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目次
あなたも死んだ
スクロールめんどいだろうけど,許してちょ
ある日あなたは死にました
あなたは死んでも綺麗でした
まるで女神のようですね
あなたの長いまつ毛も
あなたの長い髪の毛も
光に当てられて綺麗です
あなたの白い肌は
いつも通り透き通るようですね
あなたは本当に死んでるのでしょうけど
寝ているかのように見えますね
あなたは本当に綺麗ですね
このまま大切にとっておきたいぐらい
とても綺麗ですね
いつもあなたは静かですけど
僕にとっては少なくとも太陽でしたよ
あなたはどうしてそこまで綺麗なのでしょうね
誰かに妬まれても
あなたは強く耐え続けた
あなたの毅然とした態度も素敵でしたね
あなたは才能に恵まれていましたね
勉強も運動も全て完璧でしたね
僕はそんなあなたに一目惚れしました
でも容姿にではない
あなたの性格に惚れてしまったのですよ
あなたを花に例えるととげの無い薔薇のようです
あなたは本当に罪な方ですね
それで美しい姿のまま亡くなりました
もうその姿が老いる事は無い
嬉しい気持ちはありますが
少し悲しいですね
もっとあなたと話がしたかった
まさか
今更泣いたりしませんよ
情けない姿は見せたくないので
あなたも泣かなかったのですから
僕もあなたのように耐えますよ
あなたと過ごした日々は楽しかったですね
不満が無かった気がします
とても幸せな人生でした
でも一つだけ不満を言わせていただくなら
あなたがここに来るのはまだ早いんですよ
願いすら叶わない悲しき死神
実際に存在する偉人だお
誰か当ててみてね
1739年2月15日,僕が生まれた
この時の僕は想像もしていなかった
数多の血を流しながら生きた『死神』となる,悲劇を
---
16歳の時,初めて人を殺した
否…処刑した
父親の急病のせいだった
静寂な処刑台に風が鳴り響いた
あの日の事は忘れる事も出来なかった
僕は学校にもろくに行けなかった
たった2年で処刑人と言う家系が知られ,僕がどんな目に合ったか
何度も『死神』と呼ばれた
どこの学校も僕を受け入れてはくれなかった
どの親も,子供も,僕を嫌った
だがきっと当然の事だったのだろう
八つ裂きの刑や車裂きの刑,そんな残忍な拷問さえもやっている家なのだから
僕だって父がそれをやっている姿を何度も見てきた
それは言葉にできない程、残酷なものだったのだから
そして僕も初めての刑から2年後、とうとう八つ裂きの刑を|行《おこな》った
どれだけ大きな罪を犯したと言えど,同じ人には変わりないはずなのに
何故こんな刑が生まれたのか,僕には分からなかった
幸いにも、これが最後の八つ裂きの刑となった
だが僕達は有一人の役に立てる事もあった
それは医学だ
父から受け継いだこの家業は幅広くの人を治療する事が出来た
庶民には無償にする,それは僕のモットーだった
いくら貴族のような暮らしをしていたとは言え
その時代はあまり余裕が無かったが、人々が喜ぶ姿だけでも嬉しかった
中には僕達の医療を呪術だ、と言う人もいた
僕の職業柄、その不気味なイメージによるものからだろう
しかし少なからず治療を受けた方々には、信頼を得る事が出来たようだった
一人の国民として国王を敬愛する
それは当然のこと
彼らは僕を軽蔑し嫌わなかった
だから僕は彼らに「より人道的な処刑方法」を考案した
そして出来たのが人道的を最大限に突き詰めたアレだった
だが時代は僕に平穏というものを許してはくれなかった
アレのお陰で僕が多くの人々を処刑するという事になったのだ
そこから舞い降りたのは恐怖政治
少なくとも僕にとっては最悪な日々だった
1793年1月21日,国王を処刑した日
何故貴方が死なねばいけなかったのでしょうか
何故あなたが考えたこの道具で殺さねばいけないのでしょうか
何故僕が処刑を行わないといけないのですか
貴方は僕達のためを想ってくれていたというのに……‼
冷たい世間だった
好きに怯え,容易く殺せと言う
簡単に死ねと言える世が恐ろしかった
僕には人権が無かったのだろうか
ミサを挙げるだけでは何かが物足りない日々を過ごした
恐怖政治は僕にとってストレスでしか無かった
目眩,幻覚,耳鳴り,手の震え
全て僕の身に起きた仕事へのストレスによるものだった
辛くても逃げ出せない
それを地獄と呼ばずして何と呼ぶだろうか
そんな中,次に僕が担当したのは一人の女性
元恋人だった
だが彼女は国王たちとは違う行動を起こした
泣き叫び,命乞いをしたのだ
その様子には見物しに来た国民達でさえ心を動かした
当然僕も動かされた
そうか,そうだったんだ
皆こうしていればこんな事にはならなかったのだ
きっと早く終わっていた…今更遅いじゃないか
僕は耐えきれずに息子に仕事を押し付け処刑台から逃げた
僕は何をするのが正解だったのだろうか
今までのように処刑を行う事だろうか
今の僕にできる事,それは________
1795年,息子に職を譲り僕は処刑台から降りた
今の僕に出来る事はきっと一つだった
僕の子孫に同じ思いをさせない事
絶対にそれは許されない
子孫には普通の国民として生きてほしかった
そして僕が解放される、有一の手段でもあった
『死刑廃止』
それが今の僕の,最後の願い
---
1806年7月4日
『死神』はおよそ2700数名を処刑した,という記録を残し息を引き取った
死刑廃止は彼の死から175年後のことだった
人を愛し,悪を憎む,優しき心を持つ彼の悲しき生涯
いかがだっただろうか
彼は決して歴史の表舞台には登場しない
そんな実際に存在した彼を,少しでも知ってくれれば光栄に存じる
なんかもう…厨二病がこじれてる感じが半端じゃないね(
売れ残りの子供達(再投稿)
前言ってたやつ…メモ帳の奥底で発掘した笑
消したって思ってたのに…、マジか…
マジで長いから読み応えはあるよ
シリーズにしろよっていう声は聞こえません((
誤字脱字はご割愛
「バイバイ!お兄さん!」
彼女は元気に手を振っていた
隣にいるのは彼女の新しいご両親
いい人に見つかって良かったと思い僕も小さく手を振る
僕はとある大都市にある小さな店の店主だった
その店は人目のつかないような薄暗い路地にある
まさにそこは知る人ぞ知る店だ
元々そこは僕の父親が作った店だったが
父親が他界したため7年前から僕が店主を継ぐ事になったのだ
母親も父親の後を追うようにすぐに亡くなった
だがここは他とは一風違った店だった
理由は単純なもの
ここの商品は皆──────
─────『子供』だったから
ここに集まるのは行く当てが無くなった子供達だった
捨てられたり逃げて来たり,様々な理由から集められていた
そんな子供達を僕は様々な家庭に売って金を得ていた
だが大金を得れる分大きな欠点があった
3歳から12歳までではないと売る事は出来ない事
もしも3歳にも行かない子供であれば僕がある程度育て
12歳を過ぎてしまっては【アイツ】に殺されてしまう
だから必ず買ってもらわないといけない
僕はろくに学校も行かずにずっと働き続けた
正直言えば僕と歳差がほぼ無い子達を売るのは辛かった
でもこの店はそこそこ人気だったからやめる訳にもいかなかったのだ
もう14時49分か
自分のスマホで時間を確認する
それ以上何も思わずカランカランと言う音を立て僕は店の扉を開く
僕に気付いていないのか子供達は遊んでいたままだった
ある子は本を読み,またある子は積み木をしていたり
色んな子がいた
それがいつも通りの光景だった
商品である事に気付きながらも皆は明るくいてくれた
本当は皆不安や絶望で悲しいだろうに
きっと僕を不安にさせまいと思ってくれてるんだろう
だから僕はそんな皆を想って沢山プレゼントした
学校には頑張って行かせるようにして
毎日美味しいものを食べさせて
僕が贈れる僕なりの幸せを沢山あげた
本当は学費を一人一人払うのは大金で困ってるし
食費だって比にならないぐらい大金だった
でも社会に出ても不自由ない暮らしをさせるために
社会に出ても全うな人生を送るために
僕がいなくなった未来でも幸せに生きてほしかったから
僕ができる事を最高限度までやっていた
これは僕が僕自身に預けた使命だった
僕が皆を必ず送る
皆の幸せを【アイツ】に奪わせないために──────
---
「はぁ…」
今日もロッキングチェアに腰をかけ溜め息が漏れる
「今日は誰も売れませんでしたね。」
不意に声をかけられ声の持ち主の方に顔を向ける
目の前に立っていたのは
深く暗い,そして綺麗な藍色の瞳を持つ一人の少女だった
「藍霞(あおか)ちゃん…。流石,お見通しだね…。」
どうしようも無く鼻で笑うと
「今日はお客様は何人程いらしたのですか?」
彼女は真面目にスルーした
「ハハハ…,今日は閑古鳥が鳴いてたよ。
お陰でゆっくり資料が読めた。ありがたいことだね。」
僕は少し強がるが
「そうですか。」
またもやツッコミも無く真面目に返された
「緋凪(ひなぎ)君は?一緒にいないんだね。」
僕は周囲を見渡す
「えぇ,今あの子はお休みしています。」
「そっか,まぁ3歳だもんね。」
「…そう言えばまた夢月(むつき)さんが泣いていましたよ。たs___」
「え⁉待って,すぐ行く!ごめん!ありがとう!」
僕は彼女の言葉を待たずに部屋を飛び出した
「………忙しい方。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うぅ…ごめん,ごめんなさい。」
夢月(むつき)君はボロボロと大きな涙の粒を流していた
「大丈夫だよ,夢月(むつき)君。」
僕は彼の背中をさする
とは言え正直何に泣いているのか,僕は全く分からなかった
子供達の中には精神が不安定な子が何人もいた
多くが売れるか不安,家族と言うトラウマによるものだ
とは言え売らないと言う選択肢は僕には無い
その先の未来には【アイツ】が待っているから
でも【アイツ】の事は誰にも話さなかった
売れなかったら死ぬ,という事も当然話さなかった
もっと混乱するだろうから
どうするのが正解なのかな…
この7年間その答えを見つけ出した事は一度も無かった
「ごめんなさい…僕また泣いてて…。」
まだ彼のオッドアイの瞳からは涙が落ちる
「大丈夫大丈夫。でも折角綺麗な目なんだからもっと笑顔でいないと,もったいないよ?」
僕は自分の口角を指で上げて笑顔を見せる
「うん…頑張るね…!」
彼は可愛らしい笑顔を見せ,奥の部屋に入って行った
本当に…もったいない…
整った顔立ちが僕には羨ましい
…なんて冗談は,ここの皆には全く通じないから言わないけど
店はもう閉めたし,今日は資料でも見ておこうかな…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
また僕はロッキングチェアに腰をかけ,資料を見る
これが僕の日常
いつも通り貴重な時間を無駄にしていた
「阿呆か,オメェは。」
かなり辛辣な声がどこかからする
顔を上げるとソファに座る二人の少年がいた
「そんな事絶対ないやろ…」
少し笑いながらもしっかりと突っ込む彼
エメラルドのような瞳をする少年,夜狛(よこま)君だ
それに対して
「いやいやいや,もしかしたらあるかもしんないじゃん!
