大和敢助と諸伏景光(を含む警察学校組)が悪霊に全力で対抗する話。
コーメイのことを助けたり、みんなでご飯食べたり、ドシリアスが絡んだり忙しいよ
妄想をぐつぐつ煮込んだ産物、美味しいかは人による!!!
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目次
"それ”は侵食する(仮題)
大和敢助と諸伏景光を絡ませたいという原作ルートでは叶わぬ思い
長野県警組は絶対霊が憑きやすいという妄想
大和敢助はヒロインもいいけどヒーローやってるのが見たいという願い
大和敢助は霊感強そうという偏見
ゼロを休ませたい&除湿材が欲しいというメタ
がごっちゃ混ぜになってグツグツ煮込まれた産物です。
書きたいトコしか書いてない。
「あ、敢助くん!起きたんだぁ!」
半透明の男は、俺を指さしてそう言った。
目が覚めて、久しぶりに親友、コーメイと会えた。
左遷したとかどういうことだ、由衣は誰と!?と問い詰めてみたが、
出るのは意味のわからぬ故事成語のみ。
こういうときに由衣がいればな……と寿退職した幼馴染を思い出す。
ふとなにか視線を感じた。人じゃない。気配がなさすぎる。
気のせいか?とコーメイの方に向き直ってみれば、彼はいた。
「兄さんが機嫌良かったのはそういうことだったんだね〜。」
ふふ〜、と鼻歌でも歌いそうな勢いでニコニコ、ゆらゆら。
誰だ、お前。口に出しそうになって、なんとか止める。
この世界に住んでいないものは視える方だと自分でも思う。
幼い頃から特に霊のたぐいはよく視えた。
その強さも、だいたい分かる。経験から言って、でかければ強い。形が異形であれば技が厄介。
幼なじみ二人が、そんな強い霊たちに憑かれやすいことも知っていた。またか、と今も思った。
しかし、この霊はサイズも高身長であれど人間くらいの大きさであれば、形も殆ど人である。
これまで何百体と見てきたが、こんなに人間らしさの残る霊はいなかったはずだ。
大体は人の形など欠片もなく、大きさは3Mを優にこすのがほとんど。
けれど、彼は少し透けているくらいで生きている人間と何も遜色がなかった。
本当に、霊の仲間?そんな疑問が、湧き出るほどに。
そっと手を伸ばし、彼に触れる。
霊には、昔から触れれる。誰にも言えない、俺の秘密。
普通の霊ならば、なんとも言い難い奇妙な感触をしているものだ。
熱いのか冷たいのかわからず、まるで柔らかいスライムのように自らを飲み込んでいくような。
そんな、嫌な感触。触りたくなんてない。触るのは倒すときとやむを得ないときだけ。
でも、彼の感触はそんなのじゃなくて、なんだか人の暖かさと柔らかさで、いっぱいだった。
「「敢助くん?」」
---
「敢助くん!!後ろ!!」
景光の声に体は素早く反応し、杖を支えに足を上げる。
狙うはコーメイの頭の真横。油断してたのが悪かった。
美味いご馳走を喰おうと緩んだ顔に、回し蹴りをぶち込んだ。
「敢助、くん?」
由衣を背負ったコーメイが焦ったように呼ぶ。
不安だろう。彼には何も視えていない。十重二重に自分を囲う霊のことも。
守護神として自らを守る弟のことも、何も。
わかっていない。視えていない。
なのに、聡明であるから、緊急事態であることだけはわかってしまっている。
「悪ぃな、コーメイ。」
背中を見せればすぐやられる。守りながらでこんなに戦いにくいと思ったことはない。
景光が後ろから援護してくれているとは言え、俺にしか【視えない】奴もいる。
援護は期待できない。誰もいない。コーメイと由衣を守れる【人間】は、俺、一人。
「いいか、絶対に由衣は離すな、俺以外の声に反応すんな、離れるな!」
霊を拳で黙らせながら、コーメイに伝える。
コーメイの目はなぜ、どうして、自分には教えてくれないのだと言っているが知ったこっちゃない。
いや、もはや知らなくていい。知るな。わかるな。
その聡明な頭脳を、ここで使うんじゃねぇ。
知ったらお前は、必ず俺をおいて飛び出していくんだろ。
自分を囮にしてでも霊を倒す完璧な策を作ってくる。
そうしたら俺は、もうお前を止められない。お前も、止まれない。
