シリーズと言ってもあまり長くないと思います。
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目次
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11月6日。 好きな人が学校の屋上から飛び降りた。あまりにも、急な出来事だった。 私を含む生徒はちょうど授業を受けていた。雑談の多い教師の授業はとても退屈なもので、窓から雲を眺めていた。一瞬、黒い何かが下に落ちていった。カラスか何かだろうかなんて、その時は気に留めてもいなかったが、すぐに鈍い音が下から響いてきた。とても嫌な音だった。何だったのだろうかと、そっと窓の下を覗いてみると、赤い何かがゆっくりと広がっていくのが見えた。赤い液体の中心にあるものが何であるかなんて、もう察しがついていた。
人だ。
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少しして、下の階から悲鳴が上がった。周りの生徒は皆、何事だとざわめき出す。すると、後ろの席の女子生徒が大きな悲鳴を上げ、あまりの驚きからか倒れてしまったのである。きっと下を覗いてしまったのだろう。それをきっかけに、生徒たちは窓周辺に群がり始めた。ある男子生徒は下に広がる惨状を見て嘔吐してしまった。 このクラスの中で恐らく一番最初に惨状を目撃したであろう私は、飛び降りた人物の顔を見て固まっていた。冒頭で語った通り、飛び降りた人物は私の好きな人だったからである。一目惚れしてから少しずつ距離を縮めつつあった、私の憧れの人。告白なんてする度胸はなくて、でも進学する高校はしれっと同じにしたり。夜はその人の彼女になる妄想なんかをして、キャーキャー言ってたらお母さんに怒られた…なんて、片思いライフを繰り広げていた。 昨日、何故か絶対に告白してやるなんて決心して、髪型をバッチリ整えた今日の朝。帰り道に告白してみようかなんて考えながら登校していたっけ。まあ、そんなことはたった今不可能となったけど。突然、周りがブラックアウトしていく。ふと気がつけば、保健室にいた。 ああ、後ろの席の子と同じ、ショックで倒れてしまったのだろう。
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それから、全生徒は帰宅を余儀なくされた。グラウンドには一箇所、不自然にブルーシートで何かが隠されていた。 帰ってからは、部屋にこもりっぱなしだった。目を閉じれば、あの光景が映し出される。完全に瞼の裏に、あの惨状が焼き付いてしまった。それから3週間程、学校は臨時休校となった。テレビに今回の飛び降り事件は大きく報道された。ネット上では、いじめで悩んでいたのが原因だの、家庭環境が原因だの、何の根拠もない憶測が飛び交っていた。
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だが、生徒たちの中ではある噂が囁かれていた。今回自殺を図った男子生徒は、2ヶ月前に亡くなった女子生徒の後を追ったのではないかと言う噂だ。 私はその噂を否定したかったが、確かにと、頷けてしまうこと理由があった。それは、"三浦さやか"と言う女子生徒が亡くなってから、私の好きな人である"鈴木涼太"の様子が明らかにおかしくなったことだ。見るからに元気がなく、目に生気が宿っていなかった。 三浦さんの亡くなった原因はわからない。仮に自殺だとしても、彼女は中間・期末テストではいつも一位を取っている程頭が良い、そして容姿も美しい、いわゆる勝ち組の人間だ。一回、廊下ですれ違ったことがある、スラッとした足に、綺麗に束ねられた艶のある黒髪。メガネを掛け、知的な雰囲気を漂わせていたその顔は、とても美しいものだった。が、彼女の目を見て得体の知れない恐怖が私を襲った。 彼女の目には、一切光が灯っておらず、禍々しい何かを感じた。まるで、世の中の理をすべて理解したかのような、何もかもを悟ったような、そんな目。私は見てはいけないものを見てしまった気持ちになった。まあ、途中話が脱線してしまったがとても優秀な人が突然姿を消したと思いきや、亡くなったと伝えられたのだ。驚きしかない。彼女の死因について、教師も口を噤んだまんまだった。きっと、口に出してはいけないことがあるのだろうか。情報通の女子もこのことについての情報は手に入れることはできなかったらしい。そんな三浦さんと、涼太くんに何の関わりがあるのだろうか?
