家庭環境が悪く、そのせいで学校でもいじめられている小学4年生の紗絢と、隣に住んでいる中学3年生の隼人。
2人の今と10年後のお話。
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目次
Prologue
新しいお話です!
その日はいつもどおりの日でした。
美味しいご飯、靴を隠される学校。
1つ違ったことはお母さんの機嫌が悪かったこと。
「うち来る?」
その一言から、私の人生は救われました。
どうでしょうか、これからも毎週火曜日の19時に投稿するので、是非最後まで読んでくれると嬉しいです!
1-1 茹だるベランダで
「アンタなんかが産まれたからあの人は変わったの!全部アンタのせいよ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
いつにも増して母親・真樹の期限が悪く、今日は長引きそうだと紗絢は思う。
「アンタ、『ごめんなさい、ごめんなさい』なんて毎回言ってるけど、ほんとにそうは思ってないんでしょ!そんな子この家にいらないから!」
どれだけ言っても、無表情を崩さない紗絢にいくら当たってもストレスが発散されないことを真樹もわかっているが、何せ遠距離恋愛の末結婚した真樹に、この地で愚痴を言い合えるような知り合いは居ない。
強いて言うなら憎たらしいあの女ぐらい。
真樹は紗絢の腕を掴みベランダへ連れて行こうとする。
締め出しのお供にと紗絢はさっきまで読んでいた小説に手を伸ばすが、その手はあっけなく振り払われてしまう。
「昔からずっと本ばっか読んで気味が悪いのよ!…茜ちゃんみたいになってほしかったのに」
茜ちゃん…早瀬茜とは紗絢の同級生で昔からみんなの中心にいて、人見知りの紗絢とも仲良くしてくれるいい子、と真樹は思っている。
ベランダのドアを閉め、鍵をかけ、おまけにカーテンまで閉められた紗絢に「開けて!」などと言いながら窓をたたく気は毛頭なく、「暑い…」と言いながら手で顔をあおぐだけだった。
なぜ大人は茜のような子供が好きなのだろう。確かに茜は愛想がいいし、運動ができる。だが、喋り方にまるで知性を感じられない。
茜の「私は紗絢ちゃんみたいな地味な子にも話しかけてあげるの」という大人への溢れ出るアピールに紗絢は鬱憤が溜まっていた。
しばらくすると段々と喉が渇いてくる。
紗絢をこんな熱い場所に締め出し、自分はクーラーの効いた部屋でのんびりしているため、室外機から熱風が溢れ出し続けている。
ポケットに500円玉が入っている。3階から飛び降りても死なないだろうかと考えていると、横の部屋から窓の開く音がする。
横に住んでいるのは5つ年上の幼馴染・隼人と母親の綾乃だ。
もし隼人なら水ぐらいくれるだろうと覗いてみると、隼人もこちらを向いていた。
「…うち来る?」
どうだったでしょうか…。
実は、2人、「私たちの世界」に登場しているんです!
5話で登場した、バドミントンを借りに来た女のコと男のコ。
小さかった頃の紗絢と隼人です!
気づいてくれた方いたのだろうか?
居たらコメントで教えてほしいです!
もちろん感想も!教えてくれたら嬉しいです!
