裏の世界で生きる殺し屋たち。
彼らには、当然『表の顔』がある。
秘密だってあるし、恋人や家族がいる殺し屋もいる。
これは、そんな彼らのちょっとした日常の話。
『殺し屋と幽霊の愉快な日常』アナザーストーリー
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目次
蜥蜴の1日
蜥蜴…仲介業者。本屋を営んでいる20代の女性。
椿…ナイフを使う殺し屋。20代の男性で、業界でも有名。
千歳…毒針を使う殺し屋。20代の女性で、最近は百敷と組んでいる。
百敷…自殺偽装専門の殺し屋。20代の女性で、千歳と双子疑惑があるほどそっくり。
長崎…始末屋。30代の男性で、市役所に勤めている。
結城…毒殺の得意な殺し屋。20代の男性で、文具メーカーの社員。
「それなら蜥蜴に頼んだら?」
この業界で、何かしらの理由があって殺し屋を雇おうとする人間は、行き詰まるとそう言われる。
蜥蜴。本屋を営む仲介業者。何故か殺し屋のことに精通している女性だ。
蜥蜴「私も毎回毎回説教したいわけやないねん。でもな…なんであんた達は喧嘩しかできないん!?」
蜥蜴の前には、正座した男女。
千鶴「ごめんなさい…」
椿「千鶴が喧嘩売ってくる」
蜥蜴「…殺し屋のツンデレ要素とかいらへんで?」
椿「はあ?」
百敷「千鶴が喧嘩売るのも良くないし、今度はちゃんと止めるね」
千鶴とそっくりの顔をした百敷が言う。
そっくりだが、二人は双子ではないらしい。
椿「そうしてよ。こっちは忙しいしさぁ…」
千鶴「チッ」
椿「わーこわーい」
棒読みで、心にも思っていないであろう事を言う椿。業界でもトップクラスの実力者である彼に怖いものなどあるのだろうか。
仲介業者である柳澤のことは苦手ならしいが、本当だろうか。この業界では、嘘も真実となり、真実も嘘となることなどありがちである。
蜥蜴「今度喧嘩したら出禁にしたるから。…あ、百敷に依頼来とるで」
百敷「はーい!」
蜥蜴から資料を受け取り、さっと目を通す。
百敷「OKです」
蜥蜴「ん。じゃー、依頼人に連絡しとくわ」
椿「僕も仕事したいなー。最近ぜんぜん無くて、ストレス溜まってるんだよね」
蜥蜴「サイコやん」
蜥蜴はそう言うが、業界ではサイコパスは珍しくない。
そもそも、『人を殺すことに罪悪感を覚えない人間』でなければ生き残れないだろう。
何かしらの事情があって業界に入った者もいるが、1年も経つと、覚悟のない者は死んでしまう。
最近入ってきた中で今も生きているのは、柊や御魂、黒宮くらいだろう。もう1人生きていそうな者はいるが、基本的に音信不通なため今も生きているかは分からない。
蜥蜴「ホンマ、あんたらって狂っとるな」
椿「蜥蜴が言えることじゃないでしょー」
千鶴「狂ってなきゃ生きてけないよ…」
千鶴が溜息を吐く。
蜥蜴「殺し屋も大変やなぁ…」
百敷「最近、『会社』が増えてきて色々ありますしね」
千鶴「野田んとこ?あっこ、良い噂聞かないよね」
⁇「峰山が野田を潰そうとしてるらしいな」
店に30代くらいの男性が入ってきた。
椿「へー、じゃあ僕の仕事も増えると思う?」
千鶴「それは長崎も知らないでしょ」
長崎は苦笑した。
長崎「増えるかもしれないが、野田に雇われたら殺されると思うぞ」
椿「そっかー」
長崎「鯨とか向日葵とか、金目当てで野田に雇われたやつは皆死んでる。殺したのは峰山の部下だった」
蜥蜴「そんな情報、私らに教えていいん?」
長崎「俺が死んでもいいようにな」
千鶴「私たちも一緒に死ねって?ヤダよ」
