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目次
#1 雨の中で二人は出会う
その日は、雷がひっきりなしに鳴っていて、一日中雨が降っていた。窓の外をぼんやりと見て暇をつぶす。その時、一筋の巨大な電流が家の庭に落ちた。驚きのあまり、思わず尻餅をつく。__感電死する、と思った。電気はいつまでも伝わってこず、恐る恐る庭を見た。そこには、無慈悲な目で刀を地面に突き刺す少女がいた。少女は頬についた黒っぽい汚れを手の甲で拭い去る。気がつくと、雷は止んでいて、雨だけがシトシトと降り注いでいた。少女が最初に言い放った言葉は窓越しでもはっきりと聞こえた。
「神の血を持つのに、こんなに人間くさい匂いを持つ神は初めてだ。」
言っている意味がまるで分からなかった。理由は二つで、一つ目は神様などいないから。二つ目は、自分は紛れもなく人間だからだった。この異様な出会いは後々重要な物語の歯車が廻り出したことを告げるものだと二人はまだ考えもしなかった。
---
--- ー花漣視点ー ---
「どういう意味?」
私_|近藤花漣《こんどう はなれ》は少女に聞いた。少女は顔に張り付いた黒髪を手で払いのける。
「お前は神だ。」
少女の少し中性的な声は花漣の耳に残った。しばらくの沈黙の中雨音だけが鳴り響いた。段々と少女の真っ赤な目を見て、本当ではないかと思った。あんなに真っ赤な目の人はいない。カラーコンタクトでもしてるのだろうか?それに、少女は空から降ってきた。しかも、刀を持って。花漣は少女が手に握る刀の方に視線を移す。雨水が鋭く光る刀身を伝い地面に落ちた。
「取り敢えず、中に入る?」
花漣の提案に少女は無言で頷いた。花漣は窓の鍵に手をかけ、一瞬ためらい、開けた。少女はこちらに近づいてくる時に呟いた。
「まだ、|悪神《あくしん》か|善神《ぜんしん》か分からないしな。」
その呟きが花漣の耳に届いたことを少女は知らないと思う。
花漣は冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを取り出しかけ、戻した。温かいお茶の方が良いと思ったのだ。電気ポットに水を入れ、沸かし始める。茶葉の入ったビンを開けると、急須に茶葉を二匙放り込んだ。
「適当に座ってね。」
少女がボーッと突っ立ってるのを見て、花漣はそう声をかけた。少女はその場に刀を置いて腰を下ろす。刀が危ないので、別のところに移動させようとすると例の赤い目で睨みつけられた。
「触るな。」
トゲのある言い方に花漣はもやもやしながら急須に沸かしたお湯を入れる。二つ湯飲みに緑茶を代わる代わる注ぎながら少女の方をチラリと見た。少女は全く悪く思ってなさそうだ。花漣は少し力を入れながら少女の前の丸テーブルに湯飲みを置いた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
意外にすんなりとお礼を言い、飲み始めた少女に花漣は驚いていた。
「私、花漣。|花《はな》に|漣《さざなみ》で花漣。貴方、名前は?」
「|唯《ゆい》。………口に進むのしんにょう取ったヤツで唯。」
丁寧に漢字まで教えてくれた唯。思っていたよりも良い人なのかも知れない。そう思いながら、花漣は唯を改めて観察し始めた。濡れた肩につく位の長さの黒髪。白いセーターに黒いズボンというシンプルな格好だ。真っ赤な目と所有物に刀がなければ普通の人だ。
「唯って何歳なの?」
発言のこと、刀のことについて聞きたかったが当たり障りのない質問からした。お互いさっき初めて会ったのだからまずは馴れ合いが大事だ。
「十五歳。」
「あ、一個上。私十四歳。でも、早生まれだから学年は一緒か。」
正直、唯と同い年ということに衝撃を受けていた。唯の背は170センチに届きそうなほどだった。花漣とは15センチほど背が違う。花漣は学年でも背が低い訳ではなかった。もしかして、唯は男なのではと考える。髪の長さで女と考えたが、髪を除けば男っぽい。つまり、花漣は異性と二人きりで楽しく茶飲みをしていた、ということになる。急に恥ずかしさがこみ上げてきて、花漣はそっぽを向いた。いや、まだ決まった訳ではない。
