悠久の時を生きる天界の神々。彼らの世界は、天帝を頂点に、「柱神」「精霊」といった厳格な階級と、「理(ことわり)」と呼ばれる世界の法則によって秩序が保たれていた。
物語は、世界の根源的な力を司る四柱の神を中心に展開する。
ゲネシス(創造之神)は、理想主義者ゆえに「全ての命を救いたい」と願い、下界の生命の寿命に密かに干渉し続けていた。この禁忌は、長年秘密の恋人関係にあるグライア(冥府之神)への愛情表現?としての猛アピールと同様、彼の純粋な信念からくるものだった。
しかし、その小さな禁忌の積み重ねが、やがて世界の「理」のバランスを大きく崩壊させ始める。
下界では死が機能しなくなり、天界全体に未曾有の危機が訪れる。
事態の深刻さにいち早く気づいた、ゼフィール(天空ノ神)の分析により、原因がゲネシスの禁忌にあることが発覚する。
天帝から下された勅命は、「秩序を乱す者への罰」。
秩序を絶対とするグライアは、愛するゲネシスを討つか、世界の崩壊を見過ごすかという、究極の選択を迫られる。彼女は私情を押し殺し、「冥府之神」としてゲネシスの排除を決意する。
二柱の神が衝突し、天界が揺らぐクライマックス。
シルフィア(小精霊)とゼフィールは、天帝から得た僅かな許可を手に、二人の間に割って入る。
彼らが提示したのは、「排除」ではない、「新たな理の構築」という第三の道だった。
葛藤の末、四人の神々は手を取り合い、それぞれの神力を融合させて世界のシステムを再構築する。
世界は救われ、危機を乗り越えたことで、彼らの絆はより一層深まる。
秘密だったゲネシスとグライアの関係は公然のものとなり、ゼフィールとシルフィアもまた恋人同士となる。
四人は「新たな理の守護者」として、穏やかで希望に満ちた永遠の日常を歩み始めるのだった。
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目次
第0話:『天界柱神録』を彩る神々
グライア(Graia)
名前: 冥府之神
年齢: 数十億年
性別: 女子
階級: 柱神 / 正神
役割: 死を司る者。死をもたらす神。
容姿: 黒いロングコートに白髪ロングでジト目。
性格: シャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ)。表向きは冷徹でクールだが、心を許した相手には情を見せるツンデレ。プロ意識が高く、仕事とプライベートの区別は厳格(すぎる)。
特徴:
神殿は北の方角。黒色を基調とした閉鎖的な建物で、常に冷たい霧が立ち込めている。他の神々に対しては「無言の圧力」で拒絶する。
恋人のゲネシスからのアプローチにはドン引きし、容赦ない物理攻撃(蹴り)を浴びせるが、内心では満更でもない。
シルフィアの恋事情だけは特別に好きで、妹のように可愛がっている。
ゲネシスとは次神時代からの長年の恋人だが、公には秘密。
ゲネシス(Genesis)
名前: 創造之神
年齢: 数十億年
性別: 男子
階級: 柱神 / 正神
役割: 命を司る者。生命を創造した神。
容姿: 白いロングコートに白髪の短髪で吊り目。
性格: 優しく明るい青年風で、誰にでも寿命などを分けられる。理想主義者。恋愛に関しては非常に情熱的かつ行動的(そして無自覚なドM気質)。
特徴:
神殿は東の方角。「創造の庭園」に隣接する、白と朱色、緑を基調とした開放的な建物。
グライアに猛アピールし続け、ドン引きされながらも交際まで漕ぎつけた立役者。グライアに蹴られても「愛の鞭!」と喜ぶ。
その優しさゆえに禁忌を犯し、物語の主要な引き金となる。
シルフィアとゼフィールの恋を、先輩として温かく見守っている。
ゼフィール(Zephyr)
名前: 天空ノ神
年齢: 数十億年
性別: 男子
階級: 次神 / 司神
役割: 気候を変える者。気候神。
容姿: 青色ロングコートに水色髪色のウルフカットのぱっちり目。
性格: 大人しめであまり自分のことを話さない。思慮深く冷静。非常に論理的で、感情の機微には疎い。
特徴:
神殿は北西の方角。青色の屋根を持つ壮大な建物。天候観測設備がある。
寡黙だが、仕事に関しては真摯に対応する。
世界の「理」の欠陥にいち早く気づく知的な側面を持つ。
シルフィアの好意には気づいていない(鈍感)。グライアとゲネシスの関係性は「理解不能な現象」として捉えている。
シルフィア(Sylphia)
名前: 小精霊(精霊長)
年齢: 数億年(数億歳前半)
性級: 精霊
役割: 風を呼び起こす物。風神。
容姿: 薄緑のロングコートに緑色の髪色でボブの垂れ目。
性格: 明るいが内向的な性格。仲の良い4人(特にグライア)といる時は普通の女の子。純粋で行動的。
特徴:
4人の中では最年少で、階級も一番下。周りからは妹のように思われている。
ゼフィールのことを気になっており、恋心を抱いている。
グライアの神殿に唯一出入りできる外部の存在であり、物語の鍵を握る仲介役となる。
ゲネシスがグライアに蹴られる様子を見て、「すごいポジティブ」と感心している。
第一話:北の神殿と、小さな平穏
