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目次
春
晴瀬です。はるせと読みます。
1作目です。
死んでしまいたい少年の話です。
5月。
こんな暑くなるとは思わなかった。
梅雨入り前なんじゃないのか。
まあ、どうでもいいか。
暖かい。暖かい日。
14歳の年だった。
僕は今年、14歳になるはずだった。
なんて言い方は変か。
死ぬことは、死ぬことに夢を憶えた。
生きることに絶望を感じた。
生きたくなかった。死んで死んで死んで死んでしまいたかった。
何も考えられない。
何も考えたくない。
笑えない。
泣けない。
怒れない。
喜べない。
悲しめない。
僕は生きた亡霊のようだった。
階段を上る。
無機質なコンクリートの汚い階段。
きっとほとんど掃除していないのだろう。
隅に埃が見えた。
ふー、と細く息を吐く。
ドアノブに手を掛け回して押す。
屋上。
雲ひとつない青空、なんてことはなく晴れているのに辺りは暗かった。
僕の雰囲気かななんて考えて独りで失笑した。
死ぬのなら学校がいいと思った。
1年過ごしたこの学校で、飛ぶ。
僕は鳥になる。
引き金も分からない。
なにがきっかけだった。
なにが原因だった。
始まりは、終わりは。
僕がここに入学したときから、間違っていた。運命は決まってた。
静かに深呼吸した。
何度も、何度も。
屋上の飛び降り防止なんだか転落防止なんだか知らないけどあってもなくても同じのフェンスを飛び越える。
このフェンスは何を守ろうとしていたのだろうか。
何も守れない。僕と一緒。
守ったふりをして、恰も守っているかのように取り繕って。
馬鹿で愚かだった。
辺りを見回す。
高いビルと低いビル、家家家。
真下を見下ろしたって人通りは少ない。
きっと誰も巻き込まずに死ねる。
ああ、やっとだ。
感嘆。歓喜。
久し振りの、感情。
この学校に泥を塗りたくり、家には偽りの悲しみをプレゼントする。
きっと家族は喜ぶよ。
表では泣き、裏では喜び笑うだろう。
それを僕はどこからか見ることができるだろうか。
そうして、僕は死んでいく。
目を閉じて、開ける。
何度か繰り返し後ろを振り返る。
何気なく、なんとなく振り返った。
息を呑む。
「なん、で」
ぽろりと言葉が漏れた。
桜が、生えていた。
屋上に、屋上に。
4階の屋上に。
コンクリートの地面に、木が、立っている。
土もない。水もない。
ただのコンクリートに。
「………え」
意味が分からず桜に近付く。
不思議と恐怖はなかった。
何が起こってもおかしくないのに。
満開。満開の桜。
鮮やかなピンクだった。
桜を見上げる。
考える。
少しずつ息が荒くなるのを感じながら幹に触れた。
目を閉じる。
時間が過ぎる。
このまま逝けそうな気がする。
僕は桜を利用してそこから勢いよく駆け出した。
僕は飛ぶだろう。
きっといつか。
でもだったら、もっといい日を選びたい。
桜の日でもいいかもしれない。
土砂降りの雨の日がいいかもしれない。
炎天下の日でもいいかもしれない。
紅葉の日でもいいかもしれない。
雪の日でもいいかもしれない。
でも、今日は嫌かもしれない。
こういう話をよく描きます。
結末が結末っぽくないふわっとした物語です。
死んでもいいけど、今じゃないかもしれない。
そんな話です。
読んでくれてありがとうございました。
独白
晴瀬です。
独り言を言う少年の話です。
僕の話、聞いてくれるの?
へへ、ありがと。
僕のさ、めちゃくちゃな人生だったんだよね。
聞くのも、面倒で気持ちが悪くて胸がもわもわするような本当にやな話。
いつも死にたいって思った。
でも思うだけでさ、行動に移す勇気はこれっぽっちもなかった。
死にたいのに、死ぬことが怖かった。
殴られることが、蹴られることが、罵られることが当たり前になった。
お母さん、新しいお父さん。
何故僕を嫌うのですか。
何故僕に構うのですか。
何故僕を見るのですか。
何故僕に暴力を振るうのですか。
何故僕に、たまに優しくするのですか。
期待してしまうのです。
今日優しかったなら、明日も優しいのではないか。
これまでが夢で目が覚めたら皆優しくなって僕に笑いかけてくれるんじゃないかって期待してしまう。
いつもいつもそんな夢を見て、起きて、絶望する。
世界は何も変わらない。
友達もいない。
家族なんかいないも同然。
僕に頼るところはない。
面白いよね。
つまらないくらい面白い。
死ねって死ねって死ねっていつも言いたくて、言えない。言えなかった。
何も変わらないこの環境にも糞なこの世界も、それをしょうがないと受け入れようとしている自分にも。
全部死んでほしかった。
隕石でも落ちて、人類絶滅しないかなって、想像していつまで経っても隕石なんて落ちてこなくてまた絶望して失望する。
そんな毎日の繰り返しで、ある日僕は問いかけるようになった。
自分に。
何故生きているのかと。
何故お前は生きている?
何のために生きている?
自分のため?
これが自分のためになっていると思うか?
人のため?
これが人のためになっていると思うか?
なっていないだろう。
なっていないだろう。
死んでも同じ、生きても同じ。
なら、親という都合のいい言葉を都合良く使う|彼奴等《あいつら》を、彼奴等のサンドバックをなくして苦しめてやろうよ。
ねえ
僕が死ねば彼奴等は怒り狂う。
彼等のストレスの行き場がなくなって、どうすればいいか分からなくなる。
きっと僕と同じ状態になるんだろうよ。
僕みたいに何故生きているのか分からなくなる。
やっと働き出した脳に問い掛ける。
何故自分は生きているのだろう、と。
母親はどうするだろうか。
父親と名乗る彼奴は。
今の彼奴等の脳味噌は働いていない。
体だけ動かして溜まったストレスを僕に当たり散らして。
僕を失ったら、お前らは生きていけないだろう?
ああ、面白い。
楽しくて楽しくて仕方がない。
こんな想像に夢を憶えるようになったってことは遂に僕も終わりだ。
おしまいだ。
長い長い|噺《はなし》を聞いてくれてありがとう。
僕はこれから忙しいからさ。
ねえ、彼奴等どうなるかな。
彼奴等、僕がいないと生きていけないんだよ?
