〖オールシリーズマルチバース〗
編集者:ABC探偵
_仮にここを、マルチバース世界としよう。
本編軸、つまり本物(オリジナル)はユニバース世界だが、それらが語る物語は多種多様だ。
なら、それが全て一つになった時、どうなるか?
きっと、それは__。
------------------------------------------------キリトリ✂️---------------------------------------------------------------------
総シリーズを通して、全オリジナルキャラクターのイベント内の番外編的なことを書いたものです。本編とは何も関連性はありません。
なので、メタい話をしていたり、シリーズを越えてのキャラクターの絡みがあります。
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目次
静寂の確たる物音
カチ、カチ、カチ。
三回、音が鳴った。
---
「はい、××××書店の|和戸《わと》です」
本の林とも言えるほど、本が並び、客室も並んだインターネットカフェのカウンターの電話が鳴り、それに俺だけが応えた。
『もしもし。春山高校の教師を勤めております、|杉山渡《すぎやまわたる》と申します。|日村修《ひむらおさむ》さんはおりますでしょうか?』
「日村さんですか?お待ち下さい」
固定電話をテーブルにゆっくりと起き、客室の中の〖221B〗と名がある客室の扉をノックした。
「日村さん、電話です、電話!春山高校の_」
言い終わる前にややクリーム色の髪に緑色の瞳をした、どこか英国紳士を彷彿とさせる男性が出てくる。
「杉山渡か、電話を貸してくれ」
「ええ、どうぞ」
テーブルに置いた電話を手に取り、話をする男性の名前は日村修。数年ほど前からこのネカフェに滞在していて半分住居化している。料金などは貰っているが、そのお金が一体どこから出ているのかは全くの不明である。
しばらく電話していたが話がまとまったのか日村が電話を切り、こちらを見た。
まるで、獲物でも見たかのような瞳をしていた。
「|涼《りょう》くん、ちょっとついてきて欲しいところがあるんだが...」
「......なんですか?」
「春山高校だよ、今すぐだ」
「今すぐって、そんな急に...相手方にも迷惑じゃ...?」
「大丈夫だ。良いなら行くぞ」
「いえ、まだ良いとは言って_」
また、言い終わる前に日村が俺の手を握り、言葉を無視して引っ張っていく。
いつもこうだ。店員の手を取って巻き込むスタイル。それが、日村修だ。
---
私立春山高等学校。有数の進学校で、ロボコン等の理系大会の強豪校の一つとされる。
それが、日村などのたかがネットで有名な私立探偵なんてものに頼むなんて変わった話もあるものだ。
「長旅、ご苦労様です。僕は電話でお話しした杉山渡です。よろしくお願いします」
「ああ、どうも...僕は付き添いの和戸涼です。よろしくお願いします」
俺が電話の相手と喋る間、日村は珍しそうに校舎内を探索し、近くにいた女子高生に囲まれていた。
女子高生の瞳はキラキラと輝いているが、反対に日村の瞳は横に泳ぎつつあった。
「...あの方、あのままで大丈夫ですか?」
不意に杉山が口を開いた。
「多分...大丈夫じゃないと思います...」
二人でそう苦笑して杉山が女子高生を注意し、日村を引っ張ってきた。
その後、杉山が「そろそろ本題に入りましょうか」と言って職員室へ案内されることになった。
複数のテーブルがオフィスのように連なり、そこに様々な人が作業をしている。
どれもテストの採点結果について話しているようだった。
「最近、なんだか...」
「やっぱり、そうですよね...」
「見て下さい、いつも0点の野日が!100点ですよ!」
「鈴木先生...僕...もう......採点、したくないです......」
「担当教科の生徒全員分のテストを...たった数人でやれとか...公務員のくせにブラックだ......」
何人かは愚痴を吐いている。公務員職なのだから、しょうがないだろう。
「...それで、そろそろ話を聞いてもいいかな」
職員室に入ってすぐに日村が口を開いた。
杉山が頷いて、職員室の扉を閉める。まるで聞かれたくないことのようだ。
「...見ていただけると分かりやすいのですが...」
そう言ってある生徒の小テストの採点結果を手に取って、こちらへ見せる。
どれも満点が多く非常に優秀な生徒であることが分かるが、他の採用結果も見ると問題は全部で10問あるのに対し、全員の採点結果が百点満点であることだった。
「...これ、問題が全部、数字の答えなんですね...それも、全員が全部一緒...」
「そうなんです。いつも小テストをホームルームで行うんですが...この2-Aだけ全員の回答が一緒なんです」
杉山が困ったように俺の問いに応えた。すぐに日村が呟き、指摘した。
「しかし、小テストで語群から数字の記号で応えるだけだろう?一緒なのは当たり前だ」
「そうですけど...そういうことではないんです。毎度、全ての生徒の答えがまるっきり一緒に答えが合っているんです。誰か一人、間違えたって良いじゃないですか」
「...なるほど?」
ふと日村から目を逸らして杉山を見ると、杉山の顔が真剣な顔になっていた。
「日村さん、僕ら春山高校の教師一同、これを生徒のカンニングだと考えています。ですが、それを立証する証拠がない。その証拠をカンニングの謎と共に探してはくれませんか?」
そう言われた日村の瞳には子供のようにキラキラと輝く、どこか楽しげな光がそこにあった。
---
「●●●大学から参りました、日村修と_」
「和戸涼、です」
ざわざわと二人の来客に騒ぎ立てる高校生。
話し声は波のようにゆっくりと広がり、大きくなっていく。
やがて、その波が収まると一人の男子学生が声を挙げた。
「はい!日村さんと、和戸さんって彼女いるんですかっ?」
嫌な質問をする高校生である。名札を見れば〖佐竹〗とだけある。ハツラツとした声の何とも健康そうな男子だった。隣の席には大人しそうな女子高生が一人。
名札は〖平山〗。教科書を開いて何やら勉強をしている。ホームルーム前の挨拶くらい、真面目に聞いてほしいものである。
適当に日村の代わりに答えて、クラスの担任である杉山が「それじゃ、小テストするぞ」と言った瞬間に男子高校生からブーイングが起きる。
「決まりは決まりだ、ほらテスト始めるぞ」
「...あの、僕達はどこへ...?」
「和戸さん達は、後ろで見ていてくれますか?」
「ああ、はい...分かりました」
平山がうっすらと動揺して、佐竹の服の裾を弱々しく握るのが見えた。
---
懐かしのチャイム音が鳴り、一斉に紙を捲る音がする。
そのまま鉛筆やシャーペンの音が響くと思いきや、何の音もしなかった。
静寂が続いた。
やがて、シャーペンが走る音がして、カチカチとした音がした。
その途端、他からもシャーペンが走る音がした。
それが何回か繰り返された。
そこから30分後、杉山が終了の合図を出し、一度テスト用紙を回収して職員室へ戻ることになった。
「何か、分かりましたか」
廊下で杉山が先に口を開いた。日村がすぐに応える。
「ああ、なんとなくはね...ところで、その回答用紙もやはり同じ答えなのか?」
「そうですね。今日は歴史の小テストで、今回も語群から答えになる記号の数字を選択する問題だったのですが...回収時に粗方見てみたところ全員が全く同じ回答で、全問正解でした」
「まぁ...そうだろうな」
納得するような顔をして先に歩き始めた日村を追い、後ろにいて杉山がポケットに入っていたと思われるシャーペンを一つ落とした。
引くボタンが床に落ちる瞬間、カチリと音が鳴った。
「......学生の...浅知恵ってやつだな...」
日村の瞳に落ちたシャーペンが映り、深い緑の瞳がキラキラとまた輝いていた。
---
チャイム開始と同時に問題用紙に目を向ける。
問題の答えをすぐに導き出し、いつもの数字の語群からシャーペンを走り出させた。
そこからシャーペンの色を変えるカチカチと言う青や緑のボタンのようなところを2回引く。
すぐさま、周りの生徒が答えを書いた。
いつも通りだ。いつも通りの、はずだった。
「ねぇ、君...ちょっと指導室に来て貰えるかな」
黒髪に黒い瞳をして黒い眼鏡をかけた端正な顔立ちの客人、和戸涼にシャーペンを持った腕を掴まれた。
「な...なんですか?」
「俺...僕には分からないんだけど、日村さんが君を呼んでるんだ...《《佐竹》》くん」
「なんで...僕...?」
何を言うでもなく移動を促す和戸についていくほかなくなったと感じた。
素直に席を立ち、辺りを見渡す。心配そうな顔をした同級生たちと、泣きそうな顔の平山。
終わったと思った。
---
「お、やっと来たな」
杉山と話をしていた日村が俺と佐竹くんに顔を向けた。隣の杉山の顔は真っ青な顔をしている。
もう本当の答え合わせをしたのだろう。
佐竹くんを日村と向かい合わせるように座らせ、俺も近くの椅子へ杉山と共に座った。
「あの...僕は、なんで...連れて来られたんですか?」
怯えるような顔で佐竹くんが歳相応の表情をしている。
すぐに日村が応答した。
「なんで、か。...もう分かってるんじゃないのか?」
「......何の...こと、ですか...?」
「今日の小テストは、きっと皆...満点だろうな」
「.........」
「君のクラスの担当の...杉山先生が言ってたよ。君のクラスはいつも小テストで、皆が百点満点なんだってな。そりゃあ、凄いことだ。中間テストや期末テストで、それを活かせるといいが...数字じゃなきゃ、無理なんだろう?」
「何が...言いたいんですか...」
「そういえば、小テストはいつも数字を記号として、正解を語群から選ぶスタイルだな。とても楽なテストだ。
さて、君のクラスがテストを受けていて思ったんだ。チャイムが鳴ってからはすぐに皆が問題を解くのだから、シャーペンや鉛筆の音が聞こえても良いだろう?
それが、どうだ。全く聞こえてこない。しばらく経って、君からシャーペンが走る音がすると、カチカチとシャーペンを鳴らす音が響く。次に様々な物を書く音がする」
「......それが何の関係が...?」
「関係はかなりしているね。少し調べたんだ。
そのカチカチと言う音...君からシャーペンの音が鳴ると皆が解答用紙を書き始める。つまり、その過程で同級生達に答えを教えてるんじゃないか?」
「仮に、そうだとして...シャーペンの音なんかでどう伝えるって言うんです?」
「そうだな、例えば...ある問題の答えは1で、シャーペンを一回鳴らす。それを周りにシャーペンの音の一回は1、2回は2、三回は3...そういう風に最初から法則を伝えておけば、どんなことにも応用できるな。
誰かが入ってきた人数を伝えたい時、欲しいものをいくつであるか伝えたい時......もしくは、《《テストの答えを伝えたい時》》。」
「......」
「それで...今言ったやり方は正しいかな?」
日村が笑うように佐竹くんを見る。佐竹くんは怯えるような顔から、いつしか申し訳なさそうな、どうにも腑に落ちない顔をしていた。
「...その通りです。とても、とても...正しいです。もはや、正解なぐらいに」
そう言って、観念したかのように笑った。
「それは何よりだ。...君はその知恵もそうだが、相当優秀な生徒なんだろう。そんな生徒がわざわざクラスを巻き込んだカンニングをするとは思えないのだが...理由だけでも、教えてもらえないか?」
その日村の言葉を皮切りに杉山も「先生にも教えてくれ!」と反応した。
佐竹くんは笑い顔を崩さずに、よく通る声ではっきりと喋った。
「...これは、僕だけが悪いんです。どうか、これから出てくる人達には何も言わないであげて下さい。
僕は平山さんと中学の頃から付き合っていたんです。この高校に来たのも、ずっと一緒にいられるためです。
けど、彼女が高校に入ってからの成績はご両親からすると、ひどく悪いもののようで度々勉強を教えていました。
それだけなら、良かったんです。本当に、それだけなら...」
「...何が、あったんだ。先生に話してみなさい」
そう佐竹くんに語りかける杉山。その背中に教師としての在り方を感じた。
「...僕の両親は、正直...学歴主義なんです。それが勉強が苦手な人と付き合ってるなんて知られたら親から大反対されます!
それで、ちょっとだけでも、小テストだけでも良いから、とにかく彼女の成績を伸ばしたくて、伸ばしたくて...」
「...でも、それがクラス全員がカンニングする理由にはならないだろ」
「それは...そうです。でも、僕が彼女を手伝っていることが誰かからバレてしまって...そこから、次へ次へと一緒にカンニングする生徒が増えていったんです...」
平山という彼女を助けたかったのは事実だろう。しかし、クラスメイト全員がカンニングする流れになったのは他人の楽なことに目がない性のような気がする。
しょうがないことではある。しかし、カンニングをした、手伝ったという事実は変わらない。
佐竹くんが俯き、嗚咽が漏らす。
仮に彼が彼女と似たような人間なら、苦労せず全うに協力できたのだろうか?
