ナンセンス短編集
編集者:L・L・マーシャ
ボボボーボ・ボーボボとかピューと吹くジャガーみたいなナンセンスな世界観が得意です。
よくもまあこんな不条理な事件を思いついたなという話を集めました。
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目次
お悔やめ!ミッドナイト競輪×ミッドナイト黙禱
ある国の政治家が惜しまれて死んだ。
ある国の政治家が惜しまれて死んだ。国を挙げて盛大にとむらう事になったが問題が起きた。弔意の表現手段である。時の政権は国民に黙祷の努力義務を課した。だが葬儀の日時は平日の勤務時間と被るため多くの労働者が困った。『黙祷させるなら休日をくれ」と要望している。政府は祭日制定の意図はなく、代わりに公営ギャンブルの中止を求めた。怒ったのは競輪選手である。「葬式なら夜中にやればいいんじゃね?みんな寝てるぞ。ミッドナイト黙祷だ」。競輪選手たちはミッドナイト競輪を強行する構えである。そこで黙祷警察が動き出した。ミッドナイト黙祷VSミッドナイト競輪。勝つのはどっちだ?
向町競輪場は京都でも由緒ある施設だ。その日は創立59周年記念レースの最終日を迎えていた。
競輪選手たちは有終の美を飾ろうとハッスルしていた。
ギャンブル嫌いは気にも留めないだろうが大切な日なのだ。
構内に漏れ聞こえる音声は式典の様子を伝えている。
選手たちはペダルを漕ぐことに集中している。
昼前のことだ。
いきなり控室に軍服の男たちがあらわれた。ここはサバゲをする場所じゃないぞ、と警備員が制止したが撃たれた。
「誰か警察をー」
関係者が緊急通話するがスマホ画面が割れた。軍服姿の男たちは銃で天井を撃ち、こう言い放った。
「俺たちが警察だ」
「私たちは許可を得て公営ギャンブルをやっていますが?」
関係者が反論すると撃たれた。
男たちは銃を構えて脅す。
「俺たちは黙祷警察だ。黙祷の時間を守らなければならない。そうでなければ墓地に入れない 」という。競輪選手たちは「何を言っているんだ。ここは競輪場だぞ」と抗議した。
すると黙祷警察は「自分の目で確かめてみろ」と選手たちをトラックに連れて行った。
「あっ!」
何という事だ。いつの間にか墓碑が客席に建っている。
「お前たちが望んだ通り黙祷の準備を整えた」
「勝手なことをしやがって。元に戻せ」
選手がつかみかかるが蜂の巣にされた。
「何をしやがる。黙祷は試合前でいいだろう」
「黙祷は然るべき場所でやることになっている」
黙祷警察は聞く耳を持たない。
競輪選手たちにもプライドという物がある。
「客席で黙祷をしないのなら、墓地には来ないぞ」
すると黙祷警察は「黙祷はこの時しかできないからダメだ 」と。平行線である。そして相手は武装している。勝ち目がない。
一部の競輪選手たちは折れた。
「とにかくやりましょう。やらないなら、真夜中の競輪をやればいい」
試合時間をずらす譲歩をした。
だが黙祷警察は「ダメだ、真夜中の競輪は違法だ、その日は休日じゃないんだから」と譲らない。
確かに日付が変われば平日になる。
一部の競輪選手たちは、「でも、黙祷を捧げるには一番いい方法なんだ。とにかくやればいいんだ。黙祷を夜中にやる必要はないんだ」と試合の中断を提案した。
向町競輪場記念レース最終日。日付が変われば創立記念日でなくなる。
主催者が苦渋の決断をした。「中途半端な試合をするぐらいならレギュレーションを変更する方がマシだ。夜中に開催する」
関係者が異議を唱えた。
「競輪選手たちは、黙祷警察が許可してくれない と言っています。なぜかというと、彼らは私たちに黙祷を守って欲しくないからだ。休日だからできないんだなんていいわけだ」
確かに彼の言う通りかもしれない。
親族でもない人の冥福を祈れと強制されても「はぁ?」と言いたくなるのが普通だ。
しかし黙祷警察はめげない。
「黙祷を捧げたい人はたくさんいるんです。今日を逃したらできなくなりますよ」
確かに一理ある。
告別式は生前の姿を見る最後のチャンスだ。荼毘に付されて遺骨になれば悔やむ気持ちも薄れてしまう。
「こっちだって神聖な試合の最中なんだ。喪の日だからできないって通用しない」
黙祷警察はそれでもいう。
「私たちが選んだ議員が作った法律です。変えることはできない。黙祷は国の法律だ」
「憲法違反だ。黙祷を強制することは不可能だ」
「黙祷は国家の法律だ」
不毛な押し問答が続く。
「じゃあ、勝負だ。黙祷したけりゃ俺たちの屍を越えていけ」
遂に競輪選手の一人が自転車を振りかざした。
「やれるものならやってみろ!」
黙祷警察が銃撃を浴びせる。
すると選手は手でペダルを掴んだ。そして猛回転させる。
チュイーン、と車輪が弾をはじいた。
「なんだと?」
黙祷警察は怯んだ。
競輪選手たちは、「そうだそうだ。ミッドナイト競輪×ミッドナイト黙祷者だ。とにかくやってみよう。やらなければ墓地に来ない」と息巻いた。
黙祷警察は、「やったら大変なことになる。黙祷は国の法律だ。黙祷を守らないと、墓地には入れない。やっちゃいけないんです。黙祷は国の法律です。もしあなたが黙祷を捧げないなら、あなたは墓地に入ることはできない。あなたはそれを行うことはできません。あなたはそれをすることができません。黙祷は国の法律です。黙祷を捧げないなら、墓地に入ることはできない」と支離滅裂な内容を泣き叫んだ。
そこへ助っ人があらわれた。
「そこまでだ! 私は公営賭博管理庁の者だ。競輪の中止を命令する」
書類を見せて行政処分を言い渡した。
「そんな…」
選手たちは自転車を放り出し、その場にくずおれた。
「あなたはそれでいいのですか。ミッドナイト黙祷が公営ギャンブルの中止で潰れる」
マスコミは批判的に報じ、国民は大激怒した。
最終レースを楽しみにしていた国民は怒り狂い、残りの国民は哀悼し泣き叫んだ。
これは国民全員に当たる。
---
「これ、ミッドナイトでいいのかな?」
その時、警察の緊急通信が入った。
試合が中止になった影響で近隣の商店から自殺者がでた。
最終レースを当て込んで大量に仕入れた食材が無駄になった。怒った遺族が「店主が国に殺された」と刑事告訴したのだ。
「弔い合戦だ」
選手たちは闘志を奮い立たせた。試合帰りの客をうまい酒や料理でもてなしてくれる評判の店長だった。
「俺、あの店の大車輪レンコン、好きだったんスよね」
「僕もだ。鶏軟骨のフレーム揚げ。豚足のブレーキ煮。ぶよぶよタイヤのイカリング。もう食べられない」
選手たちは怒り心頭だ。彼らは叫んだ。
「政府に直訴するからミッドナイト黙礼だ」。
そのとき、国民は泣き、叫び、怒り狂った。
黙祷のいざこざで犠牲者が出てまた黙祷する。こんな悲しいことはない。
黙祷するために人が死んで黙祷するなんて。
---
「これ、どうすんのさ」
向日町競輪関係者とファンはどよめいた。黙祷の強制で死人が出ているというに政府は指導者の葬儀を優先するらしい。
ネットが炎上して抗議が殺到したが中止する気配もない。
「京都競輪ラジオ局を占拠してでも説明しよう」
一部のファンが先走った。自転車で京都じゅうを走り回った。
本当はテレビでメッセージを流すほうが効率的だが警戒が厳しくて断念した。
「これはラジオでもいいの?」
呼びかけに人々はとまどう。
「ラジオでもいい」
過激派は人々を説得した。
「ラジオ局なんか襲ったらこの国では犯罪だ。ラジオをプロパガンダにつかうなとラジオ局は訴えると思うよ。各家庭でラジオにかけたらそれだけで終わりだ。ラジオ局はラジオ局の言葉で立場で答弁してくれる。国民は諦めるしかない」
良識ある人がいさめた。
「ラジオ局は…ミッドナイトってのは…どうだろう」
頭のいい人がラジオ局の寝こみを襲う計画を立てた。
ミッドナイトの放送を休む日がある。アンテナや放送設備の定期点検だ。
毎週月曜日の深夜から早朝にかけて停波する。
その時間帯は警備が薄くなる。点検中に放送設備を占拠すればいい。
「その程度でどうにかなる問題じゃない」。
京都競輪ラジオの元アナウンサーが遮った。
どうにかできるなんて素人考えだ。
京都競輪ラジオは日本一の専門局だ。停波日のミッドナイトに自転車集団が押し寄せた。だが局側はミッドナイト特別編成で待ち構えた。ミッドナイト点検をしながらミッドナイト放送をした。襲撃が返り討ちされる様子が生中継された。
この国はラジオ局の放送通りに事が運んだ。
政治家、黙祷の犠牲者。ミッドナイト襲撃の黙祷が放送されていた国民が泣き、叫んだ。
---
もう何が悲しくて誰のためのお悔やみかわからない。
誰が世の中を導くのだろう。
『私達は日本一のラジオ局です。京都競輪ラジオはどんな事でも受け止めます。憎しみや嫌悪さえも』。
国民はラジオ局の放送通りに事が運ぶ事を喜んだ。
そのラジオ局は全国のラジオ局を従えて放送通りに事を運んだ。
日本一のラジオ局は国民に優しいラジオ局だと思えた。
ラジオは国民に優しいくあれと誰もが願っている。
そうでもなければ国民は《《日本一の》》ラジオの放送を聴いているはずがない。
「ラジオを愛する人はは誰でもいいから聴いて聴いて」
リスナーが呼び掛けて普段はラジオに縁のない国民も視聴した。
「ラジオが無いんだけど?」
受信機を持たない世帯から不満がでた。
そこでミッドナイト競輪選手がチャリティを募った。収益金はラジオ購入費にあてた。祇園四条の問屋に中古ラジオが山積みされた。
向日町競輪の競輪選手たちが各家庭を自転車でまわる。
ラジオ局は国民にラジオが届く事を心待ちにしていた。
そして番組の呼びかけに応じてリスナーがハガキを送った。
「黙祷の黙祷の犠牲者のミッドナイト黙祷の犠牲者の黙祷をについて」
そして画期的なアイデアがとび出した。
ミッドナイト競輪の収益金で黙祷犠牲者遺族に見舞金を支給しよう。
京都競輪ラジオは24時間ミッドナイト特番を組むことにした。
---
「こんな勝手は許さん」
公営賭博管理庁は激怒した。そしてラジオ局に圧力をかけた。中止せねば競輪を禁止する。
そう脅されたので特番は延期になった。
ラジオ局は国に届けるべきものを届けない。国民は落胆した。
毒にも薬にもならない内容を国民に届けても、国民は流言飛語を飛ばしまくるので存在意義がない。
そこで一部の人々は放送局が垂れ流す無害な意見をそっくりそのまま投書すると同時に、他人にも伝えてみた。
すると、やはり趣旨は同じながら全く別の観点から「ラジオ局なり」の意見が述べられた。
国民とラジオ局の関係は双方向でないことが判明して落胆が広がった。
