を辿っている。
「……致死確率の低下。寿命の停止。個体数の異常増加」
ゼフィールは寡黙に、しかし正確にデータを読み上げていく。彼の頭脳は高速で解決策を模索するが、原因が「柱神による直接干渉」という前代未聞の事態であるため、有効な対処法は見つからない。
「これは、世界の根幹を揺るがすバグだ。修正が必要だ」
ゼフィールは、事態を天帝に報告するための準備を始める。もはや、四神の間で密かに解決できるレベルではないと判断したのだ。
---
その頃、天界の中央に位置する天帝の宮殿には、下界から次々と報告が舞い込んでいた。
「報告申し上げます!下界第三地区において、本来寿命を迎えるべき数十万の生命体が、未だ生存を続けております!」
「同じく第五地区でも!死が機能しておりません!」
宮殿は騒然としていた。天帝は、数澗歳という悠久の時を生きてきたが、これほどの異常事態は経験がなかった。世界の「理」、特に「死」という絶対的な流れが滞っている。それは、世界そのものが詰まり始めているようなものだった。
「一体、何が起きているのだ……誰かが、世界の根幹を弄っているのか?」
天帝の鋭い視線が、報告に来た神官たちに向けられる。しかし、誰も答えられない。
この日を境に、天界全体に緊張が走る。平和な日常は終わりを告げ、神々の世界は大きく動き出そうとしていた。そして、その原因が、他ならぬ「創造之神ゲネシス」にあることを、天帝と柱神たちはまだ確信していなかった。
🔚
第五話:天帝の勅命
天界を覆う緊張感は、もはや隠しようがなかった。下界からの報告は止むことなく続き、死を司るグライアの神殿にも、本来ならば彼女の管轄下に収まるはずの膨大な数の魂が流入してこないという異常事態が、明確なデータとして示され始めていた。
「ふん……やはり、あの馬鹿の仕業ね」
グライアは自室で一人、冷たい笑みを浮かべた。彼女はすぐに原因がゲネシスだと察知していたが、確証はなかった。しかし、この異常な魂の流れの停滞は、ゲネシスの「創造」の力が過剰に働いていることを示していた。
もはや、静観しているわけにはいかない。これは彼女の「仕事」に対する明確な妨害であり、世界の「秩序」を乱す許しがたい行為だった。彼女は立ち上がり、天帝の宮殿へと向かう準備を始めた。
---
その頃、ゼフィールはすでに宮殿に到着していた。彼は天帝の側近たちに、自らの分析データを見せていた。
「……原因は、特定の個体への『寿命』の過剰な供給による、生命循環の局所的停止が積み重なった結果です」
ゼフィールの冷静で的確な分析は、混乱していた神官たちを静まらせるのに十分だった。天帝は黙ってデータを見つめ、深く頷いた。
「つまり、誰かが意図的に、あるいは無意識に、世界の『理』に反する行為を続けているということか」
天帝の言葉に、神官たちは息をのむ。それは神に対する最も重い罪を意味していた。
そこに、グライアも到着する。彼女は冷徹な面持ちで、天帝に頭を垂れた。
「冥府之神グライア、罷り越しました。妾の管轄領域においても、甚大な異常を来しています」
天帝は、秩序を司る柱神たちの到着に、事態が最終局面に入ったことを悟った。
「四柱の神よ、集え。世界の『理』を回復せよ。禁忌を犯した者がいるなら、その罪を裁き、罰せよ」
天帝からの厳かな勅命が下される。それは、四神に対する絶対的な命令だった。
ゲネシス、グライア、ゼフィール、そしてシルフィア。下界の平和な冬の風景とは裏腹に、天界では彼ら四神の運命を、そして世界の未来を決定づける激動の歯車が、音を立てて回り始めたのだった。
🔚
第六話:四神の集結
天帝からの勅命が下り、世界の運命は四柱の神々に託された。彼らは天帝の宮殿からそれぞれの神殿へ戻り、事態の収束に向けて動き出さねばならない。
グライアは、宮殿を後にする際、ゲネシスを一瞥した。彼の顔色は優れない。自分の行いが世界を危機に陥れていることを、彼自身も薄々感じ取っていたのだろう。しかし、グライアは私情を挟まない。今は柱神としての責務を全うする時だ。
「ゲネシス、後で妾の神殿に来い」
グライアは冷たく言い放ち、振り返ることもなく自分の神殿へと戻っていった。その言葉に込められた意味を、ゲネシスだけが理解していた。
「……はい」
ゲネシスは力なく応じた。
ゼフィールとシルフィアも、二人の間に流れる張り詰めた空気を察していた。
「ゼフィール様、グライア様、怒ってるのかな……」
とシルフィアが不安そうに呟く。
「怒っているだろうね。彼女の『理』と『仕事』に対する妨害行為なのだから」
ゼフィールは冷静に答えながらも、データ分析で見た破滅的な未来を思い出し、表情を曇らせる。
「自分たちも、できることを探さないと!」
シルフィアは持ち前の行動力で、ゼフィールと共に今後の対策を話し合うため、彼の神殿へと向かった。
--- 数分後 ---
北の神殿では、グライアがゲネシスを待っていた。霧が立ち込める神殿内は、いつも以上に冷え込んでいるように感じられた。
やがて、ゲネシスが神殿に足を踏み入れる。グライアの「無言の圧力」は今日に限っては弱く、ゲネシスは難なく彼女の前に立つことができた。
「グライア、話というのは……」
ゲネシスが口を開こうとした瞬間、グライアは彼の顔面を思い切り殴りつけた。
「ぐふぅっ!」
鼻血を吹き出し、後ろに倒れ込むゲネシス。しかし、彼はすぐに笑顔で起き上がる。
「うわぁ!久しぶりに神力のこもったパンチ!愛の証拠だね、グライア!」
「うるさい変態」
グライアは冷たい視線を向けながらも、内心の動揺を隠せないでいた。彼はいつも通りだ。しかし、今回の問題は、いつもの痴話喧嘩とは次元が違う。
「なぜ、あそこまで世界の理を弄った?妾の仕事に泥を塗るだけでなく、世界を滅ぼしかけている」
グライアの口調は厳しかった。いつものお約束のやり取りではない、真剣な怒りがそこにはあった。
ゲネシスは鼻血を拭いながら、真面目な顔で答える。
「……ごめん。でも、すべての命には輝く権利がある。死の運命に抗いたいと願う命に、俺は『生』を与えたかったんだ。俺の理想なんだ」
