〖アムールプロープル ミュゼ〗
パリ郊外に位置する作品を見ると“ハッピー”になると噂の美術館 “アムールプロープル ミュゼ”。
美術館に保管された美術品はどこか奇妙で愛しく、優しく、恐ろしく、美しい。
そんな美術品を見ると稀に“アンハッピー”になる者が続出し、その者が美術品に魅た“魔法”を得ることができる。そんなアンハッピーな“元”来客を“美術館の警備員”として雇用し、美術品を見ると“アンハッピー”になる原因を突き止めるため、作品に込められた想いを“モンクール”は知ることになる。
_L’amour n’est pas seulement un sentiment, il est un art aussi.
続きを読む
閲覧設定
設定を反映する
色テーマ:
本文
白
黒
セピア
薄い青
緑
ピンク
設定を反映する
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
変換する
変換履歴を削除
<< 前へ
1 /
次へ >>
目次
【花が嗤って絵に映す】
prologue _アムールプロープル ミュゼ_
ガレット_食パンに焼いたベーコンと卵をのせ、野菜を挟んで紙にくるまる朝食を立って食べながら嬉しそうに美術品を飾る男を見ていた。
黒髪の美女が胸より下で腕を組み、横を向いている女性...“モナ・リザ”の《《贋作》》だ。
正式には、“微笑まないモナ・リザ”だったか。まぁ、なんでもいい。結局のところ贋作に過ぎない。
その絵画に映る仏頂面を嘲笑うように口の中でバターの香るパンを飲み込んだ。
それが終わった頃に男が振り向いて、偉そうに注意をした。
「だから、美術館内での飲食は禁止だって。マナーが悪いよ、君」
「マナーなんて破る為にあるんだよ。いちいち気にしてたら、人生が生きづらいもんさ」
「だとしてもね...淑女としての嗜みってものが_」
「ああ、はいはい。なってない、って言うんだろ?良いじゃないか、男勝りな女ってのも」
適当にありがた~いお説教とやらをかわして、ガレットが入っていた紙を丸めてポケットへ入れると足に強い痛みが走った。
足の方を確認すると、かかとに靴ずれがある。アンラッキー...アンハッピーってやつだ。
ここにある美術品を見たらハッピーになれるとか、そんな迷信みたいな話を世間様は信じるようで、昼間は来客が絶えない。
アムールプロープル ミュゼ。簡単に言えば、自惚れ屋美術館。その美術館には変な話がある。
美術品に魅いられたら、“アンハッピー”になると同時に“魔法”を得る。
そんな意味の分からない空想物語を「はい、そうですか」と信じるタマじゃないが、実際にその現象は起きていた。
魔法とやらは使ったことがないものの、近頃やけに小さな不幸が相次いでいた。
用事へ間に合わずに寝過ごしたり、靴紐がほどけやすかったりと大したものじゃないがとにかく気分を害することが多い。
例えば、恋人とのデート中なんかに財布を忘れたとか...そんなの格好がつかない。
まぁ、そんなこんなでこのアンハッピーってやつに日常的に迷惑を被られてるわけだ。
「ああ、早速アンハッピーが起こってるじゃないか。まぁ...マナーを守らないんだから、これはナイスだね」
「...そこに飾ってる贋作にペンキでもぶちまけてやろうか?」
「そんなことしてみろ、夜の警備で異変が酷くなって死にかけるぞ」
「そりゃ凄い。美術品にも心があるんだな。...お前に魔法を付与するって情けはないようだが」
「...改めて要らないと思うよ、美術館を手放すのは少々心苦しいが...」
「そんなら、館長を続ければいいだろ」
「いや、もう歳でね...今年で確か...あぁ...68歳になる」
「そんなにお歳を召されてたのか、アムール」
「レーヴさんだ。敬えよ、リル」
「何を今更...あと省略すんな、リュミエールだ」
「そんならリュミか?」
「...勝手にしろ!」
アムール・レーヴ。今日で辞めるアムールプロープルミュゼの館長及び、ただの友人。
何かの美術品にコイツも魅いられただの言ってたが、何の美術品かは覚えていない。
勝手に魅いったくせにコイツの美術品は魔法も与えずにアンハッピーにしまくってるわけだ。
