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目次
1-1
白い部屋。
何か言われた気もする。
善く状況がわからないまま手を引かれて連れ出された。
暗い廊下を抜けていった先で強い光に目が眩んだ。
再び目を開いたときには__________
消臭スプレーを振り撒く少年がいた。
---
「……」
「太宰君、いったい何をしているんだね?」
少年は隣りの男性のかけた声に振り返った。
「あぁ、森さん。見てわかるでしょう?消臭スプレーを撒いてる」
「うんそうだね見たらわかる。……では理由を聞いてもいいかな?」
「ちょうど森さんがいなくなったから。|中年《おじさん》臭でも消そうと思って。」
「酷くない??」
「ところで、その子誰?誘拐?とうとう犯罪にまで手出したの?」
少年は僕を見て言った。
「うん。森さんのタイプっぽい。」
そっと、隣の「森さん」に目を向けると不運にも目が合ってしまった。
「…違うからね?」
信用できない。
「やーっと消臭し終わったところなのに帰ってきちゃうんだから。ほんともうちょっと遅く来てくれたらよかったのに」
「私の医院なんだけど?」
「僕だって森さんと同じくらいの時間此処で過ごしてるんだ。そのくらいの権利あるでしょ?あー…僕消臭スプレーのにおい嫌いなんだよねぇ」
そういうと少年は窓を開け放ってしまった。
何がしたいんだろう。
「名前は?」
あらゆる窓を開けながら少年が言った。
「森さんの誘拐してきた子の名前」
「だから誘拐してないって」
彼は視線を僕に移し替える。
カツカツと靴が音を立てて近付いてくる。
目の前まで来ると少年はスッとしゃがんでいった。
「名前と年齢は?」
パクパクと口を動かす。
なんか、なんか言わないと、。
「ぼ、く…は」
少年の鋭い視線が上に移る。
「……この子男の子?」
「厭?一人称が僕なだけの女の子」
あー、と少年が頷く。
「森さんの好みね」
「違うって!」
「あ、まね」
「え?」
「名前、アマネ…|年齢《とし》は…9」
ふぅん、と興味なさげに頷く。
「やっぱり森さんのタイプじゃない」
誘拐してきたんでしょ?という少年。
「…此処に来るまでの記憶は?」
「誘拐してないからね??」
「……ない」
「え?」
「へ?」
「何してたか、わからない」
二人が目を見合わせる。
「……やっぱり誘拐」
「違うからね??」
「じゃあ今まで何処で生活してた?」
「…貧民街。最初は仲間がいたけど、置いてかれちゃって、」
「なんで?」
「異能が怖いって、」
「異能持ちか。うん。どんな異能だい?」
「……『コピー』」
少年が目を丸くした。
「…どんな異能を持ってる?」
「衣服を操る異能、と数秒先が視える異能」
「衣服…あぁ、成る程。『吠えぬ狂犬』か。『数秒先が視える』?それも貧民街に?」
「ううん。元暗殺者の青年。僕を世話してくれてた」
「暗殺者。未来が視える。へぇ…面白い。ねぇ森さん」
「はいはい。取り敢えず彼女の回復が先。この先の話はそれ以降に。」
はぁい、と言って少年は窓を閉めた。
---
今日の日記
目が覚めたら「森さん」の医院にいた。何故怪我をしたのかは覚えていない。
「森さん」は闇医者らしい。この医院の院長。ポートマフィア首領の専属医。少年曰くロリコン。
少年の名前は太宰。自殺をしようとして飛び降りたところ森さんに助けられた。頭がいい。
もう一人『エリス』という子がいると聞いた。僕と同じくらいの年だそうだ。金髪隻眼のかわいい子だと森さんが言っていた。ロリコンという話は本当らしい。
俺ㇷァブリーズのにおい苦手なんだよね。
1‐2
取り敢えず___と言われ医院のベッドで寝た。