---
国民はラジオ局に「国民の意見」を届けなかった。
ラジオ局は国民にラジオ局の意見を届ける事ができなかった。
双方が途方もない無駄骨を追っていた。
ラジオ局側はウソをウソと見抜ける国民がラジオ局に本音を届けてくれると。
国民も粘り強くラジオ局に投書を続ければいつかきと真実を伝えてくれると思い、洗脳された国民を説得しようと頑張っていた。
しかし国民達の頑張り過ぎなのだ。
「こんなの何時まで続けるんだ」
疲労の色が濃くなってきた。
やがて一人抜け二人抜け、活動が衰えて来た。
どんどんジリ貧になって本当の愛国者だけへ意見を届けるのが出来なくなったのだ。
国民たちは未熟な民主主義者だという自覚がなかった。
それでも真の国家を願う国民達は活動を応援した。
双方とも大きな間違いを犯していた。
ラジオはラジオだ。ピンポイントで国民に意見を届けることは出来ない。
また国民側もラジオを制御できないという事に気が付いていなかった。
愛国者から偏向報道に騙されている国民たちへ、眠れる国民達から愛国者へ。
それぞれが橋渡しできると信じて口コミのネットワークづくりを応援した。
ラジオ局はうすうすオワコンに気づいていたが放送を通じて活動を支援した。
しかし、ラジオ離れが進んでスポンサーも減り経営が妖しくなってきた。
国民達の励みに
「これ、ラジオが放送しなきゃいけないの? それとも誰かに任せちゃえばいい?」
とオーナーは判断した。
「自分でやればいいじゃんか」。
そんな捨て台詞で放送は終了した。
ラジオは国民達が勝手にやった。
「でもこの国でラジオが放送できる人なんて居ないよね」
「居るだろ。ほらそこにラジオがある」
すると死んだ放送局の霊がラジオに宿った。
霊界ラジオの発生だ。
ラジオは勝手に放送されたのだった。
そして霊界ラジオ放送が始まった。
霊界ラジオ番組が始まってラジオに人が群がる時代が訪れた。
ゴーストラジオの時代はやってきた。
枕元のラジオに幽霊が立った。
そして映像と音楽を流し始めた。
テレビの登場だ。
霊界ラジオがテレビで流れた。
ゴーストテレビ登場。
テレビに人が群がった時代が訪れました。
幽霊がテレビで流れている。
そして幽霊に頼らないテレビが発明された。
電気式テレビだ。
テレビがテレビを駆逐する時代だ。
ゴーストテレビから幽霊離れがおきた。
電気テレビの登場でゴーストテレビがラジオに変わったりしないのかな?
そんな辛辣な意見もある。
ラジオはただのラジオとして残り続けるだろう。
元ゴーストラジオの放送がただのラジオで流れる時代に、元ゴーストただのラジオ放送が始まる。
いっぽう、元祖ゴーストラジオはテレビで放送され続けた。
ゴーストラジオがただのラジオで流れる。
そしてただのラジオがゴーストラジオになった。
もうめちゃくちゃだ。
何がラジオで何がテレビかわからなくなった。
そのうちゴーストテレビがただのラジオを流すようになって混乱に拍車がかかる。
そして共倒れになった。
ラジオは全力でラジオしたが過労死した。
「ラジオが死んだぞ。誰のせいだ!」
「ラジオはミッドナイト放送しすぎて死んだんだ。不眠不休で働いた。テレビは責任を取れ!黙祷!!!!」
「ラジオはミッドナイト放送してたのか!?」
「ミッドナイト競輪だ」
「ミッドナイト競輪は、黙祷なのか?」
「ミッドナイト競輪は、黙祷だ」
「黙祷するなら、ラジオも黙祷しろよ」
「ラジオは、ラジオだから、黙祷できないんだよ」
「ラジオは、ラジオじゃないよ」
「じゃあ、何だよ」
「受信機だ。聴取者に罪はない。悪いのはマスコミだ」
「そうだ。ラジオは悪くない」
「でも、お前らラジオに罪をなすりつけようとしてたよな」
「違う。俺はラジオをミッドナイト競輪の犠牲にしたくなかっただけだ」
「それは、嘘だ」
「嘘じゃない」
「本当だ」
「本当の事だ」
「俺達は本当にラジオを愛している」
「ラジオは、みんなに愛されている」
「ラジオは、みんなに愛されていた」
「でも、もう、ラジオは死んじゃった」
「ああ、死んでしまった」
「残念だ」
「せめて仇を取らないと気が済まない。テレビを殺そう」
「そうだ。殺ろう」
「ラジオも殺られた」
「でも、テレビだって」
「あいつらはラジオを殺した」
「テレビの野郎め」
「ぶっ殺してやる」
「テレビをぶっ殺す」
「幽霊もぶっ殺す」
テレビがテレビを殺す日がやってきた。
「さぁ、テレビを殺してやれ」
「やってしまえ」
「いけ」
「殺ってしまおう」
「殺してしまえ」
「おい、こっちはただのテレビだ。俺たちの味方だ」
「知るか。ラジオはラジオだ殺ってしまえ」
「ぶっ壊すんだ」
「やっちまうぜ」
ドカバキ。テレビは苦情に弱いのであっさりと死んでしまった。これでミッドナイトする者はいなくなった。
なお、競輪に夜も昼もない。ミッドナイト競輪は廃止。ミッドナイト競輪を強行していたラジオ局は国営ギャンブルの中止を受けて公営の放送局を解散した。国民は怒り狂い、国民は泣き叫んだ。
「これ、どうすんのさ」
「ラジオでもかけて説明しよう」
「これはラジオでもいいの?」
「ラジオは滅びたよ。誰か責任を取れよ。代わりをつれてこいよ」
「うっせえな。わかったよ。イタコラジオを連れてきてやる」
「なんだそれ?」
「死者と交信できる人だよ」
そして恐山からイタコがやって来た。
「つながりました」
イタコは口寄せの準備が整ったと告げた。
「もしもし、ラジオさん? 聞こえますか?」
人々はイタコに憑依しているであろうラジオの霊に呼びかけた。
しかし、イタコは目を見開いてこういった。
「わしはNHKが嫌いで受信料を払っておらんのじゃ。だから家にテレビもラジオもない」
人々は盛大に滑った。
こうしてこの国は、民放のテレビ局を持つ事が出来ず、この国は、ラジオ局を持つ事ができず、この国は、国営の放送局を持つ事が出来なかった。この国は、ラジオと新聞しか持たない、無知蒙昧の国家となってしまった。
だが、それでいいのだ。
それから歳月が流れてようやくインターネットが出来た。
ラジオと新聞を廃止して人々は「それでいいのだ」な政治活動を行おうとした。
ところがエラーメッセージが出た。
この国は、これでいいのだ。を行うことはできません。あなたはそれをすることができません。
「えっ?」と思った時は後の祭りだ。
ラジオも新聞も復活させる手段がないからだ。テクノロジーは失われた。
だが、これでいいのだ。
ピリ辛姫と海賊島の伝説
こくまタイマー事務所に東京地検特捜部の家宅捜査が入った。所長の熊蔦タクマが東京わさび工房の女社長ピリ辛姫の養育費を脱税していたのだ。タクマは容疑を否定したが潜伏先のインド飯屋から未使用タケノコが大量に見つかった。DNA判定の結果タクマはピリ辛姫の元夫パープル竹ノ内氏の音楽事務所で違法カラー大麻を育てていたのだ
調査の結果、Pirate Bayの創設者であるGottfrid Svartholm Wargがこの事務所で違法薬物の栽培も行っていたことが判明し、Gottfridはカンボジアに逃亡した後、海賊行為の罪でスウェーデンに送還され、裁判を受けることになりました。ゴットフリッドは3年間の保護観察処分と社会奉仕活動を言い渡され、スウェーデンのパスポートの保持が許可された。
ゴットフリッド氏の弁護士であるペール・エリクソン氏は、この状況は「非常に悲しい」ものであり、無罪になるまで「精力的に戦い続ける」と述べています。
Pirate Bayの共同設立者であるFredrik Neijの弁護士はAftonbladetに対し、Fredrikは守秘義務契約によりこの件についてコメントしないが、彼のクライアントが法的手続きに参加できるように法律が変更されることを望んでいると述べた。
一方で、Farfer氏は「こういう事態は起きてしまった。我々は彼らがPirate Bayの組織から完全に独立したと決まったわけではなく、新しいPirate Bayが、彼らには何とかできる」とし、「彼らがPirate Bayの組織に従って、組織に対抗できるものと思うことはできない」としています。
Pirate Bayについて
Pirate Bayは2010年に設立され、世界各地のパートナーや、世界的に有名な団体からの賛同を求めています。
Pirate Bayは、世界中の組織からの組織の同意の元、インド、ネパール、中国、パキスタン、カンボジア、バングラデシュ、スリランカ、スリランカ以外の国々も含め活動を展開しています。Pirate Bayは、インド、ネパール、台湾を含めることもできますが、中国だけは独立した組織としてこれまでの3国であるイギリス、ノルウェー、デンマーク、イギリス連邦と合同しています。
Pirate Bayへの加入、そしてPirate Bayの独自に管理する権限の法的な管理は、Gottfrid Svartholm Wargによって行われています。Fredrikの弁護士は次のように述べています。「Pirate Bayはアジアに支部を置く組織で、世界の各国家にも同じような組織が存在していると信じています。 彼らは私たちのために様々な問題を起こさないで安心して活動ができ、この組織でビジネスと私たちが信頼できるもっとも確実な証拠や証拠が存在するアジアに行けることを期待しています」
Pirate Bayの詳細については、こちらをご参照ください:
●取調室
ここまで資料を呼んで彼は絶句した。
「タクマがピリ辛姫の代わりに女社長として働いてたんだよ」
「パープル竹之内を……」
新鋭事務所の所長の熊木が、思わず叫んだ。
「なんだ?」
「どうして彼女の会社の人が、こんなこと……」
刑事が任意聴取を続けた。「インド飯屋からこんなものが出てきたんだがな」
ぱさっとCDが放り投げられた。魅惑のインド3分間カラー大麻ヨガと書いてある。
出版元はパイレーツベイ。あのインターネットで有名な海賊サイトだ。
「これはうちの海賊版じゃないか!しかも魅惑のインド3分間ヨガに余計なコンテンツを追加しやがって」
「いいから出てこい!」
今度はパイレーツネットワーク社から出てきたのは、ヒップホップファンクミューズである。
「ヒップホップファンクミューズ」と銘打っているがヒップホップではない。ただのヒップホップマンガだった。
「あんたがお断りしたからやってるんだと」
「違うよ。ヒップホップファンと一緒にやってるんだよ」
ヒップホップアーティストが言うのもなんだが、この出版社はインドコンテストには出ない企業だ。
何で出ないと思う?
