文豪ストレイドッグス二次創作です。
オリキャラが毎回出てくることになるかと思います。
太中、芥敦、乱与が出てくるかと思います。
それ以外の腐カプは無い筈です。(リバもないです)
↑直接的なもの(R15以上のもの)は出てきませんのでご安心ください。関係性として、っていうだけです。
CPは完全に私の好みです。
オリキャラがいます。原作でこの人達が出てこないことを祈っています。
ポトマも探偵社もゆるっふわです。
鯖さんも、黒獣くんも黒くありません。ヘタレかスパダリかもわかりません。
蛞蝓さん、白虎くんが少々女々しくなるかもしれません。
おそらく、全てシリアスに見せかけた、シリアルです。なんならレーズンか、チョコレートまであります。
年代設定としては、いろいろ片付いた後、と言う感じで思考放棄お願いします。
ファン歴が浅い人が書いていますので、ご留意ください。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
藤夢 其の壱
ね、あの子もだって
うそ、これで何人目?
さあ?
でも良いよね、羨ましい!
え?何処が?
だって、幸せな夢に行けるんだよ?しかも目覚めさせるのは──
ロマンチックじゃない?
「ちょっと、敦、早く来てよ」
「ま、待ってください」
(うぅ……溶けそう……)
「其れ位でへばってちゃ駄目って僕、何回言ったらいいの?」
「わ、分かってます……」
今日隣にいるのは、鏡花ちゃんでも太宰さんでもない。
今回は乱歩さんとの共同調査だ。
日陰にいても刺さってくる太陽が鬱陶しい。
対して乱歩さんは気にする風もなくずんずんと進んでいってしまう。
今回の調査は、単なる人探し。
乱歩さんは奇怪奇天烈な事件ばかりを受ける。
そのため、この依頼は本当は彼の担当ではなかった。
なのに何故乱歩さんがいるかといえば、至極簡単なことである。
社長に応援されたから。
ただそれだけである。
今回の依頼は自分一人で受けるには色々な意味合いで難があるらしい。
だが、今日は運悪く調査員が出払っていて、僕と組む相手が乱歩さんしかいなかったのだ。
(乱歩さんなら人探しなんて一瞬で終わるだろうな)
彼の流石は名探偵という推理力なら一瞬で解決できるだろう。
この茹だるような暑さの中外にはなるべく居たくないから、そうなれば嬉しい限りだ。
最近、少し色々と考えてしまって眠りが浅いから、少しふらついてしまう。
其の時。
トンッ
「あ、すみませ……」
関係のないことを考えながら歩いていたのが悪かったのか人にぶつかってしまった。
相手の黒い髪が舞う。
そのときふと、何かの花の香りが鼻をくすぐった。
「あら、失礼」
美麗な声だった。
思わず立ち止まってしまった僕には目もくれず、その女性は僕とは逆方向に去っていってしまった。
ぼんやりと其方を見ていると乱歩さんが手を振って主張してくる。
「あ、今行きます!」
僕は走りながら先程の女性が頭から離れなかった。
---
「長い黒髪、切長の黒目、背は160センチくらい……そんな女性山ほどいるじゃないか!」
何かといえば、探し人の特徴である。
社長の効力が薄れてきたのか諦めモードに入った乱歩さんを宥めながら僕も特徴を反芻する。
確かにそんな人はヨコハマにいくらでもいる。
「でも藤色の着物姿ですよ?流石に余り居ないと思うんですけど……」
僕はお冷を口にしながら言う。乱歩さんは大きな|芭菲《パフェ》をぱくついている。
今僕たちが居るのは小洒落た喫茶店だ。
「んーまあ、調べによると、ここは彼女の行きつけだそうだ。一週間に一日やって来るらしい。今日来る可能性が高いとも聞いてる」
乱歩さんが|匙《スプウン》を左右に振りながら言う。|凝乳《クリィム》が飛びそうでヒヤヒヤするなあ。
窓の外に目を向けると、庭にあった花が目に留まった。
大きな藤の花が咲き乱れ、行き交う人々の多くが思わず立ち止まっている。
窓越しでも芳しい香りを感じられそうな大輪の紫の花。
その時、僕の頭に引っかかるものを感じた。
そう言えば、先程の女性は黒髪ではなかったか。整った顔立ちではなかったか。160センチほどの背丈ではなかったか。