趣味の悪い美術品だが、機嫌を損ねられて夜の警備で異変を起こされまくっては困るので、何も言わないが例の趣味悪美術品が何か思い出したら、イケてる落書きくらいはしてやるつもりだ。
しかし、この美術館は美術品も変なもんで、人を勝手に魅いったり、夜に異変を起こしたりする。
例えば床を水浸しとか、変な奴を呼び寄せるとか...そういう変なこと、所謂ところの異変は魔法とやらで大体対処できる。
武器でも異変を全部壊して対処できるが、効率が些か悪いし、そもそも美術館は火気厳禁かつ美術品を壊すことはダメだ。武器で美術品をうっかり壊してしまった、となったら次の館長が何を言うか分かったもんじゃない。そんなことなら、魔法の方がいい。
おまけで美術品が魅いることに関しては、単に美術品が昼間にきた来客を勝手に気に入って、魔法を付与する。その代償として、小さな不幸になる状況のアンハッピーまでも付与する。
そのおかげでアンハッピーになった人らがアムールプロープル ミュゼへ話を通し、美術品が気に入った人間を傍に置けば大丈夫なのではないか、と浅はかな考えが出た。
考えの行き着いた結論は、ひとまず主に魔法を使える奴を中心に警備員として雇用し、館長も新しく雇用するという話になった。
その過程で美術品の詳細が分かるといいな、という嫉妬深い美術品のお世話係にアンハッピーな自分も含め色んな奴らが警備員として雇用された。
雇用されたと言ってもアンハッピーになる原因の調査と夜になったら警備と名目の美術品の世話をするだけだ。世話だって軽く見回って美術品の異変に対処するだけ。
気に入った人間が異変発生というお遊びでかまってくれるのだから、美術品だって文句はないだろう。そのままアンハッピーな現象が終わればいいが。
淡い期待を抱きながら48年という勤めに幕を下ろそうとするアムールを見た。
飾った美術品の装飾が服に引っ掛かったのか何やらもたついている。
最後の最後でも、アンハッピーなことに変わりはないようだ。
「...美術館、出れるといいな」
もたついた背中に言葉を投げた。アムールがふと、振り向いて、
「なんだ、出してくれないわけないだろう?」
「いや...ここって、ほら、美術品が勝手に魅いってくるだろ。
しかも、アンハッピーとかいう呪い付きで。結構嫉妬深かったり独占が強めだったりする気がするんだよ。だから、出られなく異変を起こしてもおかしくはないなと」
「...ないよ、僕は信じてるからさ...“モンクール”だから、ね」
美術品が魅いった対象に対して言うモンクールと名前の言葉。
なんとなく、それが信頼の証のようにも感じられる。
時間が過ぎる中で解放されたような元館長が羨ましく感じられた。
壁にかけられた時計は次の雇用主と仲間が到着するまで、残り、数時間を切っていた。
【自惚屋の美術館】
鈴の音が響いた。
真っ白な空間の中に長い金髪を後ろへ括った水色の瞳の身体が黒い軍服に長細い鞘を腰に下げていた。
古いな、と初対面の女性に思ったと同時にパリにこんなものがいたことに少なからず感心した。
漫画やイラストが盛んな国であるし、そう珍しい話でもない。
「あ~...新しく入った方の館長か?」
何となく悪寒のする若い女性。お淑やかな雰囲気の中に奇妙な手応えがある。
会釈して顔を見ると頭の中で何かが弾けて突き抜けるような感覚に襲われる。
いやに強制力を持ったそれを払うようにして、あるいは感情を隠すようにして口を開いた。
「…私はアムールプロープル ミュゼの新館長、アーフレジアン・シトリックです。
リュミエール・フルール・オルガ…さんでよろしいですか?」
「ああ、それで合ってる…ずっといやに高鳴ってるんだが、お前の仕業か?」
「その通りです、などと申し上げましたら…どうします?」
「…今すぐ止めろ、今すぐだ」
確証無しに威圧をもって凄んだが、奇妙だった感覚が引いていく辺り、正解だったらしい。
何をしたのか知らないが、これまた変わったものをお持ちのようだ。
「アーフレジアン…で、いいな?何をするかは前館長に聞いてるか?」
「ええ、まぁ…昼に来客等の対応と、夜は警備に手を回せば良いんですよね?」
「…そんなところだな。で、他の奴は?」
「あら…揃っていないんですか」
