ねぇ、覚えてる?
僕ら、あんなに小さかったんだ。
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目次
Profile&Prologue
・僕 小学3年生
稲荷ほとけ 18歳 大学1年生
・しょーちゃん 小学3年生
有栖初兎 18歳 大学1年生
・いふくん 小学5年生
猫宮威風 20歳 大学3年生
---
ねぇ、覚えてる?
僕ら、あんなに小さかったんだ。
そして、
あんなに………!!
2nd
今日、引っ越してきた人がいるらしい。
僕が住んでいるアパートの斜向かいの家に。
そこは、元々いふくんの家だった。
---
3月のとある日の話だ。
「あ、いた!」
見つけたのが嬉しくて、僕はつい声を上げる。
「うわ〜見つかってもうたわ。ほんまに見つけるの上手やなぁ。」
いふくんは、木の上に乗ってる。
桜が咲いていて、よく見ないとわからない。
とにかく今、僕は見つけられた嬉しさを噛み締めている。
そこに、しょーちゃんが来た。
「もぉ、ふたりとも学校さぼっとったやろう…。僕は行ったんに…。」
「あれ、バレたぁ?」
そんな他愛もない話をする。
お陽様が沈む頃、
「そろそろ帰らな、」というしょーちゃんの声で、僕らはハッと気がつく。
気づいたらこんなに時間が経っていたなんて…。
「じゃあね、」
僕がそう言いかけると
「あ、あの、」
「どうしたの、いふくん。」
この時は、「明日も遊ぼう」とか、「次は負けないからな」とか、そういうことだと思ってた。
「俺、イギリスに行くんや。」
1st
僕はほとけ!大学1年生。
突然なんだけど、僕が住むこの賽ノ目町には、ある小高い丘があるんだ。
僕らはそこを、「桜が丘」って呼んでた。
春になると、桜が綺麗に咲くんだ。そして、綺麗に散ってく。
でも、観光客が来るわけでもないし、地元の人でも知らない人もいるくらい、静かな場所。
僕らはそこに、秘密基地を作った。
”作った”というか、そこを秘密基地にしたの。
僕”ら”っていうのは、僕にも《《仲間》》がいたから。
仲間、そう呼んでたんだ。友達ってわけじゃなかったんだと思う。
でも、凄く大事だったんだ。
そう云えば、元気にしているかな。
3rd
「い、いぎりす?いぎりすって、あの、えっと、遠いところにある...なんだっけ?」
「...アホやん。」
しょーちゃんに言われるとムカつくんだけど!しょーちゃんだってバカなくせに。
「イギリスっていうんは、国だよ国。日本とかと同じやつ。」
「あぁ!」
それで、いふくんはイギリスに行くんだ...。
「そ、だから今日が会えるの最後だと思う。」
えっ...最後...?
「え、嘘やろ?だったらもっと早く言っ((
「ごめんな。わかったのもつい最近やったし、ホントかどうか、正直俺が信じれなくて...」
「も、もう、会えないの?」
分かりきってることだ。言ったらいふくんがもっと傷つく。
わかっていたのに、口に出してしまった。
「...」
ようやく口を開いたのはいふくんだった。
「あ、会えるかどうかは、...わからんけど。で、でもっ、会いたいって思っとったら、きっと会えると思うっ!」
どう考えても、あのいふくんが言うような|台詞《せりふ》じゃない。
一生懸命考えたんだ。
「うん。そうやな。」
空が暗くなってきた。最後だというのに、お互いの顔さえ見えなくなる。
「そしたらさ、次会うのはやっぱりここが良いよね。」
「そうやな、ここで会おう。」
「いつ?」
「ん〜...いつか?」
「いつかか〜っ」
空を見上げた。
星が綺麗だった。
その晩、案の定僕はお母さんに怒られた。
でも、いふくんとの別れは、なんか悲しくなかった。
いや、悲しかったのだろうけど、涙は出てこなかったし、なんだかモヤモヤした気持ちだった。
4th
それから10年程の時がたった。
あのモヤモヤとした気持ちは一体何だったのか、今でもわからない。
「”いつか”会おう」と云ったけど”いつか”っていつだ?
久しぶりに行ってみるか。
桜が咲いている。
花弁がひらひらと舞い、僕を包むような、そんな気がする。
僕は今、木の上に乗っている。
いい大人が...とか言わないでね?
「うわぁ...なっつかしいなぁ...。」
誰っ!?
え、今声聞こえたよね?え、誰?
其処にいたのは、黒い帽子を目深に被り、白い上着を着た人。
どこかで見たことが...
「あれ、誰かおるんか?」
顔を上げたら、アメジストの目が見えた。
5th
「しょーちゃん?」
自分の口から出た言葉に僕もびっくりする。
「へ、?」
相手も驚いているようだ。
それもそうだ。
いい年した大人が__といてもまだ18歳だけど__木の上にいて、そして自分の名前__若しくは全く知らない人の名前を呼ぶのだから。
「ま、まさかいむくん?」
相手の口から僕の名前、あの時君がそう呼んでくれた、その名前が出る。
「わぁ...!奇跡ってあるんやぁ...。」
しょーちゃんは嬉しそうに頬を赤らめて微笑む。
僕も嬉しくなり、木から飛び降りた。
そして、暫くぎゅってしてた。
「まさか、こんなところで__いや、違うね。ここで会うって言ったもんな。」
「うん!」
...
「まろちゃん、元気にしとるかなぁ...。」
「今年で20歳でしょ?いいなぁお酒とか飲めるんだぁ...。」
「今日、僕んち止まる?」
「え、いいん!?やった...!」
家に帰ったら、お母さんはびっくりしてた。
僕が人を家に呼んだ事なんてなかったから。
しょーちゃんやいふくんも、秘密基地で会うだけだったから。
それでもしょーちゃんを家に呼んだ理由が僕にはある。
しょーちゃんと、
...もっと話したかったから。