詳細を思い出していけば行くほど焦りが大きくなる。
僕は冷や汗が流れるのを感じた。
真逆……。
「……依頼人が言っていた特徴ってどんな物でしたっけ」
「へ? だから、黒髪黒目の特徴のない容姿……」
「いえ、あの……香りについて。何か言っていませんでしたか?」
恐る恐る尋ねると乱歩さんは嗚呼、と言う風に手を打った。
「そういえば、藤の香りがするって言ってたね。其れが如何したの…って、敦?」
嗚呼、やってしまった。もっと特徴をよく覚えておけば良かったのに。
こてん、と首を傾げる乱歩さんに向かって口を開く。
「探し人、逃してしまったかも知れません」
「はぁぁぁぁああああ!?」
---
「敦! 何をしとるんだ!」
「御免なさい……」
僕は探偵社に帰ってきていた。
ドアを開けると、既に国木田さんや太宰さんは帰ってきていた。
あ、どうやって伝えよう、と僕が思った其の時には、乱歩さんは駄菓子を食べに行ってしまっていた。
そして、今に至る。
国木田さんが注意を続ける中、後ろから声がかかった。
「まあまあ、国木田くん。一週間に一度の明確な機会を逃したからって、そんなに怒らないでやってよ。反省してるみたいだし」
太宰さんだ。大方先ほどまでソファに寝そべってサボっていたのだろうが。
「すみません……」
謝罪しても仕切れない。
善意のフォローも申し訳ない。
そして太宰さん、少しあなたのは皮肉っぽいです。
傷を抉らないでください……
うぅ……結局は特徴を全部覚えてなかった僕が悪い……。
「でも、次は必ず引き止めます!」
大きく頷きながら反省を口にした時だった。
「…………!?……ッ……」
全身がピリッとするような感覚を覚えた後、何故か突然眠気が襲ってくる。
駄目だ、起きていなくては。
そう思うたびに瞼が重くなってくる。
こんな事は是迄起きた事も無い。
疲れを溜めていた覚えもない。
何故? 如何して? 頭がぼうっとする。
そして、此れはきっと、混乱の所為だけではない。
「……敦くん? 敦くん!」
遠くの方から太宰さんの声が聞こえる。
すみません。矢張り探し人、見つけられないかもしれません。
心の中で謝罪を再び口にすると、僕の意識は抗いようのない睡魔に引き摺り込まれていった。
---
「此れは困ったねぇ」
私、太宰治は突然床に倒れ込んでしまった後輩を眺めながら呟いた。
微かに健やかな寝息が聞こえることから、体調が悪い訳では無いのだろう。
先輩に叱られていると言う状況で寝て仕舞うなど、余程疲れていたのだろうか?
しかし、こんな床の上で寝るような子では無い筈なのだが。
悪い予感が頭をよぎる。聞いたことのある悪い噂だ。
だが、そんなはずがない。
頭を振ってその考えを押し出した。
「だ、太宰? 敦は大丈夫なのか?」
恐る恐ると言った様子で国木田が声を掛けてくる。
「大丈夫……とは言えないかもだけれど、寝ているだけだよ。……よっと」
私は敦くんを抱え上げてソファに運ぶ。
「ふう」
移動させてもまったく起きない。瞼を閉じ、微動だにしない。
これで、微かに胸が上下しているのが解らなければ、精巧な人形と見紛うかも知れない。
敦君が微かに呼吸をした、その一瞬、ふわりと藤の香りがした気がした。
はて、と内心首を傾げていると、背後から人が覗き込んできた。
「おやァ、敦はおねむかい? 珍しい事もあるもんだねェ」
しげしげと眺めるのは与謝野女医。その横にはナオミくん。
「あらあら。敦さんも幸せな夢を見に行ってるんでしょうか?」
「?」
少々不思議な言い回しに与謝野が疑問符を浮かべる。
噂、その単語にぴくりと反応してしまう。
「あら、知りませんか? 最近の噂です。ある方法を使うと、|現実的《リアル》で幸せな夢を見に行ける。ただし、本人が満足する迄絶対に目醒めることはできない。一生眠り続ける可能性もある……一寸怪談めいた話でしょう? まあ、ある方法というのは分からないのですが」
「そうなのかい。初耳だ。ねェ、太宰?」
「そうですねえ」
私が考えていたものとは違ったようだった。よくある噂だろう。夢見がちな若き少女や怪談好きの間で流行りやすい物だ。
「確かその方法を使った人は……」
「ん?」