目が覚めて人の気配のある方へ行くと女の子が絵を描いていた。
金髪で隻眼、年齢は僕と同じ程。
『…リンタロウから聞いたわ。アマネね』
凛とした声が静かな部屋に響いた。
「そうだ!リンタロウが取り敢えずの服を用意したから、これに着替えてきて頂戴?」
言われるがままに着替えてくると少女は似合っている、と笑った。
『私のこと、リンタロウから聞いた?エリスよ』
聞いた、と頷くとエリスは「リンタロウ」の愚痴を始めた。
すぐ着せ替え人形のようにされること、可愛い可愛いとばかり言ってくること、ロリコンが気持ち悪いこと。
「リンタロウ、っていうのは森さんのこと?」
『そうよ。私ね、リンタロウのイノウなの。』
異能生命体っていうんだって。とエリスは言った。
『アマネもかわいいからリンタロウに着せ替え人形にされないように頑張ってね』
「あれぇ、エリス嬢と新人ちゃんが仲良くなってる。」
間抜けた声に振り返ると太宰という少年。
「アマネちゃん、だっけ?エリス嬢、何話してたの?」
『リンタロウの話よ。今は多分まだ寝てる』
「えぇー僕等よりよっぽど起きるの遅いじゃない。何やってんの。」
太宰は頬を膨らませてむくれた。
「それ、森さんが選んだ服?…ふぅん。ロリコンのおじさんにしてはマシな服だね。あの人ならエリス嬢の服とか……いや、今日買いに行くつもりか?」
「え」
昨日着ていたのは患者服。
今日は白いブラウスに黒のスラックス。質素だけどきれいに仕立てられている。
きっとそこそこに値は張るのだろう。
『リンタロウったらお金ない癖に私やダザイの服にはそこそこお金かけてるのよ。』
偉い人と会うこともあるから、とエリスは言った。
『…リンタロウ私みたいな服アマネにも着させる気じゃないわよね』
「……ないと思う?」
『思わないわ…』
「その時は全力で止めたらいいよね」
「おっはよー…あれ、もう来てるの?早いねぇ」
「森さんが遅いだけでしょ。年寄りは早起きだって、あれ嘘だね。」
「私未だ30代だけど?」
「はいはい」
「ハァ…今日は医院休んでアマネちゃんの服買いに行くからね?」
「…昨日回復が先とか言ったのはどこの誰?」
「まぁアマネちゃん元気そうだし。外出るのも体にいいし」
『雑』
「とーりーあーえーず!もう決めたから」
「僕もついていく」
「あれ?珍しい」
「森さんだけじゃ彼女にろくな服選びそうにないからね」
「そんなことないよぉエリスちゃんみたいに―ふわーっとしててぇーでもクールな感じだからシックな黒系のーあ、ゴシックがいいかな?あーでも思い切って白もいいかも」
「ホラ碌なことにならない」
『行ってから決めればいいじゃない』
---
「ほらぁこれとか絶対に似合うよぉ」
「厭」
「じゃあこっちはー?」
「厭」
「…じゃあこれ!」
「厭」
「j「厭」
「……」
彼がハンガーに手をかける。
「厭」
「でも」
「厭」
「うぅ~…じゃあどれならいいのさぁ…」
「凄いね…思ったより拒否してる。これ僕付いてこなくてもよかったかも」
『リンタロウがここまで気圧されてるの見るの久しぶりかも』
ぐるりと体ごと回りながら辺りを見回す。
ひらひら、
ふわふわ、
レース、
リボン、
ピンク…
「あ」
「え?」
「…あれがいい」
その指の先は
「え、待って何処」
「あの向う」
「若しかしてアマネちゃん向こうの店見てる?」
「うん。」
「え、待って見えない」
「えぇ~…え?あれ?」
「うん」
『かわいくはないけどいいんじゃない?似合うと思うわ』
「厭、だから見えない」
「いいね、森さんよりよっぽどいい趣味してる」
「うん」
『ダザイも買って貰えば?』
「いいねぇ」
「ねぇ!というか今日は太宰君のは買わないからね?」
「なんで」
「お金がないから…」
「……」
