英国出身の迷ヰ犬×文豪ストレイドッグス(3rd)
楽しい思い出だけでは終わらない、彼方との交流。
無理やり彼方へ連れていかれたり、仕方なく此方へ呼んだり、と。
今回も何やら色々と問題がありそうな様子。
それでも迷ヰ兎達ならきっと──彼女となら、どんな敵でも乗り越えられる気がするんだ。
ののはなさんとのコラボ小説第三弾で、「英国出身の迷ヰ犬」改めて「迷ヰ兎」の番外編になります。
ルイスくん&アリスが彼方の世界にお邪魔しています。
前回同様、ののはなさんの小説では桜月ちゃん視点、此方の小説ではルイスくん視点です。
二つの視点から楽しんでいただけたら、と思います。
---
ふぁーすと
https://tanpen.net/novel/series/a4894146-4c1c-4ce8-8e5f-93e98969370f/
せかんど
https://tanpen.net/novel/series/ecca22c2-3f3a-41e0-a69f-268da3ddf30f/
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目次
3rd collaboration.1
“二度あることは三度ある”
ルイスside
それは、ある昼下がりのこと。
僕は意味もなく路地裏を歩いていた。
ポートマフィア本部から離れていることもあってか、銃声も聞こえない。
「今日も平和だなぁ」
そう呟いた直後に聞こえたのは《《爆発音》》。
うん、フラグになったような気がするのはどうしてだろう。
「おい|手前《テメェ》! 逃げるんじゃねぇ!」
「俺はまだ捕まるわけにはいかねぇんだよ!」
すっごい聞き覚えのある声がする。
上を見上げてみると、誰かが降ってきた。
異能なのか、それとも素の身体能力なのか。
その男は壁を蹴ったりと、落下の勢いを殺しながら地面に着地した。
「……誰だお前!?」
「いや、此方の台詞なんだけど?」
「ルイスさん!?」
また上を見上げてみると、今度は帽子が特徴的な男──中原中也がいた。
中也君を見るなり逃げようとする男。
とりあえず足を引っ掻けて転ばせておいた。
「誰コレ」
「本部に爆弾を仕掛けた奴です。此処に来るまでにも色々と爆発させて、被害が尋常じゃないんですけど……」
あぁ、さっきの爆発音はこの男の仕業か。
「僕は居なかったことにして、普通に連れてってよ」
「すみません、本当に助かりました」
中也君が苦戦するなんて、珍しいこともあるものだな。
そんなことを考えながら立ち去ろうとすると、浮遊感を覚える。
足元へ目をやると、先の見えない穴が開いていた。
この異能には見覚えしかない。
ジョン・テニエル──“|不思議の国の入口《Welcome to the wonderland》”。
多分《《此方》》ではない。
何かあったのかな。
「──ルイスさんッ!」
「ちょっと《《彼方》》に行ってくるね」
「はぁ!? ちゃんと説明して──!?」
中也君の声はもう聞こえなくなった。
入口が閉じられたんだと思う。
---
「よ……っと……」
出口が見え、僕は着地をする。
灰色の地面──コンクリートか。
辺りを見渡すと何故か見覚えのない人たちばかり。
「……嘘だろ」
一斉に放たれた銃声をとりあえず防ぐ。
ついでに、とりあえずの避難先をアリスに探してもらった。
「戦闘したくないんだけど」
とりあえず無力化していくと、数歩先の床に鏡が現れた。
『ルイス!』
「分かって──」
「させるか!」
「……!?」
鏡が割られた。
此方はアリスの異能を知っている人はあまりいない筈。
桜月ちゃんに、中也君に──。
「テニエルか!」
とりあえず情報が足りない。
無理やり鏡に入り込んで、移動する。
避難先には勿論人はおらず、たった一つの出入口である扉に耳を当てても足音などは聞こえない。
『……大丈夫かしら』
「うん。怪我はないよ」
『彼らは一体……』
「テニエルの仲間だろうね。……いや、“元”と付けておくことにしようか」
実際、情報が少なすぎて想像の域を超えない。
テニエルが桜月ちゃんを裏切った可能性を完全に消せるわけではなく、アリスの情報を持っていたことは紛れもない事実。
「アリス、この建物内に探偵社とかマフィアとかいそう?」
『いえ、全く見えないわ』
「じゃあ脱出しようか」
桜月ちゃん探しておいて、と僕は幾つか武器を忍ばせておく。
こういう組織は兵士と異能者の複合型。
元々異能者の人数自体少ないし、1割いたらまぁまぁだろうか。
中々いないだろうけど、無効化がいたら面倒くさい。
「……。」
結果から述べるなら、全く敵と戦わなかった。
桜月ちゃんを探しながらもアリスがサポートしてくれたから。
それはまぁ、良いことなんだけど──。
「意外と楽に出られたな」
もう外に出れてしまった。
早く桜月ちゃんに会って情報共有をしたい。
そんなことを考えながら歩き始めると、何かにぶつかった。
誰もいなかった筈。
振り返ると、そこには誰かがいる。
後ろ姿で、顔はよく見えない。
ただ、纏っている気配が只者ではないのを語っている。
何故僕は彼に気づかなかったのだろう。
《《目の前から歩いてきた筈なのに》》、ぶつかるまで気づかなかった。
「……。」
目が、合った。
次の瞬間、僕は急いで異能力を発動していた。
逃げろ。
そう、本能が警鐘を鳴らしていた。
「何だったんだ、彼奴は……っ」
転移したのは良いけど、まだ緊張は解けずにいた。
少し休むためにも人の少ないところを探していると、或るカフェが目についた。
いや、僕はこの世界のお金ないから入れないけど。
そもそも“close”の看板かかってるし。
「……あれ」
中に人影が見える。
ここは彼らの縄張りで、彼女の管轄なのかもしれない。
まぁ、どちらにせよ店に入らない選択肢はなかった。
--- 「俺の異能を使って、ルイス・キャロルを強制的にこの世界に連れて来た」 ---
扉に手を掛けたところで、そんな声が聞こえた。
直後、驚いている可愛らしい声もする。
「トップがもしも同じ条件を課したなら、今度はここ、泉桜月の本来の世界で、あの悪夢が──俺が引き起こしたあの事件が繰り返される」
「、でも同じ条件は多分課さないよね?云い方よくないかもだけど、っルイスさんがもしその選択を選んだなら、そのままルイスさんは元の世界に直帰コースだから」
真剣な話をしているのは、わざわざ云うまででもない。
そして、僕も関係のある話だということも。
「ね、その話…僕も混ぜてくれない?」
少し、強い声になる。
それでも彼女は少し目を輝かせながら、嬉しそうに返してくれた。
「お久しぶりです、ルイスさん...っ!」
すぐに、申し訳なさそうな顔をしていたけれど。
テニエルは挨拶を返してくれない。
少し視線を向けると、彼も申し訳なさそうに目を伏せていた。
「…勝手に押しかけちゃって申し訳ないね」
「トップの男はどうした?」
テニエルのいた組織のトップで今回の主犯──だろうか。
そのトップに心当たりがない、と云えば嘘になる。
彼奴だろうな、多分。
「強そうだったからなんとか逃げてきた」
「だろうな。状況がはっきりするまでは下手に動かない方がいい」
この世界に呼ばれた理由。
桜月ちゃんの世界で悪夢が繰り返されること。
条件について。
テニエルの組織、ならびに彼が気にしたトップのこと。
気になることは多すぎるけど、一つずつ説明して貰えたらいいな。
最悪、“|鏡の国のアリス《Alice in mirrorwould》”や“|不思議の国の入口《Welcome to the wonderland》”で僕の世界を巻き込むかな。
と、言うことで!!!!!!!!!
ののはなさんとのコラボ小説第三弾じゃあァァァァァァァァァァ!!!!!
はい、うるさいので黙ります。
今回はルイスとアリスが桜月ちゃんの世界にお邪魔します!
相変わらずの二人視点で、会えたのはラストというね((
まぁ今回のストーリーがストーリーだから((
ののはなさんが天才的なストーリーを書いてくれる、ということで私は何もしません((
いや、ちゃんと相談とかは乗るからね!?
そんなこんなで、応援してくれると幸いです!
桜月ちゃんsideも是非!
それじゃまた!
3rd collaboration.2
ルイスside
「それで...君はどこまで分かっているのかな」
僕は椅子へと座り、テニエルへと問い掛けた。
桜月ちゃんが紅茶とお菓子を出してくれている。
「…彼奴らが今、このヨコハマに来ている事、それからこのヨコハマを手に入れ、俺を連れ戻そうとしている事、トップの異能でまた何らかの形で___」
--- 「最悪、お前たちの生死に関わってくること」 ---
「前のことがあるから分かると思うが、ヨコハマを手に入れる計画の中で、いろいろあったから俺は泉...妹の方...を殺そうとして、それに適任だったのが、俺の異能で世界を超えた所にいた、ルイス・キャロルという人物だった」
その計画の色々が知りたいところだけど、今は置いておくことにしよう。
「なら…今回も桜月ちゃんは計画に邪魔だろうから消される可能性があるし、それに適任である僕にも何が起こるか分からない、ってことだね__おまけに、桜月ちゃんの本当の、本来の世界だから...どちらかが死んで元の世界に、っていうのは僕が簡単にクリアしてしまう」
「つまり前回よりもダントツで複雑な選択が課される…」
「さっきテニエルが言ったとおり、本当に最悪の事態も考えられるね…」
顎に手をやり、少し考え込む。
僕がここで自害して帰るだけで終わるならまだいい。
でも、また悪夢が繰り返されるならそう簡単に帰るわけにはいかない。
「うーん...なんか...凄い事になってるし…でも前はボス、あんな大っぴらに来てたのに、なのに今回は隠密作戦なんですね…?」
無駄にハイテンションだったよな、とまた頭を悩ませる。
桜月ちゃんの誰と決めたわけではない問いに、僕も考え込んでいた。
前回はマフィアとも敵対してる状況だった筈だからよかったけれど、今回はそうではない。
何かが、引っ掛かっている。
「当り前だ、そこの莫迦とは違って計画的なんだ、俺たちは」
ふと、答えが告げられる。
音が聞こえるのはテニエルの胸ポケットからだろうか。
「そうだよ、ソイツと僕等を一緒にしないでほしい」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きましょうっ!」
「テニエルー!早く会いたいわ~!Wait for me, my captive princess~♡」
「おい言葉が英語に戻ってるぞ」
「…ぇ、誰」
桜月ちゃんは、思わずそんな声を漏らしていた。
突拍子もなく聞こえてきた声。
突拍子もない会話の内容。
それに、あの声は──。
「…最初の男、さっき僕がすれ違った奴だ」
転移する直前に聞こえた微かな声。
それと同じだ。
彼のことを思い出すだけで警戒してしまう。
「只ならぬ気配だったよ...目の前から歩いてきた筈なのに、ぶつかるまで気づかなかった」
様々な戦場を経験してきた僕の本能が警鐘を鳴らす。
それ程の相手はそう多くない。
つまり、あの時すれ違った彼は本当に危険でやばい奴な可能性がある。
僕がこの世界に来たときのことを交えながら、二人に説明した。
桜月ちゃんはとても驚いているようだった。
「っていうかボス携帯電話っ!?」
「まさかジョージおま、っ」
「よく気が付いたね、流石テニエルだ...僕にかかればそんな携帯、簡単にハッキングできるし、起動もできるよ」
ジョージ。
それが、敵の一人の名前。
ハッキング能力は英国軍の情報部とそう変わらないか。
「ねえ、ボス...ジョージ、って誰?」
「あはは、初めまして…僕はそこのテニエルの仲間...組織の一員で、ハッキングを得意としているんだ、よかったら仲良くしてよ」
いや、仲良くできるか。
桜月ちゃんの方を見てみると、彼女も引いているようだった。
わざわざ云わずとも、テニエルの顔色は悪い。
今なら、敵の情報を知れるかもしれない。
「…ついでだし、他3人も自己紹介してくれないかな?」
「私も…気になってました」
「仕方ないな…まぁいいか」
どうやら自己紹介してくれるらしい。
よほど自信があり、僕達のことをナメているのだろう。
「俺はフランシス。戦闘でもなんでも遠隔系の方が得意だからジョージの援護をしている__それと嗜む程度だが、精神的な分野にも精通している」
「ふふ、私はハリエット__!人と人の間の仲を取り持つことが得意だから、基本は商談や取引系の仕事をしてるのよ!」
「私はメアリー!仕事は全般を補助する係が多いわ!...ね、テニエル~♡」
