○○恐怖症の夜見海月(よみくらげ)は親戚のおばさんに引き取られ、病院の特別個室に入院するとこになった。○○を半径10メートルから見るだけで恐怖症の症状を起こす。だが、ぬいぐるみやほかの動物は好きなため、着ぐるみを被ったり、仮面をつけると問題はない。
夜見 海月(よみ くらげ)
13歳 女子 黒髪のセミロングに渋紙色の瞳。
151㎝ 32㌔
鈍感だが、国語はできる方なので難しい言葉の意味は分かる。
↑作者から見て海月は腕や足が異様に細い(筋肉ないんじゃないかぐらい)
明日香 想生(あすか そう)
14歳 男子 深川鼠色のマッシュウルフに紅掛空色の瞳。
164㎝ 46㌔
海月の前では常に狐の仮面をつけている。
↑作者から見て想生はめちゃイケメン。
↓ネタバレ注意!(見たくない人はスライドしないでね)
想生の瞳が紅掛空色なのには意味がある。
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目次
海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅰ
この物語は最後まで行くかなー?
怖い、怖い…来ないで…近づかないで…
「結果はどうなんですか?やっぱり…」
「そうですね。お察しの通り彼女は、
--- 人間恐怖症 ---
です。」
私、夜見海月は人間が怖い。小学2年から6年生の時、両親に虐待を受け続け心の折れる寸前まで行った。さらに今から3か月前、突然鍵の開けっ放しの原因で強盗らしきものが家に入ってきて両親を殺害し、私も命を落とす寸前だった。そこに、親戚がおすそ分けを渡しに家に来たため、窓から殺人犯は逃げ、未だに消息不明であるらしい。親戚が私たちを見つけた時、既に私は人間恐怖症になっていた。発見時は気を失っていたが、病院で目を覚めると病院全体に響き渡るような悲鳴をあげた。自分自身も怖く、鏡は見たくない。医者と名乗る熊太郎さんはキャラメル色のモフモフの毛並みに白衣を着ている可愛いくまさん。普段は1週間に1度に診察に来る。ちょっと老いぼれている。他には私の担当看護師の猫子(ねこ)さん。顔がアメリカンショートヘアで柔らかくいい声をしている。えっと、他に言えば、私より先に入院しているお隣の想生君。髪がとにかくさらさらな綺麗な鼠色で、私の1つ上の人。顔はかっこいい狐。身長が私より13㎝高くてスタイルがいい。いつも私に優しくしてくれて、少し特別な印象が時々ある。この3人あたりが私が知ってる人。友達でもある。私は窓に手を添えて、鳥が自由に飛ぶ空を見ていた。ガラガラガラ…するとドアから猫子さんがやってきて言った。
「海月ちゃん。お腹すいてない?」
「大丈夫…やっぱりリンゴが欲しいかな。」
少し考えてから言った。猫子さんはいつも気を遣ってくれる。だからたまに持ってきてもらったものを一緒に食べたり使ったりしてあげる。もう一度ガラガラガラという音が聞こえると、私はベットに寝転んだ。バフンッと音が鳴ると共に、目の周りに短い小さな糸たちがフワフワと浮いた。埃だ。空気中に浮く埃たちを色々観察していたら、またガラガラとドアが開く音がした。猫子さんにしては早いし、熊太郎さんは明後日。ということは…
「海月?いる?」
「いるよ。」
「よかった」と言いながら近づいてくる狐。想生だ。
「暇だからさ、来ちゃった。」
ニコニコオーラを放つ優しい声は照れ臭そうに言った。
「私も暇だったから丁度いいよ。あ、後で猫子さんがリンゴ持ってきてくれるから一緒に食べよ!」
「あぁ、陳野(つらの)さんか。いいね。あ、猫子さんか。アハハッ」
想生くんはたまに猫子さんの事を陳野さんという。苗字だろうか。笑う想生くんを見るだけで、何故か心が温まった。
「海月ちゃん…あ、想生くんもいたんだ。じゃあ爪楊枝もう1本持ってこなきゃね。」
いつの間にか猫子さんは部屋に入っていた。すると、想生くんは「僕の分は大丈夫です。」と丁寧に断り、猫子さんは明るい声ではいとだけ言って部屋を出て行った。想生くんは爪楊枝をいちょう切りのように切られたリンゴに指して私の方に向けた。
「はい。あげる。」
「わぁありがとう!」
想生くんにリンゴを運んでもらい、そのまま私の口の中に入れた。
