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目次
僕の希望をキミにあげるから、キミの絶望を僕にください。
あなたは大切な人が亡くなった時、どうしますか?
ここでの希望と絶望の読み方を幸運と不幸とします。
「ごめんさない。」
今年、告白されて4回目。
一度目と二度目は夏、三度目は秋、4度目は今の冬だ。
嬉しいけど、僕にはもったいない数。
勉強も中途半端、スポーツも中途半端な僕をどうして好きになるのだろう。
いや、きっと好きだと思い込んでいるだけで、本当の心の底は別に大したことじゃないんだ。
誰もいない夕方の廊下にたった二人でいるのはこちらも向こうも気まずい。
さっさと解散して家に帰ろう。
「では、僕はこれで。赤川さんがこれから良い恋が出来ると信じてます。」
膝より上までのスカートをギュッと握りしめた彼女を門まで送った。
この学校の制服は二種類で、女子はスカートの短いセーラー服とスカートの長いジャンバースカートタイプがある。
ほとんどの女子は前者だが、僕から見たら後者の方が無難で良いと思っている。
後者の人は滅多にいないが、僕のクラスに一人だけいる。
それは|佐野 汐音《さの しおん》。
クラスではいつも一人で本を読んでいて、あまり他人と話さない。
けれど、たまに窓の外を眺めている姿を見ると、ラベンダーベージュの長い髪と青碧色の瞳が光に照らされて美しく見える。
僕はそんな彼女に恋をしている。
今まで恋なんかしたことない僕が佐野さんに恋をしたキッカケは、図書委員の仕事で図書館の見回りをしていた時。
---
幼馴染の美怜にとある本を頼まれて探していた。
やっと見つけたと本に手を取ると、本に触れたはずの手は小さくほっそりとした手に触れていた。
「あ、すみません。どうぞ。」
手を辿っていくと、そこにはハーフアップをした佐野さんだった。
最初はジャンバースカートを着ていて珍しいと思うだけだったが、その後に取ろうとした本について話し始めた。
話すうちになんだか静かな人だと思っていたけど、とても可愛らしくて熱心な人だった。
どうして他の人と話さないのか聞いた。
「私、あまり人と話すのが得意じゃないんです。今は望月さんが私の好きな本の事で合わせてくれているから話しやすいだけで…」
もじもじとしているけど、頑張って話そうとしてくれていると知ったとき、僕の心にドクンと『恋』が芽生えた。
憧れでも、憎くも、何でもない恋。
この気持ちは、佐野さんに向けてあるのだと段々と気づいてきた。
「そういえば、どうしてこの本を取ろうと思ったのですか?」
「美怜に持ってきてほしいって頼まれてね。自分で取ってきたらいいのに。」
佐野さんは少ししょんぼりとして言った。
「そう…じゃあ、早く行ってあげた方がいいんじゃないかな。」
そう言われてからは覚えてない。
初めてできた好きな人を、悲しませてしまったから。
---
次の日。
赤川さんは元通りに友達と仲良く過ごしていた。
僕は美怜に呼ばれ、教室を出た。
「|渡央弥《とおや》、ちょっと話したいことがあるんだけど…」
「何?」
急に変な空気になった。
僕はすぐに昨日と同じ空気だと勘づいた。
「私たち、幼馴染っていう関係変えたくない?」
「それはどういう…」
「私、ずっと前から渡央弥の事が好きだったんだ。だから、幼馴染の関係を恋人に変えない?」
やっぱり告白だった。
美怜とは昔から仲が良くて、よく一緒に遊園地などに行っていた。
けれど、どれだけ一緒にいる時間が長くても僕の恋心は芽生えなかった。
僕が好きなのは佐野さんだ。
美怜を振るのは少し可哀そうだけど、本当の気持ちを伝えなければ。
「ごめん美怜。僕は美怜との関係はずっと幼馴染でいたい。それに、僕は佐野さんが好きだから。」
「そっか…汐音か。初めて知った。…残念だけどやっぱりこのまま幼馴染でいてもいいかもね。」
その時、教室の扉がガタンと鳴った。
驚いて振り返るとそこには顔が赤くなった佐野さんがいた。
佐野さんは混乱していてガタガタと震えている。
「えっ汐音⁈なんでここにっ」
「いや、けけ決して盗み聞きしてたわけじゃないよ。ただこの書類を職員室にも、持っていこうと…」
すると美怜は佐野さんの肩を支えてこっちに連れてきた。
「渡央弥、汐音、ファイト!」
そう言って美怜は振られたことを気にせずに教室に戻っていった。
「あ…望月さん、美怜ちゃんの事が好きなんだと思ってた。」
「僕は…僕が好きなのは佐野さんなんだ。あの、佐野さん。僕は君の事が好きです。もし、良かった、僕と付き合ってほしい。」
佐野さんは口を両で隠して言う。
「私も、望月さんが好き。皆から人気で憧れの存在の望月さんを私は好きでした。私でいいなら付き合いたい。」
佐野さんは今まで見たことのない優しくて可愛い笑顔で言った。
「じゃあ、よろしくね。えっと汐音って呼んでいいかな?僕も渡央弥って呼んでもいいから。」
少し恥ずかしくなりながら言った。
「ぜ、全然良いよ。えっと…渡央弥。」
「うん、汐音。僕は君を幸せにするから。」
---
汐音と付き合ってから2年が経った。
今では幸せに過ごしている。
汐音も段々と人とよく話せるようになってくれた。
僕らは今、街でデートをしている。
信号はまだ赤。
恋人繋ぎで待つ僕らの姿は他の人から見たらどう見えているのだろう。
今日はとても寒く、周りにはあまり人はいない。
柔らかいマフラーで包まれている汐音がとても愛おしい。
信号が青になり、パッポーパパポーと音が鳴り始めた。
道路を2.3歩程歩いた時だった。
右からブォーンと大きな音が近づいてきた。
振り向くとトラックが急発進してきていた。
運転手は寝ている。居眠り運転だろう。
「汐音、危ない!!」
そう言って僕は汐音を後ろに押した。
その後はどうなったかな。
確かトラックに引かれて、汐音が泣く姿が見えた。
---
ドンッ
初めて聞く音がした。
咄嗟に渡央弥が私を庇ってくれた。
だけど、彼は代わりにトラックに勢いよく引かれ、道路に頭を強く打った。
周辺の車はすぐに止まり、周りの人たちも警察や救急車を呼んだ。
私はすぐに渡央弥の所へ向かった。
「渡央弥!!渡央弥!!大丈夫⁈起きてよ!!今救急車呼んでもらってるから、頑張って!」
頭を強く打っているため、頭から出る大量の血が道路に広がった。
必死に守って身代わりになってくれた渡央弥を見ていると涙が止まらなかった。