蜥蜴「私もまだ死にたく無いわ。今死んだら海蛇に怒られてまう」
百敷「新刊買えないって?」
蜥蜴「自分で探せば良いと思うんやけどな」
椿「海蛇って忙しいでしょ」
長崎「で、一つ気になったのが…」
と、店に客が入ってきた。
歩き方から見るに、殺し屋だ。
⁇「蜥蜴さんですか?」
蜥蜴「そうやけど、なんか用?」
結城「私は結城です。依頼をしたいのですが」
蜥蜴「何の依頼?」
結城「業界で一番強い殺し屋を雇いたいんです」
長崎が眉間に皺を寄せた。
蜥蜴「一番強い…って、一番「仕事」しとるってことでええ?せやったら、時雨か、日和か…そこにおる椿か……新人でええんやったら黒宮とか、御魂、あとは蝮もオススメやで」
結城「じゃあ、日和さんでお願いします」
蜥蜴「自分でコンタクトとって交渉してな。これ、携帯番号」
結城はニコニコと笑っている。
その顔のまま、眉間に穴が開いた。
ゆっくりと倒れる。
長崎「…蜥蜴、」
蜥蜴「ん?なんや?」
蜥蜴の手には、サイレンサーのついた拳銃。
蜥蜴「これな、こないだ七尾がくれたんや。ええ銃やな〜」
百敷「……蜥蜴さんも、だいぶ業界に染まってるよね…」
千鶴「染まりまくってる…」
椿「蜥蜴、殺し屋なれるんじゃない?」
蜥蜴「はあ?私はこの仕事が性に合っとるんや。殺し屋なんてなりたないわ」
長崎「…あの男、野田に雇われていた。野田は、蜥蜴を引き抜きたいらしい。今後もああいう輩が来るかもしれない」
蜥蜴「大丈夫やって。ほら、私って運良いやん」
蜥蜴は快活に笑った。
そして、翌日、殺された。
『蜥蜴』という仲介業者は、今となっては過去の話。ただの、伝説の仲介業者である。
第一話目からテンポが狂ってきてる…w
笑いを入れ忘れたことを後悔していますが、書き直しはしない主義なので!次は入れます!!
こんなキャラ出して〜、とかあったらいつでも言ってください!
このキャラの話読みたい!もOK!
序章
椿は、珍しく電車に乗っていた。
電車の走行音が苦手、と言う理由なのだが、今回は電車移動を余儀なくされている。
目的地は、普段拠点にしている○○市から特急電車で1時間、ローカル線に乗り継いで30分の山奥。
椿「うわ、全然家ない…」
御魂「早く終わらせないと帰れなくなるみたい」
人2人分のスペースを開けて横に座った御魂が、分厚い時刻表を片手に呟く。
椿「そっか〜。まあ、簡単なお仕事だから大丈夫じゃない?」
御魂「ここに泊まるなんて嫌だし、早く済ませなきゃ…」
椿「…もしかしてさ、僕のこと嫌いだったりする?」
御魂「まさか」
椿「絶対嫌いだよね!?このスペース何!?」
御魂は明後日の方向を向いている。
椿「柊の同期扱い辛い…」
御魂「…椿は、なんでこの業界に入ったの?」
椿「それ聞いちゃう?…僕はねー」
電車が止まった。
椿「おっと。早く行くよー…って、ちょっ、置いてかないでね!?」
御魂が話を振ってきたというのに、椿を置いてさっさと下車してしまった。
椿「何が好きでこんな山奥に住んじゃうかなー」
駅からまっすぐ、山の上の方まで延びる道を暗闇の中ひたすら歩く。田舎故か、電灯は少ない。
椿「仕事の効率下がるんだけどー。…ほんとさあ、僕は毎日毎日真面目に仕事してんのに、回してもらえる仕事減ってきてんだよね。闇バイトっていうのとかが流行り出して、そっちの方が安値だしリスク少ないからそっちに回しちゃうっぽくて。そーいうのはプロに任せて欲しいんだけど」
御魂「でも、アンタ1人じゃ強盗とかはできないでしょ」