彼の目は純粋で、悪意は微塵もなかった。しかし、その純粋さこそが、グライアの心を最も抉るものだった。
「その理想が、世界を滅ぼすというのなら――」
グライアは言葉を詰まらせた。愛する人を罰さねばならないという「理」と、彼の理想を理解したいという「情」が、彼女の心の中で衝突していた。
「――妾は、柱神としての責務を果たすまでだ」
グライアは冷徹な「冥府之神」の顔に戻り、目を伏せた。ゲネシスは、彼女のその表情を見て、自分の禁忌がどれほど重大なものであったかを、改めて思い知らされたのだった。
🔚
第七話:葛藤と決意
グライアの神殿での対話は、明確な結論を出せないまま終わった。ゲネシスはグライアに深く謝罪し、自らの神殿へと戻っていった。彼の足取りは重く、その表情には深い絶望が滲んでいた。
ゲネシスが去った後、グライアは一人玉座に残された。静寂の中、冷たい霧が彼女の心をさらに冷やしていく。
――**なぜ、あそこまで理想に固執するのか。**
彼女には理解できないわけではなかった。彼と出会った次神時代から、ゲネシスは常に生命に対する深い慈愛を持っていた。その純粋な理想に惹かれたからこそ、クールな彼女が猛アピールを受け入れ、長年にわたる秘密の関係を築いてきたのだ。
しかし、今は私情を挟むべきではない。「死を司る者」として、世界の「理」を守り、秩序を回復させる義務がある。
――**殺したくない。**
心の奥底で、愛する彼を失うことへの恐怖が鎌首をもたげる。だが、「柱神」としての責任感がそれを押しとどめる。彼女は立ち上がり、神殿の奥へと向かった。心を落ち着かせ、冥府の神としての冷徹さを取り戻すために。
---
一方、ゼフィールの神殿。
「分析の結果、このままでは世界の生命バランスは完全に破綻し、新たな理を構築しなければ、全ての生命活動が停止する」
ゼフィールは、シルフィアに最終的な分析結果を見せていた。彼の言葉は常に冷静だが、そのデータが示す未来はあまりにも絶望的だった。
「そんな……じゃあ、ゲネシス様を罰するしかないの?」
シルフィアの目に涙が滲む。優しいゲネシスも、クールだが頼りになるグライアも、どちらも大切な仲間であり、家族のような存在だ。どちらかを失うなど、考えられなかった。
「排除が最も単純な解決策だ。しかし、データはもう一つの可能性を示唆している」
ゼフィールは新たなグラフを表示させた。「新たな理の構築」――それは、世界の根幹を揺るがす壮大な計画だった。
「この案なら、誰も失わずに済むかもしれない。ただし、前例がない。成功確率は非常に低い」
ゼフィールの表情は真剣だった。彼は感情を排しているが、その選択肢に賭けたいという密かな願いがあった。
「やりましょう、ゼフィール様!少しでも可能性があるなら、自分、グライア様とゲネシス様を止めてみせる!」
シルフィアは涙を拭い、決意の表情を見せた。彼女の行動力と風の力が、物語を動かす鍵となる。
そして、天帝の宮殿から、正式な勅命が改めて下された。
「柱神グライアよ、秩序を乱す創造神ゲネシスを討ち、理を回復せよ」
ついに、避けられない対立の時が来た。四人の神々の運命は、一点に収束していく。
🔚
第八話:宣戦布告
天帝からの「討て」という明確な勅命は、グライアにとって最終宣告だった。彼女はもはや迷わない。感情は冥府の霧の中に閉じ込め、柱神としての冷徹な仮面を被った。
北の神殿から出立するグライアの姿は、まさに死を司る神そのものだった。黒いロングコートが風になびき、そのジト目の奥には、いかなる情も宿っていないように見えた。
「グライア様……」
シルフィアが不安そうにその背中を見つめる。ゼフィールは静かに隣に立ち、
「これが最も合理的で単純な解決策だ。我々が提示した『新たな理』の可能性は、まだ天帝には認められていない」
と冷静に告げた。
「でも、自分は諦めない!」
シルフィアはゼフィールの言葉にもひるまず、風の精霊としての小さな体躯に秘めた強い意志を見せた。
---
一方、ゲネシスの神殿。ゲネシスは自らの行いの重大さに直面し、贖罪の方法を模索していた。しかし、彼にとって「命を救う」という理想を捨てることは、自らの存在意義を否定することに等しかった。
「俺は間違っていない……命は、輝くべきだ」
彼の理想主義は、世界の破滅よりも、目の前の命を救うことを優先させた。その純粋さが、彼を頑ななまでに一つの方向へと突き動かしていた。
その時、神殿全体が凍り付くような冷たい圧力に包まれた。グライアの「無言の圧力」だ。その圧力は、かつてゲネシスが神殿に無断侵入しようとした時の比ではない。明確な「敵意」と「殺意」に満ちていた。
「グライア……!」
ゲネシスは慌てて神殿の外へと飛び出した。そこには、すでに臨戦態勢のグライアの姿があった。
「創造神ゲネシス。天帝の勅命により、貴様の禁忌を討つ」
グライアの声は感情を完全に排しており、ゲネシスは身震いした。これは、愛しい恋人としての声ではない。絶対的な秩序を司る、冥府之神としての宣戦布告だった。
「待ってくれ、グライア!俺は……!」
ゲネシスが弁明しようとした瞬間、グライアは間合いを詰め、その拳をゲネシスの顔面に叩き込んだ。
「ぐふっ!」
今度の攻撃は、いつもの「愛の鞭」とは比べ物にならない神力が込められていた。ゲネシスは吹き飛ばされ、創造の庭園の木々に叩きつけられる。木々は瞬く間に生命力を失い、枯れ果てた。
「これは罰だ。私情はない」
グライアは冷たく言い放ち、再びゲネシスへと向かっていく。ついに、柱神同士の避けられない対決の火蓋が切って落とされたのだった。
🔚
第九話:衝突と理想の果て
グライアの攻撃は止まらなかった。愛する者への手加減は一切ない。むしろ、愛する者だからこそ、この世界の理を正す役目は自分にあると、彼女は自身に言い聞かせていた。
「これが、貴様の理想の果てだ!」
グライアの黒い神力が、無数の冷気となってゲネシスに襲いかかる。それは死の概念そのものを具現化したものであり、触れるものすべてを無に帰す力を持っていた。