目を瞑り、息が荒い渡央弥を離すことはなかった。
---
数時間が経った。
白いベッドであれからずっと目を覚まさない。
「渡央弥…お願い生きて。なんでもいいから死なないで。私の希望をあげるから、渡央弥の絶望を頂戴…」
ボロボロ零れる涙なんかお構いなしに冷たい渡央弥の手を握った。
すると渡央弥は奇跡のように目を少し開き、言った。
「だめ…だ。汐音が生きてくれなきゃ…僕の生きる意味が、ない。僕の希望を…キミに、あげるから...キミの絶望を僕が、貰うよ。汐音はこれからも…元気に過ごして、おばあさんになるまで…生きるんだ。」
「やだ、やだ!渡央弥、死なないで!!置いて逝かないでよ…」
「汐音、僕の分まで…生きて。僕に…汐音の未来を見せて。」
--- 汐音、愛してる。 ---
ポ、ポ…ポ……ポ………ピーーーーーーーーーーーー。
その後、彼は目覚めることはなかった。
彼を引いたトラックの運転手は居眠り運転で逮捕された。
私はずっと彼と最後に話した事と、最後に撮った写真を握っている。
--- 渡央弥、私も愛してるよ。今までも、これからも。 ---
---
「あぁ、もうすぐ70歳か...」
彼が亡くなってから丁度52年。
色々あったけど、今は結婚して、子供も産んで、孫も出来た。
旦那さんは私に本当の愛する人がいると知っていながら今まで支えてくれた。
「そういえば今日は汐音の彼の命日だったろう?」
「えぇ。お供え物を置いて来るね。」
旦那さんは微笑みながら私に手を振った。
墓場に来ると、少し苔の生えた『望月渡央弥』と書かれた墓石に水をかけ、パンパンと手を叩き、お供え物を置いた。
「渡央弥、お空で何してるかなー」
いつ、どこで死ぬか分からないこの世界で私は彼の希望の通りに長生きした。
そして事故になりかけた時も、病気になった時もいつも運よく生き残った。
それは代わりに彼が私の絶望をもって逝ってしまったから。
どうか、安らかに眠ってください。
私が逝った時にあなたの分の|希望《幸運》をちゃんと持っていくからね。
最後の「私が逝った時にあなたの分の希望をちゃんと持っていくからね。」について一応解説しておきます。
題名の「僕の希望をキミにあげるから、キミの絶望を僕にください。」の希望と絶望はこの世界で人に50パーセントずつあります。
望月渡央弥に希望(幸運)50パーセント絶望(不幸)50パーセント、佐野汐音に希望(幸運)50パーセント絶望(不幸)50パーセントあります。
そこで渡央弥は汐音の絶望(不幸)と渡央弥の希望(幸運)を交換し、お互いどちらかの100パーセントになります。
そのおかげで危険な目にあっても奇跡的に無事だったんですね。
初めての一話完結、どうだったでしょうか?
文章は上手くいかなかったですがこれからもよろしくお願いします。
『死と同然の存在』はキミに生きてほしかった。
風が吹き、木々が揺れ、動物は草を食べる。
自然は色々な連鎖を繰り返し、長年生き続けている。
これは、世界に人間がほとんど消え、海と自然に恵まれた頃のお話。
61××年、人類が滅亡寸前の世界で、ある者は森を探索していた。
その者は動物を見つけるとジッと見つめた。
すると見つめた動物は静かに息を引き取った。
その者は森の動物を淡々と見つめ、動物は亡くなっていく。
さらに動物だけでなく、植物にも影響が現れ、枯れていった。
見つめただけで亡くすその者の正体は、「タナトス」といった。
タナトスは生き物を数秒間見つめただけで、見たモノの命を抜いてしまう力を持つ、死神のような存在だった。
タナトスはウサギを見つめ、狼を見つめ、次々にターゲットを探していた。
人類が今より900倍いたときから育ったであろう木々の間を通っていく。
するとタナトスは森の奥にある木製の小屋を見つけた。
檜の良い香りがする小屋に興味が沸き、タナトスは小屋の窓を除いた。
しかし中には誰も居ず、暖炉の火がパチパチと燃えるだけだ。
タナトスは小屋の周辺を飛び、家主を探す。
見渡す限り森で満ちていたが、近くの山の上が平たくなっている場所を見つけた。
タナトスは山に向かうとそこは甘い香りが遠くにもほのかに漂う美しい花畑。
タナトスにはわからない黄色や桃色や水色…沢山の花たちが生き生きと咲いていた。
近づいてみると余計に美しく、自然の温かみを感じるようだ。
タナトスは花畑の端にある木から一本の花を取った。
その花は花弁の内側は紅色から外側へ白くなっている。
あまりにも魅力的な花を見つめていると、他の生き物と同じようにゆっくりと枯れてしまった。
茶色くパサパサにしおれた花を見て、タナトスは少し寂しくなっていた。
これ以上この花畑を枯らしたくないと仕方なくタナトスがあの小屋に戻ろうとした。
すると山の斜面から小さな声が聞こえた。
「う、うぅ…あと少しなのに…」
タナトスは声が聞こえる方に行くと崖の下に手を伸ばす少女がいた。
今では珍しい人間を見て不思議に感じる。
一度空を見てから少女の伸ばす手の方向を見ると、そこには一輪の花が咲いていた。
本当に変な場所に咲いている。
岩と岩の隙間から根っこを生やして根性強く咲いている。
少女の顔は見えないが、何かと困ってそうなのでタナトスは助けることにした。
タナトスは人間の姿に変わり、あまり見つめれないように深くフードを被りサングラスをかけた。
人間の姿になると共にサングラスなどを付けると、あまり死の効果を発揮しないようにすることができる。
タナトスは恐る恐る少女に近づき話しかけた。
「その花を取りたいんですか?」
少女はタナトスを見たとき、一瞬不審者と思ったのか驚いていたが崖の花を見て言った。
「そうです。でも遠いし下を見ると怖くて。」
困った顔をする彼女を見るとタナトスの少し感情が動いたような気がする。
「僕が取ります。」
「え、そんな危ないですよ。」
そう言ってタナトスは崖を降りているように見せかけ、浮いて花を取ってみせた。
少女から見えない場所から花畑に戻り、花を少女に渡した。
「ありがとうございます。貴方はとても勇敢なのですね。この花はイワギキョウと言って、私の病に必要な薬の材料だったんです。」
少女は深く礼をしてタナトスに感謝の言葉を伝えた。
タナトスは少女が病にかかっていると知ったとき、今すぐにでも安らかに眠らせてあげようと思っていた。
しかし少女の姿を見るととても気持ちが揺れ、亡くす事に躊躇する。
タナトスは何処にも住んでいないと言うと少女はお礼と言い、小屋に案内してもらうことになった。
