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目次
消えゆく神の子 第一話
・この作品は初心者によって作られたものです。温かい目で読んでください。
暗い夜道。街頭が照らす道路を一台の車がさっそうと駆け抜けた。
それを追うようにもう一台の車も走り抜ける。
アスファルトを転がる砂利の音がその場に取り残されていた。
「目標は白のSUVに乗って逃走中。築地大橋にいます」
「追跡しろ。ターゲットを誘導するんだ」
「了解」
白のSUVに乗ったスーツ姿の黒人は、後ろから追いかけてくる黒いセダンを見る。
「Merde! Quels sont-ils?(クソ!なんなんだよあいつら⁉)」
スピードを上げて追ってくるスーツ姿の人たちを見た黒人の男は前を向きなおしアクセルを踏み込んだ。そのまままっすぐ走り続ける男。豊洲大橋 環二通りを走り抜けると目の前に黒のセダンがもう一台現れる。Uターンも出来ず焦った男は交差点を左に曲がり、木遣り橋へ向かった。橋にある料金所を突っ切って行く。さらに、追手から逃れるために複雑な動きをし、男は特別区道江511号を通り、新末広橋へ向かう。橋を渡り終えると、埠頭がある。
「C'est un port ! Vous pouvez vous cacher là-bas...!(港だ!あそこなら隠れられる……!)」
車の中で喜びを噛みしめながらゆっくりとコンテナが集まる場所に入っていく。
ズラリと並んだコンテナを見ていると、一つ扉が開いているコンテナを見つけた。
「C'est là-bas...(あそこだ……)」
コンテナの中に車をバックで入れる。エンジンを切り、安堵した男は車からゆっくりと降りてきた。
「Geler……(動くな……)」
男は後ろから頭に何かが突きつけられてたのを感じ、足を止めた。
突きつけられていた物が離れたのを感じた男がゆっくりと振り返る。
暗闇の中、その正体を突き止めようとした男の視界に月明りが入る。
自分の影に隠れた者がゆらりと立ち上がったかと思った次の瞬間――!
口の中にサイレンサーの銃口を入れられ、後頭部から血を吹き倒れてしまった。
「対象の無力化を確認。後始末は別の奴らに任せて、帰還します」
「了解」
コンテナから出てきた男は海岸に止めた白のセダンへ向かう。車の横まで歩いてきたところで、タバコを取り出し火をつける。夜空の浮かぶ月を見つめていた。しかし雲の隠れてしまい見えなくなる。
「月明りを覆い隠す雲。まるで俺みたいだ……」
そう言って海にタバコを投げ捨て、走り去った。
その様子を遠くから見ている者がいた。
「天野 伊吹……彼で間違いありません」
「上出来だ。彼ならきっと、やってくれるだろう――」
そのころロンドンでは――
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
橋の下で一人の女性が逃げるように走っていた。
後ろを振り返ると、塔で何かがキラリと反射した。次の瞬間――
女性は心臓を撃たれそばの川へ倒れた。
川の流れが屍をどこか遠くへ運んでいく。
川岸に現れた男が、落ちている名刺のようなものを見た。そこには
『特定遺伝子所持者』と書かれていた――
消えゆく神の子 第二話
広く洗練された部屋。青色が目立つモニターで様々な監視カメラの映像が切り替わっていく。
「いました。橋の下です!」
一人の人物が声を上げる。映っていたのは川を流れる女性の死体だった。
「始まったか……」
「早急に”彼ら”を集めた方がよさそうですね」
「ああ。人類最大の過ちから、”神の子”を救うためにな――」
他の画面にも別の監視カメラの映像が映っている。
そのうちの一つに、海にタバコを捨てている男の姿もあった――
翌日
コンコンッ
「失礼します。どのようなご用件でしょうか?防衛大臣」
