乙女ゲームのヒロインは推しの悪役令嬢を幸せにしたい
編集者:ことり
気づいたら私は乙女ゲーム「聖女の在り方」の世界のヒロイン、シェインに転生していた。私の推しは悪役令嬢セイレーア様なんだけど…ヒロインって…敵…だよね…。せっかくならセイレーア様と関わりたい!そして、ゲームじゃおざなりのセイレーア様の幸せを近くで見るんだ!そう決意した。そのことは問題ない。
だけど…
ヒロインだからかいつの間にか攻略対象者からの好感度が高くなっている気がするし、セイレーア様は恋愛にあまり興味ないし…どうやって幸せにすればいいわけ!?
ヒロインが悪役令嬢を幸せにするのは、思いのほか難しそうである。
…そんな…。簡単だと思っていたのに…。
※1話あたりの文字数は少ないです。
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目次
1.転生しちゃった
「ようこそ、カスタニア学園へ。」
その一言を聞いて、私は前世を思い出した。
頭の中をぐーるぐーる記憶が渦巻いている。
「お出迎え、ありがとうございます、王太子殿下。」
そして、この青年にも見覚えがあった。
これは私が前世で唯一プレイした乙女ゲーム、「聖女の在り方」に出てきた攻略対象者の一人だ。今思っても、なんとも乙女ゲームらしくない題名だ。なのに、それで大ヒットしたのだから凄いと思う。いや、そんな題名だからヒットしたのか?ともかく、内容は一般にはちゃんと主人公に共感が持てる内容だった、と思う。
だけど、私は、悪役令嬢セイレーア様が好きだった。
そして、今の私はヒロインである聖女である。
「ああ、教室まで案内しよう。」
「ありがとうございます。」
そして、ゲームをプレイしていたから分かる。この王太子殿下、私と同じクラスである。
つまり、自分も行くからついでに送ってやろうということである。そのことを知っているとあまり好感が持てない行動である。それでも、送ってくれているんだから優しいではないか、そう思う人もいるかも知れないが、私はそんなに単純ではない。それだけだ。どう思うかは自由だ。
こんな感じで分かるかもしれないが、私、シェインはこの王太子殿下はあまり好きではない。
王太子としては共感できるけど。
だけど、セイレーア様よりも私…ヒロインに最後に持っていかれているのが好きになれないのだ。
そして、そのセイレーア様もこのクラスいるはずだ。そのことが何より楽しみである。
「今日は、編入生を紹介しようと思う。」
来た!私の出番だ。
「シェイン、入ってこい。」
「はい。」
「今日からカスタニア学園の生徒になりました、シェインといいます。何かと迷惑をかけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします。」
「こうして編入してきただけで迷惑だっつーの。」
「だよね〜」
そうして響き渡る人を小馬鹿にしたような笑い。正確には響き渡ってはいないけど、私にははっきり聞こえた。
ああ、こいつらは私のこと舐めているんだな。
シェインは聖女だ。魔法を全属性使える存在である。そして、何より力が強い。体力面ではわからないが、魔法では勝てるだろう。だけど、主人公は我慢した。自分は聖女だから、と。だけど、私は違う。
「何か言いましたか?」
いい笑顔でその人達に近づいてあげる。
「は? 聞こえてんならわざわざもう一度言わせようとするなよ。」
この人が貴族?カスタニア学園は基本的に貴族しかこれないから貴族なのだけど…信じられない。
「あら?何か言ったら駄目なことでも言っていたの?それだったら先生にお伝えしないと。」
「おい!待てよ。」
「では、私に何の不満があるのでしょうか?」
「…けっ。」
そう言ってその人は黙った。
あぁぁ…初日から嫌な目にあった。
あの人、確か見たことあったような…気のせいか…。
あ!セイレーア様の取り巻きの一人だった!
そして呆然とした。
セイレーア様の周りにあんなじゃじゃ馬が…これは排除しなくては。
そして、何か作戦を立てようと一人で頑張り始めることにした。
新シリーズ、始めちゃいましたね。
“ユートピア”も天才ちゃんの平民も「約束」も洞窟も終わっていないのに…
あれ?私、ため過ぎじゃない?
まあ、こんな感じですが頑張るので応援よろしくお願いします。
2.今後の展望を考えよう
ひとまず状況を整理しよう。
ここは、「聖女の在り方」の世界。そして私はヒロインのシェイン。全属性を使える、聖女と呼ばれる存在だ。
乙女ゲームにありがちな設定として、このヒロイン…つまり私だが、私は孤児である。まったくヒロインに転生するのも楽じゃない。こんな苦痛の記憶を持って過ごすなら、悪役令嬢になる方が…いや、セイレーア様になっては駄目だ。いっそモブで良かった。
そして、王太子殿下も同じクラスにいる。なるべくこいつとは関わりたくない。だったら、私はどう行動するできだろうか?
分からない。
この乙女ゲームは「聖女の在り方」という名前の通り、聖女にふさわしい行動をとらせようとしている節がある。そして、その通りに過ごすと、だんだん好感度が上がっていく。そして、セイレーア様は侯爵令嬢だ。だけどヒロインが誰を選ぼうが関わってくる。その場その場で絡む相手を変えている、という感じだ。
そして、そのセイレーア様が私の推しである。
確かに毎回出てくるのは何なんだよ、と思ったこともあるが、その行動に私は引かれた。普通はヒロインみたいな人が好きな男に近づいてきても邪魔はできないだろう。
そして、セイレーア様は王太子攻略の時が一番素晴らしかった。だから、私は王太子攻略をよくやっていたのだが…。
ここでは私がヒロイン。そんなことは気にしなくていい。
遠慮なく自由にセイレーア様と関われる。
だけど、私はどういう態度で接しておくべきか。
聖女の態度で過ごすと、王太子殿下に好かれるかもしれない。だけど、聖女のようでなければ、セイレーア様には好かれないだろう。
…何も迷う必要はなかった。私は、聖女らしく振る舞おう!
そして、その日から、私はセイレーア様からあの取り巻きを離すべく努力しはじめた。
「あ、セイレーア様!」
ゲームの強制力というやつだろうか?私はセイレーア様と廊下でぶつかりそうになった。もちろん、セイレーア様を怪我させるわけにはいかないから、私が極端に避けることで、それは成立した。
「ププッ…見ました?今の避け方?醜いったらありゃしないわ。」
こういうとき、聖女だったらどうするのかな?
「あら?それは申し訳ないわ。だけど、あなたは人の醜さを指摘できるほど清らかなのかしら?」
「ええ。そう思いませんか、セイレーア様?」
「…どうでしょうね。」
やはり前世の私と似ている気がする。他人をおもんばかって、自分の本当のことを言えないのだ。
「そうなのですね。つまり、あなたは人の悪口を言うことは醜くない、と仰るのですか?」
「そうよ、事実を言っているだけだもの。」
セイレーア様との衝突を防ぐためにした行動を醜い、というのも?
その瞬間、何かがきれた。徹底的にやってしまおう。
「あら、ではあなたは人とぶつかるほうが清らかだと仰りたいの?」
「…そうよ。」
「では今後私はあなたと会うたびに清らかさの象徴としてあなたにぶつかりに行きますね。」
「…は?」
「セイレーア様、証人になってください。」
「ええ、いいわよ。」
よし、これで一人は排除できそう。あともう一人、醜い行動を行う人がいたはず。
後から知ったことだけど、今、今度からぶつかることを宣言した相手の名前はリガーレ。そしてもう一人の名はサスレイア、というらしい。
歩いているとき、私の背中をセイレーア様がじっと見つめているのに、私は気づかなかった。
3.上手くいきません
「セイレーア様、こんにちは。あら、リガーレ様もいるのね。こんにちは。」
そうしてぶつかりに行く。
「来んな!」
「いえ、私は清らかであるためにあなたにぶつかっているのですよ?なぜ嫌がられなければならないのですか?」
「ひいぃ…」
私はセイレーア様に何度会いに行くことにしている。
そして、そのついでに、こいつの…リガーレの排除をもくろんでいるのだ。もうすぐ、リガーレはセイレーア様から離れていくはず。そう踏んでいる。
だが、厄介なのはもう片方の人。こちらがなかなか尻尾を見せない。
どう対応しようか…ここで理由のない嫌がらせをしたらまるで私が悪役令嬢みたいじゃないか。まあそれ相応の地位とかはないんだけど。
「こら、リガーレ、今はまだ…」
もう一人の嫌な取り巻き、サスレイアがリガーレをなだめている。
「…分かっているわよ。」
一体何を話し合っているのだろうか?これが私の排除とかだったらこの人たちの排除が楽になっていいんだけどなぁ。まあ、そんな都合のいい展開は起こらないか。
「シェイン、おはよう。」
「王太子殿下…おはようございます。」
そして、王太子は私によく関わってくる。
一体なぜ?私はセイレーア様とだけ関わりたいんだけど。ただ、それも私が聖女らしい振る舞いをしているうちは仕方がないと思っている。だってそういう行動が積み重なって、攻略に至るのがゲームだから。
だから、そうならないように、セイレーア様が王太子と仲の良いままでいられるように、私はちゃんと王太子の嫌いな行動をとっているはずなのだ。
そう、誰かを一方的に贔屓するような…つまり、セイレーア様を一方的に贔屓するような行動を王太子殿下にもわかるようにとっている…はずなのだ。
なのに、それが上手くいってない。今、私は非常に戸惑っている。
さて、カスタニア学園、非常に高貴な学校ではあるのだが、私はいきなり編入したせいで、ほとんどの授業を別で受けている。
いや、ラノベとかは前世でたくさん読んでいたから、ある程度のこういうものだろう、とかいうのは分かるんだけど、やっぱりこの世界にはこの世界独自のものもあるわけで…。いろんな設定が混ざってはいけないから、と真面目に授業を受けている。
そう、それが王太子の興味をより引かせているのも知らず…。
ただ、この真面目に受ける、という部分、ゲームでは当たり前のように行われていた。つまり、シェインはそこを真面目にしていることが王太子にどう影響するか、などは分かっていないのである。
「ところでシェイン、最近はどうだ?」
「どうもこうも…おかげさまで安全に暮らせていますよ。孤児の時とは大違いです。」
「それ良かった。父上にも伝えておくよ。」
一体王太子は何が言いたいのだろう?私にははなはだ理解できない。
ただ、援助は王家から来ているので、王太子を粗末に扱うことはできない。嫌われたいのに。いろんな制約に絡めとられているヒロインというのも結構大変なのである。とくに悪役令嬢の幸せを願うなら。
…!
そこで私は気づいた。セイレーア様を幸せにするために、できればセイレーア様に誰かと婚約してほしい。だけど、セイレーア様がその人に興味を持つには、私がその人のルートに入る必要があるんじゃあ…。
どうしよう?
ひとまず、セイレーア様が誰を気になっているのか聞いてみよう!
ファンレターありがとうございます。今後もがんばりますので、ぜひ続きも読んでいってください。
あと、「洞窟の先で、演技力を身に着けました!」の方もよろしくお願いします。
4.悪い兆候があります
「セイレーア様、少しお話しませんか?」
「いいわよ。」
「え?セイレーア様?」
今日はあの二人以外の取り巻きが驚いている。私、そんなに嫌われているのかなぁ?
「実は恋バナをしてみたいと思いまして。」
「恋バナ?わたくしには無いわよ?」
「気になっている殿方も?」
「ええ。」
そんな…。じゃあどうやってセイレーア様を幸せにすればいいの?
とにかく、今の間は私は誰のルートにも入らないほうがいい。それがセイレーア様のためにできる唯一のことだろう。
振り返ると、そこにはリガーレがいた。
「あら、リガーレ様、こんにちは。」
そしてぶつかりに行く。
今日は何も文句を言われなかった。いい加減あきらめた頃かな?だったらもうすぐセイレーア様からも離れていってくれるはず。
「リガーレ、あと少しの辛抱よ。」
「ええ、初日から突っかってきて…いい加減我慢出来ないわ。」
サスレイアとリガーレが何かを話している。
しばらくがたった。
今まで、編入生という奇妙な立場にも関わらず、私は話しかけてもらえていた。だけど、最近、めっきり話しかけられなくなった気がする。
…気のせいかもしれないけど、セイレーア様にも避けられている気がする。
一体何があったんだろう?
最近の私は、一人で過ごしている。
まあ一人で過ごすのも、今急いで叩き込まれている知識を手放さないという意味では助かっているのだけど…。
そして、今日、とうとうどういう現状なのかが私にも分かるようになった。
噂話が聞こえてきたのだ。
「聞きました?聖女と呼ばれているシェイン様ですが、最近セイレーア様に嫌がらせをしているそうよ?」
「そういえば、わたくしは先日、シェイン様がリガーレ様にぶつかっているところを見たわ。」
「リガーレ様っていつもセイレーア様のお側にいらしてる?」
「ええ。」
「それでは…本当のことのようね。聖女となるお方だからどんな方かと思えば…あまり好ましくないお方のようですわね。」
「残念だわ。」
なるほど、そういうことか。
これじゃあまるでヒロインである私が悪役令嬢のような…。
いい得てるなぁ。小説の中の悪役令嬢は、いっつもやっていないことをやっていることにされた。私はいくつかはしたものもあるけど、それが曲解されて、私が悪者であるかのようになっている。
そう、まさに悪役令嬢がざまあするパターンだ。
私は、この計画にはセイレーア様に意思はないと思う。
取り巻きに乗せられて、曖昧に過ごしていたらこうなっているだけだと信じて、私はこの策略を考えた本人だと思われるリガーレとサスレイアを、ざまあしてやろう。
あいつらなら、きっと私をみんなの前で断罪してくる。
さあ、ここでこそ前世の本好きの経験を生かし、必ずあいつらに勝ってやろう。
そう覚悟を決めた。
5.準備は終わった
仕返しのために、あいつらが何を目論んでいるのか、考えることにした。
が、これ、かなり都合がいいのだ。
これのお陰で王太子は近づいてこないし、これが成功すれば、セイレーア様はヒロインがいなくなって断罪されることはなくなる。
都合がいい。セイレーア様にとっては。
だけど、私にとっては都合が悪い。
だって、幸せになったセイレーア様を見ることができないから。
そうだ、目標を変えるとしよう。
『セイレーア様を幸せにし、私もそれを見守る。』
今日から私は、それのために力を注ぐ。
こちらは反論できる材料を揃えた。
後は断罪されるのを待つだけである。早く来ないかな。
そんなとき、最高学年の卒業パーティーが行われるということになった。たしか、ゲームではヒロインは。ここで選んだ人物と入場できることで、そのルートが確定した。
だけど、今の私は誰のルートにも入ろうとしていない。
仕方がない、一人で行こう。
そう決意した。ドレスに関しては、このような状況下でも、王家が準備してくれるのだそう。とても助かる。
最高学年の卒業パーティーになぜ在校生が参加しなければならないのか、という疑問はあるが、ゲーム的に都合が良かったのだろう。そして、今の私にとっても都合が良い展開だ。
そして、卒業パーティー当日まで、状況は悪化し続けた。
私に関する悪い噂話は増えていくばかり。毎回毎回それを否定する根拠を探すのが大変だった。
あの二人を尾行したりもして、頑張って探した。その際、遺憾なく魔術を使わせてもらった。全属性使えるというのは非常に楽である。
「卒業生、入場。」
卒業生が入ってきた。私は、つい卒業生の人々に見惚れてしまった。あの二人は、この素晴らしいパーティーを壊そうとしているということ…になるよね?それはやりたく…ない。
だけど…
結局、私には、勇気がなかった。そして、私に対する断罪が始まった。
「聖女、シェイン。あなたの聖女の称号を捨てる…いやあなたは学園から消えるべきだと思うわ!」
声高らかにリガーレが叫んだ。
そう、パーティーなのに一人でポツンと過ごしている私の前で。
ホールの端っこにいた私の前にセイレーア様を連れてやってきたのだ。
ざわめきが広がっていく。そりゃあ当たり前だ。ここは卒業パーティーであって断罪の場ではないから。
「そうよ!あなたはセイレーア様を傷つけたわ!」
サスレイアも声高らかに叫ぶ。
だが、その内容を諌めるものはいない。皆、噂話で私の性格を誤解していた。
だけど、本当にセイレーア様を傷つけているのはあなた達だ。
ふつふつと怒りが湧いてきた。
「いったい私が何をしたのでしょうか?」
さあ、ここからセイレーア様をこのいやーな取り巻きから救ってあげよう!