椿「何言ってんの。強盗でもなんでもできるんだよ、僕は。そりゃ勿論、お祓い、とかプログラミング、とかさ、そーいう大学行って専門的に学ばなきゃいけないよーなやつは無理かもだけどさ、一般人ができることなら僕にもできるに決まってるじゃん」
御魂「あ、そう…」
椿「そりゃ、僕は大学どころか高校も行ってないし、教養なんてカケラもないよ?でもさあ、その辺にたむろってるカップルとかよりは頭の良いこと言ってない?義務教育きちんと受けたのにそれを活かすっていう考えがそもそもできない脳してんだよ、アイツらは」
かなり急な傾斜の道を歩いているというのに、息切れすることなく喋り続ける。夏中五月蠅い蝉のようだ。
三叉路を左に曲がると、目的地が見えてきた。
ごく普通の一軒家で、リビングらしき部屋から話し声が聞こえる。
椿「今回は、このお家にいる奴皆殺し、だよ。掃除は頼んであるから、いくら汚してもダイジョーブ」
御魂「何人いるの?」
椿「父、母、息子、娘の4人。バラバラになった頃に一撃で殺っちゃった方が良いかもね。あ、殺しは僕が全部やるから、御魂はここで妨害電波出したら、誰か来ないか見張っといて」
嬉々として一軒家に向かっていく椿。
家の前で立ち止まり、真っ暗な部屋の窓から侵入する。
椿「ここ、息子の部屋?じゃ、先に死んでもらおっかな〜…」
ナイフを構えて、ドアの真横に立つ。
数分も経たずに、ドアが開いた。
椿「ごめんねー」
ナイフは正確に息子の首を切り裂いた。
死体を部屋に運び、ドアを閉めて廊下を歩く。
椿「あ、電話ってあんのかな?あったら壊さないと通報されちゃう」
カンでリビングに向かう。
聞こえる声は3種類。父、母、娘が揃っているらしい。
椿「らっきー♪」
躊躇なくドアを開け、すぐ近くにいた母親の胸にナイフを突き立てた。
半回転させて抜けば、確実に致命傷だ。
椿「団欒中にごめんねー。ちょっと死んでくれないかな。でなきゃ困るんだけど…。あ、叫んだり電話かけるの無しね。他の人が君らのせいで死んじゃうよ」
別に、彼らが電話をかけた相手が死んでも彼らの責任では無いのだが。突然ナイフを持った男が母親を殺したショックで正常な判断ができていないらしく、2人とも黙って窓の方へ移動する。
椿「あ、逃げたら楽に死ねなくなっちゃうんだよね。外にさ、後輩がいるから、その子は毒を使って殺すタイプで、今ちょっと機嫌悪そうだから、遅効性の毒使うかもしれないし、なら、僕に一撃で殺された方が良くない?」
パパ「なんで、私たちを殺すんだ?」
椿「なんで僕が知ってると思うのさ。僕は依頼されて殺しに来ただけ。代理人だよ。なんで殺さなきゃいけないのか、なんて考えないよ。あんただって、自分の仕事の意味とか、考えないでしょ。それと一緒だって。まあ、なんかやっちゃったんじゃない?無差別でいいなら、こっちに依頼なんてしてこないだろうし。…喋りすぎちゃった。終電に間に合わなくなっちゃうし、さくっと死んでくれるかな」
2人の首を切り裂く。返り血をつけたまま電車には乗れないので、汚れたウインドブレーカーは脱ぎ捨て、外に出る。
椿「御魂ー。終わったよ」
御魂「じゃ、早く帰ろ」
椿「誰か通ったりした?なんか視線感じた〜、とかない?」
御魂「あったら死体がその辺にあるでしょ。誰も来なかったわ」
椿「そうなの?おかしいな……」
御魂「え?」
椿「ここの家に住んでる家族さ、本当の家族じゃないんだよ。父親と息子は殺し屋、母親は芝居屋で、娘は名簿屋。全員『貿易社』の社員だから、何かしら連絡を取ってこっちに応援呼ぶかなあと思ったんだけど」