ねえ、ああ、楽しいよ。
とても楽しい。
愉快で愉快で仕方がない。
僕は、いなくなる。
ああ、僕がいなくなるんじゃない。
彼等に従い続けた馬鹿な奴がいなくなるだけ。
僕はいなくなったって彼奴等を見て笑うさ。
どんな風に周りに演じるか。
どんな風に怒るのか。
どんな風に狂うのか。
ああ、観察だ。
死んでしまうことに、夢を憶えるよ。
僕みたいに思う人は何人いるだろうか。
桜。
ちょうど桜が見えた。
綺麗。
でも、死んだら桜にでも生まれ変わって死にたい人を助けたり、したいかな。なんて。
あ、もう時間だ。
早くに発見してもらいたいんだよ。
血塗れの僕を。
1番憎い彼奴等に、血塗れのぐったりした僕を。
そろそろ彼奴等は帰ってくる。
ナイフを握る。
大きなナイフ。
料理をしないくせに、母親が買ってきた。
大ぶりのナイフ。
こんなことに使うとは思いもしなかった。
柄を持ち、ナイフの刃先を自らのお腹に向ける。
死んでしまえ。
自分も、彼奴等も。
僕は手に力を込めた。
桜は散った。
祈り
晴瀬です。
単語シリーズのいつものより重くない、はず。
死にたいという友達を生かしてほしいと祈る少年の話です。
病室のドアを開ける。
「チヒロ」
自分の友達を呼ぶ声が、決して広くはない病室に響く。
その声を聴いて、チヒロ、と呼ばれた少年は微笑んだ。
その少年は1ヶ月前、持病で倒れそれから今までここで暮らしている。
自分が永くないことも、分かっていた。
今入ってきた少年はルイトといった。
ルイトは一人で病室に入る。
いつものことだった。
「おう、チヒロ元気か?」
笑顔でそう聞かれたチヒロは「元気だよ」とそれは嬉しそうに笑った。
元気なわけないと、チヒロも、ルイトすらも理解していた。
それでも受け入れたくなかったのは2人とも同じだったのだろう。
「いつ、げん―、帰ってこれそ?」
少年は「いつ元気になれる?」という問いを呑み込みいつ学校に戻れるか聞いた。
「元気?」「元気だよ」
そんな会話をしたばかりだったから。
ベットの上に座るチヒロを見て、ルイトは笑った。
優しい、笑顔だった。
「そうだなぁ、また戻れるよ」
チヒロは感情に|塗《まみ》れてしまわぬよう無理矢理にでも笑って答えた。
ルイトに、ルイトにはトレードマークの笑顔を絶やさないでほしかった。
「そっかー。じゃあ戻ってきたら、また遊ぼうな!」
チヒロは笑った。
泣き笑いにも見える笑顔だった。
幾つか会話を交わした。
何事もない、毎日を語り合った。
突然、黙ってチヒロがルイトの目を見た。
ルイトもその目を見つめ返した。
「別に僕は、嫌じゃない」
暫く見つめ合っているとチヒロが突然言った。
「何を、何が?」
ルイトは困惑したように顔を顰めた。
何が言いたいのか、分かっているのに見たくなかった。
「死ぬの」
さらりとチヒロは笑った。
「僕死ぬの嫌じゃない」
ルイトは眉を歪めた。
何を言い出す、と声に出そうとするもチヒロの声に咎められる。
「でも不安なんだ」
ルイトは黙っていた。
「ルイトが、皆をまとめられるかさ」
ルイトはこの春からクラスで学級委員長を務めていた。
チヒロは副学級委員長だった。
「それよりお前はお前の心配をしろ…」
「ルイトは、心配すると僕のことをお前と呼ぶ。
ルイトは嘘を吐くのが下手。
優しくて正直だから。
1ヶ月前に僕の病気がまた暴れだした。」
ルイトの口を塞ぐようにチヒロの口から言葉が飛び出ていく。
開いた窓から風が吹き込んだ。
2人の髪が揺れる。
その風につられるようにチヒロは小さく笑った。
「僕、すっごい幸せだった」
「だった、って――」
「もういい」
「もういいんだ。全部分かってるし、無駄な抵抗、する気もない」
チヒロは笑顔を崩さない。
その笑顔は、強い意思を表していた。
「これからも、ぜってえ幸せにしてやるから。
黙って治してろよ」
チヒロは静かに笑った。
家に帰ると、ルイトはすぐさま布団に飛び込んだ。
眠くて堪らなかった。
その日は夕方までチヒロのもとにいて喋り尽くしたのである。
その話をチヒロは嬉しそうに、そしてどこか寂しそうに聞いていた。
最後にルイトは躊躇いがちに言った。
「音楽会、絶対来いよ」
「……何日だっけ?」
少し間が空いて、チヒロはルイトの顔をベットから見上げた。
「……2ヶ月後」
またルイトも少し間が空いてから口を開いた。
「そっ、か」
チヒロは小さく呟いてからルイトの方へ向き直る。
「行けると思う。僕、頑張るから」
「こっちも頑張る。お前は、うん、とにかく頑張れ」
ルイトはその夜夢を見た。
真っ暗な空間で、真赤な瞳が2つこちらを覗き込んでいた。
ルイトはその雰囲気に圧され膝から崩れ落ちる。
恐怖。
「嫌だ」
辺りが少しだけ明るくなり真赤な目の主の全貌が露わになる。
悪魔だと思った。
よく映画やドラマや本などで見る悪魔そのまま。
大きくそして真赤な口を裂けるばかりに釣り上げて愉快そうに悪魔は言った。
「お前の願いを1つだけ叶えてやろう」
「え?」
「但し、代償はある。解るだろう?」
辺りは静寂に包まれていた。
あまりの音のなさに耳が痛んだ。
「俺、友達の病気を治してほしい。
友達、|茅洋《ちひろ》っていうんだ。
病気、治らないかもしれない。だから、俺の命を犠牲にしていいから、そいつの病気治してほしい。お願い。
お願いです。」
饒舌に口が動いた。
真っ暗な空間に、ルイトの声が大きく|鼓弾《こだま》した。
「祈るんだ。毎日、祈るんだ。願いが叶うように」
息の音がしない、悪魔の声が少年の耳に響いた。
「祈る…」
ルイトはその言葉を復唱した。
何度も。
寝返りを打った拍子に壁にぶつけた頭の痛みで目が覚めた。
夢だった。
すべて夢だった。
それでもやけに、あの血のように真赤な目を、真赤な口を鮮明に覚えていた。
ルイトはその朝から毎日、朝起きて、昼ご飯を食べる前、夜ご飯を食べる前、夜寝る前、祈るようになった。
あの悪魔を、疑うくらいなら信じて僅かな可能性に賭けてみたかった。
神でも仏でも悪魔でもいい。
チヒロの病気が治るならそれでよかったのだ。
そんな夢を見てから1週間、ルイトの学校では音楽会の練習が本格的に始まる頃だった。
「な、なんででしょう」
チヒロの主治医がパソコンの画面を見ながら驚きの声を上げる。ここは病院。
医師は、だいぶ噛み砕いてチヒロの母親と父親に言った。
病巣が少し、小さくなっていると。
チヒロはまた病室に遊びに来たルイトに言った。
「僕の病気、ちょっとずつ治ってきたんだって」
ルイトの脳裏にあの赤が浮かぶ。
眩しいほどの鮮やかな赤。
悪魔の瞳だった。
悪魔の、言う通りだ。
祈ったから。きっと、祈ったから。
ルイトはとても喜んだ。
本気で、叶ったと思った。信じてよかった。
良かった、と安堵した。
もっと祈れば、きっと病気が完治する、今日のチヒロの笑顔を思い浮かべながら考える。
俺が死んだって、チヒロが生きるならそれでいいと。
そして祈った。
時は過ぎ、それから3週間後。
「ルイト?」
チヒロがルイトの名を呼んだ。
今ルイトは、昼ご飯前の祈りの真っ最中だった。
今日は2人でお昼を食べようとルイトはお弁当を持ってきていた。
ルイトが組み合わせていた手を解き態勢を楽にしたところでチヒロはまた呼んだ。
「ルイト?何してたの?」
「んー」
「この前、夢見てさ。悪魔、出てきて。
願い叶えてやるって言うからチヒロの病気が治るようにお願いしたんだ。
その代わりに俺が死んでもいいからって…」
ルイトは途中で口を|噤《つぐ》む。
要らないことを言ってしまった。
「………、」
チヒロは長く黙り、そして息を吸った。
『その代わりに俺が死んでもいいからって』
自分を犠牲にして、自分を生かそうとしていたことに気付いたから。
複雑な心境だった。
「…や、でも夢でしょ?悪魔でしょ?そんな、嘘だよ。
それに僕を生かすためにルイトが死ぬ必要ない。
僕も死ぬ覚悟できてっし」
焦り、そして怖かった。自分ではなくルイトが死んでしまうのが怖かった。
強がり、チヒロはそう言った。
チヒロは笑って、しっかりしろ、とルイトの背中を叩く。
その力は、悲しいほど弱かった。
悪魔だ。悪魔なら裏切りどちらも死んでしまうかもしれない。
チヒロはそう思う。
「でも…」
ルイトがチヒロの顔を再び見る。
「でも、万一のことを考えてそれはやめて。
もし本当に僕が治ってルイトが…なんてことになったら絶対駄目。
僕は死ぬの。死んでしまうから」
ルイトはベットの上の弱ったチヒロを見て顔を顰めた。
出来るなら、自分も、チヒロの病気も治ってほしかった。
自分と友達、大事な順番がつけられるものではない。
「だからもう、祈るのはやめてね」
「なんで、」
とルイトから言葉が口を憑いて出た。
「俺だって死んだっていい。チヒロが生きるならさ。
それに皆をまとめられるってチヒロの方が上手いし」
「そういう問題じゃなくて。だってちょっと治ってきてるって、言ったじゃん」
「それは、俺が、祈ったからでしょ?」
ハッ、とチヒロは口を閉じた。
祈ってたから?祈ってたから、僕の病気が治りかけた?
「…チヒロ、チヒロは生きるべきだから」
ルイトは苦しげに言葉を絞り出した。
ルイトが、もしこのまま祈り続けたら本当に願い通りになる。
ルイトは死んで自分は生きることができる。
そう思う。
嫌だと思う。
凄く、|途轍《とてつ》もなく、嫌だ。
僕はもう、死んでしまいたい。
苦しい。苦しい。苦しいのだ。
苦い薬も、味がしない食事も、簡単には動けないこの生活も、友達とも遊べない時間も、すべてが嫌だ。
もう、死んでしまいたい。
楽になりたい。
死んでしまいたいんだ、|瘰飛《るいと》
分かってくれ。
チヒロは黙って微笑んだ。薄く、小さく、微笑んだ。
「ルイト、ルイトは死んじゃいけない。ルイトこそ必要とされてるし、僕はもういいから」
死にたい、とチヒロは一言も言わない。
ルイトに知られたくない。
ルイトには、いつも落ち着いた静かな子だと認識されていたい。
「ねえ、チヒロ」
ああ、やっと分かってくれるか、瘰飛。
「チヒロ、何隠してる?」
え……、と声が漏れる。
「チヒロなんか隠してるよね?」
初めてだった。ルイトが鋭いこと言うなんて。
鈍かったじゃないか。鈍感だったじゃないか。
なんで、そんな。
「隠、してない、よ」
息を吸うのが、不自然になった。
少し目が乾いて、赤くなっている気がする。
ドライアイで、目が潤んでいる気がする。
「チヒロ、泣いてる?」
やっぱりルイトはこれだ。
これが一番なんだ。
本当に、"察し"ができない奴なんだから。
「でも絶対、隠してるよね?何か。何考えてるの?何を思ってんの?