「そう、だな……本格的には夜からだろうし、夕方辺りに来るのかもな」
顎を引いたアーフレジアンに背中を向け、机の上に山積みにされた書類を漁る。
確か、誰かが全ての美術品の特徴を見出していたはずだ。
書類の中の一つを手にとって目を通したと同時に後ろから視線を感じた。
---
**E-039:善人者/早摘み**
塔上の白い建物の上に白い薔薇が咲いており、その薔薇の茎を大きな|鋏《はさみ》が手をかけている絵画です。
対象者はルネ=ルイーズ・カロン。
興味本位で当館を訪れた後にアンハッピーと魔法与えられましたが、対象者による魔法の使用は禁止されました。
対象者は贈与時、「何が起こったのか分からない」「頭がおかしい」「帰らせろ」「狂ってる、アンタ狂ってるんだ」等と供述した後、足元に鋏が掠めた直後、非常に大人しくなりました。
E-039は贈与時、~~ひどく苛立ったような形で~~対象者に対し昼であるのに構わず異変を発生させました。
以下、E-039が発生させた異変です。
(対象者に贈与時)
・鋏が対象者の足元を掠める。
・~~近くで水を飲んでいた~~猫の首を鋏ではねる。
・~~アムール及び、~~特定の職員のみに鋏が飛んでくる。
(通常時)
・対象が飾られている空間が階段ブロックのように崩れる。
・頂上に咲く白薔薇を抜くまで鋏が追ってくる。
現在、E-039は対象者に対し何も行っていません。
報告は以上です。
`何が以上だ、クソッタレめ。この脅迫みたいな行動のせいで、こっちはワガママ絵画の世話を任される羽目になったんだぞ。こんなもん書いてる暇あったら呪いみたいなもん解く方法を考えてくれよ。`
追記:
ルネ=ルイーズ・カロンが200×年にE-040の近くで亡くなっているのを発見しました。
死因を調査したところ、自殺とみられます。
報告は以上です。
---
乱雑に書き殴られた赤色の文字。
他の綺麗な文字で書かれたものとは違い、別人であることが分かる。
インクは乾いていて随分と前のもののようだった。
ルネ=ルイーズ・カロン。確か、前の警備の前任者だったはずだ。
その頃はあまり美術品も異変が頻繁に発生せず、比較的には平和だったとの話だが何やらきな臭い。
しかし、今それを話しても仕方がないだろう。
後ろを振り返り、書類に目を通そうとしているアーフレジアンに紙っきれを手渡した直後、また鈴の音と複数人の足音が響いた。
---
「こんにちは」
始めに長い金髪に海のように深く美しい青色の瞳をして、茶色のブーツから上に腰へ黒いベルトが巻かれただけのシンプルな白いワンピースに身を包んだ女性が挨拶をした。
名前は…確か、星を彷彿とさせるような名前だったはずだ。
「私はネージュ・テラリウム。以後、お見知りおきを」
その言葉を皮切りに会釈を返される。
返された会釈をこちらも渡し、更に後ろの人物に目を通す。
手品師のような格好に両方を白の布で結んだ青髪、右が水色、左が黒の瞳をしたひどく陽気な男性。
淡い桃色の髪に大きめのリボンをつけてラフな格好の女性。
黒い天然のパーマを目立たないよう抑えるほど短くして、睫毛が長くやや伏目がちな葡萄に似た色味の良い瞳に、えんじ色のセーターの首周りに白く大きなリボンを結んだ白いワイシャツが見える。更に薄い色をしたジーンズズボンに灰色のスニーカーを履き、どこか陰りを帯びたような儚げな雰囲気を漂わせる男性。
短い茶髪に灰色の瞳の白シャツの上に、灰色のチェック柄ジャケットを着込み、耳の銀色のピアスが目立つ親しみやすさが感じられる明るい好青年のような男性。
クリームのようなやや薄い茶色の長髪に笑うような金色の瞳の上に黒いスーツを纏った奇妙な男性。
深く被った黒いフードの中に黒髪に刺さるような白い瞳をして、瞳の下の黒い黒子と耳の黒いピアスが目立った顔が一切変わることがない不審な男性。
長い白髪に深い青の瞳をしているものの、胸元が妙に硬そうに何が浮き出たような違和感のある女性。
こちらもクリームのようなやや薄い茶髪を一本の三つ編みにし、身の丈に合わないのかダボッとしたTシャツに短パンを履いた眠そうな女性。
手品師のような格好をした男性が嬉々としてこちらを見て、言葉を投げた。
「……やァ!僕の名はテュベフキュローズ…テュベフキュローズ・ペストノア!!