---
「...案外、つまらなかったな」
帰りのバスに乗りながら日村が怪訝そうな顔をしていた。
「つまらないって...しょうがないじゃないですか、高校生が考えることですよ?」
諭すように俺が言葉を返した。
あの話の後、佐竹くんは校長と面談し、全てを話した。
とあるクラスの全員がカンニングをした、という事実にそれはそれは驚いたそうだが、理由を聞くと平山に特別指導支援を勧め、佐竹くんには今以上に学びを深めることを諭したらしい。
他のクラスメイトはというと親には連絡しなかったそうだが、このようなことがないよう厳重注意とテストでの警戒や注意を強化したらしい。
どっちにしろ、校長が融通の利く人物だったことに感謝するばかりだ。
そう物思いにふけって、日村を見る。
大欠伸をして眠そうにする日村に「着いたら起こしますから、寝ていて良いですよ」と言った。
日村がすぐに顔を窓に向けて瞼を閉じた。
窓の外には、綺麗な橙色の夕焼けが湖の水面に反射して、美しく輝いていた。
本文文字数:5593文字
【オールシリーズマルチバース】
8月5日が私の誕生日なので、暇だから書いてみたオリキャラ作品内のクロスオーバー的なものです。
本編のキャラクター達とは何も関連性がなく、あくまで〖もしもの話〗から派生した別世界です。
そして、世界は創られた。
---
聞き覚えのある声で、瞼を開けた。
見たこともないサイバーパンクな世界のカフェらしきところで笑う|和戸《相棒》くんがすぐに目に入った。
「...君は......和戸涼か...?...ここは...どこだ...?」
「なに寝惚けてるんですか、日村さん。
〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗のセカンドワシントンに行きたいって言い出したのは貴方じゃないですか」
「CP...なんだって?...セカンドワシントン?......アメリカの首都は確かにワシントンだが...」
「ええ、でもここはそこから10年以上も_」
「10年?今は何年だ?」
「俺達の世界なら、2×××年ですけど...」
「今、君...10年以上って...」
「だから、それは〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗の年代ですって」
「はぁ?」
「どうしたんですか、日村さん。まるで、初めて《《ここ》》に来たみたいな話をして...」
当たり前のようにそう語る和戸の方が頭でも打ったのではないかと探ってしまう。
しばらく話を聞けば、ここは様々な世界の中の一つの中にある世界だという。
所謂ところのマルチバースとかそういう別世界的なものなのだろうと、結論づけても納得がいかないのは珍しく現実味を帯びない話だからだろうか。
しかし、この目の前にいる和戸涼が本物であるのは変わらないようだ。
「...ええと、それで...その〖ABC探偵〗とやらの作品内の全シリーズのキャラクターの世界が繋がって、共存しているのが現状だと?」
「ですね。でも、その様子だと...今の日村さんって、“本編軸の日村さん”ですよね?」
「本編軸の私?」
「はい。こっちの...えっと...“ユニバースの日村”が本編軸の日村さんで、“マルチバースの日村”がここの時間軸の日村さんです。
僕の“ユニバースの僕”もいますよ。本編軸の世界に戻る時に全部忘れてしまうだけで、皆が皆、それぞれにいるんです」
「それは、つまり...私の世界の方の、ユニバースの和戸涼もここへ来たことがあると?」
「そうなりますね。俺...僕のユニバースの方も、わりと驚いていたと僕の方の日村さんから聞きました」
「聞いていた?...君らの方でマルチバースの私が戻っても記憶は消えないのか?」
「ええ、消えませんよ。本編と番外編は違いますから...。
そのおかげで、本編の結末とは打って変わって幸せになっていたり、性格は変わらないものの、外見や関係が変わっている方も中にはいらっしゃいますよ」
「ふむ...では、ユニバースの私がここにいる理由と、その時の本編はどうなってるんだ?」
「その間の本編は確か、時間が止まっていたような気がします。ユニバースの人がこのマルチバース世界に呼ばれる原因はちょっと分からないんです。
でも、〖新シリーズ〗とやらが始まるとマルチバースの人が何人か増えるんですよ。
この〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗も最近できたんです、Vさんとかサイバーヒューマンが凄くカッコいいんですよ」
「...なるほど。ところで、その〖ABC探偵〗というのはいないのか?」
「残念ながら、僕も見たことないんです。
単に姿を見せないだけなのか、そもそも存在しないのか...。
前に〖代理の🍤ちゃん〗という話を風の噂で聞いたんですけど、すぐにその噂も消えたので“いない”と断定していいかと」
「いない?仮にそうだとして、その〖ABC探偵〗というのはどこが初出なんだ?」
「僕が生まれた時に、〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗の作者欄に〖ABC探偵〗とあって、
〖鏡逢わせの不思議の国〗や〖異譚集楽〗、〖地獄労働ショッピング〗、さっき話した〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗も同様だったのでこれが所謂、親なんだと思っています。
でも、〖地獄労働ショッピング〗は親ってより、地の文だ!...とボロクソ言ってましたね」
「その、地獄労働ショッピング?の人々は何か知ってそうだな」
「ああ、いや、そうでもないんです。
どうやらその地の文が〖ABC探偵〗であるのは確定だそうなんですが、
それぞれが短気だとか、愛がないとか、女の子が好き過ぎるとか...
そういった部分的な印象しか持ち合わせていないんです」
「...とりあえず、存在そのものが不確定な、そこそこ知能を有した生物ってのは分かるな...」
「まぁ...そうなりますね。それで、日村さん。どこか行きたいところはありますか?」
「あ~...欲を言うなら_」
パッと浮かんだ欲を言おうと声に出そうとしたところで、不意に後ろから声をかけられる。
振り向くと、黒髪に黒い瞳をして、近未来的な格好をした若く元気そうな男性だが、足辺りなど所々が
角ばっているような気がする。しかし、何か人のようで、人ではないような中間がある。
その近くに脚へすり寄るようにして小汚ない痩せっぽっちの猫が座るようにして隣に立っていた。
「オサム!リョウと一緒か、久々に見るな」
急に男性に英語で捲し立てられたような気がしたが、すぐにそれが日本語で聞こえてくる。
言語の壁は薄くなっているようで、まるで話せと言われているような気分だった。
「えっと...君は......その、誰だ?」
「君、忘れん坊過ぎやしないかい?猫と人は違うはずだよ?」
猫が喋った。いや、それよりも知らない男性に話しかけられていることに注目すべきなのだろうか。
こちらが少し考え込んでいることに気づいたのか、代わりに和戸くんが口を開いた。
「...どうも、ダイナさんと...Vさん、ですよね。相方の方はどちらに?」
「レイズか?ああ...|ラム《カクテル》と朝っぱらからいないよ。どこか...そうだな、喫茶店にでもいるんだろ。
こっちじゃ、古い喫茶店なんて見ないからな」
「はぁ、なるほど...今の日村さんはあっちの日村さんでして、それで事情が分からないんです」
「ああ...ユニバースのオサムか...じゃあ、今度こっちのオサムと話をしとくよ」
そう笑って足元の嫌がる猫を抱え、こちらへ手を振り去っていく。
辺りを見回すとVのような格好した若者がいる。あの男性はここが元の人物なんだろうか。
「それで、日村さん。行きたいところはありますか?」
再び聞き返した和戸くんに応答するべく、ゆっくりと口を開いた。
---
「日村さんって、どこの日村さんもここに行きたがるんですよね」
「私は何人もいるのか?」
「派生の方のマルチバースな日村さんなら、何人か。
刑事さんをやってたり、誰かの恋人だったりする日村さんを既に見てきましたよ。
流石に増殖とかはなかったですけれど」
「それは...凄いな」
他人事のような感想を言って、目の前に広がるネットカフェの221B室を見た。
薄暗い証明に使い慣れたパソコン。自分の実家より遥かに安心できる場所だった。
その場所の隅に座ろうとして、不意に扉を叩かれる。
後ろの和戸くんも振り返ったのを見る辺り、彼ではないようだ。
目を細めて見る先に白髪に水色の瞳をして白い紐束のピアスをした一見、ガラの悪そうな端正な男が現れる。
「あ、いた。日村さん...でしたよね?青っぽい紺色の髪の人が呼んでましたよ」
「え?あぁ...有り難う」
青っぽい紺色の髪の人。梶谷湊だろうか。和戸くん以外に分かる人間がいたことに嬉しがるべきだが、そうでもない。
白髪の男性がぶかぶかとした黄色いコートに似た服を少し揺らして言伝が以上なのかすぐに目の前から姿を消した。
「...今のは?」
「翔君です。空知、翔...僕の従弟の同僚です」
「君の繋がりは広いな...?」
「日村さんの妹さんだって、そこの■■じゃないですか」
「は?」
「あれ...規制が......あの、日村さん、今何の事件を追ってますか?」
「...赤毛連盟だか連合だか...そんな感じだが...」
「なるほど。そこまでですか」
「何がなるほど...なんだ」
「いえ、その...本編軸は本編軸でも、ストーリー?の進み具合によってキャラクターの認識が違うみたいで...それをぼかす為に先程のような変な規制が入るんです」
「...それは...変わった規制だな」
「ええ、そうなんです。...日村さん、後ろ_」
和戸くんの言葉が途切れ、視点が私の後ろへ行く。
釣られて視線を動かそうと身体を後ろに回そうとした瞬間にゴツゴツとした手に首を掴まれる。
そのまま耳元で低く野太い声で「お前は誰だ」と囁かれた。
聞き覚えのある声である。
「...湊?」
「なんだ、いつもの修じゃん。何か変な気がしたんだけどなぁ」
いつもの声色で強く掴んでしまったのか、首を撫でられる。
その行為がいやに奇妙に思えた。
「梶谷さん...その日村さんは、ユニバースの日村さんですよ」
「ああ、そうなの?...へぇ、これ...まだ、なんだ」
「まだ?何がだ?」
「ん~...まぁ、その■■してないってこと」
「え?」
「わ...ダメだったか。まぁ頑張って、応援してるからさ」
「...悪意にしか感じられないんだが」
「えー...22歳の方の修は凄い嬉しそうだったよ?」
「そりゃ...■■■■■■からな...これ、私でもなるのか...」
「あはは、何故か知らないけどそうみたいだね。まるで誰かが操ってるみたいだよね」
そう笑う湊の瞳はあの時と同じ陰りを帯びた瞳をしていた。
心底、逃げ出したい気持ちに刈られた。
---
安心できた場所を離れて様々な場所を巡った。
飛び跳ねるキノコの小道、オリオンと名の大きく高いビル、馴染みのある喫茶店、よく分からない山中にある大きなスーパー...そして、当時のままの実家。
何もかもが違和感がなく存在していた。
「なぁ、和戸くん...」
「?...どうしたんですか、日村さん」
「これは、どうやったら帰れるんだ?」
「え...いや...知りませんよ」
「知らないって君...」
「知らないですよ」
当たり前のように言い放つ和戸くんを目の前に皺を寄せる。
ここまで付き添った人物が知らないとは何事だろうか。
額に手を当てて、手の甲をつねってみる。
痛みはない。そういえば、湊に首を掴まれた時も痛みはなかった。
もしかしたら、そう、もしかしたら...。
「死んでみる手も、有りか」
「え...急に自傷でもするんですか?」
「いや、そういうわけでは...痛みを感じないなら、そうする手もよくある話かと。
というか、今までのはどうやって戻ったんだ?」
「勝手にどこか行って、気づいたら戻ってましたよ?」
「相変わらず勝手だな」
「まぁ、試すだけ試してみたら、どうですか?」
「...そうだな」
波の音が聞こえる。近くに海があるようだ。
ふと、後ろを振り返って道の先がぷっつりと途切れていることが分かる。
先程までは気づかなかった。誘われているようだ。
「...和戸くん」
「どうぞ。...これも、夢の一つですから」
「............」
「日村さん、楽しかったですか?」
「...ああ」
他愛もない会話をしながら道の先へ着く。
和戸くんが崖の先に腰を下ろしたのを確認して、降りるようにそこから落ちた。
いやな浮遊感を感じたが、どこか嬉しいような幸せを噛みしめた。
---
--- good for you :) ---
---
見慣れた部屋で目が覚めた。
汗だくで、目から滝のような涙が溢れている。
嫌な思いは何もなく、何故か幸せな気持ちが広がっている。
しかし、
「...そんなに、良い夢なら......覚えていればいいのに...」
口から悲しいような嗚咽が溢れるばかりだった。
↓オールシリーズマルチバース 大まかな設定
https://d.kuku.lu/bwjm5d5fc
ユニバース、マルチバース系は本編にて説明。
のろしてやる!
辺りはすっかり暗くなり、昼の暑さが嘘のようにじんわりと寒くなる夜。
白髪をかきあげて、白い紐が束になったピアスが見える友人。
視線に気づいたのか笑って、隠すように手でこちらの顔を塞ぐようにした。
「やめてよ」とその手をどけて時計を見ると、午後9時である。
そろそろ良い時間だ。友人に時間を伝えると空気を察したのか、すぐに語り始めた。
「前にさ_」
---
前にさ、仕事場でクソ消費者...じゃなかった、お客さんの対応してたんだよ。
ん?あー、僕の働いてるとこ?スーパー、もうすっごい大きなとこ。話、戻すわ。
で、その時対応したお客さんがもう80歳くらいのお爺さんで、すっごい喚くの。
もう、酷いの何のって...僕の職場、ひどい迷惑客のブラックリスト、作ってあるんだよね。
いつも「早くしろ」とか「若いもんはこれだから...」って所謂ところの、老害?そんな感じ。
それで、その爺さん...大抵決まって最後に「のろしてやる!」って言うんだよね。
「呪ってやる!」じゃなくて、「のろしてやる!」なの。
老人だから、発音が上手くいかなくて噛んでるんだろうね。
ただ、その割には他の言葉ははっきり言うわけ。
「ノロマ」とか「漬物石」とかね。それだけ言えたら、「のろしてやる!」もはっきり言えそうだよね。
だから、僕ね...その人に「たまには“ちゃんと呪ってやる!”って言ったらどうなんですか?」って言っちゃったんだよね。
そしたら、その人...凄い笑って、笑って、笑って...気持ち悪いくらい笑い出したんだよね。
だんだん僕も怖くなって、ちょっと柳田...店長さんを呼んで回収してもらったの、その人。
で、結局...その人は最近来なくなったんだよね。
でも「のろしてやる!」って何だと思う?
ちょっとさ、調べたんだよ。
「のろしてやる」って言葉さ...陰陽師って知ってる?
その陰陽師の言葉でいうところの...`呪い殺してやる`って意味らしい。
それを僕がその爺さんのレジ対応する時にずっと言われ続けられてたって知ると怖いし...。
多分、その爺さん、言葉の意味を分かってて言い続けてたんだと思う。
だから、僕が「たまには“ちゃんと呪ってやる!”って言ったらどうなんですか?」って、言った時、笑っちゃったんだろうね。
ホント、嫌になるよね、接客業って。
---
話終えて、疲れたように笑う友人。
この友人は今までに...どれほど似たような言葉を耳に受けてきたのだろうか。
言葉は鋭利な刃物と言うが、その言葉の本当の意味に気づけているのだろうか。
少なくも、この友人は気づかなかった。
---
--- `**のろしてやる!**` ---
__よくあるタイプの作品です。呪われたりはしません。__
微睡みの共感覚
「...違法VR?」
キアリー・パークのインプラントクリニックで診察を終え、代金を払おうとしたタイミングで半分かかりつけ医になりつつあったキアリーにそんな言葉を聞いた。
「ああ...V、これはただの|依頼《オーダー》になるが...数あるVRの中でその不良を探してみるだけってのは受けてみるか?もちろん、報酬は払うさ」
「...とりあえず...VRってなんだ?ヴィネット・シルヴィーでは、ないんだろ?」
「そりゃそうだろ。VRってのは、ヘッドレスを頭に装着して、そのヘッドレスに入ってるゲームやデータを仮想空間として...あー、そうだな、二次元的なことが間近で起こるんだ。
まぁ、最近は痛覚や味覚も分かるようにもう一つの現実としての側面の強いVRばっかだな」
「楽しそうだな?」
「ああ、そうだな。やってみるか、V。そこまで危険じゃないはずだ」
「いいぞ、どうせ暇だからな」
そんな受け答えをした辺りで機械が破裂したような音と共に《《頭の中の相棒》》が現れる。
『何が暇だから、だ。てめえ、頭ん中に|クソ企業《オリオン》の|無能インプラント《クルーラー》が入ってんの忘れたのか?』
短い金髪を逆立てて怒る|金《ゴールド》になった男、及びレイズ・シルバーだった。
過去に大手企業であるオリオンを|単身《ソロ》で爆破し、|伝説《レジェンド》になった男。
死んだとされていたが、今や一人の|傭兵《万事屋》の頭の中で生きている。
そうなっている理由はレイズが無能インプラントと罵った今も蝕むクルーラーにあった。
頭の中の幽霊に「忘れてないさ。ただ、ほんのちょっとの気休めだ」と脳内の言葉を口に出さずに答えた。
『へぇ、気休めね...|違法VR《正解》を当てて、どうなっても知らねぇからな』
その時は助けてくれよ、と言いたくはなったが薄い希望だと思って胸の奥底に沈めた。
---
『それが、俺が死んでから10年経ったVRか?』
この幽霊は俺よりもVR...仮想空間という代物に興味を示していた。
近くには誰もいない。自分の家なのだから、当たり前ではある。
人の目を気にする必要性がなくなり、脳内での会話を口に出した。
「...らしいな。レイズ、お前の時代にVRはあったか?」
『そりゃ、あったに決まってるだろ。痛覚や快感を感じるような内臓されたデータのビデオを感覚できる、ってのはなかったけどな』
「10年でも色々と変わるもんだな」
『ああ...今でこそ、思い知る』
お前ならそうだろうな。そんな言葉を返さずに重たいヘッドレスを装着する。
普段、汚れた街やネオンに輝く街ばかり映している瞳が暗い闇に放り投げられた。
---
花の匂いが鼻腔をくすぐった。
機械化して排気ガスが充満したネオワシントンでは滅多に嗅がない匂いだった。
「...花か...昔、孤児院でようやく花を咲かせたものを嗅いだっきりだったな。
なぁ、レイズ_」
_お前も花の匂いを知っているのか、と聞こうとして振り返る。
誰もいなかった。ここは仮想空間でヘッドレスをつけていない脳内がこの場所を見ることも感じることもないことに気づき、少し気分が悪くなった。
そこには広大な花畑とやけに青い空が広がっているだけだった。
こんな仮想空間を好む夢好きがいるのか。
だったらVRなんて偽物を作らず、機械のような土地の一つでも買って、ぶち壊してこんなところを作ればいいじゃないか。
吐けないため息をついて頭にかかったヘッドレスを外した。
---
見慣れた部屋の中にあの花畑にいなかったレイズの姿があった。
やけに不思議そうな顔をしていた。
何も言わないのをいいことにヘッドレスのデータを別のデータに入れ換えて、また装着した。
---
今度は何やら甘い香りがした。人工チョコレートや花の香りでもない。
アロマのような、何とも奇妙な匂いだ。なんとなく、嫌な予感がした。
身体は椅子に縛りつけられて動かない。拘束された感覚までも現実とリンクしていることに悪態を吐くほかなかった。
声を出そうとした。くぐもった声しか出なかった。
口元の猿轡まで再現するなんて、やけに凝ったVRだ。
やがて、知らない男が入るなり頭に強い衝撃が走った。
追えない瞳が男の握られた拳を映した。殴られた痛覚はまだ残っている。
直後に腹に強い衝撃が入った。抉るような拳にくぐもったうめき声をあげて映像の行動のまま、椅子から転げ落ちる。
男が笑い、拘束されていた足の縄を懐に入れていたナイフで切った。助けてくれるわけではないだろう。
両足を掴んで引き寄せるようにして身体を動かされる。映像に支配された頭の中で警報が鳴った。
映像の誰かもくぐもった声をあげ、抵抗しようとする。逃げ出せるのか?
