映画キャラクターの両角思い浮かべながら書いたやつです。でも二次創作じゃないしストーリーは違いますので、映画知らなくても大丈夫です。
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目次
異質
道徳の時間、僕は孤独だった。
小学校での僕の発言は、先生、皆を困らせていたらしい。
ある小学3年生の冬、道徳の授業の終わり頃。
先生が、
「人の気持ちを考えて、人の立場に立つことが、思いやりを持つために大事なことだよ」
といった時。
僕は言ったんだ。
「僕は、そうは思わないです」
先生が気味悪そうに僕を見る。
僕は続けた。
「僕は、人の気持ちを考えたり、人の立場に立ったりしてまで、思いやりを持とうとは思わないです。だって、そんなに人に関わったって、何にもならないでしょ?」
隣の席の女の子が、またその隣の女の子に向かってぽそりと呟いたのが聞こえた。
「|結木《ゆいぎ》さん、変な人だよね」
なに?僕の意見がダメだって言いたいの?僕の思うことは否定されるべきなの?
先生も、
「何ですかそれ。結木さん、立っておきなさい。先生が良いと言うまで、座らないように。」
だって。
先生、意味わからないですよ。
帰りの会の時に先生が言ってたじゃないですか。
「みんな違ってみんな良い」
って。
どうして僕はダメなの?僕は"みんな"に入ってなかったの?
そんな風に、僕とみんなで意見が食い違うことが何度もあった。小学校卒業してからも、中学校を3年過ごしても、僕はみんなと違った。
高校1年生の時、僕と初めて出会い、僕の発言を目にした一人の生徒に、僕が思ったことを言った。
「なんで、「みんな違ってみんな良い」と言いながら僕を気味悪そうに見るんだろう。」
生徒はこう言った。
「君は他と"違う"んじゃない。"異なっている"んだよ。」
--- 君は、"異質"なんだよ ---
何も構成も考えずストーリー進めてたら700文字ぴったりで終わりました。うれしい。
異質 #2
高校の授業が終わり、僕は歩いて帰っていた。この高校は駅まで遠いから嫌いだ。
「異質」
周りとは質が異なる…
その言葉をなんだか嬉しいと思っちゃうのも、異質だと言われる所以なのかな。
僕だって、周りと異なる生き方をしたかったわけじゃない。周りとおんなじ生き方をしたかったわけでもないけど。
駅まではあと30分ほど歩かなきゃいけないだろう。川沿いの道を一人抜けていく。
独りというのは全然怖くない。
寧ろ誰かに囲まれていつの間にか自分がわからなくなるのが怖い。
この前は先生に
「自分の意思がそんなに大事?」
と言われた。
特に何も思わなかったけど、隣の人が言うにはそれは嫌味だったみたい。
自分の意思がそんなに大事?だなんて、そりゃあ大事でしょう。そういうもんでしょう。
そう考える度に、この考えも異質なのかと感じる。
あぁ、そうだ。その少し前には、
「時々結木さんって、一人の世界にこもっちゃうよね。」
って言われたんだ。
土足じゃなければ、僕だって入れてあげるさ。
君らが入りたいと思ってないだけだろ。
だから一人の世界なんて思うんだろ。
いろいろ思考していると、駅についてた。
こういう、どうしようもなく早く過ぎる時を感じる間が好きだ。
うるさい駅内放送があって、電車が滑り込んでくる。
僕が乗りこんだ電車に、僕の目につく男がいた。
--- 嘗ての友達だった ---
異質 #3
友達といえど、僕の方からそう思ったことはなかった。
あいつが、一方的に友達という肩書を塗りつけてきたんだ。
彼の名は|煤下《すすか》。名のとおり廃人みたいな奴だった。
出会ったのは、中学生の頃、かな。
うるさいくせに脳天気で、笑いたくないくせに笑ってる。気に食わないから声をかけた。
「ねぇ、なんでそんなに必死に合わせようとするの?」
「合わせないと生きてけねぇじゃんw」
僕の疑問は尽きなかった。
「なんで、生きてけないの?僕は生きてけてるのに」
「なんでって、人の機嫌損ねたら面倒くせぇもん。」
「なんで面倒くさいの?」
「は?…いや、なんでとか、ないでしょ」
「それじゃわからないよ。なんで?なんで、なんでとかないと思うの。」
「うぇ、何お前…」
多分煤下と僕との出会いってのは最悪で、普通の人なら気持ち悪がって離れてってた。
でもあいつは。
「おまえおんもしろいな!なんでなんでってうるせぇの!なぁなぁ、お前今日から俺と友達な!」
「え…嫌だ。」
「はいはい、もう友達でーす」
既に小学生からずっと異質だったはずの僕と煤下は、同質のようで。
自分と合う人間など周りにいなかったから、突然現れられると自分が崩れていく気がした。
僕はなるべく距離をとっていたはずなのに、いつの間にか煤下と喋っているんだ。
ある日の放課後、教室でまた煤下に捕まっていると、あいつ、こう話しかけてきた。
「お前んち、貧乏なの?」
貧乏なの、ってデリカシーないな。
普通ならそう思うところ。でも僕は違った。
「なんで、僕に家庭があると思うの」
僕は苛立った。当たり前に、"お前んち"と言ったんだから。
「え?あ…そういう系?お前って」
そういう系。そんな風に他人事とかで一つにまとめ上げるとこがお前の一番いやなとこだ。
--- 僕に家族なんかいないのに ---
途中で道それかけたけど、やっと私の好きな展開に引き摺り込めましたー…
んぁ疲れた
異質 #4
「僕に家族なんか、いないよ」
「えっと…あのー、さ。俺知らなくて!ごめんな!まじ!このとーりっ!許せよー、な?俺ら友達だろ?」
ほんとに屑みたいなやつだ。
知らなかったからごめん、許せよ、しまいには友達だろ?って。
お前が塗りつけただけなんだよその友達っての。
「許さないよ。なんで許さなきゃいけないの?僕は君に友達だなんて言ったことなかっただろう?」
僕は異質だった。
煤下とは同質かもしれないなんて、馬鹿だった。
煤下も僕とは異なっていた。
煤下にすれば、よく掴めない「僕」という存在が、何をしでかすかわからない状況なのだ。
そして彼は知っていた。
僕が毎日カッターを持ち歩いていること。
「な、なぁやめろよ。何やろうとしてんだよ、なぁ…」
ポッケに手を突っ込むと、ひやりと冷たい金属が手に触れる。刃を出したまんま入れてたらしい。
持ち手を握り、カチカチと言わせながらカッターを出した。
そんで腹に刺した。1回だけだ。致命傷にもならないくらい、浅く刺した。
「ゔゔっ…」
そこに、ある音が聞こえた。
先生の足音だ。
「まだいるのー?そろそろ帰りなさーい?」
声も聞こえた。
感覚がおかしい僕でもすぐわかる。
逃げなきゃ。
カッターを持って、教室の窓から植え込みに飛び降りた。教室は1階だったから怪我なんかしなかった。
先生の驚いた声が聞こえて、しばらくすると救急車の音も聞こえた。
明日僕は学校へ行ける?
