某月12日。1便の航空機が墜落した。
そこには中学生女子がいた。夏休み終了1週間前に、5日間母方の祖父母の家にいる予定で、そのために1人で飛行機に乗った。
果たしてその少女とその家族の運命は?
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目次
同じ空の下で #1
某月12日。1便の航空機が墜落した。
そこには中学生女子がいた。夏休み終了1週間前に、5日間母方の祖父母の家にいる予定で、そのために1人で飛行機に乗った。
ー墜落前ー
縦横にフラフラと揺れる飛行機。客室を覆う白い煙。冷静なCAのアナウンス。
私はあまりの出来事に驚いていた。この時が最期になるかもしれない。このまま知らない人たちに囲まれてこの世を去るのかもしれない。
頭の中には家族のことでいっぱいだった。祖父母が自分の訃報を聞いたらどんなに悲しむことか…。両親、兄はどんな反応をするんだろう。
同じ飛行機に搭乗している人の中には遺書か何やらを書いている人がいた。私も書くべきだろうか。
いやいや、私が死ぬとは限らない。
もしかしたら生きているかもしれない。希望を捨ててはダメだ。
アナウンスで着陸態勢(安全態勢)の指示が出た。私は頭を抱えて膝と膝の間に顔を突っ込んだ。
激しい衝撃と音が聞こえた…。
ふと目が覚めると空は暗かった。周りから何人かのハアハアという呼吸が聞こえてきた。私も荒い呼吸をしていた。
まだ生きている人がいる…!
なぜか妙な安心感と不安が込み上げて来た。
早く救助が来ないか…早く祖父母の家に行きたい…
起きあがろうとすると右腕が何かの下敷きになっていることに気づいた。起き上がれない。
頭の中に家族のことがずっと浮かんでいた。心配しているだろう。もしかしたら死んでると思って泣き崩れてるかも。
後悔が押し寄せて来た。なんで。この飛行機にのらなければこんな事故には遭わなかった…。
頭で色々考えていくうちに考えがまとまった。
事故に遭ってしまったのは仕方がない。このまま頑張って生きよう。
気づけば周りの人のハアハアという呼吸音は小さくなっていた。
もう、寝たのだろうか。それとも死んでしまったのかな。
瞼が重くなり、目を瞑った。
ー母・光代視点ー
私は長女よりも一足先に長男と2人で実家に帰っていた。
飛行機が到着する時間になっても長女から連絡は来なかった。心配して連絡しても返事は来なかった。
リビングでテレビを見ていた長男が急に私を呼んだ。
「お母さん、お母さん、これ茉梨が乗ってる飛行機じゃない?」
慌てていくと飛行機墜落の報道が流れていた。見た時、頭が真っ白になった。
機種の番号が同じだった。
「…うそ…まり…」
一番最初に出て来た言葉だった。道理で連絡がつかないわけだ。つくわけがない。
それぐらい激しく機体は損傷していた。痛々しい墜落現場の画像が流れる。
急いで夫に連絡した。
2話は10月16日(月)8時30分公開です。
同じ空の下で #2
激しい衝撃と音が聞こえた…。
ー翌日の朝 茉梨視点ー
朝、木と木の間から差し込む太陽の光で起きた。あたりは少し肌寒く、静かだった。
「あれは夢ではなかった…」
飛行機墜落は事故ではなかったと自覚した。きっとこの事故のことを家族は知っているだろう。
そういえば機内モードにする前、碧翔に飛行機にのることを伝えた…な…
碧翔は1ヶ月前から付き合っている、家族絡みで仲良くしている幼じみだった。はとこのいとこという遠い親戚でもある。
連絡して来てたら勘付いているかもしれない。
救助はまだ来てないんだろうか。他の人はまだ生きているのか。いつ救助が来るのか。
今の状況では疑問が次々と浮かんだ。
何度も何度も起き上がろうと試みた。右腕にのっかかる物体は動かない。
もうダメだと思って休憩した。何時間も考え事をした。昨日と同じように。
時間が経つごとに右腕からSOSを感じた。物凄い痛みが来るようになった。
もうダメだと思い、意識を失いそうになった瞬間だった。
「誰かいませんかー?いたら合図を送って!」
