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目次
あの夏が飽和する。
コンテストの部門:二次創作
「———昨日人を殺したんだ」
7月23日。夏休みが始まって3日目のことだった。
美咲は突然、僕に打ち明けた。
美咲はそのまま膝から崩れ落ち、泣き出した。
「ねぇ、陽、どうしようか、、」
ーーーーーーーー
それから数分後。美咲は泣き止み、話し始めた。
「殺したのは隣の席の、いつもいじめてくるアイツ
もう嫌になって肩を突き飛ばして、打ちどころが悪かった」
僕は息を呑んだ。
「見つからなかったのか?」
「うん。幸い先生には見つかんなかったけど、死体はそのままにした」
(情景が浮かんでくる。考えたくない)
「どうして?」
勇気を出して質問した
「触りたくなかったし、誰かの足音もしたからすぐに逃げた」
「私はもう、夏休み明けに学校にはいけないし、どこか遠いところで死んでこようと思う」
その顔は何か、覚悟を決めたような、勇ましい顔だった。
「それじゃ僕も連れて行って」
僕は反射的にそう言っていた。
美咲は小さく頷いた
ーーーーーーーー
「じゃあ、、まずは荷物を取ってこよう」
「⋯そうしよう」
「⋯じゃあ美咲は自分の家から必要なものを持て一旦僕の家に来て」
重い雰囲気の中、僕らはそれぞれの家に向かう。
家について荷物を作る。
(えっと、缶詰と、乾パンと、あとはライトとか水筒。着替えもか、、)
着々と準備を進める。
ピンポーン
美咲がやってきたようだ。
僕の部屋に通す。集めた缶詰やらが散らばっている。
「⋯じゃあ分けてカバンに詰めよっか」
僕は頷く。
美咲はテントや懐中電灯など役に立ちそうなものを持ってきていた。
まずそれぞれのカバンにそれぞれの着替えを入れる。
僕のカバンの余ったスペースには缶詰や乾パンなど食料を、美咲のカバンにはテントや懐中電灯など道具を入れる。
小ポケットにはひとり一本のナイフをいれ、一応財布も入れておいた。
「⋯このランプで最後ね。じゃあいらないものは全部壊していこう」
美咲は突然そう言った。僕はそれが疑問だった
「なんで壊すの?」
「⋯ここにはもう戻らない。決意としてここにあるものはすべて壊す
私の家のものはもう壊してきた。」
僕は少し納得した。
カメラ、写真、宿題。今はもう全ていらない。
それらを投げ、壊し、まとめてゴミ箱に入れた。
「じゃあ、行こう」
僕はついに決心した。
「いってきます」
「⋯⋯」
お母さんは僕に関して無関心だ。昔から僕を周りの子と比べ、取り柄もない僕は愛されなかった。
そんな母とも今日でおさらばだ。
そして僕らは家を飛び出した。
とりあえず当てもなくふらふらと歩く。
途中ぼくらは学校の前を通った。サイレンの音がする。パトカーが四台と救急車が止まっていた。美咲は下を向いた。
「、、どこか遠いところに逃げよう」
美咲の手を握り、僕はそう口にしていた。
その握った手はひどく震えていた。
美咲は下を向いたままだったが、小さく頷いたように見えた。
学校の前を通り過ぎ、ずっと真っすぐ行った。
住宅街の小さな道は森にぶつかって途切れて、僕らはそのまま森に入った。
森に入ってすぐ、獣道があった。登山道なのだろうか。
その整備されているかもわからない登山道らしきものを登ると、学校の裏山の頂上に達した。
頂上は倒木の跡か、少し木がなく開けていて、下を見下ろすことができた。
何一つ変わりない。いつもの街、学校が見える。
「あの街に、私が生きる場所なんてどこにもない」
「ああ、そうだね」
そして僕らは逃げ出した。この狭い狭いこの世界から。
家族も、クラスの奴らも、何もかも全部捨てて君と二人で。
「どこに行こうか」
僕は気になった。
「さあね。あてなんて最初からないさ」
美咲の表情が少し軽くなった気がする。
「遠い遠い誰も居ない場所で二人で死のうよ
もうこの世界に価値などないよ。人殺しなんかそこら中湧いてるじゃんか」
二人の間に沈黙が走る。
(君は何も悪くない。君は何も悪くない)
その沈黙を破ったのは美咲だった。
「とりあえず、昼ごはんにする?」
さっきの雰囲気とは違い、また美咲は明るくなっていた。
腕時計を見ると、たしかに時刻は12時を指していた
「そうしよ」
僕は大きなリュックの中の一つのポケットから、タッパーを一つ、あとはアルミホイルに包まれたおにぎりを4つ取り出した。
「はい。冷蔵庫から持ってきたおにぎり」
おにぎりを2つ差し出す。
痛む前に今日中に食べる用として持ってきたものだ。
「「いただきます」」
僕らは倒木の上に座って、昼ごはんを食べた。
「「ごちそうさまでした」」
タッパーとアルミホイルはそのまま捨てて、水筒だけをカバンに入れ直す。
「じゃあ、この山を降りようか」
「そうだね。ここにいてもじきに見つかる。」
昼ごはんを食べ終わった僕らは、裏山を登ってきた方とは逆、北に降りた。
沢に沿って谷を下り、開けた場所に出た。
一面に水田が広がり、遠くの方には集落が見えた。
「ここ、どこだろうね」
行ったこともない。知らない土地だった。
遠くにぼんやり、縦長の何かが走っているのが分かる。
(あれは、、電車か?だとしたらかなり遠くまで行けるかもしれない)
「さあね。あっちの方に電車が走っていみたいだし行ってみる?」
「そうしよ」
そうして僕らの次の目的地は簡単に決まった。
田んぼの真ん中のあぜ道を進む。
進んだその先には片側1車線が確保された、舗装された道路があった。
「ここを左に行ったら駅みたいな建物があるよ」
美咲が指を指した方を見る。たしかに駅のような建物があり、その周りには集落が形成されていた。
「よしじゃあそっちに行こう」
駅までは目測でおよそ200m。その時、遠くから声が聞こえた気がする。
「⋯⋯よ⋯う⋯、⋯みさ⋯き⋯」
おそらく僕らを探す声だ。どうやら裏山の方から聞こえるようだ。ここから裏山までは軽く見積もっても3km以上はある。それでも聞こえるということはメガホンでも使っているのだろうか。
(誰かが僕たちを追っているのか?)
