荒廃した世界。
漂う霧。
徘徊するエネミー。
そして、数少ない生き残りの子供達。
彼ら彼女らは、エネミーとの戦いの果てにーー。
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目次
設定集 武器まとめ
武器、メイン
アタッカー
|短剣《ナイフ》……軽い。投げナイフのようなものもできる。
|刀《ソード》……平均的。バランス型。
|戦斧《バトルアックス》……重い。そのかわり威力は抜群。
シューター
|散弾銃《ショットガン》……近距離用。面に弾をばらまくので、当てやすい。
|短機関銃《サブマシンガン》……中距離用。サポートにも攻撃にも回れる。
|狙撃銃《スナイパーライフル》……遠距離。完全サポート。でも重宝される。
武器、サブ
|小盾《シールド》……頭くらいの大きさのバリア。でも、手を使わず軽く念じるだけでで発動できる。
|大盾《バリア》……でっかいし、防御力は小盾より高い。でも、発動に両手と集中が必要。
|探知機《レーダー》……アンノウンを探すことで、味方とエネミーの位置が分かる。
|罠《トラップ》……踏んだエネミーの足をなくせるくらいの地雷を作れる。設置して使える。
|煙幕《スモーク》……煙幕が入った玉を作り、それを割ることで目眩しができる。投げてもよし。
|医療機器《メディカルデバイス》……軟膏のような物質を作り出し、傷口に塗ることで治癒力をさらにあげられる。
設定集 世界観など
たまに付け足すかもです。
地球は滅ぼされ、建物はエネミーという異形の敵によってほとんどが破壊される。当然インフラも全壊。
エネミーは人形をしているものの、おおよそ人間とは思えない容姿。
テロリストが毒ガスを発射。毒ガスは子供にはなぜか効きにくく、子供の中のごく一部が生き残る。
大人は全滅。
毒ガスは霧として漂っており、酸素のように身体の中で必須のものにすることで生きながらえたが、主人公たちはもはや毒ガスを接種しないと生きられないようになる。
体内のアンノウンが尽きると死ぬ。
毒ガスはアンノウンと呼ばれる。
仮死状態で適応し、適応し終えると目醒める。目醒めたあとは、筋力、回復力が多少上がり、任意で脳内通信ができるようになる。各種武器も出せるようになる。
また、肉体的成長がなくなる。
組織内の役割は、刃物を扱い近接攻撃するアタッカー、銃器を使って攻撃やサポートをこなすシューター、そして司令部がある。
司令部には強く頭もいい一部のエリートしか入れない。
アタッカーとシューターは四人程度の隊を組み、基本的にその隊でまとめて行動する。
隊員が死んだ場合は異動になることもある。
組織の本部は関東にあり、支部がそれぞれ関西と東北にある。
支部には司令部や隊がいくつか配備されている。本部よりもエネミーが現れにくいので、常駐する人数は少ない。
本部は超巨大デパートを再利用している。
設定集 キャラ設定
名前・雨夜 六花 アマヨ リッカ
性別・女
年齢・15
性格・アングラ。やや高圧的だが、実は内気。人と話すのが苦手。
容姿・藍鼠色の、伸ばしっぱなしのぼさぼさふわふわの長髪。下ろしている。目の色は紺色。パーカーを常に着用している。下はホットパンツ。顔はわりとアンニュイでかわいい(本人気づいてない)が、磨く気がないのであまりそう見えない。
身長・150
一人称・僕
二人称・お前
三人称・あいつ
好きなもの・ゲーム、ポテチ、うさぎ
嫌いなもの・自分を嫌いな人、辛いもの
役職・アタッカー
メイン武器・ナイフ
サブ武器・シールド
その他・引きこもりのゲーマーだった。褒められ慣れてない。
サンプルゼリフ・
「僕は雨夜六花。……雨夜って呼んで。その方が気に入ってるから」
「え……け、敬語……? どうやるんだっけ……こ、今度ともよろしく申します?」
「背中はあいつに任せてる。僕が信じなくってどうしろってんだよ」
「や、野生のうさぎ……? かっ、かわい……なんでもないなんでもない!」
「ぶっ! ……おい! 誰だよ僕の寿司にワサビ入れたの! 抜いてって言ったろ!?」
「え……本体も電源ないんじゃ、ゲームできないじゃん! なんて世界だ!」
名前・昼神 五十鈴 ヒルガミ イスズ
性別・女
年齢・15
性格・フレンドリー。仲のいい相手以外には礼儀ただしい。倒置法ガール。ゆったりした雰囲気だが、けっこう明るい。
容姿・クリーム色の髪の毛を低めの位置でゆるいツインテールにしている。目は緑色。白いシャツとゆったりしたズボン。ブルゾンを羽織っている。顔は例によってかわいい。一見ゆるい雰囲気だが、目はぱっちりとしていて意思が強そう。
身長・156
一人称・私
二人称・名前、名前さん
三人称・名前、名前さん
好きなもの・YouTube、ソーダ、友達
嫌いなもの・虫、嘘
役職・シューター
メイン武器・スナイパーライフル
サブ武器・バリア
その他・視力がべらぼうにいい。雨夜の隊の隊長。
サンプルゼリフ・
「非常食、おいしくないね、あんまり……」
「敵が攻めてきたときに持ちこたえることはできる。スナイパーライフルとバリアはあんまり相性良くないんだけど」
「行け、雨夜! 援護する!」
「この包丁? うん、これからエネミー解体するの。……嘘だよ?」
「え、見える、天然に? 私が? そうなんだ……」
名前・日向坂 沙弓 ヒナタザカ サユ
性別・女
年齢・18
性格・時代がかっている。頼れるお姉さん。ただ者じゃなさそう。
容姿・渋緑色の髪の毛。髪型は、髪の毛をすいて後ろで細く縛った長い一つ結び。琥珀色の瞳。なぜかへそだしのインナーとぴっちりしたジーンズの上に羽織を羽織っている。顔はきりっとしている。声はしゃがれている。
身長・173
一人称・私
二人称・名前、お前さん
三人称・名前、あやつ
好きなもの・渋めのおつまみ、強い人、古いもの
嫌いなもの・ふがいない弟子
役職・司令部
メイン武器・刀
サブ武器・煙幕
その他・新米の師匠を一手に引き受けている。
サンプルゼリフ・
「お前さんが私が新たに受け持つ弟子かい。弱そうだねえ」
「エネミーに手も足も出なかったって? ふがいない弟子は嫌いだ。少し叩き直させてもらうよ」