ただ、それは映像のシナリオにないようで再び腹に強い衝撃が走る。
そのまま脱がされるような感覚があり、次に下に何かが入るような感覚がした。
長く太いが、ペンぐらいの太さ。肉が押し広げられる激痛がその異物が判明する度に与えられる。
痛みよりも背中に走る気味の悪さが勝った。
ただ、それが動き続ける中で柔らかくなった。そうすると、痛みよりも快楽が走る。
シナリオと違って理性の保った頭の中でいやでも与えられる快感に呑まれないように耐え続けた。
何度かくぐもった嬌声をあげた...いや、シナリオに伴ってあげさせられた、というのが正しい。
おかげで理性の保っていた頭の中は気持ちの悪さが大きくなっていた。
その辺りで映像は休憩のようなものを挟んでいて、ヘッドレスを外そうとした。
「...っ...?!」
先程まで簡単に外れたものが全く外れない。外れる気配すらない。
何かロックでもかかっているのか頭に強くしがみついて離れない。
映像の中の男はズボンのベルトに手をかけている。
映像の主人公は全く抵抗しなかった。完全に受け入れている。
男か女か、なんて分からない。どっちにしたって知らないクソ野郎のもんを受け入れる気は絶対にない。
足を掴まれたまま、下の感覚が強くなる。
そのまま考えたくもない異物に突き抜かれるような感覚と嫌な快感、頭の中で火花が散った。
---
「...おい......おい、V!」
耳元で怒号のような声がして、ようやく瞼が開いた。
見慣れた部屋にキアリーが安堵したような顔で《《治療》》を行っていた。
「何があった?!お前、ヘッドレスをつけて脳を焼かれる寸前だったんだぞ?!」
「...あー......その、今...ヘッドレスに入ってるのが...|違法VR《ビンゴ》だったらしい...」
「そんなことは分かってる!やけに戻ってこないから来てみたら、
ヘッドレスには強制ロックのかかるウイルスが入ってたり、人体に害を及ぶ悪質な違法VRが入って、それでお前が脳ごと焼かれて廃人になりかけてたり...いくら違法VRを見つけるだけってでも、そこらにあるVRの中でそんな特大に酷いものを選ぶ馬鹿がいるか!」
「んなこと言われたって...単に売ってたものを入れただけだが...」
「入手経路は?!」
「......ナイトシティの......露店...」
「一番ダメなところから!?」
肩を掴まれ激しく揺さぶられる。視界の隅でおかしそうに笑うレイズがホログラムの煙草を吸っている。ふっと青い煙を吹いて口を開いて出てきたのは忠告と好奇心の言葉だった。
『だから言ったんだ、V。|違法VR《正解》を引いても知らないってな。
で?どんな仮想空間だったんだ?
脳が焼かれるほどだ...きっと|泥みたいな夢《素晴らしい夢》だったんだろうな?』
「本当に《《クソ》》みたいな夢だよ。二度と観たくないね」と脳内で返す。
『へぇ...そりゃ視たくないな』
脳内での記憶を見たのかレイズが珍しく賛同した。彼だって好きでもない奴とする気はないらしい。
『誰だってそうだろ』
そう台詞を吐いてレイズが粒子と共に消える。勝手に出てきて、勝手に消える。いつも通りの当たり前だった。
「V、いいか...報酬はそうだな...しばらく診察料は免除してやる、それでいいな。その代わり頻繁に顔を見せろ」
消えたレイズに代わり、キアリーが口を開いていた。
その言葉に違和感がないように返す。
「そんなのでいいのか?そりゃいいな、喜んで受け取るよ」
「喜ぶな。懲りろ、クソガキ」
珍しく暴言だったが、どうにもそれが嬉しいように感じた。
---
「別にVも大人だろう?いいじゃないか、それぐらい」
「だとしても、依頼一つで死にかけろなんて頼んでない」
「死にかけ...へぇ、あの|ヴィル・ビジョンズ《V》が?らしくないね」
「ああ...別にアダルトビデオを見たって何も言わない。けどナイトシティからわざわざ物を卸さなくてもいいだろ」
「アンタ、親父臭くなってきたね」
その言葉に何も返せなくなる。歳をとってきたのか、年下をやけに世話する癖になりつつある。
ラム・ラインブレットの酒場で愚痴を溢しているのも、どうにも親父臭く思えてくる。
「...歳を取ると若いのが子供に見えてくるもんさ」
苦し紛れにそう返し、酒を煽った。
意識が混合する底で青い空の下に咲く花畑でも拝んでみたいと、普段、夢にも思わないことを考えた。
とにかく、今は慈愛が喉から手を伸ばす程に欲しかった。
ドーナツ in ホール
無数に飾られた美術品の中で、床に座って近場で買った飲み物の蓋を開けた。
そのまま口へ運ぼうとして《《誰もいない》》のに肩を叩かれた。
そんなはずはない。今日、美術館はそもそもやっていないのだから施錠しに来た自分以外、誰もいないはずだ。
恐る恐る振り向いた先に、ポニーテールの毛先が赤い金髪の女性が《《唐突に現れた》》ような感覚で立っている。
「...誰だ?」
その問いに信じられないとでもいうような顔をして、すぐに苦笑いをするそれが口を開く。
「|🍤《ころも》です。お伝えしてませんか?」
...コロモ?
「いや、知らないが...」
「...?...リュミエールさんなら、知ってると思ったんですが...?」
「知らない。知らないぞ、お前みたいな奴!」
「あれ、話が違うなぁ...。外、出たりしました?」
「......外?パリの街が広がってるだけだろ?そりゃ家から出勤してきてるんだから、知ってるぞ」
「いや、そうじゃなくてパリの街を出た後に〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗のネオワシントンが広がってると思うんですが...」
「CP0...なんだって?ネオワシントン?」
「あー......もういいです。後で説明します。とりあえず、出ましょうよ。
貴女の|物語《ストーリー》は、公開時に始まっていないでしょうから」
その奇妙な女に促されるまま、飲み物を持って美術館を出て施錠をした。
いつもと変わらないパリの街並みの奥にやたらパイプが通って近代化した街並みが見える。
その街並みを通り、やけに高くそびえ立つビルの中へ案内される。
ビルの中は金を強調され、悪趣味な装飾の前に白くシンプルな扉をした部屋が装飾との対比で異質に思えた。
「この世界、〖オールシリーズマルチバース〗は、〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗を中心に右から〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗、〖鏡逢わせの不思議の国〗、〖地獄労働ショッピング〗、〖異譚集楽〗、〖 ラール・プール・ラール 〗の五つのシリーズ世界が時計回りに円を描く形で存在しています。
まだ、その円も不完全で空きがあるんですが、その空きの空洞には近づかない方が身のためですよ」
「なに?空洞?シリーズ世界?...まるで、《《創られた存在》》みたいに言うんだな」
「貴女に言ってもまだ、分からないですよね。少しだけ、お話しますね。
この世界は■■■■■の創作世界です。その創作世界の中でも|本編軸の世界《ユニバース》と|全シリーズのキャラクターが集う世界《マルチバース》に別れたもので、そのマルチバース世界がここです。
貴女は確かにリュミエール・フルール・オルガですが、《《マルチバース》》のリュミエール・フルール・オルガです」
「...私が偽物だって言いたいのか?」
「いいえ、本物です。ですから、魔法だって使えますし、他の警備員やアムールさんとの記憶を保持していますよね?」
「そりゃ、もちろん...あー、その...つまり...なんだ?...その誰かさんが作った...親、みたいなのがユニバースの私はそのままで、今喋ってるマルチバースの私?が...私自身なんだよな?」
「はい。その通りです」
「そうか、それだけ分かれば十分だ。それで...お前はどこのシリーズ?の...|登場人物《キャラクター》なんだ?」
「...ありません」
言葉の意味を問おうとして、有無を言わさないように扉が開かれる。
円を描くようなテーブルを囲むようにややクリーム色の髪をした緑の瞳の男性と黒髪に黒い瞳だが、猫のヘアピンをした男性、さらさらとした短い黒髪に真っ直ぐな赤い瞳の男性、黒髪に黒い瞳をした若いものの足が少し角ばっているような男性、そして、薄汚れた毛並みの悪い痩せこけた猫が座っていた。
その中でややクリーム色の髪をした男性が英国紳士に似た顔立ちで微笑んで、
「ああ...君が、そのリュミエール・フルール・オルガさんかな。そっちの、君は?」
隣の奇妙な女性に言葉を促した。
「|ころも《🍤》です。よく、ちゃん付けされることが多いです。日村さんはどうですか?」
「...私?私は...日村さんだったり、修だったりと変わりないよ。ところで、君...《《シリーズのキャラクター》》じゃないね」
「お早めに勘づかれるようで、説明の手間が省けて嬉しいです。
私は...そうですね、■■■■■の代理です」
「...代理?」
奇妙な静寂が流れた。
---
「はぁ、つまり君は_■■......|ABC探偵《親》の代理なんだな?
で、その代理とやらは...シリーズのキャラクターでもなんでもなく、このマルチバース世界そのものに居着いたものと...?
要するに...なんて言えば?」
「創設者の仮的な具現化...いや、物語に入り込む上で自然に溶け込むキャラクターと......まぁ、その、|親《ABC探偵》の代理で良いです」
「変わらないな...何か、代理らしいことができたりはするのか?」
「う~ん...能力として、色んな物をエビチリとエビマヨに変化できますよ。
あと...軽く、世界線を行き来したり、色んな人をマルチバース世界に呼び込んだり、|マルチバースのキャラクター《皆さん》を自由に扱えたりしますね...」
「...後半の方が凄いが...まぁ、いいだろう。座ってくれ、挨拶をしよう」
用意された椅子に座り、始めに喋っていた男性が日村修、和戸涼、橘一護、ヴィル・ビジョンズ...そして猫がダイナと名乗った。
ダイナが涼に撫でられているが、その顔つきは非常に嫌そうだった。
「猫が...喋ってる...」
「喋っちゃダメなのか?君は猫が人語を理解していないと思っているのか?」
「いや...だって、そもそも_」
「猫が人語を理解していない、喋れないなど誰かが決めたわけじゃないだろう。
仮にそうであると言うのなら、それは偏見の一種じゃないのか?猫はただ、人語を理解していても“みゃお”という言葉で誤魔化しているだけかもしれないだろう?」
「...猫がそんなことをするのか?」
「さぁ?僕には分からない。だって、猫だから」
あっけらかんと言い切ったダイナに何かを返す気になれなかった。
狐につままれたような気分で、和戸を見ると口元が少し歪んでいた。
とても、楽しげで良い笑顔だった。
---
「それで...謎に集められた...というか、朝起きたら身体が粒子になって溶けていって、布団から出る間もなく消えた先に|ここ《オリオン》にいたんだが......あれはなんだ?」
猫を撫でる和戸の横でヴィル・ビジョンズ、Vが問いを|代理《ころも》へぶつけた。
「私が呼びました。例の、自由に扱える...の項目ですね」
「そうなると、いつでも呼び出せるのか?インプラントでいう生成や召喚みたいに?」
「インプラントの例えがよく分かりませんが...まぁ、そうなりますね」
「とんでもなく迷惑だな」
「“やるのは”私じゃないので、分からないです」
怪訝そうな顔をするVの更に横、日村がいる辺りから「よく、分からないな」と小声で聞こえた気がした。
こっちだって、分からない。唐突に自分が創られたとか、代理だとか、産みの親以外の親だとか。
まるで、自分が偽物にでもなった気分だった。
そう考える内に一つの疑問が頭に浮かんだ。
「なぁ、そのABC探偵っていうのはここにはいないのか?」
「いません。あの人は、関わろうとしません。喋るだけなら、代理で十分だ...と」
「...臆病?」
「いえ、引きこもりです。新天地を知るのは好きですが、その地に足を下ろすことはないんです」
「......その引きこもりは、今、何を?」
「知りません。ここにいる私が知るわけありません」
「じ、じゃあ...思考は?同じだったりしないのか?」
「仮にそうなら、それは代理ではなく、本人ではないですか?」
交差した質問を全て否定され、少しの悔しさと気まずさを覚える。
ふと、|🍤《ころも》から目を離した先の一護の目の前に湯気の出た揚げたばかりのようなドーナツが数個現れた。
「うぇっ...え...えっ??.........え?」
驚いたようか顔のあっけない顔を見ながら、ドーナツに触れてみる。
少し熱いが、食べれないことはない、なんてことない普通のプレーンドーナツ。
これにストロベリーチョコレートやシナモンがかかっていれば更に旨かったことだろう。
「あ、それ...届いたんですね」
|🍤《ころも》がドーナツを指指して笑った。
そして、一つ掴んで皿ごと他の男達にドーナツを配る。
それぞれがドーナツを一つ取り、多様な持ち方で奇妙に観察をする。
「ドーナツの穴って...どこから、どこまでだと思いますか?」
それに一護が反応した。既にドーナツが一つ齧られた後だった。
「へっ?......え、ドーナツが一つ齧られたら穴ではないんじゃ?」
「それは、どうしてですか?」
「だって...丸い穴だから、ドーナツの穴なんだと思うけど...それが丸くなくなったら、ドーナツの穴ではないと思う」
「なるほど...和戸さんは、どうですか?」
和戸が手についた毛を布巾で吹きながら答えた。
「一護と一緒だよ。ただ、それは丸い穴だからって理由じゃなくて...指がそこに存在する欠けていないドーナツの穴を通ることができるからだよ。
穴には物が通る、落ちる...それがドーナツの穴にも通用すると思う」
「そういう理由もまた、有りですね。日村さんはどうですか?」
日村がドーナツを真っ二つに割りながら答えた。
「私は...半分に割ってもドーナツの穴として存在すると思うよ。
半分になったドーナツの穴がそこにあるのなら、それは確かにドーナツの穴だ。
例え半分でも、そこに確かに存在しているからね」
「つまり...存在していれば、それがそこにあると?...面白いですね。
Vさんは、どうですか?」
Vがドーナツに近くへ出現したチョコレートソースをかけながら答えた。
「その...あ~...ちょっと待ってな......。
ああ、もういいぞ。ドーナツの穴...そうだな、半分を過ぎた一塊になっても存在すると思う。
確かにそこにあったのは確かだし、ドーナツの穴があったところは丸く曲がって、そこに穴があったことを証明してるからさ」
「それは、証ですか?」
「...ああ」
「素敵ですね、ダイナはどうですか?」
皿におかれたドーナツをどうにか食べようとしているダイナが答えた。
「なにさ?猫にドーナツの穴について聞くなんて、物好きだね。
何を求めているか知らないけれど...僕は、ドーナツそのものがなくなってもドーナツの穴はあると思うよ。
空気が通っていたドーナツの穴は食べる内に空気に溶けてしまって、ドーナツそのものの型であったものが形を無くしたことから溶けたドーナツの穴が他の空気と一緒になった。
それはつまり、僕達が吸っている空気もドーナツの穴だってこと。ドーナツの穴は形として存在しなくなっても、そこに溶けたと考えれば確かにそこにある。
型にはまらなくなったドーナツの穴は世界中の空気として、ドーナツの穴として...広まっているって考えたら...面白くはない?」
「難解ですね」
「君のおつむが弱いだけさ」
「......リュミエールさんは、どうですか?」
不意にドーナツを口にしようとした手を止める。
「私は...正解がない、とだけ。
そもそもドーナツの穴の定義ってなんだよ?ドーナツそのものの形がある、もしくはないと言ってもドーナツの穴は存在するんだろう?