そうこうしているうちに僕らは駅についた。
駅と言っても僕らの街にあるような大きな駅ではなく、小さな駅舎とホームが一つだけの小さな駅。
改札機もないのでホームに入ると、かなりスカスカの時刻表があった。
「時刻表があるな。美咲、今何時?」
「今は、ええと、14時25分ね」
「ってことは次の列車は1時間後か」
1時間もあるので僕らは軽く集落を見てみることにした。
駅の周りには民家が10件ぐらいあって、個人商店が一つ。
そして公園が一つ。僕らは公園に向かい、水飲み場で水筒に水を足した。
「これでよし」
集落を見終わった僕らは一旦集落をあとにした。集落を出たらまた水田が広がっている。
ここから5kmぐらい向こうに大きな街が見える。
「あそこに行くのもありかな、、」
「そうね、いつか大都会に行ってみたい」
僕らは駅に戻った。列車が来るまではまだ20分ある。
誰も居ない駅のベンチに座り、僕は話し始める。
「結局僕ら、誰にも愛されたことなどなかったんだ」
「そうね。だからこそ私たちは友だちになった
お互い以外に、信頼できる相手は居ない」
「うん。だからこの旅にもついてきた」
「陽はこれからどうするつもり?」
「できるだけ逃げて、そこで美咲と一緒に死ぬ」
「うん、そうしよう」
それから僕らは昔話などをしていた。
ーーーーーーーー
20分が経ち、列車がやってきた。国鉄型の単行。いかにもローカル線だ。
僕らは列車に乗り込み、整理券を取って座った。車内には僕たちを含めて5人の乗客。
「この列車、初めて乗ったね」
美咲はそんなことを口にした。
「そうだね」
初めて乗る列車はうるさくて、冷房も殆ど効いていなかったがそれも僕らには新鮮だった。
「なんだか、清々しい気分」
「そうだね」
街の喧騒から、誰にも愛されない生活から、僕らは逃げ出して初めて自由な自分になれたと思った。
それから列車に揺られることさらに30分、終点の駅に到着した。
運賃を運転士に支払い、駅から出るとそこは全く知らない土地だった。
すでに時刻は16時を回っていたが、7月ということもありまだ明るい。
「今からどこ行く?」
「さあ、わからない」
こうして僕たちはまた当てのない旅を迎えることになったのだ。
駅前には立派なロータリーがあり、その横に観光地図があるのを見つけた。
「とりあえずあの地図を見に行こう」
その地図を見る限り、ここは奥津という街で、かなり山がちな地形になっているようだ。
この街は谷の開けた部分にできていて川を遡るとかなり険しい地形となっている。
(そして上流の方に廃線跡があると、、)
「あの山、超えようよ」
美咲は西の、上流の方にある山を指差して言った。
「ええ!?、あの山超えるの?
超えたらもう隣の県だよ?」
「隣の県まで行こうよ」
「じゃあ一応聞くけど、今日はどこに泊まるつもりなんだ?」
「、、それは、、ほらここ、キャンプ場があるでしょう。ここにしよう」
駅から地図上で3kmほど川沿いを上ったところを指さして言った。
「まあ、遠い場所に行くと言ったしいいか」
そうと決まれば進むしかない。
とりあえず僕たちは駅を出て真っすぐ進み、川沿いの道まで来た。
「ここを右に行ったらより上流だね」
川沿いの道は交通量も多く、よく整備されていた。おそらく国道だろう。
それから30分ほど国道を上ると、森の奥から河川敷に芝の広場が現れた。
そこにはいくつか建物があり、更にはテントも3つほどすでに建っていた。
「ここがキャンプ場か」
「そうっぽいよね」
国道から階段を下り、河川敷に出る。その中の適当な場所にカバンを下ろす。
そうしたら美咲のバックを開け、テントを取り出した。
「これ、どうやって立てるの?」
「僕に聞かれてもわからないよ」
僕はキャンプなんて行ったこともなかった。
「あでも、トリセツとかあるんじゃね?」
「たしかに!」
美咲はテントの入っていた袋をごそごそする
「あった!早速組み立てよ」
トリセツを見ながらでも初めてのテント設営にはかなり手間取った。
「えっと、、ここにペグを打って、この柱を立てるのね」
「じゃあそれ終わったらその隣のペグも打って」
「わかった」
組み立て終わったときには、時刻はすでに18時を回っていた。
いくら7月とは言え、この時間になるとかなり暗くなっていた。
普段だったらもう少し明るくてもおかしくないが、いかんせんここは山の中なので仕方がない。
夏休みということもあって周りには数組の家族のテントが立っているが、それ以外には殆ど光はない。
「今からどうする?」
ぐぅ〜
返事より先に美咲のお腹が鳴った。
「ご飯にするか」
「そうしよっか」
今度は僕のカバンを開け、一応持ってきていた米と、レトルトカレーを取り出した。
(しまった。鍋がないから米を炊けない)
「美咲、鍋とか持ってるか?」
「あるわけ無いでしょそんなもの、かさばるもし重いから持ってきてないよ」
これはまずい。しかし僕はふと考えついた。
(キャンプ場なら貸し出しのものがあるのでは?)