フランシス、ハリエット、メアリー。
そしてジョージ。
僕の元仲間のことがあるからあまり大声では云えないけど、個性が強すぎる。
性格は勿論──彼ら全員の役割のバランスがちょうど良さそうだ。
テニエルの仲間とは思っていたけれど──。
「ボスの元仲間の...トップと、ボスと同じ立場の3人…!」
ちょっとそこら辺の詳しい話はまだ聞いてないんだけど。
とりあえず、少しでも情報を引き出さないと。
「…誰がトップなのかな」
「誰だと思う?」
多分、この小さな機械の向こうで笑っているであろうフランシス。
少し三月ウサギのような悪戯っぽさがある。
フランシスって名前は|こういう《頭おかしい》奴しかいないのかな。
「…でも、フランシスが一番落ち着いて大人っぽい」
「だよね、僕もそう思う、けど…ハリエット、彼女も侮れないと思うよ」
うふふ、と携帯越しに笑った声が聞こえた。
ハリエットだろうか。
商談や取引は長に必要な力のひとつだし──。
「違う」
そんな、テニエルの声が聞こえた。
「あ、!元仲間だから知って…!」
「本当は誰がトップなの?」
彼方の掌で転がされている感じがし、中々気分が悪い。
早く最終的な敵が知りたいと思ってはいたが──。
「一番ふざけてる...そのジョージって阿保だよ」
云われてから気が付いた。
僕がすれ違ったのはジョージだったじゃないか。
それは声で判っていた筈なのに、何故か選択肢から除外していた。
あの性格から、あり得ないと思ってしまった。
この世界では年齢も見た目も、性格だって関係ないのに。
「阿保って...全く、上司に向かって失礼だよ、年上には敬意を払ってもらわなくちゃ」
「ねーぇテニエル、さっきからそこの人達”元仲間””元仲間”ってうるさいわ…」
「まぁまぁメアリー落ち着きなさい、折角の可愛いお顔が歪んでるわよ?」
「はぁ…テニエル、____。」
機械を通した声の筈なのに、思わず息を飲む。
--- 「”兄弟”じゃなく、敵を選ぶのか?」 ---
3rd collaboration.3
ルイスside
「…兄弟、って云った、かな…」
静まり返ったカフェ。
僕の口から零れたのは何の考えもない、ただ意味を理解するために繰り返された言葉だった。
「…もう少し詳しく説明してくれない?」
驚いてはいる。
戸惑ってもいる。
けど、何故か自分でも不思議なほどに落ち着いていた。
テニエルについて調べたことがあるからかな。
「言葉の通り、出会って少しの”敵”さんとは違って、私達は血の繋がりっていう深い絆で繋がってるわ、ねぇ、テニエル~♡」
敵の部分を強調された気がして、少し気分が悪い。
確かに桜月ちゃんはまだしも、僕は出会って数日だ。
メアリーの言う通り“血の繋がり”は何よりも深く、決して消えることのない絆。
それでも、血が繋がっていない僕とアリスは━━
━━ロリーナ達との絆は、絶対にテニエルと兄弟達の絆よりも深い。
そもそも、血の繋がりで縛り付けるのは間違ってる。
犯罪者の子供は犯罪者か。
血縁者なら何をしてもいいのか。
今すぐにでも溢れそうな言葉を必死に飲み込むも、居場所を特定して殴りに行こうかと思った。
『…落ち着きなさい、ルイス』
あぁ、分かっている。
分かっているからこそ、この感情は落ち着くことを知らない。
ふと桜月ちゃんの方を見ると、こちらを見ていた。
彼女も思うところがあるのだろう。
でも、今は口を挟むべきじゃないから。
僕が頷くと、桜月ちゃんも小さく返してくれた。
「あら、疑うなら血液証明書を送ってあげるわよ?」
この明るく饒舌な話し方は、ハリエットだろうか。
あの女と似たような雰囲気を感じ、桜月ちゃんが大丈夫か心配になる。
電話越しでこんな、飲み込まれそうな人間がいたのか。
「…大丈夫です」
ペースに飲まれることなく、桜月ちゃんは返した。
「__別に血のつながりがあるから絆が結ばれていると言いたい訳ではないからな...まぁ、」
「テニエルー、次この形態に僕からの着信がある時迄には、そこの二人とのお別れを済ませておいて、ねっ?」
「あっおい、俺の台詞取るなっ」
「あははっ」
プツリ、と通話は途絶える。
また静まり返った店内に、思わずため息を溢してしまった。
緊張が解けたのが一番大きいと思うけど━━。
「…ねぇボス、あの人たちホントに」
「桜月ちゃん、...今回は__ちょっと、ややこしい事になっているかもしれないね」
「ぇ、ルイスさん、『なる』じゃなくて『なっている』って…?」
色々と気になること、不安なこと、予測できることがある。
何処から話を進めるべきだろうか。
「…その前にまだ話せていない部分を伝えるのが先じゃないか?」
テニエルの言葉で、改めて状況把握をすることになった。
気になる大部分は現在の状況だから助かる。
どうやら始まりは桜月ちゃんが少し様子がおかしいテニエルを見つけた事らしい。
あまりにも焦りが募っていた様子だったと云う。
原因は”誰か”と通話していた事で、詳細は彼女の管轄内のカフェで話す事になったとのこと。
先程通話していた相手━━そして桜月ちゃんが見つけた時の電話相手も多分テニエルの元仲間。
そんな彼らがヨコハマに来る。
目的はテニエルが失敗した”このヨコハマを手に入れること”。
テニエルを連れ戻すのも二番目ぐらいの目的だろう。
組織構成を簡単にまとめるのなら、その呼び名の通りトップであるジョージ。
ポートマフィアでいう幹部的な立場がフランシス、ハリエット、メアリーの三名。
テニエルもここに入るらしい。
その下はまぁ、僕も少し戦闘したポートマフィアの数をも凌駕するかもしれない兵士と異能力者。
”ボス”という組織の頭領の呼び名は、テニエルが別で持っている組織で、先の組織とは別物。
前動いていたのはそっちだから彼が”ボス”だったらしい。
それが理由で今回の「彼ら」の、直接的な支援がなかった。
だからあの程度で済んだ、と云えるのだろう。
あと魔人君と直接やり取りしていたのはトップらしい。
ずっと話を聞いており、少し疲れた。
まぁ、そんなことを云っている余裕はないけど。
さてと、自分で情報をまとめていると幾つか疑問点が浮かぶ。
「…なんとなく話の流れで勘付いてはいたけれど…」
「…はい。前回私達の何方かが死なないといけない、という条件を課したのはトップの異能、」
--- |不幸な選択遊び《Unhappy Choice Game》 ---
「…そして、そのトップの異能をボスの異能に組み合わせたのも」
「テニエルと同等の立場の彼らの内の誰か、ということだね…」
うん。
何故こういう組織は、こんなにも面倒くさい異能者が多いのだろう。
とりあえず“|不幸な選択遊び《Unhappy Choice Game》”の対象は二名で、前回でいう“どちらか死ぬまで帰れない”のように選択条件を課せるのかな。
今思えば、そういう現実改変の異能はあまり相手にしてこなかった。
味方、だったし。
「その異能の詳細としては、自らが選択した二人の人物に、特定の選択条件を課すことができる異能...らしいです」
予想通りだ。
「成程ね、前回姿すら現さなかった彼らの異能だから、あの時どうにもならなかったわけだ」
先に異能で条件が課されていた。
今回は、どうなんだろうね。
「…あの」
「どうしたの?」
どの辺りから聞いていたのか、とのこと。
そういえば、電話が掛かってきたりしてちゃんと話せてなかったか。
僕は説明して、飲み物を少し口に含む。
もう冷めているが、味は変わらず美味しい。
ふと、テニエルの様子を見ると相変わらず顔色が悪かった。
揺れてしまうのは分かるけれど、今はまだ切り札だ。
休んでもらいたいと思うのは、もちろん僕だけではない。
「…ボス、本当に一旦休んだ方がいい、と思う、」
「テニエル、今は休むべき時だよ…これから忙しくなるだろうから、尚更ね」
少し反応が遅れて、テニエルは口を開く。
「…あぁ、悪い…少し自分の部屋に戻って休む。お前たちは取り敢えず首領の所に…」
「たしかに、出来るだけ早くこの件についての報告も…したほうがいいだろうね」
「ぁ、私先にルイスさんが来てること携帯で連絡しておきます!」
そう桜月ちゃんは取り出した携帯に、文字を打ち込んでいるようだった。
返信は意外と早いようで。
「…”分かった、詳しい話は帰ってから聞くよ”だって」
「…俺の異能でいいか?」
「勿論だよ__ごめんね、突然にお邪魔することになっちゃって」
「いえっ、今回の件は私達に原因がありますから…」
テニエルの表情が、また暗くなる。
僕もそうだけど、そう簡単に気分を切り替えることができないようだった。
早く休んでくれれば、今はとりあえずいいけど。
「…取り敢えず戻るか」
「そうだね」
「じゃあ、ボス、お願い…!」
本日二回目の浮遊感。
意外とすぐにポートマフィア本部へと着き、特に意味もなく僕は辺りを見渡していた。
「…ポートマフィア、本部___着いたぞ」
--- 「…あ、手前ら、今まで何して…ッルイスさん!?」 ---
着いた先にはちょうど中也君がおり、僕がいることに驚いているようだった。
まぁ、あれ以来全くだったもんね。
というか、僕がいると思わないよね普通。
とりあえず、彼の手にあった数枚の書類がひらひらと床へ広がったので拾おうかと思った。
でも中也君って幹部だし、重要そうな書類だと後々面倒になる。
少し申し訳なく思いながらも、その惨状を眺めながら軽く挨拶をすることにした。
3rd collaboration.4
ルイスside
あれから僕達は、特に意味もなく部屋で待機をしていた。
まぁ、そんなすぐ|首領《ボス》のところに通されるわけはなく。
中也君に軽く説明はしたし、何かしら進展はある筈。
「それで、ボスは暫く医務室に籠りますと」
「…なるほど」
どうしよう。
やることがない。
正確に云うならば、何をしたら良いのか判らない。
「にしても...あの四人、なんか変じゃないですか?」
「たしかに...色々違和感はあったね」
桜月ちゃんの問いに僕も違和感について考える。
上手く云えないけれど、何か矛盾点があるような気がした。
「...絶対に、彼奴らは捕まえよう」
このヨコハマの為にも、テニエルの為にも。
「…勿論です」
此方をまっすぐ見てきた桜月ちゃんに、僕は微笑んだ。
彼女は、いつだって僕に勇気をくれる。
戦うための、勇気を。
「彼らの目的はなんにせよ、このヨコハマを手に入れようとしているなら、やっぱりどう足掻いても探偵社やポートマフィア、それに異能特務課との衝突は避けられないはずだから、多分彼らの協力も仰げると」
「お待たせしました、ルイスさん」
扉が開いたかと思えば、中也君がいる。
「…突っ込まないよ、私はお待たせしてないの?とか、私は突っ込まないよ」
「桜月ちゃん、それを云ってる時点で多分突っ込んでると思う」
可愛いなぁ…。
何か和む。
「えっ、そうなんですか!?」
「…桜月、手前は後で覚えてろよ、それとルイスさん、」
--- 「首領との面会許可が下りたので一緒に着いて来て貰えますか?」 ---
「…ありがとう、勿論着いて行くよ」
立ち上がろうとすると、桜月ちゃんから何やら聞こえてくる。
..私は激怒した。
必ず、かの部下想いで重力使いのポートマフィア幹部を問い詰めなければならぬと決意した。
私には彼の心はわからぬ。
私は、ただのポートマフィア幹部である。
任務を遂行し、奇獣と遊んで(?)暮らして来た。
けれども人の心には人一倍敏感であった。
「ねぇ何でさっきから私の事スルーするの⁉扱いが太宰さん並みな気がしてすっごく嫌」
「その前に今の文章軍は何なんだよ」
「何か凄い走りだしそうな雰囲気があったよ?」
本当に可愛い(二回目)。
というか、今の台詞聞いたことがあるような。
否、何処かで見たことのあるような──そんな気がする。
「今のの元ネタはこの前太宰さんが云ってた寝言らしいもの...です。敦君から聞きました」
「…あ、あァ、そうか、」
「…なんか、思ってた以上に、うん、凄い理由だったね」
僕も探偵社で聞いたのかもしれない。
「じゃなくて!!中也、何でさっきから私の事完全スルーしようとしてたの⁉流石におかしいと思うんですけど」
「慥かに、呼びかけの名前にはずっと桜月ちゃんが入ってなかった」
「…そう云えば、慥かに…」
ジト、と見つめる桜月ちゃん。
可愛い(三回目)。
流石に観念したのか、中也君は溜息を吐いていた。
「手前は後で首領から話があるそうだ、あとボスのことについて少し聞きたいことがあるらしい」
「ぇ、?じゃあ今から首領室に行くのはルイスさんと中也だけで、私は居残りってこと?」
えー。
僕だけ行くの?