「ああ。よく来てくれたね天野君。まずは先日の任務ご苦労だったね」
「防衛大臣。本題はなんですか?」
「まぁそう焦らないで」
そう言って椅子から立ち上がると、窓から外の景色を眺め始めた。外を見ると、黒の車列が現れる。
それを見た防衛大臣は横目で振り返って、
「天野君。きみは非常に優秀な人材だと思っている」
防衛大臣が神妙な面持ちで話し始める。
「きみに賭けるぞ、天野君……」
「はい?」
「時間だ。外に迎えが来てる……。次の任務に取り掛かるんだ」
「わ、わかりました……」
防衛大臣の言葉の意味が分からない天野は疑問を残しながら場を去った。
(天野くん……。きみが直面する現実は、きみの手で救うんだぞ――)
防衛省前
「……誰?」
防衛省から出てきた天野は目の前にいる人物に言った。
「やぁこんにちは。初めましてだね、天野 伊吹くん」
「初めましては重々承知だ。お前が誰かを聞いてるんだ」
「それについては後で話そう。車に乗ってくれ」
天野は疑いながらも渋々車に乗った。
移動中
「それで、用件はなんなんだ?」
「うむ。まず今まで君が勤めていた防衛省情報本部での仕事は終わった。ご苦労だった」
「は?どういうことだよ」
「これからは新しい仕事場で働くということだ」
「新しい仕事場?」
俺は理解出来なかった。仕事でミスを犯した覚えもないのに、突然仕事場を変えられるなんて……。
『きみに賭けるぞ、天野君……』
まさか、俺に賭けるって……
この先に何かとんでもないことがあるのでは?と思った天野は冷や汗をかく。
「新しい仕事場って、なんだ?」
「うむ。説明しよう。このタブレットを見てくれ」
手渡されたタブレットを見ると、画像が出てきた。
画像:https://d.kuku.lu/uytpvuphp
「IISS……?」
「ああ。国際情報統括監視機関。その名も『IISS』新しくできた諜報機関だ」
「IISS、か……」
「IISSの主な目的は世界中の莫大かつ様々な情報を監視し、テロ、戦争などといった出来事を未然に防ぐ、または解決させることだ。時には情報を秘匿したりもする」
「なるほどな……」
「そういえば自己紹介を忘れていたね。私の名前はMrマーク。組織のリーダーと思ってくれればいい。さ、ついたぞ」
車から降りると、まるでそこは軍事基地のような場所だった。
「な、なんだここ……。防衛省でも聞いたことない場所だな。あいつら陸自……?いや、そもそも自衛隊なのか?まさかアメリカ軍……」
「残念ながら不正解だ。彼らは我々の実行部隊だよ」
「つまり秘密の特殊部隊ってわけか……」
「それじゃあ、しばらく施設内を見学でも散策でもしといてくれ。また後で会おう」
そういうと、マークは基地内で一際目立つモダンな建物に入っていった――
数時間後、基地の会議室にて
テーブルの周り、天野を含む何人かが椅子に座っていた。
ドアが開き、マークが入ってくる。
「お集りのようだね。どうだこの美しい部屋は?」
テーブルの横を通り、正面の椅子に座る。タイミングを見て一人が質問した。
「Mrマークさん。我々を集めた理由をお聞かせ願いたい」
「うむ。まずはメンバーの紹介からいこう」
そういって視線を移し、淡々と紹介し始める。
「日本の防衛省情報本部所属、天野 伊吹君」
「イギリスのMI6所属、サイラス・リーヴァイ・ジョンソン君」
「ドイツの連邦情報局所属、ルーク・フォーゲル君に」
「メキシコ、国家安全調査局のルイス・ヘルナンデス・エルナンデス君」
「アメリカ、CIA所属のエース・アンダーソン君とアリア・ペリー君の計6名だ」
(マジかよ……思ったよりヤバい構成だな……)
「こりゃあ……」
「諜報機関の……」
「オンパレード、だな」
「なるほど……」
「来た甲斐があったぜ……」
「面白そうじゃねぇか」
部屋がざわつくが、すぐに静かになった。