男性の声がした。私は咄嗟に左手を上げて手を振った。手を振って数分後やっと気づいてもらえた。
「あ!そこに人がいるぞ!」
足音が段々と近づいて来た。
右腕の上の障害物が動かされ、救助された。
涙が出て来た。ここまで待ってよかった。男性に救助され、安心感が出たためか眠気が襲って来た。
私は目を瞑った。
次に目が覚めたのは施設のベッドの上だった。
隣に看護師らしき女性がいた。
「大丈夫ですか?」
「…はい。」
こんな感じで短い会話を終えた後、看護師はどこかへ行った。
しばらくすると医師が来た。
「ここがどこかわかりますか?」
医師は覗き込むようにこちらを見ながら尋ねた。
「どこか…病院…ですか?」
正直どこかわからなかった。
「そうです。ここは病院です。名前は?」
「赤木…赤木茉梨…」
「何歳ですか?」
「…15…です。」
医師は私が言ったことをメモすると部屋を出ていった。
私はため息をついて天井を見上げる。疲れを感じる。眠たい。
ー母・光代ー
茉梨のことがずっと心配でリビングのテレビはつけっぱなしだった。
「速報です。先日発生した青空航空518便が墜落した事故で生存者が3名発見されました。」
このアナウンスが流れた時、私の両親、長男4人揃ってテレビの前へ行った。
「生存者は道枝優子さん、吉井圭さん、赤木茉梨さん…」
「お母さん!茉梨が!」
茉梨の名前を聞いた時、驚きと喜びが混ざった複雑な感情だった。そして、涙が出て来た。
茉梨がどれだけ辛い思いをしたことか。
私と長男は急いで墜落地に向かった。
新幹線で移動している時、長男が目に涙を浮かばせていた。
3話は10月23日(月)8時30分公開です。
同じ空の下で #3
ー到着後 兄・結弦視点ー
「茉梨…」
妹はゆっくり目を開けた。
「結弦兄さん…」
茉梨のほっぺには傷ができていた。あんなに綺麗な肌だった茉梨が沢山傷を負っている。
「茉莉、恐っただろうに…よく頑張ったな。」
茉莉は無言で僕の目を見つめ、微笑んだ。
喋る気力は残ってなさそうだった。すぐに茉梨は目を閉じた。
目に涙が溜まって、溢れた。15歳の妹が孤独を耐えて、1人で長い間救助を待った。飛行機が揺れている時、どんなに怖かっただろう。想像するだけで妹を誇らしく思った。
気づけば母は隣で目を真っ赤にして泣いていた。
「茉梨。よく頑張ったわね。本当に、本当に。辛い思いしたよね。」
母はそっと茉梨の左手を握った。左腕にも沢山傷ができていた。
自分なら遺書を書いていただろう。もうダメだと思ってずっと寝ていただろう。そのまま寝て結局見つけられず、数日後に遺体として発見されていただろう。
もし茉梨が死んでたら僕はどんな反応をしただろうか。
ー碧翔ー
あれから連絡が来ない。いつも連絡をくれるのに。
テレビでニュースを見ていたその時、聞き覚えがある名前が報道された。
「生存者は道枝優子さん、吉井圭さん、赤木茉梨さん…」
赤木茉梨?まさか。あの墜落した飛行機に乗っていたのか。一応連絡する。
「大丈夫?」
茉梨の携帯が墜落で壊れている可能性だってある。念のため結弦くんに連絡しようかな。
「事故の報道聞きました。茉梨さんは大丈夫ですか?」
あんな大規模な墜落事故を見事に生き残った。これは奇跡としか言いようがない。
月曜日学校に行ったらみんな知っているのだろうか。
今すぐにでも茉梨のところに行きたい。話したい。
その時、結弦くんから1通のメールが来た。
ー結弦ー
妹の寝顔を見守る母に「ちょっとコンビニに行ってくる」と言って病院の近くにあるコンビニに向かっている途中だった。碧翔くんから連絡が来た。
「事故の報道聞きました。茉梨さんは大丈夫ですか?」
碧翔くん、本当に茉梨のこと好きなんだな。そう思ってつい笑ってしまった。碧翔くんが小学校の頃からそんな気はしていた。
「傷だらけでかわいそうだよ…どうやら右腕が骨折しているようだ。」
ここまでうって考え直した。碧翔くんにこのまま伝えた方がいいのだろうか。
碧翔くんには元気だと伝えたほうがいいのではないか…
僕はこのまま長らく手を止めていた。