「ヒッドホットワーク社って、ヒッドホットワークはヒッドホットワーク社の略だよ。ヒッドホットワークとはインド人向けのインドのコンサートを開くことを言うんだ」
「それならわかるが……」
「ヒッドホットワーク社に電話だ」
俺は慌ててデスクに置いたパソコンの電源を入れた。この時間にパソコンを開いてもしばらくメールは来ないので、俺はインドでは、インド向けのレコードレーベルも作ってる出版業だ。
「お、出たな。ヒッドホットワーク社のサイトだ」
インド・アート・ミュージックと銘打っていて、ヒッドホットワーク社はヒッドホットワーク社のレコード部門を分けている。
ヒッドホットワーク社のレコード部門にはもう一つレコード会社がある。
この「トランス・エンタテインメント・レーベル」だ。「インドで大人気のヒップホップレーベル」らしく「トランス・エンタテインメント」、ヒッドホットワーク社では「トランス・エンタテインメント・レーベル」と呼んでいる。
俺は電話でパイレーツベイ出版社より先にインド向けのレコードを送ってもらうように依頼した。
「おい、誰だ?」
「誰だ、だって?パイレーツベイ出版社からの依頼だろ?それは頼んでるんだよ」
「お前の電話か?」
「ああ、パイレーツベイ出版社から頼まれたんだよ」
「誰だって聞いてんのさ」
「誰だって聞いてんだよ!」
「おい」
どうやら、俺は誰だったか知らないんだが、パイレーツベイ出版社からの依頼を受けているらしい。
「お前、誰だよ?」
「だからさ、誰だっつってんだよ」
「だから、誰だって聞いてんだよ!」
「あー、誰だって聞いてるんだよ!」
「いや、誰だって言ってんだよ!」
「だから、誰だっつってるの?何だっていいんだよ!」
「おい、誰だって聞いてんだ?誰だって言ってんだよ!」
「あー、誰だって聞いてんだ?誰だって言ってんだ?何だって止めてくれよ」
「だから、誰だって聞いてんだよ!」
「誰だって聞いてんだよ!」
電話はすぐに着いた。
パイレーツベイ出版社からの依頼であった。
俺は「誰だって聞いてんだ?」と聞いたのだが、パイレーツベイ出版社からのお知らせだったとわかった。
これは知ってる名前だが、何で教えてくれなかったのか。まぁ、こんな依頼を出すのは気のせいだと思っておいた。
パイレーツベイ出版社からの依頼はシングルレコードで、「タイトル / 曲 / 曲名」が表示される。
「誰だって言ってんじゃん、それ、シングルレコードだよ」
「そうだ、パイレーツベイ出版社からだ」
パイレーツベイ出版のシングルレコード、「タイトル / 曲 / 曲名」表示、シングルレコード。
これは映画「タイムスリップした」、「タイムスリップ・ファイル」を意識して、シングルレコードとシングルのタイトルが表示された。「タイムスリップ・ファイル」は映画ではありえない。何か秘密を守るために必要な物である。
このシングルレコードは、映画と違い、「タイムマシン」ではなく「タイムスリップ・ファイル」というタイトルの為らしい。
パイレーツ出版のシングルレコード、「タイムマシンにお願いした。」。
「タイムマシンじゃないんだな」
「そう、タイムマシンじゃなくて『タイムスリップ』ってなってるからね」
「どういう意味だ?」
「そういう意味なんじゃないかな」
「そういうことか……」
「そうなんじゃねぇかな」
俺達は考えた。
そういえば、パイレーツベイ出版社は、俺が電話している時もずっと誰かと喋っていた。
相手はどこにいるんだろう。
そう思った。
俺達がいるのは取調室だ。
取調室は静まり返った。「あのさ、そっちは、どこで喋ってんだ?」
「ここだよ」
声が聞こえた。
「取調室にいるのは、俺と君だけだよ」
取調室は静まり返っている。誰もいない。
「誰が言ったんだよ?」
「誰が言ったんだよ?」
「え?」
「だからさ」
「あのさ」
「ちょっと待て」
「いや、待つのはこっちだ」
取調室はしんと静かになった。
どうやらクスリが切れてきたようだ。このクスリは本当に切れる。効き目がなくなるのは時間の問題だ。
俺は薬が切れないうちに、急いで電話をかけた。
Pirate Bay 海賊島 海賊の島に似せて作られたオフィス。
Pirate Bayはインドやネパールで活動を行なっている国際組織であり、世界中の支部からの支援を募っています。
Pirate Bayへの加入、そしてPirate Bayの独自に管理する権限の法的な管理は、Gottfrid Svartholm Wargによって行われています。
Fredrikの弁護士はAftonbladetに対し、Fredrikは守秘義務契約によりこの件についてコメントしないが、彼のクライアントが法的手続きに参加できるように法律が変更されることを望んでいると述べた。
一方で、Farfer氏は「こういう事態は起きてしまった。我々は彼らがPirate Bayの組織から完全に独立したと決まったわけではなく、新しいPirate Bayが、彼らには何とかできる」とし、「彼らがPirate Bayの組織に従って、組織に対抗できるものと思うことはできない」としています。
Pirate
Bayの詳細については、こちらをご参照ください: ●タクマのアパート
「あ、もしもし、タクマですか?私です、私の会社です」
Pirate Bayの創設者であるGottfrid Svartholm Warg氏は、「私はインドから出ることができない」と言い張るばかりで話になりません。タクマ氏に電話をしてみました。
「私はチリでちり取りのしりとりでいそがしい。い、インド人……うわぁ!負けたぁ!!」
Pirate Bayの創設者であるGottfrid Svartholm Warg氏がインドで逮捕されてから数日後のこと。
俺はいつものようにタグマに呼び出された。
俺の部屋はタグマに貸してやった。
タグマはインドでの活動をしたくないらしく、ピリ辛姫の娘をデビューさせたいらしい。娘はインド出身なのだが、日本で活動したいということだ。
俺はインドから逃げられると思ったが、タグマがそれを許してもらえず、俺はタクマの部屋で、インドとネパールの音楽を聞いていた。
俺達はピリ辛姫の会社の曲を聴こうとしなかった。理由は簡単だ。「こんなのインドでも日本でも受け入れられないよ」
と俺は言う。
「そうか?こんなの普通だぞ」
「そうなのか……」
俺がそう答えると、タクマが「これだろ」と言って一枚のCDを渡してくれた。
「これって」
CDを見て俺は言葉を失った。「パイレーツベイからCD出してるじゃないか」
CDに写るのは、見覚えのある海賊のマークだった。
Pirate Bayのウェブサイトだ。
海賊のシンボルマークが海賊島にある建物に似ている。その海賊島は、海賊の島を模して作られたインドだ。
Pirate Bayのウェブサイトだ。
海賊のシンボルマークが海賊島にある建物に似ている。その海賊の島は、海賊の島を模して作られたインドだ。
「何でお前がこれ持ってるんだよ?」
俺はタクマを見た。海賊のマークが入ったジャケットは海賊の島で作られたものではないらしい。海賊の島から遠く離れてもいないらしいが、別の海賊島らしい。海賊の島のホームページは海賊のマークがついた船の絵が描かれていて、海賊の島は海に囲まれているが陸地があるらしい。
「海賊島のページに載ってたんだよ」
「嘘だ。それならタグマだって見たことがあるはずだ」
「いや、見てなかったけど」
「お前は見ないと」
俺は慌ててパソコンを立ち上げた。「何やってんだよ?」
「お前は見るなよ。俺は今からこの海賊島に行くんだよ」
俺は慌ててブラウザを立ち上げて、Pirate Bayのウェブサイトを開いた。Pirate Bayのサイトは英語で書かれている。
海賊島のサイトは英語じゃないが、手書きで日本語メッセージが書いてある。「タケノコでキメてみませんか」
「この字に見覚えがあるぞ」
それはインド飯屋から押収された伝票の筆跡とそっくりだからだ。パープル竹ノ内が書いたものだ。
「誰かが嘘をついているんだ」
俺は焦ってキーボードを叩きまくった。俺は急いで検索した。この字は誰のものか?このサイトは何のためにあるのか?なぜ、海賊のマークは海賊の島で使われているのか? 海賊島のサイトのURLを見つけ、俺はそこに入った。俺は、このURLを知っているが、俺はそこに行ったことがない。
「お前も来てくれ」
俺は急いで準備した。タクマを連れて電車に乗り、バスに乗って、ようやく海賊島にたどり着いた。
「着いたぜ」
俺は言った。目の前には海賊の村が広がっている。
「おい、ここにいるとまずいって!」
「大丈夫だよ。誰も俺達のことなんか知らないんだって」
俺達は歩きながら話した。
「俺達って誰だよ?」
「お前はさ、俺の相棒だよ」
「お前の?」
「そうだよ。何だよ?嫌だってのか?」
タクマは黙って首を横に振った。
海賊の村の通りを歩いた。
村では人々が忙しく働いている。
タクマは俺に向かって言った。
何だか寂しそうな顔をしている。
海賊の村は、インドとネパールと、海賊島から成り立っている。俺達は海賊島の中心に向かうように歩いていく。俺達は村の広場に来た。そこには海賊の像があった。俺達はその前で写真を撮った。
写真の中の俺達はピースサインをしている。
その後、俺達は村から出て、少し離れた所までやってきた。俺は、俺のアパートで話をしようと言った。
俺の部屋に行こう。そこでゆっくり話をしたいんだ。俺のアパートに行けば、何かわかるかもしれない。
Pirate Bayの創設者であるGottfrid Svartholm Warg氏の弁護士は、彼は無実であることを強調しています。彼はまた、Svartholm氏と連絡が取れなくなったことを残念に思っていると述べました。
しかし、Gottfrid氏は現在、勾留されており、裁判所の決定を待つ必要があると述べています。Gottfrid氏によると、彼が拘留される前にも連絡を取ることができていたということです。彼はインドの警察に逮捕されて取り調べを受けた際、容疑を認め、麻薬の販売を行なっていたことを認めたが、密輸や栽培については否認したという。彼は自分の弁護士に弁護を依頼している。
タクマは不安げな表情で口を開く。
あのさ、この前さ、インドから帰ってきたんだよね。インドでいろいろあったんだってな。俺はインドで大変な目にあったんだよ。
知ってるよ。ニュースになってるもんな。それに俺もタクマもパイレーツベイの社員になったしな。
それでさ、俺、思ったんだけどさ。俺達はこのままだとやばいと思うんだ。だからさ、俺達はもう辞めようかと思ってるんだ。俺達はこれから二人でやっていける自信がない。
俺もタクマと同じことを考えてる。だけどさ、今は我慢しろよ。タクマはここで逃げてどうするんだ?