僕は管理棟と思われる建物に向かった。
管理等には窓口があり、その中には50代ぐらいのおっちゃんが居た。
「へいいらっしゃい。なんの用だい?」
「すみません、鍋の貸し出しってありますか?あとガスコンロと」
「土鍋でもいいか?」
「はい、お願いします」
こうして僕たちは土鍋とコンロを手に入れ、米を炊いた
「「いただきます」」
今日の夕食はレトルトカレーだ。質素だが、温かいものを食べる機会はあまり多くないかもしれない。
「「ごちそうさまでした」」
「食べ終わったし、今日は早めに寝るか?明日は長丁場になるし」
「ええそうね、明日は早めにここを出ましょ」
僕らはテントに入り、ランプを消した。
近くを流れる川のせせらぎがよく聞こえ、その周りにはホタルの群がいる。
「今頃みんなは僕らを心配しているのかな」
少し気になった。学校で死体が見つかって、僕らが消えたとなると一体どうなっているのだろうか。
「心配なんかするわけ無いでしょ。だいたい向こうがいじめてきたんだ」
「それもそうだ。僕だって誰にも期待なんかされていなかった」
美咲の言葉には説得力があった。
心のなかで何か、安心したような気がした。そしてそのまま眠りについた。
ーーーーーーーー
「やはり、死因はこの階段から突き落とされたことで間違いないようです、刑事」
「そうか。鑑識ありがとう」
7月23日の午後1時。
「一体誰がこんなことを、、とりあえずこの学校の生徒を集めてくれ」
「了解しました」
それから一時間かけてすべての生徒を集めた。
街中でアナウンスを実施し、来ない生徒の家には一件ずつ電話をかけた。
「旅行などの用事以外で、ここに来ていないのはあと2人か、、、それが誰か分かるか?」
「朝倉陽と、橋田美咲がいません」
教員が報告した。
「家に電話もかけましたが、二人は『行ってきます』としか言っていなかったと」
刑事は確信した。彼らになにかが起こっていると。
「今すぐ二人を探し出せ!」
「「は!」」
ーーーーーーーー
次の日
僕は前日早く寝たおかげか、朝5時に目が覚めた。
美咲はまだ寝ているので、先に朝食の用意をする。
昨日の夕食とは打って変わって、今日は缶詰と乾パンだ。
「美咲ー朝飯できたぞー」
僕の声で美咲が起きる。
「おはよう陽」
「おはよ美咲」
美咲は起き上がるとそのまま座り込む。
「「いただきます」」
缶詰はなかなかに美味かったが、乾パンは食べると口がパサパサする。
「あ、水無くなっちゃった。そこの水道で足してくる」
「行くなら僕の分もお願いしていい?」
「うん」
美咲はダッシュで水を汲みに行き、戻ってきた。
すぐに再び食べ始め、そのままの勢いで食べ終わる。
「「ごちそうさまでした」」
僕らはすぐに朝食を済ませて、近くの川でシャワー代わりの水浴びをしてからここを出る用意をする。
僕が力仕事のテントの片付けをしている間に、美咲は着替えなど他の荷物をまとめてくれた。
「さあ、行こうか」
「うん」
僕らは再び重いカバンを背負ってキャンプ場をあとにした。
今日の目的地は山の向こう、隣の県。長丁場になりそうだ。
昨日歩いてきた国道をさらに進む。
「陽〜ここに廃線跡みたいなのがあるよ」
美咲が突然言った。たしかに前方に少しくちた鉄橋のようなものがある。
「廃線跡?」
(廃線跡か。もしかしたら山を超えられるのだろうか)
「もしかしたら山を超えられるかも。行ってみよう」
周りを見渡す。道路をまたぐ鉄橋の前後は土手と鳴っていて、簡単に登れそうだった。
「こっちから行けそう。ついてきて」
土手を登ると、まだ比較的新しい枕木が残った廃線跡に出た。
「う〜ん。どっちが上流につながっていそうだろうか」
たしかに、廃線跡は道路とほぼ垂直に交わっており、どっちが上流かの見分けは難しい。
ただ、一方は道路の上流側に向かってカーブしているようだった。
「あっちに言ったらより上流に近づけそうじゃない?」
カーブしている方を指さす。
「たしかに。じゃあそっちに行こうか」
線路の上を歩き、上流の方へのカーブを抜けると、少し先に真っ暗なトンネルを見つけた
「トンネルがある。もしかしたら山の向こうにつながってるかもしれない」
「ホントだ。、、でも真っ暗だよ、、怖いかも」
「怖いなんて、今更じゃないか。行こう」
「そうね、今更だったね。行こうか」
美咲はカバンから懐中電灯を取り出し、電池を入れてつけた。
僕らはトンネルの中に足を踏み入れた。トンネルの内部は比較的綺麗で、暗いこと以外に特に障害はなかった。
「やっぱり、、少し怖い」
美咲は僕の手を握った。
それでも、この時の美咲の手の震えはすでになくなっていた。
5分ほどが経っただろうか。カーブの奥から光が見えた。
僕たちは思わず走った。
トンネルを抜けるとすぐに橋梁に差し掛かった。高い渓谷にかかる、赤いトラス橋。
「綺麗だね」
「そうだね」
僕らはまた廃線跡を進む。さっきは登りだったが今度は下りなため足取りは軽い。
さっきはほぼ完全に枕木が残っていたが、今度は藪が繁茂していてかなり進みづらい。
藪をかき分けつつ10分ほど下ると、また交差する道路が現れた。今度は踏切だったので簡単に道路に出られそうだ。
「ここを曲がったほうがいいのかな、、」
「さあ。でも道路沿いのほうが色々あるんじゃない?」
「それもそうだね」
僕たちは山を下っていった。学校の思い出や、気に入らないこと、多くの話題が上がり、談笑しながら歩いていった。
