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目次
私の彼
一目見たとき、私は確信した。
この人だ、そう思った。
綺麗な目、黒くてさらさらな髪、太陽みたいにかがやく笑顔。
私の好みにぴったりだった。
その日の放課後、私は彼に話しかけた。
「あの、一緒に帰りませんか?」
彼は私の想像とは裏腹に「いいよ」と言った。
帰っている時はテストのこととか他愛のない話をした。
それから何日か経ち、彼とは席が近いのもあってよく話す関係になった。
彼とは今まで関わってきた人の中で一番続いた。
彼が私の好み過ぎたから、もう少し関わっていたかった。
半年がたった頃、私は彼を家へ招いた。
彼は一瞬戸惑っていたけれど、家へ来てくれた。
彼を家へ招き入れた後、私は彼にお茶を注いだ。
それも私が好きな烏龍茶を。
彼はおいしいと言ってくれた。
彼は少し前に漫画が好きだと言っていた。
だからおすすめの漫画を彼に貸した。
彼はおもしろいと言ってくれた。
そのあとは一緒にゲームをした。
時はあっという間に過ぎ、外も暗くなってきた。
部屋にはお母さんが作っているであろう豚汁のにおいが漂ってきた。
「じゃあ俺、そろそろ帰るね!」
彼はそう言った。
私はもう少し彼といたかった。
彼に恋愛的感情を抱いていた。
私は彼に話しかけた。
「…ねぇ、」
「ん?」
彼がふり返った時、私は手に隠し持っていたナイフを彼のお腹に刺した。
彼は驚いていたし苦しんでいた。
今までとは違う快感だった。
だって彼だもの。
私のだーいすきな彼だもの。
私だけの彼。
誰にも渡さない。
触れさせない。
私だけのモノ。
「ねぇ、ずっと一緒にいてくれるよね?」
鳥
私には付き合って半年の彼氏がいる。
彼とは一か月前から同棲していて、仕事の時以外いつも一緒にいる。
彼はいつも私より先に起きていて朝ご飯を作ってくれる。
私が「おはよう」と言うと彼も「おはよう」と言いながら頭をなでてくれる。
料理もできて優しい最高の彼氏だ。
ある日いつものように職場で仕事をしていると知らない番号から電話がかかってきた。
恐る恐る出てみると相手は警察だった。
何かしてしまったのかと思いながら警察と軽く挨拶をする。
しかし、数秒後私は手に持っていた携帯を落としてしまった。
彼が交通事故で死んだというのだ。
ショックで言葉が出なかったし動けなかった。
悲しみと同時に怒りがこみあげてくる。
その日はそのまま会社を早退して病院に行った。
彼は静かな顔でベッドに横たわっていた。
彼の死体を見ると強い悲しみが水滴となって目からあふれ出た。
何日か経ったあと、お葬式をして遺骨をお墓に納めた。
それも彼と一緒に選んだ結婚指輪を添えて。
彼と出会ってからのことを思い返すと涙があふれてくる。
彼のいない生活は思った以上に過酷だった。
唯一の癒しだった彼がいなくなってしまい、私は引きこもるようになった。
ある日ふとベランダの方を見ると鳥が鳴いていた。
きれいな青い鳥だった。
私はその鳥に引き込まれるようにしてベランダに出た。
するとその鳥が私の頭に乗って羽を擦りつけてきた。
彼がよく頭をなでてくれていたのを思い出す。
彼が目の前にいるような感覚だった。
彼が鳥になって私に会いに来てくれたのかもしれない、そんな気がした。
手。
「なんで手、挙げなかったの?」
そんな簡単な問いに私は駄作だったから、と短く答えた。
一時間前のこと。
掃除が終わり、椅子に座って終礼を待っているといつもと違う表情をした先生が教室に入ってきた。
いいのか悪いのかよくわからない顔をしている。
少しの沈黙後、ようやく先生が口を開いた。
「これ、落としたの誰ですか?」
先生の手には見覚えのあるルーズリーフがあった。
あ、私のだ。
それは私が授業中にこっそりと描いていた落書きだった。
「心当たりがある人は手を挙げてください。」
先生の変わらない表情に背筋が凍る。
だが想像とは裏腹に先生は続けて「すごく上手ですね」と言った。
少し驚いた後胸をそっと撫で下ろした。
怒っていなかったんだ。
周りの生徒も「うまー」などと言っていた。
でも私は手を挙げなかった。
終礼が終わった後、隣の席の子が「なんで手、挙げなかったの?あれ、あなたのでしょ?」と聞いてきた。
ばれていたのかと思いながら私は駄作だったから、と短く答えた。
「…でも、みんな上手って言ってたでしょ?」
私は「違う」と言い返したい気持ちを抑えて黙り込んだ。
みんなからしたら上手いかもしれない。
でもあれは私からしたらただの駄作。
そんなもので褒められても嬉しくない。
あれで手を挙げたらみんなから私はこのぐらいの絵を描く、このぐらいの上手さ、と思われてしまう。
本当はもっと上手いのに。
知るならそんな中途半端なものじゃなくて本当の実力を知ってほしい。
私はこういうのが嫌い。
だからあの時手を挙げなかったんだ。
雑巾
頭上から灰色の濁った水が降ってきた後少し重い何かが私の頭の上に落ちてきた。
ああまたかと思いながら頭に乗った雑巾を手に取りゴミ箱へと脚を動かす。
周りからはおそらく私に対してであろう笑い声が聞こえてくる。
少し濡れた雑巾をゴミ箱に入れ、机に戻ると机の上に置いてあった筆箱がなくなっていた。
どこへ行ったのかとあたりを見わたすと隣の席に座っているいじめの代表格のような人物の手にあった。
「それ、私の。返して。」と言うと彼女は「え~落ちてたから拾ったの~だからこれはわーたーしのw」と言った。
「落ちてなかったでしょ。机の上にあったはず。」
「いや、お前の机汚いから床と変わんないでしょw」
彼女には私の机が床に見えているようだった。
「汚してるのはあなたたちでしょ。あなたたちが落書きするから汚くなる。」と正論をぶつけながら彼女の横に立っている手下のような存在に目をやる。
手下たちは私の冷たい目に少しおびえているけれどリーダーの彼女は全く動じない。
話が通じない人と話していても時間の無駄だと思い教室を出る。
「え~逃げるの~?よわ~w」という声が後ろから聞こえてくるが彼女たちとは真逆の方向に脚を進める。
私が逃げたと勘違いしているようだ。
人にかまってもらわないと生きていけないだなんて可哀想だなと思いながら水道へ向かい頭を濡らした。
日常
教室に入ると頭がいいのか悪いのかわからないリーダー的存在が笑いながら彼の友達と話している。
私はそれを避けるようにして机へ向かいカバンを置き、先生に提出するノートを手に取り席を立つ。
教室のどこを歩いても次から次へと出てくるさまざまな大きさの丸太のようなものを飛び越えながらドアへと向かい、ドアに黒板消しが挟まっているのを分かっていながらもドアを開け白い粉を被る。
後ろからはやはり笑い声が聞こえてくるが気にしない。
職員室へ行き先生にノートを提出すると先生が困ったような諦めたような顔をして「大丈夫か?」と訊ねてくる。
こいつは自分の生徒がこんな目に合っていてもこうやって声をかけるだけでやってる側には注意しないんだよなと自分自身も諦め「大丈夫です。」と真顔で言う。
先生は何かを恐れているような表情をして「そうか」と言い私と別れる。
「何かあったらすぐ言えよ」とかいう言葉は何一つないんだなと思いながら皆がいる教室へと歩く。