※2024/03/26 タイトル名変更
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目次
20:なんとか生存
ジリジリそわそわ待っているうちにタイマーが鳴った。
「隣と交換だからな。もちろん不正したらどうなるか……分かってるな?」
流石に分かっている。みーんなの前で晒されてからお母様にご連絡するんですよね。分かってますよ!流石にね、そんなことしないから!というか出来ないんだな、これが。
ということで隣の席の男子に紙を渡す。
「ほい。これ俺のな。」
こいつは田中である。すごーく、すごーくお馬鹿でお調子もので単純なのでたぶん10点ぐらいだろう。その分体育だけは得意なのだ。だけは。
あ、やっぱりそうだった。今回は20点。田中用基準で普通である。デフレしてるね。
……で!?そんなことはどうでもいいから私(たち)の点数は!?せめて80点以上でありますように。
「ま、マジかよ。佐藤、100点だった!」
「え、佐藤が?」
失礼な。確かに私だけだと100点を取れないけど!そんなの私が1番分かってるよ!
それよりも田中、君の方がやばいだろ。先生がボーナスで簡単にした最初のテストですら赤点だから、田中氏。
……私は数学しか赤点なってません。数学だけだからね!
ありがとう、ありがとうヒメさん……お礼してもしきれません。100点とったことを報告すれば私のハー○ンダッツも取り上げられないでしょう。前例があるから本当に怖かった。せっかくもらったハー○ンダッツ……となったことが何度あったことか。
「あ、あぁいえいえ!わたしこそナツキさんのお役に立てて嬉しいです。」
心が暖かくなるとはまさにこのことだろうね。すきすきだいすきやっぱすき。ヒメさん愛してる!
その後は説明文みたいなやつを読んだ。プリントにまとめるだけだったので楽チンである。
ただ、まとめたやつを先生が読むらしい。やってるフリしてサボれないじゃんこのシステムマジ廃れろ……!
となりましたが心強い味方、ヒメさんがやってくれたので私は半分寝てました。正直に言うと半分じゃないわ。90%くらい寝てました。ヒメさんとは今後もいい関係を築いていきたいね、うん。損得勘定じゃないからね。うん。本当ですからね。トラストミー。ウィーアーフレンズ。
2時間目、体育の授業。
ここで明らかになる、ヒメさんの弱点。
なんとなーくそんな気はしてた。公園歩く時に結構バテてたしそんな気はしてた。ヒメさんだって完璧人間じゃないよねということですよ。
「お、お待ちくださいみなさん……。待ってください!」
ヒメさん、運動苦手なタイプだわ。
21:予感
私はもともと運動は得意な方ではあった。これはかなり心配されるだろうな、などと考えつつちまちま進む。
……暇だな。
ヒメさんは必死で走っているから話しかけることなんてできないし、ジョギングサボりは体育の先生に怒られる。この学校の教師は科目に関わらず怒ると怖い。
幸いなことに、遅くても走り切れたらそんなに機嫌は悪くならない。今はヒメさんが走り終わるのを待つだけだ。
……頑張れ。
「頑張ります……。」
今日の種目は走り幅跳び。もちろん大苦戦していた。逆に王族が走り幅跳びしてるなんて、私が勝手に考えているヒメさんの環境からはありえなさそうである。こういうファンタジー王族はそういうことしない。
「ぎゃっ」
ド派手に転んだ。私みたいな精神だけの状態だと、痛いっちゃ痛いけどいつもより体の感覚が弱い。ちなみに味もいつもより薄い。
「大丈夫!?」
ひぇっ。思ったよりひどい。私は血が苦手なのだ。いつもより感覚が鈍いからわからなかった。
「大丈夫です。このくらい慣れっこなので……。」
慣れてはいけない気がする。どうしたら慣れるんだ……って、この子の環境は絶対普通じゃないんだった。たぶんダークスマイルを浮かべているであろう。ご、ごめんなさい。
というかヒメさん、保健室行ってきな。早めに治療した方がいいよ。
「分かりました。といっても、どこにあるんですか?」
「あ、俺がついて行くよ。」
クラスのイケメン枠筆頭、瀧くんが付き添ってくれることになった。爽やかなオーラがこちらまで届く。こういうところまでイケメンだから人気あるんだね、瀧くんって。
「ありがとうございます。」
……顔、赤くなっていたりしないかしら?ヒメさん、声がちょっと上擦っていたような。
うんうん、青春だね!