これが自殺の旅だとは思えないほど、その空気は明るかった。
ーーーーーーーー
1時間半ほど歩いただろうか。家が十数件ほどしかない小さな集落についた。
気づけばさっき越えた峠もかなり遠くに見える。
時刻は11時を回っていた。
「そろそろ昼飯も考えないとな」
ここまでかなりの距離を歩いてきており、僕たちはかなり疲労していた。
その上今日は特に暑い。水筒の水すらももう殆どなくなってしまった。
「お腹すいたー。ここにはなんか食べるところはないの?」
「あるかなぁ?」
僕らは集落を一周したがレストランや食事処と行った類は見当たらなかった。
「昼ごはんどうする?」
「とりあえず進もう。缶詰もあるし」
「でも水筒、なくなっちゃったよ」
美咲は水筒を開けて逆さまにした。
水筒からは数滴の水が落ちるのみであった。
「それは困ったなぁ」
「そこの川で汲むのは?」
(川か、水のきれいさにもよるかな)
「まあとりあえず行ってみよ」
国道の橋の横から河川敷に降りると、川幅3メートルぐらいの小さな川があった。
川の水は澄み切っていて、川底まできれいに見えた。
「これならそのまま飲んでもある程度大丈夫そうじゃない?」
(たしかにそうだ。でもできれば煮沸したほうが、、まあいっか)
「確かに飲めそうだね」
僕たちは川で水筒に水を汲み、河川敷をあとにした。
それからしばらく国道を下ったが、特に集落はないまま時刻は12時を迎えた。
「流石にお腹すいたよぉー」
ついに美咲が音を上げた。
「じゃあ飯にするか。」
道端でカバンを開き、缶詰と乾パンを取り出す。これで残りは4食分。
「「いただきます」」
「うんまー」
疲れたときに食べるご飯というのはとても美味しいものだ。
「「ごちそうさまでした」」
小休憩を終えた後、僕らは再び歩き出した。
「この山道、いつまで続くんだろうか」
「さあ。わからないけど大丈夫でしょ」
だが30分もすると大きな街についた。昨日、電車を降りた街よりも大きい。
ここがどこだかはわからないが、青看板には駅と書いてあった。
「また駅があるみたいだ。行ってみよう」
かなり大きな交差点を右に曲がり、駅前通りらしき道路を進む
またロータリーがあり、駅舎の横にはこの地区の地図があった。
「あの地図を見たらここがどこか分かるんじゃないか?」
「たしかに」
観光名所などが乗った普通の地図。だがそこには張り紙が貼られていた。
『行方不明 朝倉 陽、橋田 美咲』
僕たちを探す張り紙だった。
「陽、これどうするの?」
「どうしようか、、」
(思っていたよりも追っ手が来るのが早いな)
「とりあえずもっと遠くに逃げよう」
「そ、そうだね。とりあえず電車にのろう」
自動券売機で切符を買い、改札に通す。
ホームに出るとさっきとは違って真新しい列車が停まっていた。
電車に乗り込み、数分するとその電車はすぐに発車した。
発車時刻は14時ちょうど。夏休みともあってかなり暑かったが、ドアが閉まると車内はすぐに涼しくなった。
「この電車めっちゃ涼しいね」
さっきまでかいていた汗が一気に冷えて寒いぐらいだ。
「この電車は 普通 八幡行きです。終点まですべての駅に停車します」
車内放送が入る。
(張り紙があるなら、できれば人の目が少ない田舎に行きたい)
「やっぱり、途中で降りないか?」
「なんで?遠くまで行くなら終点まで乗ったほうがいいでしょ」
「いや、張り紙がある以上、人の少ない田舎で降りたほうがいい」
「たしかにそうね」
結局3駅ほど行った、周りに小さな集落しかない駅で降りた
「まずいな、持ってきたお金はあと800円しかない。どこかでお金を調達しないとだな」
「うーん、、盗めばいいんじゃない?」
「え?」
美咲の口から飛び出したあまりに想定外の答えに、僕は戸惑う。
「だって自殺の旅だよ?今更盗んで何になるってのよ」
「それもそうだな」
案外すんなり納得してしまった。
「じゃあ戸締りの緩い家のほうがいいな。どこかにあるかな」
「あの家とかどう?車もないし、日本家屋だから縁側から簡単に入れそうだよ」
僕らは身長に縁側に回り、誰も居ないことを確認した。
そして縁側から障子を開いて、居間に上がった。
「どこに金があるのかな?」
美咲が聞いてきた。
(自分から盗みに行こうとか言っておいて知らないのかよ)
「やっぱタンスじゃない?タンス預金とか言うし」
ちゃぶ台の横にあるタンスを開けると、中から封筒が出てきた。すかさず中を除くと三万円が入っているようだった。
(やったぜ)
「三万あったよ」
「え?マジで?大金じゃん!」
「とりあえずいつ帰ってくるから分からないからすぐ逃げるぞ」
僕らは縁側から出てそのまま裏庭の塀を越え、田んぼの中のあぜ道に出た。
ちょうどその時、さっきの家から車の音がした。
「危なかったね」
「まだ油断ならない。逃げよう」
15分ぐらい小走りで逃げ、僕たちは雑木林に逃げ込んだ。
「ふぅ、疲れたね」
「ああ、そうだな」
盗んだにも関わらず、僕らの心情は清々しいものだった。
「今更怖いものはもうないね」
「うん!」
少し休憩した後、僕らは再び歩き出した。
その時にメガネを忘れていったことを、僕らはまだ知らない。
「次はどこ行く?」
「さあ。まあなんとかなるでしょ」
そしてまた僕たちはふらふらと歩き出した。
ーーーーーーーー
1時間ほど歩いただろうか。かなり大きな自然公園についた。
「小さめの山があるね。登ろ」
「そうだね。周りが見渡せそうだ」