1-2 僕は味方だから。
幼い頃にいつでも行き来できるように、と破ったパーテーションから隼人の方へと向かう。
幼馴染と言えど5歳も年が離れているため、話すのは久しぶり。
その気まずさを埋めるために質問をする。
「あの、なんで気づいてくれたの?」
「時々、真樹さんの怒鳴り声が聞こえてて。今日も。部屋追い出されてからしばらく経っても窓が開く音しなくって。心配になったから覗いてみたら居たから」
全部知られていた。紗絢が人生で一番の汚点だと思っているものを。
なんと返せばいいのかわからず、口をつぐんでいると、隼人が目も合わさずに話し始める。
「いつでも来たら良いよ。何かあっても、なくても。僕と話してもいいし、一人で好きなことしてても良い。紗絢も1つぐらい安心できるとこある方が良いでしょ?」
「安心、できる場所?」
「うん。紗絢は今、家で何が起きるかわからない状況でしょ。それでも家にいるあたり、仲いい友達も居なさそうだし。いつ外に出されるかわからない、そんな状態で安心できる?」
「…ううん」
「だったら、ここに来なよ。僕はいつでも紗絢の味方だからさ」
「、味方?」
「うん、味方」
母親が自分に当たっても無視して浮気を続ける父親。
我が家の状態を知ってからいじめるようになった元友達。
そんな中で過ごしてきた紗絢にとって、「味方」という言葉は都市伝説に近かった。
「な、んで?」
「ん?」
「なんでそんなに優しいの?数年話すらしてなかった5歳年下の女だよ?そんな奴がベランダで死にそうになってたからって、部屋に入れて。いつでも来て良いよ、なんて。そんなの…」
「そんなの?」
「、そんなの!信用しちゃうじゃん!これ以上奪われたくないよぉ…。なんで、なんで、なんで!」
優しく、仲が良かった両親。
いつも一緒に遊んでいた友達。
「いじめは嫌いだ」なんて言いながらも自分を助けない教師。
全てを失った紗絢は10歳という年齢にして、一生一人で戦う覚悟をした。
これ以上、悲しみたくない、その一心で。
「なんでって、幼馴染だから、?」
「え、それ、だけ?」
「うん。それ以外に理由なんている?」
久しぶりに自分の全てを肯定してくれる人に出会えた。
隼人からの言葉一つ一つが心に染み、涙が溢れてしまった。
「隼斗、ありがと」
1-3 親
しばらく隼人の家にいると、隼人の母親・綾乃が帰ってきた。
「ただいまぁ!あれ、紗絢ちゃん?久しぶりー!」
綾乃は酔っ払っているらしく、足元がおぼつかない。
「おかえり、母さん。久しぶりに遊んでたんだ。紗絢、そろそろ帰ろうか。きっともうお父さん帰ってきてるだろうし」
なぜか急に少し強引になった隼人。
なんでだろう、と考えたが、綾乃さんは酔っ払っているし、いろいろと大変なんだろうと納得し、部屋を出た。
数歩歩くと、紗絢の部屋の扉の前。
どうせ鍵は開いていないだろう、そう思いながらも一応ドアノブを回してみると、意外にも扉が開いた。
そーっと音を立てないように扉を閉め、廊下を進んでいると、リビングに明かりがついていることに気づく。
まさかまだ母親が起きているのか、さっきより一層音を立てないように気をつけてリビングへの扉を開ける。
父親が一人で、テレビで野球を見ていた。
「…ただいま」
「紗絢。今までどこ行ってたんだ?」
「…友達の家に居させてもらってた。お母さんに締め出されたから」
「…そうか」
お前のせいで締め出されたんだぞ、と遠回しに言ってもまるで聞こえていないかのように無視をする。
また、隼人の家に行ってもいいかな?
1-4 お揃い
前まで、直の帰りが遅いのは週に1度ほどだったが、紗絢の「友達の家に居た」発言から、週に2回、3回と増えるように。
それに従って、隼人の家に行く回数も増えていく。
最初は気まずさが強かったが、一緒に過ごす時間が増えたことで、だんだんと気を許せるようになってきた。
「…今日、何かあった?」
隼人が勉強している横で寝転がって小説を読んでいると、声をかけられた。
「え、急に?なんもないよー」
心配してくれてありがと、と付け足す。