そして、私の怒りは最高潮に達する。
6.反撃の時間です
「わたくしの言葉が聞こえていなかったの?あなたはセイレーア様を傷つけたわ!」
「どのようなことをして、ですか?」
「セイレーア様に、数々の嫌がらせをしたでしょう!」
「例えば?」
ここで感傷的になったら負けだ。私は、聖女らしく、余裕を持って、この人たちに対応すれば良い。
「まずセイレーア様にわざとぶつかりましたわ!」
「いつの話でしょうか?」
「始めの頃よ!」
「だったら私はそれを避けたはずですが?そしてそれをリガーレ様、あなたが醜いと言ったため、私はあなたに対してあなたが清いと思う行動…つまり人とぶつかることを行ったのですが…」
「嘘をつかないで!」
「ねえ、セイレーア様、証人になってくださいましたよね?」
「ええ。」
「なんてことだ。ぶつかっていたことはリガーレ様に原因があったのか…」
「少しは話を聞いても良いかもしれないわね。」
「くっ…それだけではないわよ!」
今度はセルレイアが出てきた。
「あなたはセイレーア様のものを壊したわ!」
「あっ…それ…いつの間にか消えていたお気に入りのペン…あなたが持っていたの、セルレイア?」
「ええ…、シェイン様が貸してと仰ってきたから貸したのよ。そしたら壊れて返ってきてしまって。こんなものはセイレーア様に見せられないと思い、自分で持っていましたの。」
「そうなの…。」
何ていうか、もうグダグダである。だいたいセイレーア様に内緒でこの事を起こしている時点でダメダメだ。
「私、そんなものを借りたことないですよ。」
「は?嘘をつくのはやめなさい。」
いや、嘘をついているのはそっちでしょ。
「覚えていますか?私は全属性持ちですよ?ものを使ったあとには1年ほど魔力の残滓が付きまとうんですよ。」
「え?」
「そのペンを見たところ、私の魔力の残滓は残っていなさそうですね…。」
「なっ!」
私だって研究していたんだよ。
「その証拠を見せなさい!」
「いいですよ。シーリア先生、出番です。」
「は?」
シーリア先生には私の魔力の提供を交換条件に研究を手伝ってもらった。そして、その結果分かったのがこれのことだ。
「確かに、彼女が触ったものは理論値では1年ほどあとが残る。早くても半年は残るでしょう。見たければあとでこの研究成果を見せてやるから研究室においで。それはともかくそのペンをシェインが借りたというらしいな?しかし、そこからは魔力の残滓は見えん。よって君が嘘をついているんじゃないかい?」
さすがシーリア先生。ちゃっかり研究室に人員を募集しているのも流石だ。
「でも。他にも動かぬ証拠が…」
「それは何だい?」
こころなしかセルレイアが震えているように見える。
「手紙よ!あの女が送ってきたのよ!」
「どれ、鑑定しよう。見せてくれないか?」
「ええ…。」
「おや、これにもシェインの魔力はないよ。」
「…!__やっぱり…__」
今、やっぱり、と言った?
つまり、セルレイアが準備した訳では無いの?黒幕がいるということ?
訳が分からない。
「さて、他に何か証拠はあるかな?」
シーリア先生…心強い。誘えて良かった。
「悪口。」
「え?」
「その女は悪口を言っていたのよ、セイレーア様の!」
「そうなのかい?シェイン。」
「違います。」
「それはどんな悪口かな?」
「セイレーア様は堂々していない、貴族にふさわしくない、等といったものです。」
「そうか、だがシェインがそれを誰に言ったんだい?見たところシェインに話しかける人物はいなさそうだが。」
はあ…呆れた。根が甘い。
「一つよろしいですか?セルレイア様は、私がセイレーア様の悪口を言ったことを言うつもりでしょうが…私、あなた達に悪口を言われたこと、ありますよ。」
さて、ここからどんな反応が来るのか非常に楽しみである。
ファンレターありがとうございます。
今後とも、このシリーズをよろしくお願いします。
7.後始末は請け負います
「それは…そうかも。」
認めて貰えた。驚きだ。否定されるかと思っていた。
「では、それは理由になりませんね。他に何か?」
冷静に畳み掛ける。いや、内心は冷静じゃないけど。冷静に見えるように畳み掛ける。
だいたい悪役令嬢が断罪されるのって最後に主人公暗殺とかを謀ったからなんだよね。そんなことやっていないのに、私が断罪されるわけないじゃん。
「セイレーア様に水をかけた。」
「それは2週間前の放課後のことでしたよね?噂話を聞くに。その時、私はあなた達から身を守るため、研究をしていたんですよ。ねえ、先生。」
「ああ、いたな。他にも助手もいるから聞いてみると良い。答えてくれるよ。」
「それでは、他に何かありますか?」
二人は悔しげな顔でうつむいている。
「なさそうですね。では、皆さんにも理解していただけましたか?私は何も悪いことはしていない、と。」
ここで一旦区切る。動揺が広がっている。
「私は巻き込まれただけ。しかも、私はセイレーア様とは仲良くしたいのですよ。そんなことをするわけがありません。…さて、こも二人はこの卒業パーティーを台無しにしましたね。それ相応の罰が必要だと思いませんか?お二人さん。大丈夫ですよ、私は聖女ですからね。食いぶちもないまま野に放したりはしませんし、更生の機会を与えてあげますし、出来るだけ優しい罰にしてあげますよ。」
「何が聖女だ…。」
「悪魔じゃねえか。」
言葉が効いているのがわかる。
「まあここで今何かをやっても変わらないので、今度、書類として提出しましょうかね。ではお二人とも、さようなら。」
二人には、シェインの顔が悪魔の顔に見えた。
あぁ、雰囲気が悪くなってしまった。
これも私に勇気がなかったから。頑張って、勇気を出して、この場を諫めてみよう。
「皆さん本日はこのような事態を引き起こしてしまい、申し訳ありませんでした。卒業生の皆さん、本当にすみません。この後は、楽しく過ごしてください。原因となった私たちは退場するので、どんな話にふけられても構いません。では。」
「さて、お二人とも、パーティーから出ましょうか。」
「「はい…」」
ついでに、今から学園長先生の部屋に行くというのはどうかな?
そう思ったりもしたが今の時間、学園長はいない。仕方なく諦めることにした。
パーティー会場からはガヤガヤとした声が聞こえる。きっと、みんなさっきの話にふけっているのだろう。にぎわいは戻ったようで、安心だ。
「何で私が嫌いなの?」
私は気になっていることを聞いてみることにした。
「その聖女然とした態度。」
「せっかく近くにいることを認めてくれているセイレーア様に権威を落としそうなところ。」
「リガーレ、さっきの態度を見ても私は聖女だって言いたい?」
「いや、お前は悪魔だ。」
よく分かっているね。私もあれは聖女ではなく悪魔だと思う。
「だったら問題ないわね。そしてサスレイア、さっきも言ったけど私はセイレーア様と仲良くしたいのよ。セイレーア様の権威を落とすことなんて無いわ。」
「信じられん。」
「まあこの事を学園に報告すれば、王宮と対立したということで、それ相応の罰が下るでしょう。」
「あ…」
「まさかあなた達、自覚無かったの?」
「はい…」
黒幕がいるのか?だったら、まだまだ気が抜けない。
「おう、君たち。まだそこにいたか、学園長が呼んでいるぞ。」
シーリア先生がやってきた。
学園長先生呼んでいる?なんと都合がいいんだろう。
8.優しさをあげましょう
「失礼します。」
ここが学園長先生の部屋かぁ。結構豪華だなぁ。
「「失礼します。」」
後ろの二人もやってきた。
「さて、君たちを読んだのは他でもない先ほど起こった騒動についてだ。君たちが当事者であるとみていいかな?」
「「「はい。」」」
「騒動の内容については報告を受けている。確か、君たち二人がまず、」
そうして確認が始まった。ただ、詳細な報告を受けているらしく、齟齬は見られない。
「そして君が二人を論破し終えて、会場から出たということだな?」
「はい。卒業パーティーを台無しにしてしまったので。」
「他に何か言いたいことはあるかな?」
「一応言っておきますが、全部こいつが悪いんですよ!」
「そうです!」
「その点に関しては君たちの主張が弱かったんだろう?しかも王家に対する反逆と見られてもおかしくない発言をはじめにした。違うかい?」
「だってそう言わ…いえ、何でもありません。」
やっぱり首謀者がいそうだ。まだまだ油断はできない。
「…。そうか。のう、シェイン、罰は何が妥当だと考える。」
「王家への反逆とも取れますからね。修道院送りが妥当ではないでしょうか?反省する機会も与えませんと。」
「ふむ、妥当なとこじゃな。ではそなたら二人は、一旦警吏に引き渡す。裏には誰かおるようじゃし、それを教えてくれるまでかのう。」
「なっ…。」
「嫌ならすぐに教えればいい。そうすれば警吏も早々に君たちを放し、修道院に送ってくれるじゃろう。早く吐いたほうが、修道院にいる期間も短くなる。あと、その間は君たち二人は休学扱いじゃ。早くの更生を祈っておる。」
「そんな…」
「嘘でしょ…」
どうやら二人ともかなりショックを受けているようだ。
いやーけど優しいと思うけどなぁこの処分。普通に考えたら学園を追放されてもおかしくないもん。
「優しいでしょ?ちゃんと更生してきてね?」
私は留めを押した。
「そしてシェイン。そなたはこの計画があるのを勘づいたうえで見逃していた。新学期まで寮で謹慎しなさい。」
「分かりました。」
まあそりゃそうなるよね。学園長先生、目ざといなぁ。
「では、失礼しました。」
そうして部屋から出た私の前に。セイレーア様がいた。
「セイレーア様?どうされました?」
「お礼、言っておこうと思って。今回はあなたのお陰でわたくしが関係者ではないと理解してもらえたわ。」
あれ?そんなこと、やったっけ?
「ありがとう。」
「そんな大したことはしてませんけど…」
「あなた、わたくしと仲良くなりたいと言っていたわよね?」
「…はい。」
改めて聞かされると恥ずかしい。私、こんな事をセイレーア様の前で言ったのか。申し訳ないこと、したかもしれない。
「あなたさえよければ、わたくしと友達にならない?」
そう言ってくれたセイレーア様には気恥ずかしさがあるのか、顔がかすかに赤くて、とても、綺麗だった。
「嬉しいです!」
第一段階、突破だ!(決めていないけど。)
セイレーア様と仲良くなっておけば、嫌がらせ、起きにくいよね?そう信じることにした。
ファンレターありがとうございました。
今度から文字数が減ることもあるかもしれませんが…これからもこのシリーズをよろしくお願いします。
9.SIDE セイレーア
「今日からカスタニア学園の生徒になりました、シェインといいます。何かと迷惑をかけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします。」
初めてシェイン様を見たとき、わたくしは彼女は自信満々で素晴らしいと思いました。
いつも人を下に見る二人の取り巻きが悪口を言ったときも…。
「何か言いましたか?」
「は? 聞こえてんならわざわざもう一度言わせようとするなよ。」
「あら?何か言ったら駄目なことでも言っていたの?それだったら先生にお伝えしないと。」
「おい!待てよ。」
「では、私に何の不満があるのでしょうか?」
「…けっ。」
堂々とした立ち振る舞いで二人を静かにさせてくれました。彼女たちにもいいところはあるのですが、今回はなぜが苛立っているようです。何故でしょう?
そこから日は経って、わたくしはますますシェイン様を素晴らしいと思うようになりました。
わたくしの取り巻きの一人がシェイン様に失礼なことをした時も、皆が納得できるような方法で諫めてくれました。自分の至らなさを思い知りました。
ただ…最近、シェイン様と関わりあえる機会がめっきり減ったように感じます。先日、シェイン様を見かけたのですが、取り巻きの方が他の道を通りたい、というので話せませんでした。
…わたくしは、シェイン様に嫌われているのでしょうか?
しばらく陰鬱に過ごしました。
しかし、その疑念は卒業パーティーで消えました。
その卒業パーティーでのシェイン様はとても凛々しく、思わず見とれてしまいました。そして、そこでシェイン様はこう仰ったのです。
「私は巻き込まれただけ。しかも、私はセイレーア様とは仲良くしたいのですよ。そんなことをするわけがありません。…さて、こも二人はこの卒業パーティーを台無しにしましたね。それ相応の罰が必要だと思いませんか?お二人さん。大丈夫ですよ、私は聖女ですからね。食いぶちもないまま野に放したりはしませんし、更生の機会を与えてあげますし、出来るだけ優しい罰にしてあげますよ。」
そう、わたくしとお友達になりたい、と。
その時、わたくしの喜びは最高潮に達しました。
さらに、ホールから出たシェイン様達を追って外に出ると、
「そしてサスレイア、さっきも言ったけど私はセイレーア様と仲良くしたいのよ。セイレーア様の権威を落とすことなんて無いわ。」
また、シェイン様がわたくしと仲良くしたいとおしゃってくれていました。
そして、それがわたくしに勇気を与えてくれたのです。
お陰で、わたくしは晴れてシェイン様とお友達になることができました。
シェイン様みたいな勇気もあって力もある素晴らしいお方がなぜわたくしと仲良くしたいと思ってくれているのかは疑問ですが、今は、お友達として、いろいろシェイン様と楽しいことをしたいと思います。
…そう、シェイン様の謹慎が開けたら。
このときのわたくしはシェイン様が罰をもらっていたなんて知らなくて…一人ではしゃいでいたことがとても申し訳なく思われました。
10.何かが聞こえてきました
私は1ヶ月間、ほとんど部屋の中にいる予定だ。見張り(使用人)として1人が貸し出されて、買い物とかはその人に任せて、自分は一人で勉強していたり、料理をして過ごそうと思っている。ちょっち寂しいかもな…とは思ったりするけど、自分の不甲斐なさが招いたことだから気にしない気にしない。
勉強といったが、ここで頑張ろうとしているものは、魔術の理論というものだ。この乙女ゲームを作った会社は別に深く考えて作ったわけではないだろうがこれが面白い。そして、今まさに勉強中だ。
本によると、精霊がいて、その属性の魔力を精霊がもらうことで、その代わりに魔法を発動させているらしい。
…ということは、今もここには精霊がいるのかなぁ?いるなら、見たいなぁ。
そんなことを思ったりもしつつ…
『ええ、いますよ。』
何か声が聞こえてきた。いますよ?どういうことだ?
