既に終わった出来事
教科書に載るだけの歴史の出来事
過去に起こった懺悔も苦闘も全て言葉でしか載らない
これは、終わった出来事なのだ
忘れ去られるべき、出来事
でも、終わらせたくないから延長線上で俺は君達に語る
この物語はどう始まり、どう終わったかを
___昔々、今から約17000年前のこと
ある人々と人外での戦争が起こりました。後に教科書に載る「魔人境双戦争」です
それはもう、忘れ去られてしまった。残り火だけを微かに残して
時代は149802年喪劔12年度。人外の世界ノクスで起こったもう一つの戦争のお話
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目次
【第一話】モノ語リの始まり
全ては此処から始まった
日が昇り始め、朝焼けが世界を包んだ中、一人の少年が此処__|裏町《うらまち》を歩いていた。
赤い髪を一つに結び、若干緊張を見せている青い瞳に同じく青い着物を着た和風の少年。何よりも目を引くのは額から伸びる二本の角だった。青いソレは、朝焼けを受けて輝いている。
青鬼の少年はふと、コンクリで作られている一階建ての建物の前で足を止めて呟いた。
「此処が、ムレイカ……?」
---
俺__|灼池 明叉凪《やいけ あさな》の目の前に一人の青年が座っていた。友好的な笑みのわりに目は鋭く、赤と青のオッドアイの目が慎重に明叉凪を観察している。黒髪の青年は背中に生える黒い翼を二、三度はためかせると、口を開く。
「君が、灼池明叉凪くんだね?」
「はい……そうです!」
「ははは、元気がいいね。僕はエレカ。此処、ムレイカのリーダーをやっているよ。」
(彼が噂のムレイカのリーダー……)
ムレイカとは、犯罪都市、通称裏町の三大組織の一つである。そして、今、明叉凪が此処にいるのは事情がある。
「えぇっと、何で此処に来たのかな?見たところ、かなりマトモそうだけど……。自分で言うのも何だけど、裏町って基本的にヤバい奴しかいないからさ。」
エレカは大分マトモそうに見えるのは自分だけなのかと明叉凪は思いつつ、自分の過去を語り始めた。
「実はっすねえ……。」
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俺が生まれたのは山の麓の赤鬼の集落だった。赤鬼って言えば、紫鬼、黒鬼、赤鬼、青鬼とくる中で二番目に弱い色鬼だ。でも、俺の場合最悪だった。父が青鬼、母が赤鬼の混合のもとに生まれた俺は赤い髪なのに青鬼と同じ力しかなかった。
「おい、おまえ、邪魔だよ、青鬼!」
道を歩けば煙たがられて母も困ったような微笑を浮かべるばかり。泣くことすら許されない生活だった。とうとう苛めを苦にしてか母は病に倒れ、そのまま死んでしまった。もちろん俺の面倒を見てくれる人なんていなかった。それでも一生懸命生活したのに、村の人は食料が不足したから俺を追い出した。裏町にでも行けという言葉を残して。
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「それでムレイカに………。だって、大きい組織に行きたくても|千祚夜《せんさくや》と|命妖楽《めいようらく》とかいっちゃってる人々の集まりでしょ!?俺はそんなとこで働きたくはない!」
「あははは!明叉凪くん、面白いねえ。いいよ、合格。」
「へ?」
それを言われて、明叉凪はやっと、これが面接代わりだったということを思い出した。つい、自分のことを話すのに夢中になってしまった。エレカは笑いを引っ込めて、うっすら笑みを浮かべた。少し、不気味な笑みに明叉凪はぞっとする。
「今日から君は、ムレイカ戦闘部隊隊員だ。」
「戦闘……部隊。って、俺、青鬼っすよ!?クソ雑魚っすよ!?」
「いいのいいの!頑張ってね!」
色鬼の中でも最弱な青鬼を戦闘部隊に配置するエレカ。やっぱり、裏町の人間はマトモじゃなかったようだ。
「じゃあ、僕は夜澄ちゃん……副リーダーに話してくるから、適当に先輩に教わっといて!じゃ!」
「え、あ、ちょ!」