「メンバーを聞いて分かると思うが、今回の事案はとても機密性が高い。それと、我々には一刻の猶予もないことを伝えておこう」
マークが真剣に話始めた。
「諸君らは知っているかね?神の子の存在を」
正直言って聞いたことなかった。そもそも神の子ってなんだ?と思った。
他の人たちもわからない様子で
「なんだそりゃ?」
「神話か何かか?」
「聞いたこともないです」
と、声を上げていた。しかし、CIAのアリアが口を開く。
「違うかもしれませんが、『常人にはない遺伝子を持った特殊な人間がいる』そんな話を聞いたことがあります。確か名前は……」
「ゴット。ゴット遺伝子だ」
マークが先回りして言う。
「ひとまず、これを見てほしい」
そういって、テーブルに置いてあったリモコンで正面のモニターを付けると、会社のロゴのようなものが出てきた。
画像:https://d.kuku.lu/sgbtxxpc3
「GBSって……まさか」
「GBS Institut de recherche……フランスの遺伝子バイオサイエンス研究所だ」
「その研究所なら知ってる。ある日突然すべての研究員が失踪して、その後解体された研究所だろ?すごい研究をしていたって聞いてる」
「うむ。その研究員だが、我々が掴んだ情報ではカナダで生き延びている」
「カナダ?」
「正確には、カナダへ連れ去られたんだ。連れ去った犯人も、明確な目的も分からないが、連れ去られる少し前に、彼らはあるすごい発見をしている」
「すごい発見?」
「それが、ゴット遺伝子だ。ゴット遺伝子は正真正銘、『GBS』の研究員によって作り出された人工遺伝子なんだ」
「なん、だと。GBSの奴らが……?」
その場にいた全員が息をのんだ。信じられない話だ。
「連れ去った奴らは恐らくゴット遺伝子と何かしら関係があるだろう。そして、そのゴット遺伝子を持つ者は『特定遺伝子所持者』というものに認定されている」
「なるほど」
とここで、俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「マークさん。ゴット遺伝子を持っている人は何か特別なことがあるのか?」
さっきアリアが『特殊な人間』と言っていたのが気になっていたのだ。
「ああ。ゴット遺伝子を持つ者は、運動神経や頭の良いんだが、尋常じゃないほど良いんだ」
「ちょっと頭の良くて運動のできるやつ……って訳じゃないみたいだな」
「ああ。彼らはその力から、君たちと同じ諜報員として活動している」
「「「諜報員⁉」」」
「ああ。国家治安維持の元、諜報、戦闘を行う諜報員。それが、特定遺伝子所持者。通称『神の子』だ――」
休憩スペースにて
「結局どうしろって言うんでしょうね」
「どうせあれだろ。そいつらが厄介だから全員殺せって話じゃないか?」
「そんな単純な話か?」
「他にも考えられる可能性はいくらでもありますよ?」
「うるせぇ!」
みんながそんな話をしているとき、外では――
屋外にて
「天野君とエース君には一足先に任務に向かってもらう」
「何をすればいいんだ?」
「これから向かう先に神の子がいる。それらを確保し、ここへ連れてくるんだ。実行部隊も同行して行く。交戦規定は自由だ」
「まってくれ!戦闘が起きるのか⁉」
「ああ。だが神の子は殺すな。間に合えばいいが……」
真剣に話すマークと違って、天野とエースは話の意味が理解できていなかった。
「意味わからないな……」
「要するに自分の目で確かめろってことだ」
天野がそう返事をすると、二人はヘリに乗り込んだ。
ヘリが飛び去っていったのを見ると、マークが呟いた。
「『神の子を、すべて、一人残さず殺す』か……。神の子の命は、君たちに託されたぞ」
--- ―― 天野 伊吹君 ―― ---
消えゆく神の子 第三話
<注意事項>
・このお話はフィクションです。
フランス 山奥