『私は精霊です。シェイン様の魔力を普段から貰わせて頂いています。』
恐る恐る声が聞こえてきた方向を見ると…精霊と思われるものが、いた。
「えええ!私、精霊を見ることできるの?」
『シェイン様は全属性持ちですからね。』
「じゃあなんで今までは見えなかったの?」
『シェイン様を困らせてはいけないと思い、隠れていたのです。ですが先ほど、私たちを見たいと仰せになったので、現れることにしました。…現れないほうがよかったですか?』
そう言って少しショボン…とする精霊。
そんな精霊の見た目は…まず軽く光っている。そして銀色の髪に水色の瞳。髪の毛は長く、腰まである。
大きさは5歳児くらい。予想より大きかった。そして、羽があり。宙に浮いている。
「か…可愛い〜〜!!」
そう、とても愛くるしい存在である。
「ねえ、触れるの?触ってもいい?」
『シェイン様なら…どうぞ。』
ほっぺがもちもちしていた。そして羽。透明の羽なのだが…そんなに弱々しくなかった。ちなみに羽に触らせてもらうために今、精霊には座ってもらっている。
「ねえ、名前は何ていうの?」
『私ですか?ついていませんよ。』
「そうなの?じゃあ付けてもいい?…あ、もちろん許可はもらうよ?」
『いいですよ。』
「本当!?どうしよっかなぁ。」
精霊の名前かぁ。あれ?もしかしてこれって私の初名付け?超重要じゃん!
「じゃあ、あなたの名前はスピリア」
確か英語では精霊のことをスピリットって呼んでいたはず。
『スピリア…。ありがとう、シェイン様。』
「様付けはやめて。対等な関係でしょ?」
私の勘違いでなければ。だって私が魔力をあげて、それを精霊が変換する。対等だと…思う。
『そうだね、じゃあ今度からシェインと呼ぶね。』
「うん、そうして。」
『あ、私は心を読むことができるから声は出さなくていいよ。』
「え?」
だけどよく考えてみたら確かにその通りなのだろう。はじめに声を掛けられたとき、私は心のなかで考えていただけだった。
「だけど、しゃべっている方が楽しいから出来るだけ声は出したいな。」
『だったらいっか。』
「そうそう、気にしないでいこう!」
そして、私の謹慎は思わぬ形で楽しく始まった。
11.友達が来てくれました
「シェイン様、大丈夫ですか?」
この声は…
「セイレーア様?」
「そうですよ。ところでシェイン様、あなた謹慎になっていたの!?」
「そうですよ。」
「どうして?理不尽だと思わないの?」
「私はあの計画があると知りながら見逃していましたからね。卒業パーティーを見出したという点で、私にも責任はありますよ。」
「それを言うならわたくしにだってあるわ!」
謹慎中なのにどこで会話しているのか、と思われるかもしれないが、扉越しである。
見張り役の人には食材を買いに行ってもらっている。
セイレーア様はなんとタイミングがいい方なのだろう。
「いえ、ないですよ。」
「あの二人をわたくしが御しきれなかったから…」
「そんなことは、気に病む必要はありません。あの二人が悪いのですから。だいたいセイレーア様はこの計画を知っていたわけではないのでしょう?」
「ええ…そうね。」
「だったら何の問題もないですよ。それよりも何か学園で面白いことがありました?」
「もう学園は春休みに入ったわ。」
もうそんな頃合いか。
「セイレーア様は帰らないのですか?ご実家から連絡が来ているのでは…」
「だけど友人を一人で過ごさせるなんて…」
やはりセイレーア様はお優しい。だけど、
「安心してください。精霊の友達が出来たのですよ。」
「精霊…言葉を交わせるの?」
「私は全属性なので。スピリア、声を聞こえさせるようにすること、出来る?」
『出来るよ。』
「え?今、一人、よね?」
「ええ。精霊を数えないなら、ですけど。」
「精霊って本当に存在しているのね!」
「そうですよ。」
『そうですよ。』
「謹慎が開けたら…」
『流石に見ることは出来ないと思うわ。』
「そう…」
流石スピリア。心を読んでくる。
「姿は見せることは出来ないらしいけど…」
「声を聞けるだけで充分よ!」
なんかセイレーア様がすごい勢いで…。
そんなに精霊に会いたかったのかぁ。じゃあ叶えてあげることができてうれしいな。
「セイレーア様、私は元気にやっているので心配しなくても大丈夫ですよ。それに…一人ではありませんし。」
「…そうね。また、春休み明けに会いましょう。あなたと同じクラスになれることを祈っているわ。」
「私も祈っています。」
だけどね…セイレーア様と同じクラスになれるんだよね。王太子殿下もだけど。ここで王太子ルートに入っていたら、一緒のクラスだな、と喜び合う場面が入ってくるのである。
まあ、今回はそんなことは起こらないはずだ。
その時、セイレーアは、少し寂しさを感じていた。お友達になれたのに、わたくしにはあなたが欲しいのに…だけどあなたはわたくしがいなくても構わない。そのことが、セイレーアの心を、痛めた。
12.極めたいと思います
「スピリア…精霊のことはどんな単位で呼べばいいの?」
『そうね…一体とかでいいんじゃない?』
そんなふうに会話をしながら、私たちの謹慎生活は半ばまで差し掛かっている。始めの予定通り、部屋でずっと過ごせているし、勉強も進んでいる。精霊は長生きだから、いろんな事情まで教えてくれるのだ。歴史に関しては大いに捗った。
「精霊ってどうやって増えるの?」
『神聖なるものが集まったら生まれるよ。』
「神聖なるもの?」
『そこまでは私には分からないわ。』
「そっか。」
もう一度言おう、この精霊たち、非常に長生きなのである、そして歴史に詳しい。
それが何を指すかというと…そう、私は平民にしては不自然なほど歴史に詳しくなってしまったのだ。他国の歴史にまで!
これには驚きしかない。
ただ、これのお陰で成績が悪くて落第!とかにはならなさそうだから安心だ。
スピリアには食べ物として時々魔力をあげている。
で、その魔力のことについて、進展があった。
精霊と意思疎通ができることにより、その精度が上がったのだ。そして、私は精霊じみたことも出来るようになった。
ちょっとだけど、精霊に力を与えなくても魔法が使えるようになったのだ。これは大きな進歩である。
スピリア曰く、
『昔はちゃんと魔法を学んでいたんだけどね。めんどくさくなったり、習得に時間がかかるようになったりで楽することを人間は選び始めたんだよ。』
だそう。だとしたら少し悲しいものがある。だけど、鍛錬すれば習得できるらしい。転生者何だから、と思い、私はこの少し常識から外れていることも練習してみた。
そしてその結果、精霊に力を与えるより遥かに大きい結果が返ってきた。
「ねえ、これちゃんと習得したほうがよくない?」
『まあいいんじゃない?精霊も簡単に魔力を得られるし。人は楽をできるし。』
そんなものかなぁ。
「ところで、精霊って一人に一体?」
『そうだよー。魔力がある人の中からその精霊が気に入ったものにだけ協力するの。だから力は多くても使えない人とかもいるし、魔力が少なくても強い精霊が付くと強い魔法師となることもあるよ。』
「へぇ…じゃあ私は運がいいね。スピリアって強い精霊でしょ?」
『うん!…だけど、セイレーアにはあまり意味がないかもね。一人でも出来るようだし。』
「いや行かないでよ?まだ全然なんだから。」
『うん、分かってる。』
そして、勉強は進み、魔法の習得も進め…。
だいたい一ヶ月がたった。明日が始業式である。
「シェイン様、元気でしたか?」
「セイレーア様!ええ、元気でしたよ。セイレーア様も?」
「ええ、わたくしも元気よ。それで…シェイン様は大丈夫でしたの、この一ヶ月ほど?」
「もちろんですよ。私にはスピリアが付いているんですから。」
「それもそうね。では、明日を楽しみにしておくわ。」
「祈っておきましょう、同じクラスであることを。」
「ええ。」
「あと、面白い報告もきっとできると思うので、楽しみにしていてくださいね。」
「今、教えてくれないの?」
「ええ。見る方が早いですから。」
「そう、ではさらに楽しみになったわ。また明日、会いましょう。」
「ええ。」
明日、この魔法を見せましょう。
13.進級しました
「セイレーア様、おはようございます。」
「シェイン様…おはようございます。」
「いよいよクラス発表ですね。」
「ええ。楽しみだけど、心臓に悪いわ。早くいきましょう」
「では急ぎましょうか。」
「いいの?」
「もちろんですよ。私も楽しみなんですから。」
「では急ぎましょうか?」
「はい!」
そして、掲示板に到着した。
「シェイン様、同じクラスよ!うれしいわ!」
「本当ね!一年間も一緒に入れるなんて……幸せだわ!」
二人で幸せを分かち合って、新しい教室に向かった。
今の私たちは、きっとヒロインと悪役令嬢という対立した関係にある対馬だとはだれも思わないだろう。
「よお、シェイン。今年も同じクラスのようだな。よろしくな。」
「王太子殿下……よろしくお願いします。」
一体なぜ話しかけられるのか。王家の人物だから悪い態度を取るわけにはいかないし、はっきり言って迷惑だ。
これは勘だが、まだまだ話しかけられるような気がする。私はどうするのが正解なのだろう?
……そうだ!一旦他の攻略対象者に関わってみようか。そしたら不埒なやつと王太子には判断されるだろうし、関わってこなくなるかもしれない。やってみる価値はありそうだな。
「シェイン様は王太子殿下と親しいのね。」
「どうですかね。あんまり関わったことはないのですが。セイレーア様は王太子殿下に興味が?」
「いいえ、あまりないわ。」
そっか。せっかくこれはセイレーア様の幸せのための手掛かりとなると思ったんだけど、セイレーア様はなかなか本心を言ってくれない。ないのかもしれないけど、だけど、教えてほしいなぁ。
ただ、今のままじゃ進展は見込めなさそうだ。
だったらこれから他の攻略対象者にも関わってみたいと思っていたことだし、セイレーア様も連れて行こうかな。
……。あれ?
そこで私は思い出し、気づいた。
そういえば、もう一人、攻略対象者と同じクラスにいたかも……しれない。というか、いた。
そう、私の斜め後ろの席、セイレーア様の横の席だった非常に都合がいい。上手くいけば、セイレーア様とこの……カンヴェス・バレンティアのルートも作れるんじゃないだろうか?
新たな希望が生まれてきて気分がよくなる。
「セイレーア様、さっそく私の新技能を見せたいと思います。移動しませんか。」
授業後、私はセイレーア様に声をかけた。
「ええ。楽しみにしていたの。見せてくれるのよね?」
「ええ。スピリアに教えてもらったんですよ。昔の人が使っていた魔法だそうです。」
「昔の人が使っていた?今は使われなくなったということよね?大丈夫なの?」
「もちろんですよ。じゃないと私がセイレーア様に見せるわけがありません。」
「そうなの?」
「そうです。」
疑り深いなぁ。その気持ちは分からくもないけど。私も始めは疑問だった。それを使って、その威力が高いことに気づくまでは。
「では、行きましょう。」
「ええ。」
そして、私たちは裏庭に向かった。そう、カンヴェスのルートにこのような場面があったのも忘れて。
14.見られました
裏庭に着いた。そして、私は目を見張った。カンヴェス・バレンティアがいたのだ。
「こんにちは。」
「……こんにちは。」
「シェイン様、どうするの?」
「場所を移しましょうかねえ」
そう言っている内心、私は焦っていた。
ヤッパ、確かカンヴェスルートで始業式の日に裏庭に行く場面、あったなぁ。忘れていた。というか、ルートにも入っていないのにカンヴェスがいるなんて普通、思わないよね。じゃあ私に非はないや。
「何か企んでいるのか?」
「いえ、魔法の実験を……あ。」
「魔法だと!?」
失敗した。このカンヴェス・バレンティア、魔術には目がなかったのである。そう、ゲームの中でも、全属性というそれに惹かれてあらわれる。初めのころは意図してそういうイベントにぶつからないようにしていたとはいえ、今までよく関わらないでいれたよね。
確か、噂が流れるようになってすぐ、私は先生の研究室に入り浸るようになって……そして卒業パーティーになって一か月の謹慎か。そりゃあ話しかけられないはずだ。
そして、彼は今こう思っているだろう。
(やっと会えた。)
もちろん恋愛的意味ではなく、生態系における強者が獲物を見つけた時のような意味合いである。
「俺にもそれを見せてくれないか?」
「嫌です!」
確かに他の攻略対象者にかかるべきだとは考えたけど、こんな危険な時に関わりたくない!私は、餌にはなりたくない!