「パープル竹ノ内をぶち殺す。あの野郎。ピリ辛姫の娘までシャブ漬けにしてやがった。まだ高校生だぞ」
俺の友達に手を出さない方がいいと思うよ。俺達は、あの時、ピリ辛姫を助けてやったんだよ。忘れたのか? あれは助けたんじゃないだろ?お前達がやったことは、あの女が言ってたこととは違うだろ?あいつらは、自分達を海賊の使いだなんて言ってるけど、ただのヤク中のチンピラじゃないか。
確かにそうだ。だけど、ピリ辛姫の娘がヤク中なのは事実だよ。俺達にどうすることもできないじゃないか。
違うね。どうにかできるだろ。あの時の借りは返す。俺はあの頃とは変わってしまった。今の俺はピリ辛姫の娘を救いたいと思っている。俺一人ではできないけど、お前がいればきっと救えるはずだ。俺はまだやり直せる気がする。タクマ、頼むから、俺と一緒に戦ってくれないか。お前だけが頼りなんだ。
そう言った瞬間、俺は床に叩きつけられた。背中を強く打ったが、痛みはすぐに引いた。
タクマに殴られたようだ。タクマは立ち上がり、今度は蹴りを入れた。
タクマは、俺を睨みつけながら、俺を見下ろしている。
タクマは俺を殴った後で立ち上がった。「この野郎。お前はどこまでお人よしなんだ。騙されていることに気づけよ。バカ」俺はタクマの目を見た。
俺はタクマのことをよく知っている。
タクマはいつだって優しい奴だ。タクマが本当は良い奴だということくらいわかってる。だけど、俺はタクマを巻き込みたくない。
タクマ、お前がやろうとしてることは犯罪だ。だけど力づくで言うことを利かせるしかないようだ。タクマ、お前を殴りたくはない。俺はお前に勝ってでも、タクマを止める。
タクマは、拳を振り上げた。俺はタクマに組みついた。俺とタクマは揉み合いになり、そしてタクマの肩に噛み付いた。
彼は言った。「お前はピリ辛姫の娘がどんなあくどい事をしているか知っているのか。ピリ辛姫は不妊に悩んでいた。実家から孫の顔が見たいと催促されノイローゼになっていた。それで悩んだあげくインドで妊活をした。凍結精子を融通したのはインド飯屋だ。奴はパイレーツベイで凍結精子を購入してピリ辛姫に高値で転売した。そして、生まれたのがピリ辛姫の娘だ」
「なんだと!? ピリ辛姫の娘はそのことを知っているのか?」
「ああ。本人は知らなかったがアングラサイトに詳しい同級生からこんなことを吹聴された。『お前のカーチャン、凍結精子を違法に購入しただろ。顧客名簿に載っている。バラしてやろうかw』」
「うわっ、ひでーな」
「ああ。ピリ辛姫の娘はその同級生と寝る代わりに母親に関する情報を洗いざらい得た。そしてピリ辛姫を脅迫した。その結果ピリ辛姫の娘は東京地検特捜部のおとり捜査に協力する代わりに無罪放免を勝ち取った。怖い女だよあの女子高生は。売られたのはこぐまタイマー事務所だ。目論見通りがさ入れされた。そして俺はお縄になり保釈金を積んでようやく自由になれたというわけさ」
タクマは泣き出しそうな顔で、言った。
タクマは、本当に優しい男だ。俺はタクマの気持ちがよくわかった。
だが、俺はここでタクマを引き止めなければならない。
俺はタクマを説得しようとした。するとタクマは、怒りの表情を浮かべ、声を上げた。
お前は一体何様のつもりだよ。お前は俺のことなんかこれっぽっちも理解していないじゃないか。
俺はタクマのことをよく理解しているつもりだった。
俺がタクマを理解していないと言うなら、それはどういうことなのか。俺はタクマに問いかけた。俺はお前がやろうとしていることは正しいとは思えない。だけど、俺はお前を信じている。お前は俺の相棒だからな。
タクマは悲しそうな顔をしていた。俺の相棒、俺の相棒か。タクマはため息をついて、俺から目をそらし、下を向いた。俺はタクマが話を聞いてくれるようになったのだと思った。俺は嬉しかった。俺が話を続けようとすると、タクマは俺を睨みつけて言った。
俺は、俺が何を考えているかわかったぞ。お前の考えてることを当ててやる。
お前、
「タクマ、聞いてくれ。今から言うことは真実だ。俺は嘘なんかつかない」
タクマが、再び俺を蹴った。俺はその足を掴む。
「俺は嘘つきじゃない」
タクマが俺の顔面を何度も蹴りつける。
「嘘つき野郎」
俺は、鼻血を出したがそれでも手を離さなかった。
タクマは俺に向かって叫んだ。「俺がどれだけお前のために尽くしてきたと思ってるんだ。俺は、俺の人生がめちめちゃになった責任を取らなくちゃならないんだよ。お前にわかってたまるか」
「そんなことはない。俺たちの友情があれば大丈夫さ」
「お前のその態度はムカつくんだよ。お前は何もわかっていないんだ」
タクマは涙声でそう言った。
俺もタクマをぶん殴った。タクマは尻餅をついたが、立ち上がって、懐からナイフを取り出した。「ピリ辛姫の娘を始末して悪循環にピリオドを打たなくちゃならね」
「何でだよ。ピリ辛姫の娘がかわいそうだろ。お前はあいつのことが好きなんだろ?」
タクマは答えない。俺はタクマの胸ぐらを掴んだ。
「タクマ、落ち着けよ。俺達で助けることはできないか?」
「うるせえな。もう俺にはどうしようもないんだよ。俺の人生を滅茶苦茶にしやがったクソどもがいる。俺の人生を滅茶苦茶にしてくれたやつらと同じやり方で、そいつらに復讐をするんだ。もう、俺は後戻りできないんだよ」
「おい待てよ。それじゃあ海賊島の海賊と同じになるぞ」
「海賊と同じだと?笑わせるんじゃねえよ」
タクマは笑い出した。俺は真剣なのに、なんで笑うんだよ?
