これは、先輩と俺の真夜中のストーリー。
こんな俺でも先輩の感情の意味、理解できますか?
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目次
本編
ある日、いつも通りぼっちで、人と関わることを避けていた俺は近所の川の様子を見に、橋を渡った。
夜風が冷たい。
けれども、Tシャツを通り抜け、素肌をくすぐる感じが妙に気持ちが良い。
無心で歩くのは、何て気持ちが良いんだろう。
風に揺さぶられ、紅葉がカサカサと乾いた音を立てて重なり合う。深夜の静けさの中、その音がやけに大きく響いた
しばらく歩いていると、橋の 柵 に座っている女性を見つけた。
あんな細いところに…
危ない。
咄嗟にそう思って、近づいた。
表情が分かる近さまで来ると、誰だか分かった。
「せん、ぱい……?」
先輩だった。
中学に入学したときにお世話になった、先輩だった。
もう夜中だというのに、あの、有名私立の制服を着て。
「あれ、?悠じゃん。」
先輩は驚いている俺とは真逆に、落ち着いた口調で言った。
「あ、あの…なんでここに?」
こんな時間に、こんな場所にいるだなんて、自殺するつもりなのか?
早とちりだ、そんなこと分かっていた。
けれど、勝手にその考えが頭をよぎると同時に、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われた。手足が冷たくなっていくのが分かった。
「そっちこそ、もう11時30分よ。何でいるの?」
まるで、小学生時代、よく遊んでいた輪ゴムが跳ね返るかのように質問を返された。
普段の優しい先輩からは想像もできない、無機質な視線が俺を知らぬ間に射抜いた。
そこに、いつものような温かさは全くなかった。
「俺は、散歩に来て…」
これ以上の理由はないはずなのに、もっと別の、もっと、もっと大切な理由がある気がした。
「それだけ、です…先輩は……?」
二度聞いたら教えてくれるんじゃないのか。
そう考えた俺はもう一度聞いた。
このままじゃ教えてくれない気がした。勘だ。勘だけど、絶対にそう。確信があった。
「どうしてこの場所で、私なの……」
数秒の沈黙が流れた後、謎の、自分に向けたのか俺に向けてたのか分からない言葉を発した。
しかも、真顔。そんなんで、人付き合いの悪い俺に感情が読み取れるわけが無い。
抑々、今の先輩には感情なんてものはないのかもしれないが。
先輩がこれ以上話し始めない。そんな間、俺はじっと待っていた。
先輩はというと、銅像のように夜空を見つめて固まっている。
夜空を見つめる先輩と、その背中を見つめる俺。目線さえも合わないまま、二人の間に流れるのは静寂だけだった。
傍から見れば、ただそこにいるだけの赤の他人。実は先輩と後輩などという関係で、親しく話したことなど、誰も想像できないだろう。
そんなこんなで考え事をしているうちに、15分もの時が過ぎていた。まったく、時の流れというものは早すぎる。
気づいてくれないだろうか。そう思って先輩をさらに濃く見つめてみた。
しばらくすると、その目線に気が付いたのか、先輩が俺の方を向いた。
「ねぇ、悠。」
「ふっ、は、はい⁉」
急な呼びかけに驚いた俺は間抜けな返事しかできなかった。
こんな調子じゃ、今の先輩じゃ、きっと冷たい目で見られる。そう思い、先輩の顔色をうかがう。
すると、俺の考えとは真逆の表情をした先輩がいた。
「はっ、あははっ!」
先輩は笑っていた。
こんなこと願ってはいなかったけれど、何故か笑顔を見ると安心した。
良かった。
そんな感情が芽生えた。
「悠、全然変わってない。久しぶりに会ったけど、中学時代と変わってないや。ま、悠はまだ中学生だけど。」
そう言って先輩は一人だけケラケラと笑った。
この場で俺だけ、先輩が笑う意味が分からず、ただ突っ立っているだけだった。
「どういう事、ですか…」
「いやぁ、なんか、安心しちゃって…やっぱり悠が一番落ち着く。」
こんな俺が、安心する…?落ち着く…?意味不明だ。
これはいわゆる陽キャの深夜テンションだったのか。
柵に乗るのも、あまり深い意味はなかったのかと思い、さっきの感情とは真逆の 呆れ という二文字だけが頭の中に残った。
「ねぇ、悠。今からさ、私の秘密、教えてあげる。特別だからね。この世で悠だけ、驚かないでね。」
秘密…?