「唯さん、一応聞くけど、女の子、だよね?」
花漣は唯の目を見つめ、静かに返答を待った。女であってくれ、と祈る。唯は考えるような動作をした。
「………………………女だと思ってた?」
「………………………………………まさか、男だったとは。」
がっくりとうなだれる花漣に唯は衝撃のことを告げた。
「まあ、性別なんてどうでもいいけど。」
「は?」
唯は立ち上がって、窓の外を見た。雨が降っている。室内は暗く、唯の赤い目が強調される。その目は瞳孔が細かった。
「お前は__花漣は神だから言っておくよ。俺、人間じゃないんだ。」
__人間じゃない。そんな事実は突然告げられた。本人の口から平然と。唯の顔を見る、が無表情で何を考えているのか分からない。花漣は震えている唇で聞く。
「人間じゃないって、どういう、こと?」
「…………………神様って、知ってるか?」
唯はまた突然、そう聞いてきた。
---
「神様、ソレは世界に何千何万もいる。でも、いい奴だけじゃないんだ。人間と同じで、悪い奴もいる。力を持った悪い奴だ。それを野放しにしておくとどうなると思う?」
「ちょ、何の話?」
唯の一方的な問いに着いていけずに花漣は聞く。しかし、唯は聞く耳を持たずに話を進める。
「世界が滅ぶんだよ。」
唯の目は見たことないくらいに冷たく暗かった。よどんだ殺気のようなものに溢れるその目に花漣は恐怖する。人間じゃない、という言葉の意味をようやく理解した気がした。
「そのために、神を殺す奴がいる。だが、強力な神は殺せない。だから、自分を犠牲にしてこの身に封じ込める。そうすると、人間じゃなくなる代わりに、とんでもなく強くなれる。特殊な能力が得られる。」
唯は悲しそうに目を伏せた。男にしては長い睫毛が赤い目を隠す。その表情を見て、花漣は何も言えなくなった。
「俺は、そんな化け物なんだ。」
いつの間にか雨は止んでいて、明るい光が外を照らしていた。でも、その光は二人には届かず、二人の気持ちの中ではまだ雨は止んでいなかった。
おまけ
花漣「2424…文字…………?」
作者「・・・?」
花漣「おかしい、あれ以上時間合ったはず。私の家は丸テーブルと冷蔵庫しか出てこない!」
作者「え?」
花漣「私の容姿は出てこないし!」
作者「は!忘れてた!」
花漣「一話で世界観説明しすぎだし!」
作者「ぐうの音もない……………。」
花漣「まあ、がんばってね。」
作者「ありがとう、花漣ちゃん。………でもさ、花漣ちゃん視点で話進むから容姿出しづらいんだよね(泣)」
作者「龍の涙、面白かったですか?勘の良い方はもうこのタイトルの意味が分かってるのでしょうか?花漣と唯の物語はまだ始まったばかりです。ではでは皆さん、今回はこれで。」
#2 化け物と神様
--- ー唯視点ー ---
このことを誰かに話すのは初めてだった。ここ最近普通の人に会うことが無かったから、皆何となく察してくれた。だから、忘れていた。自分は普通ではないことに。花漣の目を見開いた顔を見て、唯はしくじったと思った。こんなこと、話すべきではなかったと。今すぐに記憶を消すべきだろうか。唯は焦る。しかし、戦いばかりの日々でコミュニケーションなどろくに取ってなかった。それだからか、かける言葉が見つからない。必死に脳内の中で言葉を探すうちに、不意に花漣の唇が動いた。
「大丈夫だよ。」
急に大丈夫な気がした。花漣はきっと自分に言ったのだろうが、唯の心にも響いた。花漣の虚ろな瞳の先ではいつの間にか雨が止んでいた。言うなら今しかない、と唯は思った。
「なあ、花漣。お前は世界の秘密と俺の秘密二つを知った。それなりに知ったし、お前自身も神だから言う。選択肢が二つある。一つ目は記憶を消して元通り。もう一つは、俺と神を殺すようになるか。」
唯の言葉を聞き、花漣の目に光が灯った。唯の目を真っ直ぐに覗き込む黒い目。窓の隙間から流れた風が花漣の茶髪を揺らした。
「私、唯と行くよ。」
その返事は強い決意とほんの少しの期待が滲んでいた。そのはっきりとした言葉に唯は不安になった。
「未練とかは?」
「……………ない。……………未練なんて、ない!!」
「すまない…………。」