普段は道化師やってるよ!!ピエロさん?ノア?ローズ?なんとでも呼んでくれ!!」
「ああ、そりゃ選択肢が豊富で…良いもんだな、そっちの後ろの方の名前も教えてくれ」
それを境に一斉に紹介の声が響いた。
ラフな格好の女性が親しみやすそうに、
「それなら、一番手から!うちはモルフォ・フラワーだよ!モルフォって読んでね!」
儚げな雰囲気の男性がかしこまったように、
「レザン・ウロボロスと申します。よ、よろしくお願いします」
明るい好青年のような男性が気を配るように、
「俺はフレデリック・アダン・ジュイ。
…ちょっと長いからフレディって呼んでもいいよ。よろしくな」
女性を一瞥する奇妙な男性が自分を主張するように、
「俺はエーベル・ハーベスト、よろしくな」
いやに違和感のある女性が明るく振る舞うように、
「はじめまして!日向・エマです!よろしくお願いします!」
ラフな格好で眠そうな女性が諭すように、
「僕はコウガ。コウガ・ルージュだよ」
最後に、やけに不審な男性が気怠そうに、
「…ソイル・アトア…」
そう全員が挨拶をした。
挨拶の後の視線を一斉に浴び、少し照れくさくなりながら笑って言葉を返す。
何もかもが泥沼に浸かったような遅さで済ませる挨拶や仕事の説明をしている内に、あんなに高く登っていた太陽は既に沈みかけていた。
書き方を変えるか、変えないか…模索中ですが…まぁ見やすい方で行きましょうね。
本文は中々良いものができず悩んだ結果、無理やり終わらせました。
次回で来客とE-39の話になります。
下にはメスなシリンダー様のキャラクターと、故人のキャラクターのプロフィールになります。
**キャラクタープロフィール**
⑴リーセ・アルファ / メスなシリンダー 様
https://firealpaca.com/get/BTSOQFXP
名前:リーセ・アルファ
年齢:23
性別: 男性
性格:気まま(気分屋) 絵画に対してのみプライドが高く他のことに興味がない
容姿:後ろ手に一括りした濃い緑に紫のメッシュ、黄色い瞳、黒い丸眼鏡、白い紐ピアス、奇妙な服に白ベルト、黒ズボン
一人称:私
二人称:呼び捨て
三人称:あいつ(男性) あのひと(女性)
好きな物:絵画、美術館、自分のファン
嫌いな物:自分の絵を否定する人間、魚
過去:画家の一家に生まれ自分も画家を志す。兄に名声を聞いてミュゼに作品を寄贈するようになる。
寄贈する美術品の名前:幾何学の踊り
寄贈する美術品の種類:絵画
寄贈する美術品の詳細:抽象画。幾何学模様が画面に広がっている(アルファの服の模様みたいな)
寄贈する美術品が起こす異変:幾何学模様が宙に浮いているような幻覚を引き起こす
寄贈する美術品の番号:B-317
寄贈する美術品の印象:絵画というよりデザインに近い。素人に「自分でも描けそう」と言われがち
その他:無し
サンプルボイス:
「私はリーセ・アルファ。その絵を描いた画家だ。
リーセ家の絵画をご存知かい?ふぅん、気に入っている? 中々お目が高いじゃないか」
「リーセ家の人間はみんな画家なんだよ」
⑵ルネ=ルイーズ・カロン (故人)
名前:ルネ=ルイーズ・カロン
年齢:26
性別:男性
性格:野心的で大雑把、芯が強い性格
容姿:短くやや薄い茶髪に水色の瞳
乾いた肌で白いパーカー、赤茶のズボン、黒いスニーカー
一人称:俺
二人称:君、アンタ
三人称:俺ら
好きな物:運動、ココア、勉強
嫌いな物:レーズン
過去:美術専門大学 中退
武器:警棒
職業:アムールプロープル ミュゼの“元”警備員
魅た美術品の名前/別名:善人者 / 早摘み
魅た美術品の種類:絵画
魅た美術品の詳細:高い位置に咲いた白薔薇の茎に断ち切り鋏が手をかけている描画
魅た美術品が起こす異変:対象が飾られている空間が階段ブロックのように崩れ、頂上に咲く白薔薇を抜くまで鋏が追ってくる
魅た美術品の番号:E-039
魅た美術品の印象:趣味の悪さが際立って見える
魔法:火炎系列(禁止)
初来訪時の理由:興味本位
その他:故人
サンプルボイス:死人に口無し
【善人者】 α
▶(前置きが)長かったので前編のαと、後編のβに別れることにします。