こんなに明るくて、先程のようにテンションの高い先輩に秘密などというものがあるのだろうか。
いや、逆に明るさと容姿の裏に奥深い秘密があるのかもしれない。
これは聞いたほうが良い話なのか、こんな俺が聞いても良い話なのか…
急に心配になってきた。
テンションなどがどうのこうのという話ではなかったのかもしれない。
取り合えず、先輩の指示に従って聞いてみることにした。
「私さ、今まで悠と明るく接してきたけど、実はクラスで虐められてたんだよね。」
衝撃の事実に息をのんだ。
呆れ だなんていう文字は夜空に吹っ飛んで、途轍もなく申し訳ない気持ちになってきた。
何なら、虐められてたのに、俺に明るく接してくれていた?
胸の奥に 鉄の塊のような何か がずんっと俺の落とし込まれる。
何だか、今まで無理をさせていたのではないか。と心配になって聞いてしまった。
「俺と喋るとき…先輩、もしかして、無理してました?」
すると、また先輩はケラケラと笑い始めた。
「そんな!私、悠と話す時間だけが唯一の 無理してない時間 だったんだよ。無理だなんてとんでもない!」
良かった、俺、無理させてない。
謎の安心感とともに飛んできた言葉は、俺を絶句させるものだった。
「んで、虐められてたのもそうだけど、私、実は親もいなくってさ。もう生きる意味ないや。ってなっちゃって、死ぬところだったんだよね。あははっ。」
「そ、そんなん、嫌です…‼笑い事じゃないっすよ…俺、先輩いなかったら生きていけません…!」
胸の 何か が急に重くなった。
咄嗟に出た言葉は、何も確証のない言葉で。
何でこんなこと言っちゃったんだろうと後で後悔する羽目になった。
「で、でも…この前、先輩…ネックレスを親にもらったって言ってませんでしたか?」
そう、先輩は暖かい日差しの降り注ぐ桜の木の下で『このネックレス、親にもらったんだ!どう。似合う?』この季節にぴったりな笑みを浮かべて俺に見せびらかしていたのだ。
「あー。あれ、ね…あれさ、私が5歳の時の誕生記念にお母さんからもらったらしいんだよね。親戚のおじさんから渡されたの。もらったのには変わりはないでしょ?直接ではないけれど。」
そう、だったのか。
先輩は嘘はついていない。その瞬間だけでも幸せにしたかった、という思いはあったのかもしれないが。
「じゃ、じゃあ、あの制服も?」
ネックレスの話と同時に思い出したのは、ネックレスを見せ来た年の翌年だっただろうか。
「そうそう、もうずいぶんと前の事なのに…よく覚えてるね。でも、あれは私専用じゃなくって、お母さんの御下がりなんだよね。」
「お金が、なかったの。」という先輩の顔は、とても悲しそうだった。
何か助けたい。そんな気持ちが脳内を駆け巡った。
慰めるなんてこと、今までになかった俺には、そんなこと出来やしないが。
「じゃあ…中学と高校に入れたのは…?」
そう、俺が今通う、そして、先輩が去年まで通っていた中学校は私立で、先輩の通う高校も私立なのだ。お金がないとしたら、とても入れるものではない。
「中学も高校も特待生として入学したんだ。中学でも虐められてて、高校は少し別のところに変えたけど。やっぱり…お金のない貧乏人に私立だなんて、そんな簡単なもんじゃないね。」
今回は苦笑を浮かべながら言う先輩。
精神的なものも助けられない俺。経済問題となったら、とてもじゃないが、難しい。
解けるはずのない問題に、先輩の死というタイムリミット。
頭を抱える事以外、俺にできる事はなかった。
「私、24時6分に死ぬって決めてるから。」
先輩のその一言で我に返り、たまたま腕に着けていた時計を見る。
12時1分3秒だった。
「そんな…早すぎます、って。」
そんなにタイムリミットが迫っていただなんて、俺は知らない。
もう少し、早く言ってくれたのならばきっと、助けられることもあったはずなのに。
後悔に満ち溢れる一時は、俺の心臓を息ができなくなるまで きゅっ と引き締め、とても苦しいものとなった。
「そんなん、マジで嫌ですよ…」