御魂「…あたしに、やって来た奴らを殺させようとしてたの?」
椿「そうじゃなきゃ、わざわざ連れてこないじゃん。御魂は、標的が少ない時とか、室内戦は強いけど、屋外だったら毒とか使えないし、成功率低いでしょ。一人でちゃんと殺せるようにしないと、直ぐ死ぬよ?最近は『貿易社』が進出してきて、僕らもそーいう奴らに鉢合わせたら、そいつら殺さなきゃいけないし。あと、誰がこっち側の人間か、とか判別できるようにしなきゃね。油断してると、蜥蜴みたいになっちゃうよ?」
御魂「余計なお世話なんだけど。あたしは、蜥蜴みたいに油断はしてないよ」
椿「…蜥蜴は、油断してなかった。御魂は、蜥蜴の死体を見たことがあるっけ」
御魂「ない、けど」
椿「油断してたら、ああいう死に方はしなかったと思うよ。まあ、気を付けてね。いっそ『貿易社』につくってのもアリだよ?裏切った奴いっぱい居るし。僕が殺してあげたけどね。御魂も、楽に死にたかったら裏切ってみたら?」
御魂「嫌だね」
不機嫌そうに駅に向かう。
椿「…やっぱ、御魂は先に帰っといて。僕、ここに一泊するから」
御魂「え、野宿?」
椿「民宿あるみたいだし、そこに泊まるよ。野宿は危ないじゃん。熊とかでそうだし」
御魂「…じゃあ、気を付けて」
椿「またねー。裏切るときは、柊とかにも連絡してからの方が良いよー」
御魂は、振り返ることなく去っていった。
椿はまた山道を登り始める。
椿「さーて、やっぱ後始末は自分でしなきゃいけないよねえ。使ったものは元に戻しましょうって言われるし。あれ?なんか違うな。汚したところは綺麗にしましょう、かなあ。…まあいいや。これ、追加報酬あるかなー」
三叉路の左に、明かりが見えた。
3000文字にはいかなかった…良かった…!
リクエストにお答えして、三鷹ちゃんご登場。このシリーズでは殺し屋の本名は出てこない(ほぼ)なので、表記は『御魂』です。
あと思ったのが、開催中の自主企画に参加してくださる方、ほとんど全て黒宮からの呼ばれ方が「本名」なんですよw
いや、本名知られてたら裏切った時に危険になるでしょ……。気を付けてくださいね。入浴中に感電死、とかいう死に方になっちゃいますよ
薄氷
白杜…始末屋。
イツキ…情報屋。
安曇星羅…社員。
白杜は『始末屋』だ。
文字通り、裏切った者や証拠を“始末“する仕事。
一番危険な仕事とも言われているが、幸運なことに白杜は所謂“有名人“を始末したことはない。
白杜「頼むから裏切らないでくださいね…」
始末屋の数も減り、今後“有名人“が裏切れば、白杜に回ってくる可能性が高い。
白杜とて、まだ死にたくないのだ。
そう言うことを言うと、決まって世渡り上手の同期生は言うのだ。
『お前が殺す奴らも、おんなじやないか』と。
白杜「まあ、自己防衛する権利くらいありますよね」
始末屋も“始末“される可能性があるが、考えないことにする。
今日のお相手は会社の下っ端の1人だ。
名簿を持ち逃げしているらしい。
どこぞのヤクザの構成員リストならまだ良かった。
『会社』の一部の殺し屋の住所や本名、履歴のリストだ。
下っ端1人が襲ってきても、彼らなら瞬殺だろう。だが、リストを『貿易社』や『龍門会』に回されると一大事。
早急に始末せよ、と言うことで、報酬もかなり高い。
白杜「…で、その彼は今どこに?」
イツキ『すぐそこやでー。迷子になっとる』
白杜「不運ですね」
イツキ『盗んだ瞬間を目撃されたのにまだ逃げれとるんやし、一応幸運やないんか?』
白杜「僕に依頼された時点で、不幸になること確定ですよ」
