この世界に存在する黒と白。 それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 白雪&黒雪＿＿＿ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「お前＿＿＿何者だ？」 「そっちこそ一体誰ですか？」 「「偽物は黙ってろ」」 　そっくりな容姿、そっくりな声、そして綺麗にはもるセリフ。白雪と黒雪が出会った瞬間だった。誰でも、突然自分に似て人物が現れたら驚くだろう。そして恐ろしいほどの恐怖に襲われる筈だ。ドッペルゲンガーではないか？自分は消えるのではないか？と＿＿＿。ただ、この2人は違った。お互い恐怖心などは一切持たず、まるで、この状況を＿＿＿ ＿＿＿楽しんでいるかのような雰囲気だった＿＿＿ 白雪と黒雪の殺し合いが幕を開ける。 「俺様の前にノコノコ現れる偽物は徹底的に処罰して差し上げましょう‼︎」 「自分の前に邪魔をする偽物は徹底的に排除しましょう‼︎」 白雪が白？黒雪が白？ 白雪が殺人鬼？黒雪が殺人鬼？ 白雪が本物？黒雪が本物？ これは貴方の夢の物語。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ​ 「近づかないでこの人殺し…‼︎」 夜、暗い公園で女性の叫び声が聞こえる。 「人殺しですか‼︎それはそれは随分とつまらない冗談を‼︎俺様が今まで何人殺したというのでしょうか‼︎?そして、その被害者の名前を全て言えるのでしょうか!!?言えないですよね‼︎所詮お前はクズですから‼︎さっさと消えろ＿＿＿」 そして聞こえる少女の声。透き通るような綺麗な声だった。その分恐ろしい 「ひっ＿＿＿」 「さようなら＿＿＿＿＿＿」 少女がくるりとUターンすると女性は悲鳴をあげる。そしてやがて夜は静まり返る。少女が振り返ると一面は血塗れだった。地面は血で溢れ、女性は自分の心臓にナイフを刺したまま動かない。 「あれれ‼︎自殺しちゃったのですか‼︎俺様誰も殺したことないのに人殺しとはなんと酷いことを言うのでしょう‼︎全員こうやって＿＿＿勝手に自分で死んでいくのに‼︎」 夜の公園で1人で立っている少女は黒雪だった。銀髪にセンター分け、長い髪の毛をツインテールにした少女だ。一人称は俺様。毎回語尾が楽しそうに‼︎がつく。そんな不思議な少女だった。 「まあ、あまり派手にやるなと主様に言われてますし、証拠隠滅しますか‼︎」 少女はそう呟くと近くに設置されている防犯カメラをいじくる。証拠映像を全て消し、他の偽りの映像にスリ変えたのだ。早業で恐ろしいことをする。これが黒雪という人物だった。 「＿＿＿また派手にやったな」 近くで声をして黒雪が振り返ると1人の青年が立っていた。 「主様‼︎これのどこが派手なのですか‼︎？」 主様と呼ばれた青年＿＿＿少年にも見える人物は不気味な見た目をしていた。狐のお面から見える紫の瞳、サラサラな髪の毛を軽く後ろで縛っている。前髪は片側だけ長く、目にかかっていると思われる。服はやけに高級そうな和服を見に着けていた。 「悲鳴がめっちゃ響いていた。もう少し抑えろ」 「了解です‼︎」 黒雪は明るくそう答える。主様と呼ばれる青年は困ったようにため息を吐く。 「これで何度目だ＿＿＿」 主様のその言葉を聞くと黒雪は笑顔を固める。 「…俺様‼︎用事を思い出したので帰りますね‼︎」 そう言って黒雪走って逃げ出す。しかし、主様の方が早く動き出し、黒雪を捕まえる。 「逃げるな。あほ」 完全に逃げる事を諦めた黒雪は相変わらず笑顔を浮かべている。24時間365日黒雪は何故か笑顔を浮かべている。主様でさえ、黒雪の感情を読み取るのは難しい。 「ああ、そうだ黒雪」 主様は突然何かを思い出したかのように話し出す。 「君は、偽物か本物か＿＿＿どっちだい？」 「はい＿＿＿？」 一瞬、1秒もない本当に一瞬黒雪の笑顔が曇ったことを主様は見逃さない。 「動揺してるなら心あたりがあるのだろう？」 主様は声色を変えず淡々と話し続ける。 「白雪と黒雪どっちが本物なんだい＿＿＿？」 主様がそう言った瞬間黒雪はコンマ1秒程度で動き、主様の首筋にナイフを突きつける。 「主様一体何をほざくのですか‼︎？そしていつ‼︎白雪と接触したのですか‼︎？」 黒雪は笑顔に見えるが目は笑っていなかった。主様は軽く手を動かし、黒雪のナイフを下ろす。 「乱暴だな。白雪とは既に何回も接触している。どっちが偽物かはわからないが、君たちは白黒のわりにかなり声が違うね。見分けがつきやすい」 答えにならない答えを返す主様だったが、黒雪は何をしても敵わないことがわかったため、諦める。そして、とある疑問を浮かべた。『声が違う＿＿＿？』黒雪自身でも白雪とは声がそっくりだと思ったのだ。それなのに主様は違うと言う。どれだけ耳がいいのだろうか。しかし、その疑問はすぐに消えていく。主様を無理に調べるのは危険だ。そう感じたからだ。 「黒雪。もし君が偽物なら、私は君を始末するよ。偽物は世界を混沌へと進ませるクズだからね。本物なら、これからも支えてあげよう。白黒を解くのに私は手助けなど一切しない。君は自力で解決してみせろ。君が偽物だと自分でわかったのなら私を殺しにかかってこい。存分に相手をしてやる」 そう言うと主様は去っていく。黒い闇に1人の少女がポツンと残される。 「＿＿＿白雪は絶対潰す」 黒雪のその呟きは闇にかき消されていった。黒雪はのんびり歩き出す。これは、主様がくれたチャンスだ。白黒がわからなくなった時、ほとんどの人間は両方殺してしまう。その方が楽だからだ。しかし、主様は自力で解決しろと言った。楽しんでるだけかもしれないが少なくとも、少しはチャンスを与えてくれたと言うことだ。黒雪は心の中でそれを改めて理解する。黒雪は楽しそうにスキップをしながら自分の家に帰るのだった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「可愛らしいお嬢さん…よければ一緒に楽しいことしませんか＿＿＿？」 悪夢は突然襲いかかる。とある少女の前にその男はいた。不気味な仮面で顔を覆い、高級そうなスーツを身に付けている。少女は震えた。 「わ＿＿＿私は帰らなきゃいけないので」 少女は震えながら答える。少女が持っているのは大きなリュック。生活に必要最低限の物を詰め込んだような大きさだ。 「へぇ…帰るねぇ。どこに＿＿＿？その感じ、君家出なんじゃない＿＿＿？」 男の言う通りだった。少女は震えながら首を横にふる。 「違っ違います…。私は塾の帰りで＿＿＿」 少女はそう言ったあと、すぐに走って逃げる。きっと、誰もが学校でそう教わっただろう。「いかのおすし」は有名だ。"す"のすぐ逃げる。 「逃げるかぁ。うん。良い選択だね。一般人相手にとっては＿＿＿だけど」 男はフッと笑うとのんびり歩き出す。 「どこに逃げたのかなぁ？流石にあんなに大きなリュックじゃそう早くは走れないだろう＿＿＿？ねえ、そうだろう？お嬢さん＿＿＿？」 「ひっ＿＿＿」 偶然かそうじゃないのか。綺麗に先回りして少女を見つける。 「なんで＿＿＿なんでわかったの＿＿＿？」 少女はどんどん恐怖に飲み込まれていく。 「なんで＿＿？う〜んなんでだろう？お嬢さんが可愛いから？」 男はそんなふざけた事を言う。男は少女に手を伸ばす。 「ごめんね。可愛いお嬢さん＿＿＿来世は幸せにね」 男がそう言った時には目の前の少女はもう息をしていなかった。 「あぁ＿＿＿最近の鬼ごっこはつまらないなぁ。う〜ん。今度黒雪につきあってもらおうかなぁ」 男はつまらなそうに呟くと歩き出す。 「ん＿＿ストーカーって嫌いなんだよね」 物音一つしなかった後を振り向いて男は言った。後ろには銃を構えた輩が10数人。 「ちょうど暇だったし、遊んであげるよ？」 男はそう挑発すると一瞬にして全員の心臓に刃物を投げつける。綺麗に全て命中した。全員一気に、おもーいっきり血を出して倒れる。 「もう終わりかぁ」 男はそう言うと殺した輩を足で踏み付ける。男は仮面を取ると髪を掻き上げた。仮面で隠す意味がないくらいに整った顔だった。紫の瞳に紫の髪の毛、恐ろしいくらいに白い肌、整いすぎた顔。そして足で人を簡単に踏み付けるような残酷な人物。 この恐ろしい人物こそが、黒雪が忠誠を誓い、主様と呼んでいる裏社会のトップ＿＿ "紫雲"だった＿＿＿

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「聞いてくださいよ♪青空くん♪最近少し主様が私のお相手をしてくれないんですよね♪酷いと思いませんか？♪思いますよね？もちろん思いますよね♪」 「知るはずないだろ。勝手に1人で喚いてろ」 「うわぁ♪青空くんそっけないですね♪」 騒がしい2人組が夜の闇を駆け抜ける。青空と呼ばれた男は長い夜空のような青い髪をそのまま結ばずに流しており、"主様"によく似た仮面をつけている。 Blue sky＿＿＿通称青空 主様の右腕とされているほど強い彼は1人の少女とよく一緒に行動している。 そして＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 紗英＿＿＿ それが少女の名前だった。黒雪よりも白を象徴させる白銀のカールした髪をハーフツインで結んでおり、横髪にピンクのリボンを複雑に結んでいる。 「紗英＿＿＿お前は騒がしすぎる」 「おや？♪ある意味黒雪の方が騒がしいのでは♪」 「あいつは論外だ＿＿＿＿＿＿」 「ふふっお可哀想に♪」 「お前もそろそろ論外の仲間入りだぞ」 「⁉︎♪なんてひどい事を言うのでしょう♪私はまだマシですよ♪」 「いや＿＿＿やっぱり黒雪よりもお前の方が論外だ」 「な⁉︎♪レディに向かってなんて失礼な♪それだからモテないんですよ♪」 「恋愛に興味はない。そして告白はお前よりもされてと思う」 「あら？♪意外です♪」 「いいから口を慎め」 本当に騒がしい2人だった。青空はいつもこんなにうるさいわけではない。相手が紗英だからこそ騒がしくなるのだ。 紗英と青空＿＿＿組み合わせると碌なことがないペアである。 「んでぇ♪先程から数人につけられてますがどうします？♪」 「お前が騒がしいせいだからお前がなんとかしろ」 「鬼畜ですね⁉︎♪冗談ですよね⁉︎♪」 冗談ではないらしい。紗英は次の光景を見た瞬間そう確信する。青空がいない。先に帰ったのだ。 「いやぁ♪マジでふざけんなですね♪後で主様に言い付けて差し上げましょうか♪」 紗英はそう言うとクルリと方向を変え、追ってきたやつらと向き合う。 「はじめまして♪刺客さん♪」 紗英はにっこりと笑いながらそう言う。 「楽しい楽しい殺し合いをしましょう♪」 満面の笑顔、そして敬語で楽しそうに人を殺す。サイコパスだった。 紗英はどんどんと殺していく。しかし、永遠に刺客が減らない。何人いるのだろうか。そう思った瞬間、あたりに大量に血飛沫が舞う。 「おやおや‼︎こんな簡単な敵に戸惑うとは‼︎紗英もまだまだですね‼︎」 気づけば誰一人として敵はいなくなっていた。 瞬殺＿＿＿そう言うのが過言だろう。 「あらら♪黒雪かと思ったら誰ですかねあなた♪」 黒雪と外見がそっくりな人は黒雪にそっくりな笑みを浮かべる。 「おや‼︎見破るとは案外勘が良いですね‼︎自分は白雪と言います‼︎自分たち…お似合いだと思いますね‼︎」 白雪はそう笑うとすぐに去っていく。 「面倒なやつですねぇ♪黒雪との白黒ですか♪中々面白くなってきました♪」 紗英はそう言って目が笑っていない笑みを浮かべる。 「私ももう少し強くならないといけませんね♪」 ▼△▼ 「空＿＿」 青空は白峯を置いてとある部屋に来ていた。 「気をつけて。仲間に＿＿裏切り者がいそうだ」 「裏切り者＿＿＿＿ですか？」 青空は少し顔を顰める。その問いに、主様はゆっくり答えた。 「きら、栾華、浮雲、菊家、氷夜、雲珠、黒雪、紗英＿＿誰かが裏切っている」 主様はそう言うと青空に背を向ける。 「空＿＿君が頑張って解決してくれることを願う」 その言葉を聞いた青空は固まる。白雪に関係してる＿＿？その浮かんできた疑問を青空は不思議に思った。なぜ今その疑問が出てきたのか＿＿＿＿。 世の中は闇に包まれている。 特に裏社会では＿＿＿＿＿＿＿＿ 誰も感情など見せない物だ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 全員集合令が主様からメンバー全員に出た。 部屋には既に大量の人たちがいる。小柄な物から幅広く。全員が集合する時は、とある決まりがあった。位が低い物から入室する。そして、自分よりも位が高い人が入室する時には首を垂れる。そんな決まりだ。既に入室している物たちは位無しの人たちだった。中々こう集まることが無いためか、緊張しているように見える。 扉が開いた瞬間に、全員が一気に跪く。位持ちの入室の時間だ＿＿＿ 入ってきたのは2人。 1人は黄色の髪に吊り目、強気な雰囲気の女子＿＿菊家 1人は黒髪ウルフカットの少女。少し弱気な雰囲気を纏っている＿＿きら その2人は自分の場所につくとすぐに跪く。 その後、すぐにまた新しく人が入ってくる。 1人は白銀髪の少女、紗英。 1人は髪を複雑に結い上げた少女＿＿栾華 2人もすぐに跪く。 その後は2人の青年が入ってくる。 少し長めの緑色の髪、垂れ目でも吊り目でもなく並行な目で神秘的な雰囲気＿＿雲珠 鋭い瞳に水色の髪、所々白のメッシュが入っている冷たそうな雰囲気＿＿氷夜 その2人はのんびりと跪いた。 周りの空気が凍りつく。上位3名の入室だ＿＿＿＿ 臙脂色の髪に、動きやすそうな和服、口元を布で隠した青年＿＿浮雲 銀髪を上の方でツインテールにしている少女＿＿黒雪 夜空のような長い髪の青年＿＿青空 その3人が座ったところで、全員が顔を上げる。ほとんど全員が浮雲の方に視線を向ける。きっと、姿を見たことがあるのは数人だろう。普段誰とも一緒に行動していない彼を認知しているものはかなり少ない。会議などにも全く来ないような人間だ。 「浮雲＿＿久しぶりだね」 最初に口を開いたのは主様だった。浮雲は軽く頷く。 「ん‼︎ちょっと浮雲くん‼︎主様が折角声をかけて下さったのにその態度はなんでしょうか‼︎？」 黒雪の騒がしい声が部屋中に響き渡る。 「黒雪殿＿＿其方以前より騒がしくなったな」 浮雲が面倒そうに呟く。 「な‼︎俺様はいつも平常うんtっ痛っ‼︎」 隣で青空が黒雪の頭にチョップを入れる。 「お。さすが青空くん。うん。さすがさすが」 ゆったりとした声が響く。雲珠が軽く笑いながら言っていた。 「雲珠‼︎俺様を笑者にするな‼︎」 「氷夜も一緒に笑おうよ」 雲珠は黒雪を無視して隣の氷夜に声をかける。 「お断りします」 短くそう答えるとすぐに黙る。 「黒雪さん流石ですね〜♪」 「あ、俺も流石だと思います」 「何に対して⁉︎」 「ハハ」 位持ちが騒ぐ姿を他の人達は見てどう感じているのだろうか。きっとこうだろう。 なんだこいつら⁉︎ パンパンと乾いた後が部屋に響く。 「主様がお困りだ。すぐさま口を噤め」 浮雲の声が部屋に響き渡り、全員が気を引き締める。 「ありがとう浮雲。他のみんなが困ってるから、位持ちはもう少し落ち着こう。唯一落ち着いてたのが浮雲と氷夜くらいだよ」 主様の声に先程まで騒いでた全員が頭を下げる。 「さて。最近色々な所で位持ちがストーカーされている。今まで全くそんな事はなかったからこれはかなりの問題だろう。位持ちでもそうじゃなくても気をつけるように」 主様はそう言うと位持ち以外は帰っていいよと託す。 その言葉で位持ち以外は退出し、一気に部屋が広くなった。 「主様が、全員を集めるとは珍しい。何か問題が発生したのですか？」 浮雲が位持ちしかいなくなった所で口を開く。 「少し気になったのですが、黒雪の白黒はどういう状況ですか？」 浮雲に続いて氷夜が口を開く。きっと全員同じ疑問を持っていただろう。 主様はゆっくりと口を開く。 「この中に、裏切り者がいる」 その言葉に一気に空気が凍りつく。 「そう、判断した理由はなんでしょうか」 氷夜がそう聞くと主様は口を開く。 「位持ちの情報が漏れている。かなり細かくだ。位持ちの情報を知っているのは私と位持ちのみ。誰かが情報を漏らしていると考えるのが妥当だろう？」 全員が全員を睨み合う。 「浮雲、君じゃないのかい？君が1番怪しい。誰とも一緒に行動をせず、会議にも来ない。君が1番怪しい」 菊家が口を開く。浮雲はそれを聞いて表情一つ変えず首を傾げる。 「少なくとも、菊池殿の意見には少し穴がある。俺は最近の位持ちがどのような容姿、どのような技能を持っているかなど、会議に参加しない分逆に知らない。そして、黒雪、一気に静かになったが何かあったか？隠さなきゃいけない何かが」 浮雲のその言葉に全員が黒雪を見つめる。 「何を証拠もないのにそんな事を言うのですか‼︎ふざけんなよ。デタラメ流すなクズ野郎」 黒雪は途中から口調が変わる。浮雲はそれは楽しそうに挑発する。 「ん。戦いたい？なら今戦ってあげようか？今の其方はとてもとてもやる気で溢れているよ。その怒りが其方を動かす原動力となる。素晴らしいね」 浮雲の挑発を聞いた黒雪の顔が少し青ざめる。黒雪は悟った。浮雲は自分と桁違いの実力だ。同じ最上位でもここまで差が開くのか。黒雪は一度深呼吸して笑顔を浮かべる。 「失礼しました‼︎少しカットなってしまいましたね‼︎」 部屋の中は不穏な空気が流れ続けるのだった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ​ 位持ちも1人以外全員退出した後、残った1人は呟く。 「主様は、誰が裏切り者か分かってますよね？」 浮雲がそう言ったあと、主様は目を見開く。 「どうしてそう思ったんだい？」 「主様は、犯人を分かっていながらも状況を楽しんでいるように見えました」 答えになってるのか、なてないのか。曖昧な返事をする浮雲に、主様は苦笑する。 「ところで、浮雲。なぜ今日の会議には参加したんだい？いつもは私の命令であろうと参加しない時が多いというのに」 主様のその問いに浮雲はすぐに答える。 「そろそろ、位持ちと、それ以外の方々の顔を認識しとこうと。花陰が消えてから一気に位持ちメンバーが失踪、位無しもどんどん入れ替わっていく中、流石に顔を覚えとかないと、いざとなった時に助けることができない」 浮雲はそう言うと主様の目の前に座ると軽く微笑む。 「主様＿＿＿いや、紫雲殿。ぜひよければ久しぶりに手合わせをしないかい？」 「おや？名前で呼んでもらったのは4年ぶりだね。楽しそうだ。折角だし遊ぼうか」 主様はそう答えると仮面を外す。位持ちの前で外すのは今までも、これからも浮雲だけだろう。浮雲は楽しそうに立ち上がる。 「お互い40％でやろう。それ以上でやったら屋敷が崩壊する」 浮雲のその言葉に主様は頷く。 「了解」 主様のその言葉を合図に浮雲が目の前から消える。手合わせ、この2人にとってそれは遊びだった。 「浮雲。ちょっと最初から姿を消すとはズルくないか？」 主様は苦笑しながらも浮雲を探す。 「なるほど。そしたら正々堂々正面からと言うところか？」 浮雲は上から静かに着地すると主様の前に立つ。 「おや？浮雲。正面からは、弱いのではなかったかい？」 「いつの話だか」 2人のその言葉を聞いた瞬間にお互いが動き出す。主様は前に、浮雲は後に。主様の攻撃が掠る。 「危ないな。流石紫雲殿」 浮雲は軽く攻撃が掠っても笑顔でいる。 「では、こちらの番だ」 浮雲はそう言うと主様に真正面から挑む。主様はそれを避けながらも浮雲に攻撃を仕掛ける。しかし、永遠にどちらの攻撃も当たらない。このまま続ければ体力勝負になる。そう悟った浮雲と主様は同時に攻撃を止める。 「引き分けだね」 主様のその言葉に浮雲は笑った。 「そうですね」 「う〜ん。やっぱ浮雲じゃないとつまらないなぁ。最近の奴らはみんな弱いから」 主様はのんびりそう言う。きっと、この世界で主様と互角に戦えるのは浮雲くらいだろう。 浮雲の実力は主様しか知らない。位持ちの誰も浮雲と共同任務をしたことがなく、手合わせしたこともない。そんな浮雲の実力を知らない位持ちは、なんでこいつがいつもトップにいるのか疑問に思うだろう。 浮雲 主様の影。裏社会でのトップと互角に戦える化け物である。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ​ 2人の青年は夜の闇に潜み込む。 「う〜ん。折角青空くんを流石と褒めただけなのに黒雪くんに怒られるとは。なんでだろう？氷夜どうしてだと思う？」 雲珠のその言葉を聞いて隣にいた青年こと、氷夜は顔を顰める。 「脳みそ大丈夫？」 それだけ言うと黙り込む。 「ええ。ちょっと氷夜酷いよ」 のんびりとした口調でそう言うが氷夜は完全にスルー。よく一緒に行動するこの2人は独特なコンビだった。 「あ、ところで氷夜。新人の紗英ちゃんのことどう思う？」 「どうとは？」 「結構位無しから恨まれてるんだよね。新人のくせに生意気だって」 氷夜は冷たい瞳で前を見つめる。 「新人だからなんだ。実力があるならそれでいい。少なくとも、位持ちで彼女に嫉妬や敵意を持ってる奴はいないだろう」 氷夜にはすごく珍しい長文だった。 「ただ、彼女は実力が低すぎる。菊家ときらはあまり戦闘能力に優れていないが、それ以外はとても優れている。彼女が菊家達より強いのは確かだが、同じ3段位とは思えないくらいに栾華と差が出ている。それは流石にまずいだろう」 3段位、紗英と栾華がいる位のことだった。 菊家ときらは4段位。位持ちの中では1番下の位。 紗英と栾華は3段位。 雲珠と氷夜は2段位。トップ5位の中に入るところである。 黒雪、青空、浮雲は1段位。まさにトップ。 「ん〜そうだね。確かに栾華との差と、2段位のこちらとの差も激しいからね」 雲珠は相変わらずのんびり呟くがその瞳だけは鋭く光っていた。 「もう少し強くなってもらわないといけないね。けど、」 雲珠は言葉を一度切り、氷夜の方を向く。 「彼女が裏切り物かもしれない。そうだろう？」 雲珠は氷夜の答えに微笑む。 「その通り。もしも紗英ちゃんが裏切り者なら強くなられては困る。そして、あの弱さも演技の可能性があるね」 獲物を見つけた獣のような目をしている雲珠が本気を出したら氷夜には止められない。きっと、青空や黒雪にもきついだろう。そう氷夜は考える。 「ま、とりあえずこの裏切り者はもしかしたら氷夜かもしれないし？僕かもしれないし？黒雪かもしれないし、青空かもしれないし。無駄なお喋りはここまでにしようか」 そう言うと雲珠は立ち上がる。いつもの穏やかな瞳にいつのまにか戻っていた。 「そうだな」 氷夜はそう答えると無言に戻る。 「ええ、氷夜も。もう少しは話しなよ」 雲珠をスルーし相変わらず無言の氷夜。この2段位の通常運転だった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ​ 「ん‼︎黒雪久しぶりですね‼︎」 夜の街で声がする。黒雪は振り返ると後ろに自分とそっくりな少女がいた。白雪だ。 黒雪は白雪をしばらく見つめた後、何も気にせず歩き出す。関わる時間がもったいない。そう感じたからだ。しかし、その対応は白雪を逆に怒らせる。 「無視とかふざけんなよ」 白雪は黒雪の肩を無理やり掴んで止めさせる。 「俺様、今お前と遊ぶ気分じゃないので‼︎これで失礼しますね‼︎」 黒雪は笑顔で呟く。 「自分が本物だから。黒雪には消えてもらわないと」 白雪はそう呟くと黒雪に目掛けて刃物を投げる。ギリギリの所で避けたが危なかった。 「お前のように弱い奴が本物のわけがない‼︎自分が絶対本物だ」 白雪はそう叫ぶと黒雪にどんどん襲いかかる。黒雪と白雪の体力勝負となったらきっと白雪が勝つだろう。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ⁉︎」 黒雪の妙な悲鳴が聞こえたかと思うと、黒雪はその場に倒れ込む。手首を抑えて。目の前に広がるのは血。黒雪の手首から先は存在しない。切られたのだ。白雪に。 「弱いですね‼︎やっぱりお前が偽物ですよ」 白雪はそう言うとナイフを黒雪の真上であげる。 「さようなら」 振り下ろした瞬間だった。白雪が大量に血を吐き出す。 「＿＿＿人が居たんですね。気づかなかった」 白雪に攻撃を仕掛けた人間はそう絶対嘘だと思われる嘘をつく。臙脂色の髪に和服、口元を布で隠している地味に独特な服装を身につけている人物。浮雲だった。 浮雲は不気味にほど美しい笑みを浮かべると白雪に向けて言葉を発する。 「白雪殿、其方、心に悩みを大量に抱えているね」 「は？」 浮雲の言葉に白雪は動揺する。その動揺を浮雲が見逃すわけがない。 「可哀想に。悩みを抱えてるからそんなにも弱い。うん。弱すぎる。君はそんなに弱かったんだね。主様共々ガッカリだ」 浮雲の挑発に白雪が攻撃をしかける。黒雪との時より早い動きで。浮雲に大量のナイフを投げつけ、白雪自身も浮雲に襲いかかる。普通なら、どんなに強くてもこんなに投げたら何かしら当たるだろう。そういう考えだった。しかし、浮雲には一切攻撃が当たらない。避けたのではなく、全てを"受け止めた"のだ。片手には大量のナイフが握られており、片手では白雪を押さえつける。 「弱いね。まだまだ弱い。黒雪を潰すのならもっともっと強くならないと」 浮雲はそう言って笑う。 「出直してこい。お前に裏社会はまだ早い」 白雪は浮雲に投げ捨てられる。とりあえず、逃げる以外なかった。浮雲という化け物に目をつけらえたら終わりだ。 「黒雪殿、ちょっと手抜きすぎじゃない？」 白雪が去った後、浮雲は倒れている黒雪に話しかける。 「ん‼︎俺様は至って真面目ですよ‼︎」 黒雪の元気な答えを聞いて浮雲はUターンする。 「そっか。そしたら自分であとはなんとかしてね」 そう言って去ろうする浮雲を黒雪は慌てて止める。 「いや‼︎流石に手を切られた人に向ける態度じゃないですよ‼︎」 相変わらず騒がしい。そう思いながらも浮雲は仕方なく黒雪の手当てをする。 「まったく、迷惑をかけすぎだ」 そう呟く浮雲が黒雪を見る目はとても優しい物だった。まるで、兄が弟を可愛がっている様な雰囲気だった。 「浮雲？珍しいですよ‼︎そんなに優しい目をしているのは‼︎」 「ん？」 黒雪に指摘され浮雲は不思議そうに首を傾げる。きっと、無意識だったのだろう。 「黒雪殿、其方はいつも無理をしすぎる。ほどほどにしなさい」 手当てを終え、そう告げると去っていく浮雲に黒雪は軽い違和感を感じていた。 「兄さん＿＿＿？」 自然とそんな言葉が出てくる。何が兄さんなのか、言った本人である黒雪でさえまったくわからなかった。 浮雲と黒雪 滅多に一緒にならないが、不思議な関係の2人だった