行っても、捕まるんじゃないかな。
やだな。まだ捕まりたくないや。
そう思ってもどうせ無駄。
僕はカッターを自分の指に刺して植え込みで眠った。
へぁっへぁーっ!
中学生の結木くんはまだ人を殺しません!
異質 #5
僕の学校生活はそこまでいいものでもなかった気がするし、
自分の異質な人生には希望は見いだせなかった。
でも、捕まったって別にいいとは思わなかった。
だって僕にはまだ何もできていない。
すべての事柄に対して、納得の行く答えは見つかっていなかったから。
植え込みの最悪な寝心地に、体が拒否反応を示したかのように、僕は真夜中に目を覚ました。
まさか自分が起きるまで誰にも見つからないとは思わなくて、警備員の甘さにがっかりした。
「どうしよう。とりあえず、帰らなきゃ」
僕には家族がいない。当然ながら家も持ってない。
どうやって暮らしてきたかって、
マンションのお人好し管理人の部屋に泊まってる。
毎日毎日、管理人は帰ってこない。
そりゃそうなんだ。ここに来たときからわかってた。
ここは管理人の正規の部屋ではないんだろう。
誰かが退いた部屋を自分の部屋と偽り盗んだとか。
なんにしろ僕には、しっかりした家なんかないんだ。
文句を言ったって、部屋を取り上げられたら生きていける場所がない。
だから誰にも言えてなかった。
「どうしようかなぁ」
カッターナイフには僕の分と煤下の分の血がついていて、持っていては面倒ごとを引き起こすだけだと僕に訴えかけているようだった。
煤下が先生に言い付けて、僕んとこに連絡が来て、…それより前に先生が警察に言って、警察が乗り込んでくるかも。
時計には【a.m. 2:30】の字。
とりあえず眠くて、布団に横になった。
意識が途切れるのに、そう時間はかからなかった。
次の日起きても、部屋にはなんの変化もない。
留守電もなかった。
もしかして…
んひひ
気持ち悪くてすみません。
とにかく結木は運のあるやつってことにしときます。
異質 #6
もしかして…煤下は先生に僕のやったことを言ってない?
そんなことあるかな。彼にはなんの得もないそんな行為、するか?
とりあえず話は学校に行ってからだ。
僕は気だるい体に身支度を施して、玄関を出た。
学校についても、先生は僕に何も言ってこなかった。
寧ろ、いつもよりも気にされてない、そんな感じ。
そして勿論、彼はいない。
HRが始まって、先生はアンケートを取り出した。
用紙の大きな白枠の上にはこう書いてあった。
【何か一人で抱え込んでいることはありませんか?死んでしまいたいと感じたことはありませんか?何か相談したければ、ここに書いてください。】
全てを悟った。
そっか。煤下が自分で刺したって言ったんだ。
なんの意図を持ってかの行動は知らない。
それでも僕が助かったのは間違いなかった。
でも僕は中学校という場が嫌いだったし、こんな出来事も起こしちゃったってことで、中学校側に転校すると言って、たくさんの書類を偽造して、転校という名の中退をした。
そして、それからは煤下と会っていない。
会おうとも思わなかった。
連絡先なんか全然知らないし、知りたくもなかったし、煤下だって知りたくないと思っていただろう。
そんな彼が今目の前にいるのだ。
煤下は制服じゃなくて、通学かばんすらも持っていなかった。
ボサボサの髪、薄く濁った目、その下の濃ゆい隈、コンビニ弁当らしきものが入ったビニール袋、長く伸びた爪、画面いっぱいいっぱいに罅が入ったスマホ。
彼の持ち物すべてが、「煤下は学校に行ってない」と語ってくるようだった。
何を思ったか僕は、その少し格好良い顔に話しかけた。
煤下に話しかける結木は、どんな話をしようと思ってたんでしょう…?