「ん~甘ーい!じゃあ今度は私が想生くんにあげるね。」
「目を瞑ってくれるならね。」
想生くんや他の人は食べているところを見せてくれない。想生くんによると、食べ方が汚いからだそう。私は言われるがまま目を瞑って想生くんにリンゴを食べさせた。いいよという合図で目を開くともぐもぐと頬を動かしている想生くんがいた。
「やっぱりリンゴは純粋に甘くてシャキシャキしてて美味しいね。」
そういうと想生くんはごくんと嚥下し、私に顔を近づけた。すると、囁くように耳元で言った。
「キミがくれたから、もっと美味しくなったのかもね」
一瞬ドキッといたが何も言えず、そのまま想生くんは「そろそろ戻るね。リンゴも頂いたし。」と言って部屋から出て行った。
あのドキッとした心は何だったのだろう…
海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅱ
これはきっと夢だ。そうに違いない。私の目の前に人がいる。けれど、いつものように怖くない。なぜだろうか、目の前にいる《《彼》》は見たことがあるようで、いつも傍にいる気がする。優しい笑みを浮かべる《《彼》》はゆっくりと何もない世界で私に抱きついた。そして私の顎にそっと手を添えて、彼は口を私の口に近づけた。何も感じないこの世界で、何故かドキドキと胸が高まっていくばかりだった。彼の口が私の口と接触する寸前、世界は一気に霧で覆われた。
---
目が覚めると、薄っすらと透ける白いカーテンをめくって、いつもの空を見た。今日は曇りで鳥や虫の声が聞こえない。寝ぼけた目を起こすためにパンパンと両手で頬を叩いた。ずっと外に出ていないため、体力も落ちて、すぐに息切れするだろうと窓から見える歩く猫を見ながら思った。ベット横にある机を見ると、メモとホットサンドが置いてあった。メモには、『ゆっくり噛んで食べてね。』と猫子さんらしい字で書いてあった。窓を開き、風がゆったりと流れ込んでくる外を見ながらホットサンドを銜えた。中身はトマトとレタスとベーコンとアボカド。ジューシーなトマトとシャキシャキとしたみずみずしいレタス、ほんのりベーコンの味を引き立てるアボカドはサクサクした食パンとマッチしている。何も考えることがないのでただただモグモグと食べていると、スライドドアが開く音がした。振り返ると、狐の顔をしたいつもの彼が居た。想生くんは右手を後ろに隠し、私に寄ってきた。
「おはよう、海月。今日はいつもより起きるのが遅かったんだね。」
爽やかなイトおしく感じる想生くんの声を聞いて、また日が経ったんだなと感じた。
「なんかよく覚えてないんだけど、変な夢を見ていた気がする。…そういえば、想生くんはもう朝ごはん食べたの?」
「うん。30分ぐらい前にね。」
そういうと私が食べていたホットサンドを指で指し、顔を私に近づけた。
「海月と一緒のを食べたんだ。」
さらに魅力的な声で言う想生くんはなんだか普通ではないと思う。少し胸の高鳴りを感じながらホットサンドの最後の欠片を頬張ると、想生くんは珍しい事を聞いてきた。
「海月は人が怖いんでしょ?」
うんうんと口の中をいっぱいにして頷いた。
「だったら、ここに一緒に行かない?」
すると、さっきまで後ろに隠していた右手を出し、握っていた手紙を開けた。そこには招待状と達筆で書かれた中くらいの紙2枚が入っていた。
「ここならいろんな顔の方しかいないし、丁度、ペアで来てくださいっていう題だったからね。まぁ、社交ダンスの練習をしなきゃいけないんだけど。日は1ヵ月後だし病院のすぐ近くの会場だから、どう?」
---
想生は仮面舞踏会の仮面をいいことに考え、少しでも海月に外の世界を見せてあげたい一心で誘ったのだ。
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「…想生くんが一緒なら行ってもいいかな。」
照れ臭そうに言った私を見て、想生くんは「じゃあ、早速社交ダンスの練習をしようか!」と嬉しそうに言った。想生くんが喜んでくれるなら、社交ダンスの練習を頑張れそうだ―。
想生くんに舞踏会に誘われてから3週間が経った。あれからは毎日社交ダンスの練習をしている。基本は殆どできるようになれた。あとは…
