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目次
ドラゴンキラーとドラゴンの冒険録
ルミナス王国の冒険者ギルドには、「ドラゴンキラー」という異名を持つ者がいる。|龍《ドラゴン》討伐の依頼しか受けないのだが、段々その依頼も受けてもらえなくなってきた。その理由は単純明快。彼は、強い敵と戦いたいから|龍《ドラゴン》と戦っていたのだが、最近自分が強くなり過ぎて、|下位龍《レッサードラゴン》が雑魚に感じられるようになったのだ。そして、冒険者ギルドのほとんどの|龍《ドラゴン》討伐の依頼は、|下位龍《レッサードラゴン》の討伐依頼。彼は弱い敵とは戦わない。
---
ある時、ギルドでこんな話を小耳に挟んだ。
「洞窟に、最強の|龍《ドラゴン》が現れたらしい。その名前は――」
そこまで聞くと、俺はギルドから駆け出していた。名前なんてどうでもいい。
その判断で後で困ることになるとは、思いもよらなかったのだが……。
◆
|龍《ドラゴン》がいる洞窟へと着いた。目の前に大きな岩があり、それ以外は特に何もない。
どこに居るのだろう?
「ヌシ、名前は?」
目の前の岩から声がした。
「よく聞け! 俺の名前は……」
---
「シリルだ!」
その声を聞いて、我は驚嘆する。並の者は、封印されているとはいえ、我に近づくと我を畏れ敬うようになるのだ。これ程威勢の良い者は初めてみた。
この者なら……。
そう思いかけて無理だと首を振る。我ですら脱出不可能なのだ、ただの人間に出来るはずがない。
なのに、期待してしまう。何故だろうか。
---
話しかけたのだが、返答がない。
「おい! 出て来い!」
八つ当たりで目の前の岩を蹴る。
「威勢の良いことだ。残念ながら、今、我はシリルの前へ姿を表すことが出来ない。この岩に封印されているからな」
「じゃあ、解くなりなんなりすれば良いだろ」
「無理なのだ。我の、この神の力を持ってしても無理なのだ」
「待て、今、神と言ったな」
「ああ」
「じゃあ、|龍《ドラゴン》じゃないのか」
「いいや、違う。我は|龍《ドラゴン》だ」
「さっき神だと言っただろ。嘘をつくな」
そう言って、さっさとこの場から立ち去ろうとすると、慌てたような声が背後から聞こえてきた。
「待て、我は|龍《ドラゴン》であり神でもある。我は神龍なのだ」
神龍といえば、|龍《ドラゴン》系統の最上位種として有名な|龍《ドラゴン》だ。俺の情報にも、神でもあるとあった。
「そうか、じゃあ俺と戦え!」
「封印が解けたらな」
「じゃあ、今すぐ解いてやる」
「無理だ」
「やらないと分からないだろ」
俺が愛用する武器|龍殺剣《ドラゴンキラー》。とても優れた武器で、しかも、|龍《ドラゴン》には威力増大効果がある。魔力媒体としても優れていて、これも|龍《ドラゴン》に威力増大効果がある。
俺が何を言いたいのかというと、これを使って神龍の封印を解こうということだ。
|龍殺剣《ドラゴンキラー》に魔力を纏わせ、封印解除魔法を発動する。
ドゴッと大きな音を立てて、神龍を封じていた岩が呆気なく砕け散る。
中から出て来たのは、白く、どこか気品や神々しさを感じさせる大きな|龍《ドラゴン》だった。
「おお、やっと出られた。これだと少し話しにくいな」
そう言うと、神龍はみるみる縮みだした。それは段々人の形をとっていく。
見た目は15才くらいの少年。純白の髪に金の瞳。服は白を基調としたもので、上は半袖の真っ白なシャツに、何かの革で作られた真っ黒い何ていえば良いのだろう、前がファスナーで留められるようになっているベストを羽織っていて、下は白いズボンを履いている。その上にはローブか何かを着ている。もちろん白い。フード付きのやつ。今は、そのフードを被っていた。
「お前、人化出来たのか」
「勿論」
はあ、こいつといると、何か調子狂うな。
「そういえば、何で封印されたの?」
「ああ、あれは今からおよそ2000年前のことだった――」
---
目の前の人間に、全てを語る。
謎の組織 “龍狩り“ に我の仲間が殆ど全て狩られたこと。そして我は、奴らの計画に邪魔な存在であるため、封印されたこと。封印された状態でも、何とか力を振るって、仲間の手助けをしていたこと。
「なるほど。たまに急に|龍《ドラゴン》が強くなると思ったら、あんたの|せい《おかげ》だったってことか」
なに!? あいつも我の仲間を狩っていたのか!?