「何を言っているんですか!?わ、わたしはそんなことありませんよ!」
「足、痛いよね。無理しなくていいからね。」
「ひゃ、ひゃい!」
初々しいね。こういうシチュエーションに憧れていたわけではないけど、見てて楽しい。微笑ましい。
……頑張れ。
「さっきと同じこと言わないでくださいよ!そ、それにそそ、そういうこと、ではないんですから!」
私は応援しているから!例え瀧くんが好きな人いたとしても、アピールしちゃえよ!私の体ではあるけど、まあうちのクラスで恋人にするなら瀧くんが1番良さそうだし、私は大丈夫!
「だから、違いますって!違います!」
22:保健室
「ううっ……痛いです!なぜより痛くするんですか!」
消毒液がしみて半泣きになっているヒメさんをよそ目に、私は保健室を見渡す。視界の限りで。
へーっ。こうなってたんだ、保健室。じっくり見たことなかったからちょっと新鮮。
「はあ、早く家に戻りたいです。あにめが見たいです。」
あ、さては瀧くんが先に戻ったし、しょげてるんでしょう!
「そんなわけありません!本当です!信じてくださいよ。」
シンジルヨ、ウンウン。
ため息をついたヒメさんは、また痛みがぶり返してきたのか身をよじる。ちょっと私も足がズキズキした。
視界が揺れるよー。酔っちゃう。
「あっ、ごめんなさい。」
バス酔いとかすごそうだな、この体。ちょっと予想はできるけど。カーナビ私、大丈夫かな?
保健室から戻ると、体育の授業が終わって着替え始めているところだった。ぱぱっと服をまとめて制服に着替える。
「ナツキー!足、大丈夫?」
「ありがとうございます。もう平気です。」
消毒がしみるーって悶えてたけどね。
「それは言わないでくださいよ……。」
大丈夫だって、ヒメさんにしか私の声は聞こえないから。現に声をかけてきたヒスイだってポカンとしている、でしょう?
「まあそうですけど……不安になるものは不安になるんです!」
それはそうよね、今だって誰かにバレてるのか不安だもの。かなり私とヒメさんって性格違うから、違和感は持たれていると思うけどね。たぶんバレていない。
ヒメさんを私の体に転生させた人が誰かに言いふらさなければいいけど。そもそも、転生させた人は日本にいるのかな?流石にヒメさんの世界の人だよね。
「……ま、魔王、とか?」
出たーっ。ファンタジー名物、魔王!勇者と並ぶファンタジーの王様!
モンスターであれば時に人間であり、男でもあり女でもあり性別がない場合もある……ひと口に真央、といってもいろいろあるのだ。
ヒメさんの世界の魔王ってどんな感じなの?
「魔物たちの中での王、という立ち位置です。圧倒的な悪とされていますが、魔王側は基本的に人間の領土は侵略してこないので、こちらがそう決めつけているだけかもしれません。」
うーん、魔王にもいろいろな事情があるのかな?
私たちには、魔王に話しかけたりどうこうしたりができないからどうしようもないね。ヒメさんを転生させた人が魔王とも決まったわけではない。
それに、事故の可能性もある。前にヒメさんは説明してくれた。どうやら「ひずみ」なるものが関係しているかもしれないと。
「……謎、ですね。」
謎としか言えないね。好奇心がくすぐられるよ。
さて、体育の授業が終わったので給食の時間である。
今日の給食は……カレーだ。発酵乳付きの。
「か、かれえ?」
そして今週、私は給食当番だ。よってヒメさんに給食当番をしてもらうことになる。
「きゅうしょくとうばん!?なんですか、それ。」
一旦白衣に着替えてもらおう。手も洗うんだよ!