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考えたくもないけれど、涼太くんが三浦さんに好意を持ってたとする。…もっと考えたくもないパターンだと、三浦さんも涼太くんに好意を持っていて、二人は付き合っていた。 それから、三浦さんは死亡。恋人を失った涼太くんはこの世に絶望して屋上から飛び降りた。そうだとすると、涼太くんは三浦さんの死因を知っていた可能性がある。勿論、私達と同様に何も知らなかった可能性もあるが、三浦さんの死を学校から知らされた日、涼太くんは珍しく欠席していた。中学1年から、中学3年の現在まで無欠席無遅刻の彼がこの日だけ欠席したのだ。このことから、涼太くんが三浦さんの死についてなにか知っているのではないか?と考察している。
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…私にだけとても都合のよい、飛び降りた原因の理由も考えてはいる。その理由はよくあるもので、家庭内での悩みだ。帰り道、少し聞いた彼の家庭は良いとは言えない環境だった。父親は小さい頃に蒸発。母親は精神が少しおかしくなってしまっていて、自然の豊かな場所にある精神病院で暮らしているようだった。生活費などは母方の祖父母が毎月送ってくれているようで、お金には困っていないそうだ。 そんな家に帰っても一人である、孤独な毎日に嫌気が差し、飛び降りた…これが私の、もう一つの考察。前者と比べると、私の妄想も入っていて理由としては薄いかなと思った。何より、三浦さんが亡くなるまで元気に過ごしていたのだ。それが、急に孤独を感じて来たので飛び降りました、なんて考えにくい話だ。
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そんなことを悶々と考えていると臨時休校は終わり、いつもの生活に戻っていった。登校日初日は飛び降りの話題で持ちきりだったが、全校集会にて校長から飛び降りの話題について話さないように、と言われたのである。校長からの言葉があっても、話し出す生徒はいる。だが、少しでも飛び降りについての話題を上げると、すぐに教師が飛んできて叱られるのである。この徹底ぶりに気味が悪いと言い出す生徒も少なからずいたが、それから飛び降りの件について口を出す生徒はいなくなった。
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12月20日。皆が待ちに待った冬休みがやってきた。私は早く帰って布団の中で温まろうと、いそいそと帰る準備をしていた。すると、担任の教師が声をかけてきた。ここでは話せない内容らしく、人気のない理科の準備室まで移動した。以下が会話の内容である。
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「すまない、竹内。早く帰りたいだろうに呼び止めてしまって。」
「全然急いでないし、帰ってもやることないので大丈夫です…。ところで、話って…?」
「ああ、涼太についてなんだが…今な、涼太は精神病院…目処精神病院ってとこに入院しているんだ。」
「あっ…えっと、隣の駅の…?」
「そうだ。駅からは遠い場所にあるところだ。 最近、涼太の容態が良くなってきてな…。人に会えるくらいには精神も落ち着いてきているようなんだ。 そこでだな、竹内は良く一緒に帰っていただろ?」
「あっ…はい、ほとんど一緒に帰ってます!」
「涼太が、お前に会いたいと言っていたらしくてな。だから、涼太に会いに行ってはくれないか?」
「へ…はっ…はい!(涼太くんが私と会いたいって! これは私に好意を持ってるってことでいいの?! ていうか、いいんだよね?!)会いに行きたいです!」
「良かった。 休み明けでもいいから、涼太の様子を教えてくれよ。」
「わ…分かりました…。」
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(り…涼太くんが、私に会いたがってるって…。)このことで頭がいっぱいになり、学校から家までの帰り道の記憶が無い。何なら、夜ご飯の内容も記憶に無い。ああ、どうしよう。どんな服装で、どんな顔して会いに行けば…。
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今日、涼太くんの御見舞へ行く。髪型も整えたし、服も新品の物だ。少し化粧もして、準備は万端だ。「涼太くん。今から、会いに行くからね…。」 私は病院へ向かった。
続く
日記の方に鈴木、三浦、竹内のイメージ図のようなものを載せています。
よかったら見ていってやって下さい。
2