異質 #7
「ねぇ、ねぇ君だよ。煤下だろ?久しぶりだね、覚えてる?」
僕は一息に声をかけた。
煤下が振り向いて僕を見る。
そして声の主が|僕《結木》とわかった時の表情は絶望そのものだった。
彼の足は震え、顔は歪み、目に水が溜まりだしていた。
なにも、そこまで怯えなくたっていいじゃない。
少し傷ついたけど、まぁいいや。
僕は言いたいことを言おう。
「あの時は、ごめんね?」
反省してる。また仲良くしよう。
そんな意味のごめんではない。
それくらい煤下にだってわかるはず。
まだ、あの日のお前の発言忘れてないよ。
心臓のおかげで、体に血が巡っていくように。
僕の理性のおかげで、煤下は生き延びている。
僕は煤下を強請ろうだとか脅そうだとか微塵も思ってない。
ただ、いつ殺されても文句は言えないよ。
そう言う意味のごめんだ。
煤下はそれを読み取ってくれたらしい。
「やめろよ…こ、こんどは…こんどは警察に行くからな…」
「行く前に逝かせてあげるさ」
僕の下りる駅に到着して、ドアが開いた。
目が真っ暗になってる彼の横を通り過ぎて、僕はさっさと電車を降りた。
なんだか…今日は楽しかったな。
_人人人人人人人_
〉爆★弾★発★言〈
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
異質 #8
急いで書いてるなう(2024/2/26/22:51)
電車での一件のあと、僕は駅からでて近くの銅像を見に行った。
あそこは僕の大事な場所。
パトンサトオラン。マレー語で、一人の像、って意味らしい。
この像はいつ作られたのか、誰が作ったのか、どうして作られたのか、すべてが謎に包まれてる。
そんなこの像が注目されることはない。
それはそうだろう。だってこんな場所にあるんだから。
駅前の大通りから狭い路地に入り、抜けた所は広場になっている。広場の噴水近くに石板があって、文字が彫られている。
【街にいない一人の者を、誰かは忘れているだろう。】
僕も最初に見た時は疑問だった。
でもすぐに考えついた。一人の者とはパトンサトオランのことだ。
噂だけは聞いていたから、像を探そうと思い立った。
でもどこを探してもいなくて、しょんぼりして家に帰ったこともあった。
石板を押せば、噴水下へ繋がる通路が出てくるとも知らずに。
それをみつけたとき、僕は宝でも探し当てたような気分だった。
通路を下へ降りると、松明が照らす廊下に出る。
そこを右に曲がってすぐ、その像はあったんだ。
パトンサトオランは、偶然見かけた、なんてことが絶対起こり得ないところに一人で立っている。
彼に出会うものは皆彼に出会うために来るのだと。
僕もそういう人になりたい。
出会う者全てと、必然の出会いを果たせますように。
そして、必然の別れを、自分の手で切り出せますように。
パトンサトオランって像は実際にはないよん
異質 #9
僕の人生みんなぼろぼろだ。
僕は、周りと質が異なるけど、優れているか劣っているかはわからない。
もしかしたら劣ってるかも。
一人で生きなきゃいけないもの。
異質、ってそういうことでしょう?
パトンサトオランに愚痴を吐き出す毎日を送る。
像は文句も言わず聞いてくれるのだから、全て受け入れてくれているような気がする。
明くる日も明くる日も、僕は一人で学校へ行き、一人で過ごし、一人で帰っていた。
そんなある日。
今日はパトンサトオランのとこにでも行こうかな、なんて思っていた。
共感もくそもない授業を終え、学校の校門をでる。
駅まで歩いて、電車に乗って部屋の近くの駅に向かって、そこから大通りまで歩き、路地を通って広場へ。広場の石板を押し、日の当たらない地下通路に潜り込む。
一人になれる薄暗い空間で、安堵のため息を出す。はずだった。
人がいたんだ。なぜか今日のそこは、一人になれる空間じゃ、なかったんだ。
「え、だれ…」
僕が発した声に、その人は振り返る。
「わ、俺以外にここ知ってる人いたんだ」
はじめっから口数が多そうな喋り方してきたから、僕はむっとした。でも何も言わなかった。僕は大人だからね。
「こちらこそ、おんなじこと、言いたいですよ。」
二人きょとんとして目を見つめあった。
そしてどちらからともなく笑い出す。
この人は、間違いない。
異質な僕と、同質な人だ。
犯罪の前触れっすねふは
異質 #10
その人の名を聞いた。
|倉持《くらもち》って名前らしい。
「俺と…同い年?結木くんは何歳?」
「僕は16歳です。」
言いたくないことでも、言えてしまう。
これが同質と関わる感覚なのかな。
いや、同質と決まったわけでもないか。
「じゃ俺のが年上だわ。17歳だから。」
「年上とか言わなくていいじゃない。
イライラしてくる。」
いつの間にか僕はそれを声に出していた。
「…おぇ?あ、ごめんね。気が利かなくて」
言ってしまったのはもう取り戻せないや。
僕の本心ずばずば言ってみちゃえ。
「気が利いてなかったらそーゆう発言しちゃうの?気を利かせないと自分の中でそういうこと考えちゃうの?」
「…言われてみればそうだなぁ…ごめん。」
自分の意見があっさり受け入れられた。
それだけのことに僕は吃驚してしまった。
なんて気持ちの良い会話。
煤下なんかと話すよりとっても楽しい。
「いいよ。そうだ、僕と友達になってよ。倉持と話すの楽しいから!」
「俺も思った!今日から俺ら友達ね。」
「うん」
高校1年生の夏、初めて‘‘同質’’と思える友達ができた。
ここまでが、全ての始まりだ。
全ての始まりが長いっつんだよ!