ゲネシスは、白い神力で防御壁を張る。彼の力は生命の創造と維持。本来は攻撃的な性質ではないが、愛するグライアの攻撃を受け止めるため、必死で抵抗する。
「俺を罰したいだけだろう、グライア!君のその冷たい態度の裏にある焦りは、俺にはお見通しだ!」
ゲネシスは、痛みの中にもいつもの笑顔を忘れなかった。彼にとって、グライアが自分に真剣に向き合ってくれている証拠だと捉えていた。
「黙れ、変態」
グライアは顔を赤らめたが、攻撃の手は緩めない。彼女の怒りは、ゲネシスの無自覚な言葉に向けられたものではなく、この状況を作り出した世界に向けられたものだった。
戦いの余波は大きく、ゲネシスの神殿と庭園は瞬く間に荒廃していく。本来なら生命力に満ち溢れているはずの庭園の草木は枯れ果て、黒と白の力の衝突地点は、世界の終末を思わせる光景と化していた。
---
その頃、シルフィアとゼフィールは、天帝に最後の嘆願をしていた。
「どうか、新たな理の構築を試みさせてください!排除ではない、共存の道があります!」
シルフィアは必死に訴える。
「成功確率は?」
天帝は冷静に問う。
「……非常に低いです」
ゼフィールは正直に答える。
「しかし、このままでは世界の滅亡は避けられません。我々は、この可能性に賭けるべきです」
天帝は沈黙した。神々が世界の根幹に手を加えることは禁忌中の禁忌だ。しかし、目の前で世界が滅びかけているのも事実だった。
「ゼフィール、シルフィア。……許可する。だが、失敗すれば、お前たちにも重い罰が下ると思え」
天帝の言葉に、二人は深く頭を下げた。希望の光が見えた瞬間だった。
「グライア様とゲネシス様を止めないと!」
シルフィアは急ぎゼフィールと共に、二人が戦う境界へと急いだ。時間は残りわずか。二人の柱神の衝突は、世界の崩壊を加速させていた。
🔚
第十話:第三の道
グライアとゲネシスの激突は、もはや制御不能な領域に達していた。北の冷気と東の生命の輝きがぶつかり合う境界は、世界の理が捻じ曲がる特異点と化し、天界の空は不安定に歪んでいた。
「世界の、理に従え、ゲネシス!」
グライアは、自身の感情を押し殺し、冥府の神としての絶対的な使命感だけで動いていた。彼女の手のひらに集束する黒い神力は、触れるものすべてを無に帰す、究極の「死」の概念そのものだった。
「僕の理想は、間違っていない!全ての命は輝くべきだ!」
ゲネシスもまた、純粋な信念を曲げない。白い神力を防御に徹しつつも、反撃の意思を見せていた。
――**殺したくない。**
グライアの心の奥底で、長年隠し続けた本能が叫ぶ。次神になったばかりの頃から共に過ごし、あの命知らずなアピールを鬱陶しいと思いながらも、愛おしいと感じてきた日々の記憶が、頭の中を駆け巡る。
「…私は、死を司る者として、この世界の欠陥を正さねばならない」
自分自身に言い聞かせるように、グライアは力をさらに高める。その視線は冷たい氷のようだが、焦点が定まっていなかった。
――**殺さないとでも言うのか、柱神たる妾が!**
冷徹な「冥府之神」としての使命感と、一人の|女性《神》としての「ゲネシスを愛する心」が、彼女の中で激しい嵐となって渦巻く。普段の「無言の圧力」など比にならないほどの重圧が、彼女自身にのしかかる。
ゲネシスは、そのグライアの苦悩に満ちた表情を見て、静かに微笑んだ。
「大丈夫だよ、グライア。君の理は正しい。俺は、君に罰せられるなら本望だ」
その言葉が、逆にグライアの心を深く抉る。彼が自らの罰を受け入れようとしている純粋さが、彼女の迷いをさらに深くした。手が震え、集束した神力が不安定になる。
――**違う。妾は、貴方を罰したいんじゃない。**
その瞬間、彼女の力が最大になる前に、突風が二人の間に吹き荒れた。
「「やめて!」」
シルフィアとゼフィールが、風と共に二人の間に割って入ったのだ。シルフィアは身を挺してグライアの攻撃を受け止めようとし、ゼフィールは冷静な面持ちで彼らの力の衝突地点のすぐそばに立った。
「貴方たちの信念はどちらも間違っていない。だが、このままでは世界が滅ぶ」
ゼフィールは静かながらも強い意志を込めた声で宣言した。
「第三の道がある!」
🔚
第十一話:新たな理の提示
ゼフィールの言葉に、グライアとゲネシスは同時に攻撃の手を止めた。世界の崩壊を加速させていた黒と白の力の衝突は収まり、張り詰めた静寂が場を支配する。
「ゼフィール様、本当にあるんですか?誰も傷つかない道が!」
シルフィアは希望に満ちた目でゼフィールを見つめる。
ゼフィールは、事態の収束を見届けた後、冷静に口を開いた。彼の頭脳は、この瞬間のために何億通りものシミュレーションを重ねてきた。
「ゲネシスが犯した禁忌は、『寿命』という絶対的な『理』への干渉だ。そして、グライアの主張する『秩序の回復』もまた正しい。どちらかを完全に否定することはできない」
彼は、懐から取り出した水晶玉に、新たな「理」の概念図を投影した。
「僕が提案するのは、寿命を神々が任意に操作するのではなく、一定のルールに基づいたシステムとして再構築する案だ」
ゼフィールの説明は理路整然としていた。
「ゲネシス、君は『生命の創造』という根源的な役割は持つが、個々の命の寿命に直接干渉する能力は封印される。命の始まりは司るが、終わりは司らない」
ゲネシスは驚いた顔をした。それは彼の理想主義の一部を否定するものだったが、同時に多くの命を救う希望も見えた。
「グライア、君は『死』の管理者としての役割は継続するが、生命の循環システム全体を監視するという、より広範な役割を担う。死は世界のバグではなく、システムの一部となる」
グライアは黙ってゼフィールの話を聞いていた。彼女の「理」は守られる。だが、ゲネシスから活力を奪うことにもなる。
「このシステムを維持・監視するために、|風《ルシフィア》や|天候《僕》といった自然の力が連携する。四神全員で、新たな理を支えていくんだ」