「あ?」
こっちのほうが怖かった。
「分かりましたよ。ただ、そんなに面白いものではないと思いますが。」
「別にいい。聖女がどれくらいの力を持っているか興味があるだけだ。」
「セイレーア様、構いませんか?」
「いいわよ。」
まあ、都合としては私以外には悪くはないし、セイレーア様も認めたし、いっか。
「それでは、使いますね。」
「何を使うか先に教えてくれない?」
「今から使うのは単純に火を作るだけですよ。単純なほうが成長が分かりやすいですし。部屋じゃあ、大きいものは練習できなかったので。」
「それもそうね。どうぞ。」
「まずは今まで通りやりますね。|火の玉《ファイヤーボール》。スピリア、よろしく。」
『はーい』
その声は、私だけにしか聞こえていないだろう。
何はともあれ、出てきた球はこぶし大サイズだ。
「それでは昔の方法でやってみますね。|火の玉《ファイヤーボール》。」
今度は自分で魔力を返還させて火の玉を作る。
今回出てきたサイズは……頭よりちょっと大きいというサイズだった。
「なっ!」
「倍以上ね。」
「一体どうやったのだ!?」
「別にカンヴェス様に教える必要はありませんよね?」
「この通りだ、頼む!」
頭を下げてきた。彼は宰相の息子。知能もよく、軍略と魔法にたけている男だ。いや、偶然いい精霊に好かれただけの男だ。あれ?宰相の息子、って情報だけだったら平民に頭を下げるのは、悔しいかもしれないが、この情報を付け加えると、頭を下げることも普通なように思えてきた。
「セイレーア様には教えようと思っていたのですけど、どうしますか?」
「構わないわよ。」
そうだった。セイレーア様はたいていのことに肯定的だった。この質問を間違えた。
だけど、セイレーア様が認めてしまったものは仕方がない。
「分かりました。二人ともに教えます。今度から放課後にこの場所でいいですか?」
「ええ。」
「ああ。」
そうして、この日は寮に帰った。
15.練習を始めました
「昔の魔法についてお二人は知っていますか?」
次の日の放課後のこと。私は裏庭で二人に教えていた。
「あまり…」
「俺もあまり知らないな。」
「まずはそこからですね。まず300年ほど前、魔法の才のある者の実力はもっと高かったんですよ。」
「そうなのか?」
「スピリアから?」
「ええ。」
「そして、昔の人は精霊を介しないまま魔法を使っていました。」
そんな感じで、昔のことを伝える。
「そして、その昔の方法を再現したら、力が強くなったのですよ。」
「だからか…」
「ええ。やはり自分の魔力は自分で変えるのが一番効率がいいんでしょうね。」
「そうなのか…」
一応昔のことについては納得してくれたようだ。
「では、それを使う方法を教えようと思います。まずは、自分の力を改めて感じてください。」
(スピリア、あの二人についている精霊を私に見えるようにしてくれる?)
『いいよー』
そして、すぐにその二体の精霊があらわれた。
セイレーア様についている精霊はセイレーア様と同じピンクの髪色。そして瞳は赤色と、これまた同じだった。
カンヴェスの方は、髪はエメラルド、瞳は琥珀色と、瞳と髪の色が逆になった精霊だった。
(二体の精霊に、しばらく魔力はもらわないでってお願いできる?)
『もちろん!』
「あ、何か変わったか?」
「少し、感じづらくなりましたわ。」
「頑張ってくださいね。」
「むむ…」
「ああ、いけたわ!」
「さすがセイレーア様!早いですね。」
「けっこう大変ね。一体何が変わったの?」
「セイレーア様についている精霊に魔力に干渉しないで、とお願いしただけですよ。」
「そうなのね。やはり、精霊というのは便利なのね。」
「そうですよ。だけど甘えていると今のように力がなくなるのです。」
「そうね、もっと頑張るわ。」
セイレーア様はまだまだやる気はあるようだ。
「カンヴェス様、いかがですか?」
「難しい。」
「魔力を一つに集めるイメージだと上手くいくわ。」
「むむっ…おお、元通りになった!これでいいのか?」
「ええ、十分です。」
元通りに感じれるようになったなら、次に行ってもいいかな?
そんな感じで二人に教えた。
1ヶ月後。
二人の中は良くなって…あれ、カンヴェスとセイレーア様ルートもありかもしれない、と思うくらいにはなった。
そして、魔法に関しては簡単なものは扱えるようになった。難しいものは…威力が増すと危険になったりするから出来なかったけど。それでも、基本的なものに慣れていれば使うことが出来ると思う。
昔の人は、なんでこんなに早く習得できるのにやめたんだろう?理解ができない。
もちろんこの速さで出来るようになったのは、この3人に才能があったからである。
「授業とかでも使ってみてもいいと思いますよ。練習にもなりますし、今度使って見ましょうか?」
「いいわね!」
「いいな。」
そして、授業で使ってみることにした。
彼らの精霊には、魔法を精霊に渡すか自分で変化させるか、はじめに心で呟いてからやるように言っている。
また、精霊とも少しお話させてもらった。
16.これが成果です
「さて、では魔法の授業をはじめる。まず、今日は的あてをしようと思う。一人一回は当てられるようになってくれ。」
「「「「「はい。」」」」」
そして、何かの順番で呼ばれ始めた。
「では、次、シェイン。」
私の出番がやってきた。一つ、疑問に思われるかもしれないけど、私に名字はない。養子に…という話もあったようだけど、その時のシェインはすべて断ったみたいだ。こちらとしては非常にありがたい。
「|水矢《ウォーターアロー》」
スピリアを通さず、自分で魔力を変化させる。
水は弓矢の様に飛んでいって、綺麗にあたって周りに散らばった。
「すごいな…。シェイン、どうやって力をつけた。」
「昔の魔法を練習したのです。」
「昔?昔のほうが威力が高かったのか?」
「これを見るにそうではないでしょうか?」
「…。では次、セイレーア・リチーア!」
「はい。」
「頑張ってくださいね。」
セイレーア様だもん、きっと大丈夫でしょ。そう思いながら、成り行きを見守る。
「|水矢《ウォーターアロー》!」
綺麗に飛んでいった。そして、私のやつと同じく綺麗にあたって分散した。
セイレーア様の属性は水と風。その中でも水が最も強い。
「では次…」
「上手く行きましたね。」
「ええ、始めにシェイン様がやってくれたお陰であまり驚かれずにすんで良かったわ。」
「いえ、あまりそれは意識していなかったのですけど…。」
「まあいいじゃない。わたくしは助かったのだから、大げさに言えばあなたに助けられた、ということよ。」
「それはまた…大げさですね。」
私には相応しくないと思う。
「そんなことはないわ。」
「では次!カンヴェス・ヴァレンティア!」
「はい!」
次はカンヴェスだ。成果が出て欲しいけど…。
「|火矢《ファイヤーアロー》!」
火は矢のように飛んでいき、的にあたって…消えた。流石に銅を燃やすのは難しいようだ。
「カンヴェス?一体どうした!?」
「少し練習したので。」
「魔法は練習では対して上手くならないはずだが?」
「俺も、昔の方法を使ってみたんですよ。」
「シェインが関わっているのか?」
「そうですね。」
「そうか…」
なんで私までバレるの!?そこはセイレーア様でも良くないか!?
ただ、皆成果は確実に出ているようである。
「シェイン、お前は何をしたのだ?」
あぁ…王太子がやってきた。
「少し、教えただけですよ。」
「その前に少し前まで孤児だったお前がなぜそんな昔の魔法を知っている?」
「私が聖女たる存在だからですよ。」
そのお陰でスピリアを見ることが出来たんだから。
「そうか…」
え?ちょっと待って、そこ納得する部分なの?何かもっと言ってくるかと思っていたのに。こんな説明で本当に言いわけ!?
そして、私をまるで眩しいものを見ているかのように2度、目を瞬かせた。
…どういうこと?
もしかして…何もやっていないつもりだけど、好感度を上げてしまった?
わけがわからない。わけがわからないときは…そう、
「セイレーア様、早く移動しましょう。」
逃げるに限る。ちなみにセイレーア様の取り巻きは、今は2人だ。だけどあまり関わってくることはなく、いい人材だと思っている。名前は覚えられていないけど。だけど、いつかは覚えたい。
そして、この時間は思わぬ発見?をしてしまって終わった。
…本当にどうすればいいんだろう?
私は、カンヴェスと関わることで不埒なやつという印象を言えつけるつもりだったのに!
なんでこんなに上手く言ってくれないのぉ〜!!
声に出して叫びたくなった。
17.皆が訪れてきます
あの授業の後、何故だか私が他二人に教えて、その二人の魔法技術が上がった、という噂が広まった。…事実だけど。そして…
「シェイン様、わたくし達にも教えてくださいませんか?昔の魔法というものを。」
そういうお誘いがたくさん来ている。もちろん私はセイレーア様以外とは必要なだけしか会話したくない。
「二人が優秀なのですよ。カンヴェス様に教えてもらったら如何でしょうか?」
彼は少し戸惑った部分とかもあったから、教える際は親身になって教えてくれるだろう…本人にやる気があれば。まあ彼女たちにとってもカンヴェスと喋るチャンスなのだから見逃す人はそうそういないだろう。
ともかく、そういう風に言って追い払っている。
それでも、
「なあシェイン、教えてくれないか?」
このように何度も教えを乞う人物がいる。王太子だ。
「ですからカンヴェス様に教えてもらえばいいでしょう。仲はいいはずですよね?」
「それとこれは別なのだ。あいつは全く教えようとしてくれないし。」
「それは私も同じだと思いますよ?」
「君は一度教えたという実績がある。」
「そうですか…ですが、私が教えたのはセイレーア様がいたからですよ?」
そして、セイレーア様がカンヴェスに興味を持ってくれればいいかもしれない、という思いがあったから一緒に教えたのだ。そういうメリットもないのに教えるわけがない。いや、メリットがあっても教えるかは…内容によるかも。
「…また来る。」
「来なくて結構ですが…」
聞こえるようにつぶやいたはずなのに聞こえていないふりをされた。悲しい…。やはり王太子はあまり好きになれない。
…よし、気分を変えよう。
「セイレーア様、この後部屋に来ませんか?」
「シェイン様の?」
「あ、侯爵令嬢に見せるような部屋ではないので…やめましょうか。」
「いえ、行きましょう!シェイン様の部屋、行ってみたいわ。それにわたくしは相部屋ですもの。シェイン様が羨ましいわ。」
「確かに私は一人部屋ですからね。中を見ても驚かないでくださいね。」
「もちろんよ!」
私の部屋が一人部屋なのは一重に入学のタイミングによるものだ。その時は空いている部屋がなく、また平民の身分と貴族は相部屋にできない、と判断され、相部屋を一人で使っている。さらに、謹慎もあって、その間に他の人を入れることは出来なかったから、この状態が続いている。もし、私の聖女としての立場がもっと確立されれば、貴族と同じ部屋になることもあるかもしれない。
「どうぞ。」
「お邪魔します。…。」
無言になるセイレーア様。やっぱり驚かれるよね。私、あんまり物持っていないし。飾りなんてもってのほかだし。
ゲームでは…攻略対象者から何か貰っていたんだっけ?まあ資金は王宮からもらっているには貰っているから、単純に私が使っていないだけ、となる。
「驚きますよね?」
「ええ、あまり想定していなかったわ。」
やっぱりね。
「お金をたくさん使うのは性に合わなくて…」
「シェイン様らしいわ。こういうのもいいと思うわよ。」
励ましてくれている…。なんとお優しい。
「では、スピリアも交えてお話ししましょう。声だけですけど。」
「スピリアも?楽しみね!」
そして、誰にも邪魔されない場所で二人と一体、楽しく過ごした。
18.SIDE 恋する乙女(の考察)
とあるところに小説のように王太子に恋する少女がいた。だけどその少女は王太子殿下と関わる勇気を持てなかった。
そして、それが私だ。私は子爵家出身の4年生。
そして、子爵家出身がゆえに王太子殿下に話しかけることなどできないでいる。
去年のこと、一人が編入してきた。彼女…シェイン様は孤児出身で、急に全属性の才能に目覚めたんだそう。そして、聖女と呼ばれる存在になるべく、この学園に入学してきた。そう聞いている。
シェイン様は、セイレーア様に嫌がらせをした、という噂が流れた時もいつも通りに過ごし、それを論破してしまったのだ。相手は修道院送り。残念だったな、そうとしか思えない。
シェイン様は約一カ月の謹慎。そして、それが明けて再びシェイン様を見たとき、眩しい、と感じた。
それは、王太子殿下も同じだったのだろうか?
王太子殿下がよくシェイン様に話しかけているのを見かける。今まで、王太子殿下は他の人に積極的に話しかけるようなことはしなかったのに、だ。
私は、それをシェイン様に恋をしているのではないかと考えている。
王太子殿下にその答えを聞くことはできないけど。
また、先日、魔法の授業の時、シェイン様、セイレーア様、カンヴェス様が魔法の才能に目覚めた。噂によると、少し前から三人が一緒に行動しているのを見かけていたらしい。
誰が教えたか?それは聖女たるシェイン様しかいないだろう!みんなそう考えて、シェイン様の元へ行き、すぐに諦めて戻ってくる。
「カンヴェス様に頼んだら?だって。」
「ああ、貴方、カンヴェス様に興味を持っていたじゃない、行ってみたら?」
そのカンヴェス様についても怪しいことがある。
セイレーア様とも仲は良さそうなのだが、非常にシェイン様のことをよく見ている気がするのだ。魔法マニアらしいから、全属性のシェイン様が羨ましいのかもしれないけれど、私の勘は告げている。カンヴェスはシェイン様に恋に似た感情を抱いている、と。
恋だと断定できないのがつらいことだ。
「うん、もちろん行くけど…一緒に行かない?」
「私はいいかな、王太子殿下のほうがいいし。」
「あなたは変わらないね~。じゃあ一人で行くか。」
「うん、頑張ってね。」
そして、すぐ戻ってきた。
「俺には教える技量がない、だってさ。」
「噓でしょ!?あのカンヴェス様が?」
「そう!」
「つまり…シェイン様を上だって認めたってこと?」
「少なくとも指導者としてはそう考えていそう。」
そうか…
「セイレーア様、羨ましいなぁ。」
「ね、シェイン様に仲良くしたいと思われていたんでしょう?羨ましいな。」
「どうやったらそう思ってもらえるんだろう?」
「…聖女様の考えることなんて、わかるわけがないね。」
「そりゃそうだ。」
私たちは、あっさり考えることを諦めた。
シェイン様、かぁ。
王太子殿下にもカンヴェス様にも好意を持たれるなんて……。
これからが少し、楽しみになった。
19.幸せを望みます
「ねえ、シェイン様はなんでわたくしと仲良くしたいと考えてくれたの?」
セイレーア様に聞かれた。
セイレーア様は前世の私に似ているからわかる。この質問には、勇気が必要だっただろう。
「セイレーア様ですから。」
「答えになってないわ。」
まあそう言われるだろうな。
「セイレーア様だから、仲良くなりたいと思ったのです。」
「曖昧ね。だけど…ありがとう。」
セイレーア様に始めに興味を持ったのは、悪役だから。ルートを選んだやつによってセイレーア様はアプローチをする相手を変える。それを…哀れに思ってしまった。
そして、セイレーア様の動きに注目するようになると、取り巻きが目立っていそうだと分かった。そして、私はいつしかセイレーア様に共感していた。
「聖女の在り方」はなかなかないゲームだ。悪役令嬢に共感を持てるように作られている。今ではざまあ小説なんてたくさんあるが、この乙女ゲームはそれに適していると言えるだろう。
「強いて言うなら、昔の自分に似ているから、ですかね。」
「シェイン様が?」
「そうですよ。昔は…人に意見を言うのもあまりできなかったんです。ただ、聖女という肩書きのおかげでしょうか?そういう行動を取りやすくなったのですよ。」
これは、本音だ。私もただ転生しただけで前世では取れなかったような行動を取ることが出来て驚いているのだ。
「そうなのね。わたくしにとってシェイン様はいつも勇気がある方、だったけど、昔はわたくしと同じだったのね。」
「そうですよ。セイレーア様もこちらに来てはどうでしょう?」
「無理よ。わたくしには肩書がないもの。」
「聖女の唯一の友人。これは肩書きではありませんか?」
「そうね。」
セイレーア様が笑ってくれた。それだけで心が暖かくなる。
「セイレーア様は今、幸せですか?」
「ええ、かけがえのない友人がいるもの。」
ふいに、涙が出てきた。
「ちょっと?大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。これは嬉し泣きですから。」
嬉しい。セイレーア様に「かけがえのない友人」ち言ってもらえたことが。
セイレーア様が今、幸せであることが。
だけど、まだまだ足りない。セイレーア様はもっと幸せになれる。私もそれを手伝う。
「セイレーア様、私があなたをもっと幸せにしてみせます。」
「そんなことをしなくても、十分幸せよ?」
「これからの幸せのためにも、今、頑張るのですよ。」
「そうかしら?」
「そうです。」
言い切る。そしたらセイレーア様はそう思ってくれる。
「セイレーア様には幸せに結婚生活もして、仕事まで活躍してもらわなければなりませんね。」
「仕事も!?」
「ええ、私が手伝うんですから。」
「それは…心強いわね。」
「そうですか?だったら大船に乗ったつもりでいいですよ。二人で、探しましょう。」
「だったらわたくしもあなたを幸せにするわ。」
「…ありがとうございます、セイレーア様。」
頭上から、キラキラと粉が舞ってきた。スピリアが喜んでいる証だ。
そっか、スピリアが喜ぶのなら、私もまだ幸せになれるのかもしれない。
「頑張りましょうね。」
「ええ。」
楽しい会話は、終わった。
20.お出かけです
「セイレーア様、明日、街に行きませんか?」
「街?」
「そうです。一緒に買い物でもどうか、と思いまして…」
「買い物?楽しそうね!」
「ですよね。」
「行きましょう!」
そこからは簡単に決まった。
「侯爵家は街に出るのは問題無いのですか?」
「普段は護衛を連れているのだけどね。」
「それなのに2人で行く、というのは大丈夫なのですか?」
「いいじゃない。細かいことを気にしなくても。」
「それはそうですね。何かあっても私が守ります。」
「わたくしもよ。」
さて、当日になった。
「では行きましょうか。」
セイレーア様に部屋に迎えに行って、お出かけスタート!