なんて思った皆様。
いやぁ、まぁなんというか…私も思いました。
異質 #11
時が流れて5年。
僕は今21歳。
倉持とはあの日以来ずっと仲良くしてもらっている。
常識とかいうやつも、倉持に教えてもらった。
ただ、1年2ヶ月前、倉持は田舎に越していった。
僕の生活に大きな穴が空いて、たくさん時間ができてしまって、
暮らしが嫌になってしまった。
僕も倉持についていきたかったけど、断られちゃった。
「あのさ…」
そんな日常の中、急に倉持から電話がかかってきたかと思うと、言いづらそうに切り出された。
「うちの両親が、別人なんだ。」
「は?何それ」
話を聞くと、倉持が高校へ行くために上京したあと、両親が離婚したらしい。
その離婚後、倉持の両親のうちの母親が家を持ち、父親が家を出た。
母親はその後すぐ結婚し、離婚。その際、母親の再婚相手がこの家を貰い、母親が出ていったという。
再婚相手はまた新しい女を作り、そいつと一緒に倉持の家に住み着いてると。
なんともややこしい話だし、
この一連の話を息子に話してないのもクズ。
その上、更に話を聞くと、再婚相手と女は、倉持に暴力をふるいまくっているとか。
「殺してあげようか」
いつの間にか、僕は口に出していた。
ほっほほほっほほほいほほっっほおほおほほほっほっっっほほほほ
依存相手がっ作りたかったのはっこの展開のためっ
大人になった結木くん、ついに人殺し…!!
異質 #13
家を出発して1時間30分。
倉持の実家は案外近くにあった。
鍵のかかってない門を潜り抜け、玄関ではノックもせずに土足で入る。
失礼の極みというやつなのだろうけど、
この家の主は殺しちゃうんだからいいでしょ?
「倉持ー?どこぉー?」
そう叫びながら廊下を走りリビングに出ると、そこには倉持が倒れてた。
びっくり仰天だったけれど、両親がやったことくらいすぐに分かった。
「倉持の両親さーん、どこですかー?」
変に高揚した声が部屋中に響く。
「な、なにあなた…どうしてウチの中にいるの…?」
奥からのこのこ奥様が出てきた。
「どうしてこの家にいるか?そんなの、やりたいことするために決まってるでしょ」
バッグからナイフを出して、ひらひらと僕の頭上で振ってみせた。
「い、いやぁっ、なに持ってるの!?」
「わかんないの?何持ってるか。わかんないなら教えたげる。」
僕は奥さんの耳に刺した。
「きゃぁぁぁっ!」
血がどくどくと出てきている。
久し振りに嗅ぐこの生臭い匂い。
これがだいぶんやみつきになるの。
「あ…あ、あ…」
奥さんはすっかり動転して、腰も抜けてるみたい。つまり動けないんだ。
夫の方は、彼女の悲鳴から数秒して来た。
「どーも。倉持の友達です」
夫の方は、首をざっくり切ってやった。
血が吹き出して溜まる。
頸動脈も切れたはずだから、数分で死ぬだろう。
女の方は、まだ絶対死なない。
だから、ゆっくり死なせる。
女の腹にナイフを突き立て、
徐々に深く刺していく。
ごりっと痛々しい音がなったあとで、
ナイフを捻って抜いた。
これで、2人共死ぬ。
書きながら思いましたよ自分怖って。
異質 #14
一度やったらもう戻れない快感。
あの直後、倉持が起き上がった。
目の前の景色に絶望したかのような、また、希望を見出すかのような、そんな顔をしながら。
僕の手からナイフの先っちょまでに、どす黒く赤い液体がまとわりついていた。
僕は、彼らから倉持を救ったヒーローででもあるかのように倉持に言葉を投げる。
「もう大丈夫だよ。」
倉持も、笑ってるか泣いてるかわかんない声で言葉を発した。
「あ、ありがとう…」
変に狼狽えているように聞こえたのは気のせいだろうなぁ。
だって、今の倉持の心には、幸福感が溢れているのだろうから。
倉持には、ナイフを処分して貰った。
助けたから助けられる。当然だ。
ある一瞬、倉持の唇が微かに震えているのを僕の目が捉えた。
「どうしたの?何か、怖いの?」
人殺しだとは思えない、少年的な声が出た。
自分は本気で心配してるんだと実感した。
「いや…怖くはない…ただ、驚きで、まだ…」
瞳孔は恐ろしいほど縮み上がって、倉持の指が彼の鼻を掻くように撫でる。
数年前に心理学の先生から教わった、嘘つきの|印《サイン》。
「ほんとは怖いんでしょ。なにが怖いかしらないけれど。」
倉持の肩が跳ね上がる。
ねぇ、もしかして…
僕のことを怖いなんて、思ってないよね?
いつの間にか僕は、倉持を壁際に追い詰め、彼の顔すれすれに、壁に向かってナイフを刺していた。
ほほほ
おすすめの本紹介
【夜の果つるところ】
異質 #15
「だから、怖いだなんて思ってないよ!本当さ、信じて。」
「…。んふ、冗談だよ狼狽えないで。」
本当は冗談じゃなかったことわかってるかなぁ?
本当は、この不愉快で高ぶった快楽的な気持ちのまま、倉持を殺してしまいたかった。
いや、嬲ってやっても良かった?