「あぁっ」
ズテンと転ぶ私を心配そうに寄ってくる猫子さんとパートナーの想生くん。ワルツだけは本当にできなかった。男性に背中を抑えてもらってクルクルと回る技なんだけど、どうも抑えられるのに緊張してしまって上手くできない。パートナーが想生くんなのがなおさらかもしれないが。
「海月、緊張してる?」
「え、し、してないけど…」
わざと目を逸らす私を見て想生くんは言った。
「なんか拒否反応が出てるんだよね。なんていうか…僕の事嫌い?」
「そ、そんなこと絶対ない!」
フフと笑う想生くんは私の背中をグイッと近づけて、私の額に優しく口付けた。その瞬間大きな心臓の音がバクンと一回鳴った。この前にもあった、よくわからない気持ち。この気持ちがわからないってだけで胸が締め付けられそうだった。
「じゃあもっとなれるように頑張ろっか。」
この後も、引き続き練習したが、あの口付けが頭を何度も横切って全く覚えていない。そして、舞踏会前、ドレスを病院側が借りてくれてので、早速試着していた。
私が部屋で想生くんの着替えを待っていると、想生くんはドア越しに言った。
「これを着て、海月が気に入ってくれたら《《惚れて》》くれる?」
私は想生くんが何を言っているのかよく理解できなかった。しかし、その言葉が後の重要な言葉になるとは考えてもいなかった。
今回は想生くんが胸キュンなことばかりしてましたね~今後の海月と想生にどんなことが起きるのか楽しみですっ(作者も⁈)
次回もどうぞよろしくお願いします。
海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅲ
ガラガラ…スライドドアが開く音がし、そっちに目をやると、白く美しい衣装を着た想生くんがいた。まるで王子様のように少しずつ金色の部分が入っていたりと高級感が凄い。深川鼠色の髪と白い衣装が黒い狐の顔を目立たせ、私を魅了した。また、前の肩まで隠す赤色のマントはさらりと長く、想生くんのスタイルをさらにかっこよくさせた。
「どう?」
「す、すごい…めっちゃ似合ってるよ!あと、えっと…言いたいことがありすぎて何を言いたいのかわからなくなってきた…」
頭をぐるぐると回していると、想生くんは「じゃあ、海月のドレスも早く見たいから着替えてきて!」と私を試着室へグイグイ押した。正直、私に似合うドレスなんてないと思うけど。そうお思いながら個室に入りドアを閉め、並ぶドレスへ目を向けた。病院側は私には4種類の淡い色のドレスを用意してくれていた。
1つ目はペールラベンダーのマーメイドラインのドレス。2つ目は淡黄蘗色のプリンセスラインのドレス。3つ目は一斤染めのA型ラインドレス。4つ目は白緑色のエンパイアラインのドレス。どれもオーラも模様も輝いて綺麗だった。しかし、1つ目は大人すぎて私には到底似合わないだろう。2つ目と4つ目はボリュームがすごくて私の心が拒否反応を起こした。ので一番目立たないであろう3番目の一斤染めのドレスにした。6か所に流れるように付いている小さな花が無難に綺麗だ。想生くんは気に入ってくれるだろうか。少し戸惑いながらも、猫子さんに手伝って貰いながらドレスを着た。自分の姿がどうも気になってつい鏡を見てしまった。まずいと思って咄嗟に手で顔を防いだが、猫子さんはなぜ私の両手を止めた。するといつも大嫌いだった人間の顔、私の顔はドレスのせいか別人に見えた。そして、少しだけ、怖くなかった。心臓はバクバクして今でも飛び跳ねそうだけど、いつもより落ち着いていて、見つめられるようになっていた。
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いつも、周りの人間の顔は《《両親の顔》》になっていた。怖すぎて、近づきたくない。また、いじめられるんじゃないかって。殴られて、蹴られて、怒鳴られる毎日が頭の中から離れない。もうあんな生活はしたくない。だから、顔を見ないようにした。人の顔を見ると、私を睨む両親がいるように見えるから。けれど、それは本当にそうなのだろうか。想生くんも両親になってしまうのだろうか。いつも優しく接してくれる、猫子さんや熊太郎さんも両親と一緒なのか。もしかしたら、想生くんたちは両親と逆なんじゃないかと最近少し思うようになった。