「あったぞ……」
指示された通り山奥までやってきたエースは、謎の建物を見つける。かなり植物が生い茂っているが、建物自体はここ何年かの物に見える。建物の9割が白色で、独特だ。
「俺とエースが中に入る。実行部隊は建物の周りを固めておけ」
「了解。総員へ、建物の周囲に防衛線を張れ。オーバー」
建物に入ると様々な実験道具や薬品がちらばっていた。
「電気つけるぞ?」
と言ってエースがスイッチを押すと、部屋の明かりが順々についていった。
それを目で追っていくと、その先に縦長のモニターがあった。
「なんだこのモニター?これだけ植物もついてないな……」
そう思い近づこうと数歩歩くと突然モニターがつき、警戒した天野たちは銃を向けた。
モニターは水色を基調とした映像が流れており、地球が映されていた。今いる研究所から矢印が伸び、その先に赤い点が現れ、フランス語で『位置情報』と画面の上部に表示されていた。
「んだよこれ」
「何かの位置情報みたいだな。とにかく、まずは神の子をさがそう」
「了解」
ふと天野が振り返ると、カーテンのようなもので閉じられた部屋があった。
天野が不審に思い片手でピストルを構えながらカーテンを勢いよく開けた。
すると、地面に9歳くらいの男の子と女の子が二人寝ていた。白い毛布を掛けている。
「エース……ちょっと来てくれ」
「どうした?」
天野は二人の傍に落ちているカードを拾い、エースと一緒に見た。エースが書いてある文字を読んだ。
「特定遺伝子所持者……」
「間違いない。神の子だ」
「どうする?」
「もう少し建物の中を調べて、何もなかったら連れて帰ろう」
「わかった。天野は二人を見張っててくれ」
「了解――」
建物の外
隊員たちは建物を囲む森を警戒し、周囲を見渡す。ときどき、鳥のさえずりが聞こえる。
静かな森に目をとがらせていると、突然隊員の一人が「うっ」と声をあげ倒れた。
「どうした?大丈夫か?」
近くにいた隊員が近づき、手を伸ばそうとしたその時、突然いくつもの飛翔体が高速で自分の周りを通り過ぎた。それらは背後にあった建物の外壁に当たる。
「敵襲だ!」
その声を合図に暗い森から大量の弾幕が飛んできた。弾が当たらないことを祈りつつ、倒れた隊員の足を掴んで建物の中へ逃げ込んだ。
「アルファ0-4より総員へ。北東から銃撃を受け、アルファ0-5がダウンした!」
「総員戦闘用意‼建物の中まで撤退しろ。急げ!」
「なんだ?」
天野は突然の銃撃音に驚き、振り返った。
「正体不明の目標から攻撃を受け、現在交戦中です!」
「なんだと?」
「本部へ。神の子を発見したが、正体不明の目標からの攻撃を受けた。……包囲されている。回収部隊を要請する!」
「了解した。待機しろ……10分ほどかかる。それまで耐えてくれ」
「了解……総員へ。回収部隊が10分で来る。それまで耐えるぞ」
「耐えられるか?」
「やらなきゃ死ぬんだ。やるしかない」
そう言って天野は窓から森にいる敵へ撃ち始めた。
しかし、明らかに火力不足で押され気味だった。
「クソ、数が多い……」
「総員へ、森の奥から何か来る……装甲車だ!機銃付きの!」
「外にいる隊員は至急建物の中まで退避しろ!」
「天野さん!全員入りました」
それを聞いた天野は外にいる敵を撃つが、機銃掃射を受けているため狙う事ができずにいた。
「クソ!あの装甲車を何とかしてくれ!」
エースが大声で言うが、C4もなく、接近することも出来ないこの状況では対処しようが無かった。その時、機銃を撃っていた男が突然倒れた。驚いていると、ピストル1つだけ持った男の子が弾幕の中一発も被弾せずに悠々と歩きながら敵を撃ち殺していた。
「あいつ、さっきの男の子か⁉」
しばらくすると、銃声は鳴り止み、森の方に敵の死体が大量にあった。
窓から男の子の後ろ姿を見ていると、突然振り返り、早足で近づいてきた。
(殺される――!)