突然の大声に唯は驚き、謝った。すると、花漣ははっとしたように顔を上げ、恥ずかしげに顔を真っ赤にした。手を目の前で振り、口をパクパクさせる。その行動がなんだか可愛らしくて唯は吹き出した。
「ちょ、笑わないでよ~!!」
「悪い悪い…………。」
花漣は頬を膨らませて怒る。さっきまでの大声が嘘のように普通な花漣。つまり、あれは異常ということ。花漣は過去に何があったのだ。そう言えば、今日は平日なのに花漣は家にいる。それに、花漣に流れている神の血。父母のどちらか、あるいは両方に神がいるということだ。父母はそれを承知でいるのか。なぜ黙っているのか。もしかして、《《父母は花漣を人間として暮らさせたかった》》のではないだろうか。だとしたら、唯は最悪なことをしてしまった。チラリと花漣を見ると、長髪の先を指で弄ってすねていた。今からでも遅くない。記憶を消してもらうべきだろう。
「なあ、花漣。」
その時、唯は威圧感にとっさに刀を手にした。急に床に倒れ、体中が痺れて動けなくなった。攻撃された。唯はゆっくりと横を向く。
「まだ、生きてたのか、|永雷ノ巫女《えんらいのみこ》。」
「おやおや、手加減したとはいえ動けるとは。やっぱり、化け物は違うね。」
凛とした軽やかな声で告げる少女は浮いていた。永雷ノ巫女__新たな雷神の座に降り立った神だ。唯は痺れたままの指で刀の柄をグッと握った。
---
--- ー花漣視点ー ---
何が起きたのか分からなかった。いきなり倒れた唯。窓の外の庭に出現した紫の着物を着る浮く少女。神__という言葉が頭をよぎる。こういう時はどうするべきなのだろうか?花漣は思わず唯を見る。すると、唯は刀を掴んでいた。薄ら笑いを浮かべる少女の手には金色の扇が握られていた。唯はいきなり跳ね起きると、庭に飛び出し、刀を少女の胸に突き刺そうとした。しかし、刀が少女の胸に突き刺さることはなかった。火花が散って、落雷に似たなにかが唯の上に落ちた。唯は上を向いて両膝立ちになる。手は空中に垂れ下がる。少女は残酷な笑みを浮かべた。
「私はいたぶる趣味はない。今、楽にしてやる。」
少女が唯の首に手を置く。あそこに電流を流して殺す気なんだ、と花漣は分かった。何もできない__逃げてと叫ぼうとするが声にならなかった。少女の髪飾りの鈴がシャリンと鳴った時、頭の中に声が鳴り響いた。
--- 『俺、人間じゃないんだ』 ---
唯の目が赤く光る。その目は、少女の笑みよりもゾッとした。あれは、確かに人間じゃない。そして、あれは唯でもない。唯は少女の手を手で引き剥がした。立ち上がると、首をコキコキと鳴らす。あれは、誰?
「なるほどね、落雷はユイが気絶するわけだよ。でも残念。俺がいるんだよな。」
唯は刀を拾う。すると、刀身が燃え上がった。少女は笑みを引きつらせた。少女が扇子を唯に向けると、紫の電流でできた小さい龍が出る。それを唯は刀の一振りで龍を叩き切った。少女の扇子が泳ぐと再び龍が出た。今度は何匹も何匹も。そのすべてを唯は鮮やかな手つきで切り裂いた。その目は燃えたように真っ赤で思わず見とれてしまった。さっきのような残酷な笑みではなく美しい笑み。よく見ると、唯はイケメンだ。そう考えると、心臓が跳ねて、顔が真っ赤になった。駆け出そうと思った花漣はいつの間にか立ち止まっていた。こんなにも美しい戦いがあるなんて__。花漣は人事だからそう言えた。
---
--- ー唯?視点ー ---
俺は攻撃を弾いたり切ったりして永雷ノ巫女に近づき始めた。まさかコイツが《《俺と同じ悪神に堕ちる》》とは思わなかった。殺すのは可哀相だが、ユイに危害を加えるのであればやるしかない。すべての攻撃を受け切った俺は永雷ノ巫女の喉元に刀を向けた。巫女の所々に黄色の混じった黒髪が切れハラハラと宙を舞う。
「残念、ゲームオーバーだね。」
「それはどうかな?」
永雷ノ巫女はニヤリと笑う。気になったが所詮は負け犬の遠吠えだ。俺が目を閉じようとした時、永雷ノ巫女が雷撃を飛ばした。その雷撃は俺の後ろに向かった。俺は振り返る。
「お前!!」
俺は茶髪の__ハナレという少女へと駆け出す。守らなければならない。ユイが気にかけた子を。俺も守られたから、守り返す。俺の脳裏には俺に向かって手を伸ばし笑いかけるユイの姿___。永雷ノ巫女の唇が動いた。