敦くんを凝視して眉を顰めた与謝野に声をかける。
「如何されました?」
「いや、こんなの敦はあったかなァ、って思っただけさ」
そう言って指さしたのは首元だった。薄紫色の蔦が這ったような痕がある。
其の痕を見て私はわずかに目を見開いた。
小さく、ひっという声が聞こえて顔を上げると、ナオミくんが顔を青くして敦くんを凝視していた。
「ナオミ? 如何かしたかい?」
与謝野女医が声を掛けても聞こえなかったかのように反応しない。
「ナオミ?」
与謝野女医が再度呼ぶと、ナオミくんはふるりと体を震わせて言った。
「……幸せな夢に行く方法を使った人の首元には、藤色の痕がつくのです。丁度…敦さんのように」
敦くんは微動だにせずにただ、眠り続けていた。
眠り姫です!
長くなりそうなので此方で切ります
展開がうまくいかない……!!!
口調とかが変かもしれません
大丈夫だと思いますが……
誤字脱字あったら御免なさい
ここ迄見てくれた親切な方に心からの感謝と祝福を!
藤夢 其の弐
敦くんが目醒めなくなって今日で丸2日。健やかな人間がここまで眠り続けるのは困難だ。
その上、眠り始めてから一度も目醒めず、何も食していないのに見目はまったく変わらない。異能の類なのだろう。若しくは……あの噂か。
与謝野女医曰く、異能の類ならば不思議ではない事だそうだ。
異能無効化の異能を持つ私が触れても目覚めないと言うことは、この異能をかけた本人に触れないと解除されないのだろう。
異能ではない線も考えられはするが、今のところは異能の線が一番濃い。
「真逆、本当にあるなんて」
鏡花くんがふと呟いた。
鏡花くんはポート・マフィアに身を置いていた身だ。若しや、と思い話しかける。
「何のことだい?」
「『夢浮橋』。あなたも知っている。違う?」
「矢張り、そう思うかい?」
そう問うとコクリと頷いた。
夢浮橋……裏社会で度々起こる不可思議な現象。
人が突然にして眠りに落ち、全く目が醒めない。
これまで再びその目蓋を開いたものは居らず、正体も不明。
おそらくは異能だとされているが、主犯も、目的もわからない。
森さんも対処を諦めていた。幸いにも、ポート・マフィアからは出たことがなかったけれど。
ナオミくんが言っていた噂にそっくりだった。
鏡花くんは続ける。
「最近はルーシーに聞いたものだけど」
「ルーシー……それってうずまきの?」
「そう。眠り続けている人が何人も出ているらしい。噂にもなっていると。」
鏡花ちゃんはそこまで言うとちらりと敦くんの方を見た。
「私は、矢張りこれは『夢浮橋』だと思う。本物は初めてだから確信は無いけれど」
それに、と鏡花ちゃんは続けた。
「敦が逃してしまった女性。あの人が関係していると思う」
「矢張り、そうかなあ」
なんとなく予想はしていた。
藤の香りがするという、黒髪美人の女性。
敦くんは彼女とぶつかったそうだ。
(その時に異能に掛かったのだろうか)
「夢浮橋と幸せな夢の噂が同じなら、敦を目醒めさせる方法も見つかるかも知れない」
前向きに、けれど少し不安そうに話す鏡花くんを見ながら、ふと思った。
そう言えば、抑も依頼人はなぜ彼女を探していたのだろう。
確かまとめられたファイルがあった筈だ。
自身のデスクに向かうと、パソコンを開き、スクロールする。
(あった)
見つけた件名にカーソルを合わせる。
数十分後。
「大した事も書かれていなかったなあ」
依頼者は何処ぞのお偉方。
探して欲しい理由は自身の愛人だが、少々難のある出自だから、と書かれてはいるが本当か如何か判りやしない。
その人物自身が《《表には出来ない代者》》──つまりは裏社会の者や、依頼人にとっての都合の悪い何か──である可能性すらある。
それも見越して、引き受けているのだろうが。
大きく伸びをしていると、私用の携帯電話が鳴った。
「?」
この番号は限られた人物にしか教えていないのだが。
怪しみながら電話をとる。
「はい、もしもし」
『太宰かえ?』
「……え、姐さん?」
掛けてきたのは姐さんことポート・マフィア五大幹部、尾崎紅葉だった。
「姐さんに番号教えていましたっけ」
『此れは中也の携帯じゃ。掛けさせてもらっておる』
「嗚呼、成程」