急にドラゴンが出てきてさ,この街を全部壊すとか!」
圧倒的天然ボケをかましているのは流音(るね)君
この2人は言わばこの店のツッコミとボケ,要するに漫才コンビだ
何だかんだ言って,かなり2人は仲が良かった
しかも会話が中々面白かった
…でも,だからこそ胸が痛んだ
本当に売ってもいいのかな…折角仲の良い2人なのに…
気を紛らわすように僕は資料を見る
「…!」
僕は一つの紙が目に留まる
「明日は一人売れるかもね…。」
僕の独り言は部屋の床にこぼれ落ちた
---
「ふん,ふん,ふん…♪」
僕は鼻歌まじりに洗濯物を干す
「あれれ,今日はご機嫌な店主だね~。」
背後から声がして僕は振り返る
そこにいたのは犬耳の可愛らしいカチューシャをした少女,亜生ちゃんだ
彼女はこの店の商品としては最年長だった
「゜エ?ハハハ…そう見えちゃう?」
見られていた事の気恥ずかしさに僕は苦笑する
「うん!私にはそう見えたかな。」
「実は今日,買う前提で一人お客さんが来るんだ。」
僕は嬉しくなって笑顔で言う
「へぇ…,そうなんだ…。それは良かったね!」
彼女はそう言うと,僕に背中を向け店に入って行った
彼女とはあと4ヶ月
4ヶ月経てば彼女は13歳になってしまう
そうなればきっとあの子みたいに死んでしまうのだろう
いや,売らなければいけない事には変わりはない
逆を言えば僕にはもう…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようこそいらっしゃいました,お客様。」
僕は客に向けて笑顔で言う
「えぇ,ありがとうございます。それで,子供達は?」
客は心配そうに言った
「まぁ,そんなに焦らないで下さい。その前に少し話を伺ってもいいでしょうか?」
客は小さく頷き,僕が案内した席に座る。
今回の客はこの時代には数少ない金持ち
だが性格は温厚で親切な方と情報屋から聞いた
聞きたい事は山ほどある
それからは淡々とした会話が続いた
収穫は多かった
まず子供が欲しいと思った経緯は子供が好きだから,だそうだ
だからこそ行く当ての無い子供達を救いたいと考えたらしい
そして“男”はこの街のとある大きめの会社の社長らしい
そりゃあ有名企業すぎて流石の僕でさえ知っていた
その上,よくボランティア活動をしに行くと言う
何よりも家がデカかった
馬に犬に猫にウサギにフクロウ…と多くのペットがいるそう
執事からもかなり慕われているようだった
当然ながら会社の社員達にも
どうやら子供が買えたら引っ越すそうだった
絵に描いたような優しい人だな…
話している事も嘘とは到底思えなかった
彼女にぴったりなのは…
「なるほど,ありがとうございました。
神経質な子供も多いのであなたにぴったりな子供を一人,連れてきますね。」
僕はそう言い席を立った
客が望んだのは女子
そして動物アレルギーが無い
その上,純粋な心を持っている子
中々当てはまる子はいないが…一人だけ心当たりがあった
藻仲(もなか)ちゃんだ
セミロング程度の抹茶のような緑の髪の少女
彼女は僕の店ではかなり珍しい純粋な心を持っていた
まぁ彼女自身ここに来たのが最近だったからと言うのもあるだろうが…
何よりも客は二人共キンキ出身
藻仲(もなか)ちゃんもカンサイ圏出身だからこれは好機だ
年齢も11歳だからここで逃す訳にはいかない
「藻仲(もなか)ちゃん!」
僕は息を切らして名前を呼ぶ
「何や何や,どうしたん急に。」
驚いたように彼女は関西弁で言った
来たばかりだからか,まだどこかよそよそしい
「ごめんね,急に…。お客さんが来たから君も来てくれる?」
僕は汗を拭う
彼女はそんな僕を見ながら小さく頷いた
「お待たせいたしました。こちらの子ですね。」
「この子はどんな子なんですか?」
客は興味津々で問う
「こちらの子は────」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
不安そうな顔をした藻仲ちゃんが僕を見つめる
僕は彼女の頭をそっとなでる
「短い時間だったね…。ありがとう。」
「……せやなぁ。」
浮かない顔を浮かべる彼女
「大丈夫だよ。幸せになってね。」
「店長も頑張るんやで?」
無理したような笑顔を見せて藻仲ちゃんの両親の車に乗った
いつかその笑顔が本物になりますように
「お気を付けて,お客様。」
僕は彼女たちが乗る車に向けて深々と頭を下げた
車は真っ直ぐと進み,次第に見えなくなった
僕もすぐに振り返り店に戻る
店の前に戻ったものの誰かの視線を感じ来た方を見る
…気のせいだろうか
「良かったね,皇(すめらぎ)さん。」
不意に背後から声がし,思わず振り返る
「胡桃(くるみ)ちゃん!」
長い金髪をした可愛らしい少女がいた
さくらんぼの形をしたルビーのネックレスがよく目立つ
「どうしたの?」
「いえ,別にあなたに用がある訳じゃないわ。
ただ外の空気が吸いたかっただけ。」
彼女はそっぽを向きながら言う
相変わらず目は合わない
「そっか。…じゃあ僕はもう戻るよ。
分かってるだろうけどバリケードテープの外には行かないようにね,じゃ。」
僕はそう言い店に入った
「……どうして皇(すめらぎ)さんはそこまで“外”に固執するのかな…。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あとは…13人,か…
僕は今日もまたロッキングチェアに腰をかける
手に持つのはいつもの資料
今日は一人売れた
でもこれが正解だったのか,僕にはまだ分からない
彼女が本当に幸せを得る事が出来るのか
きっと今の僕には確かめる権利も無い
否,もう無くなった
今や赤の他人の僕には,そんな権利なんて無くなったのだ
僕は静まり返った店内で新しい注文を見る
だがろくな注文は来ていない
明日は客を待つしかないか…
ロッキングチェアがギィと音を立てる
もう深夜だ
今日は休もう
僕はその場で瞳を閉じる
---
今日もロッキングチェアに腰を下ろす
もうコレも,何度目か
また資料を何度も読み返した
「おやおや,また店主はソレ見てるね~」
「ん?あぁ,亜生(あおい)ちゃん。」
奥の部屋から亜生(あおい)ちゃんが顔を覗かせる
「おー,ホントだ!もしかして暇⁉暇なの⁉」
亜生(あおい)ちゃんの後ろからはそばかすが目立つ茶髪の少年,加奈(かな)君と
「いや…仕事だよ,きっと…。」
同じくそばかすの目立つ黒縁眼鏡の少年,亜雄(あお)君が覗かせていた
「ハハハ…沢山来たね…。どうしたの?向こうで遊ばないの?」
「んっとね,面白そうだからついてきた!亜雄(あお)も同じ!」
加奈(かな)君は本当に好奇心旺盛な子供らしい笑顔を見せる
「いや,僕は加奈(かな)が心配だから来ただけだから!」
続けて亜雄(あお)君は怒ったように言う
「ほぅら,ボーイくん達は行った行った!皆と遊んできな!」
亜生(あおい)ちゃんは年上らしく仕切る
「えーー,まいっか!じゃ,バイバーイ!ほら行こ!」
「あ,ちょ,うん!」
加奈(かな)君は亜雄(あお)君の手を引っ張っておくの部屋に入って行った
嵐みたいな子だな…
「本当に元気だね~,あの二人!」
亜生(あおい)ちゃんは笑いながら僕の隣に椅子を運ぶ
「ハハハ…そうだねぇ…。君は?行かなくていいの?」
僕は不思議に思い,隣に置いた椅子に座る彼女に問う
「うーん…今はいいかなって。それよりもさ,その紙って何なの?」
亜生(あおい)ちゃんは僕が持つ紙に指を差す
「あぁ…コレ?色んな事が書いてる必要な紙だよ。」
「どんな事書かれてるの?」
「…。」
「…どうしたの?」
「あ,ごめん。ボーっとしてたみたい。
えっとコレにはね…君達の親になるかもしれない人達の事が,沢山書かれてるんだよ。」
「へぇ,こっちの手紙にも?」
亜生(あおい)ちゃんが指差す方にあったのは
一つの手紙だった
「あぁ…えっと,コレは藻仲(もなか)ちゃんから届いた手紙だよ。」
僕は手紙を手にする
「ふぅん…開けないの?」
「え?…あぁ,いや…また後でにするよ。今はまだ仕事中だからさ。」
「っそ。まぁきっと感謝の言葉とか書いてるだろうしね。」
「うん…そうだね…。」
「…。」
僕は話す事も無く,そしてどうしようも無く思い,再び資料を読む
正直あの質問には戸惑った
この資料には何が書いている,という質問
素直に言えばどんな子が欲しいかと言う注文が書かれている紙
だが“品物”として売られている子供達の気持ちは分からなくは無かったから
だからこそ,それを実感してほしくなかった
そしたらあんな答えになった
まぁ僕が勝手に用意した紙には客の情報が書かれているから間違いでは無いが
気付いている事を意味の無い嘘で偽っても,仕方が無いって分かっているのに…
「ねぇ…。」
「へ?」
急に亜生(あおい)ちゃんに声をかけられ,自分でも驚くほど情けない声が出る
「あ,いやごめん。えっと,どうしたの?」
気を取り直して僕は聞き返す
「もう…いいよ。」
「…何が…?」
「私の親,探さなくていいよ…もう。」
「え?」
僕がまた聞き返すと,彼女からビー玉のように綺麗な涙が落ちる
「私は!もう、売れないんだよ…。」
「いや,そんな事無いよ!だいじょう───」
「もう私は12歳だし,誰も買わないの!私は…完璧になれなかった,いらない子だから…!」
僕の言葉を最後まで待たずに彼女は言う
駄目だ,声が出ない
そんな事無いって言いたいのに
声が何故か出ない
言えない,なんでだ
「もうあと4ヶ月しかないんだよ?4ヶ月過ぎたらどうせまた捨てられる…!!
また私は独りっ…!嫌だよ…もう…!」
そう彼女は言うと手で顔を覆い隠しうつむく
「─!違うッ‼」
声が出た
自分でも驚くほど大きな声が
それに驚いたのか亜生(あおい)ちゃんが顔をあげる
「…あ,ごめん。驚かせちゃったね…。」
「…。」
「捨てないよ。絶対に送る,幸せな家族のもとに。」
笑顔が作れない…僕は顔を見られないように俯く
「…。」
「4ヶ月なんていらない。もっと早くに送るからさ…。そんな事,言わないでほしい…。」
「…………。」
彼女は口を開かなかった
本当に駄目だな…自分は…
慰める所で最初に大声をあげるなんて…
「さて,行こっか。もう夕食にしよう?」
僕はこわばる顔で笑顔を作る
「……うん。」
彼女は頷き席を立つ
「その,さ…」
彼女は僕の服の裾を引っ張る
「ぅん?」
僕も驚いて振り返る
「ありがと,店主。こんな私を…育ててくれて…。」
気恥ずかしそうな笑顔を見せた
「!…ううん,こちらこそいつもありがとう。」
僕は彼女の頭をそっとなで,リビングまで向かった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
深夜の店は当然静寂としていた
今日は誰も売れなかった
でも亜生(あおい)ちゃんが本当の感情を見せてくれた…
今日は良い日かもしれない
注文は…
2件新しく来ていた
「…‼良かった……。」
僕は安堵でホッとため息をつく
これえは明日のお楽しみとして報告しよう…
今日はもう休もう
僕は顔が勝手に緩み少し微笑みながら,その場で瞳を閉じた
---
「亜生(あおい)ちゃん,今日はお引越しの準備してね。」
僕は彼女に告げる
「え?」
当然,どうしてという顔をしていた
「君の親が決まったんだ。しかも少し前にも店に来てた人。
だから夕暮れ時にはもう迎えに来てくれるって。」
「そう…なの…?本当に?やっと私も…?良かった…!」
彼女も嬉しそうにしてくれた
良かった,悲しまないでくれて
僕はホッとして顔が緩む
「おめでとう。亜生ちゃん。」
彼女は嬉しそうな笑顔で部屋に戻って行った
彼女の新しい親は,少なくとも完璧主義者では無かった
ただ一つ言うなら…
その親が男性同士の同性婚であった
世界的にも認められてきたものだが,偏見や差別があると言うのも事実
彼女がそれを認めれるかどうか
いや,彼女なら認めれるはずだ
彼女自身,優しい人物だから
きっと差別をして嫌がる事は無い
しかもその二人は同性婚だけで無く
他の店から一人男の子を,もう買い取っていた
だから少なくとも育て方は信用できるだろう
彼女が前の親の影響で完璧にこだわってしまうという事も報告済みだ
彼女のトレードマークである犬のカチューシャの事も
まぁきっと大丈夫
上手くやっていけるだろう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は一人の男の子も探していた
彼もまた今日売れる子だったから
その子は金髪のターコイズのような瞳の少年,隅(すみ)君だ
彼はほぼ最近ここへ来たが,他の誰よりも早く心を開いてくれた
前の生活環境が悪かった事を暗示するように,いつもやせ細ってしまった腕がよく見えていた
寂しがり屋だけど努力が出来る,そんな良い子を捨てた親の気持ちが分からない
僕が彼を探して歩き回っていると彼はロッキングチェアがある部屋にいた
「隅(すみ)君!」
僕が声を出すと,彼は驚いたような顔をした
「す,皇さん…‼」
「どうしたの?いつもは皆の所にいるのに…。」
「あ,えっと…,今日は皇さんと…話したいなって…。」
彼は少し慌てたように言った
「…?まぁ,そうだね。僕も話したい事沢山あるし…。」
「そうなんだ…!じゃあ僕とお話しよ…!」
彼はロッキングチェアの横に椅子を持ってきた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日,売れるという事を彼に伝えた
それを聞いた時の彼の顔は本当に寂しそうで見てるだけでも辛くなった
でも嫌な顔はせずに頷いてくれた
彼の迎えはすぐに来た
優しそうで温厚な家族の元に向かってくれた
「さようなら、皇さん大好き、だよ」
その言葉を僕に向けて,贈ってくれた
『大好き』
それを言われる権利は,僕にあるのだろうか
本当に,あるのだろうか
今日は2人も送る事になるなんて…
特に亜生ちゃんが無事に送れる事になって良かった
12歳になった者が売れる事はそうそうない
実際に12歳の子が売れずに処分となる事だってそう少なくはない
人の命を何だと思っているのか
何故誰も彼等を助けないのか
彼等を捨てた“元”親にもしも会う事になったのなら
僕は拳を抑えれる自信が無い
でも,それはきっと彼等の親を侮辱する事になってしまう
今日も僕はどうしようもない怒りを抑え込む
これは仕方のない事なのか
理由があったら捨ててもいいのか
僕は鼻で笑い,手に持っていた資料を床にぶちまけるように落とした
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カラスが声高に鳴き,辺り一面に響き渡る
車が一台,バリケードテープの奥に止まる
その車から降りてきた男性がこちらに向かってきた
僕はそれを確認次第,亜生ちゃんがいる方に振り向く
「ほら,お迎えが来たよ。いってらっしゃい。」
僕は彼女の頭をなでる
これももう最後になるのか…
夜狛君が珍しく店から出てきた
「…気いつけてな。」
彼はそっぽを向きながら彼女に向けて言った
亜生ちゃんも流石に目を見開いて驚いていたが次第に微笑んだ