山の裏は坂の勾配が弱くになっていて上り下りが人間にとって楽だった。
坂も花畑になっていて、花畑の間には少女と少女の母が長年かけて作ったと言う道が出来ていた。
数十分歩いているとさっき見かけた小屋がチラッと見えた。
「あれが私の家。狭いけど、広くても使わないからあのぐらいが丁度いいんだ。」
タナトスは自然が好きでプラスチックは嫌いだ。
だからタナトスは少女を小屋に着くまで試すことにした。
「家の物は全て自然から?」
「うん。お皿やコップは木からとって、米から採れる糊を付けて長い間使えるようにしたの。食料は小屋の外で畑を作ってるんだけど、そこから自給自足で食べてるの。たまに動物が来るんだけど、みんな可愛いからあげちゃうんだよね。」
少女は微笑みながら言う。
「じゃあプラスチックは?」
「プラスチックなんて使わないなぁ。私がまだ産まれてない大分昔に、世界が量産をやめてからプラスチックなんか見たことない。一体どんなものなのかな。」
「プラスチックは自然を壊す悪い物質だよ。」
タナトスはつい口にすると、少女は「じゃあ使ってなくて良かった」と答えた。
その後はこの辺りの話をした。
今までが寂しかったのか、少女は楽しそうだった。
小屋に着くと少女は入り口で立ち止まってタナトスに尋ねた。
「そういえば、貴方のお名前は何ていうの?」
タナトスにとって初めて聞かれる言葉だった。
これまで亡くしてきた生き物はタナトスを見たとき、すぐに何かを察して静かに息を引き取る。
タナトスは戸惑っていると、少女はドアを開きながら言った。
「名前がないのね。じゃあ貴方の名前は|明《はる》ね。ハーデンベルギアからとったの。どう?」
「うん。良いよ。」
明は少し嬉しくなりながら、小屋の中へと入った。
けれど、明にはどうしてハーデンベルギアが由来なのか分からなかった。
パチパチと鳴り燃える火から出る煙は上がって煙突から出ていた。
明はそれを観察していた。
二酸化炭素は地中に良くないモノなのに、と。
「暖炉に興味があるの?それね、わざとそこだけ二酸化炭素の排出してるんだ。植物は二酸化炭素を吸ってくれて酸素を作ってくれるから。暖炉で野菜を炒めたりもするの。」
明はフムフムと顔を前後に揺らし、火を見つめた。
「お腹、空いてない?さっき出る前に作っておいたシチューがあるんだけど。」
少女が勧めたシチューを明は初めて食べた。
ほっこりとした少し甘い汁とそれが絡まってさらに濃厚で美味しくなるニンジンやジャガイモの感触にとてもハマる。
モグモグと食べ進めていると、少女は呟いた。
「ねぇ、もしよかったらここで一緒に住まない?」
明はそれに答えるように言う。
「じゃあ、あなたの名前を教えてくれたら。あと、年齢も。」
「なるほど。じゃあ言わせてもらうね!私の名前は|和華《のどか》、15歳。」
「和華…いい名前、だね。」
そして、死のタナトスと珍しい人間の和華2人の生活が始まった。
---
森の一部は桃色に変わり、桜の花弁が風に乗って散っていた。
森の動物は目覚め、元気に駆け回っている。
「そうそう!土を|解《ほぐ》すの!」
和華は僕にそう言った。
初めて持つクワは人間からすると重く、中々振れるものではなかった。
僕は死神の存在なのに、人間の姿だからか何故か皮膚からしょっぱい水滴が出てくる。
和華はそれを『汗』と言った。
春の後半、新しく野菜とやらを植えるために畑を耕す。
「これで今年の食糧は問題ないかな。」
苗や種を植え、水をかけた。
面積はそれ程広いわけではなく2人ならすぐに終わる程度だったが、それでも和華はハアハアと荒い息遣いになっていた。
人間とは脆いものだ。
毎日それを繰り返していると、たまに和華苦しそうにしゃがみ込む。
僕はしんどそうにする和華は見ていられなく、体が勝手に和華を看病していた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。明が来てからは看病してもらうのが増えてる。ごめんね。」
眉をハの字にして申し訳なさそうに言うが、僕は何もしてない。
和華がベッドで休んでいる間、僕は小屋を出て薬草を取りに行った。
彼女と出会って1ヶ月、薬草の種類や必要な量は分かるようになった。
この体も随分慣れた。
それも彼女のおかげだ。
僕は何故か彼女を見ると、早く亡くなった方が苦しくないと思うより、もっと生きていてほしいと思う。
こんな事は初めてだ。
もしかしてこれは人間でいう…いや、そんな事ありえない。
だって僕は『死』と同然の存在だ。
こんな気持ちになって良い存在じゃない。
山の崖に咲くイワギキョウまで飛んでいく。
取ったイワギキョウを籠の中に入れ、順調に薬草を取って行った。
春はまだ温かいが、秋や冬は体温調整が難しく、危険だ。
それまでに薬草を余分に取っておかなくては。
薬草をすり潰した薬を和華に飲ませると、一瞬だけど嫌な光景が頭の中に映った。
和華は青ざめ、フードを取った少年が××する姿が。
---
ミーンミンミー ジジジジー
日差しが強く、蒸し暑い夏。
けれど空はとても晴れやかで、心地よい風が森をそよいだ。
和華は花畑の中心辺りに大きい布を敷き、竹などでできた籠を置いた。
「これは?」
「ピクニックって言うの。こんな晴れた日が一番丁度いいの!」
そう言われ、僕は布の上に乗る。
和華は周辺の花を少し摘んで、持ってきた水入り瓶の中に飾った。
山は標高が少し高いため、森の景色が見渡せる。
花に囲まれながら和華は遠くの空を見つめた。
見つめる…と言えば僕は最近生き物を亡くしていない。
和華に正体をバレたくない。
失望させたくない。
そんな気持ちが僕を制御するんだ。
この前、夜にこっそり抜け出して、木と話した。
木は僕が命を取らないのに驚いていた。
僕は木に初めて事情を話した。
「それは、『恋』かもしれない。」
「どうして?僕は死神だ。死神は恋なんかしない。」
「でも、彼女を見るとドキドキしちゃうんでしょ?いい加減自分の気持ちに素直になりなさい。」
僕は本当に和華が好きなのかもしれない。
こうやってピクニックをして、話してないのにドキドキする。
蒸し暑さは死神には感じないはずなのにずっと人間でいるから感じてしまう。
僕は何か話そうと口を開いた。
しかし先に声が出たのは和華の方だった。
「ねぇ、いつ教えてくれるの?」
ドキッとした。
「え?」
「明は《《タナトスなんでしょ?》》」
悪い意味でドキッとした。
いつ気づかれた?
