家庭環境が悪く、そのせいで学校でもいじめられている小学4年生の紗絢と、隣に住んでいる中学3年生の隼人。
2人の今と10年後のお話。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
Prologue
新しいお話です!
その日はいつもどおりの日でした。
美味しいご飯、靴を隠される学校。
1つ違ったことはお母さんの機嫌が悪かったこと。
「うち来る?」
その一言から、私の人生は救われました。
どうでしょうか、これからも毎週火曜日の19時に投稿するので、是非最後まで読んでくれると嬉しいです!
1-1 茹だるベランダで
「アンタなんかが産まれたからあの人は変わったの!全部アンタのせいよ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
いつにも増して母親・真樹の期限が悪く、今日は長引きそうだと紗絢は思う。
「アンタ、『ごめんなさい、ごめんなさい』なんて毎回言ってるけど、ほんとにそうは思ってないんでしょ!そんな子この家にいらないから!」
どれだけ言っても、無表情を崩さない紗絢にいくら当たってもストレスが発散されないことを真樹もわかっているが、何せ遠距離恋愛の末結婚した真樹に、この地で愚痴を言い合えるような知り合いは居ない。
強いて言うなら憎たらしいあの女ぐらい。
真樹は紗絢の腕を掴みベランダへ連れて行こうとする。
締め出しのお供にと紗絢はさっきまで読んでいた小説に手を伸ばすが、その手はあっけなく振り払われてしまう。
「昔からずっと本ばっか読んで気味が悪いのよ!…茜ちゃんみたいになってほしかったのに」
茜ちゃん…早瀬茜とは紗絢の同級生で昔からみんなの中心にいて、人見知りの紗絢とも仲良くしてくれるいい子、と真樹は思っている。
ベランダのドアを閉め、鍵をかけ、おまけにカーテンまで閉められた紗絢に「開けて!」などと言いながら窓をたたく気は毛頭なく、「暑い…」と言いながら手で顔をあおぐだけだった。
なぜ大人は茜のような子供が好きなのだろう。確かに茜は愛想がいいし、運動ができる。だが、喋り方にまるで知性を感じられない。
茜の「私は紗絢ちゃんみたいな地味な子にも話しかけてあげるの」という大人への溢れ出るアピールに紗絢は鬱憤が溜まっていた。
しばらくすると段々と喉が渇いてくる。
紗絢をこんな熱い場所に締め出し、自分はクーラーの効いた部屋でのんびりしているため、室外機から熱風が溢れ出し続けている。
ポケットに500円玉が入っている。3階から飛び降りても死なないだろうかと考えていると、横の部屋から窓の開く音がする。
横に住んでいるのは5つ年上の幼馴染・隼人と母親の綾乃だ。
もし隼人なら水ぐらいくれるだろうと覗いてみると、隼人もこちらを向いていた。
「…うち来る?」
どうだったでしょうか…。
実は、2人、「私たちの世界」に登場しているんです!
5話で登場した、バドミントンを借りに来た女のコと男のコ。
小さかった頃の紗絢と隼人です!
気づいてくれた方いたのだろうか?
居たらコメントで教えてほしいです!
もちろん感想も!教えてくれたら嬉しいです!
1-2 僕は味方だから。
幼い頃にいつでも行き来できるように、と破ったパーテーションから隼人の方へと向かう。
幼馴染と言えど5歳も年が離れているため、話すのは久しぶり。
その気まずさを埋めるために質問をする。
「あの、なんで気づいてくれたの?」
「時々、真樹さんの怒鳴り声が聞こえてて。今日も。部屋追い出されてからしばらく経っても窓が開く音しなくって。心配になったから覗いてみたら居たから」
全部知られていた。紗絢が人生で一番の汚点だと思っているものを。
なんと返せばいいのかわからず、口をつぐんでいると、隼人が目も合わさずに話し始める。
「いつでも来たら良いよ。何かあっても、なくても。僕と話してもいいし、一人で好きなことしてても良い。紗絢も1つぐらい安心できるとこある方が良いでしょ?」
「安心、できる場所?」
「うん。紗絢は今、家で何が起きるかわからない状況でしょ。それでも家にいるあたり、仲いい友達も居なさそうだし。いつ外に出されるかわからない、そんな状態で安心できる?」
「…ううん」
「だったら、ここに来なよ。僕はいつでも紗絢の味方だからさ」
「、味方?」
「うん、味方」
母親が自分に当たっても無視して浮気を続ける父親。
我が家の状態を知ってからいじめるようになった元友達。
そんな中で過ごしてきた紗絢にとって、「味方」という言葉は都市伝説に近かった。
「な、んで?」
「ん?」
「なんでそんなに優しいの?数年話すらしてなかった5歳年下の女だよ?そんな奴がベランダで死にそうになってたからって、部屋に入れて。いつでも来て良いよ、なんて。そんなの…」
「そんなの?」
「、そんなの!信用しちゃうじゃん!これ以上奪われたくないよぉ…。なんで、なんで、なんで!」
優しく、仲が良かった両親。
いつも一緒に遊んでいた友達。
「いじめは嫌いだ」なんて言いながらも自分を助けない教師。
全てを失った紗絢は10歳という年齢にして、一生一人で戦う覚悟をした。
これ以上、悲しみたくない、その一心で。
「なんでって、幼馴染だから、?」
「え、それ、だけ?」
「うん。それ以外に理由なんている?」
久しぶりに自分の全てを肯定してくれる人に出会えた。
隼人からの言葉一つ一つが心に染み、涙が溢れてしまった。
「隼斗、ありがと」