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ とある所にその少女たち3人はいた。 「栾華さん」 そのうちの1人、きらが栾華に話しかける。 「どうかしましたか？」 「いや。その。結局裏切り者は誰なのかなって思って」 そう弱々しく呟くきらを栾華はじっと見つめるとため息をつく。 「それは分からない。もしかしたら、私たち3人の中の誰かかもしれないし、他の人かもしれないし。そうでしょう？菊家」 栾華はきらともう1人の少女、菊家にそう問いかける。 「そうですね」 菊家もそう答えると真っ直ぐ前を見据える。 「私は、こないだの会議で初めて浮雲さんを見ました。あの方は、一体どれだけ強いのですか？あの黒雪がすぐに黙るくらい強いのですか？」 菊家はそう疑問を並べていく。位持ちになったばかりではないが、4段位の菊家ときらは浮雲と接触したことがこないだが初めてだった。 「いや。私も会ったのは初めてだから何とも言えない」 栾華もそう答える。菊家やきらよりかなり先に位持ちになっている栾華も初対面だったのだ。そんな人のことをこの3人が知っているはずない。 「きっと、浮雲と、会議より前に接触があった人は少ない。1・2段位は全員、接触があるようでしたが、それ以外はみんな初めて見た人だった。ずっと会ったことなかった1段位のうちの1人に、位無しもかなり驚いたでしょう」 栾華はそう答えると、ため息をつく。 「まあ、1段位と2段位。特に1段位は全員不気味でだらけですからね。仕方ない」 栾華のその言葉にきらも菊家も頷く。 「なんとか、裏切り者を見つけ出したいですね」 栾華、菊家、きら 1番落ち着き、穏やかな3人組である。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ​ 2人の青年はとある場所に立っている。周りには大量の血、死体、切断された体、その死体を1人は踏み付け、1人は気持ちよさそうに眺めている。周りから攻撃を仕掛けてきた物を皆殺しにする。それがこの2人が一緒に行動する時のルールだった。 「う〜ん。ちょっとさ、久しぶりに一緒に活動するのになんかつまらないね」 死体を片足で踏みつけている青年はそう呟く。 「いや。俺は久しぶりの合同作業ってだけで楽しい」 死体を眺めていた青年はそう呟く。 「ん〜。まあそう言ってくれるなら良いけどね。さて、次はどこに行こうか」 「敵が沢山いるところに」 「お。ちょうど意見があったね。流石浮雲」 「流石紫雲殿」 2人はそう呟くと夜の闇に溶け込む。 浮雲&主様 浮雲が誰にも知られない中で唯一一緒に行動するペアだった。 「浮雲は死体の山好きだよね」 「何を今更。紫雲殿は死体を踏みつけるのが好きなくせに」 「おや？浮雲。しばらく…2年くらい一緒に行動しない間に口が悪くなってないか？」 「それは紫雲殿も同じでは」 主様がこんなに楽しそうに話しているのを見たことがある人はほとんどいないだろう。強いて言うならきっと青空くらいだ。 「さて」 とある屋敷まで着くと主様は微笑む。 「蹂躙を始めようか」 そう呟くと浮雲と同時に屋敷に入っていく。のんびり堂々と 「なんだ⁉︎お前ら」 屋敷のものたちが騒ぎ出す。 「騒いだ奴は全員殺す。浮雲。それも今回のルールにプラスしようか」 「了解」 2人は不気味に微笑むと騒いだ奴全員を殺していく。それも残酷な方法で。軽く死なせるわけではない。体に痛みを覚えさせてから殺す。これが2人のやり方だった。一瞬にして全員が消える。 「あっという間だね。最近はみんな弱すぎる」 主様のその呟きに浮雲はフッと笑う。 「何回それ言うんですか」 主様と浮雲。 最強と最強が合わさったらもう誰にも止められない。サイコパスの2人組だった。 「所で、黒雪と白雪。同時に接触したのだろう？どうだったかい？」 屋敷を出てのんびり歩く浮雲に主様は声をかける。 「弱すぎですね。白雪が。それに、あれは一瞬で白黒が判断できる。一瞬で偽物がわかる」 浮雲のその答えに主様はにっこり笑う。 「流石浮雲だ。予想通りの答えだったよ」 主様は仮面を取ると笑顔を深める。 「裏切り者を徹底的に排除しようか。骨の髄まで苦しめてやろう」 綺麗な笑顔で恐ろしいことを言う主様に浮雲は笑いかける。 「骨の髄まででは軽いですよ。あの世でも来世でも、永遠に苦しめないと」 裏切り者の正体をこの2人は既に把握しているのだろう。うまい具合に踊らせ、最終的に潰す。恐ろしいことを考える2人組に、位持ちはまだ誰も気がついていなかった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ --- ​ フードを被ったとある人は路地裏に入る。 「よお。今回はどんな情報をくれるんだい？」 路地裏で待っていたのは1人の人間。フードを被った人間はにっこり微笑むと言った。 「ずっと、詳細が不明だった1段位の情報だ」 「それは興味深い。ぜひ教えてもらおうか」 裏切り者の名は＿̴̧̳̙̮͋̐͆͞＿҉̢̘͉͒̆̚͠＿̷̢͉͂̄͡＿̶̨̱̭̳͆͝＿̵̧̭̾͠＿҉̢̦̯̖҇̽ 1人の少女はビルの屋上から夜の街を見下ろす。元3段位だった少女だ。髪の毛の下の方だけカールしており、長いピンク色の髪を下の方に緩くツインテールで結んでいる。 「この街に来たのは、久しぶりだなぁ」 消えそうなくらい小さな声でそう呟くと少女はビルの屋上から飛び降りる。そして、無傷で着地した。 「雲珠くん元気かなぁ。あ、雲珠くんは絶対元気か。氷夜くんはまだ雲珠くんに振り回されてるのかなぁ。黒雪は相変わらず騒がしそうだなぁ」 そんなことを呟く。その少女はしばらく失踪していた少女だった。数年前、まだ浮雲がしっかり会議に来ていた頃、雲珠たちと一緒に活動していた。だが、突然失踪。そのあと立て続けに位持ちが失踪、死亡し、1・2段位以外全員がメンバーを変えた。変えざるを得なかった危機になった原因の1人である。 「んん〜。主様に申し訳ないなぁ。急に失踪して急に帰ってきて。迷惑かな？」 そう呟いたあと、その少女は歩き出す。通り過ぎる男性がほとんど全員振り返る。それくらい美少女なのだ。しかも、美少女なだけでなく、夜に1人で歩いてる美少女となれば振り向くのも理解できる。少女はとある一軒の家の前に辿り着くとそのまま無断で侵入していく。そして空いている窓から家に入る。 「キャアア‼︎不法侵入よ‼︎」 女性の甲高い声が聞こえるが気にせずにそのまま少女は歩く。通りすがりで騒いだ女性を殺しながら。 「よし。今日からここで暮らそうかな」 少女はそう言って微笑む。 少女の名は花陰。現在の3段位とは比べ物にならないくらい強い元3段位の少女だった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ --- ​ 1・2段位全員集合令が主様から出される。立て続けに集合令が出されるのはあの失踪事件ぶりだろう。1・2段位の5人はそう思いながらも屋敷に向かう。今回は位の入室順などは気にせずに全員入っている。雲珠と氷夜が行った時には既に主様と浮雲がいた。2人で呑気に将棋を打っている。 「主様〜。折角急いできたのに何遊んでるんですか？」 雲珠がそうのんびり呟くと浮雲がフッと笑う。 「雲珠殿。其方もやるか？黒雪殿と青空殿は到着に時間がかかるみたいだから」 浮雲の誘いを受けたが雲珠は断る。頭脳戦をやったら勝てるはずがない。 「浮雲、君の番だよ」 主様にそう声をかけられた浮雲はまた将棋を始める。 「すごく、喋りずらそうな顔してますね」 氷夜が雲珠の顔を見てそう呟く。当たり前だろう。主様と浮雲が真剣に将棋を打っている部屋だ。しかも浮雲、ましてや主様など位が上すぎる。あのふざけた黒雪や案外ノリが良い青空がいないと気まずいものだ。 「王手。いや。詰みですね」 浮雲の声が部屋に響き渡る。雲珠と氷夜にとっては予想外の結果だった。主様が負けるとは思わなかったのである。 「流石浮雲。敵わないなぁ」 主様はそう言うと、軽く伸びをする。 「雲珠、やってみないかい？氷夜でもいいよ？」 「「お断りしときます」」 主様のお誘いに対する2人の声が綺麗にはもった。主様の瞳が獲物を狙う獣だった。きっと勝負したらボロ負けするだろう。2人は顔を軽く引き攣らせて断っていた。 「釣れないなぁ」 主様はつまらなそうにそう呟くと将棋を片付ける。 「雲珠殿と氷夜殿。最近の調子はどうだい？」 突然浮雲に話しかけられた2人は少し驚いた顔をしてから答える。 「絶好調ですよ〜」 「雲珠がうるさいこと以外はいい感じです」 2人の返事に浮雲は苦笑する。やはり独特なコンビだ。 「それにしても、浮雲と話すのは久しぶりですねえ。そちらこそ最近どうでしたか？」 雲珠ののんびりした口調に浮雲は答える。 「まあ、そこそこって感じかな？中々周りが弱すぎて困るけど」 サラッとそんなことを言う。浮雲と雲珠と氷夜。ずっと昔から上位に入っている3人であるため、浮雲からも話しかけることがある。 「遅れましたあ‼︎」 「申し訳ありません」 黒雪と青空。2人が部屋に入ってくる。 「青空殿、話すのは久しぶりだね」 浮雲はそう呟くとにっこり笑う。 「はい。お久しぶりです。こないだは、あまり話せなかったので」 青空も仮面をつけていてもわかるような笑顔を見せる。 「浮雲‼︎俺様には話しかけてくれないんですか‼︎」 黒雪の明るい声が聞こえるが浮雲は完全にスルーした。 「ハハハッ。懐かしいね。この感じ」 主様が笑いながらそう言った。懐かしい。きっと他のみんなもそれを感じていただろう。 「ハハッ。もうみんな性格が変わらなすぎて逆に笑えるよ」 主様につられたかのように浮雲もふきだす。 「ですよねぇ。やっぱりこのメンバーが最高」 雲珠も軽く笑いながらそう言った。 「浮雲も元気そうでよかったです。やっぱなんだかんだ良いですね」 いつも無表情に氷夜も珍しく微笑んでそう言う。 「やっぱり俺様もこのメンバー大好きです‼︎というか‼︎氷夜のレア笑顔‼︎」 黒雪も元気にそう答える。 「主様。氷夜の笑顔写真撮りましたか？」 「もちろん。撮ったよ」 「え？主様。早急に消してください」 「あ、主様。その写真後でください」 「あ、じゃあ一応俺ももらっときたい」 「俺様にもください‼︎」 部屋に若者の声が響き渡る。これが古参メンバーの昔の光景だった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ --- ​ 「さて、そろそろ本題に入ろうか」 ひとしきり騒いだあと、主様が落ち着いた声で5人にそう言う。それを合図に位持ちの5人は姿勢を正す。 「まあ、今回みんなを呼び出したのには理由があってね」 そう言うと主様は部屋の扉を開けると1人の少女を中に入れる。 「「「「「花陰？」」」」」 5人の声が綺麗にハモった。新しく部屋に入ってきた少女は元位持ちの花陰だった。全員が動揺を隠し切れておらず、呆然としている。 「みなさん。お久しぶりです」 花陰はそう言うとふんわりと微笑む。雲珠は目を見開いた状態で固まり、氷夜は1ミリも動かない。青空は仮面にかけた手をたらりと下ろすと固まった。黒雪は鋭い瞳で花陰を見つめるまま停止する。浮雲は花陰ではなく主様を探るような瞳で見つめていた。最初に動いたのは浮雲だった。 「どういう状況ですかこれ。花陰殿から説明していただきたい」 浮雲がそう言っても他の位持ちは固まったままだった。普段対して驚かない4人が固まっているなど、よほど衝撃的だったのだろう。浮雲は一向に説明しようとしない花陰にどこからか取り出した銃口を向ける。その目には殺意がこもっていた。 「3秒以内に話し始めろ。本気でやる」 「浮雲、私もちゃんと話を聞いていない。とりあえずそれをおろせ」 主様に止められたが、浮雲は引き金に手をかける。それをみて流石にまずいと思ったのか花陰は口を開く。 「赤同樣」 花陰が口にした言葉に主様と浮雲は反応する。 「彼らが、元位持ちメンバーを全員殺しました。とりあえず幹部を何人か殺しましたが、大半には逃げられた状態です」 花陰のその言葉に主様の瞳に鋭さが増す。 「他に、何か知っていることは」 浮雲のその問いに花陰は答える。 「それ以外は何も。一応、捕らえられてた身ですから」 「まずいねぇそれは」 雲珠がそう呟く。気づいたら他の4人も動けていた。 「俺様嫌な予感がします‼︎」 「大事件だ」 「まずいね」 みんながそれぞれの反応を示している中、浮雲と主様は視線を通わせ何か視線だけで会話をしていた。 「なるほど。そういうことか。中々の名演技だったぞ花陰殿」 浮雲はそう言ったと同時に花陰に発砲する。 「っ⁉︎」 花陰は突然の発砲に驚いたがぎりぎりのところで避けた。しかし、避けた所を綺麗に主様に押さえつけられる。そのまま押し倒された花陰の口に主様は乱暴に銃口を差し込んだ。花陰もそれに対抗し、自分の服から銃を取り出し主様に向ける。黒雪、青空、雲珠、氷夜から見たらどういう状況か全くわからなかった。主様は銃口を向けられても全く動揺せず笑顔で呟く。 「ご苦労様。花陰いや。強靭さん？まさかここまで仕込んでくるとは思わなかったよ。ただ、無断でノコノコ私たちの屋敷にやってきたこと、他の位持ちを騙したこと。ただで済むと思うなよクズ野郎」 主様らしくない乱暴な口調に状況を理解できていない4人が呆然と見つめている。花陰は主様に向けて発砲しようとしたが、自分が持っていたはずの銃がなくなっていることに今更気がつく。主様が話しながら奪ったのだ。 「二度と姿を見せないでね？まあ、もう動くことは不可能だけど」 主様はそう言うと発砲し、そのまま強靭と呼ばれた花陰の容姿の少女を投げる。口に銃口を入れていただけあり、大量に血を吐き出したが主様が勢いを調節したせいでまだ生きている。苦しそうに顔を顰める少女に浮雲は笑いかける。 「惨めですね。結局こうやって殺される。まあ、自業自得ですけど。楽に死ねると思うなよ？二度と。来世もその先もいつまでも二度と関わらないようにするために存分に痛めつけてから殺して差し上げましょう」 そう言うと浮雲は何か紐らしき物を解き放ち手でその紐を操る。ほとんど手は動いてないのに生き物のように動く紐。よほど特訓しないとできないことだろう。浮雲はそれを少女に向かって軽く動かす。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ！！！！」 少女は軽く悲鳴を上げる。少女の腕がとんだ。紐が少女の腕を切り離したのだ。 「主様の屋敷が其方の地で汚れるとなんか汚いですね」 浮雲はそう言いながらも少女を切った紐を振り回す。それはそれは楽しそうに。化け物だ。きっと部屋にいた位持ちは全員そう判断しただろう。主様しか知らない浮雲の素顔。それを部屋にいる4人の位持ちは間近で見ていた。 「浮雲。一回やめなさい」 主様の声がかかると浮雲はスッと紐をどこかにしまう。4人の位持ちは少しだけ安心していた。すごく怖かったのだ。浮雲が。 「まさか、私に楽しそうな獲物を残さないなんてつもりはないだろう？」 主様はそう呟く。4人は絶句した。主様の楽しそうな声で言う恐ろしい言葉に。主様のその言葉を合図に浮雲は呆然とした顔で様子を眺めている位持ちを全員部屋の外に連れ出す。見せるにはまだ早い。そう感じたからだ。部屋の外に出された4人は浮雲を睨みつける。 「なんですか⁉︎あれ」 最初に悲鳴のような声を上げたのは雲珠だった。それに続き全員が色々言い始める。 「浮雲普通に鳥肌たちます」と氷夜。 「俺様ちょっと具合悪いですね…」と黒雪。 「まさか、浮雲がここまでやるとは」と青空。 それぞれが色々な反応を見せる中、浮雲は楽しそうに笑う。 「許せなかったんだよ。主様を騙し、私たちを騙し、花陰に変装したクズを」 その言葉に浮雲以外の4人は黙り込む。 『こいつに何言っても効かねえ』 そう感じたのだった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ 白雪&黒雪＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ --- 「申し訳ないね」 何をやったのかわからないが、部屋から出てきた主様はそう言うと軽く苦笑する。その言葉に4人の笑顔は固まる。 「いや。はい」と氷夜 「‥‥…」と黒雪 「あ………」と雲珠 「ハア」と青空 主様の闇を初めて見た4人は完全に恐怖を覚えていた。 「ああ。それとね。もう一個大切な連絡がある」 主様はそう言うと固まっている4人を見てから、1人立って様子を伺っていた浮雲も軽く見つめる。 「花陰が、この街にいることは確かだ。私が花陰を見間違えるはずがない」 主様はそう言うと軽く微笑む。 「容姿をかなり変えていた。雰囲気だけは花陰だが他のところだけ見るとまるで別人。私たちに会いたくないのかもしれないし、今のところは放ってほこうと思う」 主様の説明に5人は頷く。 「さて。そしたらちょっと。黒雪。手を一応見せてよ。切られたんだよね？」 主様はそう言うと黒雪の手を軽く引っ張る。その言葉を聞いて切られたことを知らなかった3人は驚いた顔になる。 「黒雪…？よほど手を抜かないとやられいと思うんだけど」と雲珠 「アホですね」と氷夜 「馬鹿者」と青空 「ハアア‼︎？俺様、こないだ浮雲にも言われたんですけど、全く持って馬鹿じゃないですよ‼︎」 その黒雪の発言を聞いて、全員が遠い目で黒雪を見つめる。 「ふざけんな‼︎」 黒雪がその様子に気づき声を上げるが全員呆れた顔をするだけ。ましてや主様なんかは立ち上がり、浮雲と一緒に部屋を出て行く。 「え…ちょ2人とも逃げるとかずる」 ぼそっと雲珠が呟き立ちあがろうとしたら黒雪に止められる。 「罰として、俺様の遊び相手してくださいね‼︎」 顔を引き攣らせる雲珠に楽しそうな黒雪。 黒雪。それは位持ちの1番の問題児だった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ --- 「「さあ☆｜色龍弥《しきりゅうや》潰しの時間だよ☆」」 ハイテンションで笑顔で呟く二人組。つぶやいた名前の《《色龍弥》》 色龍弥こそが、主様を中心として動いている裏社会のトップマフィアだった。 二人組は笑顔で会話する。 「｜恋歌《れんか》☆貴方は誰を潰したい☆？」「｜蓮香《れんか》☆貴方は誰を潰したい☆？」 「私はまずは｜黒雪《こくせつ》だよ☆」「私もまずは黒雪だよ☆」 「「同じだね☆なら一気に潰しに行こうぜ☆」」 ｜恋歌《れんか》と｜蓮香《れんか》。ショートカットの女子が2人。声も容姿もそっくりな双子だった。そして、色龍弥と敵対するマフィア｜赤同樣《せきどうよう》の3段位だった。 「そうそう恋歌聞いてよ☆」「何何☆？どうしたの☆？」 「こないだ4段位の｜強靭《きょうじん》が殺されたんだって☆」「アハハ☆あの雑魚が☆？」 「あんなのがなんで位持ち☆？」「あんなのが位持ちの必要なかった☆」 「「死んでよかった☆お見事です☆」」 綺麗に重なる声。リズミカルな会話。その内容は残酷な物。これがこの2人の特徴だった。 「「はい☆位持ち発見☆」」 2人は同じタイミングにそう呟くと下へ降り立つ。 「「はじめまして☆｜雲珠《うず》☆お1人なんて珍しいね☆僕らからしたら幸運☆」」 2人の双子はとある青年の前に降り立つ。少し長めの緑色の髪、垂れ目でも吊り目でもなく並行な目で神秘的な雰囲気の青年。雲珠だった。 「情報が漏れてるとは聞いたけど＿＿＿予想以上だねぇ」 こんな状態でものんびりと話す雲珠に双子は苛立ちを隠せない。 「「うざいので☆消えてください☆」」 左右に分かれ攻撃を仕掛ける双子を雲珠は目で捉えると微笑む。 「弱い。弱い。これだから位が低い余所者は困るね」 攻撃がきた瞬間に真上に飛び双子を衝突させる。 「弱いね。もしかして4段位？それとも位無しかな？」 「「お前☆ふざけんな☆」」 雲珠の挑発に双子はキレるが雲珠はもういない。逃げられた。双子はそう悟い歩き出す。 「あの男気に入らない☆」「気に入らない☆」 「やめようぜ☆」「変えようぜ☆」 「「最初に潰すのはあの男☆」」 双子の標的が黒雪から雲珠に変わる。同時刻、様々な場所で歯車が回り出していた。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- 「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」 夜、誰かの明るい声が聞こえる。 「うん。神様は｜菊家《きくいえ》ちゃんを選ぶんだね。そしたら僕は神様が選ばなかった方にしよ〜。ふふっ。楽しみにしててね｜紗英《さえ》ちゃん。沢山可愛がってあげるから〜」 1人の青年が笑顔でそう言う。手に握られているのは紗英の写真。と菊家の写真。 綺麗な水色の髪の毛を綺麗にセットしており、女子に好かれそうな甘いマスクの青年。｜赤同樣《せきどうよう》の2段位の1人。｜水刃《すいじん》だった。 「可愛い子は虐めたくなるからね〜」 水刃はそう言うと楽しそうに歩き始める。 「さて、ターゲット発見」 水刃はそう呟くと一瞬で移動する。 「っ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 攻撃が仕掛けられた瞬間に少女＿＿＿紗英は反応し避ける。 「ふふっ。やっぱり良い反応してるね〜。絶対本気を出せばもっと上の位を目指せると思うのに。本気出さないのなんでだろうね〜。紗英ちゃん折角だし、楽しもうね」 水刃はそう言うと楽しそうに微笑む。 「すぐに虜にしてあげる」 そう呟くと紗英との距離を一瞬にして縮める。 「貴方、どちら様ですか♪」 紗英は避けながら笑顔を浮かべる。 「可愛い子の質問だから答えてあげようかな〜。ああけど。紗英ちゃんが負けたら教えてあげるよ」 簡単に情報は与えない。2段位なだけありそれはしっかりと心得ている水刃に紗英は軽く舌打ちをする。 「わあ舌打ちか〜。いいね。ギャップ萌えってやつかな〜？」 楽しそうに攻撃を仕掛けてくる水刃は1ミリもスピードを変えない。恐ろしいほどの体力を持っているのだろう。 『このまま戦えば負ける。体力的に』 そう感じた紗英は一度攻撃を普段と違う避け方をしてから水刃と距離を取りそのまま走って逃げる。 「逃げる〜？いい選択肢いい選択肢。楽しくなりそう〜」 紗英と水刃の鬼ごっこが始まった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- 「是＿＿＿｜青空《せいくう》、久しぶりだな」 とある青年は、夜空のような髪に仮面を顔につけている青年＿＿＿青空に声をかける。 「｜空宮《くうきゅう》か＿＿＿＿＿＿」 青空は面倒くさそうに空宮という青年を睨みつける。 空宮。｜赤同樣《せきどうよう》の1段位の1人だった。細すぎる体に気持ち悪い義肢を3本腕につけているせいで腕が大量にある。そんな青年だった。 「1段位の割に青空、お前は弱すぎる。そろそろ引退したらどうだ」 空宮にそんなことを言われるが青空はお構いなしに歩き出す。 「無視か＿＿＿＿＿＿」 空宮は少し苛立ちを隠せない声で言った。 「何が紫雲様の右腕だ。弱すぎて紫雲様が可哀想だ」 空宮はそのあとすぐに口を開く。 「ああ。紫雲様の目が節穴なのか」 全て無視していた青空だが、最後の言葉だけは無視しない。 「主様を侮辱したやつは万死に値する」 ぼそっと呟く。 「どうせ主様と戦ったら手も足も出ないやつが偉そうに主様を見下すな」 青空はそう言うと容赦なく発砲する。空宮の髪の毛に掠ったのか、少し髪の毛がパラパラと落ちていく。 「紫雲様は確かに強いと聞く。だが、戦ったらことのない俺は詳しくはしらん」 空宮はそう言うと青空に攻撃を仕掛けていく。 「ほら、動きが遅いぞ青空。これだから紫雲様の目が節穴だと思ってしまうんだ」 空宮の挑発を青空は冷静に聞き流す。 「お前ら赤同樣の目的はなんなんだ?」 青空のその問いに空宮は答える。 「いいぞ。教えてやろう。どうせこの情報は漏れたところで何も変わらん。紫雲様を我が赤同樣のボスにすることだ」 空宮はそう一気に話すとまた攻撃を始める。 「赤同樣のボスだと？一生敵わない夢だな」 青空と空宮の戦いが始まる。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- 「………………………」 1人の青年はとある少女を投げ捨てる。 「うっ」 その少女、きらは呻き声を出してそのまま崩れ落ちる。その隣には既に菊家も倒れていた。 「すごいね。君。｜栾華《らんか》と言ったかな？仲間がやられているのに全く動揺しない。すごい精神してるんだね」 その青年はきらと菊家を軽く見てから前にいる栾華に声をかける。 「あなたは一体、どちら様ですか？」 栾華は冷静さを保った声で青年にそう聞く。 「ん？僕？ああそうか。自己紹介してなかったね」 青年はそう言うと栾華に向き合う。綺麗なオレンジ色の瞳に紺色の髪。顔が整っており、優しいイケメンの青年だった。 「はじめまして栾華。｜紺秀《こんしゅう》と言います。絶対に記憶に刻んでおいてくださいね」 紺秀はそう言うとふんわり微笑む。 紺秀 ｜赤同樣《せきどうよう》の1段位の1人だった。 「まさかね、僕は浮雲くんに会ってみたかったのに君たちと遭遇するとはね。幸運かな？折角の機会だし、全員潰してから浮雲くんと遊ぼうかな」 紺秀はそう言うと微笑む。 赤同樣の1段位は着々と｜色龍弥《しきりゅうや》を潰そうと動き出す。その1段位の1人、紺秀は＿＿＿＿＿＿ 赤同樣No. 1の実力の持ち主だった。 どうやっても栾華が勝てるはずがない。菊家もきらも瞬殺だった。栾華はそう判断するが、逃げる隙も無さそうだった。まずいと思いながらも何もできない栾華に紺秀が容赦するわけない。紺秀は楽しそうに栾華に近づく。 「最後の最後まで、君の頭に残るのは僕が与えた恐怖でありますように」 そう恐ろしいことを呟くと拳銃を取り出し栾華に発砲する。 「ほらほら。避けてないで攻撃しないと負けちゃうよ？」 紺秀は栾華をそう挑発する。 「あ、もう無理だね」 紺秀はそう言うと栾華を思いっきり地面に叩きつけるように押し倒す。 「弱かったなぁ。位持ちのわりには」 紺秀はそう言うと引き金に手をかける。 「はい。バイバ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿⁉︎」 紺秀の言葉が途中で切れ、急に遠くへ一時避難する。 「申し訳ない。ゴミかと思って潰そうと思った」 臙脂色の髪に口元を布で覆っており、和服を着ている青年、浮雲がそこに立っていた。 「紺秀殿は赤同樣のNo. 1だったかな？なんか呼ばれた気がしてやってきたのだが」 浮雲はそう言うと楽しそうに微笑む。 「久しぶりだね。｜橙香《だいこう》」 そう聞きなれない名前を呼ぶのだった。橙香。それは紺秀の過去の名前だった。 「そちらこそ。久しぶりだね。｜悠空《ゆうくう》」 聞きなれない名前を呼ぶ2人。昔に少し関わりがあった2人が、各グループのNo. 1が遭遇した瞬間だった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- 「うざいからとっとと｜雲珠《うず》を殺しましょうよ☆」「殺しましょうよ☆」 「さっさと消して☆」「さっさと潰して☆」 「「僕たちの時代を始めよう☆」」 双子の少女はそう呟く。 「「雲珠を探して殺せ☆」」 双子が口をそろえて言う。｜恋歌《れんか》と｜蓮香《れんか》。2人は消えた雲珠を探す。 「どこにいる？☆」「どこに逃げた？☆」 「逃げるなんて弱虫な☆」「逃げるなんてクズすぎる☆」 「見つけ出して☆」「見つけ出して☆」 「痛めつけて差し上げよう☆」 探すのに時間がかかればかかるほど恋歌と蓮香は苛々してくる。 「ずっと近くにいたんだけどなあ」 突然聞こえる人の声に双子は一斉に振り返る。雲珠がいた。普通に立っている。 「やっぱり君たち弱いね。3段位なんだって？弱すぎるね。そんなのが3段位なのかぁ。がっかりだなぁ」 雲珠はそう言うと懐から拳銃を取り出す。 「手加減してあげるよ」 雲珠はそう言うと拳銃を、恋歌と蓮香の方に投げ捨てた。何も使わずに戦うつもりだ。恋歌と蓮香は雲珠のその余裕そうな態度にどんどんイライラしていく。 「「お前☆やっぱり許さない☆」」 「ハハッ。死を覚悟しろよ」 雲珠の口調が変わり目つきが変わる。スッと鋭くなり楽しそうに笑う。 「「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿⁉︎☆」」 双子が一気に動きを止める。いや。動けないのだ。空間が歪むような感覚になる。目の前にいるはずの雲珠でさえはっきり見えない。 「ちょっとした心理誘導だよ。まさか、こんなに簡単に引っかかるとはねぇ」 雲珠はそう言うと容赦なく双子に蹴りを入れる。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ」 痛そうな悲鳴が飛ぶがお構いなしに雲珠は暴力を平然と振るう。 「全ての情報を吐け。そうすれば、命だけは助けてあげるよ＿＿＿？」 雲珠のその脅しに双子は答えざるを得なかった。 ＿＿＿＿＿＿＿＿ 「＿＿＿＿＿＿。何をやったんですか」 双子の少女をボーッと眺めている雲珠にいつからかいた氷夜が喋りかける。 「ん？ああ。なんか弱かったなぁって。つい殺しちゃったじゃないか。命は助けると言っちゃったのに」 その言葉を聞いて氷夜は確信する。『こいつ、絶対元から殺す気だった』と。 「ま。情報は十分に引き出したよ〜」 のんびり呟く雲珠に氷夜は呆れ返る。 「とりあえず主様に報告しましょう」 氷夜はそう言ってUターンすると歩き出す。何か、少し楽しそうに＿＿＿