そう思った天野は一瞬怯えるが、すぐにそれが勘違いだと思い知らされた。
男の子は手を差し伸べ、無言で握手を求めていた。天野がその手を握る。
「ありがとう。お兄さんたちがいなかったらあぶなかったよ」
「あ、ああ」
「ケガはない?」
「大丈夫だ。ところで君は……」
「見たでしょ?カード……」
そういって、男の子はマジックのように天野が持っていたカードをどこからか取り出した。
「それで、何のためにここに来たの?あの敵は何者なんだい?」
「敵は分からない。俺は……君たち特定遺伝子所持者『神の子』を連れて帰るよう言われてきた」
「ふーん」
男の子は後ろで手を組みながら敵の死体を生きているのか、何者なのか、探るように見て回りながら答えた。
「お兄さんたちについていくよ。助けてくれたし、何より楽しそうだしね」
「いや、助けてもらったのは――」
俺たちの方、と言おうとすると「シッ――」と人差し指で天野の口を押えて、
「お兄さんたちがいなかったら、僕たち野足れ死んでた。だから、助けてもらったのは、僕たち」
「わ、分かった……」
そのあと、また後ろに手を組み、辺りをジロジロと見渡していた。
すると、誰かが天野の背中をトントンと叩いた。
エースが呼んでるのかと思い振り向くと、さっき寝ていた女の子だった。
「ど、どうした?」
「はいこれ」
そういって、女の子はUSBを渡してきた。
「これは?」
「あのモニターに出てる位置情報を取得するために必要なデータを入れといた。これで場所が分かるでしょ?」
「場所って……一体何の場所なんだ?」
「私たち『神の子』の位置情報よ」
「なんだと?」
「他の神の子も連れていく必要があるんじゃない?多分、他の人たちも襲われてるんじゃないかしら?」
「つまり、本部は神の子を保護しようとしてたのか……」
辻褄があい納得する天野。となれば、後は安全に連れて帰るだけだな。
「天野さん。回収部隊が来ました。ここに留まるのは危険なので、脱出しましよう」
言われて外を見ると3台の防弾仕様の車が止まっていた。
「よし。2両目に俺とエース。神の子を乗せる。他の隊員は1両目か3両目に乗ってくれ。撤収する」
「了解。総員へ、撤収だ。車に乗り込め!」
全員が車に乗る。
「で、本部までどう帰るんだ?」
「空港で専用のジェット機が待機しているので、そこまで向かいます」
「よし、出せ」
天野たちの車が土煙を上げながらUターンして山道を下っていった。
その後ろ、森の中でその様子を観察している者がいたことに付かずに……。
「総員へ、|目標《ターゲット》は空港へ向かった――」
消えゆく神の子 第四話
IISS 本部基地
灰色に染まった雲から、雨粒が降り注ぐ。
ザーザー降りの雨なのに、地面に落ちると儚く散って言った。
滑走路にジェット機が着陸すし、キーッと音が鳴る。
「帰ってきたわ!」
会議をしていた建物の中からベランダに、待ってアリアたちが出てくる。
「雨も相まってか、あんまり喜ばしい雰囲気じゃなさそうだな……」
ジェット機から降りて来た天野とエースは明らかに暗い雰囲気になっていた。
ジェット機後方の扉から少女が一人、担架で運ばれてきて、天野の前を横切る。
担架が通り過ぎると、目の前にMrマークいた。出迎えに来てくれたのだ。
天野は1歩近づき、
「一人、救えなかった……」
と言ってMrマークの横を過ぎていった。
Mrマークは何も言わず、目線も変えず、表情も、サングラスを掛けているからか、変わってないように見えた。だが、どこか悲しい雰囲気を感じた。
休憩スペースにて
「……何があった」
ドイツの連邦情報局に所属していたルークが聞く。
「分からない。理解が追い付かないんだ。……俺は、夢を見てるのか?」
「……そうか」
ルークは気持ちを察して、取り敢えず深堀するのは控えた。
「俺たちが関わるには、精神的な負担が大きいかもしれない」
エースが何とか冷静に言葉を選ぶ。
「どうしてそう思う?」
「それは――」
「自分が彼らを助けられるのだろうか、不安なんだろう?」
いつの間にか休憩スペースに来ていたMrマークが言った。
「辛いかもしれないが、君たちが目にしてきた出来事はすべて現実であり、真実だ」
全員が沈黙し、視線はマークに集中する。
「……改めて聞こう。君たちに、この世界と、神の子を……救ってほしい」
この場の全員が『はい!』と頷くことはできる。正義感とか、命令とか、そういうのを考えて、理想的な返事をすることはいくらでも出来る。けど、渋る。人間、決まって決断できない時がある。