なんにしろ、今の僕にもうその気はない。
なんだか冷めちゃって。
「僕って、怖い?」
「怖くないよ」
倉持の視線は真っ直ぐに僕を見つめていた。
嘘なのは確かでも、だからってなにかする気も起きない。
「ナイフの指紋拭ったんでしょ?ならもう処分は良い。血がついたままでも構わない。その辺に捨てといて。」
僕が倉持に指図すると彼は眉をピクッと動かして、乱雑にナイフを投げ捨てた。
イラッとさせたかしら。まあ、いいよね。
「倉持は、これからどうするの。」
「言わない。」
内緒というのはこんなにも気になるものなのか。
今更知った僕は、少しそわそわしてしまう心を落ち着けた。
倉持一人残して、僕は立ち去った。
つんと香る血の匂いが、心地よく風の上を踊っていた。
「すっきりした。さぁ、帰ろうかな。」
僕の今の気持ちを言葉にするなら、恍惚感であろう。
僕のその気持の中には、幸福、満足、軽蔑、爽快、甘美、至福、絶頂という、たくさんの心地が入り混じっていた。
複雑故に単純なこの気持ちが、すべてを忘れさせるかのように僕の足を動かした。
昨日さぼってすみません‥
異質 #16
今回の異質は、だいぶ…やばいっすね。えへ((
まぁ、倉持の家での人殺しのあと、今|自室《ここ》へ帰ってきたのだけど。
何しよう。
ひと、初めて殺しちゃったな。
刺したのは煤下の1回だけだったし、
あのとき警察におっかけられてたら傷害罪?で済んだんだよね。
あぁ、後悔してない自分が愛しい。
僕ってやっぱおかしいんだな。人間なのかもわかんないや。
気持ち悪いじゅるじゅるした何かが、僕を根本から動かしているみたいだ。
なんだか、あの感覚が忘れられない。
女の耳を切った瞬間の感触、男の腹を刺し、更に奥を求めた快感。
そうだ、僕にもおんなじことをすれば良い。
世間に殺してもらいたくて自殺するように。
性的欲求が満たされないひとが自慰するように。
「ぉ゙ぇ゙っ゙」
カッターを自分の腹に刺した。痛い苦しい。
血を見たいけど目も開けられない。
自分を試してあの光景をまた再現したいけど、死にたくはない。
赤黒くて鉄錆の匂いがする血を、
今僕はゆっくり眺められない。
これは、だいぶ苦しい。
「ぅ゙ぅ゙…」
でもなんでだろ。
なんだか気持ちいい。
なんだか清々しい。
妙に爽やかな気分になる。
「んぐ」
カッターを抜いて、急いで止血した。
ちゃんと見てみると、自分の腹についた刺し傷はそんなに深くはなくて、
数ヶ月でも放っておけば治る程度のように見えた。
この遊び方はあたりだ。
数日の間僕は、この行為をやめられないでいた。
んいぇい。自傷最高自傷万歳。
異質 #17
あいつらを殺してから、数ヶ月がたった。
僕はテレビを見ない方だけど、
この頃はニュース番組をよく見るようにしてる。
そう、あの事件について捜査が始まっていないか調べたいんだ。
でも、ニュースに映るのは知らない街の強盗事件や薄汚い政治家達の不正事件とかばっかり。
ハラハラドキドキもしない。
きっと倉持が隠したんだろう。
だけど倉持、それ、余計なお世話。
「ちぇ、面白くないんだから。」
リモコンの赤い電源ボタンに指をかけ、テレビ画面を黒に染めた。
来る日も来る日も殺人事件の話はない。
倉持は、そんなに隠蔽の才能に長けてたのかな。
よれたTシャツの中に手を入れ、腹をポリポリ掻く。
何度も刺した腹にひんやりした感覚が伝わる。
刺し込みすぎて凹んでしまった感触。
外から見たら笑えてくるほどに惨めなのだろうけど、
僕にとっては美しく気持ちの良い生活だ。
「うぅん、僕は二人殺しちゃったでしょう?それも、結構残酷に殺した気がするなぁ。最終的に切り刻んじゃって。ってことは、事件が明らかになり、犯人が僕と知られたら…僕死刑?」
ぞっとする。首を吊って死ぬなんて。
もっとこう、刺したり、毒含んだりしたいのに。
地味で苦しいだけじゃない。それだけはやだな。
それでもやったことはもう変わんない。
二人殺しちゃって、死刑になるなら…
--- そぉっか、もっと殺しちゃえば良いんだ。 ---
結木、止まらないね
異質 #18
僕がたくさん殺人を犯す。
中学、高校の頃には全然知る由もなかった未来だな。
まだ2人しか殺してないけど。
よそうだにしなかった、てわけじゃないかも。
うん、異質な僕が皆の通る綺麗な道から外れて、ぐにゃぐにゃの泥道を進むことくらい、簡単にわかってた。
その泥道をゆく必須条件が、殺人を犯すことなだけだったんだ。
「とはいえ、だなぁ。誰を殺せばいいんだろう。誰も殺したくない?いやぁ、違うな。誰にも興味がないだけだよ。」
独り言の多い僕が、今日も独り言を呟く部屋。
血の匂いはしない。
窒素のない空気にいるような気分。
なくちゃならないものがないわけじゃないけど、ないと物が成り立たないものがない。
「そーだ、倉持になら興味はあるよ僕。」
倉持周辺の人を殺しちゃおう。
うんうん、そんで倉持が絶望しちゃえばいいや。
だったら、絶対面白いよね!