「セイレーア様は趣味とかあるのですか?」
「趣味?…あまりないわ。」
「だったらそれを探しましょう!」
「…え?」
「趣味見つけたら楽しくなるのですよ!」
「そういうシェイン様は何が趣味なの?」
「そうですね…読書、でしょうか?」
これは前世での話だけど。今宵でも嫌いではないし、嘘はついていない。
「…あ。」
目の前に、攻略対象者の一人、ベルーゼ・カムイがいた。キョロキョロして何かを探しているようである。
「どうしたの?」
「ベルーゼ様がいますね。」
「…本当ね。」
「何か探していそうですね。」
「そのようね。」
「聖女としては助けるべきでしょうか?」
「そうでしょう、わたくしも手伝いますわ!」
…これは、行くしかないかなぁ。
ベルーゼルート、ベルーゼルート…こんな場面あったっけ?まあ関わっていないから新たなイベントらしきものが増えても仕方がないとは思うけど、まさかその場に私が出くわすなんて…
これがゲームの強制力というやつ?
「ベルーゼ様、何を探していますか?」
「お前は…シェイン、セイレーア。」
「名前を覚えてもらえていて光栄です。ところで何を?よければお手伝いしますよ?」
「いや…いい。」
「ベルーゼ様、何かお困りではないの?」
なんと!セイレーア様も声をかけてくれた。セイレーア様に誘われて断らない男は…私がルートに入らない限り、あるわけがない。
「妹を探していて…」
「妹ですか?」
ベルーゼに妹なんていたっけ?まったく記憶にない。
「ああ、母親違いの妹なんだが。」
「迷子、ということですか?」
「いや、迷子な訳が無い!」
「どういう場面で見えなくなりましたか?」
「混雑の中…」
「それは迷子ではないの?」
セイレーア様も突っ込んでくれた。
「迷子ではない!」
なぜ頑なに迷子を認めないんだろう?
「根拠でも?」
「勘だ!」
「では、まずは迷子だという前提で動きましょうか。迷子になったらどうするつもり、とかは決めていましたか?」
「いや?」
そう言えば…
「護衛の方はいませんの?」
セイレーア様と考えていることが被った。
「あ…」
どうやら、忘れていたみたいだ。
だけどそれでも不思議だ。護衛対象が2つに分かれたのにそれでも何も報告しないなんて…これにも事情があってもおかしくはない。
「聞いてくる!」
「ええ、それがいいと思いますよ。」
慌てて護衛の元へ向かうベルーゼを見送った。
21.さっきのは前触れでした
ベルーゼが戻ってきた。
「どうでした?」
「ちゃんと護衛が付いているらしい。」
「何処へ向かわれた、と?」
「あ…聞いていない。」
そしてまた聞きに行った。
私は懐かしさを感じていた。
ベルーゼ、確かにこんなキャラだったよね〜。この抜けたところとか、逆に単純なところで正統派の王太子と張り合っていた。確か人気度は2位だっけ?すごいよね。
「ふふっ。面白い方ね。」
嘘でしょ!?セイレーア様が異性に好感的だ!しかみ初対面に!これはセイレーアとベルーゼルートもあるか?…なんだかこの前カンヴェスでも考えた気がする。結局あれも実っていないし。
「そうですね。まさか皆さんが好む方があんな性格だったとは…」
「あ、戻ってきたわ。」
「聞いてきた。分からない、だそうだ。」
それ闇ありそうだなぁ。あんまり関わりたくないけど…。
…!
そこで私は思い出した。確かベルーゼルートに今日くらいに一緒に買い物に行くシーンがあったと思う。そこで問題が発生してシェインが助けるという話。…もしかしてこれ、連れ立っていた相手がシェインがベルーゼに|異母妹《いもうと》に変わっただけ?だったら解決できるかも。いや、少しだけ内容も変わっているか。何か護衛の方にも思惑はありそうだし。
よし、そうとなったらセイレーア様に助言しよう!ここでセイレーア様への好感度が上がれば、セイレーア様も幸せになれる。最高だ!
「どこに向かう予定でしたか?」
「中央広場だ。」
うん、シェイン達が向かっていたところだ。
「とりあえずそこに行きましょう。」
…あれ?全然セイレーア様に任せられなかった…。次こそは、セイレーア様に任せるんだ!
「セイレーア様、どうやって探しましょう?」
「探す…その前に、見た目が分からないわ。」
流石セイレーア様、それを聞いて欲しかった。
「茶色の髪に赤の瞳だ。」
…え?髪の毛だったら日本人らしいな…だったけど、赤い瞳?怖い怖い。ホラーなの、これ?
けれど…なんかそういう少女がさらわれたっけ?そんな気がする。
「長さはどれくらいかしら?」
「腰までのをハーフアップ。」
うおっ…男性なのにハーフアップは分かるんだ。見習ってほしい、日本の男子たちにも。
「ありがとうございます。これではかどりますわ。」
「気にするな。」
うーん、なかなかいい雰囲気にはなってくれないなぁ。
で、このあとどうなるんだっけ?
確かシェインが中央広場に行くと、その時行方不明になった女の子…今回ではベルーゼに異母妹…が祀り上げられていたんだよね。変な集団に。あとはそれを倒すだけだけど…。
セイレーア様、出来るかな?ちょっと心配だ。
「あ!」
「いたわ!」
異母妹さんを、見つけることが出来た。広場の端のほうで…崇められている。
大変そうに。
「女神よ!我らに救いをくだされ!」
「「「「「女神よ!我らに救いをくだされ!」」」」」
うわー危ない集団だなぁ。あまり近づきたくないよ。
だけど…
「助けて上げましょうか?」
「ええ、聖女の友達だもの。見たところ、困っていそうだし。」
嬉しい、早速使ってくれた!
こんな緊急事態(かどうかはわからないけど)なのにほっこりしてしまった。
22.これから本番です
「作戦はどうしますか?」
「普通に話に行くわ。」
大丈夫かな…?まあ最悪は実力行使で大丈夫だろう。…あれ?今、護衛の人は何やっているんだ?
「気を付けて下さいね。」
まあ、セイレーア様がやる気なのは非常に喜ばしい。
セイレーア様はあの集団に近寄りはじめた。
「あなた達、何をしているの?」
「我らは崇高なる女神様に祈りを…」
「彼女が女神様?」
「我らは長年、茶色の髪に赤い瞳の少女を探してきたのだ!そして、見つけた!お主らも女神様に祈るがいい!」
変な集団だね。こんなに内容を教えてくれるなんて…。
「お前らは私の異母妹に何をしている!」
あ、ベルーゼが乱入してきた。そして、その途端、集団に緊張が走った気がした。
「女神様を異母妹だと…?お主は恐れ多さを知らないのか!?」
あ、この人たち、完全に女神を信仰していそう。人なんだから家族がいるはずなのに、それを信じようとしないなんて…
「なぜ彼女が女神様だと?」
「それは見た目がお告げ通りだからだ!」
「赤の瞳に茶色の髪なんてたくさんいるでしょう?」
セイレーア様が頑張っている…!私は今のところ頑張るつもりはないから、だからこそ嬉しい。
「いないのだ!考えてみろ、色はたくさんある。その中から同じ2色が選ばれるなんて滅多にないだろう。見ろ、我らも人数はいるが同じ髪の色に同じ瞳にものなどいない。」
…それはそうかも。
「見た目以外に証拠はあるの?」
「少女だということだ!お告げでは女神は少女の姿で現れるとあった。まさにその通りではないか!」
「女神様は何ができるの?」
「我らに祝福をもたらしてくれる。」
「では頼んでみましょうか、ちなみに女神様の名前は?」
「女神様は女神様だ、名前はない!」
「…オッリアだ。」
ベルーゼ様もちゃんと参加している。
「ではオッリア様、この者たちに祝福を与えることは出来ますか?」
「出来ないわ。」
「「「な!」」」
「そんな…あなたは女神様では無いのですか!?」
「違うわよ。」
「嘘だ!」
あ、嫌な予感がする。
「女神様はこいつらのせいで本当のことが言えなくなっているのだ!攻撃しろ!」
当たっちゃった。…ってちょっと待って、オッリアに付いていた護衛まで襲ってきていない。
「私がなんとかします。」
「私も協力する。」
「わたくしもやるわ!」
あらら…みんなやることになっちゃった。まあいいか。その方が早く終わるし。
「|火盾《ファイヤシールド》!」
日があるのにまさか突っ込んでくる人はいないだろう。
「あっつ!」
「おい、これ本当の火だぞ!」
どうやら私が見せかけで火の盾を作ったと考えたらしい。そんなことするわけがない。
このままじゃ埒が明かないので、火の盾を私たちを囲むようなものから一部に特化したものに変えた。ベルーゼ様は剣は強いから大丈夫だろう。
予想通り、ほとんど一人で倒しちゃっている。
…私がやったのは後方を防いだだけ…悲しい…。
あとは、煽動者を捕まえて尋…いや、質問をするだけだ。これくらいは警官に渡してもいいだろう。
そうして、引き渡して、この騒動は終わった。
結果を見ると、私たちが勝手に巻き込まれに行っただけ、となる気もする。
23.少しだけ後悔しています
乙女ゲームのあの騒ぎ通り、というわけにはいかなかったけど、なんとか終わらせることが出来た。ついでにベルーゼ様のセイレーア様に対する好感度も上がっただろう。むふふ、これで少しはセイレーア様を幸せにするという目標に近づけたかな。
そして、さー再びお出かけしよー、と考えていた私たちには、取り調べが待っていた。
「状況を説明して下さい。」
ベルーゼ様に会って、探しているものを聞いて、そしてオッリアを見つけ、そしたら攻撃されたから攻撃仕返した、という流れを伝える。
私とセイレーア様は今、別々で取り調べが行われていた。セイレーア様だから、心配はしなくても大丈夫だ。
そしていくつか質問され、それに答えて…。
「分かりました。また呼ぶかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします。」
「分かりました。」
その頃には昼はとっくに過ぎていた。なのに空腹だ。私たちはベルーゼに推薦状、みたいなものを書いてもらって、王都の人気店に入ることができた。ベルーゼも役には立つのだ。
流石にお代は自分たちで持ったが、結果としては悪くないと思う。
「セイレーア様は冷静に答えていて凄かったです!」
そして、その場で私はセイレーア様に思ったことを伝えた、語彙がないのが悲しい。もった頑張ろう。
「そうかしら?」
「確かに最後は攻撃されて、力で追い返しましたが、そこまであの人達を追い詰められたのです。十分でしょう。」
「あなたなら…もっとうまく出来たでしょうね。」
「無理ですよ。」
ゲームではいきなり脅していた。そういう展開がプレイヤーをあのゲームに引き付けていたんだろうけど…
「けれどセイレーア様もちゃんと出来るではないですか。」
「そうね、わたくしも驚いたわ。だけど、あなたの…聖女の友人だから、それ相応のことをしたい、と思ったのよね。」
セイレーア様が可愛いよお。めっちゃ健気…。
「おかげで助かりました。」
しかもセイレーア様に対するベルーゼの好感度を上げられた、これが一番嬉しい。
そして、少しの間だったけど、お出かけをした。セイレーア様の趣味を作ってあげようと思ったけど、出来なかった。これはまた今度だ。次はリベンジを果たす!
翌日の昼休み。
偶然ベルーゼに会ってしまった。
「迷子では無かっただろう?」
とてもいい笑顔で私に聞いてくる。ウザい。今回は私に原因はあるけど。
「そうでしたね。それで、なんで護衛の方はみすみすオッリア様をあの集団の手にわたらせたのですか?まあ見てたら想像は付きますけど。」
「想像のとおりだ。あの連中と同類だった。」
「それは家の面目も悲しいですね…。」
「?私はオッリアは母親違いの異母妹だと言ったと思うが?」
「いいましたね。」
「オッリアは愛人の子なのだ。それも母親の身分は男爵。」
それは…ベルーゼは公爵家だから、大した身分の差だ。
「そんな異母妹さんをあんなに大切に扱っているのは素晴らしいと思います。」
「弟はたくさんいるが妹は初めてだからな。」
「なるほど…それでも素晴らしいと思いますよ。身分に囚われない人は少ないですからね。」
何より始めの頃断罪されかけたのがその証拠だ。ちなみに黒幕は分かっていない。あの嫌がらせをしてきた二人は、顔も名前も知らない人の指示に従っていたそう。はた迷惑である。せめて名前くらいは分かっておけよ。
ただ、こんな形でセイレーア様とのお出かけのきりはついた。
24.何故にこのメンバー?