今すぐ殺したくなったが、とりあえず我慢だ。
---
「で? 龍狩りは仕留めないのか?」
「ふん、それが出来ていたらしているさ」
「今は俺がいるから出来るかもしれないぜ」
「ああそうか、じゃあ行くか」
もっと粘るものだと思っていたが、すぐに了承したな。
「よし、案内しろ」
「何故我が案内せねばならぬのだ」
「え? 龍狩りがいる場所を知っているのはお前だけだろ」
「むう、仕方がない。我が案内しよう」
神龍はそれでも不服そうだったが、やるしかないと分かっているのか、仕方なく先導し始めた。
「あと、そのままだと怪しい奴だからな。フードは外しとけよ」
「分かった」
神龍は、フードを外す。
---
神龍の案内でやって来たのは、冒険者ギルドだった。
「本当にここなのか?」
「ああ、間違いない。我の同胞の気配を沢山感じる」
ん?それはもしかして……。
「ああ、それは俺が倒した|龍《ドラゴン》の気配だな」
「なんだと!?」
「まあ、そういうことで。他の所を探そう」
「むう、分かった」
神龍はまた不服そうだったが、大人しく先導をしてくれた。
---
次にやって来たのは加工工場だった。ここには、俺が倒した|龍《ドラゴン》の素材を卸している。
「ここには、俺が倒した|龍《ドラゴン》の素材を卸している。つまりハズレだ」
「ぐぬぬぬ……」
ついに神龍は文句を言わなくなった。
「また頼む」
---
その次にやって来たのは、武具屋だった。
中には|龍《ドラゴン》の素材で作られた武具。
「ここもハズレだ」
いい加減面倒になってきたぞ。
「そろそろ次でアタリを引いてくれよ」
「ふん、それは我も同じ思いだ。ここまでハズレを引いたのは、殆どシリルのせいではないか?」
「気のせいだろ」
「ぐぬぬぬ……」
いきなり神龍が掴みかかってきた。俺は受け止める。が、しかし、神龍の方が膂力があるのですぐに押された。組み伏せられる前に、スルリと抜け、神龍のあごに一発お見舞いする。
「ずるいぞ貴様!」
やべ、神龍を本気で怒らせてしまったようだ。
それから暫く、神龍|と俺は戦い続けた《に俺はボコボコにされた》。
10分後……。
まずい、そろそろ本当に死にそうだ。
「不毛な争いはそろそろやめないか?」
唐突に神龍が言った。いや、お前が始めたんじゃねーか、と言いたいのを堪えて、何とか「ああ」とだけ返した。
「よし」
神龍がそう言うと、攻撃がピタリとやんだ。
「さあ、次の怪しい所へ行くぞ」
神龍は、ボロボロの俺を見て、してやったり、と言うような、そんな笑みを浮かべた。
---
さて……。気を取り直して向かった場所は、神龍と初めて会った洞窟付近の森の中だった。
「本当にこんな所にあるのか?」
「ああ、確実にある」
その物言いにどこか違和感を覚えた。ここまで外してきて、こうも自信たっぷりに言えるものだろうか。
もしかして……。
「もしかしてお前、俺で遊んでいたりしないか?」
神龍を睨む。
「何故そう思う?」
途端に、今まで親しみやすい雰囲気を出していた神龍から、すぐにでも平伏したくなる殺気にも似た威圧感が出された。
今まで親しみやすかったが、やはりこいつは俺より上の存在だ。
俺はそれに必死に耐えながら、言葉を紡いだ。
「今まで外して来たのに、ああも自信たっぷりに言えるのか、と思ったからだ」
「ああ、お前の言う通りだ」
神龍がそう言った瞬間、神龍から出ていた威圧感が綺麗さっぱり消え去った。
「なぜこんなことをした?」
俺が問うと、神龍はクッと笑った。
「いや、シリルと共闘することになったからな、シリルの――人間の力がどれほどかと試させてもらった。すまないな」
「いや、いい」
大事なのは、龍狩りを壊滅させること。それ以外のことは正直どうでもいい。
「それで? あとどれぐらいで着く?」
「あともう少しだ」
「そうか」
そこから、言葉は消え去り、俺達は黙々と進んでいく。
やがて、一つの建物が見えて来た。それを見た俺は、思わず叫んでしまった。
「すっげー!!」
と。なぜなら――。
---
我を恐れずにものを言えるとはな。やはりこいつは強い。
隣を歩く人間、シリルを見て我は思った。
なのに奴、自分のことを我よりも弱いと思っている。確かに、今の力なら我が勝つだろうが、奴は成長の可能性を秘めている。潜在能力は我より高いだろう。
……こんな奴に|使役《テイム》してもらいたいな。
前、我を|使役《テイム》してやるとか抜かす輩がいた。もちろん八つ裂きにしてくれたが、もう不快な思いはごめんだ。
さて……と。
そろそろ建物が見えて来たぞ。我とシリルは、黙って歩いた。
そして、建物の前へ出た時―。
シリルはいきなり叫んだ。
「すっげー!!」
と。我は「やばい!」と思い、シリルの口を塞いで物陰へ連れ込んだ。シリルはジタバタともがいていたが、やがて大人しくなった。
---
なぜなら、その建物は古ぼけた屋敷などではなく、近代的な研究施設のようだったからだ。
俺が目を輝かせていると、突然神龍が俺の口を塞いで来た。そのまま物陰へ連れ込まれる。もごもごともがいてみるも、離してもらえず、大人しくするしかなかった。そうしたら、突然手を離された。
「何するんだよ!」
「すまんな。奴らは音にも敏感でな。あんなに叫ぶとすぐ飛んでくる。多分、もう来ているぞ」
神龍の言葉を受けて、さっきまで俺達がいたところを見ると、あの施設で働いているらしき人が辺りをキョロキョロと見回していた。
……危なかった。
教えてくれた神龍に感謝しよう。
「全く……。そんなんで、よく今まで生き残ってこれたな」
神龍がヤレヤレと呆れていた。
「良いか? こうやって進むんだ」
そう言って、神龍は音を立てずに静かに歩き始めた。
俺はそれを見て、言う。
「無理だろ」
「そうだろうな」
神龍も想定していたようだ。
「だから……。《|音消し《サイレント》 》」
神龍が、急に魔法を発動した。周囲の音が消える。
「これでどうだ?」
神龍は、得意気だ。俺は叫ぶ。
「バカヤロー!周囲の音も聞こえねえじゃねえか!」
そして、「スパーン!」と小気味良い音が幻聴で聞こえるほどの勢いで、神龍の頭を引っ叩いた。
「イテテ……。何をするのだ!」
そして、俺と神龍は、醜い争いを始める。
あとで考えると、とても見苦しかった。
「こうすれば良いのだろう?」
神龍が《|音消し《サイレント》 》の条件を変更する。周囲の音が聞こえるようになった。
……やれば出来るじゃないか。
「さあ、先へ進もう」
神龍は、何事も無かったかのようにそう言って、先に進み始めた。
---
侵入者!?