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- 「そんなものか」 浮雲は冷たく言い放ち紺秀を蹴り飛ばす。 「弱くなったな。橙香」 浮雲はそう言うと近くに倒れている菊家ときらを連れて去っていく。2チームのNo. 1が競い合った結果、浮雲の圧勝だった。いや。どっちがどれだけ本気を出しているのかわからないためなんとも言えないが、浮雲からみた紺秀は本気を出していなかった。浮雲自身も本気は出していない。本気を出したらどっちが勝つのか。それはまだ誰にも分からない 「主様、こちら浮雲です。菊家ときらが意識不明の状態です。また、栾華は先に逃したため、そろそろそちらに着くかと思います」 浮雲は通信機を使って主様にそう連絡を入れる。 【ああ、浮雲。ちょっと紗英の方に回ってくれないか？菊家ときらはその場に置いて行っていい。すぐに雲珠たちを向かわせる。紗英からSOSが来てから連絡が取れない。最後、居場所を確認できた場所に行って、そこから紗英を探してくれ】 主様はそう言うと通信機を切る。意識不明者をその場に置いてけとはかなり鬼畜だ。しかし、浮雲がそれっぽっちに躊躇うわけがない。主様に命令された。その時点で浮雲は自分の体が八つ裂きになろうと、主様以外の誰が死のうと関係なしに動く。浮雲は菊家ときらをその場に置くと住宅街の屋根の上に登る。 「そこか…」 ぼそっと呟くととある方面に向かい走り出す。物音ひとつ立てずに。浮雲はとある所まで行くとそこにいる青年に向かって発砲する。 「なっっ⁉︎」 その男はぎりぎり避けたが浮雲の方に向き直る。その青年こと、｜水刃《すいじん》は一瞬は取り乱したものの、すぐに元通りになる。 「あ〜浮雲さんですか〜。望んでないのですがね〜」 水刃は押さえつけていた紗英から手を離すと微笑む。 「男は嫌いなんです」 そう言った瞬間に容赦なく浮雲に仕掛けてくる。浮雲は怠そうな瞳を水刃に向けると呟く。 「申し訳ないが、戦う気はない」 浮雲はそう言うと攻撃を避けながら紗英を拾ってそのまま水刃と距離を置く。 「戦いはまた今度。時間があるときに」 浮雲はそう言うとまるで瞬間移動したかのようにその場から姿を消す。 「裏切り者には素晴らしい罰を＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 ぼそっと呟く浮雲のその言葉を聞いたものは誰一人としていなかった。

この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ ​ ｜白雪《はくせつ》&｜黒雪《こくせつ》＿＿＿ ​ 本物はどっち＿＿＿＿＿＿？ ​ ​ ​ --- とある所で｜黒雪《こくせつ》は呆然と立ち尽くす。目の前に広がるのは、大量の死体。血塗れの死体があたり一面に広がっている。その真ん中には1人の少女が立っていた。｜白雪《はくせつ》。そっくりな容姿の2人は睨み合う。 「なんでお前がここにいるんですかね‼︎」 黒雪は明るい声で白雪に問いかける。白雪はその問いには答えず、別の言葉を呟いた。 「今日、お前を殺す」 白雪はそう言うと黒雪に一気に近づいた。 「黒雪、お前は偽物なんだ。自分本物。お前には何の未来もない。何の楽しみもない。そんな奴が、本物のわけがないだろ」 白雪は吐き捨てるようにそう言う。黒雪は、どんどん思考がぐしゃぐしゃになる。 『俺様は＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿偽物＿＿＿？』 『主様に、嫌われる＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿？』 「違う‼︎違う違う違う違う違う違う違う違う」 何かに取り憑かれたかのように黒雪は怒鳴る。 「俺様は‼︎正真正銘の本物だ」 焦ったような黒雪の声に白雪は追い討ちをかける。 「何を根拠にそんなこと言ってるんですかね？お前が偽物なのは確定しているのに」 『主様にだけは、嫌われたくない＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎』 黒雪のその思いが黒雪を焦らせる。 【辛い時は笑え、君は強いから。俺が守らなくても生きていけるように、頑張れ。たとえ今後何があっても、君だけは生きていて。君が＿＿＿本物だから。わかった？＿҈̲̖̰̳̙̜̘̮̗̟͍̭̜̦̝̟̙̮͇̀͗̍͌̒̑̑̍̽͑̒̏͊̑͛͛͛̾͒̀＿̴̤͚̞͚̤̣̞̰̩̘̮̪̫̪̥͎̟͇̬̮̜̥͔̂̄͛͒̿̓̐͗̓̍̿̉ͅ＿̶̯͍̟̫̖̠̞͚̭̬̪̙̑͂̀͒̇̎͐̽̉̀̽̇̇̄̏̎͑】 黒雪の頭に誰かの声が響き渡る。誰の声かは黒雪にもわからなかった。最後、自分の本名を言われた気がしたがわからない。ただ、黒雪が１つ言えたことは、 「兄さんが＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪はぼそっと呟く。白雪の顔が歪む。 「お前に兄さんなんていないだろう‼︎」 白雪は知らない。黒雪にいつも笑いかけてくれてた存在を。 「お前が兄さんを知らないのが何よりの証拠‼︎本物なら自分の家族ぐらい、知ってるだろ‼︎」 黒雪は怒鳴ると白雪が呆然としている間に発砲する。白雪は勿論、一瞬の出来事に避けることができなかった。 「主様が仰った。偽物は世界を混沌に誘う悪魔だと。お前がその悪魔だよ」 黒雪はそう呟くと白雪の心臓におもいっきりナイフを突き刺す。躊躇いもなく。その瞬間、白雪がボロボロと、腐れ落ちていくかのように消えていく。偽物が、消えるサインだった。 「終わった＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」 まだ幼い、少女は1人闇の中立っている。 「よかった＿＿＿＿＿＿＿＿＿俺様が本物だった」 この世界に存在する黒と白。 ​ それは誰もが持っている。闇と光で作られている。 ​ そして、世の中では稀に、その白と黒が＿＿＿ ​ ドッペルゲンガーの様に、同じような人間を白と黒で作り出すのだ。 ​ そして、偽物の黒が消えるとき、その体はボロボロと崩れ落ちていく。 本物が残ったら＿＿＿ それはそれはめでたいことだ＿＿＿ 昔から言い伝えられているこの言葉。黒雪は改めてそれを理解する。 「勝った＿＿＿勝ったよ兄さん＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 黒雪の泣き声のような、悲鳴のような声は、闇の中に消えていく。黒雪の珍しいその姿を、主様と浮雲は呆然と眺めていた。

「死って美しいよね。…̷͔̘̭͔̩̪̰̰̩̭̰̠̭͚̤̤̘́̏͗̿̔̿͌̈̾̏̌̈́̈͛̍͐̃̔̓̔̚ͅ…̷̟̬̝̖̬̝̣͙͇͇̗̜͕̦̣̙̮͔̫̫̿̂̿͐̄̊̏͒͑́̾͐̂͗̄̓̀…̸͓̗͇̩̲̠͚̩̖̝̰̮͎̟̭̲͍̣͆̍̀̋̽̽̂̓̑́͂͊̽͂̊くん」 紫のサラサラな髪の少年は隣にいる臙脂色の髪の少年に話しかける。 「だよね。やっぱ死は美しいよ。＿̵̝̙̯̥̞͖̳̘̱͈̠̤̰͎̥̥̜̽̂̈̐͒̈́̋͆͒͊͒̏̽̆̃͐＿̷̞̪͈̦̯̬̭̜̤̠̘̦͙̙̫̠̝̲͇͉̌̑̑̒̒̆̇͋̒̍̑̆̎́̈́̄ͅ＿̸̟͔̤̫̲̬͍͙͓͚̯̬̥̲͍͕̟͒͋͒̐̈̆̽̆̄̌̅̚くん」 2人の少年は一緒に笑う。 --- 「「いつか一緒に楽しい闇を奏でよう」」 --- 狂っている少年たちだった。年はまだ小学生中学年くらいだろう。 この2人こそが＿＿＿＿＿＿ 今の｜紫雲《しうん》と｜浮雲《うきぐも》である。 --- 「浮雲、どうしたんだい？」 ｜黒雪《こくせつ》を見つめながらボーっとしていた浮雲に主様は声をかける。 「いえなんでも。少々、昔を思い出しまして」 浮雲は軽く笑うと顔を伏せる。 「主様は可愛かったな」 浮雲のその言葉を主様が聞き逃すわけがない。少し顔を傾けると軽く浮雲の頭にチョップをいれる。 「妙なことをほざくな」 そんな主様を浮雲は堂々と無視する。主様相手にこの態度が取れるのは浮雲くらいだろう。 「黒雪が倒れましたよ」 浮雲がそう言ったと思うと、黒雪はその場に倒れ伏せている。 「きっと、疲れたんだろうね」 「相変わらず、世話が焼ける」 呟く2人はなんだかんだ言ったも黒雪を助けにいく。完全にすやすや眠っている黒雪だった。 「さて。そろそろ｜青空《せいくう》を助けに行こうか」 主様は黒雪をとりあえず黒雪の自宅に送るとそう呟く。 --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす ---

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「ガチでありえない…!!」 とある少女はボソッと呟く。 「完璧だと思ってたのに」 その少女に付けられているのは鎖。それがしっかりと繋がれている。 「失礼」 誰かの声が聞こえ顔をあげる。そこには少年が一人立っていた。 「浮雲さん＿＿＿？」 そこにいるのは確かに浮雲だった。しかし、いつもの容姿とは異なり、高級そうなスーツを身につけている。 「浮雲さん!!助けてください…!!私は、何もしてないのに…」 そう呟く少女に浮雲は顔を顰める。 「何馬鹿なことをほざいているんだい？きら…」 その少女、きらは悔しそうに顔を顰める。 「自分がしたこと、わかってないのかい？」 浮雲はすごく優しくそう問いかける。なにも答えないきらに浮雲はきらと目線を合わせるようにしゃがみ込む。 「俺は、物わかりが悪い子は嫌いだな」 そう笑顔で呟く浮雲にきらは鳥肌が立つ。 「え…？」 突然、きらの口から声が漏れた。自分の目に入ってきた光景に絶句した。一面に広がる血。足下に落ちている血まみれの手。それが自分の手だとわかるのにそんなに時間はかからなかった。少ししてこら急に痛みがやってくる。 「浮雲さん…!!お願いです!!許してください!!もうしませんから!!お願いですから…!!」 きらはまっ青になった顔で浮雲にそう言う。浮雲はそんなきらを見ると優しく微笑んだ。 「じゃあ、全て教えてよ。《《本当の裏切物》》はだれだい？」 「え…？」 きらの顔が固まる。 「君と協力している本当の裏切物はだれだい？」 浮雲はもう一度力強くそう言うと、きらの顔を見つめる。 「言えないのなら、さようなら」 浮雲が笑顔を浮かべた瞬間、血吹雪が飛ぶ。指も、腕も、足も、全てが粉々になって飛び散った。その場にある粉々な身体がきらのものだとわかる人はきっと＿＿＿＿＿ 存在しないだろう＿＿＿＿＿

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「浮雲、片付けは終わったかい？」 戻ってきた浮雲に主様は声をかける。 「えぇ。終わりましたよ。とても楽しかったです」 そう言って微笑む浮雲は軽く血がついた手袋を主様に渡す。 「プレゼントです」 「誰がいるか」 主様はもらった瞬間に浮雲に返す。その手袋に付いている血はきらのだろうと、主様はすぐに察した。平然とした顔で、恐ろしいことをするものだ。 「何か、言いたそうな顔ですね？」 浮雲が主様の顔を見て首を傾げる。なんでもないと主様は言い、そのことを考えるのはやめた。浮雲は普段とは違う服装をなぜか今日は身につけていた。高級そうなスーツ、いやタキシードを身につけており、いつものような和服に口元を布で巻いている不気味な姿とはかけ離れていた。ちなみに主様も同じ服装を身につけている。少し色合いが違うが、同じブランドなのは確かだろう。そして主様は＿＿＿珍しく仮面を外していた。こうやって浮雲と主様が並ぶとかなり容姿が似ている。顔立ち、瞳の形、雰囲気。着ている服が同じせいかもしれないが、双子にも見えなくはなかった。 「そろそろ行きますか」 浮雲はそう呟くとパチンと指を鳴らす。 「ただいまお車をお出しします。悠様、琇様」 音が聞こえてやってきた使用人はそう言った。悠様と琇様。それが主様と浮雲の本名なのか。それは誰にもわからない。 「今回の出演者は？」 「既にまとめてあります」 「到着までに何分かかる？」 「おおよそ30分程度です」 車を運転している使用人は主様と浮雲の問いにスラスラと答えていく。主様と浮雲は使用人に渡された出演者の一覧を眺める。 「この女には何を言われても無視してくれ」 「こいつは危険です。近づかないでください」 そして次々と要注意人物を述べていく。 「到着いたしました」 しばらくしてから使用人の声が響く。でかいお城のような建物の前に主様と浮雲は立つ。 「悠、行こうか」 「琇、了解です」 優しい微笑みを浮かべて入っていく二人に使用人は毎回思う。 「私のご主人様は…少々不気味ですな」 まさかこの二人が裏社会のトップだとは、表向きでは誰も知らないだろう。 夕晴財閥御曹司、夕晴悠と夕晴琇。エリートな二人の本当の正体を、まだ誰も知らない。 「琇様‼︎悠様‼︎最近見かけなかったので心配したのですよ？私もうお二人と沢山会話したくてしたくて…」 「琇様、悠様。私とよければお話しをしてくださいませんか？」 「夕晴財閥のおふたがた。よければ我が娘と…」 「いえ‼︎わたしの娘と‼︎」 二人が会場に入るとすぐに人が集まってくる。 「本日はそのような理由で出席しているわけではございませんので」 「お引き取りくださいな」 そう言って人だかりを掻き分けて二人は会場の真ん中に進む。そして1人の少女の元に向かう。 「「花陰、進み具合は？」」 「順調です」 すれ違い様に小声で会話をする。昔の容姿とは大きく異なるが綺麗な顔立ち。長くふんわりとカールした髪を編み込みハーフアップにしている美しい少女。花陰。裏でコソコソと罠をかける恐ろしい3人を、止められる者はもう誰もいない。裏切り者が助かる術はもう何一つ、残っていないだろう。

