「――8月7日、彼を殴った。」
少し前まで起こっていたいじめの主犯格を、ちゃっかり殴っちゃった女の子のお話。人の顔と名前を覚えるのが苦手だそうが、少女から見えている人の顔は黒く淀んでいる。そんな少女が屋上で出会った、唯一淀まない相手とは...?
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黒く淀んだ灰色の中で【第一話】
手に取って頂き、ありがとうございます。作者のあるの。と申します。この小説は、小学生(中の人)が書いていたものをせっかくなら〜という感じにゆるく上げているので、割と文つよつよというわけではないです。「小学生の文だし仕方ないね。」と思っていただける方は、ゆっくりしていってね!
--- 1 ---
8月7日、彼を殴った。
自分でも何が起こったか、よくわからなかった。
でも、目の前で頬から血を流す大嫌いなアイツだけは見えた。
「何すんだてめぇ!!!!!!」
いつもどおりの威勢がよい彼の声で、ハッとした。
「――アンタが悪いんでしょ」
驚くほど冷静な声が聞こえる。
「はぁ?!?!」
彼は興奮が抜けていないのか、高揚した声でそう叫ぶ。
「アンタが――のこといじめたから、仕返しされたんでしょ?」
…?何故か一部だけ聞こえなかった。
「――、大丈夫?」
よく分からないけど、なんとなく気持ち悪いように思えた。
「.....」
「――!!」
「っあ!?」
「大丈夫?」
「.....うん。」
「そっか」
そっちから聞いてきたくせに、興味なさそうな返事。
…だけど、今はそんなことに気をかけている暇はない。
「...ねぇ、さっき、なんて言ってたの...?」
「え?」
「気持ち悪い、淀んだ感じの.....あれ、なんて言ってたの...?」
「『気持ち悪い』って何!?せっかく人が庇ってあげたのに!?」
「え...!?ち、違うよ...!」
「何が違うの!?」
「それは....その...。」
「あーあ!いい子だと思ってたのに!!」
理解が追いつかないまま、去っていく彼女を唖然としながら見つめる。
彼女にとって、『気持ち悪い』の意味は良くないものだけなのか。
一抹の疑問を抱えながらも、私は歩を進めた。
自分でもわからない。どこへ向かっているのだろうか。
人気のない廊下を進み、階段を登り、
扉を開いた先で目に飛び込んできたのは、
とても明るい昼の日差しだった。
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黒く淀んだ灰色の中で。【第二話】
--- 2 ---
「あー...めっちゃ綺麗...。」
想像してたのは金網に囲まれた狭い屋上。
でも実際は、そんな金網なんて無かった。
良かった。これで簡単に――。
「...。」
…誰だろうか。とても綺麗な......。
「...綺麗..?」
「あれ?人来るんだ、こんな場所にも。」
透き通った、でも芯のある声がそう呟いた。
私が見た彼女の顔は、黒く淀んではいなかった。
「ど、どうも...。」
“人見知りな私”は、小さくそう答えた。
「ど~も~!」
にこやかにそう返した。
「何しに来たの?」
「え、えと....。」
突然そう言われた私は、びっくりして声が出ない。
彼女は、下の階で起きた事を知らないのだろうか。
なら、話さないほうが身のためだろう。
「ちょっと、涼みに来た...来ました....。」
「あはっ、同じじゃん!」
彼女の笑いは、私が言い直したことに対してなのか、はたまたただの愛想笑いか。
私には知り得ないことだ。そう思うことにして、心の中から消去した。
「ね、君の名前は?」
「ぇ、えと...。」
いつもならすっと出てくるはずの「自分の名前」が、どうにも思い出せない。
おかしい、他人の名前は確かに覚えられない。だが、自分の名前を?
そう簡単に忘れてしまったら、生活に支障きたしまくりだ。
…いや、今はこの場を凌ぐことが最優先。
「私は...|四葉《よつは》。」
「四葉ちゃんか!可愛いじゃん!」
…意味なんて知らない、んだろうな。