ボクは、いつもは感じない気配を感じた。
すぐに仲間に指示を出し、侵入者を捕まえる準備を整える。
ただ、今回は、一筋縄ではいかないような気がした。いつもは一人で来る|神龍《兄さん》が、仲間を連れて来ていたから。
---
「なあ、おかしくないか?」
隣を歩く神龍に、俺はそう尋ねる。
「何が?」
「こんなに派手に進んでいるのに、誰も来ない。俺達は誘われているんじゃないか?」
「そうかもな。で?我にどうしろと?」
「取り敢えず、周りを警戒しながら進もう」
「分かった」
その会話がフラグになったのか、
「見つけたぞ!」
と、沢山の敵がやって来た。
「どうする?」
「倒すしかなかろう」
「分かった」
俺と神龍は、同時に動く。
「《|火炎大嵐《ファイアストーム》 》!」
「《|雷光《ライトニング》 》」
俺が炎魔法を、神龍が雷魔法を放つ。魔法の余波で、建物が一部吹っ飛んだ。
敵は全員倒れた――はずだった。
一人、無傷で立っている者がいる。
……あり得ない。
神龍の魔力はとても高く、俺の魔力もそこそこ高い。そんな俺達が同時に放った一撃を魔法障壁も張らずに受けて、無傷で立っているなんて、尋常じゃない。
しかも、彼は少年だった。白い髪に、赤い瞳。服は、神龍とは真逆の色で、黒いフード付きのローブを着ている。
少年が口を開いた。
「っはぁ、危なかった〜。君達には何か嫌な予感がしてね、こうしてボクが出て来たんだけど……。今の攻撃は、防がないとヤバかったね。多分、建物が全部吹っ飛んでいたよ」
彼は、そう言って楽しそうに笑い始めた。
俺と神龍は眉をひそめる。
「さあ、かかっておいで。ボクが龍狩りのリーダーだよ」
「く……」
神龍が、戦うことを躊躇している。
何故だろう?
「どうした?」
神龍に聞く。
「我は、今までシリルに話していなかったことがあるのだ」
ここまで来て、まだ話していないことがあるとは……。
「何だ?言うなら早く言え」
「ああ。あれは今から2000年と少し前のこと――」
神龍は語る――。
「我には弟がいる。弟は、|子龍《こども》の頃から人を疑うことを知らない、所謂『良い子』だった。大きくなって、人間と契約にし、|使役《テイム》されるようになって、何度裏切られても、人間を信じることをやめなかった」
神龍は、そこで一旦言葉を切る。
「………………………………ある時までは。
その時、我と弟の|主人《マスター》は対立していてな、本当は戦いたくなかった我らは、|主人《マスター》の強制命令で無理矢理戦わされた。そしてその挙句…………弟は裏切られた。今回は弟もかなりきつかったのだろうな、弟は闇に…………………………………堕ちてしまった。そして弟は邪龍となり、我は神龍となった」
「そうか」
俺が言い、目の前の|敵《龍狩りのボス》に向き合う。
「待て、まだ続きがある」
俺の返事を聞く前に勝手に話し始めてしまった。
「その後、弟は、龍狩りという組織を作り、|龍《ドラゴン》を狩り始めた」
じゃあ、今、俺の目の前に立っているのが……。
「我の弟だ」
そっか、だから戦いたくなさそうだったのか。
何とかして、元の|龍《ドラゴン》に戻せないのだろうか。
少し考えてみたが無理そうだ。そもそも前例が存在しないのだから。
戦うしかないか。
そんな、諦めにも似た感情とともに、神龍の弟と戦う決意を固める。
「お前は休んどけ」
は……? 何で?
「何でだよ」
---
「これは我と弟の問題。部外者のシリルは引っ込んでいろ」
わざと、突き放すように言った。
シリルはきっと傷付いただろうな、とは思いながらも、謝る気は全くない。
これ以上、関係がない我の為に、シリルが戦って傷付く必要はない。
「じゃあな」
そう言って、我は弟に向かい合う。闇に堕ちてしまった弟を、今度こそ倒す。
そんな決意を胸に抱きながら。
---
何で、そんなこと言うんだよ、神龍!
そう叫びたかったけど、叫べなかった。頭ではそう考えていても、心は違う。今、俺の心は、深く、深く傷付いていた。
「何で、何で……そんなこと言うんだよ!俺達は仲間だろ!」
辛うじて言えたのはたったそれだけ。何かが変わるとも思っていなかった。
---
「仲間」。その言葉を聞いて、決意が少し揺らいだ。
頼っても良いのだろうか。たとえ、死んでしまうとしても。
---
「クククッ…………」
龍狩りのボス――神龍の弟から笑い声が漏れる。
「何が面白い?」
神龍の低い声が響く。
「全部」
まだ笑い声は止まらない。
「今までは手加減していたが……。お前は|ドラゴン《我等》の敵だ。今回は本気で排除する」
神龍の目は、覚悟を決めた者特有の、力強い輝きを放っていた。
「やっと本気で相手をしてくれるんだね。じゃあボクも、本気で行くよ!」
邪龍は嗤う。彼の周りに魔力が集っていき、次第にそれは、邪悪な色をした魔力弾を形作る。
「本気で受け止めないと、死ぬよ」
魔力弾が放たれた。俺達の方へ。神龍は自分の魔力をぶつけて相殺し、俺は|龍殺剣《ドラゴンキラー》で切り刻む。
そうして何とか全ての魔力弾の処理を終えた俺達に、邪龍は話し始める。
「よくボクの魔力弾を受け止めたね。お礼にとっておきを見せてあげる」
邪龍はそう言うと、床を蹴って宙に飛び上がった。
何をするのかと訝しむ俺達の耳に、その声は届く。
「邪龍顕現」
たったそれだけの言葉で、周囲に禍々しい魔力が渦巻き、その魔力に|中《あ》てられて、小動物が死に絶える。
その魔力の中心に居るモノは……巨大な漆黒の|龍《ドラゴン》。邪龍だった。