だから今日くらい、今回くらい、俺に任せてくれないか。
危ない目には遭わせないから。二人とも俺が守るから、ここにいてくれ。
「すごい殺し文句考えてるね。」
そして|景光《おまえ》は心を読むな。
---
〜ちなみに設定〜
大和敢助
生まれつき霊に非常に敏感。めっちゃくちゃ視えるし聞こえる。隻眼になったのをきっかけに守護霊や、彼らすら視えない霊も、もはや存在を消してるナニカも、視える。ある意味霊に最も近い人物。ついでに触れる・倒せる。持っている銃は霊にもあたる。触れたものは霊も持てるようになる。相棒と想い人が憑かれやすいのを知っているし、守るために毎日奔走している。
諸伏景光
長野県警とゼロの守護霊。非常に強い。霊視や霊感は前からあり、守護霊になってからより強まっているが敢助には敵わない。持っている銃は霊にのみ作用し、掠れば跡形もなく蒸発させる代物。敢助の作った料理は食べれるけれど、他は無理。普段はゼロのもとにいるが、緊急事態になるとゼロの覇気を持って長野に走ってくる。敢助に限り心が読める。たまに敢助に料理を教えたりもする。
諸伏高明
めちゃくちゃ憑かれやすい人。四六時中悪霊がいる。ちなみに大体ド強いやつ。毎回死にかけるのはこのせい。敢助が側にいなかった時は特にまずかった。ヒロが頑張った。本人に霊感はなく、敢助が必死なのも?状態。神様になんでコイツ生きてんの?と言われた。ゼロの覇気を四六時中纏わせないと本当に危ない。霊の活動が多くなったのはここ二年ほど。
上原由衣
高明ほどでないとしても憑かれやすい人。ちっちゃい霊がひょこひょこでてくる程度だが、たまにでかいのを連れてくる。本人に霊感はない。うん、ない。ゼロの覇気は一応纏わせている。
まだ出てない人たち
降谷霊
何も知らない一般人。長野の二人同様霊に好かれる体質だが、眼力と体から滲み出るオーラと腕力でなんとかなっている。そのオーラは強い霊でも一瞬で気絶するようなものであり、守護霊以外は多分耐えられない。赤井が絡んだり、徹夜だと濃度が濃くなる。ちなみに赤井も同じ体質。
警察学校組
全員でゼロの守護霊をやっている。他に大切な人の守護霊も兼業している。景光経由で長野県警防御も手伝っている。どんだけ悪霊いるんだ長野。と思っている。
霊たち
普通の霊。でかければでかいほど力が強い。好かれる人間によく集まる。太陽が苦手。
用語
【ゼロの覇気】
降谷零の悪霊に対する殺気と腕力による悪名をごちゃ混ぜにしたオーラのようなもの。悪霊を触れた瞬間に蒸発させる力を持つ。でかいやつも、すぐ消滅するので高明や由衣の守護に役立てる。赤井が絡んだり、徹夜状態だった場合、濃度が濃くなり、二倍・三倍・四倍増しにまでなる。四倍増しの場合、本来影響の出ない守護霊すら手先が粒子になる。
猛烈なカクテル
一番「秘密の晩餐会」 景光が敢助のぼたもち食べてる図が見たかった
二番「それは侵食する」コーメイの呼び捨てが書きたかっただけ 前回の続き
三番「猛烈なカクテル」霊の影響でぶっ倒れるコーメイの話。
過呼吸描写注意
故事成語ログアウトコーメイ
「敢助くんのはんごろし、美味い!」
実体があったはずのぼたもちが、半透明の体へ消えていく。
「そうか。よかった。」
幽霊であるスコッチこと諸伏景光は、俺の作った料理が食べられる。
逆に言えば俺の料理以外食べられない。
当たり前だろう。現世の物に触れられない幽霊が、物に触れられること自体が異常なのだ。
「敢助くんは俺たちに近いのかもね。」
景光はそう言う。
俺にだって霊感は誰より強いという自負はある。
幼い頃から山の神たちと遊び、幼馴染に降りかかる悪霊を蹴り倒してきたのだから。
それなのに、霊の原則が当てはまらない状況を自分が作り出せるというのは信じがたかった。
「……たしかにそうかもな。」
本当に自分は霊に近い存在になってしまっているのではないか。
そんな疑念が、俺の中で渦巻いた。
「今度みんなも呼んでくるね。」
「おう。」
---
ふわりと足が浮いた感覚がした。
幻覚。そういうタイプか、と咄嗟に身を構える。
コーメイは?由衣は?無事か?