何も気づかれるような事はしてないはず。
ならどうして…
「なんでって思ったでしょ。だって明は顔は見せてくれないし、年齢さえ教えてくれない。私は…もっと明の事が知りたいのに…」
和華は『涙』を流しながら言った。
僕は和華に本当の存在をバレたくなかった。
だけど、そのせいで和華を傷つけてしまった。
「僕は本当の正体をキミに知られたら、もう…一緒にいられなくなると…」
そう言うと和華は紫色の花を持ってきた。
「そんなことないよ!これはね、明の名前の由来のハーデンベルギアだよ。この花の花言葉はね、《《運命な出会い》》なんだよ。…私は、ずっと明が好きだったの。」
泣きそうになりながら言う彼女を僕は抱きしめた。
初めての出会い、初めての感覚を和華が教えてくれた。
ハーデンベルギアの花言葉を言われた時、モノクロだった心が彩られたよ。
僕は、本当に和華が好きなんだ。
「僕は死と同然の存在だけど、キミが好きです。」
和華はその後、お腹が空くまで泣き続けていた。
病なんてどうでもいいぐらいに。
---
寒くなってきた。
僕が警戒していた季節のひとつ、秋がやってきた。
サツマイモや梨など、美味しい食糧が豊富だが、僕の大切な人の病が悪化してしまう可能性がある。
外に出て作業するものは、あまり寒さを感じず病にかからない僕が全部した。
できるだけ部屋を暖めて、風邪をひかないようにする。
しかし、いくら看病しても和華の病は落ち着かなかった。
彼女を死なせたくない。
その気持ちが精一杯だった。
少しでも治せるように森の木に聞くことにする。
「あら、それは大変ね。だけど、私達もどうしようもできない。木にだって病はあるし、そのまま枯れたりもする。だから、彼女の病は運命的なものなのかもしれない。」
その言葉を聞くと、その言葉を否定したくなり、僕は気づいたら木を亡くしていた。
毎日毎日看病して、薬草を取りに行って、出来ることを精一杯やった。
でも、彼女の病は悪化するばかりだった。
---
なんとか秋を乗り越しても、その後にはさらに危険な季節、冬が始まった。
地球温暖化の影響が全くなくなった冬は生き物によって一番厄介。
吹雪の中、僕は暖炉の火を大きくしていた。
そして、羊の毛や木の繊維で作った手袋を和華につけさせた。
和華が一番最初に僕に食べさせてくれたシチューを暖炉で温めた後、和華に食べさせた。
咳を出し、小刻みで凍える和華を見ると凄く悲しくなった。
すると、小さな声で和華が言った。
「明…私はもうだめかもしれない。」
僕は一度空気を吸った。
「そんな事言わないでよ。折角秋も乗り越えたんだから、冬も頑張ればきっと…」
「無理なの。私の母さんも私と同じ病で冬を乗り越えられなかった。だからせめてでも、死ぬなら明に殺されたい。」
冷たい手は僕の手を握った。
「そんな、僕は…僕が亡くすなんて…」
「お願い!これが私の最後の願い。大好きな人と傍にいて、大好きな人に亡くされるの。」
彼女はポロポロと涙を流し、ベッドをお構いなしに濡らした。
僕は…どうしたらいいんだろう。
数十分経ったとき、僕はフードを後ろに取り、サングラスを外して彼女を見つめていた。
本当は和華に死んでほしくない。
ずっとずっと傍に居たい。
でも、和華の最期の願いを、僕が叶えてあげたい。
5、4、3、2、1…0
しかし和華をいくら見つめても彼女は息をしている。
生きている。
おかしいなと思っていた時、和華は言った。
--- 「最期に明の顔を見れて良かった…」 ---
和華はベッドから起き上がり、僕を抱きしめてから優しく、甘く、悲しい口付けをした。
そして、和華は息を引き取った。
力が抜けたかのようにゆっくりと倒れた。
僕は和華を持ち上げ、ベッドに寝かせる。
そして、吹雪が止み、朝が来るまで今までにないぐらい強く泣いた。
吹雪が止まり、太陽が少しづつ雪を溶かしていく。
小屋の隣に穴を掘り、和華を持ち上げて穴に埋めた。
そして、大切に隠し持っていたシオンの花とキキョウの花を供えて_____。
めっちゃ長くなりました!