「さようなら。」
---
--- ー花漣視点ー ---
雷がこちらに飛んでくる。それを花漣はただただ見ていた。見るしかできなかった。思わず目を瞑る。死ぬ__死ぬと分かっても特に何も感じなかった。これで、花漣としての人生は終わり。だが、雷撃が花漣の体を貫くことはなかった。次に目を開けると、花漣の体は誰かに抱かれていた。長い黒髪に美しい顔。真っ赤な目は瞼に隠されていた。
「……………唯?」
唯は体を起こさない。背中は黒く焼け焦げていた。花漣を庇って、唯が死んだ。それを理解するのは早かった。心臓の鼓動が早くなる。
「唯!!」
花漣は唯の体を揺する。何度も名前を呼ぶが唯の瞼は堅く閉じられたままだった。庭で少女だけが笑みを浮かべていた。
おまけ
作者「今回は2625文字ですよ!??」
唯「俺、こんだけボロボロにされたのに2625文字かよ。」
花漣「私、死にかけたのに?」
作者「ま、まあ、新キャラ登場させたからね!??」
永雷ノ巫女「終わり方がなあ。」
作者「ほらほら、もう帰って帰って!!……………ふう、帰ってくれた。」
作者「神様と人間、本当に天と地との関係だけなのか?神様とは一体正なのか悪なのか。そんなことを想像してくれれば嬉しいです。好きなキャラとかも出てくるんでしょうね。ではでは皆さん、今回はこれで。え?バリエーションが少ない?じゃあ、have a good night.」
#3 守る力、殺す力
--- ー花漣視点ー ---
「これで、男は片付いた、お前だけだよ。」
少女が花漣に扇子を向ける。花漣は黙ったまま何もしない。しばらくすると、立ち上がった。空を見る花漣は無表情だった。
「ねえ、知ってる?守る力も殺す力も本当は一緒なんだ。」
花漣はまたしゃがみ込むと、唯の髪をソッと撫でた。手が震え、呼吸が乱れる。駄目だ、抑えられない。花漣は少女の方を振り返った。その目は青色でただただ澄んでいた。殺気も憎しみも何もないように見えた。しかし、急にその目は怒りも殺気も憎しみもはらんだ目になった。その目で少女を睨みつける。髪はいつの間にか白く変わっていて、雨が降り始めた。どこからか吹いた風が花漣の白髪を撫でた。
「貴方が、いや、お前がそれを殺すために使うのならば、私も殺すために使うとしよう。」
花漣が手を少女の方に向けると、一瞬時が止まったように思えた。青色の目は少女を捉えたままそこに縛り付けている。少女は一歩の動けなかった。殺してやりたい__そう思ったのは初めてだった。殺意ってこんなに簡単に持てるものなんだ。少女は動かない。今なら何でもできる、そんな気がした。周りの空気が凍り始める。
「お前、言ったよね?さようならって。」
花漣の顔に笑みが浮かぶ。少女に近づいた花漣はその少女の震える顎に手を当てて、目を合わせる。少女の黄色い目には恐怖の色で染まっていた。
「じゃあさあ、その言葉。そっくりそのまま返すよ。さような___。」
その瞬間、視界が真っ暗になり、口が誰かの手で押さえられた。肩に黒髪が触れる。
「その言葉は、花漣が使う言葉じゃない。」
その人は中性的な声音でそう言う。
「……………唯?」
振り返ると薄ら笑いを浮かべる長い黒髪の少年。背後にいたのは唯だった。思わず頬を涙が一筋伝った。
---
--- ー唯視点ー ---
あたり一面、真っ白な世界。ここに来るのは何度目だろうか。自分は、意識を失ったのだろうか。唯は頭を押さえる。ここに来たということは、彼が戦ってくれているということだ。ならば大丈夫だろう。唯は真っ白な世界に胡座をかいて待った。しばらくして、彼が天井から落ちてきた。真っ赤な髪に真っ赤な目。毎回思うがイケメンだ。
「悪い…………やられちまった。俺が次に出れるのは三時間後だ。それまでは、ユイが、あの子を守れ。」
彼がやられるほどの相手に自分が花漣を守りながら戦えるだろうか。いや、いざとなったら任務に集中して花漣を捨てるか。そう考えてた時、頬を衝撃が貫いた。見ると、怖い顔をした彼の姿。
「ユイ、守らなければならない時に、守らないなんて考えを出すな!!任務は人命より大切なのか?」
