私は東京の秘密を知っているの続編です!
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目次
私は京都の秘密を知りに行く 一話
私は東京の秘密を知っているの続編となっております。よろしくお願いします。
春。表は新幹線から京都の街を見下ろしていた。
——東京と違う……街の色も空気も、なんだか柔らかい……
——ここで両親の研究をもっと進められる……
京都校は古い蔵や近代的な施設が融合した大きな学校だった。
寮も広く、設備も充実。書庫には両親の研究資料の一部が既に揃えられていた。
表は早速、自分の部屋に荷物を置き、ノートと筆記具を整える。
影の子は東京から同行した小さな存在として、表のそばで色や音の微調整を続ける。
沙月は影から遠隔でサポート。京都でも裏で表の安全と行動をコッソリ誘導する。
登校初日、表は教室で少し戸惑いながらも、隣の席の学生に挨拶する。
——みんな、優しそう……でも、東京とは違う緊張感もある……
昼休み、校内の庭で散歩していると、光の筋の小さな残滓のような現象が現れた。
——まだ完全には消えていない……
表はノートを開き、記録を始める。
その時、京都校の教師、|例亨 徹《れいあき とおる》さんが現れた。
「表君、ようこそ京都校へ。ここでも君の研究は重要だ」
穏やかな声に安心しつつ、表はうなずく。
——東京での経験……
——そして沙月や影の子の助けもある……
——私はここでも、街と研究を守るんだ……
夕方、寮の窓から見える京都の夕焼けに、表は微笑んだ。
——新しい街での生活、始まる……
京都校での生活も二週間が経った。
表は授業に慣れ、校内の施設や書庫にも顔を出せるようになっていた。
ある日の放課後、表は庭で光の筋の小さな残滓を発見する。
——東京では街全体を守ったけど、ここではまだ完全に消えていない……
表はノートを取り出し、光の筋の軌跡を観察する。
微かに揺れる光は、庭の小さな池や樹木の周りを流れていた。
影の子がそっと手を伸ばして、色と音を微調整する。
その時、隣に座っていたクラスメイトの|照里《てり》が声をかけた。
「ねえ、あの光……見てた?なんだか不思議よね」
表は微笑んで答える。
——まだ完全には見せないけど、研究中だよ、と心の中で思う。
教室では徹さんが、表に小さな課題を出す。
——光の筋の小規模な現象を解析し、どう動くか記録すること。
午後には図書館で資料を調べ、光の筋の性質を少しずつ解明。
影の子は表の隣で補助し、沙月は遠くから裏で微調整。
——表には知られないけれど、今日も裏で支えてくれている。
夕方、寮の窓から見える京都の街は、夕日で赤く染まっていた。
——東京での経験、両親の研究……
——ここでも、私は街を守りながら学んでいくんだ……
表はノートを閉じ、明日も光の筋と研究に向き合う覚悟を胸に刻む。
京都校での生活も三週間目に入った。
表は授業や研究に慣れ、少しずつ校内で友達もできてきた。
ある日、庭の池の近くで光の筋が少し暴れ、小さな水しぶきを上げた。
——東京とは違う……光の筋の挙動も京都校ならではだ……
表はノートを取り出し、観察と解析を始める。
その時、クラスメイトの|雄《ゆう》が声をかけてきた。
「君もあの光を見てたのか?面白いね、ちょっと一緒に観察しよう」
表は軽く笑い、二人で光の筋の動きを追う。
影の子が補助して、微かに色と音を調整する。
沙月は裏で、表が危険な場所に入らないよう微調整している。
夕方、図書館で光の筋の過去データと両親の研究資料を照らし合わせ、少しずつ性質を理解し始める表。
——光の筋は、街や環境の情報を整理しているだけ……でも、微調整が必要なんだ……
友達と一緒に小さな解析作業をすることで、表はほのぼのした楽しさも感じる。
——東京での厳しい戦いとは違う……ここでは日常の中で学べる……
夜、寮の窓から見える京都の街を見下ろす表。
街の色も音も、少しずつ自然に戻っている。
——影の子も沙月も、今日も裏で支えてくれている……
表はノートを閉じ、明日も光の筋の解析を続ける覚悟を胸に刻んだ。