「うん,ボーイ君もね。特に猫みたいな所とか私好きだったし,頑張ってね!」
彼女はからかうように笑った
「だ,だれが猫や‼もうええ!せっかく来てやったのに,はよ行けはよ行け!」
彼は怒ったように亜生ちゃんを押した
えー,と駄々をこねながらも亜生ちゃんは新しい親の元まで歩いて行った
彼女は僕達に向けて大きく手を振って車の中に入ってしまった
「オレは…いつになるかな…。」
浮かない顔をして夜狛君が口を開く
「大丈夫だよ,すぐに────」
「おーーーい!夜狛(よこま)ーーー!!!トランプするんだけどやるー?」
店の玄関から流音(るね)君が顔を覗かせる
「…しゃあないなぁ。付き合ったるわ!」
夜狛(よこま)君も店内に戻ってしまった
「……上手くは,やっていけてないな…。」
僕も彼の後に続くように店の中に帰った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も深夜の店内は深海にいるかのように静かだった
僕は体を預けるようにロッキングチェアに座った
するとロッキングチェアは木がきしむ音を立てる
床一面にばらまくように落ちた資料
机の上に置いてあった資料さえもガサッと言う音を立てて床に落ちる
だが拾う気にもなれぬまま,僕は魂が抜かれたように天井を見上げていた
その時,重たい扉が音をあげて開く
僕も思わず体を起こす
そこにいたのは腰まである髪を三つ編みのハーフアップで束ねている少女だった
「ゆ,結衣奈(ゆいな)ちゃん!」
僕は彼女の顔を見るなり驚いて声を出す
「‼皇(すめらぎ)さん…!」
彼女も驚いたような顔をする
「どうしたの?もうすぐで1時になるよ?」
「あぁ…えっと…ちょっと眠れなくて…。」
「そっか,まぁそういう日もあるよね……。じゃあホットミルクでも作ろうか?」
僕は席を立ち,すぐにリビングまで向かう
彼女も僕の後ろについてくる
「……………。」
彼女はいつも通りの沈黙を貫く
彼女はこの店でも一番と言えるほど無口な子だった
でも,僕には少しだけ心を開いてくれたようにも見える
僕は淡々とホットミルクを作り結衣奈(ゆいな)ちゃんに渡す
彼女は嬉しそうな顔をしながらホットミルクを飲む
「あと11人か……。」
僕の言葉はカラスの声でかき消された
---
「いってらっしゃい。気を付けてね!」
僕は皆が学校へ向かう姿を見届ける
この時だけ,彼等がバリケードテープを越える事が許される
彼等の姿が見えなくなった所で,僕も店に戻る
カランカランと言う音を立て店の扉を開いた
どうせ今日も客は来ないだろう…
さてと…今,店に残ったのは…3歳組だけ
「すめやぎてんちょ!すめやぎてんちょ!」
「わわっ,どうしたの?緋凪(ひなぎ)君。」
小さい彼のぱっちりした目から,紅に琥珀色を混ぜたような夕焼け色が見える
「あそぼっ!あそぼっ!」
彼は僕の周りをピョンピョンとはねる
「ごめんね,僕少し仕事があるから…。終わったらすぐに遊んであげるから。
今はほら,氷空(そら)ちゃんと遊んできな。」
僕は軽く彼の背中を押すと,彼は頷いて氷空(そら)ちゃんの所まで向かった
僕はいつもの部屋でロッキングチェアに座り,受話器を手に取る
「……今日,大丈夫かな?」
僕は電話の向こうにいる者に問う
『…,分かりましたよォ。すぐに行きますョ。』
健康さが一ミリも感じられない声色の男が言う
「うん,いつもごめんね。ありがとう。」
僕はそう言うと受話器を戻す
とりあえず僕は…
昨日の床に散らかっている資料を目にする
……まずは片付けよう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一通り,片付けは終えた
あとは…彼が来るまで少し待つだけ
まぁ,その少しが早ければ何も言う事は無いのだけど…
この間は朝電話したら深夜に来たっていう程遅い
まるで亀
冗談抜きで遅い
しかし情報屋と言う分だけあって,かなり有力な話が聞き出せる
彼とは昔からの付き合いだった
一つ上の先輩であり,仕事仲間で,僕にとっては一番親しい友人
彼にだけはどんな事でも話せた
まぁ彼はそう思ってないだろうけど…
一番僕が困る所があると言えば…
彼が一番嫌いなものだった
それは,子供
だからいつもこの店に来るのは嫌そうにしている
お陰で毎回深夜か早朝に来るから微妙に困ってる
たまに昼に来る事もあるけど
まぁ…何だかんだ言いつつ来てくれるのはありがたい
どうせ今日も来るのが遅いんだろうし,皆の新しい親でも自分で調べてみるか
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は同じ文を何度も読み返していた
…やっぱり彼の親はこの人が一番最適だろう…
あとはこの親に話を聞くだけ
「ねぇねぇ,何見てるの?」
「え。」
すぐ下から声がし,驚きのあまり持っていた資料を落としてしまう
「あぁー…全部落ちちゃった。手伝ってあげるね!」
「ごめんありがとう。どうしたの?」
僕は落ちてしまった資料を一枚一枚拾う
「ん~,いや,別に。何してるのかな~って!」
氷空(そら)ちゃんは薄い紫苑色の瞳で僕を見つめて言う
「そうなんだ…。緋凪(ひなぎ)君は?」
「寝ちゃった!遊び疲れたからかな?」
彼女は僕に拾った資料を渡す
「ありがと。…まぁしばらく寝かしとこっか。無理に起こすのも悪いし…。」
僕は拾った資料を整える
「そうだねー。そう言えば今日のお昼何ー?」
「んー…じゃあパスタにしよっか。」
「わぁい!パスタパスタ!ミートパスタが良い!」
彼女は僕の周りをグルグルと楽しそうに回る
「良いよー。でも回るのはやめようね,目回っちゃうでしょ?」
僕は人差し指を立てて言うと
「はぁい!」
彼女は元気よく手を挙げて返事をした
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
15時を少し過ぎた頃,店の扉が開いた
「ただいま!聞いて聞いて奏斗(かなと)さん!」
嬉しそうな顔をした夢月(むつき)君が急ぐように向かってくる
「!おかえり,夢月(むつき)君。どうしたの?」
「実はねこの間あったテストで,100点取れたんだ!」
彼は可愛らしい笑顔で100点のテスト用紙を僕に見せる
「おぉー,凄いね!よくできました。」
僕は微笑み,彼の頭を撫でる
「えへへへ…!」
その瞬間に奥の部屋から受話器が鳴り響く
「?ごめん,ちょっと行ってくるね。」
僕はロッキングチェアがある部屋まで向かう
情報屋からだろうか
それとも客からの予約だろうか
「はい,もしもs───」
『あ`⊂,£⊇Uナニ゙。1ヵヽレナ゙⊃もナょヽヽσㄘをナニヽ世⊃レニUナニまえ∋。』
気味の悪い電子音のような声が頭の中に響く
ツーーー…ツーーーー……
たった数秒の出来事
恐怖でか,それとも絶望でなのか
体を動かす事も出来ず,受話器をそのまま地面に落とした
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
予約が入った
今回の商品は丁度夢月君だった
もしも彼の同意が出たら今日の夜にはもう迎えに来るそうだ
彼の新しい家族は母子家庭で12歳の子供が一人と言う形になる
この間店に来てもらったが,若くて大人しそうな女性だった
母子家庭となれば生活に余裕は無いだろう
とは言えあくまでもコレは商売
値下げをする事は子供達にとっても失礼な事だ
「そう言う事なんだけど…夢月君はそれで大丈夫?」
「……うん…。」
彼はそう返事をしてくれたものの,浮かない顔をしていた
でも泣きはしなかった
きっと僕が望む何かを察してくれたからだろう
彼が持つトラウマを新しい家族は少しでも癒してくれるだろうか
少なくとも僕にはそれが出来なかった
何が足りなかったのだろうか
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
18時過ぎ
彼の家族は迎えに来た
夢月(むつき)君は少しだけ寂しそうな顔をしていた
「気を付けてね,夢月(むつき)君。」
僕は彼の手を握った
「うんっ!ありがとう。向こうでも頑張るね。」
彼は可愛らしい笑顔を見せてくれる
「私からも…応援してる。」
するとペリドットのような髪色をした咲倉(さくら)ちゃんが
1輪の青い薔薇を彼に渡す
どこで買ったのか検討はつかないが立派な薔薇だった
「うん,綺麗なお花だね。ありがとっ!」
「…うん…,バイバイ…!」
咲倉(さくら)ちゃんはもどかしそうに手を振る
彼も今にも泣きそうな笑顔で手を振りながら車に乗った
「お久しぶりです。えっと……。」
一人の少年がわざわざ近づいて言う
きっとこの子が夢月(むつき)君の兄になる子,確か夏樹(なつき)君
「皇 奏斗だよ。わざわざ挨拶,ありがとう。」
「いえ,こちらこそ今回はありがとうございました。」
彼は深々と頭を下げる
「ハハハ,そんな…頭なんか下げなくていいよ。
それでさ,一つ約束して欲しい事があるんだけど…良いかな?」
「?…構わないですが…。」
「そっか,ありがと。実はね───」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
深夜の2時頃,やっと例の情報屋が来た
「んで?今日は何が聞きたいんですカ?」
目つきの悪いジト目をした情報屋が僕を睨む
「んー…今日も,いつも通りのヤツでいいよ。今はそれに集中したいから。」
僕は考える素振りをして答える
「ハイハイ,分かりましたよォ。そう言うと思って持ってきましたよォ。」
彼は細い腕で数枚の紙をピラピラと僕に見せつける
「ハハハ,流石だね。よく分かっていらっしゃる。」
僕は笑いながら彼が持つ紙を手に取る
「まぁ…腐れ縁ですからねェ…。」
「『腐れ縁』じゃなくて,『友人』って言ってくれた方が嬉しいんだけどねー。」
僕はロッキングチェアに腰をかけた
「…流石に友人ではないでしょう…。」
呆れたような声色で言う彼は少し寂しそうな顔をした
「酷いなぁ…。」
僕がそう言うと彼は鼻で笑った
僕にはそれが少し嬉しそうにも見えた
「……自分の身も大切にして下さいョ?ガキんちょの事だけじゃなくて。」
「んー,アレは覚悟してるつもりだよ。」
「…そうですカ…。なら別にオレは良いですけどォ。」
「ハハハ,そっか。でもその時は,自分のせいだって思いこまないで欲しいかな。」
僕は彼の顔を横目で見ながら言う
「…なぁに言ってんㇲか?オレがそんな事考える訳ないでㇲよ。」
彼は頭を掻くが
「フフ,そうかなぁ?…まぁ,万が一の時は後始末ぐらい頼んでもいいかな?」
僕は彼に微笑みをかけた
「…ま,それで借り一つになるなら良いですヨ。
じゃあオレは帰りますネ。その資料はあげますよ。オレが持っててもしょうがないので。」
彼はヒラヒラと手を振り帰って行った
「本当に…感謝してもしきれない人だね…,君は…。」
---
「今日はホントに学校休んで良かったの?」
僕はソファに座る夜狛(よこま)君に問う
「別にえぇよ。今日は特になんも無かったし。」
「ふぅん…そっか。でも流音(るね)君いないと寂しいでしょ?」
僕は冗談がらみに笑って言う
「アホか。」
シンプルなツッコミ。
「ハハハ…。さて,もう時間だし店開けるね?」
「あぁ,そうしといてくれ。」
彼は素っ気なくそう返事をした
あの時店を開けていなければこうはならなかっただろう
でももう遅かった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カランカランと音を立てて店の扉が開く
「いらっしゃいませ,お客様。」
僕はすぐに客の方に向かう
「ここね,子供を売ってるって言う店は。中に入ってもいいかしら?」
めんどくさそうな“女”が一人店に来た
「はい,構いませんよ。でも今はあまり子供達がいないのですが…。」
人を見た目で判断するのは良くないと思い笑顔で応える
「いいわよ別に。邪魔するわ。」
ズカズカと“女”は遠慮なく入って来る
「あら,本当に人がいないわね。1人しかいないなんて…。それにしても…。」
“女”は夜狛(よこま)君を見下すように見つめる
「可愛げの無い子供ねぇ。いかにも生意気そうなガキ。」
そのトゲのある発言が僕の何かをチクチクと刺した
「ろくでもない子供も売るのね。やっぱり他を当たるわ。
こんな子売られて当然ね,あなたも捨てた方が良いんじゃない?」
“ソレ”は馬鹿にするように鼻で笑った
目の前は一瞬真っ暗になった
手に残ったのは“ソレ”を殴るような感触
“ソレ”は奥の壁まで飛ばされ,チェストの角に頭をぶつけるような音が出る
無意識に僕は“ソレ”を殴ったのか
“ソレ”に意識はあるのか
それよりも夜狛(よこま)君は大丈夫なのか
僕は後ろに振り返ろうとした
「うわぁァァぁぁぁぁァぁァぁぁァぁぁァぁぁッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」
泣き叫ぶような,苦しみあがくような夜狛(よこま)君の声が店内には響き渡った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あぁ,情報屋?一つ後始末を願いたいんだけど…良いかな?」
僕は受話器の奥にいる情報屋に向けて問う
『……もしかして何かしたんですカ?』
「ハハハ…少し,ね…。」
僕は少しためらいながらも彼に事情を説明した
『ハァ⁉それはもう殺人じゃないですカ⁉』
驚くような声が受話器から聞こえる
「いや,まだ意識はあったよ。それに僕を犯罪者にしないで欲しいかな。」
『法律に反して子供売ってる癖に何言ってるんですカ…。何言っても嫌ですからネ。』
「まぁまぁそう言わずに!昨日の夜は約束してくれたでしょ?」
『…!いや,アレはそう言う意味で言った訳じゃ───』
当然,彼は断ろうとしていたが
「分かってるよ。でも君にしか頼めない事だから,手伝ってほしい。」
長年の付き合いである僕は,彼は押しに弱いって知ってるからさ
「…分かりましたよォ。仕方ないですねェ…。高く取りますョ?」
「ハハハ,分かってるよ。ありがと。」
僕は彼にずっと頼ってる
大切な友人を利用して…ダメだな…僕は
僕はそんな事を考えながら電話を切る
子供達が帰って来るまでに“ソレ”をどうにかしなければ
でも何よりも優先しないといけないのは…
夜狛(よこま)君のメンタルケア,だね
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜狛(よこま)君はうずくまるようにソファに座っていた
顔は見せたくないのか背中をみせている
「夜狛(よこま)君…。」
僕は彼の隣に座り声をかけるが
「…。」
当然無言で回答
「えっと…,大丈夫…じゃないよね。」
「…。」
「でも気にする必要無いよ?可愛げ無いとか,そんな事無いからさ。」
「…。」
「最高でもあと5年もあるんだし,ゆっくりやっていこうよ,ね?」
「…。」
何を言っても返事をしてはくれなかった
どうしようかな
やっぱり後始末を先にした方が良いのかな…?