(正直、ここの地形は全くわからないから地形を知れるのはありがたい。)
「遊歩道があるからあそこから登れそう」
遊歩道を軽々しく上っていく。頂上には展望デッキがあった。
僕らは周りを見渡す。辺りは一面田んぼ。北と南、僕らが北方向の東には山があり、西には海があった。
その手前にはかなり大きな街。あれが八幡だろうか。
時刻は16字になり、日は水平線に近づいていた。
「海と夕日が綺麗だね」
「私、海行ってみたい」
「うん。じゃあ明日は海に行こう」
あたりの地形も把握した。
「じゃ、山を降りて今夜泊まる場所を決めようか」
「そうしよ」
山を折り、公園の入口まで戻ってきたところで入口にあった地図を見る。
「へぇー、この公園にはキャンプをできる場所があるんだね」
どうやらキャンプ場も併設されているようだ。
「じゃあ今日はそこに泊まろうか」
自然の中に作られた道を進み、1kmほど言ったところで木がなく開けた土地に出た。
「思ったよりも広いね」
「じゃあテントを張るから手伝って」
カバンからテントを出し、広げる。昨日もしたこともあり、素早く設営することができた。
「陽、そう言えばメガネどうしたの?」
「え?あれ?どっかで落としちゃったかも」
「何やってんのw」
「まあいいや。枝集めてきてくれない?」
「わかったわ」
缶詰と乾パン、ライトを取り出し、ライトを付けてテントに吊る。
軽く用意したので僕も枝を集める。10本ぐらい集めたらそのうち一本をナイフで削り、木の粉を集める。
(ここに火をつければ焚き火の完成だ)
「取ってきたよー」
美咲が両手いっぱいに枝を持って帰ってきた。
「じゃあそこ置いて」
マッチで木の粉に火を付け、枝の山に投げ入れる。あっという間に火は枝に燃え移り、焚き火ができた。
「これで水を煮沸しよう」
横にある川から水を汲み、煮沸する。ついでにその中に缶詰を入れて、加熱する。
「やっぱご飯はあったかくないとね」
「そのほうが美味しいよね」
煮沸した水を水筒に入れた後、缶切りでやけどしないように缶を開ける。
「「いただきます」」
「やっぱあったかいもののほうがうまいなぁ」
「乾パンがよく進むw」
「乾パンが進むとは言わないでしょw」
「「wwww」」
僕はこの瞬間がいつまでも続いてほしいと思った。
「「ごちそうさまでした」」
「今日は寝る前に水浴びしちゃうか」
「まだちょっと明るいしそうしよう」
河原に出ると裸足だと小石が少し痛かったが、そんな事も忘れて僕らは水浴びをした。
「おりゃ!」
美咲が突然水をかけてきた
「なにすんねんw」
「うらぁ仕返しー!」
「きゃあ」
ーーーーーーーー
着替えた後はすぐにテントに入った。
「いつか見たあのアニメの主人公なら、僕らも救ってくれるのかな」
そんなことをふと、口からこぼした。
「え?そんな夢なら捨てたよ。だって現実を見ろよ」
「幸せの四文字なんて無かった。今までの人生で思い知ったじゃないか」
(ああ、そうだった。僕たちは
「ああそうだ。僕たちは虐げられてきた」
「自分は何も悪くはないと。誰もがきっと思ってる」
「みんな、自分を正当化しているだけだ」
「だから、この旅は私たちのこの世界からの逃避行だ」
「⋯おやすみ」
「おやすみ」
ーーーーーーーー
「なにか手がかりはないのか!?」
「すみません、全く見つかりません」
刑事は相当怒っていた。
陽たちがトンネルを歩いている頃、学校には多くの関係者が集まっていた。
「橋田美咲は今回亡くなった子にいじめられていたことが判明しました」
教員が言う。
「それは本当か?そうならば奴らが逃げているのも納得できる」
「今すぐ捜索範囲を広げろ。隣の県までだ!」
刑事は素早く指示し、周りの者もすぐに動く。
「一体、どこに消えたんだ」
ーーーーーーーー
朝8時。今日は昨日と違ってぐっすり寝た。
「陽おはよー」
どうやら美咲が先に起きていたようだ。
「うん、おはよ」
僕らはまず軽く朝食を取る。
「今日は海を目指そ!」
「ああ。昨日そう言っていたね」
「じゃあテント片付けちゃうね」
「分かった」
二日目にもなればなれたものですぐにテントや出していた着替えなどをしまい、出発した。
「海までどうやって行くか、、」
昨日見たところ海まではおよそ15km。歩けないわけではないがこの炎天下、なるべく歩きたくない距離だ。
僕は迷ったが、この辺りには鉄道はおそらくない。最も近いのは昨日降りた駅だ。
「まずはバスを探そう」
「なるほど、その手があったか」
美咲はこういうときに頭が切れる。
「バス停がある!陽、今何時?」
周りを見渡す。たしかに自然公園の駐車場の隅にバス停があった。
「えっと今は、8時55分だよ」
「ってことは、、あと20分でバスが来るよ」
(いいじゃん。あでもどこ行きかわからないな)
「それどこ行き?」
「あっ、、えっとね、三川浜って書いてある」
(三川浜か、聞いたことないけど海沿いにありそうだな)
「よしそれに乗ろう」
20分後、定刻通りバスがやってきた。行き先にはしっかり三川浜と書いてある。
僕たちは整理券を取ってバスに乗り、後ろの方に座る。
「これで海に行けるのかぁ」
「ああ」
ーーーーーーーー
それからバスに揺られること35分。
「次は、三川浜、三川浜、終点です。どなた様もお忘れ物無いようにお願いします」
「ついたね」
僕らはバスを降りる。支払いのときに一万円札を出すと運転手さんに少し驚かれた。