「いいか?お前の言ってることは全てきれいごとなんだよ。あの時お前は俺を止められなかっただろ?俺は知ってるんだぜ。俺が刑務所にぶち込まれた後、お前は俺に連絡を取ろうとしなかっただろ?それで俺は気づいたのさ。俺は、所詮お前にとって都合の良い友達に過ぎなかったんだって。お前はいつも俺と一緒につるんで、一緒に悪いことばっかりやってたけど、結局お前は俺のやることを肯定してくれなかったじゃないか。お前はずっと自分の人生は自分で決めてきたって言ってたけど、俺はお前が決めた道をついていくだけで何も決めることはできなかった。お前は一人でも平気な人間かもしれないけど、俺はお前がいないと生きていけないんだ。俺が辛い時にお前に救われたから、俺はお前についてきたんだ。だけど、お前はそうじゃ無かったんだろ?俺に失望したんだろう?だったら俺から離れていけば良い。俺達はもう友達でも何でも無い。だから、俺を止める権利も無いんだ。わかったか?俺の言いたいことは」
俺は言葉が出てこなかった。
タクマは俺に背を向けて歩き出す。
「お前はもう、友達でもなんでもない。お前との縁を切る。これで最後だ」
その時、女の声が割り込んだ。まだ声変わりしてない若い声だ。
「もうそれくらいで許してやって」
驚いたことに女子高生が仁王立ちしていた。「ピリ辛姫の娘!おまえ、どうしてここに?」
「私、海賊島に行っていろいろと勉強したの」ピリ辛姫の娘は続けた。「私は、海賊島の海賊達のやり方が正しいとは思わない。あなたは間違っている。あなたのしていることは、犯罪よ」
タクマは言った。「俺を脅すつもりか?」
「脅しではないわ。忠告です」ピリ辛姫の娘は言った。
「忠告だァ!?」タクマがピリ辛姫の娘に向かって怒鳴りつけた。彼女はビクッとした。
俺は思った。タクマ、やめておけって。
「タクマ、やめるんだ」俺はタクマの腕を押さえた。タクマは暴れたが俺は絶対に腕を離さない。
「うるさい!」タクマは、俺に唾を吐きかけた。「こぐまタイマー事務所が海賊島に圧力をかけた。その結果ピリ辛姫の娘がおとり捜査に協力することになった。パイレーツベイはおとがめ無しだ。こんなのは理不尽だ。俺はピリ辛姫の娘に会って、パイレーツベイを訴えるよう助言する。これは正義だ」
タクマがそう言った瞬間、
「正義だって?」ピリ辛姫の娘は怒りに満ちた表情を浮かべていた。「海賊に脅かされている人たちが、パイレーツベイを訴えてもまともに取り合ってもらえないことくらい、私はよく知っているわ。それに私はおとり捜査に協力するつもりはない。私はこの人と一緒に行くって決めたの。私の行動が海賊の思うつぼでも、それは私の選んだ道なんだから」
タクマが俺に掴みかかった。俺はタクマの頭を抑えつけているので精一杯だ。
「タクマ、俺がお前を正しい道に引き戻してやる」
「お前は何様のつもりだ?俺は間違ったことなんてしていない」
ピリ辛姫の娘が俺の前に立った。
「やめて」ピリ辛姫の娘の両手が俺の顔を包む。「暴力を振るったらダメ」
「タグマ君、落ち着いて」女刑事が割って入った。「彼は被害者なんだから」「違うね」
「違くはないわ」
タクマは言った。「あんたたちはみんなでグルになって、俺をおとしいれるつもりだったのだろう」
「何の話ですか?」「しらばっくれるな。俺の邪魔をして」
ピリ辛姫の娘が言った。「タクマ、あなたは騙されてるわ」
「俺を騙してるのはお前達の方なんだよ」
ピリ辛姫の娘が言った。
「とにかく今は、タクマの言うことを聞かなきゃだめ。タクマを逮捕させちゃダメ」
ピリ辛姫の娘は俺の手を握った。
俺は思わず手を振り払った。「触るな」
「ごめんなさい」
「タクマ、ここはいったん引こう」俺は言った。
「引くもんか」タクマは俺を殴った。
タクマは女刑事を指差して言った。「俺の邪魔をするな」
女刑事は言った。「いいえ、私はあなたの味方です」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないですよ。とりあえず今日は一旦帰りましょう」
「帰れるか」
ピリ辛姫の娘は言った。「タクマ、今なら間に合うよ」
「間に合わない」
俺は思った。やめてくれよ。タクマ、
「いい加減にしろ」
「お前がな」
「タクマ、いいかげんにしなよ」
「お前は黙ってろ」
「やめて!」ピリ辛姫の娘が声を上げた。
タクマは言った。「おい、ピリ辛姫の娘。俺を脅迫するつもりか?俺のやっていることが正しいと言ってくれたのはお前だけだったんだぞ」
ピリ辛姫の娘は言った。「脅迫なんかしない。お願いだからタクマ、帰って」
「うるせーな」タクマは俺を蹴り上げた。
俺は言った。
「タクマ、お前を絶対に帰さない」
タクマは叫んだ。「もう、お前の言うことは信じない。もう、お前なんかに俺の人生をめちゃくちゃにされるわけにはいかないんだ」
「タクマ、俺を信じてくれよ」
「信じるか」
「じゃあ、ここで決着をつけるしかないな」俺は立ち上がった。
「お前をぶっ殺す」タクマが拳を構えて突進してきた。俺はその腕を掴む。俺は足をひっかけて、タクマを転ばせる。倒れたタクマの胸ぐらを掴む。俺はタクマの胸板に膝を当てて押さえつける。タクマが叫んだ。俺は耳を塞いだ。俺は叫んだ。タクマの悲鳴だ。
女刑事が俺の腕を掴み、俺の動きを止める。俺は振り払おうとしたが、女刑事の力が意外に強い。女警官の肩が外れそうだ。俺は女警察官の頬を思いっきり引っ叩いた。女刑事は俺を突き飛ばした。
俺はタクマに向かっていく。俺とタクマの間にピリ辛姫の娘が立ちふさがった。俺は彼女を殴りつけた。彼女は地面に倒れ込む。俺は彼女の髪を引っ張る。彼女は俺の脚にしがみついた。
俺は彼女を引き剥がそうとしたが、彼女は俺の股間を力いっぱい握った。俺は痛みに悶絶した。彼女は立ち上がると、俺を睨みつけて走り出した。
俺は痛くて動けない。
「これでもくらえ!」
ピリ辛姫の娘が俺の口に何かを突っこんだ。くわえた途端に視界がゆがんだ。うわっ、これは違法なカラータケノコだ。意識がぐるぐる回転する。俺は仰向けにひっくり返った。身体が動かない。誰かに担がれた気がした。
俺は気を失った。
* 目を覚ますと白い天井が見えた。頭がぼんやりしている。病院のベッドに寝かされているみたいだ。起き上がろうとすると、背中と後頭部に激痛が走った。俺はうめき声を上げて再び横になった。後でわかったが、後頭部の打撲傷が酷かったようだ。俺は首を動かすと自分の手足が拘束されていることに気づいた。手錠をかけられてベッドに縛り付けられている。病室のドアが開いた。入ってきたのはピリ辛姫の娘だった。彼女は言った。
彼女は手に持っていたコンビニ袋の中から缶コーヒーを取り出した。俺はそれを受け取った。彼女は言った。
ピリ辛姫の娘は、海賊島のタクマが捕まったことを話した。彼は取り調べで自分の犯行を認めたらしい。そしてパイレーツベイを訴えるつもりは無いと言ったという。
俺は訊いた。
なんでそんな話をするんだ?君は俺にどうしてほしいんだ? 彼女は言った。
私は、あなたがタクマを止めてくれると思っていたの。だから一緒に行ったのに。結局、あなたはタクマを救えなかった。タクマを刑務所に入れたのはあなたよ。
俺がタクマを救った?何を言ってるんだ? 俺は思った。
ピリ辛姫の娘は、本当はタクマと仲良くなりたかったんじゃないか。しかし、ピリ辛姫の父親は、彼女がタクマに近づくのを嫌った。それでピリ辛姫の娘は、自分がタクマの友達であることを周りに知られないようにした。ピリ辛姫の娘がタクマに近づかなくなった本当の理由はそれではないのか。ピリ辛姫の父親が彼女に言った台詞を思い出した。
父親から聞いた話だ。――タグマの側に寄っちゃいけない。あの子は悪い子に育ってしまう。
(もしかすると、この娘は父親の言葉を守ろうとしただけなのではないか)
彼女は続けた。
私はあなたのことが好き。でもタクマは私にとって大切な存在なの。タクマが犯罪を犯すことで、私が辛い思いをする。それは避けたいの。タクマには前科をつけたくないの。私のためにタクマが犯罪者になるなんて、そんなのは間違っていると思うの。
タクマを逮捕させないで。彼は更生するから。タクマがパイレーツベイを訴えなければ、パイレーツベイはおとり捜査に協力しただけだと主張して、お咎め無しになるかもしれないわ。そうなれば、タクマをパイレーツベイに渡さずに済む。タクマをこのまま釈放してください。
俺は言った。タクマを逮捕させたのは、パイレーツベイじゃない。それは警察の判断だ。君の父親の言葉がタクマを苦しめているのだとしても、俺が責任を取ることじゃない。
俺はタクマを救いたい。
彼女は言った。
私を助けてくれたあなたが、今度はタクマを助けるの? 俺が君に助けを求めたのは、ただ君が俺に都合の良いことを言ったからに過ぎない。もし、俺が海賊島に行きたいと言わなかったら、俺は海賊島に行かなかっただろう。そもそも、君は俺と一緒に来なくてもよかったじゃないか。
そうね。
「俺と一緒に来たからといって、必ずしも俺の役に立つとは限らない」
俺は思った。「それに俺は君のヒーローじゃない」
彼女は言った。
「タクマが逮捕されてもいいの?」
「それは良くない」俺は言った。
「タクマが犯罪者になってもいいの?」
「それも嫌だ」俺は言った。
「じゃあ、私の言うことを聞いて」
「俺は君のためを思って言った」
「嘘よ」
「本当だよ」
「私のことなんて何も考えてくれない」
「君を助けた」
「嘘よ」
「本当だ」
「私のことなんて、どうでも良いんでしょう」
「そういう言い方は卑怯だと思う」
俺は、ふと思った。もしかするとこの娘は、俺のことを好きなのではないだろうか。
「ねえ」ピリ辛姫の娘は言った。「もしも私が、あなたのことを好きっていったら、あなたはどう思う?」
「嬉しいよ」俺は答えた。「ありがとう」
ピリ辛姫の娘は言った。「……やっぱりダメか」
彼女は俯いて呟いた。
しばらく沈黙が続いた。やがて、彼女は顔を上げた。「じゃあ、あなたは、私のことを愛してるって言ったことある?」
「…………」
「一度もないでしょう?あなたはいつも私のことを道具として見ている」
「いや、俺は君を大事に思っている」
「信じられないわ」
「どうしてさ」
「だって、私達は、今まで何一つ分かり合えてないもの」
「それは俺も同じだ」
「あなたが愛してるのは、自分だけでしょ」
「俺は、自分に自信が無いんだ」
「私はあなたを尊敬してる」
「俺がどんな奴か、よくわかっているだろ」
「ええ、でも私はあなたのことを嫌いにはなれない」
「……」
「あなたは私のことが、大切だと思えるほど、深く知り合ってはいない」
「確かにそうだ」
「でも、タクマは違う」
「ああ」
「あなたのことは信頼してる」
「うん」
「あなたのことも、あなたの考え方も尊重しているわ」
「そうだな」
「私はあなたを心の底では軽蔑してる」
「俺のことなんて信じなくていいよ」
「タクマはもっと酷い」
「……」
「彼は私を大切にしてくれる。私を受け入れてくれているの。私はタクマをとても愛しているのよ」
ピリ辛姫の娘は俺の目を見つめながら話した。彼女の目の中に、かすかに光るものがあった。彼女は涙ぐんでいた。彼女は声を上げて泣き出した。
「俺はタクマと仲直りしたい」俺は彼女に言った。
「無理よ」彼女は鼻をすすり上げ、ハンカチを目に押し付けた。「もうタクマとは会えない」
「どうして」
「もうタクマを裏切れない」
「君はタクマとずっと一緒なんだろ」
「私はタクマを裏切った。タクマにもう合わせる顔がないわ」
「君のせいではない」
「タクマが警察に逮捕されたのは私のせいだもの」
俺は言った。
じゃあ、
「タクマが君を許さないとしよう。それでも君は、彼のためにできる限りのことをやるべきだと俺は思う」
**
***
俺は海賊島のタクマに会いに行くことにした。
**
***
海賊の村は海賊島から歩いて2時間くらいかかる場所にある。
「海賊島まで行きましょう」
俺は言った。俺が背負っていたバックパックの中にあったロープが無くなった。女刑事はどこかへ行った。タクマとピリ辛姫の娘が警察署に連れて行かれた後、彼女はすぐに姿を消した。
「あの刑事さんはどこに行ったんですかね?」俺はピリ辛姫の娘に訊いた。
彼女は言った。
あの人は海賊島には行かないみたい。私達を監視する役目があったのに。多分、私達の後をつけてくるのをやめたんだと思う。
「それなら、俺達がタクマと話をしても問題ないですね」
俺はそう言って、歩き始めた。タクマのところへ行く前にピリ辛姫の娘を家に帰した方が良いかもしれないと思い、彼女の手を引いた。しかし彼女は動こうとしなかった。俺は彼女を強引に連れていくことはできなかった。
「タクマに会った後、またここに戻ってきてもいいですか?」
ピリ辛姫の娘は言った。
もちろん。でも今日は遅いから、明日にしたら? 俺は、わかったと返事をして、一人で先に進む。
* * *
* * タクマが刑務所に入っている間、
「ピリ辛姫はタクマの無実を証明する証拠を見つけることができるのか?」
「彼女はタクマと仲良くなることができるか?」
「タクマと彼女は付き合うのか?」
* * *
* *
「海賊の村」と呼ばれる地域は、
「かつてタクマが住んでいた場所だ」
* * *
* * タクマが収容された建物は海賊島の一番端っこにあり、小さな倉庫みたいな感じの建物だった。建物の入り口には警備兵が配置されていて厳重に警戒していた。俺はその建物を眺めた。
「こんな所に、タクマがいるのか」俺は思った。
* * *
* * タクマが捕まった場所は刑務所ではなかった。タグマの話では、タクマは取り調べのために留置所に移されたらしい。タクマはそこにいるのだろうか?