——両親の研究、街の安全、そして友達との時間……すべて大切にしながら進もう。
ある日の午後、表は図書館で光の筋の解析をしていた。
影の子はそばで微かに補助。沙月は裏から遠隔で支援している。
突然、校庭から大きな悲鳴が聞こえた。
「キャーッ!」
表は飛び出すと、クラスメイトの男子、雄が校庭の中央で光の筋に囲まれていた。
——光の筋が……雄くんを取り巻いて、少しずつ透明になっていく……
「雄くん!」表はノートを握りしめ、解析した光の筋の動きを頭の中で組み立てる。
——東京での経験を使えば……対処できるはず……
影の子が手を伸ばし、消えかけた雄の色を補助する。
沙月は裏から光の筋の流れを微調整し、表に危険が及ばないよう誘導する。
表は勇気を出して、光の筋の動きに沿って歩き、ノートに沿った指示を口に出す。
「光の筋……ここを解除……!色と音を戻して!」
光の筋が一瞬揺れ、雄は少しずつ元の姿を取り戻す。
——やった……
雄はふらつきながらも立ち上がり、表に感謝の目を向ける。
「ありがとう……助かった……」
表は深呼吸し、庭に残る光の筋の微細な揺れをチェック。
——小さな暴走でも、人に危険を及ぼす……
——だからこそ、解析と日常の監視が大事なんだ……
夕方、寮に戻ると影の子は微笑み、沙月は遠くから静かに頷く。
——今日も街や人を守った……でも、まだ安心できない部分はある……
表はノートを閉じ、明日も光の筋と友達の安全を守る覚悟を胸に刻んだ。
——京都校の日常は、ほのぼのだけじゃない……でも、みんなで乗り越えられる。
翌日、京都校は少しざわついていた。
雄くんが昨日の光の筋の小暴走で消えかけた事件が、クラスでも話題になっている。
表は図書館でノートを開き、昨日の光の筋の挙動を整理していた。
——小規模でも、人に危険を及ぼす……
——だから、もっと解析を進める必要がある……
雁弥 裕也さんが表の元にやってきた。
「表君、昨日はよく対応できたね。君の解析と勇気がみんなを助けた」
表は軽く頭を下げる。
——教師に認められるのはうれしいけど、まだまだだ……
クラスメイトたちは、雄くんが元に戻ったことに安堵しつつも、光の筋の存在に興味津々。
表は授業の合間に、友達に解析の方法や注意点を簡単に説明する。
——協力すれば、もっと安全に光の筋を観察できる……
放課後、表と雄くんは校庭で光の筋の残滓を観察。
影の子がそっと補助し、沙月は裏で微調整。
——表にはまだ見えないけど、今日も安全は裏で守られている……
夕方、寮の窓から見える京都の街に夕日が差す。
——小さな事件はあったけど、協力すれば乗り越えられる……
——両親の研究も、ここで少しずつ形にできるはず……
表はノートを閉じ、明日も光の筋の研究と友達との日常に向き合う覚悟を胸に刻んだ。
——日常と研究、両方を大切にしながら進もう。
私は京都の秘密を知りに行く 二話私は京都の秘密を知りに行く 二話
それは、静かな朝だった。
京都の空に、一本の光の筋が走った。
最初は、いつもの淡い白だった。
けれど――
その光は、ゆっくりと赤く染まりはじめた。
「……え?」
校庭にいた生徒たちが空を見上げる。
赤い光の筋は、網の目のように広がり、京都の空を覆っていく。
そして――空間が、わずかに歪んだ。
景色が揺れる。
遠くに見える寺の屋根が、蜃気楼のように波打つ。
「うそ……」
表は胸が冷たくなるのを感じた。
東京では白い光だった。
こんな赤は、初めてだ。
――危険度が、まるで違う。
その瞬間、遠くの寺院の一部が、すっと透明になった。
瓦が、柱が、鐘楼が――
音もなく、存在が薄くなっていく。
「時空が……削られてる……?」
地面が一瞬だけ歪み、空気がひしゃげる。
影の子が、強く表の袖を引いた。
いつもより、焦っている。
影の子の気配も、いつもより緊張していた。
でも、表は一歩前に出る。
「これは……街の記憶の整理じゃない」
ノートを開く。
赤い光は、規則的ではない。
むしろ、暴走している。
歪みは、京都の“古い場所”に集中している。
寺、古い町家、石畳。
歴史の層が厚い場所ほど、赤く染まっている。
――誰かが、無理やり“書き換え”ようとしてる……?