もう一話完結っぽくなくなってますが、
最後まで読んでいただきありがとうございました。
一生のさよならと永遠のありがとう。
先月、飼っていたインコのマロンが亡くなりました。
一人暮らしを始めてからはマロンは唯一の癒しの存在。
とても可愛らしく仕草も姿も愛らしい天使のような子でした。
マロンは元々小さな病気を患っていたので、いつ一生会えなくなるか分かりません。
だから、せめて生涯幸せに暮らしてほしいと毎日大切に世話をしていました。
マロンは最期に私の小指を甘噛みして手の中で安らかに眠りました。
だんだんと体が冷めていく中で、少し笑っているように見えました。
その日はずっと泣き続け、次の日になると凄く浮腫んでいる程でした。
柔らかい羽毛が風で揺れながら、マロンを耕して綺麗に整えた庭の花壇に埋め、ローダンセの花とマロンが大好きだったリンゴを供えました。
ある日、私は親の急な体調不良で遠い実家に帰ることになりました。
リビングで充電していたスマホを取り、明日の新幹線の指定席予約をしていました。
予約説明をお茶とリンゴを食べながら見ていました。
机の一口サイズに切ったリンゴを食べようとふとリンゴの見ました。
するとさっきまで5つあったリンゴが4つになっていました。
私がいつの間にか食べていたのだろうと気にせずリンゴを爪楊枝で1つ取って食べ、スマホを見なおしました。
するとシャリッとリンゴをかじる音が聞こえました。
疲れてるのかな頭を抱えながらとリンゴを見ると、またひとつリンゴが減っていました。
流石に幽霊でもいるのかと少し怖くなりスマホの画面を消して立ち上がりました。
すると、リンゴを置いている方からテチテチと足音が聞こえました。
足音が聞こえるの方を見ると、見覚えのあるモフモフな羽毛を着飾ったインコがいました。
首を傾げて私を見つめるインコをすぐに逝ったはずのマロンだと分かり、涙が自然に溢れてきました。
私はマロンの前に優しく手を差しのべると、ピッと鳴きながら手の上に乗り懐かしい感覚が蘇ってきました。
マロンはよしよししてと言う意味のいつもの動作をしてきて、私の手に座りました。
その通りにマロンを手で包んで優しく撫でました。
マロンは気持ちよさそうに目を瞑り、たまに甘えた声を出しました。
私は「この幸せな時間がずっと続けばいいのにねぇ」とマロンに言うと、マロンは急に立ち上がりマロンの遺品を入れていた段ボールに停まりました。
「おもちゃで遊びたいの?」
そう言って段ボールからよく遊んでいたブランコやツリーを取り出してやると、マロンは興奮して遊び始めました。
可愛らしく懐かしい光景を長い時間見ていました。
家の中は窓から入る茜色の光に染まり、いつの間にか夕方になっていたので余程私は寂しかったんだなとマロンを撫でながら感じました。
するとマロンはスマホの上に乗りピッと鳴きました。
その瞬間新幹線の予約をとっていないことに思い出しました。
私は急いでスマホを持とうと手を前に出します。
すると持ったとき、マロンが珍しくもの凄く怒りました。
キャルルルと怒りスマホを渡してくれません。
「どうしたの?新幹線乗っちゃダメ?」
マロンを落ち着かせながら言うと、マロンは言葉が解っているようにピッと高い声で返事をします。
(しかたがないなぁ)
スマホを取り指定席予約のwebを消すと、マロンは優しく私の手をさすり、ゆっくりと透明になって消えていきました。
(どうして新幹線に乗ってほしくなかったんだろう…)
私は頭の上に?を浮かべているようになりながら、今日のマロンを想像して夕飯を作りはじめた。
次の日、車で実家に帰ると元気そうにしているお母さんと、体調不良で寝ているお父さんに会いにいった。
「|未玖《みく》、お帰り。遠かったよね。」
「うん。それよりお父さんは?」
「薬飲んだから治ると思う。」
「良かった。」
実家で仕事の話をしたり、昨日会ったマロンの話をした。
「そうなの?じゃあもしかしたらマロンちゃんが未玖の命を救ったのかもね。」
「それはどういうこと?」
そう質問すると、お母さんはテレビを付けてニュースを見せた。
すると、速報で結構深刻な話をしていた。
『速報です。今日9時出発の○○行きの新幹線で爆弾テロが発生しました。16両編成のうち、5両編成に爆弾が仕掛けられていて、少なくとも32人死亡59人怪我をしています。爆弾を仕掛けた犯人を殺人罪や激発物破裂罪の疑いがあるとして捜査を行っています___。』
(この新幹線って私が乗ろうとしてたやつ⁈)
このニュースを見て、私は空を見てマロンの事を想った。
(マロンが私を爆弾テロから救ってくれた。あのまま乗っていたら死んでいたかもしれない。一生会えないけど、私の命を救ってくれた感謝の気持ちは永遠に残り続けるよ。ありがとうマロン。マロンの分まで長生きするね。)
ペットは優しくしてあげるほど飼い主の事をきっと想っています。もしかしたらちょっとしたことでこの話のように命を救ってくれるかもしれない。だから一度飼った生き物は最期まできちんと世話をしてあげましょう。愛情を注いで幸せにしてあげてください。
幸あれ。
あした地球が終わるなら、私が最後の告白を。
『速報です。ただいま巨大な隕石が地球に向かってきています。未知の隕石でまっすぐ直進に向かっています。まだ遠くにあるためぶつかるのが約23時間後だと思われますが、地球に衝突すると地球が終わる可能性が高いとされています。みなさん今日明日を最期だと思って過ごしてください。』
「明日地球が終わるのか…」
俺は|皇 玲雄《すめらぎ れお》。
二十歳になってからもうすぐ1年が経つ。
これから楽しい日々を送ろうとしているところに明日隕石が落ちてみんな全滅だってさ。
折角これまで親を離れて独身になるために頑張ってきたのにな。
「せめて最期《《あいつ》》に会いてえなぁ」
|片瀬 冬芽《かたせ ふゆめ》、高校までずっと一緒で一番仲が良かったと思う。
大学生になってから冬芽は隣の県の大学に行くために引っ越していった。
正直俺も独身大学生になるんだしついて行ってもいいと思ったけど、冬芽に引かれると思ってやめた。
俺はスマホを取り、大学の友達に電話した。
『もしもし、どうした?』
「ごめん明日学校休むわ。」
『ん?明日は大学ないぞ?地球が終わるんだから最期は好きな事しろって臨時休業だってさ。』
「そうなんだ。真斗はどっか行くのか?」
『家族と過ごすかな。別に好きな子とかいないし。玲雄はどうせ《《好きな子》》に会いに行くんだろ?』
「…まぁ。」
『じゃあ頑張れよ。』
好きな子って…いつもあいつはちょっかいかけてくるな。
通話が切れると、俺は別の連絡先に電話をかけた。
「…もしもし?」
『どうしたの?珍しいじゃん玲雄から電話するなんて。』
「そうだな。なぁ《《冬芽》》、明日が最期って知ってるか?」
『うん。さっきも友達の鳴く声が電話から聞こえたよ。』
「そうか。あのさ、」
--- 「今から会えない?」 ---
電車で3時間。
俺は冬芽のいる場所へ向かった。
ずっと会ってなかったからか電車では落ち着きがなく、緊張している。
ドキドキして、スマホを触る手が震えている。
電車は人が少なく、家族連れが少しいるぐらいだ。
みんな悲しそうな顔をして静かな空間になっている。
地球のどこに行ってもこんな感じなんだろうな。
駅に着くと、俺はスマホの案内を信じて待ち合わせ場所に行った。
待ち合わせ場所は大きな公園のようなところで、目立つように広場のベンチに座った。
ここもまあ静かで来るなら犬の散歩で訪れる老人ぐらい。
『どこにいる?』とメールが来て、『広い所のベンチ。』と返送する。
それから少しすると、懐かしい顔の女性が目の前に来た。
身体は細いけれどスタイルが良く、相変わらず美人だ。
ツートーンのワンピースを着て、横を素通りするだけでモテそう。
「相変わらずだな、冬芽。」
「それはこっちの台詞。いつも通りのイケメンオーラで萎えるわ。」
「俺はそんなにイケメンではないだろ。冬芽の方がいつも通りのモテオーラで結構。」
「自覚なしか。」
変な会話から始まるのがいつもの。
「で、どうして私なの?」
ん?