広大な天界には、数多の神々が存在する。彼らはその誕生の古さや司る概念の大きさによって階級が定められていた。頂点に座すは|数澗歳《すうかんさい》を超える|天帝《てんてい》。その下に、世界を形作る根源的な力を司る
「|柱神《はしらかみ》」、そして「|次神《じしん》」が続く。彼らの年齢は数億、数十億歳にも及ぶ。
死を司る柱神、グライアは、今日も北の方角にある自らの神殿の玉座に座していた。黒色を基調とした閉鎖的な建物は、常に冷たい霧が立ち込め、他の神々は「無言の圧力」を感じて容易に近づけない。
「……退屈だな」
グライアがポツリと呟く。彼女の役割は、下界の命の終わりを見守ること。
本来であれば常に忙しいはずだが、最近の下界は比較的平穏だった。
その気だるげな「じと目」は、この平穏すら皮肉にも面白くないと感じているようだった。
その時、神殿の重々しい扉が、からりと音を立てて開いた。無言の圧力をものともせず入ってきたのは、薄緑色のコートを着た、緑髪ボブの精霊――シルフィアだった。
「グライア様!遊びに来ました!」
シルフィアは、この神殿に唯一自由に出入りできる外部の存在だ。グライアの表情は、シルフィアの姿を見た瞬間、少しだけ和らいだ。
「うるさい精霊だな。勝手に入ってきて」
「えへへ、だってグライア様、いつもここにいるんだもん」
シルフィアはグライアの玉座の階段に腰掛け、ゼフィールへの淡い恋心を語り始める。グライアは
「他人の不幸(恋バナ)」を喜ぶシャーデンフロイデな性格を発揮し、
「ふん、あの天空神は鈍感そうだし、上手くいくかしらね」
と、妹のように可愛がりながら話を聞く。
---
一方、東の方角。「創造の庭園」に隣接する、白と朱色、緑を基調とした開放的な神殿では、真逆の光景が広がっていた。
「もっと命を輝かせていいんだよ!」
創造之神ゲネシスは、今日も下界の生命の寿命に干渉していた。悪意はない。
ただ純粋な理想主義者として、全ての命を救いたいという優しさからくる行動だった。彼は白いロングコートを翻し、誰に対しても優しく接する。彼の神殿への出入りは自由で、助けを求める者を拒まない。
しかし、その優しさが世界の「理」を少しずつ歪めていることに、彼自身は気づいていない。
---
そして、北西の神殿。ゼフィールは青色の屋根を持つ壮大な建物の中で、天候観測設備を睨んでいた。寡黙で思慮深い彼は、世界のバランスを示す数値の微細な変動に、いち早く気づき始めていた。
「……世界の『理』に、歪みが生じている」
ゼフィールの呟きは、誰にも届くことはなかった。
それぞれの「日常」が流れる中、神々の世界を揺るがす大きな異変の兆候は、すでに忍び寄っていた。
🔚
第二話:冬の朝4時と、変わらぬ風景
下界が冬の深い眠りにつく頃、天界には少し奇妙な「冬の恒例行事」があった。
早朝4時。まだ夜の帳が下りたままの時間帯に、東の方角にあるゲネシスの神殿前。
「しーっ、行くぞシルフィア」
北の神殿から移動してきたグライアが、人差し指を唇に当てて注意を促す。隣には、少し興奮気味のシルフィアがいる。ゼフィールはすでに到着しており、神殿の入り口で静かに待機していた。
「毎回思うが、許可は得ているのか?」
「許可を取ったら、この行事の意味がないだろう」
ゼフィールの冷静な問いかけを、グライアは一蹴する。ゲネシスは「創造の庭園」に隣接する自室で、心地よさそうに寝息を立てているはずだった。
三人は忍び足で神殿の中へと入っていく。ゲネシスの神殿は開放的な造りのため、早朝のひんやりとした空気が心地よい。
「おはよう、ゲネシス様!」
「うるさい、シルフィア。起こすなよ」
シルフィアが元気よく駆け寄る一方で、グライアは早速彼のベッドサイドに陣取り、寝顔をじと目で眺めている。ゼフィールは慣れた様子で、神殿内の観測機器の電源を入れる。彼らにとって、ここは冬の間の「無断休憩所」兼「打ち合わせ場所」だった。
数分後、ゲネシスがようやく目を覚ます。
「んん…あれ?みんな、どうしたんだい?こんな朝早くから」
目をこすりながら首を傾げるゲネシスに、グライアは冷たく告げる。
「冬の集合場所に使わせてもらってる。許可は取っていない」
「無断でごめんね、ゲネシス様!」
シルフィアが頭を下げる。ゼフィールは淡々と「ココアの生成を頼む」と注文する。
ゲネシスは一瞬呆気にとられた後、満面の笑みを浮かべた。
「なんだ、みんな僕に会いたかったのかい?嬉しいなぁ!もちろん、好きなだけ使ってくれていいよ!」
その純粋な笑顔が、グライアには心底気に食わなかった。
「ふん」
グライアの容赦ない拳が、ゲネシスの鳩尾(みぞおち)に命中する。
「ぐはぁっ!」
「痛っ!」と声を上げるゲネシスだが、すぐに「愛の鞭だ!嬉しいなぁ!」
と満面の笑みを浮かべる。
「いいか、シルフィア」
グライアはため息をつきながら、鼻血を出しつつも嬉しそうなゲネシスを指差す。
「こういう男は気をつけたほうがいいぞ。大半は変態だ」
ゲネシスは笑いながらいう
「ひどいなぁ、俺は君だけの理想主義者だよ」
シルフィアは目を丸くして二人を見比べ、「は、はい!グライア様!」と元気よく返事をした。ゼフィールだけは少し離れた場所で、この光景を「理解不能な現象」として冷静に観測データに記録した。
天界の冬の朝は、いつもと変わらない騒がしさで幕を開けた。
🔚