空間が軋む。
鐘の音が、途中で途切れた。
雄が叫ぶ。
「表! あれ消える!」
寺の一角が、完全に透けかける。
表は走った。
「影の子、補助!……お願い……!」
赤い光が足元をかすめる。
空間がねじれ、視界が揺れる。
表はノートに高速で書き込む。
【赤光=強制上書き】
【対象=歴史密度の高い構造物】
【目的不明・暴走状態】
「止まれ……!」
だが赤い光は、今までより強い。
京都の空が、血のように染まる。
そのとき。
赤い光の中心部に、黒い影が一瞬だけ浮かんだ。
“何か”が、向こう側にいる。
誰かが、操作している。
表の背筋が凍る。
これは自然現象じゃない。
――敵がいる。
寺の消失は、影の子の必死の補助で、ぎりぎり踏みとどまった。
だが赤い光は消えない。
空はまだ、歪んでいる。
表は静かに言った。
「これは……戦いになる」
京都編、第二章――
本格始動。
赤い光が京都の空を覆った翌朝。
京都校は、静まり返っていた。
校門は閉鎖。
外出禁止。
寮生は全員待機命令。
空はまだ、薄く赤い。
時おり、空間がわずかに揺れる。
「本日より、校内外の移動は制限する」
放送が流れる。
生徒たちのざわめき。
雄が小声で言う。
「これ、やばくないか……?」
表は窓の外を見る。
遠くの寺院の屋根が、まだ少し透けている。
完全には戻っていない。
――赤い光は、終わっていない。
影の子は、落ち着かない様子で揺れている。
午後。
徹さんが、表を研究室へ呼ぶ。
「昨日の現象は通常の光の筋ではない」
机の上には、観測データ。
赤い波形は、白とはまるで違う。
乱雑で、攻撃的。
「誰かが意図的に干渉している可能性が高い」
表の胸が強く打つ。
やっぱり。
「校外は危険だ。京都市内も一部立入規制が始まっている」
封鎖は、学校だけじゃない。
京都全体が、静かに異常事態へ向かっている。
その夜。
寮の廊下の空間が、一瞬だけ歪んだ。
壁が波打つ。
時計の針が逆回転する。
――校内にも侵入してる……!
赤い光の細い筋が、天井を走る。
「まずい……」
表はノートを掴む。
だが。
今回は、光の動きが読めない。
影の子が強く発光する。
――表、校舎中央へ。
初めて、明確な“誘導”を感じた。
表は走る。
中央ホールへ。
赤い光が集まり、空間が裂ける。
黒い裂け目。
向こう側に、あの“影”。
そして。
低い声が、直接響いた。
『観測者の後継……見つけた』
空気が凍る。
表は息を止める。
観測者――
それは、両親の研究にあった言葉。
赤い光が、一斉に収束する。
だがその瞬間。
影の子の力が強く介入した。
空間が強制的に閉じる。
赤い光が弾け、消える。
静寂。
ホールには、ひび割れた床だけが残った。
封鎖は解除されない。
むしろ強化された。
表は理解する。
これは小さな暴走ではない。
――私は、狙われている。
赤い光は、京都を試している。
そして。
次は本格的に来る。
窓の外の空は、まだ赤い。
京都校封鎖――継続。
封鎖三日目。
京都の空は、完全に赤く染まっていた。
歪みは学校の外へ広がっている。
遠くの寺院が、ゆらりと揺れる。
石畳が波打つ。
町家の壁が、ゆっくりと透ける。
「……京都全域で異常拡大」
徹さんの声が低い。
観測モニターには、赤い波形が京都市内に広がる様子が映っている。
表の喉が乾く。
――これは、整理じゃない。
――消去だ。
歴史の層が厚い場所ほど、赤が濃い。
時間そのものが削られている。
影の子が震える。
沙月の気配も、明らかに焦っている。
そのとき。
京都の中心部で、空間が大きく裂けた。
黒い縦線。
空が割れる。
『観測者の後継』
あの声が、京都全域に響く。
『干渉を開始する』
次の瞬間。
複数の寺院が、一斉に透け始めた。
鐘の音が途切れる。
風が止まる。
時間が、ずれる。
雄が叫ぶ。
「表! 町が消えてる!」
表の心臓が強く打つ。
――止めなきゃ。
――私が。
中央ホール。
空間が裂け、赤い光が渦を巻く。
表は、その中心へ歩いた。