教えてよ。分かんないから。隠し事されて死ぬのはさすがの俺でもやだ」
ルイトは一息で勢いよくそう言った。
チヒロの目を見る。
はあ、と溜息を吐いた。
「死んでもいい、じゃなくて、死にたい。
薬も苦いし、ご飯も不味い。簡単には動けないし誰とも遊べない。話し相手って言ったら時々体温測りに来る看護師さんとか、親とか、ルイトとか」
ルイトは黙っている。
考えるように瞳孔が動いている。
「楽しく、ないよ。元気にならないよ。
元気になってね、そう言われるたび苦しいんだよ。元気になりたくないって、このまま死にたいって思う自分がいて。
やだよ。もう、しにたい。しなせてくれよ」
最後は、言葉を、声を絞り出していた。
チヒロの口から嗚咽が漏れる。
治りたい、と願う時期があった。
元気になりたい、と祈る時期があった。
でもそれも、すべて幻想だ。幻だ。
「ルイトは、違うんだよ。僕とはさ、境遇も性格も、個性も、出来ることも、全部、全部。
体の強さだって違う、顔も違う、ねえ、運動できるのはどっち?皆を笑わせられるのは?
ルイトだろ。
ルイトなんだよ。神様はさ、僕じゃなくてルイトを選んだんだよ。
神は僕を見捨てたんだよ。
ねえ、お願い、分かってよ。このまま死んじゃいたいんだ。
楽に、なりたい」
何度拭えど頬に流れる涙を堪えながら途切れながら言う。
「神様は、ルイトを選んだ?」
ルイトがチヒロの言葉を繰り返した。
チヒロが俯いていた顔をあげる。
ルイトが、チヒロの瞳を見ていた。
「…………」
チヒロは黙っていた。
親指の付け根辺りで頬を拭う。
「悪魔はお前を選ぶかもしれない」
チヒロのすべての動きが止まる。
ルイトは、やる気だ。まだ、祈る気だ。
「神が見捨てても、悪魔は見捨てないかもしれない。
悪魔も、見捨てるかもしれない。
でも俺はさ、お前を見捨てたくないんだよ」
自分の、目に溜まった涙が落ちた。
真っ白で清潔なシーツにシミを作る。
「俺は、見捨てたくない。
俺は、見捨てない」
「もし、俺が…そうなっても恨まないで。
茅洋には、笑っててほしいから」
ルイトの目の端に浮かぶ涙が見えた。
「……瘰飛」
そう名前を呼ぶ声は掠れていた。
「ごめん」
ルイトは最後まで優しい声だった。
優しい顔だった。
優しい言葉だった。
優しい口調だった。
死にたいと言うチヒロに何も言わず、ただ見捨てたくないと言った。
感極まって、色んな感情が|綯《な》い交ぜになって、ルイトがいなくなった部屋でただ独りで泣いた。
声が漏れる口を白い布団に押し当て音を殺した。
いつの間にか、朝になっていた。
目が腫れているのを感じて、小さく溜息を吐く。
なんて、言い訳をしようかと考える。
はあ、とまた先程より大きく溜息を吐いた。
---
あれから、5ヶ月だった。
ルイトは毎日病室に訪れた。
あの日に触れるような会話を避けていた。
「音楽会…残念だったな」
ルイトは時々そうチヒロに言う。
音楽会に参加、見れなかったことをチヒロよりもルイトが悲しんでいた。
ルイトはいつも笑顔だった。
トレードマークの笑顔を崩さずにチヒロに笑い掛ける。
チヒロもまた微笑みながら笑い返す。
---
それから、1ヶ月。
「瘰飛?」
茅洋は小さな声で呟く。
その声に、応える者はもういない。
「瘰飛?」
式場は騒然とする。
茅洋は呼ばれていなかった。
パニックになってしまう、とあの会話をこっそりと聞いていた茅洋の母親が考慮したためだった。
まさか、誰も本当だとは思わなかっただろう。
茅洋は椅子と椅子の間を歩く。
「瘰飛」
|譫言《うわごと》のように何度も彼の名を呟きながら近付く。
彼は静かだった。
寝ている、と茅洋は思う。
彼の遠い親族が茅洋に対し「この子は誰だ」と叫ぶ。
茅洋を知る者も、誰も声を上げない。
茅洋の行動を見詰めていた。
息が詰まる想いだった。
「瘰飛、起きて」
静かな、この部屋に茅洋の少し高い声が響く。
顔元の小さな窓を開けて、茅洋はその中に手を入れ瘰飛の頬を触る。
まるで小さな子供のように動いていた茅洋は小さく息を吐いた。
「ふ…」
少年の息の音が、飛ぶ。
「ばか」
「瘰飛、ばかだ。」
途切れながら続く言葉に部屋中の人が耳を傾けた。
時折|洟《はな》を啜る音が聞こえた。
「僕さ、歩ける足、いらない。
命、いらない。
美味しい料理、いらない。
みんなと遊べる、時間、いらない。
苦い薬、飲む。
だから、だからさ、瘰飛、戻ってきてよ。
僕のために、もう、何もしないで。
瘰飛、なんで死んだんだよ」
真黒い棺桶の前で崩れた茅洋を誰も咎めない。
茅洋は叫ぶ。
そして知る。
瘰飛の想いを、考えを。
そして気付く。
自分が、これからどうすべきか。
「瘰飛、瘰飛…」
茅洋の声に力はない。
「なんで、祈った、んだよ」
ばか、と声に出そうとするも声にならない。
『死にたい人に、生きてほしいって言っちゃダメだと思ってた。
でも時折茅洋は窓見てるんだよ。
病院の中庭を。
そこではさ、小さい子が元気に走り回ってるんだよ。
楽しそうに。
それを茅洋はいつも羨ましそうに見てた。
いつか、いつか、自分もって、思ってたでしょ。
一緒に遊ぶ約束したのに…ごめん。
茅洋にはいつも笑っててほしいから。
トレードマークの笑顔を、絶やさずに生きてほしいから。
これは俺の、最期のお願いだからさ』
茅洋は空を仰ぐ。
そこには何もない。空間が、広がっているだけだった。
瘰飛みたいな友達がいたという事実だけで生きていけるような気がした。
生活にハンデもない。
今、幸せなのだと思う。
今、幸せだと思えない自分がいることも、分かっていた。
ポケットから小さな封筒を出す。
そこには手紙が入っていた。
棺桶に入れると、茅洋は頬を拭った。
あの日のように、零れる涙を堪えた。
「瘰飛、大好きだった。今まで、ありがとう。
あっちで、読んでね。手紙書いたから。
あと、60年くらいしたら僕もいくから、待っててよ。
瘰飛の分も生きてみるから」
泣いて赤くなった目を、少し手で覆いそれから茅洋は笑った。
引き攣った笑いではあった。
それでもあの日のように、優しく笑顔を作った。
瘰飛が笑う、気配がした。
中途半端なハッピーエンド
玉響
晴瀬です。
ぺんぎん様にリクエストして頂きました。
ありがとうございます。
幸せな少女の話です。
学校から帰って、鞄をリビングに置く。
すーっ、と息を吸って、吐く。
何度か繰り返して、走って帰ったせいで荒れた息を整えスマホとイヤホンを取った。
家を出て、裏山を登る。
家の裏には小さな山があって、私はその山に登るのが好きだ。
木が多くて、大きくて涼しいけど暖かいんだ。
頂上まで上がったらスマホから音楽を聴く。
イヤホンを耳に挿してプレイリストを開く。
静かに流れる音楽につられて目を閉じた。
息を吸う。
酸素が私の体に染み渡る。
はあ、と息を吐けば風が吹いて木が揺れた。
ザアザアと葉が擦れ音をたてる。
音楽がサビに入ったところでもう一枚上着を着てくればよかったかなとすこし思った。
下の方から子供の声が聴こえた。
音楽に混じって楽しそうな笑い声が響く。
幸せだと、思う。
幸せだ。
私はこの瞬間があるだけで生きていける。
静かな音楽に、風に、緑に、葉や土の匂いに。
『|玉響《たまゆら》』そんな言葉を聞いたときこれだと思った。
私のこの瞬間は、玉響だって。
しんみり、幸せを実感する。
瞼をゆっくり持ち上げてぐーっ、と大きく伸びをした。
私は一歩、踏み出す。
山を下りて家までの道をゆっくり落ち着いて歩いていく。
鍵を片手に、ジャラジャラと鍵とキーホルダーが当たる音を聴く。
ドアの前で、鍵を開け外に引っ張る。
ふわっと鼻孔をくすぐるのはカレーの匂い。
「ただいま」
と言えば
「おかえり」
と返ってくる。
その声に、その匂いに、そのいつも変わらない風景に、私の顔は思わずほころぶ。
「お母さん、私幸せ」
「ん?何。何急に。変なこと言うのね」
ふざけてんお母さんが肘で私の肩小突く。
そんな日常が私は好きだ。大好きだ。
私は玉響を大事にして、この幸せを噛み締めていたい。
「私も幸せよ」
お母さんが言う。
「ふふ、そうでしょ?」
私は微笑む。
こんな幸せな日常がずっと続くことを私は願って信じてる。
私はまた笑った。
お母さんも笑う。
暖かい雰囲気が私を包んだ。
ぺんぎん様
https://tanpen.net/user/userpage/pennginn/
花火
晴瀬です。
花火になった彼女の話です。
花火に火を着けた。
火が飛び散って、紅がコンクリートの地面に落ちていく。
その様子を見て思い出した。
彼女の笑顔を
彼女の笑い声を
彼女の匂いを
彼女の仕草を
彼女のすべてを。
ただ、花火が綺麗だった。
花火と一緒に、思い出したくもない記憶が蘇る。
それでも、花火の秀麗さは衰えない。
花火のせい。
花火のせいだと思う。
季節外れの、花火のせいだった。
七夕
羽
晴瀬です。
自分もこの少年だ。
死にたいけど、それが怖い少年の話です。
僕には羽がない。
いや、皆もないよね?