みんなは私のために《《いろんな事をしてくれている》》のに。
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ゆっくりと個室のドアを開くと、後ろを向いていた想生くんが振り返って見てきた。
「変…じゃない?」
想生くんは私に1歩近づき、少ししてから声を出した。
「…かわいすぎ…反則だよ…惚れさせようと思ったのにまた僕ばっかり…」
想生くんは小さな声で何かを言いながら《《仮面》》の隙間から見える顔を赤くした。赤い顔を隠すためか手で顔が見えないように挙げた。私は何かやらかしてしまったのかと思い、想生くんに近づいた。
「どうしたの?熱でもあるの?」
そう言って私は想生くんの頭に手をのせた。
想生くんはビビッと少し動いてから何も話さなくなり、動かなくなった。余計に心配になったため、勢いで想生くんに抱き着いた。少し離れたところから見ていた猫子さんはすごい驚いていた。
「熱いの熱いのとんで行けー!」
私が精一杯想生くんを抱きしめていたその時、やっと動いたかと思えば私を横抱きして個室へ向かい、降ろした。
「ちょ、ちょっと。メインは明日なのに今そんなに見ちゃったら楽しみが無くなっちゃうでしょ。だからもう脱ご。」
無理矢理ドアを閉められて、私は訳がわからないまま着替えた。着替えている途中に猫子さんが入ってきた。
「海月ちゃん…鈍感なのね。だからあの子の気持ちがわからないわけだ。」
呆れたように言うと、さっさと着替えを手伝ってくれた。私はあった真の整理が追い付かず、よくわからなくなった。ただ、私が少しだけ人を克服できたということだけ、はっきり覚えていた―。
そして翌朝、舞踏会当日。待ち合わせは病院の一階ロビーに10時に集合だ。いつもより早く目覚めた私は、せっせと支度をした。一斤染めのドレスを着て、猫子さんに髪を括ってもらった。2週間前に想生くんに聞くと、「ハーフアップが好き」と言っていたのでそうした。そして念の為の薄いメイクをしてもらった。猫子さんは「元はかわいいのに仮面で隠しちゃうなんて残念。」と言いながら手伝っていた。私が付ける仮面は猫子さんにお勧めされた白く右に桜色の蝶がついている仮面で、顔の上だけ隠すやつだ。衣装と相性が良く、私に似合うから、と。
午前9時50分、病院の一階ロビーに向かった―。
色々伏線をつけてみたヨ。気づけるかな?
あ、ちなみに海月は恋愛なんてしたことがない身なので恋愛に関してはかなり鈍感ですので、想生がドキッとするような事をするのはわざとじゃないです(^^
海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅳ
ドキドキしながらロビーへ向かう。海月はまだ人が怖いだろうからできるだけ人の少ない端の方で待っていた。しかし、昨日のドレス姿の海月は普段も可愛いけれど、さらに一斤染めのドレスを着ることで可愛さが増していた。きっと彼女は気づいていないだろうけど、今日はせっかくいいチャンスなんだ。海月が僕の事を特別に思ってくれるように、僕と最初に仲良くしてくれた人。僕は、彼女が好きだから。誰にも渡したくない気持ちがずっと心に秘めている。誰も受け入れてくれなかった僕を変えたのは、海月、君だけだ。
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ロビーに着くと端で窓を見ながら、壁に背中をもたれている王子様、想生くんが居た。その姿は何か神秘的で、木漏れ日に照らされているのがまるで天使とお喋りをしているみたい。光のような想生くんは今何を考えているのだろう。もう少しその姿を眺めていたかったが、先に想生くんが私に気づいて近づいてきた。
「その髪型、すごく似合ってるよ。」