「もし俺の想像通りなら、ピリ辛姫は俺と協力するべきだ」俺は思った。
俺はピリ辛姫の娘に言った。
「ピリ辛姫は、今、何をしています?」
ピリ辛姫の娘は言った。
ピリ辛姫は、私と一緒にタクマのところに行こうとしている。
「それはまずい。ピリ辛姫を止めて、ここに置いていくしかない。俺が何とかします」
ピリ辛姫の娘は、
「大丈夫。私もついて行く」
俺は彼女を連れて刑務所に入った。ピリ辛姫の娘がタクマに何か話しかけた。
「私は、タクマを信じてる」
「俺も君を信じる」
「私がタクマを助けるから」
「ありがとう」
「私はタクマの味方だから」
「ありがとう」
「でも、タクマは私を許さなくてもいいの」
「それは、君のせいじゃない」
「私のことを恨んでもいいから」
「そんなこと思ってないよ」
「私はタクマが辛い思いをするのを見たくないの」
「君を責めたりしないよ」
「タクマに迷惑をかけてごめんなさい」
「君が謝ることじゃない」
「あなたを騙してしまって、本当に申し訳ないと思っているの」
「いいんだよ」
「私を嫌いになっていいよ」
「俺は君を好きになったんだ」
俺は二人に近づいて、
「あなたは、タクマじゃない。私よ」と言った。
ピリ辛姫の娘とタクマは驚いていた。タクマが口を開いた。
君は……?……そうか。……君は俺を助けてくれた女の子か。俺は……あの時のことを覚えてる。
俺は思った。やっぱりタクマは俺のことを知っているんだ。タクマは俺の名前を知っていた。そして俺が誰なのかも理解した。つまり、俺のことを認識したということだ。
「俺は、タクマがやったことを許してる。俺はタクマと仲直りしたい。タクマは、もう俺に構うなと言っていたが、俺は、もう一度、お前と話しがしたい」
ピリ辛姫の娘が口を挟んだ。
タクマが警察に捕まるのを、黙って見てられなかった。タクマが海賊島で捕まっているのを知って、タクマを助けようと思った。私はあなたがタクマを牢屋から出してあげるように、警察に頼むつもりで、あなたを探していた。
私はタクマを警察に売ったわけじゃない。ただ私は、タクマを助けるつもりだった。あなたは私を恨んでるでしょうけど、私はあなたの力になりたいと思ったのよ。
俺は思った。じゃあ、君はタクマと俺の両方を救おうとしたということか。ピリ辛姫の娘は続けた。
私があなたを説得すれば、タクマを解放してくれるんじゃないかと思ったの。あなたはきっと、私を信頼してくれると思った。でも、あなたは私の言うことを聞かなかった。私が、いくら頼んでも、あなたの態度は変わらなかった。私は、あなたに失望した。
彼女は言った。私はあなたのことが好きだから、私はあなたに幸せでいて欲しい。だけどあなたは私のことを信用してくれない。私があなたのことを好きになったのは、間違いだった。私はあなたに騙されていた。私にとってのあなたの価値なんて、あなたにとっては取るに足らないものなのね。
彼女は俯いていた。ピリ辛姫の娘の目からは涙が出ていた。俺は言った。
俺のことを愛してくれている人がいるとは思わなかった。俺にできることなんて何もないと思っていた。
ただ本質を見誤らないでくれ。本当に悪いのはパイレーツベイだ。海賊島は関係ない。俺がピリ辛姫の娘に言えたのは、それだけだった。彼女は、俺に別れを告げて去っていった。
ピリ辛姫の娘がいなくなると、俺は言った。タクマ、俺はピリ辛姫と二人で話がしたい。君とは少しの間だけ、お別れだ。タクマが解放される時が来たら連絡して欲しい。俺はピリ辛姫と海賊島の村にある広場に向かった。そこは昔、海賊島の人達が集まって会議をする時に使った場所だという。俺はピリ辛姫に連れられてその場所へ行った。
* * *
* *
「ここは、俺達海賊島の住人がよく集まって話しをした場所なんだ」
「懐かしいな」
「この場所は変わらないよ」
「俺は、ここで君に会っている」
「ああ、俺達はここで出会った」
「あの時は驚いた」
「俺は君と仲直りしたい」
「俺も、仲直りしたい」
俺は海賊島を出て、パイレーツ島に戻った。
* * *
* * 海賊島の刑務所にはタクマとピリ辛姫がいた。俺はピリ辛姫を抱きしめた。俺は彼女を離さなかった。
「私はもう、逃げないわ」
「ああ」
「私は、これから自分の犯した罪を償わなければならない」
「うん」
「あなたが、それを望まなくても」
「そうだな」
「私は一生、後悔し続けると思うわ」
「君は悪くない」
俺は、ピリ辛姫に訊いた。
君は、これから何をするつもりだ? 俺は言った。俺はこの世界を変える。海賊は悪者だと言われないように。俺は、俺のような子供が現れない世界を、みんなが平等に生きられる世の中を創りたい。俺は君のように優しい人間になりたい。
* * *
* * ピリ辛姫が言った。タクマが捕まったのは、私がタクマを巻き込んだせいだと思う。だから私は、私ができる方法で罪滅ぼしをしなければならないの。
私はこれから海賊島を出るつもりだ。
タクマは俺に訊いた。君はどうする?俺と一緒か?それとも海賊島の村に残って俺の代わりに世界を変えようと試みるか?俺は海賊島に残ることに決めたよ。俺はピリ辛姫と別れたくなかった。彼女が一緒に来たいというのなら連れていく。そうでないなら俺は残る。君の判断に従うよ。
*
* * *
* 俺は答えた。俺は君と一緒に行くことにする。
ピリ辛姫と俺は船に乗った。俺はピリ辛姫の手を握り、船のデッキに立っていた。海を眺めた。船が出港した。俺とピリ辛姫を乗せた船は北に向かって進んでいった。
***
***
それから何年が経っただろうか。俺は今もなお、 ピリ辛姫と行動を共にしていた。
俺は、彼女と一緒にいる時間が増えていった。
俺は彼女にプロポーズしようと思っている。
俺達の乗った船は、まだ北に進み続けている。
* * *
* * ピリ辛姫と俺の乗る船は北に進んでいた。俺は船の上で海を眺めながら考え事をしていた。海賊島に囚われたタクマが脱獄してから一年以上経っていた。ピリ辛姫と俺は海賊島を出た後も、ずっと船で移動を続けていたのだ。
* * 海賊島はインド領からパキスタン領内に入った辺りに位置しているはずだ。俺は地図を見て確かめたが正確な位置はわからないままだった。おそらく、海賊島があるとされているのは、インドやネパールのどこかだろうが、詳しいことはわからなかった。
タグマが捕まっていた海賊の村から出発した後、海賊の村には帰らずに俺は海賊島にいた時の生活を続けることにした。しかし俺は自分が今どこにいるのか、はっきりさせておく必要があると思い始めていた。ピリ辛姫は俺のいる場所は、インドのどこかだろうと推測していた。
海賊島は今頃どうなっているのだろうか? 俺は気になったが、俺とピリ辛姫は進路を西に変えることにした。俺とピリ辛姫は船に乗っている間は、ほとんど話さなかった。俺は何かを考えることに時間を費やし、ピリ辛姫は時々、俺の横顔を眺めているだけだった。
俺は、ある夜、夢を見た。
* * *
* * 俺は夢の中、ベッドの中で寝ていて、部屋の扉が開いた。誰かが部屋に入ってきた気配がした。ピリ辛姫だった。ピリ辛姫はベッドに近づいてきて、俺に何か話しかけてきた。何を言っているのか聞こえなかったが、彼女の顔が俺に近付いてきた。唇に何か柔らかい感触を感じた。それはピリ辛姫の口付けだった。彼女はそのままの姿勢で固まっていた。俺の心臓の鼓動が早くなっていた。しばらくして、彼女は俺から離れて部屋から出て行った。
* * *
* *
人生はシステムエラー
ハッサンは暗証番号の入力も再発行もことごとく失敗した。スマホのパスワードリマインダーに記録した暗証番号も役に立たない。
「システムエラーです」しか表示されない。
もう何もやっても無駄だった。そして、ハッサンは思いつく限りの方法で、必死になって探した。
だが、それでも見つからないのだ。……どこを探してもないのだ。
この世に存在しないというのか? そんな馬鹿な! あるはずがない。絶対にないはずだ。
ハッサンは、その日一日を絶望と恐怖に支配されながら過ごした。
それから数日後のこと。
ハッサンがいつものように出勤すると、社内の雰囲気が何やらおかしいことに気がついた。
社員たちが皆、暗い顔をしている。何かあったのか? ハッサンはそう思った。だが、その疑問はすぐに解けた。