他の話でもこのようになるかもしれませんが、ご容赦下さい。
少し下へ苔の生えた煉瓦壁にスプレーで描かれたストリートアートがポップな様子で嗤っている。
中性洗剤で濡らされたブラシを壁へ押し当てようとした時、何やら呟いている声が遠くから懸命に聞こえてくる。
「……あ〜……なるほど…」
そう、納得したような声を自ら漏らして呟いた別の声について考える。
大体30代前半程の若い男性の声に聞こえるが、こんな真昼に美術館の壁に落書きするなんて、さぞ暇なことだろう。
羨ましいかぎりであるし、最もそんな落書き人間を警備員が止めるなんてマニュアルにはないわけで…つまりは、ここで無視してもいい。
だが、新館長のアーフレジアン・シトリックだったか。それに怒られて給料が出ない、なんてことになれば正直タダ働きだ。
そんなことになってはこちらも困るので素直に止めてしまおう。普通の人間なら、一回の注意で済むはずだ。
---
くすんだ青味がかった灰色の髪に灰色の瞳をした縁無いオーバルメガネに黒いTシャツの上に黒カーディガンを羽織って黒いパンツ、黒いスニーカーと黒さが目立ち、左頬に怪我をしたやけに笑顔の男性。
ああいう髪色を芸術家様はアッシュブラウンだとか、長ったらしい名前で呼ぶ。効率よりも想いを込めるんだろう。
ただ、そんな|非常に熱心な芸術家《グラフィティ・アーティスト》様の作品だからと言って壁に落書きなんて行いを止める気はない。
男の名前はラパン・デュシャン=アルベール。
アムールプロープルミュゼの画家の一人で、最も手を焼く悲劇的に熱心な美術家だ。
「……熱意をもって描いているところ、悪いんだが…」
軽く先制するように釘を刺して呼びかけるが、応答はない。
ただ、手元を見るとその辺に落ちているような小石を砕いたものや土、葉っぱ等が絵の具等によって貼られて色を塗られている。
どこもかしこも暗く影を帯びた色ばかりで少なくとも気分が高揚するような作品ではない。
隣で手を動かす画家は何かしらを呟いては口を閉ざさずに「こっちの方がより美しさを…」と呟き続けている。
「なぁ、話を_」
再度、呼びかけたところに顔がぐるんと勢いをつけて向き、背筋が一瞬にして浮いたような感覚がした。
しばらく見つめ合って、またラパンの手が動きを見せた。
描き切るまでテコでも動かないつもりだろう。それなら、今度にすればいい。
何も無かったと館長にはそう言えばいいさ。
それに、こんな築50年以上も経っていそうな古い美術館にある落書きなんて苔や汚れでそう目立たない。
忠告しろと言われれば今度にすればいい。誰かが見てるわけじゃないんだ。
---
扉を開けて鈴の音が鳴った。
ブラシを持って入ろうとして、開けた扉の前にあったバケツに足を引っ掛けて盛大に転ぶ。
後手に倒れた身体は先に地面へ頭と重なった。
「っ……早期にツケでも回ったか…?」
「何のツケだよ、誰かを怒らせでもしたのか?」
「…ああ…フレディか。アーフレジアンかと思ったぞ」
「そりゃあ、なんで?」
「まぁ、その……ちょっとな…後ろめたいことが少しだけあるんだよ」
「へぇ」、と短い返事をしたフレデリックから差し伸ばされた手を取って起き上がり、感謝の言葉を述べた。
そのままフレデリックと軽く話して離れ、現館長の元へ急いだ。
道中にネージュやモルフォ、レザン、エーベル、ソイル、エマ、コウガ、テュベフキュローズに会い、会釈を返した。
警備室を開けた直後、妖艶な雰囲気を纏って椅子に腰掛けたアーフレジアンに向かって口を開いた。
「それ、切ってくれ。話をするのに邪魔だ」
「《《それ》》とは、なんのことですか?」
「魔法だよ、お前の。分かるだろ。気が散ってしょうがないんだ。
お遊び半分で人を弄ばれちゃ、こっちだって困る。お前の境遇なんか知らないが、恨まれたくなきゃ黙って切っとけ」
「……そうですか。ところで、美術館の壁にある落書きは綺麗にできましたか?」
「落書き?いいや、全く。元が汚すぎてどれが汚れかも分からなかったね」
そう言った途端にアーフレジアンの瞳が少しだけきつくなり、沈黙した。
その沈黙を諭すように破って、会話を続ける。
「まぁ、そんな怒るなよ。実際、汚い壁してるだろ?