「普通なら家族と最期を過ごさない?」
「まぁそうか。うーん、その理由は本当の最期に言おうかな。」
冬芽はえー、と愚痴を言いながら隣に座った。
冬芽を見てから上を見上げるといつもの空なのに違う空に見えるように感じた。
「本当に終わっちゃうんだね。老死とか事故死とかよりもわかっちゃってる死だから、なんか怖いな。」
「地球が終わるまで一緒に居てもいいか?」
俺は慰め的な感じで言うと、「玲雄と最期を過ごすのも悪くないかも」と苦く笑った。
それから俺たちは町の観光名所に行ったり、生涯で一度は食べたかった物を食べに行った。
どうせ地球が終わるならお金も町も思い出も、愛も全てなくなる。
だから高い物だって遠いところだって難なく行ける。
最期ぐらい自由に過ごしたいしな。
「ん~!これこんなに美味しかったんだ!」
冬芽は緑色のわらび餅を勢いよく頬張る。
昔から冬芽は美味しい食べ物が好きだったから、こういう幸せ笑顔を見ると俺までにやけてしまう。
モテ女子の呪いか…?
2年ぐらい会ってなかったけど普通に今まで通りに話せるのはありがたいな。
冬芽がゴクンとわらび餅を飲み込むと俺は気が付いた。
「…冬芽、粉付いてる。」
「えっどこ⁈」
俺は無意識にティッシュで粉を取ってやると、冬芽は急に顔を赤くした。
「あ、ありがとう!もういいよ!」
少し考えると、俺が何をやったか思い出し正気に戻ると、段々と身体が熱くなって心臓の音がうるさく聞こえた。
少しの間気まずくなったけど、その後はなんとか話を変えて元に戻った。
やっぱ前と違って性的な考えで冬芽を見るようにになっちまったのかな。
次に向かったのは日本で一番大きな遊園地。
そして今、暴風に当たっている。
何故か?それは冬芽の声を聴けばわかる。
「うわああああ!速すぎるー!」
ジェットコースター、それは俺が苦手とする乗り物のひとつだ。
明日が最期だから体験しとけと無理矢理乗らされた。
始まって少しは遅いけど、どっかのタイミングで急に速くなるのが恐ろしい。
凄い速さで一回転するところも頭から落ちそうでトラウマ級。
冬芽も実はジェットコースター怖いんだろうな。
たまに手を繋いでくる。
こんなの小学生以来だ。
鼻血が出るかもしれない。
叫ぶ余裕なく失神しそうだった___。
「大丈夫?」
「…うん。多分。」
俺がベンチで休んでいる間に冬芽はジュースを買ってきてくれていた。
ジュースを貰うと、すぐに飲んで頭を冷やした。
「ごめんね。私が無茶ぶったから。」
「全然いいよ。それより冬芽も怖かったんだろ?飲めよ。」
俺は貰ったジュースを渡すと、冬芽は笑顔になって飲んだ。
…あれ、これって間接キス…?
戸惑いながらも知らなかったことにしてその場を乗り切った。
冬芽は気づいていなさそうだな。
良かった。
でも気づかれていたらどうなっていたんだろう。
夕方、俺たちはホテルを予約し、その部屋に入った。
今日明日で全財産を使い切るために高級めのホテルにした。
男女でホテルに入るって変な事を考えるやつもいるけど、俺は興味がないから関係ないね。
「ここから海見れるじゃん!めっちゃ綺麗ー。玲雄も見てよ!」
「お、おう…」
大人になっても元気な冬芽は気づかい上手で優しくて、いいとこ育ちだってことが凄くわかる。
窓を見ると海の向こうに沈んでいく太陽と、茜色の空を映す美しい海が見えた。
小さく波打つ音がしてロマンチック。
水平線が光り、太陽は直線な光の真ん中に輝く。
明日にはもうこの地球はないと分かっていながら、ずっとこの景色を見て居たいほど綺麗だ。
「玲雄!何ボーっとしてるの!時間無駄にしてたらいつの間にか地球最期の時間になるよ。ほら早く行くよ!」
「ど、どこに⁈」
「一階のレストランに決まってる!」
冬芽はそう言って俺の手を掴んでレストランまで俺を連れて行った。
どこまで食いしん坊なのか。
まぁ食べない人よりは可愛いと思ってるからいいんだけど。
そう言えば昔食べ物でよく泣いてたなぁ。
幼稚園から小学生の間、家の近くのアイス屋で俺は普通のやつを頼んだんだけど、冬芽は2段アイスを頼んでたんだっけ。
普通サイズでも大きいアイスを2段で食べてた、すごいよ。
公園で一緒に食べてたら冬芽をいじめてたガキ共…いや同い年だからその言い方はないか。
そのやつらが冬芽のアイスを奪ったり落としたりしてたんだよな。
いっつもボロボロに泣いて、俺のを代わりにあげたらすぐに泣き止んでガツガツ食ってた。
結局俺がアイスを最後までまともに食べたのは冬芽が珍しくやつらを公園から追い出した時だな。
その時は凄く勇敢で、戻ってきたときにはこっちに笑顔で「これで一緒に食べられるね」って言ってた。
そう言うなんか天然?な感じが俺に芽生えさせたんだろうな。
顔とか声とかそういうんじゃなくて、ただ純粋で自然な笑顔が出せるところが可愛かった。
そしてエレベーターを降り、レストランで豪華な食事をとった。
鮮やかで種類豊富な食べ物を昔のようなガツガツではなく、丁寧で上品に食べていた。
大人になったんだなと感心していると、冬芽は昔と変わらない笑顔を浮かべていた。
お子ちゃまな笑顔の裏に、うっすらと大人な笑顔が隠れている気はする。
やっぱり美味しい物には負けるんだな。
「やっぱホテルのステーキは一口サイズだけど一個一個が美味しいのよねー。」
「食べ過ぎは注意だぞ。」
「むっ、でも玲雄だってナポリタンいっぱい食べてるじゃん。」
口の中をステーキいっぱいにして言う。
「俺は後で館内のトレーニングルームに行くんで。」
「ずるい!じゃあ私も行く!」
その後もデザートを食べながら話が弾んだ。
話している間に思い出したんだけど、レストランに向かう時、つないだ手の指を絡めていた気がする。
気のせい…か。
「玲雄いつの間にそんなに体型良くなってたの⁈」
トレーニングも終わり、部屋で1対1のゲームをしていると、いきなり呟いた。
「大学に入ってからは毎日やってるからな。まぁ流石にムキムキになりすぎるのは好んでないし。適度に。」
「ふーん。」