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「いつ見ても素敵よね。悠様と琇様」 会場の色々な所で女子のそのような会話が聞こえてくる。視線の先にいるのは浮雲と主様。 夕晴琇こと主様と、夕晴悠こと浮雲。 2人は笑顔で話しかけてきた人全員と会話する。 「あぁ、そう言えば。君のお父さん悪事をしているんだってね？」 話しかけてきた1人の女性に主様はよく通る綺麗な声でそう話す。会場全体にその声がひびいた。参加者が全員、主様と浮雲、そして1人の女性の方に注目する。 「あ、あの、いや、琇様は一体何を言ってるのですか？」 女性が震えた声でそう問いかける。そこに1人の男性がかけてきた。 「我が娘の言う通りですよ琇様‼︎私は何の悪事もしていません‼︎」 その男性はそう言うと作り笑いだとバレバレな笑顔を貼り付ける。 「参加者の皆さんも困惑しているでしょう？我が如月家がそのようなこと、するはずないのです‼︎」 そう言う男性に主様を興味のかけらもない。 「悠、あれを」 そして隣に控えていた浮雲に片手を上げて指示を出す。 「如月さん、プレゼントです」 浮雲はそう言うとどこからか取り出した大量の紙束を男性の頭に彫り投げる。そこに書かれているのは、様々な悪事と、それを証明する写真。その中の一枚が目に入った他の参加者は叫ぶ。 「おい‼︎こいつ最低だ‼︎夕晴財閥の財産を奪おうとしてやがる‼︎」 一度火がついたら止まらない。至る所から最低だという声が飛んでくる。警察が如月家の2人を連れ出していく姿を見て陰から見守っていた花陰は呟く。 「相変わらず、お人が悪いなぁ…」 「「皆様、お騒がせしました。この後の時間も楽しみましょう」」 ふんわりと微笑む主様と浮雲に、一気に周りの空気は緩む。1人の少女、花陰だけは珍しく鋭い瞳で周りを見つめていた。 「「お疲れ様」」 夜、いや。早朝に、主様と浮雲は花陰にそう声をかける。いつもの主様の屋敷。いつも位持ちが集合する部屋に、主様と浮雲と花陰の3人が座っている。 「何か聞きたいことがあるんだっけ？」 主様はそう花陰に声をかける。花陰は少し目を閉じてから主様と浮雲をじっくり見つめて呟く。 「ずっと、思っていたことなのですが、黒雪って、女装男子ですか？」 「ｺﾞﾎｯ」 「ﾝﾝｯ」 主様と浮雲が同時にむせる。 「笑わないでください。至って真面目です。本気です」 花陰のその言葉に主様は軽く微笑むと言った。 「黒雪はそうだね。うん。男子だよ」 花陰は主様をしばらく見つめてからわかりましたとだけ言って部屋を退出する。きっとあれ以上は何も教えるつもりはないだろう、と感じたからだ。 --- 2人きりになった部屋で主様は立ち上がる。 「ねぇ、悠。この選択肢は正しいのかな」 珍しく弱音を吐く主様に浮雲は呆然と目を開く。 「何を、今更。これしか煌にやってあげられることはない」 そう呟く浮雲にはどこか切なさを感じる。 煌 それが2人の人格を作り出す1人の青年の名前だった

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「ｶﾞﾊｯ」 「ｳｯ」 「ｱ゛」 「おね…お願いしま…す…助け…」 大量に倒れている見方の前で助けを求める男性を容赦なく蹴り上げる。 「あれぇ？君たちって私に何か頼める立場だったっけ？」 そう言うとボロボロの男の髪を無理やり引っ張る。 「可哀想に」 「お゛お願いです…紫雲様‼︎」 紫雲こと主様に助けを求めているのは赤同樣のNo. 1の青年だった。主様は興味なそさうに懐から拳銃を取り出す。 「はい。バイバイ」 その場にいた全員を撃ち殺す。それも笑顔で。 「さて、これで赤同樣の位持ちは全員潰した。後は」 「裏切り者を排するのみですね」 主様の声を遮るようにずっと後ろから見守っていた浮雲は楽しそうに笑う。 「流石浮雲。よくわかってるね」 主様は笑顔で呟く。 「さて、どう始末しようか。醜い醜い裏切り者の菊家ちゃんを」 きらは菊家を支えていただけ。本当の裏切り者の名前。それは＿＿＿ 菊家だった。 「「さあ、裏切り者を始末しよう」」 2人のドス黒い声が被さる。そう。全ては、煌のために。 --- 「クソッ…見つかった。バレた。バレたバレたバレた。絶対にバレた」 1人の少女はまるで呪われた様にそう呻く。気が強そうな吊り目に黄色い神の少女、菊家。彼女はただひたすら主様の屋敷から遠く離れた土地に移動する。裏切り者だとバレた時点で、彼女の人生は終わったようなものだ。相手はあの“主様”。菊家がどんなに足掻いたって到底敵う相手ではない。それは確かなことだった。 「折角、あの醜い浮雲を殺せると思ったのに‼︎折角あの…っ⁉︎」 「僕が何ですかね」 急に飛んできた鉛をギリギリで避けた菊家に優しい微笑みを浮かべた浮雲が銃口を向ける。その雰囲気は、まるでいつもとは違うものだった。きっと、他の位持ちが見たらこの人物は浮雲に見えないだろう。そのくらい容姿も違うのだ。 「お前のせいでっ＿＿＿‼︎お前のせいで姉さんが＿＿＿」 菊家は叫び声のような、悲鳴のような声を上げる。浮雲はそれを憐れむような瞳で見つめていた。 「ごめんね〜菊家。いや＿＿＿垣野花瀬亜ちゃん」 浮雲はそう誰かのフルネームを口にする。それを聞いた菊家は顔を歪める。 「君のお姉さんね…あんなに口が回るクソ野郎は初めてだったな」 のんびりと口を開いた浮雲は少しずつ菊家との距離を縮めていく。 「あぁけど。殺すのは楽しかった」 「＿＿＿＿＿＿っ」 怒りに任せた菊家の攻撃を自然に回避した浮雲は笑顔で呟く。 「垣野花家は、夕晴財閥にとって邪魔でしかない。まさか僕が、君が瀬亜ちゃんだと気付いてないとでも思ってたかな？可哀想に…」 浮雲は引き金に手をかけると言った。 「僕はね、“彼”以外の人間は嫌いなんだ。彼を傷つけた君たち姉妹は到底許すつもりもない」 浮雲は何の躊躇いもなく菊家に発砲する。ただ、まだ菊家は生きている。浮雲がわざとそうしたのだ。 「あああああああああ…早く死にたい」 菊家を拘束した浮雲は1人真っ暗な夜空を見上げてそう呟く。いつもは綺麗にまとめてある臙脂色の少し長め髪はおろしてあり、結んでる時には見えない位置にあるオレンジ色のメッシュ。目の形は仮面を外した主様と全く同じ。普段は変装で隠している色々な部分。それを見て浮雲だと言い切れるのは過去に彼と会ったもののみ。どこかで接触した菊家と浮雲。だが、それを知る者はもういないも同然。主様と髪以外ほとんど同じ容姿の彼は自我を無くしたような瞳でまた呟いた。 「あぁ＿＿＿引退が遠ざかる」 彼が言う“引退”とは裏社会のことなのか。それ以外なのか。それは誰にもわからない。 浮雲は謎が深まるだけの人間だ。今更、彼を理解できる人など現れない。例え主様でも、それはとっくに諦めたことだった＿＿＿＿＿＿＿＿＿

【紗英、聞こえるか？雲珠と氷夜からSOSが出されている。〇〇町の◇◇だ。援助に行けるか？】 夜、1人家でのんびりしていた紗英に通信機からそう主様の声が飛んでくる。珍しい。紗英はそう感じた。雲珠も氷夜も2段位だ。紗英よりも、普通の常識よりも強い。そんな彼らが助けを求めるなど、相当大変なことだ。 「さて♪行きますか…」 主様からの連絡が入ってからまだ1分も経っていない内に紗英は外に出て目的地に急ぐ。建物の一角、主様に言われた場所まで来た紗英はその光景を見た瞬間、自分の目を疑う。腕が切断され、血まみれの状態で倒れている栾華。彼女を守るように地面に血まみれで倒れている編み込みハーフアップの美しい少女、紗英はその少女を見たのは初めてだが、話に聞いていた花陰だと察することはできた。そして、片目を失明しているかもしれないくらい血が垂れていて、片腕が切断されているのにも関わらず銃を'敵'に向ける氷夜。同じような状態の雲珠の切断された腕からは電線のようなものが火花を立てている。“義肢”そうすぐに察する。雲珠の右腕はいつも不思議だった。たまに人では不可能な動きもする。きっとそれは機械的に動かしていたのだろう。雲珠は大量に口から血を吐きながらも鋭い瞳で'敵'を捉えていた。 「浮雲さん＿＿＿＿＿＿？」 紗英はただ呆然と呟く。雲珠と氷夜が銃口をむけている先にいるのは浮雲だった。 「あぁ＿＿＿紗英。君も不合格だ。残念だよ」 と浮雲は意味のわからない言葉を呟く。 「雲珠、それ以上動くな＿＿＿君は義肢がないと生きていけない。昔とあるやつと戦った時の後遺症だ。義肢がない状態でそれ以上動くと、普通に死ぬ。氷夜も、今動くのをやめないと命に関わる。いい加減抵抗をやめたらどうだい＿＿＿？」 浮雲の宥めるようなその声に氷夜は口を開く。 「ふざけんな＿＿＿主様を信じていた俺が馬鹿だったというのか？」 その目には完全に殺意を感じる。紗英は、この状況を全く理解できていなかった。 「そんなことは言ってないだろう？其方等2人の忠誠心は素晴らしかった。だからこう言ってるんだ。花陰も、栾華も、紗英も捨てて、改めて主様のこちら側につかないか？＿＿＿と」 「さっきから浮雲さんは何を＿＿＿」 紗英は開いた口を途中で閉ざす。後ろから誰かに押さえつけられる。 「負けという概念は雲珠と氷夜には必要ない。このような屑は、即急に始末しておくから＿＿＿」 紗英を押さえつけた人物はそう呟く。水色にピンクのメッシュが入ったイケメンだった。紗英は初対面だが、雲珠と氷夜はその青年を見ると明らかに動揺している。きっと、接触したことがあるのだろう。 「螺翠＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 ボソッと呟いた雲珠の言葉を紗英はギリギリで拾うことが出来た。 『螺翠＿＿＿⁉︎螺翠は＿＿＿＿＿＿』 裏社会の人間なら誰でも知っているような名前だ。それは主様と同じくらい裏社会では有名な人物なのだ。 螺翠＿＿＿美しい容姿と恐ろしい実力でかつて裏社会の半分を潰した男 その恐ろしい男が今、自分を押さえつけている。そう思うだけで紗英は恐怖に飲み込まれる。 「あぁ螺翠くん、女の子には優しくしないと」 「ねえねえその女の子より僕の方がかわいいって‼︎」 「浮雲って名前＿＿＿良いね。可愛い。可愛い。流石俺の弟だね」 紗英の後ろで複数の青年の声が聞こえる。 「陽主、檸檬、孌朱お前等黙ってろ」 螺翠はそう言い放つと紗英に発砲する。 『なんで、裏社会のトップがこんなに＿＿＿＿＿＿＿＿＿』 紗英はその名前達を聞いてそう思うが、考える暇もなかった。頭が回らないのだ。 「なぜ、こんな小娘に紫雲達は同情しているんだい？」 まるで言いつけを守れない子供に言い聞かせるように朱色に黒のメッシュ、長い髪を三つ編みにしている青年が理解できないと言うように口を開く。浮雲は何も聞かなかったかのように完全にスルーする。 「雲珠、氷夜。お前等はもう眠れ。これ以上動かれるとこっちが迷惑だ」 黒髪長身の青年が雲珠と氷夜にそう言うと2人は糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちる。 「僥謳尓計画は失敗を受け入れない」 『僥謳尓計画＿＿＿？』 もう誰がその言葉を発したかのかもわからないような状態の紗英は最後にそれだけを確認する。最後の力を使って近くに落ちている自分の銃を拾い浮雲に銃口を向ける。引き金を引こうとした瞬間、浮雲が振り返りもせずに発砲する。銃が粉々に砕かれた。それを目にした紗英はもう諦めたのだ。恐怖などはもうなかった。湧き上がってくるものは“怒り”“憎しみ”それ等が一気に込み上げてくる中、視界が真っ暗になるのを自分でも理解したのだった。

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 『あぁ＿＿＿この天井＿＿＿＿＿＿何年ぶりだろ』 目が覚めた雲珠が最初に抱いた感情はそれだった。 「浮雲‼︎主様‼︎どういうことですか‼︎俺様の今までの行動は一体何の為に＿＿＿‼︎」 休むには不適切すぎる罵声が隣から飛んでくる。雲珠は隣を確認するまでもなかった。この騒がしさ、この話し方、この一人称。それだけで人物は限られる。黒雪だ。1人ギャーギャー叫んでいる。 「＿＿＿＿＿＿あのさ黒y」 「俺様‼︎浮雲のこと信じてたんですよ‼︎それなのに＿＿＿何ですかねこれ‼︎」 完全に困った顔をしている浮雲と主様。黒雪はそれをお構いなしに話し続ける。 「そんなやつ殺しちゃっても良いのに＿＿＿」 朱色の髪の青年がそう呟く。その瞬間、浮雲と主様の目に殺意がこもった。黒雪に向けてではなく、朱色の青年に向けての殺意が。 「＿＿＿冗談だよ」 朱色の髪の青年は軽く顔を引き攣らせながらそう呟く。雲珠はその場で思った。その殺意を自分が間近で受けたら間違いなく殺意だけで死ぬ＿＿＿と。 「とりあえず＿＿＿早く薬やっといて。耳が壊れる」 少し離れた所にいる螺翠がそう呟いた。 「浮雲‼︎話はまだ終わってな＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪が口を開けた時に無理矢理何かを口に入れる。一気に静かになったかと思うと、その場で崩れ落ちた。 「雲珠、氷夜。義肢の具合は大丈夫かい？」 クルッと方向転換をした浮雲はすぐに口を開いてそう問いかける。 「はぁ…まあ、多分？」 「＿＿＿義眼が見にくいですね」 雲珠の疑問系の文章に氷夜の苛立ちが隠せない文章。感情をそのまんま表に出している。 「義眼は諦めなよ。慣れれば平気になる」 朱色の髪の青年はそう言う。 雲珠はため息を吐くと、目の前にいる複数名の男子たちを睨みつける。 「なぜ、割れたはずのチームが元通りになってるのですか？それとも、最初からあの仲間割れは演技だったのですか？」 雲珠の問いに、雲珠と氷夜を囲むように立っている男たちは一斉に視線が鋭くなる。 「敵に、秘密を教えることは出来ないな雲珠、氷夜。お前たちで選べ。このまま死ぬか、あの時のように一緒に行動するか。つまり、主様を裏切るか、主様を信じるか＿＿＿だな」 螺翠の冷たい言葉に雲珠は軽く息を呑む。コイツらは、本気だ。自分よりも格上すぎる相手が沢山いるだけでなく怪我もしている。そんな状況で勝つのなど不可能だ。1分、生きられれば幸運だと言えるだろう。雲珠は目を閉じて、昔のことを思い返す。彼らと、目の前にいる複数の青年達と、一緒に過ごしていた日々のことを。 少し、昔の話をしよう。かれこれ6年前ほどの話だ。その時の裏社会には、恐れられている6人の人物がいた。 陽主＿＿＿ 黒髪黒目の青年。常時笑顔を絶やさず、女性には紳士的に対応する。と言い、女性に対しての攻撃は一瞬で痛みも感じられない速さで終わらせる。それほどの攻撃力を持っているとされていた。 檸檬＿＿＿ 幼い顔つきに黄色の髪の毛。可愛い少年を思わせる容姿。恐ろしい瞬発力と攻撃力を安易に使いこなし、まるで何かに取り憑かれたかのように楽しそうに笑いながら人を殺す“狂人”。 螺翠＿＿＿ 水色にピンクのメッシュという独特なイケメン。甘い笑顔を振り撒き男女問わず虜にし、徹底的に潰していく。任務の時以外は無表情も多いが、基本的には優しい笑顔を浮かべている青年。 孌朱＿＿＿ 朱色の長い髪を三つ編みしており、黒のメッシュが入っている青年。基本的に他人に興味は示さず、機嫌を損ねた瞬間に存在が抹消すると言われている。孌朱を見て生きて帰れた人はいないと言われていたほどだ。 悠餓＿＿＿ 臙脂色の髪にオレンジのメッシュの少しだけ長い髪の青年。恐ろしいほど整った容姿に優しい声。笑顔。そして、ただの紐のような物を自分の自由自在に操り人を殺す。 紫雲＿＿＿ 紫の髪に紫の瞳。顔には毎回違う仮面が付けられている。悠餓と双子と言われ、同じ時間帯の真反対の場所で、全く同じ殺し方をする。恐ろしいほどの実力。通称、裏社会のトップ。 この最強の6人が、6年前、裏社会の半分を抹消した。その際に、この6人と一緒に行動していたのが雲珠と氷夜。軽い任務を行いながら修行をしていたが、その存在を知るものは少なかった。 しかし、突然、裏社会ではあるニュースが流れる。 6人がいたチーム、通称「失楽園」＿＿＿ そのメンバーが紫雲を残し全滅した＿＿＿＿＿＿＿＿＿と。 理由は仲間割れ。紫雲が全員を殺し、1人だけ勝ち残った＿＿＿と。 しかし、6人以外で途中までの真実を知っている物がいた。雲珠と氷夜。 彼らは知っていたのだ。 悠餓は生きていて、浮雲として紫雲に付いていることを。 しかし言い換えればそれしか知らなかった。 このニュースが流れる前、確実に失楽園内で仲間割れが起きたのだ。紫雲と悠餓 対 残り4名。紫雲と悠餓からはこう伝えられていたのだ。 「あいつらはもう存在しない。新しい世界を作っていこう＿＿＿＿＿＿」と。 その後、紫雲は大量の人材を集めた。雲珠と氷夜をも抜かす最強の2人を。青空と黒雪。その2人も迎え入れ、気づけば紫雲は主様と呼ばれるようになる。 しかし、その時点で既に雲珠と氷夜は騙されていたのだ。 今、現在起こっている事実を受け入れ、2人は考える。 自分にとって1番良い選択肢を。 「「失楽園に付く」」 2人は力強くそう告げた。それを全員が満足そうに頷く。 「今回は、君たち2人も下っ端なんかじゃない。正真正銘の失楽園のメンバーだ」 陽主が告げるその言葉に雲珠と氷夜は安堵する。そして悟るのだ。 色龍弥は、すぐに潰れる＿＿＿＿＿＿と

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「さて…どうしたものか」 冷たい風が吹き付ける夜、不気味な仮面をつけ、長い青い髪を靡かせている青年、青空はため息混じりにそう呟く。 「主様と浮雲は、何をするつもりなのだ」 あの時の通信機が主様の命令を逆らった最初の出来事になった。 『普通、主様が雲珠と氷夜が困っている時に浮雲を呼ばないはずがない。そして、浮雲が叶いそうにもなかったら諦めるはずだ。あの命令は逆らって当然だ』 命令に反いた罪悪感を消すために彼はそう言い聞かせる。現状、彼は位持ち誰一人とも連絡が繋がらない状況だ。そして青空は考える。 『浮雲は主様との共犯者だろう。そして、雲珠と氷夜の生存は5割くらいだ。残りのメンバーは、死んだとみなすのが早いな』 青空が今いる場所、それは主様の屋敷の真反対とも言えるほど遠い場所。なるべく、主様との距離を取ることが生存への可能性と繋がる。そう考えたのだ。 「もともと、あの二人は怪しかった。予想以上に動き出すのが遅かったな。さて、どうしてくれようか」 青空の瞳には完全に殺意がこもっている。仲間を騙し、命を奪ったというだけで、彼の怒りのスイッチをいれたのだ。それは例え主様であろうとお構いなく殺意は向く。 『あの通信機にはGPSが仕込まれている。適当にそこら辺の鳥につけておいて正解だったかもな』 失楽園が何かを計画しているのと同時に、着実に青空も準備を進めていた。まずは自分が持っている通信機を全て道端にいる鳥に付ける。そうすることで、青空が移動しているように見せかけそこに足を向かわせ、その間に逃げるという作戦だ。 「どうせ、あの化け物のことだ。すぐに居場所が見つかるだろうな。それなら＿＿＿」 青空は手持ちのナイフで髪の毛を思いっきり切り落とす。そして髪の毛を染めた。主様に褒められた夜空のような綺麗な青い髪はもう存在しない。今の青空にとって、主様に褒められた髪の毛はお荷物でしかなかった。 「ハッハハハッハハハハハハハッアハハッハハハッ‼︎」 突然、青空が箍が外れてしまったような声をあげて笑い出す。主様に対する尊敬など、1ミリもなかった。だからと言って、憎しみが浮かび上がってくるわけでもない。青空に浮かび上がってくるのは、ただの笑いだった。 「ハハッ…浮雲も主様も潰す」 青空はそう呟くと歩き出す。彼が今まで押さえ込んでいた殺人欲がただただ湧き上がってくる。ここまで来た青空を、主様はみたことがないだろう。そして、青空の手には一枚の写真が握られていた。 「二度とお前と関わることはないと思っていたのにな＿＿＿。俺はお前と敵対するつもりはなかったのだ。だが＿＿＿こうなったら潰しに行こう」 青空は不気味な笑みを浮かべ呟く。グシャッという音が鳴り写真がグシャグシャに潰される 「陽主＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 青空の標的は陽主に定まる。過去に繋がりがある2人。複雑な関係性が予想外の事件を引き起こす時だってある。青空は今まで一度も人前でとったことのない仮面を外す。 「仮面も、長い髪もさらばだな＿＿＿」 自分の身を守るために最低限の安全確保はする。その上で青空は少しずつ動いていくのだ。いや、今はこう言うべきだろう。そう、静玖は動き出す。 青空という偽りの名を捨て、主様を捨て＿＿＿ 一人で着実に失楽園を潰しに動く。 ▼△▼ 『逃げろ＿＿＿＿＿＿〇〇‼︎お前は＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿』 『待って＿＿＿‼︎待ってよ兄さん‼︎悠兄さん‼︎琇兄さん‼︎』 『ごめ＿んな＿＿＿＿＿＿＿＿＿』 「兄さんっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 黒雪は叫び声のような悲鳴のような声をあげて起き上がる。伸ばした、行き場所のない手を呆然と見つめていた。 「なんだ＿＿＿今の夢」 そして黒雪はとある疑問にたどり着く。 『なぜ、自分は今女装をしているんだ＿＿＿＿＿＿？いや、何を言って＿＿＿俺様は元々女子で＿＿＿？』 黒雪は別に、性別に関する障害を持っているわけではなかった。ただ純粋に、気がついたら女子だったのだ。 『馬鹿すぎる＿＿』 黒雪自身も自分にため息を吐く、何をやっているのだ、自分は＿＿＿と考えれば考えるほど頭痛がしてくる。黒雪は自分の懐から一本の小刀を取り出すと、それで自分の髪の毛を切り付ける。大量の髪の毛がバラバラと床に落ちていくのをボーっと眺めていた。 「フフフッ＿＿＿＿＿＿」 不気味な微笑みを零しゆっくりと立ち上がる。服の中に隠していた銃を取り出し、近くの電化製品を破壊する。そこから取り出した電線を振り回しながら黒雪はのんびりと歩く。誰にも気づかれないよう、気配を消してとある人物のところまで歩いていく。そして、朱色の髪＿＿＿孌朱の元まで来た瞬間に声を出す。 「さっきの言葉、訂正してくれません？」 これが、地声なのだろうか。いつもの耳を張り裂くような高音ではない低音の声。孌朱は確実に動揺していた。気配を消し近づき、電線を振り回しながら突然話しかけられて、驚かない人物などいないだろう。天井に電線がぶつかり、火花が爆ぜる。床にぶつかり火花が爆ぜる。その様子を孌朱は信じられないものを見るような目で見ていた。 「殺しちゃってもいい＿＿＿でしたっけ？俺様的には、あんたの方が殺しちゃっていい気がしますね‼︎俺様無性に腹が立つんです‼︎あの時、琇兄さんと悠兄さんが発していた殺意、お前に向けてですよね‼︎俺様をいらない人扱いしただけじゃなく、兄さん達二人もあんなに殺意を出していた。殺しても＿＿＿問題ないですよね‼︎」 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿おい」 孌朱が口を開いた瞬間に火花が爆ぜる。孌朱の真横の壁に黒雪が電線をぶつけたのだ。 「口を開くなよクソ野郎‼︎俺様お前の声も聞きたくない」 「えぇ＿＿＿＿＿＿ちょっとくらい、話し合っても＿＿＿＿＿＿」 「死ね」 孌朱の声に被せるように黒雪が言うと左手で発砲する。 「なんで電線使わないの⁉︎」 孌朱の全く関係ない疑問に黒雪はしっかりと答える。 「その方が早く殺せるんで」 「えぇぇ＿＿＿俺さぁ…紫雲と悠餓に君に攻撃するなって言われてるから反抗出来ないんだけど＿＿＿危ないんだけど＿＿＿普通にやめてほしいな＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 孌朱の声からは確実に焦りを感じる。 「反抗出来ないなら大人しく死ね」 「螺翠ヘルプッッ‼︎」 軽やかに黒雪を飛び越え部屋を出ていった孌朱はそう叫ぶ。 「こんな怪物とか聞いてないよ…‼︎」 「あ、おい俺を巻き込むな＿＿＿＿＿＿＿＿＿よ⁉︎」 孌朱は螺翠を盾にする様に逃げる。黒雪が螺翠なんかを気遣うわけがない。螺翠にもお構いなしに電線を振り回し発砲する。 「え？え？え？え？え＿＿＿⁉︎ちょっと螺翠くん孌朱くん‼︎僕も巻き込まないでよ＿＿＿＿＿＿‼︎」 近くにいたレモンくんも悲鳴のような声を上げる。3人とも違う方向に逃げ、黒雪は3人、特に孌朱を見失う。 「何を＿＿＿やってるんだい？」 黒雪の後から、軽く怒りを含めた声がする、そこには主様と浮雲が立っている。 「あ‼︎悠兄さん‼︎琇兄さん‼︎俺様、少しだけ思い出しましたよ‼︎」 満面の笑みでそう答える黒雪に、主様は怒る気力もなかった。少しだけでも、思い出してくれたならそれでいい。そう思ったのだ。 その時ちょうど別任務でいなかった陽主が帰ってきた時、半壊している失楽園の屋敷を見た彼がガチギレしたのは、また別の話である。