来たばっかの人間にどれが汚れでどれが壁かなんて分かりゃしないさ。それにお前が判断できるかも、怪しいところだしな」
「…分かりました。他に、何か変わったことはありましたか?」
「ああ…ラパン・デュシャン=アルベール、可哀想な画家様がいたよ」
「…?…その方は、何かしていました?」
「いや、何も……軽く声をかけたぐらいだ」
「なるほど、何か他に言うことはありますか?」
「ないよ。あると思うのか?」
「…貴方のことですから、何か隠しているかと思いまして」
「……いや………ないよ。そろそろ警備の時間になる。マニュアル通りに頼むよ」
「…分かりました。よろしくお願いします」
まぁ、逃げることはできただろう。
椅子から立ち上がって、近くの固定電話に手を伸ばした。
時計の針は午後10時を指し示していた。
---
カメラの映像と睨めっこするエマが最初に音を上げた。
「あ〜…もう、飽きた!」
その不満がちょうど後ろでマニュアルを読み進めていたレザンに届いたのか、この男も「椅子に座って画面を見続けるだけ、なんて飽きるよね」と笑うように不満を流した。
確かに警備の仕事がカメラと睨めっこし続けるだけなんて16歳の子供や慣れてない人間には厳しいだろう。
それに加え、ただ座り続けるのだから立ち続けるよりはマシだとはいえ、精神的に来るものがある。
まぁ、数時間…2時間だけの辛抱だ。実際の業務である見回りは6時間であるし、全体的には8時間だが…何も「8時間ぶっ通しで全員にやれ」、なんてお偉いさんも鬼じゃない。
見回り勤務は交代制で、カメラだけの2時間は全員。つまりは、最初の2時間は皆でやるが、残りの4時間は一日が経つ度に違う人間がやるわけだ。
であるからにして、今日は、こういった表になり、
---
*1.モルフォ・フラワー*
*2.エーベル・ハーベスト*
*3.ソイル・アトア*
*4.テュベフキュローズ・ペストノア*
*5.コウガ・ルージュ*
---
次の日が、必然的にこういった組み合わせになる。
---
*1.アーフレジアン・シトリック*
*2.ネージュ・テラリウム*
*3.レザン・ウロボロス*
*4.フレデリック・アダン・ジュイ*
*5.エマ・ヒナタ*
---
ただ、絶対というわけでもなく、あくまで例として挙げられる。簡単なシフト表みたいなものだ。
しかし敢えて文句があるとするなら、私が美術館そのものが休館でないかぎり毎日警備にあたること。
理由は単純に他の仕事を行っていない“正社員”であることだ。一度、文句を言ったことはあるがアムールに軽く諭された記憶しかない。
優しげな雰囲気のある男だが、隠すことは隠すし、はっきりと名言しないのはそこから分かりきっている。
それに夜勤専門なんて、そういう生活習慣じゃないかぎり、慣れやしない。
要は…過労待ったナシの過激勤務ってことだ。
そんなクソみたいな話をまとめながら再びカメラの画面へ目を通した瞬間に隣で真面目に監視していたネージュがやけに驚いたような顔をして、声を挙げた。
「これ!見て下さい!」
そう画面を指指したのは、やはりE-039。自意識過剰な絵画のことだから、話をしていたらやっぱり出やがったらしい。
E-039のカメラ映像には美術館の床が階段状になり、その一番上の奥に花らしきものが飾られている。
その光景を見て、エーベルの隣に置いてあった資料に目を映した。
---
**E-039:善人者/早摘み**
塔上の白い建物の上に白い薔薇が咲いており、その薔薇の茎を大きな|鋏《はさみ》が手をかけている絵画です。
対象者はルネ=ルイーズ・カロン。
興味本位で当館を訪れた後にアンハッピーと魔法与えられましたが、対象者による魔法の使用は禁止されました。
対象者は贈与時、「何が起こったのか分からない」「頭がおかしい」「帰らせろ」「狂ってる、アンタ狂ってるんだ」等と供述した後、足元に鋏が掠めた直後、非常に大人しくなりました。