ゼフィールは淡々とメリットとデメリットを提示した。この案ならば、世界の崩壊を防ぎつつ、二人を罰することなく解決できる。成功確率は低いが、不可能ではない。
ゲネシスは、自分の理想が完全に叶うわけではないが、世界もグライアも救える道に安堵した。
「俺は構わない。俺の我が儘のせいで、グライアやみんなを悲しませるわけにはいかないから」
ゲネシスは潔く提案を受け入れた。
残るはグライアの判断だった。彼女はゼフィールの論理的な説明と、シルフィアの希望に満ちた瞳、そしてゲネシスの穏やかな笑顔を見て、長年心に課していた「柱神としての使命」という鎖が解けていくのを感じた。
「……仕方ない。その案で、世界の『理』が保たれるなら」
グライアは、いつもの冷たい口調で同意した。しかし、その目には安堵の色が浮かんでいた。世界の秩序は守られ、何よりも、愛するゲネシスを失わずに済んだのだ。
こうして、四柱の神々は、誰も経験したことのない「新たな理」の構築という、壮大な挑戦に乗り出すことになった。
🔚
第十二話:理の再構築
四柱の神々が合意に至ったことで、新たな「|理《ことわり》)」の構築が始まった。それは悠久の天界の歴史においても前例のない試みであり、膨大な時間と労力を要するものだった。
舞台は、衝突の余波が残る東と北の神殿の境界。ゼフィールが中心となり、彼の膨大な知識と分析能力が設計図となった。
「ゲネシス、まずは君の『創造』の力を、個々の命ではなく、世界全体の『生命の根源』へと指向させてくれ。寿命への直接干渉能力は、このコアシステムで封印する」
ゼフィールは冷静に指示を出す。ゲネシスは自らの力が制限されることに一抹の寂しさを感じつつも、世界を救うため、そしてグライアを守るために、言われた通りに神力を制御した。
「グライア、君の『冥府』の力で、この新たなシステムの『終焉』の部分を定義する。死を世界の終端ではなく、新たな循環の始点として組み込むんだ」
グライアは、自身の役割が世界の「バグ取り」から「システムの管理者」へと変わることに、奇妙な高揚感を感じていた。彼女は冷徹な表情を崩さず、正確に神力を注ぎ込む。
そして、シルフィアの「風」の力が、循環を促す重要な役割を担う。
「ゼフィール様、これでいいですか?」
「ああ、完璧だ」
シルフィアの風の力が、構築されつつあるシステムの隙間を縫うように駆け巡り、淀んだ気の流れを整えていく。
四人の神力が一つに融合し、境界の空間に巨大な光の渦が発生した。それは世界の理を書き換える、神話的な光景だった。光は天界全体に広がり、やがて下界にも降り注いでいく。
世界の崩壊は止まった。生命の循環が正常に戻り始める。
「成功した……」
シルフィアが安堵の息を漏らす。ゼフィールもまた、わずかに口元を緩めた。
グライアとゲネシスは、公衆の面前では何も言わなかったが、二人の視線が交錯する。そこには、言葉にできないほどの安堵と、長年の愛が確かに存在していた。
天帝もまた、この偉業を認め、四柱の神々を罰することなく、むしろ「新たな理の守護者」として称賛した。
こうして、世界の危機は去り、天界には新しい時代の秩序が築かれた。しかし、この解決は、彼ら四人の関係性にも大きな変化をもたらすことになった
🔚
第十三話:和解と、初めてのキス
「新たな|理《ことわり》」の構築から数週間。
天界には穏やかな日常が戻りつつあった。世界の生命循環は安定し、神々はそれぞれの神殿で、新しいシステムの運用と監視に追われていた。
北の神殿にも、冷たい霧は残るものの、以前のような張り詰めた冷徹さは薄れていた。グライアは、新しい管理システムをチェックしていたが、その表情は以前より柔らかい。
「……遅い」
グライアがポツリと呟いた時、神殿の扉が開いた。入ってきたのは、花束を持ったゲネシスだった。以前のように「無言の圧力」に阻まれることも、蹴られることもない。
「ごめんよ、グライア。新しいシステムへの移行作業が少し手間取ってね」
ゲネシスは苦笑いしながら、色とりどりの美しい花束をグライアに差し出した。
「趣味に合わない」
グライアはそう言いながらも、その花束を受け取った。以前なら即座に凍らせていたかもしれないが、今日は違った。
「システムは安定しているようだな」
「ええ、問題ない」
二人の会話は、完璧な「仕事のパートナー」のそれだった。しかし、周囲に使用人はいない。二人だけの空間だ。
「……心配したんだぞ」
ゲネシスが真剣な表情で言った。対決の際、グライアが苦悩していたことに気づいていたのだ。
グライアは、ふいと顔を背ける。
「馬鹿なことを。妾は柱神としての責務を果たしたまでだ。私情はない」
いつもの強がり。しかし、ゲネシスは知っていた。彼女がどれほど自分を愛し、同時に秩序を愛しているかを。
ゲネシスはゆっくりとグライアに近づき、彼女の頬に優しく触れた。グライアは最初こそ抵抗を見せたが、その手が自分を傷つけないことを悟り、目を閉じた。
「……俺は、君を失いたくなかった」
ゲネシスの言葉に、グライアの目元が少し潤む。長年の秘密の関係の中で、彼から愛を告げられることはあっても、これほど真剣な言葉は初めてだったかもしれない。
そして、グライアは意を決して、長年の秘密の愛を形にした。
彼女はゲネシスの白いコートの襟を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「……うるさい」
そう呟き、グライアは自らゲネシスにキスをした。
驚いたのはゲネシスの方だった。普段はクールで、キスを迫れば蹴りが飛んでくる彼女からの、初めての積極的なキス。
二人の唇が離れた後、グライアの顔は真っ赤に染まっていた。「もう二度としないからな」と睨みつけるが、その表情は完全に「冥府之神」の仮面を脱ぎ捨てた、一人の女性のものだった。
ゲネシスは、鼻血を出しそうなのを必死で堪え、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、グライア。最高の『新たな理』の始まりだ」