カチカチとコントローラーのボタンを押す音が鳴り響く部屋の中、外は既に月明かりに照らされていた。
地球最期まであと約8時間。
俺は風呂を済ませ、冬芽が出るのを待っていた。
もう夜がこれで最後なのか…
月を窓から眺めていると、自然に涙が溢れてきた。
「れーおっ」
冬芽が風呂から上がり、俺の肩に顎を乗せた。
「ん?何泣いてるの。」
「別にいいだろ。明日、もうこの地球にはいない。そう考えたら、もっとしたいことあったなって…な。」
「そんなの私にもあるよ。」
話せば話すうちに涙が止まらなくなる。
頭の中で想像してみる。
もし明日、奇跡的に地球が続くならどんな事をしよう。
祝って、友達と遊んで、いつも通りに勉強して、コーヒーを飲みながらテレビを見て、冬芽と…
「ねぇ冬芽。」
「何?」
「冬芽は地球が続いたら何がしたい?」
冬芽は少し考えている。
「やりたいこといっぱいあるしなぁ…」
「俺のやりたいこと、ひとつやっていい?」
俺は冬芽の方を見る。
冬芽は頷く。
月明かりに照らされながら、ゆっくりと、甘く、辛く、切ない気持ちで口付けた。
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ち|
ちk|
ちky|
ちゅ|
地球|
地球sy|
地球しゅう|
地球しゅうm|
地球しゅうま|
地球終末|
地球終末ま|
地球終末まで|
地球終末まであと|
--- 1時間。 ---
「なんか、空の色が違う気がするような…最期だからかな。」
「そうだね。」
ホテルを出て、近くのニゲラの花畑に来ている。
少しだけ、灰掛かっているような空の色。
もう地球が終わることを表しているようだ。
俺は2つの意味で心の準備をする。
大好きな人に伝えなくてはならない事、大好きな人と離れ離れになってしまう事。
冬芽はもう気づいているだろうか。
いや、あれだけ口を拭いたり間接キスをしたりいつの間にか恋人繋ぎをしていたり、ドクドク高鳴る鼓動を踏ん張ってキスをしたりとヒント的な事をしておいて気づかないはずないな。
すると、スマホがブーブーと揺れた。
見ると、地球最後の新たなニュースが記事となって来ていた。
『速報。残り1時間で来るはずだった隕石が突然急接近。残り10分もなく衝突する可能性がある。その他…』
「そんな…1時間も待たせてくれないの?まだ一緒に居たかったのに。」
俺のスマホを覗き見していた冬芽が顔を真っ青にして言った。
周りには誰もいない。
そりゃそうだ。
みんな家で泣き騒いで死ぬのを待ってる。
残り10分もない。
俺は泣いて時間を無駄にしたくない。
この一瞬間の間で、僕は…
--- 地球最期の告白をするんだ。 ---
「冬芽。」
「…何?最期に私と一緒にいた理由、やっと言ってくれんの?」
「まぁそうだね。」
俺は深呼吸し、ニゲラの花と花の間にちらりと見える地面に片足を立て座った。
そしてひっそりと隠し持っていたアメシストの付いた指輪を、冬芽の左手の薬指に通した。
冬芽の手は小さく指は細いため、指輪はスッと通った。
空に流れ星が流れ、段々と近づいてくる。
「冬芽、遅くなってごめん。俺は冬芽が好きです。死んでも離れたくない。」
冬芽の瞳から、涙が溢れる。
「冬芽、結婚してほしい。」
その瞬間、冬芽は体の力が抜けたように俺に抱き着いて号泣した。
俺も抱き返して、精一杯泣いた。
「うわぁぁぁぁぁ…もう遅いよぉ!もう、もうすぐ死んじゃうじゃんかぁ!ずっと待ってた…私も玲雄が好き。玲雄がいい!
もし今日が地球が最期じゃなければ、結婚して、子供も産んで、幸せな日々を送っていくんだろうなぁ…
玲雄、死んでも一緒に居てくれる?」
「当たり前だろ。たった一人の大好きな《《彼女》》に、寂しい思いをさせてたまるか。」
冬芽はポケットから指輪を取り出し、俺の左手薬指に通した。
俺があげたのと同じ、アメシストの指輪。
「同じこと考えてたんだな俺たち。まさか買った場所も同じなんてな。地球最期の奇跡だ。」
冬芽は2つの指輪に口付けし、「愛してる」と言いながら、抱きしめて、俺に口付けた。
2人の愛の涙が頬を伝う瞬間、地球は爆音を出しながら爆発し、一瞬で塵となって消えた。
人も、木も、水の姿すらなくなって、宇宙からひとつ星が無くなった。
でも、俺たちの愛は一生消えない。
お互いを想う気持ちは、何にも消せない。
そして地球があった場所に、ほんの微かなニゲラの花の香りが漂っていた___。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
良ければ日記(歌い手になるまでの日記14day)も見ていただけたら嬉しいです。
たいようの花は、溌溂と
描きながら少しウルっとくる自分(内容知ってるから)
真っ暗に変わった視界に、段々とぼやけて一つの記憶が流れた。これから映画館を見るみたいな感覚は、とても興味深く心を弾ませるみたいだ。
浮かんできた景色はパパと僕が向日葵畑に居るところだった。これは確か、二年前くらいの頃だったかな。
「うわぁっパパすごいね、向日葵がいっぱい!」
黄色い花に包まれた畑を、走り回りながらそう言った。
「来てよかっただろ?」
僕は立ち止まって、すぐに大きく頷く。
「うん!綺麗だし、おきっい!」
自分の身長よりも、二〇センチ以上に大きな向日葵は殆どが眩しい太陽の方を見つめていた。
僕は向日葵の晴れやかに咲く花が見たくて、見たくて、一生懸命背伸びをしていた。するといきなり体が宙に浮いて、向日葵よりも視線が高くなった。
「パパ!」
振り向くと、少し汗を掻きながら向日葵みたいな笑顔のパパが僕を抱き上げていた。
「やっと見つけた。まだ体が小さいから見つけるのが大変だな」
「僕もう六歳だよ、小さくないもん!」
「そうかそうか。でも中学生ぐらいにならないと向日葵は超せないかもな」
僕はムスッとしながら、さっきとは違う視点から見た向日葵をジッと眺めていた。