E-039は贈与時、~~ひどく苛立ったような形で~~対象者に対し昼であるのに構わず異変を発生させました。
以下、E-039が発生させた異変です。
(対象者に贈与時)
・鋏が対象者の足元を掠める。
・~~近くで水を飲んでいた~~猫の首を鋏ではねる。
・~~アムール及び、~~特定の職員のみに鋏が飛んでくる。
(通常時)
・対象が飾られている空間が階段ブロックのように崩れる。
・頂上に咲く白薔薇を抜くまで鋏が追ってくる。
現在、E-039は対象者に対し何も行っていません。
報告は以上です。
`何が以上だ、クソッタレめ。この脅迫みたいな行動のせいで、こっちはワガママ絵画の世話を任される羽目になったんだぞ。こんなもん書いてる暇あったら呪いみたいなもん解く方法を考えてくれよ。`
追記:
ルネ=ルイーズ・カロンが200×年にE-040の近くで亡くなっているのを発見しました。
死因を調査したところ、自殺とみられます。
報告は以上です。
---
資料から読み解けば、現在のE-039の異変は通常時だ。
こんな簡単な資料なら学のない|未成年の浮浪者《ストリートキッド》にだって答えは出せる。
隣で見ていたネージュが疑問の言葉を投げた。
「ここに書かれてることと、一緒ですね。資料って、そんなものなんですか?」
「ああ…資料以外のことが発生したら、それこそ“異変”だな」
少し感嘆したような声を挙げたネージュの代わりにモルフォが更に言葉を続けた。
「例外の異変もあるの?」
「稀にだよ。そうなったら、その例外もここに記載しなきゃならない。誰か、やってくれたりするか?」
質問したモルフォは何も言わなかった。他も同様に何も言わなかったが、やけに静かなコウガを指そうとして本人が寝ていることに気づいた。
しかたなく、他を見回してちょうど目があった男性がいた。
何やら奇妙な感覚に陥った。
「エーベル」
「嫌だ!そもそも、言い出しっぺがやるべきだろ?!」
「……じゃあ、お前が5連続の夜勤するか?」
「あんた、卑怯だ!」
「ああ、そうかもな。でも、子供にできるとも思えない」
「さっきはコウガを見てたくせにか?!」
「コウガを見て思ったんだよ、子供には任せられないって」
「学業の問題か?それなら、大人だって仕事があるだろ!」
「…モルフォは花屋だろ、仕事に子供も大人も関係あるのか?」
「モルフォが特殊なだけじゃないか!」
「知るかよ。いいから…」
「ソイルやテュ…ローズに今、寝てるコウガにだって出来ることだろ?!」
「その中から、お前が適任だって思っただけだ」
その言葉を皮切りに少し嬉しいような笑みの後に諦めたようにため息を吐いて椅子に腰を下ろした。
こちらも同様に椅子に座ってアーフレジアンと目が合った。奇妙な感じが頭から離れず、勘頼りに口を開いた。
「おい、魔法を切れ」
「あら……すみませんね」
|正解《ビンゴ》だったらしい。
---
「ん……ねぇ、お菓子持ってない?」
目覚めた|眠り姫《コウガ》は起きてすぐに甘味を要求した。
良いご身分だ、悪くない。ポケットにあった可愛らしい袋に包まれた小さなキャンディを渡せば、すぐにコウガは口の中へキャンディを放りこんだ。
なんでも、糖分を取れば頭痛が止むらしい。
飾られたE-039までの暗い廊下はどこを見ても真っ暗闇で、何も見えやしない。
手元の懐中電灯を点けようとして、顔に光が思いっきり射した。
驚いた声を挙げれば、にっこりと笑ったテュベフキュローズ…ローズが手元の点った懐中電灯を点けている。
「…ローズ、人の顔に向けるな」
「なんでさ!手元が見やすくなっただろ?」
「ああ、見やすかったよ。見えや過ぎる程にな」
「じゃあ、良いじゃない!ところで、魔法は使わないのかい?」