我ながら天才かも。
「倉持の人間関係かぁ…全然知らないなぁ。」
試しにメールの記録やLINEの記録を遡ってみる。まあ、期待できないけれどね。
あ。
「みーっけた!」
異質 #19
見つけた、見つけた、見つけた、見つけた
倉持と深く関わってる人。
そうだよ、僕なんで覚えてなかったんだろう。
倉持には2年前、彼女がいたんだ。
彼女の名前は|須那《すな》だ。
LINEで嬉しそうに報告してきてた。
でも付き合って半年後に別れちゃったんだよねぇ…。
倉持、須那さんに振られたんだっけ。
あれ?倉持が振ってたっけ。
あぅ、思い出せないや。
…そんなの関係ないか。
どうせ殺しちゃうのに変わりないんだもの。
須那さんの居場所は、…あぁ、家なら倉持に教えてもらってたな。
アプリのメモを開くと、すぐに住所をメモしたのが出てきた。
「んー、少し遠いけど…」
思い立ったが吉日?とか言うし、行ってみよっと。
電車に乗って乗り換えて…2時間くらいして着いた。
あからさまにお金持ちそうな家だなぁ。
チャイムを鳴らせば、すぐに女の人の声が聞こえた。若い声だ。
きっとこの声の人が、須那さんだろう。
「はぁい」
「こんにちは。倉持の友人です。」
「あっ、成樹の…?どうぞ、…」
須那さんはインターホン越しに戸惑っているようだったけど、僕を中に入れてくれた。
「あの。それで、どんなご用件で…」
「んへへ、ちょっと、人を殺したくって。」
僕がそのまんま言うと、須那さんは顔を青白くした。
僕はナイフを持ってきてなかったから、須那さんの家のナイフを借りて、僕の腹を裂いた。
うん、切れ味は良い感じ。
僕が腹を裂く姿を見て、これは本当にやばいと悟ったらしい須那さんは逃げ出そうとした。
でも、逃さない。
「いやぁっ」
逃げる須那さんの手を掴んで、腕にナイフを立てる。
彼女は短い悲鳴をあげてすぐに腰を抜かした。
「じっくりと、一瞬、どっちのが楽だと思う?」
正解は、一瞬。
だから、じっくり殺してあげる。
「苦しんじゃえ」
手首にナイフをつきたてる。
出血多量しか、思いつかないんだもん。
僕の考えられる、一番苦しい殺し方。
家の鍵は全部しめて、電話線は切って…
これで、一人でゆっくり死んでしまえばいい。
ばいばい、|3人目《須那さん》。
苦しませる殺し方、これ以外思い浮かばないから、他に知ってる方教えてください🙏
異質 #20
倉持は勘がいい。
須那さんを殺したことをすぐに嗅ぎつけた。
急に倉持が僕の部屋に訪ねてきて、生気の宿らない顔で聞いてきたんだ。
「なんで美月を…?」
「え〜だって、面白そうだったし…」
倉持の目には驚きと嫌悪感が複雑に混じり合って浮かんでいる。
元恋人を殺されたの、そんなに悔しいものなのかな。
心の中で放った僕の疑問に答えるように、
いや、呆れているように、倉持はしゃがみこんだ。
「悔しい、って、そんな簡単な気持ちじゃないんだよ。妙な高揚と理性が、喧嘩してる感じ。
嬉しいような、清々したような、苦しいような、気持ち悪いような。」
僕のこと、てっきり嫌っちゃったかと思ったんだけど。
すごく丁寧に話してくれて、少し安心した。
じゃあ、次は誰を殺そう。
自分が、喉が渇いて水を欲し、与えられてもまだ欲す、欲張りな思考になっているとは気がついてた。
どれだけ大量の水を与えられても、まだ、と我儘言って、去ろうと考える水給者の前を子供のように立ちはだかる。
困らして気を引くなんて餓鬼のやることに過ぎない。
それくらい、わかっている。
「次は誰を殺せばいいと思う?」
それでも。心の奥底でやめたいと思っても。
僕の脳内に湧き水のように這い出てくる殺人欲がある限り、僕は欲し続ける。
命の壊れる音と、鉄錆のような血の匂いを。
もう、後戻りできない。
--- 誰か、助けてよ ---
異質 #21
殺人って楽しいし、気持ちい。
血を見ると妙に気持ちが高ぶる。
でも、皆そんなもんでしょ?
―君は"異質"なんだよ―
違う。僕、普通じゃないんだ。
皆殺人なんかしないんだ。
じゃぁこの欲は皆はどうやって対処してるの?
もしかして殺人欲すら皆にはないの?
じゃあ、僕はどうすればいいの?
異質である事は嫌じゃない。
寧ろなんだか嬉しい。
でも、僕のこの不満を僕だけが持っているのなら。
異質とは、自分だけが損をするものなのなら。
僕はどうするべきだろう。
3人目を殺してから僕は、歯止めが効かなくなった。
最初は倉持の友人を殺していたけど、
そのうち倉持と同じ職場のやつを殺すようになった。
倉持と関わりがあろうがなかろうがどうだっていい。
他人に怒りをぶつけたい。
他人を傷つけたい。
他人に僕より重く大きい痛みを味わわせたい。
僕だけが痛いのはやだから、
皆も痛くなればいい。
そうやって、何人殺したっけ。
もう覚えてないや。
10人のときは一人で記念パーティーしたな。
というか、なんで僕捕まんないの。
気持ち悪い。僕にもっと痛くなってほしいの?