あったら、分けてほしいんだけどさ。
凄く、僕は欲しいんだ。
きっと、羽があったら飛べるから。
あのビルからも、あの山からも、あの校舎からも、きっと飛べて幸せになれるよね?
皆は、欲しくない…よね?
欲しいなんて、言わないでほしいもん。
って、僕が言うなって話か。
僕の背中に羽があったらこんな不幸でつまらなくて下らなくて心底辛いこの世界から飛んで、幸せになるのに。
でも僕には羽がないんだ。何度言っても、ないからさ。
まだ飛べない。
あのビルからも、あの山からも、あの校舎からも。
僕はまだ死ねないんだぁ。
しょうがないからね、僕に羽がないだけだから。
でも凄く、それが凄く惜しくて。
でもちょっと嬉しいんだ。
この世界が、僕を飛ばせないようにしてると思える。
この世界はまだ僕を欲しがってる。
だからまだ、羽がなくてもちょっと、嬉しい。
生きる理由がなくても、こんなんで、よくない?
僕はそう思おうとしてる。思えないけど、そう思えるようにしてる。
だって、そっちの方が幸せじゃん。
羽が欲しい。
羽を貰ったら飛びたい。
でも羽があったら、
きっと
飛んでも
〈追記〉
個人的に短編(これシリーズ)好きなんでほわーんって終わりたかったんですけど、死なないでほしいっていうファンレター2つも来たんで書きます。
大丈夫!!死なんよ!!
25まではどんだけ辛くても生きたいと思ってるからねー。
ご心配(?)ありがとう
欺瞞
晴瀬です。
いじめ表現があります。
主人公、かなりの屑。
苦手な方はUターン
自己欺瞞する少年の話です。
欺瞞とは…人の目をごまかし、だますこと。
そう、欺瞞という言葉の意味が本当にそれなら僕は欺瞞し続けているだろうね。
僕は笑って、人を欺いて、苦しんで、苦しめた。
「死なないの?」
「さっき、死ねって言ったじゃん」
「それって自分も死ねるから死ねって言ったんだよね?」
「あっれぇ、もしかして自分ができないことを人に押し付けたの?」
「やっば、お前無能じゃん」
「ねえなんで、ほらカッターもだめじゃん」
「ハサミも」
「カミソリも」
「全然死んでないじゃん」
「どこ切ったってやっぱ死ねないんだね」
「検証、ありがとね」
「本当感謝してる、ありがとう」
「まだ、痛くない?」
「まだか〜」
「ねえ、なんか喋ったら?」
「あ、ごめん、気絶してる感じ?え、ウケる」
「あ〜そろそろ痛い?じゃあ最後、ラストスパートいくからちょっと我慢して」
「最後は…蹴りと殴りどっちがいい?なんか、どう?肉体的な痛さじゃなくて精神的な痛み求めてる?もしかしてさ」
---
「いじめは、悪いことです。
強い者が弱い者を虐める、いけないことですよね?
皆さん、いじめについてどう思いますか?配られた紙に書いてみましょうか」
『いじめは悪いことだと思います。
自分が強いからと言って弱い人をいじめるのは最低なことだと思うし、もしやっている人がいたら止めてあげたいと思います。
いじめられている人のためにも、いじめている人のためにも。
これは絶対忘れたくないです。』
「やっぱりこのクラスはいじめなんてなくていいクラスですね!皆さん、これからも頑張りましょうね」
「嘘つき」
ねえさっきの聞いて、ああいうの言ってるのいじめっ子だって思ったでしょ?
あれさぁ、僕なんだよね。
言ってんの。
笑えるでしょ?僕を皆いじめっ子だって思ったでしょ?
残念でした〜!
僕はいじめられっ子なんかじゃないで〜す!
あ、でも僕はいじめっ子なんかじゃないよ?
たまに僕のお友達が泣いちゃったり喚いちゃったり叫んじゃったりするんだよね。
痛い痛いって。僕は遊んでるだけなのにさ〜。
だから、黙ってもらわないと困るじゃん?
五月蝿いし問題になるよね?
だから、お腹をぽんって優しく叩くと黙ってくれるんだ〜。
聞き分けがいいんだよ、あ、でもたまに泡吹いてんだけどねw
でもあんな下らない講座の感想に『いじめはだめだと思いました』そう書けば誰にもバレない。
だから僕は優等生。
あいつは無能だから劣等生。
どうせなら告発すればいいのにね、いじめっ子のこと。
でも、そんな勇気、どうせないんだろうな〜。
だから、僕は誰もいじめてません。
どこが、僕のどこが悪いんですか?
友達がいないこの子と遊んでいるだけじゃないですか。
なんで先生、信じてくれないんですか。
僕、悲しいです。
悔しいです。
先生に疑われて、こんな風に問い質される日が来るとは思いませんでした。
「違うのよ」
は?
「その、あの子が私に言ってきたの」
何だよ?
「貴方が…そう、殴ったり蹴ったり、刃物で身体を傷つける、って…」
あ?
「そんなことないと、私も信じられていないのよ」
「だけど、本人から名指しで言われてしまって…」
「傷も、見せてもらったの痣と、傷痕…」
あいつ?
やっぱり無能だ
「ねえ、嘘…よね?」
こいつはどうせ自分のクラスに優等生がいてほしいだけだろ
下らな
「あのね、もし本当ならあちらの家庭が貴方を訴えると言ってるの…警察に相談するって」
「あまり、大事にしたくはないのよ、学校としても」
「本当なら、本当と言って?怒らないから」
欺瞞は、僕の欺瞞は、
人生は、僕の人生は、
誰か、神様、仏様
ねえ
最後に言うならば、
最期に伝えるならば、
欺瞞は、魔法じゃない
欺瞞は永遠じゃない
いずれ暴かれる
誰かの手によって、必ず
恋
晴瀬です。
恋する少女の話です。
恋ってさ、誰にしたっていいと思うんだよね。
あー、かくいう私も恋してるんだけどさ。
同じクラスの…子なんだけど。
名前を…|白石《しらいし》|小温《こはる》ちゃんって言うんだけどね。
あ、同性恋愛キモいって思ったそこの君、昭和人間お疲れ〜!
感性磨いてかないとすぐ置いてかれるよー!
それじゃあ昭和のじじいばばあだぞ?
…ってはい。ふざけるのはここまでにして。
そんなこんなで恋したのが、2年前かな。
あの、テスト中にシャーペン落としちゃったことがあってね、その時私恥ずかしがって手が挙げられなくて。
そしたらその子がぱって手挙げてくれて。
分かるかな〜?
私の斜め前の席に座っててね、その子。
ピッシ!って、真っ直ぐに手挙げるの。
綺麗…って思って。
ちょっとして、あ、私の拾おうとしてくれてるんだって気付いたんだけどさ。
そんなこと思ってたらいつの間にか好きになってたんだよねー!
あの…、性格も良いんだけど顔も可愛いの。
あの、ね、言いにくい伝えにくいんだけどとにかく可愛いの!!
目が綺麗で、目見るとドキドキするんだよ。
そんでもって目がおっきいのよ!何でも見透かされるような目してて…うわ〜もう好きだわ〜ってなるんだよ本当に!
あとあれ、恥ずかしいと顔真っ赤になるとこ可愛い!