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「YA…久しぶりだな元気にしてたかい？静玖」 青空、改め静玖の前に、1人の青年が現れる。 パーマがかかった鮮やかなピンクの髪に丸眼鏡。顔の彫りが浅く、遠い異国の者の雰囲気＿＿＿通称桜薫。彼は楽しそうに告げる。 「HaHaHa＿＿＿まさか君から連絡が入ってきた時には驚いたよ。Na…だって世界一の暗殺者と言われていた君から連絡が来たんだぞ？HaHaHa殺されるのかと思った」 どこまで本気でどこまで冗談か。全く読み取れない静玖は軽く笑う。 「誰が、お前のような奴に喧嘩を売るんだ。そんな無駄死にはしないよ」 静玖のその言葉に桜薫は笑う。 「暗殺者がマフィアになるっていうのはそう珍しいことじゃないが＿＿＿お前の場合は暗殺者側も、同業者もみんな驚いてたぞ。もちろん、我々スパイ達も」 「世界最強のスパイである桜薫は驚いたか？」 静玖の面白半分の問いかけに桜薫は少し黙ってから答える。 「YAYAYA＿＿＿驚いたな。一応。お前がそう暗殺業を捨てるとは思わなかったからな」 桜薫はそう答えた後、顔を引き締めて口を開く。 「De＿＿＿?要件は？」 「裏社会のトップを潰したい」 静玖の力強いその言葉にしばらく沈黙が流れる。 「あぁ＿＿＿？そうなるとお前自分の上司殺すことにならないか？」 「ハハッあんな奴が上司だと？くだらないね」 静玖のその言葉に桜薫は何かを察したように呟いた。 「＿＿＿＿＿＿わかった。協力しよう」 桜薫のその言葉に静玖は微笑む。 「感謝する」 「お前もことごとくお人が悪い」 「今更だ。裏社会で生きていくには必要なことだ」 「HaHaHaその通りだな」 ひとしきり笑い合ったあと、桜薫が口を開く。 「Aa…そうだ。こないだ建物の一角で3人の少女を見つけた。白銀髪のハーフアップの少女だけはまだ息をしているからこちらで預かってある。残りのピンク髪の少女はもう1人の複雑に髪を結い上げた少女を庇ったせいかボロボロすぎて既に息がなかった。複雑な髪の少女は、つい昨日息を引き取った。最後に確か、青空さん＿＿＿と呟いていた。青空はお前の偽名だろう？同業者じゃねえのか？確認したいなら案内するが」 静玖は桜薫のその言葉に少しだけ驚きを隠せなかった。 『紗英が、生きているのか』 1人でも多く生きているのといないのでは全く違う。 「案内してくれ」 ▼△▼ 「今は精神が不安定で暴れるから多少乱暴に拘束させてもらった。許せ」 とある屋敷の地下室に案内された静玖に桜薫はそう告げる。静玖が目を向けると頑丈そうな手錠を付けられた紗英がブツブツと何かを呟いている。 「潰す…殺す殺す殺す殺す殺す…」 静玖は予想以上に荒れている紗英の言葉に呆然とする。まるで別人だ。色々あってずっと一緒に行動していた静玖ならわかる。かなり酷く精神を抉られている。 「紗英＿＿＿」 静玖がそう声をかけるとゆっくりと顔を上げる。 「どちら様＿＿＿ですか？」 静玖はその言葉に少しだけホッとした。思いっきり容姿や声を変えたのにも関わらず青空だとバレてしまったら、きっと主様なら速攻で勘づいてしまう。その心配が少しだけ薄れたのだ。 「紗英＿＿＿お前の協力者だ。だから、何があったか全て話せ。一緒にあいつらを＿＿＿潰そうじゃないか」 静玖のその言葉に紗英は不気味に微笑む。 「花苑＿＿＿＿＿＿」 「っ＿＿＿⁉︎」 紗英のボソッと呟いた言葉に静玖だけではなく、桜薫も反応する。 「コードネーム花苑です。紗英ではなく、そう呼んでください」 その言葉に静玖と桜薫は固まる。 今、こいつは何を言った＿＿＿？ 3人の間に絶妙な空気が流れる。 「フフッ♪まさか、疑ってますか？正真正銘の花苑ですよ。そうですね＿＿＿皆殺しの時間＿＿＿そう言えば、桜薫さんなら信じてくれますね＿＿＿？」 「Aaa＿＿＿いつから桜薫だと気がついた？」 「今さっきです＿＿＿それまでは、思考が停止してましたから」 「おい、どういう事だ」 静玖が顔を顰める。話に1人だけついていけないのだ。 「YAaa＿＿＿この少女、確実にこの国の元スパイだ。それも、とびきり優秀なやつ＿＿＿だな」 桜薫は語り続ける。 「花苑と俺しか知らない暗号だよ。皆殺しの時間。それがとある合図になっていた。これ以上は秘密だ」 静玖はその言葉を聞いてしばらく沈黙する。 『紗英が、花苑＿＿＿＿＿＿？』 初めて会った時から抱いて違和感。本気を出さない謎の少女。入ってすぐに位持ちになる謎の少女。謎が少しだけ解けていく。 コードネーム花苑＿＿＿ 優れた身体能力に使いこなした毒術。素早い時間で完璧な調合をし、相手をより殺しやすい毒を作りながら戦う不思議な戦い方で名が知れたスパイだった。 「なるほど＿＿＿花苑。俺は静玖だ。よろしく頼む」 「静玖＿＿＿ですか。最強の暗殺者ですか＿＿＿良いですね。最高です」 ボソボソと呟く紗英は本当に不気味だった。 『世界最強のスパイ、世界一の暗殺者、世界一の毒使いが、裏社会最強の組織、失楽園に挑む＿＿＿か』 静玖はフッと微笑みを浮かべる。 「実に興味深い」 紫雲・悠餓・孌朱・螺翠・檸檬・陽主・雲珠・氷夜　の失楽園と 青空本名静玖・桜薫・紗英本名花苑 がぶつかりあう。 そして＿＿＿ 夢の中で何かを追いかけて彷徨い続ける黒雪 桜薫が再度建建物の一角に行った時には既に消えていた謎の少女花陰 戦闘能力に優れた情報屋の紫蓮と呼ばれる少女 ただひたすら悠餓に敵対心を抱く菊家 元・色龍弥の3段位である行方不明の青年釵津 昔、悠餓と紫雲と一緒にいた青年蒴挲 失楽園の真実と、静玖達の感情を知った時、このメンバーがどちらにつくのか＿＿＿ 誰がどっちを裏切るのか＿＿＿ 色龍弥位持ち失踪事件の真実は何か＿＿＿ それらのピースが全て埋まった時＿＿＿ 勝敗が決まる

2人の青年はにっこり微笑む --- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「釵津、お前をずっと探していた」 「＿＿＿突然現れたと思ったら、何を言い出すんですかねぇ静玖くん」 とある建物で静玖はその場所にいた釵津に声をかける。 「位持ち失踪事件の後、お前が永遠に顔を出さないから＿＿＿だ」 「ハハハ＿＿＿僕だってねぇ、君と同業者なわけよ。そう簡単に暗殺業を捨てられないよね」 釵津はそう言うと綺麗な笑顔になる。 「今はわざとこう言おうか。青空くん。青空くんは主様に何を求めてたんだい？」 静玖は軽く目を見開く。静玖ではなく青空といった理由が読めなかった。 「俺は主様なら、この愚かな裏社会を変えられると思っていた」 少しだけ間を置いてから静玖はそう答える。その言葉に釵津は頷く。 「僕もだよ。けどね、位持ち失踪事件はきっと主様が仕組んだこと。花陰ちゃんは気づいてなかったけど、僕は気づいたね。静玖くんに早く伝えとこうって思ったけど、どうせ君のことだしいつかは僕の元に自分から来ると思ってさ」 花陰と釵津は昔同じ3段位だったが明らかにレベルが違った。そして、釵津はそれでも本気を隠していた。本気を出せば、静玖と並ぶくらいまでは行くだろう。彼は窓から外をぼーっと眺めると呟く。 「僕は君たちにつくよ。あの主様は潰さないと」 釵津はそう言うと静玖の顔をみて微笑む。 「静玖くんも青空から静玖に戻しているわけだし。僕も戻そうかな。昔みたいに青火って呼んでね静玖くん」 「あぁ」 頷きながらも静玖は複雑な気持ちになる。色龍弥に入る前から一緒にいた青火だが、いまいち感情がわからない不気味な青年だ。 『出来る限り、穏便に済ませたいのは、叶わない夢か』 静玖は心の中でそう思うのだった。 --- 綺麗な白銀の髪に虹色のメッシュ。栗色の瞳。高級そうなスーツを身に付けた青年は静かな夜の街を見下ろす。その時、突然手元の通信機が鳴る 「ハァ＿＿＿何の用だい？屑洟＿＿＿＿＿＿」 【おやおや？先輩に向かってその口の利き方＿＿＿感動しませんねぇ＿＿＿。まあそうピリピリしないでくださいよ。面白い情報が入ったんで緊急会議をしたいんですよ？早く来い。君以外の驚愕耦全員が既に集まっている】 「善処する」 青年は短く答えると物音一つ立てずに走り出す。この静かさでこの化け物のような速さ。普通の人間にはできない事だろう。ただの豪邸にしか見えない洋風の建物の敷地内に青年は飛び降りる。 「連絡してから2分ですか＿＿よく頑張りましたね」 「ｷｬﾊﾊｯ‼︎さっすがぁ‼︎」 「嫌。遅い。あと1分は早く来れるはずだ」 「…これでも＿＿＿善処はしました」 部屋には既に3人の青年が揃っている。高級そうな椅子に腰掛け優雅にくつろぐ青年、同じ椅子に行儀悪く足まで乗っけている青年、足を組みながら急いで入ってきた青年を睨みつける青年。そして、部屋の隅には1人の少女が跪いている。紫の髪の一部を左右両側お団子にしており、残りの長い髪を三つ編みにしている美少女。動く事なく、じっとしている。 「さぁ。蒴挲も来たことだし、そろそろ始めようか」 最初に穏やかな声をあげた青年は優しいイケメンのような雰囲気だった。肩くらいまでの藍色の髪に髪と同じ藍色の目。ニコニコの笑顔を崩さず優雅にくつろいでいる。名前は屑洟。 「ねぇ…蒴挲、早く椅子に座れ」 先程までの騒がしそうな声ではなく、低い声で行儀悪く座っていた青年は口を開く。茜色の短い髪に真っ赤な瞳。先程とはまるで別人のようだった。名前は花々。 「俺はイライラしている。早く始めたい」 呟いたのは足を組んで入ってきた蒴挲を睨みつけている青年。薄い緑色の髪に明るい黄色の瞳。秀才を思わせるような眼鏡をかけている。明らかに殺気を放ち続けていた。名前は徳馨。 「待たせたことは深く謝罪する」 そして、入ってきた青年は椅子に座る。彼の名前は蒴挲。昔、紫雲と悠餓と一緒にいた青年だった。 「「「「驚愕耦に永遠あれ」」」」 4人の声が会議の始まりの合図である。 「で、素晴らしい情報とは何かな紫蓮ちゃん」 屑洟は部屋の隅で1ミリも動かなかった少女に声をかける。彼女の名前は紫蓮。戦闘能力に優れた情報屋だった。紫蓮はゆっくりと顔を上げると笑顔で答える。 「失楽園」 その言葉を聞いた花々はフッと笑う。 「へぇ…あの雑魚たちがどうしたの？」 紫蓮はのんびりと答えた。 「紫雲以外も全員、生きていました。そして、あの桜薫・静玖は失楽園に敵対心を抱いています。彼ら、使うべきですわ」 紫蓮は不気味に微笑むとすぐに部屋を出て行く。 「だそうだよ。面白くなってきたよねぇ」 屑洟は楽しそうに話す。それに乗っかるように花々が口を開いた。 「あっれぇぇ？蒴挲の顔が険しいねぇ？アハハッ‼︎紫雲と悠餓と幼馴染なんだっけ？」 嘲笑うようなその言葉に蒴挲が顔を顰めてから呟く。 「彼らは雑魚じゃない。侮辱はするな」 蒴挲のその言葉に屑洟は立ち上がって蒴挲に近づく。 「確かにねぇ？だって蒴挲くんは最年少で驚愕耦に入ったのにそれをも上回る蒴挲くんとの同年齢の子が2人だもんねぇ？まぁけどさぁ蒴挲くんちょっと調子乗ってない？」 屑洟は最後に一気に殺気を放つ。 「蒴挲、お前の実力は確かだが、俺たちには程遠い。あまり調子に乗るな」 徳馨は静かにそう告げる。 「そんなのは、僕にだって分かってますよ。ただ、紫雲と悠餓は本当に舐めない方がいい」 蒴挲の真剣の顔に少しだけ周りの3人が以外そうな顔をする。 「まぁ、好きに踊らせようか」 屑洟はそう告げると部屋から消える。出て行ったと言うよりかは、一瞬で消えたのだ。その後も花々、徳馨と順番に消えるようにいなくなる。その姿を蒴挲は静かに見ていた。 「今じゃ敵だね。琇、悠」 不気味に微笑む蒴挲を誰も見ていない。彼はのんびりと立ち上がりその屋敷を後にする。 「不穏分子は取り除く。その為に、僥謳尓計画は失敗に終わらせないと」

--- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「何の用ですか？俺は忙しいのですが」 夜道を歩いていた悠餓はふと足を止めて後ろを振り返る。 「フフッやっぱり気づかれていたんだね。いやぁ？ちょっと蒴挲くんが何であんなに君を警戒しているのか知りたくて」 悠餓をストーキングしていた屑洟は笑顔を崩さずにそう答える。 「確かに、紫雲君は強いって有名ですが、あなたは別にそこまで有名じゃないですよね。まぁ、失楽園全員そうですが」 屑洟はそう言うと懐から堂々と銃を取り出し銃口を向ける。 「踊りませんか？楽しい夜を。素敵な舞を見せてくださいね？」 悠餓は面倒臭そうにため息をついてから改めて目の前の屑洟に向き直る。 「今ちょっと不調なんですけど…」 悠餓はそう答えながらも銃を取り出す。 「不調？何があったんですか？」 楽しそうに話す屑洟に悠餓は静かに答える。 「ただの発作だ」 悠餓の言葉に屑洟は疑問を持つ。 『発作？』 次屑洟が顔を上げたときには悠餓は消えている。 『いや、消えてない。上だ』 建物の屋根に立って屑洟を見下ろしている悠餓はひどく面倒臭さそうであった。 「屑洟、驚愕耦の実質リーダーか。かなりの腕だと聞いている。一部では紫雲よりも強いとかなんとかそういう噂があるらしいが。まるで足元にも及ばないな」 悠餓はそう挑発すると先程までの面倒臭そうな顔ではなく、さぞかし楽しそうに笑う。 「良いことを教えてあげようか。君は失楽園のメンバーに勝てるわけがない。誰一人として、お前を下回る奴なんていない」 「ほぉ？」 「雑魚は道端で這いつくばっていろ」 悠餓はそう言うと躊躇いなく発砲する。それを避けながら屑洟は言った。 「君、予想以上にクソガキですね」 「褒め言葉として受け取っておくよ」 悠餓はそう言うと一本の紐を取り出す。軽く腕を振るとそれがまるで生きているかのように動き出した。 「ハ＿＿＿＿＿＿？」 屑洟はそれを呆然と見ていた。彼も話には聞いていた。紐が勝手に動き出す＿＿＿と。しかし彼はそれを信じていたなかったのだ。そんなわけないと。しかし、それを間近で見て確信する。この紐は本当に生き物のようだ。と。屑洟が試しに投げた予備の銃はその紐にあたった瞬間、粉々に砕け散る。 『金属をも粉々に＿＿＿ですか。面白い』 「悠餓くん。素晴らしい見せ物をありがとう。楽しかったよ」 「自分から去ってくれるなら嬉しいよ。俺は戦いが好きじゃない。そうだ、あと一つ言っておくけど＿＿＿」 悠餓は綺麗な微笑みを浮かべて呟く。 「俺の特技は紐じゃない。1番上手く使いこなせる物は他にある」 悠餓はそれだけ言うと去って行く。屑洟は悠餓の言葉に軽く動揺する。 『これが、1番じゃない？』 そして楽しそうに微笑んだ。 「なぁんだ。蒴挲くんの言う以上の実力じゃないかぁ。フフッ。躍らせがいがある」 --- 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ」 屑洟から離れた悠餓は失楽園の屋敷の目の前で膝から倒れ込み大量に咳き込む。 「アァ＿＿＿＿＿＿あと少しだけ＿＿＿あと少しだけ耐えてくれ＿＿＿＿＿＿＿＿＿お願いだから」 何かに縋るようにそう呟く。 「これじゃあ、琇くんが可哀想だ」 自虐的な微笑みを浮かべ彼はそう呟いた。 「悠餓っ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 帰りが遅かったのが気になって出てきたのか、倒れ込む悠餓を見つけた紫雲は走って駆け寄る。 「ねぇ＿＿＿琇くん、君はさ、主様になれて良かった＿＿＿？」 周りから聞けば意味不明な言葉を悠餓は呟く。紫雲はその問いに顔を歪める。 「俺はっ＿＿＿悠餓に主様を“続けてほしかった”」 その答えを聞いた悠餓は複雑そうな笑顔を浮かべる。 「そっか＿＿＿琇くんに主様になれて良かったって言ってもらうまでは、死ねないなぁ＿＿＿引退が遠ざかる」 悠餓の呟きに何かを堪えるかのように紫雲は口を紡ぐ。 「ダメなんだよ＿＿＿主様は琇くん＿＿＿紫雲じゃないと。色龍弥を作ったのは紫雲だ。俺じゃない。俺は主様じゃない」 悠餓は紫雲にもたれかかかりながらそう口を開く。 「僥謳尓計画を成功させて、煌の記憶を取り戻せたら、俺はなんの後悔もなくなる＿＿＿」 力尽きたかのように悠餓はそれだけ言うと目を閉じる。彼が眠るたびに、紫雲は心配になる。次目を覚ました時に、悠餓は死んでるんじゃないか＿＿＿と。 「ごめん＿＿＿＿＿＿」 「俺がもっと＿＿＿俺がもっと強ければ、悠くんより強ければっ＿＿＿＿＿＿」 紫雲は悠餓を抱き抱えながらそう呟く。 「俺は裏社会のトップなんかじゃないよ＿＿＿1番強いのは…悠くんなのに＿＿＿」 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿紫雲、そろそろ戻りな。紫雲も、悠餓も体が冷える」 そっと、屋敷の入り口で見守っていた孌朱は辛そうな顔をしながらそう言った。 『琇くん、孌兄さん。俺はいつかね、誰もが笑顔でいられる世界を作りたいんだ。その為なら、この短い命をかけてみせる』 まだ小学生だった悠餓が言った言葉を、孌朱はハッキリと覚えている。反対したかった。そんな危ないことはさせたくなかった。孌朱の行ってる裏社会の道には進んでほしくなかった。けれど、孌朱はそれを口にするのを抑える。大好きな弟の願いくらい、聞き届けてあげたかった。 例えそれが、世界の理を覆すとしても。 例えそれが、自分の命を消す行為でも。 例えそれが＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 孌朱という人間を消滅させる行為でも。 孌朱は悠餓の願いを断ることはなかった。

--- 「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 --- 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「悠‼︎良かった…やっと見つけた…。ずっと会いたかったんだよ」 とある道で、悠餓を見つけた蒴挲はそう声をかける。昔の大親友との、感動の再会。表向きではそうだ。実際は、蒴挲が悠餓を倒すタイミングを探しているだけ。それを悟られないように蒴挲は笑顔で話しかける。 「蒴挲か…。久しぶり」 悠餓は嬉しそうに顔を緩ませる。蒴挲はそれを見て少しだけ心が痛む。自分は今、悠餓を騙している。そう思うと少しだけ複雑な気分だった。 「俺ね、昔、本当に蒴挲が大好きだったんだと思うよ」 「え…？」 蒴挲が気がついた時には悠餓の手に銃が握られており、こめかみに押しつけれている。 「え、ちょ、悠」 「演技が下手すぎるよ。驚愕耦の蒴挲くん？」 蒴挲は悠餓の凍るような冷たい声に動揺する。悠餓が引き金に手をかけた瞬間、蒴挲は死を覚悟する。ドサッという音がすると同時に、蒴挲ではなく、悠餓が倒れた。 「ハ？」 倒れ伏す悠餓を見てただただ蒴挲は呆然としていた。誰かが発砲したわけではない。勝手に倒れたのだ。 「あれぇ？俺まだ発砲してなかったんだけど…」 蒴挲の後ろからのんびりとした声が聞こえる。そこには屑洟が立っていた。彼も、突然倒れた悠餓を呆然と見つめている。 「まぁ、好都合だね」 屑洟は容赦なく引き金に手をかけ発砲する。 「ハハハッ」 乾いた笑い声が響き渡った。屑洟は、化け物を見るような目で目の前に倒れながら笑っている悠餓を見ていた。悠餓は、屑洟の方を見れない位置に倒れている。つまり、どこから攻撃が飛んでくるかなんてわからない。そう、わからないはずないのだ。しかし、悠餓が握っているナイフで、綺麗に銃弾を弾かれる。ナイフで弾くのは、かなり高度な技だ。それを、どこから飛んでくるか分からないのに弾く。屑洟が抱いた感情はただ一つだった。 『なんだ＿＿＿この化け物』 「君、屑洟だっけ？こないだ急に攻撃しかけてきた奴。ハハハッ＿＿＿ねぇ、弾が見えなければ弾くことなんて出来ないって思った？分かるよ？見なくたって、分かるんだよ。鳴り響く音の角度、聞こえるまでの速さ、音による銃の種類、自分に飛んでくるまでの時間。建物との反響。全てが計算出来る」 「流石にそれは＿＿＿」 「舐めないでほしいな」 悠餓は重たそうに起き上がると軽く伸びをする。 「こないだも言ったけど、俺戦うのは好きじゃないんだよね。特にこう、俺が不調の時とか」 悠餓は不気味に微笑む。 「そう、こう殺人意欲が湧く」 「っ⁉︎」 次の瞬間、屑洟が目にした景色は地獄だった。影に控えさせていた仲間達が全員“粉々に砕かれる”生き残ったのは、屑洟と蒴挲だけだった。20人程度を瞬間で粉々にする。そう、発砲したのではないのだ。粉々砕けている。誰が誰かもわからないくらいに。 「アァァ＿＿＿＿＿＿弱いなぁ＿＿＿手応えがない＿＿＿なさすぎる」 悠餓は何一つとして武器を手にしていない。 『どこから、あの攻撃を＿＿＿＿＿＿⁉︎』 流石の屑洟も笑顔が凍りつく。 「何？もう一回やってほしい＿＿＿？自分で攻撃を受ければ、少しは仕組みが分かるかもね＿＿＿？」 楽しそうにクスクス笑う悠餓を見て屑洟と蒴挲は完全に固まる。仕掛けたのは、驚愕耦側だ。なのに、今は完全に立場が逆転してる。 「俺は正直、蒴挲を好きだと思ったことはない」 遠い過去を思い出すように悠餓がそう告げる。 「俺が好きだと思う人なんて、ほとんどいない。他人なんて、どうでも良い」 悠餓はため息を吐きながら話し続ける。 「だから別に、君たちを殺しても良いし、生かしても良いし、どうでもいい。逃げるなら逃げな。戦いたいなら一瞬で砕く」 悠餓のその脅しに、屑洟は苦笑しながら蒴挲にボソッと告げる。 「蒴挲くん、君は逃げな」 「え…？屑洟h」 「多少、無理矢理だ」 屑洟はそう言うと蒴挲を思いっきり遠くに投げ捨てる。彼の身体能力ならケガ一つないだろう。 「お前、馬鹿なのか？」 悠餓が完全に憐れむような瞳で屑洟を見ている。 「ハハハッ。僕もねぇ、ある程度のプライドという物があるんですよねぇ」 屑洟はそう言うと前髪を掻き分ける。その目には、完全に殺意が篭っていた。 「咲き乱れ、殺し続け、己を裏切る」 「何を、言って」 次の瞬間、悠餓が感じるものは何と言えば良いのか、表現さえ出来なかった。一瞬で、悠餓の腕に発砲してくる。悠餓が、誰かが発砲された弾に気付けなかったのは初めてだった。ギリギリの所を取り出した紐で弾く。 『屑洟の、気配が計算できない＿＿＿？』 どこにいるのかが、何一つわからなくなる。視界が悪くなったわけでもない。見えてるはずなのに、景色がわからないのだ。 「噛みえぐり、誘惑し、腐れ落ちる」 ボソボソと呟く屑洟を見て悠餓は目を見開く。 「コイツ、目を瞑ったる＿＿＿＿＿＿⁉︎」 屑洟は目を瞑り軽く微笑みながら攻撃を仕掛けてくる。 「見えるんだよ。さっき悠餓くんがやったのに似てるかな…？計算っていうのは同じだね。僕はね、君の動きが目を瞑ってても見えるんだ」 「そっか＿＿＿なら」 悠餓は軽く笑ってからそう言う。 「これならどうかなぁ？」 「っっっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿⁉︎」 屑洟の体制が崩れる。悠餓が手に持っているものは小さい瓶。 「音の周波数を変えれば、計算はできなくなる」 「それをやったら、悠餓くんも出来ないんじゃない？」 「そうだね。だから俺は逃げるよ。ちょっとそろそろ、またぶっ倒れそうだから」 屑洟が次意識を集中させたときには悠餓はいなかった。 「逃げ足の速いガキだなぁ＿＿＿」 ボソッと呟いた屑洟は不思議な気持ちだった。 「悠餓くんはあと何個技を隠し持っている＿＿＿＿＿＿？」