嫌な予感がするから、出来れば桜月ちゃん連れていきたいんだけど。
ちゃんと此方の森さんに会ったことないから困るんだけど。
でも、そんな子供みたいなことは云っていられない。
処刑されそうならさっさと逃げればいい。
拷問されそうなら、逆に|異能空間《ワンダーランド》に捕らえればいい。
いや、|異能空間《ワンダーランド》送りは問題になるからやっぱりやめておこう。
「…桜月ちゃん、頼んだよ」
「…ルイスさん、頼みました」
中也君が開けてくれた扉を抜け、ふと振り返る。
若干顔が青ざめている桜月ちゃんに何か声を掛けようかとも思ったが、止めておいた。
そっとしておくのが、一番な気がする。
「ルイスさん、此処で武器とかを預からせてもらいます」
「僕、預けても意味がない気がするんだけど……」
「あの、形式的なものなんで……黒服もいるんで一応お願いします」
仕方ない、と僕はいつも懐に忍ばせている銃を取り出した。
残念ながら人を殺すことはできないから、持っていても特に意味はないけれど。
「……遠い」
相変わらずポートマフィア|首領《ボス》のところへ行くまでの道のりは長い。
無駄話をするわけにもいかず、殆ど話すことなく執務室へ着いた。
「|首領《ボス》、中原です」
「入りたまえ」
「失礼します」
扉を開くなり、奥に座っている森さんと目が合う。
「初めまして。桜月ちゃんから色々と噂は聞いているよ」
「良い噂なことを願います」
「アリスモチーフのロリータ服が凄く似合っていたらしいね」
ちょっと待てやゴラァ((
…ゴホン
思わずツッコミを入れそうになってしまった。
「自己紹介が遅れました。ルイス・キャロルと申します」
「ポートマフィア|首領《ボス》、森鴎外だ。早速で悪いけれど色々と話をしようか」
「……。」
思い出すのは此方の森鴎外の姿。
--- 「君があの戦神だね。さて、色々と話をしようか」 ---
《《また》》試されることになるとはね。
何処まで話が通じてるのかが判らない。
それなら──。
「──僕が此方の世界に来た経緯とか如何でしょうか」
「テニエルの異能じゃねぇのか?」
「まぁ、簡略化するならその通りなんだけど……」
正確にはテニエルの異能が強制発動させられた。
そのせいで僕は敵のアジトであろう場所へと着いてしまい、即戦闘。
「よく無事に脱出できたね」
「……まぁ、ある程度の死線は潜り抜けてきているので」
「その年齢なら大戦は経験していなさそうだけどね」
幼い、と遠回りに云われているのだろう。
確かに僕は見た目が子供だからなぁ。
中也君よりは身長ある筈だけど。
「まぁ、そんなこんなで桜月ちゃん達と合流して敵の目的を聞きました。簡単に云うなら“ヨコハマを手中に納めたい”そうです」
「……。」
「テニエルの元仲間──えっと、過去いた組織は普通に海外のもので、彼は|ポトマ《此処》でいう幹部位置でした。なのでテニエルを連れ戻すのも目的のひとつ。ついでに云うと、その組織の人数はポートマフィアを凌駕するほどかもしれない」
「……それは、すげぇな。そんな組織があったならもっと有名でも良い気がするが」
「異能力者とは戦闘してませんが、普通の兵士は英国軍の一般兵とそう変わらないかと」
後は何かあったかなぁ、と僕は思考を巡らせる。
「一つ……否、二つほど良いかな?」
「……何でしょう」
「何故、君はそれほどまでに敵の事情について詳しい?」
「テニエルの情報提供。加えて、敵がペラペラと喋ってくれたので」
これは、ミスったかな。
「それじゃあ二つ目だ」
久しぶりの、冷や汗が流れる感覚。
何処で間違えたのだろうか。
「彼はどちらの味方かな? 勿論、君の主観で構わないよ」
「テニエルは……」
どちらの味方とか、そんなの判るわけがない。
彼は今の家族と、本当の家族との間で揺れている。
何となく、そんな気がした。
「──判りません」
「……!」
「ただ、幹部である泉桜月を殺そうとしたにも関わらず、温かく迎え入れてくれたポートマフィアへの恩を仇で返すような──そんな男ではありません」
まっすぐ、彼の瞳を見て僕は云う。
森さんは少し目を伏せてから、顔を上げた。
「私は──」
言葉の続きを掻き消すかのように、嫌な音が響き渡った。
僕の世界と同じなら──。
「警告音……!? 一体何があったんだ!」
確認してきます、と中也君は執務室の扉を勢いよく抜けた。
森さんと二人きりになり、中々気まずい。
どうしようかと思っていると、声が聞こえた。
『ルイス』
「……。」
『桜月ちゃんからメールよ』
--- __其方はどういう状況ですか?私はここから出ます。詳しい話はあとで。 ---
『どうする?』
桜月ちゃんに襲撃、かなぁ。
というか、携帯を|異能空間《ワンダーランド》に入れっぱなしだった。
森さんの前だから大声で返事をするわけにもいかないし──。
「──連絡、取ってもらえる?」
そう、小さく呟くことにしておいた。
3rd collaboration.5
ルイスside
さて、と。
アリスが連絡するから桜月ちゃんは置いておくとして──。
「トラブルが起きたらしいから、少し失礼するよ」
中也君からの連絡だろうか。
森さんは携帯を見るとそう云った。
そして僕は何故か会議室に移動することに。
まぁ、執務室に放置するわけにはいかないもんね。
一応これでも僕は別世界から来た素性の分からない英国男子だし。
「……でも、もう少しバレないようにするものじゃないのかな」
会議室に入ると鍵を閉められてしまった。
耳を済ましていると中々忙しそう。
でも、見張りもいるだろうし扉をぶち壊すわけにはいかない。
「アリス」
『何かしら』
「防犯カメラあるんだけど逃げて良いかな」
『うーん……まぁ、良いんじゃないかしら?』
よし、と僕はすぐに鏡を出してテニエルを探す。
桜月ちゃんが逃げたことによる警報なら、彼を人質にしたりとかしそう。
確か医務室に鏡ってあったような──。
「迎えに来たよ、テニエル」
「……やっぱり何かあったのか」
「さぁ? 僕も全て把握できているわけじゃないからね。ただ、桜月ちゃんのいるはずの部屋の窓は割られていたよ」
そうか、とテニエルは立ち上がる。
「行くぞ」
医務室の扉が勢いよく開かれる。
それよりも先に、足元に穴が開いていた。
「あ、やっと来たね」
僕とテニエルが着地するなり、そんな声が聞こえた。
「……江戸川乱歩」
「急にお邪魔して悪いね。君のことだから状況は判っているんだろう?」
「ちゃんと説明してあるから、そこら辺は大丈夫。桜月ちゃんが来るまでゆっくりしていきなよ。此方側へ来てから色々あったんでしょ?」
それじゃあ、と僕は遠慮なく休息を取らせてもらうことにした。
確かに乱歩の言う通り、色々とあった。
此方へ来るなり戦闘。
桜月ちゃんと合流したカフェでも敵と電話をしていたり、マフィアへ行ったら森さんと話すことになるし。
本当、疲れたな。
出されたお茶がとっても沁みる。
『桜月ちゃんにもメール送っておいたわよ』
「ありがとう、アリス」
無事に此処まで来れたら良いけど。
「……なぁ」
「どうしたの?」
「俺が探偵社に来るの間違いだったんじゃないか?」
この世界も多分、敵対関係ではある。
そんな探偵社に一人マフィアがいれば警戒されるのは当然なわけで。
でも、あそこで連れ出さなければどうなっていたか分からないし。
「まぁ、桜月ちゃんが来れば状況は変わるよ」
あの子は凄いから。
「あのぉ……」
「ん?」
「桜月ちゃんが来るまで、良かったら少し付き合ってくだいませんか?」
「……あー、」
ナオミちゃんの後ろにはハンガーラック。
もちろん、色々な服が掛けてある。
「お連れの方も眠ってしまいましたので如何ですか?」
ナオミちゃんの発言に僕は驚く。
え、ちょ、テニエル寝てるんだけど???
「乱歩さん、桜月が来るまでどれぐらい掛かりそう?」
「30分ぐらいだと思うよ」
「それじゃあファッションショー出来そうですわね! お兄様、ルイスさんを抱っこしてきてください!」
「抱っこしてきてください、じゃないからね??? そして持ち上げるな???」
ひょい、と谷崎君に持ち上げられてしまった。
体重って今いくつだっけ。
最近測っていない、というか測る機会なんてあるわけがない。
健康診断とか受けてないもん。
「まずはこれからお願いしますわ!」
ハンガーラックから渡されたのはチャイナ服。
もちろんメンズだ。
いや、レディース渡してくるわけがないんだけど。
「あの、僕の意思は──」
「次はこれとかどうだい?」
「良いですわね! 後で与謝野先生と並んで写真を撮りたいですわ」
「じゃあ僕、カメラ持ってくるね」
よし判った。
此処には誰も僕の味方は居ないんだな。
「うん、そうだよ。判ってるならさっさと諦めたら良いのに」
「心を読んでコメントをしないでくれ、乱歩」
仕方ないのでチャイナ服を着てきた。
似合っている、と云われてまぁ嫌な気分ではない。
次は与謝野さんが選んだものになった。
「……なんかコスプレって恥ずかしいよね」
「似合ってますよ!」
「妾より医師っぽくないかい?」
「写真撮るよ~」
「それじゃあ次はこれをお願いしますわ」
ナオミちゃんは今日一の笑顔をしている。
何故かは、服を見れば判った。
「拒否権は……?」
「あ、此方のバニーガールになさいますか?」
「キガエテキマス」
そうして僕はロリータ服を着てきた。
時計を持った兎とか、笑っている猫とか。
童話モチーフの服らしいけど、凄く見覚えがある。
森さんに着せられたヤツと一緒だ、多分。
「やっぱりお似合いですわ!!」
物凄いシャッター音に歓声。
今すぐ着替えたい。
「次は此方を!」
「──、」
渡された服を見て、少し動揺してしまった。
多分、僕のことをナオミちゃんを始めとした探偵社員は知らない。
ならば軍服を渡してくるのは本当に偶然。
「……着替えてくるね」
受け取った手は少しだけ、ほんの少しだけ震えているようだった。
「駄目だ」
「……ぇ、」
「次に君が来てくるのはこれだよ」
ひょい、と軍服が取り上げられたかと思えば別の服が渡される。
ディアストーカーハットにインバネスコート。
パイプ煙草とステッキもついている。
「……乱歩」
「良いから早く着替えてきて!」
会議室へと押し込まれて、静寂に包まれる。
暫くの間、僕は呆然としていた。
「……いつまでも逃げてはいられない」
着替えて事務室に戻ると、また撮影会が始まった。
よく飽きないなー、とか思っていると扉が開く。
「…ねぇ桜月ちゃん、彼らに如何してこうなったのか聞いてもらえないかな」
「…すみません、私が訊きたいです。あと___」
--- 「なんでボス迄探偵社にいるんですかっ!?」 ---
「…もう一度言わせてください。如何してこうなったのか私も知りたいんですけど何事ですか⁉」
太宰君の姿が見えないと思ったら、桜月ちゃんと一緒にいたのか。
にしても、やっとこのファッションショーから解放される。
「えっとね、本部を出る直前にボスを引っ張っていこうとしたら、彼は彼で状況を何となく把握してるみたいで、探偵社に移転してくれて」
「来たら名探偵が推理して待っていたからお茶と茶菓子で持て成されたルイス・キャロルに反して、超警戒されまくりで一人眠りこけていた俺」
「…桜月、この御方は何を着ても似合っていらっしゃるのですわ、それが例え女性の物でも」
ナオミちゃん???