12月24日。 最寄り駅から一つ隣の五井駅へ移動する。そこから更にスマホのマップを眺めながら足を進める。街はすっかりクリスマスシーズン。この地域では雪が積もらないが、とても気温は低くなる。息を吐けば、白い煙が口から出でてくる。私は暑いのも寒いのも苦手だが、冬の夜空はとても好きだ。雲がない日は、綺麗な冬の大三角がキラキラと輝く。シーンとした、誰にも邪魔されない、不思議な感覚に溺れていく感じがたまらない。目を瞑って、ひんやりとした空気を吸い込む。私は冬になると、夜にいつもこんなことをしている。変な習慣がついてしまったとは思うが、コレをしなければ眠れなくなってしまった。
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駅から約6km。運動が苦手な私には中々堪えたが、なんとか目処病院に辿り着いた。外観はとても清潔で、如何にも"病院"という感じだった。エントランスで受付を済ませる。どうやら涼太くんは202号室にいるようだ。ああ、緊張する。ここまでの道のりは落ち着いていたのに、いざ会うとなれば、心拍がドラムロールのようになっている。足を動かし、階段を上がる。廊下に出て、進んでいく。
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202号室。 ついに着いてしまった。髪型が崩れていないか、前髪を触る。そして少し、呼吸を整える。
よし、開けるぞ。扉に軽くノックをして、ガララッと一気に扉を開けた。
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「えっと…ひ、久しぶり!」
やらかした。扉を開けるなり大声で急に喋ってくる奴なんているだろうか。しかも事故の怪我がまだ癒えていないのだ、ただただ迷惑でしか無いだろう。 少し間が空いて、寝ていたのかな、と思い私は顔を上げた。カーテン越しから透けて見える彼の姿は、今にも消えそうなものだった。ドキドキしつつ、ゆっくりとベットへ近づいていく。
「あ、開けるよ…」
カーテンを開けた。奥にはベットの上に横たわる、頭と右目に包帯を巻いた私の好きな人がいた。その姿はなんとも痛々しいもので、包帯には少し血が滲んでいる。よく見ると、右腕にはギプスがはめられている。落下の衝撃で折ってしまったのだろう。
私がまじまじと彼を見ていると、ボーっとしていた涼太くんは急にこっちを向いてきた。
「え゙っ、あっ…。」
ギュンッといきなり目を開いてこっちを見つめてきたので、言葉が出てこなかった。
「み、浦…さ…。」
「へっ…?」
抱きつかれた。 好きな人に。気がつけば。
「うぇあっ…?」
変な声が出た。今、何が起こっているか分からなかった。
「り、涼太く…。」
「三浦さん…!」
体の熱が一気に何処かへ逃げてしまった。 私は今の一言で、全てを理解した。
--- 涼太くんは、三浦さんのことが好きなんだ 。---
「あっ…。」
「三浦さん…やっぱり、生きていたんだね!」
やめて
「"あの時"僕が見たものは、幻だったんだ!」
いや
「ああ、良かった! 君がいなければ、僕は…僕は…!」
それ以上は…
…? "あの時"?
「涼太くん…。"あの時"って?」
「えっ…ああ。 それは…」
---
ある日、僕は君が欠席した時にプリントを届けに行ったんだ。受験に必要なものが書いてあるプリントだ。嬉しいことに、クラスの中で一番家が近かったのは僕だったからね。君の家に堂々と迎えるなんてこれまでにない位、嬉しいことだったよ。
君の家の前に立った時、違和感を感じたんだ。あるべきはずのポストが、なかったんだよ。これじゃあ、プリントを君に届けられない。しょうがないから、インターホンを鳴らしたよ。…でも何分待っても反応がない。留守なのかなと思ったんだけど、なにか嫌な予感がして、試しにドアを引いてみたんだ。 …簡単に開いてしまったよ。すると、奥から鉄臭い匂いが臭ってきてね。ゾッとしたよ。失礼だとわかっていながら、君の家へ上がり込んだ。一階の、特に鉄臭い匂いが酷い部屋のドアを開けた。 そこには、君の両親の…死体があったんだ。本当に、腰が抜けると思ったよ。それから、君のことがとても心配になって君を探したんだ。 君はいたよ。二階の、部屋に。部屋には、天井から、ぶら下がっていた…君が…。
---
そこまで話した涼太くんは気を失ってしまった。焦った私はナースコールを押した。駆けつけた看護師達に部屋から追い出され、帰路についた。 病院から家までの記憶はない。気づいたら、自分のベットに突っ伏せていた。 少しずつ、痛くなっていく。長距離歩いたから、筋肉痛? いや、心の痛みだ。ああ、私は今日、失恋したんだ。 ボロボロと涙が出てくる。止められない。朝の時間の、身だしなみにこだわっていた自分が馬鹿みたい。
「はは…もう、どうしよう…。」
続く