中也には番号を確かに登録していた。
嫌がらせの意味を込めて、彼が酔い潰れているうちに携帯に設定しておいたのだ。
姐さんが中也の携帯を使い、私に電話をかけている。その状況に胸騒ぎを覚える。
「……如何したんですか」
電話の向こうで少し躊躇ったような間が空く。
『幸せな夢、の噂、若しくは『夢浮橋』を知っておるかね?』
|現実的《リアル》で幸せな夢を見、藤色の痕がつく。と姐さんは続けた。
「ええ」
今、丁度後輩が目醒めなくなっているところです、とは口が裂けても言えない。
『……中也が目醒めなくなった』
「ッ!?」
ガタリとデスクが大きな音を立てる。
可笑しい。何故こんなに動揺しているのだろう。
中也が目醒めなくなった。あの蛞蝓が五大幹部もかたなしの滑稽な状況である筈なのに、何故、この心臓は跳ねたのだろう。
自分でも不思議に感じながら、何事かと此方を伺う同僚に、外に出ると合図をする。
階段を下り、ビル裏まで来てから再び口を開いた。
「……本当ですか」
『嘘を吐く必要がなかろうて』
声をやや抑えて問う私に、姐さんは溜息を吐く。
「そんなことを敵対組織に話しても良いんですか?」
『今は停戦協定中じゃ。今の所其れが破られる予定は無い故の』
「……そうですか」
姐さんは事務的な注意を続ける。
『此の事は余計な所に話すでないぞ? マフィアの幹部が目醒めぬとなれば一大事。何より、此の子が他人に知られる事を望んではおるまいて』
マフィアの幹部の弱点が知れることは、それだけで大きな損害を被る。
本人もだが、森さんも許さないだろう。
しかし……
「何故それを私に?」
訝しげに問う私に姐さんは何が可笑しかったのかころころと笑って答えた。
『私用の携帯に態々裏切り者の番号が入っておるのじゃ。何かあると考えるのは容易い事ぞ』
にやにやと笑う姿が見えるようだ。だが、言っている意味がわからない。
「何か、って……何のことですか?」
訊き返すと、間に沈黙が流れた。
気まずくなり、話題を変えようかとしたとき、姐さんが再び口を開いた。
『お主……真逆、何も? ……わかっておらぬのかえ?』
「はい?」
意味が分からない、と言うこちらの声に、姐さんが呆れ果てた溜息を吐く。
『……まあ、良い。では、此れにて……』
「あ、待ってください」
電話を切ろうとした姐さんを引き止める。
「此れは森さんも知っている事ですか?」
『そうじゃが。それが如何した?』
「少し待っていてください」
電話を保留状態にし、社内に入る。
社長室の前迄行き、断ってから入室する。
「太宰? 如何かしたか?」
社長が机の前に座り、僅かな疑問を目に浮かべて此方を見ていた。
私は其れを真っ直ぐ見つめ返す。
「突然すみません……敦君のことです。
今入った情報ですが、ポート・マフィアにも彼と同じ状況のものがいるようです」
「敦くんのことも伝え、協力する方が良いのでは無いでしょうか」
社長は黙ったままだ。続けて良い、と捉えて再び口を開く。
「今は停戦中ですし、先程、破る意思、予定は現段階では無いと言われました。一般人にも被害が出ているようですし、此度も|組合《ギルド》戦と同様に組んでみては如何でしょうか」
社長は思案するような表情を見せた後、口を開いた。
「それは確かな情報と言えるのか?」
肯定の言葉を返し、決定を待つ。
緊張した沈黙が流れる。
「……敦のことは未だ伝えるな。代わりに、一度話し合いの場を開こう」
「わかりました」
拒否されなかったことに僅かな安堵を覚えながら部屋を下がる。
社内から出てから再び電話を繋ぐ。
「お待たせしました、姐さん」
『大丈夫じゃ。如何したのかえ?』
「すみません。此方の電話は切ります。代わりに、森さんに伝えてくださいませんか」
「近々探偵社で会談の場を設け、『幸せな夢』についての対応を話し合いませんか、と」
大人の会話が書けない眠り姫です。
太中を投下しました。
上手く書けない……
前回から一ヶ月ですって!? 嘘……
もしかしたらちょこちょこ加筆修正してるかもです。
では、ここまで読んでくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!