怖い。
でも、逃げない。
ノートを開く。
そこには、両親の最後の走り書き。
【観測者=世界の記録を維持する存在】
【干渉が強すぎれば、世界は自壊する】
理解が、繋がる。
白い光は“調整”。
赤い光は“強制上書き”。
誰かが、世界を再構築しようとしている。
表の中で、何かが静かに目覚める。
視界が澄む。
赤い光の流れが、線ではなく“構造”として見える。
時間の層。
記憶の層。
存在の層。
――見える。
これが、観測者。
影の子が強く発光する。
影の子の声が、初めてはっきり届く。
「表ちゃん……あなたは継承者。
でも“選ぶ”のはあなただよ」
赤い光が迫る。
寺の消失が加速する。
表は、ノートを閉じた。
そして、空間に直接触れる。
書くのではなく――
“認識する”。
「京都は、消えない」
静かに言葉を置く。
赤い光が、止まる。
波が凍る。
時間の歪みが、一瞬静止する。
黒い影が揺らぐ。
『……完全覚醒前に干渉するとは』
空間が軋む。
だが、消失は止まった。
完全ではない。
けれど、京都はまだ存在している。
表は息を荒くする。
覚醒は、不完全。
でも確実に、力は目覚めた。
空の赤が、わずかに薄れる。
京都崩壊――一時停止。
私は京都の秘密を知りに行く 三話
京都の空は、まだ赤い。
だが先ほどより、わずかに薄れている。
表の一言で、崩壊は一時停止した。
しかし。
中央ホールの裂け目は、閉じていなかった。
黒い縦線が、静かに広がる。
空間が、ゆっくりと開く。
そこから――
“人影”が現れた。
長いコートのような輪郭。
顔は影に包まれている。
だが、目だけが赤く光っていた。
空気が重くなる。
雄も、周囲の生徒も動けない。
時間が、押しつぶされたように止まる。
『不完全覚醒。だが適性は確認できた』
声は、直接頭に響く。
表は一歩前に出る。
怖い。
でも、視線を逸らさない。
「あなたが……赤い光を?」
影は静かに頷く。
『世界は不安定だ。
記録は歪み、誤差が蓄積している』
空中に赤い光の層が浮かぶ。
京都の歴史の断面。
無数の時間の積層。
『修正が必要だ』
表の胸がざわつく。
「修正って……消すこと?」
『不要な誤差は排除する』
冷たい論理。
人も、街も、歴史も。
“誤差”なら消す。
影の子が強く光る。
黒い観測者は、表を見つめた。
『君は白の系譜。維持の観測者』
『私は赤。再構築の観測者』
空気が震える。
世界には、二種類の観測者がいる。
維持と再構築。
表は、初めて理解する。
これは偶発事故じゃない。
思想の違いだ。
「……京都は誤差じゃない」
静かに言う。
「人も、歴史も、消していいものじゃない」
赤い観測者の目が細くなる。
『感情は不要だ』
その瞬間。
赤い光が爆発的に広がる。
寺院の輪郭が再び揺らぐ。
表の足元の床が消えかける。
だが、今度は違う。
表の視界が開ける。
時間の層が見える。
存在の重なりが見える。
「ここは固定する」
触れる。
世界の縁に。
白い光が広がる。
赤と白が、空中でぶつかる。
衝撃。
校舎が揺れる。
赤い観測者がわずかに後退する。
『……成長が早い』
影は裂け目の前に立つ。
『だが未完成だ』
『次は止められない』
空間が閉じる。
赤い縦線が消える。
京都の空の赤も、ゆっくり薄れていく。
静寂。
崩壊は、再び止まった。
だが。
これは宣戦布告だ。
表は膝をつき、息を荒げる。
覚醒はまだ不完全。
力は足りない。
でも――
逃げない。
「私は……維持の観測者」
小さく呟く。
京を守ると、決めたから。
赤い空は薄れた。
京都は、ぎりぎり存在を保っている。
だが。
それは「見逃された」だけだった。
研究室の観測モニターに、新たな異常波形が映る。
「……関西圏外で赤色干渉を確認」
徹の声が低くなる。
モニターに浮かぶ地図。
赤い点が、ひとつ灯る。
それは京都ではない。
もっと東。もっと大きな都市。
東京。
表の息が止まる。
――戻ってきた。
あの街に。
赤い観測者は、場所を変えたのだ。