「そっか、ごめん。なんか今日表情くらいなぁって思ったんだけど、気のせいか」
自分のことをこんなに気にかけてくれているんだ、という気持ちと罪悪感が溢れる。
「…ごめん。嘘ついた。今日ヤなことあった」
「そうなんだ。どうする?僕に話す?」
「話したら、隼人はどうする?」
「んー、そうだね。『大変だったね、頑張ったね』って頭なでなでする」
頭をワシャワシャするゼスチャーを見て思わず笑ってしまう。
「…うん。話そっかな。なんか、軽くなる気がする」
「うん、どんとこい」
「私、いじめられてるんだよね。お父さんが浮気してるの見られたり、家の前通った時に、お母さんの怒鳴り声聞こえちゃったり。前まで遊んでた子も離れてっちゃって。親に『あの子と関わるな!』とか言われてるのかなぁ」
笑って誤魔化そうとするが隼人の表情は真剣そのもの。
「隼人はごまかせないか。それはもう1年ぐらい経ってるんだけど、だけど今日、いつもよりガツンと来たというか…」
紗絢は1回口を閉じ、深呼吸すると、再び話を始める。
「…教科書破られちゃったんだよね。それはもう、ビリッビリに。まだ1学期なのに。だから今日、「教科書全部忘れました」って誤魔化すことしかなくって、これから最後までずっと怒られるのかぁ、って思うとしんどくなっちゃった」
すべてを話すと隼斗は、
「話してくれてありがとう。まずは、『よく頑張ったね、偉いよ、紗絢』」
と約束通り頭を撫でてくれる。
「そっかぁ、紗絢もいじめられっ子かぁ。僕とお揃いだね」
そう言いながら足を崩し、寝転がる隼人の言葉に驚く。
「え!?隼人もいじめられっ子なの!?」
「うん。そうじゃなきゃ、毎日のように家に1人で居ることもないし、年下の女の子家に連れ込まないでしょ」
笑いながら言う隼人に少し納得してしまう。
「僕の母さんは、浮気癖があるんだ。幼稚園の頃から僕の友達の父さんと、すぐ寝るんだ。それがドンドン広まってさ」
「そっかぁ、ホントにお揃いだね」
「うん、世界で一番嬉しくないお揃い」
世界で一番嬉しくないけど、世界で一番心強いお揃いではあるよ。
1-5 はんぶんこ
いじめられている、と伝えたあの日の帰り際、隼人に
「教科書の紙、全部残ってる?」
と聞かれた。
頷くと、
「じゃあ、持ってきてよ。パズルだと思えば意外と楽しいかもよ?」
それから毎日隼人の家に行き、パズルを手伝ってもらっている。
「隼人見つけるの早いね。流石名探偵ハヤト」
「僕ができるって言うより、紗絢ができなさすぎるんじゃない?」
「それ言わないでよぉ!昔からずっと図工1なんだもん。センスがないんだもん」
喋りながらも手を動かしていると、部屋にビリッと言う音が鳴る。
「あ、セロテープ無くなった?じゃあ、買いに行こっか。ついでにお菓子も買っちゃう?」
隼人が立ち上がり、引き出しに入っていた財布を見せながら言う。
「いいの?ありがとう!じゃあ私、ポテチ食べたいなぁ、でも、暑いからアイスも良いかも!」
歩いてコンビニまで5分くらい。
たった5分でも、2人で外を歩くのはとても久しぶりで、昔に戻ったような気分になる。
「ねぇ、隼人」
「ん?どうしたの?」
「んっとさ、これから夏休みじゃん。教科書直すのが終わっても、毎日隼人ん家行って良い?」
「…いいよ、もちろん。前にも言ったでしょ。『何かあってもなくても、いつでも来て良いよ』って」
隼人の言葉が嬉しくなり、思わず抱きつく。
「隼人ありがとぉ!大愛してる〜!」
「だ、だいして、る?」と言いながら倒れる既のところで耐えている隼人の身体は、世界一心許なくて、世界一頼りになる身体だった。
セロテープと、チューブ型の2本入りアイスを買い、コンビニを出る。
隼人は袋を開け、紗絢に片割れを渡すと、袋をポケットに突っ込み、自分もアイスを食べ始める。
「美味しい?」
隼人が沙絢の方を見る。
「うん、美味しい!」
満面の笑みの紗絢が言う。
「そんなに?」
「そんなに!」
「どうして?」
「だってさ、こうやって食べれるの、仲良しの証って感じしない?お母さんとお父さんと、昔はよく食べてたからさぁ」