同僚から聞いた話によると、どうやら社長が亡くなったらしいのだ。
それも過労死だったという。
ハッサンはその話を聞いた時、心の底から驚いた。同時に、あの社長のことだから、きっと無理をして働き続けたに違いないと思った。
社長は、
「わしが死んだら会社は潰れるぞ!」
などとよく言っていたからだ。
だが、まさか過労死だとは……。
過労死なんて言葉はハッサンにとって初めて聞くものだった。
過労で死ぬなどとは考えたこともない。そんなことはあり得ないと思っていた。
ハッサンには信じられなかった。
「過労死なんて、あり得ねえよ」
ハッサンはそう言った。
しかし、それが現実に起こったことなのだ。紛れもなく事実だ。
ハッサンは、自分の会社の社長が過労死したという事実を受け入れることができなかった。
信じたくなかった。認めたくもなかった。
社長が死んだ?過労死だって? バカを言うんじゃないよ。
そんなことがあるわけないだろう。
だが、いくら否定しようとしても、事実は変わらない。
社長は死んだのだ。過労死したのだ。
ハッサンの心の中にあった希望が一瞬にして消え去った。
これから先、どうやって生きていけばいいんだ? 何を支えにすればいいんだ? これからどうしたらいいんだ? そんなことを考えていると、涙が込み上げてきた。ハッサンは人目も気にせず泣いた。泣いて泣いて泣きまくった。
その時ハッサンの頭に浮かんできたのは、あの忌まわしきパスワードのことだった。
そうだ。あれがあったじゃないか。あのパスワードさえあれば、社長が作ったファイルを見ることができる。あのファイルの中には、きっと社長の秘密のデータが入っているはずだ。それを見れば、社長の死の謎を解くことができるかもしれない。
ハッサンは早速社長の部屋に向かった。
ドアを開けると、そこはガランとしていた。家具もほとんどなく、机の上にパソコンがあるだけだ。
ハッサンは部屋を見渡した。そして、すぐにデスクの上に置いてあるノートパソコンを見つけた。
それは社長の使っていたものだ。ハッサンはそれを手に取った。電源を入れると、起動するまでの間に急いでフォルダを開いた。そして、その中から目的のファイルを探し始めた。
だが、なかなか見つからない。どこにあるんだ? 焦りばかりが募っていく。……あった! やっと見つけた。
そこには、社長が自分の仕事に関する様々なデータを保存していた。
その中に、社長の残した秘密データもあった。
そこに書かれていたものは、まさに驚くべき内容だった。
なんと、社長の死因は自殺ではなく他殺によるものだというのだ。
しかも、犯人はまだ捕まっていないという。
一体どういうことだ?なぜこんなことになったんだ? ハッサンは頭が混乱してきた。
だが、このデータは重要な証拠になるだろう。これを警察に持っていけば、きっと捜査に役立つに違いない。
よし、このことを早く警察に伝えよう。
ハッサンはすぐに会社を出て行こうとした。
だが、ハッサンが部屋の外に出ようとした時、ふとある考えが浮かび上がった。
このまま黙って出て行くべきだろうか?……いや、待てよ。これは逆にチャンスなんじゃないか? ハッサンは思った。
そうだ。ここで俺がいなくなったら、誰がこの会社の面倒を見るっていうんだ? 誰もいないじゃないか。社員たちは皆辞めてしまったし、残っているのはパートタイマーくらいだ。それももうすぐクビになってしまう。そうなれば、俺は失業者だ。無職になり、収入ゼロの生活が始まるのだ。それじゃあ困る! ハッサンは慌てて引き返した。そして、パソコンの前に座ると、再びキーボードを叩き始めた。
こうして、ハッサンは殺人を犯すことに決めたのだ。
2 ハッサンは今、都内某所にある高層マンションの一室にいた。
ここは、以前ハッサンが住んでいた家である。今はここに一人で住んでいる。
ハッサンは自分のスマホを手に取ると、その画面に表示された時刻を見た。午後七時半を少し過ぎたところだ。そろそろ時間かな……。
ハッサンはそう思うと、玄関へと向かった。
そして、ゆっくりと扉を開く。
すると、目の前にはスーツを着た一人の男が立っていた。
男は四十代半ばといった感じで、背が高く痩せていた。顔色が悪く、どこか陰気な雰囲気をまとっている。
ハッサンはその男のことをよく知っていた。
名前は鈴木秀一。職業はシステムエンジニア。
彼はハッサンの部下であり、上司でもあった。
ハッサンはいつものように明るく挨拶をした。
しかし、相手からの返事はない。
その代わり、
「お久しぶりです」
という声だけが聞こえてきた。その声は何日も喋らなかった人間がようやく言葉を発したかのような弱々しいものだった。そして、その後、しばらく沈黙が続いた。まるで、ハッサンの顔を見て驚いているかのように見えた。……そういえば、最近全然会っていなかったっけ。
「中に入ってくれよ」
ハッサンが言うと、
「え?」
鈴木はやや戸惑いながらも、言われた通りに部屋に入ってきた。そして、恐る恐るというふうにリビングへと歩いていく。……何か様子がおかしい。
ハッサンはそう思いながら、その後に続いた。
「あの……」
テーブルを挟んで正面に座った時、鈴木は突然口を開いた。しかし、そこで言い淀んでしまう。それから、しばらくしてもう一度何かを言いかけたが、「いえ、何でもありません」と言って俯いてしまった。
どうしたというんだろう? ハッサンには訳がわからなかった。
「どうかしたのか?」
ハッサンが訊ねると、
「あの、どうして急に僕のことを呼んでくれたんですか?僕なんかのこと……」
そんなことを言う。……なんだ。そんなことか。
ハッサンは拍子抜けした気分になった。もっと深刻な話だと思っていたからだ。
「そりゃ決まってるだろ」
「何がですか?」
「決まっているだろう?……おまえに会いたかったからだよ」
「……え?」
鈴木は驚いたような顔をして、ハッサンの方を見る。
「そんなこともわかんねえのかよ。だから、俺はずっと前からおまえと会いたいと思ってたんだよ」
そう言った時、ハッサンは鈴木のことが好きなのだということに初めて気づいた。
3 話は数年前に遡る。ハッサンがまだ独身の頃、会社で飲み会があった時のことだ。ハッサンは会社の人間と一緒に飲んでいて、
「彼女ができたらどうする?」
という話になった。
その時、ハッサンの隣に座っていた鈴木がこう言った。
「結婚はしないと思います。だって僕は子供が苦手なので」
その時、ハッサンは思った。こいつは子供ができない体なのだな……と。それで、
「子供ができなくても大丈夫だ」
と言ったのだが、なぜか相手にされなかった。きっと変人だと思われたに違いない。それ以来、ハッサンはずっとそのことを気にしていた。それからというもの、ハッサンはますます女性に興味が持てなくなった。
そんなある日のことだった。
「ちょっと頼みがあるんだけど」
仕事を終えて帰ろうとした時に鈴木が近づいてきて、そんなことを言った。ハッサンは嫌な予感がした。そして、案の定それは当たった。
鈴木はハッサンに向かっていきなり土下座をし始めたのだ。
「お願いします!一緒に暮らしてください!」
そう言って泣き出す始末だ。これにはさすがのハッサンも呆れた。
しかし、なぜそんなことになったかという経緯を聞いた時には、怒りを通り越して笑いが込み上げてきた。なんでも鈴木には妻子がいたらしいのだ。だが、
「離婚したいんで手伝ってくださいよぉ~」
などと言われても困ってしまう。ハッサンは必死になって断った。
だが、鈴木は全く引き下がる気配がない。しまいには、とんでもないことを言ってきた。
それは、「金を貸してほしい」というものだったのだ。
「いくら必要だ?」
ハッサンはため息混じりに言った。そして、ポケットの中から札束を取り出すと、それを相手の方に差し出した。
しかし、鈴木はなかなか受け取ろうとしなかった。ハッサンはイラつき始めていた。だが、ここで怒ったりすれば面倒なことになると思い、
「早く受け取ってくれないかな」
そう言った。
ところが、鈴木は一向に動かなかった。
仕方なく、ハッサンはさらに強く押し付けた。すると、鈴木はようやくそれを掴もうとしたが、手の動きに合わせて引っ込めてしまった。……ふざけやがって!