「今日も,売れやんかった。」
不意に彼は今にも崩れそうな声で告げる
「分かっとんねんッ!!!オレに可愛げ無いとか!今までずっとそうやったッ!!」
彼は自身の髪を乱暴に握る
「あいつらからも,何を言われたかッ!嫌でも覚えとるわッ‼」
捨てられた事,それに根に持つ子は当然少なくない
きっと自身の親の事を思いだしたのだろう
彼の親はろくでもない奴だった事は聞いていた
終いには我が子を捨て,遊び惚けて
何故そんな親が生きてるんだろうと何度思った事か
「あんな親から生まれたせいで,オレはこんなに辛い思いしなあかん…!」
その言葉にはどこか,他人とは思えなかった
まるでその姿が誰かに重なるように見えてしまった
「だ,だいじょぅ──────」
「うっせぇなァ!テメェに何が分かる!
分からねぇだろうな。テメェはオレじゃねぇもんなぁ。」
彼は鋭い目で僕を睨み,投げ捨てるように悲鳴に似た言葉を叫ぶ
「…ッ……。」
何も言えなかった
何を言っても無意味な気がしたから
「どいつもこいつも、バカだらけ。ほんま、嫌になる…‼」
彼はそう言い奥の部屋に入って行った
ガチャンと鍵を閉める音
…今は…そっとしておくのが良いだろう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでェ?例の奴はどこにいるんですかァ?」
情報屋が嫌そうな顔をして僕に問う
嫌そうな顔をしながらも電話してから30分もせずに来てくれた
相変わらず優しいなぁ…
「んーっとね…2階にとりあえず上げたよ。」
僕は2階に上がる階段を指差すと
「さっさと片付けますョ。5万は取りますからねェ。」
彼はそう言い階段を登って行った
5万…結構高いなぁ…
「ちなみにアンタはコイツをどうするつもりですカ?」
彼は不穏な顔をする
「うーん…そうだねぇ…。軽く黙らせておきたいかな。」
「ふぅん…。それでガキは?」
「え?」
僕は思わず聞き返すと
「ガキはそれ見たんですカ?」
また遠回しに聞かれる
「えーっと…それって?」
「だァかァら,あんたがソイツ殴った所はガキが見てたのかって聞いてるんですヨ‼」
彼は怒ったようにに僕を睨む
「アハハ…それは……ハハハハハ……。」
僕は笑ってごまかそうとしたが
「なるほど…。本当にあんたは馬鹿ですネ。」
辛辣に返される
多分僕がそれを聞くのを忘れてたという事は察してくれたのだろうけど
これが本当に後輩に向けて言う言葉なんだろうか…
まぁ別にいいのだけど
「にしても…こんなデカ物処分した方が早いのでは?」
彼は不思議そうに僕に問う
「嫌だよ,僕は犯罪者にはなりたくないからね。」
僕はゴム手袋を両手に付け,ニッパーを手に取る
「犯罪者予備軍が…何言ってるんですかねェ……。」
「予備軍だなんて失礼だね…。」
「事実でしょ…。そんな事より,それでどうする気ですカ?」
彼は僕が持つニッパーに指を指す
「コレ?ハハハ,そのままだよ。」
「痛い目見せなきゃ,反省しないでしょ?」
バチンッ────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お疲れ様。お陰で共犯者が出来たよ。」
僕は大きめのキャリーケースを持つ情報屋に封筒を渡すと
「あんたと共犯者になるとか癪ですがねェ。」
彼は封筒を奪うように取り中身を確認する
「癪じゃなくて光栄でしょ?冗談はよしてよー。」
僕は冗談を聞くように笑う
「光栄な訳が無いでしょうが…。」
彼も少し呆れたように言う
「カメラの改変,あと血痕処理,それから足跡の消去とかその他もろもろしたので,
しばらくは見つかる事無いと思いますよォ。万が一の時はお得意の嘘で誤魔化しといて下さいョ。」
「りょうかーい。いざとなれば一緒に捕まろうね?」
「嫌ですよ。それじゃ,また何かあったら言って下さいネ。」
彼はそう言うと重たいキャリーケースをガラガラと運びながら去っていった
ま,この時代に警察に捕まるなんて事はそうそう無いけれど
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
子供達が帰って来た後も夜狛(よこま)君は部屋から出てくる事は無かった
完全に心を閉ざしちゃったかもしれない
明日はどうするか…
深夜の店内に隙間風の音が鳴る
そう言えば情報屋は“アレ”をどうしたかな…
そのまま帰してくれたかなぁ…
今度聞いてみよっと…
僕は冷蔵庫まで行き,小さな小瓶を取り出す
その小瓶にはホルマリン漬けにされた小指が入っていた
まぁ,子供を守るためだったんだし,しょうがない事だった…
僕は…悪くない,よね?
---
「なぁなぁ,夜狛(よこま)どうしたの?奏斗お兄さんと喧嘩でもしたの?」
流音(るね)君が僕の服の裾を引っ張る
「…うーん…そうだねぇ…。喧嘩しちゃったかもしれないね…。」
僕は苦笑いで返すと彼は
「もー,喧嘩したなら謝らなくっちゃ!」
いつかの僕が言った言葉で叱ってくれた
僕はそれに驚いて目を丸くしていると
彼ははにかみながら笑った
「ほらほらレッツゴー!」
流音(るね)君は僕の背中を力強く押して夜狛(よこま)君がいる部屋の前まで僕をやる
「仲直り頑張ってね!じゃ,学校行ってきまぁす‼」
彼は大きく手を振って次第に店の扉が閉じる音が聞こえた
「…フフッ…いってらっしゃい。」
彼のお陰で勇気が出た気がした
いつまで経っても子供達から気付かされてばかりだ
でもどうしようか
仲直りなんて,いざやろうにも難しい
どことなく恥ずかしさも感じてしまう
その時受話器が鳴り響いた
こう言う時に限って…誰だ?
僕は乱暴に受話器を手に取る
「はい。……え?それ本当ですか⁉はい…はい…分かりました。すぐ準備致します。」
電話の持ち主は客だった
夜狛(よこま)君が欲しいと言う予約が入った
これはきっと良い報告になるだろう
…多分
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「夜狛(よこま)君,今…大丈夫かな?」
僕はノックしてからドアの向こうにいる夜狛(よこま)君問う
「何?」
不機嫌そうな彼の声が返ってくる
「良い報告があってさ。直接会って話したいんだけど入ってもいい?」
「…そこで話して。」
ぶっきらぼうに彼は言う
嫌われてはなさそうだけど,信用されてもないって言う感じかな
「うん,分かった。」
僕は一通り昨日の謝罪と予約について話した
謝罪に関しては「奏斗さんは別に悪くない」と言ってくれた
僕を責めないようにしてくれているのか…
気づかいもされて情けないな,僕は
そして予約に関しては…
「今日,なんだけど…大丈夫かな?」
「…別にええけど…。なんで?」
彼の声が最初よりも近くなっている気がする
「いや,別に…意味は無いよ。大丈夫。」
僕は自然と何かをごまかすように言った
不意に扉が開いた
目の前に立っていたのは目尻を赤くさせた夜狛(よこま)君がいた
「…今まで,お世話になりました。」
彼は深く頭を下げてお辞儀する
「夜狛(よこま)君……!」
僕は微笑み彼の頭をそっとなでる
「こちらこそ。今までありがとう…。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なぁ。」
彼はソファに寄りかかりながら言う
「んー?どうしたの?」
僕もロッキングチェアをギィと音を立てて問う
「オレの新しい親ってどんな人なん?」
彼は珍しく目をキラキラとさせていた
「んっとねぇ…。年収は大体400万程で裕福過ぎずって感じで普通の生活かな。
僕達が生まれる少し前の年収平均だと大体平均よりも下ぐらい。
夫婦ではあるけど子供がいないね。で,ちなみに───」
「いやいやいや,そうやなくて。誰もそんな辞書みたいな説明聞いとらんって!」
僕の説明を遮っていつもの鋭いツッコミを入れる
「ハハハ,冗談だって。子供はいないけど,子供が好きな素敵な人達だよ。」
僕はその両親の資料を彼に見せる
企業秘密ではあるけど,最後だし別に良いだろう
「へぇ~…そうなんだ…!」
彼は嬉しそうに笑ってくれた
…少しは感情が戻ってくれたかな……?
来たばかりの時は人とは思えないほど感情を出してくれなかったのに…
変わってくれて,良かった
僕は夜狛(よこま)君が幸せになっている事を祈ってるよ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あの人達なの⁉うわぁ…本当に来てくれるんだ…‼」
夜狛(よこま)君は今まで見た事が無いぐらいはしゃいでいた
「ほら,行っておいで。」
僕は彼の背中を軽く押してあげる
「夜狛ぁ!元気でな‼いつか遊びに行くから‼」
流音(るね)君は元気な大声で夜狛(よこま)君に言うと
「おうよ!オメェも元気にしとけよ‼流音‼」
夜狛(よこま)君も大声で応え,大きく手を振った
流音(るね)君もブンブンと力強く手を振り返す
もうあの漫才も見れなくなっちゃうのか…
僕には喜びと同時に寂しさも感じた
「行っちゃったね…。」
流音(るね)君も少し寂しそうに言った
「そうだね…。これが正解だと良いな……。」
「え?」
彼は目を丸くして聞き返す
「何でもない。さぁ,外は寒いから店に入ろっか。」
「?…うん。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも通りの静かな店内
月の光が窓から差し込んでくる
僕は数枚の手紙を全て机の上に並べた
左から藻仲ちゃん,亜生ちゃん,隅君,夢月君から貰った手紙だった
子供達はよく売れた後に手紙を送ってくれる
そして僕はその手紙を開けた事は一度も無かった
何が書いてあるだろうか
感謝だろうか
今の生活についてだろうか
幸せにしてることだろうか
悲しみについてだろうか
それとも───…
…僕に向けた皮肉だろうか?