『遠足で、唐突に試験が起こることがある。』
私たちの学年には、こういう噂話がある。去年もその前も同じことだったそう。そして、それが表す通り、この学年では遠足…校外学習が多い。
そして、その初めての遠足が、今日、行われる。
もちろん私は知っている。今回の遠足が試験になる、と。もちろん、試験の内容もだ。
「では、ただいまより、試験を始める。」
「「「え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」
その場所…林の少し前に着くなり先生がいいだした。そしてみんなから反感を買っている。
「進級して少しが経つ、お前らもきっち気が緩んでいる頃だろう。何も問題ない。」
「そういう話じゃ…」
「試験の内容は簡単、ただこの林を抜けるだけだ。」
「え?」
あはは、みんな驚いている。だけどこの試験、そんなに単純じゃないんだよね。
「時間がかからなかったほど評価は良くなる。しかし!我々の指定する素材を取ってきてもそれは評価の対象になる。どちらの評価を重視するかは自分たちで決めろ。」
「自分|た《・》|ち《・》ですか?」
「そうだ。四人で班を作ってもらう。」
みんなはまだ戸惑っているように思える。今のうちにセイレーア様と…
「セイレーア様、一緒にやりませんか?」
「もちろん!」
最近セイレーア様が歩み寄ってきてくれていると感じることが多くなっていて本当に嬉しい。
「なあ、俺も入っていいか?」
その声は…。振り向くとカンヴェスがいた。
「私も入りたいな。」
そして、王太子まで入ってきた。
「セイレーア様はよろしいですか?」
「ええ、いいわよ。」
「では私も文句はありません。」
これはチャンスだ!ここでセイレーア様の良さをもっと知ってもらおう。なんであの二人が私たちに混じってきたのかは分からないけど…。想像するとろくなことにならなさそうだし、セイレーア様に興味をもっていると考えておこう。
「では決まりましたね。それでは方針を決めたいと思うんですが、何かありますか?」
「私は参加させてもらっている身だからな、そちらに任せる。」
「俺も。」
「どうします?セイレーア様。」
「そうね…シェイン様が言いと思うのをすればいいんじゃないかしら?」
「あなた達、何か仕組んでいますか?」
「「「いえいえ。」」」
まあ今回に限っては都合がいいかもしれない。
「私は、採集による評価を重視したいです。」
「分かった。」
「そう言うのなら、何か考えがあるのでしょう?でしたら賛成するわ。」
「構わない。」
「皆さん少しは意見を言ってくれませんか?」
皆に首を振られた…何それ、悲しい。
「ではリストを見に行きましょうか。」
セイレーア様が提案した。
「そうですね。」
私も同意はしたけど…
「あ?我々が何を指定したか?それくらい想像しろ!」
そう言われてしまった。そしてそれも知っていた。
それにしても先生、急にガラが悪くなっている。何かあったのかな?
そんなわけで、よくわからないまま試験はスタートした。
25.知識はチートです
「それでは少し先生方の思考を読んでみたいと思います。多分、先生方は使い勝手のいいやつ、稀少性の高いやつに得点をつけると思うんです。だから、このリエルト草などは利便性がよく、得点が高そうですし、ここにはないですけどアカゲキノコなどは稀少なので高得点が狙えるでしょう。」
嘘は言っていない。ゲームでプレイしたとき、確かにそういった理由でこういう植物の得点が高かったから。だけど…心配なことがある。セイレーア様、区別つけられるかな?
貴族はふつう自分で探したりしない。
残りの二人、王太子とカンヴェスは確かに高位貴族だが、ゲーム中にこの二人が役に立つことは立証済みだ。
「リエルト草は、水場に多くあるでしょうから…あっちですね。あちらへ行きましょう。」
誘導する。もちろんこれもゲームでの経験が元になっている。
転生者の小説で、チート能力をもらうことがよくある。だけど、そもそも前提として、元の世界の記憶があるのがチートなのだ。このように。
「お!」
カンヴェスが驚きの声を上げてくれた。そう、ここにはリエルト草が大量に生えているのだ。さながらリエルト草に楽園だ。
リエルト草は確かかなり得点を得られたはず。ただ、同じ種類をたくさん取るよりは。色んな種類を適量ずつ取るほうが先生方からの評価が高かったような気がする。
「すみません、少し探してきます。ここにいて下さい。」
そう伝えて一人、新たな草を探しに行く。もちろん記憶を辿って。
最高すぎる。
「分かった。」
「気を付けてね。」
そして、いろんなものを取って、15分後、私は皆の場所へ戻った。
「戻りました。」
「お疲れ様。こっちは十分に取れたわ。次はどこに行くの?」
「そうですね。次探すならバッファでしょうか?」
「バッファ?確かに利便性は高いわね。」
「良さそうですよね?」
「ええ。」
「では探しましょうか。確か日当たりのいい場所に生えるらしいので…こっちでしょうか?」
そう言ってまたまた誘導していく。
「「お!」」
今度はカンヴェスだけでなく王太子も驚いてくれた。何故か嬉しい。
そして、また私は個別に取りに行く。
そんなことを何回も繰り返した。
弁当も食べた。
「制限はいつまででした?」
「確か、日が45度になる頃らしいぞ。その1時間前と30分前、10分前に鐘を鳴らすと言っていた。」
そういやそんな設定はあったな。
「どうします?採集での得点は十分に取れたと思うのですが、もう森を抜けることにしますか?」
「いいんじゃないか?」
同意も得たし、では帰ろう…いや向かおう…かな?
薬草で荷物は多少重いが、そこは男二人が持つことを引き受けてくれた。
「!」
「気をつけろ、狙われている。」
「え?」
「本当だ…」
カンヴェスも頷く。
どういうこと?この森には危険な動物はいないはずだけど?魔物なんてのはさらにいるわけがない。
「まだついてきている。」
私たちは、どうしようもない緊張状態に飲み込まれた。
26.植物は便利です
―—カキン
剣と剣が綺麗にぶつかる音がした。見ると、王太子と不思議な人物が戦いに突入していた。
私たちは、ただ茫然としているしかない。
すると、人影が増えた。
「|火盾《ファイヤシールド》!」
とっさに火で防いだ。しかしその集団…3人は火を破ってくる。
「目的はいったい何かしら?」
「シェイン」
「…そう。それでは交渉の余地はないわね。戦いましょう!」
そっか…私が狙われていたんだ。だったらこの前のベルーゼにときに起こったことも知られているのかな?だったら事前に火盾に対する対策はたてられていてもおかしくないかもしれない。
「そうですね。叩き潰しましょう。」
「「|風車《かざぐるま》!」」
やった!セイレーア様と揃った!
(スピリア、干渉しないでね。セイレーア様の方もそう伝えて。)
『うん!』
「土塁!」
一拍遅れて、カンヴェスも放つ。
風車、土塁。どちらも日本を感じられる名前である。日本人が考えたゲームだからそうなるのはおかしくないと思うけど…。
風車は竜巻みたいなものを起こす魔法。そして土塁は塞ぐ魔法。上から挟むこともできる。そしてカンヴェスは力はあまり強いとは言えないが、成長はしているし、剣も強いから問題ないだろう。
「3人…ね…」
この試験のことが事前に漏れていた可能性も考えられる。そうすると、学園内の人物が黒幕かそれに近しいものだ、ということか。一体何なんだろう?最近は何も問題を起こされずに済んでいたのに。
「|土玉《ソイルボール》!」
いわば鉄砲みたいなやつだ。これで相手を撃ち抜く!
これはカンヴェスにも教えているし、カンフェスは勝てるだろう。あまり弱点のないいい男というのはあまりいい気がしない。それが女だったらなおさらだ。
「|土玉《ソイルボール》!」
もう一発入れてやった。そしてらとうとう事切れた…いや死なせてはいないけど。
「蔓!」
そしてその襲撃者は難なく捕らえられた。カンヴェスも同じだ。王太子はまだ戦っている。私には剣の跡が見えない。多分、ハイレベルの戦いなのだろう。
見ていると、カンヴェスが参戦してくれた。これで勝てるだろう。
セイレーア様はというと…
「|水刃《ウォーターブレイド》!」
もうすぐトドメをさせそうなところまで来ていた。
それにしてもこの魔法も魔法だ。|水刃《すいじん》でもいいのにわざわざ|水刃《ウォーターブレイド》何ていう面倒くさい西洋風のものを使う。こんなものに何の意味があるのだろうか?わからない。
ともかくセイレーアも無事に倒せた。もし彼らが学内の情報を聞いているのなら、私たちの実力が上がった、ということは信じず、従来の評価を信じてこの人たちを選んだんだろう。
残念でした〜。
私たちもちゃんと強くなっていたんだから。だから文句は言わせない。
「蔓!」
セイレーア様が戦った相手、そしてついさっき終わった王太子が戦った相手、その二人を蔓で縛る。
「さて、どうしますか?連れて行くのは大変ですけど…」
「先生を呼びましょう。」
「ですよね。」
まあそうなるだろうな。
「光!」
空に向かって魔法を飛ばす。あとは先生が来てくれるのを待つだけだ。
更新頻度を少し遅くします。どうぞこれからもこのシリーズをよろしくお願いします
27.怪しさ満載です
「どうした!?何があった?」
すぐに先生はやってきた。私たちはこの人たちに襲われたことを説明する。
「この人たちを?見たところ強そうだが…お前達が勝ったのか?」
「そうですよ。」
「ほう…分かった。警吏に渡そう。」
そんなことを言ってきたのだが、何だかこの先生、きな臭い。
「いえ、そういうことではなく。」
「じゃあ何だ?」
「これは私たちで持っていきます。」
「これ…ああ、うん、まあそうかもな…」
その先生は蔓に巻かれている襲撃者を見て何か納得したように頷く。
「それで、もしかしたら遅れるかもしれないことを伝えておいてほしいんです。」
「分かった。だがそれでいいのか?」
「どういうことですか?」
「遅くなると、その分得点も減るが…」
「構いませんよ。十分な量の植物を取っておいていますからね。」
「そうか…だったらいい。」
そして、その先生は帰っていった。
「シェイン様、何で先生に頼まなかったの?」
「ああー、なんとなく信用できない気がしたんですよねぇ。」
私たちは森を歩きながら会話をする。
「まあこの人たちの重さは空属性でなんとかなるので、そこまで大した手間ではありません。」
「それはそうかも知れないけど…まあいいわ、シェイン様には何か考えがあったのでしょう?」
「ええ、多分。」
そうでもないときな臭さを感じることはないだろう。
「だったら信じるわ。」
セイレーア様が、可愛い!
王太子にカンヴェス、このセイレーア様を見ろ!きっと胸を打たれるだろう。
「ありがとうございます。」
そこから私たちはただ黙々と歩き続けた。もちろん途中に面白い薬草があったら採ることにした。
「到着です!」
「到着したわ!」
「到着だな!」
「終わったな!」
森…林を抜け終わった時にはみんなそれぞれ達成感を抱えていた。
「これが植物です。指定されているものを推測して採ってきました。」
あとは先生に提出して、警吏の人を読んで、そして終わりだ。
…私たちは。
他の人は帰った後はいろいろ楽しく過ごしていたらしい。しかし私たちはそれが出来なかった上に、さらに取り調べが待っていた。毎回毎回こに取り調べというのは悪いタイミングでしか起こらない。楽しく過ごしたいという時に起こり、つまらないという時には起こってくれないのだ。扱いが非常に難しい。
「…またあなたですか。」
なんと、前回と同じ取り調べ官だった。
「そのようですね。」
「それでは話を聞かせてもらっても?」
「はい。」
そして説明した。
「なるほど…シェインさんは狙われているのですね。」
「あ…」
そんなところまで喋ってしまった。これからはもう少し自重しよう。
「まあ話は以上です。」
慌てて取り繕う。危ないところだった。
「分かりました。他の人とも照らし合わせ、おかしなところがあったらまた呼びますがよろしいですか?」
「はい。…あ、あと、黒幕を聞き出してくれませんか?」
「黒幕…ですか?」
「はい。少し前の卒業パーティーで退学を目論まれたんです。それには黒幕がいるらしくて。今回も私が狙われているから同じ人物が裏で手を引いている可能性も…」
「分かりました。そこについても聞いておきましょう。結果はまた来て下さい。そこでお伝えします。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そして、無事に取り調べを終えた。その場にはとっくに取り調べを終えた王太子がいた。…王太子の取り調べの担当になった人、可愛そうだな。
つい同情してしまった。
28.SIDE カンヴェス
俺は、魔術は普通だ。ちょっとできる方、それが簡単な印象である。
しかし、それは単純に強い精霊が選んでくれた。ただそれだけが理由なのだ。それが、悔しかった。
…俺も親父みたいに実力で何かを成したい。
そして、俺は精霊以外で強くなるための|術《すべ》を模索しはじめた。
そんな中、聖女が見つかったということを聞いた。聖女は急に魔法を使えるようになったという。そして、調べた結果、全属性であることが分かった。
これには何かきっかけがあるはずなのだ。そうじゃないと、説明がつかない。そして説明がつかないことはおかしい。
接触を試みることにした。
…が、彼女…シェインはセイレーアという令嬢によく話しかけている。さらに、王太子殿下も時々彼女に話しかけに行くのだ。俺が話しかけに行くことは気まずくて出来なかった。
しばらくすると、彼女には悪い噂がたつようになった。しかし、そのようには見えない。疑問を持った。
そして、卒業パーティーで、彼女の潔白が明らかにされた。しかし、彼女は学校を1ヶ月…休みと被っていたとはいえ休むことになった。
俺が話しかけるタイミングは、さらになくなった。
そんな俺にチャンスがやってきた。
ある時、裏庭にいると、シェインとセイレーアがやってきた。
…やっと会えた。
話しかけると、魔法の実験をするのだと言ってきた。
「魔法だと!?」
なんと!聖女が行う魔法の実験だと!絶対に見たい!そしてそれを自分にも使いたい、そしたら自分も強くなれるかもしれない。
「俺にもそれを見せてくれないか?」
「嫌です!」
「あ?」
なぜ俺はこんなに嫌がられなければならないのだ?
「分かりましたよ。ただ、そんなに面白いものではないと思いますが。」
「別にいい。聖女がどれくらいの力を持っているか興味があるだけだ。」
「セイレーア様、構いませんか?」
「いいわよ。」
「それでは、使いますね。」
「何を使うか先に教えてくれない?」
「今から使うのは単純に火を作るだけですよ。単純なほうが成長が分かりやすいですし。部屋じゃあ、大きいものは練習できなかったので。」
「それもそうね。どうぞ。」
「まずは今まで通りやりますね。|火の玉《ファイヤーボール》。スピリア、よろしく。」
スピリア?一体それは誰だ?俺には分からない何かがいるのか?