こうして、世界の変革は、二人の関係にも確かな「変革」をもたらしたのだった。
🔚
第十四話:恋の相談と先輩カップルの助言
世界の「理」が再構築され、天界が穏やかさを取り戻して数週間。グライアとゲネシスは、公には相変わらず「仕事のパートナー」として振る舞いつつも、二人の間には以前よりも確かな絆と温かさが生まれていた。
そんな中、グライアの神殿に、少しソワソワした様子のシルフィアがやってきた。
「グライア様、あの……相談があるんです」
シルフィアは頬を赤らめながら、ゼフィールへの想いを改めて打ち明けた。世界の危機を乗り越えたことで、ゼフィールへの尊敬と恋心はより一層強くなっていたのだ。
「告白しようと思うんですけど、ゼフィール様っていつも真面目で、自分のことどう思ってるのか分からなくて……」
シルフィアは不安そうだ。グライアは、いつもの玉座に座りながら、少しだけ口角を上げた。
「ふん、あの|朴念仁《ぼくねんじん》め。世界の理は理解できても、女心は理解できんらしいな」
グライアは、ゼフィールがシルフィアの好意に全く気づいていないことに呆れつつも、自分たちの昔を思い出していた。ゲネシスという無自覚な変態の猛アピールを、仕事のプロであるグライアが受け入れるまでには、それこそ数年かかっていた。
「時には『無言の圧力』も有効だ。少し焦らしてみろ」
グライアは、自分の神殿への出入り制限を応用した、高度な駆け引きを指南する。シルフィアは目を丸くして「なるほど!」と感心する。純粋な彼女に駆け引きが通用するかは不明だが、そのアドバイスは彼女の背中を押した。
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一方、ゲネシスの神殿。ゼフィールが分析作業の合間に休息をとっていると、ゲネシスが隣に座った。
「ゼフィール、君、シルフィアちゃんの気持ちに気づいているんだろう?」
ゲネシスの直球な問いに、ゼフィールはピクリと反応した。
「観測データは揃っている。彼女の僕に対する好意を示す数値は高く、友人以上の感情を持っていると推測される。だが、僕の感情は世界の理の安定を優先しているため……」
「論理的な分析はいらないよ」
ゲネシスは笑った。
「優しすぎるのも問題だ。自分の幸せも創造しないと。愛は命の源なんだ、理想を大切に、真っ直ぐ向き合うといい」
ゲネシスは、自分の理想主義が招いた「禁忌」の反省を込めつつ、後輩の恋を応援した。
「時には、理屈を超えた行動も必要だ。諦めないことが大事だよ!俺はグライアに十発蹴られても諦めなかったからね!」
ゼフィールは、この「理解不能な現象」を前に少し引きながらも、彼の言葉に込められた真剣な想いを感じ取った。
「……検討してみる」
ゼフィールの短い返事だったが、その言葉には、論理だけではない、新たな決意が宿っていた。
こうして、先輩カップルの的確な(?)アドバイスを受けた二人。シルフィアの恋は、新たな段階へと進もうとしていた。
🔚
第十五話:天空神の決意と、風の告白
「ゼフィール様、ゼフィール様!」
新たな理の構築から数週間が経ち、シルフィアはゼフィールの神殿へと駆け込んだ。ゼフィールは相変わらず観測機器に向かっていたが、シルフィアの明るい声に、少しだけ表情を緩めた。
「どうしたんだい、そんなに慌てて」
ゲネシスからの入れ知恵か、ゼフィールの口調も少し柔らかくなっていた。
「あの、自分……ゼフィール様のことが好きです!恋人になってください!」
シルフィアは、グライアから教わった「駆け引き」を完全に無視し、ゼネシス直伝の「真っ直ぐ向き合う」作戦を選んだ。彼女の純粋な想いが、神殿内に吹き込んできた穏やかな風に乗ってゼフィールに届く。
ゼフィールは、初めて感情を剥き出しにしたシルフィアの姿に、目を見開いた。
「観測データは揃っている」
ゼフィールは静かに呟いた。
「君の僕に対する好意を示す数値は高く、友人以上の感情を持っていると推測される。だが、僕の感情は世界の理の安定を優先していた……」
ゼフィールは、過去の自身の分析結果を口にしながらも、目の前にいるシルフィアの輝くような笑顔を見て、データでは測れない「感情」という変数の重要性を悟った。
「馬鹿なことを。僕の心は、君という変数によって、すでに大きく変動している」
ゼフィールは、いつもの冷静さを失い、シルフィアの手をそっと握った。
「君を、愛している。共に、新たな理と共に歩んでいきたい」
普段は寡黙な彼からの、論理的でありながらも詩的な告白の言葉。シルフィアは嬉し泣きしながら、ゼフィールに抱きついた。
その頃、北の神殿では。
「ふん、あの朴念仁も、ようやく理を理解したようだな」
グライアは、神殿の窓から見える東の方角を見つめながら、満足そうに呟いた。
「俺たちも、お祝いしないとね!」
ゲネシスが楽しそうに笑う。
こうして、二組の神々の恋が成就した天界は、新たな秩序と共に、希望に満ちた未来へと進んでいくのだった。
🔚
第十六話:四神の新たな日常と、未来への誓い
シルフィアとゼフィールが恋人関係となり、天界は平和と活気に満ちていた。世界の理が再構築された今、四柱の神々は、新たな日常をそれぞれの形で謳歌していた。
北の神殿では、グライアとゲネシスの「秘密」の関係も、もはや公然の秘密となりつつあった。冬の朝4時の集合場所は、依然としてゲネシスの神殿だったが、それはもう「無断侵入」ではなく、定例の「ココア会」兼「打ち合わせ」となっていた。
「システムは完璧に機能しているようだな」
ゼフィールは、シルフィアの隣に座り、穏やかな表情で分析データを眺めている。以前の彼からは想像できないほど、感情を表に出すようになっていた。
「うん!みんなが幸せそうで、自分も嬉しい!」
シルフィアは風の力で小さな花びらを舞わせながら、楽しそうに笑う。
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一方、グライアとゲネシスは、いつも通りのやり取りを続けている。