---
僕はいつも通り子供達を学校に行かせて
3歳組は今日だけ保育園に預けた
ベビーシッターは,どうせ当てにならないから
そして今日は僕の数少ないオフの日
店も閉めて情報屋とご飯に行く約束をしていた
たまには息抜きもしないと息苦しいから
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日はアンタの奢りですよォ。」
情報屋は嫌そうな顔をしていた
「えー,嫌だよー。3分の2は君に払ってもらわないと。」
「オレの方が払う金額高いんですケド…。」
彼はあきれたように溜め息を吐くと僕を置いて歩き始めた
「さぁて,どこ行こうかなー。」
僕は彼の隣まで行き,スマホで良い所を探す
「さっきの話って冗談じゃないんでㇲね……⁉
…どこって…もう定番の遊園地で良いんじゃないですカ?」
「あそこ?んー…別に良いけどさー,どうせ空いてないよ。
それに僕は都内で済ませたいかな。」
「ハァ…たかが隣の県なんですから…。」
「そこまで僕は歩きたくないの。」
僕はスマホから目を離さず言う
「第一,今時どの店も基本閉まってるんですからァ…。」
彼はめんどくさそうに言うが
「こことか,どう?」
僕は何も気にせずスマホを無理やり彼の顔に近づけて見せる
「だァかァらァ,空いてないですョ。あと目が痛くなるのでやめて下さい。」
「んー…残念だねぇ。じゃあオオサカまで行く?」
僕は冗談がらみに言うと
「都内で済ませたいって言っておいて,そこまで行くとか馬鹿ですカ?」
辛辣な返しをされた
冗談が通じない人だなぁ…
「ま,いっか。じゃあもう,予約しておいたカフェに行こっか。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕が生まれる数年前の話
地球で大規模な戦争が起きた
だが何と戦ったのかが分かっていない
どの国も同じ何かと戦ったらしいがそれさえも定かではない
それが人なのか,同じ国に住むものか,はたまた別の世界から来た者なのか
その何かは人間を残虐に殺していったせいで
現在の地球全体の人口は本来の半分にも満たないそうだ
当然,ニホンも例外では無かった
ニホンだけで無く他国達も自衛隊や警察が我が国のため動いた
他国と一緒にその何かと戦った
だが,戦場に向かった者は誰一人として帰ってこなかった
今,警察も自衛隊も数える程度しかいない
政府の人間は未だにどうしようもなくずっと会議を続けている
幸いにも他国からの支援もあって貧困は抑える事は出来ているそう
何よりも癪ではあるが,それが維持出来ているのは人口が減少したおかげでもある
僕も流石に詳しくは知らない
人口が減少したせいで店はほぼ閉店
特に遊園地や動物園等,娯楽のために造られたものを中心に閉店している
要するに僕が生まれた時代は何も面白味が無かった
まぁ最低でも学校があるのは嬉しい事だけど
この時代の子供達は言わば希望
だが育てるのにも費用がかかる
しかも食費が高いこの時代に子供がいるのは相当なリスクでもある
そのせいで子供達を捨てる親が多くなった
数多もの世界の希望がそいつらのせいで死んでいった
この世界を変えるかもしれない希望がこぼれていった
神から望まれて生まれてきただろう命が消えていった
「本当,馬鹿だよね。人間って。」
僕は角砂糖を3つコーヒーに入れてかき混ぜる
「まァた,その話ですか?もう耳にタコができる程聞きましたョ。」
情報屋はかなりデカめのスペシャルチョコレートパフェというこのカフェの
定番メニューを頬張りながら言う
「…うわぁ…胃もたれしそう…。」
「失礼な,ここのパフェは甘くて美味いんですョ。」
彼はスプーンを僕に向けながら睨む
「君って甘党だよね…。本当に…引くぐらい甘党……。」
僕は流石のデカさに苦笑いする
「……。」
彼は気にしないと言わんばかりにパフェを黙々と食べるため
僕もそれ以上は何も言わずコーヒーを一口飲む
「それよりもさ,あの時のアレってどうしたの?」
僕は好奇心を抑えられずに聞いてしまう
「ふァんもごふぇむふぁァ?」
正直何語かも分からない言葉が帰って来た
「あぁ…ごめん,吞み込んでから言って?」
「何の事ですかァ?」
彼は淡々とイチゴをパクパクと食べる
もっと美味しそうに食べたら良いのに…
「何の事って,アレの事だよ。スーツケースに入れて持ち帰ってたでしょ?」
僕は机を人差し指で叩きながら言う
「あァ…アレですカ?オブラートに包めば切断してる最中ですョ。」
「全くもってオブラートには包んでないね…。そんな事しなくてもいいのに。」
「オレだって捕まりたくないのである程度の証拠は消したいんですョ。」
彼はオレンジジュースを飲みなが言う
「そりゃ律儀にどうも。」
「アンタこそ,あの小指どうしたんですカ?」
「んー?小指は店においてるよ?」
僕はしつこくコーヒーをかき混ぜながら言うと
「ゲェェ…趣味悪…。」
彼は顔を青ざめていた
「失礼な…。僕だって残したくて残してる訳じゃ無いよ?」
「じゃあさっさと処分して下さいョ。」
「いやぁ…それはちょっとめんどくさいし…。」
「オイ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そう言えばアンタって,オレの事名前で呼ばないですよネ。」
情報屋は空になったパフェを物足りなさそうに見つめながら言う
「何?急に。」
「別にィ…,なんとなく思っただけですョ。」
「そんな事言ってもねぇ…。それにそれは君もでしょ?」
「そりャあアンタが自分の名前嫌ってるんですから…。」
「なぁんだ,それ気づいてたかぁ。」
僕は冷たい目で彼を見つめながらコーヒーを一口飲む
「気づきますョ。その名前呼ぶ度に目が笑わなくなるんですかラ…。」
彼は冷や汗のようなものを浮かばせる
「よく見てるね。怖い怖い。」
「アンタよりかはマシな方ですよ。」
短い沈黙が流れる
「たまには…,弱音吐いても良いんですよ?」
彼は何かに怯えるような悲しい目で僕に言う
「…大丈夫だよ。いつもありがとうね。」
「…えェ。」
どうして君が…そんな顔するのかな…
僕には到底理解が出来ない何かを知っているのだろうか
「…そろそろ出ようか。子供達が帰ってくる前に帰らないと,怒られちゃう。」
ま,杞憂だろうけど
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アンタはバリケードテープの外に行ってもいいんですカ?」
彼はいちごミルクのジュースを買いながら僕に問う
「んー?今日はよく質問するねぇ。」
「話せるうちに聞いておきたいだけですョ。」
「ふぅん…まぁ別に良いけど。」
「僕は一応店主だから出ても良いよ。」
僕は彼を置いてさっさと歩きながら言うと
「へェ…意外と束縛まではされてないんでㇲね。」
彼は僕の後を追うように歩き始めた
「そんな事無いよ。」
「…そうなんでㇲか?」
「うん…。監視の目はいつも付いてるし,日付が変わるまでに帰らないと……。」
僕は少し俯き,口元を抑えるが
「ふゥん,そりゃあ大変でㇲね。」
彼はくだらなさそうにいちごミルクを飲み切って言う
「ハハハ,他人事だねぇ…。ところでさ,アレ持ってる?」
「アレ,って…止めたんじゃないんですかァ?」
彼はからかうように笑った
「子供達に悪いから控えてただけ。1本貰ってもいい?」
僕はヒラヒラと彼に手を差し伸ばす
「仕方ないですねェ…。今度1箱奢ってくださいネ。」
彼はギザ歯が見えるように笑い,一本だけ取り出して僕に渡す
「はいはい,いつか奢るよ。」
僕は彼から貰った煙草に火を付け,息を吐く
「あー,本当美味しくない。苦すぎ。」
「なら吸うなよ…。」
その苦さが癖になってるんじゃん…
「ま,いっか。僕はそろそろ店に戻るね。今日はありがとう,良い息抜きになった。」
「フッ…,そりゃ良かったでㇲね。ま,折角なんで送って行きますよ。」
彼は鼻で笑って,僕を下から見るようにかがむ
「ハハハ,今日は珍しくご機嫌みたいだね。車でも盗んだ?」
僕は彼に冗談を言うと
「馬鹿ですカ?土に埋めますョ。」
冗談とは当分思えないような返事をされた
本当に,冗談が通じない人だ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま戻りました。」
不意に藍霞(あおか)ちゃんの声がして,僕は顔を上げる
「おかえり,今日は一番乗りだったね。皆は?」
僕は彼女がいる玄関まで歩いて言う
「遊びながら帰ってきています。」
彼女は淡々と告げる
子供って本当に元気だな…
「そんな事より…───」
彼女は少し嫌そうな顔をする
「──…あまり好ましくない匂いがするのですが…,気のせいでしょうか?」
彼女は本当に嫌そうな顔で鼻を抑えるような仕草をしていた
「゜エ。…ハハハ…やっぱ何か匂うかぁ…。じゃあ軽くシャワー浴びてくるね。」
「えぇ,承知しました。」
僕はそう言い,シャワールームに向かった
「……なるほど。」
---
今日は朝早くから予約が入った
加奈(かな)君と亜雄(あお)君,言わば双子組が欲しいと言う要望だ
「って事なんだけど…大丈夫かな?」
僕は念の為彼らに問う
「おう!いいぜ!」
加奈(かな)君は元気に返事をしてくれる
「僕も,加奈(かな)がいるなら…。」
当然,亜雄(あお)君も賛同してくれた
この2人は本当に仲が良い
だからこそ,2人同時に同じ親が買ってくれる事に僕は安堵した
「良かった,ありがとう。明日の朝に迎えに来てくれるらしいから,
今日は沢山遊んで良いよ。」
僕は彼らに微笑みを向ける
彼らは互いに頷いて,楽しそうに部屋に戻って行った
僕もロッキングチェアのある部屋まで戻った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
珍しく僕は本を読んでいた
素直に言えば,資料に見飽きてしまった
「おぉい,店長さーん!」
すると加奈(かな)君が廊下から声を上げた
僕は無意識に顔を上げる
加奈(かな)君と亜雄(あお)君がわざわざ僕が座るロッキングチェアまで歩いてくる
「どうしたんだい?お腹空いたの?」
僕は不思議に思い彼らに問うと,彼らは首を横に振った
「実はさ,今日肝試ししたいんだ‼」
加奈(かな)君は衝撃的な言葉で応える
その一瞬,僕はフリーズした
何て言った…え,肝試…え?
「折角最後だったらやってみたくてさ!お化けを一目見ておきたいっ!」
彼は堂々としながら言うが
「……。」
亜雄(あお)君はあまり乗り気では無いような顔を浮かべていた
確か亜雄(あお)君って加奈(かな)君と違って怖いものが苦手だったっけ…
「ど,どうしようかなぁ…。肝試しねぇ…。」
僕は頭を搔くような仕草をする
正直行きたくない
とは言え子供達だけで行かせるのは絶対に良くない
だが僕は怖いのはそれほど得意では無い
本当に行きたくない
情報屋に押し付けたいけど情報屋も怖いものは苦手
多分僕よりも苦手
どうしようか…
流石にお化け屋敷に行かせるのは無理だろう
こういうのって事故物件とかの方が喜ぶだろうから
近くに事故物件なら探せばありそうだけど探したくもない
そもそもお化け屋敷なんて空いていない
「どう?…やっぱ駄目?」
加奈(かな)君は少し悲しそうに言う
「゛あ゛ぁ…もうッ,分かった。今日の夜,肝試しに行こうか!」
僕はどうにでもなれと言う精神でとうとう告げてしまう
「いっよっしゃぁぁぁ!!!」
彼はさっきの悲しそうな顔が嘘のだったような笑顔を見せて言う
亜雄(あお)君も流石に苦笑いをしていた
「じゃ,僕らも懐中電灯とか用意してくる!ほら,行こうぜ,亜雄(あお)!」
そう彼は元気に言うと亜雄(あお)君の腕を引っ張って走って行った
…本当に行きたくない………
でももう言ってしまったんだ,行くしかないよね…
まぁ,子供達も少なくなったんだし行きたい子は何人か連れて行こうかな…
3歳組は絶対に駄目だけど
にしても…彼ら2人を除いてあと8人か…
少なくなったな…本当に…
ここまで来るのに長い年月が経った
どの子もこの店に戻って来る事は無かった
喜びたいけど,やっぱりどこか寂しい
出会いを拒んで,別れを惜しんできた人生
関係を持続させる事さえも止めた
今まで出会って来た友人とも会わないようにして
恋人であるあの子にも,何も言わずに連絡を断った
親友である彼にでさえ,隠し事はしてしまう
どうして自分はいつまでもこうなんだろうか
あの日持った夢も全て諦め
後悔してもしきれない程苦しい日々を過ごし
いつ死ぬかも分からない恐怖でいつも押しつぶされていた
駄目だ,またこんな事を考えていた
最近ずっとそうだな…
やっぱり,自分はアレに怖がっているのか
もう腹はくくっただろ
今更どうにも出来ないし,逃げるなんてもってのほか
僕達はずっと【アイツ】の手のひらで踊っているのだから
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…まぁ,そう言う事なんだけど…肝試し行きたい人他にいる?」
僕は若干苦笑いをしながら子供達に問う
「はぁい‼俺も行きたぁい‼‼」
真っ先に手を上げたのは流音(るね)君だった
まぁ…ここまでは想定内だ
なんせ流音(るね)君がこういうので行かないなんて言う事,風邪引いても行くと言うだろう
いや…いっそ隕石が降ったとしても行くと答えるとさえ思う
「流音(るね)君以外に行きたい人いる?」
僕は苦笑いは絶えぬまま問う
「私は…行かなくていいかな…。」
笑顔を浮かばせながら咲倉(さくら)ちゃんが言った
「うん,分かった。」
僕は安堵でホッと溜め息を吐く
「え~,もしかしてお前怖いのか?」
加奈(かな)君が咲倉(さくら)ちゃんをからかうように言った
いや,“からかう”よりも“煽る”の方が正しい
「は?」
咲倉(さくら)ちゃんの鋭い目が亜雄(あお)君を睨む
あぁぁ…怒らせちゃったよ…
僕は少しだけ頭を悩ませる
「では私は店に残っておきますね。」
言い合う2人を完璧にスルーして藍霞(あおか)ちゃんは告げた
「あぁ…ありがとう。じゃあ3歳組は頼んでも良いかな?」
「えぇ,分かりました。」
彼女はそう言うと緋凪(ひなぎ)君の側まで歩いて行った
「あ,僕も,僕も残るよ‼」
ダボッとした服を着た茶髪の少年,凪沙(なぎさ)君が言った
「分かった,ありがとう。氷空(そら)ちゃんと一緒にお留守番,よろしくね。」
僕は彼の頭を軽く撫でて言う
彼はかなり嬉しそうに頷いて彼女の近くまで走って行った
…恋かぁ…青春だな…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局肝試しに向かうメンバーは
加奈(かな)君と亜雄(あお)君,流音(るね)君に,咲倉(さくら)ちゃんの4人だ
いや,僕を合わせて5人
さっさと行って,さっさと帰ろう…
ちなみに肝試しに向かう場所は近くの廃校
僕が昔通っていた小学校だ
そこで起きた事故,または事件は一件たりとも無い
…いや少しはあった
通学中の低学年の兄弟と中学生1人が車にはねられ死亡
プールの時間に先生の不注意により低学年の子供が溺死
屋上に行った高学年の子供2人が足を滑らせ墜落死
下校中の低学年の女児が誘拐され行方不明
思い返してみれば意外と思い当たるものが多い
ここら辺は治安が良い訳でも無いから当然ではあるけど…
お陰様で子供達が学校に向かう時はいつもハラハラとさせている
にしても肝試しか…
肝試しなんていつぶりだろうか…
…そもそも肝試しに行った記憶が無い
僕ももう歳か…?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
例の廃校に僕達はいた
当然,勝手に入れないので門の前に来ただけだが
「うわぁ…スゲェ…!めっちゃ雰囲気出てる!」
流音(るね)君ははしゃぐように言った
ここは普通,怖がる所なんだけどなぁ…
「……。」
咲倉(さくら)ちゃんに関しては廃校に興味を示さずに星を見ていた
せめて少しは廃校を見てほしいなぁ…
「なぁなぁ,見てみて‼あそこ!お化けいる‼」
加奈(かな)君は凄く楽しそうに指を指しながら言った
お化けってそんなテンションで言うもんじゃないんだけどなぁ…
「はぁ⁉お化けじゃない──」
亜雄(あお)君が言葉を止める
僕は不思議に思い,加奈(かな)君が指差す方を見る
そこにいたのは
窓に映る白い服を着た小さな子供のようなものだった
僕はみるみると青ざめていく
「は?」
肌寒さと同時に恐怖を感じた
「皆…,走って帰るよっ‼‼‼」
僕はそう皆に告げ,無理やり皆を走らせた
当然僕も,全力ダッシュで
皆も言われるがまま走るが亜雄(あお)君を除いた
3人は心底何もなさそうに走っていた
この3人の感性どうなってるんだよ……
「あ,アソコの家花咲いてる‼」
流音(るね)君がめっっちゃ嬉しそうに言っていた
今それどころじゃないでしょうがっ‼‼
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は息を切らせて店に入る
加奈(かな)君達はどうって事無いようにしていた
子供って凄い…
店の中では子供達が楽しそうにトランプをしていた
この空気感に安心する
さっきあった事が,まるで噓みたいに
僕は念の為振り返り全員いるか確認する
しっかりと6人いた
「お疲れ様です,皇(すめらぎ)店長。」
藍霞(あおか)ちゃんはトランプを後にして駆け寄ってくれる
「主さん,大丈夫?疲れてるみたいだけど…。」
凪沙(なぎさ)君もわざわざ来てくれる
見たところ氷空(そら)ちゃんの姿が無いから多分先に寝たんだろう
「あぁ…大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
「なぁなぁお前ら聞いてくれよ‼僕見たんだ!お化け見れた‼」
加奈(かな)君がはしゃぐように言った
「へぇ…そう。興味無い。」
胡桃(くるみ)ちゃんは素直にそう言うと,部屋に戻って行った
「んだよアイツゥ…。」
加奈(かな)君は少し頬を膨らまし,怒ったように言う
「ねぇ…すめらぎてんちょう。」
緋凪(ひなぎ)君が指を指す
僕に向けてでは無く,僕の隣…誰もいない所に向けて
「その子…だぁれ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は勢い良く起き上がる
頬を伝う汗が,妙にひんやりと感じた
時間は…深夜の3時過ぎ
さっきのは…夢…?