「非常食は味気なくて嫌だねえ。せめて魚で薫製でも作れないかい?」
「はは! ははははは! はははははははは! 面白い、面白いねえ! これだから師匠というものはやめられないよ!」
「お前さん、体よく死ぬ気だろう。……甘ったれるなよ、馬鹿弟子」
名前・月宮 千 ツキミヤ セン
性別・男
年齢・17
性格・頼れる。完璧。責任感が強い。
容姿・髪の色は暗い紫。毛先がちょっと長めのイケメンショートカット。実際イケメン。目の色はうすい灰色。服はなんちゃって制服。
身長・163
一人称・俺
二人称・君
三人称・あの人
好きなもの・読書、軍議、辛いもの
嫌いなもの・エネミー、歌
役職・司令部
メイン武器・ショットガン
サブ武器・レーダー
その他・完璧だが唯一苦手なのは、歌。司令部のボス。
サンプルゼリフ・
「俺は月宮。月宮千。よろしく頼むよ」
「俺の仲間を殺したね? 許しが得られると思わないでよ、エネミー」
「敵の位置は教えてもらわなくてもいい。知ってるから」
「ああ、この本? 俺は読書も好きなんだ。やはり文学というものはいいね」
「え? アカペラで歌え、って? 俺に? まあいいけど……後で文句言わないでよ?」
まだ遥兎らいのキャラはいますが、最初のほうに出てくるメインキャラはこんなものです。
第一話 雨夜、リスタート
自主企画やってます!
雨夜六花は自分の名前が嫌いだ。
なにも、名字である雨夜と名前である六花の両方が嫌いというわけではない。嫌いなのは六花のほう、ファーストネームのほうだ。
六花。
なんだその小洒落た名前は、と思う。
かわいさとか、儚さとか、きれいさとか、そういう女の子らしさは皆無である。全く持っていない。
伸ばしっぱなしの髪の毛。手入れなんてしていないがさがさの肌。適当に安物で切っている爪。隈だらけの目。
どこをどう見たら、六花なんて名前が似合うのだーーそう思う。
逆に、雨夜のほう、ファミリーネームのほうはわりかし気に入っている。
雨と夜なんていう不吉な名前だけれども、自分にはぴったりだ。
そういうわけでこの物語では、雨夜六花のことは雨夜と称することにする。
さて、ここからが本題だ。
雨夜は目醒めた。
ほの暗い部屋だった。
身体を起こし、窓の外を見ると、太陽がまだ昇りきっていなかった。
雨夜がこんなにも早起きをすることなんて普段はありえない。雨夜は驚きながら顔にどさっと乗っかっている白っぽい髪の毛を払い除ける。
そう、白っぽい。
「……はあ!?」
雨夜は日本人だ。黒髪である。
別にハーフとかそういうことはなく、知らないだけでもしかしたら多少は外国の血が入っているのかもしれないが、しかし、元々の髪は間違いなく濡羽色のきれいな日本人の髪だった。
完全な白よりは暗そうな長い髪をいじりながら、雨夜はさっきからちらちらと目に入っていたそれを見る。
十数人くらいの人がすやすやと眠っていた。
自分もついさっきまでこうやって眠っていたのだろう。
ただ不思議なのは、それぞれの髪色が明らかに色素がおかしいところだった。赤色に青色、黄色もある。かと思えば、半分くらいがまだ黒色という人もいた。
そして。
なぜ自分がここにいるのかということを、雨夜は全く思い出せなかった。
記憶が家でゲームをしていたところでぷっつりと途切れている。
雨夜はそれなりに記憶力がいいということを自負しており、だからこそ言えるのだが、どれだけ頭を捻っても、ステージ攻略の途中で記憶がブラックアウトするのだ。
まさか、スタンガンで気絶させられたとかだろうか。
……ないな。すぐに雨夜はそう結論付けた。
雨夜は自宅の地下室にいつも引きこもっていたし、侵入者とかなら物音くらいするはずだ。
しかもそれだと髪色が変わっていたことに説明がつかない。
白色はともかく、赤色とか青色とかは明らかに科学の範疇を飛び越えているではないか。
いくら考えても、宇宙人の仕業だとか、妖怪変化の類いだとか、そういう選択肢しか思い浮かばない。
数分考えたところで雨夜は観念した。
どうせ雨夜は不勉強なひきこもりである。考えても理論的な答えを導き出せるとは到底考えられなかった。
それより、ここはどこなのか。
雨夜はぐるっとその部屋を見渡す。
さっきも見たように、たくさんの人たちが眠っている。
窓ははめ殺しである。そして、扉はなかった。
薄暗くてあまり見えないが、なにか棚のようなものがあり、何かが載っかっている。
さて、特筆すべきは、扉がないというのは、密室を指すとは限らないということである。
|むしろ非常にオープンだった《・・・・・・・・・・・・・》。
だだっ広くぽっかりと穴が空いていた。
「…………」
雨夜はなにか少し拍子抜けしたくらいの、若干混乱する気持ちで立ち上がり、外に向かった。
穴を抜けた先はデパートだった。
あのデパートだ。
「……はあ?」
目を疑った。
雨夜、本日二度めの「はあ」である。
確かに思い出してみればさっきまで雨夜が居た場所も棚やらなにやらがあってお店のような雰囲気があったが。
それにしたって、である。
なんと言っても、今の雨夜がおかれている状況を一文で説明するならば、
『目が覚めたらデパートにいて髪の色も変わっていて周りに寝ている人がいたひきこもり』
なのだから。
人生に一度でもこれを経験した人がいたら雨夜は是非とも会ってみたいものである。
しばらくデパートと思わしき場所を慎重に徘徊していると、
ふいに、
人の声がした。
どきんと雨夜の心臓が跳ねた。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
まだーー味方とは限らない。そして、敵とも限らない。
好意的に接してきても、あちらがこちらを利用しようとしている可能性もあるし、敵意なく悪意を向けてくる可能性もあるのだ。
あくまで、慎重に。
雨夜は恐る恐る近づく。柱を伝って、抜き足差し足、尾行をしているかのように近づく。
もともと影がすこし薄めの雨夜だ、隠密は完璧だった。ばれていない。
ーーはずだった。
「やあ。誰だい?」
ひやっとした声だった。
さっきとは比べ物にならない強度で雨夜の心臓が跳ねた。冷や汗がぶわりと吹き出る。声が漏れそうになる。
なんでばれた。なんでばれた!
