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目次
最高のグループ_1話
新シリーズ開始!
降りしきる雨は、まるで過去の罪を洗い流そうとする天の涙のようであった。
廃墟と化した旧王都の境界線。
そこには、かつて誇り高き騎士団の一員として、
そして共に笑い合った仲間たちと共に戦った「敗北者」たちがいた。
彼らは今、互いの存在だけを支えに生きている。
しかしその胸の奥底には、消えることのない澱のような後悔が沈殿していた。
あの時、あの日、自分たちが一歩早く動いていれば。
「Red Fang(レッドファング)」という名のヴァンパイア組織によって奪われた仲間たちの
命を救えたはずだ――その思いが彼らを突き動かしている。
那央(なお)「……全員、配置について。敵の反応を確認する」
静かな、しかし芯の通った声が響いた。
指示役を務める那央(なお)の声である。
彼は冷静に周囲を俯瞰し、戦況を瞬時に把握していた。
那央「莉音は後方の回復維持を最優先。菜乃は前衛で盾となり、悠斗の突撃ルートを確保しろ。夜雨……君の魔力は温存しておけ。決定的な瞬間まで使う必要はない」
莉音(りおん)「了解! 任せてよ那央くん。みんなが傷つく前に私が治しちゃうからね!」
彼女はいつものように明るく笑った。
重苦しい空気の中に投げ込まれたその笑顔は、仲間の心を繋ぎ止めるための防波堤のようであった。
しかし、その瞳には一瞬だけ、救えなかった仲間たちの幻影が映り、切なさが宿る。
菜乃(なの)「……わかってる。私が盾になる。誰にも、指一本触れさせない」
無愛想な口調とは裏腹に、彼女の言葉には深い献身が込められていた。
彼女は巨大な防壁を展開し、最前線へと踏み出す。
強大な衝撃を受けても、彼女は決して屈しない。
吹き飛ばされても瞬時に受け身を取り、泥を払って立ち上がるその姿は、まさに守護者の象徴であった。
悠斗(ゆうと)「……あんな奴ら、まとめて叩き潰すだけだ」
人を信用しない彼は、ただ目の前の敵への憎悪のみに集中していた。
しかし、隣で戦う仲間たちに対してだけは、異常なまでの信頼を寄せていた。
彼の剣が唸りを上げ、凄まじい速度で敵の懐へと突き進む。
柚子(ゆず)「……危険。左翼から魔力波の接近。那央、指示を」
冷静沈着な判断を下す彼女は、既に周囲の魔力の揺らぎを察知していた。
那央が次の作戦を練るよりも早く、柚子は自身の魔力を展開する。
攻撃サポーターとしての役割を超え、仲間への守護本能が彼女を動かした。
柚子「……デバフ展開。誰も傷つかせない」
彼女の放った魔法は、敵の攻撃威力を著しく減退させ、味方の防御を補強する。
それは自己犠牲に近い魔力消費であったが、彼女にとっては当たり前の選択だった。
その時、戦場に異質な静寂が訪れた。
Red Fangの精鋭たちが一斉に襲いかかり、仲間の防衛ラインを突破しようとした瞬間である。
夜雨(やう)「……あぁ、月が見えない場所での戦いは……あまり好きじゃないな」
影の中に潜む少年が、ついにその身を現した。
彼は太陽を忌避し、静寂と月を愛する男。
しかし今、彼が放つ魔力は、夜の闇よりも深く、冷徹であった。
夜雨「……足りない。デバフが追いつかないなら、僕がすべてを塗り潰す」
彼は自身の膨大な魔力を一気に解放した。
周囲の空気が凍りつき、敵たちの動きは完全に停止する。
圧倒的なまでの出力。
それは彼が持つ「月への憧憬」と「仲間を守るという誓い」が生み出した絶望的なまでの力であった。
戦いが終わり、静寂が戻った廃墟の中で、6人は肩で息をしながら互いの顔を見合わせた。
勝利の歓喜はない。
ただ、生き延びたことへの安堵と、救えなかった者への悔恨だけがあった。
莉音「……みんな、大丈夫? 怪我してる人いない?」
彼女の声が震えている。
強がりな笑顔の裏で、涙を堪えているのが見て取れた。
菜乃は無言で頷き、悠斗は地面に剣を突き立ててうつむいた。
柚子は那央と視線を交わし、夜雨は再び影へと身を潜めようとした。
那央「……まだ終わっていない。我々の目的は、あの日救えなかった彼らへの報いだ」
那央の言葉に、全員が深く頷いた。
彼らは知らなかった。
自分たちが倒したはずの仲間たちが、
今もどこかでRed Fangの手によって「変質」させられ、生かされているという事実を。
かつての友人がヴァンパイアへと成り果てていることなど、まだ誰も知らない。
しかし、彼ら6人の絆だけは本物であった。
那央「約束する。……必ず全員を見つけ出し、救い出す。それが俺たちの『最高のグループ』としての誇りだ」
雨は止んでいたが、彼らの旅はまだ始まったばかりである。