警察まで、僕を地獄に落とすんだ。
今回の縛りは、倉持と同じ国に生きている人にしよう。
たくさん痛がってくれればいいんだ。
異質 #22
僕は、24歳になった。
3年間の間、殺人を繰り返してきた。
壁にはたくさんの写真を貼った。
殺してきた奴らの写真だ。
僕、今はきっと通り魔みたいなもんだろう。
最初は苛ついた相手を殺しただけだった。
歯止めがきかなくなってきて、それからは無意味に、いや、自分の欲求を満たすだけのために、人を殺した。
倉持とはいつの間にか話さなくなった。
多分彼が僕を避けた。
皆と異質な通り魔は、一人寂しく借り部屋に住まう。
なんだか酷いドラマのような、惨めな童話のような話だ。
警察は2年前、ようやっと僕の存在に気が付き、今も指名手配犯として僕を捜索している。
この部屋を貸してくれた管理人は、僕のことを黙っているらしい。
こえをあげれば、この部屋を盗んで手に入れた事も発覚するかもしれないと思ったんだろうな。
「僕なんか、早く捕まればいいのに」
捕まって拷問でもされればいっそ楽になれる。
死刑になってあっけらかんに死ぬのは嫌だなぁ。
捕まってゆっくり死ぬくらいなら、鞭でも使って甚振られたい。
あ、そうだ、この前街で見かけたあの髪の長いひと。
殺したいな。
がちゃっと音を鳴らして玄関ドアを開け、足を踏み出した。
靴底が汚れすり減った靴を踏み鳴らす。
堂々と歩いているのにばれない。
ねぇねぇおねえちゃん。
ちょっときぶんがわるいんだ、ついてきてよ。
ありがとう、おねえちゃん。
そこのろじうらでやすみたいんだ。
そうそう。ごめんねかたかりちゃって。
―ごめんね。
ぐしゃっ
人を殺すのは簡単だ。
70文字程度で誑かす。
僕が"犬系"というものである事は倉持から聞いていた。
少し前、これを使うと女はすぐ付いてきてくれることを知った。
男には上目遣いでいいらしい。
指紋をつけなければおーるおっけー。
ばれることはないし、連れのいない人をすぐ殺せば早く通報されることもない。
…なんだよ、この虚しい感じ。
僕が2年前まで感じていた快感はもう薄れた。
免疫?みたいな?
わからないけど。
殺すのがマンネリ化してる。
でも退屈だからと捕まっては、ぬるりと殺されるだけ。
どうすれば。
そんな時、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
五月蝿い犬がやって来る。
異質 #23
今日も誰か殺そう。
でも今日の街は人通りが少ないな。
誰も殺す相手がいないと暇になるなぁ。
そうだ、あそこへゆこう。
管理人の部屋を借りる前、幼少期の僕が、目を覚ましたあそこへ。
僕の家族がいなくなったのは、
僕が幼稚園から小学校へ移るあたりだったと思う。
そもそも僕って、あんまり可愛がられてなかったみたい。
うん。みたいってのはそんな気がするだけってことだ。
はっきりとは覚えてないや。
それで僕が、
家の庭に落ちてた雀の死骸をお気に入りのガラスケースに入れたから、
それで追い出されちゃって。
おかーさん、僕に「謝ったら入れてあげる」って言ってきて。
僕、家に入れてほしいなんて一言も言ってないのにね。
「謝らない。あの雀可愛いからいれただけ。謝らなくてもいいでしょ?」
みたいなことを言ったと思う。
その発言で本格的に家に入れてもらえなくなったんだ。
取り敢えずお隣さんちに上げてもらったけど、
そこでも僕が異質な行動を取ったことにより捨てられた。
それから意識が遠のいて、気づいたら山奥にいた。
そう。そこに行こうと思ってる。
山の麓までは電車で行った。
そこからは、自分の足で、徒歩で行った。
あの山奥の景色は、僕の脳裏に鮮明に焼き付いてる。
深く刻まれた脳の皺に入り込んで滲み出ている。
親への恨みなんかない。僕んちは母子家庭で、
しかも子供が僕みたいなやつだけだったんだ。
可笑しくなるのにも合点がいくだろう。
あぁ、そうだ。この辺この辺。
やぁっとついたよ。疲れちゃった。
「ふー…。喉乾いたぁ。お水流れてないかなぁ…?」
ふと、闇で蠢く人影を見つけた。
らっきー。
「あのぉ…そこのひと。お水持ってないですか?」
「…?」
「?そこの、あなたですよ。…………あ、れ?」
声かけてから気づいた。
なんだ。なんか、なんで。
なんでここに。
「おかーさん…?」
おかーさん見っけましたな結木くん。
異質 #24
「おかーさん…?」
「…っあ」
おかーさんだ。
僕を捨てた、おかーさんだ。
僕のいない家でも、今日まで生きてこれたおかーさんだ。
あぁ、なんて苦しいんだろう。
僕はなんで、おかーさんに会うと苦しくなるんだろう。
「おかーさん。ねぇ、知ってた?僕のこと。」
おかーさん、僕今人を殺して生きているよ。
あの日おかーさんが僕を追い出したの、間違ってなかったよ。
僕はろくでもない大人だ。
あと何年かすればもう30歳。
それなのに色んな人を殺して、人の命を純粋に弄んでいる。
「あ…あ…」
おかーさん、なんでそんな顔するの?
あぁ、僕が指名手配犯なの知ってたんだね。
生憎だけど今日の僕は、人を殺すために外に出てるんだ。
誰だって、殺しちゃいそうだよ。
「おかーさん、ごめんなさい。」
ふふ、やっと謝れた。
特に意味のない言葉だけど、
おかーさんにとっては今日が最後の日だもの。
やっぱり言っておかなきゃね。
「何されるかわかるよね」
僕は微笑んで見せた。
包丁を取り出して、おかーさんの目の前につきだす。
おかーさんは涙目でこちらを見つめていた。
「ばいばい。産んでくれてありがとう。」
ざくっと音がなって、目の前に血が舞って。
美しい。
それから何度か刺してから、
その場を立ち去ろうとした。
そしたら、瀕死のおかーさんが言ったんだ。
「ふ…ゆ」
生優。ふゆ。フユ。
僕の名前だね。
優しく生きて。そう言いたかったんだね。
無理でしょ。そんなの。
息子に殺されるってのにそんなこと言っちゃってさ。
あぁなにこれ。目から、みず?