「エネミー……じゃあないね」
こつこつと近づいてくる足音。声は男性のものだ。雨夜の心臓が早鐘を打つペースが速くなる。
「かといって隊員だったら隠れる意味もないし……」
逃げることはしなかった。できなかった。飛んでくる鋭い視線に足を縫い付けられたかのように動かなかった。
ホラーゲームのようなシチュエーション。でもゲームと実際では、緊張がまるで違った。
「あ、じゃあ」
バッと人影が雨夜の視界に表れる。
雨夜は呪縛が解けたかのように身構えるのだがーー
「新しく起きた人か」
表れた男はひらひらと手を上げて振っていた。
無抵抗の証だった。
雨夜の緊張が、ゆっくり、ゆるやかに解けていく。
「おーーお前、誰だ?」
口をついて出たことばに、男は答える。
「月宮千。ーーここのリーダーさ」
優しいはずなのに、ひやりとする笑顔で。
第二話 雨夜、エンカウント
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「なにも憶えていないのか?」
「ああ、なにも」
「あの日のことを?」
「そうだ」
月宮と名乗る男は興味深そうに聞いた。
月宮は愛想よく笑いながら会話を進めてくれるのだが、その笑い方からあたたかさは感じられなかった。
不思議な感覚だった。
「じゃあ君は、あれのすこし前の記憶を失ったわけか。割とよくある部類だね」
「お前……僕のなにを知ってんだよ。あの日ってなんだ? なんのことなんだ?」
雨夜は警戒心を剥き出しにして訊く。
まだこの男のことを信用したわけでは毛頭ないのだ。
「少なくとも、なぜ君がここにいるかは知っているよ」
「だから、それを答えろって」
「話すと長くなるからね。今は別の司令部の子がやってくれてるけど、俺も早く仕事に戻らないとだし」
「お前な……」
のらりくらりと質問をかわす月宮に雨夜はいらいらとする。
雨夜は今、なにも分かっていない状態なのだ。
「とりあえず君の部屋を決めないとな……」
月宮はしばらく黙り込む。なにかに集中しているかのような感じだ。
雨夜はもはや怒りを通り越して呆れてきた。
なにをやっているんだ、この男はーー僕を差し置いて、なにに集中している?
しばらくして、月宮はぱっと集中を解いて雨夜に話しかけた。
「ちょうど空き部屋ができたところみたいだから、そこを使いなよ。空いたばっかりだから、掃除はいらないしね」
「はあ!?」
なにを言い出すかと思えば、なにを言うのだ、この野郎は。
「僕はお前のことを信用したわけじゃ、これっぽっちもないんだからな!? だいいち、なにも説明してもらってないし! お前は誰だ? ここはどこだ? あの日ってなんだ? 僕はなんでここにいる! なんで髪の色が変わっている!」
さて、一話を読んでいない人のためにここで説明をしておくと。
雨夜は、雨夜六花は、ひきこもりの女子であり、目が醒めたらデパートのように見える謎の場所にいた。
しばらく徘徊していると、目の前にいるこの男に遭遇。
さらに雨夜の髪の毛は白っぽい色になっていて、目の前の男は暗い紫色。
最初のふたつはまだしも、最後はどう見ても科学で説明のつかない事象だ。
「まあまあ落ち着きなって。それについては、これから来る奴が説明してくれるよ」
「これから来る奴って……」
誰のことだ。
そう言おうとした瞬間、
背筋にぞくりとした感覚。
目の前にいる男が与えてくるひやりとした気配とは違い、それはどこか熱っぽささえ感じる強い強い気配だった。
とっさに、後ろ回し蹴りを放つ。
ぐるっと身体を回転させながら放った会心にして渾身の一撃は。
しかし。
軽く手を添えられただけで受け流された。
雨夜はその事に危機感を覚えつつも、疑問が頭に浮かぶ。
いや待てーーなんで僕は、こんな一撃を放つことができる? 万年ひきこもりだったはずの僕がなぜーーそんな思考は、中断を余儀なくされた。
蹴り、蹴り、殴り、蹴り、殴り、殴り、殴り、殴り、蹴り、殴り。
怒涛の攻撃だった。
雨夜はいっぱいいっぱいになりつつも、なぜか攻撃を受け流すことができた。反撃こそできなかったが、流れるようにかわすことができた。
目の前にいるのは、渋い緑色の髪の毛をひとつにくくって長くたなびかせた奴だった。
顔は割と中性的だが、胸が大きい体型からして明らかに女。ぴっちりとした若者らしい服の上に、なぜか和柄の羽織を羽織っていた。
「ほう。お前さん、なかなかやるねえ。鍛えがいがありそうだ」
にやりとして口元をゆがめる謎の女。雨夜は無性にいらっとした。余裕ぶった態度がむかついた。
「うるっせえんだよこのダサセンス女! いきなり襲いかかるとかあり得ねえだろうが! っつーかてめえもなに傍観してんだよ!」
月宮は例のひやりとする笑みを浮かべてこちらを見守っていた。
ざけんなこいつ、助けろよ。そう叫びたかったが、もともとなかった余裕がさらに削られたのでできなかった。
なんと。
なんとーー
謎女は、刀を取り出したのだ。
「はーーはぁっ!? 銃刀法違反だろ、それ!」
白光りする刀だった。
大理石のような艶めきが神秘的な雰囲気を醸し出していたが、雨夜はただただ冷や汗をかくばかりだ。
ふざけるなこいつ! なんでだ! なんでこんなやつが刀を持ってる!? 規制しろよ日本政府! てかなんで白いんだよ! 丸腰ひきこもり相手に刀持ち出すなよ! 死ぬだろ! ざっけんな! てかなんで襲ってきたんだよ! 助けろよ月宮この野郎! ふざけんな! ふざけんなふざけんなふざけんな!