「……」
『……』
「そんな目で見ないで?」
「というか早く行こうよ向うの店」
『私ケーキが食べたいわ』
---
「こんな…こんなはずじゃなかった…」
「エリス嬢」
『えぇ、ダザイ』
「『いぇーい』」
「なんでぇぇ……ねぇアマネちゃん、今からでもせめてスカァトにしない…?」
「しない」
「何故………」
「何でも」
「うわぁぁ……」
「キモい」
「やばいねこの子」
『やばいわね』
---
今日の日記
今日は服を買いに外に出た。久しぶりの外。
黒のコートとブラウス、スラックスなどの一式を買って貰った。スカァトにしないかとしつこく言われたが断った。
あの人のことはよくわからない。
エリスのこともまだ詳しくはわからないがただ人間じゃないこと、いい子だということはわかった。
太宰、彼は何なのだろう。
1‐2.5
「お早う、御座います…?」
「別に敬語じゃなくてもいいよ、気にしない」
「…あの」
「呼び捨てでいいよ」
「……」
「めんどくさいって顔してるねぇ」
「まぁ、実際そうだから」
「判りやすくていいか」
「貴方みたいにわかりにくいよりマシ」
「そーう?僕結構わかりやすいって言われるけど?主に森さんに」
「……表面だけでしょ」
「君面白いよねぇ」
「そんなことない」
「頭の回転早いよねぇ。あ、勉強とか教えたげよっか?」
「……めんどくさい」
「君たちさぁ、仲いいの?悪いの?」
後ろから声が聞こえる。
後ろを向くのはめんどくさい。
「嗚呼森さん。相性はいいんじゃなぁい?」
「只この人がめんどくさいだけ」
「は?」
「何」
「威嚇しない威嚇しない」
『アマネ―遊びましょー?』
「アマネちゃん勉強教えようか」
「……」
「では間をとってチェスでもやろうか?ねぇ太宰君」
「つまんないの」
『アマネはチェスのルール判る?』
「知らない」
「じゃあー…」
「それやるなら太宰に勉強教えてもらう」
「え」
『えーっ!つまんなぁい』
「ん?え、僕?いいけど」
「なら私もそろそろ医院開こうかなぁ」
「昨日はアマネちゃんの服買いに行くのにかこつけてずる休みしてたものね」
「してないよ??!」
「ずる休みだったんだ」
「違うよ??!」
『圧倒的にこの中で一番信頼ないのリンタロウだから』
「酷い…」
---
「森さぁん」
「……何??」
「教えることなぁい」
「……どういうことー?」
「アマネちゃんなんとなくで全部理解しちゃうから教えることなぁい」
「……そっかー」
「ねぇさっきからその間何?」
「……いや、エリスちゃんとチェスをやってるのだけどね?」
「仕事はぁ?」
「……患者来ないもの」
「それで?」
「エリスちゃんが強すぎてぇ…」
「自分の異能でしょ?自分で何とかしたら?」
『それがセッテイ変えて勝つのは違うってリンタロウが』
「めんどくさ…」
『それがリンタロウのアイデンティティよ…はいチェックメイト』
「あぁあああああああ」
「五月蠅い。……です」
「ねえアマネちゃんに舐められてる気がするのだけど」
「気のせいじゃない?」
『気のせいよ』
「うぅ…エリスちゃん強い…でも頭の回転早くて天才な私のエリスちゃん好き…」
『キモいからチェックメイト』
「あぁあああああ」
「るっさ……」
『ねぇダザイ、リンタロウ弱すぎて相手にならないから変わって』
「えー」
---
『鬼は外―』
「鬼は外……?」
「森さんに合法的に豆を思いっきり投げつけられる日だよ」
「成る程」
「違うよ??」
「鬼は外」
「いっだぁっ?!!」
『リンタロウもキモいから外―』
「あー痛い…でもエリスちゃんかわいい……」
「隙あり」
「いっだぁあああああ」
「あはは」
「太宰君笑ってないで助けて?」
「えー僕は豆食べるのに忙しいから」
「え」