「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 　 「998、999、1000っ＿＿＿＿＿＿」 紫髪の青年の苦しそうな声が響き渡る。 「ん＿＿＿あと2分速く出来る様にしないと」 その横ではとっくに1000回数え終わっている臙脂色の髪の青年が笑ってそう呟く。 「いや＿＿＿＿＿＿片手腕立て伏せ1000回を後2分速くって＿＿＿」 紫髪の青年、紫雲は軽く頬を引き攣らせて言った。臙脂色の髪の青年、悠餓はそれを無視する。失楽園の屋敷の訓練場、そこには失楽園メンバーが全員集まっていた。 「はい！雲珠くん氷夜くんあと100回‼︎」 紫雲と悠餓の隣では楽しそうな檸檬の声が響き渡る。 「この悪魔＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 「ん？」 氷夜のボソッと呟いた言葉に檸檬は笑顔で対応する。氷夜は見てはいけないものを見たかのように目を逸らした。 「螺翠、俺たち今何回やったっけ？」 「ん？あぁ＿＿＿1300くらい＿＿＿？」 「いつまで続けるんだよ＿＿＿」 その隣では螺翠と孌朱と陽主がただひたすら止まることなくやり続けている。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿雲珠の目が死んでない＿＿＿？」 紫雲のその呟きに悠餓は引き攣った笑みを浮かべる。 「いや、檸檬の相手はあの二人に任せないと俺たちが＿＿＿＿＿＿」 「悠餓くん、今なんて言った〜？」 「檸檬は素晴らしいな」 悠餓は被された言葉に対して笑顔でそう答える。 「はい‼︎1000回‼︎雲珠くんも氷夜くんも良く頑張ったね」 満面の笑みの檸檬はふと視線を訓練場の隅に向ける。 「あぁ＿＿＿紫雲くん？アレはどうするの？」 気まずそうに呟いた檸檬の視線に先ではただひたすら真顔で筋トレをしている男子姿の黒雪がいた。 「もしかしてアレ、昨日からずっと続けている感じ？」 檸檬の問いに紫雲は苦笑しながら答える。 「何を言っても、反応しないんだよね＿＿＿＿＿＿」 その時、黒雪が突然動きを止める。 「あ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 ポツンと漏れた黒雪のその声に全員が一斉に黒雪の方を向く。 「あ＿＿＿＿＿＿＿＿＿れ？悠兄さん、此処どこだっけ？」 まるで今まで自分がやってたことを完全に忘れてしまったかのように黒雪は悠餓を見てそう呟いた。 「え＿＿＿ていうか、悠兄さんと、後、誰？」 「「「「「「「「ハ＿＿＿＿＿＿？」」」」」」」」 氷夜も雲珠も螺翠も陽主も孌朱も檸檬も紫雲も悠餓も、全員が気の抜けた声を漏らす。今、こいつは何を言った？誰もがそういう目を向けていた。 「えぇっと、黒雪、大丈夫？」 雲珠がそう声をかけた時、黒雪の口から信じられない言葉が発せられる。 「黒雪って、誰＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」 全員が固まった。凍りついたように動かない。そんな中、最初に動き出したのは悠餓だった。ゆっくりと立ち上がり、黒雪の方に近づく。 「悠兄さん、どうかした＿＿＿＿＿＿？」 不思議そうに呟く黒雪を、割れ物でも扱うかのように優しく抱きしめた。 「“煌”＿＿＿＿＿＿琇のことも、忘れたのか＿＿＿＿＿＿？」 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿誰？それ＿＿＿＿」 恐る恐る聞いた悠餓に黒雪はあっさりとそう答える。その言葉を聞いた紫雲は、世界のどん底に突き落とされたような顔をしていた。それに気づいた孌朱は完全に固まった紫雲を抱きしめる。 「紫雲、大丈夫だから、落ち着いて＿＿＿＿＿＿」 静かに告げる孌朱の声と、紫雲の目から雫が落ちるのは同じタイミングだった。 --- 琇という少年は、人生に感情など持ち合わせていなかった。夕晴財閥の息子として生まれ、何もかもを難なくこなしてしまう。彼にとって人生は酷く退屈な物だった。そう、小2の時までは＿＿＿ ある日、琇の父親が連れてきた二人の子供、同年齢の子供と、一つ年下の子供。その二人に会うことで、彼の毎日は大きく変わったのだった。 その二人は、孤児だった。血の繋がってる割に1ミリも似ていない二人。孤児院にいたわけではない。ただひたすら、二人だけで生きてきたのだ。琇と同年代らしき少年は口を開く。 「金持ち様は、随分と慈悲深いんですね」 棘があるその言葉。琇の父親がいなくなった瞬間に琇へと発せられたその棘のある言葉に、彼は動揺する。なにせ今までで一度も、苦労したことなどなく、誰かに文句言われたこともなく、こんなに嫌味が詰まった言葉を聞いたことがなかったのだから。少年は続けて口を開く。 「クソガキのお世話なんてしたくもないね」 “クソガキ” 琇はそれが自分に言われた言葉だと理解するのにしばらく時間がかかる。琇は、何も言うことが出来なくなった。 「言い返せもしないんですね。僕は君のようなクソガキが世界で1番嫌いなんです」 琇は完全に固まった。今まで味わったことのないような不思議な感覚。琇は目の前にいる二人を呆然と見つめていた。 「悠兄さん、誰？この人」 今までずっと口を開かなかった弟側が口を開く。琇はそれでようやく分かる。この変な少年は悠という名前なんだ＿＿＿と。弟のその言葉に、悠は優しそうな笑顔を浮かべて言った。 「煌は気にしなくて良いんだよ」 悠と煌＿＿＿ 現在の悠餓と黒雪に初めて出会ったのは、この日だった。 ▼△▼ 「悠くんと煌くんを、夕晴財閥の息子にしようと思うんだが、琇は嫌か？」 次の日、父親にそう告げられた琇は酷く動揺する。あの二人と兄弟＿＿＿？そう、思うのだった。 「あぁ、最初は使用人か何かで琇の近くに雇わせようと思ったんだけれど、教育を受けていないとは思えないくらい教養がある。それに、お金持ち様の家でボロ雑巾のように使い倒されるなら今ここで消えてやる。と言われてね＿＿＿」 琇は最初は反対しようとしていたそれを、最終的には受け入れる事にした。父親に反対するのを恐れたのだ。 そして次の日悠と煌が正式に自分達の家族になる。その時、琇は悠と誕生日まで一緒だということを知る。そして、綺麗な服をきた彼は、酷く琇とそっくりだった。父親もそれにはかなり驚いていた。まるで血がつながっているかのような、そのくらいそっくりだったのだ。そして琇は、悠が服の採寸をしている時にある違和感を抱く。サイズを測る順番と、腕の上げ下げなどが、完璧なのだ。まるで既に何回もやったことがあるかのような。そんな感じだった。琇は、悠と二人っきりになった時、勇気を出して聞いたみる。 「なんで、採寸の順番を知ってるの？」 琇のその言葉に悠は一瞬だけ貼り付けていた笑顔を崩すがすぐに戻る。 「へぇ＿＿＿何もわからないクソガキだと思っていたのですが、違うみたいですね。少しだけ、見直しました」 悠はそう言うと笑顔を深めて口を開く。 「ちなみに、その机の上に置いてある問題集の大問1の(3)、答え間違ってますよ？正解はx=2,y=5です」 挑発気味にそう言われ琇は問題集の答えを開く。悠が、あっていた。 「なぜ＿＿＿＿＿＿？これは、中3レベルの問題で＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 「なぜ？それ答える必要ありますか？低脳な質問に返答する理由はありませんから。失礼します」 悠はそう言うと部屋を出ていってしまう。琇は酷く動揺していた。 人生で初めて、人に負けたのだ それからの琇の毎日は大きく変わる。全てに置いて、悠に負けたのだ。勉強、運動、その他諸々全て。彼は初めて劣等感というものを覚える。 全ては、ここから変わり出したのだ。 --- 「っ＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 抑えられない何かをぶつけるように紫雲は部屋の壁を殴る。 「弟一人守れなくて、何が裏社会のトップだよ＿＿＿＿＿＿」 自虐的な笑みを浮かべながら紫雲はそう呟いた。黒雪の記憶が無くなってから、しばらく悠餓が付きっきりで対応していたが、彼の体調も万全な訳ではない。さっき紫雲がたまたま失楽園の屋敷の端の部屋の前を通っていなかったら、1人で何も出来ずに倒れっぱなしだっただろう。もっと、強くならないと＿＿＿その思いが紫雲を焦らせる。 「琇くん＿＿＿」 誰もいないはずだった部屋で、悠餓が心配そうに紫雲を覗き込む。 「琇くん＿＿＿、もし俺がこの後しばらく帰って来なかったら、死んだ物だとみなしておいて」 「どういうっ＿＿＿＿＿＿」 突然告げられたその言葉の意味を確認しようとした時には既に、悠餓は部屋にはいなかった、

「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「いやぁ…静玖に桜薫に青火に花苑で攻撃仕掛けるって、集団リンチかよ＿＿＿」 とある場所で、一人の青年陽主はそう呟く。陽主の目の前に立っているのは静玖。そして陽主を囲む様に他のメンツが立っていた。 「いやぁ＿＿＿困るよ。静玖なら知ってるでしょ？俺そんなに強くないんだよね」 拳銃をクルクル指で回しながら陽主は面倒臭そうにそう呟いた。 「負け確じゃん＿＿＿＿＿＿」 陽主はそう呟きながらも攻撃をしかける。静玖の方に攻撃を仕掛けた＿＿＿＿＿＿様に見えた。 「っっっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿⁉︎」 後で悲鳴が聞こえる。青火が、血を吐いて倒れ込む。誰もが目を疑った。確実に今、陽主は静玖に向かって攻撃を仕掛けたのだ。それがなぜか、間反対にいた青火に当たっている。 「YAYA＿＿＿錯覚技術か＿＿＿」 桜薫はそう呟くと笑う。 「だけど、弱いな」 陽主は苦笑しながら何か諦めたような顔をした。その時、静玖達は一気に殺気を感じる。自分の周りをぐるっと囲むような殺気だ。 「全員、動くな＿＿＿少しでも動くと体が粉々になる」 そう言った青年は軽く微笑む。 「久しぶりだね釵津、青空、紗英＿＿＿今は青火と静玖と花苑って呼ぶべきかな？」 「浮雲＿＿＿＿＿＿いや、やっぱりお前が悠餓か」 静玖が静かにそう告げると、悠餓は綺麗な笑みを浮かべる。 「桜薫さんも＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿お久しぶりです」 ただずっと悠餓を呆然と眺めていた桜薫に切なそうにそう言う悠餓に、周りは違和感を覚える。 「もしかして、君、悠くん＿＿＿＿＿＿か？」 信じられない物を見るような目で、桜薫はそう呟く。それに悠餓は嬉しそうで、何か寂しそうな笑顔を浮かべた。 「あの時は、煌と俺が、お世話になりました＿＿＿」 2人の間に、不思議な空気が流れる。周りはそれをただただ不思議そうにみていた。 「桜薫さんは知ってると思いますが、俺の技術は大抵桜薫さんから頂いた物＿＿＿戦って、勝てるわけないんですよ」 悠餓はそう言うと少しだけ指を動かす。悠餓が指を動かした瞬間、今まであったドス黒い殺気が消える。 「穏便に済ませましょう。私達失楽園は、あなた方との対立を望んでいない」 静かにそう告げる悠餓は、桜薫に向かって手を差し伸べる。 「裏社会で、あなた方のような敵に、余計な情を抱くと弱点になることはわかっております。けれど＿＿＿流石に自分達を育ててくれた方への情はそう簡単に消せませんよっ＿＿＿＿＿＿」 悠餓は吐き捨てるようにそう言うと。桜薫の顔を見つめる。 「選んでください＿＿＿今この場で死ぬか、失楽園に付くか」 差し伸ばされている悠餓の手を見て桜薫はしばらく黙り込む。何かを考えるように。 「なぜ、君が裏社会にいる＿＿＿なぜ君があの悠餓なんだ＿＿＿あの時、二度と裏社会には来るなと、言ったはずだろ＿＿＿」 差し伸ばされた手を見ながら桜薫は悠餓にそう問いかける。悠餓は、少しだけ気まずそうに答えた。 「仕方ないじゃないですか＿＿＿こっちにも色々事情があるんです」 桜薫は何かを考えてから目の前にいる悠餓をしっかり見つめながら言った。 「悠くん、君今＿＿＿＿＿＿＿＿＿15歳じゃないのか＿＿＿＿＿＿？」 「は…？」 桜薫のその言葉に、悠餓ではなく静玖が反応する。 「いや、悠餓は6年前から、名前が知れ渡ってるんだ＿＿＿そんなに小さいわけが＿＿＿＿＿＿」 今15歳。そうだとすると、悠餓という名前の人物が失楽園で活躍していた時、9歳ということになる。そして色龍弥として初めて会った時は11歳。そんなわけないと静玖は思うのだった。初対面の時の彼が、11歳のはずがない。小学生のはずがない。あの時は、高校生くらいに見えた。11歳を高校生と見間違えはずがない。静玖はそう思いながら目の前の悠餓を見つめる。 「その通りですよ＿＿＿俺はまだ15歳だ」 悠餓のその言葉に、静玖は言葉を失った。花苑も呆然と目の前の悠餓を見て黙り込んでいる。15歳＿＿＿＿＿＿それが本当だとしたら若すぎる。9歳の時に名前が知れ渡っていたのだ。それなら、何歳から訓練をしていたのか＿＿＿考えるだけで恐ろしい。 「裏社会は、義務教育も終わっていないお子様がいて良いような場所じゃないましてや小学生の時から裏社会にいたとなると、流石にヤバいぞ＿＿＿＿＿＿今からでも、引き返せる。煌も裏社会にいるのか？そうだとしたら危険だ。今すぐ、武器を捨てろ。子供がいる場所じゃない」 淡々と告げる桜薫に、悠餓は冷たい瞳を向ける。 「俺だけじゃない＿＿＿主様＿＿＿＿＿＿紫雲もまだ15歳だ。檸檬だって、まだ16歳＿＿＿今更引き返せすなんて、不可能だ。考えて見てくださいよ。俺は普通に過ごした時間よりも、裏社会にいた時間の方が長い。普通の過ごし方など、知らない。それを教えなかったのは、桜薫さん＿＿＿あなたじゃないですか」 悠餓のその言葉に、桜薫は軽く目を見開く。確かにその通りだったので。彼は昔、悠餓達に普通の生活というのを教えなかった。桜薫はため息をついてから悠餓に手を伸ばす。 「YAYA…確かに、俺の責任だ。俺のせいでそうなった俺の一番弟子を、そう簡単に見捨てられないな」 不気味に微笑んだ桜薫の笑い方は、悠餓に似ていた。正確には、悠餓の行動が桜薫に似ているのだろう。 「HAHAHA…協力しよう。悠餓、君は俺の一番弟子で、俺の弟的存在だ。失楽園とは、敵対しないよ」 「桜薫＿＿＿＿＿＿‼︎何を言うんだ」 静玖はそう叫ぶ。静玖にとって、彼の判断は予想外の物だったのだ。 「私は、螺翠が個人的に無理なんで＿＿＿まあ、桜薫さんが言うので敵対はしませんが、仲良くするつもりはありません」 花苑はそう言うと面倒になったかのようにその場を去る。 「静玖＿＿＿君は何を目指すんだい？敵対するなら、それ相応の対応をするまでだ」 殺気を放つ悠餓に静玖が選んだ道＿＿＿＿＿＿それは、 「くだらない」 静玖はその場から消える。風に包まれたように消えていく。静玖は、失楽園と仲良くするつもりはない。一度彼が嫌った人は、永遠に仲良くはなれないのだ。

「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 『煌、お前は馬鹿すぎる』 『兄達2人があんなに出来るのに、コイツだけ何も出来ないじゃん』 『お前は夕晴財閥にふさわしくない』 『琇様と悠様が可哀想だ』 『こんな、出来損ないの弟がいるなんて』 『琇様悠様とは、1人だけ容姿も似ていなじゃないか。もしかして、妾の子とかかもしれないぞ？』 『あら…そしたら馬鹿なのも仕方ありませんね』 『煌＿＿＿君が死ねば、夕晴財閥は短所無しだ』 この世の中、理不尽すぎる。 俺は、こんな世界大嫌いだ。 いつまでこの記憶喪失のふりを続けられるか＿＿＿ 悠兄さんにはすぐにバレた。一対一で話しはじめた瞬間に、かけられた言葉。しっかり脳に刻まれている。悠兄さんの、珍しく冷たい声だった。 「煌＿＿＿どういうつもりだ」 少し想像するだけで完璧に思い出せる。申し訳ないが、琇兄さんには黙っていてもらうことにした。琇兄さんは天才だが、所々抜けがある。純粋な弟だと思っている俺が、嘘を吐いてまで記憶喪失のふりをしているなど思わないだろう。雲珠と氷夜には対してなんの感情も持っていない。自我を無くし、黒雪と名乗っていた時の知り合いなど、他人も同然だ。悠兄さんが用意してくれたご飯を食べながらただひたすらノートに文章を綴る。 「覚えてろよ屑洟＿＿＿＿＿＿俺が1番嫌っている人」 屑洟という名前を出すのは10年ぶりくらいだ。どのくらい容姿が変わっているのか、どのくらい強くなっているのか分からなかったが、流石は悠兄さんだ。わざと屑洟と接触してくれた。意外と変わっていない容姿に、確実に強くなっている実力。今すぐにでも殺したいくらいだ。 「記憶喪失のフリっていうのも、楽じゃないな＿＿＿」 --- 1日前 訓練室で記憶喪失になった黒雪こと煌をとある小部屋に連れて行った悠餓は黒雪の顔をマジマジと見つめる。 「え＿＿＿っと、悠兄さん、どうした？」 純粋な笑顔を浮かべる煌に悠餓は静に口を開く。 「煌＿＿＿どういうつもりだ」 全てを凍らすような冷たい声に煌の笑顔が凍りつく。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿流石、悠兄さんだ。記憶喪失のフリって、気づいてたんだ」 諦めた様に手をあげて美しい笑顔を浮かべる。顔立ちこそは悠餓に似ていないが、笑顔は恐ろしいほど似ている。 「けどまだ、いまいちなぜ黒雪という自我を無くした状態になったかはわからない。気がついたら、悠兄さんと琇兄さんと、幼い頃の記憶が全部戻ってきたんだ」 悠餓は煌の話をしっかりと聞く。 「俺は、このまま記憶喪失を続けたいと思っている」 悠餓はそう答えるのがわかっていたかのようにため息を吐いた。 「俺は、理由がハッキリしていないと承認はしない。今すぐ全員に、煌は記憶喪失のフリをしているだけと言おうかとも思っている」 悠餓の容赦のないその言葉に煌は深く頭を下げる。 「悠兄さん、お願いです。俺は、俺を不幸に追いやった全ての人に復讐したい。いや＿＿＿俺は元からそのつもりだった。だから悠兄さんを巻き込んでまで孤児になったんだ。自分で書き進めたシナリオは、俺が最後まで書き続ける」 煌の力強いその言葉に悠餓は軽く頷くと口を開く。 「屑洟のことは、好きかい？」 悠餓のその問いに、自傷的な笑みを浮かべ煌は答えた。 「大嫌いだ」 その言葉に悠餓は満足した様に笑う。そして、机の上に大量の写真を放り投げた。 「最新の屑洟の情報だ。煌が話せる状態になったら渡そうと思っていた」 「悠兄さん＿＿＿＿＿＿わざと接触したんですか？」 煌のその問いには答えず、悠餓は部屋を出て行く。ここからは、悠餓と煌の主演劇。世界が劇場で全員が観客。偽りの真実を並べ立て、誰にも気づかれない様に演技を続ける悠餓と煌の真実を、探ろうとする者など現れないだろう。煌を部屋に置いて出てきた悠餓は不気味に微笑む。 「屑洟＿＿＿＿＿＿君だけは絶対に許さない」 2人が執着する男、屑洟。屑洟が悠餓の本来の姿に気づいているのかいないのか。それは悠餓にもわからなかった。それでも彼が今目指しているのはただ一つ。屑洟を潰す。ただそれだけだった。