他の奴等の話に至ってはそうじゃないか。だったら、もう十人十色ってやつだ。
正解なんてない。答えなんてない。...そもそも、ドーナツの穴というのが存在しないと考えれば面白いんだろうが、それじゃ許してくれないんだろ?」
「...まぁ、そうでしょうね。あの人は、正解を求めますから」
「だったら、白紙の答えを出してやるさ。そのあの人とやらの指示に従って動いたりするのは性に合わないからな」
「では、ドーナツはいらないと...」
「言ってない。食べるよ」
Vからチョコレートソースを借りて、プレーンのドーナツにソースをかけた。
口いっぱいにチョコレートの甘い香りが鼻をくすぐった。
---
「...それで、貴方の“ドーナツの穴”の定義はどうなんです?」
`君の“ドーナツの穴の定義は?”`
「貴方と、同じです」
`私の、“ドーナツの穴の定義はね”...`
`#ドーナツの穴の定義#だよ。`
▪🍤ちゃん/ころもちゃん
面倒くさくなった結果、代理に昇格したクソ生意気な聞き手。
後ろ手に一括りにされた長い金髪だが、毛先が赤い。茹で海老の髪飾り。
両腕に波のような袖、白いブラウス、黄色い寝巻き(?)、透けた青いワンピースに濃緑のズボン、青いスニーカー。
性格は天真爛漫で口達者。
性別?女性なんじゃないかな。
(エビの擬人化的なものなので人外枠の為、)能力として、様々な物質をエビチリ・エビマヨへ変化させる能力を有する
詳しくはプロフィールに記載。
...ところで、どういう話なんでしょうかね。
哲学的なドーナツの穴、というものを問うただけの話。
う~ん...貴方はどこから、どこまで、ドーナツの穴が存在すると思います?
黒々で赤々とした聖夜の中で
しんしんと降る雪の中で凍えて赤くなった手に白い息を吹き掛けて擦り合わせる。
熱が無情にも逃げていき、特に暖かさは感じない。
目の前にある石像は誰が作ったのか、ダイナやチャシャ猫を彷彿とさせる刻印や瞳が描かれている。
「...猫......」
猫好きな人はここには何人もいる。その中で誰が作ったなど推理するのは無謀だろうか。
巡る思考を止めて、再び白い息が顔の前へ狼煙を挙げた。
続く足跡は自分の後ろにだけできている。しかし、その足跡も消えかかり、道は無に帰りざるを得ない。
もし、この消えた足跡の先に倒れた誰かがいるとしたら......それは、一体どんな人だろうか。
無に帰り際のその命と引き換えに形は残る。
どんな男性や女性でも、それは変わらない。止んだ吹雪の中で倒れたような人型の雪像。
この目の前の猫の雪像もそうであるなら...ダイナとチャシャ猫、どちらが犠牲になったのだろうか。
...これ以上、考えるのは籔だろう。そもそも本来、嬉しがるべき聖夜にこのような邪な考えは非常に士気を下げる。
職業病のような考えは今のうちに切り替えるべきだ。
未だに冷たい掌をジャケットのポケットに入れ、広がる銀世界に足跡を続けた。
---
未だに帰ってこない買い出し担当の探偵に悪態は吐きつつある秋人と、珍しいのか飾られたモミの木の前でぐるぐると回る二匹の猫と、一匹の白兎。
「あー...もう、面倒だ......どけ!」
「たかが動物の三匹が回っているだけだろう?君は小鳥が三羽いるだけでも『どいてくれ』と言うのかい?」
「やかましい!猫が二匹回ってるだけでも、気が散って散ってしょうがないんだよ!飾り付けなんて手伝えないんだから、食事のつまみ食いでもしてこい!」
「それ、かえってダメじゃないか?」
猫に対して怒りを露にする秋人をキッチンから見つつ、《《たまたま》》買ったデスソースでも入れようとピザ生地の前でソースの蓋に手をかけたところ、白く細い手にごつごつとした手を包まれた。
その手の主へ顔を向けて、微笑みを見せる彼女に僕は口を開いた。
「どうしたの、遥ちゃん。僕...まだ何も入れてないよ?」
そう言った瞬間にゆっくりとソースの瓶が取り上げられ、代わりに砂糖が入った瓶を渡される。
「未遂で良かったと思いますよ、湊さん。貴方が料理担当って聞いた桐山さんの顔がやけに強ばっていたので何かと思ったら......ダメです、デスソースは。ダメですよ」
「へぇ~...じゃ、ベジマイトジャムは?」
「ピザにジャム?......いえ、その前にそれもアウトです。ダメって言われないと止まらない人なんですから、やめて下さい。そんなピザ、誰が食べるんですか?」
「大丈夫、君のお兄様なら食べてくれるよ、多分」
「食べてくれるんじゃなくて、食わせるんですよね?」
「気のせいじゃないかな?」
適当に御託を並べ立てながら、取られたデスソースをひょいと掴み取る。
あの時は何を警戒していたのか分からないが、遥も丸くなったものだ。現に今、こうして簡単に奪うことができる。......奪われることが、分かっていたからだろうか。
「あっ、ちょっと......沢山かけたらダメですよ。あと、砂糖は入れて下さい」
「大丈夫、大丈夫。できた後の一つにかけて回すだけだから。修が食べるといいね」
「...本当に食べそうなのが、どうにも...」
「危機感ないからね、修って。今はどうなのか知らないけど」
「あると思いますよ。■■■には」
「そうか、そうだねぇ」
他愛もない会話を続けながら、ふと神宮寺姉弟と八代兄弟のことが頭に浮かんだ。
神宮寺は二人きりのはずだし、八代は確か一護君と和戸さんのところへ行くと言っていたはずだ。
虹富に関しては全くベッドから起きやしないので置いてきたが、充電の切れている携帯には驚くほど通知が入っていることだろう。
桐山や鴻ノ池、榊、酒木はあまりよく分からない。正直どうでも良くて、今の今まで忘れていた。
お互いに何かしらやっているんだろう。そういう人達だ。
しかし、まぁ、他の人もそれぞれ顔見知りといるのだろう。アメリカだのフランスだの...日本以外のクリスマスの過ごし方なんて知らない。
もし、そこで秋人を弄ぶ奇妙な猫達のような者に聞けば、クリスマスの過ごし方について答えてくれるだろうか。
答えたところで、それは参考になるのか?もし、それがモミの木に火を焚いてファイヤーするなど、そんなワイルドなキャンプファイヤー擬きだったら?
結局のところ、自分が知っているやり方でしか知らない。できないのだ。
---
キリストの誕生を祝うクリスマスには、もみの木を飾る。
その理由は、もみの木が常緑針葉樹であることの側面が強く、 厳しい冬が訪れる土地でも葉が枯れて落ちることなく、色鮮やかな緑を楽しめるもみの木は、昔から強い生命力の象徴とされていたからだ。
そのため、 力強く葉を茂らせる姿から、もみの木を神聖なものとし、もみの木を飾るようになった。
...小さな頃の、ほんの少しの知識だった。その知識の大半はやはり、書物からでそれ以外の出所を知らない。
そういった古典的な情報は新たな情報のように改変されたりすることがない。
結末が揺れ動くような昔話とは違い、これが絶対的な決定打であるからこその無変化は、この世界で唯一揺れ動かない真実の結末と言える。
何しろ、ここはどこか本来あるべき人達と違うのだ。別人のようで、別人ではない友人や知人、家族が大量にいる。
ここへ初めて来た時の安心感に対比した違和感。何も危険がない安心がかえって違和感のように感じられていた。
現にクリスマスだと言うのにその違和感は消えることがない。
どうせなら、今すぐにでも何か事件でも起きてくれた方が安心できる。
変わってしまった違和感が常々頭にこびりついて離れない。
何か、何か起きてくれないか。そう願わずにはいられなかった。
買い物袋を手に下げながらもう見慣れた家の扉をノックする。
本来の私には帰る家などないはずなのに。
---
「トリックオアトリート、買い出しで買ったものを全部出せ〜!」
「メリークリスマスな…ハロウィンができなかった腹いせか?しょうがないだろ、歳なんだから」
「歳って言うけど、まだ25歳だよ」
「もう25歳なんだよ、恥をかかせないでくれ」
買い出しの袋を扉を開けて目の前にいた湊に押しつけ、肩や頭についた雪を軽く払うと猫に弄ばれている秋人が目についた。
「あれ、ずっとああなんだよ。気にいられてるんだよ」
「猫にか?へぇ、羨ましいこともあるもんだ」
テーブルへ忙しそうに料理を運ぶ遥を見つつ、袋の中のシャンパンを広げる。
一本、一本と置く内に代わりに食器を広げる湊が口を開いた。
「修はさ…ここ、変だと思わない?」
「……具体的に…どんな風に?」
「何か…今、こうして動いているのも全て決められているような不安と思い通り、記憶通りに動かない違和感…そして、死んだはずの人間が自分と同じように物を食べて、喋って、笑ってる。
だって、確かに死んだはずだったのに……その記憶があるのに、どうして生きてるの?ここ、やっぱりおかしいよ。夢とか楽園じゃない、もっと根本的に異質な何かがあるよ。
初めてここで目を覚ました時、そんなまさかって思った。黄泉の国か何かかと思ったら修もいるし違うんだって説明ついた。
けど、けど…まるでその事実がなかったみたいに忘れ去られたみたいに…蝕んでる……今、僕が一緒にいるのって本物なんだよね?本物の、修なんだよね…?」
「…本物じゃないって言ったら、どうする?」
「分からない。分からないよ。修は修だよ、違うなら、もっと分からない。何が分からないのかも分からない…」
「……大丈夫、本物だ。ただ、ほんの少し奇妙な記憶を持ったままいつも通りの日々を過ごしてるだけだ。
皆、死んでない。何か夢の記憶だ、そうだろ?」
自分の今まで感じていた違和感を封じ込むような言い訳だった。
違和感なんて存在しない。あるのは、安心感だけ。それでいい。
偽物じゃない、本物だ。本来の世界と違ってもここは確かに本物だ。
クリスマスという良い日なのだから、それを考えなくたっていいじゃないか。
誰が何のためにこんな紛らわしいことをしたのかなんて、もうどうでもいい。
今が誰も死なない幸せな空間であるのだから、それを崩さないように慎重に踊ればいい。
だって、それを押しつけたのは紛れもなく、誰かが憧れた唯一の夢じゃないか。
---
違和感を常に感じている。
ダムに沈むはずだった家々が存在し、今こうして日村修の家でクリスマスパーティーなんてものを年甲斐もなく行っている。
おまけに知らない猫が二匹上がり込んで堂々とマグロを喰らっている。
事実とは打って変わって改変された何かが、そこにある。
目の前のややクリーム色の髪をした男性は紺に近い青髪の男性と栓抜きを持ってシャンパンを開けようとしている。
逆にややクリーム色の髪をした女性は手作りのピザをナイフで均等に切り分けてはピザを乗せた皿を各一人に手渡す。
やがて、ポンっとした音が響いて炭酸が泡立つ音が鳴った。
切り分けたピザをそれぞれが口に運ぶ。
感じている違和感を今だけは忘れたっていいだろう。きっと、目の前の探偵がいつか解決してくれる。それでいい。それで、いい。
チーズの独特な匂いが鼻を抜ける感覚に包まれながら目の前の探偵の顔がだんだんと赤くなるのが見えた。
何事かと思って水を差し出し、コップに入った水を呷る修の隣で少々、笑いを堪える湊を目視した。
「湊…!お前な…!」
「いやっ…!っふ、ふふ…これは、その、まさか本当に食べるとは…!」
「何入れたんだよ、遥が見てたはずだろ?!」
「あ、あ〜…見てたよ、うん。できた後に一部だけデスソースをかけたんだけど…綺麗にその部分だけを引き当てるなんて、思いもしなかったよ」
そう笑う湊の横で、コップに水を注ぎながら遥が、
「私は止めましたからね。言っても聞かなかったのは湊さんです」
呆れたような顔をして兄へ水をもう一杯差し出した。
それを受け取った引きが良いのか悪いのか、分からない兄が少し赤く腫れた唇から言葉を漏らした。
「湊……!!」
「ごめんって、せっかく買ったから使ってみたくってさ」
「……二度とするなよ」
それだけで許したように箸をローストビーフに伸ばすのがこの探偵だ。
それに続いて、遥も湊も箸やフォークを進め、二匹の猫も更にマグロへがっつく。
違和感はあるが、確かに幸せはある。
これでいい。クリスマスなのだから、幸せだって良いじゃないか。
**あとがき**
メリークリスマス、メリーバッドエンド。
個人的には湊さんはイベントはやりたいけど、イベントそのものに興味はないタイプだと思います。あれだよ、やりたいって言ったくせにあんまり楽しまないタイプ。
他は年齢的にやらないと思いますね、仕事とかも理由につけそうな感じはします。
では、メリークリスマス。
年越し明け星
「何か、困ったことがあったら俺に言うんだよ。まだ19歳でしょ、絶対に力になるから」
昔と変わらず頼りになる従兄がそう言った。
その誘いを有り難く貰いつつ、未だに子供扱いされていることに少しだけ気分に落ち込んだ。