周りを見渡しても白い世界が続くばかりでなにもない。
霊に飲まれた時の、ぐじゅりとした感覚はない。
なら、幻覚系の呪のたぐいであるはず。
どうやって解けるかはわからないが、動かないことには始まらない。
麻酔でも効いたように重いまぶたをこじ開け、霞のかかる視界に目を凝らす。
ふと、目の前に人影が見えた。
見たことがある影だ。すらりと高い身長と細身の体型。そして立ち振舞い。
「こー、めい?」
幼馴染に違いなかった。
嘘だ。嘘だ。幻覚だ。アイツがココにいるはずない。
いたとしたならそいつはコーメイじゃない。
頭ではわかっているはずなのに、体が言うことを聞かない。
守らなければ、助けなければ。片隅に残るその思考に、体が支配されている。
「コーメイ!!!」
くるりと影が振り返る。一気に顔が鮮明に映る。
どす黒いものに包まれた、コーメイ。由衣を抱え、ナニカに怯えるような顔をしたコーメイ。
敢助くん。口は動いているはずなのに、その声は聞こえない。
まるでなにか見えない壁があるように。
コーメイ、コーメイ、由衣、由衣。頭の中にはそれしかない。
「待ってろ、今、助け、
パンッ、音のない世界に爆音が響いて、銃弾がすぐ横を通り過ぎる。
鮮血が、ぼやける視界を覆う。
その瞬間、警察官としての理性と知識はどこへやら、俺は頭から二人のもとに飛び込んでいた。
守るように二人に覆いかぶさって、怪我の状況を診る。
銃弾はコーメイの腹の真ん中を撃ち抜いていた。太い血管に当たったのか血が止まらない。
由衣もどこか顔色が悪い。霊の影響か?
「コーメイ!!由衣!!しっかりしろ!!」
もう先程までの幻覚という認識は消え失せて、目の前の二人だけが視界に映り込む。
傷が深い。白い世界にコーメイの血が流れて、赤黒く染まっていく。
この場には誰もいない。俺しかいない。助けられるのは、俺だけだ。
手が、服が、染まっていく。
今誰かがこの状況を見たら、強面と相まって自分が殺ったようにしか見えるまい。と冷静に考えることはできなかった。
「こ、め、、、ゆ、い」
まずい。息がうまくできない。
握る手と抑える傷口から温もりが感じられない。
逝くな、逝くな、待ってくれ。二人して俺をおいていくな。
じわじわナニカが自分の中に侵食してくるのが感覚でわかる。
普段ならば、気づけてその場を離れていたのだろうが今はもうそこまで頭が回らない。
息ができない。手の感覚が消えていく。こんな感覚は雪崩の時でもなかった。
精神的なものなのか、はたまた霊によるものなのか、区別はつかなかった。
「__け、く、__」
「__ん、ちゃ、__」
なにか音が聞こえる。
構っちゃいられない状況のはずなのに、その音はやけに耳に残った。
敵か?霊か?判別している暇はない。
姿が見えた瞬間、杖で叩いて蹴り倒す。大丈夫、できる。
そこからのことはもうわかっているはずなのに。
体が動かない上、呼吸の仕方すらも忘れてしまったようだ。
「ゼヒュ──、ゼ、ヒュ──……ぁ、ぅ……」
肺が重い。二人の姿は消えていたが、もうなにも目には入ってこなかった。
頭の中がごちゃごちゃで、なにも考えられなくて、霊の影響と頭でわかっていた事実もすっぽ抜けた。
誰なんだ、コーメイが怪我してる、由衣も危ない、味方か?敵か?どっちでも倒すしか方法はない。
それは侵食する。俺の頭の中を、体を、精神を。
それは侵食する。白い世界を、黒く染めていく。
ぐじゅ、とあの筆舌に尽くしがたい嫌な感触がした。でももう、遅い。
黒く染まりきった世界が、音もたてずに崩れていくさまを、
ただ呆然と見ていることしかできなかった。
どれほど時間が経っただろう。暗闇で一人、息もできず、思考もできず座り込む。
ひかりがない。
今はいつだ。何年の何月何日だ?