降りたところからはまだ海は見えなかったが、明らかに海沿いの街という感じの街が広がっていた。
「良かった。そんなに大きい街じゃないみたい」
「缶詰も少なくなってきたし、今のうちに買っておこう」
僕らはまたあたりを見回す。スーパーらしき建物があった。
「あそこにスーパーがあるから行こう」
スーパーに入ると店内は冷房が効きすぎており、涼しいを通り越して寒かった。
「寒っ」
「体が冷えるのは久しぶりね」
「うん。でも張り紙があるかもだから長居はしたくない」
「じゃあさっさと買ってでましょ」
缶詰売り場に向かい、常温でも食べられる缶詰をいくつか買った。乾パンも買うついでに万が一に備えてカロリーメイトも買っておいた。
「久しぶりにジュースが飲みたいなぁ」
「じゃあ買えばいいじゃん」
「え?いいの?やった」
更に2人分のジュースをカートに入れ、レジに向かう。
会計を済ませたらそれをリュックに詰め、店内から出た。
「じゃあ海に行こっか」
「うん。あっでも水着なくない?」
「あっ、忘れてたわ」
僕らはまたあたりを見回す。紳士服店はあるがそれ以外に服屋はなさそうだ。
「そう言えば海の家って水着売ってない?」
「そういえばそうじゃん」
「じゃあもうさっさと浜に向かいましょ」
バスがきた方向とは正反対に向かって歩く。途中踏切があった。
(昨日の電車をそのまま乗っていたらこの辺りについたんだろうか)
突然街が途切れると、目の前には広大なビーチが広がっていた。
「海だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
美咲はそう言って走り出す。
僕も追いかける。
美咲はそのまま海にダイブしようとしていたのでなんとか引き止める
「まだ水着じゃないだろが。着替えは限られてるんだからね」
「、、ごめん」
美咲は少ししょんぼりした。
僕たちは海の家に向かい、水着を買う。そのまま併設の更衣室で着替える。
「今度こそ海だぁぁぁ」
美咲はまた走り出した。今度は僕は止めない。
それどころか僕も後を追って飛び込みに行く。
美咲が飛び込んで大きな水柱を上げる。すかさず僕もその横に飛び込む。
「「しょっぱぁぁぁ」」
僕らは二人とも初めての海。プールとは違うその塩辛さに僕たちは驚いた。
それからというもの、僕らは時間を忘れて海を楽しんだ。
ーーーーーーーー
海の家の時計が12時を指す頃、僕らは一度海を上がっていた。
「お腹すいたねー」
「うん!」
「海の家で食べようか」
浜を歩く。足の裏がすごく熱いが、もはやそんなことは大事ではない
「私、焼きそばとたこ焼き食べたい」
「大将、焼きそばとたこ焼き2つずつ」
「へいよ!」
「お会計1200万円w」
「え?」
「いや冗談冗談。普通に1200円」
僕はさっきバスで崩れたお金の残りでちょうどを支払う。
「まいどありっ」
「そこ座って食べよ」
「そうしよう」
「「いただきます」」
たこ焼きを頬張る。やけどしそうに鳴ったがすかさずジュースで熱を中和する
「あっっつ」
「けどうまー!」
二人で食べるには少し多い量だと思っていたが、一瞬で食べきってしまった
「「ごちそうさまでした」」
「しゃあああもう一回飛び込むぞー」
再び猛ダッシュで海に飛び込む。やはり水に浸っていると涼しい。
僕たちはまた遊び呆けた。
ーーーーーーーー
「刑事、手がかりが見つかりました」
「何!?」
「隣の県の雑木林で朝倉陽のメガネが見つかりました」
「隣の県に、本当に行っていたのか?」
刑事はひどく驚いた。隣の県に行く峠には道路も、今は鉄道もない。一体どうやって行ったのか。
「そのようです」
「隣の県を捜索しろ。他にも手がかりがあるかもしれん」
ーーーーーーーー
海で遊んでいた僕たちが、疲れて再び浜に上がったのは午後4時のことである。
「よし。海は遊び尽くしたね」
「うん。じゃあまた旅の再開だね」
「とりあえず着替えよっか」
「いや、このまま海沿いを進んでいくというのはどう?これまで山ばっかりだったし」
(今日の美咲の頭は切れてるな)
「それは名案だね!しかも見つかりにくいと。じゃあ靴だけ履いていこう」
「そうだね」
靴を履き荷物をまとめ、僕らはまた浜を南に進んでいった。
一キロぐらい進むと浜は途切れ、岩場が現れた。
「陽、どうする?着替えて内陸に行く?」
「いや、岩場を進んだほうが見つかりにくい。多少険しくても岩場を進もう」
岩場を進む。波が打ち寄せるたびに水しぶきがかかるが、水着なのでさほど気にならない。
30分も進むと少し開けた場所についた。人は住んでいないが、小さな沢があり、テントを建てられそうなスペースがある。
「この岩場があとどれぐらい続くかわからないし、今日はここでキャンプするか」
「そうしよう!」
テントを貼る。三日目には二人とも慣れきって、15分で張ることができた。
「じゃあまた焚き火を作るから枝持ってきて」
僕は昨日と同じように夕食の準備をする。
「はーい持ってきたよ」
「ありがと」
木を削り、粉にして、着火。すかさず燃え移らせる。
そして今日はスーパーで買った惣菜を温める
「唐揚げ食べたい」
「はい!多分温まってるよ」
パックご飯も温めて食べる。キャンプで温かいご飯を食べれるのは純粋に嬉しい。
「「いただきます」」
「この唐揚げ、めっちゃうまいんですけど!?」
「スーパーの惣菜なんだけどね」
「「ごちそうさまでした」」
ヒューーーーどん!