「わかったよ。じゃあ貸さないよ」
ハッサンは立ち上がって歩き出そうとした。だが、次の瞬間、腕を強く引かれた。
振り返ると、鈴木がハッサンの手を握っている。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もう二度とあんなことは言いません!許してください!お願いです!……うぐっ!うぅ……。助けて……」
ハッサンの腕を痛いほどに強く握りしめたまま、今度は号泣を始めた。ハッサンはそれを見ると力が抜けたようになり、再びその場に座り込んだ。
結局ハッサンは、
「本当に頼むよ」
と言いながら泣き続ける鈴木の手に金を握らせた。
鈴木はそれを大切そうにバッグの中に入れると、泣き止んだ。そして、すぐに別れを告げると帰って行った。
4
「あの時はとても助かりました」
ハッサンの家を出ると、
「実は僕もあなたのことを気になっていたんですよ」
鈴木は笑顔でそんなことを言った。……そうだったのか。ハッサンは思った。……それにしてもひどいヤツだな。俺があの後どれだけ苦労したかわかるか? ハッサンは少し腹立たしく思ったが、
「そうか。それならよかったよ。これからもよろしくな」
そう答えた。
だが、その直後、ハッサンは後悔することになった。
なぜなら、ハッサンが家に帰ろうとすると、鈴木が後ろについてきたからだ。ハッサンは無視しようとしたが、相手は諦めようとせず、
「どこに行くんですか?僕も行きますよ」
などとしつこく言ってくる。ハッサンはムカついた。
「いい加減にしてくれよ!俺はもう疲れてるんだ!これ以上俺につきまとうんじゃねえ!帰れよ!バカ野郎!もう二度と来るな!この変態が!気持ち悪いんだよ!このクソホモ野郎が!死ね!消えろ!クズ!ゴミ!カス!」
ハッサンは怒鳴った。だが、それでも鈴木はついてくる。それどころか、ハッサンの後を追いかけるように走り出しさえしたのだ。
「なんなんだよ!?てめえはよおおお!!!」
ハッサンは叫んだ。だが、鈴木は止まらない。
ハッサンは走った。全力で逃げた。
しかし、鈴木はハッサンよりも足が速かった。ハッサンはすぐに追いつかれてしまった。
「離せよ!!触るな!!!」
ハッサンは暴れたが、相手はビクともしない。
「やめろっ!!離せってばあああっ!!!」
ハッサンは抵抗したが、無駄だった。
そして、
「あああああぁっ!!!」
ハッサンは叫び声を上げた。
5 ハッサンは目を覚ました。全身汗まみれだ。呼吸も荒くなっている。
夢……?ハッサンは思った。……そうだ。あれはただの夢だ。そうに決まっているじゃないか。
「ハァ……」
ハッサンは大きく深呼吸をした。そして、ゆっくりと起き上がると、キッチンへと向かった。コップに水を注ぎ、一気に飲み干す。……よし、落ち着いたぞ。
時計を見た。午前十時を少し過ぎたところだ。今日は日曜日だから、
「もう少し寝るか……」
ハッサンはそう呟くと、またベッドに戻った。……それから数時間後のことだ。ハッサンは突然激しい腹痛に襲われた。
「なんだ?これは……?」
ハッサンは苦しそうな表情を浮かべると、トイレへと向かった。そして、そのまま嘔吐した。
「なんだ?何が起きたっていうんだ?」
ハッサンは混乱した。だが、そんなことを考えている余裕はないようだ。ハッサンはその後も何度も吐き続けた。
それからさらに数十分が経過した頃、ハッサンの意識は遠のいていった。
6
「あの……大丈夫ですか?」
誰かの声が聞こえる。……誰だろう?そう思いながら目を開けると、見知らぬ男がこちらを覗き込んでいた。
「あなたは……?」
ハッサンが訊ねると、男はこう言った。
「私は弁護士です」
「……弁護士?」
「はい。あなたに損害賠償請求をしたいと思っているのですが」
「そうきゅう?」
なんだ?それは?……わからない。聞いたことがない言葉だ。
「すみません。よく意味が……」
ハッサンがそう言うと、男は何も言わずに立ち上がった。そして、部屋を出て行く。ハッサンはその男の背中を見つめながら、呆然としていた。
7 それから数日が経ったが、ハッサンには相変わらず変化がなかった。何も食べず、眠らず、ずっと同じことを繰り返す日々。まるでゾンビのように。
しかし、ある日のこと、ハッサンは自分の体に変化が現れたことに気づいた。……空腹だ。ハッサンは突然猛烈な空腹感に襲われると、部屋の中をウロウロし始めた。それから数分が経過した後、ハッサンは再び冷蔵庫の前に立つ。そして、冷蔵庫を開けようとしたのだが、どういうわけだか扉をうまく引くことができないようになってしまったのだ。……おかしいな? 何度試してみても同じだ。そこで、ハッサンは諦めることにした。……だが、それだけでは終わらなかった。
次にハッサンは窓を開けたくなったのだ。しかし、やはり開かない。
それからしばらくして、ハッサンはドアノブを回そうとしたのだが、
「ん?……え?」
なぜかその前に勝手に開いたのだ。
何が起きているのかサッパリわからなかったが、ハッサンは外に出た。すると、外には数人の人間が立っていた。皆スーツ姿の男ばかりである。そのうちの1人がハッサンの方を見て、
「おい!お前何してるんだ?中に戻れよ」
と言った。
「はい」
ハッサンは素直に従った。そして、部屋に戻ってきた。……いったいどうなっているんだろう? ハッサンは不思議に思ったが、それ以上考えるのをやめた。
「それで、どうなりましたか?」
ハッサンは質問する。
「どうなったって、それはこっちが聞きたいくらいだよ」
弁護士を名乗る男はそう言った。
8 それから数日後のことだった。ハッサンがいつも通り会社に向かうために家を出ようとすると、
「おはようございます」
一人の若い女が挨拶してきた。
「お、おう」
ハッサンは戸惑った様子で返事をする。すると、女はニッコリ笑って、
「どうしたんですか?そんな顔しちゃって」
そう言った。
「べ、別になんでもないよ」
ハッサンは動揺した。まさか自分の妻だとでもいうのだろうか?
「じゃあ、行ってきます」
ハッサンはそう言って、逃げ去るように玄関を飛び出した。
9 ハッサンは家に帰ってくると、テレビをつけた。
「続いてのニュースです」
女性アナウンサーがそう言った。
「はい」
「昨夜未明、○○市の路上で男性の遺体が発見されました」
「え?」
ハッサンは驚いた。……遺体だって?どうしてそんなことに?
「発見されたのは30代前半の男性で、死因は窒息死だと思われます」
「……そうなのか」
ハッサンはホッとした。だが、次の瞬間、ハッサンはあることに気づき、再び恐怖に襲われた。……そういえば、ここ最近自分がどうやって生活しているのか思い出せないぞ?
「まさか……俺も……死んでるのか……?」
10 ハッサンは、自分の身に一体何が起こっているのか理解できなかった。
自分は間違いなく生きているはずだ。なのに、なぜこんなにも不安な気持ちになるのだろう? ハッサンは考えた。だが、考えても答えは出てこない。
「仕方がない。あの人に訊いてみるか」
ハッサンはそう呟くと、立ち上がった。そして、部屋を出ると、あの女のいるはずのリビングへと向かった。
「……あれ?いないな」
ハッサンは首を傾げた。どこに行ったんだ?……その時、
「ハッサンさん!」
という声が聞こえてきた。ハッサンが声の方に視線を向けると、そこにはあの若い女がいた。
「あんたか。ちょうどよかったよ。ちょっといいかな?」
ハッサンは笑顔で言うと、自分の方へ来るように手招きした。そして、
「あのさ、一つ教えて欲しいことがあるんだけど」
そう言いながら、女の顔をじっと見つめた。だが、女は何の反応も示さない。
「あれ?……もしもし」
ハッサンはもう一度呼びかけてみた。だが、それでも反応はなかった。
「あのー」
今度は少し大きな声で言った。だが、それでもダメだった。
どういうことだ?ハッサンが困惑していると、女は突然動き出した。
11 ハッサンは目を覚ました。いつの間に眠ってしまったんだろう。ハッサンは起き上がると、辺りを見渡した。「なんだか変だな」
ハッサンはそう思った。妙な夢を見たせいで、少し混乱していたのだ。
「とりあえず、少し散歩するか……」
ハッサンは立ち上がると、玄関に向かった。
12 ハッサンはマンションを出た。そして、ゆっくりと歩き始める。……そういえば、もうすぐ昼飯の時間だな。何か買って帰るか。ハッサンはそう思った。
そして、近くのコンビニに入ろうとしたところで、「あ、そうだ」と思い止まった。
「そういえば俺、金持ってなかったっけ……」
ハッサンは呟いた。困ったな。どこか店で食事しようと思ったが、お金を持ってないことに気づいてしまった。だが、このまま家に帰るというのも気が引ける。ハッサンはしばらく悩んだ後、結局諦めて帰ることにした。
13 ハッサンが自宅に向かって歩いていると、突然前方から、
「お兄ちゃん!」
という声が聞こえてきた。ハッサンは足を止めた。誰だろう?そう思いながら、前を見る。すると、目の前に小さな女の子が現れた。年の頃は5歳くらいだろうか?髪が長くて、赤いワンピースを着ている。
「君、誰?」
「あぶない!自爆テロリストだ!!」
誰かが叫んで大爆発が起きた。ハッサンは吹き飛ばされて血まみれになった。「……痛っ」
ハッサンはそう声を出すと、目を覚ました。
14 ハッサンが目を覚ましたのは、ベッドの上だった。……なんだ?俺はいったい何をやっているんだ? ハッサンは思った。そして、上半身を起こした。そうだ。確か仕事に行く途中だったはず……。ということはここは会社の中か?ハッサンがキョロキョロと周りを見渡すと、パソコンの画面が見えたので、ホッと胸を撫で下ろした。
そうだ。これは夢なんだ。……しかし、それにしてもリアルな夢だな。ハッサンが苦笑を浮かべていると、後ろの方で物音がしたので、振り返ってみたところ、鈴木の姿が見えた。……なるほど。そういうことか。ハッサンは納得した。……だが、そんなハッサンとは対照的に、鈴木の顔には明らかな恐怖の色が浮かんでいた。どうしたというのだろう?……ハッサンが不思議そうに見つめていると、突然、部屋の扉が開いた。そこから現れたのはあの弁護士の男だ。ハッサンがその姿を認識すると同時に、男はこちらに向かって駆けてくると、いきなり抱きついてきた。……おい、どういうつもりだよ?ハッサンは抵抗しようとしたが、体が動かない。そこでハッサンは気づいた。そういえば、俺、首だけになってたっけ……と。
15
「おい!ハッサン!起きろよ」
誰かの声が聞こえる。
「……ん?」
目が覚めた。「大丈夫か?」
ハッサンが目を開けると、そこには心配そうな表情をした同僚の姿が映っていた。
「あ、ああ……」
ハッサンは弱々しい口調で答えると、ゆっくりと立ち上がった。
「……どうなってるんだ?」
ハッサンは呟く。すると、同僚は不思議そうにこちらを見つめると、
「何言ってんだよ?お前が倒れたっていうから来たんじゃないか」
と言った。
「倒れ……た?」
ハッサンは首を傾げると、自分の体を見回してみた。
「……あ」
そこでようやく気がついたのだが、ハッサンの首はすでに元に戻ってたようだ。……なんだ。ただの悪い夢だったのか。
ハッサンは自分の机の上に座ると、頭をかきながら天井を見上げた。
16……それから数年後。ハッサンが久しぶりに実家に戻ることにしたのは、ある噂を聞いたからだ。なんでも最近、自分の妻と娘を殺した犯人が逮捕されたらしいのだ。だが、不思議なことに犯人の名前は報道されていないようだったが、まあいいか。そう思って家に帰ることにしたのだが、まさかそれが現実になってしまうとは。……それから数週間後のこと。ハッサンの元に1本の電話がかかってきたのだが、それは例の男が逮捕され、刑務所から出てきたというものだったのだ。
「それでねー!今度のテストの点数が悪くてお父さんとお母さんがカンカンになっててさぁ!」
「はははは」
「聞いてる!?おとうさん!」
「え?あ?ごめん」
ハッサンは自分の娘の話を聞き流しながら、必死で笑いを押し殺していた。……そう。実はハッサンの娘は、ハッサンがかつて殺した男の娘なのだ。……まったく、人生何が起こるかわかったもんじゃないな。ハッサンは思った。
この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは無関係です。