この場にいる人たちも同じだ。……ただ一人の例外を除いて――。
「当たり前だ」
少し遅れて、天野が言い放った。
「俺が見ている現実は、俺にしか変えられない。俺の未来は、俺しか変えられない。だったら、しょげてないで、立ち上がって、立ち向かって、救える命、救ってやろうじゃねぇか。……マークさん。俺に出来ることは、なんだ?」
帰ってきてからずっとうずくまっていた天野が顔を上げて言った。頭では、空港での出来事を思い返していた――。
空港
「着いたぞ」
車のドアをバタンッと閉めて天野が言った。
「空港かぁ。写真とかでは見たことあるけど、実際に来るのは初めてだなー」
と男の子が言う。
「町も綺麗だなぁー」
「なんだ?町に来た事ないのか?」
「うん。あの建物の敷地から出たことない」
「マジか……」
どんだけ引きこもってたんだと、思いながら空港のゲートに入る。
さっそくジェット機に乗ろうとするが、男の子が
「トイレ行ってくるねー」
と言って天野たちから離れていった。
「じゃあ待ってるか」
「出発までまだ15分ほど時間が余ってる。お土産でも買うか?」
「お土産?」
女の子がきょとんとする。知らないようだ。
「そんなことも知らないなんて、ホント不思議な子だな」
「まぁそれに関しては追々話してあげるわ」
女の子はどこか上から目線にも感じる口調で答えた。
「ずいぶんと上から目線なんだな?」
と笑いながら言うエース。
そんな談笑を離れたところから見ている人物がいた。
その者は全身黒でパーカーを被っていた。空港の人混みが少ない場所で一人ポツンと。
少しの間天野たちを見つめ続けた男は、ポケットに突っ込んでた手を銃を持った状態でポケットから取り出した。
「死ぬがいい」
変声機を使った声で男は言い、男はトリガーを引いた。
「危ない!」
そう叫んだのは男の子だった。トイレから出て来た男の子は銃を持った男に気が付き、発砲を止めるために飛び掛かった。
しかし、一発目は男の狙い通りに飛んで行く。
「え?」
飛んで行った弾丸が空気を切り裂き、女の子の右肩に命中する。
黒フードの男を押し倒した男の子は振り返り、女の子を見る。
目線の先には肩から血を流して倒れている女の子が見えた。どうやら意識がないようだ。
「き、貴様あぁ‼‼‼」
男の子は懐からナイフを取り出して男を切り刻む。「このっ!このっ!」と声を上げ文字通り切り刻んでいた。黒フードの男は悲鳴の一つ上げず、感情が無いかのように男の子に銃を向けて撃ち続けた。
黒フードの男は体をめちゃくちゃに切り刻まれ、男の子は体のあちこちに穴が開き、血がにじみ出ていく。
天野たちは離れた場所から唖然としながら見ていた。
空港の中にいた人たちも声が出ない様子だった。
しばらくすると、黒フードの男は銃を持っていた手を力無く落とした。
少し遅れて、馬乗りになっていた男の子がバタッと倒れ込んだ。
天野が近づき、男の子の脈を測るが、もう既に死んでいた――。
南極近海 豪華客船『ゴールデンイルカ』
「他の神の子はどこにいる?」
狭い部屋の真ん中で、椅子に拘束された女に聞く。
「知らない」
「そうか……」
ナイフをもった男は近づき喉にナイフを突きつけながら、
「なら、お前を殺して、残りの奴らを殺すまでだな?」
「あんた達が殺せるほど弱い奴は神の子にいないわ。さっさと解放しないとあたしの仲間が助けに来てあんたら全員やられるわよ!」
強気でまくしたてるように言う。
「ほぉ……聞いたか?エリートさんらは、向こうから来てくれるみたいだ。こいつを人質に取ったと嘘の情報を伝えろ」
「っは、何が嘘の情報よ。私は正真正銘ここに囚われているわ」
男は女に近づく。
「もう終わりだ」
と言って女の肺を貫くようにナイフを刺し、抜き取った。
「30分もすれば勝手に死ぬ。それより、時は一刻を争うぞ?」
「はっ!すぐにでも」
一人がそう言って部屋を出て行った。
「いいか?大事なのは情報と計画だ。理想的な嘘が、真実を覆す。それが最大の武器だ!」
仲間を鼓舞するように男が大声で言った。
「我々に逆らう馬鹿どもを、炙りだしてやれ‼」
「はっ!」
男は部屋を出ていこうとドアを開けるが、立ち止まり、
「それと、IISSとやらにも注意しておけ。なにやら不穏な動きをしているからな?」
「もし見つけたら?」
「殺せ」
捨て台詞のように言って、男は部屋を出て行った――。