これ優勝!
誰より可愛い!耳まで赤くなってね、超可愛いの!!!
それでも頭が良くて、でも運動出来ないの!
泳げないとこ本当可愛い!
…待って、さっきから可愛いしか言ってないわ。
あ、ここは私が小温ちゃんへの愛を叫ぶだけのとこだから苦手な人は帰ってくださーい!
って今更か?
そうだな…私が真面目な話をするとしたら、「同性に恋愛なんて可哀想」って言ってる人がいたんだよね、この前。
何のことかなと思ったら、心からそう思ってるらしくて。
何が可哀想なんかっていったら、私も全くわからない。
だって私何も悲しくないもん。
そりゃ、小温ちゃんに彼女とか彼氏とかできたら悲しいよ?
だけど出来てないもん。
強いて言うなら、結婚ができないとこかな。
今の日本を動かす政治家は頭が固くて困っちゃう。
女とか男とかそれ以前に私は"恋"を応援してほしいの。
異性とか同性とかはどうでも良くて、そうじゃなくて"恋"としてその一括でいいから、…うん、あの、そうしてほしいなって思ってるの。
だってさ、別に。
女の子に恋して何が悪いの?
こういうドラマとかのタイトルありそうって感じで終わったこの話でした。
興味が湧いた方はこちらへ
LGBTQについてです。
https://jibun-rashiku.jp/column/column-3215
取り敢えず、何でこういうのを恋したことない自分が書けるのかっていうと…日記でも書いた通り恋してる友達のお陰ですね。
本当に波乱万丈(?)で見てる分には面白くて書いてほしいって人がいたのでまた日記にその話しします。
短いけど許してください。
はい、こういうの疲れるw
小説
晴瀬です。
短編カフェ1周年おめでとう!!
小説を描く少年の話です。
心の澱を吐き出すために小説をかいていた。
別に、誰にも読まれなくてもいい。
ただ、僕の汚い、モヤモヤとした霧のような感情を綺麗な文字に起こして和らげていたかった。
僕は小説をかく。
僕じゃない誰かを動かして|物語《人生》を進める。
たのしかった、のかな。
分からないけど楽にはなる、そう思う。
小説は真似事だ。
何処かで見た言葉や接続詞、言い回しを使って文字を紡ぐ。
僕自身の口や、指先から神秘的で幻想的で綺麗な文章は生まれない。
そこで僕は先人のありがたみを知る。
『あなたがいなければ、僕はこの文章をかけなかった』
言葉を創り、広める。それが難しいのだ。
僕らはその面倒臭い行動を省いて、正しい意味や順序を理解して繋げればいいだけなのだ。
理屈は簡単。
でも僕はそれが出来ない。
出来ていたら誰だって人気作家になってるよ。
……でも僕は人気作家になりたいわけではないんだけど。
ただ、僕のこの気持ちを、誰にも言い表せなかったこの想いを、僕はこういう風に言葉にしたんだって少し知ってもらえたらいいなって、少し思う。
僕は描く。
小説を|描《えが》く。
僕の心の内を言葉にして。
僕は僕のために。
描き続ける──
大変遅れましたが、改めまして短編カフェ1周年おめでとうございます!!
運営さん、短編カフェで小説投稿してる方、見てる方いつもありがとうございます!
救
晴瀬です。
最近小説を縦読みで(?)文を縦にして読むのにはまってます。
雰囲気が出て好き。
救いたかった話です。
君を
救えるのは僕だけだった
救えなかった
救わなかった
救おうとしなかった
僕は
逃げた
遠ざけた
避けた
黙って見詰めて嗤った
君は
求めなかった
諦めた
傷付いてない顔をした
君を
笑顔にしたかった
心から笑ってほしかった
泣かないでほしかった
傷付かないで生きていてほしかった
死にたいなんて思わないで幸せに
生きてほしかった
僕が
君を殺した
笑顔を消した
泣かせた
苦しめた
痛くして
感情を奪って
君を
救えなかった
裏切ったのは僕だ
儚い君は夏の花のように
消えた
僕の前から姿を消した
誰も
悲しまなかった
また嗤った
学ばなかった
君の
死を誰もみなかった
僕は
君を追いかけた
「やっと追い付けた」
「あの時はごめん」
君は
僕を見た
表情を強張らせて
目を泳がせて
荒く息をして
生唾を呑んで
冷や汗をかいた
「まだ、気が済まないの?」
君は
逃げた
僕を怖がった
僕は独りになった
僕があの時、君を救わなかったから
僕があの時、君をみなかったから
何も手に残らなかった
何もかも、僕は何もかも失った。
都合がいい
別れ
晴瀬です。
ご卒業おめでとうございますって話です。
桜なんか咲かなかったし、
ぶっちゃけ学校なんか休んで家でだらだらしてたいし、
嫌いな奴もいたし、
勉強とかなくなれって感じだし、
後輩も得意じゃなかったし、
毎日が不安で耐えられなくなったときもあったし、
すっごい辛かったけど
今思えば楽しかったわ。笑
「まじで、ありがとね」
言いながら少し気恥ずかしくなって語尾を小さくさせながら私は隣で天を仰いでいた彼女に笑いかける。
「いやぁ〜?こちらこそ?」
私の言葉にそう返して、向かって笑う。
よく見れば彼女の目の端は赤くなっていた。
泣いている。
「卒業、なんだね」
「そうだよ」
私は彼女の言葉に返す。
1年生、入学して不安まみれで心が落ち着かなくてフワフワして馴染めなくて、やってけないかもって思ったときに今隣で小さく笑っている彼女と出会った。
2年生、生活に慣れて楽しむことを知る。
後輩ができてどんな対応すればいいのか悩んで初めて先輩を見送った。
3年生、受験。死にたいほど辛かった。勉強して勉強して勉強して、笑えなくなった頃に彼女から告白されて付き合い始めた。
そして、私達が見送られる側になった。
なんだか"卒業式終わり"というこの空気が切なくて寂しくて胸の奥がぐわっと持ち上がる感覚がして私は意味もなく教室を見回す。
「また会おう」
「絶対ね」
彼女と進む道は違うけれど今までと何も変わらない。
この空気感をガン無視してクラスの男子たちは教室の後ろで走り回る。
追いかけっこしてじゃれ合って大きな声で声を上げて笑う。
それを見てまだ私達も子供なんだなあとそう思った。
卒業式、ということでいつもよりしっかりとした服を着た担任が教室に入って着て「記念写真撮ろう」とそう言った。
私達は教室を出て校庭に出る。
教室を出て廊下を歩いていると隣でゆったり歩いていた彼女がふと私の手を取った。
「ん?どうしたの?」
私が訊くと彼女は「なんか寂しい」と私の目を見た。
その表情が愛おしくて私は繋がれた手を握り返す。
「浮気したら許さないから」
そう彼女が言う。
私は笑う。「するもんか」と。
私達クラス全員でまだつぼみの桜の木の前で写真を撮った。
いつも元気なあの子が泣いて、それを慰めていたその子の友達が貰い泣きして。
それを見てみんなで泣いた。
時間の進みに抗いたくて、でもできなくて私達はただ泣いた。
校庭中に私達の泣き声が響いた。
そんな時に撮れた写真はみんな泣きじゃくってボロボロでそれを見て、みんなの泣き声が泣き笑いに変わった。
「じゃあなみんな!!愛してる!!」
そう叫んでクラス1のお調子者は最初に校門をくぐって帰路についた。
それに倣ってぽつりぽつりとクラスメイトは帰宅する。
ある者は愛を叫んで
ある者は一度振り返り校舎に向かって深くお辞儀して
ある者は写真を撮るため戻ったりしながら
ある者は潔く前を向いて
未来に進んていった。
「じゃあね、──」
彼女が私の名前を大事そうに呼ぶ。
「帰ったら連絡する」
その言葉に私も頷く。
さよなら、みんな。
私は校門から一歩足を踏み出して、立ち止まった。
校舎を振り返り昨日まで当たり前のように通っていた教室を廊下を見た。
少し、考える。
思考をやめ、また視線を前に戻して歩みを始める。
視線は前。
私は忘れない。
ここで過ごした日々を
ここで出会った人たちを
学んだことを
湧き出た感情を
そして彼女を。
私は進む。
遠くない、未来を見据えて。
春を発つ/カンザキイオリ
https://m.youtube.com/watch?v=DMYIOnvHMN4
卒業おめでとうございます!
みんな、みんな頑張れ!!!