次第にごちゃごちゃになっていく思考をぶった斬るように、雨夜めがけて刀が振り下ろされた。
ーー嫌だ。
ーー死んでたまるか!
裏話
一話で、雨夜が窓を割って脱出というパターンもありました。
ありえなさすぎるのでボツ。
第三話 雨夜、チェンジクロス
自主企画、参加お願いします!
ーー死んでたまるか!
振り下ろされる刀を前に。
とっさに、手を前にかざす。
ぎゅっと拳を握りしめる。
ごつっとした感覚。
それは、驚くほどに雨夜のてのひらに馴染んだ。
いつの間にかつぶっていた目を開く。
そこにはナイフがあった。
なぜかとか、そういうのを今考える余裕はない。脊髄反射でナイフを刀の軌道上にやる。
かちん、
という音がして。
刀の手応えは驚くほどに少なかった。目の前にいる謎の女を見やると、女はにやりと笑い、
「合格だ」
そう言った。
心なしかその顔は、なんでか、安堵しているようにも見えた。
「ふざけるなよ、月宮」
雨夜はさっき幾度も思ったことをもう一度口にする。疲れが声から滲み出た。かすれているような気さえする。
「まあまあ。日向坂から合格を貰えるなんて、そう無いよ? 初手合格は初めてじゃない? センスあるよ、君」
慰めているようだが、相変わらずの底の知れないひやりとした笑みを浮かべているので慰められている感じがしなかった。
「センスあるって言われてもなぁ……」
「役に立つぞ、お前さんは」
苦虫を噛み潰したような顔で雨夜が言うと、即座に日向坂と呼ばれた女が返した。
「いやだから、なんの役にだよ!」
「それもこれから説明する」
さっきからそればかりだ。
「だいたいお前、好戦的すぎるだろうが。なんであんな殺気浴びせてきたんだよ。バトルジャンキーかよ」
「ああ、そうだ」
即答。
思わず絶句する雨夜。まさか悪口のつもりだったのにあっさり肯定されるとは。
日向坂とにやっと口元をゆがめて言う。
「私は戦いが三度の飯より好きだ。さっきも、お前さんを試すというのもあったが、うずうずしてしまってねえ」
……………………。
もう何も言うまい。
月宮が去り、雨夜はまず部屋に通された。
どうやらここは雨夜の読み通りデパートらしいが、ホテルもあるらしい。
すごいなこのデパート、と雨夜は感心した。
部屋こそ小さいものの、ふかふかのベッドがあるし、必要最低限の生活設備もあるし、じゅうぶん贅沢だ。なぜか部屋も小綺麗だし。
「水は出ないし、電気もないがねえ」
訂正。
むしろ割と最底辺だった。
「はあ!? なんでだよ!」
「それを今から説明するから、ついてきな」
雨夜はぶすくれながらも日向坂についていく。機嫌は最悪だった。プチ天国から地獄に落とされた気分だ。
「おっと」
雨夜の機嫌を悪くすることを狙っているかのように、日向坂はまた止まった。
「なんだよ?」
「服を着替えないとねえ」
そこは服屋の前だった。
若者らしい服がずらずらと並んでいる。へそだしや肩だしは序の口、なんだかフェミニンで透け透けな服がたくさんおいてある。
「その格好じゃあまずいだろう」
自分の格好を見下ろすと、なるほど確かにそうだった。
今までは薄暗くて気付かなかったが、比較的明るくなり始めた今は分かる。愛用だったパーカーはぼろぼろである。だいぶ小汚ない。
「…………」
うわあ、と思いながら雨夜はさっさと適当な服をとって試着室に入る。
ひきこもりの最中でもお風呂はちゃんと入っていたし、こう見えてきれい好きなのだ。
かといってなんというか若者若者している服は似合わないので、ふつうのパーカーにホットパンツだ。それすらもなんだか刺繍が施されていて、おしゃれさを感じさせたが。
「ほう。似合っているねえ」
「それより風呂はいつ入れるんだよ?」
落ち着かない。さっきまであんなに汚れた服をまとっていたと思うと寒気がした。
「基本、近くのきれいな川で水浴びだねえ。沸かすの面倒臭いし。入るのは夜だ」
まだ朝である。
「まだ朝だろうが!」
「はいはい。じゃあウエットティッシュを渡すから、今はそれで我慢しな」
むっとしながらも、雨夜は妥協した。
そもそもこんなやつらに心を許してはならないのだ。まだこいつらがなんなのかも分かっていないのに。なんならいきなり毒を盛られるやもしれぬのだ。
警戒心たっぷりながらも、しかし雨夜は、ウエットティッシュは受け取って身体の隅々まで拭いたのだった。
部屋についた。
たくさんの子供が戦っていた。
雨夜はその時点で既に困惑したが、しかし、日向坂は平然と「後で稽古つけてやる」と言い、子供は「はい!」と威勢よく返す。当たり前の光景なのだろうか。
「師匠、その子、新しく起きた子ですか?」
「ああ、そうだよ。覚えていないみたいだから、これからあの日のことを話すのさ」
「なるほど、覚えてないんですね……」
子供のひとりとそんな会話を交わしながら、日向坂はなおもすたすたと進む。
奥の部屋に入ると、部屋ががしゃあんと閉められた。
「さて、それでは物語ろうじゃあないか。あの日、起こったことについてを」
第四話 日向坂、オールドテイルズ
まず、今のここについての話をしよう。
ここは私たちの組織の本部だ。関東地方にあるでっかいデパートを使っている。いろいろ調達できるから便利でねえ。
他にも支部がふたつあるが、当分お前さんが行くことはないだろうねえ。
そして、ここには、生き残りの子供たちが集まっている。
そう。子供、だ。
今この世界には子供しかいない。
生き残った子供も、年はとらない。
例外はない。
……お前さんの両親も、もういないだろうさ。
おや? 特になにも反応しないんだねえ。……あの日のことを覚えていなくても、そんな反応が出来るのか。
みんな、意外と冷静なものなのかねえ。