「グライア、今日も一段と美しいよ!」
「うるさい、変態」
グライアは鼻で笑いながらも、彼の隣に座ることを拒まなかった。ゲネシスは、もはや彼女からのパンチや蹴りを受けなくても、十分に満足していた。
「しかし、俺たち四人が『新たな理』の守護者として、協力して働けるのは嬉しいね」
ゲネシスが言う通り、彼らの関係性は変化したが、世界の秩序はかつてないほど安定していた。彼らは仕事のパートナーとして、そしてプライベートなパートナーとして、互いを支え合っていた。
ゲネシスはふと、グライアの手を握ろうとするが、グライアはそれを察知し、素早く手を引っ込める。
「人前では、まだ早い」
「ええ〜」と不満げなゲネシス。その様子を見て、シルフィアとゼフィールは、かつて彼らが抱いた感想を、改めて抱いた。
「「よく今まで別れなかったな」」
二人は顔を見合わせ、静かに笑い合った。
天界の秩序は守られた。彼ら四柱の神々は、それぞれの愛の形と共に、永遠の時を穏やかに過ごしていく。
これは、壮大な神話の物語の終わりであり、彼らの「久遠の愛」の始まりを告げる記録――
『天界柱神録 ~久遠の愛と理の変革~』の、本編の結末である。
🔚
第十七話:エピローグ・語り継がれる柱神録
本編を見てから見てください
下界に季節が巡り、天界の「新たな理(ことわり)」が完全に定着してから、どれほどの時が経ったであろうか。世界の崩壊という危機の記憶は薄れ、四柱の神々の物語は、いつしか伝説として語り継がれるようになっていた。
北の神殿――今はもう「冥府」という言葉から連想されるような冷たさはない、穏やかな黒と白の神殿にて。
結婚し、永遠の伴侶となったグライアは、幼い神の子供たちに囲まれて座っていた。彼女の膝の上には、柔らかな風の精霊が眠っている。
「……それでね、その創造の神様は、愛しの彼女に会いたくて、何度も神殿に無断で入ろうとしたんだって」
子供たちが身を乗り出して話を聞く。「その時、冥府の神様は怒ったの?」と、一人の子供が尋ねる。
グライアは、昔とは比べ物にならないほど穏やかな、そして少しだけ懐かしそうな笑みを浮かべた。
「ええ、もちろんよ。最初はとても怒って、たくさん蹴飛ばしたわ」
「ええーっ!」と子供たちが驚きの声を上げる。
その時、神殿の入り口が開き、夫であるゲネシスが入ってくる。彼は手に、創造の庭園で摘んだばかりの、生命力あふれる美しい花束を持っていた。
「やぁ、みんな。グライア、お話は進んでいるかい?」
ゲネシスはグライアの隣に座り、花束を彼女に手渡す。グライアは少しだけ照れたように「遅い」と呟きながらも、花を受け取る。
「そのお話の続きはね……」
ゲネシスが楽しそうに話し始める。
そして、遠く創造の庭園の方向から、楽しそうな子供たちの声が聞こえてくる。
シルフィアとゼフィール――かつては片思いと寡黙な神だった二人も、今では四人の子供を育てる親となっていた。彼らもまた、新たな世界で、永遠の愛を育んでいた。
彼らの物語――「天界柱神録 ~久遠の愛と理の変革~」は、今も天界で、穏やかに、そして幸せそうに語り継がれている。
🔚
第十八話:後日談・天帝夫妻と変わらぬ日常
エピローグの後の、さらに具体的な「その後」
天界の秩序が完全に安定し、世界の理が滞りなく機能するようになってから、さらに長い時が流れた。
新たな秩序の構築に貢献した功績と、その後の安定した管理運営の手腕が評価され、シルフィアとゼフィールは、天帝の座を引き継いでいた。彼らの神殿は、今や天界の中心的な宮殿となり、以前にも増して活気に満ちている。
「いいか、世界の理を司る上で最も重要なのは、この観測データの精度だ。感情という変数は、時に安定を乱す。しかし、それを理解した上で受け入れることが、新たな天帝としての務めだ」
ゼフィールは、水色の髪色を持つ息子に、真剣な顔で天帝の仕事の基礎を教えている。息子の目は父親譲りの冷静さを持っているが、その頬は母親譲りの柔らかさを持っていた。
傍らでは、母親譲りの緑色の髪をした娘が、楽しそうに小さな風を起こして遊んでいた。彼女たちは、両親の血を引いているため、風か天候、どちらかの力を受け継いでいた。シルフィアはそんな家族を温かく見守っている。
「みんな、今日の仕事も頑張ろうね!」
穏やかで、しかし責任感に満ちた日常が、そこにはあった。
---
一方、北の神殿。
「グライア、俺たちもそろそろ子供を――」
ゲネシスが何かを言い終える前に、グライアの容赦ない蹴りが彼の腹部に命中する。「ぐはぁっ」と呻きながらも、どこか嬉しそうなゲネシス。
「妾にはまだ仕事がある。それに、バレるのは嫌だと言っただろう。この変態」
グライアは顔を赤らめながら、冷たい視線で言い放つ。彼女の心境は、永遠に変わることはないようだ。
「ひどいなぁ、愛しの君からの頼みじゃないか!」
「頼んでいない」
相変わらず物理的なコミュニケーションを取り合っている二人だが、その表情は穏やかだった。
遠い昔、世界を揺るがした四柱の神々は、それぞれの「愛」の形と共に、永遠の時を穏やかに、そして少し騒がしく過ごしているのだった。
彼らの物語――「天界柱神録 ~久遠の愛と理の変革~」は、ここに完結です。
🔚
『天界柱神録IF ~もしも四柱の神が高校生だったら~』
「グライア、好きだ!」
高校の昇降口。多くの生徒が見守る中、グネシスはグライアの前で膝をつき、バラの花束を差し出していた。
「……うるさい。趣味に合わない」
グライアは「じと目」で創真を一瞥し、冷たく言い放つ。彼女のクールな態度は、学校中の生徒の憧れだった。
「また振られてる……」
少し離れた場所で、シルフィアは呆れたように呟く。隣に立つゼフィールは、ポケットからノートを取り出し、冷静にデータ分析を始める。
「グライアの告白成功率は現在0%。告白回数42回。白石の拒絶率は98%だが、たまに微笑むことから、一定の好意は認められる」
「ゼフィール、相変わらず冷静だね」
とシルフィアは苦笑いする。