「…あのさ、|涼兄《りょうにい》。確かにまだ19歳ではあるけど一応これでも自動車の運転とか、契約とか結べるんだよ。煙草やお酒が飲めないだけで…」
「|一護《いちご》は免許取りたての初心者の車に乗りたい?」
「…いや…事故とか、怖いし…」
「そうだね。そういうことだから、《《今は》》任せてよ」
「…分かった」
言いくるめられたような気がしなくもないものの、人からの好意は素直に受け取るものだ。
窓を見れば、雪がクリスマスに次いで降り続けている。
降り続けて積もった雪を白兎が楽しそうに踏みしめては遊び続ける。
今年の干支は確か、午年だったはずだ。アルバイトをしているスーパーを飾りに馬の飾りが大量にあったことを他人事のように思い出した。
ふと、従兄である|和戸《わと》涼の方を見ると携帯をみて時間を確認している。
釣られるようにこちらもまた確認すると今年を越すまで、残り1時間を切っていた。
「…参拝、行こうか?」
そんな従兄の提案に俺は首を縦に振った。
---
沈まなかった神社の境内の中で、暖かみのある白く細い手を握った。
角ばった朱色の角を撫でて額と唇が触れ合った。
「ねぇ」
不意に呼ばれて、互いの清い水色のイヤリングが重なり硝子質の音を立てる。
ほんのりと欲情したような醒めた瞳が交差して、額と触れた唇が更に本命へと行き届いた。
ずっと求めていたものに溶けるような甘さと満たされていく幸福感を感じた。
外はしんしんと雪が振り、見るだけでも寒く感じる。
「外ばかり見てないでよ」
「ああ……ごめん」
頬をやや紅潮させ、待つ姿がなんとも愛らしい。
小さく脆い花を丁寧に扱うようにゆっくりと愛撫した。
自分の身体の下で微笑む彼女に幸せを噛みしめた。
---
頭の中に騒音が響いた。
死に際の静かさとは違う騒音に生きている感覚があった。
目の前には赤黒い髪の男が5つほどの画面に分けられたパソコンの前で一つの画面を見ながら大きな声で喋っている。
あまり趣味ではないが、“配信”というものをしているようだった。
音を拾うことがないように自分が息絶えたはずのベッドの上に腰を下ろし、どこからか入り込んでいた猫二匹を撫でた。
「_それじゃあ、良いお年を」
|楓《かえで》は画面の向こうへ挨拶をして、世界を切った。
そして、そのままこちらを見てあの時と同じ笑顔のまま、言葉で身体を撫でてきた。
「…クリスマスは、どうだった?」
「|修《おさむ》達と一緒だったよ、お前は配信だったんだろ」
「あぁ……見た?」
「アーカイブなら」
「手厳しいなぁ…やっぱり、興味ない?」
「興味ない、というよりは…恐い。悟られたら終わりなものしか知らない」
「…大丈夫だよ、今は守れる」
「守れてない。ずっと犯された記憶があるままだ」
「でも、今は?」
「それとこれとは、関係がない」
鬱陶しそうに言い放って、いやに熱に浮かされた瞳を見た。祖父や周りの大人と同じ瞳だが、どこか優しさを感じた。
「…なぁ……お前、俺が死んだ後に…」
「…うん……」
「……具合、良かったのか?」
「具合は……良かった。…申し訳ないとは、思ってる」
「…俺は道具じゃない」
「分かってる、分かってるんだよ…でも」
「抑えきれなかったって?イカれてるよ、まだ俺が生きている内なら許せたよ。けど、死んだ後にするやつがいるかよ…」
「…ごめん、|秋人《あきと》」
「……今、言ったってしないからな。謝ってもそうだ」
「…こんな日にやる気なんてない。僕はただ…勇気がなかった」
「世間に晒してるような奴が、楓が?」
「本当に、ごめん」
「…もう…いい……過ぎた話だ…」
仮に生きていたとしても、今すぐにでも破裂しそうな風船を抱えていたような男が隣にいたのだから、やることはやっていただろう。
隣の猫はすやすやと熟睡したまま、起きることはない。猫や鏡、白兎は何も知らない。
正面でしょげた酒木がいやに可笑しくなって、おかげで口元がひどく歪んだ。
「なんで笑ってんの」
恨ましげに見る瞳に欲情した様子はない。この哀れな男はよく知っている。
逆に自分に強気で押して、覆いかぶさってくるような男は知らない。
「いや…過去に、囚われたままだなと思って」
「…もう新しくなるのに?」
「ああ、そう言えばそうだな」
「……外…出る?」
「…そうだな」
提案を呑んで、パソコンの時間を見た。
今年を越すまでに30分を切っていた。
---
肌寒い空気が背筋をなぞった。
雪が広がった地面の上で、仕事の|先輩《パートナー》が意気揚々と午の描かれた絵馬を飾っている。
「絵馬、なんて書いたんですか?」
「“事件の発生率が少なくなりますように”、と。無理でしょうね」
「初っ端からネガティブですね」
「いいえ?今年…正確には来年に、ポジティブになれば良いんですよ」
「……どういうことですか?」
「始めからポジティブな考え方をしていれば、願いが叶わずとも良い気分かと」
「…横暴です」
「そうですか。良い案だと思ったんですけれどね…」
|鴻ノ池《こうのいけ》|詩音《しおん》。とても良い上司で先輩かつパートナーだが、時たまに奇妙な言動をすることがある。
以前、飲みにいった友人からは“ミステリアス系美人”だとよく分からない返答が返ってきていた。
確かに綺麗な人ではあるが、不思議と男らしい感情というのは湧き上がらないものである。
そもそも職務中にそういった考えに踊らされていては、弱みが増えるだけなのだが。
「そういえば、|榊《さかき》さんはどちらへ?」
「後で来るそうですよ」
「なるほど。待つ間、何をしましょうか」
「残り15分ぐらいしかないですよ?」
「良いんですよ、|桐山《きりやま》。全て完璧じゃなくとも」
「…単に面倒なだけでは…」
「気のせいですよ」
そう笑った鴻ノ池の声に合わせて、携帯の通知がポケットの中で鳴った。
今年を越すまでに15分を切っていた。
---
|懐かしい男《ルネ=ルイーズ》が孫のように親しいリュミエールと掃除をしているのを見ていた。
博物館内を箒で掃いたり、空拭きをしたりと全員が掃除し終え、自販機からオランジーナを三本を買ってはリュミエールと、ルネへ手渡した。
「有り難う」
「…有り難うございます」
蓋を開く良い音が鳴って、ルネの頭に手を伸ばした。
「……なんです?俺は、|アンタ《アムール》の孫じゃないですよ」
「いや…こうしてみると、生きているんだろうなと思って」
「|生きた屍《ゾンビ》でも見てるつもりなわけ?」
「そうじゃなくて…君がリュミエールと並んでいると、実感があるんだよ」
「…だってよ、リュミエール」
唐突に名前を呼ばれて、飲みきりにかかっていたリュミエールはいやに苛立ったように応えた。
「私がお前と|友人《パートナー》だって言いたいのか?冗談だろ、幽霊は苦手だ」
「へぇ、悲しいな。俺は今、生きてるんだけどな。勝手に殺されちゃ困るね」
「…一度、死んだくせにか?」
「痛いところを突くなよ。化けて出てやろうか?」
「それなら、聖水でも試してみるか。せっかく、アメリカ人のキリシタンが近くにいるんだから」
「アンタ、俺をなんだと思ってるんだ…」
「有能なくせしてクビを切られた悪霊」
「………悪霊じゃねぇよ」
ため息をついたルネに代わって、リュミエールが「|Bouh !《ばぁ!》」とケラケラと笑い出す。
隣でルネは鬱陶しそうに手に持った飲み物を飲み干して、私に向かって呟いた。
「…まぁ……アンタとまた、話ができるようになっただけ嬉しいよ。別れの言葉も言えなかったからな」
ルネ=ルイーズ・カロン。
アムールブロープルミュゼの元警備員であり、本編軸である|ユニバース《オリジナル》では死んだ男。
今は死体が蘇ったように当時のまま、笑っている。
たくさんの美術品を見てきたが、これほどまでに奇妙なものは初めてのことである。
当の本人は、何も分かっていない。
---
「ジャパニーズおせちってやつだ、食えよ」
嘲笑うようによく分からない食べ物が入った大きな重箱を見せる|レイズ《金になった男》・シルバーと隣で先につまんだのか吐き戻しそうな|ヴィル《V》・ビジョンズ。
「……ジャパニーズ…おせち?…もっと綺麗なイメージだったんだけど、それ中に何が入ってるの?」
「ナイトシティの店で売ってた合成肉や合成野菜とか…」
「要は安物、なんだね」
「ああ…てめえにはそう見えるか。コスパが良い品物って言えよな」
「物凄い安物は味を保証しないからさ…V、どうだった?」
自慢気に金を節約したレイズに代わり、少し項垂れたままのVが首を横に振った。
つまりは、
「物凄く不味い」
そうVが答え、非常に不満気な表情を浮かべて机の上に置かれた酒を手にとって、コップへ注ぎ、軽く呷る。
口直しのような行為にレイズは「元エリート様のお口にも召さなかったか」と笑って、こちらへ重箱を差し出した。
それに対して、Vが話をレイズへ振った。
「お前、味音痴か何かか?一回食ってみたらどうだ?」
「一度食ってる、とっても美味かったぞ」
「…10年も■■■■されてたから、味覚にバグが起きてるんだな。接戦の腕より、正常な味覚を思い出した方がいい」
「それなら、|天下の美食家様《オリオンのイーオン》に決めて貰うか?一応、|故人《アルド》の息子なんだろ?」
「…同じ結果になるだけだ」
「どうだか。金持ちってのは変な奴が多いもんだからな」
お互いに話を区切った後、レイズが重箱のよく分からない食材をフォークで掴んでこちらの口元へやる直後にVが口を開いた。
僕も口元に近い食材から離れて小言を、兄弟喧嘩のように言い合った。
「親戚に甘やかされてる子供みたいだな、良かったな」
「…もう子供じゃない」
「まだ18だ。俺は28で、10歳も違う。ある意味、子供だろ」
「だとしたって、君よりは…」
「周りに流されるような若手社長に何かを言われる筋合いはない」
「それは君もだろ?!」
「さぁな。少なくともお前よりは流されにくいよ」
「そう変わらないよ!」
言い合いが続く内、痺れを切らしたのかやけに焦げて炭に近しい匂いのする何かが口の中に突っ込まれる。
苦味とひどい塩味、脂ぎった硬いものが口の中に広がった。
軽く咀嚼して喉へVに渡された水でそれを流し込み、一息ついた辺りで言葉を絞り出した。
「……これ…なに?………卵?」
「へぇ、てめえは分かるんだな。そこで酒を嗜もうとしてるVは揚げ物って言ったんだがな」
「…普通に揚げ物って言おうとしたよ。おせちでもこれ、どこの部分?」
「伊達巻らしいな。錦玉子とか、出汁巻き卵って呼びもあった。お味は?」
「信じられないくらい不味いね。流石、ナイトシティの|金《ゴールド》になった男だよ」
「……ああ…てめえら、下水でも呑んでるんじゃないのか?」
「まさか。うざったいくらい“高級”の枕言葉がついたものばかりだよ」
「はぁ、趣味悪いな。アルド・クソリオン同様に」
「アルド・オリオンね」
「どっちだっていい。クソはクソだ」
言い切ったレイズがおせち擬きを口に放おった。
少しだけ、咳き込んでいた。
---
|女神の泉《聖杯》で珍しく酔いつつあるキアリーを見ながら、酒場のメニューにある“レイズ・シルバー”を暇に頼んだ。
隣で座る酔人は頬を紅潮させて年甲斐もなく、へらりと笑ってカウンターでコップを拭くラムに話しかけていた。
「なぁ、聞いてくれ。ラム、ラム・ラインブレット。
Vが最近、診察にすら来やしないんだ。あの一匹狼が頭から離れたからって言って安心だと思い込んでるんだ」
「……別にいいじゃないか。あのクソッタレとの同居生活が終わったんだろう?キアリー、医学的に何か問題があるのかい?」
「大有りだ、クルーラーで脳に多大なダメージが残ってるかもしれないんだ。Vがここに来たら、来るように言ってくれ」
「ああ…覚えておくよ」
心底、面倒くさそうに話を聞いて作業を続けるラムに僕も口を開いた。
「日本は新年らしいね。ここもそうだけど、パーティでもするの?」
「カウントダウンパーティのこと?さぁ、そこで酔い潰れてる男らが勝手にするだろうさ」
「ああ、ホームパーティじゃないんだ」
「|伝説《レジェンド》のおさがり中古はお気に召さないのかい?」
「…まさか。酒に全部流れて清々するね」
「へぇ、ようやくお立ち直りされたわけ?」
「ああ……本当に、ね…」
酒の席で容赦なく抉ってくる言葉から逃げるように液晶のニュースを見た。
ラーニ放送局が新年の前の挨拶をしている。
ただ、それだけだった。
[グッモーニング、次の|伝説《レジェンド》!
日本同様、セカンドニューヨークもナイトシティもネオワシントンも…
皆が皆、新年まで残り30秒!
飯は食ったか?トイレは済ませたか?ヤることはヤったか?
全部終わった奴等は“ラーニ”の前で、叫ぶんだな!
5、4、3、2、1……ようこそ、セカンドニューヨークへ!
そして…|Happy New Year《良いお年を》、|NEO USA of LEGENDS《新アメリカ合衆国の伝説達》!]
