ある夏のこと。最終日にもかかわらず、龍二は宿題もやらずダラダラ怠惰に過ごしていた。
夜の歩道橋の上、龍二はそっと身を寄せる。
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目次
REMMUS⇅REPEATER 【1】
8月1日、夏休み終了まで、あと30日…
強い青空の下、ひとりの少女が木のふもとに佇んでいた。
名を宮本鈴鹿。ハイロ高校の一年生。
「ナナちゃん、遅いなぁ…」
鈴鹿は腕時計をこまめに確認し、ナナを待つ。
気がつけば待ち合わせより5分も遅れていた。
「来たらジュース奢らせよっと。」
暑い日差しがギンギンと差し込んでくる。
つぶらで大きな目をじっと潰して、鈴鹿は額から汗をかく。
「…ちょっと、どっか入ろ。」
鈴鹿は木陰から離れ、硬いレンガの地面をコツコツと踏みながら横断歩道の前へと立つ。
ちょうど信号が青になった時、鈴鹿はコンクリートの地面に足を乗せた。
目の前には行きつけの雑貨屋が
ピロリン♪
『リュウジ、明日どっか遊び行かね?』
友人のヲ崎からLINEが来た。
俺はぽぽぽぽとキーボードを打ちギャル並みの速さで返す。
スポッ
『いいけど』
8月1日午前11時。俺はそのラインで起きた。
死ぬほど終わっている生活習慣、ぐちゃぐちゃの布団。
クソ暑い外気にやられて普通に鬱だから仕方ない。
…と、自分を騙し、課題もやらずにこのザマ。
今の俺はギネス獲れるくらい、地球上で最も怠惰な人間であろう。
スポッ
『プールで美女の水着見に行こうぜ』
ヲ崎からまた続けてLINEがくる。
「ふぉお。」
俺は鼻息を荒くして返した。
スポッ
『行こう、すご行こう。』
美女の水着ってどこで見れんのかな。
ナイトプールかな、でも未成年ダメだよなぁ。
スポッ
『ここの場所インスタ映えらしい。ここ行こうぜ。』
スポッ
『天才』
スポッ
『明日の9時ハイロ公園で』
「ふぅーっ…」
プールなんていつぶりだろう。
…
窓から差し込む強い日差しが頬を強く照らす。
俺はサッとカーテンを閉じた。
「寝よ。」
俺はまた、再び眠りについた。
---
「リュウちゃん、いつまで寝てんの。もう2時よー。」
お母さんの甲高い声が聞こえる。
「いい加減起きてご飯食べなさい。」
「…」
俺はずりずりとゆっくり布団から這い出る。
暗く蒸し暑い部屋で、ぼーっと立ち尽くす。
「早く起きなさい。」
「起きてるよ!」
重い体を無理やり動かして、ようやくドアに辿り着いて、ゆっくり開けた。
白い光に照らされたリビングの光が、2階までわずかに届いていた。
手すりに手を添えて一段一段ゆっくりと降りる。
もう一段越えようとした時、ずりっと滑り落ちてしまった。
天井が見えて、足も見えて…宙に浮いている…
見える景色が…スローモーションみたいで…
「はっ!?」
目覚めるとベッドの上だった。
心臓がバクバクする。
さっきのは、夢、か…
でもなんか…感覚とか…
ピロリン♪
スマホから軽快な音が鳴る。
俺は咄嗟に取って通知を開いた。
『リュウジ、明日どっか遊び行かね?』
見覚えのある文だ。
夢の中で見たものと一言一句違わず…な気がする。
もしかして、さっきのは正夢というやつなのか?
「あっ、今何時…」
スマホの中の時計はちょうど11時を指していた。
「二度寝する前と同じ…」
とりあえず俺はヲ崎からのLINEを返した。
スポッ
『水着の美人見に行くんだろ?』
スポッ
『なんでお前わかるんだよ』
---
ドアを開け、階段を慎重に降りてゆく。
するとリビングからお母さんがひょっこりと顔を出した。
「あんたそんな慎重になっちゃって。」
俺を馬鹿にする様にケラケラと高らかに笑う。
「さっき踏み外して死にかけたんだよ!」
「あら?そうなの。」
お母さんはふふっと笑った。
「あと宿題は進んでるの?もう少ないんだから早めにやりなさいよ。あんたはいっつも…」
「うるさいなぁ。言われなくてもやるよ。」
「いつもそう言ってやらないじゃない。」
俺はどっとため息をついて、台所の冷蔵庫から朝ごはんを取り出す。
レンチンしてラップ取って、不自然な暖かさの目玉焼きを食べた。
「今から買い物に行くけど。」
お母さんはそう俺に言う。
「暑いからパス。」
俺がそう言うと、そう、と言い残して出かけていった。
「にしても、明日…」
俺はプールでの妄想を繰り広げる。
水着の美女がキラキラ笑顔で、でけぇ胸を揺らし、デケェ浮き輪でゆったりとくつろぐ。
その真上から見る谷間はきっと絶景であろう。下から見てもきっと美しい。
そしてそして、友達と来てた宮本さんとばったりあって、一緒に水をかけ合って…
「俺、実は、宮本さんのことが…」
とか言っちゃったりして
宮本さんも宮本さんで顔赤くして照れちゃって
「じ、実は私も…」
なんてなんてなんて、あぁ、こりゃ有意義な夏休み…
「…全部漏れてんぞ。」
後ろでお父さんが低い声でつぶやいた。
人物紹介
熱寺 龍二(あつでら りゅうじ)
ハイロ高校の一年生。勉強嫌いの帰宅部。
宮本に恋心を寄せている。
ヲ崎 尾夫(をざき おそお)
ハイロ高校の一年生。運動嫌いの帰宅部。
熱寺と親友でエロい。
熱寺のエロスはヲ崎の影響が強い。
宮本 鈴鹿(みやもと すずか)
ハイロ高校の一年生。顔がかわいい手芸部。
熱寺とは消しゴムを貸し借りした仲である。