疑問がどんどんどんどん湧いてくる。
しかし、その後に「昔の方法」と言って出された魔術はとても大きい|火の玉《ファイヤーボール》だった。
これぞまさに探していたもの!これだったら精霊とかは関係無しに強くなることができるかもしれない!希望が生まれた。
そして、何とか乞うて教えてもらえることになり練習が始まった。これは昔の魔術…精霊を介さない魔術らしい。
セイレーアの方が出来は良かったが、彼女がその後に分かりやすく教えてくれたお陰で俺もなんとか遅れずに済んだ。
そして、それを授業で使ってみた。
威力は、強くなっていた。これで、俺はあの家で堂々と過ごせる。
シェインとセイレーア、どちらも好ましい。だから、何かあったら彼女たちを助けてやりたい。
そう思った。
29.国語なんかしたくないです
結果発表があった。
何の、かというとこの前の遠足での試験の結果だ。
『一位:シェイン・セイレーア・ガベーナ・カンヴェス』
だった。ちなみにガベーナというのは王太子の名前だ。
「何故かわかるか?」
先生が皆に問う。
周りを見てみると、みんな首を振っていた。
「ではシェイン、答えろ。」
私!?
「そうですね。先生が欲しかった薬草をたくさん拾ってきたからじゃないでしょうか?」
「そうだ。他の班は時間を急ぎ、その上で目ぼしいものを摂ろうとした。だが彼らは違った。時間で貰えるであろう評価を始めから採ることで成り変えようと考えていたのだ。そしてこれがその結果だ。」
褒めてくれているところ悪いけど、これ、チートしているんだよねぇ。
とっても気まずいやつだ。
そして、軽く先生のお説教というかお話というか…そういう物があり、この日は授業が終わった。
私は、警吏の人に呼ばれていた。結果を教えてくれるのだそう。
早速行ってみることにした。
「それで、取り調べの結果、彼らはゼノバというカスタニア学園の先生の命で動いていたそうだ。」
へえ、今回は当たりだな。
「そんなところまで分かるんですね。ありがとうございました。」
そして、特に他の報告はなかった。
セイレーア様にもその結果は伝えた。
「本当にそうなのかしら?」
「どういうことですか?」
「ゼノバ先生とは関わったことがあるけど、確かに嫌われもので、自分からも嫌われるようなことをしている人だったわ。」
「だったらやっぱりゼノバ先生なのでは?」
「だからこそ、よ。ゼノバ先生は確かに嫌われるようなことをする先生だわ。だけど、対人においてだけど、実力行使はしたことがないのよ、しかも先生を何十年続けているのよ?それなのにそんな簡単に先生の職を棒に振るうかしら?というか実力行使も出来ない先生だと思うわ。」
「セイレーア様がそう言うなら…」
もう一度考えてもいいかもしれない。
だけど…
「だったらどんな考えがあると思いますか?」
「嘘なんじゃないか?」
声が聞こえて振り返ると、王太子がいた。
「嘘、とはどういう事ですか?」
「話を聞いていてすまない。嘘というのはそのままだ。その警吏が嘘をついてそれらしい先生を挙げたのではないか?」
「なるほど…だったらそれよりは犯人が嘘を付いてゼノバ先生に仕立てている、という考えもできますね。」
「そうだろう?」
「ええ。」
確かにこれは疑おうとしてみなかった。
「もちろんゼノバ先生だということもあり得るが、それ以外だということも考えてこれからは行動するがいい。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
私とセイレーア様、二人で感謝を伝える。
これで、あちらの思惑を少しは超えることができただろうか?それができたなら、これからは安心だ。
私は、黒幕を倒して、セイレーア様を幸せにするんだから!
30.先が読めません
ゼノバ先生が連れて行かれた。そりゃそうだ。だって警吏の人たちはあの襲撃者達の嘘かもしれない証言を信じているんだから。
「ゼノバ先生、連れて行かれてしまいましたね。」
「そうね。だけど何もしていないなら大丈夫じゃないかしら?」
「拷問とかされていたら…」
「警吏もそこまで愚かじゃないはずよ。」
「ともかく、私たちが真犯人を見つければいいんですからね。」
「そうよ。どうすればいいかは分からないけれど…」
薬学の授業があった。
「それでは、薬学の授業を始める。今日、お前らに作ってもらうのは傷薬だ。それも大きめの傷に対する。教科書を開け。」
傷薬かぁ。
そして先生の指示に従って調合にはいる。
「お、シェイン。どんなだ?」
「まあまあですね。」
「そうか?俺にはよくできているように見えるが…」
「まだまだですよ。」
「…まあ本人がそう思っているならいいか。」
「せんせーい、じゃあ俺は上手いと思っていてもいいんですかー?」
あまり調合がうまいとは言えない男子が発言した。
「お前は駄目だ。下手なのに上手いと勘違いするやつはいずれ滅びる。」
この先生…アナレウス先生はちゃんと生徒のことを考えているんだな。そんなことを少しだけ感じれた。
「ところでお前ら、ゼノバ先生のことを聞いたか?」
ただ、アナレウス先生、悪癖があって、みんなが調合している時に話しかけてくるのだ。お陰で集中できない。これがなかったらもっといい先生になれると思う。…静かすぎるとそれはそれで困るけど。
「「「はい。」」」
「なんともこの前の遠足で危険なことをさせようとした、とか。以前から思ってたんだが、ゼノバ先生は教師らしくない。」
そうなの?
「ああいう教師も昔はもっといたんだがなぁ。だけど俺の教え方に文句は言ってくるしで正直迷惑だった。あの出来事が本当ならゼノバ先生はにどと教職に戻れないはずだ。」
なんか変な先生だ。ゼノバ先生をいいと思っているのか悪いと思っているのか、まったくわからない。これはどう解釈するのがいいんだろう?
そしてそのまま授業は終わった。
「セイレーア様」
「何?」
「アナレウス先生っていつもあんなふうに他人の悪口を言っているんですか?」
「ええ…間違ってはいないわ。だけど、普段と比べても饒舌な気がするわ。」
「そうですよね。怪しいと思いませんか?」
「どうでしょう?言われてみればそうかも知れないわ。」
うーん、セイレーア様があんまり気にしないってことは違うってことかなぁ。わかんないや。
教室で話していたのだが、時折、バタッという音が聞こえる。
何か騒動でも起こっているのかな?
分からないけど、とりあえず気にしないことにした。
「少し、アナレウス先生を探ってみようと思います。」
「どうやって?」
「スピリアで。」
「ああ、なるほどね。」
「正確には仲間の方ですけど。」
「確かに便利そうね。」
「便利だからこそ、あまり乱用しないように気を付けておかないといけませんね。」
「そうね。」
そして、次の日、事態は急変する。
31.巻き込まれました
「セイレーア様、寮に帰りましょう。」
「そうね。」
そう言ったときだった。
「!」
後ろから羽交い締めされた。少し語弊があるかもしれないが、そんな感じだ。
「シェイン様?」
セイレーア様も驚いている。
だけど…
私は、あまり目につけられないところに連れて行かれた。セイレーア様からここを見つけるのはちょっと難しいと思う。自分で何とかするしかないかぁ。
(スピリア。)
『何?』
(魔力をたくさんあげるから、この後何かあったら私を助けてくれない?)
『たくさん?だったらいいよ!』
(ありがとう)
良かった。これで大丈夫だろう。あとはこの人物。黒幕の命令で動いているんだろうけど、一体誰なんだろう?そしてこの前攻撃してきたのにもう攻撃されるの?何か理由でもあったのかな?それとも黒幕じゃなかったりして?
次から次へと嫌な想像が溢れ出してくる。
…スピリアと喋ることができて良かった。
「シェイン様!」
セイレーア様の声が聞こえる。答えたい。だけど口は塞がれてしまっている。
『声を届けようか?』
(そんな事もできるの?)
『うん!』
(じゃあ黒幕にさらわれたことと、犯人の特徴…私からは分からないけど教えといてくれる?)
『もちろん!アナレウス先生だってことも伝えておくね。』
(もう確定したの?)
『うん!』
精霊…便利だ…。
その後、セイレーア様の声は聞こえなくなった。何をスピリアが起こしたかは分からないけど、伝わったのだろう。
「よし、いなくなったな。じゃあ行くぞ。喋るなよ。」
…一体、アナレウス先生は何が目的なのだろう?
その疑問の答えは分からなく、深い沼に沈んでいった。考えれば考えるほど深みにハマっていく…。
そして、私の意識は落ちた。
目が覚めた。
私は、椅子に縛られていた。
…これ、体が痛くなるやつじゃん。
ふと手を見ると、インクで黒にまみれていた。
…一体何があったんだろう?
「起きたか?」
アナレウス先生に聞かれた。無言で返す。
「早速だが、この契約書にサインをしてほしい。」
契約書?ろくなことにならない気がする。
(スピリア、この場所をセイレーア様に伝えて。)
『はーい。…伝えたよー』
速い…ただ、スピリアがこの場を離れるようなことは起こらなくて安心だ。これで何かあったら魔法を使ってもらえる。
「ペンを持て!」
首を振って否定の意を伝える。大体口はふさがれている。喋ることはできない手は片手だけ空いていて、意外とやろうと思えば抜けられるかもしれない。
そこで気づいた。もしかして、私の手が汚れているのはこの契約書にサインをさせようとしたから?それだったらサインしないほうが賢明だろう。
「お前、今の立場分かっているのか?」
頷く。
「分かっているならもし拒否した場合、どうなるか分かっているのか?」
どうなるんだろう?私には聖女としての価値があるから殺せないと思うけど…。
最悪の場合は売られるくらいかな。ただ、その場合アナレウス先生には国から罰があると思うけど。
「せいぜい愉しむだけさ。」
うわぁ。この先生嫌だな。早くセイレーア様来てくれないかな。
現実逃避をすることにした。
(スピリア、先生には何の魔法が聞く?)
『えーっとねー、火と風は対策しているよー』
(ありがとう。)
火は使えない、か。しかも風も。風車と火で燃やすことは期待できないな。
(だったら土玉で足と手を打って。)
『はーい』
パンパンパンパン。
乾いた音が響いた。アナレウス先生の手と足からは血が出ていた。
「…は?」
ついでに口の自由を取り戻す。これもスピリアに頼んだら簡単にやってくれた。
「私は無力ではありませんよ。この場所にも時期に助けが来ます。先生の失敗は、事を急いでしまったことですね。」
「…」
32.救援の到着です
『もうすぐセイレーアが来るよ。』
(教えてくれてありがとう。)
『いいえー』
「まだ何かありますか?」
「ある。」
「急いて事を仕損じかけている先生に、まだそんなものがあるんですか?」
「そうだ。」
「それは楽しみですね。しかし、もうゲームオーバーですよ。」
「は?」
「シェイン様!大丈夫!?」
「救援の到着です。」
そんな私は、悪魔に見えていたかもしれない。
「…」
その時の先生の顔と言ったら…本当にポカンとしていて面白かった。不謹慎かもしれないけど。
その後は普通におとなしくしてくれた。
ただ、少し残念だ。やりがいがなさすぎる。前の断罪騒ぎではあの令嬢たちの反論は見苦しいといえども、こちらも楽しめた。そして前の襲撃の時は戦いも楽しむことができた。そして、今回。私はただ一晩明かしただけだ。あちらが正体も言ってくれて、何も私が頑張るところはなかった。
「シェイン様、大丈夫?」
「ええ。だけど、お腹がすきました。」
もしかして、アナレウス先生は食事を与えないことで自分の優位を保とうとしたのかな?それだったら効果があったかもしれない。先生は愉しませてもらうとか言っていたが、この様子だと本当にそれを遂行できたかさえ疑問に思えてくる。
「それは大変ね。あとはわたくしたちに任せていいわ。あなたはまず安全を計りなさい。」
そして、王太子がやってきた。
「少しの間、我慢してくれ。」
よく見ると、カンヴェスもベルーゼもいた。ありゃりゃ…。まあこんなけいれば大丈夫か。
「蔦」
また万能な植物魔法で乗り切ることにした。
「では気を付けてくださいね。」
「分かっているわ。」
そして、私は寮に行く…と思ったら保健室に連れていかれた。そういえば、今日は学校があるはずだ。それなのに来てくれたなんて…4人には感謝しかない。
「シェインを連れてきました。特に弱った部分はなさそうだがお腹がすいているそうなので何か食べさせてやってください。」
「はいはい、分かりました。」
そして、私は1日弱ぶりの食事を食べた。ついでに手も洗ってもらった。インキの汚れはあまりきれいには落ちてくれなかったが、いずれはとれるだろう。
そして、また警吏の人に取り調べを受けた。
「やはり今回もあなたが関わっていたんですね。彼が黒幕だというのは本当ですか?」
「そうですよ。」
そしていつも通りなんやかんや聞かれて、事情を説明して…
その時に精霊と話せることも伝えた。
今思えばこれは失敗した。だけどこれを説明しなかったらもっとおかしなことになる。
『ねえねえ』
ん?
『ねえねえ、シェイン。』
(何?)
『スピリア、一個頑張ったんだよ』
(いつ?)
『シェインが寝ているとき』
(そうなの?)
『そう、あの男を困らせてやったの。』
(ありがとう。)
そして内容を聞いて、この日は授業は休み、寮に帰ることにした。
33.SIDE アナレウス
何故だ!?何故バレた!?
「少し、アナレウス先生を探ってみようと思います。」
「どうやって?」
「スピリアで。」
「ああ、なるほどね。」
「正確には仲間の方ですけど。」
「確かに便利そうね。」
「便利だからこそ、あまり乱用しないように気を付けておかないといけませんね。」
「そうね。」
思い出すのはついさっきまでされていたこの会話。廊下を通っていた時に聞こえた。この声は…セイレーアとシェイン…
もしかしてバレたのか!?
俺はいつもどおり過ごしていたはずだ。そしてあいつらは捕まったとき、ゼノバ先生だと言って、実際ゼノバ先生は捕まっている。なのになぜ怪しまれている!?