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しんしんと降って肉球を濡らす雪がぽふっと音を立てる。
雪の山の中に猫型の穴の中から|チャシャ猫《ブラザー》の尻尾がゆらゆらと揺れている。
遠くでは花火が打ち上がり、近くでせっせと雪を集めているひび割れの目立つ花柄のティーポットの貴婦人こと、ティーが身体を震わせた。
「|兄弟《ブラザー》、何か音が鳴った。花が大きく上がったような音だ」
「…ああ、|兄弟《ブラザー》…花火が上がったんだ、いつまで雪と雪の間に身体を挟み込んでいるんだ?」
「|兄弟《ブラザー》…いや、ダイナ……その、俺は……雪から離れられないんだ…」
「……埋まったのか?」
「そう、だな……すまないが、|助け手《`【アリス】`》を呼んでくれないか」
「`【アリス】`は鏡が割れていないから、呼ばないが…そもそも呼べないが、まぁ…掛け合ってみるよ」
「…頼む」
いつもの優雅さはどこへ行ったのか、雪の奥から弱々しい声がした。
その声にため息をつきながら再度、肉球が冷たい銀世界へ降ろされた。
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「あぁぁぁぁ………終わらない!」
白く染めた髪に凛々しい顔をした男性、|空知《そらち》|翔《しょう》がひどく疲れたような顔をして、上へ何も書かれていない紙を投げた。
その行動にすかさず、隣の黒髪の男性である|柳田《やなぎだ》|善《ぜん》が注意を入れる。
「ちょっと、翔…それ片付けてよ」
「ぅえ…もう5時間も福袋のセールで広告ポスター作りですよ!こんなの俺、おかしくなりそう!」
「元からおかしいから大丈夫でしょ」
「元から?!」
喚く空知と少し苛立った様子の柳田の手元には何十枚と重ねられたチラシの束が十個程あり、どれも似たような構図と文字が書かれている。
両方ともペンを持っているが、利き腕ではない方の手はインクが写って下が黒くなっていた。
「…喧しいな……」
二人の前に置かれた小さめなパソコンの横から、長い金髪に火傷の跡が目立つ男性、|上原《うえはら》|慶一《けいいち》が顔を出す。
顔色があまり良いと言えないほど目の下のくまが目立ち、青みのかかった顔をした彼はどことなく普段の覇気が感じられなかった。
そんな彼の一言に柳田が言葉を返した。
「喧しいと言われても、僕ではないですし…そもそも三人しか現在勤務していないのに、ポスターを千枚ほど作れとは……些か無謀ではありませんか?」
「……分かってる。けど、これは国が決めたことだ……年末年始の福袋目当てに多くの“消費者”が来るだろうから、宣伝ポスターを作れってな…。
俺だって、こんなところで従業員の野郎二人といるより、愛らしい妻子と年越しを過ごしたかったさ」
「…リア充……」
「今はそのリア充がお前らと一緒になって仕事してるがな…」
手を額にやって消耗した上原がそれ以上、柳田に何かを言うことはなかった。
上の人間ですら、そのような状態にあることに諦めたのか柳田は席に座り直した。
代わりに空知が手を動かしながら柳田へ問いを投げかけた。
「そういえば、一護君は?|松林《まつばやし》さんとか、|遥《はるか》さんとか…」
「一護君は和戸さんと。松林さんは春コミの原稿。遥さんはお兄さんの|修《おさむ》さんと、だよ」
「……とりあえず、僕より充実してそうなのは分かりました」
「全部の仕事が終わったら、遅い初詣にでも行こうか…」
苦笑いを浮かべた柳田の発言に、空知が目を輝かせた。
真正面の上原がその輝きに驚いてサングラスをかける程だった。
---
明るい部屋の中でタブレットからペンが走る音と、煙管から火がぱちぱちと爆ぜる音が響いた。
タブレットには何やら青年漫画のキャラクターがモノクロで描かれている。
桃色の髪にサングラスの向こうの青い瞳が刺す女性、|宮本《みやもと》|亜里沙《ありさ》はタブレットに向かって手を動かし続ける姪、|松林《まつばやし》|葵《あおい》をサングラスの向こうで目視する。
亜里沙が松林のタブレットを不意に覗くように身体を動かし、口を開いた。
「もう終わりそう?年、明けたわよ」
「…終わると……思いますか…?冬コミが終わって、春イベントがきて…夏コミがきて、秋イベントがきて…また冬コミが来る…。
創作の同人から逃れられないんです…」
「…そんなの、貴方が悪いんでしょ。脱稿しろと何度も言ったもの」
「…手伝って下さい…」
「貸し一つね」
そう言い切った亜里沙は隣で動くプリンターの原稿用紙を一枚取って中身を確認する。
なんとも綺麗な線で描かれたそれは、黒髪の端正な顔つきの男性が拘束されているようなものだった。
亜里沙はその男が何かに似ているような気がして、松林に問いかけた。
「ねぇ、このキャラクター」
「はい」
「…涼にそっくりなんだけど?」
「ああ…綺麗な顔立ちをしていらっしゃいますよね」
「それはそうだけど…元カレそっくりのキャラが多分、あれでしょう?ちょっとピンクな感じの…」
「そうですね、掲載する短編の一つの中の魔王×勇者パロですから…」
「…訴えられても知らないわよ」
「涼さんなら、許してくれると思うんです。優しいじゃないですか」
「……勝手にして」
「はい!」
威勢よく返事した松林の手は更に速度を増していった。
このまま行けば書き切れるかもしれない。
そう思いながら、かつての彼氏の優しさを思い出しながら亜里沙は時計の針を瞳に映した。
---
「あけましておめでとうございます…僕は、|八代《やしろ》|亨《とおる》です」
空色の瞳に愛想の良さそうな雰囲気の男性が手を差し出した。
暖かそうなガウンに身を包んで、隣のもっさりとした黒髪の男性は従弟である一護と楽しそうに談笑していた。
「…あけまして、おめでとうございます。俺…僕は、和戸涼です。よろしくお願いします」
先の冷たくなった手を男性に差し出し、その手の冷たさに驚いた。
まるで死人のような冷たさで全身の毛が逆立つのを感じた。
それを悟られたのか、亨が「すみません」と言葉を漏らした。
直後に弟にあたる|十綾《とあ》がポケットからやや小さめの手袋を亨へ差し出し、亨が礼を述べる。
一連の光景に兄弟らしさを感じられ、頬が緩むのを感じた。
遠くの方を見ると、一護が手を振りながら参拝を促していた。
---
ぽん、と羽が軽く打つ音がして、直後に地面にそれが落ちる。
着込んだ着物が汚れないようにそれを拾って目の前で笑う兄、|日村《ひむら》|修《おさむ》が「強いなぁ」と呟いた。
私は水でかなり薄めた墨を筆につけなから、ややクリーム色の髪につくことがないよう彼の頬に丸を描いた。
その過程で、兄が瞼を閉じつつ、口を開いた。
「…ちょっと擽ったいな…」
「三敗ですからね」
「分かってるよ、何が欲しい?」
「特には…」
「……まぁ、焦らずとも今は待つからゆっくり考えるといい」
頬が黒く染まるのを見つつ、触れたそれが本物であることを再認識する。ひどく懐かしく思いながら指先が自然と黒く染まった頬を這わせた。
「…たまに…嫌な夢を見ませんか?」
「嫌な夢?」
「何か、愛しいものが離れていく夢です」
「…気になるのか?」
「いいえ、ただ……似ていると思って」
「それは…《《本物》》にか?」
「…ええ」
「……何も、気にすることはないだろ。私は君を確かに愛しているし、大事にしたい。そこに《《偽物》》の概念はない。常に《《本物》》であって、名目上は《《偽物》》でも、嘘偽りはない」
「そういう、ものですか?」
「…何も無理に受け入れろとは言わないさ、ただ私は…君が選択を得るのを与えるだけだよ」
「なら…ひとまず、中に入りませんか」
「冷えてきたから?」
「ええ」
「…あと…私達はもうこの世界の《《本物》》であるのだから、《《偽物》》ではなく紛れもなく《《本物》》だ」
「そう…ですね」
新しくなった年に、こういった話はするべきではなかっただろうか。
浮かれた頭が《《本物》》とは違う。また寂しい夢が浸り始めた。
---
瓜二つの顔をした男性が身体の下で組み敷かれて、薄く口角を上げていた。それが首筋に浮いた玉のような汗と非対称で、なんとも優越感を感じる。
「…邪魔なんだけど」
いやに虚勢を張ったそれが猫のように威嚇する。新しく変わった年は姫を授けるらしい。
上からどかずにいると暴れ出した猫が爪を立てて肉を抉ろうと鋭い痛みが走る。ため息をついて身体を起こすと、今度は足に蹴りを入れられた。
「っぅ゙…」
「そりゃそうなるでしょ」
紺に近い青髪を弄りながら彼が笑って、綺麗に整えられた寝床に座る。
新年の内容が放映され続けるテレビを瞳に映しては、ぼぅっと呆けていた。
変わっていないのに、変わってしまった。そういう気がしてならなかった。
---
ベールに覆われた鳥籠の中の黒い牛の骨頭をした|盲信者《サリエル》が永続的に降り続ける雪を泥に塗れた裸足で、|十字架《ロザリオ》を描く。
岩つつじの話が刺さった梟の頭部がその芸術家を見て、白銀の狼の肉球が青鱗の蛇の尾を掴む。
日本というものはいやにめでたい日のようで、どこもかしこも嫌気が差すような陽気で閑散とした音楽が流れ続けている。
かといって、|良い子《ハピー》であるとは言わない。
ふと、彼のその奇妙で愛しい口先から言葉が漏れる。
「ねぇ、| 悪い子 《バッド・ジャック》?」
「…なんだよ、|良い子《ハピー》」
「近日は我等が父の生誕祭であったそうですよ」
「だから?ほら、あの…“オショーガツ”ってやつじゃなくてか?」
「“ニホン”の文化など…私は気にしませんので、せっかくですから教会にでも…」
「一人で行け」
「………アモン」
「一人で行け、クソエル」
ああ、やはり…今のコイツは違う。見た目こそは完璧で、憧れたものだ。
しかし、違うのだ。本編のものも、今のものも。
めでたい雰囲気に包まれながら醸し出されるそれは、地獄を永遠と這っているようなものだ。
願わくば、深淵の地に足を下ろしたいものだ。
---
底なし沼のように瓶が沈んでいく。
その様を観ながら、何故か《《羨ましい》》と感じる。以前までは考えなかった、考えようともしなかった《《自由》》を掴もうと手を伸ばそうとする。
しかし、それも思惑通りなのだろう。あの■■■■■はそういうことを平気でするものだ。
あの白くなった私が、その結末だとでも言うのが脅しのようだった。
時折、この深淵に浸かった瓶が割れ、沈んだ先に何があるのだろうと《《知っているはずなのに》》知らないように思考が割れる。
それを奇妙だと思いつつも、口に出すことがない。その不自然さも、いつかは春の夢のように消えていくのだ。
雪が解けていくように、陽が明けていくように、幸せ事が思い出の中に消えていくように。
いつか、魅た|没案者《ビッグバン》も、全てを理解している|世界機関機体《灰被りの忠犬》も、私も……いつかは終が迎えに来るのだろうか。
**あとがき**
クリスマスで出ていないキャラクターは大抵出たような気がします。
鏡逢わせの不思議の国?…ああ、あれループしてるから時間の概念はほぼないんですね。
世神之神軸の🍤ちゃんも同様に、ループはしていないものの、時間の概念はありません。
そもそもマルチバース世界のキャラクターは本編終了後のキャラクターなので、何か比較的に平和な世界で余生をそこそこ幸せに暮らしてるんだなと思って下さい。
(本編に新年要素がないものも視点によってはありますね)
まぁ、たまに呼んで手厳しいことしますが癖なので気にしないで下さい。
では、挨拶を改めて。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ABC探偵
君にとっての私、私にとっての君
日村修について、和戸涼はこう言う。
「何を考えているのか、分からないけれど...頼りになる人だ」
---
日村修について、日村遥はこう言う。
「唯一の身内の一人で、最愛の兄」
---
日村修について、桐山亮はこう言う。
「先輩と同じくらい頼りになる、凄く優しい探偵さん」
---
日村修について、鴻ノ池詩音はこう言う。
「とても馬の合う、気品で知性に満ち溢れた男性」
---
日村修について、梶谷湊はこう言う。
「腹を割って話せる大親友かつ、最愛の人」
---
日村修について、畠中秋人はこう言う。
「常々、能天気で危険を顧みずに首を突っ込む好奇心の強い猫」
---
日村修について、神宮寺朔はこう言う。
「天然っぽさのある鈍感な男」
---
日村修について、神宮寺大和はこう言う。
「事が起こってからでしか動けない、情けない人」
---
日村修について、八代亨はこう言う。
「周りをよく見る、気配りのできる紳士的な友人」
---
日村修について、八代十綾はこう言う。
「誰よりも信用できる、透明性が高くて、兄貴の幼馴染み」
---
日村修について、日村修はこう言う。
「私ことは、私が一番分からない。皆からの評価が正解なんじゃないのか」
そして、困ったような微笑みを見せた。
それだけだった。
小さな吸血鬼
街々はオレンジに彩られ、多少のおどろおどろしさが感じられるポップな音楽が響き渡っている。
壁と壁の間には紐状の飾りに可愛らしいカボチャやコウモリの飾りが蜘蛛の糸のように張り巡らされ、店内が透けて見える硝子には魔女やお化けのウォールステッカーが貼られていた。
その窓の先には”|Trick or Treat!《お菓子をくれないと、悪戯するぞ!》“とタペストリーの下に小さなノートパソコンの上で指を踊らせる黒髪の男性が、賑わう店内の中で腰を下ろしていた。
男性が開いているノートパソコンの横には手をつけられていないカボチャのパンプキンパイが物言わず放置されていた。
「ハロウィンでも、仕事ですか?」
不意に話しかけられた声に男性は顔をあげ、低く落ち着いた声で「今日は非番ですか?」とだけ返した。
返された言葉に、声をかけた黒髪の女性は笑って首を縦に振った。
「……警察も休みですか、良いものですね」
「ええ…八代さんは何のご職業を?」
「一応、臨床心理士です。弟はイラストレーターを」
「それは、つまり……研究家ですか。弟さんも良い方ですね」
「有り難うございます」
そう区切られた会話の中で男性、及び|八代亨《やしろとおる》がノートパソコンを閉じて、立ったままだった女性、及び|鴻ノ池詩音《こうのいけしおん》へ座るよう促した。
「…失礼します」
そうして座った後に亨に差し出されたメニュー表を見ながら、口を開いた。
「”|小さな吸血鬼《リトルヴァンパイア》“と聞くと…何を思い浮かべますか?」
「小さな吸血鬼、ですか?さぁ……無難に仮装した子供でしょうか」
「とても可愛らしいですね」
「…ええ。それで?」
亨に続きを言うように促され、詩音は更に言葉を続けた。
「…吸血鬼繋がりで……仮に、吸血鬼が本当にいるとしたら現代ではどんな生物でしょうか」
「吸血鬼は幻想の生き物では?」
「それでも、想像してほしいんです。どんな姿でもかまいません」
「…黒いマントを纏って、白い牙の生えた男ではダメですか」
「もう一捻り」
「………少し、考えさせて下さい」
「急ぎませんから、暇潰しと考えて下されば大丈夫ですよ」
その言葉を返して、店員の呼ぶ声がすぐに耳へ入った。
---
「…鴻ノ池さん」
まだ温い珈琲を飲みながら詩音が亨の方へ顔を向けた。
「はい。できましたか?」
「ええ…」
---
---
`街灯の光を頼りに若い女性が必至になって逃げていた。`
`己を蝕む病を卑下する者から逃げる為に、足を動かし続けていた。`
`やがて、一つの街灯の下で止まった。`
`目の前には真っ黒で何も見えないような闇の中を照らす光の下に、自分を笑うような|吸血鬼《ヴァンパイア》が一人。`
`彼はゆっくりと女性に近づき、恐怖で逃げられない女性の首筋に指を沿わせて、その青白い首筋に噛みついた。`
---
---
「…その後、女性は心臓発作で亡くなった…なんて話はどうでしょうか」
「非常に面白い話だとは思いますが…吸血鬼はどんな姿を?」
「“蚊柱”です」
「……蚊?」
「はい。蚊は血を吸うでしょう?それなら、現代の吸血鬼というのは蚊ではないかと思いまして」
「…確かに、マラリア等の伝染病で人間を殺害することもできますし、言われてみればそうかもしれませんね」
「ええ…それに街灯の下に集まって大量にいるのなら、人ほどの吸血鬼と見間違えても位置によっては不思議ではありません。
人の脳や瞳には“パレイドリア”という無意味な視覚的、聴覚的刺激により引き起こされる心理現象と、3つの点が顔に見える“シュミクラ現象”があります。
ですから…無理やりですが、蚊柱を吸血鬼と見ても可笑しい話ではないかと」
「なるほど…女性が心臓発作で亡くなった要因はなんですか?」
「文章の中に”己を蝕む病“とありますから、その病気によってか…はたまた、アレルギー性のショックに引き起こさた死亡と言えば、納得できるでしょうか」
「……お話、有り難うございます」
「こちらこそ、脳のトレーニングになって楽しかったです。有り難うございます」
「では、私はこれで。代金を払ってきますね」
「…有り難うございます。後日、返金にお伺いしますね」
代金を払う鴻ノ池を見ながら、亨の視線がノートパソコンの横にあるカボチャのパンプキンパイの一切れへ動いた。
「……流石に、言ってくれないか…」
そのまま、恨めしそうに“Trick or Treat!”と描かれたタペストリーを見ていた。
影の数、命の数
表示変更:名前(数字)「台詞」
無機質な空間の中で数名の男女が転がっている。
空間の中には窓や通気孔はなく、椅子も机も存在しなかった。
一面の壁に白い看板が掲げられ、『可視化された内容が分からなければ出られない部屋(ころも除外)』と文字が記載されていた。
更にその下のメモらしきところには『可視化された内容を正解した時点で、鐘を鳴らし、|🍤《ころも》ちゃんの一時的な能力の制限を解除します』と書かれていた。
|日村《ひむら》|修《おさむ》(3):「…………」
いつの間にか起き上がっていたやや|薄茶《クリーム》色に濃い緑の瞳をして英国紳士を彷彿とさせる顔立ちの青年が看板とメモを見ていた。
青年は何をするでもなく、ふと頭上を見て数字の“3”を確認した。
修(3):「…表示も奇妙であるし……数字も意味が分からない…」
|梶谷《かじたに》|湊《みなと》(3):「年齢でもなさそうだからね」
不意に隣で起き上がっていた紺に近い青髪の青年がそう話しかけると、近くにいた同じ風貌の青年が同様に“3”を頭上に浮かべたまま手を取った。
それに驚いたのか、手を払いのけて湊が口を開いた。
湊(3):「うわ、なに…」
|田中《たなか》|虹富《にじとみ》(3):「いや…手を握った回数かと思って…」
湊(3):「そんなに少なくないよ!」
隣で笑う双子の横、修が更に周りを見る。
自分と似たような風貌の女性かつ妹である|日村《ひむら》|遥《はるか》と、ボサついた黒髪に包帯の目立つ|桐山《きりやま》|亮《あきら》。
赤髪にサイケデリックな特徴を持つカラーのスノーサングラスをつけた|酒木《さかき》|楓《かえで》と、金髪に額の火傷が目立つ|上原《うえはら》|慶一《けいいち》。
更には金髪から赤髪に流れる長髪の奇妙な|🍤《ころも》の姿もあった。
全員のほとんどが頭上に“3”と表示され、遥は“4”、ころもは“2”と表示されていた。
慶一(3):「……とりあえず、君の仕業か?」
ころも(2):「違います!」
慶一(3):「お前の仕業だろ?」
ころも(2):「だから、違いますって!本当に違うんです!」
喚く慶一ところもの横で、三人が何やら看板に向かって呟いている。
遥(4):「一ヶ月の内に読んだ本の冊数」
亮(3):「一ヶ月間の休みの数」
楓(3):「ゲームのレアドロップの乱数確率」
亮(3):「乱数で3ってあります…?」
楓(3):「確率ならある。リメイク前のダイパのゴンベだと1%だった記憶がある」
遥(4):「そんなに低かったですか…?」
鐘の音は鳴らなかった。
しばらくして、修が口を開いた。
修(3):「これ、答えを当てれば帰れるのか?どうやって帰るんだ?」
ころも(2):「私がここなら何でもできますから、多分それでいけるかと。
今はちょっとできないですね」
湊(3):「看板通りってわけだね」
虹富(3):「……確かに」
虹富が納得しながら、更に言葉を続けた。
虹富(3):「仮に、答えが一つだとして…
それは全員に適用されるわけだから、
“全員が共通している”こと…なんだよね?