「それより、またあのパターンだよ」
案の定、創真は立ち上がり、満面の笑みを浮かべる。
「今日は無視じゃなくて『うるさい』って言ってもらえた!進歩してるよ、俺!」
その瞬間、グライアの容赦ない蹴りがグネシスの腹部に命中する。
「ぐはぁっ!」
「馬鹿なことを。これは進歩ではない、ただの物理攻撃だ。この変態」
グライアは顔を赤らめながら、冷たく言い放つ。グネシスは鼻血を拭いながら「最高!」と喜んでいる。
「シルフィア、ああいう男は気をつけたほうがいいぞ。大半は変態だ」
零士がグライアに冷静に助言する。グライアは「そうね」と頷き、創真をもう一度睨みつけた。
神としての記憶はないけれど、彼らの関係性は、この現代の学園生活でも変わらないようだった。
🔚
後日談:神々の休日
エピローグ後の時間軸
天界の仕事が一段落し、四人は下界の海へと降りてきていた。彼らは神としての姿を保ちつつも、下界の目を欺くために、現代的な水着姿に身を包んでいた。
「わぁ!海だぁ!ゼフィール様、綺麗!」
シルフィアは、母親になっても変わらない無邪気さで、ゼフィールに駆け寄る。ゼフィールは穏やかに微笑み、彼女の手を握る。
「ああ、下界の海流は天界のデータとはまた違った複雑さがある。興味深い」
彼は相変わらず冷静に分析しているが、その目は明らかに楽しんでいた。
一方、ゲネシスはすでに海に飛び込んでいた。
「グライア!水が気持ちいいよ!一緒に入ろう!」
満面の笑みで手招きするゲネシスを見て、グライアは「じと目」になる。彼女は黒いクールな水着姿で、パラソルの下で腕組みをしていた。
「うるさい。妾は仕事の合間に日焼けなどしたくない」
「そんなこと言わないでさ!」
ゲネシスは泳ぎながら、グライアの方へと近づいてくる。
「次来たら蹴るぞ」
「ええ〜、愛しの君からの頼みなら喜んで受けるのに!」
ゲネシスがグライアの足元まで来た瞬間、グライアの容赦ないつま先が、彼の顔面にヒットする。
「ぐふぅっ!」
「馬鹿なことを。これは休暇だ、仕事は持ち込むな」
グライアは冷たく言い放つ。
「相変わらずだね、あの二人」
シルフィアは笑いながら、ゼフィールにもたれかかる。
「自分たちが初めて出会った頃から、何も変わらない」
「ああ、変わらないことが、我々の『永遠』の幸せなのかもしれない」
ゼフィールはそう呟き、空を見上げた。天界の空とは違う、下界の青く澄んだ空。
ゲネシスは鼻血を出しながらも、嬉しそうに海から上がってくる。
「やっぱりグライアの蹴りは最高だ!」
と叫ぶ彼を見て、グライアは呆れた顔をするが、その表情は心底幸せそうだった。
神々にとって、悠久の時の中で繰り返される、こんな何気ない「日常」こそが、何よりも代えがたい「久遠の愛」の証なのかもしれない。
🔚
番外編 其の一:過去編 - 「次神」時代の始まりと二人の出会い
「次神」に昇格し、天界に己の神殿を与えられたばかりの頃。ゲネシスは、自分の神殿の場所を確認し、天界を散策していた。彼は生まれながらの理想主義者で、世界のすべてが愛おしかった。
その時、彼の視界に、北の方角にある黒い神殿が飛び込んできた。常に冷たい霧に包まれたその神殿は、他の華やかな神殿とは一線を画していた。そして、その入り口に立つ、白髪ロングのクールな女性――グライアに、ゲネシスは一瞬で心を奪われた。
「なんて神秘的で、美しいんだ……!」
ゲネシスは、一目散にグライアの元へと駆け寄った。
「こんにちは!俺は創造の神、ゲネシスと言います!貴方は?」
グライアは、突然の訪問者と、その眩しい笑顔に少し引いていた。
「……冥府之神、グライア。用がないなら帰れ」
「つ、冷たい!でもそこがまた素敵だ!」
ゲネシスは全くめげない。
その日から、ゲネシスの「冥府神殿アタック」が始まった。
「グライア!君の好きな冷たいお菓子を持ってきたよ!」
グライアは「いらん」と即答し、お菓子を一瞬で凍らせて粉砕した。
「次は神殿の結界を突破しようとしたな」
グライアは怒り心頭で、神殿内に侵入したゲネシスに「死の宣告」の概念的な攻撃を放つ。ゲネシスは危うく消滅しかけながらも、「愛の攻撃!最高!」と喜んでいた。
---
ある日、ゲネシスは「死を司る神の家に入るには、一度死ぬ必要がある」という独自の解釈に基づき、自ら命を絶とうとした。
「馬鹿なの!?妾の仕事を増やすな!」
グライアは慌ててゲネシスの自害を止めに入り、その際に二人きりの空間で初めてまともに会話をした。ゲネシスの純粋な理想を聞くうちに、グライアの氷のような心にも少しずつ変化が訪れた。
数年のアタックと、十数回の気絶を経て、最終的にグライアが
「もう好きにしろ、ただし人前ではイチャつくな」
と根負けし、二人の秘密の関係が始まったのだった。
🔚
番外編 其二:シルフィア視点編 - 「私が知る神々の秘密」
本編1話から7話の時間軸
私がグライア様の神殿に唯一入れる精霊長になってから、私の日常は少しだけ賑やかになった。特に、ゲネシス様とグライア様の間には、いつも不思議な空気が流れている。
「グライア様、ゼフィール様って本当に素敵なんです!でも、私のことなんて見てくれないかなぁ……」
グライア様は私の恋バナをいつも楽しそうに聞いてくれる。でも、「あの朴念仁」って言葉、愛があるようなないような……。
ある冬の朝4時。みんなでゲネシス様の神殿に集まった時、私は決定的な現場を見てしまった。
ゲネシス様に蹴りを入れたグライア様が、「こういう男は気をつけろ、大半は変態だ」と言った後、ゲネシス様が「ひどいなぁ、私は君だけの理想主義者だよ」と笑ったの。
グライア様の顔が、少しだけ赤かった気がする。
「あれ?変態って言われてるのに、嬉しいのかな?」
私はゼフィール様にこっそり聞いてみた。ゼフィール様は「理解不能」と言っていたけど、私には分かった気がする。
ゲネシス様の真っ直ぐな想いと、グライア様の隠された優しさ。きっと、二人は私たちが知らないだけで、とっくに両思いなんだ。
(自分も、ゼフィール様に真っ直ぐぶつかってみよう!)