季節はなんだ。夏か、冬か?
なにも感じられない。もう意識さえも飛びそうになっている。……飛ばせたらどれほど楽だったか。
「けほっ……ゲホッ、……ヒュー……ヒュー……ゼヒュー……」
暗い世界で、自分の不規則な呼吸の音しか聞こえない世界で、
何故か幼馴染とその守護霊の顔が浮かんだ。
「大和敢助!!!!!!!!」
掠れたような、裏返ったような声が耳をつんざく。
誰の声か、もう考えるまでもない。この声はコーメイに決まっている。
世界が色と形を持っていく。刺すように痛い太陽光を反射するアスファルト、カーブミラー、青空。
そうだ、そうだ、俺は。ここは。
それと同時に、ふわふわと浮かぶような感覚が戻ってくる。
「ハヒュ、ヒュー、ふー、、、、」
落ち着いて呼吸を整えれば、怖いものはない。
もう大丈夫、全部幻覚。悪霊が見せた幻覚だ。
「わかりますか、僕らは無事ですから。」
そんなの知ってる。知ってる。わかってた。
大丈夫。大丈夫。あいつらは無事だ。そう簡単にくたばりゃしない。
誰かをおいてなんて、逝くはずがない。
目を覚ませ。気をしっかりしろ。霊の気配を辿れば戻れる。
ゆっくりと意識が浮上する。霞がかかった視界もゆらいで、少しずつ全てが【視えて】きた。
「敢助くん!」
故事成語ばかりの|親友《ライバル》も、
「敢ちゃん!」
少し大人びた幼馴染も、
「敢助くん!!」
協力者の守護霊も。ようやく視えてきた。
「悪ぃな。もう大丈夫だ。」
に、と笑ってみるが、アイツラの目にはどう映っているだろう。
無理をしているように見えないだろうか。
ふと違和感がして、あたりを見回す。
先程まで十重二重に二人を覆っていたはずの霊たちがいない。
「敢助くん、いきなり霊にのまれたんだよ。まるで、敢助くんを狙ってたみたいに。」
景光が心を読んだのか答えてくれる。
なるほど、俺狙いか?
確かに俺もコーメイまでとは言わずとも霊には好かれる体質だ。
ありえなくはないがなにか違う。
だったらなにも俺を取り込まずとも一気に殺ってしまえばよかった。
なら、真実は一つ。
「敢助くんを利用して、兄さんたちをあっち側に連れ込もうとした、だね?」
それしかないだろうな。俺のガワは最適だから……。
---
酒はそこまで呑まないが、酒に酔った記憶もない。
潜入捜査で酔っぱらいのフリがうまくなるのに、本当の酔いは一切回らない。
不思議なものだ、自分に記憶がないだけなのかもしれないが。
ぽん、と肩に手が当たる。誰と言うまでもなく幼馴染の敢助だろう。
「なんです、敢助くん。」
「あ、あぁ、肩にゴミついてたからよ。」
ぎこちないその笑みはなにかを隠している歴然たる証拠。
自分がわかっていることも彼の推理力ならわかっているだろうに、それでも笑って隠し通す。
その表情をされるたびに自分は信頼ならないのか?とまで思ってしまう。
そんなはず、ないのだろうけれど。
「それよりコーメイ、この事件なんだが。」
「ん、進展ありましたか?」
「それがなぁ……どうにも尻尾出さねぇんだ。」
曰く犯人と目星をつけていた男の身辺は綺麗すぎるほどに白かったらしい。
怪しさは増すばかりだが、白い現状、どうにもならない。
「どうすっかなぁ、、、、。」
まただ。敢助が自分の真後ろを見て話すのは今日が初めてではない。
しかし、さほど驚くことでもない。彼が隻眼になってからよくあることだ。
彼の目には何が視えているのだろう。
「そうだな……。高跳びしねぇとも限らねぇしゆっくり行くか。」
「敢助くん、僕はなにも言っていませんが。」
そうか?と笑う彼の独り合点が、一人で行ったものでないと気づいたのはいつだったであろう。
もう遠い昔のことのように思う。
ぐらり、突然視界が揺らぐ。
なんだ、思う間もなく地面に激突、腕を強打。
受け身も取れていないのに痛みがないのは妙に丈夫な体だからだろうか。
「コーメイ!?」
敢助の声に大丈夫だと答えて、起き上がろうとした。
が、腕に力が入らない。痛いとかではなく、力が抜ける。背筋が凍った。
「コーメイ?」
敢助の顔が青ざめるのがわかる。大丈夫、大丈夫。
そう言おうとしているのに口も動かなくなった。
ぱくぱくと酸素を求める魚のように動く口から、言葉は出てこなかった。
目の前はぐらぐらゆらゆら揺れている。
なんだ、この感覚。地面があるようでないような、そんな感覚。
「わかるか、コーメイ。」
反応できない。なんだこれ。初めてだ、こんなの。
嵐の中の船とはこんな感覚なのかもしれないと思う。
「……コーメイ、昨日酒でも飲んだか?」
もちろん飲んでいない。全身から力が抜けて伝えるすべもないけれど、飲んでいない。
首を横になんとか振ってみるが、横に倒すので精一杯だった。
「飲んでねぇのか、んじゃ墓にでも行ったか?