「…兎のぬいぐるみあげる、...えっと、」
「僕はルイス・キャロルだよ、よろしくね」
「…うん、よろしく...ルイスさん、これあげる」
ふわふわもこもこなにこのぬいぐるみかわいい((
というか自己紹介してなかったじゃん。
「…ルイスさん、あの、私達の状況の説明は」
「それなら僕が凡て推理しているから大丈夫だよ」
ラムネの瓶を持ちながら話に入ってきた乱歩。
この感じだとすぐに話が進められそうかな。
それはまぁ、嬉しいんだけど──。
「…取り敢えずそろそろ僕着替えてきていいかな」
「あら、残念ですわ!」
「でも、その恰好の儘でも違和感はなさそうですね!やっぱり都会って凄いです…!!」
賢治君、|都会《それ》は関係ない。
多分だけど。
そんなことを考えながら、ササッと着替えてきてソファーへと腰掛ける。
桜月ちゃんはお茶と茶菓子を貰っているようだった。
表情は、とても真剣。
「…単刀直入に云います。私達の置かれた状況は途轍もなく崖っぷち...相手は3人で張り合えるような相手ではない____”私達3人からの”依頼です」
--- 「力を貸して下さい」 ---
「今回の依頼については、私が報酬をお支払いします。__お願い、です…所属する組織からして、私やボスが信頼ならないのは分かります、それに、ルイスさんのことも、突然”別の世界”なんて云われても信じがたいのも分かります、それでも、っだけど、...!」
探偵社員の反応を伺いたかったが、そうもいかない。
桜月ちゃんの声が緊張を含んでいる。
それに焦りも。
視線を向けると彼女は俯いて、膝に爪を立てていた。
「……桜月ちゃん」
そっと、僕は手を伸ばす。
手が触れたところでハッとしたのか、力が抜けた。
痕が残るより前に膝から下ろすことが出来て良かった。
「…僕は友達を、この世界のヨコハマを、見殺しにはできない。その為に、戦い抜く覚悟を持っています___探偵社の皆がそうであるように」
僕も人のことは云えない、か。
自分が思っているより何倍も緊張している。
でも、この覚悟は嘘じゃない。
今の僕は迷わない。
この力を、あの経験を。
全て惜しみなく使う。
きっと、そうしないと僕の想いは届かないから。
「…その依頼、承った」
視線の先にいた福沢さんは、しっかりと頷いた。
本気をぶつけないといけないと、そう思って紡いだ言葉が届いて嬉しいし本当に安心した。
探偵社の協力を得られるほど、助かることはない。
「はぁ…流石に緊張したね」
「でもルイスさんのお陰で探偵社の力が借りれることになったし、本当にありがとうございます…!」
「そう云ってもらえるなら嬉しいな」
僕だけのお陰では、ないけどね。
話が終わった瞬間に桜月ちゃんは探偵社の皆と話しているようだった。
テニエルと僕は特にこれといってやることがない。
「……。」
腕を目元に当てながらソファーに寄り掛かっていると、ふと思い出した。
--- ”兄弟”じゃなく、敵を選ぶのか? ---
--- 彼はどちらの味方かな? ---
いつだって、優しい人が傷つく世の中だ。
「…Don't you think the world is really shit?」
誰からも返事はない。
英語だったし、小さく呟いたからテニエルも聞こえなかった。
そう、思っておくのは間違いだったのかもしれない。
僕は──否、僕達はテニエルの様子がおかしいのに気付けなかった。
3rd collaboration.6
ルイスside
「…それで、僕だけ呼び出して何の用かな?」
「その笑顔普通に怖ぇからやめろ」
おっと、と僕は漫画だとキョトンという|擬声音《オノマトペ》が付きそうな表情を浮かべる。
いや、普通に気になる部分があってね。
こういう時って笑みを浮かべちゃうのは僕だけなのかな。
まぁ兎に角、僕だけこうして探偵社下の喫茶うずまきに呼び出された理由が気になるわけで。
それに何故かこんな重い空気になっているのかも。
僕のせいはあるだろうけど、テニエルの緊張が━━焦りが少し見える。
『ボスまで私を無視してルイスさんを呼び出ししてー!』
ふと、そんな叫び声が聞こえたような気がした。
桜月ちゃんがこうやって二人きりで話していることを知れば、そんなことを云うだろう。
どうやら目の前に座っているテニエルも同じことを考えていたようで、かぶりを振って打ち消しているようだった。
「…いいか、今から云う事は誰にも云うなよ。誰か…特に泉、に漏らしたら最悪...死人が出る」
突然、彼はそう零す。
死人という言葉に流石に驚き、自分でも目を見開いてしまうのが判った。
でも二人きりで話すというのはこういうことがあるからというわけで。
意外とすぐに冷静になり、僕は一度目を伏せてからテニエルの方を向いた。
「わかった。聞くよ」
「…あまり深く追及されても今は答えられない。が、お前には云っておかないとダメだと思った」
「それで、僕意外に聞かれて困ること、って?」
まぁ、大体予想はつくけれど。
「…俺は一番最初のあいつらとの通話の内容で、隠していることがある」
一番最初、ということは桜月ちゃんが聞いていない内容。
どんな面倒なことを頼まれたんだか。
「彼奴等に、”テニエル、泉桜月を殺して、もしくは気絶させて、ルイス・キャロルを生きたまま連れて戻ってきて、”と云われた」
「いや待って、流石にそんなことしないよね?」
「わかってる。でもそれが__”そしたら、「ヨコハマを手に入れる」ための計画の実行を少し遅らせることを考えてあげる”と、そう云われたら...如何する?」
うげぇ、と思わず顔を顰める。
何か云おうかと思って、考えて。
出た言葉は意外と単純だ。
「君の兄弟、ホントいい性格してるね」
「全くだ」
まぁ、君も結構いい性格してるけど。
そう云えば、今度はテニエルが苦い顔をすることになるのは判っていたから辞めた。
「その提案に乗らずにヨコハマに何かあったら泉も…お前も、俺も、間違いなく後から自分自身を責める事になる」
「おまけに彼らは、あくまで”考える”だけであって、本当にそうしてくれるとは限らない、か」
そうだよなぁ、と思考を巡らせる。
まぁ、僕は大人しく連れていかれることは問題ない。
ただ桜月ちゃんはそう簡単に殺させるわけがなかった。
テニエルが悩まずその手段に手を出そうものなら、多分僕が即座に叩きのめしていることだろう。
で、結局僕らはどうするのが良いんだろうな。
そんなことを考えていると彼は口を開く。
「…今云った事は、全く知らないふりをしてほしい。それで__俺はあいつらの言う通りに指示に従ったふりをして、お前と泉を連れてアイツらの居場所に行く」
「いや、でもそれだったら桜月ちゃんにも云ったほうがいいんじゃないかな」
「…行った後、何のために|そんな状態《死または気絶》であいつを連れて行かせたのかが分からない...それに、フランシスは相手の考えていることが読み取れる」
面白い事にこれは異能ではなく自身の勉学の賜物だ。
そう云われ、驚きと共に少し笑みも浮かべそうになった。
どうやら何処の世界にも、そういう人はいるらしい。
「…そう云えば精神分野に通じていると云っていたね、」
嗜む程度とは云っていた気がするけど。
本当に彼方の考えは読めない。
さて、敵の話は一度置いておこう。
今までの会話的に、桜月ちゃんはまだ一般社会を離れてから日が浅い。
考えを完全に心の奥に閉ざす為には数年ぐらいは掛かるだろうか。
「だから桜月ちゃんには云ったらダメ、か」
「それと、ここから戻ったら会話の途中でさり気無く俺に対して糾弾してほしい。喧嘩を装って探偵社の奴らには仲間割れだと誤魔化す...俺がずっと不自然だとかそんな事でいい」
「わかった、」
「それとさっきも云った通り、これから一度裏切るような行為に及ぶ」
テニエルの表情は、何とも云えない。
ただ、今回の騒動で彼は兄弟を失うことになる可能性が高い。
理解できる、と云える方がおかしいだろう。
「…ルイス、お前に証言を頼む」
わざわざそんなことを云われずとも、僕は君の味方さ。
「…勿論だよ、安心して」
「…ありがとな」
いつも通り、そっけない返事。
でも、ちゃんと感謝していることは判る。
(……昔の僕なら理解できなかっただろうな)
そんなことを考えながら、僕は窓の外を眺めていた。
「っ社長、それで依頼額はどのくらいに」
場所は変わり、武装探偵社。
来賓用のソファに座っている僕達の向かいには福沢さんが。
そしてよく知った社員達が後ろから顔を覗かせていて、少し可愛らしい。
「待って桜月ちゃん、僕も払うよ」
キッパリと断られたものの、払わないわけにはいかない。
多分だけど、今回の案件的に結構な額になるだろう。
それに年下に払わせるのは凄く心にくるものがある。
「…今回の件は私達の所為で起こった事ですから。それに...前にクレープを買ってもらったので!」
「え、いや、額が全然違うと思うんだけど」
「此処は泉に払わせとけって、ルイス・キャロル。それに抑々此処、別世界だし」
あ。
「と言う訳で私がお支払いします」
「…否、その事だが」
僕達が漫才みたいなことをしていると、福沢さんが口を開く。
「緊急案件が故、後払いで善い__ポートマフィアとは云え、...孫......信頼は置ける」
あ、孫設定あるんだ此方も。
パァっと桜月ちゃんの表情が少し明るくなったような気がした。
「…っ…!ありがとうおじいちゃん!おじいちゃん大好きっ」
ぎゅう、とテーブルから体を乗り出して福沢さんに抱き着く桜月ちゃん。
可愛いなぁ。
「社長ってさー、孫設定の二人に甘いよね」
「仕方ないんじゃないかねェ。あの子が大切な存在なのは妾達も同じさ」
「でも桜月ちゃんと社長ってあんまり似ていないような...」
「ふっふっふ、敦くん分かってないねぇ、社長のちょーっとほころんだ顔と桜月ちゃんの微笑み方、姉の鏡花ちゃんと同じなんだよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「敦まさか気付いてなかったのか⁉」
平和な探偵社に、思わず僕も笑みが溢れる。
テニエルは少し呆れているように見えたけど、笑っている。
さて、と。
そろそろ敵さんも動き始めるだろうからと桜月ちゃんは作戦を立てていく。
16歳の少女とはいえ、やはりポートマフィアの五大幹部が一人なだけある。
「乱歩さん、与謝野先生、社長…それと事務員さん達は、探偵社で作戦の指示役、その補助、そして乱歩さんや事務員さんの護衛を...、」
「そうだね、奴らのことだから何をするか分からない。指示役の人達も勿論、探偵社をも護らないといけないから…谷崎君あたりもここの守りに徹した方がいいと思うな……事務員の人達の為にも」
「うん、僕もそれでいいと思う」
あいすくりんを食べながら頷く乱歩。
何か桜月ちゃんは思うところがあるのだろうか。
何処か過去を捉えていた瞳は、とても真剣だった。
「慥かにそうですね…、じゃあ外部で行動するのは太宰さん、敦くん、賢治くん、国木田さん、そして私たち依頼者三人、で...。」
「でも…僕達、だけで...今回、桜月ちゃん達の味方のポートマフィアはいないんですか、?」
まぁ、敦君の疑問は僕もあった。
正確に云うならば、まだ少し夢なんじゃないかと思ってしまっているのだ。
「…私は味方だったはずのポートマフィアに追われて逃げ出して来たし、中也も首領も......私は皆がおかしいのは敵方の精神錯乱、操作系の異能だと思ってるから、多分もう味方はいないと思う」
やっぱり現実、か。
「じゃあ余計僕達が頑張らなくちゃ」
よし、と両方の拳を握る。
僕が出来ることは相変わらず限られている。
でも此処にいることが、僕も戦うという意思表明だ。
「この唐変木が同伴して大丈夫なのか?」
「えぇ、酷いなぁ国木田君、私も武装探偵社員の身、やる時はやぐへッ」
「黙れ!!ふらふらとほっつきまわり、ご婦人を難破してまわり、川があれば入水し、俺の手帳の計画を乱し、それの何処が理想的な武装探偵社員たる姿なのだ!!」
「国木田君...!私、理想的な武装探偵社員とか云ってないけど」
「ぬわぁああああああああああああ!!!!」
うん、平和だね。
ちょっと騒々しいとは思うけど。
「まぁまぁ、太宰君も頭脳派だし、まぁ僕達と探偵社員のこの四人で大丈夫だと思うけど」
云っていてちょっと不安になってきたのは何故だろうか。
こんな調子だからか、太宰君が。
「…待て、__俺は今回の件...泉とルイスが関わるのは反対だ、」
おっと、今くるか。
そんなことを考えながらも一つ気になることがある。
君、いつから僕のこと呼び捨てしてるん???
フルネーム呼びだったよね???