すぐさま神龍も、「神龍顕現」と呟き、巨大な白い|龍《ドラゴン》となった。
「|龍《ドラゴン》を守る為……。たとえ弟だろうと容赦はしない。お前は必ず殺す!」
そして、神龍は咆哮する。
「出来るのかい?今までボクを殺すどころか追い詰める事すら出来なかったのに?」
邪龍は、神龍を嘲笑う。
「じゃあ、まずは――」
「力比べをしよう」
2体が同時に動き、衝突した。空気がビリビリと揺れ、俺達は気圧されて動くことが出来ない。
2体の力は同等。どちらも前進することも後退することもなく、その場から一歩も動かずに組み合っていた。ただし、力を抜いているという訳ではなく、お互い全力を出しているが、膂力がほぼ同じで相手より優位になれないだけだ。つまり、どちらかが少しでも力を抜けば、この状況は崩れる。
う〜ん。やっぱりどうにかして邪龍を救えないだろうか。
あ、こうすれば……。
現状の最善手が見えた気がする。早速神龍に教えよう。
俺は、神龍に話し掛ける。
「なあ、神龍」
「何だ?」
気を抜けない勝負の途中なので、集中を乱されたくない神龍の声は少し不機嫌そうだ。
神龍に、さっき思い付いた作戦を伝える。
「俺が――して、神龍が――すれば……」
「成程、それで我の弟を殺さずに済みそうだな」
「ああ」
「じゃあ、あとはやるだけだ」
神龍から離れて、邪龍に少し近づく。
「|水球《アクアボール》」
邪龍に向けて魔法を放つ。もちろん、倒すためじゃない。邪龍の気を引くためだ。
「何?」
邪龍が俺の方を向いた。成功だ。
「ねえ、兄さん。こいつ、|人間《雑魚》のくせにそのことを分かっていないみたいだね。ボクが体に分からせてあげる」
「やってくれるのか?丁度我も、その人間が邪魔だったからな。助かる」
「良いよ、良いよ、そんなこと」
邪龍は、俺の方に向き直る。
「さて……。君、|人間《雑魚》のくせにボクにちょっかいを出すなんて、どうなるか分かってるのかな?当然その覚悟はあるよね?」
今、だな。
俺は「破邪」スキルを発動し、その効果を|龍殺剣《ドラゴンキラー》に乗せる。さら
に、神龍が神気を上乗せする。
そして、邪龍の魂と、魂に付いている邪気の境目を見極め、そこを斬る。
「はぁっ!」
「がっ……」
---
シリルが破邪スキルを発動した。我は言われていた通りに神気を上乗せする。
その姿はまるで――。
「龍、――」
そう、あの方にそっくりだった。
シリルが邪龍を斬る。
結果も大事だけれど、今はどうでも良い。
それくらい、今のシリルの姿が印象的だった。
---
成功した。邪龍から、邪気が流れ出ていく。
邪龍と神龍は人型になった。
「ボクの|力《邪気》が……流れていく。止まらない……」
本人もそう言っているしね。
「どうしよう……このままじゃ……」
「何か起こるのか?」
「うん。多分、このままだと、ボクから漏れ出た邪気が集まって爆発する」
「な……!」
「爆発!?」
「そうならないように頑張ってみるつもりだけど……」
邪龍がスキルを発動する。
「『邪気支配』」
邪気支配で邪気を操り、一部消した。それでも、まだ7割くらい残っている。
仕方ない、俺の破邪で消そう。
そう思い、破邪を発動しようとしたのだが……。無かった。スキル自体が。代わりに、破邪顕正という新しいスキルを手に入れていた。
「『破邪顕正』」
これで場にあった全ての邪気がなくなった。
「シリルよ、今までありがとう」
「ボクからもお礼を言うよ」
2人から口々にお礼を言われた。
「じゃあな」
「ああ」
「またねー」
別れの挨拶をする。
そして俺は――、
元の日常に戻った。
---
いつもと変わらない日常。
しかし、一つだけ、変わった所がある。
それは――。
「シリルー!」
「遊びに来てやったぞ」
そう、たまに神龍達が遊びに来るようになったのだ。
「今日はボク達の真名を教える日だったよね」
「ああ」
モンスターは、基本は自分の真名を他人に教えない。不用意に教えると、操られる恐れがある為だ。
それを今日教えてくれるというんだから、俺があの2人にどれだけ信用されているか分かるだろう。
「じゃあ言うよ。ボクの真名は、セルレディプト」
「我の真名は、シンレディプトだ」
「シンレディプトと、セルレディプトだな」
「長いから、ボクのことはセルって呼んで」
「我の事はシンと呼んで良いぞ」
「じゃあ、改めて宜しくな。シン、セル」
「ああ」
「うん」
こうして。
ドラゴンキラーと呼ばれた俺は、ドラゴンと仲良くなり、その真名を教えてもらった。
満月の夜、少年と少女は。
はじめの文と本文の関係が最初らへん見えてこないと思うんですけど、取り敢えず最後まで読んでみてください。
ミスった……。自主企画に参加しようとしてたんですけど、期限過ぎちゃってました……。
まあ、書いたので呼んで欲しいなぁ、と思って投稿しました。
ある、満月の日のことだった。
その日、彼らは出逢う。
少年は、月を堕とし、少女は、月の力を手に入れる。
――それぞれの、目的の為に。
|月影《つきかげ》|縲《るい》の朝は早い。
今朝も、四時にアラームが鳴った。
縲は、アラームを止め、ベッドから起き上がった。
コップの水を一杯だけ飲み、朝ご飯も食べず、ランニングウェアに着替える。
そのまま家の扉を開け、ランニングを始めた。
縲が家に戻って来たのは、六時を過ぎてからだった。
急いで朝の用意を始める。
トースターに食パンを放り込んで、軽くシャワーを浴びた。
シャワーを浴び終わる頃には、食パンは焼き上がっていた。