ちなみに、私がここで最年長、十八だ。お前さんは? 見たところ中学生くらいに見えるが……やはりねえ。十五かい。
そして、子供しかいないから、インフラもない。さっき言った通り水道はないし電気もない。
まあ、多少なら自家発電できるがねえ。どうしても必要なら自分でやってくれ。
……ああはいはい、早く本題に入るさ。確かに今までさんざん待たせたからねえ。
長い話になるが、聞くがいいさ。
さて。
じゃあ、なぜそんなことになったのかを話そうか。
あの日、世界中のネットワークはハッキングされた。
なぜそんなことができたのかは知らない。ただ、奴らにとんでもないくらいの技術があったのは確かだから、それを活用したんだろうさ。
その技術については後で話すとしよう。
とにかく、そのときはみんながぽかんとしていた。
私もスマホ片手に硬直したし、周りの人もみんな、ざわざわとしていた。
ざわざわと、で済むなんて、今考えるとなんて危機感のない会話だったのだろうかと思うが、当時はそれだけ平和ボケしていたということだろうねえ。
そして奴らは、テロリストは語り始めた。
曰く、自分たちには世界を滅ぼすという野望があること。
曰く、研究の果てにその力を手に入れたこと。
曰く、大量に人質がいるから逆探知はよせとのこと。
最初はなにを言っているのかと思ったよ。
話すこともまるきり、カルト集団のそれだったからねえ。人間は地球にとっての毒だとか、文明は地球を蝕むウイルスだとか。
しかし、人質を見せられたとたん、あほらしさはなくなったよ。
子供から大人まで、おびただしい人数がそこに囚われていたのさ。
ずらーっと並んだ景色は、もはや壮観だった。
一気に危機感がわいた。
さっきまで騒々しくざわめいていた周りも、青ざめて絶句していたねえ。
そして、テロリストのボスらしき男が画面の前に歩み寄ってきた。
だいぶ壮年の男だったよ。髭がもじゃもじゃしていたのを覚えている。あと、目が青色だったのも特徴的だったねえ。
そして、そいつはひとりの女の子を連れてきて、首もとにナイフを近づけた。
そして。そしてーー
全世界に毒ガスのようなものを散布する、と流暢な日本語で宣言した。そのあと、他の言語と思わしきことばでも、恐らく同じことを繰り返した。
……もちろん、はあ? と思ったよ。
そんなことができるはずがない、ともねえ。
しかし、……そいつはやってのけた。
「必ず、人類を根絶やしにしてやる」
そんなことばを言った瞬間。
見計らったかのように。
白い霧が、そこらじゅうから充満し始めた。
地面から。人体から。植物から。空から。有機物から。無機物から。
取り巻くように。巻き付くように。侵入るように。根付くように。すいとるように。奪うように。奪い取るように。
人間の業を苛むかのように。
まずひとりが悶絶して倒れた。
ふたり。
さんにん。よにん。
ごにんろくにんしちにんはちにん。
当然、パニックになった。
やがて、悲鳴は呻きになり、呻きは絶叫になり、絶叫は沈黙になった。
私はその光景を呆然として眺めた。茫然自失ということばがぴったりだっただろうねえ。
そして、そうしているうちに、やがてふうっと意識が遠のき始めた。
薄れゆく意識のなかで、ああ、私も|ああ《・・》なるのだなと思ったさ。
やがて意識が途切れた。
ーーとまあ、これがあの日の顛末さね。
……怒鳴らないでもらいたいねえ。あの日に起こったことは、本当にこれだけなのさ。
まあ、しかし、そのあと分かったこともいろいろとあるし、それについて話そうかねえ。
ーーあのあと。目醒めたら、私はさっきいたところと思わしきところにいた。
思わしき、というのは、周りがさっきと全く違う景色だったからさ。建物はどこもかしこも半壊。
しかしそれはまだましな部類だったようだねえ。しばらく歩くと、まっさらな大地も見つけた。
そしてさらに歩いてーーあやつと出会ったのさ。
さっきお前さんを見つけた、月宮とねえ。
まあ、そのあとのもろもろはさておいて、私は月宮とこの組織を設立した。
組織ーーとはいっても、具体的な名前はない。なにぶん、構成員が構成員だ、名前をつけようとしても、なにかと中二病ぶった名前ばかりになってしまってねえ。
基本的には、単純明快に組織と呼んでいるさ。
なにをする組織か、かい? 端的に言えばーー
ーー化け物をぶっ殺す組織さ。
この世界には化け物がいる。
私たちは、そいつらのことを基本的にエネミーと呼んでいる。まあ、そのままだがねえ。
人形でありながら人形でないような、異形の奴らさね。そいつらが建物をぶっ壊した犯人さ。
そしてエネミーは私たちを襲ってくる。
そのエネミーを迎え撃ち、駆逐する組織が私たちというわけさ。生き残りは恐らく私たちしかいないから、人類防衛隊と呼んでもいいかもしれないさね。その他にも、まだ目醒めていない、さっきまでのお前さんのような人間を保護したりもしているねえ。
そして一番重要なこと。
あの日撒かれた毒ガスについてだ。
私たちはどうやら、毒ガスに|適応《・・》したらしい。髪の色が適応した証さね。適応するまでは仮死状態で眠り続けることとなる。そして、適応し終わると、目を醒ますのさ。
生き残った代わりに、私たちはヒトという種を捨てることになったがーー見た目に大きな違いはない。
だが、なんの計らいか、武器や戦闘補助具も出せるようになった。
武器と戦闘補助具は、それぞれ六種類がある。私たちはそれを、メインとサブと呼んでいる。これも、そのままのネーミングだがねえ。
そして、適応により、身体機能がグレードアップした。回復力も上がったし、筋力もアップする。
今のところ見つかっている、主な恩恵はこんなところかねえ。
なぜそんなことができるか、って?
