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目次
死神に愛を教えて
太陽が海に溶けていく時間
私はそっと本を閉じた
お気に入りのこの場所は海が見える丘の大きな大きな金木犀の下
小さい頃からここで時間を過ごす事が私の楽しみとなっている
オレンジ色の淡い光に照らされながら海を眺めるこの瞬間が一番好きだ
さぁ家に帰ろう今日はハロウィンなんだから
今日のために沢山お菓子を作ってみたりした
あとはテーブルに並べるだけ
私は一人でゆっくりハロウィンを満喫するんだ
家に帰って冷蔵庫を開ける
かぼちゃのカップケーキ、おばけのクッキー、骸骨のマシュマロ…
一人じゃ食べ切れないほどのお菓子たち
でもこの贅沢感がハロウィンというものだろう
ガラスのコップに目と口を貼り付けてジャック・オー・ランタン風にしてみた
さてここにオレンジジュースを注ぐだけ―
あれ‥?確かに入れておいたはずのオレンジジュースが見当たらない
きっと誰かが飲んだのだろう
問い詰めようにも明日まで家族は帰ってこない
親戚の家で集まるらしい
ハロウィンパーティーというやつだ
ちゃんとお菓子をあげたのに悪戯されたのか
他にジュースらしきものは無い
しょうがない‥買いに行くか
薄暗くなった道をとぼとぼと歩いていく
少しして広い道に出た
そこではすっかりお祭り気分の子供たちが沢山いた
それぞれが思い思いの仮装をして駆け回っている
誰が何個お菓子をもらえたか自慢をしている声が聞こえる
今年は仮装なんて考えてなかったなと心のなかで呟く
お菓子に気を取られすぎて仮装なんて考えてもみなかった
近くのお店でオレンジジュースを買って家に急ぐ
空を見上げるとすっかり日は落ちている
まだ子供たちは外で遊んでいるようだ
ポケットからスマホを取り出し時計を見る
もう19:00か―
まぁ今日は特別な日だからだろう
通り過ぎようとしたその時
建物と建物の隙間に黒い影が見えた
まさか子供たちを狙った不審者なのか
この時間に遊んでてもいいという事を利用した悪い奴なのか
私は意を決してそっと正面にまわってみる
どうか変な人ではありませんように‥!
死神に愛を教えて2
数秒前の私に教えてあげたい
決して変な人ではなかったよと
そして眼の前にいるのは人ですらなかったと
私の前にいるのは「死神」というやつだろう
最初こそあぁ仮装かなとは思ったものの
所々透けていて建物の壁が体を貫通して見える
そして大きい鎌はギラリと輝いている
これは仮装じゃない
そう思わざるを得なくなった
驚きすぎて固まった私のポケットからひらりと何かが落ちた
あぁこれは私の大事なしおり
あの金木犀で作ったお気に入りのしおり
きっと今日の本はしおりが付いていたから
ポケットに入れてしまったのだろう
まだ体は動かない
そう考えている間に眼の前の死神はゆっくりと動いた
そして私のしおりを拾い上げた
思わず悲鳴に近い声が出る
眼の前の死神はこれから何をするというのだろう
姿を見られたから私を殺しに来るんじゃないかと
軽いパニックになっていたとき
死神はすっ‥としおりを私に差し出した
反射的にしおりを受け取ってしまう
その時に触れた手はこの世のものとは思えない冷たさをしていた
やはり本物の死神なのか
なぜしおりを拾ってくれたのか
そしてなんでここに居るのか
次々と疑問が湧いてきた私は無意識に声が出ていた
「私の家に来ませんか?」
カチカチと時計の音が無言の部屋に響く
なんとこの死神、家までちゃんと着いてきたのだ
死神を家まで招いた私も私なんだが‥
「えっと‥取り敢えずお菓子?とか食べれます?」
そう話しかけてみた
果たして死神は人間界のものを食べれたりするんだろうか
私は紙皿にお菓子を盛って恐る恐る差し出す
死神は一瞬ためらうような素振りを見せて紙皿を受け取った
そしてクッキーを一つつまんで口に放り込んだ
サクサクと音がして無事に食べれたようだ
可愛いクッキーと大鎌を持つ死神―
なんだか不釣り合いで思わず吹き出してしまった
私が吹き出したのを見て死神は次のクッキーへと伸ばす手を止める
それが余計に面白くて私は思いっきり笑ってしまった
ひときしり笑った後改めて死神をしっかりと見つめる
超リアルなコスプレ客だと思えば全然怖くない
思い切って聞いてみることにした
「ねぇ貴方って本物の死神?」
死神は少し考えるような仕草をした
そしてゆっくり頷いた
私の眼の前に居るのは本物の死神
きっとその気になれば私だって殺せるのだろう
でも大人しく私のお菓子を食べてくれる死神
なんだか可愛く見えてくる
そこで思い切って質問を色々ぶつけてみることにした
「なんでここにいるの?」と聞いてみた
死神は困った様子でこっちを見ている
「あ、この家じゃなくて人間界にって事ね」
私の説明不足だったようだ
死神はぽつりぽつりと語りだした
私も相槌を打ちつつしっかりと耳を傾ける
だが何にせよこの死神、人間の言葉を話していなかったのだ
しっかり聞けば分かるところもあるんじゃないかと思ったのが間違いだった
せっかく話してくれたところ悪いが何一つ理解できなかった
でもこちらの言葉が分かるのなら話せたって良いじゃないか
そこまで万能ではないのか死神は‥
どうしたものかと頭を捻って考える
「あ…本ならいけたりするかな」
私の家には沢山の本がある
本の中から単語を指差してもらえば一応意味は伝わるんじゃないかと思う
時間はものすごくかかると思うけど
門限なんてものは無いと思いつつ一応聞いてみる
「ここにいつまで居られるの?」
死神はふよふよと時計に近づいていって
長い人差し指の爪で文字盤の12を指差す
「今夜の0時までしか居られないってこと?」
と聞いてみると死神は小さく頷いた
…死神だけでもお腹いっぱいなのにシンデレラ要素も盛り込んでくるのか
現在時刻は20:00あと4時間くらいでさよならだ
この際聞きたいことを聞きまくるしか無い
まず本で会話できるか実験しないといけない
近くにあった本を手に取る
パラパラとページをめくって簡単な会話を試みる
「なんでここにいるの?」と言いながら
なぜ ここ 居る?を順に指さしてみる
そして本をそっと死神に渡す
さぁうまく伝わったかな?
長くなっちゃった