「ボス、流石に其れは私達が無責任になっちゃうし」
「一応理由を聞いてもいい?」
呼び方なんて、物凄く下らない話は置いておいて僕は尋ねた。
桜月ちゃんの方は一切見ずになるべく真剣に。
疑問と、怒りも乗ってしまう。
「…未だ云えない」
そう、少し俯き気味で気まずそうに、何処か後ろめたそうな顔をしている。
桜月ちゃんも、テニエルの違和感に気がついただろうか。
--- 「俺は冗談とか、そういう類いが嫌いだ。特に嘘や裏切りだな」 ---
--- 「お前ら、一体何を隠してる?」 ---
ふと、思い出した彼の言葉。
僕は少しだけ笑みを浮かべていた。
「…ねぇテニエル、この間とは立場が逆転したね___」
--- 「君は何を隠している?」 ---
「……。」
テニエルは何も云わずに此方を見ていた。
探偵社の面々に、桜月ちゃんに。
今の僕は、どう映っているのだろうか。
笑っていないのは自分でも判る。
真剣に見えるのか、冷酷に見えるのか。
まぁ、この際なんだっていい。
僕は僕のやるべきことを全うするだけ。
……知っているかい、テニエル。
僕は一人だけ傷つくことなんてあってはいけないと思ってる。
だから、全て終わったら君の潔白を証明して、一緒に桜月ちゃんに怒られよう。
「不自然だと思ってたんだ、君の体調や突然の睡眠...不自然にも程があるけれど、何か後ろめたい事があるならもっと綺麗に隠すと思った」
「…ルイスさん、」
名前を呼ばれても、僕はテニエルから視線を離さなかった。
それがどう思われているのかは判らない。
ただ、桜月ちゃんに彼へ対しての疑問は━━不信感は生まれた筈だ。
「…少し、出る」
「僕も少し頭を冷やしてくるよ」
テニエルが立ち上がり、僕も後を追う。
|昇降機《エレベーター》に乗り、地上へと降りて。
路地裏に入ったところで、ようやく一息つくことができた。
「……乱歩には、茶番と思われたかな」
3rd collaboration.7
Lewis side
テニエルの後をついて行って、数分。
探偵社の建物から離れ、適当なビル群の間に入り、と。
全く、これじゃ僕がストーカーみたいじゃないか。
そんなことを考えながら頬を膨らませていると、テニエルが小さく口を動かしている。
「……“もういい”、ねぇ」
とりあえず周囲を気にしながらも、小走りで彼の元へ向かう。
そして、ずっと思っていた疑問を一つ。
「…これ、大丈夫なの?」
「ああ、...一応俺にも打算はある、だが今はまず...泉を気絶した状態にすること、それを達成しないことには話が始まらない」
それ、中々大変なことなんだよな。
何故なら相手はポートマフィア五大幹部が一人“泉桜月”。
気絶ぐらいなら僕がササッと終わらせられるけど──。
「俺がやる」
「いや、僕が」
「俺がやる」
「ダメ、僕がやる」
どちらにせよ、これ以上テニエルが傷つく必要はない。
僕も一枚噛むことを決めたんだから、これぐらい任せてもらいたいものだ。
気絶させるぐらいなら全く、とは云えないが震えはない。
人を殺すわけじゃないんだから、そんな風に──。
「…俺がやる」
──ここで僕は、やっとテニエルの顔をちゃんと見たのかもしれない。
ま、僕は全部終わってから責め立てる桜月ちやんのなだめ役でもしようかな。
「…わかったよ」
「何を考えてるんだよ」
「別にー?君だって色々隠し事してたわけなんだから、それを暴こうとする権利は君にないんだけれど...わかってるよね?」
ニコッ、と笑えばテニエルは何とも言えない顔を浮かべた。
「…にしても、桜月ちゃんのことだからきっと探偵社を飛び出した僕たちを追いかけて来るだろうと思っていたけれど…見当たらないね」
「意外とのんびり探偵社で待っていたりしないのか」
「だって桜月ちゃんだよ?」
すぐに飛び出すでしょ。
|ルイスとダニエル《信じた人達》があんな風に言い争ってたんだし。
「あとこの際だから聞くけど、何でさっき僕のこと下の名前で呼んだの?」
--- 「…待て、__俺は今回の件...泉とルイスが関わるのは反対だ、」 ---
「は、......は!?よ、呼び捨てにしてなんかなッ、無い!」
わぁ、凄い動揺だ。
「…呼び捨てとは云ってない…それに、証言者なら探偵社に複数人いるよ」
またニコッ、と笑う。
すると照れているのか、テニエルの顔が少し赤くなった。
「だ、誰をどう呼べばいいのかわかんないんだよ!!」
「意外と理由が可愛かったね」
「うるさい!!」
なんて、わあぎゃあと大人二人が小声で騒ぐというのも、この辺にしておこうか。
先程から会話をしながら歩いているが、視線は自然と泉に近い身長の女性に向く。
どうも、嫌な予感が拭い切れない。
探偵社から歩いて来て、また探偵社方向へとゆっくり歩く。
(探偵社の奴らに見つかったら色々面倒な事になりそうだ)
とか思っているんだろうな、この男は。
本人に問い掛けることも、歩みを止めることもなく。
着いた場所は或る路地裏。
「歩いてきた中ではここが最後のビルの列と路地裏、だ」
「…この世界も土地的には僕と同じ立地だし、此処は粗直線道路」
つまり、と続けた言葉は彼と綺麗に重なる。
--- 『|泉《桜月ちゃん》が消えた』 ---
拭いきれなかった嫌な予感はこれかぁ、と頭を抱えざるを得ない。
そして同時に見つけてしまった。
「…テニエル、これ」
しゃがみ込み、僕は見覚えのあるものを彼に手渡した。
「…この、チョーカー、」
「…不自然な所で切られているから、争ってはいないだろうけれど...態とだろうね、此処にこれを残したのも」
はぁ、と溜め息をつく僕に対して、テニエルは色々と考えているようだった。
切れたチョーカーは桜月ちゃんがいつも身につけていたもの。
マフィアらしい綺麗な黒をしていたが、少し汚れてしまっている。
「…既に、彼奴らに...捕まっている、ってことか?」
「…そう考えるのが、一番妥当だね」
自分で云って、頭が痛くなってきた。
出来れば否定したいが、不可能だ。
普通に考えてテニエルの元仲間ということは、一緒にいた時間が確実に僕や桜月ちゃんより長い。
頭がキレる人──太宰君とかならもう思考を読める。
(桜月ちゃんは無事だろうか)
心の中で、そう呟いた。
アリスの反応は勿論ない。
そもそも生きているかどうかも分からない状態だ。
色々な戦場を乗り越えてきたと思っているが、|生死不明《この状況》が一番精神的にキツイ。
無事を願ったって、結果が全てだ。
とりあえず、二人して黙っていても良いことはない。
「…どうす、る_____は、?」
話を切り出してくれたのはテニエルだった。
けれど、会話を遮るように浮遊感に襲われる。
「っテニエル、君まさか__!!」
テニエルの異能である"一筋の光"。
回避は間に合わず、落ちるしかない。
何がどうしてこうなった。
ハメられたのか、僕も。
あの喫茶店で云ったことを、此方の森さんと話したことを撤回したい。
本当に滑稽だ。
大莫迦者すぎて笑えもしない。
久しぶりに信用が全て崩れ去った気がする。
再会したら一回ぶん殴ってやろうかな。
『物騒ね』
「アリス……!」
『とりあえず着地はちゃんとしなさいよ? そして私の出番を増やしなさない』
「僕に云うなよ。今は僕が動いた方がいいんだから」
とりあえず、アリスの言う通り出口で何が起きても良いように備えるか。
---
No side
とある場所の、或る部屋の前。
ふぅ、とため息をつきながら出てきたハリエットを二人は出迎える。
「異能の調子はどう?」
「どうもこうも、別にいつも通りよ。花姫と云っても齢14の女の子なんだし」
「“元仲間”ってうるさかったし、強めに異能使ったわよね?」
「面倒くさいことはしないわ」
ねーぇ、と腕に抱きついてくるメアリーに、ハリエットは特に反応しなかった。
「フランシスは?」
「ちゃんと“行動”してるよ。異能を使ってるから此処にはいない」
「早くあの女と戦神をぶつけようよ! そしたらテニエルが戻ってくるのが前倒しになるし……」
「はぁ……メアリー、順序はちゃんと守らないと駄目よ」
「ふふっ♪ テニエル~♡」
鼻歌交じりに、まるで指揮者のように指先を動かすメアリー。
対して、ハリエットは先程よりも深いため息を吐いていた。
「まぁ、戦神もすぐ此方へやってくるよ」
「本当に?」
「勿論さ、メアリー。その為にフランシスは動いて貰ってるし、テニエルのことを僕はよく判っている」
「……戦神が関わることで予想から外れることもあると思うのだけれど」
「確かに戦神の伝説も結構凄いの多いよね~……でも、ジョージはテニエルの扱いが判ってるし……」
うーん、と悩むメアリーを見て、ジョージは微笑む。
「今回の|遊び《game》は前と違う。──絶対に花姫と戦神は戦ってもらわないとね」
微笑みはいつの間にか、真剣な表情へ変わっていた。
「誰が誰と戦うって?」
「……ようこそ、戦神。相変わらずの殺し嫌いかな」
テニエルをぶん殴るように、ルイスは拳を取っておく。
とりあえず構えたヴォーパルソードは簡単に避けられてしまった。
「異能剣“ヴォーパルソード”……!」
「あははっ! 本当に戦神が来たぁ!!」
「──1人足りない……?」
「うん、そうだよ。聞き出すかい?」
ルイスは多くの息を吸い込んで戦闘準備を整える。
「無理矢理にでも!」
お久しぶりのコラボじゃあァァァァ
いやぁ、No sideのところ考えたんやけどめちゃむずかった…!
でも良い感じに出来て満足(エッヘン)
桜月ちゃんsideも是非!!!!!
次回も楽しみ!!!!!!!!!!!
うぇい!!!!
それではまた。←唐突に冷静になる人
3rd collaboration.8
Lewis side
刃が交わり、嫌な金属音が響く。
此方が距離を詰めれば、別の方向からの攻撃が来る。
異能剣“ヴォーパルソード”。
この青白く輝く剣の特性は太宰君と同じ“異能無効化”だ。
距離を取られるのは、そういうのも全てバレてるからなんだろう。
テニエルが色々と世界を飛んでいた時に僕を見つけて、色々と調べたんだろうから。
「あぁもう! ちょーウザい!?」
放たれた銃弾は、踏み込んだ僕の進行方向だった。
避けることはできない。
まぁ、避ける必要はないんだけど。
「鏡……!?」
『異能使いが荒いわよ!』
「信じてるから」
そういえば、アリスのことは此奴ら知ってんのかな。
一応英国軍の機密情報だし、|例の事件《最初のコラボ》で巻き込まれた時は周りにも話してなかった。
でも、鏡に驚いていたし──。
「──知らねぇか」
「っ、また速くなって……!?」
「そりゃあ、はじめから全力が出せるわけないじゃないから。車と一緒だよ。アクセルを踏めば速度が出る」
「神というより化物じゃない……、」
「戦神は英国軍が呼び始めた名前だよ。それが定着するまでは敵軍には悪魔やら怪物やら、君みたいに化物やら呼ばれてた」
とりあえずジョージからぶっ飛ばせばいいかな。
一応リーダーみたいだし。
「ジョージ……!」
「……ごめん、助かった」
意外と本気で蹴りを入れたつもりだったんだけど、良い感じに流されちゃった。
ま、流石にこんな簡単には行かないよな。