「言われてみれば僕も暫く食べてないなぁ。このあたりにいると嫌なこと言われるからって母さんほとんど家に帰ってこなくなったし。だから、紗絢だけだなぁ」
紗絢は、自分が「隼人と唯一一緒にアイスを食べれる人間」ということに嬉しくなり、少し調子に乗る。
「これからもさ、私とだけ、アイス食べてくれる?」
そう聞くのと、隼人の足が止まるのはほぼ同時だった。
隼人を見てみると、ある一点を少し怯えたように見つめている。
目線の先を見ると、隼人と同じぐらいの年の男子3人がニヤニヤと隼人の方を見ている。
「よぉよぉ、佐藤くんではないですかぁ」
瞬く間に3人は紗絢たちを取り囲む。
「佐藤くぅん、この子、小学生だろ?こんな小せぇ子とヤッてんの?ロリコンきめー」
「流石佐藤、お前、親に似て顔だけは良いもんなぁ。見たことねぇ父さんも、顔だけは良いバカだったんじゃねえの?」
「…沙絢、行こ」
そう言い、隼人は紗絢の手を掴み、グイグイと引っ張り進んでいく。
いじめっ子たちは、それにもついてきて、
「お前どんだけヤりてぇんだよ。俺たちともうちょっとぐらい話してくれても良くない?」
「どうせ、親日付変わるまで帰ってこねぇしな」
「好き放題女を連れ込めるの良いですねぇ」
などと好き勝手囃し立てる。
ひたすら無視する隼人に飽きたのか、3人はコンビニの方へ戻っていった。
家に着くまで引っ張られ、一言も話さなかった。
玄関に着いた途端、隼人は玄関框に靴を履いたままうずくまる。
「…ごめん、ごめん」
ボソボソと独り言のように隼人が呟く。
「隼人?なにが?」
「紗絢の前では頼りになる幼馴染で居たかったのに。紗絢も嫌なこと言われて…。ホントにごめん」
紗絢は、玄関框に膝をつき、両手で隼人の頬を包み、顔を上げさせる。
「隼人、聞いて。私ね、全っ然傷ついてないんだよ?」
教科書破られるのに比べたらマシなもんだよ、と笑ってみせる。
「…そっか。強いね、紗絢は。僕がいなくなっても、きっと平気だよ」
「僕がいなくても」その言葉に腹が立ち、頬を包む手に、力が入る。
「…違うよ、違う」
「…紗絢?なんで泣いてるの?」
「…隼人がいるから、私は強くなれたんだよ!」
突然の大声に隼人は驚いているが、気にせず話を続ける。
「学校で、家で、どんだけヤなことがあっても、隼人だけは『味方』でいてくれるってわかってるから!だから…、だから私は最強無敵!
…私は、隼人の1番の味方になれない?」
「…なってくれるの?」
「隼人が良いなら、辛いことも、楽しいことも…アイスも。全部はんぶんこ、しよ?」
「ありがと」
それからしばらく、隼人は「ごめん」と言い続けた。
その言葉の意味は、いつか教えてくれるの?
1-6 いつか来ることはわかってた。
いつもに増して暗い回です…!
あと、調べてもわからないところは物語の都合のいいように書いているところがあります。
今日は終業式で、小学生は11時半には家へと帰れるが、中学生は何やら色々とすることがあるらしく、隼人の帰りを自分の部屋で待っている。
隼人は「僕が居なくても別に来て良いよ」と言ってくれているが、幼馴染とは言え人の家だし、居心地が悪く、母親の真樹の機嫌が大層悪い時しか行かないようにしている。
「紗絢」
突然真樹に声をかけられ驚く。
普段自分から話しかけることも、名前を呼ぶことすらないのに。
「な、に?お母さん」
近づいてくる真樹に思わず後退りしてしまう。
「…紗絢さ、最近よく出かけてるでしょ」
何がいいたいのかわからないが、否定するのはよくない、今までの経験でそれだけはわかる。
「、そうだね」
「…お母さんのこと、裏切ったりしないよね?」
「…裏切る?」
「あの人みたいに、他のところに居場所作って、お母さんを放っておくなんてこと、しないよね?」
真樹は、一人ぼっちになるのが嫌なのだろうか。だったらこれを言えばいい。
「もちろんだよ。私の居場所はお母さんだけだよ?どうしたら信じてくれる?」
真樹に抱きしめられる。完ぺきな返しだったようだ。
「…じゃあ、いっつも何処に行ってるか、教えてくれる?」
「隼人くんのお家だよ。隼人くんね、いっつも一緒に遊んでくれるんだ」