食パンにマーガリンを塗り、手早く食べる。
食べ終わった後、高校の制服に着替えた。
仏壇の両親に祈り、家を出る。
縲が通う高校は、月山高校という。月山学園の高校だ。
小中高一貫のこの私立学園は、富裕層も多く通う、超一流の学園である。
今日は、その高等部の入学式。
入学式の前に、ざっくりとした流れについて説明を受けた。教室の九割以上の生徒は、そんなの必要ないよ、という顔をしていたが。
月山学園は小中高一貫のため、中学、高校の生徒は、ほとんどが内部進学生だ。外部からの入学者は一割に満たないだろう。
だから、縲の隣に座る生徒を、縲は知らない。恐らく、あちらも知らないはずだ。なのに、その少年は、まるで友達のように話しかけてきた。
「よう! 俺は、|朝陽《あさひ》|葵《あおい》だ! 葵って呼んでくれ! よろしくな!」
葵は、そう言ってニカッと笑った。
この流れは、縲も自己紹介をしなければならない流れだ。
縲は、ここには学びにきたわけでも、馴れ合いできたわけでもないのだが……。
面倒だ。
縲は、溜め息を吐きながら言った。
「月影縲だ。よろしく」
「おう! 縲、よろしくな!」
まだそれほど親しくなっていない相手に名前で呼ばれたのだが、不思議と縲は嫌悪感を感じなかった。
「では、体育館へ移動してください」
自己紹介をしている間に、説明が終わったようだ。
席から立ち上がってぞろぞろと体育館に向かう生徒たち。縲と葵もその中に紛れ込んだ。
入学式は、無事に全て終わった。――縲以外の者にとっては。
縲は、入学式でとある人物を見かけた。瞬間、どうしようもないほどの殺意が湧いてきた。暴走しそうになる力を必死に抑えながら、縲はその場をやり過ごした。
それが起きたのは、入学式の新入生代表の挨拶のときだ。
「新入生代表の挨拶」
この言葉でステージ上に上がって来たのは、みんな見覚えのある人物だった。もちろん縲にも。縲にとっては悪い意味だったが。
「望月……」
思わず、その名前を呟いてしまう。
縲だけでなく、他の生徒たちもどこかざわついていた。
「――わた――――ま――た。――――……」
あいつが!
望月家が!
同じ学園、同じ学校、同じ学年で!
――俺は、どうすればいい?
縲の心はざわつき、周りの音が、声が、耳に入らなくなっていた。
殺す、殺す、殺す。
殺す。
コロス。
コロス。
殺す!
縲は自分の感情を抑えられなくなっていた。
「――、――ぃ、――い、るい、おい縲!」
ハッとしていつもの状態に戻る。
声をかけてくれたのは、葵だった。
葵は、ヤレヤレと首を振る。
「いやー、びっくりしたぜ。急に縲の様子がおかしくなっちまってよ。大丈夫か?」
「……ああ」
それから、また教室に戻って新学期に提出しなければいけない諸々の書類を集めて、この学園についての資料が配られた。
内部進学組は、「またか……」という顔で資料を見つめる。
どうやら、毎回わざわざ資料を配って説明しているようだ。
「今から、自由参加という形だが、この学園についての説明会を講堂で行う。なお、本日の授業はこれで終わりだ。以上、解散」
幸い、担任の|目暮《めぐれ》先生は淡々とホームルームを進めてくれるタイプの先生だったため、ホームルームはかなり早く終わった。
これが体育会系だったら手に負えなかっただろう。
恐らく、ここらで余計なイベントを挟んできていたはずだ。
大多数の生徒は、自分たちと仲良くやってくれる教師の方がいいのだろうが。
縲は、ここにそんな目的できたわけではない。
学園についての説明など無視して、さっさと帰る。
一秒たりとも無駄にできない。
学園のことなんて、知らなくても問題はない。
「なあ、一緒に帰らないか?」
葵が縲に声をかけてきた。
「悪い。今日は用事があってな。早く帰らないといけないんだ」
今日「は」ではなく、今日「も」だが。
「そうか。残念だけど、諦めるしかないな」
葵は心底残念そうに言った。
そして、その後ニカッと笑って、
「また今度、一緒に帰れる日があったら教えてくれ!」
と言った。
葵は素直でまっすぐ。
そんな葵の人間性に感化されたのか、縲は普段とは違うことを言う。
「分かった」
普段なら、「善処する」と言ってうやむやにしていた。
だから、今回のこの返しは特別。
「約束だぞ」
「ああ、分かってるさ」
この瞬間から、縲の本当の意味での学園生活は、始まったのかもしれない。
縲は走っていた。
一般人には不可能なレベルで、足を上げ、腕を振り、前に進むという一連の過程をなめらかにやってみせる。
「なぜ、あいつの無駄話に付き合った?」
そのせいで、時間を無駄にした。
今の縲は、先ほどの一連の会話をしたことを、心底後悔している。
「いや、今はそんなことを考えている場合ではない」
自問自答しながらひたすら走る。
師匠との約束の時間に遅れる。
それが現実になるのが、嫌で。
走って、走って、走る。
やがて、周囲の風景が都会のビル群から趣のある日本家屋へと変わっていく。
その中の、ひときわ大きな館が、縲の目的の場所だった。
「失礼します」
人に敬語を使うことが少ない縲が、ほぼ唯一と言ってもいい、敬語で接する人物。
「遅かったのう」
「すみません、師匠。学校で少し時間を浪費してしまいました」
「その程度、別に良い。学校生活、存分に満喫するが良い」
「ありがとうございます」
「それで、今日も鍛錬をしていくのか?」
「はい」
「そうか……。今日くらいは、儂が相手してやっても良いと思ったのじゃが……」