突然の大きな音に僕たちは驚く。その音は僕らが来た方向から鳴っていた。
「え?何?花火か?」
「そうだよ、陽、それもすごく近いよ」
夜空一面に、パッと光って咲いた花火。
「綺麗だね、陽」
「そうだね、美咲。」
(この瞬間がいつまでも続いてほしい)
「ずっと、陽との、この時間が続けばいいのに」
「そうだね、僕と美咲との、ずっとこの時間が続けばいいのに」
そう話している間も花火は鳴り止まない。僕らは焚き火が消えてることにも気付かず、夢中になって花火を見ていた。
いよいよクライマックス。
大量の花火が一度に打ち上げられ、同時に開いた。
「本当にすごいね、、、」
「そうだね、、」
遠くから歓声が聞こえる。おそらく観客席からのものだろう。
祭りのあとというのは少しさみしい。
「さあ、もう寝ようか」
「うん、そうしよう」
テントに入る。焚き火はすでに消えているのであとは寝るだけだ。
「「おやすみ」」
海の疲労が出たのか、僕たちはすぐに眠りについた。
ーーーーーーーー
「ダメです。他に手がかりは見つかりません」
「クソ、、なぜだ。なぜ見つからない」
その時、一人の警官が急いでその部屋に入ってきた。
「聞き取り調査から手がかりを得ました!」
「何!?今すぐ教えろ!」
「三川浜町内でスーパーに入る二人を見たとの報告が!
それと、海で遊ぶ様子を見たとの報告もあります」
「よくやった。さあ、明日は三川浜周辺で調査するぞ!」
ーーーーーーーー
午前七時、今日は僕が先に起きたようだ。
すぐに美咲も起きてきた。
「おはよー陽、って寒っ!」
「そう言えば昨日、僕たち昨日水着のまま寝ちゃったみたいだね」
(風邪を引かなくてよかったなぁ)
「そう言えば着替えた記憶ないわ。あっでもこのあとも岩場を越えるなら水着のほうがいいんじゃない?」
「それもそうだね」
乾パンと缶詰をさっと食べる。
「じゃあテントを畳んで出発しよう!」
「そうしよう」
慣れた手つきでテントを畳み、カバンにしまう。
「それじゃ出発だ」
僕らはまた海岸線に沿って南下する。
30分もすると岩場の奥に、開けた土地が見えた。
「ついにこの岩場からも脱出だね!っておっと!」
「美咲大丈夫か?」
「いてて、、大丈夫。血も出てないし」
「そっか。それにしても花火、綺麗だったなぁ」
「ね!」
岩場最後の岩から飛び降り、あたりを見渡す。
「ずっと砂浜だね」
「とりあえず着替えよう!」
僕らは岩場の影に再び入り、着替える。
(久しぶりに来た服は、なんだかゴワゴワするな)
「さてじゃあ、ちょっと内陸のほう行くか」
「そうしよう」
海岸線の防波堤をよじ登り、見渡すと一面水田が広がっていた。
その一方で、美咲は覚悟を決めたように話し始めた。
「明日、死のう」
「だから、明日は腹いっぱいレストランで食べよう」
(え?、ああそうだった。この旅は自殺の旅だった)
「わかった。そうしよう」
二人の空気は少し暗くなった。
数秒の沈黙の末、美咲が口を開く。
「じゃあそのお金を調達しよう!」
今度はかなり明るい発言だった。
「全く、どういう切り替えしてんだか、、」
「いいじゃん別に」
「それもそうだな」
僕らは防波堤に沿ってさらに南下する。
その時だった。
「朝倉陽ー、橋田美咲ー、どこにいますかー」
僕らを呼ぶ声がさっきの岩場の上にある山から聞こえてきた。
「まずい、僕らを追う警官がもうここまで来たんだ」
「そうっぽいね。とりあえず逃げましょ」
(どこか隠れられそうな場所は、、、)
僕は走りながら周りを見渡す。目測500mほど先に、三川浜ぐらいの街があるようだ。
「あの街だ。あの町の人に紛れよう!」
「わかった」
僕らは必死に走った。実際には3分も走っていないだろうが、その時間は10分ほどにも感じられた。
「はあ、はあ、ついた」
「はあ、そうだね、暑いからどっか建物入ろ」
僕らは目の前にあるスーパーに入る。
「ここ、すごく涼しいね」
「ああ」
休憩スペースに腰を掛け、水筒を飲む
15分ほどするとすぐに体力は回復した。
「同じ場所にとどまるのは危ない。とりあえずここから出よう」
スーパーを出て、今度は内陸の方に向かう。
「どうする?」
「内陸の方に行けば小さい集落の一つや二つあるだろう。そこで金を調達しよう」
「きまりだね!」
僕らは内陸に向かう。あれから追手の声は聞こえない。つまりは見つかっていないということだろう。
案の定30分ほど歩くと家が20件ほどの集落が見えてきた。
「あの家なら一昨日と同じで簡単に入れそうだね」
「車もないし、いいんじゃないかな?」