墓じゃなくても、寺か、神社か、あとは……山か。」
彼に言われ、記憶をひっくり返して考えてみる。
そういえば昨日、とある事件で山に行った。
敢助は別件でいなかったので自分ひとりで行ったのだ。
「__や、ま__」
「山か。んじゃぁ、、、、ちょっと待ってろ。」
その小さくか細い声も聞き取ったのか、じっくり思考に入り始める。
体が気だるい。動かない。やっぱりなんだ?
病気でないのは直感でわかる。なにか別の原因が……。
「ん、動きたいだろうがあと十秒待てよ。」
敢助の手がゆっくり動き、なにかを取り除くような仕草をする。
少しずつ体が軽くなってきた。
「ご、よん、さん、にー、いち。よし、もういいはずだ。」
敢助の声に合わせ、体を動かす。起きられる。
手も動く。試しにあーと声を出してみる。楽に出る。
「……敢助、くん?」
「ま、心配すんな、病気じゃねぇ。強ぇ酒に酔っ払ったとでも思っとけ。」
ぐ、と自分の手を引くと、敢助は歩き出した。
猛烈なカクテルでも知らないうちに飲んだと思えということか。
無理でしょう。つい口からついて出ていたことは、敢助しか知らない。
「おい、カミサマかなんだか知らねぇが、もうコーメイに触れんじゃねぇよ。」
「次兄さんに触れたら、消滅させるよ?何が何でも。
あ、でももう殺ってもいいよ?どうする?」
その日、山の神に覇気をまといつつ、問い詰める二人の姿があった。
山の神
聞き込みでやってきたコーメイを気に入り、体を乗っ取ろうと考えていた。
ヒロが身体から引っ張り出し、敢助がコーメイの意識を保たせたことで計画は潰えたが、成功していた場合【諸伏高明】の人格は死んだ。
もともと生贄とか取ってたし、わりと怖い神様。ヒロと敢助の説教(?)で故郷の山へ帰った。
不安な同盟
今回は長いよ〜!!ファンレターありがとさんです!!