「ちょっと、結局きゅうしょくとうばんってなんですか?教えてくださいよ!」
実際に体験してみた方が早いよ。ほら、チェック始まるなら着替えてみてね!
23:カレーと笑顔
「大きいお鍋ですね……。」
全校生徒の給食を全部作ってるんだから、そりゃあ、ね。
さて、私たちは今給食室にいる。
今日の私たちは給食当番なのだ。そう、ヒメさんは給食当番初体験。
汗水垂らして(は、言い過ぎかもしれないが)頑張って働いた後の給食は美味しいよ!やりがいもたっぷりである。しかも今日はみんな大好きカレーだ、テンションが上がらないわけがない。
「茶色くてとろとろしたスープの中に具材が入ってるんですよね?」
その認識で合ってるよ。スープかどうかは微妙なところだけど。
「茶色いならちょっと針とか虫とかの除去がやりにくそうですね。いつもより注意してやらないとダメですね。」
だから針も虫も入ってないよ!安全だよ!もし入ってたら大騒ぎだよ!
声も怖いですよ、ヒメさん。
入ってるのは具材、にんじんとかジャガイモとか……あ、名詞はこっちと向こうの国で違うのか。とにかく、野菜しか入ってない。具材だけだからね。
「具材が入ってるんですねー。」
なんでそんなに平坦な声なの!
重いカレーが入った容器をえっちらおっちらと運ぶ。
正確に言えば私は運んでない。全部ヒメさんにお任せである。
ごめんね。
「……重いです。」
私も気分だけでも手伝えないかな?
手に容器の鉄のひんやりとした感覚を思い出して、握って。
よい、しょっと。持ち上げる想像をする。
「あれ?」
もしかして、軽くなってる!?
「そんな気がしなくもないです。ありがとうございます!」
いやいや、本当は私が運ぶ予定だったんだし、悪いね。
精神生命体みたいな状態でも、条件を満たせばちょっとはお手伝いができるのかな?これってドーピング?
……まあ、たぶん大丈夫だと思われる。これは事故である。しょうがないのである。
だから、私がちょっとぐらい手伝ったとしてもしょうがないよね!うん!
「そうですよ、きっと大丈夫です!」
「ナツキさん、一人でしばらく喋ってる?」
う、痛いところを突くなぁ。
正確には一人じゃなくて二人だよ。この言葉は伝わらないけど。
「手を合わせてください。」
「いただきまーす。」
「相変わらず美味しいですね、こっちのお料理は!」
私もカレーの味を想像すれば食べられるのかな?
「どうでしょうか?」
ダメだった。カレーの味……見えるのに!
「ごめんなさい。」
あなたが謝る必要はないのよ!?
もうちょっとイメージトレーニングが必要なのだろうか。カレーの味を味わうためならなんのそのである。
「……美味しいですね。本当に。」
そう言ってヒメさんは、ちょっと感傷に浸っているような声を出した。
「努力して運んで、みんなが笑顔になって、わたしも笑顔になれるんですね。すごく素敵です。」
その言葉はやけに、私の心に染みついていった。
24:ミニマムヒール
カレーも食べ終わったことだし、昼休みだ!
さっきの出来事を振り払うように私は明るく話しかける。
「ですね。昼休みは……基本的に、何をしてもいい、とか。」
うん。絵を描いたり、外で遊んだり、図書室に行ったり。
「図書室に行ったり!?ですか!」
図書室ぐらいあるよ、流石にね。
「本です!本屋さん以来の本です!」
本屋さん、って言っても、ついこの前だけど。
非常にワクワクした様子で図書室へと案内板を見て行き方を確認するヒメさん。と、そのとき、突然視界がよろめいて驚く。
大丈夫?まだ、傷が痛むとか?
「はい、少しだけですけどね。」
そ、そういえば!何だか前に、「治癒魔法」とか「生命魔法」って言ってたよね!まさか、使えたりって……?
「い、一応は、出来ます。」
転生チート来た!ふふふ、こういう転生モノといえばチート魔法!ハーレム!……は今回ないけれど、チート魔法路線きたかもしれない。私、大魔法使いとかそういう肩書きもらったりするかも!?