『実験は継続する』
あの声が、かすかに脳裏をよぎる。
京都はテスト。
本命は、観測者が生まれた街。東京。
同時刻。
東京の空に、細い赤い線が走る。
最初は誰も気づかない。
だが次の瞬間。
ビルの上階が、一瞬だけ透けた。
横断歩道の白線が、消えかける。
街の雑踏音が、わずかに遅れる。
赤い干渉は、静かに始まった。
京都校。
表はモニターを見つめる。
胸が締め付けられる。
東京には、月学がある。
先生がいる。
沙月がいる。
両親の記録が、まだ眠っている。
「……赤は、観測者を揺さぶってる」
徹さんが言う。
「維持の拠点を壊せば、継承は不安定になる」
つまり。
赤は、表を成長させるために壊している。
揺さぶり。
選別。圧力。
影の子が、不安げに揺れる。
――表、急がないで。
でも。
表の目は、もう決まっていた。
「私、東京に戻る」
空気が張りつめる。
「今度は、逃げない」
京都で止められた。
でも完全には防げなかった。
赤は、段階を上げてきている。
これは都市単位の実験。
次は、もっと大きい。
世界かもしれない。
窓の外。
京都の空は静かだ。
だが遠く、東の空に、かすかな赤。
戦場は移動した。
第二幕――東京再戦、始動。
その夜。
東京の空が、静かに赤く染まり始めた。
最初は夕焼けと見分けがつかなかった。
だが。
赤は消えなかった。
夜になっても、空が暗くならない。
不気味な紅が、街を覆う。
高層ビル群の窓が、波打つ。
道路標識が、ゆらりと歪む。
地下鉄のアナウンスが、一瞬だけ逆再生される。
時間が、ずれる。
交差点の信号が、存在ごと薄くなる。
「なんだよこれ……」
人々のざわめき。
だがまだ、誰も“崩壊”だとは理解していない。
京都校。
警報が鳴り響く。
観測モニターの赤が、爆発的に拡大する。
「干渉レベル、京都の三倍……!」
徹の声が震える。
表の血の気が引く。
――本気だ。
赤の観測者は、段階を上げた。
東京上空。
巨大な赤い円環が、静かに展開する。
それはまるで、都市を“選別”する装置。
円環が回転するたび、
ビルの上層が消える。
公園の木々が透ける。
街の雑踏音が、無音になる。
存在が、削られていく。そして。
月学の校舎の一部が、ゆっくりと透明になり始めた。
寮の壁が、向こう側を見せる。
時計台の針が止まる。
表の胸が締めつけられる。
「……やめて」
赤の声が、遠くから響く。
『観測者の拠点を検証する』
『維持がどこまで耐えられるか』
実験。
都市ごと。
表の拳が震える。
影の子が強く光る。
沙月の気配が、はっきりと怒りを帯びる。
その瞬間。
東京の上空に、黒い裂け目が開いた。
赤の観測者が、円環の中心に立つ。
巨大。
京都の時よりも、はるかに圧倒的な存在感。
『さあ、維持の継承者』
『選択しろ』
円環が加速する。
街の一部が、ごっそりと削れ始める。
東京全域、崩壊開始。
表は、立ち尽くす。
遠く離れているのに、
痛みが直接胸を刺す。
――私が行かなきゃ。
距離がある。力もまだ未完成。
赤の観測者が、ゆっくりと両手を広げる。
『都市一つ、維持できぬなら』
『世界など守れぬ』
東京の夜空が、真紅に染まる。
崩壊、加速。第二次東京消失、始動。
東京の崩壊が、加速していく。
赤い円環が回転するたび、
街の一部が削れ、音が消え、光が薄れる。
月学の寮の壁が半透明になり、
時計台の針が止まったまま動かない。
京都校・中央ホール。
モニターに映る東京の惨状。
表は、立っていられなかった。
「……間に合わない」
距離がある。
力も未完成。
跳躍する術も、まだ制御できない。
赤の観測者の声が、遠く響く。
『選別は進む』
そのとき。
空気が変わった。
温度が、静かに下がる。
影の子が、はっとしたように振り向く。
表の背後に、はっきりと“姿”が現れる。
音無 沙月。
今まで影のようにしか存在しなかった彼女が、
初めて前線に立った。
表が振り返る。
「……沙月?」
沙月の瞳は、静かで、そして決意していた。