なんだ…良かった…
にしても嫌な夢見たな…
もう二度と見たくない
…夢?あれ…何の夢だったっけ…?
さっきまで覚えていたのに,もう思い出せない
まぁきっと大した事無い夢だったのだろう
そんな事より,明日はとうとう加奈(かな)君と亜雄(あお)君が送れるんだ
長いようで…うん…,長かったな…
明日の8時には迎えに来るって言っていた
時間もそれ程早くないし,多分大丈夫だろう…
もう寝よう…今日は疲れた…
僕は目を閉じる
あまり深く考えすぎては駄目だ
冷たい何かが首筋に触れている事も,きっと気のせいだろう
---
「じゃ,バイバーーイ‼」
加奈(かな)君は大きく手を振る
「お世話になりました。」
亜雄(あお)君は頭を下げる
全く性格が似てない2人
でもこれからも支え合って生きてくれますように
「気を付けてね。加奈(かな)君,亜雄(あお)君。」
僕は小さく手を振り,彼らが新しい親と歩いて行く姿をしばらく眺めていた
どんどんと小さくなっていく
あの2人も母親だけの家庭になる
父親はいないとだけ聞いているが,離婚では無さそうだった
事故か…はたまた病気か…
何にせよ,もう赤の他人には違いない
僕はいつも通り,店内に戻った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は例のロッキングチェアに座り,新しく入手した資料を見ていた
なかなか…面白い
やっぱりあの情報屋は,面倒くさい事が好きだなぁ…
まさか資料を暗号にして送って来るとは
僕はスパイでもマフィアでも何でも無いんだけどねぇ…
ちなみに今日から子供達の学校は長期間の休みに入るらしい
僕もしばらく店を休む事にした
最近,電話の予約の方が増えたし,あまり不便と言う事は無いだろう
それに子供がいる時にあの日みたいな迷惑な客が来たら面倒だし
これ以上は流石に手を染めたくない
僕が暗号を頑張って解こうとしていると,胡桃(くるみ)ちゃんが奥の部屋からやって来た
どうしたのかと思っていると,彼女は僕の膝の上に座った
…ヱ?いや…そこに座るの…⁉
「えへへへへ…。」
頬が緩みながら可愛らしく僕にじゃれてくる
その時僕は瞬時に理解した
多分胡桃(くるみ)ちゃんの定期的に…いや,稀に表れる甘えたさんモード
いつもは目を合わせてくれないが,この時だけ上目遣いで見てくる
年相応な可愛らしさだが,ギャップの恐ろしさによって何人犠牲になったか…
だが,最も恐ろしいのは甘えたさんモードが終わればケロッといつも通りになる所
一度二重人格を疑って病院に連れて行った事もあった
精神科にも一応連れて行った事もある
「きゅ,急にどうしたの?」
僕は平常心を装うように言う
「…え?今は,甘えたい気分なの。」
彼女は可愛らしくそう言うと僕の右手を優しく包む
一体僕はこの時何を思うのが正解なのだろうか…
僕は少し頭を悩ませていた
傍から見れば,この絵面って僕が未成年に手を出すヤバい奴みたいに
なってる気がするんだけど…
少なくとも僕はロリコンでは無い
もしもロリコンだったら絶対にこの仕事に向いてない
それにしても…どうしようか…
僕は今すぐにこの暗号を解かなければいけない
その時,受話器が店内にうるさく響いた
「失礼。」
僕は手を伸ばして受話器を手に取る
情報屋…いや,客だろうか
「…はい,あぁ…いますが…。え…はい…!了解しました。では後日。」
客から予約が入った
「えっと…,おめでとう!胡桃(くるみ)ちゃん!」
「へ?」
彼女はキョトンとした顔をする
「今,君が欲しいって言う注文が来たんだ。明日迎えに来てくれるって。」
「…そう。」
彼女は少し悲しそうな顔をし,俯いてしまう
突然の事だったから,驚かせてしまったかな…
僕も流石にびっくりだ…
「ねぇ…,皇さん。」
「ん?」
「胡桃(くるみ),お願いがあるの!」
「え?」
待って,あんまり聞きたくない言葉が聞こえた
「お出かけしたいんだけど……ダメ?」
彼女はうるうるとした上目遣いで僕を見つめる
…最近出かける事…多い気がするな…
「はぁ…分かったよ。今から少し出かけよう。
胡桃(くるみ)ちゃんは皆に出かけるって伝えてきてね。」
僕は椅子から立ち,帽子を手に取った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕達は人気のない公園で休んでいた
子供達は当然,いつも通りはしゃぎにはしゃいでいた
まだもう少し歩くから疲れすぎないで欲しいけど…
その時,藍霞(あおか)ちゃんが隣に座った
「どうしたの?」
僕は思わず問う
「いえ,少し疲れたので私も休憩をと…。」
彼女らしい答えが返ってくる
「そっか。」
最近,彼女はよく隣に来てくれる
信頼されているのか…
ううん,違う…信頼よりも何かを探っているように僕は見える
……流石に杞憂だろうか…?
「皇(すめらぎ)店長…この間の知り合い,と言っていた方とはどういう関係なんですか?」
彼女は少しもどかしそうに問う
「…。そうだねぇ…,一つ上の先輩ってだけかな。」
僕は曖昧に答える
「そうなんですね…。そう言えば皇(すめらぎ)店長がこの──」
「それで?君は何が聞きたいの?」
僕は彼女を横目で見つめながら自分の足を組み頬杖をつく
彼女は一瞬珍しく驚いたような仕草をしていた
しかしすぐに見慣れない微笑みを見せてくる
「分かりました。では単刀直入に聞かせて頂きます。」
彼女はいつも通りの澄ましたような顔に戻る
「【アイツ】,とは何ですか?」
その言葉が耳に入った途端,僕は目を見開いて彼女を直視してしまう
「…どこで…それを……?」
◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊◊
「…どこで…それを……?」
皇(すめらぎ)店長は明らかに動揺したように言う
「少し,皇(すめらぎ)店長の部屋を拝見させて頂きました。」
私は淡々とした態度で告げる
数日前,彼がシャワーに浴びてくると言った時
私はすぐに彼の部屋に行き,とあるものを探しに行った
幸い鍵はかかっておらず楽々と入る事が出来た
私が知りたかったのはたった1つだけ
彼,皇(すめらぎ)店長についてだった
彼は私達に素性を明らかにしていない
その上時折何を考えているか分からないような表情をしている
彼が何のために私達を引き取ってくれているのか,私には分からない
それに意味があるようには何故か思えなかった
彼の部屋は少し散らかっていたが,今から数日程は使われた形跡が無かった
壁についてある,金属でひっかいたような跡
ベット付近では黒くて…少し赤いような,まるで血のようなシミも見つけた
今では彼の部屋,言わば書斎として使われているが
昔は別の目的で使用されていたのではないか…?
彼の資料が散らばった机を1枚ずつ目を通す
その資料は私達からすると里親となる人達の素性について書かれてあったり,
時折意味の分からない単語が並べてあったりしていた
その時にそれを見つけた
少し年季が入った学生が使うようなノートを引き出しの奥から見つけた
好奇心で開けてみるとそのノートはメモ帳のようなものだった
最初のページだけ
次のページから日記のようなものに豹変していた
その日のページはおよそ7年前のもの
7年前とだけあって,少し幼さを感じられた
──・──・──・──・──・──・──・──
〇月×日
親が死んだ。
国道で交通事故が起きたらしい。
親父は即死,母親は瀕死状態で病院で手術を受けている。
ざまぁみろ。
俺は解放された。あの地獄から。
変な奴が家に入ってきた。
ソイツはいきなり俺の腹を蹴った。
ソイツによると俺がこの店を継がなかればいけないらしい。
俺はそれを断ったら、また蹴られた。
YES以外の選択は無かった。
俺はYESと答えた。
ソイツは紙切れを置いて、帰って行った。
今日から俺はこの店の店主になった。
めんどくさい。
学校はどうしよう。
まだ中学生になって間もないのにどうしたらいいんだ。
明日、先輩に聞いてみる
──・──・──・──・──・──・──・──
1ページ目はそれだけが書いてあった
時間が惜しいため1ページ以降は今度読む事にした
…要するに店主は12歳からこの仕事に就いたという事
流石に無理があるとは思っている
そもそもソイツって誰の事だろう…
私はソイツの事を知るために散らばった資料を目に通す
それらしいものが1枚だけ見つけた
そこには【アイツ】と言う名前で記述されてある
結局有力な情報は得れず,私は彼の日記だけを持ち出した
そして,現在に至る
皇(すめらぎ)店長は少し頭を抱えるような仕草をしていた
次第に彼は私とは違う,暗い藍色の目で私を睨む
「そっか。見たんだね。ハハ,そうか。」
彼は微笑むが当然,目は笑ってなんていなかった
「フフ,仕方が無い子だね…君は。ほら,気になるなら耳を貸して。」
私が彼にズイっと近づくと,彼は私にそっと耳打ちをした
冷たい風が私達の間を通る
「さぁてと…。皆,そろそろ進もっか!」
彼は,元気に遊ぶ子供達に声をかける
子供達はいつも通り元気に皇(すめらぎ)店長の周りまで走って行く
こんな情報を得るくらいなら,聞かなければ良かった…
今更そんな事思ったって,どうしようもないけれど
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
都内にあるトウキョウスカイツリーに僕達はいた
夕陽が沈んでいく様子に僕達は感動していた
否,一人だけそれどころではなかった
「ハッ…ハッ……!あぁ…!やだ。いやだ。
誰も私のそばから離れないで…‼‼‼」
胡桃(くるみ)ちゃんは酷くパニックになっていた
悪気が全く無かった訳では無いような気も無いけどもそれも無い
まぁ流石に冗談だけど…
万が一の時のために克服してもらおうと思っていたがこの様子だと無理そうだ
彼女は涙目で怒りをぶつけるように僕を揺さぶる
待って,ちょ,吐きそう
とりあえずやむを得ず彼女を中央に連れていく
これでしばらくは安心だろう
…が,そんなに上手くいくわけが無く
彼女は倒れた
疲労と安心,あと恐怖によって
流石にトラウマ克服としてはハードルが高すぎたか…
僕は彼女を担いでスマホを取り出し彼に電話する
「あぁ…情報屋?ちょっとスカイツリーまで迎えに来てくれない?」
『はァ⁉』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっぱりこういう時に君は頼れるね…。」
僕は情報屋の車内でくつろぎながら言う
「オレの車はタクシーじゃないんですけどネ。」
彼は冷たく返す
その時氷空(そら)ちゃんが情報屋の髪を引っ張った
「いてててて,ちょ,おいクソガキ,引っ張んなってッ!」
「ハハハ,知ってた?子供にそんな汚い言葉使ったいけないんだよ?」
僕はイライラしている彼に笑いながら言うと,
「アンタだけ置いていきますョ?」
鋭い睨みをきかせて彼は辛辣な言葉を告げる
あぁ…でも子供達はちゃんと送ってくれるんだ…
「ねぇ,おじさん。その飲み物何?」
胡桃(くるみ)ちゃんはさっきの事は噓だったみたいに平坦と問う
「誰がおじさんだ。これァ,ただのミルクティーでㇲよ。」
彼は見せつけるようにミルクティーの缶を持つ
「糖尿病になるよ?」
胡桃(くるみ)ちゃんはわざわざ彼に忠告する
僕は彼の話にはそれ程興味無く車窓から顔を覗かせる
わぁ…涼しいー
「大丈夫ですョ。ミルクティーは牛乳使ってるんで糖分ゼロ。」
意味の分からない理論で返してる
いやマジで何言ってんだこいつ
「へぇ,そうなんだぁ!面白れぇ話知ってんだな!おっさん!」
明空(あくあ)君が後ろの席から勢いよく顔を覗かせて言う
変な事教えないで欲しいかな…
「誰がおっさんだ。あとあぶねェからシートベルトしてくれまセん?」
しばらく経てば,当然子供達は疲れたのか熟睡していた
そんなに寝たら…夜寝れなくなるんじゃないかなぁ…
僕は運転席に目を向けると
彼は少し浮かない顔をしていた
「どうしたの?」
僕は少し心配になり,彼に尋ねると
「…いィえ,ただ少し時間が止まったらなって思っただけですヨ。」
何急に…?気色悪いな…
僕は彼の言った事に少し不思議に思いながらも気にしないようにした
でも,彼の言葉は何か嫌な事でも,暗示するようにも思えた
彼の車は一台も走っていない道路を駆け抜けるように走って行った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も疲れた
そう思いながらも僕はキッチンに立ち,夕食の準備を始める
夕食何にしようか…
そう思いながらフライパンにオリーブオイルを加える
「皇さん。今日のご飯はなに?」
胡桃(くるみ)ちゃんが奥の部屋からわざわざこちらに向かってくる
「んー…そうだねぇ…。ボンゴレビアンコとかどうかな?」
「ふーん,まぁ,頑張って。」
彼女はそう返事をするとソファに座ってテレビを見始めた
僕の渾身のボケが拾われなかった…
普通そこは何それ,とか言ってほしかったんだけど…
まぁいい…言ってしまったからには,ボンゴレビアンコ…作ってやるさ…!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕食後,彼らは部屋に戻りあっという間にリビングは静かになった
最近外に行く事が多くなったからか…
少しだけ子供達同士の中が良くなった気がする
叶うのならば,彼らも一緒に連れて行きたかった
だが当然過去にはもう戻れない
外に出たくないと言う私情さえ挟まなければ良かっただけなんだ
元をたどれば結局僕が悪い
ずっと,…全部僕が悪い
【アイツ】の事,隠さない方が良かったのかな…?