家の横から縁側に回り、素早く侵入する。
「タンスを見たらいいんだよね?」
「うん。そうして」
その時だった。
「コラー!何人様の家に勝手に上がってんじゃ」
その家の住人らしきおじいさんが突然二階から降りてきた。
「まずい!逃げよう!」
ひょいとブロック塀を超えて、僕らは畑に出る。
「っチッ。逃がしたか」
おじいさんの舌打ちはここまで聞こえた。
僕らはまた必死に走った。田んぼの畦道を進み、すぐに山の中に入った。
「ここはもう警察が来るかもしれない。移動しよう」
「じゃあ一旦この尾根を越えよう」
かなりの急斜面をひょいひょいと上っていく。
お根の先の方ということもあって、すぐに登りきった
「ここから下りだ。足元気を付けて」
「見て!あそこの谷にも集落があるよ」
美咲は前の方を指す。尾根を下った先の谷にはまた集落があった。
僕らはそこを目指して一直線に下る。
「よし。今度はバレないように静かに入るぞ」
下った先の家は庭がそのままこちらの山につながっていて、簡単に侵入できた。
僕らは無言のままタンスをあさり、5万円を手に入れた
「やった!」
「美咲!静かに!」
「あっ、そうだったね」
僕らはそのまま縁側から表に回り、道路に出た。山間の小さな集落のようだったが、海側は開けてさっきと同じで水田が広がっていた。
「朝倉陽、橋田美咲、そこにいるんだろう、出てきなさい」
尾根の上から声がする。
「まずい。追手が来た」
「逃げろ!鬼ごっこだ!」
(今はひたすら逃げるしかない)
僕らは一気に森の中を進み、追手が見えない位置まで移動した。
「なんとか撒いた?」
「いや、安心はできない。もう少し逃げよう」
ーーーーーーーー
「ッチ。奴らどこに逃げやがった」
「刑事、報告です。二人を発見しました」
「何?どこだ?」
警官は捜査室の地図を指差し、言う
「三川浜の北の、川上町です。現在二人は逃走し、再び姿を隠しました」
「わかった。総員、川上町へ!」
ーーーーーーーー
一度森に入り、倒木に腰を掛ける
「はあ、はあ、どうする?」
「とりあえず水飲も」
水筒を取り出し、水を飲もうとする。
「⋯⋯ない」
「え?⋯あっ、ほんとだ」
「仕方ない。このまま逃げるしかない」
あたりを見回す。川どころか沢の一つもない。ただ蝉の鳴き声が響いている
満足な休憩も取れず、僕らはまた歩き出した。
すかさず森の中に逃げ込む
「どこ行った?」
着々と警官の声は近づいてくる。
脱水で視界が揺らぐ。だがそんな事を気にする暇はない。
「こっちこっち!」
どうやら美咲は身を隠せそうな場所を見つけたらしい。
「おっけナイス!そっち行くわ」
僕らは洞穴に身を隠した。
時間がない。息を整えたらまた走り出す。
右後ろ100mほどに二人組の警官の影。
「おい!あの人影!」
「まずいわね、、ついに警官がきたか、、」
(このままじゃ逃げ切れない。何か打開策は、、、)
「一旦平地に出て、バスとかで逃げよう!」
咄嗟に浮かんだ案だった。もちろんこの辺りにバス停があるかもわからないが、賭ける価値はある。
その時、美咲はカバンをおろし、ふとナイフを取った。
「おい、美咲、早く行くぞ!」
それでも美咲は動こうとしない。
「いや、もうどこにもいかない」
「はぁ?」
美咲は覚悟を決めたようにナイフを首に当てる。
「君が今までそばに居たからここまでこれたんだ」
「おいっ」
僕は止めようとする。
「だからもういいよ、死ぬのは私一人でいいよ」
———そして君は首を切った。
まるで何かの映画のワンシーンだ。
白昼夢を見ている気がした。
ぼくはその場に立ち尽くしたまま、動くことができなかった。
気づけばぼくの周りに数人の警官が現れ、ぼくは捕まった。
それからぼくは取り調べを受けた。
ーーーーーーーー
僕には日常が帰ってきた。
なんのお咎めもなく、すべて美咲がやったこととして処理された。
破れた宿題、写真。壊れたカメラ。
それらだけが。僕らの逃避行の証拠だった。
眼鏡だって帰ってきた。
家でも、学校に行っても、日常は何も変わらないままだった。
そして時は過ぎていった。
ただ暑い暑い日が過ぎていった。
家族もクラスの奴らもいるのになぜか君だけはどこにも居ない。
あの夏の日を思い出す。
僕は今も今でも歌ってる。
君をずっと探しているんだ。君に言いたいことがあるんだ。
9月の終わりにくしゃみして。
6月の匂いを繰り返す。
君の笑顔は、君の無邪気さは頭の中を飽和している。
誰も何も悪くないよ。
君は何も悪くないから。
『もういいよ投げ出してしまおう』
そう言ってほしかったのだろう?
なぁ?