「隼人」という名前を出した途端、真樹野動きが固まる。
「…隼人、くんって、隣の?」
「うん。隣の」
そう言った途端、紗絢を抱きしめていた手は解かれ、肩を押される。
「痛っ!」
肩を押された衝撃で、後ろに倒れ、壁に頭を打ってしまった。
「…お母さん?どうしたの、」
「…なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!なんてお前もアイツのとこに行くのよ!」
真樹は紗絢に跨り殴りかかる。
「アンタさえ…アンタさえ居なければ!こんな場所に引っ越す必要もなかった!私は美しいままで居られたのに!!」
こんなに凶暴になった真樹は初めてで。どうすればいいのかわからない。
「なんで…なんでアンタまで居なくなるのよ!私を…私を1人にするなんて…!!」
もう言い返す気力も、腕を跳ね返す気力も無く、自分を無にすることに専念するようにする。
どれぐらい経ったんだろうか。
意識を保つことが精一杯で、声すら出せない。
声出せるうちに叫んどけば良かったな。そしたら誰か見つけてくれるかも知んないのに。
殴っても返事もしない、表情も変わらない紗絢に飽きたのか、真樹はキッチンの方へ行った。
「このままここで暮らしてけんのかな」
「出来るわけないでしょ」
ポツリと放った誰に言うでもない言葉に返された真樹からの言葉。
気づかないうちにキッチンから帰ってきていたようだ。包丁を持って。
「え、?お母、さん?」
「アンタを殺して私も死ぬの!!」
真樹は包丁を逆手に持ち、今にも紗絢に襲い掛かってきそうな形相だ。
「やめて!やめてよ!!」
掠れた声で叫ぶ。
後退りするも広い家ではないため、もう壁にぶつかってしまう。
「やめて!助けて!!」
どれだけ怖くても叫び続ける。死にたくない、怖い、誰か助けて、隼人、隼人!
段々と近づいてくる真樹。
もうダメだ、死ぬ。
ドンドンドン!!
2人の動きが止まる。
「警察です、開けてくださーい!」
しばらくすると、家の窓がガラガラガラと開く。
横の部屋からベランダへ入ってきたようだ。
この部屋は角部屋な為、きっと帰ってきた隼人が通報したのだろう。
2人の男性が真樹を取り押さえようとしている間に、女性が紗絢の方へと向かう。
真樹は何かを叫びながら、包丁を振り回し、暴れている。なんて言っているのか、紗絢には分からない。
「紗絢ちゃん!大丈夫だよ、もう安心してね」
抱きしめられる。ついさっき、真樹に抱きしめられたことを思い出し、つい突き飛ばしてしまう。
「紗絢ちゃん、?どうしたの?大丈夫だよ、私は何も危ないことしない。だから、お話してくれないかな?」
「いやっ、やめて!」
自分でもなんでこんな事をしているのかわからない。
あのお姉さんは助けてくれると言っているのに。
「…女の人が無理なのかな。紗絢ちゃん、そこで待ってて。絶対動かないでね」
そう言うと警察の女性は、真樹を取り押さえ、連行しようとしていた男性と何やら話したあと、女性は真樹を連行し、男性が紗絢の方へと向かってきた。
「紗絢ちゃん、もう安心だよ。お母さんは、居ないから。これから紗絢ちゃんに行ってほしいところがあるんだけど、良いかな」
「…行ってほしい、ところ?」
「うん、安心で、安全なところ。そこでしばらく暮らして、紗絢ちゃんが元気になったら戻って来る」
「…しばらくって、どのくらい、?」
「そうだなぁ、夏休みいっぱい、とかかな」
「そしたらまた、戻ってこれるの?」
「うん、もちろん」
「じゃあ、行く」
紗絢がそう言うと男性は、立ち上がり、紗絢を担ぎ上げ、玄関へと進む。
玄関を出ると、そこには騒ぎを聞きつけた人がたくさん。
その中には隼人も居る。
「隼人、ありがとう!またね!」
そう手を振るが、隼人は、一瞬目を見開いた後、すぐに下を向いてしまった。
「、隼人?」
いつものように下から覗き込もうとしたが、隼人よりも長身の男に担ぎ上げているため、隼人の顔を見ることは叶わなかった。
これ、pg12入れたほうが良いですかね?
悩んでるんですけど、どうですか?
コメントで教えてくれると嬉しいです!