ジョージ以外の異能もよく分からないから、彼以外に深く踏み込むわけにはいかないし。
「本当に、テニエルとフランシスがいたら勝てるのかな……」
「なに心配になってるのよ。大丈夫、私達五人が力を合わせたら──」
「内緒話かい?」
「あぁ、そうだよ。だから部外者の君は話に入らないでくれないかな」
おっと、と僕は急いで距離を取る。
普通に斬られそうだった。
で、莫迦すぎて“ヴォーパルソード”を落とすというね。
いや本当に莫迦すぎないかな。
ただ、計画とやらにあの剣は必要ないらしい。
それとも“異能無効化”が嫌なのか誰も触れようとしない。
「てか!? 僕の武器アレ以外なくない!?」
「それは良いことを聞いたね。花姫が来るまで気絶してもらおうか」
『なんで口に出すのよ、莫迦』
「いやぁ、だって本物はまだ持てないしぃ……」
『あのねぇ!? 「持てないしぃ……」じゃないのよ莫迦ルイス!!』
アリスからの説教も程々に、僕はとりあえず“ヴォーパルソード”を回収しに行く。
めちゃくちゃ邪魔されるけど。
「君の殺し嫌いのお陰で、僕達の夢は叶う」
「……そこら辺も聞き出したいんだよね」
あぁ、本当に面倒くさい。
何で“ヴォーパルソード”は手元に出す&しまうしか出来ないんだよ。
もっと便利であれよ。
異能剣とか云って、元々シャルルさんに渡されてたぐらいなんだから。
『私は本当に貴方の莫迦さに溜め息しか出ないわ』
そんなアリスの言葉は無視し、僕はヴォーパルソードの奥にワンダーランドに入れていた爆弾を出す。
「爆弾……!?」
爆発寸前だったので、回避などは不可能。
とりあえず爆弾は爆発して、ヴォーパルソードは宙を舞う。
アリスは相変わらず僕の考えが読めているのか、高めの位置に鏡を用意してくれていた。
其処に飛び乗り、もう一度踏み込めばヴォーパルソードは手元に。
これでやっと一方的な攻撃から解放される。
「もうっ! あの人の異能強すぎて嫌だ!」
「ちょっ、メアリー……」
「早くテニエルに会いたいのに何で戦神と戦ってるの!? 花姫を殺してもらった後に戦う予定だったのに! もう嫌だ!!」
二人がいたら、というのはそういう事か。
桜月ちゃんを殺して疲弊した僕を五人で殺す、と云ったところかな。
なかなか面倒くさいことを考えている。
--- 「見つけた___っ!!」 ---
その言葉と同時に、視界の隅にあった扉が炎で吹き飛ばされた。
いや、何事だよ。
ただ予想はついている。
でも敵の異能の可能性も──。
「ルイスさん…っ!!」
「っ桜月ちゃん⁉無事でよかった…君が無事で、本当に…」
柄にもなく泣きそうだ。
一人で戦うのは少し疲れた。
そして、君が無事で本当に安心している。
「…はは、やっぱりフランシスの異能は破られたね、腐ってもポートマフィアだ」
「もうっ、早くテニエルに会いたいのに…ねぇハリエット、もう計画より時間が伸びてるような気がするわ」
「ほら落ち着きなさい、もう少しなんだから…これで次の段階に入れるでしょう?」
次の段階、か。
それは僕と桜月ちゃんが殺し合い、勝った僕が彼らに殺されるというもの。
あれ、意外と本気で戦ってた気がするんだけど。
これで桜月ちゃんに殺されたら彼らの計画はどうなるんだろ。
そんなことを考えている間、先程からわぁわぁ騒いでいたメアリーの“テニエル会いたい欲(なんだそれ)”が悪化。
それをなだめるジョージとハリエット。
とりあえず武器を下ろさずに待っていると、二つの足音が近づいて来ていた。
「っおい、泉に異能力が破られ__」
「フランシス!」
「テニエルーっ」
「ぐぇ」
わぁ、テニエルにメアリーが飛びついた。
僕も彼処に混ざって一発殴っちゃ駄目かな。
「…そういえば、なんですけど」
わちゃわちゃしているのを拳を握りしめて眺めていると、桜月ちゃんが話しかけてくる。
「…気になってることがあって」
「奇遇だね、僕もだよ」
「…ルイスさんの気になること、って…?」
「…名前と苗字と呼称について、。同じかな?」
「は、はい…テニエル、って…苗字じゃないですか」
--- 『どうして兄妹の間柄なのに、なぜジョン・テニエルだけ苗字で呼ばれているのか』 ---
「…ふと、気が付きました」
「僕も序盤のテニエルに電話がかかって来た時から気になっていたかなぁ」
ジョン・テニエル。
苗字呼びに拘る理由が、何かある筈だ。
でも、その前に。
僕達は知らなければならない。
否、無理やりにでも聞き出さなければならない。
「君達は僕らを戦わせ、殺し合わせようと目論んでいる、だよね。…その先に、何を見ている?」
回りくどい云い方は好きだけど、今は辞めておいた。
好きな理由は余計なことも話してくれるかもしれないから。
「さあ、ね。僕達はただ僕達兄妹が幸せに居られる方法を探しているだけさ」
「その為なら犠牲を厭わない、とでも云うのかな」
「当然だろう、情も湧かない者の犠牲を如何して顧みなければならない?」
「…大切な者の、自らの幸せを願うことの何が悪いのかしら」
「その兄妹を縛り付けておいて、何を云ってるの…っ」
--- 「縛り付けてなんか、ないわ」 ---
メアリーの声に、少し圧倒される。
テニエルに未だ抱きついている末子らしいあどけなさに似た、艷やかな声だ。
ジョージと、フランシスと、ハリエット。
彼らは今ばかりは場外らしい。
「私達は、あの子と再会したいと願っているだけ…テニエルだって、同じだもの。同じ願いを持っているのに、何故縛り付けていることになるの?」
「おい、メアリー…!」
「メアリー、それ以上云っては駄目よ」
ふむ。
思わぬところから、何か情報が手に入りそうだ。
「…なら、先ず答えてくれ。君達は何故、テニエルを"ジョン"と呼ばず、"テニエル"と...そう呼ぶ?」
空白。
誰も口を開かない、文章の間のような時間。
僕の問いに答えてくれるのは兄達ではない。
「ねぇ、もういいでしょ?」
やはり、メアリーだ。
「ねえ」
やはり彼女は、一番子供らしい。
そのお陰で僕は助かっているけれど。
「…”あの子”のこと…もう、云っていいでしょ?」
ハリエットが唇を噛みながら、そっとメアリーの頭を撫でた。
ジョージもフランシスも、何も云わない。
テニエルの表情は、ここからでは見えないか。
「私達ね、もう一回あの子に会いたいの」
あの子は、随分と仲の良い人物らしい。
「皆、それだけ。あの子に会いたいだけで、それだけなの」
いや、これは僕よりも近い──。
「…それに、許せない」
「あの子を奪ったこの横浜にのうのうと生きる人全員が、許せない__許せない…!!」
とても駄々を捏ねていたようなメアリーと同一人物に思えない、その雰囲気。
あぁ、桜月ちゃんは気づいているのだろうか。
僕は重ねてしまって、言葉が出ない。
「あの子はね、ジョンのこと…ずっとふざけて、"テニエル"って云ってた」
「だから如何しても、それを離れたくなかった…なかったことにするみたいで、嫌だった」
「あの子が戻って来るまで__私、私達、テニエル以外の名前で呼ぶなんて、できなかった」
世界を超えた繋がりだから、特異点になり得る桜月ちゃんの招猫に対策を討てる。
そんな、いつかのことを僕は思い出していた。
「…あの時、ボスはもう少しで”その子”に会えると…?」
「…そうだよ。ずっと、この機会を狙ってた...これが、俺達の異能を全部活用して、それでようやく辿り着けた唯一の|機会《チャンス》だった」
「なら、テニエルは初めから僕達のことはただ利用していただけだった__そう云うこと?」
やっと出た声は、自分の想像よりもはるかに冷たかった。
利用されていたのはまだ良い。
元々敵だったんだ。
でも、彼らはただ大切な人を──。
「…そんな、心算は…」
「なら君はどっちの味方だったのかな」
これだけは、はっきりさせないと。
「もしも僕と君達兄弟が争う中に君が放り込まれたら、君はどちらの味方をしていた?」
僕はテニエルの顔を見えない。
怯えてるのかな。
息ができなくなったり、していないかな。
「僕達側につく…当然だろう、テニエルは僕達の兄弟なんだから」
「そうよハリエット、もうこの人たち早く殺してしまいましょうよっ、テニエルにずっと可笑しなことを吹き込んで…漸くあの子に会えるっていうのに、私、嫌な気分だわ」
「ええ、メアリー、私もそう思う。でも…花姫を手に掛けれるのは私達じゃない。__戦神よ…その後に戦神を皆で倒すの。踏み違えれば、計画が狂ってしまう」
慣れたはずなのに、その名前に顔が歪む。
「…そうか、前に云っていたね…テニエル、君は僕の世界で、僕の過去もちらりと知っていると」
「ああ。俺は色々な世界をこの異能で見てきた。初めはただ異能を使いこなそうと数を見て来ただけだった、けれどいつの間にかその目的は、…凡ては、…凡ては」
--- 『…もう一度、イライザに逢うため』 ---
「…それだけになっていた」
イライザ。
それが“大切な人”の名前。
「イライザの身には、何があったの?」
桜月ちゃんの問いは正しい。
あの子を奪った、あの子に会える。
そんな言葉からとっくに予想はついていた。
「…死んだ」
静かな声だった。
声の大きさではない。
感情的ではない優しい声。
「…この、横浜で?」
「…そうよ、数年前の抗争に巻き込まれて」
「それ、もしかして、」
「きっとマフィアに籍を置いた経験のある貴方達二人なら知っているでしょう」
僕もマフィアに籍を置いていたことが知られているのか。
そして様々な事件があったけれど、“抗争”という言い方から──
「…否、龍頭抗争、だね」
「流石は戦神、御名答。あの抗争のとき、僕達は横浜に来ていたんだ…此処には、すごく綺麗な景色を見られるところがあるって、そう聞いたからね」
「イライザはね、とっても夕日が好きだったのよ!」
嬉しそうな声色のメアリー。
「だから、今度はあんなことにならないで、私達だけで誰にも邪魔されずに景色を見るの…またこの中の誰かが死ぬだなんて、考えたくもないもの」
あぁ、そうだ。
大切な人達がまた死ぬなんて考えたくはない。
けど──。
「…わからない」
「何が?」
「…僕も、わからないね」
「何かおかしいことがあったかしら?」
「…結局貴方が何をしたいのか、全く分からない」
「君が何を望んでいるのかが分からない」
--- 『ねぇ、テニエル』 ---
ヴォーパルソードはとっくにしまっていた。
この会話に必要がないものだ。
桜月ちゃんと重なった声は、何処かいつもの自分とは違う気がする。
僕もこうなっていたかもしれないと。
そんな想いが、あったからなのかもしれない。
探偵社とロリーナ。
僕だったら、どっちを取る──、?
いやぁ、投稿遅れちゃった((
てことでコラボも8話目ですよ。
未だにキャラが掴めてなくて私が描いた部分はパァという感じだと思いますけどここまで読んでくれてありがとうございます!
相変わらずの天才的なストーリーでヤヴァイ。
そしてイライザさんどちら様~!?
うぅ、頑張ってくれルイスくん。
桜月ちゃん殺したら許さないからなぁ!
てことで、ののはなさんの桜月ちゃんsideもお願いします!
それじゃまた!