|祭 耀花《まつり ようか》、僕のママは、僕が産まれてからすぐにお星さまになったらしい。だから、顔も声もあまり覚えてないけど、向日葵が好きだったらしい。花のような凛とした人で、高貴な家庭の人だけど、パパ、こと祭 涼太と居るとどこか無邪気な可愛さが出ていると言われた事があるんだって。僕は、二人の名前を合わせて、祭 |太耀《たいよう》になった。
向日葵を見ていると、あんまり覚えてないママの顔が、浮かびそうな気がした。
パパとママは、なんだか向日葵みたいだ。いつか、庭に向日葵を植えたいな。
昔の事を思い出した僕は勢いよく起き上がり、暗い部屋の中パパを揺さぶって起こした。
「な、なんだ。どうした、何かあったのか」
慌てて起きるパパに僕は言った。
「ねぇ、今度の土曜日に向日葵植えたい!植えて、大きくなったら絵を描きたい!」
「あぁ向日葵か……わかったわかった、土曜日に植えような」
僕はやったーと言いながらもう布団にもぐった。
「まだ夜中の三時だ。ちゃんと寝るんだぞ」
「うんっ」
そう言いつつも、興奮しているせいか中々目を閉じても眠れなかった。
「行ってきまーす!」
いつもより大きな声で言うと、奥から「気を付けろよー」と大きな声で返事が返ってきた。僕はドアを開けてワクワクした気持ちになりながら、学校に向かった。
今日は何故か授業がよくわかって、沢山手を挙げた。図工の時間はすごく向日葵が描きたくなって、授業は聞かずにずっと向日葵を描いていた。帰りに先生に驚かれた。特に図工の先生。授業に参加はしてなかったけど、すごく絵が上手だって。向日葵パワーは凄いんだ。
放課後、褒められた絵を脇に挟んで帰っていた。
「あ、やべ俺学校に忘れ物した。先帰ってて!」
「そうなの?わかった!」
友達が珍しく忘れ物を取りに行って、僕は一人で帰っていた。横断歩道、絵を挟んだ反対の手で手を挙げて小走りで走った。
その時、片方の手を動かしてなかったせいか、バランスを崩して転んだ。僕は急いで立ち、すぐに渡ろうとした時、左から凄く速いスピードで黒い車が走ってきた。
少し混乱する間に、視界が斜めになって、地面に叩きつけられた。意識が朦朧とする中、全身が凄く痛かったような、そうでもないような。
ふと気が付けば、僕はあの時居た向日葵畑に居た。
けど、なんだか向日葵が小さくなったようで、いつの間にか、僕の方が高くなっている。向日葵の間を分け入って歩いていると、向日葵たちが僕をジッと見つめて、道を作ってくれていた。
「向日葵さん、この道の先には、何が待ってるの?」
いつの間にか自分の声が低くなっている。向日葵は、何も話さず風に揺られ、「行ってみて」と言うかのように僕を見つめる。
一歩一歩、緊張しながら歩いていく。周りに太陽の花、向日葵が居てくれているおかげか、体は全く震えていない。逆に、急いでと向日葵に背中を押されて小走りしているようだ。
道の端まで来ると、大きな井戸があった。綺麗な水が井戸に沢山入っていて、満開の向日葵と快晴を反射している。
井戸を覗くと、真ん中から波紋が広がり、井戸から声が聞こえた。
『太耀、大丈夫か』 『太耀、今日も目覚めないのか……』 『太耀、どうか生きてくれ』 『向日葵の種、まだ置いてるよ』 『耀花、頼む。太耀を守ってくれ』
『今日はお前の誕生日だ。太耀は絵を描くのが好きだろう?誕生日プレゼント、キャンパスと絵具を買って来たんだ。……だから、早く起きてくれないか』
『太耀、いつの間にか、大きくなったなぁ。このまま一生覚めなかったら、どうしようか……』
しばらくすると、また聞こえ始める。
『パパ、起きて!』
『な、なんだ。どうした、何かあったのか』
『ねぇ、今度の土曜日に向日葵植えたい!植えて、大きくなったら絵を描きたい!』
『あぁ向日葵か……わかったわかった、土曜日に植えような』
『やったー、約束だからね!』
声が聞こえなくなったあと、大切な事を思い出した。
そうだ、僕はパパと約束した。向日葵を、植えるって約束したんだ__。
気が付くと、僕は寝転んでいた。白いベッドで白い部屋で。片手には、何故か点滴をされていて、何故か、僕の体は大きくなっていた。
身体を起こし、辺りを見渡すけど、誰もいない。ただ、窓際に二輪の向日葵が置かれていた。置いたばかりなのか、溌溂と咲き誇っている。
近くに、『ナースコール』と書かれたボタンがあったので興味半分で押した。
すると、少しした後にドタドタと走る音がして、ドアが開いた。
「太耀!」
駆けつけるように来る、少し老けたような、パパ。
「パパ……僕どうなったの?向日葵、まだ植えてないよ」
「太耀、お前は八年間ずっと昏睡状態だったんだ。あの日太耀は事故に遭ってから、ずっと目を覚ましていなかった……」
パパは溢れる涙を袖で拭くも、どんどん流れてくる。
「そう、だったんだ……ごめんなさい、約束守れなくて……」
「良いんだ。目覚めてくれただけで……それに、まだ約束は果たせるよ」
数週間して、退院した僕はすぐにパパと向日葵を植えた。丁度、事故に遭ってから八年ぐらいで、向日葵を植えても間に合う時期だった。
八年間も昏睡していたので、八年間分の勉強を、家庭教師を呼んですることになった。八年間分をするのはすごく大変だけど、毎日お見舞いに来てくれていたパパを想うと頑張れた。勉強もしながら、僕は絵を描いた。誕生日プレゼントとして買ってくれたキャンバスと絵具で沢山の絵を描いた。
絵を描くことは、八年間の勉強を捗らせてくれるようなものだった。
それから、数年が経つ。なんとか八年間分を取り戻して、高校に通って、卒業した後、僕は芸術大学に行くことになった。
芸術大学は、絵を描くことが好きな僕に丁度良く、楽しい日々だった。
そして、夏。あの日植えた向日葵たちを前に、僕はキャンパスに描いていた。
あの日の事を思い出して、はっきりと覚えている。あの情景を。
展覧会に来た。パパとある絵を探していた。
すると、二輪の向日葵が、窓から差し込む光に照らされて溌溂と咲き誇っている絵を見つけた。初めて見たパパは、その場で涙を流し始めた。
【最優秀賞・特別審査員賞】
名: 祭 太耀
題:『パパとママの笑顔』
庭の太陽の花は、溌溂と今日も笑顔で咲き誇っている。