藤夢 其の参
「御無沙汰しています、福沢殿」
「此方こそ。森医師」
双組織の長が見掛けだけは和やかに会話する此処は、探偵社の応接室。
今日ばかりは臨時休業とし、こうして会談の場を設けている。
そんな状況に若干冷や汗をかきながら立っているのは、探偵社員である、ボク、谷崎潤一郎。
太宰さんが設定したこの場で、『幸せな夢』の異能への対応を話し合うらしい。
敦くんのいる医務室の方へちらりと目を向ける。彼が目醒めなくなってから、はや4日。
彼は人形のように、何も変わらずに眠り続けている。
太宰さんの話によれば、ポート・マフィアの中原幹部も目醒めなくなっているらしい。
嘘ではないかと疑ったが、あの人曰く「森さんや姐さんはこんなところで嘘を吐かない。吐いても利益が大してないからね」だそうだ。そういうものらしい。
「さて、前置きはいいでしょう。中原くんが目醒めなくなった件ですが。私の予想では、其方にも同じ状況のものがいると思うのです。どうです? 福沢殿」
出された煎茶を少し吸って、首領は話し出した。
流石は首領といったところか。的確な予想を立てて、其処をついてくる辺りは素直に凄いと思う。
だが、社長だって負けていない。
「若し仮にそうだとして、何か有るのか?」
「ええ、まあ。そうですねぇ……」
太宰くんから聞いているのでは無いですか?と問いかけるように、首領が目線を送る。
「何が言いたい?」
社長も何を彼方が言い出すかはわかっている筈だ。だが、この場では先に其れを言った方が後手に回る可能性がある。首領は胡散臭い笑みを浮かべて言った。
「共同作戦としませんか?」
「……」
(!?)
ボクは驚いた。首領自ら、後手に回るような事を言うなんて。
弱みを見せず、蛇のように狡猾に。そんなイメージを持っていたのだが。
「鼠が去った後、我々は幾度となく協力して来ました。此度も、其れで如何でしょう」
「……魂胆は?」
社長が顔色ひとつ変えずに問うた。首領は慌てる事なく答える。
「私は、以前貴方に伝えましたよね。貸しを後に百倍で返してこそ、協力関係が結べると。此方も色々と困っておりまして。如何です? 今こそ返して下さっても」
以前、とは何時なのだろう、とボクは思ったが、社長は理解している様子だったので口を噤んだ。
「……此方の利は」
社長は未だ決めあぐねている様子だった。其の様子に、首領が意外そうな目を向ける。
「おや、珍しいですね、貴方がそんなにも迷うとは。利ですか。そうですねぇ……先ず、一つ。探偵社員を救う道が出来る。二つ、此方側への借りの返済ができる。」
そして三つ……と首領は続けた。此れが一番今後の投資としては重要なのですが、と前置きすると、話し出した。
「犯人を捕縛する際には、此方の芥川くん、そして其方の中島くんを使いたいと思っています。ヨコハマの街を守る新たな|双《コンビ》……。其の投資として、必要では無いかと」
ますます笑みを深めて言った首領を、社長は真っ直ぐに見ると、小さくため息を吐いた。
「承知した。だが……」
「何です?」
「敦は使えぬぞ。」
社長の言葉に首領は首を傾げた。嗚呼、其れか。とボクは思う。
「眠ってしまった探偵社員……それが敦だからな」
「……あれ、まぁ」
首領が其の時一瞬だけ見せた、心の底から気の毒そうな顔は、おそらくこの先、2度と見ることは無いと思う。
---
両者の茶会の翌日。社長から改めて伝達があった。
敦くんが眠ってしまった事について、他にも被害が多数確認されているためポート・マフィアと手を組む事にしたと言う事。
中也も目覚めなくなっている事。
「先ずは情報を探そうと思う。今日は、元々入っていた依頼を片付け次第、被害者の関係者に話を聞きに行くように」