ふと気が付くと、俺のTシャツは ぽつ、ぽつ と、複数の水玉がついていた。
その水玉の正体が分かるまで時間はかからなかった。
「ん。じゃあ、さよならの前に、一つだけ願い事を聞いてあげようじゃあないか!」
「はっはっは~」とまるで、おとぎ話に出てくる魔法使いのような笑い声を響かせながら、目には見たことのないくらいの、優しい笑みを浮かべていた。
「…じゃあ、もう少し、生きてくださいよっ…」
幸いにも、この願いがすぐに浮かんだ。
安心感が今の俺にはある。
けれども、この願いはすぐに消えていた。
「ん…それは、いくら悠のお願いでも聞き受けられないなぁ。他には無いの?」
あっさりと断られてしまった、悔しい。とてつもなく悔しい。
かつて、こんな悔しいことがあっただろうか。
「それ以外は、無い、です…」
これだけは本心だった。本当に、本当に、死んでほしくない。
もう少し、生きてほしかった。
「えぇ…思春期真っ最中の男子のくせに…ほんっと、悠は優柔不断なの、変わりないね。ほら、下着見せてください、とか、無いの?」
下着…クラスメイトの男子たちがよく使う単語。
でも、一度も男子の輪に入ろうとした事はない。
理性などという感情、抑々、感情なのかも、ダメな事なのかも俺には分からないから。
「いや、そんなのないですから…」
そう、今の俺には 先輩が死なない 以外の選択肢はない。
この願いが叶わないのでならば、先輩の願いを聞く方が少しは幸せになれるだろうか。
「逆に、先輩は願い事、無いんですか?」
「えぇ、せっかくなのに、私に回しちゃって良いの?」
「ん、じゃあ…」考え込む先輩。せっかくなら、少しの時間でも幸せになってほしい。そんな思いが脳内を駆け巡った。
「そうだなぁ。じゃあ、さ、残りの一分、私と付き合ってよ。」
考えもしなかった答えに、俺は耳を疑った。
「そんな、先輩が俺と付き合うだなんて、勿体ないですって…!ほら、最後の願いなんですよ?もう少しちゃんとしたものを、」
そこで俺の言葉は途切れた。
先輩が俺に抱き着いてきたからだ。
先輩の身体はまだ、人としてのぬくもりがあって、力のこもった腕は、恐怖感で震えていて。
そして、俺の背中に落ちてくる水滴は生暖かくて。
何て幸せな時間で、苦しい時間なのだろう。
「私っ、こんなに悠が好きなのに、こんなにこの世界が好きなのに…何で死ななきゃいけないんだろう。っ何でこんな決断しちゃったんだろう。」
先輩の震える声は、今まで過ごしてきた時間の中で一番聞きたくない声だった。
悲しくて、切なくて。
でも、最期に先輩と付き合えて良かった。心から先輩を感じることができて本当に良かった。
先輩が好きだ。
その気持ちに気が付いたのは最期の23秒だった。
「悠…ありがとう。」
そんな言葉とともに先輩は俺から離れていった。
寂しい そんな気持ちが頂点に達し先輩の唇に触れた。
「ん…っ!?」
声とともに俺の口に入って来たのは塩辛い水。
涙だった。
「先輩、俺、先輩の事、好きです。」
胸にあった塊がが無くなった。
胸の中にできた空間には代わりに先輩へのすべての気持ち詰め込まれた。
「私もっ、私も、悠の事…大好きだよ。お母さんと、お父さんの隣でも、ずーっと、悠の事、見てるからね。」
「じゃあ、もうそろそろ時間だから、悠、元気でね。来世では絶対に死なないから、一緒に幸せになろう。」
最期の5秒、もう一度先輩の唇が触れた。
涙のせいか、先輩が見えなくなった。
探しても探しても、見つからなかった。
『さよなら』じゃない。『また逢いましょう。お元気で。』その一言はこの人生で、決して口に出すことのない言葉となった。
246_私の心が癒され明るくなった時、きっと貴方と復縁できる。
24時6分 他 、その日が来るまで。
永遠に待ち続けることを誓いますか?
ご閲覧ありがとうございました❢
執筆時間計 300分 の傑作です!
考察、、、教えてくださると嬉しいです。
めちゃくちゃ深く意味を込めましたっ
総ての数字…調べてから掘り下げるとわかるかも…⁉
次話、考察公開です🙌
目が痛い…w目薬買ってきます