次なる戦場へ向かうため、6人の影は再び夜の闇へと溶けていった。
最高のグループ_2話
数日が経過した。
廃墟での激闘から数日、一行はRed Fangの拠点を特定するための情報を求めて、さらに深い森へと足を踏み入れた。
雨は止んでいたが、湿り気を帯びた空気と重苦しい静寂が彼らを包み込んでいる。
那央「……この先の道は魔力反応が極端に薄い。何かが異常を隠蔽している可能性がある」
地図を確認しながら呟く那央の表情には、指揮官としての鋭い集中力が宿っていた。
彼は常に最適解を求める男であり、仲間の安全と目的達成のために脳内を高速で回転させていた。
悠斗「……チッ、なんだよこの空気。嫌な予感がするぜ」
腰に佩いた大剣の柄を強く握りしめ、悠斗が低く唸る。
彼は他者を信用しないことで自分を守ってきたが、隣で同じ緊張感を共有する5人の存在だけは、彼の唯一の拠り所であった。
莉音「大丈夫だよ、悠斗くん! 私たちが一緒なら、どんな嫌な予感も吹き飛ばしちゃうから!」
あえて明るい声を出すことで、張り詰めた空気を和らげようとする莉音。
しかし、彼女の指先はわずかに震えている。
回復魔法を練る際、時折脳裏に浮かぶ「あの日の叫び」をかき消すための強がりであった。
菜乃「……あのアリのような魔力反応。何かいる。前へ出る」
無愛想な言葉と共に、菜乃が身構える。
彼女は一歩前に踏み出し、巨大な防壁の魔法陣を展開した。
その背中には、かつて守りきれなかった仲間たちの命を背負っているという自覚があった。
柚子「……待って、菜乃。不用意に突っ込むのは危険よ。魔力の揺らぎが不自然すぎるわ」
冷静な分析を下す柚子の瞳には、鋭い光が宿る。
彼女は那央の指示を待たずとも、周囲の危機を察知する能力に長けていた。
夜雨「……僕も感じるよ。この森の奥から、とても『悲しい』魔力が流れてきている」
影の中に身を潜めるようにして歩く夜雨が呟いた。
彼は月のような静かな美しさを好む男だが、今感じ取っているのは死者の残り香に近い、歪な執着の気配であった。
その時だった。
森の奥から、突如として複数の影が飛び出してきた。
それはRed Fangの眷属――ヴァンパイアたちであった。
しかし、彼らの動きは異常だった。
一人の個体だけが、明らかに「人間」に近い動作で立ち止まり、こちらを凝視しているのだ。
那央「……敵襲! 莉音、防衛ラインの維持! 悠斗、前衛突入!」
那央の鋭い号令が響く。
同時に戦場は一変した。
悠斗「ハァッ!!」
爆発的な魔力を剣に込め、悠斗が地を蹴った。
彼の攻撃は正確無比でありながら、凄まじい破壊力を持って敵の群れを切り裂く。
菜乃「……通さない!」
正面から押し寄せるヴァンパイアたちの猛攻に対し、菜乃が防壁を展開する。
衝撃で地面が陥没し、彼女の体が数メートル後方へ吹き飛んだ。
しかし、彼女は着地と同時に受け身を取り、泥を払いながら瞬時に立ち上がった。
柚子「……デバフ展開! 攻撃威力を減衰させるわ!」
柚子が指先を振るうたび、敵たちの動きが鈍くなる。
彼女の魔力は仲間を守るために最適化され、一瞬の隙も許さない守護の盾として機能した。
莉音「あはっ! そんなに動けないなら、もうおしまいだよ!」
笑いながら、しかし正確な治癒魔法を放つ莉音。
彼女の手から溢れる光が、傷を負った仲間の皮膚を瞬時に修復していく。
夜雨「……これ以上は、僕の番だね」
圧倒的な魔力消費を見越した準備を終え、夜雨がその身を解放する。
彼の周囲に溢れ出した漆黒に近い紫色の魔力が、森全体を覆い尽くすようなデバフとなって敵たちを襲った。
しかし、戦いの最中、那央の目が釘付けになった。
群れの中にいた「あの個体」が、こちらへ向かって歩み寄っている。
その姿は、かつて自分たちが守りたかった仲間の一人と酷く似ていた。
那央(……嘘だろ……? あの装備、あの立ち振る舞い……)
心臓が跳ね上がるのを感じながらも、彼は指示を出し続けることしかできなかった。
仲間の命を守らなければならないという使命感が、彼の思考を支配していたからだ。
悠斗「那央! 指示をくれ!!」
叫ぶ悠斗の声に、那央は奥歯を噛み締めて答えた。
那央「……全員、全力で叩け! 迷うな!」
その言葉と共に、6人は再び剣と魔法を交差させた。
彼らはまだ知らない。
自分たちが救おうとしている対象が、すでに人間ではない存在へと変貌していることを。
そして、この戦いの果てに待ち受けている残酷な真実を。
雨は止んでいたが、彼らの心には消えない後悔と、新たな絶望の予兆が降り積もっていた。
「最高のグループ」としての誓いは、
今、最も過酷な試練へと突き進もうとしていた。