明叉凪が返事する間もなくエレカはふらりとどっか行ってしまった。エレカを追いかけてみると、地下へ続く階段があった。
「なるほど………!」
一階建てだから狭そうと思っていたが地下があるらしい。納得している間にエレカを見失ってしまった。一人立ち尽くす明叉凪。
「どうしよう……?」
「新入りくん、か……?」
後ろから声がして反射的に振り返ると頭が誰かの顔に当たった。
「痛い!」
「あ、すみませんっ!!」
鼻のあたりを押さえながら俯く青年は黒髪で、長い前髪をしていた。右目を隠すようにして伸びた髪は左目もほとんど隠しており、髪の隙間から覗く左目は赤色だった。黒いスーツの上から紫色の羽織を着ており、和と洋が混じったちぐはぐな格好をしていた。くたびれたように力なく垂れる紫色のリボンは使い込まれて色あせていた。
「大丈夫、っすかねえ……?」
「あ、ああ、大丈夫。僕はレオン。|L . E . F《レオン・エルファルド・フィネリア》。よろしく……。」
頬笑みつつ鼻をまだ押さえている。よっぽど痛かったのだろう。初対面の人にぶつかってしまうなど最悪だ。
「レ、レオンさんですね?俺、灼池明叉凪です。よろしくです!」
「明叉凪くん……いい名前……。明叉凪くんって所属決まってる?」
「えぇっと、戦闘部隊隊員です?」
そう告げると、レオンの顔に分かりやすい喜びが浮かんだ。
「わあ!僕も隊員なんだ!よろしく!」
「ってことは先輩ですね!よろしくです!」
しかし、明叉凪は思ってしまった。戦闘部隊の先輩へのファーストコンタクトが鼻にぶつかってしまうという最悪のことだったという事を。過去になれば笑い話になっているといいなと思いつつ笑い話になっていなかったらどうしようと思わず身震いしてしまった。
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「では、あの青鬼は戦闘部隊配属でよろしいですね?」
「嗚呼。」
エレカはムレイカ、副リーダー__|灰鐘 夜澄《はいがね よすみ》に短く返事をする。顔から笑みは消えており、真剣な表情で何かを考えている。エレカの中では一つの考えが渦巻いていた。紫、黒、赤そして青。色鬼の中でも最弱の青だがそれはあくまで、《《一般的な考えなだけ。》》
(それに、青鬼なら僕の《《目的にも使えるかも》》しれない。もし、彼が、《《蒼鬼》》になれるなら)
うっすらと笑みを浮かべて、エレカは呟く。
「英雄は必要だよな。」
その言葉の意味を知るのは今のところエレカだけだった。夜澄は相変わらず無表情でエレカを見ていたが、やがて全てを悟ったようにふっと息を吐いた。藍色の瞳がやんわりと諦めの感情を湛える。普段は堅く引き結ばれた唇が疲れたような微笑みを作る。
「分かっちゃった?それでも僕に付いて来るんだ。」
「えぇ。私を見つけてくださったのは貴方です。それに、貴方の願いはとても面白い。」
エレカはスッと影に目を落とす。赤と青のオッドアイは悲しそうな瞳になった。
「押し付けるんですね?彼に、貴方の背負ったものを。」
「うん、そうなると思う。でも、乗り越えるさ。僕と違ってね。」
「それは、見たのですか?それとも__。」
夜澄が言い終わる前にエレカは部屋のドアノブに手をかけた。それが何を表すのか長い付き合いの夜澄には分かった。エレカはいつも通りの柔らかい笑みを浮かべた。
「秘密。」
「存じていますよ。」
エレカは部屋を出て行く。扉を閉める音だけがやけに長く響き渡った。夜澄は近くの椅子に座り、深いため息をついた。あの人はいつもそうだ。私が人間だった頃から人間でなくなっても手を差し伸べてしまう。そんな優しさを持つから馬鹿なことを考えてしまうんだ。それを止められない私も馬鹿だ。多くは語らず、でも、分からせる。私が分かると気づいているから。
「ズルいなあ……。」
裏町に来なければ、いや、私が裏町に来なくてもきっともう、物語は始まってしまっていたのだ。けして語られることのない沈黙の物語が。夜澄は静かに立ち上がる。黒い髪が風で揺れ、床に何滴か水滴が落ちた。