音が響く家で、静かな日常はもう終わった。
―Harmony≠Ordinary―
それは、普通じゃない家族の物語。
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目次
I話:はじまりの音
『音梨家、春の再編』
I話:はじまりの音
今日は、なんだか空気が違う。
父が朝からそわそわしていて、リビングを何度も行ったり来たりしている。
「名前、今日は瑞希さんたちが来るからな。ちゃんと挨拶するんだぞ」
そう言われても、俺――音梨 名前は、ソファに寝転がったまま、イヤホンを耳に差し込んだ。
暇だな……。
よし、#writer Harmonyの曲でも聴こう。
「♪~」
流れてきたのは、あの曲。
アルさんの深い声が心に響き、
さらさんの繊細なハーモニーが空気を震わせる。
無名さんの高音が跳ねて、
ティナさんの歌声が夜空を描く。
……やっぱ、好きだな、このグループ。
ピンポーン。
「は~い!」
玄関に向かうと、父がすでにドアを開けていた。
「こんにちは、瑞希さん」
そう、瑞希さんは父の再婚相手。今日からこの家に住むことになった人だ。
「こんにちは、名前くん。こちらが今日から家族になる朱留、愛唯、彩良、星華よ。ほら、挨拶して」
瑞希さんの後ろに並んだ4人は、どこか見覚えがあるような……いや、まさか。
「初めまして。朱留です。よろしくね」
「僕は彩良。よろしく」
「僕は愛唯!よろしくぅ!!」
「私は星華よ。よろしくね」
「あと、学校の寮で生活している茶依もいるわ。仲良くしてあげてね」
……え?
この人たち、まさか――
いや、そんなわけない。似てるだけだ。声も、雰囲気も、名前も。
でも、なんか、既視感あるんだよなぁ……。
まぁ、気にしなくていいや。
そう思って、その場を離れた。
そのときは、まだ知らなかった。
朱留がアルさんで、彩良がさらさんで、愛唯が無名さんで、星華がティナさんだったことに。
そして、俺の平凡な日常が、音と光に包まれていくことになるなんて――。
静かな夜の音の予感
『音梨家、春の再編』
2話:静かな夜の、音の予感
夕食の時間。テーブルには瑞希さんの手料理が並んでいた。
煮込みハンバーグに、ポテトサラダ、そして彩良が焼いたガーリックトーストまである。
「いただきます」
声をそろえて言うのは、まだちょっとぎこちない。けれど、誰も嫌な顔はしていない。
朱留は静かに食べながら、父と仕事の話をしている。
彩良は「このトースト、焦げてない?大丈夫?」と気にしながらも、みんなの反応を見て嬉しそう。
愛唯は「うまっ!これ、マジでうまっ!」とテンション高め。
星華は「彩良、トーストの焼き加減完璧よ」と微笑んでいる。
俺――音梨 名前はというと、黙って食べていた。
なんだろう、この感覚。
家族って、こんなにスムーズに馴染むものだったっけ?
「名前くん、明日から学校だよね。愛唯くんと同じ学年だから、案内してもらえるといいわね」
瑞希さんが言うと、愛唯が「任せて!めいガイド、発進!」と元気に手を挙げた。
その夜、部屋に戻ってから、スマホで#writer Harmonyの動画を見た。
ライブ映像。ステージの上で歌う彼ら。
アルさんの声。さらさんの動き。無名さんのテンション。ティナさんの表情。
……似てる。いや、似すぎてる。
まさか。いや、そんなはずは――
そのとき、画面の中でメンバーが言った。
「次の曲は、家族に捧げる歌です」
俺の心が、少しだけざわついた。
始まりの校舎
『音梨家、春の再編』
III話:はじまりの校舎
翌朝。制服の襟を整えながら、俺――音梨 名前は鏡の前で深呼吸した。
今日から新しい学校。しかも、愛唯と同じクラスになるらしい。
「名前~!行くよ~!」
玄関から愛唯の声が響く。元気すぎるテンションに、少しだけ気圧されながらも、俺は靴を履いた。
通学路は、春の風が心地よかった。
愛唯はずっとしゃべっていて、学校のこと、クラスのこと、部活のこと――話題が尽きない。
「ねえ名前、音楽って好き?」
「……うん。聴くのは好き」
「じゃあさ、今度#らいはものティナの歌、聴かせてあげる!マジで感動するから!」
愛唯の目がキラキラしていて、まるでファンみたいだった。いや、実際そうなのかもしれない。
校門をくぐると、ざわめきが耳に入ってきた。
「昨日のさらまるの配信、やばかったよね」
「アルくんの低音、鳥肌立った」
「むめちゃ、また新曲出すって!」
「ティナ、こんどフルート配信するって!」
……え?
俺は立ち止まった。
「名前?どうしたの?」
愛唯が振り返る。俺は首を振って、「なんでもない」と答えた。
教室に入ると、星華がすでに席に座っていた。
静かに窓の外を見ていて、まるで別世界にいるみたいだった。
「おはよう、名前くん」
星華が微笑む。その声は、昨日聴いたティナさんの歌声と重なっていた。
俺はまだ、確信していない。
でも、少しずつ、点が線になっていく感覚がある。
この学校で、何かが始まる。
俺の知らなかった“音”が、少しずつ近づいてきている。