分からない。
さらにシェインはスピリアというナニカを使って探りを入れるのだそう。何かはよくわからないが、あのシェインが使うものだ。ろくなものはないだろう。そうだ、明日だ。明日、あいつを誘拐し、署名をさせてもらおう。
早速次の日の放課後、さらうことにした。今のところスピリアとやらが来た形跡はないし、確定には至っていないと思うが…
セイレーアがいたが、さっさとさらうことにした。たださらった後が大変だった。シェインはあまり騒がなかったのだが、セイレーアがなかなか離れてくれないのだ。しばらく経って、離れていったが…
「よし、いなくなったな。じゃあ行くぞ。喋るなよ。」
夜、シェインの意識がないうちにさっそく書類にサインをさせようとした。これからは俺の指示に従う…つまり服従させるやつだ。シェインが書いたという事実が重要だから、本人に意識があったかは正直どうでもいい。だからあとは書くだけのはずだった。
だが、上手くかけなかった。自分はちゃんと手を動かしているのに、動いてくれない。手に何かの意思があるかのようだ。
…少し、気味が悪くなった。
「起きたか?」
シェインが目覚めたようだ。
「早速だが、この契約書にサインをしてほしい。ペンを持て!」
「お前、今の立場分かっているのか?」
「分かっているならもし拒否した場合、どうなるか分かっているのか?」
「せいぜい愉しむだけさ。」
一方的な掛け合いが続いた。そして…
パンパンパンパン。
乾いた音が響いた。俺のの手と足から血が出ていた。
「…は?」
「私は無力ではありませんよ。この場所にも時期に助けが来ます。先生の失敗は、事を急いでしまったことですね。」
「…」
「まだ何かありますか?」
「ある。」
「急いて事を仕損じかけている先生に、まだそんなものがあるんですか?」
「そうだ。」
それに、多少は急いたとはいえお前の手が変にならなければ成功していたのだ!
「それは楽しみですね。しかし、もうゲームオーバーですよ。」
「は?」
「シェイン様!大丈夫!?」
「救援の到着です。」
「…」
そう言ってシェインはにんまり笑った。このタイミングと言いその顔といい…悪魔め…やはりお前が聖女とは認めない。
その後、徹夜と多量の出血が聞いて、俺の意識は落ちた。
目が覚めると、取り調べ室にいた。聖女に対する過失の現行犯として捕らえられたようだ。
あんな悪魔が聖女なのだ…
認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない。
俺は絶対に認めない!
どうやら見解の相違があるようですね。
34.騒ぎを起こしたのは忘れます
ファンレターありがとうございます!
騒ぎが起きた。
そりゃそうだ。精霊と話せる者が現れたとなったら大きなニュースとなるだろう。もっと考えてから行動…いや説明をするべきだった。失敗した。しかも…。
…もうすぐ夏休みという時期に、だ。
これの意味が分かるだろうか?つまり、夏休みの間、私はきっと王宮に行かされる羽目になるのである。もちろん私の後ろ盾は王家であるから、逆らえるはずがない。
そういうわけで、これより少し前に行われる遠足に意識を飛ばすことにした。
「今日はみんなお待ちかねの遠足だ!今回は…試験はない!!」
その言葉にみんな喜びだす。もちろん貴族としての良識の範囲内…で。
「ただ、あとでレポートは書いてもらう。レポートに書けるくらいのことは学んでおくように!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
さてさてお待ちかねの自由行動である。
「セイレーア、一緒に行きましょう。」
「ええ。」
私が声をかけたら顔がぱあっと明るくなった。セイレーア様かわいい。
「地図で調べてきたんですよ。確かあっちの方に良さげなところがありました。」
「良さげなところ?シェイン様が言うんだから素晴らしいところなのでしょうね。楽しみだわ。」
そう言ってふふっと笑う。これまたかわいい。
「まあ推測ですから分かりませんけどね。」
『綺麗なところだよー』
スピリアが現れた。私に見せる時と見せない時で分けられるのをずるいと思うのは私だけだろうか?
「あ、スピリアが綺麗なところだって言ってくれました。ねえスピリア、セイレーア様に声を聞かてくれない?」
『いいよー』
「あ、聞こえたわ。」
そしてなんだかんだ喋りながら目的の場所に到着。
「うわぁ。」
「綺麗ね。」
「そうですね。」
『ねえねえ、たくさん仲間がいるよー』
「精霊が?見せてくれるよう頼んでくれない?」
『もちろん!』
そして精霊が姿を現した。
「うわぁ。」
本日二度目のため息である。もちろんいい意味だ。
私の目の前には滝つぼとそこから流れる川。そして河原があって、森の中で少し開けている場所にたくさんの花が咲いていた。
そしてその中でたくさんの精霊が戯れている。カラフルな色。そして皆、楽しそうにお喋りしている。
「こんにちは、精霊の方。」
『私たちが見えるの?』
「そうですよ。私は全属性持ちなので。」
『初めて見た!』
『かわいい…』
「この場所に立ち入ってもいいですか?」
『いいよ。ついでに私たちとお喋りしよう!』
「いいですよ。彼女に声を聴かせることはできますか?」
『|そこの仲間《スピリア》がやっているやつ?私たちはそんなに力が強いわけじゃないから難しいかも…』
「そっか…無理を言ってごめんなさい。だけどお話はしましょう。」
『ほんと!?』
「もちろんですよ。一度約束しましたしね。」
『やったー!ねえねえ、』
そこから楽しいおしゃべりの時間が始まった。
セイレーア様には少し申し訳ないけど、スピリアとずっと喋ってもらっている。あ、セイレーア様が立った。魔法の練習をしている。…申し訳ない。こんどまた一緒に出掛けよう。私のためにしかなっていない気もするけど多少は気にしない気にしない。
そんなふうに時間は過ぎていった。
35.仲間が出来ました
「シェイン様、もうすぐ時間では?」
「そうですね。じゃあまたね、皆。」
『…ねえ!』
「何?」
『私もついて行っていい?』
「? 別に自由にしていいですよ?」
『じゃあついて行く!』
『え、それならうちも!』
『それなら私だって時々は遊びに行くもん!』
「嬉しいです。」
これは本心だ。
『『『ありがとう!』』』
「こちらこそありがとうございます。」
そう言ったら自然と笑みが出てきた。
「じゃあ行きましょうか。名前は付けていいのですか?」
『付けて!』
『付けて!』
『『スピリアみたいな名前を!!』』
仲が良い精霊だなぁ。
「セイレーア様、精霊に名前をつけるとしたら何がいいと思いますか?」
「? 一体どんな流れでそうなったの?…そうね、精霊…神の息吹…ブリーズ…プレアなんてどうかしら?」
セイレーア様…原型はどこへ消えたのですか…誰も由来に気づきませんよ…
まあ由来はともあれ名前としてはいいと思う。
「じゃあ金髪の子はプレアね。」
『うん!ありがとう!』
こうして一人称が「うち」だったこの名前がついた。
「で、藤色の髪のあなたは…」
藤ってたしかウィステリアだったよね?
「ウィリア。ウィリアなんてどうですか?」
『ありがとう!』
「さて、シェイン様、事情を説明してくれますか?」
今朝のセイレーア様は可愛かったのに…今のセイレーア様には少し凄みを感じる。
「ええとですね…私が帰ろうとしたら喋っていた精霊のうちの2体が一緒に行きたいと言ってくれたんです。」
「はぁ…あなたは分かっているの?ただでさえ精霊が見えることで話題になっているのに、契約されていない精霊も連れているとなったらみんな理解しきれなくなるわよ。」
「その割にセイレーア様は大丈夫そうですが…」
「わたくしは慣れたのよ。」
「じゃあそうすれば受け入れてもらえる…ですが、私はスピリアのこと以外まだ言うつもりはありませんから。」
「そうなの?それだったらいいわ。」
良かった。セイレーア様を納得させれられたみたいだ。
そして、もとの集合場所に到着した。
「全員揃ったか?」
「「「「「「「はい。」」」」」」」
「じゃあ帰るぞ。」
「なあシェイン。」
「何ですか、王太子殿下?」
「通りかかったときに見たんだが…お前ら一体何をやっていたのだ?」
「私は…聖霊とおしゃべりしていました。」
「わたくしは魔法の練習をしていたわ。」
「シェインは…まあいいだろう、だがセイレーア、お前は遠足だというのになぜ魔法の練習を?しかもはじめと終わりでかなり上達していたではないか」
ん?
「王太子殿下は、そんなに何回もセイレーア様を見ていたのですね。」
もしかしたら私への好感度が上がっているのでは?というのは完全なる思い上がりでセイレーア様への好感度も上がっていたかもしれない。それだったら嬉しいなぁ。
「たまたま使っていた場所からお前たちがいたところが見えたのだ。」
「そうなんですね。」
そして、遠足が終わって数日。シェインにとって地獄の夏休みに突入した。
36.行くしかないです
「シェイン、父上から言伝てだ。夏休みは王宮に来るように、だとさ。私も行くから一緒に行かないか?」
それは夏休みの始まる前、地獄への宣告のように慈悲なく私を襲ってきた。
「はい…」
王家は後ろ盾だから行くしかない。だけどさ、普通の人は夏休みの一ヶ月を王宮で過ごしたくはないと思うな。
次の日、気がついたら私は馬車に揺られていた。
どうやら嫌すぎて記憶を一部消したようだ。
「王宮…」
「いやいやだな。」
「そりゃそうですよ。」
「大丈夫だ、セイレーアが訪ねられるようにはしている。」
「本当ですか!?」
これは嬉しい。セイレーア様に会えるなんて…!
「もちろん、研究者の方にも会うことになるが…」
「それが嫌なんですけどね…あ、国王陛下には言わないでください。」
「分かってる。」
それは良かった。いやいやが知られたらこれからの立場がなくなるところだった。貴族社会は面倒くさい。
王城に着いた。
ここに来るのは三度目だ。一度目が聖女だと発覚したとき、そして二度目が入学前。どちらも泊りではなかった。泊るのは今回が初めてだ。
「シェインを頼む」
「分かりました。それではシェイン様、部屋へご案内します。」
「ありがとうございます。」
侍女、なのかな。
そして部屋に通された。
「ここが夏休みの間過ごしてもらうことになる部屋です。」
とても豪華な部屋だった。それに、ベッドがある。寮のベッドは板同然でその上に布団が置いてあっただけだからなぁ。ああいうのもベッドとは言うけど、やっぱこんな感じの弾力のありそうな方がベッドって感じだよね。
「ありがとうございます。…ええと、あなたは?」
「失礼しました。夏休みの間、侍女として世話をさせていただきます、コリンナと言いいます。いつもは王太子殿下にお仕えしていますが…。よろしくお願いします。」
あらら…一ヶ月も私の世話をすることになるなんて…私は一人でも生活できるのだけど…何か仕事をあげないといけないのかな?
「コリンナ…様?よろしくね。」
「敬称はいりません。」
「コリンナね。分かったわ。」
さっそく、荷物の片付けに入る。ほとんど服だったのだけど…。
…これ、私が服を持ってきた意味あったかなぁ?
クローゼットの中には高級そうな服がいくつも入っていた。
「これは…着ないと駄目なのでしょうか?」
「王妃様が楽しげに選んでおられましたからね。ぜひ来てあげてください。」
つまり着ろってことね。まあ私みたいな庶民に似合うかはともかく、こういった服を着るのは憧れと言われれば憧れだった。できればこんな気も抜けないものとしてじゃなくて遊びとして着たかったけど…。
「片付けがある程度片付きましたら王に呼ばれていますので…」
「分かりました。」
「着替えてください。」
え?
「今すぐ向かうのでは?」
「まさか。せっかく王妃様が選んでくださったのですよ?それを着ないでいいはずがありません!着てください!」
…おう、なんかキャラが変わっているぞ。
コリンナに急かされた私が選んだのは、黄色いドレスだった。理由は私のオレンジの髪に似合いそうだったから。他の服も似合いそうだから選ばれたんだろうけど…。
久しぶりの対面なのだから、冒険はできるだけしたくない。それが本音だ
37.巻き込まないでください
「お久しぶりです。」
「シェイン、よく来た。」
これは一体何のための時間なのだろう?国王陛下と話すことなんて何も無いんだけど。
「ご支援のお陰で、不自由なく過ごせています。」
「それは良かった。ところで、お主は聖霊がみえるというが誠か?」
「はい。ただ、聖霊が見せてもいい、と思ったときじゃないと見せてくれません。」
「そうか。素晴らしいな!」
すごい…のかな?私としては自由に見たいのだけど。ただ見れない人がほぼぜんぶを占める中で、見ることが出来るというのはたしかにステータスとは成り得るだろう。
「ところでシェイン。」
「何でしょうか?」
「うちの愚息がお主に言いたいことがあるのだそうだ。」
「どんな要件ですか?」
はて?心当たりが全くない。
「…自分から言いたいそうだ。」
「いいですよ。」
…だけど、嫌な予感がするなぁ。
「シェイン。」
「何ですか?」
「私と婚約してくれないか?」
「…へ?」
おっといけない。聞き間違えてしまったようだし、思わず平民としての素が出てしまった。
「どういうことでしょうか?」
「そのままだが?」
「普通に考えておかしいとは思いませんか?」
「何がだ?」
「こちらは平民生まれ、そちらは貴族生まれ。完全に成り立っていませんね。」
「だが君は聖女だ。」
「聖女だからといって覆るわけないじゃないですか。聖女は遺伝しません。王家にとってもメリットはありませんよ。」
「政治的手腕もある。」
「私は政治的な場に立ったことはありませんよ?なにか勘違いされているのでは?」
「してない!なんというか…その…君がいいと思ったんだ。しかも卒業パーティーでの騒動。あの後も普通通りにできたのは君のおかげだ。」
そう言ってくれるのは嬉しいけど…
というか何それ。まさに乙女ゲームにありそうなセリフを言われてしまったんだけど。これが乙女ゲームの強制力?まったく好感度を上げようとしていない攻略対象者にも求婚されてしまうの?ゲームやる側だったらこんなゲームやめているね。やめれないけど。
「そうですか。ですが婚約は関係ありませんよ。」
「あっはっは。」
「はい?」
急に国王陛下が笑い出した。
「なるほどなぁ。お前が言いたいことは理解した。」
「ですよね?」
一体何の話をしているんだ?私が中心人物なんだから放っておかないで話に入れて欲しい。
「そうだな。だが、相手が嫌がっているなら今はまだ婚約は辞めるべきだろう。」
「そうですか…」
おい、王太子!なぜそこでショボンとする!
というかセイレーア様の王太子ルートが潰えた?
「セイレーア様はどうなんですか?身分もあり、性格もいいし、何より優しいですよ。」
「セイレーア?彼女を確か狙っている人が…」
「それは本当ですか!?誰ですか?」
それは嬉しい話だ。セイレーア様を幸せにする道も見えてきたかもしれない。
「名前は…個人情報だ。だからセイレーアに行くことはない。どうか私と結婚して欲しい。」
おいおい、一歩先にいっているぞ。
「そこは言っても婚約ですよ。」
「あ…すまない。つい気が先を向いてしまった。」
いや本当何があったの?いつの間に好感度上がっていたの?
「この夏、君と関われそうだし、君に好きになってもらえるように頑張るよ。」
「いえそれ以前の問題です。」
そう言ったが聞き入れてもらえなかった。…悲しい。