社長はそう言って紙を出す。そこには幾人かの名前が書かれていた。
「此れは、ポート・マフィアの資料だ。彼方も元々探っていたらしい。被害者らの詳細がここに書かれている。他の事も書かれているが、それも含めてパソコンにも共有している。各々で確認するように」
社員が引き締まった表情で返事をした。
一般人は勿論、大切な後輩が関係しているのだから当然だ。
(他の事……ねぇ)
おそらくは、『夢浮橋』や飛び交う噂についてだろう。噂の方面については探偵社の方が明るい。噂や、其の裏どりは探偵社が、裏の話はポート・マフィアが進めていくべきだと森さんも考えている筈だ。自分自身そう考えている。あの幼女趣味と意見が同じなのは心底気に食わないが。
(性には合わないけれど、先ずは聞き込みかな)
周りの対応を見ようと辺りを見回す。
国木田くんは早く取り掛かろうと、今日の予定に元々あった仕事を片付けているし、谷崎くんも同様だ。賢治くんは既に出発しており、与謝野女医は念の為敦くんに付き添っている。
(私も行こうか)
却説、と私は立ち上がった。
自分の靴音が、何故だかかいつもよりも大きく感じられる。
五月蠅かったのかちらりと国木田くんが此方を見たが、何も言わなかった。
「太宰」
「?」
入口の扉に手をかけた私に乱歩さんが声をかける。
「……余り、無茶はするなよ」
「……はい」
首を傾げつつも返事を返すと、乱歩さんは興味を失ったように外方を向いて飴を転がし始めた。
探偵社の階段を降りる時、蛞蝓の赫い髪が頭の端でちらついた。
---
まずは一人目。
とある学校の生徒の家族に話を聞いた。
一般人の中では、この子が直近の被害者だ。
其の子は最近ヨコハマに越してきたらしかった。
最初の頃は残してきた友人たちを心配していたそうだが、最近ではけろりとしていたらしい。
「どうしてあんなに明るくて気の利く良い子がこんな……如何か、目を醒まさせてください」
話をしてくれた母親は窶れた顔でそう言った。
二人目はある会社員。
彼も被害者の中でも中でも最近の者だ。
其の人は一人暮らしであった為、彼が眠ってしまっているのを発見した人物に話を聞いた。
彼の部署では|力的加害《パワハラ》が横行しているという噂が有り、心配して家を訪ねたところ眠っているのを発見したという。
「彼奴、周りをよく見てる奴だから。噂の|力的加害《パワハラ》見てて辛かったのかも。ザマ無いっすね」
彼の友人だという人物は、そう言って乾いた笑いを溢した。
3人目は高校生。
其の子は何時もおちゃらけた人物で、周りからの信頼も厚い人物だったそうだ。
其の子の家族は捕まらなかった為、友人達を探して聞いた。
「あの」
他の人物達にした質問を再び行い、帰ろうとした時。
友人達のうちの一人が駆け寄って来て、私を呼び止めた。
「先程、言ってなかったことがあるんです」
彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「彼奴、最近|超自然《オカルト》に嵌ってて。占い師を推してたんです。なんだっけ……蝶壺?とかいう女なんですけど。最近其奴に会えたって喜んでたんです。関係ないかもなんですけど、怪しい感じだったので」
気づくと私は勢いよく彼女の手首を掴んでいた。
驚いたように手首を見ていた彼女は、私の顔を見た瞬間に瞳を恐怖に濡れさせた。
「どんな女だった」
「ッ……知りませんよ、離してください!」
私の手を振り解こうとする彼女を見て、手の力を少し強める。
「否、君は知っている」
私が確信を込めて問うと彼女はひっ、と小さな悲鳴を漏らした。
先程までよりも、僅かに瞳孔が開いている。
唇を戦慄かせながら彼女は言った。