その言葉を聞いた瞬間、縲がバッと師匠の方を振り向いた。
「本当ですか⁉」
「本当じゃ。儂がこんなことで嘘をつくわけなかろう」
師匠は少し呆れている様子だったが、縲を見る目には師匠が弟子に向ける愛情のようなものがあった。
「ここでは少し狭いからのう……。道場に行こうか」
「はい」
縲は、師匠と共に道場へ移動した。
縲と師匠の二人は、どちらも模擬戦用の模擬刀を手にしていた。
師匠は、刀を抜いて隙のない構えをしている。
対して、縲は刀を納めて居合の構え。
「来い」
縲に先手を譲る。
「いきます」
集中を高めながら、大きく息を吸って、止めた。
そして、その息を鋭く吐きながら、師匠に向かって斬りかかる。
――その一撃は、師匠に容易く避けられた。
驚きで、縲の動きが一瞬止まる。
その隙をつき、師匠が縲に攻撃する。
「ほれ、避けられた時の対策は考えていなかったのか?」
師匠は、あえて、縲が反応できる程度の速さで攻撃する。
縲が成長できるように。
何も得られない敗北で終わらせない為に。
――要は、師匠は手加減していたのである。
それが、攻撃から読み取れたから、縲は、
「ふざけるな」
師匠に敬語を使わなかった。
激しい怒り。
普段の感情が希薄(望月家に対する復讐心がほぼ全てを占めている)な縲が、望月家関連以外で久し振りに覚えた怒り。
もしかしたら、自分が必死で積んできたものを否定されたような気がして、悔しかったのかもしれない。
縲は、自身を満たす感情のままに刀を振るった。
当然、そんな攻撃が師匠に通じるわけもなく、縲は一瞬で、
「……負けました」
敗北した。
だが――。
「すっきりしたか?」
「はい」
気持ちがすっきりしていた。
もちろん、さっきの激情の余韻は残っている。
そういうことではなく、今までずっと縲の奥に溜まり続けていた暗く、重い感情。
それが、少しだけ発散された。
――もしかして、師匠は俺の気持ちが乱れていて、それが弾けそうなことに気付いていたのだろうか。だから、思い切り体を動かす機会を作ってくれた?
きっと、師匠に聞いても教えてくれないだろう。
でも――。
縲は、自分の考えが師匠の思惑と多少なりとも重なっていると思い、
――心の中で、感謝した。
「さてと……」
師匠が話し始めたので、縲は考え事をやめる。
「まだ、鍛錬はやっていくかのう?」
「はい。もちろんです」
それから、縲は刀を振って自身の武を磨いた。
たまに、師匠からよくない点とその改善点を伝えられる。
それがいつもの光景。
学校に行って、その後師匠のところで鍛錬をする。
毎日、毎日、その繰り返し。
学校では、
「誰が一番かわいい?」
なんて、どうでもいい話をする。
そんな日々の中で、ふと、縲は今の自分の「始まり」について思い出していた。
望月家は「魔」を祓う為だとか言って、縲の両親ごと「魔」を殲滅した。その時、縲は祖父母の家に泊まっていた為、無事だった。
両親の死を目の当たりにした縲は、嘆き、後悔した。それと同時に、生き残った自分に激しい怒りを覚えた。
――望月家に、これ以上ない絶望を味わわせてやる。
縲は、命を捨ててもいいと思いながら望月家の情報を集めた。
すると、望月家はかなり特殊な家だと分かった。
「魔」を祓う為に月の力を使い、戦うらしい。
同じく「魔」を祓う為に戦う家があるらしいが、そちらは太陽の力を使って戦うそうだ。
「月の一族」望月家と「太陽の一族」は犬猿の仲で、いつもいがみあっているらしい。
望月家と太陽の一族の力は五分五分。
「魔」を祓う為であるなら協力は惜しまないが、それ以外のところではバチバチ。
――月の力を封じて、失墜させてやる。
激しい憎悪を抱きながら、今日も縲は強くなり続ける。
|望月《もちづき》|沙羅《さら》は今日も忙しい。
朝、望月家が祀っているツクヨミ様へ祈りを捧げ、それから家業についての勉強。
そして、学校へ行き、学校が終わるとそのまますぐに家へ帰る。
家へ帰った後は、「魔」を祓う為の訓練。
夜は、学校の勉強。
これを毎日、毎日繰り返す。
沙羅は望月家の天才児と呼ばれている。故に、そんな沙羅への期待は大きい。
それが、沙羅への大きなプレッシャーとなり、沙羅に重くのしかかる。
毎日、毎日、沙羅は追い詰められながらも勉強や訓練を頑張った。
「沙羅殿。もうすぐ〈|月借《つきかり》の儀〉ですな。準備はできておりますか?」
「ええ。まだ完了してはいませんが、大部分はできています」
「私は数パーセントしか月の力をいただけませんでしたが、天才と呼ばれる貴女なら、一割いただけるかもしれませんね」
沙羅は心の中でそっとため息をついた。
――みんな、私の外側しか見ていない。私の内側を見てほしいのに……
「そうかもしれませんね」
――〈|月借《つきかり》の儀〉。
長い詩を唱えて月の力を僅かに借り受ける儀式。
詩は、自分で気持ちを込めて作成する。
内容は、主にツクヨミを褒め称えるもの。
学校では、「沙羅が望月家の人間である」という一点のみをもって近付いてくる人間に辟易とし、家では「沙羅が天才であり、月と太陽のパワーバランスを月に傾けることができるかもしれない」存在としか見られていない。
みんな、沙羅を利用することしか考えていない。
心の中でため息をつきながら、今日も沙羅は勉強と訓練をする。
夏――
師匠から呼び出された縲。
「ほれ、約束のものじゃ」
そうやって、縲が受け取ったものは――
刀だ。
「ありがとうございます」
礼を言う。
「それと……」