何が正解だったかなんて,分からない…
僕はこうするしか無い
もう今更正解なんて言葉…僕の前には無いんだ
僕の一番最悪の間違いなんて,たった1つしかない…
【アイツ】を言わなかった事でも,店主になった事でも無い
この家に生まれてきた事,それが僕の最初の間違いだ
---
すっとばしました、ごめす
---
緋凪(ひなぎ)君と藍霞(あおか)ちゃんは
よそ行きの服を着て,ワイワイと何かを書いているようだった
何をしているのかは答えてくれなかったけど…
僕は時計を見る
時計の針は,14時半を指していた
そろそろ迎えが来る時間だ
「さ,2人共,行く準備は出来た?」
「!もうそんな時間ですか…!」
藍霞(あおか)ちゃんは驚いたように言う
僕は小さく頷いた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もうこれが最期になるかもしれないね…」
僕は先行く2人を見ながら言葉が落ちてしまう
「いえ,いつかまた会いに行くので,最後では無いですよ。」
藍霞(あおか)ちゃんは綺麗な瞳で僕を見る
「ハハハ…,僕の事は大丈夫だよ。自分の人生なんだから好きに使ってね?」
僕はいつもみたいに2人の頭を撫でる
自分の人生を好きに使え…か…
…少なくとも僕が言えた言葉では無いね
緋凪(ひなぎ)君はきょとんとした顔で僕を見上げていた
「すめやぎてんちょう,これ,ぼくたちからの,プレゼント!」
緋凪(ひなぎ)君は綺麗な白色をした手紙を僕に渡す
「…ささやかですが,大切にして下さると嬉しいです。」
藍霞(あおか)ちゃんは苦笑いをしたが
「……!!…え,…あ…うん…。」
僕は震える声で言う
その時車がバリケードテープの丁度奥で止まる
来てくれたか
「もう来ちゃいましたか…。」
彼女は少し悲しそうに言ってくれる
僕は彼女達に向けて背中を押した
「いってらっしゃい。」
「…ありがとうございました,皇店長。」
藍霞(あおか)ちゃんは律儀に頭を下げる
「バイバイ!すめやぎてんちょう!」
対して緋凪君はブンブンと大きく手を振った
「…ありがとう。」
僕も小さく手を振った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これで全員送る事が出来たのか…
僕は安心と同時に寂しさに押しつぶされた
灰色混じりのため息が不意にこぼれる
僕は店に戻り,いつものロッキングチェアに腰を掛ける
店には僕以外誰一人として残っていない
あの日の騒がしさは嘘みたいに静かだった
薄暗い店の中に
追い打ちをかけるかのように雨が降る
僕は彼等から貰った手紙を並べた
これが僕の有一の宝物
何よりも大切で素敵な僕の宝物
でももう何もかも終わったんだ
この宝物が増える事はもうきっと無い
僕は声にもならない声で笑った
子供達を売った金は全部彼らの親に返した
遅くても明日には銀行に届いているだろう
その金で子供達を幸せにしてほしかった
僕はもう駄目な奴だから,こんな事しか出来ない
もうそれ以外に,何も考えていなかった
僕は出来損ないなんかじゃなかった
彼らには,僕が贈れるできる限りの幸せを全部贈れただろうか
彼らは,笑顔で生活を送ってくれるだろうか
もう…いいかな…?
疲れた
でも楽しかった
少し悲しいけど
終わっちゃったんだ
僕はもうやる事を全てこなした
いつからか,子供達がいる生活に依存していた
子供達との思い出はきっと忘れられないもの
子供達も僕の事を忘れないでいてくれるだろうか
でもそれは叶わない事だろう
きっと彼等の親がもっと楽しくて幸せな思い出を作ってくれるだろうから
いや,そうでなくてはいけない
色んな出会いがあった
色んな別れもあった
もう僕に悔いは無いよ
時計の秒針が部屋に鳴り響く
もう少しで14時49分になる
14時49分にわざわざ僕はスマホのタイマーを設定していた
僕は19年前の今日,この時間に生まれた
だから僕はもうすぐで20歳になる
素敵なプレゼントを皆から受け取ったな…
僕は喜ばしさと同時に彼等の未来へ期待を持っていた
将来,皆は何になるだろうか
楽しみで仕方がない
スマホのベルが丁度鳴り響いたその時
タイミング悪くカランカランと言う音を立て店の扉が開いた
扉を閉め忘れていた,きっと客だろう
そう思い僕は扉の方に目を向けながら言う
「えぇっと…申し訳ございませんが残念ながら今日を限ってこの店は───」
だが僕はそれを言い終わる前に言葉を止める
目の前にいたのは【アイツ】だったから
『お⊃ヵヽれ±ま,ヵヽナょ`⊂』
【アイツ】は気味の悪い笑顔で言った
僕は驚きを隠せずに目を丸くしてしまう
一瞬で息が上手く吸えなくなる
皆が売り切れた以上僕だけが売れ残ったんだ
1日たりともそれを忘れた事は無かった
でも認めたくなかった
僕の両親が僕をここに売ったという事を
たまたま両親が亡くなったから埋め合わせで僕を使っていただけ
だからもう僕は…
【アイツ】は僕に近づく
僕は足がすくんだのか動けなかった
それでも無理に動こうとしてロッキングチェアから落ちる
怯える僕を嘲笑うように【アイツ】はみるみる近づいた
【アイツ】の手から鋭い刃がギラリと光った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
血だらけの床
貧血でだろうか,頭が回らない
右手の小指は落とされた
左腕に関しては感覚すら無かった
右目はもう何も見えない
耳でさえ使い物にならなかった
体中がとにかく痛かった
まだ足りぬと言うように血がドクドクと流れ出る
何故今僕に意識があるのかが不思議に思うぐらいだった
動けない
【アイツ】の手が僕の腕を引っ張る
【アイツ】は何か言っていたが何も聞こえない
僕は視線を感じて,後ろを振り向く
当然,そこには何も無かったが,不意に僕は微笑む
・・
「あとはもう…彼らが君達の未来を描いてくれるよ──」
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シンッとした店内
オレは嫌な予感を感じ,店内に入る
その静けさが夜だからと言う理由だけではないと思った
「……おォい,いるのか?」
周囲を見渡すが当然のように返事は返ってこない
ロッキングチェアのある部屋の扉を開ける
その光景は残虐なものだった
雨の匂いと混ざった血生臭い匂いが部屋を覆い,
いつもの資料は血に浸っていて真っ赤に染まっていた
ロッキングチェアも大量の血が大胆にかかっている
あの日のホルマリン漬けにされた小指が入った瓶も割れていた
だが,アンタの姿は無かった
どこにも無かった
元々いなかったように,いなかった
あったのは薄い灰色をした一通の手紙だけ
それを手に取り,中を見る
アンタの字でオレの名前が書かれていた
オレはそれを読み切った後
腰から泣き崩れ,ただただ泣き叫んだ
次から次へと涙がこぼれて自分で止める事も出来なかった
手紙をくしゃくしゃにして,子供みたいに泣いた
・・ ・・
まただ…また救えなかった
アンタはオレの一番大切な親友だった
年下の癖に生意気でお節介で
どれだけオレが皮肉を言っても,オレを見捨てずに隣にいてくれた
でもオレはアンタを守れなかった
親にも捨てられ
【アイツ】には代わりとして買われ
オレには心配されまいと笑顔を見せて
その上でガキ共を大切にし続けたアンタは
一体誰に大切にされるんだ
あの日俺が止めていれば
あの日俺が助けてやれば
あの日俺がいてやれば
何か未来は変わっていたのかもしれない
アンタの真っ暗な未来に光が差し伸べていたかもしれない
何度やってもずっと変わらない運命
何度繰り返しても悲しみと後悔は募るばかり
でも次こそは──────
──もう一度,オレは繰り返す
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
==登場人物==
・皇 奏斗
・子供達
・【僕】
・彼ら
・荏原 迅
==警告==
・この作品はフィクションです
実際の人物・団体・事件とは関係ありません
・盗作はご遠慮ください
==その他==
一部、著作権者への配慮から現時点での記載を差し控えております。
その他に書いてあるの、一応説明しとこっか?
あそこ、元々キャラの寄稿者様の名前の一覧だったんだけど、
今じゃもう関係ないからああいう風に書いてるだけ
なんか違法とかじゃないから安心してちょ
これさ、なんとなぁく思ったろうけどね?
すっげぇキャラ被りしちょるよねぇ笑
関西弁が二人て、暗めの子が…もう何人だか分かんねぇや、明るい子もしらね((
同じキャラが何人もいんのかよ
シンプルに読みづらくてごめんね笑
てか、よくここまで読んだな…スゲェ…()
感想なくてもいいから読んだ報告だけでもちょーだい笑
拝啓、掃除屋のお兄さん。
過度な表現はしていないつもり。
本来ならR18のものをめっちゃマシにした。
マジで本来の描写入れてたら確実にR18だった。
読みやすくはなったけど、普通に人死んでるから注意((
「ええ、…なるほど、分かりました。すぐに向かいます。」
私が通話を切ると同時に、汽車はトンネルに入り、周囲が急に暗くなる。
古ぼけた汽車は、私を乗せてガタゴトと揺れる。
小さな箱は、ただ一つの目的地に向かって走っていた。
いい加減に置かれていた新聞紙を広がせると、
[謎の連続失踪事件、またもや発生か]
という大きな見出しが目に付く。
くだらない。
近頃同じ話題ばかりだ。どうにかならないのだろうか…。
「おやまぁ、見ない顔ねぇ。」
ふと声がし、私が振り向くと、そこには腰の曲がった60代辺りの貴婦人がいた。
「立っていては危ないですよ。前の席でよろしければどうぞ、レディ。」
「あら、あたしみたいなババァにレディなんて嬉しいわぁ。」
「滅相も無い。お綺麗なんですから、そんなご謙遜ならずに…。」
「もう…、お世辞が上手ねぇ…!」
彼女はどっこいしょと言う声と共に私の前の席に座った。
「その事件、最近有名よねぇ…。」
彼女は私が読む新聞紙を指差す。
「あぁ…、ご存知ですか。」
「当たり前よぉ。今じゃ、どこもその話で持ち切りなんだからぁ。」
「………そうですね。」
「そんな事より、あなたどこの貴族様なのぉ?」
「貴族なんてとんでもない。ただの平民ですよ。」
貴婦人の質問に、私は苦笑すると、
「あら…、そうなの?それはごめんなさいねぇ。
それにしても、あなたみたいな良い男、もっと早くに出会いたかったわぁ。」
彼女はため息交じりにそんな事を言った。
「ご冗談を。」
「冗談な訳ないわよぉ‼あなたみたいに綺麗のお顔で、
身なりのきっちりした人なんて、あたし見た事ないわぁ…‼」
「ハハハ、それは光栄です。
…ところで、少し聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
私が問うと、彼女は海老のような真っ赤な顔を見せて
「もちろんよぉ‼ここら辺の事は、あたしが一番知ってるのよぉ‼」
「それは頼もしい。では、この人ご存知でしょうか?」
一枚の写真を取り出すと、彼女は眼鏡をかけて眉間にしわを寄せる。
「んー?初めて見たわねぇ…。それ、本当にこの辺の人?」
「そう聞いたのですが…、残念です。もうここにはいないのでしょうか…。」
「ごめんなさいねぇ、力になれなくて…。」
「いえ、構いませんよ。…もし次でお降りになるのなら、
もう席を外した方が良いですよ。」
「あら、もうそんな時間?残念ねぇ…、そうだ、もし良かったら今からお茶でも」
「すみません、これから少し急用がございまして…。」
「あらら…、これまた残念…。」
私は帽子を取り、頭を下げるが、
彼女は少し不服そうな顔をするだけで、席を立った。
次第に汽車は止まり、貴婦人は振り返りもせず降りて行った。
私はもう一度頭を下げようと思ったが、馬鹿らしく感じ新聞に目を戻す。
そして汽車は蛇がのたくるようなスピードで、風を切って進んだ。
ふと、窓を見ようとしたが、すぐにやめた。
きっと、綺麗でもない景色しか広がっていないと、そう思ったから。
勝手に想像して、勝手に諦めて、失礼な奴だなとしみじみ思う。
私は揺れの音とリズムの中で静かに目を閉じて、ふと考える。
もしも私があの時、「実はこの事件の犯人、私なんです。」なんて言ったら、
あの貴婦人はどんな反応をしていただろうか。
…いや、老いた婆の顔なんて、そんなもの乾いた海藻でしかないか。
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そこは、しんとしたスラム街だった。
死人のように動かない人間の周りを、|蝿《はえ》がたかる。
小枝のように細い腕に、やせ細ってしまった子供が倒れている。
まだ|臍《へそ》の緒がついている赤ん坊がゴミ箱の中にいた。
どれが生きてて、どれが死んでるなんて、見分けがつかない。