例えば、ご飯を食べた回数とか、鏡を見た回数とか…」
慶一(3):「そんな日常的なことがほとんど全員ぴったり一緒になんてなるか?」
遥(4):「しかし男性は同じ、女性は別とは確かに不自然ですよね……?
日常的なことではない、何かシステム的なことでしょうか?」
虹富(3):「う~ん…ちょっと僕には分からないというか…兄……湊」
湊(3):「……………」
虹富(3):「…湊……?」
湊(3):「…これさ、作品ごとってわけじゃなさそうだよね」
その言葉に全員が湊の方を見る。
その視線に気づいたか、湊がポケットからペンを取り出して床に文字を刻んでいった。
それにさり気なくころもが付け足していった。
---
*〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗*
*〖鏡逢わせの不思議の国〗*
*〖地獄労働ショッピング〗*
*〖異譚集楽〗*
*〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗*
*〖 ラール・プール・ラール 〗*
*〖オールシリーズマルチバース〗*
*~卍 狐者異 卍~*
*❐世神之聲❑*
*✵Good Boy ↹ Monster✵*
*✯ 灰被りのレゾンデートル ✯*
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湊(3):「ええっと…知らないのも混じってるけど、とりあえず_」
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*〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗*
*〖鏡逢わせの不思議の国〗*
*〖地獄労働ショッピング〗*
*〖異譚集楽〗*
~~*〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗*~~
~~*〖 ラール・プール・ラール 〗*~~
*〖オールシリーズマルチバース〗*
~~*~卍 狐者異 卍~*~~
*❐世神之聲❑*
~~*✵Good Boy ↹ Monster✵*~~
~~*✯ 灰被りのレゾンデートル ✯*~~
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湊(3):「これらが僕達の|本編軸《ユニバース》のオリジナルの元だから…」
---
*〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗*
*日村修、日村遥、桐山亮、酒木楓、梶谷湊、田中虹富*
*〖鏡逢わせの不思議の国〗*
*桐山亮*
*〖地獄労働ショッピング〗*
*日村遥、上原慶一*
*〖異譚集楽〗*
*日村修、日村遥、梶谷湊、田中虹富、上原慶一、酒木楓*
*〖オールシリーズマルチバース〗*
*日村修、日村遥、桐山亮、酒木楓、上原慶一、梶谷湊、田中虹富、ころも*
*❐世神之聲❑*
*ころも*
---
湊(3):「つまりは…遥ちゃんが4回、ころもさんが2回…後は皆が3回……。
それで、分かることはない?」
修(3):「…登場する作品の数か?だとしたら、亨や一護君がいないのは?」
湊(3):「その他に条件があるんじゃない?」
ころも(2):「私は除外とのことですから…2以上ですかね?」
修(3):「いや、正確には3以上だろう。2は入らないはずだ」
亮(3):「であるなら、3以上5以下ですか?日村さん」
修(3):「おそらくな」
楓(3):「算数の勉強してるみたいだねぇ」
慶一(3):「あながち間違いではないな」
湊の隣で修が顔をあげた。
そして、白い看板に目を合わせて言葉を吐いた。
「`ABC探偵のシリーズ作品の中で、3以上5以下の出演があるキャラクターの可視化`」
鐘の音が響いた。
全てが元に戻り、青い粒子に包まれていった。
データベースは結論を出せない。
矮小なる学びの庭
すみません、かなり雑です…おまけが本編かもしれません…。
【出席簿】
▶1年生
橘一護
松林葵
▶2年生
和戸涼
日村遥
桐山亮
宮本亜里沙
榊直樹
八代十綾
▶3年生
日村修
鴻ノ池詩音
田中虹富
梶谷湊
畠中秋人
神宮寺大和
神宮寺朔
八代亨
▶教師
酒木 楓 (英語)
空知 翔 (体育)
柳田 善 (国語)
上原 慶一 (数学)
※おまけがあります。
落ちて、落ちて、堕ちていく。
どこまでも感じる浮遊感が抜けることはない。
そうして、瞼が開かれる。
瞼の裏の優しい夢はもう見ることができないのだと感じさせられた。
---
ガヤガヤと若い男女の声が様々な音に混じって賑やかしい音を立てる。
瞼の裏で耳へ反響するそれは大きくなり、歪みを増す。
しかし、それの歪は次第に膨らみ、むくれあがって、爆発する前に怒鳴り声が響いた。
「|一護《いちご》君!」
その声に背中に物差しが刺されたように立ち上がり、反射的に「はい!」と返事をしてしまう。
そうして覚めた瞳が不安定な境目から白髪の凛々しい顔を捉えた。
「…|空知《そらち》……|翔《しょう》、先輩?」
目の前にはまるで教師の格好をしたアルバイト先の知人が呆れたような顔で立っている。
正面の黒板には『思春期と身体の成長』とあり、保健体育の授業のように見える。
「…一護君さ……確かに保健はつまらないかもしれないけど、流石に聞くフリだけでもしてほしいから聞いててくれない?」
そうやって、教師とあるまじき台詞を吐いた空知に言葉を俺は投げかけた。
「保健?聞くフリ?…俺、19歳ですよ!高校は卒業してますよ!そもそも、これ何なんですか?!
空知先輩、教師だったんですか?!」
「いや……元々そうだけど…?ていうか、君まだ16歳だし、僕は先輩じゃないし…」
まるで意味が分からない。身体が16歳に戻ったっていうのか?
だとしたって、空知先輩は教師じゃないし、年齢的にも合わない。
そのまま反論が口から出ようとした瞬間、隣で座っていた|松林《まつばやし》|葵《あおい》が助け舟を出した。
勿論、紙とペンを持つ手は動かしたままだった。
「なに?記憶喪失?転生モノ?どっちだっていいけれど、どうしたんですか?
熱でもあるんですか?医務室行きます?」
そう語る彼女はセーラー服で肌質が若いように感じられた。
俺もよく見ると、学生服で耳朶に黒いピアスはしていない。
記憶喪失、時間逆行…様々な憶測が行き交う中で、少し不思議そうな顔をした空知がこちらを見た。
「…よく、分からないけど…一護君、医務室に行っておいで。医務室までは行ける?」
「……多分…」
「…松林さん、一護君を連れて行ってあげて…」
隣で呑気な声で、「はぁい」と応える声が響いた。
---
そう物珍しいものでもないが、懐かしさのある校舎を歩く度に感嘆の声を挙げざるを得ない。
その度に松林からは「今日は珍しく変ですね」と言われる。
「…変って、なんですか」
「敬語?…わぁ、雪でも降るかもしれませんね……普段の一護さんなら…きっと、黙っているか、極力目を合わせてくれないのに」
「…俺、そんなに酷いですか?」
「う~ん…ちょっと警戒心の強い黒猫みたいなものなので大丈夫ですよ。今は…人懐っこい黒柴?」
「黒柴…?」
「可愛いので大丈夫です。それより、普段と違ってふわふわとしていますが、何かありました?」
「いや…別に、ただ寝てただけ…?…なんか、すごい…俺が腫れ物みたいな、世界が違うというか…」
「…《《世界が違う》》?それって、別世界ってことですか?」
「そう考えたら、楽かなって…俺、《《今は》》そういうところの人なんで…」
「……ええっと……」
よく分からない、といった様子で松林が頭を掻いた。
多分、そこまでではなく、単なる別世界に過ぎないらしい。
気まずさに耐えかねて松林の視線を逸らして、飛び込んだ掲示物の紙の一つに俺は目を見張った。
---
【やぁ、|橘《たちばな》 一護 君】
【ここは君達での学園パロディなマルチバースだよ】
【少しばかり、学生に戻った雰囲気を感じてほしい】
【出れる方法は君と同じ状況にある“|八代《やしろ》 |十綾《とあ》”が知っているはずだ】
【戻りたくなったら、空にでも願うんだな】
---
明らかにこちらへ干渉する文字。
間違いない、|ABC探偵《親》だ。人であるか、物であるかもよく分からないが、唯一の|正解《ビンゴ》を見つけたわけだ。
隣で心配そうな顔をする松林に謝礼を伝え、廊下を駆け出した。
横ですれ違った|上原《うえはら》|慶一《けいいち》が「廊下を走るな」と怒るのも気にせず足を動かした。
---
何年ぶりと走る廊下の中で一つの教室に目が入る。
|酒木《さかき》|楓《かえで》が英語の授業をしている前に|日村《ひむら》|修《おさむ》、|鴻ノ池《こうのいけ》|詩音《しおん》、|田中《たなか》|虹富《にじとみ》、|梶谷《かじたに》|湊《みなと》、|畠中《はたけなか》|秋人《あきと》、|神宮寺《しんぐうじ》|大和《やまと》、|神宮寺《しんぐうじ》|朔《さく》、|八代《やしろ》|亨《とおる》が座っている。
各々、真面目そうな顔つきで、ひどく若い。その中で修とだけ目が合った。
彼のペンが机に置かれ、『上』を表すハンドサインが片手で出される。
奇妙な感覚が湧きつつも、おそらく上なのは確かだろう。
そのまま、別の教室を見れば|柳田《やなぎだ》|善《ぜん》が国語の授業をしている教室で|和戸《わと》|涼《りょう》、|日村《ひむら》|遥《はるか》、|桐山《きりやま》|亮《あきら》、|宮本《みやもと》|亜里沙《ありさ》、|榊《さかき》|直樹《なおき》がいる。
十綾の姿はない。急ぎ足で階段を登り、なぜか鍵が閉められていない屋上へ飛び出した。
雲一つ見えないすっきりとした秋空が涼しくも、肌寒い風をのせる。
そこに、確かにいるのは記憶に古く若い十綾だった。
口元の乾いた血を拭って、足裏でコンクリートの地に顔を伏した誰かを踏みつけている。
うっすらと笑いが溢れつつ、記憶喪失よりも高い声で言葉を投げた。
「……何年ぶり?」
「…俺が、お前と一緒なら…10年ぐらいは経ってるよ、一護」
「へぇ」
「あってる?」
「あってる」
踏みつけた足を降ろして、こちらに手を伸ばす彼の手をとってピアスの開いていない耳で声を聞いた。
「で…|別世界《マルチバース》なんだっけ。俺達がいるところとは、別の」
「そうらしいね」
「はぁ、これまた不思議なもんだ…ちなみに後ろの野郎はあっちから喧嘩を吹っ掛けてきただけだからな」
「…だろうなぁ」
「もう少し早く来てくれれば…」
「たらればの話はやめて。今はとにかく…帰らないと」
「…そうだな……確か、空に願えだったか」
「願ってみた?」
「やったけど、効果なし。多分…」
「多分?」
「空に願うってよりは…地面に願う…とか」
「……どういうこと?」
「…さぁ…とりあえず、授業にでも出てみるか?」
---
「…だから、まぁ… △ABCにおいて、AB=5、BC=8、ABC=60° であるとき、辺 ACの長さは…AC=7だな」
上原が雑な方程式を書きながら授業を進めている。
やっているのは懐かしながらの余弦定理だが、1ナノメートルも理解できそうにない。
何分、数学は苦手ジャンルだった。
「橘?理解してるか?」
「…いや…全く……高校ってこんな難しかったですかね…?」
「今が高校生だろお前」
「いやいやいや、高校生の時でも理解してなかったですよ」
「……年齢詐称?」
「いやっ…」
横で松林が「橘さん、今日おかしいんですよ。頭を打ったんだと思います」と雑な助け舟を出し適当にグッドポーズをする。
多分、スケッチブックのペンは動いているのでもう何も言わないことにする。
納得したような上原が授業を再開し、つい難解なものに目を背けるように俺は窓を見た。
青葉の広がる木々が囲む校庭に続く校舎、知らない土地に過ぎない。
ただ、呆然と眺める景色の中で飛ばされて上から落ちてきた葉っぱが奇妙にも窓の外へ映った。
その途端、何かが頭の中で弾け、ガタッと席を立った。
そのまま二年の教室へ上原が叫ぶにもかまわず走り出した。
二年の教室で驚いた様子の十綾を屋上へ引き連れてフェンスのない上へあがる。
「…どうしたんだ?何か、変なことでもあったか?」
不思議そうに言う彼に頷いて、俺は口を開いた。
「|ABC探偵《親》ってのは、どういう人か…ようやく分かった」
「…なにを?」
「今までの仕打ちだよ、ろくなものがない」
「お前は良い方だろ」
「でも、十綾は違う」
「……要は…趣味が悪いって?それがここと、どう関係あるんだ?」
表情を変えない彼にゆっくりと言葉を流す。
「“空に願え”ってのは、落ちろってことなんじゃ?」
その瞬間に彼はため息をついて、次に笑って、諦めたように「そうだな」と答えた。
そのまま俺の手を引いて、「試してみるか」と誘う。
次に一緒に動かした足が宙を浮いて落ちるような、浮いているような感覚が長くなる。
何かがぶつかるような音は聞こえなかった。
**おまけ 【輝く灯】**
無音。
何かが変わったような気がして、窓の外を見る。