彼の声によって、唯はその考えを振り払った。目を開けると、全身が痛んだ。相当激しい落雷を受けたみたいだ。体を動かすと激痛が駆け巡る。再び目を閉じた頃に声が聞こえてきた。
「___守る力も殺す力も本当は一緒なんだ。」
その言葉は《《かつて唯が彼女に言った言葉》》とそっくりだった。まさか花漣は彼女なのか?それは不可能だ。だって彼女は唯が殺したから__。あの日の出来事は今も鮮明に思い出せる。雨、少女の笑顔………。死ぬ時まで彼女は笑顔だった。なんで、そんなに笑えるんだよ。
次に目を開けると、白髪の少女が永雷ノ巫女に向かって歩いて行く。白髪の少女が花漣だと理解するのにはそう時間はかからなかった。このまま行けば、花漣は永雷ノ巫女を殺せる。けれど、それはやってはいけないこと、そんな気がした。唯は痛みを忘れて駆け出す。そして、さようならと言いかけた花漣の目と口を手のひらで塞いだ。
「その言葉は、花漣が使う言葉じゃない。」
花漣の耳元で囁く。そう、汚れるのは自分達でいい。進んで、こちら側に来た自分達のみで。さようなら、と無慈悲に告げるのは自分達だけでいいんだ。花漣の髪が元の茶髪に戻る。
「……………唯?」
花漣の声は酷く弱々しくか細かった。今思えば体が小刻みに震えている。労いの言葉をかけようと思うと、花漣の手が唯の頬に触れた。
「自分を、あんな風に扱わないで…………。」
花漣の瞳から涙が零れ落ちる。唯は目を見開いた。何を言っているんだろうか。自分は任務を完遂させるために戦っていただけで、そんなに言われる程怪我をしていない。今回は落雷を二発食らっただけだ。こんくらいなら一時間もあれば傷は塞がる。その時、唯はようやく理解した。人間は傷はそんな簡単に癒えないのだ。花漣の体がこちらに倒れる。それを受け止めると、壊れた窓の向こうへ運ぶ。ゆっくりと地面に下ろすと、頬に張り付いた前髪をそっと横に流した。花漣の寝息を背に、永雷ノ巫女の方を向く。永雷ノ巫女は血走った目を見開いてこちらを睨んでいた。
「赦さない!お前ら、神様にこんなことして!」
永雷ノ巫女は吠えるようにそう叫ぶと、金の扇をあちこちに振った。すると、池のようなものが空中に幾つも現れた。
「|金乱の遊魚《きんらんのゆうぎょ》!」
池から無数の金魚が現れ、その金魚が尾鰭を振るたびに落雷が発生する。唯は落とした刀を拾うと構えた。あまり余力も残されてないから、一振りで叩き切ってしまいたい。そのためには空中で一回転して、刃先を永雷ノ巫女に向ける。それで行こう。唯はまず足元の金魚を切り裂き、そのまま刀を上に上げもう一匹殺す。自分もジャンプして刀を下に下げ更に一匹殺す。空中で一回転し、他の金魚を蹴散らすと、永雷ノ巫女に刃先を向けた。多少動きすぎたが予定通りだ。
「終わりだ。」
永雷ノ巫女は悔しそうな顔で笑った。
「まあね。でも、お前は殺すことはできないよ。」
「負け犬の遠吠えだろ?」
永雷ノ巫女が口角を上げた時、唯の刀が折れた。動揺するが、直ぐに永雷ノ巫女はもう逃げるほどの余力を残していないと知る。仕方なくポケットから勾玉を取り出すと手のひらの上に置いた。殺せないならここに封じる。
「永雷ノ巫女 今ここに 我と共に永遠を過ごし いつか終幕を約束しよう」
完全に封じると殺せないからいつでも出せるような封印を施す。唱え終わると、永雷ノ巫女の体がサァーッと霧状に散り、手のひらの勾玉に吸い込まれていった。
「流石に、疲れた………な。」
唯は勾玉を取り落とすと、その場に倒れた。雨は止み、優しい日の光が唯を包んだ。その中で、唯は穏やかな寝息をたて始めた。
おまけ
作者「あ………2572文字……………。」
唯「伏線出すなら曖昧な部分で切るなよ!」
唯?「結局、俺の名前も明かされてないもんね~?」
作者「なら、ここで出す?って、いたっ!」
花漣「コラー!ネタバレ厳禁!」
作者「え、お金くれるの?って、いったぁ!そのゴツい辞書で殴るのやめてぇ!」
ー十分後ー
作者「ふぅ……………。川も全ては海で一つに交わる。歯車はずっと廻っていた。その考えに至るにはまだ早いです。彼らの物語はまだ断片的にしか出していないのでね。ではでは今回はこれで、良い夜を。」