「ごめんね、表」
優しく微笑む。
「本当は、まだ使うつもりなかった。」
京都の空気が歪む。
足元に、白と黒が混ざった紋様が広がる。
徹が息を呑む。
「まさか……“調停者”か……?」
表の心臓が跳ねる。
調停者。
維持と再構築、その中間に立つ存在。
沙月が、静かに両手を広げる。
空間が裂ける。
だがそれは赤の裂け目とは違う。
白と銀の光が、静かに回転する。
「私は観測者じゃない」
沙月の声は、強い。
「暴走を止める“均衡の楔”」
東京上空の赤い円環が、一瞬止まる。
赤の観測者が、わずかに目を細める。
『……まだ残っていたか』
沙月の力が、東京へと伸びる。
距離を無視して、直接干渉。
赤い円環に、白銀の亀裂が入る。
崩壊が、減速する。
完全停止ではない。
だが、明らかに弱まった。
沙月の額に汗が浮かぶ。
「長くは持たない……」
空間が軋む。
調停の力は、観測者よりも負荷が大きい。
赤の観測者が、静かに言う。
『禁じられた干渉だ』
『均衡は崩れるぞ』
沙月は微笑む。
「崩すのは、あなたでしょ」
次の瞬間。
銀と赤が激突する。
東京上空で光が爆ぜる。
崩壊は――
止まった。
だが。
沙月の体が、ぐらりと揺れる。
表が支える。
「沙月!」
沙月は、かすかに笑う。
「これで、時間は稼いだよ」
赤い空は、まだ消えていない。
だが今は静止している。
赤の観測者は、消える直前に言った。
『均衡が前に出るなら』
『次は本当に世界を揺らす』
東京は、辛うじて存在を保った。だが。
沙月は、力を隠せない。
均衡の楔、解放。
東京上空。
赤と白銀の衝突は、まだ空に残っていた。
崩壊は止まっている。
だがそれは――
沙月が、力を流し続けているからだった。
京都校・中央ホール。
沙月の足元の紋様は、ひび割れ始めている。
白銀の光が、不安定に揺れる。
「……もう、やめて!」
表が叫ぶ。
沙月は、静かに首を振った。
「均衡はね、ずっと“間”に立つ存在なの」
声は、少し弱い。
「維持も、再構築も、どちらかに傾いたら世界は壊れる」
東京の赤い円環が、再び動こうとする。
沙月の光が、必死に押さえ込む。
雁弥が低く言う。
「これ以上は、存在がもたない……」
表の胸が締めつけられる。
「沙月、やめて! 私が……」
「まだ完全じゃないでしょ」
優しい声。
いつもの、従姉の声。
「あなたが完成するまで、世界は壊させない」
赤の観測者が、再び姿を現す。
『均衡は長くは持たぬ』
沙月が、まっすぐ見返す。
「持たせるの」
次の瞬間。
沙月の光が、さらに強く燃え上がる。
東京上空。
赤い円環に、決定的な亀裂が入る。
ガラスのように砕ける。
赤い空が、割れる。
崩壊が、完全停止する。
だが同時に。
沙月の体が、透け始めた。
表の視界が揺れる。
「……え」
沙月の輪郭が、光になっていく。
均衡の力は、“自分の存在”を燃料にしていた。
「やだ……」
表が抱きしめる。
でも、腕の中の感触が、薄い。
沙月は微笑む。
「ごめんね。
本当は、ずっと隠して支えるつもりだった」
涙が落ちる。
「でも、あなたは一人でも立てる」
影の子が、震えている。
赤の観測者は、沈黙している。
世界は、静まり返っている。
沙月が、最後に言う。
「観測者は、守るだけじゃない。
信じることも、維持だから」
白銀の光が、静かに弾ける。
砂のように、粒子になって舞う。
表の手の中から、
沙月は消えた。
東京の空は、青に戻る。
京都の歪みも消える。
均衡は、世界を固定した。
代償に。
沙月という存在を失って。
中央ホールに、静寂。
表は、膝をついたまま動けない。
影の子が、そっと寄り添う。
遠くで、時計が動き出す音。
世界は守られた。
でも。
何かが、決定的に欠けた。
赤の観測者が、最後に言う。
『……均衡は消えた』
『次は、純粋な戦いだ』
姿が消える。
残されたのは、空虚。
表の涙だけが、床に落ちた。
均衡の終焉。
戦いは、新章へ。
続編。私は名古屋で秘密の謎を解き明かす