「使いたくない。懐中電灯が点いたなら、先に行ってるソイルに続いてくれ」
「…分かった、分かった…少しは笑えよな」
去り際の一言には何も言わなかった。先に懐中電灯が点いたソイルは先に動いていて、既にエーベルやモルフォ、コウガも続いていた。
中々点かない懐中電灯をやっと点けた頃には周りには誰もいなくて、一筋の光が廊下の先へ射すだけだった。
四人を追うように慣れた美術館の床へ右足を下ろした。
▶リュミエール・フルール・オルガ
武器:体術
魔法:fleur étoilée(星光花)
星型の眩い光を放つ爆発物を生成する。
爆発物の起動は、生成された星型の爆発物が中央から花の蕾が開くように約13秒で開花した時で、開花時には光を帯びた花型の種子が散布する(燃焼は不可・照明、目眩ましのみ可)
▶アーフレジアン・シトリック
武器:ストームブリンガー
魔法:Les sentiments amoureux de Sitri(シトリーの恋愛感情)
相手の恋愛系の感情を全て操作出来る。
誰かを好きになるも嫌いになるも、男女仲を良くするも悪くするも、全てアーフレジアンが決めれる。
また、恋愛感情を増減させる事も可能。
言ってしまえば誰かに恋をしている人の恋愛感情を消して何も思わなくする事も出来るし、逆に、恋愛に興味の無い人の恋愛感情をめちゃくちゃ増幅させて誰にでも手をつける様な下心しか無い色欲狂にさせる事も出来る。
完全に色欲系能力で、自分自身には使えない。
▶ネージュ・テラリウム
武器:トレンチダガー
魔法:スルマン ドゥ モヮ テラリウム
星を操る。見ている星の位置や輝きを調整したり、星形の魔法弾を出したりするほか、魔法弾を流星群のように降り注がせたりボールみたいに投げたり飛ばしたり出来る。
▶モルフォ・フラワー
武器:花鋏
魔法:吸引すると、様々な症状(毒をおったり、めまい、頭痛、呼吸困難、体のしびれ等)を引き起こす胞子を放つ蝶を生成する。
自分には耐性があるが、味方にも影響が及ぶ。
▶レザン・ウロボロス
武器:十徳ナイフ、素手
魔法:Toxine émotionnelle(感情毒素)
人物・生物・自我を持つ物体の「感情」を、ゾル状で色のついた液体として取り出すことができるが、対象に手で触れている必要がある。
取り出す感情によって色と性質が異なる(例:悲しみ…藍色で冷たく、周りの水分を凍らせる 等)
どれ程取り出すかは調節できるが、該当する対象の「感情」は液体として取り出した分鎮まる。
一度に取り出せるのは言葉で表せる感情一つのみ(後から混ぜる事は可能)。
液体は飲ませる事で対象にその感情を引き起こすことができるが、そもそも飲ませるのが危ない性質の物もある為、注意が必要。
液体は取り出して3時間で消失する。
▶フレデリック・アダン・ジュイ
武器:電動ガン
魔法:知人を自分のいる地点へ召喚させる
▶エーベル・ハーベスト
武器:投げナイフ
魔法:引き寄せ
(物、人を遠くから手にとることができる)
▶ソイル・アトア
武器:黒百合の剣
魔法:ラピス
3分間全てのものを切れるようになる(使用時に最悪の場合気を失う。良好な場合、吐血)
▶エマ・ヒナタ
武器:小型ナイフ
魔法:空白の空間から花を出せる(薔薇の茎、毒花 等)
▶コウガ・ルージュ
武器:双剣
魔法:仲良しな天使さんと悪魔さん
槍を所持した天使と悪魔が一緒に戦う。
双方が攻撃した場合、攻撃を食らった相手は寿命を奪われる。
▶テュベフキュローズ・ペストノア
武器:トランプとステッキ
トランプ···投擲武器 ステッキ···鈍器
魔法:La peste de la fin(終焉の疫病神)
過去に流行り、世界を混沌に陥れた疫病(ペストや結核、天然痘など)を生成し、相手に感染させる事が出来る。
過去にはこの魔法で国1つ滅ぼしたこともある様子。