しかし、これはきっと、よくあること。
私は、死に物狂いで私に縋る人々に何の感情も抱かずに、前へ前へと進んだ。
ふと、つい目を奪われ、立ち止まってしまう。
必死に逃げ場を求める動物のような目をした一人の少女。
小鳥のようにぶるぶると震えている少女が、こちらを見つめていた。
一目見て、少女は捨てられたことが理解できた。
彼女の透き通るばかりに真っ白な頭髪が、それを示していた。
きっとアルビノとして生まれて、気味悪がられてしまったのだろう。
しかし、ボロボロだがテディベアを大切そうに持っているということは、
この子の親も止む負えなく捨てたという事だろうか。
私は同情心を抱き、彼女の頭を撫でてやろうと手を伸ばす。
すると、彼女はぎゅっと紅い瞳を閉じて、先程よりももっと小刻みに震えていた。
可哀想に。ここに住む人々は、きっと愛情も知らずに育ったのだろう。
私がどうにかできるような話じゃないが…、あまりに酷い。
私はただ怯える少女の頭を撫でていると、彼女は一瞬驚いたような顔を見せたが、
すぐに穏やかそうな顔に戻った。
都市部ばかりが発展し、こういうところで苦しむ人々には目を向けられない。
嫌な世界だ。どいつもこいつも自分が大切で仕方がない。
自分の地位のために必死なのだろう。
結局、また私は諦めて、手を戻す。
私は少女の目を見て問う。
「君、名前は?」
「な、…なま、え…?」
彼女の声でさえ、頼りなく震えていた。
「ああ、名前。私だとジャン・アルベルト・グラヴェロット…みたいな。」
私は淡々と自身の名を告げると、彼女は一層戸惑うように
「ジャン…、アル……。」
名前を覚える…いや、復唱することも諦めたか…。
「では、君はどう呼ばれていたか、覚えているかい?」
質問を変えて問うと、少女は俯いてしまった。
質問が悪かったか……。申し訳ないことをしてしまった。
それにしても自身の名前を覚えていないとなると、不便だろう…。
「そうだな…、じゃあ『クロエ』はどうだい?君の名前はクロエ。」
「クロエ…?…じぶんの、名前?」
「あぁ、嫌ならもう少し考えるが…。」
「…じぶん、名前、カトリーヌ。」
覚えてたんだ…。思わず頭を抱えて苦笑してしまう。
まぁ名前なんて別に__
「じゃあカトリー」
「でもでも、!じぶん、クロエが良い…!」
彼女は必死そうにテディベアを強く握る。
さっきの震えが嘘だったかのような、瞳に溢れた抑えがたい喜びと笑顔を見せて。
……そうか、この子からしたら、名前は大切なものなのだろう。
「そっか、うん、分かった。ではクロエさん、お願いしても良いかい?」
「おねがい…?」
「あぁ。この辺で、一番偉い人の所まで連れていってほしいんだ。」
「えらいひと…いいよ、じぶん知ってる…!」
私がそうお願いすると、彼女は快い返事をし、私の袖を引っ張ってくれた。
それにしても…、本当にここは異様な空気だ。
当たり前のように死臭が漂っている。
|蠅《はえ》がたかるのも、少し納得がいく。
しかし、逃げたくなるようなこの臭い、私からしたら少し助かるな。
スラム街だったことも丁度良い。
ここなら警察もろくに取り合わない。
なぜなら、人が死ぬのは当然のこととなってるから。
今回は楽な仕事になるか…。
私は少女の後をただついていると、彼女はふと立ち止まる。
ここか…。
外の造りはちゃんとしている訳じゃないが、暖を取るぐらいは出来るだろう小屋。
最も、住みたいとは思わないが。
私は少女に、自分が身に着けていたマフラーをかけてあげる。
「寒いだろう?お礼と思って受け取ってくれ。
君はもう戻ってくれていいよ。ありがとう。」
少女の頭をポンと撫で、私は小さな小屋の中に入った。
---
小屋の中は、中年の貴人が、今朝私が読んでいた新聞紙と全く同じものを広げて、
古ぼけた椅子に腰掛けていた。
「なんだぁ、アンタァ?何の用だぁ?」
彼は私の顔も見ずに、煙ったい煙草を吸う。
「ご依頼を頂いた、掃除屋と言う者です。」
「掃除屋ぁ?頼んだ覚えねぇぞ、そんなもん。」
「おや、そうですか?しかし私は確かに受け取ったのですが…。」
「さっさと帰んなぁ。俺はアンタに用はねぇよぉ。」
私が話している途中にも関わらず、彼は煙草の煙を吐き背中を向けた。
自覚どころか、礼儀もなっていない…、ということか。
呆れるほかない。この辺の大人は、全員そうなのだろうか…。
いや、私は全員と関わった訳じゃない。そう決めつけるのはよそう。
私はどうしようもなくため息を吐き、そこの机に置いてあったナイフで彼を刺す。
人を刺し殺す感覚が、自分の腕に伝わる。
今やもう慣れてしまった。今更何かを思うこともない。
何度も何度も刺していると、最初は呻き声を上げていた彼も次第に動かなくなった。
「ゴミの駆除は完了か…。あとは…、」
私は独り言を呟き、自分が持っていた鞄の中に入っているナイフを取り出す。
それはさっきのナイフとは違い、よく彼の身に入った。
その魂の入れ物を6つに分け、別の黒い鞄に入れる。
私は慣れた手つきで、淡々と血が染み付いてしまった豚小屋を掃除した。
どれぐらい経っただろうか。やっと納得がいく程綺麗になった。
匂いはともあれ、中は来た時と全く一緒だ。
さて、もう帰ろう。いつまでもここに居座っていたら、頭がどうかしそうだ。
私が振り返ると、そこには先程の少女がいた。
まさかの出来事に開いた口が塞がらない。
はぁ…、この感じだと、ずっとそこにいたと考えるのが普通だろう。
何かが入ってきた気配なんてものは無かったのだから。
仕方がない…。見られた以上、ここで仕留める他ない。
それが賢明な判断と言えるだろう。
いや、最期に少し話してやろう。ふと、そんな情が湧き、私は口を開く。
「どうして君は」
「クロエ…。」
「…失礼。クロエさんはどうして、戻らなかったんだい?
私は確か、戻れと言ったはずだが…。」
意味が分からなかっただろうか…。いやそんなはずはない。
何せ、言葉が話せて、服もさほど汚れていない上に、
この少女は10歳前後だと考えると、この意味も理解出来るはずなんだが…。
「…わた、わたし戻るとこ、持ってない…。」
少女のその言葉に、私ははっとする。
その時、どこかで行き場のない怒りが込み上げてきた。
「そうか…。」
それ以外の言葉が出なかった。
拳を固く握り締めて指の肉に爪を立てる。
怒りで震える拳を止める事はできなかった。
私にはどうしようもない、とどこかでいつものように諦めようと思っていた。
どうせ、意味なんてないのだと言い聞かせようと思っていた。
だがそれと同じぐらいどこかで、変わりたいと思っていたのだろうか。
まさか…、8年も経ってから気づくとは…。
私も未熟なままだったな。
「ではクロエさん、…私の所へ戻りませんか?」
ただ何も考えず、そんな重要なことを軽々しく言う。
自らが言ったことの重さに気付き、サーっと血の気が引いていく。
何を言っているんだ、私は。
我ながら浅はかな考えに不快感が伴う。
だが少女は、暗かった心の中に一筋の光が差したように、
「いいのっ、?」
最初に出会った時からは想像もつかないほど、輝かしい顔を見せた。
嬉しすぎて喜びを隠せないようだ。
私もそんな彼女に驚くも、言葉を取り消すことはできない。
ただどうしようもなく微笑んだ。
ふと、先程よりも寒くなった気がして、私は小屋の戸を開ける。
空が抜けるような青い空だが、見事な雪がふわりと舞う。綺麗だ。
寒いが美しい、冷たいがどこか暖かい。
まるで今の私の気持ちをそのまま表しているようだった。
「では行こうか。これからよろしく頼むよ、クロエさん。」
「うん、おにいさん…!わたしも、よろしくね!」
Does Not Continue......((
※続かない……((
雪が溶ける前に
昔、大体去年の4月頃に書いたものです。
はずかちぃ((
なんかタイミングとして最高じゃねって思ってコピペどーん。
小説執筆の時間はないけど、コピペの時間はほぼ秒だからありがたい!
冬が訪れ、もうじき春が来る。
関東では珍しい季節外れの大雪が降った日、僕は君に出会った。
君はいつも僕の隣で、色んな話を聞かせてくれた。
君の手が冷たくなるまで、ずっと隣にいてくれた。
その冷えた手を僕は握れなかった。
僕の手は君の手よりもずっと冷たいから。
君と出会った日から、しばらく雪が続いた。
何日も何日も雪は降り続け、人々が雪に慣れてきた頃、
ある日君は泣きながら僕の所に来た。
心配する僕を横に、君は震える声で事情を話し始めた。
親と喧嘩をしたそうだ。
僕はまたいつも通り君の話を聞くだけで、慰める言葉も出せずに、
泣き止んだ君はそのまま立ち去った。
僕はいつも公園にいた。
だから君は僕を心配して、学校終わりに毎日来てくれたんだ。
それだけで嬉しかったのに、君はクッキーを焼いたりしてくれた。
あのバターの香りが好きだったなぁ…。
少し焦げていたけど、とても美味しかった。
また食べたいな。…また、いつか。
今日は晴れた。快晴だ。
雪は太陽の光によって溶けてきて、アスファルトが顔を見せていた。
でも、ボクも太陽が苦手だ。
もうすぐ春が来る。
だからもう、君とは会えない。
もう二度と会うことは出来ないだろう。
君はたしか今年で高校生になると言っていた。
制服姿を見せたいって張り切っていたっけ。
でも、もう時間だ。別れの時間。
君は僕との別れを知らないだろう。
ごめんね、言っていなくて。
僕が悲しくなるから言っていなかった。
君と出会った日が僕の生まれた日。
僕は君と同じ人間ではない。
最期に君に言わなければいけない。
もう一人でも君はやっていける。
ずっと言えていなかったけど、ありがとう。
君の未来に幸せあれ。
誰もいない公園で、ボクは微笑みをかける。
すると、雪でできた僕の体は溶け始めた。
--- ───バイバイ ---
僕は帰路に、君は何処へ
以前使っていた小説サイトで投稿した最終投稿、
メモで見つけたし、せっかくなのでここでも投稿。
多分詩。韻は踏んでない。
足早な夕暮れが照らす街路
あっと言う間だった,なんて考えながら重い足取りで往く
あの子を思い出して重ねたあとに
もう帰ろうか
如何に僕は|漫《そぞ》ろか
道筋の外れにある角を曲がり,
橋を渡り海に臨む
夕暮れた空は僕の気持ちを引いて,
知らぬ間に街角のエントロピーだ
定時の電車は僕を乗せて,
一人の世界へと誘っている
期待外れの夜は過ぎてくれない
君を忘れたいんだ
戻れないこと,つくづく実感してしまうから
失うものがなくなって,
もう何も信じられなくなったんだ
今はただ何も見たくない
嗚呼
全て間違っていたようだ
自分の呼吸を探していた
終日,僕を見つめていた
枯れた葉を掃いて,
明けぬ夜が来て,
また眠りに就くんだ
甘く育てた果実が落ちた後は腐ってしまう
残るものは悲痛と孤独だけ
何もかもが徒労に終わっていく
あの頃解いた孤独と,あの日駆けた路地で微笑んでた
受け容れる事を目的として毒を得ていた
侵された僕は虹を見ていたんだ
全てを捨て終え,独りで旅に出た
これが夢じゃないから夢を見たいんだ
受け容れる度に僕は僕を蔑んだ
自裁で埋もれた今日にさよならしたい
慈悲の先にある温度を僕は手放した
誰が為に息をするんだ?
幾度重ねてしまった罪を,僕は抱えきれなかった
あとは,自我が折れた花で満たすだけかな
今や繕えなくなったブーケを掲げて,泣いて立っていたって,
そんな事じゃ,僕らは進めやしないのに
君の事なんて忘れてしまった
綻びはいつ消えたっけ?
斯くて低迷していた今日,誇大なエゴを吐き捨てさえすれば
戻れる気がするよ,今なら
もう用なんて無い事を解きたいんだ
無意味な事を続けていたかった
何故,僕は道筋を駆け出す?
目を背けて逃げた,僕の愁いを掃いてくれよ
今は朧気な夢を見たいから
君を忘れられるかな
またいつか。皆もお疲れ。
10秒以内に意外な結末
実話。
今日は学校で嫌な事があった。
そんな事を思いながら赤く垂れるソレを見る。
どれだけ血が無くなったのだろう。
赤くなった手を見て、少しだけ虚しさを覚える。
どうして誰も助けてくれないんだろう。
家族は「また?」と言うだけで何もしてくれない。
黙って自分でティッシュを取り、抑える。
ティッシュぐらいは取ってくれよ。
思い込みかもしれないが、フラッと来た気がした。
貧血かな……。
最近頻度が多くなってる。
なんでだろう。
うぇ、とむせ返りそうになる。
最近本当に何故か鼻血が止まらないのだ。
絶対に途中までリスカだと思った人いるよねっ!?ねっ!?
思ってッッッ!!!そういう意図で書いた奴ッッ!!!!(必死)
…一応言っときますけどリスカしてないですよ?
痛いの嫌いなんで()
病院は嫌です。行きたくない。
夏は何故かよく鼻血出るんですよね。
タイトルは、気にしないで。
なんか聞いた事があるとも言わないで。