3rd Collaboration.9
Lewis side
ふぅ、と僕はため息をつく。
色々と考えすぎだ、ルイス・キャロル。
とりあえずこれだけ云っておくか。
「…君は莫迦だよ」
「は、ぁ…?」
「大莫迦だ」
唐突に罵倒され、ダニエルは変な顔をしている。
写真撮って大きく印刷してやろうか。
「君だって、本当は何が正しいのか分かっているだろう?僕達の信じたジョン・テニエルなら…もう、気付いている、違う?」
「正しさ、なんて…っ俺は…!」
「っボス!自分がしていることを理解していないとは云わない!でも、私達はボスに何を差し出した!?ボスは私達に何をくれたと思う!?それを...ちゃんとよく考えてよ…!!」
桜月ちゃんは、涙を流してしまいそうだった。
今にも声が裏返ってしまいそうな、心の奥底からの叫び。
君も判るだろう、テニエル。
「違う!テニエルは、テニエルは私達とまたあの子と再会して、それから私達とまた平和に暮らすのよ!貴方達みたいな人達にはわからないでしょう!」
ハリエットの言葉に、少し動揺する。
彼らが経験したのは組織間の争いである“龍頭抗争”だ。
そして話を聞いた感じ巻き込まれただけ。
たったそれだけ、と云うのは冷たいだろうか。
彼らは本当に“ルイス・キャロル”を知っているのだろうか。
歴史上に刻まれた、綺麗に飾られた“戦神”しか見ていないのだろう。
大切な者を失った気持ちは、僕には分かりすぎる。
ただ、現実でまた会えるなんて夢物語としか思えない。
僕がその方法を知りたいぐらいだ、本当に。
「…もういい…メアリー、ハリエット、もういいよ…早く終わらせよう」
先程までの戦闘より、精神的なダメージが酷い。
頭がクラクラしてきた気がする。
そんな少し気が抜けた状態の僕は、特に備えていなかった。
--- 『小瓶の中の真実』 ---
Turtle soup、と呟いたフランシスを最後に、突然景色がガラリと変わる。
後で僕が思ったことは、ただ一つ。
「阿保すぎるだろ、僕」
気がつけば見知らぬ場所。
頭がガンガン痛む。
首筋を通って流れているのは、多分血だろう。
「……あー、最悪だなコレ」
辺りを見渡せば、見慣れた軍服の人間がたくさんいた。
英国軍ではないけど。
縄で縛られているのか、動けそうにはない。
これ、どう考えても過去の光景だよなぁ。
さっきまで“莫迦”とか“阿保”とか云ってた現実、ってどうやって戻るんだろ。
「とりあえず逃げるか」
「逃げれると思ってるのか?」
「まぁ、この時の僕には無理だっただろうね」
爆発音と同時に、僕は一瞬宙を舞った。
威力が低い方にして椅子は壊せたけど、普通に火傷した。
身体も床に打ち付けたし、このやり方は莫迦だったかもしれない。
「手前──!」
アリスとは、あの時で同じで何故か話せない。
敵が|安全装置《セーフティ》を外す音が聞こえたが、銃声は全く別方向から聞こえた。
正確な射撃に、もう敵は息をしていない。
いつの間にか扉が開かれており、彼女がいる。
「……ロリーナ」
「ルイス、ちゃんと説明してくれる?」
えー、と僕は視線を逸らす。
現在の僕は火傷しており、床に転がって痛みで動けない。
「この軍の上層部はロリーナの異能が欲しいらしい。で、気がついたら捕まってた」
「気がついたらって何?」
「良いんだよ、細かいことは」
「……貴方、本当にルイス?」
ロリーナならここで疑いそう、というか僕のイメージが反映されてるのかな。
とりあえず起こしてくれたけど、頭の傷だけじゃなくて自分で怪我を増やしてるから死にそう。
このまま死んだら戻れたりしないかな。
「正真正銘ルイス・キャロルだよ。君が初めて戦場に立った日、明らかな罠なのに爆弾に突っ込んで──」
「その話はしない約束でしょ!?」
コレで信用してもらえたかな。
「怪我はなかったことに出来ないし……よし、背負うことにしよう」
「へ?」
「君、ちゃんと食べてる? 軽すぎでしょ。そんなじゃすぐに投げ飛ばされちゃうよ」
「……余計なお世話だよ」
僕は大人しくロリーナに背負われることにした。
また、経験することになるとは。
建物を出ると、そこには見慣れた人達が。
エマやアーサーはもちろん、僕の班の異能者──仲間達が僕を見るなり駆け寄ってきた。
こちとら怪我人なのに、彼らは耳元で大声を出したり肩を掴んで揺らしてくる。
本当にくらくらするんだけど。
「でも、僕はそんな君達が大好きだよ」
僕は、今まで生きてきた中で一番笑えていた。
気がつけば第三者視点になっており、幽体なのか誰にも気づかれていない。
『……この後、は』
怪我人ということで皆には一度離れてもらった。
支えてくれるロリーナだけが、近くにいる。
「……ルイス」
ごめん。
そう、ロリーナが云った次の瞬間。
過去の僕は彼女に体当たりをされ、地面に倒れこんだ。
現実が変わるわけではないけど、僕は異能を発動していた。
「なっ──!?」
ロリーナに当たる直前に大剣に触れ、一度ワンダーランドへ。
ついでに彼女の上に落としてやった。
「痛くない……?」
「……誰」
久しぶりに聞いた声に浮かんだのは、こんな声だったなぁ、という意外と普通の感想。
てか見えてるんだ、僕のこと。
そんな下らないことを考えていると、まっすぐ突っ込んできた大剣。
とりあえず姿勢を低くして避けた。
「久しぶりだね、レイラ。僕は別に名乗るほどの者じゃない」
「っ、どうして私の名前を!」
「君に大切な者を奪われた被害者の一人でしかないよ」
てか、本当にどうやって戻るんだろ。
精神が関係するやつは何かしら行動すれば戻れるだろうけど、もしかして間に入るのは間違いだったかな。
「逃げて!」
そんなロリーナの声が聞こえたかと思えば、また目の前に剣があった。
此奴、面倒くさいんだよな。
適当に流していると、元の予定である“ルイス”と“ロリーナ”へ標的を変えた。
「──殺させるわけないだろ」
「この異能は、アリスの……!」
「思わず使っちゃった……はぁ、面倒くさい……」
「本当に何者なの、貴方」
「云っただろう? 別に名乗るほどの者じゃない、って」
「そうは云ったって……!」
「良いから。君達はゆっくりしてなよ」
桜月ちゃんの元へ戻る条件は何かな。
レイラを殺せ、とかだったら無理すぎる。
僕、誰も殺せないんだけど。
「ロリーナちゃん!」
「……エマ、それにアーサーも」
「彼は一体──」
「大丈夫。少なくとも私達の敵じゃないと思う」
「……どうして断言できる?」
「あの人、ルイスに似てるから」
背後での会話に、少し戸惑う。
レイラには気づかれちゃう、か。
そう、だよね。
僕達二人は、ずっと一緒だった。
「ロリーナ……」
「ちょっとルイス!? そんな傷で動いちゃ──」
「あの人のこと、頼んでも良い……? 他人じゃない気がする……」
「ふふっ、勿論だよ」
タッ、とロリーナが隣に並ぶ。
最後に見た彼女の姿だ。
「私はロリーナ・リデル! 貴方は?」
「……coward」
「|臆病者《カワード》? うーん……私には、そんな風に見えないけどね」
ニコッと笑った彼女に一瞬揺らいだ。
このままレイラを協力して倒せば、僕はこの夢に囚われたままでいられる。
そもそも彼女を殺すという仮説が合っているかも判らないけど。
「じゃあ行こうか、カワードさん」
銃を構えたロリーナはすぐに踏み出した。
相変わらず足が速いな。
レイラ達も動揺しているみたい。
「グラム!」
「はいはい。判ってますよ、お嬢」
ロリーナの銃弾は大剣で防がれ、僕の方へ向かってくる。
さて、どうしたものか。
レイラを殺すのは僕じゃないと駄目だよな。
でも本物の武器を持つと身体が震える。
戦えない。
いつの間にか、一歩も動けなくなっていた。
その事実に気付いたのが悪かったのか。
「どう、したら……?」
「っ、今なら!」
気付いたグラムが此方へ大剣を向けてくる。
しかし、動けない。
ワンダーランドへ移動するのも出来ない。
ここで死んだらどうなるのだろうか。
桜月ちゃんを殺す駒として失いたくないと思うけど、僕にはレイラを殺せない。
ヤバい。
もう、一秒もすれば僕に大剣が突き刺さる。
「ロリーナ!」
僕の叫ぶ声が聞こえた。
でも、僕は何も云っていない。
「……ぁ、」
赤。
僕が、地面が、赤く染まった。
「グッ……大丈夫か、しら……カワードさん、?」
ロリーナの体に突き刺さる大剣。
その自慢の足の速さで、僕を庇ったのだ。
そう気がついたと同時に大剣は抜かれ、鮮血が舞う。
倒れてきた彼女を、僕は受け止めていた。
力が入らないのか、ロリーナの体重が全て僕にのし掛かる。
「そ、んな……っ、」
「怪我は、なさそうだね……」
小さな声で彼女は呟いた。
止まることなく血は流れて、体温が失われていく。
気がつけば、周りはあの戦場ではなくなっていた。
白い空間。
「あ……あぁ……、」
今、理解した。
条件はレイラを殺すことじゃない。
「ロリーナの死を、見届けることだ……!」
「嫌なものを見せて、悪いわね。でも、貴方はまた前を向ける筈よ」
「ごめん、ロリーナ。ごめんなさっ……」
いや、今することは謝罪じゃない。
「僕、助けてくるよ」
「……うん」
「大切なものを、あの子の世界を救ってくる」
「桜月ちゃんだっけ? ルイスなら大丈夫だよ、だって私の相棒だもん」
「そう、だよね……僕は君の相棒なんだから──」
立ち止まりながらも、前を向いて。
僕の大切なものを守るために戦わないといけない。
「──行ってきます……っ!」
「行ってらっしゃい、ルイス。英国軍を勝利へ導いた」
--- 戦いの神様 ---
「……随分と長い夢を見ていた気分だよ」
「実際はそんなに時間は経っていないけれど」
なら、桜月ちゃんに迷惑は掛けなくて済むかな。
それにしても、僕のことを“戦神”と呼び始めたのはロリーナだった。
どうして忘れてたんだろう。
本当に大切なものほど覚えていたいのに。
「早く起きなさい。本当、女の子を待たせるなんて紳士失格ね」
「まぁまぁ、そんなこと云わないでよ」
「……何時でも頼りなさいよ、ルイス」
Collaboration.10
ルイスside
ふわぁ、と思わず欠伸が溢れた。
どれぐらい眠ってたんだろ。
とりあえず拘束はされていない。
「……強いなぁ」
フランシスとテニエルの姿だけ見えない。
あとは桜月ちゃんが普通に戦っている。
10代半ばの女の子ってあんなに強いものだっけ。
あ、僕やロリーナが戦場にいたのとそう変わらない年齢か。
「私達が眠っている間に拘束しておけばよかったのに」
「どうせ戦神も花姫も容易く抜け出してしまうわ、なら無駄手間を増やすのは得策じゃないと判断したのよ」
「ハリエット、もう私達で花姫を殺してしまいましょうよ、」
「エミリー、それはダメだよ…僕が異能で課した条件を達成できなければイライザが戻ってこれない!」
条件って、やっぱり“僕が桜月ちゃんを殺す”だよね。
本当に最悪な条件にしてくれてありがとう。
「私はイライザが戻ってきて欲しくないわけじゃないし、貴方達兄弟の幸せを邪魔したいわけでもない、」
「ならそこを動かないで頂戴よ」
「ハリエット、私にそんな事はできない__貴方達はこの横浜を、私の仲間を害そうとしているのだから」
「でもそうしなければイライザが…!」
「エミリー、貴方達の失敗の原因はね、私達__ルイスさんと私の大切なものを、人を、場所を…」
--- 「標的にしてしまったこと」 ---
「…ですよね、ルイスさん」
「あれ、気付かれてたんだ」
よいしょ、と傍観者は辞める。
「もうっ、起きてたなら早く云ってくださいよー!」
「ごめんね、君の台詞のいいところだったから邪魔しちゃうかなぁって」
「っフランシス...!もっと僕の条件をきつくしておけばよかったね、すまない…僕のミスだ」
「いいや、お前の所為じゃない…俺がしくじったんだ、ジョージ」
あ、フランシス帰ってきてる。
ついでにテニエルも。
「…なあ、ジョージ」
「テニエル?」
「…俺さ」
無表情だった彼は、息を吐く。
そして思いっきり目を見開いた。
瞳に宿る光に、僕の表情は優しくなっていたことだろう。
あぁ、信じたことは間違いじゃなかった。
「やっぱお前らのやろうとしてる事は間違ってると思うんだわ」
「テニエル...!」
「私達を舐め腐った態度をとっている何処ぞの|外国《とつくに》の客人がいるのは此処かい?」
何かの気配を感じて振り返ると、見慣れた人達がいた。
「探偵社の皆!」
「ボスが転移してくれたんだ…っ!」
希望と安堵に、桜月ちゃんの表情が綻ぶ。
ま、僕も緊張が和らいでいたけど。
「…っもぉ__!!折角イライザに逢えるからここまで来たのに!!どうしてこんなに邪魔されなくちゃならないの!?」
「君達は僕らを怒らせたんだ、…相応の返礼を受け取ってよ」
そんな言葉と同時に、また新たな人影が空から降ってくる。
「...え?」
「ちょ、テニエルやりすぎ!」
思わず叫ぶ。
いや、これは僕がこの世界に来るよりも大変なことだ。
「よっ、久しぶりだな! 何か分からないけど穴に飛び込んでみたら、ルイスがいるなんて──」
「どうもコナンさん変わりなさそうで何よりです。──じゃなくて、テニエル!? 君は莫迦なのか、いや莫迦だわやっぱりお前!!!」
「やりすぎぐらいが丁度いいだろ」
コナンさんは異能部隊の中でも特に危険視されてて、無断外出は始末書どころじゃ済まないっていうのに。
まだシャルルさんは良いとして、ヴィルヘルムさんの視線が痛い。
「えっと、ルイスさんのお知り合いですか……?」
「うん、僕達の大先輩だよ」
「その声──!」
「ひっさしぶり~! ねぇねぇ、桜月ちゃん元気にしてたぁ?」
いつの間にかアーサーとエマもいるし。
そして|異世界《うち》の人を|異世界《こっち》に呼ぶな。
この莫迦テニエル。
「莫迦莫迦」と言いすぎなルイスくんは好きですか?