イツキ『雪森くんサイコ出さんといて』
スマホの向こうでイツキが苦笑いする様子が目に浮かぶ。
白杜の本名は雪森ではないのだが、“仮称“ということらしい。
白杜「失礼ですね。僕は傲慢でもないですし、嘘を吐くのも苦手です。あなたの方がサイコパスのようですよ」
イツキ『俺は衝動的に行動せんし、他者への関心もあるで?』
白杜「どうでもいいですけど、お相手はどちらですか」
イツキ『なんかお見合いする時みたいやなw で、えーと…安曇星羅は…』
白杜「凄い名前ですね」
イツキ『なー。まあ、あと1時間すれば消えるけどな』
安曇は廃ビルのそばを彷徨いていた。
白杜「安曇星羅さんですか?僕は白杜と申します」
安曇「えっと…どちら様ですか?」
白杜「『会社』からあなたの始末を依頼されました」
安曇「なんで…」
安曇は即座に踵を返し、ビルの中へ逃げていく。階段を使って上へ行ったようだ。
白杜「面倒ですね」
新しく仕入れたばかりの拳銃を取り出す。
イツキ『気をつけてやー』
白杜「五月蝿いですね。黙ってくれます?」
イツキ『あーい』
できるだけ音を立てないように気をつけて階段を上る。
安曇「わぁっ!?」
4階に辿り着く目前で、置きっ放しの掃除用具の影にいた安曇を見つけた。
拳銃を向ける前に、想像以上の俊敏さでつい先程白杜が上ってきた階段から飛び降りる。
白杜「…はあ?」
どこぞの死神モドキのように軽やかに、とは言えなかったが、無事に受け身を取って3階に消えていってしまう。
白杜「雑魚のくせに逃げんなよ!」
3階は元々オフィスか何かだったようで、古びた机や椅子がそのままになっていた。
白杜「…面倒だな」
天井に向けて一発、発砲した。
白杜「とっとと出てこないと殺すよ?」
机や椅子の陰を覗きながら奥へ向かう。
白杜「……なんだ、そこにいたんだ」
部屋の一番奥にあるスチール棚のそばに安曇がいた。
白杜「リストは?」
安曇「…もう、ここにはないです」
白杜「はあ?…ま、僕には関係ないから別にいいですけど」
安曇「……取引しませんか?」
白杜「取引、ですか」
安曇「『会社』を潰しにかかっているところがあるんです。そこに、あなたも入れるようお願いしますから…」
白杜「見逃してください、と?…嫌です」
安曇「なんで…」
白杜「僕は、そもそも『会社』の人間じゃないんですよ。依頼されて仕事しているだけ。むしろ、あなたの取引に乗って『会社』に敵対する方が危ないんです」
安曇は驚いたようで、目を彷徨かせている。
白杜「喋りすぎましたね。そろそろ死んでください」
拳銃を向けると、唐突に安曇が突っ込んできた。
不意打ちの攻撃によろけ、棚にぶつかる。
その棚が、後ろに傾いた。
白杜「は…?」
棚と共に、落下する。
地面に横たわったままビルを見上げれば、自分が落ちた場所が大きな窓になっていたとわかる。
安曇は、わざとあそこに自分を誘き出したらしい。
イツキ『雪森くーん。大丈夫か?』
白杜「ちょっと今あなたと喋りたくないんですけど?」
イツキ『ええやんかー。俺だって、人が潰れる音聞きたないのに聞かされたもん』
白杜「……迎えにきてくれません?」
イツキ『あ、結構ヤバいん?』
白杜「暫く動きたくないですね」
イツキ『おー。お前も人間やもんな。わかりやすくて助かったわ』
白杜「え…?」
イツキは尚も喋り続ける。
イツキ『ちょっと怒らせたらなんも考えれなくなるんやもん。小細工が大変だったわ』
考えてみれば、なぜ3階から落下したのにスマホは無事なのか?