桜雨
晴瀬です。
春は好きだけど夏は嫌いです。
夏に比べたら冬は大好き。笑
もうすぐ春ですねって話です。
低い声が私の名前を呼んだ。
私は振り返る。
声の主は静かに笑った。
それにつられて私も笑う。
桜が咲いていた。
彼と散歩に歩いていたら桜を見つけた。
4月目前の3月下旬とはいえ桜が咲く季節だとまだ認識していなかった。
九州や東京などの関東はもう開花を初め、満開を迎えるところもあるのだとか。
それを彼に話すと「早いね」と静かに言った。
桜を見つめる。
彼が私の隣に立った。
春風が優しく吹いた。
その風に耐えられなくなった花や蕾が風に乗って落ちてくる。
私は目を瞑る。
木が揺れて葉と葉が擦れる音だけが響いていた。
---
そんな思い出を独りで静かに思い出した。
彼が死んでからもう2年が経つ。
彼は桜が好きだった。
桜が咲く春が好きだった。
"春"という漢字のつく私の名前が好きだった。
その名前をもつ私が好きだった。
私も彼を好きだった。愛していた。
川沿いに咲く桜並木を見て思い出した。もう満開といっていいほどの咲きっぷりで、何も言わずに、着けた花を風に揺らして立っていた。
彼はこの桜をもう見ることはできないのだ。
私も彼と桜を見ることはもう一生ない。
この暖かい春の陽気も、桜が放つ仄かな香りも、虫があちこちに出る鬱陶しさも彼はもう感じることができない。
分かっていたつもりだった。
彼が死んだあの日から理解しているつもりだった。泣き尽くして、涙が枯れるほどに泣いて、耐えれらなくなって叫んで喚いて、死んだように眠って、そうした日々の中でもうとっくに彼の死を理解していたと思っていた。
でも私はまだ、分かっていなかった。
何も。
彼が最期に遺したあの言葉ですら私はきっと理解しきれていないのだ。
突然吹いた強い風に私は思考をやめる。
風に桜の木は揺れる。
ざあざあと大きな音を立てて木は揺れる。
桜の花が飛んだ。
1つだけの花が飛んだ。
その花は私の目を釘付けにして離さなかった。
花は風に乗って浮かび川に落ちた。
何気ない光景だった。
なのに途端に私の目頭は熱くなって私はしゃがみ込む。
涙が溢れた。
その花は彼を彷彿とさせる、鮮やかで綺麗で周りより一際輝く花だった。
私は彼が死んだあの日から初めて泣いた。
今になって彼が死んだことを、もう戻ってこないことをやっと実感した。
桜がまた飛ぶ。
今度は1つじゃない。
1本の木から飛び出した花は散り散りになって川へ落ちて流れていく。
雨のようだった。桜雨。
桜雨が降る。
私の涙と一緒に桜雨は降った。
桜が散る。
春が終わってしまう。
いやまだ終わらないけれど、でも、彼の好きな春は、もう終わってしまう。
彼の好きだった春は、桜がないといけないのだ。
それがどうしようもなく哀しくて淋しくて私はまた目を瞑る。
涙は決壊したダムのように溢れ続ける。
止めることもできず、せず、私はずっと泣き続けた。
桜雨は、降り続ける。
青嵐
晴瀬です。
日常の喧騒の話です。
会いたい人がいた。
東京の街なかでふと思い出した。
周りの人は忙しく歩き、僕のことなんか見えていないかのように通り過ぎていく。
君は僕を救ってくれた。
僕に救われたと言ってくれた。
僕が少し目を離したときに、その隙を狙ったかのように君は居なくなってしまった。
君が居なくなったのか、僕が居なくなったのか分からないまま僕は大人になってしまった。
色々な話をして行動を共にして、お互い口数は多くはなかったけれど楽しかった。
本当に楽しくて幸せだったのに、その過去は幻想のように静かに君は消えてしまった。
きっと何処かにいるのだと、分かっているつもりなのに時々その考えを疑いそうになる。
もう一生会えないのだ
と何故か確信めいた物言いで結論付けてしまうときがある。
僕は、僕自身が君に会いたいのか会いたくないのか僕の本音が、僕の本音なのに見えない。
それが怖いようで、何故か心地よくもある。
目の前の今渡ろうとしていた横断歩道の信号が黄色に光る。
僕は足を止める。
何故今君のことを思い出したのか。
少し考えて、空を見上げた。
君が消えたその日もこれくらい青い晴天の空だったことを思い出した。
久し振りに過去のことを思って頭痛がしている気がした。
思い出したくもないことを考えるなんて少し疲れているのかもしれない。
今日は早めに休もう。
そう思って僕は振り返った。
僕は振り返った?
何故。何故だか分からない。
振り返るのが当然な気がした
振り返らないといけないと思った。
振り返らないと見えないものが見えないまま消えてしまう気がした。
振り返らないとまた誰かを絶望させると思った。
その瞬間に音が消えた感覚がして周りの光景がスローモーションのようにぼやける。
1つ、一点だけに焦点が向いていた。
そこだけ明るく明瞭に光っている気がする。
「あ」
漏れた声は僕のものだった。
「──」
その人が僕の名前を呼んだ。
小さい声だったのにすぐに分かった。
すぐに理解した。
「───」
僕はその人の、君の名前を呼び返す。
無意識のうちだった。
君が近付いてくる。
僕は足が銅像にでもなったかのように動かない。
君が抱き締めた。
何を?
誰を?
僕だった。僕を抱き締めた。そう、僕を抱き締めた。
僕の鼻腔に君が笑う音がした。
「ひさしぶりだね」
君は笑った。
空は眩しく青かった。
晩夏
晴瀬です。
終わりの夏の話です。
「晩夏だね」
そんな言葉を聞いて思わず顔を上げた。
こんな冬に晩夏?誰がどんな顔をして言っているのだろうと。
バス停でバスを待っていた。
バス停の、道路を挟んだ向かいの歩道に少女と少年が一人ずつ向かい合って立っていた。
決して広くはない道の上、車が通らないから彼らの会話が聞こえてしまう。
少女は儚げな少し切なそうな微笑みを浮かべ、少年は目を伏せるように笑っていた。
まるで2人はもう一生会えないかのようにその場所だけ少し、異様な雰囲気が漂っていた。
『晩夏?』
少女が訊き返す。
自分と同じようにバスを待っている人はいたのに誰もその季節に合わない言葉に反応していないみたいだった。
皆自身の手元のスマートフォンに目を落としている。
「そう、晩夏」
少年は頷く。
哀しげな笑顔を表情に貼り付けたまま。
本当は泣きたいみたいな顔。
『もう、…冬なのに』
冬だからこんなことになってしまった、とでも言いたげな言い方を少女はする。
冬だから、彼らはこんな表情をしているのか?