第一作の合間の話。
敢助が景光を信頼するちょっと前。
気づけば消えてしまうような儚さが、その美しさに隠されている。
「なあ、コーメイ。」
ある日突然霧となって消えてしまうのではないかと、幼い頃から思っていた。
「どうしました?敢助くん。」
いつもに増して細い肩と青白い顔はなにかがあったことを決定づける。
背後に揺れる黒い影。あぁ、コイツも焦がれてしまったのか。
諦めにも似た感情が湧き上がっては消えていく。
「動くな。」
コーメイは昔からそういうのに好かれる体質だった。
俺たち三人の中でも特に好かれているのに、霊感がないから死にかけるなんてざらにあった。
いっそ俺とコーメイの霊感が真逆ならいいと何回思ったことか。
杖でコーメイの真隣を撃ち抜きつつ、そう思考する。
「あと今日は俺の家来い。はんごろし作ってやるから。」
「は、なんで、というか何をしているんです?」
黒い影は弾け飛び、彼の暗い顔は更に曇った。
杖を引いて欠片を払い落とし、じっくりコーメイの顔を見る。
決して危ない状況なわけではない。黒い影がいつもより少し多いという程度。
自分が側にいればなんとかなりそうな状況だ。
やはりアイツがコーメイを守っているような気もする。
隻眼になってから視えるようになった、コーメイを兄さんと呼ぶ男。
コーメイの弟、といえば自分が中学生の時に東京へと越した景光であるが、
なぜ霊としてこの場にいるのかさっぱり見当がつかない。
死亡しているならばそれは風の噂でも聞くであろうし、
生きているならば霊としている状況が理解できない。
それに、最初に見つけてから姿を見れずじまいだ。
一体どこへ行ってしまったのだろう。
「敢助くん?」
「いろいろ作りすぎちまったんだ。明日非番だし由衣も来るってよ。」
「それはそうですが……。いきなり過ぎるでしょう。何かあるのでは?」
ねぇよ。平然と笑って返せる自分は、やはりどうかしているのだと思う。
「コーメイ、今日は俺から離れんな。約束しろ。」
とりもあえずも、彼のことは守ってやらねば。
今日一日でも離れずいてやらねば。
そう、決意を新たにした。
---
家にあったはんごろしことぼた餅は、自分の想像をはるかに超える量であった。
大捕物を控える二課と組対に持っていく予定で相当な量を用意したはいいが、タイミングを逃したというやつだ。
「どうしたらこんな量作ることになるんですか。」
「うるせー、二課と組対に持ってくつもりだったんだよ。」
フライパンで豚肉を焼きつつ反論。
そして笑う彼は隣においておいたぼた餅の皿をとっていく。
「大捕物、明日に伸びましたからね。」
「そうだよ。……朝にでも持ってくか。」
ふふ、と笑うコーメイの声が遠ざかっていく。
由衣を呼ぶ声は小さく、じゅぅ、と油のはじける音にかき消されていく。
「おぉ、美味そう!敢助くん、料理も得意だったんだ。」
人の声は完全に届かなくなったはずであるのに、その【声】が耳元に転がり込んだ。
「あれ、兄さんどこ行った?って、ぐえ、、」
「見るだけ見て帰んじゃねぇ、自己紹介ぐらいしてくれ。」
菜箸片手にそいつの首根っこを掴んで引きずり戻す。
もう逃がしはしない。コイツは誰だ。
「敢助くん!?ほ、ほんとに視えてたの……!?」
「おうおう。ってかお前、俺が触れられるのわかっていただろ!!」
その男は誤魔化すように笑ってふよふよ漂う。
ふわりふわり、あっちに行ったりこっちに行ったり。
随分ゆったりとした霊だ。普通はもっと俊敏で、抜け目のない動きをするはずなのに、まるで警戒感というものがない。
「いやあれ偶然かと思って……。」
「偶然で片がつくか!!ってかお前は誰だ!?」
彼は驚いたように目を見開き、食いつくようにこちらへ迫った。
さっきまでのふわふわはどうした。
「え、俺だよ、俺!景光だよ!敢助くんともいっぱい遊んだでしょ?」
「…………。」
「ちょ、目!目が怖い!ちゃんと本物だよ!あ、敢助くんは俺が死んでるの知らないっけ?」
「死んでるやつはいきなり話し出したりしねぇから!!」
まずここまで人間に近い霊なんて見たことがない。
崩れず、人の体を保っている霊も。まともに意思疎通が取れる霊も。
初めてだった。
「え〜?……あ、もしかして敢助くん。目、そうなってから俺、視えるようになった?」
「はぁ?」
確かに合っている。コイツが視えるようになったのは隻眼になってからだ。
このバッテンじるしによって失った光の代わりに、得たのは前より強い霊視なのか?
この目は、俺の目は、一体どうなってしまったというのだろう。
「おーい、肉焦げるー!」
その言葉にハッとし、慌てて野菜炒めを皿に盛る。
少し焦げた部分は口に放り込み、なんとも言えない苦みとともに飲み込む。
その途端、彼の表情が固くなった。
「……俺たちはね。霊感が強い人でもめったに視えないんだ。
なのに視えたってことは、敢助くんがこっち側に来てる証拠だ。」
つらつらと並べられていく言葉に、感情はない。
先程までの感情はどこへ、とツッコミたい。変わり身が早すぎる。
しかしその言葉には強い説得力があった。
「……。」
「自覚、あるんだな。」
一切のごとく変わった口調に急かされ、思考は急展開する。
視えるようになった景光。前より感度が鋭くなった幼馴染取り憑き霊レーダー。
ぼやけていた霊がはっきり視えるようになったどころか、今は彼らの感情さえもを理解できる。
ぐるぐる思考は回りだす。どす黒いような、それでいて澄んでいるようなナニカが周りをうずまきだす。
「……俺は。」
言葉が出てこない。霊に近い?俺が?