それはねえ。
|分からない《・・・・・》。
なにも分からないのさ。現代にはおおよそなかった技術。私たちみたいな二十年も生きていないひよっこに、解明なんて到底できないさ。
そんな技術があったからこそ、だからこそ、テロリストは世界中の電子機器をハッキングなんて常識外れのことができたんだろうがねえ。
分からないのが、今のところの毒ガスの正体。
だから私たちは、毒ガスのことをこう呼ぶ。
|正体不明《アンノウン》と。
裏話
どんな感じで書くかめちゃくちゃ迷った。
第五話 雨夜、ディターミネーション
お久しぶりです!
投稿遅くなってすみません。
タイトルが長い
雨夜はしばらく目を瞬かせて動かなかった。
世界が滅んだ、ということはわりとさっぱり受け入れることが出来た。
というのも、ここに来るまでの道中で既に、なんとなく、しかしたしかな確信を帯びてそれを予感していたからである。
馬鹿馬鹿しい、そんなわけがあるか、と思いつつも、そうとしか思えなかった。日常が突如とんでもない非日常に落っこちたとしか考えられなかった。
しかし、そのあとに語られた、雨夜が忘れている日の壮絶さ。それが雨夜を硬直させていた。
実際に見たとしか思えない生々しさだった。語りにおいて、日向坂は彼女らしく気丈に淡々と語っていたが、わずかに、ほんのわずかに声が震えていたのを雨夜は聞き逃さなかった。
それほどの恐怖だったということを雨夜に感じさせた。
世界が滅んだ。そのせいで、年端もゆかない子供が戦わなければならない。怪物に立ち向かわなければならない。
まるで、少年漫画だ。
まったくもって、あほらしく、非日常的で、信じられない話だ。
ふいに、緩慢な動きで、雨夜は頬に手をやる。そしてつねる。
ーー痛い。つまりこれは現実だ。
紛れもない、現実だ。
その痛みをもって、雨夜は復帰を果たすこととなる。雨夜は一度目をつぶり、開いてから、日向坂に問いかけた。
「それで、僕にどうしろって?」
「答えは決まっているだろう。ーー戦え。命を懸けて」
「それは強制か?」
雨夜は聞く。実際、強制でもおかしくはない状況だ。
「さあねえ。無惨に殺されたくなければ、という話さね。なんせ、戦闘員が不足しているのさーー腑抜けが多いせいでね。命がぼろぼろこぼれ落ちる戦場には行きたくないんだそうだ。戦場に向かう命がこぼれ落ちきった末に、自分達に破滅の未来が待っていたとしてもねえ。ーー私にはほとほと、理解できないけれどさ」
一息おいて、日向坂は言う。
「誠実さのために言っておく。死亡率は、高くはないーーが、低くもない。基本は少数の群れで襲いかかってくるが、まれに、とんでもない数のことがある。休みは必要だし、多方面への警戒も必要だから、動員できても数部隊さ。そういうときは、ほとんどの場合だれか死ぬ。そうでなくとも、エネミーは人間より身体が頑強だ、普段の巡回で死ぬやつも多い。もちろん私たちの身体もアンノウンによってある程度強化されてはいるものの、なぜかそれより遥かにエネミーの身体は頑丈なのさ。普通は素手だとエネミー狩りに慣れてきたところで死ぬ新人も、ざらにいるさ。お前さんの部屋も、ついこの間死んだ戦闘員のものさね」
いつでも死んで構わないという覚悟が必要なのさ。
そう告げたあと、日向坂は真っ直ぐな目でこちらを見た。
「それで……お前さんは、自分のため、あるいは他人のために死ぬ覚悟はあるかい?」
雨夜の意識の、深淵まで覗き込んでくるような目だった。
「……他人のために戦ってやるつもりはさらさらない」
「それで?」
「だけど」
雨夜は真っ直ぐな目で日向坂を見つめ返す。
「抵抗もせず犬死にするなんてごめんだ。どうせ死ぬんなら、とことんまで抵抗してやる」
いいぜ。
エネミーとやらと、戦ってやるよ。
雨夜はきっぱりと告げた。
日向坂はそれに対し、目をつぶり、口元を緩めた。
「いい心構えじゃあないか。そういうやつは、大好きだよ」
「そりゃどーも」
雨夜はどうでも良さそうに答える。実際どうでも良かった。
日向坂は雨夜が答えたあとにようやく目を開けた。
その目はきらきらしている。
……雨夜は猛烈に嫌な予感がした。
「それじゃあ、これから早速、訓練だねえ」
「いやちょっと待てこの戦闘狂」
話のテンポが早すぎる。せっかちすぎるだろう、この日向坂という女は。
「それでは、これからは師匠とよんでもらおうか」
「断固拒否だ!」
断固拒否である。そもそも雨夜は年上への敬意なんて持ち合わせていない。さん付けも嫌なのに師匠なんてもっての他だ。
「つれないねえ」
日向坂はそれに対しつまらなそうに言う。
「まあいいさ。この扉の向こうの訓練上に行こうじゃないか。お前さんと同じくらいの年頃のやつもごろごろいる。仲良くなれるさ」
「仲良くなれるか」
「それはどうだろうねえ」
日向坂はあくまでふてぶてしく笑う。いらいらとする笑いかただった。
「まあ、ともかくさ。お前さんも死にたくはないんだろう? なら、万が一があるだろう。第一お前さん、運動なんてさらさらしてなかっただろうしねえ」
ぐ、と雨夜はことばにつまる。
日向坂は気に入らないやつだが、一理あると思ってしまった。
自分が運動をまったくもってしていなかったのは事実である。それこそ、先ほどなぜ日向坂と渡り合えたのか、不思議なほどなのだ。
それほど長い期間ひきこもっていた。
それに、日向坂はベテランだ。先人に対する敬意はなくとも、先人に学ぶくらいはした方がいいだろう。もっとも雨夜はそんなことしたくないのだけれど、これは雨夜の経験則だった。
ソロでゲームを攻略するより、攻略サイトを見たり他のプレイヤーを真似る方が効率がいいのである。
「……分かったよ」
雨夜は嫌々ながらもそう吐き捨てた。
「それじゃあ、扉の向こうのやつらに混じってきな。……気のいいやつがいるから、案内してもらえるはずさ」
日向坂は扉を開けてその少女に呼び掛ける。
「おい、日向。この新入りを案内してやりな」
「分かりました!」
にこやかな笑顔でそう答えた、日向坂に良くにた名字の少女は、すたすたと自然な動きで雨夜に歩みよる。
「私、日向光莉。ええと……お名前は?」
「……雨夜。雨夜だ」
「そっか、よろしくね、雨夜さん!」
少しばかり雨夜の下にあるその目線を雨夜に向け、日向はすっとごく自然な動きで手を差し出してきた。
しかし、雨夜は、その手をすぐに握り返せなかった。
頼みごとをすぐに受け入れ、元気でかわいく、誰とでもすぐににこにこと接する。
世間の中ではおそらく、好かれるタイプなのだろう。
だがしかし。
こういう優等生タイプは、雨夜の苦手なタイプなのだった。
「……ああ、よろしく」
雨夜は苦々しい顔をしながらその手をようやく握り返した。
今回登場したのは、和音さまの日向光莉ちゃん。ありがとうございます!