「君は夏だ」
少女の言葉が聞こえなかったみたいに、少年は言う。
少年の声量が落ちたから、聞き間違えかもしれない。
「君は僕の、夏だったから」
何を言っているかわからなかった。
意図がわからなかったって意味で。
少女も同様に理解できない顔をした。
「夏が終わるから」
晩夏。
小さく掠れたような声がここまで|微《かす》かに届いた。
少年の口が小さく〝ば ん か〟というように動いたのだ。
やっぱり、彼らは離れ離れになるのかもしれない。
『冬なのに、変なの』
少女の声色に非難の響きはなかった。
微笑みが深くなる。笑顔。
彼らの姿が隠れた。
バスがきたのだ。
バス停の近くに立っていた人から続々とバスの中に吸い込まれていく。
最初から最後まで彼らに気づかずに。
きっとこの会話を知るのは、少年と少女と、そしてたまたまここにいた自分だけだろう。
前の人に倣ってバスに乗り込み空いていた適当な席に腰を下ろす。
乗客は大して多くなかった。
バスが動き出す。
ふと、歩道を見下ろす。
彼らがいた方向の。
少年はもうそこにはいなかった。
どうやら、既に別れたように見えた。
ただ一人少女がしゃがみこんで肩を震わせていたのが瞳に映った。
泣いている。
彼女の姿はどんどん小さくなってやがて見えなくなった。
少年もきっと同じように泣いているのだろうと思った。
窓から視線を外し自らの膝に目を移す。
人の別れについて考えたくなった。
ため息をつく。
頭を振った。
自分の髪が目の前で揺れる。
こんなこと、今考えなくたっていい。
すべてが終わったらきっと腐る程時間ができる。暇になる。
足元に置いたリュックを見つめる。
荷物はこれだけだった。
中に入っている大ぶりの包丁のことを想った。
わざわざ事を成すためだけにホームセンターまで買いに行った代物。
今から目標を達成しに行く。
死んだっていい。捕まったっていい。
私の晩夏も、もうすぐだ。
日常
晴瀬です。
気付いていないだけでこういうのもきっと日常の中に紛れてるんだろうなって思う話です。
「あまねとあやめちゃんってなんか似てるよね」
|彩蒲《あやめ》を意識し始めたのはクラスメイトのそんな一言だった。
同じクラスだったけれどクラスの中心的な立ち位置にいる私と冴えない転校生の彩蒲とでは接点が全くと言っていいほどなかった。
私と彩蒲が似ているなんて、どこを見たらそんな発言が口からついて出るのかと疑問に思った。いや、ちょっとムッとしたのだ。
どれだけ努力して私が今の立ち位置にいると思っているんだ、と。
何も考えてなさそうなあの子と似てるなんて、そう思われるような言動をしていたのかもしれないなんて、と。
するとその発言をした子は私の微小な表情の変化を捉えたのか慌てたように胸の前で掌を横に揺らした。
「あぁ、違うよ、名前がさ。名前の言い方っていうか、発音?みたいなさ」
なんとも言い訳がましい。
その子は言い終えたあと「だから怒らないで?許して?」とでも言うように窺うような目つきで小さく、小さく微笑を浮かべた。
今でもはっきり覚えている。
その後誰にもわからないように口の中で「あまね、あやめ」と単語を転がして確かめてみたのも覚えている。
--- 確かに似ているかもしれない ---
そう思ったのも事実だった。
これは今から4年前の小学5年生の頃の話だ。
そんな微かな、今までは思い出の1つとしか考えていなかったこんな出来事を今、今に限って思い出した。
それも、今目の前で私を見据えている彩蒲の表情とあのとき私の視界の端に映った彩蒲が重なったからかもしれない。
かれこれ3年もかけて、でも確かに、私と彩蒲は親友と呼べるほどに仲良くなった。
小学5年生、6年生、進学先の中学校3年間ずっと同じクラスだったから。
中学に進んだら知り合いとほとんど同じクラスになれなかったから。
やむを得ず彩蒲と一緒に居るしかなかったから。
言い訳はいくらでもできるけれど、もう彩蒲なしの人生は考えられないほど私の支えになっていた。
受験生。
私より先に入学試験を受ける彩蒲は不安でここのところ放課後に何度も担任の先生に相談しに行っていた。
私が委員会で放課後残って仕事をしていたあの日も、彩蒲は先生と話すと教室に残っていた。
私が仕事を終えて、ふと彩蒲はどうしているかと思った。あわよくば彩蒲と合流して一緒に帰れるんじゃないかとそんな期待を抱いて、私は教室に向かった。
教室のすぐそこの廊下で私は立ち止まった。
晴れの日も、曇の日も、雨が降っても、霧が濃くても、雪が積もっても、笑っていた彩蒲が1人で泣いていたから私は何も言えなかった。
窓の外を見つめて立ったまま1人で泣いていた。
そう、彩蒲が泣いていたのだ。
私は彼女が泣くような生き物ではないと信じては疑わなかった。
だから、とにかく驚いた。
びっくりして、何も言えなくて、足がすくんだように動かなくて、さて私はどうしたらいいのかとやっと脳が動き出した頃に彩蒲がこちらを見た。
視線がもとに戻って一瞬の間が空いてハッとしたようにその瞳は光を取り戻す。
もう一度私をゆっくり見る。
「あまね」
というように口が開いては閉じた。
私は固まったまま、あー、と短く声帯を震わせてから片手を軽くあげて、何事もないように教室に一歩踏み出した。
私のいつもの挨拶に彩蒲も「よ」と短く言って同じように片手をあげた。
その手で頬の涙を拭き取る。
「先生は?」
私が訊く。
なぜか心臓が破裂しそうに素早く動いていた。
「帰ったんじゃないかな。もう、相談とっくに終わってたから」
彩蒲が小さく笑顔を作って私に見せてくる。
それを見てなんとも言えない気持ちが私の中で広がる。
少し、むかつくような微妙な気持ち。
私は息を吐く。
深呼吸しなきゃ過呼吸になってそのまま倒れて彩蒲に会えなくなるような気がした。
「そっか」
辛うじてそう返す。
「|天音《あまね》ちゃんは?」
くそ。思わず心のなかで悪態をついた。
いつものことなのに、ずっと仲良くしてきたくせに私のことをまだ「ちゃん」をつけてよそよそしく呼ぶ。そのことが無性にむかつく。
「え?」
私がそう聞き返す。
こんな思いはどこかへ払ってしまう。
「なんで、ここまで来たの?」
彩蒲の横顔が夕日に照らされていた。
教室がオレンジ色に染まっている。
絶対今じゃないのに、綺麗だと思った。
彩蒲の頬には涙の跡が残っていた。
視線を彩蒲の目に戻して私は少し口角を引き上げる。
「彩蒲と一緒に帰れるかなって」
彩蒲が2度瞬きをする。
視線を逸らしてまた私を見て「じゃあ帰ろうか」と近くの机に置いてあった鞄を手に取る。
私を見ないまま先に教室を出ようとする。
私から彩蒲の背中が遠ざかる。
それを見て、また背が高くなったなと場違いなことを考える。
私は彩蒲の方に足を一歩踏み出す。
彩蒲の手を取る。
手を取る。
手を取る?
なんで?
私はなぜか無意識のうちに彩蒲の腕を後ろから掴んでいた。
「天音ちゃん?」
彩蒲が振り返る。
私を見る。
彩蒲の頬に夕焼けが映る。
「あー」
と私は意味のない発声をする。
身体が火照る。
焦る。
「なんで、」
頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出す。繋がなきゃ。言葉を。焦る。今までにないほど脳をフル回転させて考える。
彩蒲が私の顔を見ていた。
もう見ないで、こっちを見ないで!と意味のわからない部分で思考を使ってしまう。
「なんで泣いてたの」
やっと、やっと口から出られたのはそんなのだった。
最低。自分で自分を罵る。
彩蒲が自分から言い出さなかったら何も言わないつもりだったのに。
彩蒲の顔を見ていられなくて目を逸らす。
視線を肌で感じた。
「え」
彩蒲の口から溢れる。
「なんでもないよ」
彩蒲が笑う。
また同じ顔。
また同じように私もイライラする。
「なにもなかったら泣かなくない?」
「私には言いたくない?」
続けて言って私は彩蒲を見る。手を離す。
彩蒲が離されたその手をもう片方の手で掴んだ。自分を、何かを守ろうとしているかのように見えた。
「そうじゃないよ」
「じゃあなんで、…」
「恥ずかしいじゃん」
食い気味に発した私の言葉を遮るように彩蒲が笑った。
「天音ちゃんと離れたくないなって思ったの」
「…なにそれ」
「今日は先生に志望校変えられないかお願いしに行ったの」
「え、」
彩蒲が私を見下ろしていたから垂れそうになった黒髪を耳にかける。
「天音ちゃんと同じ学校に行きたかったから」
「なんでそんな、」
私は困惑する。
そんな私の表情を見て、彩蒲は言葉を次ぐ。
「卒業したら天音ちゃんと会えなくなるんだなって思うと、なんかやりきれないなって、思って」
私が口を開く。何も言えない。口を閉じる。
彩蒲が見えない。私が見てきた彩蒲はこんなこと、こんな無茶なことするような子じゃなかった。
「それを先生に言ったら『馬鹿なこと言うな』って、『お前が今の高校からわざわざ偏差値の低い高校に行く意味なんてあるか』って」
彩蒲が掌で両目を覆う。
唇を噛んでそのまま少し静止する。
手が離れた目は少し赤らんでいた。
「悔しかった」
頑張って笑おうとしているのがわかった。
「そんなん、当たり前じゃん」
「せっかく努力して頭良くなって、ようやく行きたかった高校行けるくらいになったのにわざわざ私が行くようなとこに下げる意味ないよ」
「また会えるよ」
私が言う。彩蒲に申し訳なかった。
もう何が申し訳ないのかもわからないくらい、とにかく謝りたくなった。
「ごめんね」
「…なんで?」
案の定不思議そうな顔をされる。