「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 暗い夜道を歩いていた屑洟はふと立ち止まる。誰かに、つけられている。そう感じたのだ。 「誰ですか？そこの、物好きなガキは」 屑洟が声をかけた先にいる男、いや、少年と言うべきだろうか。綺麗な銀髪にオレンジの目に鋭い刃のような光が宿っており、綺麗なタキシードを着ている。 「ああ。相変わらず、お前の顔を見るとイライラするよ。屑洟。いや＿＿＿奏兄さん？」 少年のその言葉に屑洟は目を見開く。 「まさか＿＿＿お前、煌＿＿＿＿＿＿＿＿＿か？」 屑洟のその問いに少年は綺麗な笑みを浮かべる。 「そうだよ。君の血のつながった弟の煌だよ。君がクソくだらないことをしたせいで死にかけた煌だよ。没落した伊集院家の3男の伊集院煌だよ。今はわざとこう名乗ろうかな？失楽園の凱風だよ」 凱風＿＿＿ それが煌という少年＿＿＿黒雪という人物に名付けられた失楽園としての名前だった。 「随分と、期待通りの信じられない物を見るような目でみてくれるね。そうだもんね。だってちゃんと奏兄さんは俺を殺したつもりだったもんね。残念でした。まだ小1にもなってないガキ二人じゃ生き残れないと思ってた？残念でした。こうして、俺はしっかりと生きています。それに、悠兄さんだって、今君の後ろにしっかり立っているじゃないか」 煌のその言葉に屑洟が急いで後ろを振り向くとそこには完全に表情を消し去った悠餓が立っている。 「なぜ、悠餓くんが＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 屑洟のその言葉に悠餓は笑顔で答える。 「今更ですか？奏兄さん。俺はね、あの時のことを今でもよく覚えてるんだ。目に焼き付けられている。大好きだった家族を、家族同様の使用人達を、皆殺しにしたお前の姿が＿＿＿ね。ああその後煌も襲ってたよね。流石に守ったけど。俺はお前が大嫌いだ。血が繋がった兄弟ってだけで吐き気がする。俺は運良く君と全く似てないけど、容姿がそっくりな煌が可哀想だ」 吐き捨てるようなその言葉に屑洟は口を閉ざす。何か、言葉を探るように。 「悠＿＿＿＿＿＿聞いてください。あの時、僕が言った言葉を覚えていませんか？」 慎重に問いかける屑洟に悠餓は心底面倒そうに答える。 「覚えてますよ？両親は存在しないべき人。でしたっけ？」 「悠、君は確実に優秀だった。けど、家族には甘すぎた。どうせ先に言っても何もしないどころか、どうせ両親に伝えて二人を逃がそうとしただろう。それだけは防ぎたかった。元々、あんなにぐしゃぐしゃにするつもりはなかった」 「それで？今更言い訳ですか？」 「そうじゃないっ‼︎そうじゃないんだよ＿＿＿＿＿＿悠なら、わかってくれると思っていたのに」 「俺はそこまでお前の思ってる人間じゃない。何が悠ならだよ。結局そうなってないのはお前の自己責任だ」 「お願いだ＿＿＿聞いてくくれ＿＿＿最後まで、聞いてくれ」 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿何？」 「҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉驚愕耦に、来てほしい」 少し離れたところにいた煌には、何も聞き取れなかった。ただ、悠餓が、握っていた銃を動揺で落とすほどの衝撃的な言葉を言った。それだけは分かったのだ。 「悠兄さん＿＿＿？」 煌がそう声をかけると心配そうな目で見てくるだけだった。そして悠餓はのんびり口を開く。 「俺は҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉＿҉҉＿҉＿҉」」 --- 「悠兄さんっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 煌の叫び声と同時に、悠餓と屑洟は弾き飛ぶ。一面に血吹雪が舞った。切断された右腕を苦しそうに抑えながらも、冷たい瞳で悠餓を見つめている屑洟。左手から大量の血が流れており、少しでも動かすとそのまま腕が落下しそうな所まで切られているのにも関わらず動揺して落とした銃を拾う悠餓。煌には、何が起こったのかがわからなかった。 「悠＿＿＿＿＿＿君は、いつか必ず驚愕耦にくる。そう、必ず＿＿＿ね」 そう呟いた屑洟は、なぜかかなりの確信を持っているようだった。 「なにせ、自分と血が繋がってる弟だ。真実を全て知ったらきっと、君は紫雲から離れる＿＿＿」 屑洟のその言葉に悠餓は顔を顰める。 「何が、必ず＿＿＿＿＿＿だ。そんなことはありえない。俺は絶対に、奏兄さんと同じ道を歩むことはない」 悠餓のその言葉を聞いた屑洟は、何かに安心したように微笑んだ。 「今は＿＿＿＿＿＿＿＿＿そうだね。そうだ、煌」 腕が切断されているのにも関わらず、平然と立ち上がり屑洟は煌に向かって言葉を発する。 「君さ、あの時、なんて言おうとしたんだい？」 勝ち誇ったような笑みを浮かべる屑洟の言葉に、煌は固まる。聞こえてないと思っていた。気づいていないと思っていた。あの時、屑洟によって殺された両親に向かって放った言葉、 「あれは＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ⁉︎」 煌が口を開いた瞬間に見た景色は、地獄だった。信じられないように、目の前に落ちている白雪と戦った時に悠餓につけてもらった義肢＿＿＿そして、反対側の肩から先の腕が転がっているのを見て、絶句していた。 「悠＿＿＿＿＿＿＿＿＿兄＿＿＿＿＿＿さん？」 震える声で、目の前で不気味に笑っている、煌が1番信用していた、1番愛していた自分の兄を見つめる。 「なんで＿＿＿＿＿＿悠兄さんが＿＿＿＿＿＿」 確実に今、悠餓が一瞬で煌に向かって紐を放った。悠餓の手から垂れている紐には、煌のものだと思われる血が大量についている。 「ごめんねぇ＿＿＿＿＿＿＿＿＿煌。安らかにお眠り＿＿＿＿＿＿」 悠餓がそう言った時、煌は猛烈な眠気に襲われる。切断する時に、催眠薬でも紐に塗っておいたのだろう。その場に煌は崩れ落ちる。 「名演技だったね悠。いやぁ＿＿＿＿＿＿あの時に比べて一気に失楽園側っぽく見えたから、本当にそっちについちゃったのかと思ったよ」 楽しそうに告げる屑洟は自分の腕に器用に義肢をつけた後、悠餓にも同じものをつけながらそう呟く。 「まさか＿＿＿＿＿＿俺が愛しているのは、琇でも煌でもない。奏兄さんだけだよ」 今まで見せたことのないような甘い笑みを浮かべた悠餓は、楽しそうに笑った。 「桜薫には、話を通してある。彼は最初から協力者だからね。上手い具合に行けたようで何よりだよ」 屑洟のその言葉に、悠餓は満足そうに笑った。 「流石奏兄さんだ。今、本当の復讐劇を始めよう」 不気味に微笑む、本当に血が繋がっている兄弟の二人。彼らが作り出すのは、どんな物よりも恐ろしい。

「「さあ始めようか＿＿＿｜赤同樣《せきどうよう》を蹂躙しよう＿＿＿」」 綺麗にハモる2人の声。どす黒く、どこか優しく、どこか恐ろしく。 --- 闇を奏でる2人が、敵を混沌へ突き落とす --- --- 「悠餓が帰ってこなくて、黒雪＿＿＿凱風が行方不明？」 紫雲によって集められた失楽園のメンバーは紫雲の口から告げられたその言葉に顔を顰める。 「悠餓が、集団リンチに合ってる俺を助けたあと、気がついたらいなくなってたんだけど、そのあとのことは知らないな」 陽主が、そう呟くと、檸檬が陽主を睨みつける。 「なんで知らないの？あの時一緒にいたのは陽主くんだけなんだし、把握ぐらいしておけよ」 珍しく口調が悪くなっている檸檬を見て、陽主が気まずそうに顔を背ける。 「で？なんでこういう大事な集まりに孌朱くんがいないわけ？」 檸檬は全員に聞くようにそう問いかける。その問いに答えるように、螺翠が口を開いた。 「別任務でどっかに行くと言っていた。場所を聞いてみたが、教えてはくれなかった」 螺翠は一回言葉を区切ると、また話し出す。 「ただ、2・3日で戻ると言っていたのに、戻らないということは、孌朱も行方不明だな」 螺翠のその言葉に限界が来たかのように檸檬が机を叩く。小さく細い腕からは信じられないくらいの音が鳴り、机にうっすらと亀裂ができる。 「悠餓くんと、孌朱くんは、そんな簡単に死ぬような人でもないし、連絡を一つも寄越さないような人じゃない」 檸檬のその言葉に、紫雲は気まずそうに口を開いた。 「悠餓から最後に聞いたのは、もし、俺が戻らなかったら、死んだとみなせ＿＿＿ということだ」 紫雲のその言葉に、全員が絶句する。 「とりあえず、今は彼らを探してみませんか？」 気まずい空気の中、黙って聞いていた氷夜が口を開く。 「ねぇ‼︎誰か大量の薬持ってきて」 失楽園の屋敷の入り口から、孌朱の大声が聞こえた。 その姿を見たメンバーは、完全に動揺を隠しきれていなかった。ボロボロに砕かれ、ところどころ電線が見えている左腕、孌朱の戦闘用にかなり頑丈に作られているはずの義肢が、粉々に砕かれていたのだ。そして、彼が背負っていた1人の少年を見て、全員が恐ろしいほど動揺している。肩から先がない左腕に、右腕の義肢がボロボロになっていて、完全に気を失っている黒雪がそこにはいた。 「どこでこうなったの⁉︎」 檸檬の悲鳴のような声に被せるように螺翠が叫ぶ。 「檸檬、今はそれより治療が先だ」 氷夜と雲珠はすぐに医療室から大量のものを取ってきており、陽主は孌朱の義肢の修理を始めている。檸檬は血まみれの2人を見て、言葉を失う。ただその場に立って、何もすることなく時間が過ぎるのを待っているだけだった。 --- 「俺がここに戻ろうとした時に、黒雪がさっきのボロボロの状態で倒れてるのを見つけた。黒雪自体は嫌いだけど、紫雲と悠餓が黒雪を大切にしてるみたいだし、一応連れて帰ろうと思った時、とある3人に襲われた」 孌朱は淡々と身に起こったことをみんなに話していく。全員がそれを真剣に聞いていた。 「1人は、白銀の髪に虹色のメッシュで栗色の目だったね。確か、紫雲と悠餓と昔仲が良かった蒴挲とかいうやつ。完全に驚愕耦側だった。2人めは、茜色の短い髪に真っ赤な瞳だったね。確か、昔一回だけ接触したことがあったけど、テンションの高低差が激しすぎてキミが悪い人間だった気がする。名前は、花々だったっけな。3人めは、薄い緑色の髪に明るい黄色の瞳で眼鏡をかけてたね。徳馨とかいうやつだった気がする。まぁ、つまり、驚愕耦四天王って呼ばれてる4人のうちの屑洟以外3人に襲われたってわけ」 孌朱のその言葉に、陽主は真顔で呟く。 「よく、その強い奴ら3人と戦ってあの怪我で済んだね。義肢以外はどこも怪我してなかったよね」 陽主のその言葉に孌朱は感情を読み取らせないような笑顔で答えた。 「あの義肢、かなり頑丈に作ってたから壊れたのはショックなんだよね。まぁけど、俺が別任務で体力を使い切っていなければ余裕で勝てたかな。まずまず集団リンチって時点で弱者がやることだし。気になったことと言えば、3人と戦っている時に、近くから悠餓と屑洟の気配がした。あの2人は、気配が独特だから、関わりが多いとすぐわかる」 孌朱のその言葉に、全員が反応する。 「まず、孌朱のように気配を感じ取る力が無駄に優っているわけではない俺たちだと、その独特な気配というのはわからないけど、その気配は、ずっと続いたのかな？」 螺翠の的確な問いに孌朱は微笑む。 「あぁ。最初から最後まで、ずっとだ。けど流石にあの怪我では悠餓を探すにも探せない。いち早くここに戻ることを優先させた」 「最善の判断だね」 紫雲はそう呟きながらもため息を漏らす。 「さて、どうしようか､､､」 誰もが感情を隠すための笑顔を貼り付ける中、螺翠だけは1人、別のことを考えていた。 『悠餓を、どう処罰するべきだろうか＿＿＿』 相変わらず意味深な色気のある笑みを浮かべながら、そう考えている悪魔が1人。 本当の裏切り者、悠餓の存在に気づいた螺翠 悠餓と黒雪の事件により大分不安定な紫雲 螺翠と似ている笑みを浮かべながら、謎の特別任務を続ける孌朱 黒雪の手当てに集中する陽主 何かがあり、かなり荒れている檸檬 誰よりも冷静に、真実に近づく氷夜 孌朱を見張り続ける雲珠 失楽園のメンバーでの、微かな亀裂ができる。 そして＿＿＿ 本当の裏切り者の悠餓 悠餓が愛してやまない屑洟 この2人はなぜ驚愕耦という組織を作ったのか＿＿＿ 悠餓と屑洟と手を組んでいる、表向きは失楽園側の桜薫 未だに消息不明の花陰 少しずつ、紫雲たちの本来の目的に近づく半分忘れられた存在の菊家 螺翠を恐ろしいくらい毛嫌いしている紗英こと花苑 どこで何をやっているのかがわからない青空こと静玖 悠餓に裏切られたことへのショックで完全に気を失った状態の黒雪こと凱風 陽主との戦いの後から姿を消した青火 全員の複雑な関係が編み込まれていく＿＿＿

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 『さて＿＿＿悠餓をどう処罰しようか』 本当の裏切り者に気づいた螺翠は1人、そのようなことを考えていた。 『悠餓がこっちを裏切ったのはわかったが、背後には誰がいる＿＿＿？なぜ悠餓はあんなにも大事にしていた黒雪をあんなに怪我させた＿＿＿？』 ただ、完璧な真相へとは辿り着けていない。長い年月一緒にいた仲間だ。多少、信じたい気持ちも残っているのだろう。 「申し訳ないが、しばらく姿を消す」 メンバーにそう告げてから螺翠は屋敷を出る。悠餓を探すために＿＿＿＿＿＿ --- 「孌朱、そっちの具合はどうだい？」 相変わらず、特別任務に行くと言って屋敷を出てきた孌朱は、とある人との待ち合わせ場所で、そう声をかけられる。 「全く＿＿＿まだ待ち合わせの30分前じゃないか。何分前に来てるんだよ」 孌朱は乾いた笑いを浮かべながら、目の前にいる青年に笑いかける。 「順調だよ。計画通りに進んでる。多分、螺翠のことだし、既にある程度は行動を始めてるかな＿＿＿？」 近くのカフェに入り、コーヒーを飲みながら孌朱はそう言った。 「で、どうするんだい？悠餓の為なら、紫雲を捨てても構わないよ」 孌朱はそう残酷なことを言ってにっこり笑った。 「屑洟＿＿＿＿＿＿＿＿＿いや、俺の義理の弟の奏くん？」 にっこりと笑った孌朱は、恐ろしい秘密を抱えている。 屑洟との義理の兄弟ということ。 そして＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 実際は驚愕耦側の人間だということ＿＿＿＿＿＿ 「孌兄さん、奏兄さん＿＿＿なんで、こんな早くにいるんですか？まだ待ち合わせの15分前ですよ」 呆れたような悠餓の声が聞こえると同時に、2人は素から見せてるであろう満面の笑顔を浮かべる。 3人の集まりの名前は『祐練荘』 色龍弥よりも、失楽園よりも、驚愕耦よりも先に出来た裏の裏のチーム。 その名前を知るものは、3人以外で誰もいない --- 「単刀直入に言おうか。悠餓は敵だ」 失楽園の集まりで、螺翠は全員にそう告げる。その言葉に、螺翠以外の全員の顔に緊張が走った。 「悠餓が、裏切り者のわけがない」 一番最初に口を開いたのは、孌朱だった。滅多に浮かべない殺意のこもった笑顔を浮かべている。 「俺は一応、お前も怪しんでいる。最近の別任務とは何をやっているんだい？君が悠餓と一緒に失楽園を裏切ってる可能性だって、十分にあるんだ」 「何を証拠にそんなことを言うんだか。螺翠も雑魚になったね」 2人の争いを聞いていた檸檬は、急に立ち上がる。 「悠餓くんは、裏切りなんてするはずがない‼︎ありえない！」 檸檬の後に、紫雲ものんびりと口を開く。 「自分も、悠餓と孌朱は信じたいね。けど、螺翠がそう言うのも珍しいから、ある程度は､､､ね」 陽主は穏やかな笑みを浮かべながら、呟く。 「僕は螺翠くんを信じるよ＿＿＿」 氷夜は、感情のこもっていない冷たい目で孌朱を見ながら呟いた。 「俺は悠餓を信用しているが、孌朱は信用していない」 短くそう告げると何事もなかったかのように無言になる。そして全員の視線は、まだ今日一度も言葉を発してない雲珠のもとに動く。雲珠は穏やかな雰囲気を消し去り、鋭い目で孌朱を睨みつけた。 「ねぇ、孌朱。なんで君はこないだ、屑洟と会っていたのかな＿＿＿？特別任務があるとか言った日に、君が会っていたのはどっからどう見ても屑洟だったけど。どういうつもりかなぁ？」 探るような視線を雲珠が孌朱に向けると同時に、全員が孌朱を睨みつける。 「今のは、どういうことだい？」 極力穏やかに告げる陽主の目には、完全に殺意がこもっていた。孌朱は諦めたように微笑む。 「困ったなぁ＿＿＿渾身の注意はしていたのに。雲珠も一気に腕が上がったね。流石だよ」 孌朱が放った言葉に、否定の言葉はない。つまり、認めたのだ。屑洟と会っていたということを。その瞬間、容赦なく発砲音が響く。孌朱の顔のスレスレを鉛が通る。螺翠が、発泡したのだ。 「紫雲。俺は少なくとも、君のことも愛してたよ」 「おいっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 孌朱のその言葉と同時に、屋敷一面に炎が上がる。その中で孌朱は焦る様子もなく、堂々と立っていた。 「さぁ＿＿＿どうなるんだろうね。このまま焼かれて死ぬのか。逃げ出すことは出来てもその後煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒で死ぬのか。驚愕耦に殺されて死ぬのか。俺に殺されるのか。楽しみだね？」 不気味な笑みを浮かべながら孌朱は身を翻し去っていく。その姿を、紫雲はただただ呆然と見つめていた。孌朱は途中で足を止めると、振り返ることなく声を出す。 「紫雲、君はこんな所では死なないだろう？いつか、俺が、君を苦しませずに殺してあげる」 その声には、弟を思う兄のような感情がこもっていた。けれど、言葉はあまりにも残酷だった。 「孌＿＿＿俺h＿＿＿をz＿＿＿＿＿てi＿！」 紫雲の言葉は、燃え盛る炎によってかき消される。 思えば最初からおかしかった。 なぜ悠餓が、昔から紫雲との距離を少しとっていたのか。 なぜ孌朱が、昔から悠餓と一緒にいる時間が多かったのか。 なぜ屑洟が、昔紫雲に"あんなこと"を言ったのか。 もっと早く気づくべきだった数々のことに、紫雲はただただ炎が大きくなるのを呆然と見つめている。逃げようとはしていなかった。 「紫雲！早く＿＿＿」 螺翠に手を引かれるがままに屋敷を出る。 「ハハ＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 外に出た紫雲が、残った失楽園のメンバーの前で笑い声を溢す。 「ハハハッ＿＿＿＿＿＿フフ＿＿＿ハハッ」 不気味に笑う紫雲を、みんなは呆然と見つめていた。 大好きだった煌が大怪我をおい、 一番信用していた、一番尊敬していた悠餓に裏切られ、 兄のように思っていた孌朱にも裏切られ、屋敷に火をつけられ、 嫌っている屑洟にばかり味方が増えていく。 紫雲が抱いた感情はただの笑いだった＿＿＿

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 「ようこそ。氷夜くん。君のことだから、そろそろここに来るんじゃないかと思ってたよ」 暗い闇夜に浮かぶ影が二つ。一つは氷夜。もう一つは＿＿＿ 「思っていたとはどういうことだ？屑洟＿＿＿」 氷夜の目の前に立っている屑洟は不気味な笑みを浮かべる。 「悠餓くんがね。氷夜くんは優秀だから、いずれか証拠を辿り真実に辿り着いてしまうって言ってたんだよね」 氷夜はいつも通りの、冷たい瞳で屑洟を捉えていた。 「悠餓くんが、あんなに他人を評価するって珍しくてね。孌朱くんのことだってそんなに評価してなかった。紫雲くんのことも、そんなに評価してなかったな。君が初めてだよ。氷夜くん」 嘘か本当かわからないが、氷夜から見ると、嘘を言ってるようには見えなかった。 「まぁ、失楽園の中でここに辿り着けたのは氷夜くんだけなわけだし。折角だから歓迎するよ。それに、全てを教えてあげる」 氷夜は構えていた拳銃を静かに下ろす。今はお互い攻撃するつもりはない。その意志のあらわしだった。真実を知らなければいけない。そう感じたのだ。尊敬している紫雲のためにも。 「改めて＿＿＿＿＿＿」 氷夜を屋敷に招き入れたあと、屑洟と部屋にいた悠餓と孌朱は口を開いた。 「「「ようこそ祐練荘へ」」」 不気味な声音のその言葉は氷夜の耳に残る。 「本当に、悠餓はそっち側だったんだな＿＿＿」 ボソっと呟かれた氷夜のその言葉に悠餓は複雑そうな笑みを浮かべる。その仕草はやはりどこか、紫雲に似ていた。 「さぁ＿＿＿＿＿＿僕はね、確信を持っているんだ。氷夜くん。君は今日必ず、こちら側に寝返る」 淡々と語り出す屑洟に氷夜は眉を寄せる。 「どういうことだ？」 氷夜の純粋な問いに孌朱は色気のある笑顔で返答した。 「真実にたどり着いた。それだけで、氷夜はこっちに来る」 意味がわからないと思いながらも、氷夜はソファーに腰を下ろす。それと同時に、3人は口を開く。 「「「悠孌奏」」」 「綺麗に餓死し」 「朱色に染まり」 「恐怖を奏でる」 氷夜はその言葉をすぐ理解する。それぞれの名前に込められている意味だと。そして、3人がそれを言った瞬間、空気が一気に変わる。視界が歪むような、不思議な感覚だった。孌朱の得意な気配の察知と操り、悠餓の得意な音の反響などの計算や調整、屑洟の得意な錯覚術。それぞれを喋ることでタイミングを合わせぐしゃぐしゃに混ぜ合わせることで出来るこの空間は、この3人だからこそ出来る物だった。 「さぁ＿＿＿復讐劇の開幕だ」 屑洟はそう言ったあと、淡々と氷夜に事実のみを教えていく。氷夜の細かい質問にもしっかりと答えながら。 「ハハハッ＿＿＿＿＿＿」 しばらくして、氷夜の楽しそうな笑い声が聞こえて来る。彼がこう感情を露にするのは、とても珍しかった。そのあとも、少しだけ楽しそうに笑いながら話す。 「面白いなぁ＿＿＿」 本当に楽しそうに呟く氷夜を、屑洟は少しだけ不気味なものを見るような目で見ていた。今まで見てきた、調べてきた氷夜という人物とは大幅に異なる状況だった。その様子はまるで、殺人欲に塗れたただの狂人だった。 「まぁ＿＿＿俺の選択肢はこっちだな」 そう呟いて立ち上がった氷夜はいつもの無表情の冷たい瞳に戻る。 「潰せば良いんだろう＿＿＿？君たちと一緒に、夕晴琇という紫雲を＿＿＿主様を＿＿＿」 さぞかし楽しそうな瞳を3人に向けながら氷夜は微笑んだ。 「これだから、殺人はたまらない」 ぼそっとつぶやいた氷夜のその言葉に悠餓はため息を吐く。昔から、氷夜は謎に殺人を楽しんでいた。 冷淡な表情で冷たく光る氷の刃は、真っ暗な夜に降り注ぐ。 美しさを愛する優雅な少年は、綺麗な餓死を望んでいる。 全てを真っ赤な血に染める物は、恐怖の連鎖をもたらしていく。 クズを愛する音楽は、不気味な音を奏で続ける。 またひとつ、失楽園にヒビができる。