裏話
まだ部隊が定まりきってない。やばい。
第六話 雨夜、トレーニング
一ヶ月くらいやってなかった!?
嘘だろ!?
雨夜たちがアンノウンを使って作り出せる武器には、合計で十二種類のものがある。
とはいっても、不思議な力は持っていない。乱暴に扱っても簡単には壊れない強度や、子供でも扱える軽さを備えてはいるものの、あくまで炎や氷など分かりやすいファンタジーはないのだ。
厨二病のような真似をせずに済んでよかったと思う反面、アンノウンはファンタジーのような物質なのだからそれくらいできてもいいのでは、とも少しばかり思う。ゲーム三昧の日々を過ごしていた雨夜は、ゲーム内の技に憧れることもたまにあったのだ。
とはいえ、実際にやるとなると恥ずかしさの方が圧倒的に勝るが。
なお、それを説明してくれた日向は「やってみたかったねー」と無邪気に微笑むばかりである。否定するのはなんとなくまずい気がしてならない。雨夜はやはり少々やりづらさを感じるのであった。
閑話休題。
十二種類のうち、半分は戦闘においてメインで用いるもの、もう半分は、主に戦闘補助に用いるものである。月宮たちはこれを、メインとサブ、と称しているようだ。エネミーについても武器の呼び方についても、命名は月宮らしい。雨夜は内心で安直なネーミングを嘲笑った。
メインは刃物型と銃器型があり、戦闘員はそれによってアタッカーとシューターに分けられる。
刃物型の三つが、
|短剣《ナイフ》、
|刀《ソード》、
|戦斧《バトルアックス》、
である。
雨夜はアタッカーに属し、その武器は|短剣《ナイフ》だ。これは名前の通りナイフであり、武器の中で最も軽いのが特徴だそうだ。その分重さには欠けるものの、急所を正確に狙えば一撃で倒すことも可能であり、さらに応用も効く。比較的小柄である雨夜にとっては恰好の武器だろう。
なお、日向坂と日向は|刀《ソード》だそうだ。雨夜にいきなり斬りかかってきたときの、あれである。白く輝く幻想的な日本刀である。重さは本物の日本刀より軽いらしく、一方で切れ味や丈夫さは本来の日本刀を上回るレベルだそうだ。
|戦斧《バトルアックス》の使い手は、雨夜はまだ知らない。いつか会うこともあるかもしれない。|戦斧《バトルアックス》は、重く扱いが大変だが、一撃の威力はどの武器にも勝るらしい。
対して、シューターに属す銃の武器は、
|散弾銃《ショットガン》、
|短機関銃《サブマシンガン》、
|狙撃銃《スナイパーライフル》、
だ。
日向坂曰く、|散弾銃《ショットガン》は、月宮が使う武器らしい。月宮の強さなんて雨夜は知ったことではないが、たぶん、強いのだろうなという予感があった。奴の内に感じる得体の知れないオーラゆえである。
|短機関銃《サブマシンガン》は、同じ訓練生である有明が使っている。近距離から中距離に強い、バランス型の銃だ。中距離戦闘においては、攻撃の要になるらしい。
|狙撃銃《スナイパーライフル》は、同じく訓練生の朝霞が使う武器だ。専門はその名の通り狙撃。司令部以外で、唯一前線に赴かない役職だ。ただ、相手の手の届かないところから撃てるという強みは、他の何にも変えられない。
これらの銃器タイプの武器は、射程や弾の威力が強化される。弾は、戦闘中に自分で体内のアンノウンを使って出現させられるので、ほぼ無限に出せるそうだ。ただし、出しすぎて体内のアンノウンが尽きると雨夜たちは死ぬが。
ちなみにアンノウンを供給する方法は、呼吸だ。空気中に漂っているアンノウンを取り込むらしい。
雨夜は目醒めてから外に出たことがないので知らないが、外にはもっと濃い霧としてたゆたっているらしい。
……なお、サブについては、雨夜はまだ詳しく教わっていない。
雨夜が日向坂を師匠として訓練を始めてから数日。
これが、雨夜がこの数日間で得た知識である。
「では、一旦休憩だ」
日向坂がすたすたと去っていくと、日向はその場にへたりこんで雨夜に笑みを向けてくる。雨夜と有明もそれに準じて座り込んだ。
「はー、疲れたね、月菜ちゃん、雨夜ちゃん!」
「そうだね」
「…………はあ……」
勘違いされぬよう言っておこう、雨夜は日向と有明を無視しているわけではない。
「ぜえ……はあ……」
疲れきって声も出せないのである。
日向坂から才能があると太鼓判を押された雨夜は、なるほど確かに、少し練習するだけで驚くほどこなれた身のこなしができた。
その成長速度たるや、雨夜より前に訓練を開始していた日向や有明を追い越すくらいだった。なお、朝霞はスナイパーなので別メニューだ。
それほどに、雨夜には才能と呼ぶべきものがあった。
だが。
純然たる体力の差が、雨夜とその他の訓練生にはあった。
当然と言えば当然である。
何しろ雨夜は、人生の半分ほどを引きこもって過ごしていたのである。
筋力に関しては、リングフィットネスゲームをしていたからまだなんとかアンノウンで強化されて人並みになったようだが、体力、すなわち持続力は元が悪すぎたらしい。