私は風の精霊。真っ直ぐな風のように、恋心も真っ直ぐ届けるんだ。二人の秘密を知った私は、少しだけ大人になった気分だった。
🔚
番外編 其三:ゼフィール視点編 - 「天空神の冷静な分析と、理解不能な恋」
本編8話から15話の時間軸
僕は天空ノ神ゼフィール。世界の理を司る上で、感情という変数は常にノイズでしかない。しかし、最近私の観測データはノイズに満ちている。
ゲネシスとグライアの関係性だ。
「本日4時12分、ゲネシスがグライアに顔面を殴打される。ゲネシス、快感を示す数値が上昇。グライア、羞恥心を示す数値が微増」
僕は冷静に記録する。この二人の関係は、僕の論理的な思考では完全に「理解不能な現象」だった。なぜ、あれほどの物理攻撃を受けながら、関係が破綻しないのか。
そして、もう一つのノイズは、小精霊シルフィアの存在だ。
「僕だけに対する好意を示す数値は高く、友人以上の感情を持っていると推測される」
データはそう示しているが、僕には「愛」という概念が理解できない。世界の理の安定を優先する私にとって、彼女の感情にどう応じるべきか、答えは出ない。
そんな折、世界の理が崩壊するという非常事態が発生した。原因はゲネシスの禁忌。僕は解決策を分析する。「排除」か「新たな理の構築」か。
グライアは「排除」を選んだ。彼女の論理は正しい。ゲネシスを討伐することが、最も単純で合理的な解決策だ。
しかし、僕のデータ分析はもう一つの可能性を示唆していた。シルフィアという「感情」の変数が、低確率だが「新たな理」の構築という解決策に光をもたらす可能性を示していたのだ。
僕は、長年の分析データと、シルフィアの真っ直ぐな瞳を見て、非論理的な選択をした。「第三の道」に賭けるという選択を。
「理解不能な現象」は、もしかしたら、世界の理を超える力を持っているのかもしれない。私はそう結論付け、シルフィアと共に戦場へと急いだ。
🔚
番外編 其四:グラ×ゲネの日常風景
天界には平穏が戻り、天帝となったシルフィアとゼフィールが多忙を極める中、グライアとゲネシスは比較的穏やかな日々を送っていた。相変わらず二人の関係は「公には秘密」だったが、もはや隠し立てする理由もなかった。
その日、ゲネシスは北の神殿を訪れていた。グライアは自室で、下界の魂の新しい循環システムに関する報告書に目を通している。
「やあ、グライア。集中してるね」
ゲネシスは、彼女の背後に音もなく現れ、驚かせようとした。
「……うるさい」
しかし、グライアは振り返りもせず、ペンを走らせる手を止めない。
「今日も仕事熱心だなぁ。休憩しないかい?俺特製の、生命力あふれるフルーツタルトがあるんだけど」
ゲネシスが甘い声で誘うが、グライアはため息をつく。
「いらん。それより、東の地区のシステムバグの報告はまだか?」
「ああ、あれならもう修正済みだよ。完璧だ」
ゲネシスは得意げに笑う。
その笑顔が、グライアには心底気に食わなかった。仕事は完璧にこなすのに、プライベートではあの調子だ。
グライアは報告書を乱暴に閉じ、立ち上がった。
「グライア?」
ゲネシスが首を傾げた瞬間、グライアの容赦ない足払いがゲネシスの足元を襲う。ゲネシスは体勢を崩し、後ろに倒れそうになる。
「うわっと!」
しかし、彼はすぐさま創造の力で体勢を立て直し、にこやかに笑う。
「今のなんて、まるで昔を思い出すね!昔はよく気絶させられたものだよ、最高の思い出だ!」
「気味が悪い」
グライアは冷たく言い放ち、もう一度、今度は鳩尾に拳を叩き込んだ。
「ぐふぁっ!」
「妾の仕事の邪魔をするなと言っている」
「はいはい」
ゲネシスは痛みを感じつつも、嬉しそうだ。
二人のやり取りは、何億年経っても変わらない。しかし、その根底には、世界の危機を共に乗り越えた深い信頼と絆があった。
「タルト、本当にいらないのかい?」
「……一つだけなら、食べてやる」
グライアはそう呟き、ゲネシスと共にティーセットの準備を始める。
世界の秩序は保たれ、二人の愛もまた、この物理的な(?)日常の中で、永遠に育まれていくのだった。
🔚
番外編 其五:ゼフィ×シルの天帝日常
天帝の宮殿は、以前にも増して活気に満ちていた。天帝となったゼフィールとシルフィアは、世界の新たな「理(ことわり)」の中心として、多忙な日々を送っていた。
宮殿の一室、執務室には、ゼフィールが長年愛用していた観測機器が持ち込まれていた。
「ゼフィール様、今日の会議の資料、揃いましたよ」
シルフィアは、母親になっても変わらない明るい笑顔で、資料をゼフィールに手渡す。彼女の風の力は、今や世界全体の循環を司るほどに成長していた。
「ありがとう、シルフィア。これで今日の議題はスムーズに進むだろう」
ゼフィールは、シルフィアの手をそっと握り、感謝を伝えた。かつては感情を表に出さなかった彼だが、今では妻となったシルフィアへの愛情を素直に表現するようになっていた。
「世界の理を司る上で最も重要なのは、この観測データの精度だ。感情という変数は、時に安定を乱す。しかし、それを理解した上で受け入れることが、新たな天帝としての務めだ」
ゼフィールは、執務室の片隅で遊んでいる息子(水色の髪色)に、真剣な顔で天帝の仕事の基礎を教えている。息子の目は父親譲りの冷静さを持っているが、その頬は母親譲りの柔らかさを持っていた。
「お父様、この数値の異常は、下界の第六地区での小さな嵐が原因だと思います」
「そうだね。よく気づいた」
ゼフィールは満足そうに頷く。
その傍らでは、母親譲りの緑色の髪をした娘が、楽しそうに小さな風を起こして遊んでいた。
「私も早くお母様みたいに、大きな風を起こしたい!」
と無邪気に笑う娘を、シルフィアは温かく見守る。
「みんな、今日の仕事も頑張ろうね!」
穏やかで、しかし責任感に満ちた日常が、そこにはあった。グライアとゲネシスのような物理的な衝突はないけれど、彼らの間には確かな信頼と、家族としての深い愛が流れている。
世界の秩序は保たれ、二組の夫婦は、それぞれの「愛」の形と共に、永遠の時を穏やかに過ごしているのだった。
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番外編 其六:僕だけの特別な愛
「……それで、グライア様がその『特別な挨拶』とやらを?」
天界の神々が集まる休憩所にて。若い司神たちが、ゲネシスとグライアの「お約束」の話題で盛り上がっていた。
「ああ!彼女の神力がこもった挨拶は最高だ!愛の証拠だからね!」
ゲネシスは満面の笑みで語る。
その様子を見ていた数人の同僚が、興味本位で「自分たちも試してみよう」という結論に至った。
「なあ、ゲネシス。その『特別な挨拶』とやらを、俺たちも体験させてくれないか?」
「そうだ!俺も神力のこもった挨拶が欲しい!」
同僚たちがゲネシスに詰め寄る。グライアはそれを遠巻きに見て、「馬鹿な奴ら」と冷たい視線を送っていた。
しかし、次の瞬間、ゲネシスの表情から笑顔が消えた。彼の顔は真剣そのもので、そこには創造神としての威厳すら漂っていた。
「……何を馬鹿なことを言っているんだ」
ゲネシスの低い声に、周囲が静まり返る。
「俺の特別な行動に触れていいのは、グライアだけだ。他の誰にも、彼女の神聖な力に触れる権利はない!」
ゲネシスは怒っていた。彼の愛は、あくまでグライア限定の特別なものだったのだ。
困惑を通り越して、もはや理解不能な光景を前に、同僚たちは顔を見合わせた。グライアは、その光景を見て「……変わったやつが、何カッコつけてんだか」と内心毒づきながらも、彼の隣に歩み寄り、いつものように軽く触れた。
「ぐふぁっ!」
「馬鹿なことを言っていないで、仕事に戻れ」
「はい、愛しのグライア」
結局、二人の関係は永遠に、他の誰にも理解できない「理の外」のままなのだった。
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