Collaboration.11
ルイスside
「……よくわかんないけど、ルイスはこの人達のこと嫌いそうだから遊んでいいよねぇ♪」
「ちょっ、待っ、だから、引っ張っ」
エマに引っ張られるアーサー。
二人の関係が相変わらずでなにより。
そして、それを見てポカンとするテニエル兄弟姉妹が面白い。
「ルイスさん説明Pleaseください!!」
でも、まぁ、うん、そうなるよね。
「ごめん僕もちょっとよくわかんない」
「ルイスさぁぁぁん!!!」
どうやら桜月ちゃんは、僕の名前を叫ぶぐらいには混乱しているらしい。
何かもう、戦況が変わりすぎて考えることに疲れてきた。
--- side change ---
相変わらず、探偵社は自由にやってるわね。
マイペースなのに連携が取れているのは、普段からちゃんとコミュニケーションが取れている証拠。
そんな事を考えていたら、彼女が《《私》》に気がついたらしい。
「…あの……」
「どうしたのかしら?」
「お久しぶりです…?」
「一言目がそれなのね」
私はてっきり、と言葉を続けようとしたけれど一度やめた。
視線を轟音の方へ向ければ、桜月ちゃんも同じように見ている。
彼女は少し怖がっていた。
「チッ……武器なんてズルじゃねぇか! こちとら治癒能力で体術中心の戦闘方法なんだよ!! んなこと知らねぇだろうが、俺の骨が折れるまで付き合えやオラァ!」
キラキラと羽ばたく妖精の力を借りて、怪我をしても即座に治す。
そんな当たって砕けろ精神の“脳筋”であるコナン・ドイル。
「ハァ……紅獣はコナンのサポートに入ってこい。私はひとまず単身で乗り込み、相手を見定める。場合によってはルイスが手を下すまでもないからな」
紅い布が宙を舞い、刃になり、獣へと姿を変えていく様子から本来は中距離が正しい戦術。
その筈なのに自ら戦場へ突っ込んでいく同じく“脳筋”のシャルル・ペロー。
「うわっ、異能使ってくるなんて卑怯だろ……ちゃんと使いこなしてるし──よし、蹴りでフルボッコにするか。僕の前で異能を使ったのが君の敗因だね」
時を操るという、最強かと思われがちな異能だが本人曰く使い勝手が悪い。
そんな理由で武器も使ったりするけれど、ほとんどを蹴り飛ばして対応する本日3回目の“脳筋”、アーサー・ラッカム。
「傷がまた増えたら今度こそ与謝野さんの治療受けさせるからね! ──っと、話してるのに攻撃やめてよねぇ…ホント、手加減しないよ?」
彼女が持っている武器の数は数え切れず、本人も正直把握していない。
ただ純粋に、狂ったように武器が手から離れることなく戦い続ける“唯一脳筋じゃない”エマ・マッキーン。
「……。」
まぁ、気持ちはわかるわよ。
以上の光景を見て、私はため息混じりに問い掛ける。
「…てっきりあっちを先に聞くと思ったわ」
「…なんか……ルイスさんもアリスさんも既に意味わからないくらい強いので……英国軍の方はみなさんそういうものなのかなって………」
「そんな化け物みたいな」
実際そう呼ばれていたし、私も客観的に見て思ったわ。
まぁ、そんなことより話すことがあるわね。
「…でも、彼が気がついてくれて良かった」
ジョン・テニエルのことだと、桜月ちゃんなら気がついてくれるわよね。
「…本当、その通りです」
「けれど…この先どうするつもりなのかしら」
「この先?」
「…何があろうと血のつながった兄弟姉妹というものは他にない存在だもの」
「…たしかに、そうですね…」
私も両親なんてものいないし、ルイスは双子以上に深い関係。
そんな相手を裏切る、か。
間違っていたことだとしても私はルイスについていくのかしら。
「……いや、行くわね」
はぁ、と思わずため息を零す。
私には拒否権がない。
何よりルイスの望みを叶える手伝いが、此方へ巻き込んでしまったことへの贖罪になる。
でも彼は、裏切るという選択をした。
こっちの彼も、別世界から中也君を連れてくるという行動をとった。
ジョン・テニエルという人物は、きっと、どの世界線でも強いのだろう。
ルイスもちょっとは見習ってほしいわ。
ふと、私は桜月ちゃんの方を見る。
何か独り言を云っていたけれど、気にしないでおきましょう。
それがきっと、お互いの為。
「私から、ひとつ聞いていいかしら?」
「もちろんです_私にわかることなら、」
「貴女は__これから彼はどうすべきと思う?」
少し食い気味に聞いてしまったわね。
桜月ちゃんとゆっくり話せる時間なんて、あまりないもの。
まぁ、今も戦闘に混ざったほうがいいんだろうけれど。
「…彼、っていうのは_ボスのことですよね」
「ええ…あくまで貴女の考えでいいから」
「__それは」
思っていたより探偵社の仕事は早く、異能を持たない一般兵をはじめとした増援の相手をしている。
にしても、人が多いわねぇ。
これ、隊長達がいても厳しいかしら。
エマがいれば武器は尽きないし、体力次第ね。
「私は」
考えているのか、桜月ちゃんは一言だけ呟く。
そんな間にも敵の呻き声に混じり、探偵社の声が聞こえる。
与謝野さんが異能を使っている様子もなければ、コナンさんが焦っている様子もない。
どうやら重傷を負っている人はいないようね。
「…ボスはきっと、完全に彼らから解放されることなんて、一生ないと思うんです」
「…ええ、そうね」
「それを引きずって、ぐだぐだとしてしまうくらいなら__ポートマフィアとして、これからも生き続けるべきだと、そう思います」
予想通りの答えに、《《私達》》は安心していた。
彼女は全てを救おうとする、心優しい人だから。
「…ふふ、桜月ちゃんならそう云うと思ったわ」
「半分くらいはもはや私の願いですけど…」
私達も全てを救おうとしてきた。
でも、それは無理だった。
どうやったって、私達の手が届く範囲は限られている。
戦争で沢山のモノを得て、大切なモノを失った。
『僕というヒトも、桜月ちゃんのようになれるかな』
ルイスの言葉が私にだけ届いて、桜月ちゃんが苦笑しているのを見て。
どうしたものか、と考えていると与謝野さんが一人の男性を引きずって此方側へ来た。
本当に仕事が早いわね、探偵社は。
「コイツがポートマフィアに精神錯乱の異能をかけた張本人さ、煮るも焼くも好きにしな」
「ありがとうございます、与謝野せんせ__えっ!?」
「あら、彼って…」
半泣きで情けない男を私は見覚えがある。
と云っても、ワンダーランドから鏡越しだけれど。
「…確か、こちらの世界のポートマフィアビルに入ろうとした時、中也くんが書類をばら撒いていたわよね」
「…その人です」
少し考えてから、桜月ちゃんは諜報員であろう黒服と視線を合わせる。
「黒服さーん」
そう呼ぶしかないわよね、今は。
私も見覚えがないし、ルイスにもなさそうね。
「…本名は?」
「いっ、云えない、云えないんだっ、うぅ…」
泣きすぎじゃないかしら。
まだ数十年しか生きてきてない癖に情けない。
でも、うん、与謝野さんが連れてきたということは、そういうことよね。
「…まぁ、自業自得ね」
「ですよね」
「けれど、何故あのポートマフィアが異能をかけられてしまったのか、もこれで謎が解けたわ」
「た、確かに…」
情報錯乱の異能を持っていることは良い。
|森鴎外《あの人》なら、逆に何かしらの罰で終わらせてこき使いそうだし。
「…取り敢えずポートマフィアにかけた異能を解除して」
「で、できない…」
「えっ?」
あら。
「…なるほど、異能を解除するのにもジョージは条件をかけたのね」
「なっ!?な、なんでわかったんだっ」
こういう勘って当たりやすいのよね。
「貴方が分かり易いのよ、それでよくマフィアに潜入できたわね」
「そっ、それは…幹部の異能で…」
「めっちゃ重要なこと話して大丈夫!?」
思わず突っ込んでしまった桜月ちゃん。
私はもう、言葉にもできずため息を吐いた。
「とにかく、彼らには加勢も必要ないだろうから…私達は残党や周囲の一般兵たちを潰しましょう」
「分かりました!」
いい返事ね、本当。
そして相変わらずのことではあるけれど、簡単な説明で状況を把握した英国軍の動きが恐ろしい。
目配せだけでタイミングを合わせ、テニエルの兄弟姉妹を追い込んでってる。
……たぶん。
取り敢えず諜報員は、奇獣に見張って置いてもらうらしい。
まぁ、桜月ちゃんの異能は信用してるし、実力も分かっている。
「…大丈夫だとは思うけれど、気をつけてね」
「ありがとうございます、アリスさんも…!」
微笑みを交わしてゆっくりとすれ違う。
次の瞬間には武器を片手に一歩踏み出していた。
「……人数が多いのだけれど」
『そりゃあ多いだろうね。鏡で防ぎながらなら特に問題ない数だと思うけれど』
「流石に死角にずっと出しておくわけにいかないから貴方に任せているけど──っと、危ない」
戦闘しながらの会話は舌を噛みそうになる。
それは正直どうでもいい。
けれど、集中力がどうしても欠けてしまう。
「……少し飛ばしていくわよ、ルイス」
--- side change ---
自分で言うのはアレだが、僕達の戦闘は格が違うと思う。
そもそも、普通の人には“死角”というものが存在する。
もっと詳しく話すのならば、視野に入っていなければ攻撃できないし、防御もできない。
「アリス、背後の敵を対処して。頭上は鏡で防げる」
『了解』
このように、僕はアリスと違ってワンダーランドから鏡を操れない。
ただ、誰かが付けているアクセサリーや水滴に映された影などは、僕でも扱える鏡に映る。
つまり、それを見て僕はアリスに敵の存在を伝えることで傷を全く負わない。
格が違うと云うのは、そういうことだ。
---
「此処は…」
「ぽ、ポートマフィアの、、」
「成程、君は_?」
--- 「わ、私は泉桜月。貴方は、、?」 ---
--- 「ルイス。ルイス・キャロル。_26歳だ」 ---
---
ふと、思い出したのは初めて会った時のこと。
あの時は初対面なこともあり、マフィアにいるべきじゃないか弱い少女だと思っていた。
ただ、実際はどうだった。
今は誰よりも必死に、全力で抗っている。
これが子供の成長を見守る親の気持ちだろうか。
前よりも、ずーっと強くなってる。
『ルイス! ちょっとぐらい貴方も戦いなさいよ!』
「……まだ戦闘は苦手なんだけど」
『じゃあ強制で』
「は?」
気がつけば、さっきまでアリスがいた場所。
咄嗟の判断で二本の剣を左右の手で持ち、二つの攻撃を防ぐ。
「……変わったばかりなのに巫山戯るなよ、一般兵が」
『ルイス〜キャラ崩壊が酷いわよ〜』
「僕だって怒ることあるんだからね、アリス」
今の感覚、何処か懐かしい。
戦場にいた時のを、身体が覚えているんだ。
それが良いことなのか、悪いことなのか。
僕には判らない。
けれど、今の僕が出来ることを。
『この組織を探偵社やマフィア、特務課がマークしてなかった理由が判ったのだけれど聞きたい?』
「多少は興味あるかな。この|呻き声《最悪なBGM》にも飽きた」
『そんなことだろうと思ったのよ』
はぁ、とアリスは僕に気づいていなかった敵の攻撃を鏡で防ぐ。
『彼らの目的は?』
「……イライザを生き返らせること」
『彼らの異能の特性上、フランシス……って、フィッツジェラルドの方ね? 彼のような人に知られてしまったら必ず追いかけられるわね。まぁ、簡単に云うなら全部邪魔だったのよ。“目的以外の全て”が、ね』
何となく話が読めてきた。
つまり彼らは──。
「初めから、何もかもに於いて隠密で動いていた。マークする以前に、彼らの存在自体を気付く事が出来なかったのか」
『まるで亡霊のようじゃない? それとも幽霊かしら』
「……交代するよ、アリス」
『ちょっ!? 急に変わるのやめなさいよ!?』
君が云うか、とツッコミを入れそうになってやめた。
亡霊。幽霊。
何かに囚われ続けているとも、解釈できる。
「……僕は、ロリーナに──、」
--- side change ---
「ちょっ!? 急に変わるのやめなさいよ!?」
ルイスからの返事はない。
とりあえず補助無しで動いていると、ソレは目に入った。
どうするべきか。
判断は、今すぐに下さなければならない。
壁になるのは無理だ、間に合わない。
同じ理由で、桜月ちゃんを突き飛ばすことも難しい。
「逃げてッ!!!」
たった一言。
すぐに自分自身も動けるように準備しながら絞り出せたのは、たった三文字だけ。
この言葉が桜月ちゃんに届くとは限らない。
「グッ……」
桜月ちゃんしか見ておらず、正面にいた敵の攻撃を真っ直ぐ受ける。
防御姿勢が間に合わなければ、受け身も取れなかった。
完全にやらかした。
砂埃で桜月ちゃんの様子は判らない。
それより私の傷の方がヤバいか。
こめかみから顔のラインを伝うのは確実に汗じゃない。
きっと治療を受けたほうがいい奴だ。
「待っていて、すぐ助けに行くから……!」
ふらつく身体。
でも、私より彼女が優先だ。
私が見たソレというのは異能力で加速している中也君だった。
まだ情報錯乱の異能は解除されていない。
つまり、桜月ちゃんに抱くのは“敵意”。
砂埃が晴れた。
見えたのは桜月ちゃんが宙を舞う姿。
「あはは、勝ったと思った?」
「イライザだけは、っあの子だけは絶対に取り返すのっ、邪魔なんて誰にもさせないのよ!!」
「テニエルが裏切るなんて思ってもいなかったわけじゃないわ、だから…もういい」
「教えてやるよ、ポートマフィアにかけられた異能を解くには__ルイス・キャロルが泉桜月を殺す、それが二者択一の異能のこの選択だよ!」
『……っ、ごめんアリス』
「大丈夫よ。一人で考えたかったのでしょう?」
でも、これは本当に──、
「『──マズいことになった(わね)』」
どうも、物騒な台詞たちを並べていた人です(笑)
いや、あのね、面白いかなって((
脳筋だらけですみませんね、うちの人たち。
後は…うん、そうね。
桜月ちゃんsideでは何か不思議なものが見えているようなので是非そちらもご覧ください。
次回どうなるかでタヒにそう…
お願いだからハッピーエンドになってくれ…
それじゃまた!