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 氷夜という少年は、小さい頃から何も感情を持っていなかった。すぐになんでも出来てしまい、みんなにはすごいすごいと褒められる。自分を利用しようとしか考えていない大人たちの、表向きだけの笑顔の褒め言葉に、彼は何の感情も持ち合わせてなかった。人間はただの「動いて喋る物」。生き物だとは感じていなかった。ただの物なのだ。そんな時、彼に芽生えた感情があった。何かをこの手で潰してみたい。そう思いついた彼は、道を歩いていた大量の蟻を石で潰してみた。必死にもがいている姿、それが氷夜の目に残る。 「綺麗だな＿＿＿」 まだ小学生にもなっていない小さな少年の、初めて芽生えた興味は、生き物を殺すことだった。それに美しさを感じるようになっていた。しかし、彼の楽しい時間はすぐに終わってしまう。氷夜の母親が、彼の本性に気付いたのだ。母親はすぐにそれをやめさせようとした。それが発展してしまうと、いつか人までも殺してしまいそうだったからだ。氷夜はここで、初めて人間に感情を抱く。 『邪魔だな。コイツ』 氷夜はすぐに自分で自分の身体中に傷をつけ、親戚の人にそれを見せて言った。 「お母さんにいじめられてる」 まだ小1の可愛い少年の言葉を、その傷を見て嘘だとは思わないだろう。「違う！私は何もやってない！」そう叫ぶ母親の声を楽しそうに聞きながら、氷夜は次は何を潰すかを考えていた。 親戚の家に預けられ、氷夜は少し遠くの小学校に転校することになった。新しいクラスに入った時、氷夜はひとりの少年を見つける。透き通るような綺麗な朱色の髪の少年だった。顔は整っており、穏やかな笑顔を浮かべていた。氷夜はすぐに興味を持つ。この子を殺したら、どう喚くんだろう＿＿＿？氷夜のその疑問は、氷夜にワクワクを届けていた。 「はじめまして。伊集院孌です。転入してきたばっかで、何か大変なことがあったらいつでも相談してね氷河くん」 孌という名前の朱色の髪の少年は、氷夜＿＿＿当時は氷河の胸に響く。リンとした鈴のような綺麗な声だった。氷夜は、次の日、早速孌を罠に嵌めようとした。けれど＿＿＿ 「ダメダメだよ氷河くん。僕に気づかれちゃったね」 うまく行かなかった。孌が先回りして氷夜にそう告げる。氷夜は初めて負けという概念を味わった。それは、今までとは比べ物にならないくらい衝撃的で、それでいて何か悲しくて、何か嬉しい。 「氷河くん。僕を嵌めようとした罰として、これからは僕の友達ね！」 そう言ってふんわりと笑い、氷夜に手を差し出す孌は、氷夜にとってのはじめての友達だった。 数年後 氷夜は気がつけば裏社会で氷夜という名を使って活動していた。人を殺し、騙し、奪っていく。それが彼にとっての生き方だった。仕事をしていく上で、出会った雲珠は、一つしか歳が違わないくせに、氷夜のことを随分とお子様扱いしてくる。それが最初は気に入らなかったが、気づけばそれも当たり前になっていた。 「ねぇねぇ氷夜。最近さ、なんか失楽園っていう所がめっちゃすごいみたいだねぇ」 楽しそうに話している雲珠を氷夜は無表情で眺めなら聞いていた。 「けどさ、実力者って言っても所詮は人間だよ。限界がある。どうせどいつもこいつも対して変わらないクズだよ」 氷夜には、雲珠の感情を読み取ることは出来なかった。いつも陽気で穏やかな喋り方で、のんびりとした雰囲気だが、突然恐ろしいくらいの殺意を出す時もあった。 「でねぇ氷夜。一緒に失楽園潰してみない？」 「ハ？」 突然すぎる言葉に氷夜は絶句する。何言ってんだコイツという目で雲珠を眺めていた。 「さ。そうと決まれば善は急げだねぇ。ほら。早く行こうよ」 「いや、おい、俺は行くって言ってない＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 雲珠に引きずられるがままに氷夜は暗闇に連れていかれる。 「ここ、失楽園がよく現れるらしいよ。どんな人か楽しみだね＿＿＿＿＿＿！」 「あれ？君たちもしかして、俺を探してる？」 雲珠の言葉に被せるように、氷夜からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。気配を感じ取れなかった後ろを振り向くと、青年が立っていた。 「孌＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」 「あれ？氷河くん＿＿＿＿＿＿？」 2人の間に軽く沈黙が走る。久しぶりに会った孌朱は、髪を長く伸ばし三つ編みをしており、一部を黒色のメッシュという独特な髪になっていた。小2になった時、急に孌が転校してから会うのは初めてだった。 「ん？氷夜。もしかしてその朱色の髪の人、知り合い？」 雲珠は首を傾げてそう呟く。 「あぁ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ⁉︎」 氷夜はそう答えると同時に体を伏せる。容赦なく孌が発砲してきた。 「氷河くん。今は氷夜かな？改めて名乗ろうか。失楽園の孌朱です。探してるのは＿＿＿失楽園だろう？」 氷夜は反射的に理解する。まだ、孌朱の方が実力が上なんだと。何年経ってもきっと、孌朱には届かないと。ただそれを理解した上で氷夜は孌朱に発砲する。 「孌朱＿＿＿＿＿＿今回は、君に勝ちたい」 困った顔をする雲珠をよそに、2人はぶつかるのだった。 「氷河くん＿＿＿＿＿＿強くなったね」 少しして、路上に座り込んでいる氷夜に孌朱はそう手を差し出す。 「いや＿＿＿圧勝した孌くんが言うと嫌味にしか聞こえない」 氷夜は苦笑しながらもその手を取った。 「そうそう。後ろの青年も一緒にさ、失楽園に来ない？」 突然の誘いに、雲珠も氷夜も目を見開く。 「氷夜とまた一緒にお話したいな」 昔となんも変わらない満面の笑みで孌朱はそう言った。そして2人は失楽園に入ることになる。失楽園の屋敷に行った時、氷夜は言葉が出なかった。失楽園のうち、半分が自分たちより年下だった。氷夜よりも年下の綺麗な黄色の髪の少年は、すぐに氷夜と雲珠と仲良くなった。最年長の黒髪の青年は、氷夜と雲珠に色々なことを丁寧に教えた。氷夜と同い年の水色の髪にピンクのメッシュが入った青年は、雲珠のことはなぜか避けていたが、氷夜とはすぐに仲良くなった。最年少のオレンジ色の髪の少年は、雲珠と氷夜と関わる機会が少なかったが、話せる時には沢山のことを教えた。そして、全員が行動時は主様と呼んでいた同じく最年少の仮面をつけた紫の髪の少年は、恐ろしいくらいの実力を持っていた。それはいつか、氷夜の尊敬の的となっていた。しかし、氷夜にとって紫雲は、ただの尊敬の的だった。孌朱に向けてのような好意は抱いていなかった。悠餓に向けてのような弟のように可愛がるという感情は抱いていなかった。それがなぜかは本人でさえもわからなかった。 けど＿＿＿＿＿＿ 「今思えば、それ当たり前なのかな」 祐練荘の屋敷で氷夜はふと昔を思い出していた。戻ることなど一生ない過去。全員に埋め込まれている複雑な過去が、複雑な関係を生み出していく鍵なのだった＿＿＿

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 「ｱ゛＿＿＿＿＿＿助け＿＿＿＿＿＿」 暗闇で、螺翠は1人の青年に向かって容赦なく発砲する。青年の名前は蒴挲。驚愕耦の1人だった。 「助けて？醜いな。そうやって人に助けを求めることでしか生きていけないなんて。もう少し道を間違えなければ、きっとまともな人生を送れたいただろに」 螺翠は本気で憐れむような視線を向けながらもトドメの一発を撃つ。彼は何も反応しなかった。 「あと1人＿＿＿＿＿＿＿＿＿か」 螺翠は着々と驚愕耦を潰しに来ていた。現状として、今生き残っている驚愕耦は屑洟ただ1人。それ以外は全員、螺翠が1人で殺しまわった。彼はただ目の前に倒れている悠餓や紫雲と同い年の青年を眺めている。 「何がどうなってるんだよ＿＿＿」 ボソッと呟いたその言葉を聞いた人はいない。螺翠が珍しく吐いた弱音だった。雲珠は完全にいつもとは違う冷たさで沢山のところを駆け回ってるため連絡ができない。氷夜は命が伴う探し物をしてくるから、帰って来なかったら諦めろ。と言ってどっかに行き、音信不通。檸檬は信頼していた悠餓に裏切られたことへのショックで完全に殺人を楽しむだけの話が通じないガキになった。陽主は黒雪の世話をしながら情報収集に行っているため話す余裕がない。紫雲は完全に何かが壊れた。螺翠では理解不能な動きをしているため会話が不可能。そして等の螺翠も、驚愕耦潰しのために色々な場所を駆け回っていたせいでまともな連絡手段がない。壊滅的な状態だった。 「YAYAYA＿＿＿？若いお客が1人、私の縄張で何をやっているんだい？」 不気味な声に振り向くと、そこには螺翠が見慣れた青年が立っていた。 「桜薫＿＿＿＿＿＿驚かさないでくれ。心臓に悪い」 螺翠のその言葉に桜薫は笑う 「HAHAHA＿＿＿その割には驚いてる感がないな」 螺翠はため息を吐いた後、桜薫の目を見つめて話す。 「何をたくらんでる？」 「Yaa＿＿＿失礼な。別に対して変なことは考えてないよ。ただ、ここで死ね」 容赦なく振り下ろされた何かに螺翠は潰されそうになる。何も握ってなかったはずの手に、大きな金床らしきものが握られていた。 「怪力化け物め＿＿＿＿＿＿」 螺翠はそう呟くと素早く逃げる。時には戦わないのも生きる術だ。 「おかしいな。悠餓から桜薫たちは静玖以外失楽園側だと聞いていたが＿＿＿＿＿＿悠餓が驚愕耦側ならあり得るか」 ブツブツと呟きながら、問答無用で飛んでくる鉛を避けながら逃げる。螺翠がどんなに強くても、世界最強のスパイと戦えば負ける。それは確定していたのだ。 「YAYA逃げないでくれよ。螺翠。君のためだ」 突然、螺翠の目の前に壁ができる。上から何かが降ってきて壁になったのだ。 「忘れたかい？ここは私の縄張だ」 不気味に微笑む桜薫を目の前にして螺翠は悟る。 「死ぬなら楽に死にたいな＿＿＿＿＿＿」 螺翠の苦笑気味のその言葉に、桜薫は頷きながら発砲した。 同時刻・別の場所にて 「おいおいおい＿＿＿＿＿＿ちょっと待てよ孌朱」 かなりボロボロの状態の陽主は笑いながら目の前で綺麗な笑みを浮かべている孌朱を見つめている。 「えぇ＿＿＿いやぁ＿＿＿流石に、なんかね？アレだよ。死にたくない‼︎」 相変わらずおかしなテンションで陽主はそう言いながらもどこか諦めていた。 「陽主＿＿＿＿＿＿君は最年長としてよくやってくれたよ」 孌朱はそう言うと、静かに銃を陽主に向け、引き金に手をかける。 「ありがとう」 同時刻・別の場所にて 「わぁ。本当に綺麗な黄色の髪に、可愛い少年だねぇ」 屑洟は楽しそうに目の前で血塗れでボロボロになり、拘束されながらも殺意をこめた目で睨みつけてくる檸檬を見つめていた。 「なぜっ＿＿＿＿＿＿なぜ氷夜くんがっ＿＿＿」 檸檬の目には困惑が浮かぶ。先程檸檬に攻撃を仕掛けてきた青年は、屑洟ではなく、氷夜だった。 「なぜって聞かれても、氷夜くんがこっち側だからとしか言いようがないんだよねぇ」 楽しそうに笑いながら屑洟は檸檬に発砲する。わざと殺さないように、急所から少しずらした場所に。 「何か、言い残したいこととかない？まだ檸檬くんは小さいからね。沢山聞いてあげるよ？」 優しくそう告げる屑洟は、ないと答えたら今にも殺してきそうな感じだった。檸檬はため息を吐いて呟く。 「折角なら、悠餓くんに殺されたい」 想定外だったその言葉に、屑洟は一瞬キョトンとしてからすぐに笑顔になる。 「わかった。ならそうするね」 屑洟はそう言うと無線機を取り出し、何か暗号のようなものを呟いた。きっと悠餓に向けてのものだろう。檸檬はその様子を呆然と眺めている。5分もしないうちに、悠餓はその場にやってきた。屑洟によく似た笑顔を浮かべて悠餓は呟く。 「檸檬は、苦しませずに殺してあげる＿＿＿」 悠餓の泣きそうな、けど優しそうなその笑顔をみた瞬間、檸檬の意識は途絶えたのだった。 数日後 「俺は最初から、琇のことは嫌いだったよ」 夕晴財閥2人への招待状が届いたパーティで接触した2人はそれぞれ感情を殺した笑顔を浮かべていた。悠餓から紫雲に告げられた言葉は酷く冷たかった。 「なぜ＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 「まずまず、俺は生まれた時から煌が嫌いだったんだ。孌兄さんも、奏兄さんも、俺と同じだった」 紫雲の言葉に被せるように悠餓は淡々と話す。 「煌は幼い頃から恐ろしかった。自分の好きなシナリオ通りに進めるためだけに、勝手に突き進むやつだ。これはあくまで警告だけど。煌のことは嫌っておいた方が良いよ。まぁ、琇が煌を好むように唆したのは俺だけど」 悠餓は綺麗な笑みを浮かべて言った。 「琇は本当に＿＿＿哀れに思えてくるよ。まんまと俺の罠にハマったからね。昔から、煌と2人で孤児になる前から、ただ一つのためだけに、奏兄さんと、孌兄さんと手を組んで、少しずつ進めてきたこの計画を、たかが琇が壊せるわけがない」 悠餓のその言葉に紫雲は呆然と立ち尽くす。 「ざまぁみろ」 通りすがりに耳元で呟かれたその言葉に、紫雲はプツンと何かが切れたように振り向いて叫ぶ。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ‼︎お前が病気で死ぬ前に、お前が誰かに殺される前に、俺がお前を必ずぐしゃぐしゃにして殺してやる＿＿＿＿＿＿死ぬことができないことへの苦痛を＿＿＿＿＿＿檸檬や、螺翠や、陽主をお前たちが殺した分まで全部＿＿＿＿＿＿＿＿＿全部お前に味あわせてやる＿＿＿＿＿＿‼︎」 紫雲の怒りに身を任せたその言葉に悠餓は紫雲と顔を合わせて笑った。 「出来るものならやってみろ。裏社会の"2番目"くん。忘れることはないよ。君が死ぬまで、俺はお前を苦しめ続ける。伊集院という名に心当たりはあるんだろう？ならそれを、その分の復讐を全て終えるまで、君を苦しめ続ける」 悠餓は恐ろしく美しい笑顔を浮かべて言った。 「敗北なんてありえない」 悠餓はその場を去った後、1人の少女の顔を思い出す。 「さて、花陰はどこに潜んでるのかな＿＿＿＿＿＿？雲珠と花陰はまとめて始末しないと」 悠餓のその言葉は、誰も知らない。祐練荘が企んでいる一つのこと。 それは紫雲を＿＿＿黒雪を＿＿＿ 絶望の淵に追いやる行為に近かった。 《失楽園》 ・《紫雲》…行方不明 ・《悠餓》…音信不通 ・《孌朱》…音信不通 ・《檸檬》…〇〇番地河原付近にてそれらしき死体発見 ・《螺翠》…桜薫により虐殺 ・《氷夜》…音信不通 ・《雲珠》…行方不明 ・《陽主》…◆◆にてそれらしき死体発見 《驚愕耦》 ・《花々》…螺翠により虐殺 ・《徳馨》…螺翠により虐殺 ・《蒴挲》…螺翠により虐殺 ・《屑洟》…音信不通 裏社会全体に一瞬にして広まったこの情報は、かなりの多くの人を驚かす内容だった。最強で有名な2チームが一気に消えた＿＿＿それは裏社会に住む人間全員に動揺と恐怖を遅らせた物だった＿＿＿＿＿＿

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 「ん〜予想以上にすぐぐしゃぐしゃに潰されてるなぁ＿＿＿」 「そう＿＿＿ですね」 とあるところに影が２つ。綺麗な緑の髪を靡かせながら失楽園と驚愕耦の生存表を眺めている。その隣には、カールがかかった綺麗なピンクの髪の少女が複雑な表情を浮かべていた。 「私にはもう、何がなんだかわかりません＿＿＿主様と浮雲､､､悠餓のどちらが正しいのかなんて」 ピンクの髪の少女、花陰はそう言うとため息を吐く。緑の髪の青年、雲珠はそれを軽く無視して呟く。 「花陰さ、よくあんな大怪我してたのに生きられるよね＿＿＿」 「生存することは私の得意技なので」 淡々と語る花陰を見ながら雲珠は考える。どう攻めるのが最善か。 「今は、氷夜の生存を確認したいなぁ､､､」 雲珠は完全に困った顔をしている。 「大丈夫だ。しっかりと生きてる」 「っ⁉︎」 雲珠の真後ろで呟かれたその言葉に振り向くと、相変わらずの無表情の氷夜が立っていた。 「氷夜＿＿＿＿＿＿＿＿＿良かった＿＿＿って言うと思った？」 雲珠は躊躇いなく氷夜に発砲する。 「裏切り者」 冷たく言い放たれた雲珠のその言葉に氷夜は軽く微笑む。 「流石＿＿＿観察力が恐ろしい」 雲珠はふと違和感を感じる。氷夜が、攻撃を仕掛けてこない。ただそこに立っているだけだった。 「雲珠、花陰＿＿＿来世はお幸せに」 氷夜のその言葉と同時に、雲珠と花陰は、後ろから攻撃を受ける。 「＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿っ」 後ろに立っているのは3人。屑洟と悠餓と孌朱。そして前には氷夜。雲珠は苦笑しながら呟く。 「えぇ＿＿＿＿＿＿いじめですか？」 その声は、完全に諦めた感じだった。 「大丈夫だよ＿＿＿すぐに俺たちも全員そっちに行く」 悠餓のその言葉に雲珠は違和感を覚える。なぜ、悠餓は自分が死ぬ前提で話しているのか。ただ雲珠はそれを考える暇はなかった。気力がなかった。 「あぁ＿＿＿もう＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 そう言ったかと思うと、雲珠は懐から取り出した銃で、自分に向けて発砲する。花陰はそれを見た後、何か諦めたように同じように自分に向けて発砲した。 《失楽園》 ・《紫雲》…行方不明 ・《悠餓》…音信不通 ・《孌朱》…音信不通 ・《檸檬》…死亡 ・《螺翠》…桜薫により虐殺 ・《氷夜》…音信不通 ・《雲珠》…◇◇にて自害 ・《陽主》…死亡 ・雲珠の付近で《花陰》が自害 ・《黒雪》…行方不明 《その他》 ・《菊家》…元色龍弥の屋敷にて自害。近くに「主様は世界の悪」という紙が発見された。 ・《青火》…桜薫により虐殺 ・《花苑》…行方不明 ・《静玖》…桜薫により虐殺 --- 邪魔されてる。黒雪はあっさりとその真実に辿り着く。 「悠兄さんは、絶対気付いてないと思っていたのになぁ」 本来の黒雪の計画から、悠餓たちの行動により大幅にズレた。 「まぁ＿＿＿＿＿＿絶対に失敗はしない」 黒雪は自信に満ちた顔をしていた。 「所詮兄さん達は雑魚だ。俺には勝てない。どう足掻いても、どう努力しても、俺の計画は止められない」 黒雪は足元に倒れている紗英こと花苑を見ながら笑った。 「全員殺す。仕上げの時間だ」 黒雪は不気味な笑みを浮かべる。 「思い通りにならないやつは、全員死ねば良いんだよ」

「俺はね、昔から煌が大嫌いなんだ＿＿＿」 1人の青年、悠餓はそう言った。 「琇は、馬鹿すぎて哀れになってくるよ」 紫雲が見たことのないような悠餓の笑顔。 「悠餓＿＿＿＿＿＿＿＿＿覚えてろ。お前が病気で死ぬ前に、俺が必ずお前を殺す」 と紫雲は言ったとさ 「できるものならやってみなよ。実際は俺よりも実力が低い、"偽の裏社会のトップ"くん」 と悠餓は言ったとさ 心の迷宮が、永遠に繰り出される --- 夕晴財閥と伊集院財閥＿＿＿。それはどちらも互いに切磋琢磨し合い、お互いを伸ばしていった有名財閥の二つだった。しかしそれは、ある日突然プツリと終わりを迎える。夕晴財閥の息子、夕晴琇が伊集院財閥を潰した。まだ小学生にもなっていない小さな子供の、ちょっとしたひらめきによるもので、伊集院家はすぐに破損する。当時の琇からしたら、伊集院家は邪魔でしかなかった。自分の家の繁栄を阻害するもの。それを潰すのは当たり前だった。そして、その計画を見破ったものはいないと、信じ込んでいた。しかし、伊集院家には恐ろしい子供が4人いた。養子でありながらも伊集院家の長男である伊集院孌。孌の一つ下の弟である伊集院奏。奏の3つ下の弟である伊集院悠。悠の一つ下の弟である伊集院煌。彼らは全員、気付いていた。上の3人は、破損を阻止するのは難しいと考え、別の作戦を練り始める。将来、夕晴家を殺すための計画を。しかし、煌だけは違った。ただ1人、夕晴財閥が伊集院家を潰すのを楽しみにしていた。 それは全て彼の理想の世界を作るため＿＿＿ 彼1人だけの自己満足のために＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ --- 「キャハハッ‼︎兄さん3人揃って、プラス氷夜にどうしたんだい‼︎?」 夜、黒雪の、煌の、甲高い男性の声が響く。こう、煌としての声を聞くのは実に久しぶりだった。 「あんれぇ？奥にいるのは琇兄さんじゃん‼︎」 ぐるっとあたりを見渡して、とある家の屋根の上で無表情で立っている紫雲にもそう声をかける。 「桜薫も、久しぶり‼︎あの時君が教えてくれた技術、結構役に立ったよ？」 そして、遠くの方からこちらを眺めていた桜薫にもそう声をかけた。 「全員集合ってわけだね‼︎そうそう。俺ね、怒ってるんですよ。悠兄さんは協力者だと思ってたのに。絶対に手伝ってくれると思ってたのに。生かしといてあげようと思ってたのに」 ブツブツと言葉を並べる黒雪に悠餓はただただ冷たい瞳を向けていた。その横では孌朱と屑洟が黒雪をただただ眺めている。 「俺はね＿＿＿この世界が全て滅んだ景色を見てみたいんだ＿＿＿どんくらい綺麗なのか、想像してもしきれない」 黒雪はそう言うと、手を広げて言った。 「全員でかかってこい。雑魚共が。群れることしかできないクズが。俺を殺せるはずがない」 黒雪はそう挑発すると言い放った。 「全員死ね」 化け物のようなスピードで全員に攻撃を仕掛けにいく。黒雪はその時違和感を覚える。 『悠兄さんがいない＿＿＿＿＿＿⁉︎』 全員に向かって攻撃を仕掛けたはずなのに、なぜか悠餓だけが見当たらなかった。 「ハ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」 黒雪は、"その情景"を見た直後、間抜けな声を出す。 「え＿＿＿＿＿＿は？＿＿＿＿＿＿何やってんの＿＿＿＿＿＿＿＿＿？」 黒雪のその、間抜けな声と同時に、周りにいた全員が呆然とそれを見ていた。 悠餓が、自分で自分の心臓にナイフを刺していた＿＿＿ 悠餓が自害するならもっと確実な方法を攻めるだろう。一瞬で死ねるような場所を。なぜか、小刀で自分の心臓に刺しているその情景は、誰が見ても不気味なものだった。ポタポタと血が垂れていく中、悠餓は楽しそうに微笑んだ。 「煌＿＿＿＿＿＿＿＿＿俺はね､､､君を騙して一緒にいたあの時間は、確実に君を大切にしていた。それが例え、煌を滅ぼすためのものであったとしても。だからさ＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 悠餓を寂しそうな笑顔を浮かべて近づいてくる。 「一瞬に死のうか」 「悠＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎待てっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 「悠やめろっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 「悠くん＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 「悠餓っ＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 悠餓がやろうとしていることがわかった瞬間、孌朱と屑洟と桜薫と紫雲は悠餓を止める。氷夜は、何も言葉を発せないままそれを見ていた。 「なん＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿で＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪の消え入りそうな声が聞こえる。黒雪は、自分が倒れるまでの時間が妙に長く感じた。自分が倒れるより先に、隣で悠餓が大量の血を吐きながら倒れる。 「なん＿＿＿＿＿＿＿＿＿で＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪は震えながらもう一回そう呟いた。 悠餓の本当の得意な技＿＿＿＿＿＿＿＿＿それは＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「悠兄さんっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪は、自分の隣に倒れている悠餓に向かって叫ぶ。 「なんで＿＿＿＿＿＿なんでなんでなんでなんで＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 黒雪は泣きながら悠餓を抱き締める。段々と、自分の体からも、悠餓の体からも熱が引いていくのがわかった。黒雪の周りには、誰もいない。正確には、全員が倒れていた。そして、村全体とも言えるほどの範囲の景色が、真っ赤に包まれる。建物がボロボロと壊れていくのが視界の隅に見える。 「煌＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿」 消え入りそうな、悠餓の声が響く。 「最後に君の、笑った笑顔を＿＿＿＿＿＿＿＿＿見せてくれないかい＿＿＿＿＿＿？」 「何を言って＿＿＿＿＿＿」 「煌のことはずっと＿＿＿＿＿＿＿＿＿愛してたよ」 「悠兄さんっ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿‼︎」 あたり一面が燃え盛る中、黒雪の悲鳴が響き渡る。 全てを破滅させるもの＿＿＿＿＿＿ 全てを壊すもの＿＿＿＿＿＿ 全てを裏切るもの＿＿＿＿＿＿ 悠餓は全ての裏切り者＿＿＿＿＿＿ 彼の本当の得意技は＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

10年後 「どうも~！WouTuberのさくらです‼︎今回は、あの今人気シリーズ、𝐖𝐨𝐫𝐥𝐝 𝐨𝐟 𝐊𝐨𝐤𝐮𝐬𝐞𝐭𝐮.の作者、伊集院煌さんにお話を伺いたいと思います！」 「はじめまして。伊集院煌です」 「いやぁ､､､若いですね。まだ20代ですか？」 「えぇ。20代前半ですよ」 「いやぁもう雰囲気がイケメンですね！このお話って、何か元にしたものってあるんですか？」 「そうですねぇ､､､実体験と言ったら、笑われますよね」 「実体験ですか⁉︎それは凄いですね‼︎」 「俺には、大好きな兄がいたんです。自分のために死んでしまった兄が。悠兄さんって人で、どうしても物語に出したかったんです」 「煌さんのために死んでしまったお兄様ですか。とても泣ける話ですね。と、いうことで、伊集院煌さんへのインタビューでしたぁ‼︎」 ライブ配信を終えたさくらは、スマホを閉まって煌に向き直る。 「今日はインタビュー本当にありがとうございます‼︎あの、是非良ければなんですけど、連絡先教えてもらえたりしますか？」 顔を染めながらそう告げるさくらに、煌は満面の笑顔で言った。 「無理ですよ。だってあなた、もう死にますから＿＿＿」 煌は静かに発砲する。そして彼は、死体をトランクに詰め込んで歩き出す。煌の目的地は、ボロボロになった廃都市。そこの中で、やけに整理された場所に行くと、穴を掘って死体を埋める。 「悠兄さん＿＿＿＿＿＿」 そこは彼の大好きな人が眠る場所。 「今月は、元気が取り柄のWouTuberです。これで今月も、1人になることはありませんね＿＿＿」 「僕は、悠兄さんが思っている以上に、あなたを愛しています」 --- 𝐖𝐨𝐫𝐥𝐝 𝐨𝐟 𝐊𝐨𝐤𝐮𝐬𝐞𝐭𝐮.完＿＿＿