想生くんはそう言うと、サラっと私の毛先を手のひらで流れるように触った。私は少しドキッとしたが、気を取り直して褒め返した。想生くんは「じゃあお互い準備万端だね」と言い、私の手を掴んで外へ歩き出した。想生くんの手は手袋からだけど、とても温かく、大きい。私の手をすっぽり埋めている。とうとう外に出るんだと思い、病院の入り口を出た。すると、一気に眩しい輝きが空から降ってきた。そして、空気がとても美味しい。部屋の中でも窓は開けているが、やっぱり自分から外にいた方がよっぽど心地よい。昔感じていた外の世界と全く正反対だ。以前は世界そのものが暗闇で、光なんて病院の個室しかなかった。けれど、今外に出て光を浴びている。それが何よりも開放感があった。
「舞踏会場はあそこだよ。」
想生くんはそう言って役所のような所に指をさした。早歩きでそこに向かうと、沢山の大人の《《人》》や子供がいた。みんな色々な《《仮面》》を付けている。豪華なドレスや自分で作ったような服の人もいる。初めての感覚に私は胸をときめかせ、はわわ~っと声が出てしまった。それを見たのか想生くんはすぐに私の手を握ったまま、スーツを着た男性に招待状を見せ、中に入った。中はシャンデリアが照らし、豪華な食事が匂いを漂せ、美しいピアノの音楽が雰囲気を明るくさせた。勿論、会話も丁寧だ。
「す、すごい…全部豪華だ…」
「僕も、こういう所は初めてだよ。あ、そこに僕たちぐらいの年っぽい子がいるよ。話しかけてみる?」
「う、うん…」
今日は仮面を付けているから、いつも嫌なことが今日は勇気を出せた。
「ご機嫌用。貴女たちは中学生でしょうか?」
「えぇ。私が中学3年の真由美で、この2人が中学1年の麗と千紘よ。貴方も?」
「はい。僕が中学2年の想生で彼女は僕のひとつ下の海月です。」
目の前にいる人たちは派手な色でボリュームのあるドレスを着ている。漫画でよくある悪役キャラのような印象だ。センスで口を隠し、偉そうな腕組をしている。関わったらめんどくさそうと勝手な想像をしていた。
「あら、彼女さんなの?」
「いえ。彼女は恋愛に鈍感なもので。」
前に猫子さんに言われたのと同じ事を言っている。そんなに私が何かおかしいのだろうか?
「まぁ、では昼食の後にあるダンス、私と踊っていただけないでしょうか?」
偉そうに言う女の人。
「…わかりました。一曲だけなら。」
ダンス…つまりそれは私がずっと練習してきたやつだ。この人達に想生くんを取られたくない。すると、モヤっとした気持ちが心の奥に現れた。けれど、まだ人との関わりに馴染めていないため、声に出すことができない。…ってあれ?このモヤっとする気持ち、一体何?そう考えていながら、想生くんと過ごして、いつの間にか昼食になっていた。
「ねぇ、さっきから大丈夫?返事が浅いけど…」
想生くんは心配そうにこっちを見てきているが、このモヤっとした感じがどうも嫌で、中々ほかの事に集中できない。机の上にある、温かいシチューやパンケーキ、冷たい炭酸やアイスだって味の感覚がわからなかった。
「何でもない。」
少し不機嫌なように私は言うと、想生くんは勘づいたかのように訪ねてきた。
「もしかして、僕が真由美さんのダンスの返事を受けたから怒ってるの?」
「⁈」
その言葉で、ハッとした。そうなのだろうか?私は想生くんが他の人に取られたくなかったから?モヤっとする気持ちはこれだったのか。私は…嫉妬してる…?想生くんに対して?
「ごめん。私、想生くんが他の人に取られたらって想像しちゃって。もし取られちゃったら、一生想生くんは、私に話しかけてこないで…楽しい時間が無くなっちゃうと思って。ずっとモヤモヤしてたの。」
そう伝えると、想生くんは黙って立ち上がり、私の腕を掴んで外に出た。そして、建物の裏側に行き、想生くんは私を挟んで壁に手を当てた。
「なっ何⁈」
「ねぇ、僕が他の女を好きになると思ったの?…そんなわけないじゃん。君は気づいていないようだけど、僕はこれでも君の事をずっと想ってるんだから。」
「じゃあ、なんで受けたの?」
「そんなの、断ったらなんかあるでしょ。あの人なら特に。悪口言ったりする人っぽいしね。」
「嘘。」
私がそういうと想生くんは少し黙ってから、こう言った。
「じゃあこれでも嘘と言える?」
その瞬間、想生くんは私の前で初めて《《仮面》》と取った。そして私の背中を手で支えて、唇にゆっくりとキスをした。
優しく、複雑な思いが伝わってくる紅掛空色の瞳で私を見つめながら。
作者はこの展開を待っていた。語彙力無くてすまぬ。