「……わ、私は……ッ……女の顔はよく見ていませんッ、大きな編笠を被っていて。長い黒髪と、花の香りがしていたことしか知りませんッ! 離して、離してください!」
怯えた様に此方を見る顔を見て、はっと我に返った。
私とした事が暴走してしまっていた様だった。
後輩の、そしてヨコハマの様々な人の今後が関わっているからだろう。
然うに違いない。
「嗚呼、済まない。手荒な真似をしてしまったね……けれど、如何して最初から言わなかったんだい?」
決して声を荒げない様に心がけながら訊く。
彼女はほっとした様に話し始めた。
「大丈夫です。……私と彼奴、仲良かったから。仲良い、というか、其の……」
「恋仲?」
言葉を濁した彼女の言葉を引き継ぐ。
然うすると、彼女は少し顔を赤らめながらも頷いた。
「皆には言ってなかったから。お兄さんから他の人に言われたら拙いと思って。其れに、二人とも、女だし。」
二人で言わない様に決めていたんです、と後ろめたそうに話す姿からは、嘘の気配は全くしなかった。
おそらくもう訊くべきこともないだろう。
「そうかい、有難う。目が醒めるといいね」
私は感謝を伝えると今度こそ踵を返した。
視界の端に、泣きそうな顔をする彼女の姿が映った。
---
其の後、二人程他の人物にも話を聞いたが、大きな収穫は無かった。
年齢、性別、住む所、家族構成。全てがバラバラだった。
収穫とするのならば、蝶壺とかいう占い師の話だろう。
蝶壺。長い黒髪に花の香り。着物。
敦くんとぶつかった人物と見て相違ないだろう。
矢張り其の人物が関係している線が濃厚だ。
だが……。
異能にかかった人物の共通点が分かりにくい。
(一つ、仮説があるにはあるけれど…)
それならば何故、敦くんや、中也がかかってしまったのかが不明だ。
(蝶壺を探すべきか)
蝶壺のいた場所は明確には教えられなかったが、彼女は『あんな場所』と言っていた。
高校生ほどの子が『あんな場所』と忌避するところといえば。
(擂鉢街などの貧民街に、近いところか)
擂鉢街。十四年前、ヨコハマに突如としてできた大きなクレーターの様な場所。其処は貧民街がひしめき、周辺も其の状態に近い。何がいても可笑しくなさそうな暗さを持っている。
特に、ポート・マフィアの目が行き届かない場所では、ある意味真の無法地帯。素性も、顔すらも分からない様な者たちが屯する。
そして、疚しいところのある者──例えば昔の私──などが身を隠すには都合が良すぎる場所でもある。
探し女は、恐らく依頼人から追われている。依頼書には一ヶ月程前から彼女が失踪した、と書かれていた。蝶壺が其の探し女だとしても辻褄は合うだろう。
(探し女──蝶壺には何か疚しい事がある。それ故に追われ、占い師として生計を立てていた。一週間に一度、決まった喫茶に出向く。恐らくは人を眠りに落とす異能者……)
ぱっと見、矛盾点は無い。だが……
(編笠で顔を隠して占い師をする様な人物が、顔を覚えられる程、同じ喫茶に訪れるだろうか)
其処まで考えた時、携帯電話に着信が来た。
「?」
開いてみてみると、賢治くんからの一斉メールだった。
『皆さんへ
夢の噂の女性を探していた依頼人ですが、少々黒い噂があったそうです。裏社会との癒着が主ですが、是迄表になったことは一度もありません。何でも、仲良くなった組織が、総じて潰れているからだそうです。長が不治の病にかかったとかで。都会には怖いところもいっぱいですね!
下に仲が良かったと見られていた組織の名前を入れておきますね。
(中略)
宮沢賢治』
・
眠り姫です
キリいいところまで、と思ったので長かったですね
聞き込み部分は蛇足が多かった、かな
次回はやつがれを出して、だざさんに自覚させる!!
そして陸くらいで終わらせたい…!
ここまで読んでくれたあなたに、心からの感謝と祝福を!