「はい」
「〈月借の儀〉のことじゃが、明日あるそうじゃ。場所は、知っておるじゃろう?」
「はい」
縲は、望月家に対する憎悪を膨らませる。
「ありがとうございました」
師匠にしっかりと礼を言ってから、縲は師匠のところを後にした。
翌日――。
縲は師匠から貰った刀の様子を確かめていた。
刃はとても綺麗で、この刀の特別な力もちゃんと使えそうだ。
縲は、既に自分の刀を持っている。
では、何故師匠に新しい刀を貰ったのか。
それは、この刀の特別な力が関係している。
縲は、月の力をなくして、望月家の力を落とそうとしている。
月の力を封じる為の道具が、この刀なのだ。
「〈|月封《つきふう》じの刀〉、か……」
師匠に貰ったこの刀の名前を呟く。
「今日の夜か」
縲が、望月家への復讐を果たすまで、あと少し。
今日は、満月だ。
夜――。
沙羅はある森の湖の湖畔へ行き、〈月借の儀〉の準備を進めていた。
ツクヨミへ捧げる詩は、既にできあがり、沙羅の頭の中に完璧な状態である。
準備は整った。
沙羅が儀仗を構え、〈月借の儀〉を始めようとしたその時。
一人の少年が現れた。
「望月沙羅。俺は、月影縲。お前らに両親を殺された者だ」
そこで、少年――縲は一度口を閉じ、深呼吸してから、
「そして、月を封じる者だ」
堂々と名乗りを上げた。
「月を封じる!? 一体どういうことなの⁉」
沙羅は疑問に思い、縲に尋ねる。
「こういうことだ」
それに対して、縲は言葉ではなく行動で答えることにした。
「〈月封〉」
縲がそう言うと、空に出ていた満月の力が、少し弱まった。
「え⁉ 嘘……」
先ほどから沙羅は驚きっぱなしだ。
驚愕しながらも、このまま月の力が封じられてしまえば自身の将来に大きな影響が出ると朧気ながらも理解できた沙羅は、急いで〈月借の儀〉を始めようとする。
縲はそれを止めようと、ここに持ってきていた使い慣れた自分の刀で沙羅に攻撃する。
だが、必死に回避する沙羅には当たらず、刃は空を切った。
沙羅は極限まで集中し、いつもより自由な世界でいつの間にか、最初に決めていた詩ではない、別の詩を詠い出した。
それは、沙羅の覚悟の詩。
「私は、望月家に生まれた天才。
籠の中の鳥。
いつも誰かの|操り人形《マリオネット》。
だけど、それでも、私にできることはある。
だから、私は、貴方の前に立ちふさがる!」
沙羅が覚悟を叫んだその時、天から楽しげな笑い声が聞こえてきた。
「あら、なかなかおもしろい子がいるじゃない。いいわ。貴女には全部あげる」
そう言うと、光の粉が沙羅に降り注ぎ、沙羅の中へ吸収されていった。
「力が......! ありがとうございます、ツクヨミ様」
その一連の様子を見ていた縲が、
「一応聞いてみるが、望月沙羅、お前は俺の復讐に手を貸す気はあるか?」
否、と答えるだろうと思いながら聞いた。
ところが、意外なことに沙羅は、
「ええ。そうさせてもらいたいわ」
イエスと答えた。
「本当か?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、月の力は俺とお前で等分しようか。俺の刀で封じ、その儀仗に力を流す形で運用する」
「分かったわ」
「ちょっと待ってな……。あともう少しで全部封じ終わる」
「分かったわ。その間に、何故私たちが望月家に復讐したいのか、その理由を話さない? お互いを知ることも大切だと思うの」
「そうだな」
そこで、縲は自分の過去のことを話し、沙羅は自分の今までの扱いを話した。
お互いのことを知った二人は、より一層、望月家への復讐心を強める。
「取り敢えず、泳がせるか」
「そうね」
彼らの復讐は、これからが本番だ。
――ある、満月の日のことだった。
その日、復讐者が一人誕生する。
彼らの復讐劇は、一体どうなるのか。
そして、この世界の未来はどうなるのだろうか。
創作意欲の暴走
〈キャラ紹介〉
・ヴィンセント
高い身体能力で剣を扱う。
・マイルズ
高い魔力で魔法を自由自在に操る。
目の前に高密度の魔力。
「よっ、と」
回避。
同時に、俺を囲むように魔法が飛んでくる。
目の前に、炎の壁が広がった。
読まれた……いや、誘われたのか。
剣を振るう。
剣は炎を切り裂き、俺が通る道を開く。
俺は、魔法を生み出している相手……マイルズを見据える。
中・遠距離戦は奴の得意分野だ、俺は圧倒的に不利。
まずは距離を詰め、あいつが自由に魔法を使えないようにする!
体の向きを変え、マイルズの方へ駆け出す。
――!
咄嗟に姿勢を低くした。
頭上を斬撃が通り抜け、俺の髪がはらはらと舞い落ちる。
……気付くのがあと数瞬遅かったら、もう少し頭の位置が上だったら……俺の首は飛んでいた。
いや、今はそんなことは関係ない。
戦闘の反省は勝ってからすれば良い。
それまでの勢いで体を引きずり細かい傷ができたのは名誉の負傷、軽い傷と俺の命を天秤にかければ安いものだ。
体勢を立て直し、再び駆ける。
「あはははは!! なんでアレを避けられるのかなぁ!? でも、これなら流石の君でも避けきれないでしょ!」
遠くにマイルズの高笑いが聞こえる。
……ありがたい。
自分の居場所と、これから何か攻撃することを教えてくれた。
俺が避けきれない、ね……
俺は走るのをやめた。
同時に、俺の前に青白い炎の壁が現れる。
「芸のない奴だな!」
軽く煽ってやれば、
「あはは、僕がそんな単調な攻撃、するわけないでしょ!!」
耳に鋭い痛み。
俺の耳が切り裂かれていた。
だが、何によってだ?