安曇「ごめんなさい。あなたは俺のこと知らんから、イツキに協力させてもらいました」
白杜「…安曇も偽物…。全部嘘だったってことですか」
イツキ『せやでー。気づくの遅いわ。…あ、今からそっち行くから、そこで待っといて』
安曇「わかった」
通話が切れる。
白杜「…なんで僕を殺すんですか」
安曇「俺は…あんま分からんけど、始末されたら困るみたいで」
白杜が持っていた拳銃を安曇は弄くり回している。
数分でイツキもやってきた。
イツキ「あ、思ったより軽傷や。棚の上に落ちたからか?」
白杜「殺すのならとっととしてくださいよ」
イツキ「そうするわ」
なんの躊躇もなく、イツキはバットを振り下ろした。
長くなってしまい申し訳ない
不穏にしていきたいな…と思っています
猫の首に鈴をつける
イソップ童話を元にした慣用句に、『猫の首に鈴をつける』と言うものがある。
名案であっても、実行するのは困難であることのたとえらしい。
猫の首に鈴をつけるには、少なくとも1匹の犠牲が必要。
誰だって、進んで死に急ぎたくはないだろう。
椿「そう言うわけで、君の首にも鈴はついていないのかなぁ、なんて思ってみたり」
椿の向かいに座った彼は、居心地が悪そうに明後日を向いている。
椿「誰が鈴をつけるのか気になるんだけど、ミケくんの予想は?」
黒宮「先ず、私はミケじゃない」
椿「ミケでもクロでもどっちでもいいでしょ。変なところでA型っぽくならないでよ」
上っ面で笑い、椿は黒宮と目を合わせた。
椿「君に虐められた鼠たちが、色々画策しているみたいだから。まあ、一応、気をつけてね」
黒宮「椿さんの方が先に死にそうな台詞だな」
椿「不謹慎だなあ」
黒宮の赤眼が妙に黒っぽい。
不吉な予感、虫の知らせ。
そういったものを感じる。
黒宮は、何か視えているのだろうか。珍しく目が合わない。
椿「まあ、お互い気をつけようね〜ってお話しでした。じゃあ、またね」
軽く手を振って店を出る。
相変わらず、梅雨の空はどんよりと重たく暗い。
天気とは裏腹に、椿の気分は高揚していた。
椿「僕のところに鼠が来てくれたら最高だよね。久々にやり甲斐のあるお仕事だ」
わざわざ裏道を使って『会社』へと向かう。
残念ながら、そう都合よく『鼠』も現れてはくれなかった。
椿「こっちから出向いてやろうかなー。ただ待つだけじゃつまらないし」
後輩に意見を求めれば、『勝手にしたら』だの『どうでもいいよ』だのと色良い返事は返ってこない。
椿「蟷螂くんはどう思う?」
書類の山の影から、文句が聞こえてきた。
イツキ「今忙しいんやけど!!!」
椿「見ればわかるから説明しなくて良いよ」
イツキ「やったらしょーもないこと聞くな!」
ウィルス相手に数日間格闘したせいで気が立っているようだ。
仕方なく、早々に『会社』のビルを出た。
椿「…なんか、最後の挨拶みたいになってるな〜。自分で死亡フラグ立ててどうするの、本当に」
相変わらず独り言が多い男だ。
自宅に帰るわけにもいかず、適当に街を彷徨く。
ふと、背後に気配を感じた。
何度か感じたことのある、重たい気配。
椿「これ、鼠かな?鼠ってこんな中ボス感のあるキャラだっけ?」
理解し難い台詞を吐きながら、振り返る。
椿「僕の首に鈴をつけに来たなら、君じゃあ力不足だと思うけど」
『鼠』は答えない。
そして、閑静な住宅街に銃声が響いた。
死体が、また一つ増える。
椿「……どっかの誰かさん、なんで邪魔しちゃったかな…」
額を撃ち抜かれた死体など、何度も見たいものではない。
椿「さて、最後に答え合わせしよう」
何年も使い続けてきたナイフを取り出した。
椿「僕の首に鈴をつけるのは、僕自身だ」
今まで通り、いつも通りに頸動脈を狙ってナイフを突き刺した。
また、死体が増える。
フラグというものを、初めて使ってみました
面白い