「ううん、ごめん。でもさ、でもやっぱり私は彩蒲には彩蒲の人生を生きてほしいからさ、好きな高校行ってよ。また会おうよ」
「会ってくれるの?」
私の言葉に彩蒲が若干の上目遣いでこちらを見る。
「私も会いたいもん」
「だから、もう私のことで泣かないで」
私が彩蒲の頬に触れる。
私より少し高い背の彩蒲だから、私は思ったより腕を伸ばす。
頬は乾いていた。
頬に置かれた私の手に自分の手を重ねて彩蒲はそのままこちらに体重を預けてくる。ハグ。
少し苦しい。
「ありがとう」
そのままの体勢で彩蒲が言う。
なんの感謝かわからなかったけどその言葉はありがたく受け取ることにした。
「こちらこそ、これからもね」
少し時間が経ったかと気付いた頃に廊下から物音がして怒号が飛んでくる。
「まだ残ってる奴は誰だー!!」
彩蒲が「やばい」と小声で言いながら私から離れる。鞄を取る。私のも一緒に取って渡してくれる。
「走ろ」
私は小さく言って一緒に教室から飛び出す。
「あっ!お前達待て!何年番組の誰だ!!」
後ろからどこかの先生の叫び声が聞こえる。
「あれ、なに先生だろ」
私が走りながら彩蒲に言う。
「さあ」
全力で走りながら彩蒲が言う。
そして笑った。声を出して笑った。
私もそれにつられて笑う。
彩蒲の笑い声を聞いて安心して楽しくて、もうずっとこのまま時が流れればいいのに、ってそう思ったのは絶対、絶対嘘じゃない。
思ったよりふわっと終わってしまった
なんか、機から見ればしょうもないことに自分でも驚くくらい突拍子もないことやっちゃうときってありますよね
この話を最後まで読んで、思ったより理由小さいなって思ったかもしれないけどそれが本当なのかなって思ったり思わなかったり
自分にも天音はいい奴なのかわかりません
彩蒲は多分いい子なのかな
かき始めは1月とかなんで前期選抜云々とか受験云々とか時期的に合わないとこあっても目を瞑ってください
再会
晴瀬です。
とりあえず文章
歩く
角を曲がる
歩く
進む
立ち止まる
目の前に彼女が見えた
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あなたが私の前から消えたとき
私は誰も信じられなくなった
むやみに優しい人が怖い
スポーツが好きな人が怖い
よく笑う人が怖い
背が高い人が怖い
顔を覗き込むように微笑む人が怖い
あなたはもっと良い恋愛をしろと残したけれど
私はあなたが怖い
あなたのような人が怖い
すぐ消えてしまいそうで
私をのこして消えてしまいそうで
人にあなたを重ねてはその差に落胆してしまう
あなたが眩しい
眩しかった
あなただけ強い光で
あなたを見つめていると目が眩む
潰れたようになる
潰れた目で周りを見てもぼけた光景が広がるだけで
あなたの光だけが目に入って
あなたしか見られなくなる
眩しい
眩しいあなたが怖い
眩しいのにあなたを、光を見ていないと前に進めないから
周りがぼやけて転んでしまうから
あなたがいなくなって私は何を見ればいいのかわからなくなった
あなたに会いに
私は歩いて
進んで
風が吹いてそのまま空を仰いだ
目に入った強い光は太陽だった
太陽が笑った
蝉
晴瀬です
暑くてやる気でないですね
寒い夏の話です
蝉がないている。
私もないている。
外は暑い。
灼熱地獄のように地面は揺れている。
外に出てみれば日差しで目が潰れる。
この明るさで、眩しさで目は開かない。
部屋は寒い。
まるでどこかの天国かのようにクーラーで冷え切っている。
天国だと感じるのはきっと外に出ていた人だけだろうけど。
絶え間なくブルーライトを浴びる生活をしていれば目が潰れる。
この暗さでは瞼が落ちるだけ。
私も堕ちるだけ。
夏は騒がしい。
子供が笑う。
つられた大人も笑う。
葉は擦れて音を鳴らす。
海はざわめく。
風は飽きもせず吹き続ける。
蝉は鳴いている。
だったら私は冬のようだ。
いや、冬にすらなりきれない。
私が誰かを笑わせることはできない。
私が私を笑わせることも今はもうできない。
私の心はざわめき続ける。
平穏は戻ってこない。
私は泣いている。
夏ってなにやっても青春って感じするよね!!
でも冬のほうが好きなので夏早く終わらないかなって願ってます
でも今年の冬はつらそうで今から無理!
秋
晴瀬です
寒い気持ちの話です
秋を感じたかった。
暑さと寒さだけが生きていた。
涼しさ暖かさなんて優しさは知らなかった。
心地よさを知りたかった。
道に太陽が照り返って揺れていた。
通行く人が腕を抱えて自らを守っていた。
子供の笑い声が蝉と一緒に飛んでいた。
空気が澄んで雲ない空が広がっていた。
夏というようだった。
冬というようだった。
すべて秋ではなかった。
秋を知りたかった。
愛を知りたかった。
10月、鳥を見ていた。
忙しなく飛んでいた。
12月のことを師走というらしい。
鳥は12月のように鳴いては飛んでいた。
それをただ、見つめていた。
だから気づくのが遅れた。
隣に少女が立っていた。
少女に視線を移す。
同い年くらいかな、そう思った。
少女も一拍遅れてこちらを見た。
視線と視線が交じる。
目が合う。
突然彼女の瞳孔から色が溢れた。
そのまま瞬く間に世界を染めた。
色のない季節が変わる。色が広がる。
色は、世界は、10月は、こんなに鮮やかなものだったかと彼女の瞳から世界へ視線をずらした。
眩しかった。
光で溢れていた。
鮮やかで驚いて、また彼女を見た。
彼女の虹彩は世界と同じ色をしていた。
彼女は微笑んだ。そして言った。鶯のような声だった。
「わたし、あき」
声のようなものが漏れた。驚いた。
そのまま聞き返す。
彼女はそれを無視して続けた。
「名前は?」
有無を言わせない雰囲気に呑まれて、名前を言った。
彼女はそう、とそれだけ言った。
「わたしはあきって名前」
少し時間が空いて、彼女は、あきはそう囁くように言った。
あきは向日葵のように明るく、でも小さく笑った。
その声に返す言葉はなかった。
だから黙っていた。
あきも黙っていた。
あきはただ隣にいた。
隣にいるあきと同じ方向をただ見ていた。
鳥は鳴いて木はざわめく。
間もないうちに同じ景色は色をつけたことでまったく変わった。
その時間を飽くことはなかった。
その中であきは突然言った。
「秋って嫌い」
霜のような声で白く冷たく小さく言った。
理由を問うとあきはゆっくりとこちらを見て、また前を向いた。
「何もないから」
思考を巡らせた。
この声にどう返すべきか。
唐突に言葉が湧いた。
"秋"
今が秋なのか。
秋とはこれなのか。
この色が、この風が、この棗の香りが、この少女が、秋なのか。
秋は、秋はこの感覚なのか。
だから言った。
「そうかな」
あきは瞬きした。
「秋っていいものだと思うよ」
あきは首を傾げた。
|爽籟《そうらい》が吹いた。
秋を知った。
明るさを眩しさを鮮やかさを、そして少しの影と寂しさを知った。
空は高く青く、澄んでいた。
「そろそろ冬がくるね」
あきが言った。
いつもあんなに恐れていたはずの冬が今年はまったく怖くなかった。
だからあきに笑いかける。
あきは少し目を丸くして、そのあと大きく笑った。
そこで気づいた。
秋はずっと笑っていたこと。
必要なのはそれに気づくことだけだった。
秋が広がってた。
一歩踏み出して秋を吸い込んだ。
自然と笑顔があふれた。
展開が早すぎて自分でもついていけません
「寒すぎて秋なんてないじゃん」から書きました
寒すぎますね
受験生なのに手かじかんで勉強できません(言い訳)
季節
晴瀬です
おひさしぶりすぎます
そして超遅いけどあけましておめでとうございます!!
今年は受験が終わるのでもうちょっと投稿頻度増えるかもですけど、たぶん細々頑張ります
あなたの話です
春、あなたは笑っていた。
眩しく光る桜の花を背景に笑っていた。
柔らかく昇る太陽に、青々と茂る草花にあなたは笑っていた。
心が誰よりも優しかったあなたは、足元の折れた小さな花を見て愁いに沈んでいた。
夏、あなたは泣いていた。
まるで向日葵と対比させたかのように静かに泣いていた。
海を見ていた。
太陽を反射させて光る波を見てあなたはしゃがみ込んで、そうしてまた泣いた。
なぜ泣いているのかわからなかった。
知ろうとしなかった。
あなたを愛していた。
秋、あなたは。
煌々と浮かぶ月を見上げた。
あなたの顔を思い浮かべた。
あなたと過ごした季節を思い出した。
あなたの表情は声は言葉は匂いは、季節に溶けていた。
すべてを容易に思い出せた。
あなたがこちらに振り向くときの髪の靡き方も、笑顔を作る時の目尻の下がり方も、嬉しいときはすぐに人に抱きつこうとする癖も、全部、全部が。
あなたは少しずつ季節に溶けて、あなたがいなくなっても寂しくなったりしないように季節とともに思い出せるように、最後まで周りを気遣っていた。
あなたが大好きだった。
あなたを何一つ忘れたくなかった。
あなたとずっと一緒にいたかった。
何からも守るあなたの傘になりたかった。
冬、わたしは顔を上げる。
すべての季節にあなたの痕跡を感じる。
季節にわたしを残す。
あなたを重ねる。
雪が舞った。
無邪気に雪だるまと笑うあなたを思い出した。
こたつをせがむあなたを。
雪が降ってるからと言い訳してココアを2杯も3杯も飲もうとするあなたを。
寒さを伝えても外に出て雪に触れたがるあなたを。
冬のあたたかさを伝えようとするあなたを。
季節が思い出させる。
だからわたしは微笑む。
あなたが残した季節に。
季節は巡っていた。
あなたは巡っていた。
いつかはあなたのもとへ。
すべての季節にあなたを重ねて。