黒髪の二人が仲睦まじく笑い、堂々と授業をサボっている。
隣で亨が「…十綾?」と弟のサボり癖に難を示した。
ああ、成功したんだろう。それだけだった。
今日もこの学園は、平和なままだ。
没書きかけパロディ
目次
①正義の証明を込めて
②企業の犬は星を狙う
---
**正義の証明を込めて** (軍パロ)
---
春風が脇を通り、空に舞う花弁が金髪へ紛れ込んだ。
奇妙なことにアナログな世界観がいやに奇妙で、冷たい金属を埋め込んでいない両腕が気持ち悪かった。
その感覚に嫌気が差して身体を見ると、誰も彼もが古くさい銃をもって火薬の匂いを散布させている。
口を開こうとした瞬間、頭に強い衝撃が走り、視界が光り輝いた。
重い瞼を開けると、アルコールの匂いが鼻を貫いた。
そのひどい匂いに咳き込むと、額に冷たい布切れが押し当てられ、思わず叫んでしまった。
「な、なんだよ…レイリック…」
「てめえこそ、何すんだよ?!そもそも、なんなんだよ、ここ!なんで☓0年以上も前の、戦争をしている時代に戻ってんだよ?!もう戦争は終わったはずだろ!」
そう吠え立てて、つまらない顔をした兵の胸ぐらを掴む。
奴はひどく慌てたような素振りを見せて、救急隊を呼び注射針をもったクソ共がお見えになった。
火炎放射で薙ぎ払うことも、刀でたたっ斬ることもできない。成すすべもなく針が暴れるせいでひどく刺さるのも厭わず、暴れ続けた。
やがて、冴えた頭で大人しく脱力させ、寝かされていたベッドに倒れ込むようにして身体を預けた。
安心した様子の兵が救急隊に礼を述べてから、こちらへ笑みを見せた。
「大人しくなって良かったよ、レイリック…落ち着いたか?」
「…ああ、反吐が出るくらいにな」
「相変わらずだな…それで?頭に閃光弾が直撃して、助かったら人に『ここはどこだ』と当たり散らかすのがお前の礼の仕方か?」
「勘弁してくれ…参ってたんだよ」
「じゃ、言ってみろ。お前の名前は?」
「レイズ・シルバー、|伝説《レジェンド》の|爆弾《ボンバー》だ」
「何言ってやがる?どんな夢見てんだ?」
「…レイリック・セラフィム、ただの…軍人だ」
「よし、それでいい。頭がイカれちまったのかと思ったぜ、サイバーサイコみたいにな」
「俺は正常だ、ド畜生」
---
---
**|企業《オリオン》の|犬《奴隷》は|星《ターゲット》を狙う** (殺し屋パロ)
---
陽気な音楽の流れる自己満国家の中にあるビルの最上階で、目を泳がせる黒髪の男性の顎を掴んだ。
「...な、なんだよ......言われた仕事がこなしてるし、上司にだって怒られても_」
「違う」
年甲斐もなく、眉を寄せて拗ねるヴィル・ビジョンズ、Vの顎をそのままギリギリと力を込めている内に自分の額に青筋が浮かぶのを感じた。
「違うんだよ、V」
「じゃ、なんだよ。そろそろ帰宅って時に呼び止めて...部署移動か?ならデスクワークじゃないところに_」
「それも違う。というか、そんなにデスクワークが嫌なら言えばいいでしょ」
「お前...言って聞くのか?」
「君が願うなら、ある程度は叶えるつもりだよ」
「......嘘だぁ.........」
「嘘じゃない。ところで、体を動かすのは好きかな?」
「...そりゃ好きだけど...知ってるよな?」
「ああ。じゃあ、良さそうだね」
「何が?」
手を放し、顎を掴まれていたVを解放する。
いつにも増して不安そうな顔をした彼の頭を撫でて、仕事の|依頼《オーダー》をした。
「|ここ《オリオン》が泥沼にどっぷり両足...いや、全身を浸かってるのは知ってるよね」
「いつものことだろ。アルドの頃からそうだ」
「そう言われると、何で君がここを出ないのか正直、不思議でならないんだけど......まぁ、いいや。
ちょっと取引先でトラブルが起きてね、なんでも|犯罪組織《野良犬》のトップ、|カルロス・ターペンター《ハイエナ》が取引先の社長さんがいる鉄道を掌握したらしい。
それで、だ...その間抜けな社長さんの救出と...ハイエナの駆除、頼めると嬉しいんだけど」
「...別にいいが......それ犯罪か?」
「もうガッツリ......」
「......殺人なんて、この企業の存分意義を問うようなものだし気にならないけど...どうせなら、何か指示してくれよ。
ほら、例えば...人の断末魔が流れてる時に素敵な子守唄でも歌ってくれるとかさ」
「へぇ…それ、いる?」
そうVに聞くと少し考えて、すぐに答えを言った。
「いらないな」
---
⇨(後半)
「なぁ…忠犬と駄犬、どっちが欲しい?」
コールの中で、Vの声がそう聞き、僕はそれに応えた。
「犬は一匹で充分だよ」
その答えに「そうか」とだけ応えられた直後、乾いた銃声が耳をつんざいた。
「何も知らないってのは、良いことだよな」
---
⋮
〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗の主人公(ヴィル・ビジョンズ)がオリオンの完全な犬になったルートです。
単なるエンジニアも有りだとは思ったのですが、どうせだからサイバーな暗殺者にしようと思い、イーオンと仲良しな暗殺者V君になりました。
懺悔室の告白
少し閉鎖的な空間で聖書を開きながら、誰かの訪れを待っている。
私がこの館の司祭を務めるようになって、もう十年になっていた。
今日もまた、夜の闇に紛れて、一人の哀れな魂が懺悔に訪れるが、今夜の訪問者はいつもと少し毛色が違うようだ。
|日村《ひむら》|修《おさむ》、探偵を名乗る男だ。
彼は、この神聖な懺悔室の敷居を跨ぐやいなや、私に向かって深い緑の瞳でにこりと笑みかけた。
その笑顔は、信仰心とはかけ離れた、まるで子供が新しい玩具を見つけたような無邪気さを含んでいた。
隣には、常に彼に小言を言い、やや論破を試みているらしい助手、|和戸《わと》|涼《りょう》の姿もある。
彼は、形式的な敬虔さを装いつつも、その実、日村の奇行を内心冷ややかに見つめているのが透けて見える。
私は、彼らを迎えるにあたり、いつものように深々とフードを被り、顔を隠した。
何しろ、私が“聖職者”としてここにいること自体が、最大の偽りなのだから。
「こんばんは、司祭様」
日村は低く男のようで、抑揚のない声で言った。
「今夜は懺悔ではなく、少しばかり《《死》》についてのお話を伺いたくて」
私は内心、冷や汗をかいた。この男、どこまで知っている?
「……ここは、神に罪を告白し、許しを乞う場所です。そのような世俗的なお話は、他所でなされるべきでしょう」
私は低く、威厳のある声を装って答えた。すると、和戸がすかさず口を挟んだ。
「司祭様、彼はいつもこうで…すみません。ただ、彼の『死体ごっこ』の趣味が、今回の事件解決に役立つかもしれないと思いまして…」
「死体ごっこ?」
私は声を荒らげないよう、努めて冷静を装った。
「それは、冒涜的な……」
「ええ、その通りです。司祭様」
日村は私の言葉を遮り、楽しそうに言葉続けた。
「私は昨日、美しい《《死》》を体験しました。
完璧な密室、完璧な毒物、完璧な偽装工作…それはもう、芸術的でしたよ。
犯人の緻密な計画性には、心底のところ感銘を受けました」
私の心臓が早鐘を打つ。昨日。密室。毒物。偽装。全てが、私が仕組んだあの男の殺害状況と一致していた。
日村は、不意に懺悔室の小さな窓から身を乗り出し、私を見つめた。
「犯人は、きっとこの『館』の内部事情に精通している人物でしょう。
教会の裏口の鍵の場所、礼拝堂の隠し通路、司祭様しか知らないはずの秘密まで利用している」
日村のあまりにも急な迫りように和戸がため息をついた。
「日村さん、いきなり核心に迫りすぎです。司祭様も困惑されています」
私は、震える声で尋ねた。
「……なぜ、私が知っていると?」
「簡単な話です」
日村は、まるで舞台役者のように身振りを加えた。
「犯人は、自らが聖職者であるかのように振る舞うことで、事件現場となった部屋への出入りを容易にしていた。
そして、決定的な証拠は…これでしょうか」
彼は、懐から小さな銀の|十字架《ロザリオ》を取り出した。
見覚えのあるものだった。私が慌てて処分し忘れた、唯一の遺留品。
「これは、被害者のものではありませんでした。司祭様、これは貴方のものでしょう?」
日村は、挑戦的な笑みを浮かべた。それがまるで、地獄で嘲笑う悪魔のようだった。
「貴方は、神の名の下に裁きを下したつもりでしょうが、私にとっては最高の《《趣味》》の舞台提供者です」
私は、もう聖職者の仮面を被り続けることはできなかった。全てを見透かされた敗北感と、奇妙な高揚感が入り混じる。
日村は更に言葉を続けた。
「被害者は、貴方の過去の不正を知っていた。貴方は、教会の権威を守るため、彼を亡き者にした。違いますか?」
和戸は、日村の完璧な推理を聞きながら、「司祭様、もう良いのではありませんか?」と、とどめの一言を浴びせた。
私は、もはや逃れられないことを悟り、静かにフードを下ろした。
「……私の負けです。しかし、どうやってそこまで?」
日村は満足そうに微笑み、私の|十字架《ロザリオ》に触れながら応えた。
「犯人目線で、完璧に《《死》》を演じてみたら、貴方が隠したかった《《祈り》》の声が聞こえてきたんですよ」
静かな懺悔室に、彼の奇妙な笑い声と、和戸の冷ややかなため息だけが響き渡った。
これが聖職者パロ()
年刻み偽星
古くながらの店舗の暖簾の先、赤い丸椅子の中に座る紺に近い青髪の男性、|梶谷《かじたに》|湊《みなと》は、油断なく目を光らせていた。
世間が年越し蕎麦をすする音で満たされる中、彼の前にも熱々の越前蕎麦が湯気を立てている。
香ばしい出汁の匂いが鼻孔をくすぐるが、彼は箸を動かせないでいた。
「蕎麦を年越しに食べる習慣…|登場人物《オリジナルキャラクター》……」
彼は呟き、自分のややごつごつとした手をじっと見つめた。
「僕は…いつから、僕に…」
記憶を辿る。
最初の記憶は、冷たい土の感触と、纏わりつく息苦しさ。誰かが彼に絵筆で目鼻を描き、魂を吹き込んだ、と思い込まされていた。
しかし、この年越し手前になっての蕎麦の香りが、彼の内面をひどく揺さぶった。
「本物の僕なら、こんなちっぽけな器の蕎麦など気にしないってこと?」
彼は自分が《《ここ》》で越前蕎麦を年越しに食べる“梶谷湊”という役割を与えられただけの単なる一つの話の偽物なのではないか、という恐怖に襲われる。
”梶谷湊“としての記憶や、感情、行動、言動に関する知識は頭の中にある。
しかし、それは誰かがインプットした知識で、自分のものではない。
彼は意を決して、つるりと一本の蕎麦を口に入れた。コシのある食感と、つゆの深い味わいが広がる。本物も偽物も関係ない、この蕎麦は確かに美味い。
「偽物だろうと、この蕎訪は美味い…と…」
彼はそう確信し、残りの蕎麦をすすり始めた。自分が何者であるかという恐怖は消えないが、とりあえず今は、この瞬間の蕎麦を味わうことが、彼にとって唯一の“本物”の行動だった。
良いお年を
気楽を語る
(|日村《ひむら》)|修《おさむ》:「なんだ…この…慣れない感じ…」(辺りを見回しながら)
(|橘《たちばな》)|一護《いちご》:「“まえがき”に何も書かれてないですからね」
修:「おお…和戸くんじゃないこと、あるんだな」
一護:「涼兄の方が良かったですか?」(顔を曇らせる)
修:「不慣れってやつだよ、君でもかまわない」(一護に向かって微笑む)
一護:「……へぇ」
一護が辺りを見回し、手紙が落ちていることに気づく。
修:「それ、なんだ?」
一護:「ええと…“普段、書かないような方法で書いてみたい”、“一護君と修の絡みを書いてみたい”、“なんか舞台の台本みたいだね”と…」(紙を読み上げる)
修:「なんだそれ…何か指定はないのか?」
一護が紙を更に調べる。→何も見つからない。
突如として空間にティーセットが現れる。
一護:「…茶でも飲んでろって?」(怪訝そうな顔)
修:「お、紅茶だぞ!一護くん!」(楽しそうな顔)
一護:「紅茶よりも、この空間に疑問を持って下さい!」(叫び)
修:「お高いアールグレイだぞ?!」(必死な顔)
一護:「そんなのいつも飲んでるじゃないですか、実家太いんだろ?!」(半ギレ)
修:「最近は市販だ!」(自慢気な顔)
一護:「自慢できることじゃない!」
一護が諦めて、修と|御茶会《ティータイム》をする。
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どこか異質な空間で、ふんわりとしたややクリーム色の髪に深い緑の瞳の青年、日村修が楽しそうに、良い香りのアールグレイが入った花柄のティーカップに口をつけている。
自分も飲もう、と考えてティーカップに手を伸ばした時、違和感に気づいた。
「……戻った…」
その一言で、目の前の青年が少し吃驚したように、「結局、何が指定だったんだ…?」と呟いた。
もう分からない。過ぎたことはしょうがないのだから、大人しく淹れてしまった紅茶でも嗜むとしよう。
…これ、市販のアールグレイじゃなくて高い方のアールグレイだな…。