いくら信じられなくても、納得してしまうだけの証拠は揃っている。
どこぞの探偵は言ったらしい。
【不可能であることを除外すれば、残ったものはどんなに信じられなくても、それが真実だ】と。
「……か、敢助くん!?ご、ごめん!そんなびっくりさせたかったわけじゃないんだけど。」
やっちまった、と彼が頭をかき回す。
スコッチ出ちゃったか、ちょっと前からに人と話す時はずっとそうだったもんな。
理由のわからない独り言がぴょんぴょん飛び出しては消えていく。
「……景光?」
あぁ、コイツ。コーメイにそっくりだ。
自分で何もかも背負いすぎだ。何もかも突っ走りすぎだ。
「大丈夫、なにもないから。ははっ。」
誤魔化すような笑顔もそっくりだ。なぁ、知ってるか?景光。
お前のアニキはな、その顔をする時、ロクなこと考えてねぇんだよ。
なぁ、教えろよ。コーメイに何が起きてんだよ。お前は何を知ってんだよ。
お前は一体……何者だったんだよ。
「なぁ______」
「敢助くん、敢助くん!」
すぅっと背筋が暖かくなる。幼馴染が皿を片手に俺の方を叩いている。
景光は笑う。儚げに笑う。そんな顔をしないでくれ。
そんなところまで兄弟そっくりじゃあなくていい。
「……コーメイ。」
「どうしたんです、ずっと虚空を見つめていましたが、なにか……。」
心配が言葉から伝わってくる。焦りも、恐怖すらも。
俺は消えやしない、その言葉は形にならない。
「……コーメイ。」
「なんです、敢助くん。」
好かれる人間はとにかく暖かい。
コーメイが持つ月のように、白く輝く暖かさはとくに霊が好むものだ。
「いや、なんでも。」
景光はいつの間にか消えていた。
結局、なにも聞けなかったなとふ、と思う。
せめて、せめて、せめて、この幼馴染二人は守ってやらなければ。
細くなったその腕を握りしめ、そう誓う。
「行きましょう、由衣さんも、待ってますから。」
「おうよ。」
---
「マジか!!」
青い顔をした幼馴染を抱え、走る、走る。
足が本調子じゃないからか、霊の手がすぐ背後に迫ってきている。
止まるな、進め!!!コーメイの命がかかってんだぞ!!
触れる肌が冷たい、もう手遅れなんじゃないか、そんな思いが頭をよぎる。
嫌だ、嫌だ、生きてくれ!俺を見つけ出したのにお前だけ早死とか許さねぇからな!
となかば理不尽な言葉を心のなかで投げつけ、息を弾ませ、走る、走る。
不自由な足も、この時ばかりは気にしていられない。
ぐらつく、ふらつく、こけかける。
最悪の事態が積み重なって坂道を転げ落ちる。
「ぐ……。」
コーメイだけは庇って、怪我をしていない方の足を強打する。
折れてはいない。直感でわかる。だがひねっているようで立ち上がれない。
「縺薙▲縺。縺翫>縺ァ」
黒い影がコーメイをいざなう。渡すか、と手に力を込める。
嫌な感覚が全身を包む。ゾワリと鳥肌が立ち、冷や汗が背筋を伝う。
ぎゅ。コーメイを包むように抱きしめる。
「……やめろっ!!」
「雖後□ 霑斐@縺ヲ」
コーメイは、お前のもんじゃねぇ。
そう返そうとした自分に頭が凍りつく。
なにを言おうとした?俺は。……こいつの言葉を、理解した?
混乱する自分を嘲笑うかのように黒い影はコーメイを掴む。
杖は飛ばされている。動けない。……たすけ、られない。
パァン!!!!