口も震える。意味わかんない。
…もう…
「ばかだなぁ」
もうすぐ最終話!
異質 #25
パトカーのサイレンが聞こえる。
うるさいうるさい。
僕の部屋になんの用だよ。
まぁだいたいわかるけどさ。
あれでしょ?
あの山道ぬかるんでたから、足跡見つかっちゃったよね。
もー、僕ったら。
抜けてるなぁ。
とりあえず部屋のバルコニーから隣の一軒家の屋根に飛び移って逃げる。
最後に、あの人と。
えーっと、この駅の、あぁ、あの道を抜けたらあったよね。
うん、着いた。
倉持の家。
僕が数年前血に染めた家。
倉持、流石にここには住んでないよね。
「んー、どこに住んだのかな。」
ご近所さんに聞いてみよっと。
「あの、倉持って、今どこに住んでるか知ってます?」
「え、あ、はぁ、まぁ。でもあそこ昔…おぞましいことが」
「知ってます」
「そ、そう?倉持さんは今は…」
親切なご近所さんが言ってくれて、僕はそこに向かった。
山梨だってさ。
県外に出ちゃうか。
何時間もかけて、倉持の家の表札を見つけた。
自分でも狂気的だなって思う。
倉持の家は鍵が開いていて、
簡単に中へ入れた。
「倉持」
彼が座っているのを見つけ、彼の名を呼ぶと、その肩はぴくりと跳ねた。
こちらに背を向けて座っていた。
「…なに、結木」
振り返らず僕に背を向けたまま問うてくる。
無愛想になっちゃったなぁ。
「僕今ね、部屋まで警察来ちゃってんの。だから会いに来た」
「全然話つながってないんだけど」
「うん。」
なんか口ぶりから察しちゃった。
倉持、僕のこと嫌っちゃったんだね。
「「死ねよ」」
僕と倉持が同時に言った。
僕の手の包丁が光り、倉持の手のカッターが光った。
僕のが先に刺して、倉持の手は空振りに終わる。
苦しむ倉持を見つめるけど、もう快楽なんて感じなくて。
なんか愛おしい。それだけだった。
やがて動かなくなった倉持の肉をえぐる。
僕はそれを口へ運んだ。
倉持の肉体が僕の体に染みて入る。
これでもういい。警察へゆこう。
僕はそっと、スマホに110を打ち込んだ。
次回最終回です。
異質 #26 最終話
今この時点で私の書きたかったことがわかっている人は天才です
なんだろう、変な匂いがする。
清潔で、質素で、真っ白な匂い。
裁判所ってこんな匂いなんだ。
初めて知ったなぁ。
僕の刑が確定する場所。
それにしては、あまりにも美しい。
裁判官が声を上げ、検察が口を出す。
弁護士が早口でまくし立てる。
つまんないの。
裁判は一瞬で終わり、僕は見事に死刑確定。
ろーごくに入ってからは早かったな。
今、僕の腕は手錠で拘束されている。
横には警察官が複数人。
死刑執行が目前に近づいていた。
ふー、くるしい。
なんだかぞくぞくする。
震える。
手が、足が、口が、震える。
怖いのかな。
僕、死刑執行を怖いと思ってるのかな。
あぁ、じゃあ、皆とおんなじ。
同質になれたかな。
僕の目の前に縄の輪っかが現れて、
僕が首を通す。
僕の足元には四角にかたどられた線。
中心にはまっすぐな切れ目。
ここで僕は首を頂点にし落ちるんだな。
僕の体を支えた警察官が目を丸くする。
僕の胸を触って、ぴくりとする。
もう、えっち。
僕は少し出た胸をかばうように背を丸めた。
僕は女の子だった。
そう、女の子"だった"んだ。
あぁ、3人の警察官が…いや、
死刑執行人?ってゆーのかな。
どこかへ入る足音が聞こえた。
首を吊る部屋は静かで、
静かな音が五月蝿い。
しーんと、
耳鳴りのように僕の耳に纏わりつく。
もうすぐ。
その時、僕の足が宙を立った。
すぐさまその足は空を掻く。
くるしい。
くるしいくるしいくるしい。
いたいよ、たすけて。
くるしい、いたいいたい。
僕が藻掻くと人が来て抑えつけてくる。
あ…たままわらない
もう少し僕が僕らしく生きれたら。
わるいのはぼくじゃないんだ。
ぼくがせいじょうにいきれなかった、
このせかいなんだ。
でもいいや。
こんなふうに…しねたから
はーい、ということで、結木くん女の子でした。今まで作品内で、結木くんを男の子とする文章は書かなかった(と思う)んですが、あとがきに結木くん結木くん言ってたの思い出しまして、あー…、となってしまいました。
まぁ、そこは考えないでください。
えー、最後まで続いたのはこの異質シリーズが初かな(まじかよ)。皆様の応援のお陰でございます。たぶんこのシリーズ、私史上一番ファンレ多かったです。本当にありがとうございました。
またいつか、書きたいと思える日がくれば書くと思います。その時も何卒、よろしくお願いします。