1-7 空白
夏休みも残り1週間。保護施設での生活も同様。
あんな事が起きなければ、私は今日も隼人と教科書を直していたのに、朝起きて見慣れた天井じゃないことに気づくたび考える。
それでも紗絢はそれなりにこの場所を楽しんでいる。
集団生活はあまり得意では無いが、自由時間には満足に読書ができるため、気に入っている。
今までのように、当たり前に敵がいる場所じゃないのも影響しているのだろう。
安心できる場所でのびのびと過ごしせたお陰か、痣も少しずつではあるが薄れてきた。
だが今日は何やら忙しなく大人たちが動いている。普段ならそんなこと起こらない。
「ねぇ、こういうのってたまにあるの、?」
大人がいつもより忙しそうにしてるの。と自分より少し前からこの場所にいる美姫という同室の幼女に聞く。
あの時警察官の女性を突き飛ばしてしまったことや、その場に居た誰かがビリビリに破られた教科書を見たことから、察してくれたらしく、同年代の同性と同質になるのが通常なところ、紗絢は自分より4歳年下の美姫と同室になったのだ。
実際紗絢は、1ヶ月ほどこの場所に居るが、同性では唯一の年下である美姫以外とは話せていない。
「1回だけあったよ!紗絢ちゃんが来た時!みんなバタバタしてたんだぁ」
「…そうなんだ。ありがとう」
美姫の言葉に納得し、新しい人が来るんだ、と自分の中で結論付け、読書を再開する。
しばらくすると坂本という女性が紗絢に話しかけてくる。
「私でごめんね、紗絢ちゃん。ちょっと今お話いい?大事なこと」
普段は気を使って男性職員を通してでしか話さない為、今の状況はイレギュラーでホントに大事なことなんだろうとわかる。
「あ、はい。わかりました」
ついていくと、何度か入ったことのあるカウンセリングルームへと通される。
長机に向かい合って座る。
「紗絢ちゃん、お母さんが逮捕…捕まっちゃったのは知ってるよね」
「…知ってます」
あと、逮捕で大丈夫です。意味もわかるし、その言葉に、ショックを受けたりもしません。
しどろもどろになりながらも伝えると、そっか、ごめんね。紗絢ちゃんいつも本読んでるもんね。と申し訳なさそうに笑う姿に少し気まずさが残った。
「えっと、話し続けるね。この期間が終わったら、紗絢ちゃん、お父さんのもとに戻るつもりだったんだけど、そのお父さんが失踪…蒸発っていうのかな。連絡取れないし、家に行ってももぬけの殻で…」
「はぁ、蒸発…」
不倫相手と逃亡劇…とかだったら面白いのに。なんて、自分のこととは思えず馬鹿なことを考える。
「そこで、紗絢ちゃんは、これから児童養護施設ってところに入ってもらおうと思うんだけど、知ってるかな」
「養護施設…孤児院、みたいなとこ、ですか。里親を、待つ場所」
「そうそう。よく知ってるね。昔は孤児院って呼ばれてたの」
紗絢が相槌を打つまもなく話は続く。
「私、心配なところがあってね、紗絢ちゃんその…、女の人苦手でしょ。ここより人数多いし、大丈夫かな、って」
「わざわざ、ありがとう、ございます。でも、大丈夫、です。時間が経てば、きっと、治るんで」
あの日までは苦手だとは思っても、怖いという感情はなかった。だからきっと大丈夫。もとに戻る。そう心の底から信じてる。思い込ませている、というのが正しいのかもしれないが。
紗絢の言葉に安心したのか、坂本は話を続けた。
「そっか。それなら良かったよ。後、学校のことなんだけど、良かったら転校しない?」
「転校…」
さっきまでは、小説では読んだことはあったが、実際には知らないことばかりで、実感がわかなかったが、「学校」という、散々通わされた場所の話になり、一気に現実味が増したように思えた。
「うん。ここにきて最初のころにカウンセリングで言ってくれたよね。クラスメイトに嫌なことされてるって。だから、この機会だし、遠くの養護施設に行けば楽になるんじないかなぁって」
「…遠くって、どのくらいですか」
「うーんとね、多分県内じゃないかな」
「っ!そうですか。わかりました」
県内だったら、頑張れば隼人に会いに行けるかもしれない。