銃声が聴こえた。
何の音が、確認する前に黒い影が蒸発したように消えた。
「は、え、何が。」
『……おまたせ、敢助くん。』
「おま、景光……?」
声が聴こえる。景光の声が。
耳元で、インカムでもしているかのように聴こえる。
『とりあえず霊は倒したよ。』
「待て、お前が撃ったのか?」
『うん。周りにも何体かいるから気を付けて。』
流れるようにサラッと言う景光に、俺は少し疑問を覚える。
姿が見えないところからして、遠距離からの狙撃だろう。
となると使われているのは十中八九ライフル銃。
ここで一つ疑問がある。|ライフル銃《それ》の使い方、どこで覚えた?
死んでから覚えたのだとしても、扱いに慣れすぎだ。
疲れていた頭が、安心によってか回りだす。
『よし、由衣さんのいるところまで行けそう?』
「なんとか、な。」
コーメイを背負い上げ、杖を拾い、壁伝いに歩いていく。
『わかった。援護するよ。この……スコッチがね。』
そういった景光は、前よりずっと、、、、、。
この道をずっと行けば
やっぱり書きたいところだけ
大和敢助は疲れていた。
今日はハロウィーン。活気づく街に誘われて、霊たちも異様に増えるのである。
海外版お盆のようなものなので、最近は帰ってきた良霊もあちらこちらで見られる。
「つっがれだ………。」
「あ〜、片目でこれはまずいかもね。」
霊である仲間も頷くほど、目にかかる負担がえげつないのだ。
「流石に死にゃあしねぇだろうが……これから毎年か。」
「そうだね。最近はお盆、霊の道も混むらしいからずらしてハロウィーンに帰る人も多いらしいよ。」
「霊にも渋滞とかあんのかよ。」
「あるよ〜。天界は広さとかないけど、現世に降りたらギッチギチだね。」
あっはっは、と彼は笑いそれにつられて自分も笑った。
今日も霊たちは賑やかである。高明にとりつく霊も、ハロウィーンに向けて増えていた。
なんとか引っ剥がせるものならいいが、引っ剥がせないと面倒になるから困ったものだ。
「今日はもう、一日パトロールだな。準備いいか?」
「もちろん!あ、今日終わったら、夕飯にビーフストロガノフ作ろう!」
「お?洋食か?なかなか作らねぇな。教えてくれ。」
りょーかい!その声に、周りの悪霊が蒸発した。
こいつの声には不思議な力があるようである。
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午後六時、ガランガランという大きな音で目を覚ます。
横を見ればまだ高明は眠っているようだった。
なにかが起こっている。敢助は慌てて部屋を出て階段を駆け下りた。
「なんだ、こいつら……。」
昼間にそこらじゅうをたむろしていた霊たちが、駅に向かって大行進を始めている。
霊という霊が集まり、歩くさまは気持ちの良いものとは言えなかった。
「敢助くん、敢助くん!聴こえる?というか聴いてて!」
耳元で響く聞き慣れた景光の声も危機感と焦燥感に満ちている。
何が起こっている。その声も出なかった。
「霊たちは仲間に向かってく!つまり天界へ生きそこねた霊に向かってくんだ!」
景光のその言葉と同時に、数体の霊がいきなり方向を変え自分に向かってくる。
「気を付けて、敢助くん!仮装なんてしちゃだめだよ!
霊に好かれやすい人は、つれてかれる!」
その言葉と同時に、仕込み杖が火を吹いた。
剣の代わりにもなる杖を振り回し、霊を天界に返してやる。
ホッとしたのもつかの間、体を戦慄が走った。
「由衣……!!!」
そう。幼馴染の彼女は今日、午後休を取り友達と遊びに行っているはずだ。
仮にも仮装なんてしていたら。
高明とは比べられないとしても、ただでさえ霊に好かれやすいというのに。
「まさか由衣ちゃんいないの!?」
「そのまさかだ。半休取ってる。」
「まずいよ、さっき由衣ちゃんらしき人見たけど仮装してる!」
なんでそれを先に言わない!?叫びたくなったがそれはそれ、これはこれだ。
敢助は霊の中へと飛び込んだ。
霊は駅にたむろする仮装集団の輪の中にどんどん吸い込まれていく。
「援護するよ、敢助くん!でも無理しないで!
敢助くんも好かれやすいんだからさ!」
「わーってる!」
ハロウィーンの日はやはり休まらない。