魔力の高まりも感じなかった。
俺が|こいつ《魔法使い》との戦いで魔力感知を怠るなんてミス、するはずがない。
背後に剣をやる。
カキン、と何かを弾く音がした。
そういうことか。
かなり遠くに高密度の魔力を感じる。
こいつは、俺からかなり遠いところで土や氷……途中で霧散しない、実体のあるものを召喚し、俺に飛ばしていたのだ。
風系の魔法など殺傷力の高い概念系の魔法は、長い距離をおけば途中で霧散する。
概念系の魔法が俺に届く距離の魔力は警戒していたが、その範囲外はあまり警戒していなかった。
「見事だ!」
素直に称賛する。
「それはどうも! ところで、そんな余裕ぶっちゃっていいのかなぁ!」
さて、話は変わるが、俺の剣は特殊な金属でできている。
魔力を弾くのだ。
付与魔法などを弾いてしまうため不便も多いが、これが魔法使いと戦うときによく効く。
炎の壁を構成する魔力の核となっている部分を見抜き、この剣で斬る。
俺が成そうとしていることを理解し、マイルズが叫ぶ。
「確かに、君ほどの実力があれば並の魔法は斬れるだろうね! でも、僕の魔法は《《特別》》だ! きっちりとプロテクトがかかっている!」
ああ、そうだろうな。
でも、俺の剣だって特別だ。
魔力を弾く以上、どれだけ強力なプロテクトがかかっていようと無意味。
俺の剣は炎の核を捉え、そして――
斬った。
目の前にぽっかりと空いた空白地帯。
攻撃がくるのを待ってやるほど、俺はお人好しじゃない。
俺は、そこをマイルズに向かって全力で駆け抜ける。
頭上に、高密度の魔力の集合。
そこから現れるは、俺の体重の何倍もありそうな巨大な岩。
それが数えるのも億劫になるほど現れ、俺に降り注ごうとする。
避けるのは無理だ、隙間がなさすぎる。
かと言って魔力を切り裂くのも無理だ。隙をさらすことになる。それだけあれば、あいつは俺を殺れる。
本当は使いたくなかったが……仕方ない。
「――蒼雷」
出力五十パーセント、全力で駆け抜ける!
「やっと見せてくれたねぇ! ――紅月!」
おいおい……
「それは反則だろ!?」
奴の魔力がぐっと一段階深みを増したのが分かる。
蒼い雷を身に纏う俺に相対するのは、紅い月をその身に降ろした至高の魔法使い。
雷を体に流すという俺の強化方法に対し、奴の「紅月」は魔力の圧縮と増加、そして常時回復……自らの器に収まりきらないほどの魔力をその身に宿す。過剰な魔力は己の身を食い尽くす、だが、奴は魔力の回復速度を上回る速度で魔法を発動し、そのリスクをほぼゼロに近付けている。
魔法の発動が先ほどより明らかに速くなった。
五十パーセントだと足りない、到達するまでに押しつぶされてしまう。
なら――
思考を「突破」から「迎撃」へ切り替える。
駆け抜けることのみに費やしていた思考を、周囲の詳細な状況把握へ一部回す。
一意専心、それも悪くないが、戦いにおいては悪手だといえる。
今この状況では、一歩をより速く、広く踏み出すより、多少スピードを落としてでも生還率を上げる方がいい。
魔法陣が描かれる。
剣を構え、致命的なものを切り裂き、道を切り開く。
あと、もう少し――!!
魔法陣が輝く。
それらは巨大な岩を召喚し――
届いた。
俺の目の前にはマイルズが。
紅い月を宿したその目には、一体何が映っているのだろう。
「じゃあな、マイルズ」
一閃。
刃がマイルズの体を穿ち――
マイルズの体は、
どろりと溶けた。
これは……
デコイか!
俺に悟らせぬよう、極端に丁寧な魔力操作によって恐らく戦闘開始直後からゆっくり作られていたデコイと、奴は入れ替わったのだ。
奴に対する俺の注意が緩んだ時……大量の岩の隙間を蒼雷によって駆け抜けた時に。
「それは僕のセリフだねぇ」
マイルズのデコイを斬り、気が緩んでいたのだろうか。
俺は、マイルズの接近を許していた。
「な、んで……」
わざわざ近付いた?
俺の疑問はマイルズに正しく届かず。
「最強の剣士と至高の魔法使い、どちらが強いのか知りたかったから、かなぁ」
返ってきたのはこの戦いの原因だった。
「ほら」
マイルズが、俺に回復魔法をかける。
「僕は、全力の君と戦いたいんだ」
お望みの通りに!
蒼雷、出力百パーセント。
何もしていないにもかかわらず、細胞にダメージが蓄積されていく。
これだ。蒼雷のデメリット。
五十パーセントまでは俺の制御下にあるが、それ以上になると反動がくる。
つまり、短期決戦用の奥の手。
一瞬でマイルズとの距離が離れる。
今のあいつは転移魔法すら使いこなす、叩くのはあいつに余力がない状態になってからだ。
俺は襲ってくる魔法を躱し、時にいなし、時に斬りながら、マイルズへ接近する。
魔法がかすった。
くそ、もう落ち始めたか。
あいつより先に俺のパフォーマンスが落ち始めちゃ意味ないだろ。
どうにか打つ手は――
「そういえば、俺もたった今思い出したんだが」
紅月の本質は「破壊」。
であるならば、だ。
「悪いな、俺にはまだ伸び代があったらしい」
出力全開。
俺は、二振りの剣を握っていた。
それは、どこまでも蒼い。
蒼く、眩しい光の中を、時折白い光が走り抜ける。
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
マイルズが大量に展開した魔法を容易に切り裂き、その首元に刃を当て、
「じゃあな、お前はいい友だった」
「やっぱり、君の方が強かったか……もう、心残りはないよ。最後に君と戦えて、良かった……」
血が飛び散る。
「なあ、聞こえていないかもしれないが……この剣の銘は『蒼陽』っていうんだ」
今は亡き友の力に、敬意を表して。
紅と蒼、月と太陽。
俺は友を乗り越え、世界最強になった。
注:
ただ戦闘描写を全力でしてみたかっただけなので登場人物の情緒や行動に少しおかしいところがあるかもしれません。