どうしてもあの時の感謝を伝えたかった。
1-8 再会
児童養護施設に移り約3カ月。
転校先の学校にもそれなりに馴染めたと思う。
自然豊かなためか、穏やかな人が多く、グループや陽、陰キャラなんてものも無い。
そのお陰か、女性恐怖症のようなものも、段々とマシになってきた。
あまり関わることがない、大人の女性はまだ苦手だが。
そんな私の姿を見てか、職員の沢田から、少し遠出をしないか、と聞かれた。
「県内だったら多分どこでも行けるも思う。行きたいとことかある?」
沙絢は即答した。
「家!家行きたいです」
普段あまり感情を出さない沙絢の大声に、沢田は少し驚いた。
「…家って前住んでたとこ?」
沢田の顔が少し暗くなるのが見て取れる。やはりダメなのだろうか。
「そうです。正確には前の前の家だけど…。駄目ですか?」
「んーと、理由によるかも。聞いても良い?」
沢田にそう聞かれると、紗絢は頷き話し始めた。
「警察の人が家に来た時、横の部屋のベランダから入ってきて。私の部屋、角部屋だから、入って、きたとしたら、幼馴染の部屋から、で。きっと聞こえて通報してくれたんだと思うんです。…だから、お礼を伝えたくて」
どうしても行きたい。拙いなりに言葉を紡ぐと、沢田に響いたのか。上に掛け合ってみると言った。
1週間ほど経っただろうか。
再び沢田に声をかけられた。
「紗絢ちゃん、行けるって。次の土曜日にでも行く?」
「良いんですか、?行きます!ありがとうございます!沢田さん!」
喜びのあまり頬が緩む。
久しぶりに隼人に会える。
土曜日当日。
興奮してしまい中々眠れなかった、と沢田に伝えると、
「紗絢ちゃんにもそういうところあるんだね」
と笑われた。
電車に揺られ数十分。
時間にするとこんなに短く感じるのに、何故今まで会えなかったのだろうか。
自分の非力さを痛感する。
電車を降りると、懐かしい風景。たった半年にも過ぎないのに、10年居た場所が懐かしくなるなんて、少し不思議な気分になる。
小さな頃、一緒に遊んだ公園や、一緒にアイスを食べながら帰ったコンビニからの帰り道。そして、10年もの間、隣でそれぞれの生活を送った団地。
団地に一歩入り、大きく深呼吸をする。古ぼけて入るが、落ち着く好きな匂いだ。
エレベーターに乗ろうと歩いていくと、少し先で井戸端会議をしている一人の主婦と目が合う。
「…紗絢、ちゃん?」
一人がそう口に出すと、さっきまでパート仲間の離婚に夢中だった二人も、紗絢の方を向く。
三人はドンドンと近づいて来た。
まるで新しい獲物を見つけたかのように。
「紗絢ちゃん!?何でここに来たの?」
「ここに来て大丈夫なの?トラウマとか」
グイグイと聞いてくる主婦たちに久しぶりに女性恐怖症を発動しそうになる。
そんな紗絢を沢田は自分の身体の後ろに隠す。
「すみません。紗絢ちゃん、少し驚いちゃっているので…」
沢田の言葉により、少し静まった主婦たちに向かい、、沢田の体から顔だけだした状態で口を開く。
「…あの、隼人、似合いに来た、んです」
そう言うと、三人は少しの間目配せをした後、一番最初に紗絢に気づいた主婦が口を開く。
「隼人くんって、佐藤さんところの隼人くんよね?」
念の為の確認のように発された言葉に頷くと、気の毒に、とでも言いたげな表情で口を開いた。
「…隼人くんね、ひっこしたよ。夏休み中だったから、紗絢ちゃんがここを出たすぐ後ぐらいかな」
一人が言うと、他の二人も次々と口を開く。
「そう言えばその頃から、紗絢ちゃんパパも見なくなったわよね」
「知らないの?紗絢ちゃんパパは隼人くんママと不倫してたんのよ。だから紗絢ちゃんママが怒ったって聞いたわよ」
「ちょっと2人共、紗絢ちゃんの前でそんなこと…」
頭が真っ白になった。
ここで、第一部終了となります!
来週から第二部が始まる予定ではあるのですが、まだ書けていなくて…。
というかこのお話も、1週間前に書き終わったばっか。
なるべく公開できるように頑張りますが、もしかしたら今週ないかもなぁぐらいに思ってもらえると助かります!