「最低級魔法、ですけどね……。」
あっ。
……前に聞いたじゃん私の馬鹿!ハンバーガー食べた時に聞いちゃったじゃん!なんで?私は馬鹿なの?馬鹿だね!
「も、もももしかしたら、の話ですよ?その、わたしは今ナツキさんの体をお借りしてるわけですよね。つまり、この体でなら治癒魔法も、もうちょっと強く扱えるかも、ですよ?」
マジですか?
「……たぶん?」
よーし!やる気出た!いっちょやってみよう、治癒魔術。
目の前に意識を集中させる。音が消えていく。
「せーのでいきますよ?一応、その、わたしだけだとダメかもしれないので。」
よし。準備OKだよ。
「せーの」
ミニマムヒール!
「ミニマムヒール!」
……絆創膏貼ってるから何も分からない!
「そ、そうでしたね。では、剥がしてみますよ。」
よろしくお願いします。ちゃんと出来てるかな。これで治せてなかったら私には魔法の才能がなかったということ。流石に悲しいよ。
「わたしよりは絶対にうまく行っているはずですよ!その、わたしは魔法使いの中でも底辺ですので。」
そんなことない……う、うわっ!?
ちゃんと治ってた。なんならもう痛みはないけどあざになっていたところまで治ってた。
「おかしいです。せいぜい治りを早くする程度なのに。」
調子乗っていい!?私たち2人は最強!はっはっはー!
やっぱり、全然底辺なんてことなかったじゃん、ヒメさん。
25:記憶の断片
二人で協力して傷を治したナツキさん。放課後の。このあとどこに行くかというと。
そりゃあ部活ですよね。
「部活って、特殊クラスのことですかね?」
なんと、元々ヒメさんがいた学校は貴族学校なんですって。さすがお姫様。
特殊クラスも放課後、生徒が集まって何かするようで、部活については早くも理解した様子。
「こんにちは……?」
「こんにちは!」
私たちが入ったのは美術室。つまりは美術部である。
スケッチブックを棚から取り出し、色鉛筆の箱を開ける。
「この色鉛筆、発色がすごくいいですね。」
向こうのほうが色の種類はたくさんあったが、どれも発色が悪いため、あまり見分けがつかなかったらしい。
そんなことを言いながら、ヒメさんはさらさらと慣れた手つきで絵を描いていく。
「元々、美術クラスを選択していましたからね。」
だんだんと出来上がっていく絵。
もしかして、これって……。
創作変身ヒロイン!?
「創作、変身ヒロイン?」
だってこのフリフリの衣装。可愛い女の子。魔法のステッキ。これはもう変身ヒロインに決まっているでしょう。
ヒメさんはすごい。
初めて見てからたった一日で、こんなにも完成度の高い変身ヒロインのイラストを描くなんて!
「えーっと、その、言いづらいのですが……。」
どうしたの?
「この女の子を描いたのは、初めてではないんです。」
……どういうこと!?
それは、つまり!
向こうの世界にも変身ヒロインみたいな女の子がいたってこと!?
「わ、分かりません!わたしも初めて、ナツキさんの家でアニメを見たんですよ!なのに、なんでこの子が描けるのか分からないんです。」
たまたま、かな?
「分かりません。この子、見たことないはずなのに。なんででしょう。この子を何度も描いたことがあるように思えてしまうんです。」
金髪に綺麗な青い瞳。ふわっふわのドレス。
こんな美少女が向こうの世界にはいたかもしれないのか!
会ってみたい。それは、叶わないのだが。
コスプレではあるかもしれないけれど、本格的だ。
いったい、この服を考えた人は、この女の子はどんな人なのだろう。
「あれ、ナツキ?絵柄変わった?」
あー、気分です。
「き、気分です!」
「そうなのね。でも、可愛く描けていると思うわ!」
「あ、ありがとうございます!」
褒められてとても嬉しそうだった。
もともと絵のセンスがあるということだ。勉強も出来て、イラストも描けるなんて、ヒメさんは実に多彩である。
「そんなに褒めても、わたしからは何も出ませんよ!」
何も出なくても褒めるのはいいことである。