しばらくして、ようやく呼吸も落ち着いてきた。雨夜はゆっくりと深呼吸したあと、水をがっと喉に掻き込む。火照った身体に、冷たい水が食道を押し退けて浸透していくのが分かった。
今のところしているのは基礎修行だ。
基礎の基礎。受け身、対人戦闘のコツ、対獣戦闘のコツ、初歩のナイフ術。
エネミーは異形だ。中にはやたら小さいものもいる。歯や爪で攻撃してくるものもいる。そのために、対人だけではなく対獣戦闘も学んでいる。
時折、日向坂との模擬戦闘も行う。
大体は完敗だ。雨夜の身体はよく動き、技術の習得も速いが、やはり体力不足であるし、膂力も人並み程度。片や日向坂は基礎能力も技術も優っている、勝てるわけがない。
雨夜としてはナイフを振る方がやる気が出るのだが、最近課されるメニューはもっぱら体力向上中心の筋トレである。
雨夜はペットボトルを床におく。中身は一割ほどしか減っていない。
「休憩は終わりだ」
「はい!」
二人が弾かれたように立ち上がる。
雨夜もゆっくりと立ち上がり、誰にも聞こえないように呟く。
「……やってやるよ」
まだまだ時間はかかりそうだった。
お知らせ
参加キャラの一人、小鳩悠さんのデータが消えていました。
残念ながら、読みこみをする前だったので、どういうキャラだったのかを覚えていません。
なので、誠に遺憾ながら、参加を取り消させていただきます。
申し訳ありませんでした。
今後このようなことがないよう対応させていただきます。
第七話 有明、シンキング
不思議な人だなあ、と思う。
もっともこんなことを私が言ったら、周りから「お前の方が不思議だ」と言われてしまうのだけれど。
私ーー有明月菜は、そんなことを思いながら、雨夜さんが持久走する姿を見つめた。
雨夜さんの下の名前は知らない。
一度聞いたことがあるが、すごく嫌そうな顔をされた。光莉さんが聞いたらもっと嫌そうな顔をして逃げた。
まあ、無理に聞くことではないし。
いいか、別に。
「終了」
あ。持久走、終わったみたいだ。
持久走後、荒く息をつく雨夜さんと電池式のタイマーを一瞥して、師匠は言う。
目をきらきらとさせて。
「ふむ。まあ、わりとましになってきたねえ。……それじゃあ、戦おうじゃないか」
雨夜さんがばっと顔を上げた。あからさまな拒絶の表情だ。身体を引きずって後ろに下がっている。
「は!? なに考えてるんだお前! 戦いたいだけだろうが!」
「いいだろう? 別に」
「良くない!」
……師匠が楽しそうで何より。見なかったふりをしよう。
私は前を向き直って|短機関銃《サブマシンガン》を構え直す。
映画よりはずっと静かな、しかし十分大きい音が空気を切り裂いた。的である木材が木屑を散らす。
……うん、上出来。
しかし、これは練習だからできること。師匠との訓練になるととたんにわたわたして、うまくこれらが行えない。
……その点。
私はちらっと雨夜さんを見る。
結局師匠からの頼みを突っぱねきれなかった雨夜さんの動きは、驚くほどに練習と変わらない。いや、練習以上だ。
才能なんだと思う。
本番に強い人間。成長が速い人間。身体を思うままに動かせる人間。
それが雨夜さんだ。
決して以前からの努力ではないのだろう。
雨夜さんはいかにも引きこもりという出で立ちだ。本人は語らないが、絶対にそうだろう。
伸ばしっぱなしの髪。美容に無頓着な肌。うっすら隈の浮かぶ目元。適当に選んだであろう服。
両方の意味で、もったいない。
雨夜さんはかなりのべっぴんさんだ。あのぼさぼさ頭をすっきりさせて、肌の保湿をして、きれいにメイクして、よく寝て、コーディネートに気を遣えば、どれだけ見映えがいいことか。
そして。
何よりあの戦闘センス。私たちとは明らかにレベルが違う。まさに段違い、桁違いだ。
いいな。そう思う。
がきん、と音がした。雨夜さんのナイフが弾かれた音。
師匠の勝ちだ。
「うーん、まだ少しぎこちなさを感じるねえ。もっと本気でできないかい?」
「知るか」
雨夜さんはどうでもよさげに、しかしわずかに悔しさをにじませて言った。
そのまま素振りを始める。
不思議な人だなあ、と思う。
どこが不思議かは、はっきりと説明できない。 強いて言えば、人との関わりの少なさだ。
私はなぜか、よく不思議ちゃんだとかミステリアスだとか言われるけれども、それでも友達はいる。だって、その方がずっと楽しいから。
でもあの人は、人と関わりたがっていない。絶対に友達がいた方が楽しいのに、なんでだろう。
不思議な人だなあ、と思う。
私はひとつ息を吐いて、腕をまた振り上げた。
裏話
全然執筆が進みません。
ごめんなさい……で、でも、進んではいるんですよ!
今回はじめての雨夜以外のキャラ視点でした。
今回の目的は、雨夜を他のキャラがどう思っているかを示すことですね。
今後もたまにやっていくと思います。
今回改めて登場したのは、白兎だいふくさまの有明月菜ちゃん。前回は名前だけでしたね。
ありがとうございました!